説明

電圧変動補償装置

【課題】溶接機の全通電期間に亘って配電線に発生する電圧変動を補償する。
【解決手段】溶接機と並列に接続された進相コンデンサ回路の半導体スイッチを制御するスイッチ制御手段30では、通電同期信号出力部33が、溶接機コントローラ1aから出力される通電信号に基づいて、溶接機の漸増制御期間中に通電同期信号を出力する。そして、投入量漸増部41が、通電同期信号受信開始時から所定の時間間隔毎に漸増するように進相コンデンサ回路の投入段数を設定する。また、投入量演算部32が、計器用変圧器11および変流器13の出力に基づいて検出される補償値から、電圧変動補償に必要な進相コンデンサ回路の投入段数を演算する。信号切換回路45は、通電同期信号受信中は、投入量漸増部41、通電同期信号受信終了後は、投入量演算部32によって設定/演算された投入段数を、半導体スイッチを制御する信号を出力する指令回路46に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通電開始時に溶接電流が漸増する溶接機負荷と電気的に接続され、溶接機による配電線に発生する電力変動を補償する電圧変動補償装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通電開始時に溶接電流を漸増制御(スロープ制御)する溶接機では、漸増制御期間中は使用電力が半サイクル毎に変動するが、漸増制御期間終了後の使用電力はほぼ一定の値となる。従って、配電線の電圧降下は、溶接機の通電開始時の漸増制御期間中に大きく変動し、漸増制御期間終了後の定常状態ではほぼ一定値となる。
【0003】
下記の特許文献1には、溶接機と並列接続され、互いに異なる容量を有し、その組合せによって全体のコンデンサ容量を複数段階で切り換えることができる進相コンデンサを個別にオン/オフすることによって、溶接機の漸増制御期間に配電線に発生する電圧降下を補償する電圧変動補償装置が開示されている。
すなわち、特許文献1に記載の電圧変動補償装置101は、図4に示すように、配電線の電圧を検出する計器用変圧器82と、溶接機80に流れる電流を検出する変流器81と、計器用変圧器82および変流器81の出力から溶接機80に生じる有効電力・無効電力を演算し、配電線に発生する電圧変動値に対応した補償値を検出する補償値検出部84と、直列リアクトル91a〜94a、半導体スイッチ91b〜94b、および進相コンデンサ91c〜94cをそれぞれ備える4つのリアクトル・コンデンサユニット91〜94を含む進相コンデンサ回路90と、補償値検出部84で検出された補償値から必要な進相コンデンサ91〜94の投入段数を演算し、演算結果を指令回路89に出力する投入量演算部85と、補償値検出部84で検出された補償値に対応する段数分だけ進相コンデンサ91〜94が投入されるように半導体スイッチ91b〜94bをオン/オフする信号を出力する指令回路89とを備えている。
【特許文献1】特公平8−2507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる有効電力・無効電力検出方式の電圧変動補償装置101において有効電力・無効電力の演算は、溶接機電流と配電線の電圧とを乗算し、半サイクル間で積分する。したがって、有効電力・無効電力に基づいて求められる補償値の検出には、半サイクルの遅延が生じる。
また、コンデンサ電流を過渡現象が生じることなく開閉するには、コンデンサ端子電圧と回路電圧とが一致するタイミングで進相コンデンサを投入する必要がある。よって、投入される進相コンデンサ回路は半サイクル以上前の有効電力・無効電力を補償するコンデンサ容量となってしまう。
【0005】
ここで、図5に、上述の電圧変動補償装置101における進相コンデンサのオン/オフに関するタイムチャートを示す。図5に示すように、電圧変動補償装置101では、上述の有効電力・無効電力演算での半サイクルの遅延および進相コンデンサ投入タイミング待ちでの遅れに起因して電圧変動が生じる。
【0006】
上述の遅延を生じさせることなく進相コンデンサを投入する方法として、溶接機の実際の通電タイミングよりも若干早めに出力される通電信号を利用して、溶接機の通電開始に合わせて進相コンデンサを投入することができる電圧変動補償装置を用いることが考えられる。
かかる電圧変動補償装置102では、図6に示すように、溶接機80の溶接コントローラ80aから出力される通電信号に基づいて、溶接機通電開始から漸増制御期間終了までの間に出力される通電同期信号を出力する通電同期信号出力部86を有しており、漸増制御期間中は、溶接機通電開始と同期して投入量記憶部87に予め記憶されている一定容量(例えば、漸増制御期間の中間域における電圧降下をほぼゼロにできる量)の進相コンデンサ91c〜94cを投入する信号を指令回路89に出力する。
そして、信号切換回路88が、溶接機80の漸増制御期間終了後は、投入量演算部85によって演算された段数分の進相コンデンサ91c〜94cを投入する信号が指令回路89に出力されるように切り換える。
【0007】
図7に、上述の通電同期信号および有効電力・無効電力検出併用方式の電圧変動補償装置102の進相コンデンサのオン/オフに関するタイムチャートを示す。
図7に示すように、電圧変動補償装置102では、有効電力・無効電力演算での半サイクル遅延およびコンデンサ投入タイミング待ちでの遅れに起因する電圧変動は生じないが、漸増制御期間中に投入される進相コンデンサの容量が一定であるので、漸増制御期間中のある期間のみしか電圧変動をほぼゼロにすることはできない。すなわち、通電開始直後には電圧上昇が、漸増制御期間終了直前には電圧降下が生じる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、溶接機の全通電期間に亘って配電線に発生する電圧変動を補償することができる電圧変動補償装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電圧変動補償装置は、溶接機負荷と電気的に接続され、通電開始後所定期間に溶接電流が漸増するように溶接機コントローラにより制御される前記溶接機によって配電線に発生する電圧変動を補償する電圧変動補償装置であり、前記溶接機負荷と電気的に接続された配電線の電圧を検出する計器用変圧器と、負荷電流を検出する変流器と、直列リアクトル、半導体スイッチ、および進相コンデンサを直列接続したリアクトル・コンデンサユニットを複数含み、前記溶接機負荷と並列に接続された進相コンデンサ回路とを備えている。さらに、かかる電圧変動補償装置は、前記溶接機における通電開始前から、通電終了までの間に前記溶接機コントローラから出力される通電信号を受信すると共に、前記溶接機の通電開始後、該溶接機の漸増制御期間終了時まで通電同期信号を出力する通電同期信号出力部と、前記通電同期信号の受信開始時から所定の時間間隔毎に、投入する進相コンデンサの容量値を次第に増加するように設定する投入量漸増部と、前記計器用変圧器の出力および前記変流器の出力から演算される前記溶接機負荷の有効電力および無効電力に基づいて、前記配電線に発生する電圧変動に対応する補償値を検出する補償値検出部と、前記補償値検出部によって検出された補償値に応じた進相コンデンサの容量値を演算する投入量演算部と、前記通電同期信号受信中は、前記投入量漸増部で演算された容量値を出力すると共に、前記通電同期信号受信終了後は、前記投入量演算部で演算された容量値を出力する信号切換回路と、前記信号切換回路から出力された容量値に基づいて、前記半導体スイッチをオン/オフする信号を出力する指令回路とを備えている。そして、前記通電同期信号出力部が、前記通電信号を受信してから前記溶接機の通電開始までの遅延時間を記憶する遅延時間記憶部、前記溶接機の漸増制御期間を記憶する漸増制御期間記憶部、通電信号受信後、前記遅延時間記憶部の記憶内容に基づいて、溶接機の通電開始までの遅延時間を計時する遅延タイマ、前記遅延タイマによって遅延時間が計時された後、前記漸増制御期間記憶部の記憶内容に基づいて、漸増制御期間が終了するまでの時間を計時する漸増制御期間タイマ、および前記漸増制御期間タイマが計時している間に通電信号を出力するAND回路を有しており、前記投入量漸増部が、所定時間間隔毎にパルスを発生させる漸増クロック発生回路、溶接機の通電開始時に発生する電圧降下を補償できる進相コンデンサ容量を記憶する漸増開始容量記憶部、および前記漸増開始容量記憶部に記憶されている進相コンデンサ容量から前記漸増クロック発生回路から出力されるパルスに従ってカウントアップを行うカウンタ回路を有している。
【0010】
また、本発明の電圧変動補償装置では、前記進相コンデンサは、互いに異なる容量を有しており、前記指令回路は、入力された容量値から複数の前記半導体スイッチのうちオンにするものを決定してもよい。
【0011】
また、本発明の電圧変動補償装置では、前記進相コンデンサのうち、最も容量の小さい進相コンデンサの容量を基準容量Cとしたとき、容量が小さい順にi番目の進相コンデンサの容量が、基準容量Cに2の(i―1)乗を乗じた値(1≦i≦n、(n:進相コンデンサの個数))になってもよい。
【0012】
さらに、本発明の電圧変動補償装置では、前記信号切換回路は、前記通電信号が入力され、前記通電信号の出力が終了した際に、前記指令回路への出力を停止することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
従って、本発明の電圧変動補償装置は、溶接機コントローラから出力される通電信号を利用することによって、溶接機の漸増制御期間中は進相コンデンサ回路の容量を溶接電流の漸増状態に合わせて遅れなく制御し、かつ漸増制御期間終了後の溶接電流の変動が小さくなった期間は、溶接機に生じる有効電力および無効電力に従った補償値で進相コンデンサ回路の容量を制御することができる。よって、溶接機の全通電期間に亘って配電線に発生する電圧変動を補償することができる。
また、複数の進相コンデンサのなかに容量が同一であるものが含まれている場合に比べて、複数の進相コンデンサの組合せにより進相コンデンサ回路全体の容量の取り得る値の種類が増えるので、進相コンデンサ回路の容量を緻密に制御することができる。
さらに、進相コンデンサ回路全体での容量を等間隔で変化させることが可能となる。
加えて、溶接機における通電終了後に、有効電力および無効電力演算での半サイクル遅延に起因する進相コンデンサの引き外し遅れの発生をなくすことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な一実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
図1は、溶接機に本実施の形態に係る電圧変動補償装置を接続した図である。図1に示すように、本実施の形態に係る電圧変動補償装置10は、溶接機1と並列に接続される。ここで、溶接機1は、図示しない交流電源に接続されていると共に、溶接機コントローラ1aによって、通電開始後所定期間は溶接機電流が漸増するように制御される(図3参照)。
【0016】
電圧変動補償装置10は、配電線3の電圧を検出する計器用変圧器11と、溶接機1に流れる電流を検出する変流器13と、溶接機1と並列に接続されている進相コンデンサ回路20と、計器用変圧器11、変流器13、および溶接機コントローラ1aからの出力に基づいて、進相コンデンサ回路20の後述する4つの半導体スイッチ21b〜24bのオン/オフを制御するスイッチ制御部30とを備えている。
【0017】
進相コンデンサ回路20は、直列リアクトル21a〜24a、半導体スイッチ21b〜24b、および進相コンデンサ21c〜24cをそれぞれ備える4つのリアクトル・コンデンサユニット21〜24を含んでいる。半導体スイッチ21b〜24bは、それぞれ進相コンデンサと直流リアクトルと直列に接続されている。
ここで、本実施の形態では、進相コンデンサ21c〜24cがそれぞれ有する容量C1、C2、C3、C4は、C1:C2:C3:C4=1:2:4:8となるように設定されている。したがって、半導体スイッチ21b〜24bのうちオンにするものの組合せによって、進相コンデンサ回路20全体でのコンデンサ容量を等間隔で15段階変化させることができる。
【0018】
次に、図2を用いて、スイッチ制御部30についてより詳細に説明する。図2は、スイッチ制御部30の概略構成を示すブロック図である。
【0019】
図2に示すように、スイッチ制御部30は、計器用変圧器11の出力および変流器13の出力から演算される溶接機負荷に発生する有効電力および無効電力に基づいて、配電線3に発生する電圧変動に対応する補償値を検出する補償値検出部31と、補償値検出部31によって検出された補償値に応じて、溶接機1によって生じる電圧変動を補償するために必要な進相コンデンサ容量、すなわち進相コンデンサ回路20の投入段数を演算する投入量演算部32とを有している。
【0020】
ここで、補償値および必要な進相コンデンサ投入段数を求めるにあたって必要な、溶接機1が通電状態にある時に発生する電圧降下値ΔVは以下の(式1)で、進相コンデンサにおける電圧上昇値ΔVUPは以下の(式2)でそれぞれ算出することができる。
【0021】
ΔV=P×(%R×cosθ+%X×sinθ)/(10×10) (式1)
ただし、ΔV:電圧降下値[%]、P:溶接機の皮相電力[VA]、%R:配電線の抵抗分インピーダンス(10MVA当たりの%)、cosθ:溶接機の力率、%X:配電線のリアクタンス分インピーダンス(10MVA当たりの%)であり、sinθは、溶接機の力率により算出されるものである(θ=cos−1θ)。
【0022】
ΔVUP=Q×%X/(10×10) (式2)
ただし、ΔVUP:電圧上昇値[%]、Q:進相コンデンサ容量[var]、%X:配電線のリアクタンス分インピーダンス(10MVA当たりの%)である。なお、(式2)は、上述の(式1)において進相コンデンサが供給する電力=進み無効電力のみであることから導出されたものである。
【0023】
本実施の形態では、(式1)に示す有効電力と無効電力による電圧降下の合計分を、進相コンデンサより供給される進相無効電流によって補償する方式を採っている。すなわち、本実施の形態では、溶接機1の通電状態における電圧降下を進相コンデンサの投入によって補償することから、(式1)の電圧降下値ΔVが直ちに、進相コンデンサにおける電圧上昇値ΔVUPに相当する関係となる。
したがって、補償値検出部31では、電圧降下値ΔVまたは進相コンデンサにおける電圧上昇値ΔVUPを補償値として検出している。なお(式1)の電圧降下は、P×cosθ×%Rの(有効電力の)項とP×sinθ×%Xの(無効電力の)項の和である。
入力された電圧と電流から有効電力、無効電力を演算する方式は、既に別装置または従来知られた電圧変動補償装置で使用されており、本発明の電圧変動補償装置でも同じ方式で電力を演算後、インピーダンスを乗算して電圧降下を求めることができる。
【0024】
したがって、進相コンデンサにおける電圧上昇値ΔVUPが(式2)より求められることを利用すれば、通電時に必要な進相コンデンサ容量および進相コンデンサ投入段数を演算することが可能である。よって、投入量演算部32では、上述の補償値および(式2)により、通電時に必要な進相コンデンサ容量および進相コンデンサ投入段数を演算している。
【0025】
また、スイッチ制御部30は、溶接機1において通電開始前から溶接機1の通電終了までの間に溶接機コントローラ1aから出力される通電信号(図3参照)を受信すると共に、溶接機1における漸増制御期間T1(図3参照)中に通電同期信号(図3参照)を出力する通電同期信号出力部33と、通電同期信号を受信すると共に、通電同期信号受信開始時から所定の時間間隔毎に、電圧変動を補償するために必要な進相コンデンサ容量、すなわち進相コンデンサ回路20の投入段数を次第に増加するように設定する投入量漸増部41とを有している。
【0026】
ここで、図2に示すように、通電同期信号出力部33は、遅延時間記憶部34、遅延タイマ35、漸増制御期間記憶部36、漸増制御期間タイマ37、およびAND回路38を有している。
遅延時間記憶部34は、通電信号を受信してから溶接機1における通電開始までの遅延時間T2(図3参照)を記憶する。遅延タイマ35は、通電信号受信後、遅延時間記憶部34の記憶内容に基づいて、溶接機1における通電開始までの時間を計時する。また、漸増制御期間記憶部36は、溶接機1における漸増制御期間T1を記憶する。漸増制御期間タイマ37は、遅延タイマ35によって、溶接機1の通電開始までの時間が計時された後、漸増制御期間記憶部36の記憶内容に基づいて、漸増制御期間T1が終了するまでの時間を計時する。AND回路38は、漸増制御期間タイマ37が計時している間、通電同期信号を出力する。
【0027】
投入量漸増部41は、漸増クロック発生回路42、漸増開始容量記憶部43、およびカウンタ回路44を有している。
漸増クロック発生回路42は、進相コンデンサ回路20の投入段数の漸増を半サイクル毎に行うか、または1サイクル毎に行うかを決めると共に、決定した時間間隔毎にパルスを発生させる。漸増開始容量記憶部43は、溶接機1における通電開始時に発生する電圧降下を補償できる進相コンデンサの容量を記憶する。カウンタ回路44は、通電同期信号が出力されている間は、漸増開始容量記憶部43に記憶されている漸増開始容量に対応する進相コンデンサ回路20の投入段数から、漸増クロック発生回路42から出力されるパルスに従って1段階ずつカウントアップを行い、通電同期信号の出力が停止した際にはカウントアップを停止する。
【0028】
さらに、スイッチ制御部30は、信号切換回路45と指令回路46とを有している。
信号切換回路45には、通電同期信号が入力され、通電同期信号受信中は、投入量漸増部41で決定された投入段数を指令回路46へ出力すると共に、通電同期信号受信終了後は、投入量演算部32で演算された投入段数を指令回路46へ出力する。
また、信号切換回路45には、溶接機コントローラ1aから出力される通電信号が入力されており、通電信号受信終了後は、指令回路46への出力を停止する。指令回路46は、信号切換回路45から出力された投入段数に基づいて、4つの半導体スイッチ21b〜24bのうちオンにするものの組合せを判断し、半導体スイッチ21b〜24bをオン/オフする信号を出力する。
【0029】
次に、図3を用いて、電圧変動補償装置10の動作について説明する。図3は、本実施の形態の電圧変動補償装置10の制御シーケンスのタイムチャートである。
【0030】
まず、図3に示すように、時刻t1に溶接機コントローラ1aからの通電信号の出力が開始される。このとき出力された通電信号は、通電同期信号出力部33および信号切換回路45に入力される。
その後、遅延時間記憶部34に記憶されている遅延時間T2が経過し、溶接機1の通電開始時刻t2となると、通電同期信号出力部33からの通電同期信号の出力が開始される。通電同期信号出力部33からの通電同期信号の出力は、漸増制御期間記憶部36に記憶されている漸増制御期間T1の間、すなわち時刻t3まで行われる。
そして、このとき出力された通電同期信号は、投入量漸増部41および信号切換回路45に入力される。
【0031】
続いて、投入量漸増部41が、通電同期信号が入力された時刻t2から通電同期信号の出力が終了する時刻t3までの間、所定時間間隔毎に、次第に増加するように進相コンデンサの投入段数を設定する。
そして、信号切換回路45が投入量漸増部41で設定された投入段数を指令回路46に出力し、指令回路46によって進相コンデンサ回路20全体のコンデンサ容量が投入量漸増部41で設定された投入段数に応じた容量となるように半導体スイッチ21b〜24bのオン/オフが制御される。
これにより、図3に示すように、溶接機1の通電開始時刻t2と同時にコンデンサが投入され、漸増制御期間T1に対応する時刻t2からt3の間では、進相コンデンサ回路20の投入段数が漸増する。
【0032】
その後、漸増制御期間T1が終了し、時刻t3となると、信号切換回路45は、投入量漸増部41で設定された投入段数の指令回路46への出力を終了し、計器用変圧器11および変流器13の出力に基づいて検出される補償値に応じて必要なコンデンサ容量の投入段数を演算する投入量演算部32で演算された投入段数の指令回路46への出力を開始する。
さらに、時刻t4において、溶接機コントローラ1aからの通電信号の出力が終了すると、信号切換回路45は、投入量演算部32で演算された投入段数の指令回路46への出力を停止する。したがって、図3に示すように、溶接機1における通電終了時刻t4以降は、コンデンサは引き外される。
【0033】
以上のように、本実施の形態の電圧変動補償装置10では、通電同期信号出力部33が、溶接機コントローラ1aから出力される通電信号に基づいて、溶接機1の漸増制御期間中に通電同期信号を出力する。
そして、投入量漸増部41が、通電同期信号を受信し、通電同期信号受信開始時から所定の時間間隔毎に、次第に増加するように進相コンデンサ回路20の投入段数を設定する。
一方、投入量演算部32は、計器用変圧器11の出力および変流器13の出力に基づいて補償値検出部31において検出される補償値から、溶接機1によって生じる電圧変動を補償するために必要な進相コンデンサ回路20の投入段数を演算する。
さらに、信号切換回路45が、通電同期信号出力部33からの通電同期信号受信中は、投入量漸増部41によって設定された投入段数を、また、通電同期信号受信終了後は、投入量演算部32によって演算された投入量を指令回路46に出力する。指令回路46は、入力された投入段数に基づいて、4つの半導体スイッチ21b〜24bのうちオンにするものの組合せを判断し、半導体スイッチ21b〜24bをオン/オフする信号を出力する。
したがって、溶接機コントローラ1aから出力される通電信号を利用することによって、溶接機1の漸増制御期間中における進相コンデンサ回路20の容量を溶接電流の漸増状態に合わせて遅れなく制御し、かつ漸増制御期間終了後に溶接電流の変動が小さくなった期間では、溶接機1に生じる有効電力および無効電力に従った補償値で進相コンデンサ回路20の容量を制御することができる。
よって、溶接機1の全通電期間に亘って配電線3に発生する電圧変動を補償することができる。
【0034】
また、本実施の形態の電圧変動補償装置10では、進相コンデンサ21c〜24cは、互いに異なる容量を有している。これにより、進相コンデンサ21c〜24cのなかに容量が同一であるものが含まれている場合に比べて、4つの進相コンデンサ21c〜24cの組合せにより進相コンデンサ回路20全体の容量の取り得る値の種類が増える。したがって、進相コンデンサ回路20の容量を緻密に制御することができる。
【0035】
また、本実施の形態の電圧変動補償装置10では、進相コンデンサ21c〜24cがそれぞれ有する容量C1、C2、C3、C4は、C1:C2:C3:C4=1:2:4:8となるように設定されている。したがって、進相コンデンサ回路20全体での容量を15段階で等間隔に変化させることが可能となる。
【0036】
さらに、本実施の形態の電圧変動補償装置10では、信号切換回路45には、通電信号が入力され、通電信号の出力が終了した際に、信号切換回路45は指令回路46への出力を停止する。したがって、溶接機1における通電終了後に、有効電力および無効電力演算での半サイクル遅延に起因する進相コンデンサの引き外し遅れの発生をなくすことが可能となる。
【0037】
以上、本発明の好適な一実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて、様々な設計変更を行うことが可能なものである。例えば、上述の実施の形態では、進相コンデンサ回路20が4つのリアクトル・コンデンサユニット21〜24を含んでいる場合について説明したが、進相コンデンサ回路20に含まれるリアクトル・コンデンサユニットの個数は4つには限定されない。
【0038】
また、上述の実施の形態では、進相コンデンサ21c〜24cがそれぞれ有する容量C1、C2、C3、C4が、C1:C2:C3:C4=1:2:4:8となるように設定されている場合について説明したが、容量C1〜C4の比はこれに限定されない。例えば、容量C1〜C4が互いに等しくてもよい。
【0039】
さらに、上述の実施の形態では、信号切換回路45に通電信号が入力され、通電信号の出力が終了した際に、信号切換回路45が指令回路46への出力を停止する場合について説明したが、これには限られない。通電信号が信号切換回路45に入力されないような構成であってもよい。
【0040】
また、上述の実施の形態では、進相コンデンサ回路20の初期投入量を予め設定しておき、1段ずつ増加させる手法について説明したが、溶接機1の漸増制御期間における進相コンデンサ回路20の投入段数漸増制御部はこれには限定されず、例えば、加算する段数を別途記憶させておき加算増加させる手法、投入量を予めメモリに記憶させておき任意のパターン制御を実現する等、種々の手法を採り得る。
【0041】
加えて、補償値および必要な進相コンデンサ投入段数の具体的な算出方法についても、上述の実施例に記載のものに一切限定されず、既知の手法を適宜採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】溶接機に本発明の実施の形態に係る電圧変動補償装置を接続した図である。
【図2】図1に示すスイッチ制御部の概略構成のブロック図である。
【図3】図1に示す電圧変動補償装置の制御シーケンスのタイムチャートである。
【図4】溶接機に従来の有効電力・無効電力検出併用方式の電圧変動補償装置を接続した図である。
【図5】図4に示す電圧変動補償装置の制御シーケンスのタイムチャートである。
【図6】溶接機に従来の通電同期信号および無効電力・有効電力検出併用方式の電圧変動補償装置を接続した図である。
【図7】図6に示す電圧変動補償装置の制御シーケンスのタイムチャートである。
【符号の説明】
【0043】
1 溶接機
1a 溶接機コントローラ
3 配電線
10 電圧変動補償装置
11 計器用変圧器
13 変流器
20 進相コンデンサ回路
21〜24 リアクトル・コンデンサユニット
21a〜24a 直列リアクトル
21b〜24b 半導体スイッチ
21c〜24c 進相コンデンサ
30 スイッチ制御部
31 補償値検出部
32 投入量演算部
33 通電同期信号出力部
34 遅延時間記憶部
36 漸増制御期間記憶部
41 投入量漸増部
45 信号切換回路
46 指令回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接機負荷と電気的に接続され、通電開始後所定期間に溶接電流が漸増するように溶接機コントローラにより制御される前記溶接機によって配電線に発生する電圧変動を補償する電圧変動補償装置であって、
前記溶接機負荷と電気的に接続された配電線の電圧を検出する計器用変圧器と、
負荷電流を検出する変流器と、
直列リアクトル、半導体スイッチ、および進相コンデンサを直列接続したリアクトル・コンデンサユニットを複数含み、前記溶接機負荷と並列に接続された進相コンデンサ回路と、
前記溶接機における通電開始前から、通電終了までの間に前記溶接機コントローラから出力される通電信号を受信すると共に、前記溶接機の通電開始後、該溶接機の漸増制御期間終了時まで通電同期信号を出力する通電同期信号出力部と、
前記通電同期信号の受信開始時から所定の時間間隔毎に、投入する進相コンデンサの容量値を次第に増加するように設定する投入量漸増部と、
前記計器用変圧器の出力および前記変流器の出力から演算される前記溶接機負荷の有効電力および無効電力に基づいて、前記配電線に発生する電圧変動に対応する補償値を検出する補償値検出部と、
前記補償値検出部によって検出された補償値に応じた進相コンデンサの容量値を演算する投入量演算部と、
前記通電同期信号受信中は、前記投入量漸増部で演算された容量値を出力すると共に、前記通電同期信号受信終了後は、前記投入量演算部で演算された容量値を出力する信号切換回路と、
前記信号切換回路から出力された容量値に基づいて、前記半導体スイッチをオン/オフする信号を出力する指令回路とを備えており、
前記通電同期信号出力部が、前記通電信号を受信してから前記溶接機の通電開始までの遅延時間を記憶する遅延時間記憶部、前記溶接機の漸増制御期間を記憶する漸増制御期間記憶部、通電信号受信後、前記遅延時間記憶部の記憶内容に基づいて、溶接機の通電開始までの遅延時間を計時する遅延タイマ、前記遅延タイマによって遅延時間が計時された後、前記漸増制御期間記憶部の記憶内容に基づいて、漸増制御期間が終了するまでの時間を計時する漸増制御期間タイマ、および前記漸増制御期間タイマが計時している間に通電信号を出力するAND回路を有しており、
前記投入量漸増部が、所定時間間隔毎にパルスを発生させる漸増クロック発生回路、溶接機の通電開始時に発生する電圧降下を補償できる進相コンデンサ容量を記憶する漸増開始容量記憶部、および前記漸増開始容量記憶部に記憶されている進相コンデンサ容量から前記漸増クロック発生回路から出力されるパルスに従ってカウントアップを行うカウンタ回路を有していることを特徴とする電圧変動補償装置。
【請求項2】
前記進相コンデンサは、互いに異なる容量を有しており、前記指令回路は、入力された容量値から複数の前記半導体スイッチのうちオンにするものを決定することを特徴とする請求項1に記載の電圧変動補償装置。
【請求項3】
前記進相コンデンサのうち、最も容量の小さい進相コンデンサの容量を基準容量Cとしたとき、容量が小さい順にi番目の進相コンデンサの容量が、基準容量Cに2の(i―1)乗を乗じた値(1≦i≦n、(n:進相コンデンサの個数))になることを特徴とする請求項2に記載の電圧変動補償装置。
【請求項4】
前記信号切換回路は、前記通電信号が入力され、前記通電信号の出力が終了した際に、前記指令回路への出力を停止することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電圧変動補償装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−272550(P2007−272550A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97279(P2006−97279)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)
【Fターム(参考)】