説明

電圧変換装置

【課題】負荷への電力供給元が高電圧バッテリであるか低電圧バッテリであるかを判定できるようにする。
【解決手段】DC−DCコンバータ100は、高電圧バッテリ1の直流電圧をスイッチングして低電圧の直流電圧に変換する電圧変換部16と、電圧変換部16の出力側の電圧を検出する電圧検出部17と、電圧検出部17で検出された電圧にリップルが含まれているか否かを判別する制御部18とを備える。制御部18は、電圧検出部17で検出された電圧にリップルが含まれている場合は、電力供給元が高電圧バッテリ1であると判定し、電圧検出部17で検出された電圧にリップルが含まれていない場合は、電力供給元が低電圧バッテリ2であると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧バッテリの直流電圧をスイッチングして低電圧の直流電圧に変換する電圧変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電気自動車やハイブリッドカーには、走行用モータを駆動するための高電圧バッテリが搭載されるとともに、各種の車載電装品(補機)に電力を供給する低電圧バッテリが搭載される。また、高電圧バッテリの電圧を、低電圧バッテリを充電するための低電圧の直流電圧に変換する電圧変換装置が搭載される。この電圧変換装置としては、一般に、高電圧バッテリの直流電圧をスイッチングするスイッチング回路と、このスイッチング回路のパルス出力が一次側に与えられるトランスと、このトランス二次側から取り出される交流電圧を整流する整流回路とを備えたDC−DCコンバータが用いられる。
【0003】
後掲の特許文献1には、DC−DCコンバータの例が記載されている。特許文献1のDC−DCコンバータは、出力回路に予期しない大電流が流れたこと(ハーフショート)を検出するためのリップル電圧検出回路を備えている。ハーフショートが発生すると、出力回路における交流リップル成分が増大し、リップル電圧検出回路がリップルを検出する。リップルが検出されると、スイッチング素子に直列接続されたスイッチが非導通となり、スイッチング素子への電流供給が停止される。これにより、ハーフショートに起因するスイッチング素子の特性劣化や破損などの不具合が回避される。
【0004】
特許文献2には、リップルに基づいて補機用バッテリの接続が断たれたことを検出する技術が記載されている。特許文献2では、モータの中性点に、補機用バッテリの正極と補機負荷が接続されている。そして、補機負荷へ電源を供給する電源ラインにおける電圧(中性点電圧)を検出し、この中性点電圧のリップル成分が一定以上となった場合に、補機用バッテリが外れたことを検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−16962号公報
【特許文献2】特開2004−48921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の第1の課題は、上述した電圧変換装置において、負荷への電力供給元が高電圧バッテリであるか低電圧バッテリであるかを判定できるようにすることにある。
【0007】
本発明の第2の課題は、出力側の電圧が異常である場合に、低電圧バッテリと高電圧バッテリのどちらに異常が発生しているかを判別できるようにすることにある。
【0008】
本発明の第3の課題は、電圧変換装置の動作状態を考慮した上で、低電圧バッテリと高電圧バッテリのどちらに異常が発生しているかを判別できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電圧変換装置は、高電圧バッテリの直流電圧をスイッチングして低電圧の直流電圧に変換する電圧変換部を有し、この電圧変換部で変換された直流電圧を、負荷とこの負荷へ電力を供給する低電圧バッテリとが接続された電源ラインへ出力する電圧変換装置であって、電圧変換部の出力側の電圧を検出する電圧検出部と、この電圧検出部で検出された電圧にリップルが含まれているか否かを判別し、当該判別結果に基づいて、負荷への電力供給元が高電圧バッテリであるか低電圧バッテリであるかを判定する判定手段とを備えている。判定手段は、電圧検出部で検出された電圧にリップルが含まれている場合は、電力供給元が高電圧バッテリであると判定し、電圧検出部で検出された電圧にリップルが含まれていない場合は、電力供給元が低電圧バッテリであると判定する。
【0010】
このように構成したので、電圧検出部で検出された電圧のリップルの有無により、負荷への電力供給元が高電圧バッテリであるのか、低電圧バッテリであるのかを判定することができる。
【0011】
本発明において、判定手段は、電圧検出部で検出された電圧の値が、あらかじめ定められた所定範囲にあるか否かを検証し、当該電圧値が所定範囲にない場合に、判定した電力供給元が高電圧バッテリであれば、当該高電圧バッテリ側(高電圧バッテリや電圧変換部等)で異常が発生したと判断し、判定した電力供給元が低電圧バッテリであれば、当該低電圧バッテリ側で異常が発生したと判断するようにしてもよい。
【0012】
このようにすると、検出電圧値に基づいて、高電圧バッテリと低電圧バッテリのいずれの側に異常が発生しているかを判別することができる。
【0013】
本発明において、判定手段は、電圧変換装置の動作状態を示す信号を上位装置から取得し、当該動作状態とリップル有無の判別結果とに基づいて、高電圧バッテリと低電圧バッテリのいずれの側で異常が発生したかを判断するようにしてもよい。
【0014】
このようにすると、検出電圧値によっては異常が発生した電力供給元を判別できない場合でも、電圧変換装置の動作状態を考慮することで、高電圧バッテリと低電圧バッテリのいずれの側に異常が発生したかを判別することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電圧変換装置によれば、出力側の電圧のリップル有無に基づいて、高電圧バッテリから電力が供給されているのか、低電圧バッテリから電力が供給されているのかを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係るDC−DCコンバータの電気的構成を示したブロック図である。
【図2】DC−DCコンバータの動作パターンを示したテーブルである。
【図3】パターン(4)の場合における検出電圧の波形図である。
【図4】パターン(4)からパターン(1)へ遷移した場合における検出電圧の波形図である。
【図5】パターン(1)の場合における出力電圧の波形図である。
【図6】パターン(1)からパターン(4)へ遷移した場合における検出電圧の波形図である。
【図7】パターン(4)からパターン(7)へ遷移した場合における検出電圧の波形図である。
【図8】パターン(4)からパターン(10)へ遷移した場合における検出電圧の波形図である。
【図9】パターン(1)からパターン(10)へ遷移した場合における検出電圧の波形図である。
【図10】パターン(1)からパターン(7)へ遷移した場合における検出電圧の波形図である。
【図11】パターン(6)からパターン(9)へ遷移した場合における検出電圧の波形図である。
【図12】パターン(6)からパターン(12)へ遷移した場合における検出電圧の波形図である。
【図13】パターン(3)からパターン(12)へ遷移した場合における検出電圧の波形図である。
【図14】パターン(3)からパターン(6)へ遷移した場合における検出電圧の波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。以下では、電気自動車またはハイブリッドカーに搭載される電圧変換装置を例に挙げる。
【0018】
まず、図1を参照して、電圧変換装置の構成について説明する。図1において、DC−DCコンバータ100は、入力側に接続される高電圧バッテリ1の直流電圧をスイッチングして、低電圧の直流電圧に変換する電圧変換装置を構成する。高電圧バッテリ1の電圧Vaは、例えば、DC300Vである。この高電圧バッテリ1は、外部の充電装置からの充電が可能なバッテリであって、図示しない走行用モータの駆動回路等にも電力を供給する。
【0019】
DC−DCコンバータ100の出力側の電源ライン4には、負荷3と、この負荷3へ電力を供給する低電圧バッテリ2とが接続されている。低電圧バッテリ2の電圧Vbは、例えば、DC12Vである。この低電圧バッテリ2は、DC−DCコンバータ100の出力電圧Voにより充電が可能なバッテリである。負荷3は、補機系の負荷であって、例えば、パワーウィンドウ装置、電動パワーステアリング装置、オーディオ装置、ワイパー装置などを含む。
【0020】
DC−DCコンバータ100は、フィルタ回路10、電圧変換部16、電圧検出部17、制御部18、およびPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)信号生成部19を備えている。
【0021】
フィルタ回路10は、高電圧バッテリ1の電圧に含まれるノイズを除去する。電圧変換部16は、スイッチング回路11、トランス12、および整流回路13から構成される。スイッチング回路11は、FET(Field Effect Transistor:電界効果トランジスタ)などの図示しない半導体スイッチング素子を有する公知の回路からなる。この半導体スイッチング素子は、PWM信号生成部19から与えられるPWM信号により、オン・オフのスイッチング動作を行なう。トランス12の一次側は、スイッチング回路11の出力側に接続されており、トランス12の二次側は、整流回路13の入力側に接続されている。整流回路13は、ダイオード整流方式や同期整流方式などの公知の整流回路からなる。なお、整流回路13には、平滑用のコイルやコンデンサも備わっている。整流回路13で整流・平滑された直流電圧は、DC−DCコンバータ100の出力電圧Voとして、電源ライン4へ出力される。
【0022】
電圧変換部16の出力側には、電圧検出部17が設けられている。電圧検出部17は、直列に接続された抵抗14および抵抗15からなる。これらの抵抗14、15は、電源ライン4の電圧を分圧する分圧回路を構成する。抵抗14の一端は電源ライン4に接続され、他端は抵抗15の一端に接続されている。抵抗15の他端はグランドに接続されている。抵抗14と抵抗15との接続点nは、制御部18およびPWM信号生成部19に接続されている。制御部18は、PWM信号生成部19に対して、出力電圧の指令値Vrefを出力する。PWM信号生成部19は、所定のデューティ比を有するPWM信号をスイッチング回路11へ出力する。
【0023】
制御部18は、マイクロコンピュータから構成され、CAN(Control Area Network)通信バス5に接続されている。このCAN通信バス5は、車両の各部を統轄的に制御するECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)200に接続されている。このため、制御部18とECU200とは、CAN通信バス5を介して相互に通信を行う。また、負荷3も、CAN通信バス5に接続されており、このCAN通信バス5を介してECU200と通信を行う。制御部18は、本発明における判定手段の一実施形態であり、ECU200は、本発明における上位装置の一実施形態である。
【0024】
次に、以上の構成からなるDC−DCコンバータ100の動作について説明する。
【0025】
高電圧バッテリ1の直流電圧Vaは、入力電圧ViとしてDC−DCコンバータ100へ与えられ、フィルタ回路10によりノイズが除去された後、スイッチング回路11へ入力される。スイッチング回路11は、PWM信号生成部19から与えられるPWM信号に基づき、直流電圧をスイッチングして、所定のデューティ比を有する高周波のパルス電圧を出力する。このパルス電圧は、トランス12を介して整流回路13へ与えられ、整流回路13で整流および平滑されて、直流電圧に変換される。これにより、DC−DCコンバータ100の出力側の電源ライン4に、低圧の直流電圧Voが出力される。低電圧バッテリ2は、この出力電圧Voにより充電され、充電電力を負荷3へ供給する。
【0026】
DC−DCコンバータ100において、電圧変換部16の出力電圧Voは、電圧検出部17を構成する抵抗14、15により分圧される。抵抗14、15の接続点nには、これらの抵抗の分圧比で決まる電圧Vsが現われる。この電圧Vsは、リップル電圧検出用の電圧として制御部18に与えられるとともに、フィードバック制御用の出力電圧検出値として、PWM信号生成部19に与えられる。なお、出力電圧Voが低電圧バッテリ2の電圧Vbより低い場合(Vo<Vb)には、電圧Vsは、電圧Vbを抵抗14、15で分圧した値となる。
【0027】
PWM信号生成部19は、制御部18からの指令値Vrefと、電圧検出部17の出力である検出値Vsとの偏差に基づいて、PWM信号のデューティ比を演算し、当該デューティ比を持ったPWM信号を生成してスイッチング回路11へ出力する。これにより、DC−DCコンバータ100の出力電圧Voが指令値Vrefとなるように、フィードバック制御が行なわれる。なお、制御部18からの指令値Vrefは、一定値である場合と、変化する場合とがある。
【0028】
一方、制御部18は、電圧検出部17から入力される電圧Vsに基づいて、負荷3への電力供給元の判別を行う。以下、その詳細を説明する。
【0029】
DC−DCコンバータ100は、上述したように、高電圧バッテリ1の直流電圧をスイッチングして高電圧を低電圧に変換する。DC−DCコンバータ100が動作している場合は、出力電圧Voにリップル成分が含まれる。一方、DC−DCコンバータ100が動作していない場合は、低電圧バッテリ2から負荷3へ直流電圧Vbが供給されるが、この電圧には、リップル成分は含まれていない。なお、DC−DCコンバータ100の動作/不動作は、ECU200からCAN通信バス5を介して制御部18へ送られる指令信号に基づいて決定される。
【0030】
したがって、電圧Voまたは電圧Vbを分圧して得られる電圧Vsのリップルの有無に基づいて、負荷3への電力供給元が高電圧バッテリ1であるのか、低電圧バッテリ2であるのかを判定することができる。すなわち、制御部18は、電圧Vsにリップルが含まれている場合は、負荷3への電力供給元が高電圧バッテリ1であると判定する。一方、制御部18は、電圧Vsにリップルが含まれていない場合は、負荷3への電力供給元が低電圧バッテリ2であると判定する。
【0031】
なお、電圧Vsにリップルが含まれている場合で、かつ、制御部18からの指令値Vrefが一定値の場合は、スイッチング回路11のスイッチングによるリップルが、電圧Vsから検出される。一方、電圧Vsにリップルが含まれている場合で、かつ、制御部18からの指令値Vrefが変化する場合は、指令値Vrefの変化によるリップルが、電圧Vsから検出される。
【0032】
リップル有無の判定には、公知の方法を採用することができる。例えば、電圧Vsの波形から上限ピーク値と下限ピーク値とを検出し、それらの差が一定値以上であればリップルありと判定し、一定値未満であればリップルなしと判定する。また、そのリップルの周波数がDC−DCコンバータ100で使用されているPWM信号生成部10の周波数と同じであれば、DC−DCコンバータ100からのリップルありと判定することもできる。
【0033】
このようにして、電圧検出部17で検出された電圧Vsを制御部18に取り込むことにより、電圧Vsのリップル有無に基づいて、負荷3への電力供給元を判別することができる。これにより、例えば、消費電力の大きい負荷3が作動している状況下で、電力供給元が低電圧バッテリ2であると判定されたときは、電力供給元を低電圧バッテリ2から高電圧バッテリ1へ切り替えるような制御が可能となる。また、電力供給元の判別結果を、図示しない表示部に表示するようにしてもよい。
【0034】
以上述べた動作は、回路が正常状態である場合に、電力供給元を判別する基本動作である。制御部18は、これに加えて、電圧Vsの値が異常である場合に、高電圧バッテリ1側(以下「高圧側」という)と低電圧バッテリ2側(以下「低圧側」という)のいずれで異常が発生したかを判別する機能を備えている。これについては、後で詳細に説明する。なお、高圧側の異常には、高電圧バッテリ1の異常のほか、DC−DCコンバータ100のスイッチング回路11やPWM信号生成回路19等の異常も含まれる。
【0035】
図2のテーブルは、DC−DCコンバータ100の動作パターンを示している。図2では、DC−DCコンバータを「DDC」と表記している(図3以下も同様)。「CAN信号」は、CAN通信バス5を介してECU200から制御部18へ送られる、DC−DCコンバータ100の動作または停止を指令する信号である。図2からわかるように、動作パターンには、DC−DCコンバータ100の動作状態と低電圧バッテリ2の動作状態とに応じて、(1)〜(12)の12種類のパターンがある。
【0036】
パターン(1)〜(3)は、DC−DCコンバータ100が停止している場合の動作パターンである。この場合、Vo=0なので、リップル有無の判定結果は「リップルなし」である。また、CAN信号は「DDC停止」の指令信号である。パターン(1)は、低電圧バッテリ2の電圧Vbが正常な場合のパターンである。パターン(2)は、低電圧バッテリ2の電圧Vbが異常に高い場合のパターンである。パターン(3)は、低電圧バッテリ2の電圧Vbが異常に低い場合のパターンである。
【0037】
パターン(4)〜(6)は、DC−DCコンバータ100が正常に動作している場合の動作パターンである。この場合、Vo>Vbなので、リップル有無の判定結果は「リップルあり」となる。また、CAN信号は「DDC動作」の指令信号である。パターン(4)は、低電圧バッテリ2の電圧Vbが正常な場合のパターンである。パターン(5)は、低電圧バッテリ2の電圧Vbが異常に高い場合のパターンである。パターン(6)は、低電圧バッテリ2の電圧Vbが異常に低い場合のパターンである。
【0038】
パターン(7)〜(9)は、DC−DCコンバータ100が動作しているが、出力電圧Voが異常に高い場合の動作パターンである。この場合、Vo>Vbなので、リップル有無の判定結果は「リップルあり」となる。また、CAN信号は「DDC動作」の指令信号である。パターン(7)は、低電圧バッテリ2の電圧Vbが正常な場合のパターンである。パターン(8)は、低電圧バッテリ2の電圧Vbが異常に高い場合のパターンである。パターン(9)は、低電圧バッテリ2の電圧Vbが異常に低い場合のパターンである。
【0039】
パターン(10)〜(12)は、DC−DCコンバータ100が動作しているが、出力電圧Voが異常に低い場合の動作パターンである。この場合、Vo≦Vbなので、リップル有無の判定結果は「リップルなし」となる。また、CAN信号は「DDC動作」の指令信号である。パターン(10)は、低電圧バッテリ2の電圧Vbが正常な場合のパターンである。パターン(11)は、低電圧バッテリ2の電圧Vbが異常に高い場合のパターンである。パターン(12)は、低電圧バッテリ2の電圧Vbが異常に低い場合のパターンである。
【0040】
パターン(4)〜(9)の場合は、「リップルあり」なので、制御部18は、前述したように、電力供給元が高電圧バッテリ1であると判定する。パターン(1)〜(3)およびパターン(10)〜(12)の場合は、「リップルなし」なので、制御部18は、前述したように、電力供給元が低電圧バッテリ2であると判定する。
【0041】
次に、図2の各パターンと、図3〜図14に示す電圧Vsの波形図とを用いて、制御部18の動作をさらに詳細に説明する。図3〜図14において、Vehは異常電圧の上限閾値、Velは異常電圧の下限閾値、Vmは正常時の低電圧バッテリ2の電圧(電圧Vbを抵抗14、15で分圧した値)を表している。図3〜図6は、異常が発生していない場合の波形図の例であり、図7〜図14は、異常が発生している場合の波形図の例である。
【0042】
図3は、図2のパターン(4)が継続する場合の波形図である。タイミングtまでは、DC−DCコンバータ100の正常動作により、電圧Vsはリップルを含んだ波形となる。Vsの値は、上限閾値Vehと下限閾値Velの間にあり、正常値となっている。また、低電圧バッテリ2の状態も正常である。タイミングtにおいては、制御部18からPWM信号生成部19に与えられる出力電圧の指令値Vrefが変更される。この結果、電圧Vsが上昇するが、DC−DCコンバータ100は正常に動作しており、Vsの値は、上限閾値Vehと下限閾値Velの間にあって、正常値を維持する。また、低電圧バッテリ2の状態も正常である。図3の場合は、回路が正常状態にあるので、制御部18は異常を判定しない。
【0043】
図4は、パターン(4)からパターン(1)へ遷移した場合の波形図である。タイミングtまでは、DC−DCコンバータ100の正常動作により、電圧Vsはリップルを含んだ波形となる。Vsの値は、上限閾値Vehと下限閾値Velの間にあり、正常値となっている。また、低電圧バッテリ2の状態も正常である。タイミングtにおいては、制御部18に動作停止のCAN信号が与えられ、DC−DCコンバータ100が動作を停止する。この結果、電圧Vsは、リップルを含まない低電圧バッテリ2の電圧Vmとなる。低電圧バッテリ2の状態は正常である。図4の場合も、回路が正常状態にあるので、制御部18は異常を判定しない。
【0044】
図5は、パターン(1)が継続する場合の波形図である。タイミングtまでは、DC−DCコンバータ100は停止状態にあり、電圧Vsは、リップルを含まない低電圧バッテリ2の電圧Vmとなる。低電圧バッテリ2の状態は正常である。タイミングtにおいては、低電圧バッテリ2の電圧が変化し、Vsの値が減少する。しかし、Vsの値は上限閾値Vehと下限閾値Velの間にあり、正常値を維持する。また、DC−DCコンバータ100は、引き続き、動作停止状態にある。図5の場合も、回路が正常状態にあるので、制御部18は異常を判定しない。
【0045】
図6は、パターン(1)からパターン(4)へ遷移した場合の波形図である。タイミングtまでは、DC−DCコンバータ100は停止状態にあり、電圧Vsは、リップルを含まない低電圧バッテリ2の電圧Vmとなる。低電圧バッテリ2の状態は正常である。タイミングtにおいては、制御部18に動作開始のCAN信号が与えられ、DC−DCコンバータ100が正常に動作を開始する。この結果、電圧Vsはリップルを含んだ波形となる。Vsの値は、上限閾値Vehと下限閾値Velの間にあり、正常値となっている。また、低電圧バッテリ2の状態も正常である。図6の場合も、回路が正常状態にあるので、制御部18は異常を判定しない。
【0046】
図7は、パターン(4)からパターン(7)へ遷移した場合の波形図である。タイミングtまでは、DC−DCコンバータ100の正常動作により、電圧Vsはリップルを含んだ波形となる。Vsの値は、上限閾値Vehと下限閾値Velの間にあり、正常値となっている。また、低電圧バッテリ2の状態も正常である。タイミングtにおいては、動作中のDC−DCコンバータ100(または高電圧バッテリ1)に異常が発生する。異常が発生しても、DC−DCコンバータ100は動作を継続するが、出力電圧Voが異常に高くなって、電圧Vsが上限閾値Vehを超える。一方、低電圧バッテリ2の状態は正常である。
【0047】
図7の場合は、制御部18は、パターン(7)において、リップルを含む電圧Vsが上限閾値Vehを超えたことで、高圧側に異常が発生したと判定する。
【0048】
図8は、パターン(4)からパターン(10)へ遷移した場合の波形図である。タイミングtまでは、DC−DCコンバータ100の正常動作により、電圧Vsはリップルを含んだ波形となる。Vsの値は、上限閾値Vehと下限閾値Velの間にあり、正常値となっている。また、低電圧バッテリ2の状態も正常である。タイミングtにおいては、動作中のDC−DCコンバータ100(または高電圧バッテリ1)に異常が発生する。異常が発生しても、DC−DCコンバータ100は動作を継続するが、出力電圧Voが異常に低くなって、Vo<Vbとなる。一方、低電圧バッテリ2の状態は正常である。このため、電圧Vsはリップルを含まない低電圧バッテリ2の電圧Vmとなる。
【0049】
図8の場合は、制御部18は、パターン(10)において、CAN信号がDC−DCコンバータ100の動作指令信号であるにもかかわらず、リップルを含まない電圧Vsが検出されたことにより、高圧側に異常が発生したと判定する。
【0050】
図9は、パターン(1)からパターン(10)へ遷移した場合の波形図である。タイミングtまでは、DC−DCコンバータ100は停止状態にあり、電圧Vsは、リップルを含まない低電圧バッテリ2の電圧Vmとなる。低電圧バッテリ2の状態は正常である。タイミングtにおいては、制御部18に動作開始のCAN信号が与えられ、DC−DCコンバータ100が動作を開始する。しかし、DC−DCコンバータ100(または高電圧バッテリ1)に異常があるため、出力電圧Voが上がらない。このため、電圧Vsは、リップルを含まない低電圧バッテリ2の電圧Vmを維持する。
【0051】
図9の場合は、制御部18は、パターン(10)において、CAN信号がDC−DCコンバータ100の動作指令信号であるにもかかわらず、リップルを含まない電圧Vsが検出されたことにより、高圧側に故障が発生したと判定する。
【0052】
図10は、パターン(1)からパターン(7)へ遷移した場合の波形図である。タイミングtまでは、DC−DCコンバータ100は停止状態にあり、電圧Vsは、リップルを含まない低電圧バッテリ2の電圧Vmとなる。低電圧バッテリ2の状態は正常である。タイミングtにおいては、制御部18に動作開始のCAN信号が与えられ、DC−DCコンバータ100が動作を開始する。しかし、DC−DCコンバータ100(または高電圧バッテリ1)に異常があるため、出力電圧Voが異常に高くなり、電圧Vsが上限閾値Vehを超える。一方、低電圧バッテリ2の状態は正常である。
【0053】
図10の場合は、制御部18は、パターン(7)において、リップルを含む電圧Vsが上限閾値Vehを超えたことで、高圧側に異常が発生したと判定する。
【0054】
図11は、パターン(6)からパターン(9)へ遷移した場合の波形図である。タイミングtまでは、DC−DCコンバータ100の正常動作により、検出電圧Vsはリップルを含んだ波形となる。Vsの値は、上限閾値Vehと下限閾値Velの間にあり、正常値となっている。一方、低電圧バッテリ2は、電圧が低すぎて異常状態にある。タイミングtにおいては、制御部18からPWM信号生成部19に与えられる出力電圧の指令値Vrefが変更された結果、出力電圧Voが上がりすぎて、電圧Vsが上限閾値Vehを超える。また、低電圧バッテリ2は、電圧が低すぎる異常状態を継続する。
【0055】
図11の場合は、パターン(6)において、低電圧バッテリ2が異常状態にあるが、リップルを含む電圧Vsが正常値を示していることから、制御部18は、高電圧バッテリ1から正常に電力供給が行われていると判定する(低電圧バッテリ2の異常は判定できない)。一方、パターン(9)においては、リップルを含む電圧Vsが上限閾値Vehを超えることから、制御部18は、高圧側に異常が発生したと判定する(低電圧バッテリ2の異常は判定できない)。
【0056】
図12は、パターン(6)からパターン(12)へ遷移した場合の波形図である。タイミングtまでは、DC−DCコンバータ100の正常動作により、検出電圧Vsはリップルを含んだ波形となる。Vsの値は、上限閾値Vehと下限閾値Velの間にあり、正常値となっている。一方、低電圧バッテリ2は、電圧が低すぎて異常状態にある。タイミングtにおいては、DC−DCコンバータ100(または高電圧バッテリ1)の異常により、出力電圧Voが急に低下し、Vo<Vbとなる。また、低電圧バッテリ2は、電圧が低すぎる異常状態を継続する。このため、電圧Vsは、下限閾値Velを下回るリップルを含まない電圧となる。
【0057】
図12の場合は、パターン(6)において、低電圧バッテリ2が異常状態にあるが、リップルを含む電圧Vsが正常値を示していることから、制御部18は、高電圧バッテリ1から正常に電力供給が行われていると判定する(低電圧バッテリ2の異常は判定できない)。一方、パターン(12)においては、CAN信号がDC−DCコンバータ100の動作指令信号であるにもかかわらず、リップルを含まない電圧Vsが検出されたことにより、制御部18は、高圧側に異常が発生したと判定する。さらに、制御部18は、リップルを含まない電圧Vsが下限閾値Velを下回っていることにより、低圧側にも異常が発生したと判定する。
【0058】
図13は、パターン(3)からパターン(12)へ遷移した場合の波形図である。タイミングtまでは、DC−DCコンバータ100は停止状態にある。一方、低電圧バッテリ2は、電圧が低すぎて異常状態にある。このときの電圧Vsは、下限閾値Velを下回るリップルを含まない電圧となる。タイミングtにおいては、制御部18に動作開始のCAN信号が与えられ、DC−DCコンバータ100が動作を開始する。しかし、DC−DCコンバータ100(または高電圧バッテリ1)に異常があるため、出力電圧Voが上がらない。また、低電圧バッテリ2は、電圧が低すぎる異常状態を継続する。このため、電圧Vsは、引き続き、下限閾値Velを下回るリップルを含まない電圧となる。
【0059】
図13の場合は、パターン(3)において、リップルを含まない電圧Vsが下限閾値Velを下回ることから、制御部18は、低圧側に異常が発生したと判定する。一方、パターン(12)においては、CAN信号がDC−DCコンバータ100の動作指令信号であるにもかかわらず、リップルを含まない電圧Vsが検出されたことにより、制御部18は、高圧側に異常が発生したと判定する。さらに、制御部18は、リップルを含まない電圧Vsが下限閾値Velを下回っていることにより、低圧側にも異常が発生したと判定する。
【0060】
図14は、パターン(3)からパターン(6)へ遷移した場合の波形図である。タイミングtまでは、DC−DCコンバータ100は停止状態にある。一方、低電圧バッテリ2は、電圧が低すぎて異常状態にある。このときの電圧Vsは、下限閾値Velを下回るリップルを含まない電圧となる。タイミングtにおいては、制御部18に動作開始のCAN信号が与えられ、DC−DCコンバータ100が正常に動作を開始する。この結果、電圧Vsはリップルを含んだ波形となる。Vsの値は、上限閾値Vehと下限閾値Velの間にあり、正常値となっている。一方、低電圧バッテリ2は、電圧が低すぎる異常状態を継続する。
【0061】
図14の場合は、パターン(3)において、リップルを含まない電圧Vsが下限閾値Velを下回ることから、制御部18は、低圧側に異常が発生したと判定する。一方、パターン(6)においては、低電圧バッテリ2が異常状態にあるが、リップルを含む電圧Vsが正常値を示していることから、制御部18は、高電圧バッテリ1から正常に電力供給が行われていると判定する(低電圧バッテリ2の異常は判定できない)。
【0062】
このように、上述した実施形態においては、電圧検出部17で検出された電圧Vsのリップル有無により、負荷3への電力供給元が高電圧バッテリ1であるのか、低電圧バッテリ2であるのかを判定することができる。
【0063】
また、上述した実施形態においては、電圧検出部17で検出された電圧Vsの値が、あらかじめ定められた所定範囲、すなわち上限閾値Vehと下限閾値Velの間にあるか否かを検証する。そして、VsがVehとVelの間にない場合に、電力供給元が高電圧バッテリであれば、高圧側で異常が発生したと判断し、電力供給元が低電圧バッテリであれば、低圧側で異常が発生したと判断する。これにより、電圧Vsの値に基づいて、高圧側と低圧側のいずれに異常が発生しているかを判別することができる(図7および図10のパターン(7)、図11のパターン(9)、図12および図13のパターン(12)、図13および図14のパターン(3)を参照)。
【0064】
さらに、上述した実施形態においては、制御部18が、DC−DCコンバータ100の動作状態(動作または停止)を示すCAN信号を、上位装置であるECU200から取得し、当該動作状態とリップル有無の判別結果とに基づいて、高圧側と低圧側のいずれで異常が発生したかを判断する。このため、電圧Vsの値によっては故障した電力供給元を判別できない場合でも、DC−DCコンバータ100の動作状態を考慮することで、高圧側と低圧側のいずれで異常が発生したかを判別することが可能となる(図8および図9のパターン(10)、図12および図13のパターン(12)を参照)。
【0065】
なお、制御部18は、異常が発生したと判断した場合に、CAN通信バス5を介して、異常発生を示す信号をECU200へ送信する。ECU200は、受信した信号に基づいて、所定の処理を実行する。
【0066】
本発明では、以上述べた以外にも、種々の実施形態を採用することができる。例えば、低電圧バッテリ2の電圧を検出するバッテリセンサ(図示省略)を、電圧検出部17とは別に設け、当該センサの検出結果に基づいて、低電圧バッテリ2の異常を判定してもよい。
【0067】
また、前記実施形態では、PWM信号生成部19が制御部18から独立して設けられているが、PWM信号生成部19は制御部18に内蔵されていてもよい。
【0068】
さらに、前記実施形態では、電気自動車またはハイブリッドカーに搭載される電圧変換装置を例に挙げたが、本発明は、これ以外の用途にも適用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 高電圧バッテリ
2 低電圧バッテリ
3 負荷
4 電源ライン
16 電圧変換部
17 電圧検出部
18 制御部(判定手段)
100 DC−DCコンバータ(電圧変換装置)
200 ECU(上位装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧バッテリの直流電圧をスイッチングして低電圧の直流電圧に変換する電圧変換部を有し、前記電圧変換部で変換された直流電圧を、負荷とこの負荷へ電力を供給する低電圧バッテリとが接続された電源ラインへ出力する電圧変換装置において、
前記電圧変換部の出力側の電圧を検出する電圧検出部と、
前記電圧検出部で検出された電圧にリップルが含まれているか否かを判別し、当該判別結果に基づいて、前記負荷への電力供給元が前記高電圧バッテリであるか前記低電圧バッテリであるかを判定する判定手段と、を備え、
前記判定手段は、
前記電圧検出部で検出された電圧にリップルが含まれている場合は、前記電力供給元が前記高電圧バッテリであると判定し、
前記電圧検出部で検出された電圧にリップルが含まれていない場合は、前記電力供給元が前記低電圧バッテリであると判定することを特徴とする電圧変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電圧変換装置において、
前記判定手段は、前記電圧検出部で検出された電圧の値が、あらかじめ定められた所定範囲にあるか否かを検証し、当該電圧値が所定範囲にない場合に、判定した電力供給元が前記高電圧バッテリであれば、当該高電圧バッテリ側で異常が発生したと判断し、判定した電力供給元が前記低電圧バッテリであれば、当該低電圧バッテリ側で異常が発生したと判断することを特徴とする電圧変換装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電圧変換装置において、
前記判定手段は、前記電圧変換装置の動作状態を示す信号を上位装置から取得し、当該動作状態と前記リップル有無の判別結果とに基づいて、前記高電圧バッテリと前記低電圧バッテリのいずれの側で異常が発生したかを判断することを特徴とする電圧変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−151999(P2012−151999A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8432(P2011−8432)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(510123839)オムロンオートモーティブエレクトロニクス株式会社 (110)
【Fターム(参考)】