説明

電圧駆動素子の駆動回路

【課題】ターンオフ動作時のコンデンサ放電電荷量を抑制することができ、効率の良い電圧駆動素子の制御を行うことができる電圧駆動素子の駆動回路を提供する。
【解決手段】電圧駆動素子のゲート・エミッタ端子間にコンデンサを付加してなる電圧駆動素子の駆動回路において、電圧駆動素子のターンオン時のみコンデンサC101が接続され、電圧駆動素子Q101のターンオフ時にはコンデンサが切り離されるよう構成する。好ましくは、電圧駆動素子のゲート・エミッタ間にスイッチ素子100とコンデンサC101とを直列に接続し、電圧駆動素子のゲート端子とスイッチ素子の一方の端子との間から、抵抗を介してゲート電荷放電用トランジスタへ接続し、スイッチ素子を電圧駆動素子の駆動信号に連動してオンオフ制御できるよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧駆動素子のゲート・エミッタ端子間にコンデンサを付加してなる電圧駆動素子の駆動回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車等の大電力を要する装置・機器のその電力の制御等に適用されるスイッチング回路及びインバータ回路には、電圧駆動型スイッチング素子のひとつであるIGBTが用いられることが多い。IGBTは、一定のゲート電圧をゲート端子へ印加することにより、そのオンオフを制御するスイッチング素子である。
【0003】
このようなIGBTを駆動する駆動回路において、IGBTがターンオンする時のコレクタ電流の時間変化(dIc/dt)がもたらす電流および電圧振動が起因となる放射ノイズ低減と、ターンオン時の低損失を両立させるために、IGBTのゲート・エミッタ端子間へコンデンサを付加することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−3680号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の電圧駆動素子(IGBT)の駆動回路においては、電圧駆動素子のターンオン動作性改善のため、コンデンサの一方の端子を電圧駆動素子のゲート端子と接続するとともに、コンデンサのもう一方の端子を電圧駆動素子のエミッタ端子へ接続し、電圧駆動素子のゲート駆動の際、同時にコンデンサの充放電を行うという構成になっていたため、電圧駆動素子のターンオフ動作の放電電荷量を増大させ、ターンオフ時間の増大や、ターンオフ動作時のゲート電荷放電用トランジスタの負荷増大が発生し、さらにゲート駆動用電源の消費電流を増大させてしまうという問題があった。
【0005】
本発明の目的は上述した問題点を解消して、ターンオフ動作時のコンデンサ放電電荷量を抑制することができ、効率の良い電圧駆動素子の制御を行うことができる電圧駆動素子の駆動回路を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電圧駆動素子の駆動回路は、電圧駆動素子のゲート・エミッタ端子間にコンデンサを付加してなる電圧駆動素子の駆動回路において、電圧駆動素子のターンオン時のみコンデンサが接続され、電圧駆動素子のターンオフ時にはコンデンサが切り離されるよう構成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、電圧駆動素子のターンオン時のみコンデンサが接続され、電圧駆動素子のターンオフ時にはコンデンサが切り離されるよう構成したことで、ターンオフ動作時のコンデンサ放電電荷量を抑制することができる。そのため、ゲート駆動用電源からの消費電流を削減でき、電源の小型化が達成できるとともに、ターンオフ用トランジスタの負担を軽減でき、トランジスタのサイズ小型化が達成できる。
【0008】
なお、本発明の電圧駆動素子の駆動回路においては、電圧駆動素子のゲート・エミッタ間にスイッチ素子とコンデンサとを直列に接続し、電圧駆動素子のゲート端子とスイッチ素子の一方の端子との間から、抵抗を介してゲート電荷放電用トランジスタへ接続し、スイッチ素子を電圧駆動素子の駆動信号に連動してオンオフ制御できるよう構成してもよい。このように構成すれば、ターンオフ動作時のみコンデンサが電圧駆動素子のゲート・エミッタ間へ接続されるため、ターンオフ動作時のコンデンサ放電電荷量を抑制することができる。このため、ターンオフ動作時のトランジスタの負荷を軽減できるとともに、ターンオフ時間の増大を回避することができる。また、ターンオフ動作時にコンデンサが切り離されるため、充電した電荷を次のターンオン動作時に利用することが可能となるため、電源消費電流を削減できる。
【0009】
また、本発明の電圧駆動素子の駆動回路においては、電圧駆動素子のゲート・エミッタ間にPchMOSFETとコンデンサとを直列に接続し、電圧駆動素子のゲート端子とPchMOSFETのソース端子との間から、抵抗を介してゲート電荷放電用のトランジスタへ接続し、PchMOSFETのゲート端子を、電圧駆動素子の駆動信号に連動してオンオフ制御されるNchMOSFETのドレイン端子と接続し、PchMOSFETを電圧駆動信号に連動してオンオフ制御できるよう構成すること、さらには、PchMOSFETのゲートに電位確定のための抵抗を設けるよう構成してもよい。このように構成すれば、ターンオフ動作時のみコンデンサが電圧駆動素子のゲート・エミッタ間へ接続されるため、ターンオフ動作時のコンデンサ放電電荷量を抑制することができる。このため、ターンオフ動作時のトランジスタの負荷を軽減できるとともに、ターンオフ時間の増大を回避することができる。また、ターンオフ動作時にコンデンサが切り離されるため、充電した電荷を次のターンオン動作時に利用することが可能となるため、電源消費電流を削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の電圧駆動素子の駆動回路の特徴は、電圧駆動素子のゲート・エミッタ端子間にコンデンサを付加してなる電圧駆動素子の駆動回路において、電圧駆動素子のターンオン時のみコンデンサが接続され、電圧駆動素子のターンオフ時にはコンデンサが切り離されるよう構成したことにある。
以下に、この発明の好適な実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。
【0011】
図1は本発明の電圧駆動素子の駆動回路の一例の構成を説明するための図である。図1に示す例は、電圧駆動素子の一つであるIGBT(Insulated Gate Bipolor Transistor):Q101を用いて、誘導負荷を駆動する回路の一例を示す。IGBT:Q101には、ゲート端子G、コレクタ端子C、エミッタ端子Eが設けられている。誘導負荷101の一方は、IGBT:Q101のコレクタ端子Cへ接続され、誘導負荷101の他方は、電源VBへ接続されている。誘導負荷101のエネルギー回生のため、ダイオードD100を誘導負荷101と並列に接続する。
【0012】
IGBT:Q101の駆動信号Vinは、プッシュプル構成されたNPNトランジスタQ102およびPNPトランジスタQ103のベース端子へ接続される。NPNトランジスタQ102のエミッタ端子は、ゲート抵抗Ronを介してIGBT:Q101のゲート端子Gへ接続される。PNPトランジスタQ103のコレクタ端子は、ゲート抵抗Roffを介してIGBT:Q101のゲート端子Gへ接続される。IGBT:Q101のゲート端子Gとエミッタ端子Eとの間に、スイッチ素子100とコンデンサC101を設け、直列接続する。
【0013】
上述したIGBT:Q101の駆動回路において、スイッチ素子100を、IGBT:Q101の駆動信号Vinに連動してオンオフ制御できるよう構成する。これにより、IGBT:Q101のターンオン時のみコンデンサC101がIGBT:Q101のゲート端子Gとエミッタ端子Eとの間に接続され、IGBT:Q101のターンオフ時にはコンデンサC101がIGBT:Q101のゲート端子Gとエミッタ端子Eとの間から切り離されるよう制御することができる。
【0014】
図2は本発明の電圧駆動素子の駆動回路の他の例の構成を説明するための図である。図2に示す例も、図1に示す例と同様に、電圧駆動素子の一つであるIGBT(Insulated gate bipolor transistor):Q201を用いて、誘導負荷を駆動する回路の一例を示す。IGBT:Q201には、ゲート端子G、コレクタ端子C、エミッタ端子Eが設けられている。誘導負荷201の一方は、IGBT:Q201のコレクタ端子Cへ接続され、誘導負荷201の他方は、電源VBへ接続されている。誘導負荷201のエネルギー回生のため、ダイオードD200を誘導負荷201と並列に接続する。
【0015】
IGBT:Q201の駆動信号Vinは、プッシュプル構成されたNPNトランジスタQ202およびPNPトランジスタQ203のベース端子へ接続される。NPNトランジスタQ202のエミッタ端子は、ゲート抵抗Ronとスイッチ素子の一つであるPchMOSFET:Q204とを介して、IGBT:Q201のゲート端子Gへ接続される。PNPトランジスタQ203のコレクタ端子は、ゲート抵抗Roffを介してIGBT:Q101のゲート端子Gへ接続される。
【0016】
PchMOSFET:Q204のゲート端子は、スイッチ素子の一つであるNchMOSFET:Q205のドレイン端子と接続され、駆動信号Vinにあわせて各MOSFET:Q204及びQ205の動作状態が切り替わるように接続する。IGBT:Q201におけるターンオン時のコレクタ電流のdIc/dtを緩和し、低ノイズ・低損失を実現するためのコンデンサC201は、ゲート抵抗Ronの一方またはPchMOSFET:Q204のドレイン端子とIGBT:Q201のエミッタ端子Eとの間に接続される。PchMOSFET:Q204のオフ動作時のゲート電荷放電用のため、PchMOSFET:Q204のゲート・ソース間に抵抗R1を設ける。
【0017】
図3は図2で示した回路各部の波形の一例を表すタイミングチャートである。図3に示す例では、任意の時間t1において、駆動信号VinがLoレベルからHiレベルになると、すなわち、IGBT:Q201がオフ動作からオン動作になると、NPNトランジスタQ202、NchMOSFET:Q205、PchMOSFET:Q204はオフからオン動作へ遷移するため、電源Vccからゲート抵抗Ronで制限されたゲートオン電流IgがIGBT:Q201のゲート端子Gへ流れる。よって、IGBT:Q201のゲート電圧Vgeが上昇し、IGBT:Q201がオン状態となるので、電源VBから誘導負荷201を介して、コレクタ電流Icが流れる。
【0018】
一方、駆動信号VinがHiレベルからLoレベルすなわちIGBT:Q201がオン動作からオフ動作になる時間t2では、NPNトランジスタQ202、NchMOSFET:Q205はオフ動作すると同時に、PNPトランジスタQ203はオン動作し、IGBT:Q201のゲート端子Gから放電が開始される。このため、IGBT:Q201のゲート電圧Vgeは下降し、IGBT:Q201はオフ状態となる。
【0019】
このとき、PchMOSFET:Q204は、NchMOSFET:Q205の動作に連動して、オフ動作へ遷移する。PchMOSFET:Q204のオフ動作遷移期間(時間t2直後)は、ある程度の抵抗体として振る舞うようなオン状態で、オン抵抗が非常に小さい状態となるが、NchMOSFET:Q205がオフ動作する時間t1以前または時間t2以降では、PchMOSFET:Q204は高い抵抗体として振る舞う。これにより、IGBR:Q201のターンオン動作では、コンデンサC201は電気的に切り離されているように振る舞う。コンデンサC201を電気的に切り離すことで、コンデンサC201に充電した電化をターンオン動作時のみに有効に利用することができるため、電源Vccからの持ち出し電流(ゲートオン電流Ig)を抑制できる(図3中、ゲートオン電流Igに従来波形を点線で示す)。また、ターンオフ動作時のコンデンサC201からの放電電荷が抑制できるために、IGBT:Q201のターンオフ時間の増大を回避できると同時に、PNPトランジスタQ203の負荷軽減が図れる。なお、IGBT:Q201のターンオフ動作後のコンデンサ両端電圧V1は、PchMOSFET:Q204のハーフオン動作時のオン抵抗に依存して決定される。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の電圧駆動素子の駆動回路によれば、電圧駆動素子のゲート・エミッタ端子間にコンデンサを付加してなる電圧駆動素子の駆動回路において、電圧駆動素子のターンオン時のみコンデンサが接続され、電圧駆動素子のターンオフ時にはコンデンサが切り離されるよう構成することで、ターンオフ動作時のコンデンサ放電電荷量を抑制することができ、効率の良い電圧駆動素子の制御を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の電圧駆動素子の駆動回路の一例の構成を説明するための図である。
【図2】本発明の電圧駆動素子の駆動回路の他の例の構成を説明するための図である。
【図3】図2で示した回路各部の波形の一例を表すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0022】
100 スイッチ素子
101、201 誘導負荷
C101、C201 コンデンサ
D100、D200 ダイオード
Q101、Q201 IGBT
Q102、Q202 NPNトランジスタ
Q103、Q203 PNPトランジスタ
Q204 PchMOSFET
Q205 NchMOSFET

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧駆動素子のゲート・エミッタ端子間にコンデンサを付加してなる電圧駆動素子の駆動回路において、電圧駆動素子のターンオン時のみコンデンサが接続され、電圧駆動素子のターンオフ時にはコンデンサが切り離されるよう構成したことを特徴とする電圧駆動素子の駆動回路。
【請求項2】
電圧駆動素子のゲート・エミッタ間にスイッチ素子とコンデンサとを直列に接続し、電圧駆動素子のゲート端子とスイッチ素子の一方の端子との間から、抵抗を介してゲート電荷放電用トランジスタへ接続し、スイッチ素子を電圧駆動素子の駆動信号に連動してオンオフ制御できるよう構成したことを特徴とする請求項1に記載の電圧駆動素子の駆動回路。
【請求項3】
電圧駆動素子のゲート・エミッタ間にPchMOSFETとコンデンサとを直列に接続し、電圧駆動素子のゲート端子とPchMOSFETのソース端子との間から、抵抗を介してゲート電荷放電用のトランジスタへ接続し、PchMOSFETのゲート端子を、電圧駆動素子の駆動信号に連動してオンオフ制御されるNchMOSFETのドレイン端子と接続し、PchMOSFETを電圧駆動信号に連動してオンオフ制御できるよう構成したことを特徴とする請求項1に記載の電圧駆動素子の駆動回路。
【請求項4】
PchMOSFETのゲートに電位確定のための抵抗を設けたことを特徴とする請求項3に記載の電圧駆動素子の駆動回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−238547(P2006−238547A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−46737(P2005−46737)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】