説明

電子デバイス、電子デバイスの製造方法、封止膜の構造体、電子デバイスを製造する製造装置およびプラズマ処理装置

【課題】膜の封止性を保持しつつ膜の内部応力を低減した封止膜により素子を保護する。
【解決手段】マイクロ波プラズマ処理装置は、有機EL素子が形成された基板Gを載置するサセプタ411と、処理容器内にガスを供給するガス供給源443とを有し、処理容器内に供給されたガスからプラズマを生成し、生成されたプラズマにより基板Gを処理する。ガス供給源443は、まず、炭素成分を含有する第1のガスを供給し、供給された第1のガスからプラズマを生成し、生成されたプラズマによりサセプタ411に載置された基板G上のメタル電極520に所定量の炭素成分を含有した応力緩和膜530を積層する。その後、ガス供給源443から炭素成分を含有しない第2のガスを供給し、供給された第2のガスからプラズマを生成し、生成されたプラズマにより応力緩和膜530上に炭素成分を含有しないバリア膜540を積層する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイス、電子デバイスの製造方法、封止膜の構造体、電子デバイスを製造する製造装置およびプラズマ処理装置に関し、特に、素子を封止する膜の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機化合物を用いて発光させる有機エレクトロルミネッセンス(EL:Electroluminescence)素子を利用した有機ELディスプレイが注目されている。この有機EL素子は、自発光し、反応速度が速く、消費電力が低い等の特徴を有しているため、バックライトを必要とせず、たとえば、携帯型機器の表示部等への応用が期待されている。
【0003】
有機EL素子は、ガラス基板上に形成され、有機層を陽極層(アノード)および陰極層(カソード)にてサンドイッチした構造をしていて、このうちの有機層は、水分や酸素に弱く、水分や酸素が混入すると、特性が変化して非発光点(ダークスポット)が発生し、有機EL素子の寿命を縮める一因となる。このため、外部の水分や酸素を透過させないように膜の封止性を高めることは非常に重要である。
【0004】
そこで、外部の湿気などから有機層を保護する方法として、従来から、アルミ缶などの封止缶を用いる方法が提案されている(たとえば、特許文献1を参照)。これによれば、有機EL素子上に、封止缶をシール材で貼り付け、さらに封止缶の内部に乾燥剤を取りつけることにより有機EL素子を封止および乾燥させ、これにより、有機EL素子への水分の混入を防止する。
【0005】
また、有機EL素子上に封止膜を成膜することにより、有機EL素子を封止する方法も提案されている(たとえば、特許文献2を参照)。封止膜による封止は、封止缶の場合に比べて構造が単純で薄型化が可能であるなどの利点がある。
【0006】
この封止膜には、上述したように、水分や酸素を透過させないことに加え、成膜温度が低いこと、膜応力が低いこと、物理的な衝撃から素子自体を充分に保護することなどが要求される。特に、有機EL素子の場合、発光特性を劣化させないために、低温にて成膜する必要がある。そのため、封止膜には、CVD(Chemical Vapor Deposition:化学蒸着薄膜成膜法)により100℃以下の低温にて成膜可能な窒化珪素(SiN)膜が有力視されている。
【0007】
【特許文献1】特開2005−166265号公報
【特許文献2】特開2000−223264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、膜の封止性を高めるために、膜の密度を上げれば上げるほど封止膜中の引張応力が強くなる。この引張応力が大きくなると、膜はお椀状に反る方向に応力がかかり、封止膜の剥がれや素子と封止膜との界面付近の破壊を招く要因となる。
【0009】
そこで、上記問題を解消するために、本発明は、封止膜の封止性を保持しつつ膜の内部応力を低減した電子デバイスおよび電子デバイスの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、上記課題を解決するために、本発明のある態様によれば、被処理体上に形成された素子と、前記素子上に積層された、所定量の炭素成分を含有する応力緩和膜と、前記応力緩和膜上に積層された、炭素成分を含有しないバリア膜とを有する電子デバイスが提供される。
【0011】
発明者は、鋭意研究の結果、図6および図7に示したように、膜の炭素含有率と膜応力との間には相関関係があることを導き出した。これによれば、封止膜を形成する成分に所定量の炭素(C)成分を混入すると、封止膜中の内部応力が変わる。すなわち、封止膜中に混入される炭素成分が多くなればなるほど、膜の内部応力が引張応力側から圧縮応力側へと変化することがわかる。
【0012】
この相関関係を利用して、発明者は、被処理体上に形成された素子上に所定量の炭素成分を含有する応力緩和膜を積層し、さらに、応力緩和膜上に炭素成分を含有しないバリア膜を積層させた電子デバイスを考え出した。これによれば、素子とバリア膜との間に炭素を含有した応力緩和膜が設けられるため、応力緩和膜の膜応力がバリア膜の引張応力を緩和する力として働き、封止膜全体の残留応力を低減することができる。
【0013】
これに加えて、かかる構成によれば、応力緩和膜上にさらにバリア膜が形成される。これにより、膜全体の封止性を高く維持することができる。この結果、素子とバリア膜との間に設けられた応力緩和膜により、膜応力を低減させて膜剥がれや素子の破損を防止するとともに、応力緩和膜上に設けられたバリア膜により外部の水分や酸素が素子内に混入することを防止することによって、素子の劣化を回避することができる。この結果、素子の寿命を長く保つことができる。
【0014】
このとき、前記バリア膜は、炭素成分を含有しない水素化窒化珪素膜(H:SiNx膜)であり、前記応力緩和膜は、4原子パーセント以上の炭素成分を含有する水素化窒化珪素膜(H:SiCxNy膜)であってもよい。
【0015】
図7に示した膜の炭素含有率と膜応力との関係によれば、炭素成分の含有率が4原子パーセント(at%)以上の場合、応力緩和膜の膜応力は、0(Mpa)より小さくなり、圧縮応力となる。図7によれば、炭素成分が含有していない(すなわち、炭素成分の含有率が0%)のバリア膜の膜応力は、170MPa程度であるから、応力緩和膜の膜応力が0(Mpa)より小さくなると、応力緩和膜とバリア膜との膜応力の総和は、バリア膜のみが素子上に存在する場合に比べて小さくなる。これにより、封止膜の封止性を高く維持しながら封止膜の内部応力を低減することができる。
【0016】
さらに、各封止膜は、主に、水素化窒化珪素膜により形成される。水素化窒化珪素膜は、100℃以下の低温にてCVD(Chemical Vapor Deposition:化学蒸着薄膜成膜法)により成膜される。この結果、成膜時に素子の特性が変化することを回避することができる。このようにして、素子上の封止膜を応力緩和膜およびバリア膜の2層構造にし、さらに、各封止膜を、水素化窒化珪素膜により形成することにより、電子デバイスの素子の特性を劣化させることなく、膜剥がれや素子の破損を防止して、素子の寿命を長く保持することができる。
【0017】
前記バリア膜は、炭素成分を含有しない水素化窒化珪素膜であり、前記応力緩和膜は、2原子パーセント以上5原子パーセント以下の炭素成分を含有する水素化窒化珪素膜であってもよい。
【0018】
図7に示した炭素含有率と膜応力との関係によれば、炭素成分の含有率が2原子パーセント以上5原子パーセント以下の場合、応力緩和膜の膜応力は、−50〜50(Mpa)の間の値をとる。換言すれば、炭素成分の含有率が2原子パーセント以上5原子パーセント以下の場合、応力緩和膜は、膜応力の非常に小さい膜として機能する。よって、かかる構成によれば、素子とバリア膜との間に膜応力の非常に小さい応力緩和膜が介在することになる。このようにして、素子を保護する緩衝材として応力緩和膜を機能させることにより、バリア膜の引張応力が素子に直接作用することによって素子が破損したり、膜が剥がれたりすることを回避することができる。
【0019】
前記バリア膜と前記応力緩和膜とは、前記素子上にそれぞれ複数層積層されるようにしてもよい。その際、前記バリア膜と前記応力緩和膜とは、前記素子上に交互にそれぞれ複数層積層されるほうが好ましい。また、最内層には、前記応力緩和膜が形成され、最外層には、前記バリア膜が形成されているほうがよい。
【0020】
図8(a)に示したように、封止膜の内部応力は、バリア膜と応力緩和膜との界面にて一番大きくなる。よって、封止膜は、バリア膜と応力緩和膜との界面にて一番大きくひずむ。また、このひずみは、各封止膜の厚さが厚いほど大きくなる。しかしながら、かかる構成によれば、バリア膜と応力緩和膜とは、素子上にそれぞれ複数層(好ましくは、交互に)積層される。これにより、一層毎の各封止膜の厚さを薄くすることができる。この結果、図8(b)に示したように、バリア膜と応力緩和膜との界面に生じる内部応力の大きさを小さくし、封止膜全体の内部応力の分布をより均一にすることにより、封止膜内部のひずみを小さくすることができる。これにより、膜剥がれや素子の破損の危険性をより低減することができる。
【0021】
最内層には、応力緩和膜が形成され、最外層には、バリア膜が形成されるようにしてもよい。これによれば、最外層に位置づけられたバリア膜により封止膜全体の封止性を高く保ちながら、最内層に位置づけられた応力緩和膜により膜剥がれや素子の破損の危険性を低減することができる。
【0022】
前記バリア膜と前記応力緩和膜とは、前記応力緩和膜が前記バリア膜に挟まれるように、前記素子上に積層されるようにしてもよい。これによれば、素子上にバリア膜、応力緩和膜、バリア膜の順に3層封止膜が形成される。これにより、より膜の封止性を高め、外部から素子へ与える影響をより少なくすることができる。
【0023】
前記応力緩和膜の炭素含有率と厚さおよび前記バリア膜の厚さは、前記バリア膜の膜応力と前記応力緩和膜の膜応力とから生じる封止膜全体の内部応力の絶対値が、100MPa以下となるように定められていてもよく、さらに、50MPa以下となるように定められるほうが好ましい。また、前記バリア膜と前記応力緩和膜との厚さの総和は、5μm以下であるほうが好ましい。
【0024】
これによれば、バリア膜の膜応力と応力緩和膜の膜応力とから生じる封止膜全体の内部応力の絶対値が、100MPa以下(好ましくは、50MPa)以下となる。これにより、封止膜全体の内部応力を小さくして、膜剥がれや素子の破損の危険性をより低減することができる。
【0025】
前記電子デバイスは、有機発光ダイオードまたは薄膜トランジスタのいずれかであってもよい。これによれば、上記2重構造の封止膜により封止された素子を有する有機発光ダイオードまたは薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)が製造される。これにより、たとえば、有機ディスプレイまたは液晶ディスプレイを駆動するためにマトリクス上に構成された各素子を外部の水分などから有効に保護することができる。特に、有機EL素子は、水分に弱い性質を持っている。よって、バリア膜により大気中の水分を素子内に混入させることを回避しながら、応力緩和膜によりバリア膜に発生した膜応力を緩和することによって膜剥がれや素子の破壊の危険性を低減することができる。
【0026】
また、上記課題を解決するために、本発明の他の態様によれば、被処理体上に形成された素子上に所定量の炭素成分を含有する応力緩和膜を積層し、前記応力緩和膜上に炭素成分を含有しないバリア膜を積層する電子デバイスの製造方法が提供される。
【0027】
また、上記課題を解決するために、本発明の他の態様によれば、被処理体上に形成された素子を封止する封止膜の構造体であって、前記素子上に積層された、所定量の炭素成分を含有する応力緩和膜と、前記応力緩和膜上に積層された、炭素成分を含有しないバリア膜とを有する封止膜の構造体が提供される。
【0028】
また、上記課題を解決するために、本発明の他の態様によれば、被処理体上に形成された素子上に所定量の炭素成分を含有する応力緩和膜を積層し、前記応力緩和膜上に炭素成分を含有しないバリア膜を積層する電子デバイスの製造方法を使用して電子デバイスを製造する製造装置が提供される。
【0029】
さらに、上記課題を解決するために、本発明の他の態様によれば、処理容器内に供給されたガスからプラズマを生成し、生成されたプラズマにより被処理体を処理するプラズマ処理装置であって、素子が形成された被処理体を載置する載置台と、前記処理容器内にガスを供給するガス供給源と、を有し、前記ガス供給源から炭素成分を含有する第1のガスを供給し、供給された第1のガスからプラズマを生成し、生成されたプラズマにより前記載置台に載置された被処理体上の素子に所定量の炭素成分を含有した応力緩和膜を積層した後、前記ガス供給源から炭素成分を含有しない第2のガスを供給し、供給された第2のガスからプラズマを生成し、生成されたプラズマにより前記応力緩和膜上に炭素成分を含有しないバリア膜を積層するプラズマ処理装置が提供される。
【0030】
これらによれば、バリア膜により外部の水分や酸素が素子内に混入することを防止することによって素子の劣化を回避しながら、素子とバリア膜との間に設けられた応力緩和膜により膜応力を小さくすることによって、膜剥がれや素子の破損の危険性を低減することができる。
【0031】
さらに、上記課題を解決するために、本発明の他の態様によれば、被処理体上に形成された素子と、前記素子上に積層された、所定量の炭素成分を含有する応力緩和膜とを有する電子デバイスが提供される。このとき、前記応力緩和膜は、2原子パーセント以上5原子パーセント以下の炭素成分を含有する水素化窒化珪素膜であってもよい。
【0032】
前述したように、炭素成分の含有率が2原子パーセント以上5原子パーセント以下の場合、応力緩和膜は、膜応力の非常に小さい膜として機能する。よって、かかる構成によれば、素子上を膜応力の非常に小さい応力緩和膜にて保護することにより、膜剥がれや素子の破損を防止するとともに、たとえば、応力緩和膜の厚みを増やすことにより、素子を効果的に保護することができる。
【発明の効果】
【0033】
以上説明したように、本発明によれば、膜の封止性を保持しつつ膜の内部応力(残留応力)を低減した封止膜により素子を効果的に保護することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の一実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び添付図面において、同一の構成及び機能を有する構成要素については、同一符号を付することにより、重複説明を省略する。また、本明細書中1mTorrは(10−3×101325/760)Pa、1sccmは(10−6/60)m/secとする。
【0035】
まず、本発明の一実施形態にかかる基板処理装置10について、その概略構成を示した図1を参照しながら説明する。なお、本実施形態では、基板処理装置10を用いて有機EL素子を製造する工程について、有機EL素子を封止膜により封止する工程も含めて説明する。
【0036】
本実施形態にかかる基板処理装置10は、複数の処理容器を有するクラスタ型の製造装置であり、ロードロック室LLM、搬送室TM(Transfer Module)、前処理室CMおよび4つのプロセスモジュールPM(Process Module)1〜PM4から構成されている。
【0037】
ロードロック室LLMは、大気系から搬送されたガラス基板(以下「基板」という)Gを、減圧状態にある搬送室TMに搬送するために内部を減圧状態に保持した真空搬送室である。なお、大気系からロードロック室LLMに搬入される基板G上には、予め陽極層としてインジウムスズ酸化物(ITO:Indium Tin Oxide)が形成されている。
【0038】
搬送室TMには、その内部に屈伸および旋回可能な多関節状の搬送アームArmが配設されている。基板Gは、最初に、搬送アームArmを用いてロードロック室LLMから前処理室CMに搬送され、つぎに、プロセスモジュールPM1に搬送され、さらに、他のプロセスモジュールPM2〜PM4に搬送される。前処理室CMでは、基板Gに形成された陽極層としてのITOの表面に付着した汚染物(主に有機物)を除去する。
【0039】
4つのプロセスモジュールPM1〜PM4では、まず、プロセスモジュールPM1にて、蒸着により基板のITO表面に6層の有機膜が連続的に成膜される。つぎに、基板Gは、プロセスモジュールPM4に搬送される。プロセスモジュールPM4では、スパッタリングにより基板Gの有機層上にメタル電極が形成される。つぎに、基板Gは、プロセスモジュールPM2に搬送され、プロセスモジュールPM2にて有機膜の一部がエッチングにより除去される。ついで、基板Gは、再びプロセスモジュールPM4に搬送され、プロセスモジュールPM4にてメタル電極の側部がスパッタリングにより形成され、最後に、プロセスモジュールPM3に搬送され、プロセスモジュールPM3にてCVDにより封止膜が形成される。
【0040】
以下では、蒸着により有機膜を成膜するプロセスモジュールPM1の内部構成(図2)を説明した後、CVDにより封止膜を成膜するプロセスモジュールPM3の内部構成(図4)を説明する。なお、エッチングおよびスパッタリングを実行するプロセスモジュールPM2およびPM4は、一般的なエッチング装置およびスパッタリング装置であるため、その内部構成の説明を省略する。
【0041】
(プロセスモジュールPM1:有機膜の成膜処理)
図2にその縦断面を模式的に示したように、プロセスモジュールPM1は、第1の処理容器100および第2の処理容器200を有していて、第1の処理容器100内にて6層の有機膜が連続的に成膜される。
【0042】
第1の処理容器100は、直方体の形状であり、その内部に摺動機構110、6つの吹き出し機構120a〜120fおよび7つの隔壁130を有している。第1の処理容器100の側壁には、開閉により基板Gを搬入、搬出可能なゲートバルブ140が設けられている。
【0043】
摺動機構110は、ステージ110a、支持体110bおよびスライド機構110cを有している。ステージ110aは、支持体110bにより支持され、ゲートバルブ140から搬入された基板Gを、図示しない高電圧電源から印加された高電圧により静電吸着する。スライド機構110cは、第1の処理容器100の天井部に装着されるとともに接地されていて、基板Gをステージ110aおよび支持体110bとともに第1の処理容器100の長手方向にスライドさせ、これにより、各吹き出し機構120のわずか上空にて基板Gを平行移動させるようになっている。
【0044】
6つの吹き出し機構120a〜120fは、形状および構造がすべて同一であって、互いに平行して等間隔に配置されている。吹き出し機構120a〜120fは、その内部が中空の矩形形状をしていて、その上部中央に設けられた開口から有機分子を吹き出すようになっている。吹き出し機構120a〜120fの下部は、第1の処理容器100の底壁を貫通する連結管150a〜150fにそれぞれ連結されている。
【0045】
各吹き出し機構120の間には隔壁130がそれぞれ設けられている。隔壁130は、各吹き出し機構120を仕切ることにより、各吹き出し機構120の開口から吹き出される有機分子が隣りの吹き出し機構120から吹き出される有機分子に混入することを防止するようになっている。
【0046】
第2の処理容器200には、形状および構造が同一の6つの蒸着源210a〜210fが内蔵されている。蒸着源210a〜210fは、収納部210a1〜210f1に有機材料をそれぞれ収納していて、各収納部を200〜500℃程度の高温にすることにより各有機材料を気化させるようになっている。なお、気化とは、液体が気体に変わる現象だけでなく、固体が液体の状態を経ずに直接気体に変わる現象(すなわち、昇華)も含んでいる。
【0047】
蒸着源210a〜210fは、その上部にて連結管150a〜150fにそれぞれ連結されている。各蒸着源210にて気化された有機分子は、各連結管150を高温に保つことにより、各連結管150に付着することなく各連結管150を通って各吹き出し機構120の開口から第1の処理容器100の内部に放出される。なお、第2の処理容器200は、その内部を所定の真空度に保持するために、図示しない排気機構により所望の真空度まで減圧されている。
【0048】
各連結管150には、バルブ220a〜220fがそれぞれ取り付けられていて、各バルブ220を閉じると、各有機材料を収納している蒸着源210内の空間と第1の処理容器の内部空間とが遮断され、各バルブ220を開くと、両空間が連通する。本実施形態では、各バルブ220は、大気中に放出されているが、第2の処理容器200内に設けられてもよい。
【0049】
各吹き出し機構120から吹き出された有機分子のうち、まず、吹き出し機構120aから吹き出された有機分子が、吹き出し機構120aの上方をある速度で進行する基板G上のITO(陽極)に付着することにより、図3に示したように、基板Gに第1層のホール輸送層が形成される。続いて、基板Gが吹き出し機構120bから吹き出し機構120fまで順に移動する際、各吹き出し機構120b〜120fから吹き出された有機分子がそれぞれ基板Gに堆積することにより、有機層(第2層〜第6層)が順に形成される。このようにして、有機EL製造プロセスの各工程を示した図5のうち、図5(a)に示した基板GのITO(陽極)500上に、図5(b)に示した有機層510が成膜される。
【0050】
(プロセスモジュールPM4:メタル電極の成膜処理)
つぎに、基板Gは、プロセスモジュールPM4内に搬送される。プロセスモジュールPM4内では、処理容器内に供給されたガスからプラズマを生成し、生成されたプラズマ中のイオンをターゲットに衝突させる(スパッタリング)ことにより、ターゲットからターゲット原子Agが飛び出す。飛び出したターゲット原子Agは、パターンマスクを介して有機層510上に堆積する。これにより、図5(c)に示したメタル電極(陰極)520が成膜される。
【0051】
(プロセスモジュールPM2:有機膜のエッチング処理)
つぎに、基板Gは、プロセスモジュールPM2内に搬送され、容器内に供給されたガスからプラズマを生成し、生成されたプラズマによりメタル電極520をマスクとして、メタル電極520の下部に積層された有機層以外の有機層が削り取られる(ドライエッチング)。これにより、図5(d)に示したように、メタル電極520の下部に位置する有機層のみが基板G上に残る。
【0052】
(プロセスモジュールPM3:封止膜の成膜処理)
つぎに、基板Gは、プロセスモジュールPM3内に搬送され、図4にその縦断面を模式的に示したRLSA(Radial Line Slot Antenna)プラズマCVD装置により成膜処理される。RLSAプラズマCVD装置は、天井面が開口された円筒状の処理容器300を有している。天井面の開口には、シャワープレート305が嵌め込まれている。処理容器300とシャワープレート305とは、処理容器300の内壁の段差部とシャワープレート305の下面外周部との間に配設されたOリング310により密閉され、これにより、プラズマ処理を施す処理室Uが形成されている。たとえば、処理容器300はアルミニウム等の金属からなり、シャワープレート305はアルミニウム等の金属または誘電体からなり、電気的に接地されている。
【0053】
処理容器300の底部には、ウエハWを載置するサセプタ(載置台)315が絶縁体320を介して設置されている。サセプタ315には、整合器325aを介して高周波電源325bが接続されていて、高周波電源325bから出力された高周波電力により処理容器300の内部に所定のバイアス電圧を印加するようになっている。また、サセプタ315には、コイル330aを介して高圧直流電源330bが接続されていて、高圧直流電源330bから出力された直流電圧により基板Gを静電吸着するようになっている。また、サセプタ315の内部には、ウエハWを冷却するために冷却水を供給する冷却ジャケット335が設けられている。
【0054】
シャワープレート305は、その上部にてカバープレート340により覆われている。カバープレート340の上面には、ラジアルラインスロットアンテナ345が設けられている。ラジアルラインスロットアンテナ345は、多数の図示しないスロットが形成されたディスク上のスロット板345aとスロット板345を保持するディスク上のアンテナ本体345bとスロット板345aとアンテナ本体345bとの間に設けられ、アルミナ(Al)などの誘電体から形成される遅相板345cとから構成されている。ラジアルラインスロットアンテナ345には、同軸導波管350を介して外部にマイクロ波発生器355が設置されている。
【0055】
処理容器300には、真空ポンプ(図示せず)が取り付けられていて、ガス排出管360を介して処理容器300内のガスを排出することにより、処理室Uを所望の真空度まで減圧するようになっている。
【0056】
ガス供給源365は、複数のバルブV、複数のマスフローコントローラMFC、アンモニア(NH)ガス供給源365a、アルゴン(Ar)ガス供給源365b、シラン(SiH)ガス供給源365cおよびトリメチルシラン((CHSiH;3MS)ガス供給源365dから構成されている。ガス供給源365は、各バルブVの開閉および各マスフローコントローラMFCの開度をそれぞれ制御することにより、所望の濃度のガスを処理容器300の内部に供給するようになっている。
【0057】
このようにして、アンモニアガスおよびアルゴンガス(第1のガスの一例)が、第1の流路370aを通って、シャワープレート305を貫通するガス導入管375から処理室Uの上方に供給され、アルゴンガス、シランガスおよびトリメチルシランガス(第2のガスの一例)が、第2の流路370bを通って一体型ガスパイプ380から第1のガスより下方に供給される。かかる構成によれば、マイクロ波発生器355からスロットおよびシャワープレート305を介して処理室U内に入射されたマイクロ波により、各種ガスからプラズマが生成され、生成されたプラズマにより炭素(C)成分を含有した水酸化窒化珪素(H:SiCxNy)膜からなる応力緩和膜530が形成される。
【0058】
応力緩和膜530を形成後、トリメチルシランガス供給源365dのバルブVを閉じて、アルゴンガスおよびアンモニアガスを上段から供給し、アルゴンガスおよびシランガスを下段から供給する。これにより、図5(g)に示したように、炭素(C)成分を含有しない水酸化窒化珪素(H:SiNx)膜からなるバリア膜540が形成される。
【0059】
(封止膜の構造)
以上に説明したように、本実施形態にかかる有機EL素子製造プロセスでは、有機層およびメタル電極を形成した後(図5(a)〜図5(e))、炭素成分を含有した水酸化窒化珪素膜(応力緩和膜530)を形成し(図5(f))、さらに、炭素成分を含有しない水酸化窒化珪素膜(バリア膜540)を形成する(図5(g))。このようにして、2種類の封止膜にて有機素子を封止する本実施形態では、炭素成分を含有しない水酸化窒化珪素膜のみで有機素子を封止する場合に比べて、大きな利点があることを発明者は見いだした。つぎに、応力緩和膜およびバリア膜からなる2層構造の封止膜の優れた利点について、従来の問題点とともに説明する。
【0060】
一般的に、基板上の素子を封止する封止膜には、(1)物理的衝撃から素子を充分に保護すること、(2)成膜温度が低いこと、(3)水分や酸素を透過させないこと、(4)膜応力が低いことが要求される。特に、有機EL素子の場合、発光特性を劣化させないためには、封止膜を低温にて成膜する必要がある。また、大気中の水分は、有機EL素子を劣化させ、非発光点(ダークスポット)を発生させる一因となるため、水分を透過させないように膜の封止性を高めることも非常に重要である。
【0061】
しかしながら、膜の封止性を高めるために、膜の密度を上げれば上げるほど封止膜中の引張応力が大きくなり、膜をお椀状に反らせる方向に力がかかる。このため、封止膜の密度を上げて膜の封止性を高めると、封止膜の剥がれや素子と封止膜との界面付近の破壊を招き、素子の寿命を縮める要因となる。
【0062】
この問題に直面した発明者は、封止膜の封止性を保持しつつ、膜の残留応力を低減する封止膜の構造を以下の実験から究明した。プロセス条件としては、発明者は、RLSAプラズマCVD装置のマイクロ波発生器355から出力されるマイクロ波を、2.5kWに制御した。また、発明者は、処理室内の圧力を、26.6Pa、天井面とサセプタ315とのギャップを、90mmに設定した。また、発明者は、上段からアルゴンガスおよびアンモニアガスを供給し、それらの流量をそれぞれ1150sccm、113sccmとし、下段からアルゴンガス、シランガスおよびトリメチルシランガスを供給し、それらの流量をそれぞれ50sccm、18〜16sccm、0〜2sccmとした。シランガスおよびトリメチルシランガスの流量に幅があるのは、シランガスおよびトリメチルシランガスの流量の総和が、18sccmになるように各ガスの流量を変動させたためである。さらに、発明者は、サセプタの温度を70℃に制御し、基板Gを静電吸着し、基板裏面に5Torrのヘリウム(He)ガスを供給して冷却し、処理室内の温度を45℃に設定した。
【0063】
この状態で、トリメチルシランガスの流量を0〜2sccmに変化させながら、基板Gに水素化窒化珪素膜を形成した。発明者は、形成された膜を基板に貼り付け、膜評価装置により貼り付けた膜のそり量を計測し、計測されたそり量から膜の内部応力を求めた。この結果得られたトリメチルシランガス(3MS)の流量に対する膜組成成分の割合および膜応力の関係を図6および図7に示す。これによれば、封止膜を形成する珪素(Si)、窒素(N)および水素(H)成分に所定量の炭素(C)成分を混入させることにより、封止膜の内部応力が変化することがわかる。すなわち、図6および図7に示したように、発明者は、封止膜中に混入される炭素成分が多くなればなるほど、膜の内部応力が引張応力側から圧縮応力側へ変化していくことを究明した。
【0064】
この関係を利用して、発明者は、有機EL素子上に所定量の炭素成分を含有する応力緩和膜(たとえば、炭素含有水素化窒化珪素膜;H:SiCxNy膜)を積層し、さらに、応力緩和膜上に炭素成分を含有しないバリア膜(たとえば、水素化窒化珪素膜:H:SiNx膜)を積層させるという封止膜の構造体を考え出した。
【0065】
これによれば、素子とバリア膜との間に設けられた応力緩和膜は、バリア膜の膜応力を緩和する力として働く。たとえば、応力緩和膜を、図7に示した4原子パーセント以上の炭素成分を含有する水素化窒化珪素膜とした場合、応力緩和膜の膜応力は、0(Mpa)より小さくなると考えられる。図7によれば、炭素成分が含有していない(すなわち、炭素成分の含有率が0%)のバリア膜の膜応力は、170MPa程度であるから、応力緩和膜の膜応力が0(Mpa)より小さくなると、膜全体の残留応力は、バリア膜のみが素子上に存在する場合に比べて小さくなる。
【0066】
これに加えて、かかる構成によれば、応力緩和膜上にさらにバリア膜が形成される。これにより、膜の封止性を高く維持することができる。この結果、有機EL素子とバリア膜との間に設けられた応力緩和膜により膜剥がれや素子の破損を防止するとともに、最外層に設けられたバリア膜により外部の水分や酸素が素子側に混入することを防止することによって、有機EL素子の劣化を回避することができる。
【0067】
換言すれば、素子上の封止膜を応力緩和膜およびバリア膜の2層構造にすることにより、膜の封止性を高く維持しながら膜の残留応力を低く抑えることができる。このようにして、発明者は、上述した封止膜の2層構造により、有機EL素子の特性を劣化させることなく、膜剥がれや素子の破損を防止して、有機EL素子の寿命を長く保持することが可能な、有機発光ダイオードを製造する方法を見いだした。さらに、発明者は、このような封止膜の構造体を最適化する実施例として、次のような4つの例を考案した。
【0068】
(封止膜の構造例1:応力緩和膜の膜応力が所定値以下になるように炭素の含有率を制御)
まず、発明者は、封止膜の構造体を最適化する一つ目の例として、応力緩和膜530の膜応力が所定値以下になるように炭素の含有率を制御する方法を考え出した。図7に示した炭素含有率と膜応力との関係によれば、炭素成分の含有率が2原子パーセント以上5原子パーセント以下の場合、応力緩和膜530の膜応力の絶対値は、50(Mpa)以下となり、応力緩和膜530は、膜応力の非常に小さい膜として機能する。
【0069】
よって、発明者は、トリメチルシランの流量を0.5sccm〜1sccm程度に制御することにより、炭素成分の含有率が2原子パーセント以上5原子パーセント以下の応力緩和膜530をメタル電極520上に成膜した。このようにして、メタル電極520とバリア膜540との間に絶対値が50Mpaより小さい膜応力をもつ応力緩和膜530を介在させることにより、バリア膜540の引張応力がメタル電極520に直接作用することを回避することができた。これとともに、応力緩和膜530の厚みをたとえば、500nm以下に最適化することにより、メタル電極520を保護する緩衝材として応力緩和膜530を機能させることができた。
【0070】
(封止膜の構造例2:膜応力の総和が所定値以下になるように炭素の含有率と膜厚を制御)
また、発明者は、封止膜の構造体を最適化する二つ目の例として、封止膜全体の膜応力の総和が所定値以下になるように(たとえば、「0」に近づくように)炭素の含有率と各膜の厚さを制御する方法を考案した。具体的に説明すると、図7に示したように、トリメチルシランガスの流量を2sccmにすると、−130MPaの膜応力の炭素含有水酸化窒化珪素膜が形成される。これを利用して、発明者は、図8(a)に示したように、この応力緩和膜530を280mm形成し、その上にバリア膜540を220mm形成することにより、封止膜全体の膜応力(=(−130×280)+(170×220))を、「0」に近づけることができた。このようにして、膜全体の残留応力が非常に小さくなるように炭素の含有率と各封止膜の膜厚を制御することにより、バリア膜540によって膜の封止性を保持しながら、応力緩和膜530によって膜剥がれや素子の破損の危険性を低減することができた。
【0071】
このとき、発明者は、膜剥がれを回避するためには、バリア膜540の膜応力と応力緩和膜530の膜応力とから生じる封止膜全体の残留応力の絶対値が、100MPa以下(より好ましくは50MPa)になるように炭素の含有率と膜厚を定めるとよいことを見いだした。また、応力緩和膜530とバリア膜540との厚さの総和は、5μm以下であるほうがよいことがわかった。この結果、バリア膜540により膜の封止性を保持しながら、応力緩和膜530により膜剥がれや素子の破損の危険性をより低減することができた。
【0072】
(封止膜の構造例3:膜の内部応力の分布が均一になるように各膜を複数層積層)
さらに、発明者は、封止膜の構造体を最適化する三つ目の例として、封止膜全体の内部応力の分布が均一になるように各封止膜を複数層積層させる方法を導き出した。上述した封止膜の構造例2によれば、図8(a)の左側に封止膜内部の膜応力の分布を示したように、膜の内部応力は、応力緩和膜530とバリア膜540との界面において、一番大きくなっている。すなわち、封止膜は、応力緩和膜530とバリア膜540との界面において、一番ひずんでいることがわかる。このひずみは、膜剥がれや素子の破損の原因となりかねない。そこで、発明者は、封止膜の内部応力の均一化を図るために、応力緩和膜530とバリア膜540とを、メタル電極520上にそれぞれ複数層積層することを考案した。その際、図8(b)に示したように、応力緩和膜530とバリア膜540とは、メタル電極520上に交互にそれぞれ複数層積層した。また、最内層には、応力緩和膜530が形成され、最外層には、バリア膜540が形成されるようにした。
【0073】
前述したように、応力緩和膜530とバリア膜540とは、それらの界面にて一番大きくひずむ。そして、このひずみは、各層の厚さが厚いほど大きくなる。しかしながら、本例に示した封止膜の構造体によれば、応力緩和膜530とバリア膜540とは、メタル電極520上にそれぞれ複数層(好ましくは、交互に複数層)積層される。これにより、各層の膜厚を薄くすることができる。たとえば、図8(b)に示したように、応力緩和膜530とバリア膜540とを交互に2層ずつ積層させた場合、応力緩和膜530とバリア膜540の界面にて生じる内部応力は、応力緩和膜530とバリア膜540とを1層ずつのみ積層させた図8(a)の場合に比べて半分になる。このようにして、封止膜全体の内部応力の分布をより均一にすることにより、応力緩和膜530とバリア膜540の界面にて生じるひずみを小さくすることができる。この結果、膜剥がれや素子の破損の危険性をより低減することができる。さらに、最内層には応力緩和膜530を形成し、最外層にはバリア膜540を形成することにより、膜全体の封止性を高く保ちながら、膜剥がれや素子の破損の危険性をより効果的に低減することができる。
【0074】
(封止膜の構造例4:炭素(不純物)含有量を極力抑えるように膜厚を制御)
また、発明者は、封止膜の構造体を最適化する四つ目の例として、応力緩和膜530の炭素(不純物)含有量を極力抑えるように膜厚を制御する方法も考案した。具体的に説明すると、図7に示したように、トリメチルシランガスの流量を0.5〜1sccmにすると、50〜−50MPaの膜応力の炭素含有水酸化窒化珪素膜が形成される。これを利用して、発明者は、膜応力の絶対値が50MPa以下の応力緩和膜530を250mm形成し、その上にバリア膜540を250mm形成することにより、応力緩和膜530に混入する炭素(不純物)の量を極力抑えるように制御した。このようにして、炭素(不純物)の量を極力抑えて、封止性を高め、さらに、バリア膜540を積層させることより膜の封止性を高く保持しながら、応力緩和膜530によって膜剥がれや素子の破損の危険性を極力低減するようにした。
【0075】
なお、素子上にバリア膜、応力緩和膜、バリア膜の順に3層の封止膜を形成してもよい。これによれば、応力緩和膜をサンドイッチした2層のバリア層により、膜の封止性をより高めることができ、この結果、外部から素子へ与える影響をより低減することができる。
【0076】
以上に説明したように、発明者は、鋭意研究の成果として、膜に含有された炭素成分と膜の内部応力との相関関係を導き出した。発明者は、この相関関係を利用して、基板に形成された素子上に所定量の炭素成分を含有する応力緩和膜530を積層し、さらに、応力緩和膜530上に炭素成分を含有しないバリア膜540を積層させた電子デバイスの開発に成功した。この電子デバイスは、素子とバリア膜540との間に設けられた応力緩和膜530により膜剥がれや素子の破損を防止するとともに、応力緩和膜530上に形成されたバリア膜540により、封止膜の封止性を高く維持することができるという優れた利点を有する。特に、発明者は、外部の水分や酸素が素子側に混入することにより素子の発光特性が著しく低下する有機EL素子の封止用封止膜として本実施形態に開示した多層構造の封止膜が非常に有効であることを見いだした。
【0077】
(変形例)
つぎに、本発明の変形例について説明する。本変形例では、メタル電極520上に応力緩和膜530のみを積層し、応力緩和膜530上にバリア膜540を積層しない。このとき、応力緩和膜530は、2原子パーセント以上5原子パーセント以下の炭素成分を含有する水素化窒化珪素膜であるほうが好ましい。
【0078】
前述したように、炭素成分の含有率が2原子パーセント以上5原子パーセント以下の場合、応力緩和膜530の膜応力の絶対値は、50(Mpa)以下となり、応力緩和膜530は、膜応力の非常に小さい膜として機能する。よって、かかる構成によれば、素子上を膜応力の非常に小さい応力緩和膜530にて保護することにより、膜剥がれや素子の破損を防止するとともに、応力緩和膜530の厚み最適化することにより、素子を効果的に封止することができる。
【0079】
(封止膜を形成するCVD装置の変形例)
封止膜の成膜処理には、上述したRLSAプラズマCVD装置に替えて、タイル状に形成された複数枚の誘電体パーツから構成される誘電体窓が設けられたプラズマCVD装置を使用することもできる。以下に、変形例にかかるプラズマCVD装置の内部構成について、図9を参照しながら簡単に説明する。
【0080】
変形例にかかるプラズマCVD装置は、処理容器410を有し、その内部にて基板Gを載置するためのサセプタ411(載置台)が設けられている。サセプタ411の内部には、給電部411aおよびヒータ411bが設けられている。給電部411aには、整合器412aを介して高周波電源412bが接続され、高周波電源412bから出力される高周波電力により処理容器300の内部に所定のバイアス電圧を印加するとともに、コイル413aを介して高圧直流電源413bが接続され、高圧直流電源413bから出力された直流電圧により基板Gを静電吸着するようになっている。ヒータ411bには、交流電源414が接続されていて、交流電源414から出力された交流電圧により基板Gを所定の温度に保持するようになっている。
【0081】
処理容器410の底面は筒状に開口され、ベローズ415および昇降プレート416により密閉されている。サセプタ411は、昇降プレート416および筒体417と一体となって昇降することにより処理プロセスに応じた高さに調整される。サセプタ411の周囲には、処理室Uのガスの流れを調整するバッフル板418が設けられている。なお、処理容器410には、真空ポンプ(図示せず)が取り付けられていて、ガス排出管419を介して処理容器410内のガスを排出することにより、処理室Uを所望の真空度まで減圧するようになっている。
【0082】
蓋体420には、蓋本体421、6本の導波管433、スロットアンテナ430、および、誘電体窓(複数枚の誘電体パーツ431)が設けられている。6本の導波管433は、その断面形状が矩形状であり、蓋本体421の内部にて平行に並べて設けられていて、その内部は、誘電部材434で充填されている。
【0083】
各導波管433の上部には、可動部435が昇降自在に挿入されていて、可動部435の上面には、昇降機構436が設けられている。昇降機構436は、可動部435を昇降移動させ、これにより、導波管433の高さを任意に変えるようになっている。
【0084】
スロットアンテナ430には、各導波管433の下面にてスロット437(開口)が設けられている。誘電体窓は、タイル状に形成された39枚の誘電体パーツ431から構成されている。各誘電体パーツ431は、石英ガラス、AlN、Al、サファイア、SiN、セラミックスなどの誘電材料から形成されている。各誘電体パーツ431には、基板Gと対向する面にて凹凸が形成されている。この凹凸により、表面波が、各誘電体パーツ431の表面を伝播する際、電界エネルギーを損失することによって表面波の伝播を抑止することができる。この結果、定在波の発生を抑制して、均一なプラズマを生成することができる。
【0085】
39枚の誘電体パーツ31は、アルミニウムなどの非磁性金属体である導電性材料を用いて格子状に形成された梁426に支持されている。梁426の下面には、複数の支持体427が取りつけられている。支持体427は、ガスパイプ428の両端にてガスパイプ428を支持していて、これにより、全部で42本のガスパイプ428が、天井面全体に均等につり下げられている。ガスパイプ428は、アルミナなどの誘電体から形成される。
【0086】
ガス供給源443は、複数のバルブV、複数のマスフローコントローラMFC、アルゴン(Ar)ガス供給源443a、シラン(SiH)ガス供給源443b、アンモニア(NH)ガス供給源443c、およびトリメチルシラン((CHSiH;3MS)ガス供給源443dから構成されている。ガス供給源443は、各バルブVの開閉および各マスフローコントローラMFCの開度をそれぞれ制御することにより、所望の濃度のガスを処理容器410の内部に供給するようになっている。
【0087】
梁426を貫通したガス導入管429aには、第1の流路442aを介してアルゴンガス供給源443aが接続されている。同様に梁426を貫通したガス導入管29bには、第2の流路442bを介してシランガス供給源443b、アンモニアガス供給源443c、およびトリメチルシランガス供給源443dが接続されている。これにより、ガス導入管429aを介してアルゴンガス(第1のガスの一例)が各誘電体パーツ431と各ガスパイプ428との間の空間に横向きに供給される。また、ガス導入管429bおよび各ガスパイプ428を介してシランガス、アンモニアガスおよびトリメチルシランガスの混合ガス(第2のガスの一例)が、アルゴンガスの供給位置よりも下方の位置に下向きに吹き出される。
【0088】
冷却水配管444には、冷却水供給源445から供給された冷却水が循環し、これにより、蓋本体421は、所望の温度に保たれるようになっている。以上に説明した構成により、マイクロ波発生器から出力されたマイクロ波は、各導波管433およびスロット437を介して各誘電体パーツ431を透過し、処理室U内に入射され、マイクロ波の電界エネルギーにより、まず、上段に供給されたアルゴンガスがプラズマ化される。アルゴンガスがプラズマ着火後、シランガス、アンモニアガスおよびトリメチルシランガスの混合ガスが、アルゴンガスのプラズマ化にある程度のエネルギーを消費して弱められたマイクロ波の電界エネルギーによってプラズマ化され、そのプラズマにより図5(f)に示したメタル電極520上に炭素(C)成分を含有した水酸化窒化珪素膜(H:SiCxNy膜)からなる応力緩和膜530が形成される。なお、応力緩和膜530への炭素成分の含有量は、トリメチルシランガスの流量による。
【0089】
このようにして、応力緩和膜530を形成後、トリメチルシランガス供給源443dのバルブVを閉じて、アルゴンガスを上段から供給し、シランガスおよびアンモニアガスを下段から供給する。これにより、図5(g)に示したように、炭素(C)成分を含有しない水酸化窒化珪素(H:SiNx)膜からなるバリア膜540が応力緩和膜530上に形成される。
【0090】
以上説明したように、本実施形態およびその変形例によれば、膜の封止性を保持しつつ膜の内部応力を低減した封止膜により素子を効果的に保護することができる。
【0091】
なお、本実施形態にかかる炭素成分を含有しないバリア膜は、実質的に炭素成分を含有しない封止膜であって、たとえば、処理室内に存在する炭素(有機物)がパーティクルとしてバリア膜に付着した場合であっても、実質的に炭素成分を含有しない封止膜としてのバリア膜の機能を失うものではない。
【0092】
基板Gのサイズは、730mm×920mm以上であってもよく、たとえば、730mm×920mm(チャンバ内の径:1000mm×1190mm)のG4.5基板サイズや、1100mm×1300mm(チャンバ内の径:1470mm×1590mm)のG5基板サイズであってもよい。また、素子が形成される被処理体は、上記サイズの基板Gに限られず、たとえば200mmや300mmのシリコンウエハであってもよい。
【0093】
上記実施形態において、各部の動作はお互いに関連しており、互いの関連を考慮しながら、一連の動作として置き換えることができる。そして、このように置き換えることにより、上記電子デバイスの実施形態を上記電子デバイスの製造方法の実施形態とすることができる。
【0094】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0095】
たとえば、本発明にかかる封止膜の構造体は、有機EL素子に限られず、たとえば、成膜材料に主に液体の有機金属を用い、気化させた成膜材料を500〜700℃に加熱された被処理体上で分解させることにより、被処理体上に薄膜を成長させるMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相成長法)により形成された有機金属素子を封止する封止膜としても用いることもできる。さらに、本発明にかかる封止膜の構造体は、有機機トランジスタ、有機FET(Field Effect Transistor)、有機太陽電池などの有機素子や、液晶ディスプレイの駆動系に用いられる薄膜トランジスタ(TFT)の素子を封止するために使用することもできる。
【0096】
また、本発明にかかる封止膜の構造体を用いて素子を封止した電子デバイスとしては、有機発光ダイオードや薄膜トランジスタ(TFT)が挙げられる。
【0097】
また、本発明にかかる封止膜の構造体を用いて素子を封止した電子デバイスを製造する製造装置としては、上述した複数のスロットを備えた平面アンテナを有するマイクロ波プラズマ処理装置(複数枚の誘電体パーツを有するマイクロ波プラズマ処理装置およびRLSA型マイクロ波プラズマ処理装置)であってもよいが、これに限られず、容量結合型の平行平板型プラズマ処理装置、誘導結合型(ICP:Inductive Coupling Plasma)プラズマ処理装置、電子サイクロトロン方式(ECR:Electron Cyclotron Resonance)のプラズマ処理装置など種々のプラズマ処理装置に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の一実施形態にかかる基板処理装置の概略構成図である。
【図2】同実施形態にかかる6層連続成膜処理を施すプロセスモジュールPM1の縦断面図である。
【図3】同実施形態にかかる6層連続成膜処理により形成される膜を説明するための図である。
【図4】同実施形態にかかるCVD処理を施すプロセスモジュールPM3の縦断面図である。
【図5】同実施形態にかかる有機EL素子製造プロセスを説明するための図である。
【図6】トリメチルシランの流量に対する膜組成および膜応力の関係を示す実験の結果である。
【図7】トリメチルシランの流量と膜応力の関係を示すグラフである。
【図8】図8(a)は、応力緩和膜とバリア膜を一層ずつ積層させた図であり、図8(b)は、応力緩和膜とバリア膜を二層ずつ積層させた図である。
【図9】変形例にかかるCVD処理を施すプロセスモジュールPM3の縦断面図である。
【符号の説明】
【0099】
10 基板処理装置
500 ITO
510 有機層
520 メタル電極
530 応力緩和膜
540 バリア膜
G 基板
PM1〜PM4 プロセスモジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理体上に形成された素子と、
前記素子上に積層された、所定量の炭素成分を含有する応力緩和膜と、
前記応力緩和膜上に積層された、炭素成分を含有しないバリア膜とを備える電子デバイス。
【請求項2】
前記バリア膜は、炭素成分を含有しない水素化窒化珪素膜であり、
前記応力緩和膜は、4原子パーセント以上の炭素成分を含有する水素化窒化珪素膜である請求項1に記載された電子デバイス。
【請求項3】
前記バリア膜は、炭素成分を含有しない水素化窒化珪素膜であり、
前記応力緩和膜は、2原子パーセント以上5原子パーセント以下の炭素成分を含有する水素化窒化珪素膜である請求項1に記載された電子デバイス。
【請求項4】
前記バリア膜と前記応力緩和膜とは、前記応力緩和膜が前記バリア膜に挟まれるように、前記素子上に積層される請求項1〜3のいずれかに記載された電子デバイス。
【請求項5】
前記バリア膜と前記応力緩和膜とは、
前記素子上にそれぞれ複数層積層される請求項1〜4のいずれかに記載された電子デバイス。
【請求項6】
前記バリア膜と前記応力緩和膜とは、
前記素子上に交互にそれぞれ複数層積層される請求項5に記載された電子デバイス。
【請求項7】
最内層には、前記応力緩和膜が形成され、
最外層には、前記バリア膜が形成されている請求項5または請求項6のいずれかに記載された電子デバイス。
【請求項8】
前記応力緩和膜の炭素含有率と厚さおよび前記バリア膜の厚さは、
前記バリア膜の膜応力と前記応力緩和膜の膜応力とから生じる封止膜全体の内部応力の絶対値が、100MPa以下となるように定められる請求項1〜7のいずれかに記載された電子デバイス。
【請求項9】
前記応力緩和膜の炭素含有率と厚さおよび前記バリア膜の厚さは、
前記バリア膜の膜応力と前記応力緩和膜の膜応力とから生じる封止膜全体の内部応力の絶対値が、50MPa以下となるように定められる請求項1〜7のいずれかに記載された電子デバイス。
【請求項10】
前記バリア膜と前記応力緩和膜との厚さの総和は、5μm以下である請求項1〜9のいずれかに記載された電子デバイス。
【請求項11】
前記電子デバイスは、
有機発光ダイオードまたは薄膜トランジスタのいずれかである請求項1〜10のいずれかに記載された電子デバイス。
【請求項12】
被処理体上に形成された素子上に所定量の炭素成分を含有する応力緩和膜を積層し、
前記応力緩和膜上に炭素成分を含有しないバリア膜を積層する電子デバイスの製造方法。
【請求項13】
被処理体上に形成された素子を封止する封止膜の構造体であって、
前記素子上に積層された、所定量の炭素成分を含有する応力緩和膜と、
前記応力緩和膜上に積層された、炭素成分を含有しないバリア膜とを備える封止膜の構造体。
【請求項14】
被処理体上に形成された素子上に所定量の炭素成分を含有する応力緩和膜を積層し、
前記応力緩和膜上に炭素成分を含有しないバリア膜を積層する電子デバイスの製造方法を使用して電子デバイスを製造する製造装置。
【請求項15】
処理容器内に供給されたガスからプラズマを生成し、生成されたプラズマにより被処理体を処理するプラズマ処理装置であって、
素子が形成された被処理体を載置する載置台と、
前記処理容器内にガスを供給するガス供給源と、を有し、
前記ガス供給源から炭素成分を含有する第1のガスを供給し、供給された第1のガスからプラズマを生成し、生成されたプラズマにより前記載置台に載置された被処理体上の素子に所定量の炭素成分を含有した応力緩和膜を積層した後、前記ガス供給源から炭素成分を含有しない第2のガスを供給し、供給された第2のガスからプラズマを生成し、生成されたプラズマにより前記応力緩和膜上に炭素成分を含有しないバリア膜を積層するプラズマ処理装置。
【請求項16】
被処理体上に形成された素子と、
前記素子上に積層された、所定量の炭素成分を含有する応力緩和膜とを備える電子デバイス。
【請求項17】
前記応力緩和膜は、2原子パーセント以上5原子パーセント以下の炭素成分を含有する水素化窒化珪素膜である請求項16に記載された電子デバイス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−226472(P2008−226472A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58528(P2007−58528)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】