説明

電子ビーム溶接装置

【課題】溶接時に発生する金属蒸気を積極的に回収し、あるいは、真空室の壁面に付着した金属蒸気等の舞い上がりを抑制し、金属蒸気等が被溶接物に再付着するのを抑制できる電子ビーム溶接装置を提供する。
【解決手段】超伝導加速空洞3を収容する真空室13と、真空室13に収容された超伝導加速空洞3に電子ビームを照射する電子銃17と、真空室13の真空引きを行う真空装置19と、が備えられた電子ビーム溶接装置1であって、負に帯電されえる金属蒸気回収部材37が電子銃17と超伝導加速空洞3との間に設置され、それぞれ正または負に帯電され、間隔を空けて配置される複数の帯電板47によって構成される舞上り抑制部材45が、真空室13の床43に設置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビーム溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超伝導加速空洞は内部を通る素粒子を加速するものであるので、超伝導加速空洞が所定の性能を発揮するためには、内表面の性状が重要となる。
超伝導加速空洞は、複数の部材を溶接等によって接合し、形成されている。
超伝導加速空洞の内表面の性状に大きくかかわるものの一つとして、母材であるニオブ材の溶接部への不純物の混入がある。この混入が少ないほど超伝導加速空洞の性能が向上することが知られている。
【0003】
従来、超伝導加速空洞の溶接には、一般に電子ビーム溶接が用いられている。これは電子ビーム溶接が他の溶接方法に較べて、被溶接物に与える熱変形や溶接歪が小さく高品位な溶接を実現できることによる。
電子ビーム溶接は、真空容器内に収容された被溶接物に電子銃から高電圧で加速された電子からなるエネルギ束を被溶接物に照射し、溶融、蒸発させるとともに急速に凝固させて接合するものである。
【0004】
この溶融、蒸発に伴い発生するガス、金属イオン等の金属蒸気は真空容器内に飛散することになり、たとえば、超伝導加速空洞の表面に付着する等、種々の不具合をもたらす要因となる。
この発生する金属蒸気の一部のガスは、継続して行われている真空吸引によって大部分は系外に排出されるが、完全に排出されることはない。残存した金属蒸気は、たとえば、真空室内部の壁面等に積もったり、付着したりする。
【0005】
溶接部に近接した位置にある電子銃では、金属蒸気が電子銃の内部に侵入してたとえば、アーキングを誘起したり、陰極等の寿命低下をもたらしたりする等、不具合が発生する恐れがある。
これに対応するものとして、たとえば、特許文献1に示されるように電子銃の内部に位置する電子ビーム通路の途中にオリフィスを設け、金属蒸気がそれより内部に進入するのを防止するものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3959198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電子ビーム溶接の溶接作業の後には溶接された製品が真空室から外部に搬出され、次に溶接される部品が真空室へ搬入されるという搬出入作業が行われる。この搬出入作業等は一般に作業員が行うので、真空室は大気圧状態とされる。また、作業員の出入りに伴い真空室にゴミが持ち込まれ、壁面等に付着する。
真空室内は、大気に暴露されることと真空雰囲気とされることが交互に繰り返されることになる。この圧力状態が切り替わる時、真空室内は大きく圧力が変動するので、この圧力変動に伴う気流によって金属蒸気等が壁面から舞い上がり真空室内に浮遊する。
【0008】
この真空室内に浮遊した金属蒸気等が、搬出入中の超伝導加速空洞あるいは所定位置に設置されている超伝導加速空洞の表面に付着する。
特に、溶接作業に入る前の真空引きに伴う金属蒸気等が浮遊し溶接開先部に付着した場合に電子ビーム溶接が行われると、金属蒸気等の不純物が溶接部へ混入する恐れがある。この混入によって超伝導加速空洞の性能が低下する。
【0009】
従来、真空吸引による排出で十分と考えられ、真空室内での金属蒸気等への対応がなされていない状況である。
たとえば、装置全体をクリーンルームの中に設置することは容易に考えられるが、大型化する。また、作業員の出入りに伴うゴミの持込み等については十分でも、真空室内の金属蒸気については確実に対応できるとは言えない。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑み、溶接時に発生する金属蒸気を積極的に回収し、あるいは、真空室の壁面に付着した金属蒸気等の舞い上がりを抑制し、金属蒸気等が被溶接物に再付着するのを抑制できる電子ビーム溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の第1態様は、被溶接物を収容する真空室と、該真空室に収容された前記被溶接物に電子ビームを照射する電子銃と、前記真空室の真空引きを行う真空装置と、が備えられた電子ビーム溶接装置であって、負に帯電される第一の帯電部材が前記電子銃と前記被溶接物との間に設置されている電子ビーム溶接装置である。
【0012】
電子ビーム溶接に伴い発生する金属イオンは正イオンである。
本態様によると、負に帯電される第一の帯電部材が電子銃と被溶接物との間に設置されているので、第一の帯電部材は溶接部の比較的近くに設置されていることになる。第一の帯電部材が負に帯電されていると、正イオンである金属イオンは静電気力によって第一の帯電部材に吸引され、吸着される。
このように、電子ビーム溶接に伴い発生する金属イオンは、発生する場所の近くに設置された第一の帯電部材によって積極的に回収されるので、被溶接物へ再付着することを抑制することができる。これにより、たとえば、溶接部に不純物が混入して製品の性能を低下させることを抑制することができる。
【0013】
また、第一の帯電部材が金属イオンを回収するので、金属イオンが電子銃に進入するのを抑制することができる。これにより陰極等の寿命低下をもたらす等、電子銃に不具合が発生することを抑制できる。
継続して行われている真空吸引によるガス、金属蒸気(ガス、金属イオン等)の排出とあいまって、金属蒸気の回収量を増加させることができるので、真空室内の床面、側面、天井面である壁面等に付着、堆積する金属蒸気を減少させることができる。
なお、当然であるが第一の帯電部材は、たとえば、電子ビームの経路から所定距離の間隔をとる等、電子銃から出射される電子ビームに影響しないように帯電されることが必要である。
また、第一の帯電部材に回収された金属イオン等は、帯電を止めて拭き取る、あるいは回収部分を交換する等を行って系外に排出される。
【0014】
本発明の第2態様は、被溶接物を収容する真空室と、該真空室に収容された前記被溶接物に電子ビームを照射する電子銃と、前記真空室の真空引きを行う真空装置と、が備えられた電子ビーム溶接装置であって、それぞれ正または負に帯電され、間隔を空けて配置される複数の帯電部によって構成される第二の帯電部材が、前記真空室の壁面近傍に設置されている電子ビーム溶接装置である。
【0015】
真空室内に残留したガス、ゴミ等の微小粒子(パーティクル)は床面、側面、天井面の壁面等に付着している。微小粒子は時間がたつに連れてはがれて落下し、床面に堆積される。
たとえば、被溶接物を設置した後、真空引きが開始されると、その際の気流によってこれらの微小粒子が壁面等から舞い上がり真空室内に浮遊する。この微小粒子には、正あるいは負の電荷を持つもの、電荷を持たないものがある。
本態様によると、それぞれ正または負に帯電され、間隔を空けて配置される複数の帯電部によって構成される第二の帯電部材が、真空室の壁面近傍に設置されているので、舞い上がった微小粒子の内、正の電荷を持つものは負に帯電された帯電部に静電気力によって吸引、吸着され、負の電荷をもつものは正に帯電された帯電部に吸引、吸着される。
【0016】
このように、第二の帯電部材は、近傍の壁面から舞い上がる微小粒子を保持することができるので、舞い上がった微小粒子が被溶接物の近傍に至るのを抑制することができる。
これにより、壁面から舞い上がった微小粒子が被溶接物へ付着することを抑制できるので、たとえば、溶接部に微小粒子が混入して製品の性能を低下させることを抑制できる。
なお、正に帯電された帯電部および負に帯電された帯電部は交互に配置されていることが好ましい。このようにすると、たとえば、微小粒子の保持能力を略均一にすることができる。
また、第二の帯電部材は全壁面を覆うように配置してもよいし、一部を覆うように配置してもよい。後者の場合、微小粒子の存在は、床面が天井面および側面に比べて格段に多いので、第二の帯電部材は床面に配置するのが好ましい。
【0017】
上記態様では、負に帯電される第一の帯電部材が前記電子銃と前記被溶接物との間に設置されていることが好ましい。
【0018】
このようにすると、溶接部の比較的近くに設置されている負に帯電される第一の帯電部材が正イオンである金属イオンを静電気力によって吸引、吸着する。
このように、電子ビーム溶接に伴い発生する金属イオンは、発生する場所の近くに設置された第一の帯電部材によって積極的に回収されるので、真空室の壁面等に付着する金属イオンの量を減少させることができるし、金属イオンが電子銃の内部に侵入するのを抑制できる。
第一の帯電部材によって壁面等に付着する微小粒子の量を減少させることに加えて、第二の帯電部材が、壁面から舞い上がる微小粒子を保持し、舞い上がった微小粒子が被溶接物の近傍に至るのを抑制することができるので、微小粒子が被溶接物へ付着することを抑制できる。これにより、たとえば、溶接部に微小粒子が混入して製品の性能を低下させることを抑制できる。
【0019】
上記態様では、前記帯電部の表面は粘着性が付与されていてもよい。
【0020】
このようにすると、吸引した微小粒子を帯電部に保持することができる。帯電部に保持される量が多くなると、保持能力が小さくなるので、帯電部を交換する等を行うのが好ましい。
【0021】
上記各態様では、前記真空装置には、真空吸引開始時の圧力変動を緩和させる緩和手段が備えられている構成が好ましい。
【0022】
このようにすると、緩和手段によって真空吸引開始時の圧力変動が緩和されるので、壁面等からの微小粒子の舞い上がりを抑制することができる。
緩和手段としは、たとえば、吸引配管における開閉弁に流量を調整できる機能を持たせ、制御によって真空吸引開始時の流量が小さくなるようにしてもよい。
【0023】
上記構成では、前記緩和手段は、吸引配管における開閉弁の上流側から分岐され、前記真空室に連通される分岐配管と、該分岐配管を流れる気流の抵抗を大きくする抵抗部材と、で構成されていてもよい。
【0024】
真空吸引開始時には、開閉弁を閉じ、分岐配管から真空引きを行う。分岐配管を通る気流は抵抗部材の大きな抵抗によって流速が低減されるので、真空室内の圧力変動を低減できる。
この場合、真空室内の圧力変動をより低減する意味で、分岐配管の真空室側の開口面積を大きくすることが好適である。
また、真空吸引が局所的に集中させない意味で、分岐配管の真空室側の開口部を複数設け、分散して配置することが好適である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、負に帯電される第一の帯電部材が電子銃と被溶接物との間に設置されているので、電子ビーム溶接に伴い発生する金属イオンが、被溶接物へ再付着することを抑制することができる。これにより、たとえば、溶接部に不純物が混入して製品の性能を低下させることを抑制することができる。また、金属イオンが電子銃に進入するのを抑制することができるので、陰極等の寿命低下をもたらす等、電子銃に不具合が発生することを抑制できる。
また、それぞれ正または負に帯電され、間隔を空けて配置される複数の帯電部によって構成される第二の帯電部材が、真空室の壁面近傍に設置されているので、壁面から舞い上がった微小粒子が被溶接物の近傍に至るのを抑制することができる。
これにより、壁面から舞い上がった微小粒子が被溶接物へ付着することを抑制できるので、たとえば、溶接部に微小粒子が混入して製品の性能を低下させることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態にかかる電子ビーム溶接装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】図1のA部を拡大して示す断面図である。
【図3】図1のB視図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかる加速空洞の製造方法を実施する別の溶接装置の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態にかかる電子ビーム溶接装置1について、図1〜図3を参照して説明する。
図1は、本実施形態にかかる電子ビーム溶接装置1の概略構成を示す断面図である。図2は、図1のA部を拡大して示す断面図である。図3は、図1のB視図である。
【0028】
超伝導加速空洞(被溶接物)3は、図1に示されるように、中央部が膨らんだ円筒形状のセル5が、たとえば、5個組み合わされた構造体である。超伝導加速空洞3は、たとえば、超伝導材料であるニオブ材を曲げ加工、プレス成型加工して、セル5が軸線方向で2分割されたハーフセル(被溶接物)7が形成される。ハーフセル7は、軸線方向においてセル5の最も膨らんだ部分である赤道部9と最も引っ込んだ部分であるアイリス部11との間に延在している。ハーフセル7は、その両端部、すなわち、赤道部9およびアイリス部11に対応する部分に開口部が形成された環状部材である。
【0029】
複数のハーフセル7が赤道部9同士あるいはアイリス部11同士が重なるように軸線方向に配列され、接触した部分が溶接されることによって超伝導加速空洞3が形成される。
溶接されて超伝導加速空洞3が形成される部材としてはハーフセル7に限定されるものではなく、セル5、2個のハーフセル7がアイリス部11で一体とされた形態、あるいはその他種々の形態が用いられる。
【0030】
電子ビーム溶接装置1には、超伝導加速空洞3を収容する真空室13と、真空室13の内部で超伝導加速空洞3を軸線が上下方向となるように保持する保持装置15と、保持装置15に保持された超伝導加速空洞3に電子ビームEBを照射する電子銃17と、真空室13の内部を真空吸引する真空装置19と、が備えられている。
【0031】
保持装置15には、超伝導加速空洞3の下端部を支持する回転テーブル21と、超伝導加速空洞3の上端部を支持する上保持部材23とが備えられている。
回転テーブル21には、真空室13に上下方向に延在する軸線回りに回転するように取り付けられた回転部25と、回転部25の上部に上下方向に移動可能に取り付けられ、超伝導加速空洞3の下端部を保持する下保持部材27とが備えられている。
下保持部材27は、図示しない駆動手段によって回転部25に対して上下方向に移動するようにされている。
【0032】
上保持部材23には、超伝導加速空洞3の上端部が超伝導加速空洞3の軸線回りに回転可能に支持する芯出治具29と、芯出治具29を保持し、真空室13に上下方向に移動可能に取り付けられた支柱部材31とが備えられている。
真空室13には、パージ用の空気が供給されるパージ配管33が接続されている。パージ配管33は、パージ用に窒素ガスあるいはアルゴンガスを供給するようにしてもよい。
【0033】
電子銃17は、陰極をフィラメントによって加熱して電子を放出し、この放出された電子に高電圧(加速電圧)をかけて運動エネルギを与えるとともに、磁界発生コイルにより適当な収束および偏向を与え被溶接物へと照射するものである。電子銃17としては、公知の構造のものが用いられる。
電子銃17の先端部には、図2に示されるように、発射された電子束である電子ビームEBを目的とする位置に焦点を結ばせる収束コイル(収束レンズ)35が備えられている。
【0034】
電子銃17の先端部には、図1に示されるように金属蒸気回収部材(第一の帯電部材)37が取り付けられている。したがって、金属蒸気回収部材37は電子銃17と超伝導加速空洞3との間に配置されていることになる。
金属蒸気回収部材37には、図2に示されるように電子銃17の先端部に取り付けられた取付板38と、取付板38の超伝導加速空洞3側に、絶縁部材39を介して取り付けられた回収帯電板41と、が備えられている。
【0035】
取付板38は、ドーナツ形状をした板材であり、内径は、電子銃17の先端部に設けられた電子ビームEBが通過する開口部の径よりも大きくされている。
絶縁部材39は、たとえば、アルミナ製とされ、取付板38と回収帯電板41とを電気的に絶縁させるものである。
回収帯電板41は、ドーナツ形状をした板材であり、図示しない電気回路によって負に帯電されるように構成されている。
回収帯電板41の内径は、電子ビームEBの経路から所定距離の間隔をとる大きさとされ、電子銃17から出射される電子ビームEBに影響しないようにされている。
【0036】
真空室13の床(壁面)43には、図1に示されるように複数の舞上り抑制部材(第二の帯電部材)45が設置されている。
舞上り抑制部材45には、図1および図3に示されるように、複数の帯電板(帯電部)47が備えられている。
帯電板47は、矩形状をした長尺の板材または棒材である。帯電板47は長手方向に間隔を空けて床43に固定して取り付けられた複数の絶縁部材49によって幅方向に傾斜するように支持されている。
【0037】
帯電板47は図示しない電気回路によって正または負に帯電されるようにされている。
複数の帯電板47は、幅方向に間隔を空けて配列されている。
各帯電板47は、図3に示されるように隣り合う帯電板47が逆極性となるように帯電されている。
【0038】
真空装置19には、真空ポンプ51と、真空ポンプ51および真空室13の内部を連通する吸引配管53と、吸引配管53を開閉させる開閉弁55と、開閉弁55の上流側に位置する吸引配管53から分岐され真空室13の内部に連通する分岐配管57と、分岐配管57の中途に設置された気流抵抗体(抵抗部材)59と、が備えられている。
真空室13内部に位置する分岐配管57の開口部61は、図1に示されるように複数備えられている。複数の開口部61の開口面積の合計は、分岐配管57の分岐部の断面積よりも大きくされている。気流抵抗体59は、開口部61に取り付けられても良い。
【0039】
気流抵抗体59は、たとえば、セラミックスの通気性多孔質体が用いられている。気流抵抗体59としては、これに限定されるものではなく、たとえば、オリフィス、流量調整弁等、公知の構造のものが用いられる。
分岐配管57の内径は、吸引配管53の内径よりも小さくされている。
分岐配管57および気流抵抗体59は本発明の緩和手段を構成している。緩和手段としては、分岐配管57を設けずに、開閉弁55に流量調整機能を持たせるようにしてもよいし、吸引配管53に開閉弁55と流量調整弁とを備えるようにしてもよい。
【0040】
以上の構造を有する本実施形態の電子ビーム溶接装置1の動作について説明する。
真空室13に複数のハーフセル5が搬入され、下保持部材27の上に積み重ねられる。複数のハーフセル5が図1のように積み重ねられると、その上端部を芯出治具29で押圧して超伝導加速空洞3が移動しないように保持する。下保持部材27および上保持部材23の上下方向位置を調整し、超伝導加速空洞3の最初の接合部が電子銃17の電子ビームEBの位置に一致するようにされる。
このとき、真空室13内に残留し壁面等に付着したガス、ゴミ等の微小粒子は、主として床43に堆積している。
【0041】
この状態で、真空室13を密閉し、舞上り抑制部材45の帯電板47に所定の電位を帯電させる。隣り合った帯電板47の間に電場が形成される。
次いで、真空装置19により真空引きを開始する。
真空引きは、開閉弁55を閉じた状態で真空ポンプ51を作動させる。これにより、真空室13の空気は分岐配管57を通って真空ポンプ51によって吸引される。
【0042】
分岐配管57を通る気流は気流抵抗体59によって流速が低減されるので、真空ポンプ51の吸引力が緩和されるので、真空室13内の空気は緩やかに吸引される。言い換えると、真空室13内の圧力変動が吸引配管53により吸引するときと比較して低減できる。
分岐配管57の真空室13内部に位置する開口部61の開口面積は、吸引配管53から分岐する部分の断面積よりも大きくされているので、真空室13内の空気は一層緩やかに吸引される。また、分岐配管57の真空室13側の開口部61は複数設け、分散して配置されているので、真空吸引力が分散され、局所的に集中することがない。
【0043】
このように、真空吸引開始時の圧力変動が緩和されるので、床43等の真空室13の壁面等からの微小粒子の舞い上がりを抑制することができる。
真空室13内の圧力が所定の低圧に至ったら、開閉弁55を開き、吸引配管53を併用した真空引きを行う。これにより、真空室13内は急速に吸引され、たとえば1×10−4Pa程度の圧力とされる。
【0044】
このように、真空吸引開始時における圧力変動が緩和されていても、真空引きが開始されると、その際の気流によって床43等に存在する微小粒子が舞い上がり真空室13内に浮遊する。
舞い上がった微小粒子の内、正の電荷を持つものは負に帯電された帯電板47に静電気力によって吸引、吸着される。負の電荷を微小粒子は正に帯電された帯電板47に吸引、吸着される。
【0045】
このように、舞上り抑制部材45は、床43から舞い上がる微小粒子を保持することができるので、舞い上がった微小粒子が超伝導加速空洞3の近傍に至るのを抑制することができる。これにより、床43から舞い上がった微小粒子が超伝導加速空洞3へ付着することを抑制できる。
【0046】
なお、帯電板47の表面に、たとえば、粘着剤を塗布する等を行い粘着性を付与させてもよい。このようにすると、吸引した微小粒子を帯電板47に確実に保持することができるので、微小粒子の舞い上がりを一層抑制できる。この場合、帯電部に保持される微小粒子の量が多くなると、保持能力が小さくなるので、帯電板47を交換する、古い粘着剤を拭き取り新たに粘着剤を塗布する等を行うのが好ましい。
【0047】
真空室13内の圧力が所定の低圧に至ったら、金属蒸気回収部材37の回収帯電板41を負に帯電させて溶接作業に入る。
電子銃17から出射される電子ビームEBをハーフセル7の接合部である各赤道部9あるいは各アイリス部11に照射する。電子ビームEBが照射されると、接合部は溶融するとともに急速に凝固し、接合される。
回転部25を回転させて超伝導加速空洞3をその軸線回りに自転させることによって超伝導加速空間3の全周に亘って溶接を施すことができる。
【0048】
接合部の溶融に伴い発生するガス、金属イオン等の金属蒸気は真空容器内に飛散することになる。この金属イオンは正イオンである。
接合部の近くに金属蒸気回収部材37の回収帯電板41が設置され、負に帯電されているので、正イオンである金属イオンは静電気力によって回収帯電板41に吸引され、吸着される。
このように、電子ビーム溶接に伴い発生する金属イオンは、発生する場所の近くに設置された回収帯電板41によって積極的に回収されるので、超伝導加速空洞3へ再付着することを抑制することができる。
【0049】
また、電子銃17の先端部を覆うように設置された回収帯電板41が金属イオンを回収するので、金属イオンが電子銃17の内部に進入するのを抑制することができる。これにより陰極等の寿命低下をもたらす等、電子銃17に不具合が発生することを抑制できる。
継続して行われている真空吸引によるガス、金属蒸気(ガス、金属イオン等)の排出とあいまって、金属蒸気の回収量を増加させることができるので、真空室内の壁面等に付着、堆積する金属蒸気を減少させることができる。
【0050】
1箇所の溶接が終わると、下保持部材27および上保持部材23が上下方向に移動して、超伝導加速空洞3を上下方向に移動させる。超伝導加速空洞3の次の接合部が電子銃17の電子ビームEBの位置へ位置させられ、同様に電子ビーム溶接が実施される。
これを繰り返して全ての接合部が溶接されると溶接作業が終了となる。
【0051】
溶接作業が終了すると、真空室13内を大気圧雰囲気とし、溶接された超伝導加速空洞3を搬出する。そして、次に溶接作業を行う複数のハーフセル7が搬入され、上述と同様に下保持部材27の上に積み重ねられる等の準備作業を行う。
このとき、回収帯電板41の帯電を止め、表面に付着した金属蒸気を拭き取り、床43への落下、堆積を抑制する。
真空室13内を大気圧に戻す際は、パージ配管33または吸引配管53に接続された配管34を用いる。
【0052】
このように、真空吸引開始時に分岐配管57を用いた真空引きによって、床43等からの微小粒子の舞い上がりを抑制し、帯電板47によって床43から舞い上がる微小粒子を保持することによって、床43に積もった微小粒子が超伝導加速空洞3へ付着することを抑制できる。同時に、回収帯電板41によって電子ビーム溶接に伴い発生する金属イオンが積極的に回収されるので、それが超伝導加速空洞3へ再付着することを抑制することができる。
このため、微小粒子が超伝導加速空洞3へ付着することを抑制することができるので、たとえば、溶接部に微小粒子が混入して超伝導加速空洞3の性能を低下させることを抑制することができる。したがって、高品質の超伝導加速空洞3を製造できる。
【0053】
なお、本発明は以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形を行ってもよい。
【0054】
たとえば、本実施形態では、被溶接物として超伝導加速空洞3を対象としているが、これに限定されるものではなく、種々の対象物の溶接に利用できる。
【0055】
本実施形態では、舞上り抑制部材45が床43に設置されているが、これに限定されることはなく、真空室13の天井、側壁に設置してもよい。
また、舞上り抑制部材45は、図4に示されるような構造としてもよい。図4に示されるように舞上り抑制部材(第二の帯電部材)63は、枠部材66に、複数の帯電線(帯電部)65が幅方向に間隔を空けて配列されている。各帯電線65は、隣り合う帯電線65が逆極性となるように帯電されている。また、帯電線65の表面に粘着剤を塗布してもよい。
【0056】
金属蒸気回収部材37は電子銃17の先端に取り付けられているが、真空室13に取り付けられていてもよい。この場合、より接合部に近接して取り付けることもできるので、金属イオンの回収効率を向上できる。
【符号の説明】
【0057】
1 電子ビーム溶接装置
3 超伝導加速空洞
7 ハーフセル
13 真空室
17 電子銃
19 真空装置
37 金属蒸気回収部材
43 床
45 舞上り抑制部材
53 吸引配管
55 開閉弁
57 分岐配管
59 気流抵抗体
63 舞上り抑制部材
65 帯電線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接物を収容する真空室と、
該真空室に収容された前記被溶接物に電子ビームを照射する電子銃と、
前記真空室の真空引きを行う真空装置と、が備えられた電子ビーム溶接装置であって、
負に帯電される第一の帯電部材が前記電子銃と前記被溶接物との間に設置されていることを特徴とする電子ビーム溶接装置。
【請求項2】
被溶接物を収容する真空室と、
該真空室に収容された前記被溶接物に電子ビームを照射する電子銃と、
前記真空室の真空引きを行う真空装置と、が備えられた電子ビーム溶接装置であって、
それぞれ正または負に帯電され、間隔を空けて配置される複数の帯電部によって構成される第二の帯電部材が、前記真空室の壁面近傍に設置されていることを特徴とする電子ビーム溶接装置。
【請求項3】
負に帯電される第一の帯電部材が前記電子銃と前記被溶接物との間に設置されていることを特徴とする請求項2に記載の電子ビーム溶接装置。
【請求項4】
前記帯電部の表面は粘着性が付与されていることを特徴とする請求項2または3に記載の電子ビーム溶接装置。
【請求項5】
前記真空装置には、真空吸引開始時の圧力変動を緩和させる緩和手段が備えられていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電子ビーム溶接装置。
【請求項6】
前記緩和手段は、吸引配管における開閉弁の上流側から分岐され、前記真空室に連通される分岐配管と、該分岐配管を流れる気流の抵抗を大きくする抵抗部材と、で構成されていることを特徴とする請求項5に記載の電子ビーム溶接装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−36896(P2011−36896A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188355(P2009−188355)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】