説明

電子プローブマイクロアナライザ

【課題】サーチ動作による自動焦点合わせを常に良好に行う。
【解決手段】測定制御装置16は、自動焦点合わせを開始するに先立って、現在の試料ステージの高さ位置を中心としてサーチ動作を行うことができるか否かを判断し、このままではサーチ動作を行うことができないと判断した場合には、予め試料ステージの高さ位置を変更する退避動作を行い、その後にサーチ動作を行わせる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、波長分散型X線分光器(WDS)を備えた電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)に係り、特に試料の分析点の焦点合わせに関する。
【0002】
【従来の技術】WDSを備えたEPMAにおいては、試料の分析点と、分光結晶と、X線検出器とはローランド円上に配置しなければならず、そのために測定を行うに際しては試料の分析点をWDSのローランド円上に位置合わせすることが行われる。これが焦点合わせである。
【0003】焦点合わせには種々の方法が知られている。例えば、従来広く採用されていた方法としては、その焦点位置をX線集光のための光学系の焦点位置と一致させた光学顕微鏡を用いる方法が知られている。この方法は、光学顕微鏡の焦点深度が非常に浅いことを利用したものであり、オペレータが光学顕微鏡観察しながら試料を分析点で高さ方向に上下させ、光学顕微鏡で試料が明確に見える位置を合焦位置とするというものである。
【0004】また、近年では、このような光学顕微鏡と自動焦点合わせ機構を組み合わせて自動的に焦点合わせを行うものも知られている。例えば、自動焦点合わせ機構の動作として、試料の水平方向の動きを固定して高さ方向に走査して合焦位置を求めるサーチと称される動作があるが、自動焦点合わせ機構によりサーチ動作によって自動焦点合わせを行う方法の例としては、試料を自動的に高さ方向に走査しながら光学顕微鏡で得られた画像を画像処理し、そのコントラストが最大となる位置を合焦位置とする方法等が知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、サーチ動作による自動焦点合わせにおいては、試料ステージは、現在ある高さ位置を中心として、予め定められた範囲に渡って高さ方向に走査されるが、その一方、試料ステージの高さ方向の可動範囲は機械的構造によって定められている。
【0006】従って、いま、試料ステージが、その可動範囲の上限近くにあるときにサーチ動作によって自動焦点合わせを行おうとすると、試料ステージが可動範囲の上限に達してしまい、それ以上サーチ動作を行うことができなくなってしまうという問題が生じる。
【0007】例をあげれば次のようである。図4に示すように、試料ステージの可動範囲の上限位置をzmax 、下限位置をzmin とし、サーチ動作時の走査範囲は現在の試料ステージの位置を中心として±dであるとする。そして、いま試料ステージは図4に示すようにz0 の位置にあり、zmax−z0<dであるとする。このときサーチ動作を行って試料ステージを図の上方向に走査すると、試料ステージは上限位置に達してしまい、それ以上走査を行うことができないので、サーチ動作を継続することができなくなってしまうのである。このことは、試料ステージが下限位置近くにあるときにサーチ動作によって自動焦点合わせを行おうとする場合も同様である。
【0008】そこで、本発明は、試料ステージがどのような位置にある場合にもサーチ動作を良好に行うことができる電子プローブマイクロアナライザを提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、請求項1記載の電子プローブマイクロアナライザは、サーチ動作による自動焦点合わせが可能となされた電子プローブマイクロアナライザであって、サーチ動作を開始するときの試料ステージの高さ位置が、サーチ動作時の試料ステージの走査のときに上限位置または下限位置に達すると判断される場合には、試料ステージの高さ位置を変更して退避させることを特徴とする。
【0010】請求項2記載の電子プローブマイクロアナライザは、サーチ動作による自動焦点合わせが可能となされた電子プローブマイクロアナライザであって、サーチ動作を開始するときの試料ステージの高さ位置が、サーチ動作時の試料ステージの走査のときに上限位置または下限位置に達すると判断される場合には、サーチ動作時における試料ステージの走査幅を変更することを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照しつつ実施の形態について説明する。図1は本発明に係る電子プローブマイクロアナライザの一実施形態を示す図であり、図中、1は電子線、2は試料、4はWDS、5は分光結晶、6は検出器、7はWDS測定系、8は光学顕微鏡照明、10は光学顕微鏡、11はセンサ、12は自動焦点装置、13はステージ駆動機構、14は試料ステージ(以下、単にステージと称す)、15はコントローラ、16は測定制御装置を示す。
【0012】電子線1を試料2に照射すると、試料2から特性X線が発生する。特性X線はWDS4の分光結晶5で分光され、検出器6で検出される。検出器6からの信号はWDS測定系7に入力されて計数等の所定の処理が施される。なお、WDS測定系7はアンプ、タイマ、カウンタ等で構成されるが、この点は周知でもあり、本発明において本質的な事項でもないので説明は省略する。
【0013】光学顕微鏡照明8からの光は試料2に投射され、試料2からの反射光は光学顕微鏡10を介してセンサ11に導かれる。即ち、光学顕微鏡10で得られた画像をセンサ11で検出するようになされている。
【0014】自動焦点装置12はサーチ動作による自動焦点合わせを行うものであり、ステージ駆動機構13によりステージ14を駆動すると共に、センサ11からの画像信号に基づいて合焦位置を検出する。そして、合焦位置を検出すると、自動焦点装置12は制御信号によりステージ駆動機構13に対してステージ14の走査の停止を指示すると共に、測定制御装置16に対して合焦位置を検出したことを通知する。
【0015】ステージ駆動機構13は、また、コントローラ15によって手動で駆動可能となされている。従って、試料2を手動で移動させる必要が生じた場合には、オペレータはコントローラ15を操作して手動でステージ14を駆動することができる。
【0016】ここで、光学顕微鏡10の光軸は電子線1の光軸と一致するように調整され、また光学顕微鏡10の焦点はWDS4の焦点と一致するように調整されている。なお、自動焦点装置12における合焦位置探索のための画像処理等の焦点合わせの動作については周知であるので詳細な説明は省略する。
【0017】測定制御装置16は、当該EPMAの動作を統括して管理する機能を有するものであり、CPU、キーボード等の入力装置、及びその他の装置で構成されている。これにより、オペレータは測定制御装置16を通じて任意の位置にステージ14を移動することも可能となされている。
【0018】また、ステージ駆動機構13は常時ステージ14の高さ方向位置を監視しており、その高さ方向位置を測定制御装置16に通知している。従って、測定制御装置16は、現在ステージ14がどのような高さにあるかを認識している。更に、測定制御装置16はサーチ動作時における走査範囲等、種々のパラメータをも管理している。
【0019】次に、本発明に係る動作について、図2に示すフローチャートを参照して説明する。
【0020】まず、自動焦点合わせを行う位置を指定して、サーチ動作による自動焦点合わせを指示する(ステップS1)。この位置の指定は、例えばオペレータが測定制御装置16の入力装置によって水平方向の絶対位置を指定することで行うようにしてもよいし、または、適宜な方法で予め記憶媒体に位置を記憶しておき、その記憶媒体に記憶された位置のデータを測定制御装置16で読み取るようにしてもよい。
【0021】測定制御装置16は、位置の指定がなされると、ステージ駆動機構13に指定された位置の値を与えてステージ14を当該指定位置に移動させる(ステップS2)。これに応じてステージ駆動機構13はステージ14を指定位置まで、高さは保ったまま水平方向に移動し、ステージ14の移動が完了すると、その旨を測定制御装置16に通知する。
【0022】ステージ駆動機構13からの通知によってステージ14の移動が完了したことを認識すると、測定制御装置16は、現在の高さ位置を中心としてサーチ動作を行うことができるか否かを判断する(ステップS3)。この判断は、ステージ14の可動範囲の上限位置をzmax 、下限位置をzmin 、ステージ14の現在の高さ位置をz0 、サーチ動作時の走査範囲は現在のステージ14の位置を中心として±dであるとするとき、│zmax−z0│>d、且つ、│z0−zmin│>dであれば、現在の高さ位置においてサーチ動作を行うことができると判断する。
【0023】そして、測定制御装置16は、現在の状態でサーチ動作を行うことができると判断した場合には、自動焦点装置12に対してサーチ動作の開始を指示する(ステップS5)が、そうでない場合にはステージ駆動機構13に対してステージ14の退避を指示(ステップS4)し、ステージ14の退避が完了したら自動焦点装置12に対してサーチ動作の開始を指示する。
【0024】ステップS4のステージ14の退避の処理は次のようである。ステップS3の判断において「no」と判断されるのは、│zmax−z0│<dである場合、または│z0−zmin│<dである場合の二つの場合に限られるが、│zmax−z0│<dである場合には、ステージ14を現在の高さ位置から上方向に走査した場合にステージ14は上限位置に達してしまうので、測定制御装置16はz1=zmax−d−α …(1)によって高さ位置z1 を求めて、ステージ駆動機構13に対してステージ14をz1 の高さ位置に移動するように指示する。ここで、αは任意の正の値であり、サーチ動作時にステージ14を最も高い位置まで走査したときにもステージ14が上限位置に達しないように余裕を持たせるためのものである。
【0025】また、│z0−zmin│<dである場合には、ステージ14を現在の高さ位置から下方向に走査した場合にステージ14は下限位置に達してしまうので、測定制御装置16はz2=zmin+d+α …(2)によって高さ位置z2 を求めて、ステージ駆動機構13に対してステージ14をz2 の高さ位置に移動するように指示する。
【0026】そして、ステージ駆動機構13は測定制御装置16から退避する高さ位置z1またはz2 が通知されると、ステージ14を通知された高さ位置まで移動し、移動が完了すると測定制御装置16に退避が完了したことを通知する。以上がステップS4の処理である。
【0027】自動焦点装置12は、測定制御装置16からサーチ動作開始の指示を受けるとサーチ動作を開始(ステップS6)して自動焦点合わせの動作を行う。そして、自動焦点装置12は合焦位置が見い出せたか否かを判断し(ステップS7)、合焦位置が見い出せた場合には、ステージ駆動機構13に対してステージ14を合焦位置に停止させることを通知すると共に、測定制御装置16に合焦位置を検出したことを通知する。これで処理は終了となる。
【0028】しかし、合焦位置を見い出せなかった場合には、自動焦点装置12は、ステージ駆動機構13に対してステージ14の走査の停止を指示すると共に、測定制御装置16に合焦位置を見い出せなかったことを通知する。この通知を受けると、測定制御装置16は、当該サーチ動作の前にステージ14を退避したか否かを判断し(ステップS8)、退避を行っていない場合にはそのまま処理を終了するが、退避を行っていた場合にはステージ駆動機構13に対して、ステージ14を退避する前の高さ位置z0 に戻すことを通知する。この通知を受けると、ステージ駆動機構13はステージ14をz0 の高さ位置に戻す(ステップS9)。合焦位置が見い出せない場合には、その後の操作あるいは処理のために、ステージ14を元の高さ位置に戻しておくのがよいからである。そして、これで処理は終了となる。
【0029】以上のようであるので、このEPMAによれば、サーチ動作時においてステージ14を走査した場合にステージ14が上限位置あるいは下限位置に達することはなく、良好にサーチ動作を行うことが可能となる。
【0030】以上は、サーチ動作時には、現在のステージの高さ位置を中心として、その上下に予め固定的に定められた幅dでステージの走査を行う場合について説明したが、走査幅が可変である場合は次のような動作を行うようにしてもよい。以下、その場合の実施形態について説明する。
【0031】このEPMAの全体構成は図1に示すと同じであるが、自動焦点装置12はサーチ動作時のステージ14の走査幅は可変となされている。ここではステージ14の現在の高さ位置を中心として、±dmin〜±dmaxの範囲で走査幅が可変であるとする。
【0032】次に、動作について、図3に示すフローチャートを参照して説明する。ステップS1,S2については上述したと同じである。次に、測定制御装置16は、現在の高さ位置を中心としてサーチ動作を行うことができるか否かを判断する(ステップS3′)。例えば、zmax 、zmin 、z0 を上述したと同じ意味とするとき、│zmax−z0│>dmax 、または、│z0−zmin│>dmax であれば、現在の高さ位置においてそのままサーチ動作を行うことができると判断し、測定制御装置16は、自動焦点装置12に対して、走査幅を±dmax としてサーチ動作を開始することを指示する(ステップS5)。この指示によって、自動焦点装置12は、ステージ14の現在の高さ位置を中心として±dmax の走査幅でサーチ動作を開始する(ステップS6)。
【0033】また、dmin<│zmax−z0│<dmax である場合には、d1=│zmax−z0│−α …(3)によって走査幅d1 を求めて、自動焦点装置12に対して、走査幅を±d1 としてサーチ動作を開始することを指示する(ステップS5)。この指示によって、自動焦点装置12は、ステージ14の現在の高さ位置を中心として±d1 の走査幅でサーチ動作を開始する(ステップS6)
同様に、dmin<│zmin−z0│<dmax である場合には、d2=│zmin−z0│−α …(4)によって走査幅d2 を求めて、自動焦点装置12に対して、走査幅を±d2 としてサーチ動作を開始することを指示する(ステップS5)。この指示によって、自動焦点装置12は、ステージ14の現在の高さ位置を中心として±d2 の走査幅でサーチ動作を開始する(ステップS6)。
【0034】しかし、│zmax−z0│<dmin 、または│zmin−z0│<dmin である場合には、ステージ14を現在の高さ位置から上方向または下方向に走査した場合にステージ14は上限位置または下限位置に達してしまう。この場合には、測定制御装置16はステージの退避を行う。例えば、│zmax−z0│<dmin である場合には、z1=zmax−dmax−α …(5)によって高さ位置z1 を求めて、ステージ駆動機構13に対してステージ14をz1 の高さ位置に移動するように指示すると共に、自動焦点装置12に対して走査幅を±dmax としてサーチ動作の開始を指示し、│zmin−z0│<dmin である場合には、z2=zmin+dmax+α …(6)によって高さ位置z2 を求めて、ステージ駆動機構13に対してステージ14をz2 の高さ位置に移動するように指示すると共に、自動焦点装置12に対して走査幅を±dmax としてサーチ動作の開始を指示する。その後の動作は上述したと同じである。
【0035】以上のようであるので、このEPMAによれば、サーチ動作時においてステージ14を走査した場合にステージ14が上限位置あるいは下限位置に達することはなく、良好にサーチ動作を行うことが可能となる。
【0036】以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能であることは当然である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る電子プローブマイクロアナライザの一実施形態を示す図である。
【図2】 図1に示す電子プローブマイクロアナライザの動作を説明するためのフローチャートである。
【図3】 他の実施形態における動作を説明するためのフローチャートである。
【図4】 発明が解決しようとする課題を説明するための図である。
【符号の説明】
1…電子線、2…試料、4…WDS、5…分光結晶、6…検出器、7…WDS測定系、8…光学顕微鏡照明、10…光学顕微鏡、11…センサ、12…自動焦点装置、13…ステージ駆動機構、14…ステージ、15…コントローラ、16…測定制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 サーチ動作による自動焦点合わせが可能となされた電子プローブマイクロアナライザであって、サーチ動作を開始するときの試料ステージの高さ位置が、サーチ動作時の試料ステージの走査のときに上限位置または下限位置に達すると判断される場合には、試料ステージの高さ位置を変更して退避させることを特徴とする電子プローブマイクロアナライザ。
【請求項2】 サーチ動作による自動焦点合わせが可能となされた電子プローブマイクロアナライザであって、サーチ動作を開始するときの試料ステージの高さ位置が、サーチ動作時の試料ステージの走査のときに上限位置または下限位置に達すると判断される場合には、サーチ動作時における試料ステージの走査幅を変更することを特徴とする電子プローブマイクロアナライザ。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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