説明

電子マネーシステム

【課題】モバイル財布間の電子マネーの不正な受け渡しを防止できる電子マネーシステムを提供する。
【解決手段】ICチップ13A内に設けたEEPROM19に、取引相手側から受信した固有の識別番号(携帯電話の電話番号等)を含む取引内容の情報を保存する。また、相手側から正当な固有の識別番号が受信できないときには、取引自体を停止する。これにより、その取引相手を特定することができるので、恐喝等で電子マネーを強奪された場合でも、運用管理者等に通知して口座を凍結させることにより、モバイル財布間の電子マネーの不正な受け渡しを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話を利用した電子マネーシステム、特に携帯電話間での取引方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子マネーとは、貨幣価値をデジタルデータで表現したもので、専用のIC(集積回路)チップに貨幣価値データを記録するICカード型電子マネーを用いて、クレジットカードや現金を使わない買い物や、電車賃の精算等が行われるようになっている。近年、非接触データ転送機能を有する電子マネー用ICチップを内蔵した携帯電話(以下、「モバイル財布」という)を使用する電子マネーシステムが出現している。
【0003】
図2は、携帯電話を利用した従来の電子マネーシステムの概念図である。
この電子マネーシステムは、図2(a)に示すように、銀行口座情報がある電子マネーセンタ1、電子マネーセンタ1の銀行口座からモバイル財布10に電子マネーを入金するチャージ機2、商店等に置かれてPOS(販売管理システム)と連動して電子マネーによる支払いを行う支払機3、及びこれらをオンラインで接続するネットワーク4で構成されている。
【0004】
一方、モバイル財布10は、図2(b)に示すように、電話機能ブロック11、インタフェース部(I/F)12、及び電子マネー用のICチップ13を有している。電話機能ブロック11は、携帯電話本来の無線による電話通信等を行うものである。インタフェース部12は、電話機能ブロック11とICチップ13の間のデータ転送を行うものである。
【0005】
ICチップ13は、単独で電子マネーとしての機能を有すると共に、電話機能ブロック11と接続することにより、電話回線を介して電子マネーセンタ1に接続して電子マネーを入金することもできるようになっている。ICチップ13は、演算制御処理を行うプロセッサ14、このプロセッサ14が行うプログラムを格納したROM(読み出し専用メモリ)15、電子マネーの残高情報を格納するEEPROM(書き換え可能な不揮発性メモリ)16、微弱電波または赤外線を用いてチャージ機2等にデータを送信する送信部17、及びチャージ機2等からデータを受信する受信部18を備えている。
【0006】
この電子マネーシステムによる金銭の処理は次のように行われる。
モバイル財布10を所有する電子マネーの利用者は、まずチャージ機2に自分のモバイル財布10を持っていき、チャージ機2とモバイル財布10を操作して電子マネーセンタ1で管理されている利用者の銀行口座から、電子マネーを引き出してモバイル財布10に入金する。これにより、モバイル財布10内のEEPROM16に記憶されている残高情報が更新される。なお、チャージ機2を使用せず、モバイル財布10の携帯電話機能を利用して、図示しない携帯電話のネットワークを介して電子マネーセンタ1に接続し、銀行口座から電子マネーを引き出してモバイル財布10に入金することも可能である。
【0007】
次に、利用者が商店等で買い物をして会計する際、モバイル財布10を操作して支払い可能状態にし、支払機3にそのモバイル財布10をかざす。これにより、モバイル財布10の残高から電子マネーの支払いが行われる。これにより、EEPROM16に記憶されている残高から支払い金額が差し引かれ、このEEPROM16に記憶された残高情報が更新される。
【0008】
以上が、従来の電子マネーシステムによる一般的な金銭の処理手順であるが、2つのバイル財布10間での電子マネーの移動も可能である。
【0009】
その場合、電子マネーを譲渡する利用者Aは、取引選択で“譲渡”を選択し、自分のモバイル財布の残高を確認する。そして、譲渡する金額を入力し、データ送受信待ち状態にする。一方、電子マネーを譲渡される利用者Bは、取引選択で“譲受”を選択し、自分のモバイル財布の残高を確認してデータ送受信待ち状態にする。
【0010】
利用者Aと利用者Bのモバイル財布同士を近づけ、相互にデータの送受信を行う。これにより、利用者Aのモバイル財布の残高から譲渡する金額が差し引かれ、利用者Bのモバイル財布に譲り受けた金額が入金される。双方のモバイル財布の残高を確認し、取引は終了する。
【0011】
【特許文献1】特開平9−259193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、前記電子マネーシステムにおけるモバイル財布では、電子マネーの1つの利点であるセキュリティが生かされていないという課題があった。例えば、恐喝による電子マネーの不正な受け渡しを防止できないという課題があった。
【0013】
本発明は、モバイル財布間の電子マネーの不正な受け渡しを防止できる電子マネーシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、携帯電話機に貨幣価値データを記録するICチップを搭載したモバイル財布を用いて取引を行う電子マネーシステムにおいて、取引時に固有の識別番号として前記携帯電話機の電話番号を相手側に送信すると共に、前記ICチップ内に設けたEEPROMに、その相手側から受信した固有の識別番号を含む取引内容の情報を保存するように構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、ICチップ内に設けたEEPROMに、取引相手側から受信した固有の識別番号(携帯電話の電話番号)を含む取引内容の情報を保存するようにしている。これにより、その取引相手を特定することができるので、モバイル財布間の電子マネーの不正な受け渡しを防止できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
この発明の前記並びにその他の目的と新規な特徴は、次の好ましい実施例の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、より完全に明らかになるであろう。但し、図面は、もっぱら解説のためのものであって、この発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明の実施例を示すモバイル財布の構成図であり、図2(b)のモバイル財布と同様の要素には同様の符号が付されている。
【0018】
このモバイル財布10Aは、図2(a)の電子マネーシステムで使用されるもので、電話機能ブロック11と、インタフェース部(I/F)12と、電子マネー用のICチップ13Aを有している。電話機能ブロック11は、携帯電話本来の無線による電話通信を行うと共に、インタフェース部12を介してICチップ13Aと接続され、このICチップ13Aに対する入出力操作部としての機能も有している。
【0019】
即ち、電話機能ブロック11は、図示していないが、電話番号等を入力するための操作ボタンや液晶表示パネル、通話のための送話器や受話器、無線回線を介して基地局に接続するための無線機やアンテナ、及び電源の電池等を備えており、このうちの操作ボタンや液晶表示パネルが、ICチップ13Aによる電子マネーの操作にも共用されるようになっている。また、インタフェース部12は、電話機能ブロック11とICチップ13Aの間のデータ転送を行うものである。
【0020】
ICチップ13Aは、単独で電子マネーとしての機能を有すると共に、電話機能ブロック11と接続することにより、電話回線を介して電子マネーセンタ1に接続して電子マネーを入金することもできるようになっている。
【0021】
このICチップ13Aは、演算制御処理を行うプロセッサ14、このプロセッサ14が行うプログラムを格納したROM15A、電子マネーの残高情報を格納するEEPROM16、微弱電波または赤外線を用いてチャージ機2や支払機3にデータを送信する送信部17、及びチャージ機2や支払機3からデータを受信する受信部18に加えて、電子マネーによる取引情報を格納しておくためのEEPROM19を備えている。
【0022】
EEPROM19は、過去数件分の詳細な取引情報を格納するもので、新しい取引が発生する都度、一番古い取引情報を消去して最新の取引情報が格納されるようになっている。なお、電話機能ブロック11の操作ボタン等からこのEEPROM19の内容を変更したり、消去したりするためのプログラムは用意されておらず、利用者による取引情報の改竄ができないようになっている。
【0023】
図3は、EEPROM内に格納される取引情報の一例を示す説明図である。
EEPROM19には、図3に示すように、取引毎の日付、時刻、取引種別、取引相手、取引金額、及び取引後の残高が保存される。取引相手としては、入金(チャージ)のときにはチャージ機固有の番号が保存され、支払いの場合は支払い先の店舗名が保存される。また、モバイル財布間の譲渡や譲受の場合は相手の電話番号が保存される。
【0024】
次に、このモバイル財布を使用した電子マネーシステムの金銭処理を説明する。
チャージ機2からモバイル財布に対するチャージと、支払機3を使用したモバイル財布による支払いの処理は、従来どおりである。但し、取引の都度、その取引内容が、モバイル財布のEEPROM19内に保存される。これにより、モバイル財布の利用者は、EEPROM19の内容を読み出して電話機能ブロック11内の液晶表示パネルに表示させることにより、取引内容を確認することができる。
【0025】
図4は、モバイル財布の間での電子マネー授受の処理を示すフローチャートであり、利用者Aから利用者Bのモバイル財布に、電子マネーを移す場合の処理を示している。
【0026】
図4に示すように、電子マネーを譲渡する利用者Aは、取引選択で“譲渡”を選択し、自分のモバイル財布の残高を確認する。そして、譲渡する金額を入力し、データ送受信待ち状態にする。一方、電子マネーを譲渡される利用者Bは、取引選択で“譲受”を選択し、自分のモバイル財布の残高を確認してデータ送受信待ち状態にする。
【0027】
その後、利用者Aと利用者Bのモバイル財布同士を近づけ、双方の送信部17と受信部18の間で、微弱電波または赤外線により、相互にデータの送受信を行う。このとき、利用者Aのモバイル財布から利用者Bのモバイル財布に対して、譲渡する金額と共にこの利用者Aの携帯電話の番号が送信される。これに対し、利用者Bのモバイル財布から利用者Aのモバイル財布に対して、譲り受ける金額と共にこの利用者Bの携帯電話の番号が送信される。
【0028】
利用者Aのモバイル財布では、利用者Bのモバイル財布から受信した金額に誤りがなく、かつ利用者Bの携帯電話の番号が正しく受信できたときに、取引が成立したと判断する。取引が成立すると、利用者A,Bの双方のモバイル財布で、EEPROM16の残高を更新すると共に、EEPROM19に最新の取引情報を保存する。これにより、利用者Aのモバイル財布の残高から譲渡する金額が差し引かれ、利用者Bのモバイル財布に、譲り受けた金額が入金される。双方のモバイル財布の残高を確認し、取引は終了する。
【0029】
なお、双方の取引金額が一致しなかったり、相手の携帯電話の番号が正しく受信できなかったりした場合は、取引は成立せず、EEPROM16の残高の更新等は行われない。
【0030】
モバイル財布間の取引が終了すると、その取引内容は携帯電話のネットワークを介して電子マネーセンタ1に送信され、この電子マネーセンタ1で管理している口座の情報と各モバイル財布10AのEEPROM16の残高情報の一致が行われるようになっている。
【0031】
以上のように、本実施例のモバイル財布は、取引時に相手側の電話番号が得られないときには取引自体が停止されるので、不正な取引が事前に回避できるという利点がある。
【0032】
更に、詳細な取引情報を保存するEEPROM19を有し、いつでもその情報を閲覧できるようにしているので、恐喝等により不正に電子マネーを得た相手を特定してシステム管理者に通報することにより、不正に電子マネーを得た相手のモバイル財布を使用できなくしたり、口座の凍結や差し押さえをしたりできる。これにより、通常の取引の利便性を損なうことなく、信頼性のある電子マネーシステムを構築できるという利点がある。
【0033】
なお、本発明は、上記実施例に限定されず、種々の変形が可能である。この変形例としては、例えば、次のようなものがある。
(a) 取引相手を識別するための情報として、モバイル財布の電話番号を例に説明したが、電話番号に限定せず、モバイル財布の固体を識別できる固有の番号であれば良い。
(b) EEPROM19に保存する取引情報は、例示したものに限定されない。
(c) 電子マネーステムの全体構成は、図2(a)に説明したものに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施例を示すモバイル財布の構成図である。
【図2】携帯電話を利用した従来の電子マネーシステムの概念図である。
【図3】EEPROM内に格納される取引情報の一例を示す説明図である。
【図4】モバイル財布の間での電子マネー授受の処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0035】
1 電子マネーセンタ
2 チャージ機
3 支払機
4 ネットワーク
10A モバイル財布
11 電話機能ブロック
13A ICチップ
14 プロセッサ
15A ROM
16,19 EEPROM
17 送信部
18 受信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯電話機に貨幣価値データを記録する集積回路チップを搭載したモバイル財布を用いて取引を行う電子マネーシステムであって、
取引時に固有の識別番号として前記携帯電話機の電話番号を相手側に送信すると共に、前記集積回路チップ内に設けた書き換え可能な不揮発性メモリに、その相手側から受信した固有の識別番号を含む取引内容の情報を保存するように構成したことを特徴とする電子マネーシステム。
【請求項2】
前記不揮発性メモリは、古い情報を消去して最新の一定件数の情報を閲覧可能でかつ変更不可能な状態で保存するように構成したことを特徴とする請求項1記載の電子マネーシステム。
【請求項3】
前記取引時に、相手側の電話番号を受信できないときには、その取引自体を停止するように構成したことを特徴とする請求項1または2記載の電子マネーシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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