説明

電子レンジ加熱に適したパン類およびそのためのパン類用穀粉組成物

【課題】 特に、常温で保管、流通するパン類を電子レンジで加熱したときに、硬くなったり、ヒキが出たり、くちゃついた食感とならず、しかも表面に皺ができて収縮せず、焼き立てのパンのような、良好な食感、食味、風味、外観を有する電子レンジ加熱パンになるパン類およびそのためのパン類用穀粉組成物を提供すること。
【解決手段】 パン類の製造に用いる穀粉類の全質量に対して、デュラム小麦粉を10〜30質量%、焙煎小麦粉を1〜10質量%および湿熱処理澱粉を1〜15質量%の割合で用いて製造してなる電子レンジ加熱に適したパン類、並びにパン類用穀粉組成物100質量部中に、デュラム小麦粉を10〜30質量部、焙煎小麦粉を1〜10質量部および湿熱処理澱粉を1〜15質量部の割合で含有するパン類用穀粉組成物によって上記の課題が達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジ加熱に適したパン類および当該パン類を製造するためのパン類用穀粉組成物に関する。
より詳細には、本発明は、電子レンジで加熱したときに、食感が硬くなったり、ヒキが出たり、くちゃついた食感となったり、表面に皺ができて収縮するという問題が生ずることがなく、まるで焼き立てのパンのような、良好な食感、食味、風味、外観を有するパン類を得ることのできる、電子レンジ加熱に適したパン類および当該パン類を製造するためのパン類用穀粉組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、パン類は、購入したものをそのまま喫食するかまたはトースターなどで焼いて喫食することが一般に行なわれているが、近年、店頭でパン類を電子レンジで加熱して温かいパン類を提供することがしばしば行なわれるようになっている。また、家庭でもパン類を冷凍しておき、喫食時に冷凍したパン類を電子レンジで加熱解凍して温めて食することも行なわれている。
一般的に、冷凍パン類および非冷凍パン類のいずれにおいても、電子レンジで加熱すると、硬い食感となったり、ヒキが出たり、くちゃついた食感となったり、表面に皺がよって収縮したりして、パン類本来の食感、食味、風味、外観などが損なわれることが多い。特に、冷凍したパン類に比べ、常温で保管、流通したパン類は、水分飛散や老化が進み易く、これを電子レンジで加熱すると、前記の欠点がより強くなる傾向があった。
【0003】
従来、油脂、乳化剤、増粘剤などの添加物によって、パン類を電子レンジで加熱した際に生ずる上記した問題を解決することが検討されてきた。
例えば、食用粉類100重量部に対して、食用油脂0.5〜25重量部、グリセリン脂肪酸エステル0.3〜20重量部、プロピレングリコール脂肪酸エステル0.1〜7重量部およびα化澱粉0.6〜40重量部を含有する電子レンジ加熱に適したパンおよび中華饅用組成物が提案されている(特許文献1)。
また、小麦粉を主成分とする粗蛋白量が9質量%以上で11.5質量%未満の穀粉類100質量部に対して、油脂1〜67質量部、保湿剤0.001〜2質量部および乳化剤0.1〜7質量部を含有する電子レンジ加熱に適したパン類が提案されている(特許文献2)。
【0004】
しかしながら、これらの従来技術による場合は、パン類を電子レンジで加熱したときに起こるヒキの発生、食感の硬化などの問題が十分に解決されず、電子レンジ加熱による問題の改善効果を高めようとして添加物の配合量を増やすと、過剰に添加された当該添加物によりかえって悪影響が出てしまい、食味や風味などが劣ったものとなり易い。
【0005】
また、パン類を電子レンジで加熱したときに生ずる上記した問題の解決のために、パン類の製造に用いる穀粉原料に注目して工夫をこらした技術が提案なされている。
例えば、粒径が70〜200ミクロンの範囲内にある粒子を20〜70重量%の割合で含有するデュラム小麦粉を、全小麦粉に対して10〜50重量%の割合で配合し、これに必要な添加物を加えた配合材料を使用して製造された、電子レンジなどで加熱解凍して喫食される、冷凍パンおよび冷凍中華饅頭並びにそのためのミックス組成物が提案されている(特許文献3)。
また、偏光十字を有し、かつアミラーゼによる消化性が未処理品の4〜10倍である澱粉湿熱処理物を用いて製造した、電子レンジによる解凍に適した冷凍ベーカリー製品が知られている(特許文献4)。
さらに、小麦粉の配合所定量の一部(15〜35%)を焙焼小麦粉に置き換えて、小麦粉と焙焼小麦粉を併用して製造した電子レンジ加熱用ピザクラストが提案されている(特許文献5)。
【0006】
上記した特許文献3〜5の従来技術のうち、冷凍したパン類または中華饅頭に係る特許文献3および4の従来技術は、冷凍したパン類や中華饅頭などを電子レンジで加熱解凍する際に発生する食感やその外観の低下に対してはある程度の改善効果があるものの、その効果は未だ十分であるとは言い難い。しかも、特許文献3および4の従来技術は、いずれも冷凍したパン類などを対象として開発された技術であるため、これらの従来技術を冷凍されていないパン類に転用した場合にはその改善効果が一層不十分であり、特に常温で保存、流通される非冷凍パン類を電子レンジで加熱した際に生ずる食感の硬化、ヒキやくちゃつきの発生、表面に皺ができて収縮するなどの問題を十分に解消することができない。
また、電子レンジ加熱用ピザクラストに係る特許文献5の従来技術も、常温で保存、流通したピザクラストを電子レンジで加熱した際に生ずる食感の硬化、ヒキやくちゃつきの発生、表面に皺ができて収縮するなどの問題を十分に解決することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3878326号公報
【特許文献2】特開2006−311855号公報
【特許文献3】特開平10−28515号公報
【特許文献4】特許第3249662号公報
【特許文献5】特公平5−42895号公報
【特許文献6】特開2009−11277号公報
【特許文献7】特開平4−130102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、電子レンジで加熱した際に、食感が硬くなったり、ヒキが出たり、くちゃついた食感となったり、表面に皺ができて収縮するというような問題が生じず、焼き立てのパン類のような、良好な食感、食味、風味、外観を有するパン類にすることのできる、電子レンジ加熱に適したパン類を提供することであり、そのうちでも、特に常温で保存、流通される、電子レンジ加熱に適したパン類を提供することである。
そして、本発明は、電子レンジ加熱に適した前記パン類を製造するためのパン類用穀粉組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の目的を達成すべく種々検討を重ねてきた。その結果、パン類を製造するための穀粉類(原料粉)の一部としてデュラム小麦粉、焙煎小麦粉および湿熱処理澱粉という3種類の穀粉を所定の割合で配合してパン類を製造すると、それにより得られるパン類が、電子レンジで加熱したときに、食感が硬くなったり、ヒキが出たり、くちゃついた食感となったり、表面に皺ができて収縮するなどの問題が生じず、焼き立てのパンのような、良好な食感、食味、風味、外観を呈することを見出した。
そして、本発明者らは、本発明者らの見出したこの技術が、冷凍状態で保存および流通される冷凍パン類だけではなく、特に常温で保存、流通されるパン類に対してより有効であることを見出した。
【0010】
さらに、本発明者らは、本発明者らの見出したこの技術において、パン類をブロック状とし、当該ブロック状のパン類を所望のサイズに手で簡単に割れるようにしておくと、喫食時にブロック状のパン類から食べる分だけを手で割り取って、その割り取ったパン片を電子レンジで加熱するようにすると、焼き立てのパン類のような美味しいパンが喫食する分だけ簡単に得られること、そして所望のサイズに手で簡単に割ることのできるブロック状のパン類は、焼成前のパン類生地に複数の切れ目を入れて焼成することによって製造できることを見出し、それらの種々の知見に基づいて本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1) パン類の製造に用いる穀粉類の全質量に対して、デュラム小麦粉を10〜30質量%、焙煎小麦粉を1〜10質量%および湿熱処理澱粉を1〜15質量%の割合で用いて製造したことを特徴とする電子レンジ加熱に適したパン類である。
【0012】
そして、本発明は、
(2) 常温流通のパン類である前記(1)の電子レンジ加熱に適したパン類である。
【0013】
さらに、本発明は、
(3) 所望の大きさに手で割ることができるブロック状のパン類である前記(1)または(2)のいずれかの電子レンジ加熱に適したパン類;および
(4) 複数の切れ目を入れたパン類生地を焼成して得られたものである前記(3)の電子レンジ加熱に適したパン類;
である。
【0014】
また、本発明は、
(5) 電子レンジ加熱に適したパン類を製造するためのパン類用穀粉組成物であって、当該パン類用穀粉組成物100質量部中に、デュラム小麦粉を10〜30質量部、焙煎小麦粉を1〜10質量部および湿熱処理澱粉を1〜15質量部の割合で含有することを特徴とする電子レンジ加熱に適したパン類を製造するためパン類用穀粉組成物である。
【0015】
そして、本発明は、
(6) 電子レンジ加熱に適した常温流通のパン類を製造するためのものである前記(5)のパン類用穀粉組成物である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のパン類は、電子レンジで加熱して喫食するパン類に適しており、電子レンジで加熱したときに、食感が硬くなったり、ヒキが出たり、くちゃついた食感となったり、表面に皺ができて収縮するなどの問題が生じず、焼き立てのパン類のような、良好な食感、食味、風味、外観を呈する。特に、冷凍したパン類に比べて水分飛散や老化が進み易い常温で保管、流通したパン類は、水分飛散や老化が進み易く、これを電子レンジで加熱すると、前記の問題点である食感が硬くなったり、ヒキが出たり、くちゃついた食感となるなど食感の低下の傾向、およびパン類が収縮したり、表面に皺ができるなど外観の低下の傾向がより大きくなるが、本発明のパン類はこれらの問題が生じず、電子レンジで加熱したときに、焼き立てのパン類のような、良好な食感、食味、風味、外観を呈する。すなわち、本発明のパン類は、電子レンジで加熱して喫食する、常温で保管、流通するパン類に特に適している。
【0017】
本発明のパン類のうち、食パンのようにブロック状をなし所望のサイズに手で簡単に割れるようにしたパン類は、喫食時に食べる分だけを手で割り取って、その割り取ったパン片を電子レンジで加熱することによって、焼き立てのパンのような美味しいパン類を簡単に得ることができる。そして、ブロック状のパン類の残りの部分は、次に喫食する際に、同じように食べる分だけを手で割り取って電子レンジで加熱することにより、常に、焼き立てのパン類のような美味しいパン類を得ることができる。
【0018】
さらに、デュラム小麦粉、焙煎小麦粉および湿熱処理澱粉を所定の割合で含有する本発明のパン類用穀粉組成物は、電子レンジ加熱に適した常温流通のパン類を製造するのに必要な穀粉類が予め所定の割合で混合されているので、パン類の製造時にこれらの穀粉類を計量して所定の割合で配合するという手間が要らず、当該パン類用穀粉組成物を用いることによって、電子レンジ加熱に適した常温で保管、流通するパン類を簡単に且つ円滑に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、喫食時に所定の大きさに手で簡単に割ることのできるブロック状のパン(食パン)の一例を撮影した写真である。
【図2】図2は、手で簡単に割ることのできるブロック状のパン(食パン)を製造するのに用いるパン生地に切れ目を入れるための道具の一例および当該道具を用いてパン生地に切れ目を入れる際の操作を示した図(写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明のパン類は、一般的にパン類の製造に用いられる小麦粉、いわゆるパン類用小麦粉に加えて、パン類用穀粉原料の一部として、デュラム小麦粉、焙煎小麦粉および湿熱処理澱粉という3種類の穀粉を用いて製造される。
【0021】
本発明で用いるデュラム小麦粉としては、デュラム小麦を製粉して得られる小麦粉であって、通常のデュラム小麦粉であればいずれも使用でき、市販品のもので使用可能である。そのうちでも、特に本出願人の開発したデュラム小麦粉(特許文献6を参照)が好ましく用いられる。このデュラム小麦粉は、損傷澱粉量が9.5質量%以下であり、かつ平均粒径が60〜100μmの範囲であって、200μm以下の粒径部分が90質量%以上、好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは100質量%であるという特徴を有する。このデュラム小麦粉を用いると、パン類生地のミキシング耐性および分割・成形時の作業性に優れたものとなり、得られるパン類のボリュームが大きく、また、内相、食感、香りが良好になり、しかも、特に常温で保管、流通したパン類を電子レンジで加熱したときに生じ易い外観や食感の問題が生じず、焼き立てのパン類のような、良好な食感、食味、風味、外観を呈する等の効果が得られ、好ましい。
【0022】
焙煎小麦粉は、焙焼小麦粉、ローストフラワーとも称され、小麦粉を乾式下に高温(通常、品温90〜160℃)で熱処理することによって得られる。本発明では、焙煎小麦粉(焙焼小麦粉)として、従来から製パンや製菓に用いられているものであればいずれでも使用でき、市販品でよい。そのうちでも、本発明では、焙煎小麦粉として、小麦粉を品温95〜100℃の条件下で20〜40分間焙焼して得られる焙煎小麦粉が好ましく用いられる。
【0023】
湿熱処理澱粉は、澱粉を水分の存在下で加熱処理したものであって、澱粉を完全にα化させずに部分的にα化されたものであればよく、従来から製パンや製菓子に用いられている湿熱処理澱粉であればいずれも使用でき、市販品でよい。例えば、特許文献7に記載されているような方法で得られたものでもよい。そのうちでも、本発明では、湿熱処理澱粉として、偏光十字を有し且つアミラーゼによる消化性が未処理品の4〜10倍である澱粉湿熱処理物(湿熱処理澱粉)が、電子レンジで加熱したときに硬くならず、ヒキが生じないパンが得られ、しかも風味が損なわれないという点から好ましく用いられる。
本発明で好ましく用いられる、偏光十字を有し且つアミラーゼによる消化性が未処理品の4〜10倍である澱粉湿熱処理物(湿熱処理澱粉)は、例えば、特許文献7の実施例2に記載されている方法に準じて、澱粉を減圧状態に置いた後に加圧水蒸気を供給して124℃で20分間湿熱処理する方法などにより得ることができる。
【0024】
本発明で用い得る湿熱処理澱粉の種類としては、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉を湿熱処理したものなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、本発明では、湿熱処理澱粉としてコーンスターチを湿熱処理してなる湿熱処理澱粉が、電子レンジ加熱による食感の低下を効果的に抑制し得るという点から好ましく用いられる。
【0025】
本発明では、パン類の製造に用いる穀粉類の全質量(合計質量)に対して、デュラム小麦粉を10〜30質量%、焙煎小麦粉を1〜10質量%および湿熱処理澱粉を1〜15質量%の割合で用いる。そのうちでも、パン類の製造に用いる穀粉類の全質量(合計質量)に対して、デュラム小麦粉を15〜25質量%、焙煎小麦粉を2〜7質量%および湿熱処理澱粉を4〜10質量%の割合で用いることが好ましい。
デュラム小麦粉、焙煎小麦粉および湿熱処理澱粉を前記割合で用いることによって、電子レンジで加熱したときに、食感が硬くなったり、ヒキが出たり、くちゃついた食感となったり、パン類が収縮したり、表面に皺が生じるというような問題が生じず、焼き立てのパン類のような、良好な食感、食味、風味、外観を有するパン類にすることのできる、電子レンジ加熱に適したパン類を得ることができる。特に、電子レンジ加熱に適した、常温で保管、流通するパン類を得ることができる。
しかも、デュラム小麦粉、焙煎小麦粉および湿熱処理澱粉を前記割合で用いることによって、パン類生地に機械耐性があり、しかも生地の分割・成形時にパン類生地がべたついたりすることがなく、作業性が良好になる。
【0026】
パン類の製造に用いる穀粉類の全質量(合計質量)に対して、デュラム小麦粉の使用割合が10質量%未満であると、パン類を電子レンジで加熱したときに、パン類が硬く、ヒキのある食感になり、本発明の効果が十分に奏されず、一方デュラム小麦粉の使用割合が30質量%を超えると、デュラム小麦粉と共に、焙煎小麦粉および湿熱処理澱粉を併用したことによる相乗効果が得られないばかりか、かえって製パン時の生地作業性が劣るようになるため好ましくない。
また、パン類の製造に用いる穀粉類の全質量(合計質量)に対して、焙煎小麦粉の使用割合が1質量%未満であると、パン類を電子レンジで加熱したときに、パン類が硬く、ヒキのある食感になり、本発明の効果が十分に奏されず、一方焙煎小麦粉の使用割合が10質量%を超えると、製パン時の生地作業性がやや劣るようになり、また、電子レンジで加熱したときに、パン類がクチャついた食感となり、しかも焙煎小麦粉に起因する風味が強くなり過ぎて、パン類の風味が低下したものになり易い。
また、パン類の製造に用いる穀粉類の全質量(合計質量)に対して、湿熱処理澱粉の使用割合が1質量%未満であると、パン類を電子レンジで加熱したときに、パン類が硬く、ヒキのある食感になり、本発明の効果が十分に奏されず、一方湿熱処理澱粉の使用割合が15質量%を超えると、製パン時の生地作業性にやや劣るようになり、しかも得られるパン類の食味や風味がパン類本来の食味や風味に比べて低下したものになり易い。
【0027】
本発明では、パン類の製造に用いる穀粉類の全質量に基づいて、デュラム小麦粉の使用割合を15〜25質量%とし、且つ焙煎小麦粉と湿熱処理澱粉の合計使用量を6〜15質量%にすることが好ましい。デュラム小麦粉の使用割合および焙煎小麦粉と湿熱処理澱粉の合計使用割合をかかる範囲にすることで、電子レンジで加熱したときに、食感がほとんど低下せず、しかも風味および食味が非常に良好な、電子レンジによる加熱に適するパン類を得ることができる。
【0028】
また、本発明では、パン類の製造に用いる穀粉類の全質量に基づいて、デュラム小麦粉と焙煎小麦粉と湿熱処理澱粉の合計使用量が25〜35質量%であることがより好ましい。デュラム小麦粉と焙煎小麦粉と湿熱処理澱粉の合計使用量を前記範囲にすることによって、電子レンジで加熱したときに生じる前記した問題を一層良好に防ぐことができ、しかも電子レンジで加熱したときのパン類の風味や食味、食感のバランスが極めて良好なものとなる。
【0029】
本発明では、デュラム小麦粉、焙煎小麦粉および湿熱処理澱粉と共に、他の穀粉類を、パン類の製造に用いる穀粉類の全質量に基づいて、45〜88質量%、好ましく60〜80質量%、より好ましくは65〜75質量%の割合で用いる。
当該他の穀粉類としては、パン類の製造に従来から用いられている穀粉類であればいずれも使用でき、例えば、強力小麦粉、準強力小麦粉、中力小麦粉、薄力小麦粉などの小麦粉を挙げることができ、中でも強力小麦粉および/または準強力小麦粉が好ましく用いられる。さらに前記した小麦粉以外にも、ライ麦粉、ライ小麦粉、コーンフラワー、米粉、各種澱粉類、それらの混合粉などを、目的とするパンの種類などに応じて、適宜選択して使用してもよい。
【0030】
本発明では、デュラム小麦粉、焙煎小麦粉、湿熱処理澱粉および他の穀粉類を予め混合しておいて、パン用穀粉組成物を調製し、当該穀粉組成物を用いてパン類を製造するようにしてもよいし、またはデュラム小麦粉、焙煎小麦粉、湿熱処理澱粉、他の穀粉類およびパン類の製造に用いる他の副資材の1種または2種以上を予め混合しておいてパン類製造用プレミックスを調製し、当該プレミックスを用いてパン類を製造するようにしてもよい。或いは、パン類の製造時に、デュラム小麦粉、焙煎小麦粉、湿熱処理澱粉、他の穀粉類および他の副資材の1種または2種以上を直接混合しながらパン類を製造してもよい。
【0031】
デュラム小麦粉、焙煎小麦粉、湿熱処理澱粉および他の穀粉類を予め混合してパン類用穀粉組成物を調製する場合は、パン類用穀粉組成物100質量部中に、デュラム小麦粉を10〜30質量部、焙煎小麦粉を1〜10質量部および湿熱処理澱粉を1〜15質量部の割合で含有させるようにし、好ましくはデュラム小麦粉を15〜25質量部、焙煎小麦粉を2〜7質量部および湿熱処理澱粉を4〜10質量部の割合で含有させる。
このパン類用穀粉組成物を用いる場合は、パン類の製造時に現場でデュラム小麦粉、焙煎小麦粉、湿熱処理澱粉および他の穀粉のそれぞれを計量して配合するという手間を要することなく、当該パン類用穀粉組成物をそのまま用い、それに必要な他の副資材を配合して常法によってパン類を製造することにより、電子レンジ加熱に適したパン類を簡単に製造することができ、便利である。
【0032】
本発明では、パン類の製造に通常用いられる副資材、例えば、各種発酵種やイースト(生イースト、ドライイーストなど);砂糖やその他の糖類;イーストフード;卵または卵粉;脱脂粉乳、全脂粉乳、生乳、チーズ、ヨーグルト、ホエーなどの乳製品;増粘剤;ショートニングやバター、マーガリンやその他の動植物油などの油脂類;乳化剤;食塩などの無機塩類;グルテンや乳蛋白などの蛋白質;食物繊維;コーヒーやココアなどの呈味料;果汁;甘味料;香料;色素などの1種または2種以上を適宜使用することができる。
特に、ペクチンなどの増粘剤、グリセリン脂肪酸エステルなどの乳化剤を使用すると、電子レンジで加熱したときにパン類の食感がよりソフトになり、口溶けが良好となるため好ましい。
【0033】
本発明におけるパン類としては、上記したパン類用穀粉組成物を用いて、イーストや各種副資材を使用して発酵させる食品であれば特に限定されず、例えば、食パン;バターロール、ホットドッグロール、ディナーロールなどのソフトロール類;カイザーロールなどのハードロール類;フランスパン類;全粒粉パン;スイートロール、デニッシュペストリー、バンズ、パネトーネ、あんパン、ジャムパン、クリームパンなどの菓子パン類などを挙げることができる。
【0034】
本発明のパン類が食パンである場合には、パンをブロック状とし、当該ブロック状のパンを所望のサイズに手で簡単に割れるようにしておくと、喫食時にブロック状のパンから食べる分だけを手で割り取って、その割り取ったパン片を電子レンジで加熱することによって、喫食するのに必要な量の、焼き立てのパンのような美味しいパン類を電子レンジ加熱によって簡単に得ることができる。
何ら、限定されるものではないが、例えば、そのようなパンの例としては、図1の写真に示すようなパンを挙げることができる。
図1のパンは、ブロック状の食パンであって、図1の(a)に示すように、食パンの表面に、その幅方向の中央部に食パンの長さ方向に沿った溝(縦溝)を有し、さらに食パンの長さ方向を横切る方向(横方向)に所定の間隔(約4cmの間隔)で複数の溝(横溝)を有している。そのため、図1の(a)に示す食パンは、図1の(b)に示すように、横溝の部分で手で簡単に割ることができ、それを図1の(c)に示すように縦溝の部分で更に手で割って、パン片とすることができる。そして、手で割って得た当該パン片を電子レンジで加熱することによって、喫食する分だけを加熱することができる。
ブロック状の食パンの残りの部分は、後に喫食する際に前記と同様に喫食する量だけ手で割り取って電子レンジで加熱することによって、常に、焼き立てと同じようなパンを得ることができる。
【0035】
表面に溝を有する図1に示すブロック状の食パンは、例えば、図2に示すような切目付け道具を用いて製造することができる。具体的には、細長い棒状の食パン用生地(ドウ)をその中央で2つに折って(U字状に折って)型に詰めた後、図2の(a)および(b)に示すような切目付け道具[図2の(a)は切目付け道具を寝せた状態で撮影したものであり、図2の(b)は切目付け道具を立てた状態で撮影したものである]を、図2の(c)および(d)に示すように上方から型内に挿入して、型に詰められている生地を、その長手方向を横切る方向(横手方向)に所望の間隔で複数に切り、次いで切目付け道具を型から取り除いて、生地を型に詰めた状態で焼成することによって、図1の(a)に示す食パンを得ることができる。なお、切目付け道具の複数の切刃は、切目付け道具を図2の(d)に示すように型内に完全に挿入したときに、その刃先が型の底部に接触する長さとなっている。
【0036】
図1の(a)に示す食パンでは、焼成時に生地が膨張することによって切目を付けた箇所でも生地同士はつながると共に、食パンの長手方向の表面部分に所望の間隔で複数の横溝が形成され、更に同時に長手方向の表面中心に縦溝も形成される。切目を付けた部分に相当する横溝の部分では、他の箇所に比べて生地のつながりが弱いために、横溝のある部分で手で簡単に割ることができる。また、図1の(a)に示す食パンの長手方向の表面中心に生成した縦溝は、細長い生地(ドウ)をその中央で2つ折にして型に詰めた状態で焼成したことにより生成した溝であり、やはり縦溝の部分でも手で簡単に割ることができる。
【0037】
本発明のパン類の製造方法は特に制限されず、従来から採用されている製パン方法のいずれもが採用でき、例えば、中種法、ストレート法、速成法、水種法、酒種法などの製パン法を挙げることができる。
また、本発明のパン類を製造する際の製パン条件は特に制限されず、製パン方法、製パン原料の種類、配合組成、製造するパンの種類などに応じて、それぞれに適した条件を採用することができる。
【0038】
本発明のパン類を電子レンジで加熱する際の加熱条件(電子レンジの出力、加熱時間など)は、パンの種類、常温で保存・流通されたパンであるか、冷蔵温度で保存・流通されたパンであるか、冷凍して保存・流通されたパンであるかなどのパンの保存・流通条件、パンのサイズなどによって異なり得るが、例えば常温で保存・流通されたパンでは、出力700Wで電子レンジ加熱する場合は、一般的にはパンの質量100g当り20〜90秒間加熱することにより、食感が硬くなったり、ヒキが出たり、くちゃついた食感となったり、表面に皺ができて収縮するという問題が生ずることがなく、まるで焼き立てのパンのような、良好な食感、食味、風味、外観を有する電子レンジ加熱パンを得ることができる。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例などによって本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0040】
《実施例1〜3および比較例1〜3》[デュラム小麦粉の使用割合の検討]
(1) 下記の表3に示す配合にて、中種法により食パンを製造した。なお、穀粉類として、強力小麦粉(日清製粉株式会社製「カメリヤ」)、デュラム小麦粉(特許文献6の製造例2と同様にして得られたデュラム小麦粉;平均粒径=75μm、200μm以下の粒子の含有割合=100質量%、損傷澱粉量=7.5質量%)、焙煎小麦粉(日清製粉株式会社製「ローストフラーRD」)、湿熱処理澱粉(三和澱粉工業株式会社製「デリカスターHM−131」)を用いた。
具体的には、中種生地作成工程として表3に示す中種生地用穀粉類、イーストおよびイーストフードに所定量の水を加え、低速で2分間、ついで中速で2分間ミキシングを行なった(捏上温度:24℃)。次いで温度27℃、相対湿度75%の雰囲気下で2時間発酵させ、中種生地を得た。
【0041】
(2) 次に本捏生地作成工程として、上記(1)で得られた中種生地に、まず、マーガリン以外の他の原料(表3に示す本捏生地用穀粉類および副資材)を添加し、低速で4分間、高速で2.5分間ミキシングを行なった後、マーガリンを添加し、さらに低速で2分間、高速で3分間ミキシングを行なって、本捏生地を得た(捏上温度:28℃)。次いで、この生地を温度27℃、相対湿度75%の雰囲気下で20分間発酵させ、次いで190gずつ分割して丸め、ベンチタイムを20分間とった後、生地を棒状にしてそれを真ん中で2つ折にして食パン型に型詰めを行ない、次いで図2に示すような切目を付ける道具で型詰めした生地に切目(生地の底部に達する深さの切目:食パンの長手方向に間隔約3〜4cmの横溝)を入れた。その際に、本捏生地製造時の生地の状態および作業性を表1に示す評価基準にしたがって評価したところ、表3に示すとおりであった。
【0042】
(3) その後、ホイロ(温度37℃、相対湿度85%の雰囲気下)を50分間行なった後、温度220℃で25分間焼成をして、図1に示すような、食パンの長手方向の表面部分に所望の間隔で複数の横溝が形成され、更に同時に長手方向の表面中心に縦溝も形成された食パンを得た。
(4) 上記(3)で得られた食パンを室温(25℃)で2日間放置した後、縦横の溝によって囲まれる1つごとのパン片に手で分け(1つのパン片の重さ約35g)、パン片4個当りの加熱時間50秒で、電子レンジ(700W)で加熱し、加熱後のパンの品質(外観、食感、風味および食味)を表2に示す評価基準にしたがって10名のパネラーに評価してもらい、その平均値を採ったところ、表3に示すとおりであった。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
上記の表3の結果にみるように、実施例1〜3の食パンは、パンの製造に用いる穀粉類の全質量に対して、デュラム小麦粉を10〜30質量%、焙煎小麦粉を1〜10質量%および湿熱処理澱粉を1〜15質量%の範囲内の量で用いて製造したことにより、生地状態および作業性の評点(5点満点)が4.4点〜4.7点と高くて生地に適度な締まり、弾力、伸展性があり、ベタツキがなく、作業性および生地の状態が良好であり、しかもパンの外観の評点(3点満点)が2.5点〜2.7点と高くて電子レンジ加熱後にパンが収縮せず、加熱前と同じかほぼ同じ外観および形状を維持しており、パンの食感の評点(3点満点)が2.7点〜2.9点と高くてソフトで、ヒキも出ておらず、くちゃつきもなく、焼き立てのパンとほぼ同じ良好な食感を有しており、パンの風味および食味の評点(3点満点)が2.8点〜2.9点と高くて焼き立てのパンのような香ばしさがあって風味に優れ、食味も非常に良好である。
特に、実施例2の食パンは、パンの製造に用いる穀粉類の全質量に対して、本発明において好ましい範囲である、デュラム小麦粉を15〜25質量%、焙煎小麦粉を2〜7質量%および湿熱処理澱粉を4〜10質量%の範囲内の量で用いて製造したことにより、生地製造時の生地の状態および作業性、得られたパンの外観、食感並びに風味および食味の全てにおいて一層優れている。
【0047】
それに対して、比較例1の食パンは、焙煎小麦粉および湿熱処理澱粉を本発明で規定する範囲内の量で配合したが、デュラム小麦粉を配合せずに製造したことにより、パンの外観の評点(3点満点)が1.8点で電子レンジ加熱後にパンが収縮し、加熱前に比べて外観および形状が不良になっており、パンの食感の評点(3点満点)が1.3点と低くて、電子レンジで加熱後にかなり硬くなっており、しかもヒキがかなり生じていて、焼き立てのパンに比べて食感が大きく低下しており、パンの風味および食味の評点(3点満点)が1.7点と低くて電子レンジ加熱後に焼き立てのパンのような香ばしさが少なく、風味および食味に劣っている。
【0048】
また、比較例2の食パンは、焙煎小麦粉および湿熱処理澱粉を本発明で規定する範囲内の量で配合したが、デュラム小麦粉を本発明で規定するデュラム小麦粉の使用量の下限値よりも少ない量で使用して製造したことにより、パンの外観の評点(3点満点)が2.2点で電子レンジ加熱後にパンがやや収縮し、加熱前に比べて外観および形状がやや不良になっており、パンの食感の評点(3点満点)が1.8点で電子レンジで加熱後に少し硬くなっており、ヒキも生じていて、焼き立てのパンに比べて食感が低下しており、パンの風味および食味の評点(3点満点)が1.9点で電子レンジ加熱後に焼き立てのパンのような香ばしさが少なく、風味および食味にやや劣っている。
【0049】
また、比較例3の食パンは、焙煎小麦粉および湿熱処理澱粉を本発明で規定する範囲内の量で配合したが、デュラム小麦粉を本発明で規定するデュラム小麦粉の使用量の上限値よりも多い量で使用して製造したことにより、パンを製造する際の生地状態および作業性の評点(5点満点)が3.5点で生地にやや緩みやベタツキがあり、実施例1〜3に比べて生地製造時の生地の状態および作業性に劣っており、パンの外観の評点(3点満点)が2.2点で電子レンジ加熱後にパンがやや収縮し、加熱前に比べて外観および形状がやや不良になっており、パンの食感の評点(3点満点)が2.0点で電子レンジで加熱後にくちゃつきがやや生じていて、焼き立てのパンに比べて食感が少し低下しており、パンの風味および食味の評点(3点満点)が2.2点で電子レンジ加熱後に焼き立てのパンのような香ばしさが少なく、風味および食味にやや劣っている。
【0050】
《実施例4〜6および比較例4〜6》[焙煎小麦粉の使用割合の検討]
(1) 実施例1において、焙煎小麦粉の使用割合を下記の表4に示す割合に変え、それに伴って強力小麦粉、デュラム小麦粉および湿熱処理澱粉を下記の表4に示す割合に変えた以外は、実施例1の(1)〜(3)と同様に行なって、食パンの長手方向の表面部分に所望の間隔で複数の横溝が形成され、更に同時に長手方向の表面中心に縦溝も形成された食パンを得た。その際に、本捏生地製造時の生地の状態および作業性を表1に示す評価基準にしたがって評価したところ、表4に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた食パンを、室温(25℃)で2日間放置した後、縦横の溝によって囲まれる1つごとのパン片に手で分け(1つのパン片の重さ約35g)、パン片4個当りの加熱時間50秒で、電子レンジ(700W)で加熱し、加熱後のパンの品質(外観、食感、風味および食味)を表2に示す評価基準にしたがって10名のパネラーに評価してもらい、その平均値を採ったところ、表4に示すとおりであった。
【0051】
【表4】

【0052】
上記の表4の結果にみるように、実施例4〜6の食パンは、パンの製造に用いる穀粉類の全質量に対して、デュラム小麦粉を10〜30質量%、焙煎小麦粉を1〜10質量%および湿熱処理澱粉を1〜15質量%の範囲内の量で用いて製造したことにより、生地状態および作業性の評点(5点満点)が4.3点〜4.7点と高くて、生地に適度な締まり、弾力、伸展性があり、ベタツキがなく、作業性および生地の状態が良好であり、しかもパンの外観の評点(3点満点)が2.4点〜2.7点と高くて電子レンジ加熱後にパンが収縮せず、加熱前と同じかほぼ同じ外観および形状を維持しており、パンの食感の評点(3点満点)が2.4点〜2.9点と高くてソフトで、ヒキも出ておらず、くちゃつきもなく、焼き立てのパンとほぼ同じ良好な食感を有しており、パンの風味および食味の評点(3点満点)が2.4点〜2.9点と高くて焼き立てのパンのような香ばしさがあって風味に優れ、食味も非常に良好である。
特に、実施例5の食パンは、パンの製造に用いる穀粉類の全質量に対して、本発明において好ましい範囲である、デュラム小麦粉を15〜25質量%、焙煎小麦粉を2〜7質量%および湿熱処理澱粉を4〜10質量%の範囲内の量で用いて製造したことにより、生地製造時の生地の状態および作業性、得られたパンの外観、食感並びに風味および食味の全てにおいて一層優れている。
【0053】
それに対して、比較例4の食パンは、デュラム小麦粉および湿熱処理澱粉を本発明で規定する範囲内の量で配合したが、焙煎小麦粉を配合せずに製造したことにより、パンの外観の評点(3点満点)が2.0点で電子レンジ加熱後にパンがやや収縮し、加熱前に比べて外観および形状がやや不良になっており、パンの食感の評点(3点満点)が1.7点で電子レンジで加熱後に硬くなっており、ヒキも生じていて、焼き立てのパンに比べて食感が低下しており、パンの風味および食味の評点(3点満点)が1.6点と低くて電子レンジ加熱後に焼き立てのパンのような香ばしさがなく、風味および食味に劣っている。
【0054】
また、比較例5の食パンは、デュラム小麦粉および湿熱処理澱粉を本発明で規定する範囲内の量で配合したが、焙煎小麦粉を本発明で規定する焙煎小麦粉の使用量の下限値よりも少ない量で使用して製造したことにより、パンの外観の評点(3点満点)が2.2点で電子レンジ加熱後にパンがやや収縮し、加熱前に比べて外観および形状がやや不良になっており、パンの食感の評点(3点満点)が2.0点で電子レンジで加熱後に少し硬くなっており、ヒキもやや生じていて、焼き立てのパンに比べて食感が少し低下しており、パンの風味および食味の評点(3点満点)が2.1点で電子レンジ加熱後に焼き立てのパンのような香ばしさが少なく、風味および食味にやや劣っている。
【0055】
また、比較例6の食パンは、デュラム小麦粉および湿熱処理澱粉を本発明で規定する範囲内の量で配合したが、焙煎小麦粉を本発明で規定する焙煎小麦粉の使用量の上限値よりも多い量で使用して製造したことにより、パンを製造する際の生地状態および作業性の評点(5点満点)が3.1点で生地にやや緩みやベタツキがあり、実施例4〜6に比べて生地製造時の生地の状態および作業性に劣っており、パンの外観の評点(3点満点)が1.8点で電子レンジ加熱後にパンがやや収縮し、加熱前に比べて外観および形状がやや不良になっており、パンの食感の評点(3点満点)が1.8点で電子レンジで加熱後にくちゃつきが生じていて、焼き立てのパンに比べて食感が低下しており、パンの風味および食味の評点(3点満点)が1.5点と低くて電子レンジ加熱後に焼き立てのパンのような香ばしさがなく、風味および食味に劣っている。
【0056】
《実施例7〜9および比較例7〜10》[湿熱処理澱粉の使用割合の検討]
(1) 実施例1において、湿熱処理澱粉の使用割合を下記の表5に示す割合に変えるか、または湿熱処理澱粉の代わりに非湿熱処理澱粉(未処理のコーンスターチ)を使用し、それに伴って強力小麦粉、デュラム小麦粉および焙煎小麦粉を下記の表5に示す割合に変えた以外は、実施例1の(1)〜(3)と同様に行なって、食パンの長手方向の表面部分に所望の間隔で複数の横溝が形成され、更に同時に長手方向の表面中心に縦溝も形成された食パンを得た。その際に、本捏生地製造時の生地の状態および作業性を表1に示す評価基準にしたがって評価したところ、表5に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた食パンを、室温(25℃)で2日間放置した後、縦横の溝によって囲まれる1つごとのパン片に手で分け(1つのパン片の重さ約35g)、パン片4個当りの加熱時間50秒で、電子レンジ(700W)で加熱し、加熱後の品質(外観、食感、食味および風味)を表2に示す評価基準にしたがって10名のパネラーに評価してもらい、その平均値を採ったところ、表5に示すとおりであった。
【0057】
【表5】

【0058】
上記の表5の結果にみるように、実施例7〜9の食パンは、パンの製造に用いる穀粉類の全質量に対して、デュラム小麦粉を10〜30質量%、焙煎小麦粉を1〜10質量%および湿熱処理澱粉を1〜15質量%の範囲内の量で用いて製造したことにより、生地状態および作業性の評点(5点満点)がそれぞれ4.1点〜4.6点と高くて、生地に適度な締まり、弾力、伸展性があり、ベタツキがなく、作業性および生地の状態が良好であり、しかもパンの外観の評点(3点満点)が2.4点〜2.7点と高くて電子レンジ加熱後にパンが収縮せず、加熱前と同じかほぼ同じ外観および形状を維持しており、パンの食感の評点(3点満点)が2.4点〜2.9点と高くてソフトで、ヒキも出ておらず、くちゃつきもなく、焼き立てのパンとほぼ同じ良好な食感を有しており、パンの風味および食味の評点(3点満点)が2.5点〜2.9点と高くて焼き立てのパンのような香ばしさがあって風味に優れ、食味も非常に良好である。
特に、実施例8の食パンは、パンの製造に用いる穀粉類の全質量に対して、本発明において好ましい範囲である、デュラム小麦粉を15〜25質量%、焙煎小麦粉を2〜7質量%および湿熱処理澱粉を4〜10質量%の範囲内の量で用いて製造したことにより、生地製造時の生地の状態および作業性、得られたパンの外観、食感並びに風味および食味の全てにおいて一層優れている。
【0059】
それに対して、比較例7の食パンは、デュラム小麦粉および焙煎小麦粉を本発明で規定する範囲内の量で配合したが、湿熱処理澱粉を配合せずに製造したことにより、パンの外観の評点(3点満点)が1.8点で電子レンジ加熱後にパンがやや収縮し、加熱前に比べて外観および形状がやや不良になっており、パンの食感の評点(3点満点)が1.4点と低くて電子レンジで加熱後にかなり硬くなっており、ヒキもかなり生じていて、焼き立てのパンに比べて食感がかなり低下しており、パンの風味および食味の評点(3点満点)が2.2点で電子レンジ加熱後に焼き立てのパンのような香ばしさが少なく、風味および食味にやや劣っている。
【0060】
また、比較例8の食パンは、デュラム小麦粉および焙煎小麦粉を本発明で規定する範囲内の量で配合したが、湿熱処理澱粉を本発明で規定する湿熱処理澱粉の使用量の下限値よりも少ない量で使用して製造したことにより、パンの外観の評点(3点満点)が2.2点で電子レンジ加熱後にパンがやや収縮し、加熱前に比べて外観および形状がやや不良になっており、パンの食感の評点(3点満点)が1.8点で電子レンジで加熱後に少し硬くなっており、ヒキもやや生じていて、焼き立てのパンに比べて食感が少し低下しており、パンの風味および食味の評点(3点満点)が2.1点で電子レンジ加熱後に焼き立てのパンのような香ばしさが少なく、風味および食味にやや劣っている。
【0061】
また、比較例9の食パンは、デュラム小麦粉および焙煎小麦粉を本発明で規定する範囲内の量で配合したが、湿熱処理澱粉を本発明で規定する湿熱処理澱粉の使用量の上限値よりも多い量で使用して製造したことにより、パンを製造する際の生地状態および作業性の評点(5点満点)が3.0点で生地にやや緩みやベタツキがあり、実施例7〜9に比べて生地製造時の生地の状態および作業性に劣っており、パンの外観の評点(3点満点)が1.9点で電子レンジ加熱後にパンがやや収縮し、加熱前に比べて外観および形状がやや不良になっており、パンの食感の評点(3点満点)が2.2点で電子レンジで加熱後にくちゃつきがやや生じていて、焼き立てのパンに比べて食感が少し低下しており、パンの風味および食味の評点(3点満点)が2.1点で電子レンジ加熱後に焼き立てのパンのような香ばしさが少なく、風味および食味にやや劣っている。
【0062】
また、比較例10の食パンは、デュラム小麦粉および焙煎小麦粉を本発明で規定する範囲内の量で配合したが、湿熱処理澱粉の代りに非湿熱処理澱粉(未処理コーンスターチ)を使用して製造したことにより、パンの外観の評点(3点満点)が1.8点で電子レンジ加熱後にパンがやや収縮し、加熱前に比べて外観および形状がやや不良になっており、パンの食感の評点(3点満点)が1.4点と低くて電子レンジで加熱後に硬くなっており、ヒキも生じていて、焼き立てのパンに比べて食感が低下しており、パンの風味および食味の評点(3点満点)が1.9点で電子レンジ加熱後に焼き立てのパンのような香ばしさが少なく、風味および食味にやや劣っている。
【0063】
《実施例10〜12および比較例11〜13》[ロールパンの製造]
(1) 表6に示す配合にて、ストレート法によりロールパンを製造した。なお、穀粉類として、強力小麦粉(日清製粉株式会社製「カメリヤ」)、デュラム小麦粉(特許文献6の製造例2のデュラム小麦粉)、湿熱処理澱粉(三和澱粉工業株式会社製「デリカスターHM−131」)を用いた。
(2)具体的には、穀粉類に所定量の水、マーガリン以外の原料を添加し、低速で3分間、中速で4分間ミキシングを行った後、マーガリンを添加し、さらに低速で2分間、中速で4分間、高速で1分間ミキシングを行った(捏上温度:27℃)。次いで、温度27℃、相対湿度75%の雰囲気下で1時間30分間発酵させ、次いで40gずつ分割して丸め、ベンチタイムを20分間とった後、生地を薄く伸ばし、次いでナプキンロール形に成形した。その際に、生地の状態および作業性を表1に示す評価基準にしたがって評価したところ、表6に示すとおりであった。
(3)その後、ホイロ(温度37℃、相対湿度85%の雰囲気下)を50分間行なった後、温度210℃で9分間焼成をして、ロールパンを得た。
(4) 上記(2)で得られたロールパンを、室温(25℃)で24時間放置した後、電子レンジ(700W)で加熱して(ロールパン1個当りの加熱時間15秒)、加熱後のロールパンの外観および品質(食感、風味と食味)を表2に示す評価基準にしたがって10名のパネラーに評価してもらい、その平均値を採ったところ、表6に示すとおりであった。
【0064】
【表6】

【0065】
上記の表6の結果にみるように、実施例10〜12のロールパンは、パンの製造に用いる穀粉類の全質量に対して、デュラム小麦粉を10〜30質量%、焙煎小麦粉を1〜10質量%および湿熱処理澱粉を1〜15質量%の範囲内の量で用いて製造したことにより、生地状態および作業性の評点(5点満点)が4.5点〜4.9点と高くて、生地に適度な締まり、弾力、伸展性があり、ベタツキがなく、作業性および生地の状態が良好であり、しかもパンの外観の評点(3点満点)が2.6点〜2.7点と高くて電子レンジ加熱後にパン収縮せず、加熱前と同じかほぼ同じ外観および形状を維持しており、パンの食感の評点(3点満点)が2.7点〜2.9点と高くてソフトで、ヒキも出ておらず、くちゃつきもなく、焼き立てのパンとほぼ同じ良好な食感を有しており、パンの風味および食味の評点(3点満点)が2.8点〜2.9点と高くて焼き立てのパンのような香ばしさがあって風味に優れ、食味も非常に良好である。
特に、実施例10と11のロールパンは、パンの製造に用いる穀粉類の全質量に対して、本発明において好ましい範囲である、デュラム小麦粉を15〜25質量%、焙煎小麦粉を2〜7質量%および湿熱処理澱粉を4〜10質量%の範囲内の量で用いて製造したことにより、生地製造時の生地の状態および作業性、得られたパンの外観、食感並びに風味および食味の全てにおいて一層優れている。
【0066】
それに対して、比較例11のロールパンは、焙煎小麦粉および湿熱処理澱粉を本発明で規定する範囲内の量で配合したが、デュラム小麦粉を配合せずに製造したことにより、パンの外観の評点(3点満点)が1.9点で電子レンジ加熱後にパンがやや収縮し、加熱前に比べて外観および形状がやや不良になっており、パンの食感の評点(3点満点)が1.4点と低くて電子レンジで加熱後にかなり硬くなっており、ヒキもかなり生じていて、焼き立てのパンに比べて食感がかなり低下しており、パンの風味および食味の評点(3点満点)が1.6点で電子レンジ加熱後に焼き立てのパンのような香ばしさがなく、風味および食味に劣っている。
【0067】
また、比較例12のロールパンは、デュラム小麦粉および湿熱処理澱粉を本発明で規定する範囲内の量で配合したが、焙煎小麦粉を配合せずに製造したことにより、パンの外観の評点(3点満点)が2.0点で電子レンジ加熱後にパンがやや収縮し、加熱前に比べて外観および形状がやや不良になっており、パンの食感の評点(3点満点)が1.7点で電子レンジで加熱後に硬くなっており、ヒキも生じていて、焼き立てのパンに比べて食感が低下しており、パンの風味および食味の評点(3点満点)が1.5点と低くて電子レンジ加熱後に焼き立てのパンのような香ばしさがなく、風味および食味に劣っている。
【0068】
また、比較例13のロールパンは、デュラム小麦粉および焙煎小麦粉を本発明で規定する範囲内の量で配合したが、湿熱処理澱粉を配合せずに製造したことにより、パンの外観の評点(3点満点)が2.0点で電子レンジ加熱後にパンがやや収縮し、加熱前に比べて外観および形状がやや不良になっており、パンの食感の評点(3点満点)が1.6点で電子レンジで加熱後に硬くなっており、ヒキも生じていて、焼き立てのパンに比べて食感が低下しており、パンの風味および食味の評点(3点満点)が2.3点で電子レンジ加熱後に焼き立てのパンのような香ばしさが少なく、風味および食味にやや劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によって、電子レンジで加熱したときに、食感が硬くなったり、ヒキが出たり、くちゃついた食感となったり、表面に皺ができて収縮するなどの問題が生じず、焼き立てのパン類のような、良好な食感、食味、風味、外観を呈する電子レンジ加熱パンとなるパン類が提供される。特に、冷凍したパン類に比べて水分飛散や老化が進み易い常温で保管、流通したパン類は、水分飛散や老化が進み易く、これを電子レンジで加熱すると、前記の問題点である食感が硬くなったり、ヒキが出たり、くちゃついた食感となったり、表面に皺ができて収縮するなどの傾向がより大きくなるが、本発明のパン類はこれらの問題が生じず、焼き立てのパン類のような、良好な食感、食味、風味、外観を呈する。すなわち、本発明のパン類は、電子レンジで加熱して喫食する、常温で保管、流通するパン類に特に適しているので、本発明は産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パン類の製造に用いる穀粉類の全質量に対して、デュラム小麦粉を10〜30質量%、焙煎小麦粉を1〜10質量%および湿熱処理澱粉を1〜15質量%の割合で用いて製造したことを特徴とする電子レンジ加熱に適したパン類。
【請求項2】
常温流通のパン類である請求項1に記載の電子レンジ加熱に適したパン類。
【請求項3】
所望の大きさに手で割ることができるブロック状のパン類である請求項1または2のいずれか1項に記載の電子レンジ加熱に適したパン類。
【請求項4】
複数の切れ目を入れたパン類生地を焼成して得られたものである請求項3に記載の電子レンジ加熱に適したパン類。
【請求項5】
電子レンジ加熱に適したパン類を製造するためのパン類用穀粉組成物であって、当該パン類用穀粉組成物100質量部中に、デュラム小麦粉を10〜30質量部、焙煎小麦粉を1〜10質量部および湿熱処理澱粉を1〜15質量部の割合で含有することを特徴とする電子レンジ加熱に適したパン類を製造するためパン類用穀粉組成物。
【請求項6】
電子レンジ加熱に適した常温流通のパン類を製造するためのものである請求項5に記載のパン類用穀粉組成物。

【図1】
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【図2】
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