電子体温計及びその制御方法
【課題】計測に用いるクロックの周波数を適切に制御することにより、計測精度を維持しながら体温計測時以外の消費電力を低減する電子体温計を提供する。
【解決手段】 電子体温計は、サーミスタとコンデンサとが直列に接続された積分回路と、クロック信号を生成するクロック発生部とを有し、積分回路において定常状態から過渡状態に移行した際の過渡期間をクロック発生部が発生するクロック信号をカウントすることにより計測し、計測された前記過渡期間に基づいて温度値を算出する。電子体温計は、算出された温度値から複数の予測式にしたがって複数の予測値を導出し、これら複数の予測値のそれぞれの経時変化に基づいて一つの予測式を選択し、選択された予測式を用いて体温計測結果としての平衡温度値を取得し、表示する。ここで、電子体温計のクロック発生部は、上記算出された温度値に基づいて、クロック信号の周波数を切替える。
【解決手段】 電子体温計は、サーミスタとコンデンサとが直列に接続された積分回路と、クロック信号を生成するクロック発生部とを有し、積分回路において定常状態から過渡状態に移行した際の過渡期間をクロック発生部が発生するクロック信号をカウントすることにより計測し、計測された前記過渡期間に基づいて温度値を算出する。電子体温計は、算出された温度値から複数の予測式にしたがって複数の予測値を導出し、これら複数の予測値のそれぞれの経時変化に基づいて一つの予測式を選択し、選択された予測式を用いて体温計測結果としての平衡温度値を取得し、表示する。ここで、電子体温計のクロック発生部は、上記算出された温度値に基づいて、クロック信号の周波数を切替える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子体温計及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子体温計の分野では、従来より、温度変化に伴うサーミスタの抵抗変化を測定することにより温度計測値を取得している。このようなサーミスタの抵抗変化を測定するための技術として、サーミスタを含むCR発振器を構成してその発振周波数を計測する方法や、単一入力積分型A/D変換回路を用いた方法などが挙げられる(特許文献1)。
【0003】
単一入力積分型A/D変換回路を用いた温度計測では、サーミスタとコンデンサが直列に接続された積分回路が用いられる。そして、サーミスタの抵抗変化に応じて変化する積分回路の過渡期間(コンデンサの充電時間或いは放電時間)を計測することにより温度値の算出を行うことができる。
【0004】
また、特許文献2には、計測開始時の初期の実測値の変化に基づいて適切な予測式を選択して、計測精度を向上するとともに体温計測に要する時間を短縮することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−075263号公報
【特許文献2】特開2007−024530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、病院用の電子体温計では、液密性を持たせるために、手動操作による電源ON/OFFスイッチを設けていない。また、患者が体温測定をした後、看護師が体温計を回収して体温値を読み取るまでの時間が不定であるため、病院用の電子体温計には自動パワーオフ機能は設けないのが普通である。したがって、この種の電子体温計は、体温測定時以外であっても電源ON状態を維持していることが多く、その間に無駄に電力が消費され、電池寿命を縮めることになる。
【0007】
特に、単一入力積分型A/D変換回路を用いた電子体温計では、積分回路の過渡期間をより高精度に測定するために、非常に高い周波数のクロックが必要となり、体温測定時以外の無駄な電力消費はより深刻である。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、計測に用いるクロックの周波数を適切に制御することにより、計測精度を維持しながら体温計測時以外の消費電力を低減する電子体温計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために本発明に係る電子体温計は以下のような構成を備える。即ち、
サーミスタとコンデンサとが直列に接続された積分回路と、
クロック信号を生成するクロック手段と、
前記積分回路において定常状態から過渡状態に移行した際の過渡期間を前記クロック信号をカウントすることにより計測する計測手段と、
前記計測手段で計測された前記過渡期間に基づいて温度値を算出する算出手段と、
前記算出手段で算出された温度値から複数の予測式にしたがって複数の予測値を導出する予測値導出手段と、
前記複数の予測値のそれぞれの経時変化に基づいて、前記複数の予測式から一つの予測式を選択する選択手段と、
前記選択手段により選択された予測式を用いて体温計測結果としての平衡温度値を取得し、表示する表示出力手段とを備え、
前記クロック手段は、前記算出手段で算出された温度値に基づいて、前記クロック信号の周波数を切り替える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、計測に用いるクロックの周波数が適切に制御されるので、計測精度を維持しながら体温計測時以外の消費電力を低減でき、予測検温の場合に少なくとも10000回の検温が可能な予測/実測電子体温計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態にかかる電子体温計100の外観構成を示す図である。
【図2】電子体温計100の機能構成を示す内部ブロック図である。
【図3】電子体温計100における体温計測処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】温度計測部210の詳細構成を示す図である。
【図5】積分回路を用いた一般的な温度計測処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】コンデンサ403の両端の電圧の時間変化及びA/D変換部420より出力されるディジタル信号の時間変化を示す図である。
【図7】第1の実施形態における温度計測処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】コンデンサ403の両端の電圧の時間変化及びA/D変換部420より出力されるディジタル信号の時間変化を示す図である。
【図9】第3の実施形態における温度計測処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】コンデンサ403の両端の電圧の時間変化及びA/D変換部420より出力されるディジタル信号の時間変化を示す図である。
【図11】実施形態によるクロック周波数の切替処理を説明するフローチャートである。
【図12】検温素子による温度実測値の変化の例を示す図である。
【図13】電子体温計の計測値に基づく群分けを説明する図である。
【図14】複数の予測値の変化に基づく群の決定を説明する図である。
【図15】基準点の補正を行なう場合の条件を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0013】
[第1の実施形態]
1.電子体温計の外観構成
図1は、本発明の一実施形態にかかる予測/実測電子体温計100の外観構成を示す図であり、図1(a)は平面図を、図1(b)は側面図をそれぞれ示している。101は耐衝撃性と耐薬品性を有する熱可塑性樹脂からなる本体ケースで、図2により後述する演算制御部220等の電子回路、電池(電源部250)等が収納される。
【0014】
102は、ステンレス製の金属キャップで、内部には温度を計測するためのサーミスタ(詳細は後述)等が液密に収納される。103は電源ON/OFFスイッチであり、1回押圧すると電源部250がONとなり、再度押圧すると電源部250がOFFとなる。なお、病院用の電子体温計などでは、液密性をもたせるために、電源ON/OFFスイッチ103のような手動操作によるON/OFFスイッチを設けないで、マグネットリードスイッチ251(図2)を設けている。このため、電子体温計100が収納ケースから出されるとマグネットリードスイッチがONされ、電源部250から演算制御部220等の電子回路、温度計測部210、表示部230等に電子体温計100が永久磁石を内蔵した収納ケース(不図示)に収納されるまで電源が供給され続け、電源がON状態となる。なお、電源ON/OFFスイッチ103とマグネットリードスイッチ251の両方を具備させるようにしても良い。
【0015】
104は液晶表示器であり、被検者の体温を表示する。105はスピーカであり、演算制御部220における処理に基づいて、音声を出力する。なお、音声出力ではなく、単にブザー等で体温計測終了等を通知するものとしてもよい。また、表示器104は液晶に限られるものではない。また、表示器104は耐衝撃性と耐薬品性を有し、透明の熱可塑性樹脂で形成された窓部材で覆われ、この窓部材は、本体ケース101と2色成形され、液密性を有している。
【0016】
2.電子体温計の機能構成
図2は本実施形態にかかる電子体温計100の機能構成を示す内部ブロック図である。
【0017】
電子体温計100は、温度に対応した時間分のON信号を出力する温度計測部210と、温度計測部210より出力されたON信号に基づいて各種処理を行い、被検者の体温を演算すると共に電子体温計100全体の動作を制御する演算制御部220と、演算された被検者の体温を表示器104(例えば、液晶表示器)に表示する表示部230と、スピーカ105により音声データを出力する音声出力部240と、電源部250とを備える。電源部250は電池を含み、マグネットリードスイッチ251を介して電力を演算制御部220等へ供給する。
【0018】
温度計測部210は、互いに並列に接続されたサーミスタ(測定用抵抗素子)及び基準抵抗素子と、単一入力積分型A/D変換回路とを備え、温度に対応した時間分のON信号(温度に対応して、ON時間が変わるディジタル信号)を出力する。なお、温度計測部210の詳細構成及び温度計測処理の流れについては後述する。
【0019】
演算制御部220は、温度計測部210より出力されるディジタル信号のON時間を計測するタイマー222を備える。タイマー222は、制御回路221内のクロック発生部228が生成したクロックをカウントし、得られたカウント値と当該クロックの周波数に基づいて上記ON時間を計測する。
【0020】
また、演算制御部220は演算処理部223を備える。演算処理部223は、ROM224に格納されたプログラムを実行することで、タイマー222により計測された時間に基づいて温度データを算出し、算出された温度データを時系列でRAM226に記憶し、算出された温度データの時間変化に基づいて被検体の体温を予測演算する。また、EEPROM225には所定の音声データが格納されており、演算処理部223は、この音声データを用いて音声出力部240より音声データの出力を行う。また、クロック発生部228が出力するクロックは、演算処理部223の指示により低周波数クロックと高周波数クロックのいずれかに切り替えることができる。
【0021】
更に、演算制御部220は、演算処理部223における演算結果を表示する表示部230を制御するための表示制御部227を備える。
【0022】
更に、演算制御部220は、上記タイマー222、表示制御部227、演算処理部223、温度計測部210を制御する制御回路221を備える。
【0023】
3.電子体温計における体温計測処理の流れ
3.1 電子体温計における体温計測処理の全体の流れ
次に、電子体温計における体温計測処理の流れについて説明する。なお、ここでは、平衡温予測式の電子体温計100の体温計測処理の流れについて説明するが、本発明はこれに限定されず、実測式の電子体温計、予測/実測を併用するタイプの電子体温計にも適用可能である。
【0024】
<群分けと予測式>
図12は、腋下で測定する電子体温計による実測値変化を例示的に示した図である。
図12に示されるように、時間と共に実測値は平衡温度に近づいていくが、被測定者の体質や温度計測と体表面との接触状態などの測定条件に依存して変化速度が異なる。そこで、実測値の経時変化特性に従い場合分け(群分け)を行い、平衡温度の予測に使用すべき予測式を決定する。
【0025】
以下では、サーミスタ401(図4により後述する)を用いて検出された実測値の特徴に基づいた群分けについて説明する。ただし、本実施形態においては、前述したように検温素子の熱応答特性が良く、実測値の経時変化特性のばらつきが生じやすい。そこで、従来の群分け(たとえば7群)に比較しより多くの群分け(ここでは12群に群分け)を行って、向上した熱応答特性に対応できる例を示すこととする。
【0026】
図13は、実測値の経時変化特性に従う群分けの例を示した図である。図13では、15〜20秒間の温度上昇値(図13の横軸)と20秒における温度(図13の縦軸)とを用いて、全体を12の群に分割した例であり、図上の各点は計測標本における分布を示している。なお、第1群は最も熱応答の早い群であり、最初の温度は高いがすぐに上昇がおさまる部分である。逆に、第8群は最も熱応答の遅い群で、最初の温度は低いが温度上昇が遅くまで続く部分である。尚、ここでは、第9群および第10群は、通常の実測値変化から大きく外れているため、例えば予測不可としてエラー終了するよう構成してもよいし、予測を行わず実測値の表示を行うよう構成してもよい。また、第11群および第12群は、20秒時に体温が36.5度以上となっている群である。
【0027】
上記のような群分けを行った場合、たとえば、実測値が所定値(30℃)以上、かつ温度上昇率が所定値(0.03℃/0.5秒)以上になった時を起点(t=0)として、予測値Yは、実測値Tおよび経過時間tを用いて以下の式で近似できる。
U=(a×t+b)×dT+(c×t+d)
Y=T+Uここで、a〜d:定数,dT:過去5秒間の温度上昇である。
【0028】
20秒以後は、群分けで説明した通りそれぞれの群に応じたa〜dの係数を用いて予測演算を行う。一例として、20〜25秒の間における各群の係数a〜dの値の一例を以下に示す。なお、これらの係数a〜dは多数の計測標本から求められたものであり、あらかじめROM22に記憶されているパラメータ22bの一部である。
【0029】
1群 a=0.554 : b=-6.5185: c=-0.1545: d=2.8915
2群 a=1.1098 : b=-15.446: c=-0.244 : d=4.5294
3群 a=0.7187 : b=-6.9876: c=-0.0571: d=1.0682
4群 a=0.8092 : b=-7.8356: c=-0.0448: d=0.8609
5群 a=0.8555 : b=-9.2469: c=-0.0697: d=1.5205
6群 a=0.4548 : b=-2.1512: c=0.0083 : d=0.2872
7群 a=0.378 : b=-1.3724: c=0.0027 : d=0.8912
8群 a=0.378 : b=-1.3724: c=0.0027 : d=0.8912
11群 a=-0.0148: b=1.9438 : c=0.0282 : d=0.142
12群 a=0.468 : b=-4.794 : c=-0.06 : d=1.2593
【0030】
<電子体温計の体温測定動作>
図3に第1実施形態の電子体温計における体温測定処理手順のフローチャートを示す。以下の動作は、例えば、電源ON/OFFスイッチ103の押下やマグネットリードスイッチ251による電源投入などをトリガに開始される。なお、以下の各ステップは、演算処理部223がROM224に記憶されたプログラムを実行することにより実現されるものである。
【0031】
ステップS301において、演算処理部223は、クロック発生部228が出力するクロックを低周波数クロックに設定する。ステップS302において、演算処理部223は電子体温計の初期化を行い、サーミスタ401による温度値の検出を開始する。たとえば、0.5秒おきにセンサを用いて温度値が検出される。
【0032】
ステップS303において、演算処理部223は、温度変化の度合いが所定値以上である場合に予測を開始させる。例えば、前回実測値(つまり0.5秒前の実測値)からの上昇が所定の値(例えば1℃)以上となる温度値を測定した時点を、予測式の基準点(t=0)と設定し、RAM226に特定タイミングと実測値のデータ(時系列データ)として記憶を開始する。つまり、急激な温度上昇を検出することにより、測定者により所定の測定部位に装着されたと見なすのである。
【0033】
ステップS304において、演算処理部223は、計測中に測定温度低下が観測されたか否かを判断する。所定の低下が見られる場合は、ステップS314に進み、所定の温度低下が見られない場合はステップS305に進む。
【0034】
ステップS305において、演算処理部223は、クロック発生部228が出力するクロックを高周波数クロックに変更する。すなわち、S301〜S304は、体温計測の開始を検出する待機状態であり、高い計測精度は要求されないため、低周波数のクロックを用いて温度計測を行い、省電力を図っている。そして、体温計測の開始とともにクロックを高周波数に設定し、高精度な体温計測を行う。ステップS306において、演算処理部223は、ステップS303で記憶されたデータを用いて、前述した予測式を用いて逐次(所定の周期)予測値を導出(例えば0.5秒おき)する。ただし、本実施形態の演算処理部223は、図13に示される複数の群のそれぞれに対応した予測式を基に予測演算を並列して行う。すなわち、算出された温度値から複数の予測式にしたがって複数の予測値を導出する予測値導出処理を行う。なお、全ての群について並列に(ここでは1〜8、11,12の10種類)演算を行ってもよいし、いくつかの実測値を元におおよその群を設定し周辺のいくつかの群についてのみ演算を行ってもよい。
【0035】
ステップS307において、演算処理部223は、基準点(t=0)から所定時間(所定秒;例えば20秒)だけ経過した後、ステップS306で導出した複数の群に対応するそれぞれの予測値の変化に基づいて群分け判定を行う。この群決定動作の詳細については後述する。
【0036】
ステップS308において、演算処理部223は、ステップS307によって決定された群以外の演算を停止し、判定された群における予測演算を引き続き所定の時間導出する。以上のようにステップS307、S308では、複数の予測値のそれぞれの経時変化に基づいて複数の予測式から一つの予測式が選択され、選択された予測式を用いて体温計測結果としての平衡温度値が取得される。
【0037】
ステップS309において、演算処理部223は、基準点(t=0)から所定時間(所定秒;例えば25秒)だけ経過した時点で、ステップS308の結果導出された一定区間(例えば、t=20〜25秒)における予測値があらかじめ設定された予測成立条件を満たすかどうかをチェックする。例えば、所定の範囲(例えば0.1℃)に収まっているか否かについてのチェックである。予測成立条件を満たした場合はステップS310に進み、予測成立条件を満たさない場合は、ステップS316に進む。
【0038】
ステップS310において、演算処理部223は、クロック発生部228が発生するクロックを低周波数クロックに切り替える。そして、ステップS311において、演算処理部223は、音声出力部240により予測成立を報知し(ブザーの鳴動でも良い)、ステップS312に進む。
【0039】
ステップS312において、演算処理部223は、導出された予測値を表示部230に表示する。
【0040】
ステップS313において、演算処理部223は、検温処理終了の指示を受け付けたか否かを判定する。たとえば、電源ON/OFFスイッチ103が押下されたか否かを判定してもよいし、予測温度表示を行ってから一定時間経過すると自動的に検温処理を終了するよう構成してもよい。或いは、新たな体温計測が所定時間を超えて実行されなかった場合に体温計測終了が指示されたと判断し、予測温度表示を終了するようにしてもよい。あるいは、マグネットリードスイッチ251がOFFし、電源部250からの電源がOFFされるまで予測温度表示を継続してもよい。マグネットリードスイッチ251は、例えば、電子体温計100が永久磁石を内蔵した収納ケース(不図示)に収納されることによりOFFされる。
【0041】
ステップS314において、演算処理部223は、測定されたデータの補正処理を行う。補正処理が正常に行われた場合はステップS303に戻る。一方、補正処理が正常に終了しない場合は、ステップS315に進む。なお、基準点(t=0)の補正処理では、たとえば、下記条件を全て満足した場合に、所定の測定部位に装着される前の温度低下、たとえば服や皮膚への接触や挟み直し、とみなして、図15に示す起点の時間からΔt1+Δt2を引く補正処理を行う。
[条件1]予測式の基準点から温度低下検出までの時間(Δt1)が所定時間(秒)以内(例えば、5秒)であること。
[条件2]温度低下前の実測値が所定値以下(例えば、34℃)であること。
[条件3]温度低下を検出してから、再度温度上昇するまでの時間(Δt2)が所定時間(秒)以内(例えば、8秒)であること。
[条件4]温度低下(ΔT)が所定以内(例えば、1.5℃)であること。
【0042】
ステップS315において、演算処理部223は、音声出力部240によりエラーを報知し(ブザーの鳴動でも良い)、検温を終了する。なお、ブザー鳴動による報知の場合、ブザー音はステップS311とは異なるものであることが望ましい。
【0043】
ステップS316において、演算処理部223は、測定開始から所定の時間(例えば45秒)経過した時は、強制的に予測を成立させ、ステップS310に進む。つまり、その時点で導出されている予測値をそのまま最終予測値と見なす。
【0044】
以上のステップを経て、検温動作を終了する。
【0045】
<予測値に基づく群の決定>
以下では、複数の予測式に基づいて導出された複数の予測値から、最終予測値に用いる予測式に対応する群の決定を行う際の処理(ステップS307に相当)について説明する。
【0046】
図14は、実測値および複数の予測式に基づく予測値の経時変化を例示的に示した図である。この図においては、サーミスタ401により検出される実測値と共に、ステップS306で導出される第1群〜第5群の5つの群に対応する予測値の変化が示されている。以下では、これらの予測値の経時変化に基づいて群の決定を行う。つまり、どの群に対応する予測式を用いた場合に最も精度の高い予測値が得られるかを判定する。
【0047】
ここでは例として、以下の2点の両方が成立する群を選択する。
(1)10秒回帰の変化が所定の値(例えば、0.1度)未満である。
(2)0.5秒毎に導出される予測値に対応した上記の条件を連続5回みたす。
【0048】
つまり、結果として予測値の変動が少ない時系列に対応する群が、本測定における最適な群を選択していると考えられるからである。このように、複数の群について予測演算を行い、それぞれの予測値の経時変化を比較して群の決定を行うことにより、基準点を測定開始点として30秒までに、より精度の高い予測を可能としているのである。
【0049】
なお、上記では、予測の精度を高めるため、群の決定後も引き続き所定の時間だけ予測値を導出(ステップS308〜S309)し、最終的な予測値を決定した。しかし、群決定の際十分に変化が小さい(例えば、0.05度未満)場合には、決定した群に対応する予測値は十分に精度が高いと見なせるため、直ちに最終的な予測値として決定してもよい。
【0050】
一方、群の決定を実測値の経時変化に基づいて行ってもよい。つまり、実測値の時系列データを、図13に示される群分け表と対応させ、最も対応する点の多い群を選択し決定してもよい。
【0051】
以上説明したように、本実施形態の電子体温計により、短時間の測定時間で予測精度の高い電子体温計を実現可能とし測定者への負担を軽減することが出来る。また、適切な予測式の選定により測定時間が短縮されることから、高周波数クロックを用いる期間が短縮され、省電力を実現しつつ高精度な体温計測が実現されることになる。
【0052】
3.2 動作クロックの制御による省電力化
上述したように、本実施形態では、クロック発生部228が出力するクロックの周波数を切り替えることで省電力化と高精度計測を両立している。温度計測部210は、サーミスタとコンデンサが直列に接続された積分回路と、積分回路におけるコンデンサの電圧と所定電圧との比較結果を示す比較信号を出力する比較回路を有する。(図4により後述する)そして、タイマー222は、積分回路のコンデンサにおける充電または放電の開始(定常状態から過渡状態への移行の開始)から比較信号の変化を検出するまでの期間を充電時間或いは放電時間(すなわち、過渡期間)とし、その期間の長さをクロック発生部228が発生するクロック信号を計数することで計測する。この充電時間或いは放電時間は、サーミスタの抵抗値の変化に応じて変化するため、演算処理部223は、充電時間或いは放電時間の計測結果からサーミスタの抵抗値、すなわち、温度値を得ることができる。タイマー222によって計数されるクロックの周波数は高いほど計測精度が上がるが、電力消費は大きくなる。クロックの周波数を低く抑えれば電力消費を低減できるが、計測精度は低下してしまう。本実施形態では、クロック発生部228が発生するクロック信号の周波数を切替えることにより、計測精度を維持すると共に省電力化を図る。すなわち、体温測定中であるか否かを判定し、体温測定中であれば高周波数のクロックを用いてタイマー222による過渡期間の計測精度を維持し、体温測定中でなければ低周波数のクロックを用いて省電力化を図る。上記の例では、体温測定中であるか否かの判定として、予測温度演算の開始時(S306)から予測温度演算の終了時(S311の手前)までを高周波数のクロックとし、他の期間を待機状態として低周波数クロックにより稼動させることで省電力を図っている。
【0053】
なお、クロック周波数の切替方法は、上述した方法に限られるものではない。例えば、図11に示すような演算処理部223によるクロック周波数の切替制御を実行し、図3のS301、S305,S310を省略しても良い。図11に示す処理では、温度計測値と閾値との比較により待機状態か否かを判定し、高周波数クロックを用いるか低周波数クロックを用いるかを決定する。
【0054】
図11のステップS321において、電源ON/OFFスイッチ103の手動操作またはマグネットリードスイッチ(不図示)がON状態になることで、電子体温計の電源がONされると、ステップS322において演算処理部223はクロック発生部228が高い周波数(例えば、1MHz)のクロックを生成するように設定する。なお、このステップでは、クロック発生部228が高い周波数か低い周波数のいずれかで動作するように設定を行えばよく、図示のように高い周波数への設定に限定されるものではない。
【0055】
次に、ステップS323において、演算処理部223は、温度計測部210、タイマー222を用いて温度計測値(実測値)を取得する。上述したように、タイマー222は、温度計測部210内のサーミスタと共に積分回路を形成するコンデンサにおける充電時間或いは放電時間を、クロック発生部228が生成したクロックを計数する。演算処理部223は、タイマー222から得られるクロックの計数値と、当該クロックの周波数から充電時間或いは放電時間を算出し、温度計測値を取得する。本実施形態では、コンデンサにおける放電時間が計測される。
【0056】
ステップS324において、ステップS323で取得した温度計測値が所定の値(Th1)よりも小さく、且つ、現在のクロックの周波数が高い周波数であった場合、演算処理部223は、体温計測状態から非計測状態へ移行したと判断する。そして、非計測状態へ移行したと判断された場合、演算処理部223は、ステップS326において低い周波数(例えば、100kHz)のクロックを発生させるようクロック発生部228を制御する。また、ステップS325において、ステップS323で取得した温度計測値が所定の値(Th2)よりも大きく、且つ、現在のクロックの周波数が低い周波数であった場合、演算処理部223は、非計測状態から体温計測状態へ移行したと判断する。そして、体温計測状態へ移行したと判断された場合、演算処理部223は、ステップS327において高い周波数のクロックを生成させるようクロック発生部228を制御する。
【0057】
以上のようなクロック周波数の切替処理を、図3に示した体温計測処理と並行して実行することにより、体温計測中以外におけるクロック周波数を低く抑えることができ、電子体温計の省電力化を図ることができる。また、体温計測結果としての平衡温度値が取得された時点でクロックの周波数を低クロック周波数に設定するようにしてもよい(すなわち、図11の処理とステップS310の処理を併用してもよい)。また、体温計測中は高い周波数のクロックで動作するので、計測精度は維持される。特に手動操作による電源オン/オフのためのスイッチや自動パワーオフ機能を持たないでマグネットリードスイッチを備えた病院用電子体温計に上記の構成を適用すれば、その省電力効果はより顕著なものとなる。以上のように、本実施形態によれば、計測に利用するクロック周波数の切替を制御することにより、計測精度の維持と省電力化を実現することができ、1日当たりの測定頻度が高い病院などで予測検温する場合に、消費電力が10mW程度となり、使い始めから少なくとも10000回程度の体温測定が可能となる。
【0058】
すなわち、本実施形態におけるクロック周波数の切替処理では、サーミスタを用いて計測された温度値から体温計測中か否かを判定し、体温計測中でないと判定された場合にクロック周波数を低く抑えることにより省電力化を図る。なお、演算処理部223における動作クロックの周波数も、上述の計測用のクロックと同じように切替えることで、より省電力化を図ることができる。上述した周波数切替処理は、サーミスタの抵抗値変化を計測して温度値を取得する電子体温計に適用できるが、特に、単一入力積分型A/D変換回路を用いた温度計測のように積分回路の過渡期間を計測するために高周波数のクロックが必要な構成に適用することでより顕著な効果が得られる。以下、本実施形態による単一入力積分型A/D変換回路を用いた温度計測の構成について説明する。
【0059】
4.温度計測部の詳細構成及び温度計測処理の流れ
次に、温度計測部210の詳細構成及び、ステップS301において開始される温度計測処理の流れについて説明する。なお、温度計測処理の説明にあたっては、本実施形態における温度計測処理の特徴をより明確にするために、はじめに、一般的な温度計測処理の流れを説明する。
【0060】
4.1 温度計測部の詳細構成
図4は、温度計測部210の詳細構成を示す図である。図4に示すように、温度計測部210では、互いに並列に接続されたサーミスタ401及び基準抵抗素子402が、それぞれ、コンデンサ403に直列に接続されている。すなわち、サーミスタ401とコンデンサ403は積分回路を構成する。また、同様に基準抵抗素子402とコンデンサ403も積分回路を構成しており、基準抵抗素子402とサーミスタ401は並列に接続されている。そして、サーミスタ401とコンデンサ403とを含む系の両端、及び基準抵抗素子402とコンデンサ403とを含む系の両端には、電圧切替部410を介してそれぞれ交互に電圧Vが印加されるように構成されている。すなわち、電圧切替部410は、端子T1に電圧Vを印加してコンデンサ403を充電した後、端子T1を0Vとしてコンデンサ403によるサーミスタ401を介した放電を開始させる。また、電圧切替部410は、端子T2に電圧Vを印加してコンデンサ403を充電した後、端子T2を0Vとしてコンデンサ403による基準抵抗素子402を介した放電を開始させる。なお、コンデンサ403への充電は、端子T1、T2のいずれか一方のみを用いるようにしてもよい。
【0061】
ここで、基準抵抗素子402は、周辺温度の変動に関わらず、抵抗値が一定の抵抗素子である。このため、コンデンサ403における充電電圧Vが一定の場合、基準抵抗素子402を介したコンデンサ403による放電時間は一定となる。
【0062】
一方、サーミスタ401は、周辺温度の変動に応じて、抵抗値が変動する抵抗素子である。このため、コンデンサ403に蓄積された電荷をサーミスタ401を介して放電すると、その放電時間は周辺温度に応じて変動することとなる。
【0063】
つまり、電圧Vが一定の場合、コンデンサ403に蓄積される電荷を放電するのに要する放電時間は、基準抵抗素子402を介した放電の場合にあっては、常に一定となり、サーミスタ401を介した放電の場合にあっては、周辺温度に依存することとなる。
【0064】
A/D変換部420を構成するコンパレータ421は、電圧切替部410を介して印加された電圧Vの所定割合の電圧(ここでは、0.25V)以上の電圧をコンデンサ403が有している間、所定の信号を出力する。これにより、A/D変換部420からは、ディジタル信号として、ON信号が出力される。
【0065】
このように、コンデンサ403とA/D変換部420とは、単一入力積分型A/D変換回路を形成する。
【0066】
放電により、コンデンサ403両端の電圧は、徐々に低下していき、所定の電圧(0.25V)以下になると、A/D変換部420より出力されるディジタル信号はOFF信号となる。
【0067】
より一般化して言えば、コンパレータ421は、積分回路におけるコンデンサ403の電圧と所定電圧との比較結果を示す比較信号を出力する。タイマー222は、積分回路におけるコンデンサ403の放電の開始から、コンパレータ421が出力する比較信号の変化を検出するまでの期間においてクロック発生部228が生成したクロック信号をカウントする。こうして、タイマー222では、コンデンサ403による放電の開始以降の、A/D変換部420より出力されるディジタル信号のON時間(放電時間)を計測する。なお、タイマー222が計数するクロックはクロック発生部228が発生したものであるが、上述したようにその周波数は少なくとも2種類存在する。したがって、放電時間は、タイマー222による計数値とそのときのクロックの周波数とから得られることになる。
【0068】
ここで、上述のように、基準抵抗素子402(端子T2)を介して放電された場合にあっては、コンデンサ403に蓄積される電荷量は一定であり、抵抗値も一定となるため、放電時間も一定となる。一方、サーミスタ401(端子T1)を介して放電された場合にあっては、コンデンサ403に蓄積される電荷量一定であるが、抵抗値が周辺温度に応じて変動するため、放電時間も変動する。
【0069】
そこで、電子体温計100では、予め、周辺温度が既知の状態(基準温度)で、サーミスタ401を介してコンデンサ403に蓄積された電荷を放電した場合の放電時間と、基準抵抗素子402を介してコンデンサ403に蓄積された電荷を放電した場合の放電時間とを、それぞれ計測しておく。
【0070】
この結果、基準抵抗素子402を介してコンデンサ403に蓄積された電荷を放電した際の放電時間と、サーミスタ401を介してコンデンサ403に蓄積された電荷を放電した際の放電時間とを比較するだけで、基準温度に対する変動比を算出することが可能となり、周辺温度の温度データを算出することが可能となる。
【0071】
例えば、下式に基づいて、温度データTを算出することができる。
【0072】
T=37℃×(Tth/Tref)×(Tref37/Tth37)
なお、上式において、基準温度は37℃としている。
【0073】
なお、Tref37は、当該基準温度(37℃)において、基準抵抗素子402とコンデンサ403の系の両端に電圧Vを印加してコンデンサ403を充電した後、基準抵抗素子402を介してコンデンサ403の放電を行った場合に計測された放電時間を示している。また、Tth37は、当該基準温度において、サーミスタ401とコンデンサ403の系の両端に電圧Vを印加してコンデンサ403を充電した後、サーミスタ401を解してコンデンサ403の放電を行った場合に計測された放電時間を示している。
【0074】
さらに、Trefは、温度計測処理において、基準抵抗素子402とコンデンサ403の系の両端に電圧Vを印加してコンデンサ403を充電した後、基準抵抗素子402を介して放電を行った場合に計測した放電時間を示している。また、Tthは、温度計測処理において、サーミスタ401とコンデンサ403の系の両端に電圧Vを印加してコンデンサ403を充電した後、サーミスタ401を介して放電を行った場合に計測した放電時間を示している。
【0075】
4.2 一般的な温度計測処理の流れ
図5は、一般的な温度計測処理の流れを示すフローチャートであり、図6は、コンデンサ403の両端の電圧の時間変化及びA/D変換部420より出力されるディジタル信号の時間変化を示す図である。図5及び図6を用いて、一般的な温度計測処理の流れについて説明する。
【0076】
ステップS501では、基準抵抗素子402とコンデンサ403とを含む系の両端に電圧Vを印加する。図6の601は、これにより、コンデンサ403に徐々に電荷が蓄積されていく期間(充電期間)を示している。
【0077】
コンデンサ403の充電が完了すると、ステップS502では、基準抵抗素子402を介したコンデンサ403の放電を行う(放電期間602)。なお、本例では、予め設定された充電時間(充電時間は、コンデンサ403の容量、サーミスタ401や基準抵抗素子402の抵抗値から決定できる)だけコンデンサ403に電圧を印加することで、コンデンサ403への充電が完了したものとする。A/D変換部420からは、コンデンサ403の電圧が0.25V以上である間はON信号が出力されるため、タイマー222では、放電期間602におけるON信号(603)の時間を計測する。これにより、放電を開始してからコンデンサ403の電圧が所定の電圧(ここでは、0.25V)以下になるまでの時間(放電時間604)Trefが計測される(図6の602参照)。
【0078】
コンデンサ403の放電が完了すると、ステップS503では、サーミスタ401とコンデンサ403とを含む系の両端に電圧Vを印加する。図6の605は、これにより、コンデンサ403に徐々に電荷が蓄積されていく期間(充電期間)を示している。
【0079】
コンデンサ403の充電が完了すると、ステップS504では、サーミスタ401を介したコンデンサ403の放電を行う(放電期間606)。A/D変換部420からは、コンデンサ403の電圧が0.25V以上である間はON信号が出力されるため、タイマー222では、放電期間606におけるON信号の時間を計測する。これにより、放電を開始してからコンデンサ403の電圧が所定の電圧(ここでは0.25V)以下になるまでの時間(放電時間608)Tthが計測される。なお、Tthは、サーミスタ401の周辺温度に応じて変動する。
【0080】
コンデンサ403の放電が完了すると、ステップS505では、T=a×Tth/Tref(ただし、aは係数であり、ここでは、a=37℃×(Tref37/Tth37))を計算することで、基準温度に対する変動比を求め、温度を算出する。更に、ステップS506では、算出結果Tを温度測定結果として設定する。
【0081】
これにより、1回の温度計測が完了する。当該温度計測処理は、所定のサンプリングタイミングで、温度計測の終了が指示されるまで繰り返し行われる。なお、1回のサンプリングタイミングで上述した計測を複数回行って、得られた計測値の平均値を当該サンプリングタイミングの計測結果とするようにしてもよい。
【0082】
4.3 一般的な温度計測処理の問題点
ここで、図6の例では、基準抵抗素子402とコンデンサ403の系の両端に印加した電圧と、サーミスタ401とコンデンサ403の系の両端に印加した電圧とが、同じであるとしている。
【0083】
しかしながら、基準抵抗素子402とコンデンサ403の系の両端に印加した電圧と、サーミスタ401とコンデンサ403の系の両端に印加した電圧とが、同じになるとは限らない。
【0084】
一般に、電源部250として電池を用いた場合、A/D変換部420が動作することにより生じる消費電流の影響で、電池の内部抵抗が大きくなり、電源部250の電圧が下がるという特性がある。このため、放電時間を繰り返し計測すると、そのたびに電源部250の電圧が低下する(具体的には、1回目の放電時間を計測する際に、電源部250の電圧が大きく低下し、2回目以降は、計測を繰り返すたびに、更に、徐々に電源部250の電圧が低下していき、やがて、所定の電源電圧に収束する)。
【0085】
つまり、基準抵抗素子402とコンデンサ403の系の両端に印加した電圧と、サーミスタ401とコンデンサ403の系の両端に印加した電圧とでは、電圧値が異なっており、後から印加した電圧のほうが低くなっている。
【0086】
この結果、計測される放電時間には、電源部250の電圧低下分が誤差として含まれていることとなる。
【0087】
このような事態を回避するためには、レギュレータ等を配し、電源部の電圧を安定化させることが有効である。しかしながら、レギュレータ等を配する構成とした場合、レギュレータのリーク電流により電池の消耗が早まるため、電子体温計の長寿命化が妨げられるという問題がある。また、レギュレータ等を配する構成とすると、電子体温計のコスト上昇は不可避となる。
【0088】
そこで、本実施形態では、レギュレータを使用することなく、計測される放電時間に含まれる、電源部250の電圧低下分の誤差を極力排除する構成とすることで、計測精度の維持と、省電力化による長寿命化を実現することができ、1日当たりの測定頻度が高い病院などで予測検温する場合に、消費電力が10mW程度となり、使い始めから少なくとも10000回程度の体温測定が可能となり、実質的に低価格化を実現する。以下、本実施形態における温度計測処理の詳細を説明する。
【0089】
4.4 本実施形態における温度計測処理の流れ
図7は、本実施形態における温度計測処理の流れを示すフローチャートであり、図8は、コンデンサ403の両端の電圧の時間変化及びA/D変換部420より出力されるディジタル信号の時間変化を示す図である。図7及び図8を用いて、本実施形態における温度計測処理の流れについて説明する。
【0090】
ステップS701では、基準抵抗素子402とコンデンサ403とを含む系の両端に電圧Vを印加する。図8の801は、これにより、コンデンサ403に徐々に電荷が蓄積されていく期間(充電期間)を示している。
【0091】
コンデンサ403の充電が完了すると、ステップS702では、基準抵抗素子402を介したコンデンサ403の放電を行う(端子T2を0Vに接続する)。このとき、タイマー222では、放電を開始してからコンデンサ403の電圧が所定の電圧(0.25V)以下になるまでの時間(放電時間802)Tref0を計測する。なお、ステップS702では放電のみを行い、Tref0は計測しなくてもよい。
【0092】
コンデンサ403の放電が完了すると、ステップS703では、再度、基準抵抗素子402とコンデンサ403とを含む系の両端に電圧Vを印加する。図8の803は、これにより、コンデンサ403に徐々に電荷が蓄積されていく期間(充電期間)を示している。
【0093】
コンデンサ403の充電が完了すると、ステップS704では、基準抵抗素子402を介したコンデンサ403の放電を行う。このとき、タイマー222では、放電を開始してからコンデンサ403の電圧が所定の電圧(0.25V)以下になるまでの時間(放電時間804)Tref1を計測する。
【0094】
コンデンサ403の放電が完了すると、ステップS705では、サーミスタ401とコンデンサ403とを含む系の両端に電圧Vを印加する。図8の805は、これにより、コンデンサ403に徐々に電荷が蓄積されていく期間(充電期間)を示している。
【0095】
コンデンサ403の充電が完了すると、ステップS706では、サーミスタ401を介したコンデンサ403の放電を行う(端子T1を0Vに接続する)。このとき、放電を開始してからコンデンサ403の電圧が所定の電圧(0.25V)以下になるまでの時間(放電時間806)Tthを計測する。なお、Tthは、サーミスタ401の周辺温度に応じて変動する。
【0096】
コンデンサ403の放電が完了すると、ステップS707では、再度、基準抵抗素子402とコンデンサ403とを含む系の両端に電圧Vを印加する。図8の807は、これにより、コンデンサ403に徐々に電荷が蓄積されていく期間(充電期間)を示している。
【0097】
コンデンサ403の充電が完了すると、ステップS708では、基準抵抗素子402を介したコンデンサ403の放電を行う。このとき、タイマー222では、放電を開始してからコンデンサ403の電圧が所定の電圧(0.25V)以下になるまでの時間(放電時間808)Tref2を計測する。
【0098】
コンデンサ403の放電が完了すると、ステップS709では、Tref=(Tref1+Tref2)/2を計算する。
【0099】
更にステップS710では、T=a×Tth/Tref(ただし、aは係数)を計算することで、基準温度に対する変動比を求め、温度データを算出する。更に、ステップS711では、計算結果Tを温度計測結果として設定する。
【0100】
これにより、1回の温度計測が完了する。当該温度計測処理は、温度計測の終了が指示されるまで繰り返し行われる。なお、1回のサンプリングタイミングで上述した計測を複数回行って、得られた計測値の平均値を当該サンプリングタイミングの計測結果とするようにしてもよい。
【0101】
このように、本実施形態にかかる電子体温計では、各サンプリングタイミングにおける温度計測時の1回目の放電時間Tref0を、温度データの算出に用いない構成とした。この結果、1回目の放電に伴う電源部250の大幅な電圧低下の影響を低減させることが可能となる。なお、1回目の放電を、サーミスタによる放電として、1回目の放電時間Tth0を温度データの算出に用いない構成としてもよいことはいうまでもない。また、上記の例では温度データの算出に用いない充放電は1回だけ行うようにしているが、温度データの算出に用いない充放電を2回以上行う構成としてもよい。
【0102】
また、本実施形態にかかる電子体温計では、サーミスタを介してコンデンサに蓄積された電荷を放電する際の放電時間を計測する直前と直後とに、それぞれ、基準抵抗素子を介してコンデンサに電荷を蓄積し、蓄積した電荷を放電する際の放電時間Tref1、Tref2を計測する構成とした。更に、直前と直後にそれぞれ計測された放電時間Tref1、Tref2の平均値を、温度データの算出に用いる構成とした。
【0103】
このように、温度データの算出において放電時間の平均値を用いる構成とすることで、放電時間を繰り返し計測することによる電源部の電圧低下の影響を極力低減させることが可能となる。
【0104】
つまり、レギュレータを用いない場合であっても、精度の高い温度計測を実現することが可能となる。この結果、長寿命かつ安価で、計測精度の高い電子体温計を提供することが可能となる。また、クロック周波数の切替との協働により、顕著な省電力効果を得ることができる。
【0105】
[第2の実施形態]
上記第1の実施形態では、温度計測処理開始直後から、コンデンサ403の充電/放電を4回繰り返すことにより、1回の温度計測処理を完了する構成としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、コンデンサ403の充電/放電を3回繰り返すことにより、1回の温度計測処理を完了する構成としてもよい。
【0106】
具体的には、放電の順序を、1回目:基準抵抗素子を介した放電、2回目:基準抵抗素子を介した放電、3回目:サーミスタを介した放電とする。そして、1回目の放電時間Tref0を、温度データの算出に用いないこととする一方で、2回目の放電時間Tref1と、3回目の放電時間Tthとを比較することにより、温度データを算出する構成としてもよい。
【0107】
あるいは、放電の順序を、1回目:基準抵抗素子を介した放電、2回目:サーミスタを介した放電、3回目:基準抵抗素子を介した放電とし、1回目の放電時間Tref0を温度データの算出に用いるようにしてもよい。すなわち、1回目の放電時間Tref0と3回目の放電時間Tref1との平均値、及び、2回目の放電時間Tthを、温度データの算出に用いる構成としてもよい。この手順によれば、各サンプリングタイミングにおける温度計測時の、初期の放電に伴う電源部250の電圧低下がそれほど大きくない構成において、不必要な充放電を行わずに済む。
【0108】
[第3の実施形態]
上記第1の実施形態では、温度計測処理開始直後から、コンデンサの充電/放電を、4回繰り返すことにより、1回の温度計測処理が完了する構成としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、放電時間を繰り返し計測することによる電源部の電圧低下が、一定の閾値以内に収束した後から、コンデンサの充電/放電を繰り返すことにより、1回の温度計測処理を完了する構成としても良い。
【0109】
図9は、本実施形態における温度計測処理の流れを示すフローチャートであり、図10は、コンデンサ403の両端の電圧の時間変化及びA/D変換部420より出力されるディジタル信号の時間変化を示す図である。図9及び図10を用いて、本実施形態における温度計測処理の流れについて説明する。
【0110】
はじめに、ステップS901ではカウンタnに0を入力する。ステップS902では、基準抵抗素子402とコンデンサ403とを含む系の両端に電圧Vを印加する。図10の1001は、これにより、コンデンサ403に徐々に電荷が蓄積されていく期間(充電期間)を示している。
【0111】
コンデンサ403の充電が完了すると、ステップS903では、コンデンサ403の基準抵抗素子402を介した放電を行う。このとき、タイマー222では、放電を開始してからコンデンサ403の電圧が所定の電圧(0.25V)以下になるまでの時間(放電時間1002)Tref_0を計測する。
【0112】
コンデンサ403の放電が完了すると、ステップS904では、再度、基準抵抗素子402とコンデンサ403とを含む系の両端に電圧Vを印加する。図10の1003は、これにより、コンデンサ403に徐々に電荷が蓄積されていく期間(充電期間)を示している。
【0113】
コンデンサ403の充電が完了すると、ステップS905では、再度、コンデンサ403の基準抵抗素子402を介した放電を行う。このとき、タイマー222では、放電を開始してからコンデンサ403の電圧が所定の電圧(0.25V)以下になるまでの時間(放電時間1004)Tref_1を計測する。
【0114】
コンデンサ403の放電が完了すると、ステップS906では、Tref0を計測した際の電圧V0と、Tref1を計測した際の電圧V1とを比較し、電圧V0と電圧V1との差異を計算する(実際にはTref_0とTref_1との差異を計算する)。そして、電圧V0と電圧V1との差異が所定値以下でないと判定された場合には、ステップS907においてnの値をインクリメントした後、ステップS904に戻る。
【0115】
S904では、再度、基準抵抗素子402とコンデンサ403とを含む系の両端に電圧Vを印加する。図10の1005は、これにより、コンデンサ403に徐々に電荷が蓄積されていく期間(充電期間)を示している。
【0116】
コンデンサ403の充電が完了すると、ステップS905では、コンデンサ403の放電を行う。このとき、タイマー222では、放電を開始してからコンデンサ403の電圧が所定の電圧(0.25V)以下になるまでの期間(放電時間1006)Tref_2を計測する。
【0117】
コンデンサ403の放電が完了すると、ステップS906では、Tref_1を計測した際の電圧V1と、Tref_2を計測した際の電圧V2とを比較し、電圧V1と電圧V2との差異を計算する(実際には、Tref_1とTref_2との差異を計算する)。そして、電圧V1と電圧V2との差異が所定値以下でないと判定された場合には、ステップS907においてnの値をインクリメントした後、ステップS904に戻る。
【0118】
以降、放電時間を繰り返し計測することによる電圧低下(Tref_nとTref_n+1との差)が、所定値以下になるまで、基準抵抗素子402とコンデンサ403とを含む系の両端に電圧Vを印加する処理と、基準抵抗素子402を介してコンデンサ403に蓄積された電荷を放電する処理とを繰り返す(S904〜S907)。
【0119】
そして、放電時間を繰り返し計測することによる電圧低下(1007)が、所定値以下になったと判定された場合には、ステップS908に進む。
【0120】
ステップS908では、サーミスタ401とコンデンサ403とを含む系の両端に電圧Vを印加する。図10の1008は、これにより、コンデンサ403に徐々に電荷が蓄積されていく期間(充電期間)を示している。
【0121】
コンデンサ403の充電が完了すると、ステップS909では、サーミスタ401を介したコンデンサ403の放電を行う。このとき、放電を開始してからコンデンサ403の電圧が所定の電圧(0.25V)以下になるまでの時間(放電時間1009)Tthを計測する。
【0122】
コンデンサ403の放電が完了すると、ステップS910では、再度、基準抵抗素子402とコンデンサ403とを含む系の両端に電圧Vを印加する。図10の1010は、これにより、コンデンサ403に徐々に電荷が蓄積されていく期間(充電期間)を示している。
【0123】
コンデンサ403の充電が完了すると、ステップS911では、基準抵抗素子402を介したコンデンサ403の放電を行う。このとき、タイマー222では、放電を開始してからコンデンサ403の電圧が所定の電圧(0.25V)以下になるまでの時間(放電時間1011)Tref_n+2を計測する。
【0124】
コンデンサ403の放電が完了すると、ステップS912では、Tref=(Tref_n+1+Tref_n+2)/2を計算する。
【0125】
更にステップS913では、T=a×Tth/Tref(ただし、aは係数)を計算することで、基準温度に対する変動比を求め、温度データを算出する。更に、ステップS914では、算出結果Tを温度計測結果として設定する。
【0126】
これにより、1回の温度計測が完了する。当該温度計測処理は、温度計測の終了が指示されるまで繰り返し行われる。
【0127】
このように、本実施形態にかかる電子体温計では、放電時間を繰り返し計測することによる電圧部の電圧低下が、一定の閾値以内に収束するまで、基準抵抗素子を介してのコンデンサへの充電/放電を繰り返す構成とした。これにより、放電に伴う電源部の大幅な電圧低下の影響を低減させることが可能となる。
【0128】
また、本実施形態にかかる電子体温計では、サーミスタを介してコンデンサに蓄積された電荷を放電する際の放電時間を計測する直前と直後とに、それぞれ、基準抵抗素子を介してコンデンサに電荷を蓄積し、蓄積した電荷を放電する際の放電時間Tref_n+1、Tref_n+2を計測する構成とした。更に、直前と直後にそれぞれ計測された放電時間Tref_n+1、Tref_n+2の平均値を、温度の計測に用いる構成とした。
【0129】
このように、放電時間の平均値を用いる構成とすることで、放電時間を繰り返し計測することによる電源部の電圧低下の影響を極力低減させることが可能となる。
【0130】
つまり、レギュレータを用いない場合であっても、精度の高い温度計測を実現することが可能となる。この結果、長寿命かつ安価で、計測精度の高い電子体温計を提供することが可能となる。また、クロック周波数の切替との協働により、顕著な省電力効果を得ることができる。
【0131】
なお、上記実施形態では、コンデンサ403への充電に際して、Trefを測定する場合には基準抵抗素子を介した充電、Tthを測定する場合にはサーミスタを介した充電を用いているが、これに限られるものではない。例えば、コンデンサ403への充電は、常に基準抵抗素子またはサーミスタのいずれか一方を介して行うようにしても良いし、基準抵抗素子とサーミスタの両方を介して行うようにしても良い。
【0132】
以上説明したように、上記各実施形態によれば、サーミスタと積分回路により計測値を得る電子体温計において、温度の実測値に基づいて温度計測用のクロックの周波数を切り替えるようにした。このため、予測温度演算を行わない待機期間において低周波数クロックを用いて省電力化を図るとともに、予測温度演算を行う計測期間においては高周波数クロックによる高精度な計測を実現することができる。また、計測期間を、予測温度演算の開始から終了まで(予測温度値が表示されるまで)とすれば、予測温度演算の終了とともにクロックが低周波数に切り替わるので、より効果的に省電力を達成できる。更に、予測温度演算において、初期の実測値から適切な予測式を選定することで、予測温度演算の時間短縮が図られる。そのため、計測期間を短縮でき、より効果的な省電力を達成できる。
【符号の説明】
【0133】
100:電子体温計 101:本体ケース 102:金座億キャップ 103:電源ON/OFFスイッチ 104:液晶表示器 105:スピーカ
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子体温計及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子体温計の分野では、従来より、温度変化に伴うサーミスタの抵抗変化を測定することにより温度計測値を取得している。このようなサーミスタの抵抗変化を測定するための技術として、サーミスタを含むCR発振器を構成してその発振周波数を計測する方法や、単一入力積分型A/D変換回路を用いた方法などが挙げられる(特許文献1)。
【0003】
単一入力積分型A/D変換回路を用いた温度計測では、サーミスタとコンデンサが直列に接続された積分回路が用いられる。そして、サーミスタの抵抗変化に応じて変化する積分回路の過渡期間(コンデンサの充電時間或いは放電時間)を計測することにより温度値の算出を行うことができる。
【0004】
また、特許文献2には、計測開始時の初期の実測値の変化に基づいて適切な予測式を選択して、計測精度を向上するとともに体温計測に要する時間を短縮することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−075263号公報
【特許文献2】特開2007−024530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、病院用の電子体温計では、液密性を持たせるために、手動操作による電源ON/OFFスイッチを設けていない。また、患者が体温測定をした後、看護師が体温計を回収して体温値を読み取るまでの時間が不定であるため、病院用の電子体温計には自動パワーオフ機能は設けないのが普通である。したがって、この種の電子体温計は、体温測定時以外であっても電源ON状態を維持していることが多く、その間に無駄に電力が消費され、電池寿命を縮めることになる。
【0007】
特に、単一入力積分型A/D変換回路を用いた電子体温計では、積分回路の過渡期間をより高精度に測定するために、非常に高い周波数のクロックが必要となり、体温測定時以外の無駄な電力消費はより深刻である。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、計測に用いるクロックの周波数を適切に制御することにより、計測精度を維持しながら体温計測時以外の消費電力を低減する電子体温計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために本発明に係る電子体温計は以下のような構成を備える。即ち、
サーミスタとコンデンサとが直列に接続された積分回路と、
クロック信号を生成するクロック手段と、
前記積分回路において定常状態から過渡状態に移行した際の過渡期間を前記クロック信号をカウントすることにより計測する計測手段と、
前記計測手段で計測された前記過渡期間に基づいて温度値を算出する算出手段と、
前記算出手段で算出された温度値から複数の予測式にしたがって複数の予測値を導出する予測値導出手段と、
前記複数の予測値のそれぞれの経時変化に基づいて、前記複数の予測式から一つの予測式を選択する選択手段と、
前記選択手段により選択された予測式を用いて体温計測結果としての平衡温度値を取得し、表示する表示出力手段とを備え、
前記クロック手段は、前記算出手段で算出された温度値に基づいて、前記クロック信号の周波数を切り替える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、計測に用いるクロックの周波数が適切に制御されるので、計測精度を維持しながら体温計測時以外の消費電力を低減でき、予測検温の場合に少なくとも10000回の検温が可能な予測/実測電子体温計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態にかかる電子体温計100の外観構成を示す図である。
【図2】電子体温計100の機能構成を示す内部ブロック図である。
【図3】電子体温計100における体温計測処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】温度計測部210の詳細構成を示す図である。
【図5】積分回路を用いた一般的な温度計測処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】コンデンサ403の両端の電圧の時間変化及びA/D変換部420より出力されるディジタル信号の時間変化を示す図である。
【図7】第1の実施形態における温度計測処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】コンデンサ403の両端の電圧の時間変化及びA/D変換部420より出力されるディジタル信号の時間変化を示す図である。
【図9】第3の実施形態における温度計測処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】コンデンサ403の両端の電圧の時間変化及びA/D変換部420より出力されるディジタル信号の時間変化を示す図である。
【図11】実施形態によるクロック周波数の切替処理を説明するフローチャートである。
【図12】検温素子による温度実測値の変化の例を示す図である。
【図13】電子体温計の計測値に基づく群分けを説明する図である。
【図14】複数の予測値の変化に基づく群の決定を説明する図である。
【図15】基準点の補正を行なう場合の条件を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0013】
[第1の実施形態]
1.電子体温計の外観構成
図1は、本発明の一実施形態にかかる予測/実測電子体温計100の外観構成を示す図であり、図1(a)は平面図を、図1(b)は側面図をそれぞれ示している。101は耐衝撃性と耐薬品性を有する熱可塑性樹脂からなる本体ケースで、図2により後述する演算制御部220等の電子回路、電池(電源部250)等が収納される。
【0014】
102は、ステンレス製の金属キャップで、内部には温度を計測するためのサーミスタ(詳細は後述)等が液密に収納される。103は電源ON/OFFスイッチであり、1回押圧すると電源部250がONとなり、再度押圧すると電源部250がOFFとなる。なお、病院用の電子体温計などでは、液密性をもたせるために、電源ON/OFFスイッチ103のような手動操作によるON/OFFスイッチを設けないで、マグネットリードスイッチ251(図2)を設けている。このため、電子体温計100が収納ケースから出されるとマグネットリードスイッチがONされ、電源部250から演算制御部220等の電子回路、温度計測部210、表示部230等に電子体温計100が永久磁石を内蔵した収納ケース(不図示)に収納されるまで電源が供給され続け、電源がON状態となる。なお、電源ON/OFFスイッチ103とマグネットリードスイッチ251の両方を具備させるようにしても良い。
【0015】
104は液晶表示器であり、被検者の体温を表示する。105はスピーカであり、演算制御部220における処理に基づいて、音声を出力する。なお、音声出力ではなく、単にブザー等で体温計測終了等を通知するものとしてもよい。また、表示器104は液晶に限られるものではない。また、表示器104は耐衝撃性と耐薬品性を有し、透明の熱可塑性樹脂で形成された窓部材で覆われ、この窓部材は、本体ケース101と2色成形され、液密性を有している。
【0016】
2.電子体温計の機能構成
図2は本実施形態にかかる電子体温計100の機能構成を示す内部ブロック図である。
【0017】
電子体温計100は、温度に対応した時間分のON信号を出力する温度計測部210と、温度計測部210より出力されたON信号に基づいて各種処理を行い、被検者の体温を演算すると共に電子体温計100全体の動作を制御する演算制御部220と、演算された被検者の体温を表示器104(例えば、液晶表示器)に表示する表示部230と、スピーカ105により音声データを出力する音声出力部240と、電源部250とを備える。電源部250は電池を含み、マグネットリードスイッチ251を介して電力を演算制御部220等へ供給する。
【0018】
温度計測部210は、互いに並列に接続されたサーミスタ(測定用抵抗素子)及び基準抵抗素子と、単一入力積分型A/D変換回路とを備え、温度に対応した時間分のON信号(温度に対応して、ON時間が変わるディジタル信号)を出力する。なお、温度計測部210の詳細構成及び温度計測処理の流れについては後述する。
【0019】
演算制御部220は、温度計測部210より出力されるディジタル信号のON時間を計測するタイマー222を備える。タイマー222は、制御回路221内のクロック発生部228が生成したクロックをカウントし、得られたカウント値と当該クロックの周波数に基づいて上記ON時間を計測する。
【0020】
また、演算制御部220は演算処理部223を備える。演算処理部223は、ROM224に格納されたプログラムを実行することで、タイマー222により計測された時間に基づいて温度データを算出し、算出された温度データを時系列でRAM226に記憶し、算出された温度データの時間変化に基づいて被検体の体温を予測演算する。また、EEPROM225には所定の音声データが格納されており、演算処理部223は、この音声データを用いて音声出力部240より音声データの出力を行う。また、クロック発生部228が出力するクロックは、演算処理部223の指示により低周波数クロックと高周波数クロックのいずれかに切り替えることができる。
【0021】
更に、演算制御部220は、演算処理部223における演算結果を表示する表示部230を制御するための表示制御部227を備える。
【0022】
更に、演算制御部220は、上記タイマー222、表示制御部227、演算処理部223、温度計測部210を制御する制御回路221を備える。
【0023】
3.電子体温計における体温計測処理の流れ
3.1 電子体温計における体温計測処理の全体の流れ
次に、電子体温計における体温計測処理の流れについて説明する。なお、ここでは、平衡温予測式の電子体温計100の体温計測処理の流れについて説明するが、本発明はこれに限定されず、実測式の電子体温計、予測/実測を併用するタイプの電子体温計にも適用可能である。
【0024】
<群分けと予測式>
図12は、腋下で測定する電子体温計による実測値変化を例示的に示した図である。
図12に示されるように、時間と共に実測値は平衡温度に近づいていくが、被測定者の体質や温度計測と体表面との接触状態などの測定条件に依存して変化速度が異なる。そこで、実測値の経時変化特性に従い場合分け(群分け)を行い、平衡温度の予測に使用すべき予測式を決定する。
【0025】
以下では、サーミスタ401(図4により後述する)を用いて検出された実測値の特徴に基づいた群分けについて説明する。ただし、本実施形態においては、前述したように検温素子の熱応答特性が良く、実測値の経時変化特性のばらつきが生じやすい。そこで、従来の群分け(たとえば7群)に比較しより多くの群分け(ここでは12群に群分け)を行って、向上した熱応答特性に対応できる例を示すこととする。
【0026】
図13は、実測値の経時変化特性に従う群分けの例を示した図である。図13では、15〜20秒間の温度上昇値(図13の横軸)と20秒における温度(図13の縦軸)とを用いて、全体を12の群に分割した例であり、図上の各点は計測標本における分布を示している。なお、第1群は最も熱応答の早い群であり、最初の温度は高いがすぐに上昇がおさまる部分である。逆に、第8群は最も熱応答の遅い群で、最初の温度は低いが温度上昇が遅くまで続く部分である。尚、ここでは、第9群および第10群は、通常の実測値変化から大きく外れているため、例えば予測不可としてエラー終了するよう構成してもよいし、予測を行わず実測値の表示を行うよう構成してもよい。また、第11群および第12群は、20秒時に体温が36.5度以上となっている群である。
【0027】
上記のような群分けを行った場合、たとえば、実測値が所定値(30℃)以上、かつ温度上昇率が所定値(0.03℃/0.5秒)以上になった時を起点(t=0)として、予測値Yは、実測値Tおよび経過時間tを用いて以下の式で近似できる。
U=(a×t+b)×dT+(c×t+d)
Y=T+Uここで、a〜d:定数,dT:過去5秒間の温度上昇である。
【0028】
20秒以後は、群分けで説明した通りそれぞれの群に応じたa〜dの係数を用いて予測演算を行う。一例として、20〜25秒の間における各群の係数a〜dの値の一例を以下に示す。なお、これらの係数a〜dは多数の計測標本から求められたものであり、あらかじめROM22に記憶されているパラメータ22bの一部である。
【0029】
1群 a=0.554 : b=-6.5185: c=-0.1545: d=2.8915
2群 a=1.1098 : b=-15.446: c=-0.244 : d=4.5294
3群 a=0.7187 : b=-6.9876: c=-0.0571: d=1.0682
4群 a=0.8092 : b=-7.8356: c=-0.0448: d=0.8609
5群 a=0.8555 : b=-9.2469: c=-0.0697: d=1.5205
6群 a=0.4548 : b=-2.1512: c=0.0083 : d=0.2872
7群 a=0.378 : b=-1.3724: c=0.0027 : d=0.8912
8群 a=0.378 : b=-1.3724: c=0.0027 : d=0.8912
11群 a=-0.0148: b=1.9438 : c=0.0282 : d=0.142
12群 a=0.468 : b=-4.794 : c=-0.06 : d=1.2593
【0030】
<電子体温計の体温測定動作>
図3に第1実施形態の電子体温計における体温測定処理手順のフローチャートを示す。以下の動作は、例えば、電源ON/OFFスイッチ103の押下やマグネットリードスイッチ251による電源投入などをトリガに開始される。なお、以下の各ステップは、演算処理部223がROM224に記憶されたプログラムを実行することにより実現されるものである。
【0031】
ステップS301において、演算処理部223は、クロック発生部228が出力するクロックを低周波数クロックに設定する。ステップS302において、演算処理部223は電子体温計の初期化を行い、サーミスタ401による温度値の検出を開始する。たとえば、0.5秒おきにセンサを用いて温度値が検出される。
【0032】
ステップS303において、演算処理部223は、温度変化の度合いが所定値以上である場合に予測を開始させる。例えば、前回実測値(つまり0.5秒前の実測値)からの上昇が所定の値(例えば1℃)以上となる温度値を測定した時点を、予測式の基準点(t=0)と設定し、RAM226に特定タイミングと実測値のデータ(時系列データ)として記憶を開始する。つまり、急激な温度上昇を検出することにより、測定者により所定の測定部位に装着されたと見なすのである。
【0033】
ステップS304において、演算処理部223は、計測中に測定温度低下が観測されたか否かを判断する。所定の低下が見られる場合は、ステップS314に進み、所定の温度低下が見られない場合はステップS305に進む。
【0034】
ステップS305において、演算処理部223は、クロック発生部228が出力するクロックを高周波数クロックに変更する。すなわち、S301〜S304は、体温計測の開始を検出する待機状態であり、高い計測精度は要求されないため、低周波数のクロックを用いて温度計測を行い、省電力を図っている。そして、体温計測の開始とともにクロックを高周波数に設定し、高精度な体温計測を行う。ステップS306において、演算処理部223は、ステップS303で記憶されたデータを用いて、前述した予測式を用いて逐次(所定の周期)予測値を導出(例えば0.5秒おき)する。ただし、本実施形態の演算処理部223は、図13に示される複数の群のそれぞれに対応した予測式を基に予測演算を並列して行う。すなわち、算出された温度値から複数の予測式にしたがって複数の予測値を導出する予測値導出処理を行う。なお、全ての群について並列に(ここでは1〜8、11,12の10種類)演算を行ってもよいし、いくつかの実測値を元におおよその群を設定し周辺のいくつかの群についてのみ演算を行ってもよい。
【0035】
ステップS307において、演算処理部223は、基準点(t=0)から所定時間(所定秒;例えば20秒)だけ経過した後、ステップS306で導出した複数の群に対応するそれぞれの予測値の変化に基づいて群分け判定を行う。この群決定動作の詳細については後述する。
【0036】
ステップS308において、演算処理部223は、ステップS307によって決定された群以外の演算を停止し、判定された群における予測演算を引き続き所定の時間導出する。以上のようにステップS307、S308では、複数の予測値のそれぞれの経時変化に基づいて複数の予測式から一つの予測式が選択され、選択された予測式を用いて体温計測結果としての平衡温度値が取得される。
【0037】
ステップS309において、演算処理部223は、基準点(t=0)から所定時間(所定秒;例えば25秒)だけ経過した時点で、ステップS308の結果導出された一定区間(例えば、t=20〜25秒)における予測値があらかじめ設定された予測成立条件を満たすかどうかをチェックする。例えば、所定の範囲(例えば0.1℃)に収まっているか否かについてのチェックである。予測成立条件を満たした場合はステップS310に進み、予測成立条件を満たさない場合は、ステップS316に進む。
【0038】
ステップS310において、演算処理部223は、クロック発生部228が発生するクロックを低周波数クロックに切り替える。そして、ステップS311において、演算処理部223は、音声出力部240により予測成立を報知し(ブザーの鳴動でも良い)、ステップS312に進む。
【0039】
ステップS312において、演算処理部223は、導出された予測値を表示部230に表示する。
【0040】
ステップS313において、演算処理部223は、検温処理終了の指示を受け付けたか否かを判定する。たとえば、電源ON/OFFスイッチ103が押下されたか否かを判定してもよいし、予測温度表示を行ってから一定時間経過すると自動的に検温処理を終了するよう構成してもよい。或いは、新たな体温計測が所定時間を超えて実行されなかった場合に体温計測終了が指示されたと判断し、予測温度表示を終了するようにしてもよい。あるいは、マグネットリードスイッチ251がOFFし、電源部250からの電源がOFFされるまで予測温度表示を継続してもよい。マグネットリードスイッチ251は、例えば、電子体温計100が永久磁石を内蔵した収納ケース(不図示)に収納されることによりOFFされる。
【0041】
ステップS314において、演算処理部223は、測定されたデータの補正処理を行う。補正処理が正常に行われた場合はステップS303に戻る。一方、補正処理が正常に終了しない場合は、ステップS315に進む。なお、基準点(t=0)の補正処理では、たとえば、下記条件を全て満足した場合に、所定の測定部位に装着される前の温度低下、たとえば服や皮膚への接触や挟み直し、とみなして、図15に示す起点の時間からΔt1+Δt2を引く補正処理を行う。
[条件1]予測式の基準点から温度低下検出までの時間(Δt1)が所定時間(秒)以内(例えば、5秒)であること。
[条件2]温度低下前の実測値が所定値以下(例えば、34℃)であること。
[条件3]温度低下を検出してから、再度温度上昇するまでの時間(Δt2)が所定時間(秒)以内(例えば、8秒)であること。
[条件4]温度低下(ΔT)が所定以内(例えば、1.5℃)であること。
【0042】
ステップS315において、演算処理部223は、音声出力部240によりエラーを報知し(ブザーの鳴動でも良い)、検温を終了する。なお、ブザー鳴動による報知の場合、ブザー音はステップS311とは異なるものであることが望ましい。
【0043】
ステップS316において、演算処理部223は、測定開始から所定の時間(例えば45秒)経過した時は、強制的に予測を成立させ、ステップS310に進む。つまり、その時点で導出されている予測値をそのまま最終予測値と見なす。
【0044】
以上のステップを経て、検温動作を終了する。
【0045】
<予測値に基づく群の決定>
以下では、複数の予測式に基づいて導出された複数の予測値から、最終予測値に用いる予測式に対応する群の決定を行う際の処理(ステップS307に相当)について説明する。
【0046】
図14は、実測値および複数の予測式に基づく予測値の経時変化を例示的に示した図である。この図においては、サーミスタ401により検出される実測値と共に、ステップS306で導出される第1群〜第5群の5つの群に対応する予測値の変化が示されている。以下では、これらの予測値の経時変化に基づいて群の決定を行う。つまり、どの群に対応する予測式を用いた場合に最も精度の高い予測値が得られるかを判定する。
【0047】
ここでは例として、以下の2点の両方が成立する群を選択する。
(1)10秒回帰の変化が所定の値(例えば、0.1度)未満である。
(2)0.5秒毎に導出される予測値に対応した上記の条件を連続5回みたす。
【0048】
つまり、結果として予測値の変動が少ない時系列に対応する群が、本測定における最適な群を選択していると考えられるからである。このように、複数の群について予測演算を行い、それぞれの予測値の経時変化を比較して群の決定を行うことにより、基準点を測定開始点として30秒までに、より精度の高い予測を可能としているのである。
【0049】
なお、上記では、予測の精度を高めるため、群の決定後も引き続き所定の時間だけ予測値を導出(ステップS308〜S309)し、最終的な予測値を決定した。しかし、群決定の際十分に変化が小さい(例えば、0.05度未満)場合には、決定した群に対応する予測値は十分に精度が高いと見なせるため、直ちに最終的な予測値として決定してもよい。
【0050】
一方、群の決定を実測値の経時変化に基づいて行ってもよい。つまり、実測値の時系列データを、図13に示される群分け表と対応させ、最も対応する点の多い群を選択し決定してもよい。
【0051】
以上説明したように、本実施形態の電子体温計により、短時間の測定時間で予測精度の高い電子体温計を実現可能とし測定者への負担を軽減することが出来る。また、適切な予測式の選定により測定時間が短縮されることから、高周波数クロックを用いる期間が短縮され、省電力を実現しつつ高精度な体温計測が実現されることになる。
【0052】
3.2 動作クロックの制御による省電力化
上述したように、本実施形態では、クロック発生部228が出力するクロックの周波数を切り替えることで省電力化と高精度計測を両立している。温度計測部210は、サーミスタとコンデンサが直列に接続された積分回路と、積分回路におけるコンデンサの電圧と所定電圧との比較結果を示す比較信号を出力する比較回路を有する。(図4により後述する)そして、タイマー222は、積分回路のコンデンサにおける充電または放電の開始(定常状態から過渡状態への移行の開始)から比較信号の変化を検出するまでの期間を充電時間或いは放電時間(すなわち、過渡期間)とし、その期間の長さをクロック発生部228が発生するクロック信号を計数することで計測する。この充電時間或いは放電時間は、サーミスタの抵抗値の変化に応じて変化するため、演算処理部223は、充電時間或いは放電時間の計測結果からサーミスタの抵抗値、すなわち、温度値を得ることができる。タイマー222によって計数されるクロックの周波数は高いほど計測精度が上がるが、電力消費は大きくなる。クロックの周波数を低く抑えれば電力消費を低減できるが、計測精度は低下してしまう。本実施形態では、クロック発生部228が発生するクロック信号の周波数を切替えることにより、計測精度を維持すると共に省電力化を図る。すなわち、体温測定中であるか否かを判定し、体温測定中であれば高周波数のクロックを用いてタイマー222による過渡期間の計測精度を維持し、体温測定中でなければ低周波数のクロックを用いて省電力化を図る。上記の例では、体温測定中であるか否かの判定として、予測温度演算の開始時(S306)から予測温度演算の終了時(S311の手前)までを高周波数のクロックとし、他の期間を待機状態として低周波数クロックにより稼動させることで省電力を図っている。
【0053】
なお、クロック周波数の切替方法は、上述した方法に限られるものではない。例えば、図11に示すような演算処理部223によるクロック周波数の切替制御を実行し、図3のS301、S305,S310を省略しても良い。図11に示す処理では、温度計測値と閾値との比較により待機状態か否かを判定し、高周波数クロックを用いるか低周波数クロックを用いるかを決定する。
【0054】
図11のステップS321において、電源ON/OFFスイッチ103の手動操作またはマグネットリードスイッチ(不図示)がON状態になることで、電子体温計の電源がONされると、ステップS322において演算処理部223はクロック発生部228が高い周波数(例えば、1MHz)のクロックを生成するように設定する。なお、このステップでは、クロック発生部228が高い周波数か低い周波数のいずれかで動作するように設定を行えばよく、図示のように高い周波数への設定に限定されるものではない。
【0055】
次に、ステップS323において、演算処理部223は、温度計測部210、タイマー222を用いて温度計測値(実測値)を取得する。上述したように、タイマー222は、温度計測部210内のサーミスタと共に積分回路を形成するコンデンサにおける充電時間或いは放電時間を、クロック発生部228が生成したクロックを計数する。演算処理部223は、タイマー222から得られるクロックの計数値と、当該クロックの周波数から充電時間或いは放電時間を算出し、温度計測値を取得する。本実施形態では、コンデンサにおける放電時間が計測される。
【0056】
ステップS324において、ステップS323で取得した温度計測値が所定の値(Th1)よりも小さく、且つ、現在のクロックの周波数が高い周波数であった場合、演算処理部223は、体温計測状態から非計測状態へ移行したと判断する。そして、非計測状態へ移行したと判断された場合、演算処理部223は、ステップS326において低い周波数(例えば、100kHz)のクロックを発生させるようクロック発生部228を制御する。また、ステップS325において、ステップS323で取得した温度計測値が所定の値(Th2)よりも大きく、且つ、現在のクロックの周波数が低い周波数であった場合、演算処理部223は、非計測状態から体温計測状態へ移行したと判断する。そして、体温計測状態へ移行したと判断された場合、演算処理部223は、ステップS327において高い周波数のクロックを生成させるようクロック発生部228を制御する。
【0057】
以上のようなクロック周波数の切替処理を、図3に示した体温計測処理と並行して実行することにより、体温計測中以外におけるクロック周波数を低く抑えることができ、電子体温計の省電力化を図ることができる。また、体温計測結果としての平衡温度値が取得された時点でクロックの周波数を低クロック周波数に設定するようにしてもよい(すなわち、図11の処理とステップS310の処理を併用してもよい)。また、体温計測中は高い周波数のクロックで動作するので、計測精度は維持される。特に手動操作による電源オン/オフのためのスイッチや自動パワーオフ機能を持たないでマグネットリードスイッチを備えた病院用電子体温計に上記の構成を適用すれば、その省電力効果はより顕著なものとなる。以上のように、本実施形態によれば、計測に利用するクロック周波数の切替を制御することにより、計測精度の維持と省電力化を実現することができ、1日当たりの測定頻度が高い病院などで予測検温する場合に、消費電力が10mW程度となり、使い始めから少なくとも10000回程度の体温測定が可能となる。
【0058】
すなわち、本実施形態におけるクロック周波数の切替処理では、サーミスタを用いて計測された温度値から体温計測中か否かを判定し、体温計測中でないと判定された場合にクロック周波数を低く抑えることにより省電力化を図る。なお、演算処理部223における動作クロックの周波数も、上述の計測用のクロックと同じように切替えることで、より省電力化を図ることができる。上述した周波数切替処理は、サーミスタの抵抗値変化を計測して温度値を取得する電子体温計に適用できるが、特に、単一入力積分型A/D変換回路を用いた温度計測のように積分回路の過渡期間を計測するために高周波数のクロックが必要な構成に適用することでより顕著な効果が得られる。以下、本実施形態による単一入力積分型A/D変換回路を用いた温度計測の構成について説明する。
【0059】
4.温度計測部の詳細構成及び温度計測処理の流れ
次に、温度計測部210の詳細構成及び、ステップS301において開始される温度計測処理の流れについて説明する。なお、温度計測処理の説明にあたっては、本実施形態における温度計測処理の特徴をより明確にするために、はじめに、一般的な温度計測処理の流れを説明する。
【0060】
4.1 温度計測部の詳細構成
図4は、温度計測部210の詳細構成を示す図である。図4に示すように、温度計測部210では、互いに並列に接続されたサーミスタ401及び基準抵抗素子402が、それぞれ、コンデンサ403に直列に接続されている。すなわち、サーミスタ401とコンデンサ403は積分回路を構成する。また、同様に基準抵抗素子402とコンデンサ403も積分回路を構成しており、基準抵抗素子402とサーミスタ401は並列に接続されている。そして、サーミスタ401とコンデンサ403とを含む系の両端、及び基準抵抗素子402とコンデンサ403とを含む系の両端には、電圧切替部410を介してそれぞれ交互に電圧Vが印加されるように構成されている。すなわち、電圧切替部410は、端子T1に電圧Vを印加してコンデンサ403を充電した後、端子T1を0Vとしてコンデンサ403によるサーミスタ401を介した放電を開始させる。また、電圧切替部410は、端子T2に電圧Vを印加してコンデンサ403を充電した後、端子T2を0Vとしてコンデンサ403による基準抵抗素子402を介した放電を開始させる。なお、コンデンサ403への充電は、端子T1、T2のいずれか一方のみを用いるようにしてもよい。
【0061】
ここで、基準抵抗素子402は、周辺温度の変動に関わらず、抵抗値が一定の抵抗素子である。このため、コンデンサ403における充電電圧Vが一定の場合、基準抵抗素子402を介したコンデンサ403による放電時間は一定となる。
【0062】
一方、サーミスタ401は、周辺温度の変動に応じて、抵抗値が変動する抵抗素子である。このため、コンデンサ403に蓄積された電荷をサーミスタ401を介して放電すると、その放電時間は周辺温度に応じて変動することとなる。
【0063】
つまり、電圧Vが一定の場合、コンデンサ403に蓄積される電荷を放電するのに要する放電時間は、基準抵抗素子402を介した放電の場合にあっては、常に一定となり、サーミスタ401を介した放電の場合にあっては、周辺温度に依存することとなる。
【0064】
A/D変換部420を構成するコンパレータ421は、電圧切替部410を介して印加された電圧Vの所定割合の電圧(ここでは、0.25V)以上の電圧をコンデンサ403が有している間、所定の信号を出力する。これにより、A/D変換部420からは、ディジタル信号として、ON信号が出力される。
【0065】
このように、コンデンサ403とA/D変換部420とは、単一入力積分型A/D変換回路を形成する。
【0066】
放電により、コンデンサ403両端の電圧は、徐々に低下していき、所定の電圧(0.25V)以下になると、A/D変換部420より出力されるディジタル信号はOFF信号となる。
【0067】
より一般化して言えば、コンパレータ421は、積分回路におけるコンデンサ403の電圧と所定電圧との比較結果を示す比較信号を出力する。タイマー222は、積分回路におけるコンデンサ403の放電の開始から、コンパレータ421が出力する比較信号の変化を検出するまでの期間においてクロック発生部228が生成したクロック信号をカウントする。こうして、タイマー222では、コンデンサ403による放電の開始以降の、A/D変換部420より出力されるディジタル信号のON時間(放電時間)を計測する。なお、タイマー222が計数するクロックはクロック発生部228が発生したものであるが、上述したようにその周波数は少なくとも2種類存在する。したがって、放電時間は、タイマー222による計数値とそのときのクロックの周波数とから得られることになる。
【0068】
ここで、上述のように、基準抵抗素子402(端子T2)を介して放電された場合にあっては、コンデンサ403に蓄積される電荷量は一定であり、抵抗値も一定となるため、放電時間も一定となる。一方、サーミスタ401(端子T1)を介して放電された場合にあっては、コンデンサ403に蓄積される電荷量一定であるが、抵抗値が周辺温度に応じて変動するため、放電時間も変動する。
【0069】
そこで、電子体温計100では、予め、周辺温度が既知の状態(基準温度)で、サーミスタ401を介してコンデンサ403に蓄積された電荷を放電した場合の放電時間と、基準抵抗素子402を介してコンデンサ403に蓄積された電荷を放電した場合の放電時間とを、それぞれ計測しておく。
【0070】
この結果、基準抵抗素子402を介してコンデンサ403に蓄積された電荷を放電した際の放電時間と、サーミスタ401を介してコンデンサ403に蓄積された電荷を放電した際の放電時間とを比較するだけで、基準温度に対する変動比を算出することが可能となり、周辺温度の温度データを算出することが可能となる。
【0071】
例えば、下式に基づいて、温度データTを算出することができる。
【0072】
T=37℃×(Tth/Tref)×(Tref37/Tth37)
なお、上式において、基準温度は37℃としている。
【0073】
なお、Tref37は、当該基準温度(37℃)において、基準抵抗素子402とコンデンサ403の系の両端に電圧Vを印加してコンデンサ403を充電した後、基準抵抗素子402を介してコンデンサ403の放電を行った場合に計測された放電時間を示している。また、Tth37は、当該基準温度において、サーミスタ401とコンデンサ403の系の両端に電圧Vを印加してコンデンサ403を充電した後、サーミスタ401を解してコンデンサ403の放電を行った場合に計測された放電時間を示している。
【0074】
さらに、Trefは、温度計測処理において、基準抵抗素子402とコンデンサ403の系の両端に電圧Vを印加してコンデンサ403を充電した後、基準抵抗素子402を介して放電を行った場合に計測した放電時間を示している。また、Tthは、温度計測処理において、サーミスタ401とコンデンサ403の系の両端に電圧Vを印加してコンデンサ403を充電した後、サーミスタ401を介して放電を行った場合に計測した放電時間を示している。
【0075】
4.2 一般的な温度計測処理の流れ
図5は、一般的な温度計測処理の流れを示すフローチャートであり、図6は、コンデンサ403の両端の電圧の時間変化及びA/D変換部420より出力されるディジタル信号の時間変化を示す図である。図5及び図6を用いて、一般的な温度計測処理の流れについて説明する。
【0076】
ステップS501では、基準抵抗素子402とコンデンサ403とを含む系の両端に電圧Vを印加する。図6の601は、これにより、コンデンサ403に徐々に電荷が蓄積されていく期間(充電期間)を示している。
【0077】
コンデンサ403の充電が完了すると、ステップS502では、基準抵抗素子402を介したコンデンサ403の放電を行う(放電期間602)。なお、本例では、予め設定された充電時間(充電時間は、コンデンサ403の容量、サーミスタ401や基準抵抗素子402の抵抗値から決定できる)だけコンデンサ403に電圧を印加することで、コンデンサ403への充電が完了したものとする。A/D変換部420からは、コンデンサ403の電圧が0.25V以上である間はON信号が出力されるため、タイマー222では、放電期間602におけるON信号(603)の時間を計測する。これにより、放電を開始してからコンデンサ403の電圧が所定の電圧(ここでは、0.25V)以下になるまでの時間(放電時間604)Trefが計測される(図6の602参照)。
【0078】
コンデンサ403の放電が完了すると、ステップS503では、サーミスタ401とコンデンサ403とを含む系の両端に電圧Vを印加する。図6の605は、これにより、コンデンサ403に徐々に電荷が蓄積されていく期間(充電期間)を示している。
【0079】
コンデンサ403の充電が完了すると、ステップS504では、サーミスタ401を介したコンデンサ403の放電を行う(放電期間606)。A/D変換部420からは、コンデンサ403の電圧が0.25V以上である間はON信号が出力されるため、タイマー222では、放電期間606におけるON信号の時間を計測する。これにより、放電を開始してからコンデンサ403の電圧が所定の電圧(ここでは0.25V)以下になるまでの時間(放電時間608)Tthが計測される。なお、Tthは、サーミスタ401の周辺温度に応じて変動する。
【0080】
コンデンサ403の放電が完了すると、ステップS505では、T=a×Tth/Tref(ただし、aは係数であり、ここでは、a=37℃×(Tref37/Tth37))を計算することで、基準温度に対する変動比を求め、温度を算出する。更に、ステップS506では、算出結果Tを温度測定結果として設定する。
【0081】
これにより、1回の温度計測が完了する。当該温度計測処理は、所定のサンプリングタイミングで、温度計測の終了が指示されるまで繰り返し行われる。なお、1回のサンプリングタイミングで上述した計測を複数回行って、得られた計測値の平均値を当該サンプリングタイミングの計測結果とするようにしてもよい。
【0082】
4.3 一般的な温度計測処理の問題点
ここで、図6の例では、基準抵抗素子402とコンデンサ403の系の両端に印加した電圧と、サーミスタ401とコンデンサ403の系の両端に印加した電圧とが、同じであるとしている。
【0083】
しかしながら、基準抵抗素子402とコンデンサ403の系の両端に印加した電圧と、サーミスタ401とコンデンサ403の系の両端に印加した電圧とが、同じになるとは限らない。
【0084】
一般に、電源部250として電池を用いた場合、A/D変換部420が動作することにより生じる消費電流の影響で、電池の内部抵抗が大きくなり、電源部250の電圧が下がるという特性がある。このため、放電時間を繰り返し計測すると、そのたびに電源部250の電圧が低下する(具体的には、1回目の放電時間を計測する際に、電源部250の電圧が大きく低下し、2回目以降は、計測を繰り返すたびに、更に、徐々に電源部250の電圧が低下していき、やがて、所定の電源電圧に収束する)。
【0085】
つまり、基準抵抗素子402とコンデンサ403の系の両端に印加した電圧と、サーミスタ401とコンデンサ403の系の両端に印加した電圧とでは、電圧値が異なっており、後から印加した電圧のほうが低くなっている。
【0086】
この結果、計測される放電時間には、電源部250の電圧低下分が誤差として含まれていることとなる。
【0087】
このような事態を回避するためには、レギュレータ等を配し、電源部の電圧を安定化させることが有効である。しかしながら、レギュレータ等を配する構成とした場合、レギュレータのリーク電流により電池の消耗が早まるため、電子体温計の長寿命化が妨げられるという問題がある。また、レギュレータ等を配する構成とすると、電子体温計のコスト上昇は不可避となる。
【0088】
そこで、本実施形態では、レギュレータを使用することなく、計測される放電時間に含まれる、電源部250の電圧低下分の誤差を極力排除する構成とすることで、計測精度の維持と、省電力化による長寿命化を実現することができ、1日当たりの測定頻度が高い病院などで予測検温する場合に、消費電力が10mW程度となり、使い始めから少なくとも10000回程度の体温測定が可能となり、実質的に低価格化を実現する。以下、本実施形態における温度計測処理の詳細を説明する。
【0089】
4.4 本実施形態における温度計測処理の流れ
図7は、本実施形態における温度計測処理の流れを示すフローチャートであり、図8は、コンデンサ403の両端の電圧の時間変化及びA/D変換部420より出力されるディジタル信号の時間変化を示す図である。図7及び図8を用いて、本実施形態における温度計測処理の流れについて説明する。
【0090】
ステップS701では、基準抵抗素子402とコンデンサ403とを含む系の両端に電圧Vを印加する。図8の801は、これにより、コンデンサ403に徐々に電荷が蓄積されていく期間(充電期間)を示している。
【0091】
コンデンサ403の充電が完了すると、ステップS702では、基準抵抗素子402を介したコンデンサ403の放電を行う(端子T2を0Vに接続する)。このとき、タイマー222では、放電を開始してからコンデンサ403の電圧が所定の電圧(0.25V)以下になるまでの時間(放電時間802)Tref0を計測する。なお、ステップS702では放電のみを行い、Tref0は計測しなくてもよい。
【0092】
コンデンサ403の放電が完了すると、ステップS703では、再度、基準抵抗素子402とコンデンサ403とを含む系の両端に電圧Vを印加する。図8の803は、これにより、コンデンサ403に徐々に電荷が蓄積されていく期間(充電期間)を示している。
【0093】
コンデンサ403の充電が完了すると、ステップS704では、基準抵抗素子402を介したコンデンサ403の放電を行う。このとき、タイマー222では、放電を開始してからコンデンサ403の電圧が所定の電圧(0.25V)以下になるまでの時間(放電時間804)Tref1を計測する。
【0094】
コンデンサ403の放電が完了すると、ステップS705では、サーミスタ401とコンデンサ403とを含む系の両端に電圧Vを印加する。図8の805は、これにより、コンデンサ403に徐々に電荷が蓄積されていく期間(充電期間)を示している。
【0095】
コンデンサ403の充電が完了すると、ステップS706では、サーミスタ401を介したコンデンサ403の放電を行う(端子T1を0Vに接続する)。このとき、放電を開始してからコンデンサ403の電圧が所定の電圧(0.25V)以下になるまでの時間(放電時間806)Tthを計測する。なお、Tthは、サーミスタ401の周辺温度に応じて変動する。
【0096】
コンデンサ403の放電が完了すると、ステップS707では、再度、基準抵抗素子402とコンデンサ403とを含む系の両端に電圧Vを印加する。図8の807は、これにより、コンデンサ403に徐々に電荷が蓄積されていく期間(充電期間)を示している。
【0097】
コンデンサ403の充電が完了すると、ステップS708では、基準抵抗素子402を介したコンデンサ403の放電を行う。このとき、タイマー222では、放電を開始してからコンデンサ403の電圧が所定の電圧(0.25V)以下になるまでの時間(放電時間808)Tref2を計測する。
【0098】
コンデンサ403の放電が完了すると、ステップS709では、Tref=(Tref1+Tref2)/2を計算する。
【0099】
更にステップS710では、T=a×Tth/Tref(ただし、aは係数)を計算することで、基準温度に対する変動比を求め、温度データを算出する。更に、ステップS711では、計算結果Tを温度計測結果として設定する。
【0100】
これにより、1回の温度計測が完了する。当該温度計測処理は、温度計測の終了が指示されるまで繰り返し行われる。なお、1回のサンプリングタイミングで上述した計測を複数回行って、得られた計測値の平均値を当該サンプリングタイミングの計測結果とするようにしてもよい。
【0101】
このように、本実施形態にかかる電子体温計では、各サンプリングタイミングにおける温度計測時の1回目の放電時間Tref0を、温度データの算出に用いない構成とした。この結果、1回目の放電に伴う電源部250の大幅な電圧低下の影響を低減させることが可能となる。なお、1回目の放電を、サーミスタによる放電として、1回目の放電時間Tth0を温度データの算出に用いない構成としてもよいことはいうまでもない。また、上記の例では温度データの算出に用いない充放電は1回だけ行うようにしているが、温度データの算出に用いない充放電を2回以上行う構成としてもよい。
【0102】
また、本実施形態にかかる電子体温計では、サーミスタを介してコンデンサに蓄積された電荷を放電する際の放電時間を計測する直前と直後とに、それぞれ、基準抵抗素子を介してコンデンサに電荷を蓄積し、蓄積した電荷を放電する際の放電時間Tref1、Tref2を計測する構成とした。更に、直前と直後にそれぞれ計測された放電時間Tref1、Tref2の平均値を、温度データの算出に用いる構成とした。
【0103】
このように、温度データの算出において放電時間の平均値を用いる構成とすることで、放電時間を繰り返し計測することによる電源部の電圧低下の影響を極力低減させることが可能となる。
【0104】
つまり、レギュレータを用いない場合であっても、精度の高い温度計測を実現することが可能となる。この結果、長寿命かつ安価で、計測精度の高い電子体温計を提供することが可能となる。また、クロック周波数の切替との協働により、顕著な省電力効果を得ることができる。
【0105】
[第2の実施形態]
上記第1の実施形態では、温度計測処理開始直後から、コンデンサ403の充電/放電を4回繰り返すことにより、1回の温度計測処理を完了する構成としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、コンデンサ403の充電/放電を3回繰り返すことにより、1回の温度計測処理を完了する構成としてもよい。
【0106】
具体的には、放電の順序を、1回目:基準抵抗素子を介した放電、2回目:基準抵抗素子を介した放電、3回目:サーミスタを介した放電とする。そして、1回目の放電時間Tref0を、温度データの算出に用いないこととする一方で、2回目の放電時間Tref1と、3回目の放電時間Tthとを比較することにより、温度データを算出する構成としてもよい。
【0107】
あるいは、放電の順序を、1回目:基準抵抗素子を介した放電、2回目:サーミスタを介した放電、3回目:基準抵抗素子を介した放電とし、1回目の放電時間Tref0を温度データの算出に用いるようにしてもよい。すなわち、1回目の放電時間Tref0と3回目の放電時間Tref1との平均値、及び、2回目の放電時間Tthを、温度データの算出に用いる構成としてもよい。この手順によれば、各サンプリングタイミングにおける温度計測時の、初期の放電に伴う電源部250の電圧低下がそれほど大きくない構成において、不必要な充放電を行わずに済む。
【0108】
[第3の実施形態]
上記第1の実施形態では、温度計測処理開始直後から、コンデンサの充電/放電を、4回繰り返すことにより、1回の温度計測処理が完了する構成としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、放電時間を繰り返し計測することによる電源部の電圧低下が、一定の閾値以内に収束した後から、コンデンサの充電/放電を繰り返すことにより、1回の温度計測処理を完了する構成としても良い。
【0109】
図9は、本実施形態における温度計測処理の流れを示すフローチャートであり、図10は、コンデンサ403の両端の電圧の時間変化及びA/D変換部420より出力されるディジタル信号の時間変化を示す図である。図9及び図10を用いて、本実施形態における温度計測処理の流れについて説明する。
【0110】
はじめに、ステップS901ではカウンタnに0を入力する。ステップS902では、基準抵抗素子402とコンデンサ403とを含む系の両端に電圧Vを印加する。図10の1001は、これにより、コンデンサ403に徐々に電荷が蓄積されていく期間(充電期間)を示している。
【0111】
コンデンサ403の充電が完了すると、ステップS903では、コンデンサ403の基準抵抗素子402を介した放電を行う。このとき、タイマー222では、放電を開始してからコンデンサ403の電圧が所定の電圧(0.25V)以下になるまでの時間(放電時間1002)Tref_0を計測する。
【0112】
コンデンサ403の放電が完了すると、ステップS904では、再度、基準抵抗素子402とコンデンサ403とを含む系の両端に電圧Vを印加する。図10の1003は、これにより、コンデンサ403に徐々に電荷が蓄積されていく期間(充電期間)を示している。
【0113】
コンデンサ403の充電が完了すると、ステップS905では、再度、コンデンサ403の基準抵抗素子402を介した放電を行う。このとき、タイマー222では、放電を開始してからコンデンサ403の電圧が所定の電圧(0.25V)以下になるまでの時間(放電時間1004)Tref_1を計測する。
【0114】
コンデンサ403の放電が完了すると、ステップS906では、Tref0を計測した際の電圧V0と、Tref1を計測した際の電圧V1とを比較し、電圧V0と電圧V1との差異を計算する(実際にはTref_0とTref_1との差異を計算する)。そして、電圧V0と電圧V1との差異が所定値以下でないと判定された場合には、ステップS907においてnの値をインクリメントした後、ステップS904に戻る。
【0115】
S904では、再度、基準抵抗素子402とコンデンサ403とを含む系の両端に電圧Vを印加する。図10の1005は、これにより、コンデンサ403に徐々に電荷が蓄積されていく期間(充電期間)を示している。
【0116】
コンデンサ403の充電が完了すると、ステップS905では、コンデンサ403の放電を行う。このとき、タイマー222では、放電を開始してからコンデンサ403の電圧が所定の電圧(0.25V)以下になるまでの期間(放電時間1006)Tref_2を計測する。
【0117】
コンデンサ403の放電が完了すると、ステップS906では、Tref_1を計測した際の電圧V1と、Tref_2を計測した際の電圧V2とを比較し、電圧V1と電圧V2との差異を計算する(実際には、Tref_1とTref_2との差異を計算する)。そして、電圧V1と電圧V2との差異が所定値以下でないと判定された場合には、ステップS907においてnの値をインクリメントした後、ステップS904に戻る。
【0118】
以降、放電時間を繰り返し計測することによる電圧低下(Tref_nとTref_n+1との差)が、所定値以下になるまで、基準抵抗素子402とコンデンサ403とを含む系の両端に電圧Vを印加する処理と、基準抵抗素子402を介してコンデンサ403に蓄積された電荷を放電する処理とを繰り返す(S904〜S907)。
【0119】
そして、放電時間を繰り返し計測することによる電圧低下(1007)が、所定値以下になったと判定された場合には、ステップS908に進む。
【0120】
ステップS908では、サーミスタ401とコンデンサ403とを含む系の両端に電圧Vを印加する。図10の1008は、これにより、コンデンサ403に徐々に電荷が蓄積されていく期間(充電期間)を示している。
【0121】
コンデンサ403の充電が完了すると、ステップS909では、サーミスタ401を介したコンデンサ403の放電を行う。このとき、放電を開始してからコンデンサ403の電圧が所定の電圧(0.25V)以下になるまでの時間(放電時間1009)Tthを計測する。
【0122】
コンデンサ403の放電が完了すると、ステップS910では、再度、基準抵抗素子402とコンデンサ403とを含む系の両端に電圧Vを印加する。図10の1010は、これにより、コンデンサ403に徐々に電荷が蓄積されていく期間(充電期間)を示している。
【0123】
コンデンサ403の充電が完了すると、ステップS911では、基準抵抗素子402を介したコンデンサ403の放電を行う。このとき、タイマー222では、放電を開始してからコンデンサ403の電圧が所定の電圧(0.25V)以下になるまでの時間(放電時間1011)Tref_n+2を計測する。
【0124】
コンデンサ403の放電が完了すると、ステップS912では、Tref=(Tref_n+1+Tref_n+2)/2を計算する。
【0125】
更にステップS913では、T=a×Tth/Tref(ただし、aは係数)を計算することで、基準温度に対する変動比を求め、温度データを算出する。更に、ステップS914では、算出結果Tを温度計測結果として設定する。
【0126】
これにより、1回の温度計測が完了する。当該温度計測処理は、温度計測の終了が指示されるまで繰り返し行われる。
【0127】
このように、本実施形態にかかる電子体温計では、放電時間を繰り返し計測することによる電圧部の電圧低下が、一定の閾値以内に収束するまで、基準抵抗素子を介してのコンデンサへの充電/放電を繰り返す構成とした。これにより、放電に伴う電源部の大幅な電圧低下の影響を低減させることが可能となる。
【0128】
また、本実施形態にかかる電子体温計では、サーミスタを介してコンデンサに蓄積された電荷を放電する際の放電時間を計測する直前と直後とに、それぞれ、基準抵抗素子を介してコンデンサに電荷を蓄積し、蓄積した電荷を放電する際の放電時間Tref_n+1、Tref_n+2を計測する構成とした。更に、直前と直後にそれぞれ計測された放電時間Tref_n+1、Tref_n+2の平均値を、温度の計測に用いる構成とした。
【0129】
このように、放電時間の平均値を用いる構成とすることで、放電時間を繰り返し計測することによる電源部の電圧低下の影響を極力低減させることが可能となる。
【0130】
つまり、レギュレータを用いない場合であっても、精度の高い温度計測を実現することが可能となる。この結果、長寿命かつ安価で、計測精度の高い電子体温計を提供することが可能となる。また、クロック周波数の切替との協働により、顕著な省電力効果を得ることができる。
【0131】
なお、上記実施形態では、コンデンサ403への充電に際して、Trefを測定する場合には基準抵抗素子を介した充電、Tthを測定する場合にはサーミスタを介した充電を用いているが、これに限られるものではない。例えば、コンデンサ403への充電は、常に基準抵抗素子またはサーミスタのいずれか一方を介して行うようにしても良いし、基準抵抗素子とサーミスタの両方を介して行うようにしても良い。
【0132】
以上説明したように、上記各実施形態によれば、サーミスタと積分回路により計測値を得る電子体温計において、温度の実測値に基づいて温度計測用のクロックの周波数を切り替えるようにした。このため、予測温度演算を行わない待機期間において低周波数クロックを用いて省電力化を図るとともに、予測温度演算を行う計測期間においては高周波数クロックによる高精度な計測を実現することができる。また、計測期間を、予測温度演算の開始から終了まで(予測温度値が表示されるまで)とすれば、予測温度演算の終了とともにクロックが低周波数に切り替わるので、より効果的に省電力を達成できる。更に、予測温度演算において、初期の実測値から適切な予測式を選定することで、予測温度演算の時間短縮が図られる。そのため、計測期間を短縮でき、より効果的な省電力を達成できる。
【符号の説明】
【0133】
100:電子体温計 101:本体ケース 102:金座億キャップ 103:電源ON/OFFスイッチ 104:液晶表示器 105:スピーカ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーミスタとコンデンサとが直列に接続された積分回路と、
クロック信号を生成するクロック手段と、
前記積分回路において定常状態から過渡状態に移行した際の過渡期間を前記クロック信号をカウントすることにより計測する計測手段と、
前記計測手段で計測された前記過渡期間に基づいて温度値を算出する算出手段と、
前記算出手段で算出された温度値から複数の予測式にしたがって複数の予測値を導出する予測値導出手段と、
前記複数の予測値のそれぞれの経時変化に基づいて、前記複数の予測式から一つの予測式を選択する選択手段と、
前記選択手段により選択された予測式を用いて体温計測結果としての平衡温度値を取得し、表示する表示出力手段とを備え、
前記クロック手段は、前記算出手段で算出された温度値に基づいて、前記クロック信号の周波数を切り替えることを特徴とする電子体温計。
【請求項2】
前記クロック手段は、前記算出手段で算出された温度値が所定の温度またはそれ以上である場合に前記クロックの周波数を第1の周波数に設定し、前記温度値が所定の温度よりも低い場合に前記クロックの周波数を第2の周波数に設定し、前記第1の周波数は前記第2の周波数よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の電子体温計。
【請求項3】
前記クロック手段は、体温計測結果としての前記平衡温度値が取得されると、前記クロックの周波数を前記第2の周波数に設定することを特徴とする請求項2に記載の電子体温計。
【請求項4】
前記予測値導出手段は、前記算出手段で算出された温度値が所定の温度以上であり、且つ、温度変化の度合いが所定値以上である場合に前記複数の予測値の導出を開始し、
前記クロック手段は、前記予測値導出手段による前記導出の開始から前記表示出力手段が前記平衡温度値を取得するまでの期間において前記クロックの周波数を第1の周波数に設定し、他の期間では前記クロックの周波数を第2の周波数に設定し、前記第1の周波数は前記第2の周波数よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の電子体温計。
【請求項5】
前記電子体温計の各部に電源を供給する電源部と、
前記電源部から前記各部への電源供給のオン、オフを行うマグネットリードスイッチとを備える請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電子体温計。
【請求項6】
液密に形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電子体温計。
【請求項7】
サーミスタとコンデンサとが直列に接続された積分回路と、
クロック信号を生成するクロック手段とを備えた電子体温計の制御方法であって、
前記積分回路において定常状態から過渡状態に移行した際の過渡期間を前記クロック信号をカウントすることにより計測する計測工程と、
前記計測工程で計測された前記過渡期間に基づいて温度値を算出する算出工程と、
前記算出工程で算出された温度値から複数の予測式にしたがって複数の予測値を導出する予測値導出工程と、
前記複数の予測値のそれぞれの経時変化に基づいて、前記複数の予測式から一つの予測式を選択する選択工程と、
前記選択工程で選択された予測式を用いて体温計測結果としての平衡温度値を取得し、表示する表示出力工程と、
前記算出工程で算出された温度値に基づいて、前記クロック手段が発生する前記クロック信号の周波数を切り替える切替工程とを有することを特徴とする電子体温計の制御方法。
【請求項1】
サーミスタとコンデンサとが直列に接続された積分回路と、
クロック信号を生成するクロック手段と、
前記積分回路において定常状態から過渡状態に移行した際の過渡期間を前記クロック信号をカウントすることにより計測する計測手段と、
前記計測手段で計測された前記過渡期間に基づいて温度値を算出する算出手段と、
前記算出手段で算出された温度値から複数の予測式にしたがって複数の予測値を導出する予測値導出手段と、
前記複数の予測値のそれぞれの経時変化に基づいて、前記複数の予測式から一つの予測式を選択する選択手段と、
前記選択手段により選択された予測式を用いて体温計測結果としての平衡温度値を取得し、表示する表示出力手段とを備え、
前記クロック手段は、前記算出手段で算出された温度値に基づいて、前記クロック信号の周波数を切り替えることを特徴とする電子体温計。
【請求項2】
前記クロック手段は、前記算出手段で算出された温度値が所定の温度またはそれ以上である場合に前記クロックの周波数を第1の周波数に設定し、前記温度値が所定の温度よりも低い場合に前記クロックの周波数を第2の周波数に設定し、前記第1の周波数は前記第2の周波数よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の電子体温計。
【請求項3】
前記クロック手段は、体温計測結果としての前記平衡温度値が取得されると、前記クロックの周波数を前記第2の周波数に設定することを特徴とする請求項2に記載の電子体温計。
【請求項4】
前記予測値導出手段は、前記算出手段で算出された温度値が所定の温度以上であり、且つ、温度変化の度合いが所定値以上である場合に前記複数の予測値の導出を開始し、
前記クロック手段は、前記予測値導出手段による前記導出の開始から前記表示出力手段が前記平衡温度値を取得するまでの期間において前記クロックの周波数を第1の周波数に設定し、他の期間では前記クロックの周波数を第2の周波数に設定し、前記第1の周波数は前記第2の周波数よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の電子体温計。
【請求項5】
前記電子体温計の各部に電源を供給する電源部と、
前記電源部から前記各部への電源供給のオン、オフを行うマグネットリードスイッチとを備える請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電子体温計。
【請求項6】
液密に形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電子体温計。
【請求項7】
サーミスタとコンデンサとが直列に接続された積分回路と、
クロック信号を生成するクロック手段とを備えた電子体温計の制御方法であって、
前記積分回路において定常状態から過渡状態に移行した際の過渡期間を前記クロック信号をカウントすることにより計測する計測工程と、
前記計測工程で計測された前記過渡期間に基づいて温度値を算出する算出工程と、
前記算出工程で算出された温度値から複数の予測式にしたがって複数の予測値を導出する予測値導出工程と、
前記複数の予測値のそれぞれの経時変化に基づいて、前記複数の予測式から一つの予測式を選択する選択工程と、
前記選択工程で選択された予測式を用いて体温計測結果としての平衡温度値を取得し、表示する表示出力工程と、
前記算出工程で算出された温度値に基づいて、前記クロック手段が発生する前記クロック信号の周波数を切り替える切替工程とを有することを特徴とする電子体温計の制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−252771(P2011−252771A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126288(P2010−126288)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】
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