説明

電子写真感光体、それを用いた画像形成装置、プロセスカートリッジおよび画像形成方法

【課題】長期間の繰り返し使用、特に直流電圧に交流電圧を重畳した近接放電による帯電方式においても、電子写真感光体表面の劣化が少なく、且つ機械的耐久性が非常に良好であり、長期的に安定した画像形成を行うことが出来る電子写真感光体を提供する。
【解決手段】電子写真感光体と、電子写真感光体表面を帯電させる帯電手段と、該帯電手段により帯電された電子写真感光体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、静電潜像を可視像化する現像手段と、可視像化されたトナー像を被転写体に転写する転写手段と、転写後に該電子写真感光体表面に残留するトナーを除去するクリーニング手段とを備えた画像形成装置に用いられる電子写真感光体において、電子写真感光体が、導電性支持体上に少なくとも感光層を有し、電子写真感光体の表面を構成する層が、少なくともポリロタキサン5及び/又は架橋ポリロタキサン1を含む電子写真感光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流成分に交流成分を重畳した電圧を印加することによって生じる放電を利用して電子写真感光体を帯電させる帯電器を有する電子写真プロセスに有効な電子写真感光体、それを用いた画像形成装置、プロセスカートリッジおよび画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オフィスの省スペース化やビジネスオポチュニティの拡大などの観点から、電子写真装置に対して、ますます小型化と高画質化が望まれている。
電子写真装置の小型化を図るために、電子写真プロセスの改良が多く成されている。帯電プロセスにおいては、近接放電による帯電方式が多く採用される傾向がある。これは、電子写真感光体表面に帯電部材を接触させたり、非接触で近傍に帯電部材を配置させたりすることで近接放電を発生させ、電子写真感光体表面の帯電を行う方式である。本方式を用いれば、大がかりな帯電装置を必要としないために、装置の小型化には非常に有効である。また最近の近接帯電方式は、電子写真感光体上の帯電の均一性をはかるために、直流電圧に交流電圧を重畳して印可する方式を採用していることが多くなっている。
しかし直流電圧に交流電圧を重畳した近接放電による帯電方式は、電子写真感光体表面近傍に放電が集中するため、電子写真感光体表面を劣化させ、電子写真感光体の膜厚減少が大きいことがわかった。近接放電による電子写真感光体表面の劣化は機械的摺擦とは違い、像担持体への当接部材がない場合においても発生する。このため、近接放電に対する耐久性を有する電子写真感光体もしくは電子写真感光体表面の保護技術の開発が強く望まれている。
【0003】
以下に近接放電による電子写真感光体表面の劣化メカニズムについて説明する。
図10は、近接放電による電子写真感光体表面の劣化状態を調べるために、電子写真感光体表面に帯電部材のみを非接触状態で近接配置し、連続約150時間の帯電実験を行ったときの、電子写真感光体表面の膜厚の変化を測定した結果である。
実験に使用した電子写真感光体は電荷輸送層にポリカーボネートを用いた有機感光体であり、電子写真感光体に対して当接する部材を全て取り除き、直流電圧に交流電圧を重畳した交番電圧が印加された非接触帯電ローラを用いて帯電を行った。この結果、電子写真感光体表面の膜の削れ量が次第に多くなり、電子写真感光体の膜厚が次第に減少している事実がわかった。膜厚減少のメカニズムについては今のところ検討中で明らかになってはいないが、膜厚が減少した電子写真感光体を分析したところ、電子写真感光体を構成するポリカーボネートが分解されたと考えられるカルボン酸などが検出された。このような物質が検出されたことから、電子写真感光体の膜厚減少のメカニズムとしては、次のようなことが考えられる。
【0004】
図11(a)、(b)は、近接放電によって電子写真感光体1表面が劣化する場合の電子写真感光体表面の状態を、帯電ローラ2aを電子写真感光体表面から微小ギャップをもって対向させた状態を例にとって示した説明図である。
図11(a)に示すように、近接放電を行うと、電子写真感光体表面の放電領域では放電により発生した粒子(オゾン、電子、励起分子、イオン、プラズマなど)のエネルギーが電子写真感光体表面の電荷輸送層1aに照射される。このエネルギーが電子写真感光体表面を構成する分子の結合エネルギーに共鳴、吸収され、図11(b)に示すように、電荷輸送層1aは、樹脂分子鎖の切断による分子量低下、高分子鎖の絡み合い度低下等の化学的劣化を生じる。このような近接放電による電子写真感光体の化学的劣化によって、電子写真感光体表面の電荷輸送層1aは次第にその膜厚を減少させてしまうと考えられる。
この問題は、ポリカーボネートを用いた感光体にだけ起こる問題ではなく、ポリアリレート、ポリスチレン、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等を用いた感光体においても同様な膜厚減少が起こり、本問題の解決には至っていない。
【0005】
加えて、電子写真装置では、電子写真感光体に対して、前記の帯電、露光、現像、転写、クリーニングおよび除電の動作が種々の環境下で繰返し実行される。このことからも、電子写真感光体には、環境安定性、電気的安定性および機械的外力に対する耐久性(耐刷性)に優れることが求められる。具体的には、電子写真感光体の表面層が、クリーニング部材、トナー、キャリア等による摺擦によって磨耗しにくいことが求められる。
使用劣化後に感光体表面に感光層あるいは保護層を再塗工して再使用する方法や、ブレードで表面を強制的に研磨して摩耗させる方法等も試みられているが、耐刷性を向上させる方がより望ましい。
【0006】
耐刷性向上には以下のような方法が提案されている:
1.物の表面を極めて硬くして擦過・衝撃に対する抵抗を高くする方法。
2.表面を滑りやすくして擦過・衝撃を逃がしてしまう方法。
3.ゴムのように弾力を持たせて擦過・衝撃を吸収してしまい、元通り復元する方法。
4.表面層に自己修復性をもった樹脂を用い、擦過により切れた分子鎖を修復して元通りに復元する方法。
【0007】
上記の1に記載の提案の方法としては、感光体の最表面層に硬い保護層を設ける方法や、酸化物微粒子を含有させる方法が知られている。
これら保護層は、感光層の基本機能を阻害しないという観点から可能な限り薄層化することが基本的には望まれるが、この付加機能を設けることにより、さまざまな弊害が発生する。
【0008】
例えば、感光体と表面保護層が不連続な層構造となっている場合、長期的な使用により保護層が剥離することがある。また長期の繰り返し使用により、露光部電位が上昇する。逆に表面保護層と感光層が連続的な層構成、すなわち感光層が引き続き塗布される表面保護層塗布液により溶解される場合には、その溶解状況により画像特性が悪化したりする。さらに、表面保護層の誘電率の不均一により、黒ベタ画像出力時のエッジ部の画像太りおよびトナー飛散が発生する場合があり、表面層内部での分散状態が大きく影響することもある。
【0009】
このような、表面保護層と感光層間の不整合を回避するために、表面保護層を別途設けるのではなく感光層に酸化物微粒子を分散させて耐刷性向上を図る試みもなされている。ただし、このように微粒子を分散させた塗布膜においては単に添加量を規定して含有させるだけでなく、塗布膜中に均一に分散していることが重要であり、塗布液の製造方法を工夫する必要がある。またこれらは、感光体自体の耐久性は向上する反面、その感光体に接触するクリーニングブレードやキャリアコートの劣化を早めてしまう問題がある。
【0010】
上記2に記載の提案による方法としては、ポリカーボネート樹脂をポリシロキサン等で修飾して表面を滑りやすくする方法がある。この方法によれば確かに耐摩耗性は向上するが十分な効果を有するものではなく他の方法と併用される場合が多い。(特許文献1、2)
【0011】
上記の3に記載の提案の方法としては、架橋シリコーンゴムおよび弾性電気絶縁上塗層を有する電子写真感光体がある(特許文献3)。しかしながら、このような高反発弾性を有する表面層では、クリーニングブレードとの接触で振動等が発生しやすい問題がある。
【0012】
上記の4に記載の提案の方法としては、自己修復性樹脂を用いた電子写真感光体がある(特許文献4、5)。しかし、この自己修復性樹脂は反応性のある置換基を有する樹脂であり、感光層に含有させると電気特性に悪影響を与えてしまうおそれがある。また、電子写真感光体ではないが、同様な耐久性向上の試みとして画像形成装置の転写ベルトとして自己修復性を持つ樹脂製無端ベルトも提案されている(特許文献6)。
【0013】
一方、アクリルポリオール樹脂とイソシアネート化合物とを反応させた樹脂を用いた保護層は種々提案されているが(特許文献7等)、これは上記の1の方法に類するもので自己修復性を有しない構造である。
また、自己修復性樹脂の提案としては特許文献8、9等があるが、これらは専ら電子機器や自動車などの塗装としての用途であり電子写真感光体として使用することについての種々の課題については、何らの開示も示唆もない。
【0014】
電子写真感光体の最表面層に特定のアクリル−イソシアネート硬化系架橋樹脂を用いることにより、機械的耐久性を向上させる提案もある(特許文献10)。これは、擦過・衝撃に際し、これに反発することなく、一旦はその衝撃を吸収して外見上はキズと視認されるような状態となるが、これは微視的に見ると凹んだ状態であって、その後、時間をかけて復元力によって徐々にもとの表面形状に復帰するという自己修復性を発揮する電子写真感光体である。
【0015】
また、時間をかけて復元力によって徐々にもとの表面形状に復帰する樹脂の提案としては特許文献11〜14等があるが、これらは専ら自動車などの塗装としての用途であり電子写真感光体として使用することについての種々の課題については、何らの開示も示唆もない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、長期間の繰り返し使用、特に直流電圧に交流電圧を重畳した近接放電による帯電方式においても、電子写真感光体表面の劣化が少なく、且つ機械的耐久性が非常に良好であり、長期的に安定した画像形成を行うことが出来る電子写真感光体、それを用いた画像形成装置、プロセスカートリッジおよび画像形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、電子写真感光体の表面を構成する層に、ポリロタキサン及び/又は架橋ポリロタキサンを含有させることによって上記課題が解決されることを見出し、本発明に至った。即ち、本発明は以下のとおりである。
【0018】
(1)電子写真感光体と、
潜像形成前の電子写真感光体表面を帯電させる帯電手段と、
画像データに基づいて、該帯電手段により帯電された電子写真感光体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、
形成された静電潜像を可視像化する現像手段と、
可視像化されたトナー像を被転写体に転写する転写手段と、
転写後に該電子写真感光体表面に残留するトナーを除去するクリーニング手段と、
を備えた画像形成装置に用いられる電子写真感光体において、
前記電子写真感光体が、導電性支持体上に少なくとも感光層を有し、かつ前記電子写真感光体の表面を構成する層が、少なくともポリロタキサン及び/又は架橋ポリロタキサンが含まれていることを特徴とする電子写真感光体。
(2)前記ポリロタキサンは、環状分子と、この環状分子を串刺し状に包接する直鎖状分子と、この直鎖状分子の両末端に配置され上記環状分子の脱離を防止する封鎖基とを有し、上記直鎖状分子及び環状分子の少なくとも一方が、ポリエチレングリコールモノステアリン酸エステルがヘキサメチレンジイソシアネートを介して結合する基を有することを特徴とする前記(1)に記載の電子写真感光体。
(3)前記架橋ポリロタキサンを形成するポリロタキサンは、環状分子と、この環状分子を串刺し状に包接する直鎖状分子と、この直鎖状分子の両末端に配置され上記環状分子の脱離を防止する封鎖基とを有し、上記環状分子がシクロデキストリンであり、当該シクロデキストリンの水酸基の一部又は全部が修飾基で修飾され、その修飾基が、−C36−O−基と結合した、カプロラクトンによる修飾基である(−CO(CH25OH)基を有することを特徴とする前記(1)に記載の電子写真感光体。
(4)前記ポリロタキサン及び架橋ポリロタキサンの環状分子の包接量は、上記直鎖状分子が環状分子を包接する最大量である最大包接量を1とすると、0.06〜0.61であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の電子写真感光体。
(5)前記ポリロタキサン及び架橋ポリロタキサンの環状分子が、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリンから成る群より選ばれた少なくとも1種のシクロデキストリンであることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の電子写真感光体。
(6)前記ポリロタキサン及び架橋ポリロタキサンを形成するポリロタキサンは、塗膜形成成分に対して質量換算で1〜40%含まれることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の電子写真感光体。
(7)前記電子写真感光体が、感光層と保護層を積層した構造を有すること特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載の電子写真感光体。
(8)前記感光層が、電荷発生層、電荷輸送層をこの順に積層した構造を有することを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかに記載の電子写真感光体。
(9)少なくとも電子写真感光体と、前記電子写真感光体に対して接触または近接して設けられた直流成分に交流成分を重畳した電圧を印加することによって生じる放電を利用して電子写真感光体を帯電させる帯電手段と、前記帯電手段によって帯電させられた電子写真感光体表面に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、前記静電潜像形成手段によって形成された静電潜像の画像部にトナーを付着させ可視像化する現像手段と、可視像化されたトナー像を被転写体に転写する転写手段と、転写後に該電子写真感光体表面に残留するトナーを除去するクリーニング手段とを有する画像形成装置において、前記電子写真感光体が前記(1)〜(8)のいずれかに記載の電子写真感光体であること特徴とする画像形成装置。
(10)電子写真感光体と、少なくとも帯電手段、現像手段、クリーニング手段より選択される一つ以上の手段とが一体となり画像形成装置本体に着脱可能であるプロセスカートリッジであって、前記電子写真感光体が前記(1)〜(8)のいずれかに記載の電子写真感光体を有することを特徴とするプロセスカートリッジ。
(11)少なくとも電子写真感光体と、前記電子写真感光体に対して接触または近接して設けられた直流成分に交流成分を重畳した電圧を印加することによって生じる放電を利用して電子写真感光体を帯電させる帯電工程と、前記帯電工程によって帯電させられた電子写真感光体表面に静電潜像を形成する静電潜像形成工程と、前記静電潜像形成手段によって形成された静電潜像の画像部にトナーを付着させ可視像化する現像工程と、可視像化されたトナー像を被転写体に転写する転写工程と、転写後に該電子写真感光体表面に残留するトナーを除去するクリーニング工程とを有する画像形成装置において、前記電子写真感光体が前記(1)〜(8)のいずれかに記載の電子写真感光体であること特徴とする画像形成方法。
【0019】
本発明は、電子写真感光体の表面を構成する層に、少なくともポリロタキサン及び/又は架橋ポリロタキサンを用いることにより、ポリロタキサンの『多数の環状分子の開口部を直鎖状分子が串刺し状に貫通すると共に、この直鎖状分子の両末端に封鎖基が結合して、環状分子の直鎖状分子からの脱離を防止する』という構造により、外的応力が加わった場合に上記環状分子が直鎖状分子に沿って自由に移動するという、滑車効果を発揮することができるため、クラックや傷を生じ難くするものである。すなわち、擦過・衝撃に際し、これに反発することなく、一旦はその衝撃を吸収して外見上はキズと視認されるような状態となる。しかし、これは微視的に見ると凹んだ状態であって、その後、時間をかけて優れた復元力によって徐々にもとの表面形状に復帰する電子写真感光体である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、感光体表層にポリロタキサン及び/又は架橋ポリロタキサンを含むため、長期間の繰り返し使用、直流電圧に交流電圧を重畳した近接放電による帯電方式においても、電子写真感光体表面の劣化が少なく、且つ機械的耐久性が非常に良好であり、長期的に安定した画像形成を行うことが出来る電子写真感光体、それを用いた画像形成装置、プロセスカートリッジおよび画像形成方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ポリロタキサンの基本構造を概念的に示す模式図である。
【図2】架橋ポリロタキサンを概念的に示す模式図である。
【図3】本発明の電子写真感光体層構成の一例を示す模式断面図である。
【図4】本発明の電子写真感光体層構成の一例を示す模式断面図である。
【図5】本発明の電子写真感光体層構成の一例を示す模式断面図である。
【図6】本発明の電子写真感光体層構成の一例を示す模式断面図である。
【図7】本発明の画像形成装置の一例を示すものである。
【図8】本発明の帯電装置の一例を示すものである。
【図9】本発明の画像形成装置の一例を示すものである。
【図10】電子写真感光体の帯電負荷による膜厚の変化を示すものである。
【図11】近接放電によって電子写真感光体表面が劣化する場合の電子写真感光体表面の状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の電子写真感光体は、直流成分に交流成分を重畳した電圧を印加することによって生じる放電を利用して電子写真感光体を帯電させる帯電器を有する電子写真プロセスにおいても有効である。
【0023】
本発明者らが鋭意検討した結果、本発明の表層にポリロタキサン及び/又は架橋ポリロタキサンを含む電子写真感光体は、直流電圧に交流電圧を重畳した近接放電による帯電方式を用いた帯電器を用いた場合、機械的耐久性だけではなく、放電により発生した粒子(オゾン、電子、励起分子、イオン、プラズマなど)のエネルギー照射に対しても、高い耐久性を有していることが判明した。
この要因としては、ポリロタキサン及び架橋ポリロタキサンは、感光体表面に衝突する放電により発生した粒子のエネルギーによりその分子鎖が切断されても、修復し滑車効果を持続させる機能を有していることが推察される。
【0024】
本発明の電子写真感光体の表面を構成する層は、(A)油性の溶媒に溶解するように変性された親油性ポリロタキサン、及び/又は(B)油性の溶媒に溶解する硬化型に変性された親油性ポリロタキサン、を含む塗工液を用いて作製されたものであることが好ましい。
【0025】
(A)油性の溶媒に溶解するように変性された親油性ポリロタキサンとしては、直鎖状分子及び環状分子の少なくとも一方が親油性の修飾基を有する親油性ポリロタキサンが好ましく、直鎖状分子及び環状分子の少なくとも一方が、ポリエチレングリコールモノステアリン酸エステルがヘキサメチレンジイソシアネートを介して結合する基を有するポリロタキサンが挙げられる。(B)油性の溶媒に溶解する硬化型に変性された親油性ポリロタキサンとしては、環状分子が水酸基を有し、該水酸基の一部又は全部が官能基を有する親油性の修飾基で修飾された硬化型親油性ポリロタキサンが好ましく、環状分子がシクロデキストリンであり、当該シクロデキストリンの水酸基の一部又は全部が修飾基で修飾され、その修飾基が、−C36−O−基と結合した、カプロラクトンによる修飾基である(−CO(CH25OH)基を有するポリロタキサンが挙げられる。
【0026】
図1は、ポリロタキサンの基本構造を概念的に示す模式図であって、当該ポリロタキサン5は、多数の環状分子7の開口部を直鎖状分子6が串刺し状に貫通すると共に、この直鎖状分子6の両末端に封鎖基8が結合して、環状分子7の直鎖状分子6からの脱離を防止する構造を備え、上記したように、外的応力が加わった場合に、上記環状分子7が直鎖状分子6に沿って自由に移動する(滑車効果)ことから、伸縮性や粘弾性に優れ、クラックや傷が生じ難いという優れた特性を備えている。
【0027】
上記親油性ポリロタキサンにおいては、上記環状分子7及び直鎖状分子6の一方または両方が親油性を有し、全体として親油性を示す親油性ポリロタキサン、代表的には環状分子7が水酸基を有し、これら環状分子の水酸基の全部又は一部が親油性の修飾基で修飾された親油性ポリロタキサンを使用することが好ましく、当該ポリロタキサンは、後述する親油性溶媒に可溶なものとなり、有機溶媒等を用いる感光体の塗工液の成分として配合することができるようになる。
なお、このような親油性ポリロタキサンと他のポリマーを混合すると、ファンデルワールス力などによる疑似架橋を生じ、両者が組成物ないしは化合物として挙動しているものと考えられる。この場合、少なくとも上記ポリロタキサンは、上述の滑車効果を発揮しているものと思われる。
硬化型親油性ポリロタキサンの場合は、このような親油性の発現は、従来は親水性溶媒や有機系溶媒に難溶性ないしは不溶性であったポリロタキサンに対し、親油性溶媒という反応場、典型的には架橋場を提供するものである。感光体の塗工液に用いるこのポリロタキサンは、親油性溶媒の存在下で他のポリマーとの架橋や修飾基による修飾を容易に行うことができる反応性を向上したものである。
【0028】
本発明において、親油性を示す修飾基は、疎水基又は疎水基と親水基を有し、全体として親油性であればよい。
このような疎水基としては、例えば、アルキル基、ベンジル基(ベンゼン環)及びベンゼン誘導体含有基、アシル基、シリル基、トリチル基、硝酸エステル基、トシル基などがある。
【0029】
上記各種ポリロタキサンにおける環状分子としては、上述の如き直鎖状分子に包接されて滑車効果を奏するものである限り、特に限定されるものではなく、種々の環状物質を挙げることができる。
また、環状分子は実質的に環状であれば十分であって、「C」字状のように、必ずしも完全な閉環である必要はない。
【0030】
更に、環状分子としては、反応基を有するものが好ましく、これによって上記の親油性修飾基などとの結合が行い易くなる。
このような反応基としては、例えば水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、チオール基、アルデヒド基などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。なお、反応基としては、後述する封鎖基を形成する(ブロック化反応)際に、この封鎖基と反応しない基が好ましい。環状分子としては、水酸基を有するものが好ましい。
【0031】
上記環状分子の具体例としては、種々のシクロデキストリン類、例えばα−シクロデキストリン(グルコース数:6個)、β−シクロデキストリン(グルコース数:7個)、γ−シクロデキストリン(グルコース数:8個)、ジメチルシクロデキストリン、グルコシルシクロデキストリン及びこれらの誘導体又は変性体、並びにクラウンエーテル類、ベンゾクラウン類、ジベンゾクラウン類、ジシクロヘキサノクラウン類及びこれらの誘導体又は変性体を挙げることができる。
【0032】
上述のシクロデキストリン等の環状分子は、その1種を単独、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
なお、上記した種々の環状分子の中では、特にα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンが良好であり、とりわけ、被包接性の観点からはα−シクロデキストリンを使用することが好ましい。シクロデキストリン類は、生分解性を有するため、環境にとっても好ましい。
【0033】
シクロデキストリン等の環状分子の水酸基に親油性修飾基を導入することにより、溶媒への溶解性を向上させることができる。
また、本発明に用いる上記各種ポリロタキサンにおける上記環状分子の親油性修飾基による修飾度については、環状分子の有する水酸基が修飾され得る最大数を1とするとき、0.02以上であることが好ましく、0.04以上であることがより好ましく、0.06以上であることが更に好ましい。
即ち、上記修飾度が0.02未満であると、溶媒への溶解性が十分なものとならず、不溶性突起物(異物付着などに由来する突出部)が生成することがある。
【0034】
なお、環状分子の水酸基が修飾され得る最大数とは、修飾する前に環状分子が有していた全水酸基数を意味する。また、修飾度とは、換言すれば、修飾された水酸基数の全水酸基数に対する比のことである。
環状分子の、修飾される前と後の水酸基価を測定し、その差により修飾された水酸基数を求め、修飾された水酸基数の修飾される前の水酸基価に対する比が修飾度となる。
水酸基価は、試料1g中に含まれるOH基をアセチル化するために要する水酸化カリウムのmg数である。水酸基価は、無水酢酸を用いて試料中のOH基をアセチル化し、使われなかった酢酸を水酸化カリウム溶液で滴定することにより求めることができる。
【0035】
更に、上記ポリロタキサンが多数の環状分子を有する場合、これら環状分子それぞれの水酸基の全部又は一部が親油性修飾基によって修飾されている必要はない。
言い換えると、親油性ポリロタキサンの場合、ポリロタキサン全体として親油性を示す限り、親油性修飾基によって修飾されていない水酸基を有する環状分子が部分的に存在したとしても何ら差し支えない。
なお、硬化型ポリロタキサンの場合、疎水基は少なくとも1つでよいが、シクロデキストリン環1つに対してそれぞれ1つの疎水基を有するのが望ましい。また、官能基を有している疎水基をそれぞれ導入することにより、他のポリマーとの反応性を向上させることが可能になる。
【0036】
次に、修飾基の導入方法について述べる。
親油性ポリロタキサンの場合、親油性修飾基の導入方法としては、以下の方法を採用できる。
例えば、ポリロタキサンの環状分子としてシクロデキストリンを用い、当該シクロデキストリンの水酸基に、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリエチレングリコールモノステアリン酸エステルよりなるイソシアネート化ポリエチレングリコールモノステアリン酸エステルを反応させる。このときのイソシアネート化ポリエチレングリコールモノステアリン酸エステルの添加量を変更することで修飾度を任意に制御できる。
硬化型親油性ポリロタキサンの場合、親油性修飾基の導入方法としては、例えば、ポリロタキサンの環状分子としてシクロデキストリンを用い、当該シクロデキストリンの水酸基を、プロピレンオキシドを用いてヒドロキシプロピル化し、その後、ε−カプロラクトンを添加し、2‐エチルへキサン酸スズを添加する。このときのε−カプロラクトンの添加量を変更することで修飾度を任意に制御できる。
シクロデキストリンの水酸基を、プロピレンオキシドを用いてヒドロキシプロピル化するとき、プロピレンオキシドの添加量を変更することによって、上記ヒドロキシアルキル基による修飾度を制御することができる。
【0037】
上記各種ポリロタキサンにおいて、直鎖状分子に包接される環状分子の個数(包接量)については、直鎖状分子が環状分子を包接し得る最大包接量を1とするとき、0.06〜0.61が好ましく、0.11〜0.48が更に好ましく、0.24〜0.41がいっそう好ましい。
即ち、この比が0.06未満では滑車効果が不十分となって塗膜の伸び率が低下することがある。0.61を超えると、環状分子が密に配置され過ぎて環状分子の可動性が低下し、同様に塗膜の伸び率が不十分となって耐擦傷性が劣化する傾向がある。
ポリロタキサンは、上述のように、環状分子を直鎖状分子に密に詰めないことが好ましい。密に詰めないことにより、架橋した際に、架橋環状分子又は直鎖状分子の可動距離を保持することができる。この可動距離により、上述したように、高い破壊強度、高エントロピー弾性、優れた伸張性、及び/又は優れた復元性、所望により高吸収性又は高吸湿性を提供することができる。
【0038】
一般に、ポリエチレングリコールの平均分子量20,000に対して、α−シクロデキストリンは、最大230個包接することができる。したがって、この値が最大包接量である。
α−シクロデキストリンの包接量は、NMR、光吸収、元素分析などにより確認することができる。
【0039】
また、上記ポリロタキサンの場合、環状分子の包接量は、以下のようにして制御することができる。
例えば、DMF(ジメチルホルムアミド)に、BOP試薬(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム・ヘキサフルオロフォスフェート)、HOBt、アダマンタンアミン、ジイソプロピルエチルアミンを、この順番で添加し溶液とする。一方、DMF/DMSO(ジメチルスルホキシド)混合溶媒に、直鎖状分子に環状分子が串刺された包接錯体を分散させた溶液を得る。これら両者を混合し、このときのDMF/DMSOの混合比率を変更することで、環状分子の包接量を任意に制御できる。なお、DMF/DMSO比が高いほど環状分子の包接量は大きくなる。
【0040】
一方、直鎖状分子は、実質的に直鎖であればよく、回転子である環状分子が回動可能で滑車効果を発揮できるように包接できる限り、分岐鎖を有していてもよい。
また、環状分子の大きさにも影響を受けるが、その長さについても、環状分子が滑車効果を発揮できる限り特に限定されない。
【0041】
なお、直鎖状分子としては、その両末端に反応基を有するものが好ましく、これにより、上記封鎖基と容易に反応させることができるようになる。
かかる反応基としては、採用する封鎖基の種類などに応じて適宜変更することができるが、水酸基、アミノ基、カルボキシル基及びチオール基などを例示することができる。
【0042】
このような直鎖状分子としては、特に限定されるものではなく、ポリアルキレン類、ポリカプロラクトンなどのポリエステル類、ポリエチレングリコールなどのポリエーテル類、ポリアミド類、ポリアクリル類及びベンゼン環を有する直鎖状分子を挙げることができる。
これら直鎖状分子のうち、特にポリエチレングリコール、ポリカプロラクトンが良好であり、水や親水性溶媒への溶解性の観点からはポリエチレングリコールを用いることが好ましい。
【0043】
また、上記直鎖状分子の分子量としては、1,000〜50,000とすることが望ましく、10,000〜40,000がより好ましく、更には20,000〜35,000の範囲であることが特に好ましい。
即ち、直鎖状分子の分子量が1,000未満では、環状分子による滑車効果が十分に得られなくなって塗膜の伸び率が低下し、耐擦傷性が劣化することがある。分子量が50,000を超えると、塗工液としたときの塗装性が低下し、平滑性や艶などの外観が劣化する傾向がある。
【0044】
他方、上記封鎖基は、上記のような直鎖状分子の両末端に配置されて、環状分子が直鎖状分子によって串刺し状に貫通された状態を保持できる基でさえあれば、どのような基であっても差し支えない。
このような基としては、「嵩高さ」を有する基又は「イオン性」を有する基などを挙げることができる。なお、ここで「基」とは、分子基及び高分子基を含む種々の基を意味する。
【0045】
「嵩高さ」を有する基としては、球形をなすものや、側壁状の基を例示することができる。
また、「イオン性」を有する基のイオン性と、環状分子の有するイオン性とが相互に影響を及ぼし合い、例えば反発し合うことにより、環状分子が直鎖状分子に串刺しにされた状態を保持することができる。
【0046】
このような封鎖基の具体例としては、2,4−ジニトロフェニル基、3,5−ジニトロフェニル基などのジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類及びピレン類、並びにこれらの誘導体又は変性体を挙げることができる。
【0047】
ここで、本発明に用いる各種ポリロタキサンの製造方法について説明する。
上述の如き、各種ポリロタキサンは、
(1)環状分子と直鎖状分子とを混合し、環状分子の開口部を直鎖状分子で串刺し状に貫通して直鎖状分子に環状分子を包接させる工程と、
(2)得られた擬ポリロタキサンの両末端(直鎖状分子の両末端)を封鎖基で封鎖して、環状分子が串刺し状態から脱離しないように調製する工程と、
(3)得られたポリロタキサンの環状分子の水酸基を親油性修飾基で修飾する工程、
によって処理することにより得られる。
【0048】
なお、上記(1)工程において、環状分子が有する水酸基をあらかじめそれぞれ親油性修飾基で修飾したものを用いることによっても、親油性ポリロタキサンを得ることができ、その場合には、上記(3)工程を省略することができる。
【0049】
以上のような製造方法によって、各種溶媒への溶解性に優れた親油性ポリロタキサンが得られる。
親油性ポリロタキサンを溶解させる親油性溶媒としては、特に限定されるものではないが、イソプロピルアルコールやブチルアルコールなどのアルコール類、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類、メチルエチルケトンやメチルイソブチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテルやジオキサンやテトラヒドロフランなどのエーテル類、トルエンやキシレンなどの炭化水素系溶媒などを挙げることができ、該親油性ポリロタキサンは、これらの2種以上を混合した溶媒についても良好な溶解性を示す。
【0050】
なお、本発明においては、各種溶媒に可溶である限りにおいて親油性ポリロタキサンが擬似架橋又は架橋しているものであってもよく、かかる親油性の架橋ポリロタキサンを、非架橋の親油性ポリロタキサンの代わりに又はこれに混合して用いることができる。
このような親油性の架橋ポリロタキサンとしては、比較的低分子量のポリマー、代表的には分子量が数千程度のポリマーと架橋した親油性ポリロタキサンを挙げることができる。
【0051】
また、本発明において、親油性の硬化型ポリロタキサンの場合、親油性修飾基の全部又は一部が、官能基を有することが他のポリマーとの反応性を向上させるという観点から望ましい。
かかる官能基は、そのシクロデキストリンの外側にあることが立体構造的に好ましく、ポリマーと結合又は架橋する際、この官能基を用いて容易に反応を行うことができる。
【0052】
かかる官能基は、架橋剤を用いない場合には、例えば用いる溶媒の種類に応じて適宜変更することができる。
一方、架橋剤を用いる場合には、その用いる架橋剤の種類に応じて適宜変更することができる。
更に、本発明においては、官能基の具体例として、例えば水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、チオール基及びアルデヒド基などを挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0053】
そして、上述の官能基を、その1種を単独で又は2種以上を組み合わせて有していてもよい。
かかる官能基としては、特にシクロデキストリンの水酸基と結合した化合物の残基であり、当該残基が、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基を有するものが良好であり、反応の多様性の観点からは水酸基が好ましい。
このような官能基を形成する化合物としては、例えばプロピレンオキシドなどを挙げることができるが、これに限定されるものではない。
例えば、当該親油性修飾ポリロタキサンの親油性溶媒への溶解性向上効果をあまり低下させなければ、官能基を形成する化合物がポリマーであってもよく、溶解性の観点からは、例えば、分子量が数千程度であることが望ましい。
なお、上述の官能基としては、後述する封鎖基が脱離しない反応条件において反応する基であることが好ましい。
【0054】
次に、硬化型親油性ポリロタキサンを含有する硬化型塗工液で塗工した感光体膜について詳細に説明する。硬化型感光体膜は、上述のような硬化型塗工液を固化して成る。
【0055】
これにより、塗膜形成時には、硬化型塗工液に用いる上記それぞれのポリロタキサンが有する、親油性の修飾基や他の官能基が、塗膜形成成分と反応し、架橋ポリロタキサンを形成することにより、耐擦傷性、耐チッピング性に優れるようになる。
また、クラックなども発生しにくい。
更に、耐候性、耐汚染性、密着性等にも優れる。
【0056】
なお、一般に、架橋ポリロタキサンは、ポリロタキサン単体と他のポリマーとが架橋したものを言うが、塗膜形成時には、上述した硬化型塗工液に用いるポリロタキサンが、塗膜形成成分(ポリマーなど)と架橋して成るものである。
この塗膜形成成分は、ポリロタキサンの環状分子を介してポリロタキサンと結合している。
【0057】
以下、架橋ポリロタキサンについて説明する。
図2に、架橋ポリロタキサンを概念的に示す。
同図において、この架橋ポリロタキサン1は、ポリマー3と上記ポリロタキサン5を有する。
そして、このポリロタキサン5は、環状分子7を介して架橋点9によってポリマー3及びポリマー3’と結合している。
【0058】
このような構成を有する架橋ポリロタキサン1に対し、図2(A)の矢印X−X’方向の変形応力が付加されると、架橋ポリロタキサン1は、図2(B)に示すように変形してこの応力を吸収することができる。
即ち、図2(B)に示すように、環状分子7は滑車効果によって直鎖状分子6に沿って移動可能であるため、上記応力をその内部で吸収可能である。
【0059】
このように、架橋ポリロタキサンは、図示したような滑車効果を有するものであり、従来のゲル状物などに比し優れた伸縮性や粘弾性、機械的強度を有するものである。
また、この架橋ポリロタキサンの前駆体である上記ポリロタキサンは、上述の如く親油性溶媒への溶解性が改善されており、親油性溶媒中での架橋などが容易である。
【0060】
よって、架橋ポリロタキサンは、親油性溶媒が存在する条件下で容易に得ることができ、特に、親油性ポリロタキサンと親油性溶媒に可溶性な塗膜形成成分とを架橋させることにより、容易に製造することができる。
【0061】
また別の観点からは、架橋ポリロタキサンは、上記ポリロタキサンの架橋対象である塗膜形成成分の物性を損なうことなく、当該塗膜形成成分と当該ポリロタキサンとを複合体化したものである。
従って、以下に説明する架橋ポリロタキサンの形成方法によれば、上記塗膜形成成分の物性と上記ポリロタキサン自体の物性を併有する材料が得られるのみならず、ポリマー種などを選択することにより、所望の機械的強度などを有する塗膜を得ることができる。
なお、架橋ポリロタキサンは、架橋対象が親油性であり、その分子量が余り大きくない場合、例えば分子量が数千程度までなら親油性溶媒に溶解する。
【0062】
ここで、架橋ポリロタキサンの形成方法について説明する。
架橋ポリロタキサンは、代表的には、(a)硬化型親油性ポリロタキサンを他の塗膜形成成分と混合し、(b)当該塗膜形成成分の少なくとも一部を物理的及び/又は化学的に架橋させ、(c)当該塗膜形成成分の少なくとも一部と上記ポリロタキサンとを環状分子を介して結合させる(硬化反応)、ことにより形成できる。上記硬化反応は、例えば100〜140℃に加熱することにより行うことができる。
なお、上記ポリロタキサンは、親油性溶媒に可溶であるため、(a)工程〜(c)工程を親油性溶媒中で円滑に行うことができる。
また、これらの工程は硬化剤を用いることでより円滑に行うことができる。
【0063】
(b)、(c)工程においては、化学架橋することが好ましく、例えば、これは上述の如きポリロタキサンの環状分子が有する水酸基と、塗料形成成分の一例であるポリイソシアネート化合物とが、ウレタン結合を繰返し形成することによって、架橋ポリロタキサンが得られる。
また、(b)工程と(c)工程はほぼ同時に実施してもよい。
【0064】
(a)工程の混合工程は、溶媒中で行うことができる。
また、溶媒は塗膜形成時に加熱処理などで除去できる。
【0065】
本発明の電子写真感光体の表面を構成する層は、上述した各種ポリロタキサンを含有する塗工液を用いて形成されたものであって、ポリロタキサン及び架橋ポリロタキサンを形成するポリロタキサンの含有量としては、塗膜形成成分(樹脂などの固形分)に対して質量換算で1〜40%含まれることが好ましい。より好ましくは10〜30%であり、特に好ましくは20〜30%であることがよい。
即ち、ポリロタキサンの塗膜形成成分に対する含有量が1%に満たない場合には、ポリロタキサンの滑車効果が十分に得られず、塗膜の伸び率が低下して所望の耐擦傷性が得られなくなることがある。40%を超えると、塗膜に粘着感が生じる可能性がある。
【0066】
本発明の感光体表層となる層の塗工液は、上述の各種ポリロタキサンを既存の感光体表層となる層の塗工液に、望ましくは上記含有量となるように配合することによって得られる。
【0067】
上記感光体表層となる層の塗工液の樹脂成分としては、特に限定されるものではないが、主鎖又は側鎖に水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ビニル基、チオール基又は光架橋基、及びこれらの任意の組合せに係る基を有するものが好ましい。
なお、光架橋基としては、ケイ皮酸、クマリン、カルコン、アントラセン、スチリルピリジン、スチリルピリジニウム塩及びスチリルキノリン塩などを例示できる。
【0068】
また、2種以上の樹脂成分を混合使用してもよいが、この場合、少なくとも1種の樹脂成分が環状分子を介してポリロタキサンと結合していることがよい。
更に、かかる樹脂成分は、ホモポリマーでもコポリマーでもよい。コポリマーの場合、2種以上のモノマーから構成されるものでもよく、ブロックコポリマー、交互コポリマー、ランダムコポリマー又はグラフトコポリマーのいずれであってもよい。
【0069】
具体例としては、表層が、例えば電荷輸送層の場合、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート、酢酸セルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルトルエン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂等の熱可塑性又は熱硬化性樹脂等、が挙げられる。
【0070】
また表層が例えば保護層の場合、ABS樹脂、ACS樹脂、オレフィン−ビニルモノマー共重合体、塩素化ポリエーテル、アリル樹脂、フェノール樹脂、ポリアセタール、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリレート、ポリアリルスルホン、ポリブチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリメチルベンテン、ポリプロピレン、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリスチレン、AS樹脂、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、エポキシ樹脂等、が挙げられる。
【0071】
上記硬化剤の具体例としては、メラミン樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、塩化シアヌル、トリメソイルクロリド、テレフタロイルクロリド、エピクロロヒドリン、ジブロモベンゼン、グルタールアルデヒド、フェニレンジイソシアネート、ジイソシアン酸トリレイン、ジビニルスルホン、1,1’−カルボニルジイミダゾール又はアルコキシシラン類を挙げることができ、本発明では、これらを1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、上記硬化剤は、分子量が2000未満、好ましくは1000未満、更に好ましくは600未満、いっそう好ましくは400未満のものを用いることができる。
【0072】
以下、本発明の層構造を説明する。
<電子写真感光体の層構造について>
本発明に用いられる電子写真感光体を図面に基づいて説明する。
図3は、本発明の電子写真感光体を表わす断面図であり、導電性支持体31上に、電荷発生機能と電荷輸送機能を同時に有する感光層32が設けられた単層構造の電子写真感光体である。この場合は、感光層32にポリロタキサンを含む樹脂が含有されている。
図4は、図3の感光層32上に保護層33を設けたものである。この場合、保護層33中にポリロタキサンが含有されている。
図5は、導電性支持体31上に、電荷発生機能を有する電荷発生層321と、電荷輸送物機能を有する電荷輸送層322とが積層された積層構造の電子写真感光体である。この場合は、電荷輸送層322にポリロタキサンが含有されている。電荷発生層321と電荷輸送層322とは逆層の場合もあり、その場合は、電荷発生層にポリロタキサンが含有されている。
図6は、図5の電荷輸送層322上に保護層33を設けたものである。この場合、保護層33中にポリロタキサンが含有されている。
【0073】
<導電性支持体について>
導電性支持体としては、体積抵抗1010Ω・cm以下の導電性を示すもの、例えば、アルミニウム、ニッケル、クロム、ニクロム、銅、金、銀、白金などの金属、酸化スズ、酸化インジウムなどの金属酸化物を蒸着またはスパッタリングにより、フィルム状もしくは円筒状のプラスチック、紙に被覆したもの、あるいはアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ステンレスなどの板およびそれらを押し出し、引き抜きなどの工法で素管化後、切削、超仕上げ、研摩などの表面処理を施した管などを使用することができる。またエンドレスニッケルベルト、エンドレスステンレスベルトも導電性支持体として用いることができる。
この他、上記支持体上に導電性粉体を適当なバインダー樹脂に分散して塗工したものについても、本発明の導電性支持体として用いることができる。
この導電性粉体としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、また、アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀などの金属粉、あるいは導電性酸化スズ、ITOなどの金属酸化物粉体などが挙げられる。また、同時に用いられるバインダー樹脂には、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート、酢酸セルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルトルエン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂などの熱可塑性、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂が挙げられる。このような導電性層は、これらの導電性粉体とバインダー樹脂を適当な溶媒、例えば、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、メチルエチルケトン、トルエンなどに分散して塗布することにより設けることができる。
さらに、適当な円筒基体上にポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、塩化ゴム、テフロン(登録商標)などの素材に前記導電性粉体を含有させた熱収縮チューブによって導電性層を設けてなるものも、本発明の導電性支持体として良好に用いることができる。
【0074】
<感光層について>
次に感光層について説明する。感光層は積層構造でも単層構造でもよい。
積層構造の場合には、感光層は電荷発生機能を有する電荷発生層と電荷輸送機能を有する電荷輸送層とから構成される。また、単層構造の場合には、感光層は電荷発生機能と電荷輸送機能を同時に有する層である。
以下、積層構造の感光層及び単層構造の感光層のそれぞれについて述べる。
【0075】
<感光層が積層構成のもの>
(電荷発生層について)
電荷発生層は、電荷発生機能を有する電荷発生物質を主成分とする層で、必要に応じてバインダー樹脂を併用することもできる。電荷発生物質としては、無機系材料と有機系材料を用いることができる。
無機系材料には、結晶セレン、アモルファス・セレン、セレン−テルル、セレン−テルル−ハロゲン、セレン−ヒ素化合物や、アモルファス・シリコン等が挙げられる。アモルファス・シリコンにおいては、ダングリングボンドを水素原子、ハロゲン原子でターミネートしたものや、ホウ素原子、リン原子等をドープしたものが良好に用いられる。
一方、有機系材料としては、公知の材料を用いることができる。例えば、金属フタロシアニン、無金属フタロシアニン等のフタロシアニン系顔料、アズレニウム塩顔料、スクエアリック酸メチン顔料、カルバゾール骨格を有するアゾ顔料、トリフェニルアミン骨格を有するアゾ顔料、ジフェニルアミン骨格を有するアゾ顔料、ジベンゾチオフェン骨格を有するアゾ顔料、フルオレノン骨格を有するアゾ顔料、オキサジアゾール骨格を有するアゾ顔料、ビススチルベン骨格を有するアゾ顔料、ジスチリルオキサジアゾール骨格を有するアゾ顔料、ジスチリルカルバゾール骨格を有するアゾ顔料、ペリレン系顔料、アントラキノン系または多環キノン系顔料、キノンイミン系顔料、ジフェニルメタン及びトリフェニルメタン系顔料、ベンゾキノン及びナフトキノン系顔料、シアニン及びアゾメチン系顔料、インジゴイド系顔料、ビスベンズイミダゾール系顔料などが挙げられる。これらの電荷発生物質は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。
【0076】
電荷発生層に必要に応じて用いられるバインダー樹脂としては、ポリアミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリケトン、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルケトン、ポリスチレン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリアクリルアミドなどが挙げられる。これらのバインダー樹脂は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。また、電荷発生層のバインダー樹脂として上述のバインダー樹脂の他に、電荷輸送機能を有する高分子電荷輸送物質、例えば、アリールアミン骨格やベンジジン骨格やヒドラゾン骨格やカルバゾール骨格やスチルベン骨格やピラゾリン骨格等を有するポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリシロキサン、アクリル樹脂等の高分子材料やポリシラン骨格を有する高分子材料等を用いることができる。
前者の具体的な例としては、特開平01−001728号公報、特開平01−009964号公報、特開平01−013061号公報、特開平01−019049号公報、特開平01−241559号公報、特開平04−011627号公報、特開平04−175337号公報、特開平04−183719号公報、特開平04−225014号公報、特開平04−230767号公報、特開平04−320420号公報、特開平05−232727号公報、特開平05−310904号公報、特開平06−234836号公報、特開平06−234837号公報、特開平06−234838号公報、特開平06−234839号公報、特開平06−234840号公報、特開平06−234841号公報、特開平06−239049号公報、特開平06−236050号公報、特開平06−236051号公報、特開平06−295077号公報、特開平07−056374号公報、特開平08−176293号公報、特開平08−208820号公報、特開平08−211640号公報、特開平08−252868号公報、特開平08−269183号公報、特開平09−062019号公報、特開平09−043883号公報、特開平09−71642号公報、特開平09−87376号公報、特開平09−104746号公報、特開平09−110974号公報、特開平09−110976号公報、特開平09−157378号公報、特開平09−221544号公報、特開平09−227669号公報、特開平09−228367号公報、特開平09−241369号公報、特開平09−268226号公報、特開平09−272728号公報、特開平09−302084号公報、特開平09−302085号公報、特開平09−328539号公報等に記載の電荷輸送性高分子材料が挙げられる。
また、後者の具体例としては、例えば特開昭63−285552号公報、特開平05−19497号公報、特開平05−70595号公報、特開平10−73944号公報等に記載のポリシリレン重合体が例示される。
【0077】
また、電荷発生層には電荷輸送物質を含有させることができる。
電荷発生層に併用できる電荷輸送物質には、正孔輸送物質と電子輸送物質とがある。
電子輸送物質としては、たとえばクロルアニル、ブロムアニル、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロキサントン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、2,6,8−トリニトロ−4H−インデノ〔1,2−b〕チオフェン−4−オン、1,3,7−トリニトロジベンゾチオフェン−5,5−ジオキサイド、ジフェノキノン誘導体などの電子受容性物質が挙げられる。これらの電子輸送物質は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。
正孔輸送物質としては、以下に表わされる電子供与性物質が挙げられ、良好に用いられる。正孔輸送物質としては、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、モノアリールアミン誘導体、ジアリールアミン誘導体、トリアリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、α−フェニルスチルベン誘導体、ベンジジン誘導体、ジアリールメタン誘導体、トリアリールメタン誘導体、9−スチリルアントラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、ジビニルベンゼン誘導体、ヒドラゾン誘導体、インデン誘導体、ブタジェン誘導体、ピレン誘導体等、ビススチルベン誘導体、エナミン誘導体等、その他公知の材料が挙げられる。これらの正孔輸送物質は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。
【0078】
電荷発生層を形成する方法には、真空薄膜作製法と溶液分散系からのキャスティング法とが大きく挙げられる。
前者の方法には、真空蒸着法、グロー放電分解法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、CVD法等が用いられ、上述した無機系材料、有機系材料が良好に形成できる。
また、後述のキャスティング法によって電荷発生層を設けるには、上述した無機系もしくは有機系電荷発生物質を必要ならばバインダー樹脂と共にテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、トルエン、ジクロロメタン、モノクロロベンゼン、ジクロロエタン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、アニソール、キシレン、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等の溶媒を用いてボールミル、アトライター、サンドミル、ビーズミル等により分散し、分散液を適度に希釈して塗布することにより、形成できる。また、必要に応じて、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のレベリング剤を添加することができる。塗布は、浸漬塗工法やスプレーコート、ビードコート、リングコート法などを用いて行なうことができる。
以上のようにして設けられる電荷発生層の膜厚は、0.01〜5μm程度が適当であり、好ましくは0.05〜2μmである。
【0079】
(電荷輸送層について)
電荷輸送層は電荷輸送機能を有する層である。
電荷輸送層は電荷輸送機能を有する電荷輸送物質およびバインダー樹脂を適当な溶媒に溶解ないし分散し、これを電荷発生層上に塗布、乾燥することにより形成する。
電荷輸送層が最表面となる構成の場合は、上記電荷輸送機能を有する電荷輸送物質およびバインダー樹脂に加え、上述の各種ポリロタキサンを、適当な溶媒に溶解ないし分散し、これを電荷発生層上に塗布、乾燥することにより形成する。ポリロタキサンの含有量は、バインダー樹脂100質量部に対し、1〜50質量部、好ましくは25〜45質量部が適当である。
【0080】
電荷輸送物質としては、前記電荷発生層で記載した電子輸送物質、正孔輸送物質を用いることができる。
バインダー樹脂としては、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート、酢酸セルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルトルエン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂等の熱可塑性または熱硬化性樹脂が挙げられる。
電荷輸送物質の量はバインダー樹脂とポリロタキサンとを合わせた量100質量部に対し、20〜300質量部、好ましくは40〜150質量部が適当である。
【0081】
電荷輸送層に用いられる溶媒としては前記電荷発生層と同様なものが使用できるが、電荷輸送物質及びバインダー樹脂を良好に溶解するものが適している。これらの溶媒は単独で使用しても2種以上混合して使用しても良い。また、電荷輸送層の形成には電荷発生層と同様な塗工法が可能である。
また、必要により可塑剤、レベリング剤を添加することもできる。
電荷輸送層に併用できる可塑剤としては、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等の一般の樹脂の可塑剤として使用されているものがそのまま使用でき、その使用量は、バインダー樹脂100質量部に対して0〜30質量部程度が適当である。
電荷輸送層に併用できるレベリング剤としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のシリコーンオイル類や、側鎖にパーフルオロアルキル基を有するポリマーあるいはオリゴマーが使用され、その使用量は、バインダー樹脂100質量部に対して0〜1質量部程度が適当である。
電荷輸送層の膜厚は、5〜40μm程度が適当であり、好ましくは10〜30μm程度が適当である。
【0082】
<感光層が単層のもの>
単層構造の感光層は電荷発生機能と電荷輸送機能を同時に有する層である。
感光層は電荷発生機能を有する電荷発生物質と電荷輸送機能を有する電荷輸送物質とバインダー樹脂を適当な溶媒に溶解ないし分散し、これを塗布、乾燥することによって形成できる。また、必要により可塑剤やレベリング剤等を添加することもできる。
単層で感光層が最表面となる構成の場合は、上記電荷発生機能を有する電荷発生物質と電荷輸送機能を有する電荷輸送物質とバインダー樹脂に加え、上述の各種ポリロタキサンを、適当な溶媒に溶解ないし分散し、これを導電性支持体もしくは下引き層上に塗布、乾燥することにより形成できる。ポリロタキサンの含有量は、バインダー樹脂100質量部に対し、1〜50質量部、好ましくは25〜45質量部が適当である。
電荷発生物質の分散方法、それぞれ電荷発生物質、電荷輸送物質、可塑剤、レベリング剤は前記電荷発生層、電荷輸送層において既に述べたものと同様なものが使用できる。バインダー樹脂としては、先に電荷輸送層の項で挙げたバインダー樹脂のほかに、電荷発生層で挙げたバインダー樹脂を混合して用いてもよい。また、先に挙げた高分子電荷輸送物質も使用可能である。かかる感光層の膜厚は、5〜30μm程度が適当であり、好ましくは10〜25μm程度が適当である。
単層構造の感光層中に含有される電荷発生物質は感光層全量に対し1〜30質量%が好ましく、感光層に含有されるバインダー樹脂は全量の14〜55質量%、ポリロタキサンは6〜25質量%、電荷輸送物質は10〜70質量%が良好に用いられる。
【0083】
<保護層について>
本発明の感光体においては、ポリロタキサンを含む保護層が感光層の上に設けられる場合がある。
ポリロタキサンとバインダー樹脂とを、適当な溶媒に溶解ないし分散し、これを塗布、乾燥することにより形成できる。ポリロタキサンの含有量は、バインダー樹脂100質量部に対し、1〜50質量部、好ましくは25〜45質量部が適当である。
必要により、電荷輸送物質、可塑剤、酸化防止剤、レベリング剤、耐摩耗性粒子等を適量添加することもできる。またポリロタキサンと触媒の混合手段は特に限定されず、単純な撹拌添加、溶媒溶解、分散による混合、ミキサーによる混合、混練りなどを挙げることができる。
【0084】
このとき用いられるバインダー樹脂としては、ABS樹脂、ACS樹脂、オレフィン−ビニルモノマー共重合体、塩素化ポリエーテル、アリル樹脂、フェノール樹脂、ポリアセタール、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリレート、ポリアリルスルホン、ポリブチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリメチルベンテン、ポリプロピレン、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリスチレン、AS樹脂、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、エポキシ樹脂等、が挙げられる。
【0085】
このとき用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、親油性の高い長鎖アルコールなどのアルコール系、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどのエステル系、テトラヒドロフラン、ジオキサン、プロピルエーテル、ジエチルエーテルなどのエーテル系、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン系、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、セロソルブアセテートなどのセロソルブ系などが挙げられる。これらの溶媒は単独または2種以上を混合して用いてもよい。また、親水性溶媒が含まれていても、全体として親油性溶媒とみなすことができればよい。溶媒による希釈率は組成物の溶解性、塗工法、目的とする膜厚により変わり、任意である。
【0086】
感光層上に保護層を設ける方法としては、浸漬塗工方法、リングコート法、スプレー塗工方法など用いられる。
このうち一般的な保護層の製膜方法としては、微小開口部を有するノズルより塗工液を吐出し、霧化することにより生成した微小液滴を感光層上に付着させて塗膜を形成するスプレー塗工方法が用いられる。
尚、保護層の厚さは1.0〜30.0μmの範囲であることが好ましい。薄すぎた場合は、滑車効果が不十分となり、長期的使用において、摩耗し、消失しやすくなり、厚い場合には、残留電位上昇や微細ドット再現性の低下が考えられる。
【0087】
<下引き層について>
本発明の電子写真感光体においては、導電性支持体と感光層との間に下引き層を設けることができる。下引き層は一般には樹脂を主成分とするが、これらの樹脂はその上に感光層を溶媒で塗布することを考えると、一般の有機溶剤に対して耐溶剤性の高い樹脂であることが望ましい。このような樹脂としては、ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリアクリル酸ナトリウム等の水溶性樹脂、共重合ナイロン、メトキシメチル化ナイロン等のアルコール可溶性樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド−メラミン樹脂、エポキシ樹脂等、三次元網目構造を形成する硬化型樹脂等が挙げられる。また、下引き層にはモアレ防止、残留電位の低減等のために酸化チタン、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化インジウム等で例示できる金属酸化物の微粉末顔料を加えてもよい。
これらの下引き層は、前述の感光層の如く適当な溶媒及び塗工法を用いて形成することができる。更に本発明の下引き層として、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、クロムカップリング剤等を使用することもできる。この他、本発明の下引き層には、Al23を陽極酸化にて設けたものや、ポリパラキシリレン(パリレン)等の有機物やSiO2、SnO2、TiO2、ITO、CeO2等の無機物を真空薄膜作成法にて設けたものも良好に使用できる。このほかにも公知のものを用いることができる。下引き層の膜厚は0〜5μmが適当である。
【0088】
<各層への酸化防止剤の添加について>
また、本発明においては、耐環境性の改善のため、とりわけ、感度低下、残留電位の上昇を防止する目的で、保護層、電荷発生層、電荷輸送層、下引き層、その他必要に応じて設けられる中間層等の各層に酸化防止剤を添加することができる。
これら酸化防止剤は、ゴム、プラスチック、油脂類などの添加剤として知られており、市販品を容易に入手できる。
本発明における酸化防止剤の添加量は、添加する層の総質量に対して0.01〜10質量%である。
【0089】
<画像形成方法及び装置について>
以下、本発明が適用される画像形成装置について実施形態を説明する。但し、これらはその一例であって、これに限定されるものではない。図7に、後述する各実施例にも共通した構成を有する画像形成装置の一例を示す。この画像形成装置は、有機感光体からなる電子写真感光体を備えている。電子写真感光体1は、少なくとも感光層を有し、感光体表面を構成する層がポリロタキサン及び/又は架橋ポリロタキサンを含有することを特徴としている。
【0090】
<全体構成について>
図7において電子写真感光体1は、図示しない駆動装置により回転駆動され、その表面が近接帯電方式の帯電装置2の帯電ローラ2aにより所定の極性に帯電される。帯電された電子写真感光体1の表面は、露光装置3によって露光され画像情報に応じた静電潜像が形成される。この静電潜像は、現像装置4から電子写真感光体1の表面に供給される現像剤としてのトナーにより現像されて、トナー像として可視像化される。
一方、図示しない給紙部からは記録媒体としての転写紙が電子写真感光体1に向けて給送される。この転写紙には、電子写真感光体1に対向配置されている転写装置5によって電子写真感光体1上のトナー像が転写紙上に転写される。トナー像が転写された転写紙は、電子写真感光体1から分離した後、転写材搬送経路10に沿って定着装置6に搬送されて、トナー像が定着される。転写紙にトナー像を転写した後の電子写真感光体1上に残留している残留トナーとしての転写残トナーは、クリーニング装置7によって電子写真感光体1上から除去される。また、転写残トナーが除去された後の電子写真感光体表面の残留電荷は、除電装置9により除去される。このようにして、電子写真感光体1は繰り返し使用される。
また、本実施形態の画像形成装置では、電子写真感光体、帯電装置、現像装置、クリーニング装置が一体に構成され、画像形成装置本体から着脱可能なプロセスカートリッジとして構成されていてもよい。
【0091】
<帯電について>
次に画像形成装置に用いる帯電装置2について説明する。この帯電装置2は、近接放電を用いて電子写真感光体を帯電する。近接放電を用いて電子写真感光体を帯電する方法としては、回動可能なローラ状の帯電部材(以下、帯電ローラという)2aを電子写真感光体に接触させて配置する接触帯電方式と、帯電ローラを電子写真感光体に非接触に配置する非接触帯電方式とがある。本実施形態においては、非接触帯電方式を用いている。
本発明は接触帯電方式にも適用できるが、接触帯電方式においては電子写真感光体表面との接触性を向上させ、かつ電子写真感光体に機械的ストレスを与えない弾性部材を用いる事が好ましい。しかし弾性部材を用いた場合には帯電ニップ幅が広くなり、これによって帯電ローラ側に保護物質が付着しやすくなることがある。よって、高耐久化の為には、非接触帯電方式を採用する方が有利である。本実施形態においては、電子写真感光体表面における少なくとも画像形成領域に対して所定の帯電ギャップをもって対向するよう帯電ローラ2aを配置した非接触帯電方式を採用した。
帯電装置としては、形状はこれに限るものではなく、上記接触ローラ方式、ワイヤ方式、鋸歯方式等、も使用できる。
【0092】
図8は、本実施形態の画像形成装置に用いる帯電装置2の説明図である。
帯電ローラは軸部21aとローラ部21bとからなる。ローラ部21bは軸部21aの回転によって回動可能であり、電子写真感光体1表面のうち画像が形成される画像形成領域11に対向する部分は電子写真感光体1と非接触である。帯電ローラは、その長手方向(軸方向)の寸法が画像形成領域よりも少し長く設定されており、その長手方向の両端部にスペーサ22を設けている。これら2つのスペーサを電子写真感光体表面両端部の非画像形成領域12に当接させることによって、電子写真感光体1と帯電ローラとの間に微小なギャップ14を形成している。この微小なギャップ14は、帯電ローラと電子写真感光体1との最近接部における距離が1〜100μmに維持できるよう構成している。このギャップ14のより好ましい範囲は、10〜80μm、さらに好ましくは30〜65μmであり、本実施形態の装置では、50μmに設定した。また、軸部21aをスプリングからなる加圧バネ15によって電子写真感光体側に加圧している。これにより、微小なギャップ14を精度よく維持することができる。また、帯電ローラはスペーサ22を介して電子写真感光体表面に連れ回って回転する。
【0093】
帯電ローラには帯電用の電源を接続している。これにより、電子写真感光体表面と帯電ローラ表面との間の微小な空隙での近接放電により、電子写真感光体表面を均一に帯電する。印可電圧としては直流電圧に交流電圧を重畳し使用する。印加電圧として直流電圧に交流電圧を重畳させた交番電圧を使用すると、微小ギャップ変動による帯電電位のばらつきなどの影響が抑制されて均一な帯電が可能となる。本実施形態においては直流成分である直流電圧に交流成分である交流電圧を重畳した交番電圧を用いている。
帯電ローラは円柱状を呈する導電性支持体としての芯金と、芯金の外周面上に形成された抵抗調整層を有する。帯電ローラの表面は硬質であることが望ましい。ローラ部材としてはゴム部材も使用できるが、ゴム部材のように変形しやすい部材であると電子写真感光体1との微小ギャップ14の均一な維持が困難となり、作像条件によっては帯電ローラの中央部のみが電子写真感光体表面に突発的に接触する可能性がある。帯電ローラは、非接触帯電方式を使用する場合にはたわみが少ない硬質の部材が望ましい。
【0094】
表面が硬質な帯電ローラの具体例としては、例えば、抵抗調整層を高分子型イオン導電剤が分散する熱可塑性樹脂組成物(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン及びその共重合体等)により形成し、抵抗調整層の表面を硬化剤により硬化皮膜処理されたものが挙げられる。また硬化皮膜処理は、例えば、イソシアネート含有化合物を含む処理溶液に抵抗調整層を浸漬させることにより行われるが、抵抗調整層の表面に改めて硬化処理皮膜層を形成することにより行われてもよい。本実施形態では、帯電ローラをφ10mm(直径10mm)で形成した。
以上の説明から明らかなように、本発明の電子写真感光体は電子写真複写機に利用するのみならず、レーザービームプリンター、CRTプリンター、LEDプリンター、液晶プリンター及びレーザー製版等の電子写真応用分野にも広く用いることができるものである。
本発明の電子写真感光体は、図9に示すタンデム型画像形成装置にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0095】
以下本発明を実施例により説明するが、これにより本発明が限定されるものではない。部はいずれも質量基準である。
実施例1
Al製支持体(外径φ30mm)に、乾燥後の膜厚が3.8μmになるように浸漬法で塗工し、下引き層を形成した。
【0096】
・下引き層用塗工液
アルキッド樹脂 6部
(ベッコゾール1307−60−EL、大日本インキ化学工業製)
メラミン樹脂 4部
(スーパーベッカミン G−821−60、大日本インキ化学工業製)
酸化チタン 40部
(CR−EL:石原産業)
メチルエチルケトン 50部
【0097】
この下引き層上に下記構造のビスアゾ顔料を含む電荷発生層塗工液に浸漬塗工し、135℃で加熱乾燥させ、膜厚0.2μmの電荷発生層を形成した。
・電荷発生層用塗工液
下記化学式1を有するビスアゾ顔料 2.5部
ポリビニルブチラール(XYHL、UCC製) 0.5部
シクロヘキサノン 200部
メチルエチルケトン 80部
【化1】

【0098】
この電荷発生層上に下記構成の電荷輸送層用塗工液を用いて、浸漬塗工し、135℃で加熱乾燥させ、膜厚22μmの電荷輸送層とした。
・電荷輸送層用塗工液
ビスフェノールZ型ポリカーボネート 10部
下記化学式2を有する電荷輸送物質 10部
テトラヒドロフラン 80部
1%シリコーンオイルのテトラヒドロフラン溶液 0.2部
(KF50、信越化学工業製)
【化2】

【0099】
この電荷輸送層上に下記構成の保護層用塗工液を用いて、スプレー塗工し、150℃加熱乾燥させ、膜厚10.0μmの保護層とした。
・保護層用塗工液
電荷輸送層に用いた電荷輸送物質
ビスフェノールZ型ポリカーボネート
修飾ポリロタキサンA
テトラヒドロフラン
シクロヘキサノン
<混合比(質量)>
電荷輸送物質/ビスフェノールZ型ポリカーボネート/修飾ポリロタキサンA/テトラヒドロフラン/シクロヘキサノン=4/3.5/1.5/170/50
【0100】
なお、上記修飾ポリロタキサンAは以下の方法で調製した。
・ポリロタキサンの調製
(1)PEGのTEMPO酸化によるPEG−カルボン酸の調製
直鎖状分子として、PEG(ポリエチレングリコール、分子量:20,000)10g、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジニルオキシラジカル)100mg、臭化ナトリウム1gを水100mLに溶解させ、これに市販の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度5%)5mLを添加し、室温で10分間攪拌した。
次いで、余った次亜塩素酸ナトリウムを分解させるために、エタノールを最大5mLまでの範囲で添加して反応を終了させた。
そして、50mLの塩化メチレンを用いた抽出を3回繰り返して、無機塩以外の成分を抽出したのち、エバポレータで塩化メチレンを留去して、250mLの温エタノールに溶解させてから、冷凍庫(−4℃)に一晩おいて、PEG−カルボン酸のみを析出させ、回収、乾燥した。
(2)PEG−カルボン酸とα−CDを用いた包接錯体の調製
上記(1)により調製したPEG−カルボン酸3g及びα−CD(シクロデキストリン)12gをそれぞれ別々に用意した70℃の温水50mLに溶解させたのち混合し、よく振り混ぜた後、冷蔵庫(4℃)中で一晩静置して、クリーム状に析出した包接錯体を凍結乾燥して回収した。
(3)α−CDの減量、及びアダマンタンアミンとBOP試薬反応系を用いた包接錯体の封鎖
上記(2)により調製した包接錯体14gをジメチルホルムアミド/ジメチルスルホキシド(DMF/DMSO)混合溶媒(体積比90/10)20mLに分散させた。
一方、室温でDMF(ジメチルホルムアミド)10mLに、BOP試薬(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム・ヘキサフルオロフォスフェート)3g、HOBt(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)1g、アダマンタンアミン1.4g、ジイソプロピルエチルアミン1.25mLをこの順番に溶解させておき、この溶液を上記により調製した分散液に添加し、すみやかによく振り混ぜ、スラリー状になった試料を冷蔵庫(4℃)中に一晩静置した。
一晩静置した後、DMF/メタノール混合溶媒(体積比1/1)50mLを添加し、混合し、遠心分離して、上澄みを捨てた。
上記のDMF/メタノール混合溶液による洗浄を2回繰り返した後、更にメタノール100mLを用いた洗浄を同様の遠心分離により2回繰り返した。
得られた沈殿を真空乾燥で乾燥させた後、50mLのDMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解させ、得られた透明な溶液を700mLの水中に滴下してポリロタキサンを析出させ、析出したポリロタキサンを遠心分離で回収し、真空乾燥又は凍結乾燥させた。
このDMSOに溶解−水中で析出−回収−乾燥のサイクルを2回繰り返し、最終的に精製ポリロタキサンを得た。
得られた精製ポリロタキサン中に含まれるα−CDの量を光吸収測定及びNMRにより求めた。求めた結果、α−CDは80個包接されていることが分かった。一方、用いたPEGにα−CDを密に詰めた場合、最大包接量が230個であることが計算で求めることができる。この計算値と、光吸収測定及びNMRの測定値から、本実施例で用いた精製ポリロタキサンのα−CDの包接量は0.35であった。
【0101】
・修飾ポリロタキサンAの調製
トルエン中で20gのポリエチレングリコールモノステアリン酸エステル(TCI社製)に、6gのヘキサメチレンジイソシアネートを結合させた後、エーテルによる再結晶で精製した。
得られたイソシアネート化ポリエチレングリコールモノステアリン酸エステル15gを、DMSO中に溶かした上記精製ポリロタキサン(約500mg)と室温下で一晩反応させた後、エーテルによる再析出で精製し乾燥させ、修飾ポリロタキサンAを得た。
修飾ポリロタキサンAの親油性修飾基による修飾度は0.07であった。
【0102】
実施例2
実施例1に用いた電荷輸送層用塗工液の代わりに、実施例1の保護層に用いたポリロタキサンAを含む下記塗工液を用い、保護層を設けないこと以外は全て実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0103】
・電荷輸送層用塗工液
ビスフェノールZ型ポリカーボネート 7部
修飾ポリロタキサンA 3部
上記化学式2を有する電荷輸送物質 10部
テトラヒドロフラン 80部
1%シリコーンオイルのテトラヒドロフラン溶液 0.2部
(KF50、信越化学工業製)
【0104】
実施例3
実施例2に用いた修飾ポリロタキサンAの替わりに、以下の修飾ポリロタキサンBを用いた以外は、全て実施例2と同様にして電子写真感光体を作製した。
・修飾ポリロタキサンBの調製
(1)シクロデキストリンの水酸基のヒドロキシプロピル化
上記によって調製した精製ポリロタキサン500mgを1mol/LのNaOH水溶液50mLに溶解し、プロピレンオキシド21.1g(330mmol)を添加し、アルゴン雰囲気下、室温で一晩撹拌した。
そして、1mol/LのHCl水溶液で中和し、透析チューブにて透析した後、凍結乾燥して回収し、親水性ポリロタキサンを得た。
得られた親水性ポリロタキサンは、1H−NMR及びGPCで同定し、所望のポリロタキサンであることを確認した。
なお、α−CDの包接量は0.35であり、親水性修飾基による修飾度は0.5であった。
(2)修飾ポリロタキサンBの調製
水酸基をヒドロキシプロピル基で修飾したヒドロキシプロピル化ポリロタキサン500mgに、モレキュラーシーブで乾燥させたε−カプロラクトン10mLを加え、室温で30分撹拌して浸透させた。その後、2−エチルヘキサン酸スズ0.2mLを加え、100℃で1〜8時間反応させた。反応終了後、試料を50mLのトルエンに溶解させ、撹拌した450mLのヘキサン中に滴下して析出させ回収し、修飾ポリロタキサンBを得た。
修飾ポリロタキサンBの親油性修飾基による修飾度は0.07であった。
【0105】
・電荷輸送層用塗工液
ビスフェノールZ型ポリカーボネート 7部
修飾ポリロタキサンB 3部
上記化学式2を有する電荷輸送物質 10部
テトラヒドロフラン 80部
1%シリコーンオイルのテトラヒドロフラン溶液 0.2部
(KF50、信越化学工業製)
修飾ポリロタキサンBは、電荷輸送層用塗工液として、電荷発生層上に浸漬塗工され、135℃加熱乾燥される。この時、ポリロタキサンが有する、親油性の修飾基や他の官能基が、塗膜形成成分であるビスフェノールZ型ポリカーボネートと架橋して、架橋ポリロタキサンを形成する。この場合、上述の硬化剤は用いていない。
【0106】
比較例1
保護層を設けないこと以外は全て実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0107】
比較例2
実施例1における電荷輸送層上にさらに、下記の保護層塗工液をスプレー塗工[スプレーガン:ピースコンPC308 オリンポス社製、エア圧:2kgf/cm2]を行い、150℃60分間乾燥して約5μmの保護層を形成した以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
◎保護層塗工液
下記組成の溶液を高速液衝突分散装置(装置名:アルティマイザーHJP−25005 スギノマシン社製)において、100MPa圧力下、30min循環し、パーフロロアルコキシ(以下、PFAと省略)樹脂粒子分散液(1)を得た。
PFA樹脂粒子(MPE−056、三井フロロケミカル製) 38部
分散助剤(モディパーF210 日本油脂製) 3.8部
テトラヒドロフラン 1000部
シクロヘキサノン 300部
【0108】
次にアクリルポリオール共重合体であるスチレン(St)−メチルメタクリレート(MMA)−2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2−HEMA)共重合体の溶液(溶媒はセロソルブアセテートとメチルイソブチルケトンとの混合溶媒)と酸化スズ粒子(三菱金属社製)を用意した。
アクリルポリオール共重合体は、モノマー構成比(重量比)St/MMA/2−HEMA/2−HEMA=28/42/30を用いた。前記St/MMA/2−HEMA共重合体溶液(固形分)10部、酸化スズ粒子90部をシクロヘキサノンとテトラヒドロフラン(混合溶媒重量比100/30)の混合溶媒で全固形分濃度20wt%となるように配合し、100時間ボールミル分散した。
続いて、この分散液と希釈用樹脂液(上記アクリルポリオール共重合体樹脂、濃度約10%)とHMDI系ポリイソシアネート(スミジュールHT、住友バイエルウレタン社製)とを、分散液中の酸化スズの粒子と樹脂固形分の割合が6:4、イソシアネート基とアクリルポリオール共重合体の水酸の数の比が1:1になるように混合し、分散液(2)を得た。
分散液(1)と分散液(2)を混合した後、全固形分濃度が3wt%になるようにシクロヘキサノンとテトラヒドロフラン(混合溶媒重量比100/30)の混合溶媒で希釈し、その後、超音波を10分間照射して調整し、保護層塗工液を得た。
【0109】
(実機通紙試験)
作製した電子写真感光体を、直流成分に交流成分を重畳した電圧を印加する非接触帯電機を有するリコー製IPSiO Color CX9000を用いて、実機通紙試験(A4、NBSリコー製My Paper、スタート時感光体表面帯電電位−650V)を実施し、摩耗特性、画像(日本画像学会発行のテストチャート、サンプル番号「NO.5−1」)特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0110】
【表1】

【0111】
表1の結果から明らかなように、本発明の好適形態である実施例1〜3のポリロタキサンを含む感光体表面は、耐擦傷性の向上が認められ、摩耗量が少なく、画像濃度変動が少ない。
保護層を設け、保護層にポリロタキサンを含有させた実施例1の方が、保護層を設けず表面を構成する電荷輸送層にポリロタキサンを含有させた実施例2より、摩擦量は少ないが、電荷輸送層にポリロタキサンを含有させることで、保護層がなくても良好な耐擦傷性を示す。したがって、保護層を塗布しなくてもよくなり、工程や材料を省くことができ、低コスト化することができる。
アクリルポリオール樹脂とイソシアネート化合物とを反応させた樹脂を用いた保護層を有する感光体である、比較例2でも、実施例1同様、実機通紙試験では、良好な耐磨耗性を示した。
【0112】
(ブラシによる傷評価試験)
作製した電子写真感光体に、以下の条件でブラシを当接して回転させ、感光体表面のブラシによる傷を評価した。結果を表2に示す。
潤滑剤:無し
ブレード:無し
ブラシ:炭素含有アクリル繊維、23デニール、密度20K本/inch2、食込み1mm、毛長さ3mm、芯金径8mm、回転方向:感光体と同じ(表面移動方向は逆)
感光体線速:140mm/s
ブラシ線速:70mm/s
【0113】
【表2】

【0114】
実施例1〜3では、ブラシによる傷はほとんど認められなかったが、保護層を設けない比較例1、比較例2では、ブラシにより顕著な傷が認められ、その傷は、画像にも見られた。比較例2は、保護層として、硬い、アクリルポリオール樹脂とイソシアネート化合物とを反応させた樹脂を用いているため、通紙やブレードのような全体的な摩擦による摩耗には強いものの、ブラシのような、部分的なひっかきには弱いと考えられる。
【符号の説明】
【0115】
(図1〜2について)
1…架橋ポリロタキサン
3、3’…ポリマー
5…ポリロタキサン
6…直鎖状分子
7…環状分子
8…封鎖基
9…架橋点
(図3〜8について)
1…電子写真感光体
1a…電荷輸送層
2…帯電装置
2a…帯電ローラ
3…露光装置
4…現像装置
5…転写装置
6…定着装置委
7…クリーニング装置
8…クリーニングブレード
9…徐電装置
10…転写材搬送経路
11…画像形成領域
12…非画像形成領域
14…微小なギャップ
15…加圧バネ
16…電源
21…帯電ローラ
21a…軸部
21b…ローラ部
22…スペ−サ
31…導電性支持体
32…感光層
33…保護層
321…電荷発生層
322…電荷輸送層
【先行技術文献】
【特許文献】
【0116】
【特許文献1】特許第3730349号公報
【特許文献2】特開平1−23259号公報
【特許文献3】特許第4063648号公報
【特許文献4】特開2006−243506号公報
【特許文献5】特開2009−211070号公報
【特許文献6】特開2006−265418号公報
【特許文献7】特開平1−80968号公報
【特許文献8】特許第3922697号公報
【特許文献9】特開2007−31690号公報
【特許文献10】特開2009−098441号公報
【特許文献11】特許第4376846号公報
【特許文献12】特許第4376848号公報
【特許文献13】特許第4376849号公報
【特許文献14】特許第4385165号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真感光体と、
潜像形成前の電子写真感光体表面を帯電させる帯電手段と、
画像データに基づいて、該帯電手段により帯電された電子写真感光体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、
形成された静電潜像を可視像化する現像手段と、
可視像化されたトナー像を被転写体に転写する転写手段と、
転写後に該電子写真感光体表面に残留するトナーを除去するクリーニング手段と、
を備えた画像形成装置に用いられる電子写真感光体において、
前記電子写真感光体が、導電性支持体上に少なくとも感光層を有し、かつ前記電子写真感光体の表面を構成する層に、少なくともポリロタキサン及び/又は架橋ポリロタキサンが含まれていることを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】
前記ポリロタキサンは、環状分子と、この環状分子を串刺し状に包接する直鎖状分子と、この直鎖状分子の両末端に配置され上記環状分子の脱離を防止する封鎖基とを有し、上記直鎖状分子及び環状分子の少なくとも一方が、ポリエチレングリコールモノステアリン酸エステルがヘキサメチレンジイソシアネートを介して結合する基を有することを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記架橋ポリロタキサンを形成するポリロタキサンは、環状分子と、この環状分子を串刺し状に包接する直鎖状分子と、この直鎖状分子の両末端に配置され上記環状分子の脱離を防止する封鎖基とを有し、上記環状分子がシクロデキストリンであり、当該シクロデキストリンの水酸基の一部又は全部が修飾基で修飾され、その修飾基が、−C36−O−基と結合した、カプロラクトンによる修飾基である(−CO(CH25OH)基を有することを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記ポリロタキサン及び架橋ポリロタキサンの環状分子の包接量は、上記直鎖状分子が環状分子を包接する最大量である最大包接量を1とすると、0.06〜0.61であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記ポリロタキサン及び架橋ポリロタキサンの環状分子が、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリンから成る群より選ばれた少なくとも1種のシクロデキストリンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電子写真感光体。
【請求項6】
前記ポリロタキサン及び架橋ポリロタキサンを形成するポリロタキサンは、塗膜形成成分に対して質量換算で1〜40%含まれることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電子写真感光体。
【請求項7】
前記電子写真感光体が、感光層と保護層を積層した構造を有すること特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の電子写真感光体。
【請求項8】
前記感光層が、電荷発生層、電荷輸送層をこの順に積層した構造を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の電子写真感光体。
【請求項9】
少なくとも電子写真感光体と、前記電子写真感光体に対して接触または近接して設けられた直流成分に交流成分を重畳した電圧を印加することによって生じる放電を利用して電子写真感光体を帯電させる帯電手段と、前記帯電手段によって帯電させられた電子写真感光体表面に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、前記静電潜像形成手段によって形成された静電潜像の画像部にトナーを付着させ可視像化する現像手段と、可視像化されたトナー像を被転写体に転写する転写手段と、転写後に該電子写真感光体表面に残留するトナーを除去するクリーニング手段とを有する画像形成装置において、前記電子写真感光体が請求項1〜8のいずれかに記載の電子写真感光体であること特徴とする画像形成装置。
【請求項10】
電子写真感光体と、少なくとも帯電手段、現像手段、クリーニング手段より選択される一つ以上の手段とが一体となり画像形成装置本体に着脱可能であるプロセスカートリッジであって、前記電子写真感光体が請求項1〜8のいずれかに記載の電子写真感光体を有することを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項11】
少なくとも電子写真感光体と、前記電子写真感光体に対して接触または近接して設けられた直流成分に交流成分を重畳した電圧を印加することによって生じる放電を利用して電子写真感光体を帯電させる帯電工程と、前記帯電工程によって帯電させられた電子写真感光体表面に静電潜像を形成する静電潜像形成工程と、前記静電潜像形成手段によって形成された静電潜像の画像部にトナーを付着させ可視像化する現像工程と、可視像化されたトナー像を被転写体に転写する転写工程と、転写後に該電子写真感光体表面に残留するトナーを除去するクリーニング工程とを有する画像形成装置において、前記電子写真感光体が請求項1〜8のいずれかに記載の電子写真感光体であること特徴とする画像形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−248288(P2011−248288A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124217(P2010−124217)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】