説明

電子写真感光体とそれを備えた画像形成装置およびトリアリールアミンダイマー化合物とその製造方法

【課題】感度および光応答性などの電気特性、環境安定性に優れ、かつ機械的耐久性にすぐれた感光体とそれを備えた画像形成装置およびトリアリールアミンダイマー化合物とその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】導電性材料からなる導電性支持体上に、電荷発生物質と電荷輸送物質とを含有する単層型感光層、または電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とが積層された積層型感光層が積層されてなる電子写真感光体であって、前記単層型感光層または前記積層型感光層の電荷輸送層が、電荷輸送物質として特定の置換基様式からなるトリアリールアミンダイマー化合物を含有することを特徴とする電子写真感光体により、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機光導電性材料としてトリアリールアミンダイマー化合物を含有する電子写真感光体とそれを備えた画像形成装置およびトリアリールアミンダイマー化合物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機光導電性材料は幅広く研究開発され、電子写真感光体(以下、単に「感光体」ともいう)に利用されるだけでなく、静電記録素子、センサ材料または有機エレクトロルミネセント(Electro Luminescent;略称:EL)素子などに応用され始めている。
また、有機光導電性材料を用いた感光体は、複写機の分野に限らず、従来では銀塩写真技術が使われていた印刷版材、スライドフィルム、マイクロフィルムなどの分野においても利用されている。例えば、レーザ、発光ダイオード(Light Emitting Diode;略称LED)、陰極線管(Cathode Ray Tube;略称CRT)などを光源とする高速プリンタにも応用されている。このような電子写真技術の応用範囲の拡大に伴い、感光体に対する要求は、高度で幅広いものになりつつある。
【0003】
感光体としては、従来から、セレン、酸化亜鉛または硫化カドミウムなどの無機光導電性材料を主成分とする感光層を備える無機感光体が広く用いられている。
無機感光体は、感光体としての基礎特性をある程度は備えているが、感光層の成膜が困難で、可塑性が悪く、製造原価が高いなどの欠点を有する。その上、無機光導電性材料は一般に毒性が強く、製造上および取扱い上、大きな制約がある。
このように無機光導電性材料およびそれを用いた無機感光体には多くの欠点があることから、有機光導電性材料の研究開発が進んでいる。
【0004】
有機光導電性材料を用いた有機感光体は、感光層の成膜性がよく、可撓性も優れている上に、軽量で、透明性もよく、適当な増感方法によって広範囲の波長域に対して良好な感度を示す感光体を容易に設計できるなどの利点を有しているので、次第に感光体の主力として開発されてきている。
有機感光体は、初期には感度および耐久性に欠点を有していたが、これらの欠点は、電荷発生機能と電荷輸送機能とを別々の物質にそれぞれ分担させた機能分離型感光体の開発によって著しく改善されている。さらに、この機能分離型感光体は、有機感光体の有する前記の利点に加え、感光層を構成する材料の選択範囲が広く、任意の特性を有する感光体を比較的容易に作製できるという利点も有している。
【0005】
このような有機系感光体の構成としては、支持体上に電荷発生物質および電荷輸送物質(電荷移動物質ともいう)の双方をバインダ樹脂に分散させた単層構造、支持体上に電荷発生物質をバインダ樹脂に分散させた電荷発生層と電荷輸送物質をバインダ樹脂に分散させた電荷輸送層とをこの順でまたは逆順で形成した積層構造または逆二層型積層構造などの様々な構成が提案されている。これらの中でも感光層として電荷発生層上に電荷輸送層を積層した機能分離型の感光体は、電子写真特性および耐久性に優れ、材料選択の自由度の高さから感光体特性を様々に設計できることから広く実用化されている。
【0006】
これらの機能分離型感光体に用いられる電荷発生物質としては、フタロシアニン顔料、スクアリリウム色素、アゾ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、シアニン色素、スクアリン酸染料、ピリリウム塩系色素などの多種の物質が検討され、耐光性が強く電荷発生能力の高い種々の材料が提案されている。
また、電荷輸送物質としては、ピラゾリン化合物(例えば、(特許文献1)参照)、ヒドラゾン化合物(例えば、特開昭54−150128号公報(特許文献2)、特公昭55−42380号公報(特許文献3)および特開昭55−52063号公報(特許文献4)参照)、トリフェニルアミン化合物(例えば、特公昭58−32372号公報(特許文献5)および特開昭54−151955号公報(特許文献6)参照)スチルベン化合物(例えば、特開昭58−198043号公報(特許文献7)および特開平2−190862号公報(特許文献8)参照)などの種々の化合物が知られている。
【0007】
電荷輸送物質は次のような基本的な特性が要求されている。
(1)光および熱に対して安定であること
(2)感光体の表面を帯電させる際のコロナ放電によって発生するオゾン、窒素酸化物(NOX)および硝酸などに対して安定であること、
(3)高い電荷輸送能力を有すること、
(4)有機溶剤や結着剤との相溶性が高いこと、
(5)製造が容易で安価であること
しかしながら、上記の先行技術に記載の電荷輸送物質はこれらの一部を満足するものの、すべてを高いレベルで満足するには至っていない。
【0008】
上記の特性の中でも、高い電荷輸送能力を有することが特に要求される。
例えば、電荷輸送物質がバインダ樹脂と共に分散されて形成された電荷輸送層が感光体の表面層となる場合には、充分な光応答性を確保するために、電荷輸送物質には高い電荷輸送能力が求められる。また、感光体が複写機またはレーザビームプリンタなどに搭載されて使用される際には、感光体の表面層は、クリーニングブレードや帯電ローラなどの接触部材によってその一部が削り取られることを余儀なくされる。複写機やレーザビームプリンタの高耐久化のためには、それらの接触部材に対して強い表面層、すなわちそれらの接触部材によって削り取られることの少ない耐刷性の高い表面層が求められる。
【0009】
そこで、表面層を強くして耐久性を向上させるために、表面層である電荷輸送層中のバインダ樹脂の含有率を高くすると、光応答性が低下する。これは、電荷輸送物質の電荷輸送能力が低いため、バインダ樹脂の含有率の増加に伴って電荷輸送層中の電荷輸送物質が希釈され、電荷輸送層の電荷輸送能力が一層低下して光応答性が悪くなるものである。光応答性が悪いと、残留電位が上昇し、感光体の表面電位が充分に減衰していない状態で繰返し使用されることになるので、露光によって消去されるべき部分の表面電荷が充分に消去されず、早期に画像品質が低下するなどの弊害が生じる。したがって、充分な光応答性を確保でき、かつ耐刷性に優れた電荷輸送物質が要求される。
【0010】
また、最近ではデジタル複写機およびプリンタなどの電子写真装置の小型化および高速化が進み、感光体特性として高速化に対応した高感度化が要求されている。感光体の特性としては、低温環境下で用いた場合にも感度が低下せず、種々の環境下において特性の変化が小さく信頼性が高いことが求められる。電荷輸送物質としてはますます高い電荷輸送能力が求められている。また高速プロセスでは露光から現像までの時間が短いので、光応答性のよい感光体が要求される。前述のように、光応答性は電荷輸送物質の電荷輸送能力に依存するのでこのような点からもより高い電荷輸送能力を有する電荷輸送物質が要求される。
【0011】
このような要求を満たす電荷輸送物質として、種々の分子デザインが行われ、基本構造中により大きく共役系を広げるために、ヒドラゾン構造の一部にエナミン基を組み込み、さらにスチリル構造を併せもつ化合物(例えば、特開平6−59476号公報(特許文献9)参照)なども提案されている。しかしながら、これらの化合物でも機械的耐久性は不充分であり、低温環境下で用いた場合には感度低下が起こり、十分な電荷輸送能力を示すという点では改良しなければならない課題がある。
【0012】
また、電荷輸送物質として本発明と類似のトリアリールアミン構造有する化合物を用いて高感度かつ繰り返し使用しても特性の変動が少ない電子写真感光体が提案されている(例えば、特開平5−150475号公報(特許文献10)参照)。しかしながら、この化合物も、機械的耐久性を向上させるためには電気特性を犠牲にして、膜厚を厚くしたり、バインダ樹脂の含有量を増やすことが必要とされ、全てを満足する特性を得るには課題が残されている。
【0013】
【特許文献1】特公昭52−4188号公報
【特許文献2】特開昭54−150128号公報
【特許文献3】特公昭55−42380号公報
【特許文献4】特開昭55−52063号公報
【特許文献5】特公昭58−32372号公報
【特許文献6】特開昭54−151955号公報
【特許文献7】特開昭58−198043号公報
【特許文献8】特開平2−190862号公報
【特許文献9】特開平6−59476号公報
【特許文献10】特開平5−150475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、感度および光応答性などの電気特性、環境安定性に優れ、かつ機械的耐久性にすぐれた感光体とそれを備えた画像形成装置およびトリアリールアミンダイマー化合物とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、鋭意努力研究を重ねた結果、意外にも電荷輸送物質として特定の置換基様式からなるトリアリールアミンダイマー化合物を含有させた感光体は、高感度で帯電電位が高く、充分な光応答性を有し、機械的耐久性が優れ、通常の電荷輸送物質を用いたときのように電気特性を犠牲にしてバインダ樹脂の含有量を増やす必要がなく、低温環境下または高速プロセスで用いた場合にも安定した電気特性を維持し、耐刷性に優れていることを見出し、さらに感光体とそれを備えた画像形成装置に極めて有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
かくして、本発明によれば、導電性材料からなる導電性支持体上に、電荷発生物質と電荷輸送物質とを含有する単層型感光層、または電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とが積層された積層型感光層が積層されてなる感光体であって、前記単層型感光層または前記積層型感光層の電荷輸送層が、電荷輸送物質として一般式(1):
【0017】
【化1】

【0018】
(式中、
Ar1およびAr2は、同一または異なって、置換基を有してもよいアリーレン基または置換基を有してもよい複素環基であり;
Ar3およびAr4は、同一または異なって、置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよい複素環基であり;
1およびR2は、同一または異なって、アルキル基であり;
aおよびbは、同一または異なって、アルキル基、フルオロアルキル基、アルコキシ基、置換基を有してもよいアミノ基、ハロゲン原子または水素原子であるか、または結合する芳香環の隣合う炭素原子に−O−C−O−が結合していてもよく;
mおよびnは1〜4の整数であり、mおよびnが2以上のとき、複数のaおよびbは同一でも異なってもよい)
で示されるトリアリールアミンダイマー化合物を含有することを特徴とする電子写真感光体が提供される。
【0019】
また、本発明によれば、上記の感光体と、前記感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された前記感光体に対して露光を施す露光手段と、露光によって形成される静電潜像を現像する現像手段とを備えることを特徴とする画像形成装置が提供される。
【0020】
さらに、本発明によれば、構造式(I):
【化2】

で示されることを特徴とするトリアリールアミンダイマー化合物が提供される。
【0021】
さらにまた、本発明によれば、 構造式(II):
【化3】

【0022】
で示されるビスアリールジハロゲン化合物誘導体(1.0当量)と、構造式(III):
【化4】

【0023】
で示される2級アミン化合物(2.0〜2.1当量)とを、溶剤中、4.0〜8.0当量の銅粉末、8.0〜12.0当量の炭酸塩基、0.2〜0.8当量のクラウンエーテルを加え、反応させて請求項8に記載のトリアリールアミンダイマー化合物を得ることを特徴とするトリアリールアミンダイマー化合物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明の感光体は、感光層の電荷輸送物質として、広がった共役系を形成し、耐刷性向上の効果の大きいo−メチル-フェニル置換基を有する一般式(1)のトリアリールアミンダイマー化合物を含有するので、感光層の機械的耐久性が向上し、バインダ樹脂の含有量を増やす必要がなく、帯電電位が高く、高感度で、充分な光応答性が可能となる。したがって、本発明は、耐久性が高くかつ低温環境下または高速プロセスで用いた場合にもこれらの特性が低下しない、信頼性の高い電子写真感光体を提供することができる。
また、本発明の感光体を備えた画像形成装置は、各種の環境下において高品質で信頼性の高い画像を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の感光体は、導電性材料からなる導電性支持体上に、電荷発生物質と電荷輸送物質とを含有する単層型感光層、または電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とが積層された積層型感光層が積層されてなる電子写真感光体であって、前記単層型感光層または前記積層型感光層の電荷輸送層が、電荷輸送物質として一般式(1)で示されるトリアリールアミンダイマー化合物を含有することを特徴とする。
【0026】
このような一般式(1)のトリアリールアミンダイマー化合物の中でも、その二つのN原子にナフチル基を導入した副式(2):
【0027】
【化5】

(式中、Ar1、Ar2、R1、R2、a、b、nおよびmは、一般式(1)と同義であり;dおよびeは、aおよびbと同義であり;oおよびpは1〜7の整数であり、oおよびpが2以上のとき、複数のdおよびeは同一でも異なってもよい)、および副式(3):
【0028】
【化6】

(式中、Ar1、R1、R2、a、b、nおよびmは、一般式(1)と同義であり;d、e、oおよびpは、副式(2)と同義であり;fおよびqは、一般式(1)のaおよびnと同義である)
で示される化合物は、比較的製造コストが安価であることから好ましい。
また、一般式(1)のトリアリールアミンダイマー化合物は、有機光導電性材料としてセンサ、EL素子および静電記録素子などへの応用も期待できる。
【0029】
一般式(1)、副式(2)および副式(3)における置換基について説明する。
Ar1およびAr2の置換基を有してもよいアリーレン基としては、例えば、フェニレン基、トリレン基、メトキシフェニレン基、ビフェニレニル基、ナフチレン基、アントリレン基などが挙げられる。
Ar1およびAr2の置換基を有してもよい複素環基としては、例えば、イソベンザフラニデン基、メチルインダゾリデン基、チオナフタレンジイル基、フリリデン基、チエニリデン基、チアゾリリデン基、ベンゾフリリデン基などが挙げられる。
【0030】
Ar3およびAr4の置換基を有してもよいアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、メトキシフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基などが挙げられる。
Ar3およびAr4の置換基を有してもよい複素環基としては、例えば、ベンゾジオキサニル基、イソベンザフラニル基、メチルインダゾリル基、チオナフタレン基、フリル基、チエニル基、チアゾリル基、ベンゾフリル基などが挙げられる。
【0031】
1、およびR2の置換基を有してもよいアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などが挙げられる。
【0032】
a、b、d,eおよびfのアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基などの炭素数1〜3のアルキル基が挙げられる。
a、b、d,eおよびfのフルオロアルキル基としては、例えば、モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、モノフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、モノフルオロプロピル、ヘプタフルオロプロピルなどの炭素数1〜5のフルオロアルキル基が挙げられる。
a、b、d,eおよびfのアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基などの炭素数1〜3のアルキル基が挙げられる。
aおよびbの置換基を有してもよいアミノ基としては、例えば、アミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノなどが挙げられる。
a、b、d,eおよびfのハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられ、フッ素が特に好ましい。
【0033】
m、nおよびqは1〜4の整数であり、mおよびnが2以上のとき、複数のaおよびbは同一でも異なってもよい。
また、oおよびpは1〜7の整数であり、oおよびpが2以上のとき、複数のdおよびeは同一でも異なってもよい
【0034】
一般式(1)のトリアリールアミンダイマー化合物の具体例を表1に示すが、本発明はこれらにより限定されない。
これらの例示化合物の中でも、No.1、3、7、13および20が特に好ましい。
【0035】
【表1−1】

【0036】
【表1−2】

【0037】
本発明の一般式(1)のトリアリールアミンダイマー化合物は、次の合成過程で容易に製造することができる。すなわち、一般式(4):
【0038】
【化7】

【0039】
(式中、Ar1およびAr2は、一般式(1)と同義であり;Xはヨウ素原子、臭素原子または塩素原子である)
で示されるビスアリールジハロゲン化合物誘導体(1.0当量)と、一般式(5)および(6):
【0040】
【化8】

【0041】
(式中、Ar3、Ar4、R1、R2、a、b、nおよびmは、一般式(1)と同義である)
で示される2級アミン化合物(2.0〜2.1当量)とを、クロロベンゼン、o−クロロベンゼンまたはジメチルスルフォキシドなどの溶剤中、4.0〜8.0当量の銅粉末、8.0〜12.0当量の炭酸カリウム、炭酸ナトリウムまたは炭酸カルシウムなどの炭酸塩基、0.2〜0.8当量の例えば18−クラウン−6−エーテルなどのクラウンエーテルを加え、激しく加熱、撹拌を行うことによって合成される。
【0042】
例えば、上記の例示化合物No.1は、一般式(4)のビスアリールジハロゲン化合物誘導体として前記構造式(I)の化合物、一般式(5)および(6)の2級アミン化合物として前記構造式(II)および(III)の化合物を用いて製造することができる。
【0043】
次に、本発明の感光体の構成について具体的に説明するが、本発明の感光体はその要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることができる。
図1〜3は、本発明の感光体における要部の構成を示す模式断面図である。
図1および2は、感光層が電荷発生層と電荷輸送層とからなる積層型感光層(以下「機能分離型感光層」ともいう)である積層型感光体(以下「機能分離型感光体」ともいう)の要部の構成を示す模式断面図である。電荷発生層と電荷輸送層とを逆順で形成した逆二層型積層構造であってもよいが、前記積層型が好ましい。このような積層型は、電荷発生機能および電荷輸送機能のそれぞれに最適な材料を選択することが可能となるので、より高感度で、さらに繰り返し使用時の安定性も増した高耐久性を有する感光体を得ることができる。
また、図3は、感光層が一層からなる単層型感光層である単層型感光体の要部の構成を示す模式断面図である。
【0044】
図1の感光体1は、導電性支持体11の表面に、電荷発生層12と電荷輸送層13とがこの順で積層された積層型感光層14が形成されている。
図2の感光体2は、導電性支持体11の表面に、中間層15と、電荷発生層12と電荷輸送層13とがこの順で積層された積層型感光層14とがこの順で形成されている。
図3の感光体3は、導電性支持体11の表面に、中間層15と単層型感光層140とがこの順で形成されている。
【0045】
[導電性支持体11]
導電性支持体の構成材料は、当該分野で用いられる材料であれば特に限定されない。
具体的には、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、亜鉛、ステンレス鋼、チタンなどの金属材料:ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリエステル、ポリオキシメチレン、ポリスチレンなどの高分子材料、硬質紙、ガラスなどからなる基体表面に金属箔をラミネートしたもの、金属材料を蒸着したもの、導電性高分子、酸化スズ、酸化インジウムなどの導電性化合物の層を蒸着もしくは塗布したものなどが挙げられる。
【0046】
導電性支持体の形状は、図1〜3に示すようなシート状に限定されず、円筒状、円柱状、無端ベルト状などであってもよい。
導電性支持体の表面には、必要に応じて、画質に影響のない範囲内で、陽極酸化皮膜処理、薬品、熱水などによる表面処理、着色処理、表面を粗面化するなどの乱反射処理を施されていてもよい。
【0047】
乱反射処理は、レーザを露光光源として用いる電子写真プロセスにおいて本発明による感光体を用いる場合に特に有効である。すなわち、レーザを露光光源として用いる電子写真プロセスでは、レーザ光の波長が揃っているので、感光体の表面で反射されたレーザ光と感光体の内部で反射されたレーザ光とが干渉を起こし、この干渉による干渉縞が画像に現れて画像欠陥の発生することがある。そこで、導電性支持体の表面に乱反射処理を施すことにより、波長の揃ったレーザ光の干渉による画像欠陥を防止することができる。
【0048】
[積層型感光層14]
積層型感光層は、電荷発生層12と電荷輸送層13とからなる。
【0049】
[電荷発生層12]
電荷発生層は、電荷発生物質とバインダ樹脂とを含有する。
電荷発生物質としては、当該分野で用いられる化合物を使用できる。
具体的には、アゾ系顔料(モノアゾ系顔料、ビスアゾ系顔料、トリスアゾ系顔料など)、インジゴ系顔料(インジゴ、チオインジゴなど)、ペリレン系顔料(ペリレンイミド、ペリレン酸無水物など)、多環キノン系顔料(アントラキノン、ピレンキノンなど)、フタロシアニン系顔料(金属フタロシアニン、X型無金属フタロシアニンなど)、スクアリリウム色素、ピリリウム塩類、チオピリリウム塩類、トリフェニルメタン系色素などの有機顔料または染料、さらにセレン、非晶質シリコンなどの無機材料などが挙げられる。これらの電荷発生物質は1種を単独でまたは2種以上を組み合せて使用することができる。
【0050】
これらの電荷発生物質の中でも、金属フタロシアニン、X型無金属フタロシアニンのようなフタロシアニン系顔料が好ましく、Cu−Kα特性X線回折(波長:1〜54Å)におけるブラッグ角(2θ±0.2°)が少なくとも27.2°に回折ピークを有するオキソチタニウムフタロシアニンが特に好ましい。
フタロシアニン系顔料は、高い電荷発生効率と電荷注入効率とを有するので、光を吸収することによって多量の電荷を発生するとともに、発生した電荷を分子内に蓄積することなく、単層型感光層に含有される電荷輸送物質に電荷を効率よく注入されて円滑に輸送されるので、高感度かつ高解像度の感光体を得ることができる。この効果は後述する単層型感光体でも同様である。
【0051】
電荷発生物質は、増感染料と組み合せて使用することができる。
このような増感染料としては、例えばメチルバイオレット、クリスタルバイオレット、ナイトブルーおよびビクトリアブルーなどに代表されるトリフェニルメタン系染料;エリスロシン、ローダミンB、ローダミン3R、アクリジンオレンジおよびフラペオシンなどに代表されるアクリジン染料;メチレンブルーおよびメチレングリーンなどに代表されるチアジン染料;カプリブルーおよびメルドラブルーなどに代表されるオキサジン染料;シアニン染料;スチリル染料;ピリリウム塩染料およびチオピリリウム塩染料などが挙げられる。このような光学増感剤としてキノリン系顔料などの顔料を用いてもよい。
【0052】
バインダ樹脂としては、例えば、電荷発生層の機械的強度、耐久性などを向上させる目的で使用され、当該分野で用いられる結着性を有する樹脂を使用でき、本発明のジアミン化合物との相溶性に優れるものが好ましい。
具体的には、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなどのビニル系樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルカーボネート、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリアミド、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテル、ポリアクリルアミド、ポリフェニレンオキサイドなどの熱可塑性樹脂;フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマールなどの熱硬化性樹脂、これらの樹脂の部分架橋物、これらの樹脂に含まれる構成単位のうちの2つ以上を含む共重合体樹脂(塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂などの絶縁性樹脂)などが挙げられる。これらのバインダ樹脂は1種を単独でまたは2種以上を組み合せて使用することができる。
【0053】
これらの樹脂の中でも、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレートおよびポリフェニレンオキサイドは、本発明のジアミン化合物との相溶性に特に優れ、さらに体積抵抗値が1013Ω以上であって電気絶縁性に優れ、かつ成膜性、電位特性などにも優れるので好ましく、ポリカーボネートは特に好適に使用できる。
【0054】
電荷発生物質とバインダ樹脂との使用割合は特に制限されないが、好ましくは、電荷発生物質とバインダ樹脂との合計量の全量において、電荷発生物質を10〜99重量%含有し、かつ残部がバインダ樹脂である。
電荷発生物質の割合が10重量%未満では、感度が低下するおそれがあり、逆に電荷発生物質の割合が99重量%を超えると、電荷発生層の膜強度が低下するだけでなく、電荷発生物質の分散性が低下して粗大粒子が増大し、露光によって消去されるべき部分以外の表面電荷が減少し、画像欠陥、特に白地にトナーが付着し微小な黒点が形成される黒ポチと呼ばれる画像のかぶりが多く発生するおそれがある。
【0055】
電荷発生層は、前記2種の必須成分のほかに、必要に応じて、ホール輸送材料、電子輸送材料、酸化防止剤、分散安定剤、増感剤などから選ばれる1種または2種以上のそれぞれ適量を含んでもよい。これによって、電位特性が向上するとともに、後述する電荷発生層形成用塗布液の安定性が高まり、感光体の繰返し使用時の疲労劣化を軽減し、耐久性を向上させることができる。
【0056】
電荷発生層12は、電荷発生物質、バインダ樹脂および必要に応じて他の添加剤を適当な有機溶剤に溶解または分散して電荷発生層形成用塗布液を調製し、この塗布液を導電性支持体11の表面に、または導電性支持体11上に形成された中間層15の表面に塗布し、次いで乾燥して有機溶剤を除去することによって形成できる。より具体的には、例えば、バインダ樹脂を有機溶剤に溶解してなる樹脂溶液に電荷発生物質および必要に応じて他の添加剤を溶解または分散させることにより、電荷発生層形成用塗布液を調製する。
【0057】
有機溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン、ジメトキシベンゼン、ジクロルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、ジクロロエタン、テトラクロロプロパンなどのハロゲン化炭化水素;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジベンジルエーテル、ジメトキシメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、イソホロンなどのケトン類;安息香酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジフェニルスルフィドなどの含イオウ溶剤;ヘキサフロオロイソプロパノールなどのフッ素系溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶剤などが挙げられ、これらは単独または混合溶剤として使用できる。また、このような溶剤に、アルコール類、アセトニトリルまたはメチルエチルケトンを加えた混合溶剤を使用することもできる。
【0058】
構成物質を樹脂溶液に溶解または分散させるに先立ち、電荷発生物質およびその他の添加剤を予備粉砕してもよい。
予備粉砕は、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライタ、振動ミル、超音波分散機などの一般的な粉砕機を用いて行うことができる。
構成物質の樹脂溶液への溶解または分散は、例えば、ペイントシェーカ、ボールミル、サンドミルなどの一般的な分散機を用いて行うことができる。このとき、容器および分散機を構成する部材から摩耗などによって不純物が発生し、塗布液中に混入しないように、分散条件を適宜設定するのが好ましい。
【0059】
電荷発生層形成用塗布液の塗布方法としては、ロール塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、リング塗布法、浸漬塗布法などが挙げられる。
浸漬塗布法は、塗布液を満たした塗工槽に導電性支持体11を浸漬した後、一定速度または逐次変化する速度で引上げることによって導電性支持体11上に層を形成する方法である。この方法は比較的簡単で、生産性および原価の点で優れているので、電子写真感光体を製造する場合に多く利用されている。なお、浸漬塗布法に用いる装置には、塗布液の分散性を安定させるために超音波発生装置に代表される塗布液分散装置を設けてもよい。
また、バインダ樹脂を用いず、真空蒸着法などの公知の方法により、導電性支持体上に電荷発生物質を蒸着してもよい。
【0060】
電荷発生層12の膜厚は特に限定されないが、0.05〜5μmが好ましく、0.1〜1μmが特に好ましい。これは、電荷発生層の膜厚が0.05μm未満では、光吸収の効率が低下し、感度が低下するおそれがあり、逆に電荷発生層の膜厚が5μmを超えると、電荷発生層内部での電荷輸送が感光体表面の電荷を消去する過程の律速段階となり、感度が低下するおそれがある。
【0061】
[電荷輸送層13]
電荷輸送層は、電荷輸送物質としての一般式(1)のトリアリールアミンダイマー化合物の1種または2種以上とバインダ樹脂とを含有する。
電荷輸送層は、本発明の効果を阻害しない範囲で他の電荷輸送物質を含有していてもよい。しかしながら、特に高い電荷輸送能力を実現するためには、電荷輸送物質の全量が一般式(1)のトリアリールアミンダイマー化合物であるのが好ましい。
【0062】
他の電荷輸送物質としては、エナミン−スチリル誘導体、エナミン−ヒドラゾン誘導体、エナミン−ブタジエン誘導体、エナミン−ヘキサトリエン誘導体等のエナミン化合物、カルバゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、イミダゾリジン誘導体、ビスイミダゾリジン誘導体、スチリル化合物、ヒドラゾン化合物、多環芳香族化合物、インドール誘導体、ピラゾリン誘導体、オキサゾロン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、キナゾリン誘導体、ベンゾフラン誘導体、アクリジン誘導体、フェナジン誘導体、アミノスチルベン誘導体、トリアリールアミン誘導体、トリアリールメタン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体およびベンジジン誘導体などが挙げられる。また、これらの化合物から生じる基を主鎖または側鎖に有するポリマー、例えばポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリ−1−ビニルピレンおよびポリ−9−ビニルアントラセンなども挙げられる。
【0063】
バインダ樹脂は、電荷発生層に含まれるものと同様のバインダ樹脂の1種または2種以上を使用できる。
【0064】
電荷輸送物質とバインダ樹脂との使用割合は特に限定されないが、電荷輸送物質の重量Mとバインダ樹脂の重量Bとしたときに、その比率A/Bは、10/8〜10/30であるのが好ましい。一般式(1)のトリアリールアミンダイマー化合物は電荷移動度が高いので、従来公知の電荷輸送物質を用いる場合よりも高い比率でバインダ樹脂を加えても、光応答性を維持することができる。
比率A/Bが10/30未満でありバインダ樹脂の比率が高くなると、浸漬塗布法によって電荷輸送層を形成する場合、塗布液の粘度が増大し、塗布速度の低下を招き、生産性が著しく悪くなるおそれがある。また、塗布液の粘度の増大を抑えるために塗布液中の溶剤の量を多くすると、ブラッシング現象が発生し、形成された電荷輸送層に白濁が発生するおそれがある。
一方、比率A/Bが10/8を超えてバインダ樹脂の比率が低くなると、バインダ樹脂の比率が高いときに比べて耐刷性が低くなり、感光層の摩耗量が増加するおそれがある。
【0065】
電荷輸送層は、前記2種の必須成分のほかに、成膜性、可撓性および表面平滑性を向上させるために、必要に応じて、可塑剤またはレベリング剤などの添加剤を含んでもよい。
可塑剤としては、例えば、二塩基酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、フタル酸エステル、塩素化パラフィンおよびエポキシ型可塑剤などが挙げられる。
レベリング剤としては、例えば、シリコーン系レベリング剤などが挙げられる。
また、電荷輸送層は、機械的強度の増強や電気的特性の向上を図るために、無機化合物または有機化合物の微粒子を含んでもよい。
さらに、電荷輸送層は、必要に応じて酸化防止剤および増感剤などの添加剤を含んでもよい。これによって、電位特性が向上すると共に、塗布液としての安定性が高まり、また感光体を繰返し使用した際の疲労劣化を軽減し、耐久性を向上させることができる。
【0066】
酸化防止剤としてヒンダードフェノール誘導体、ヒンダードアミン誘導体およびそれらの混合物が好適に用いられ、電荷輸送物質に対して0.1質量%以上50質量%以下の範囲で用いるのが好ましい。
上記の酸化防止剤の使用量が0.1質量%未満であると、塗布液の安定性の向上および感光体の耐久性の向上に充分な効果が得られないおそれがある。また、上記の酸化防止剤の使用量が50質量%を超えると、感光体特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0067】
電荷輸送層13は、電荷輸送物質、バインダ樹脂および必要に応じて他の添加剤を適当な有機溶剤に溶解または分散して電荷輸送層形成用塗布液を調製し、この塗布液を電荷発生層12の表面に塗布し、次いで乾燥して有機溶剤を除去することによって形成できる。より具体的には、例えば、バインダ樹脂を有機溶剤に溶解してなる樹脂溶液に電荷輸送物質、電荷輸送物質および必要に応じて他の添加剤を溶解または分散させることにより、電荷輸送層形成用塗布液を調製する。
その他の工程およびその条件は、電荷発生層の形成に準ずる。
【0068】
電荷輸送層の膜厚は特に限定されないが、5〜50μmが好ましく、10〜40μmが特に好ましい。電荷輸送層の膜厚が5μm未満では、感光体表面の帯電保持能が低下するおそれがあり、逆に電荷輸送層の膜厚が50μmを超えると、感光体の解像度が低下するおそれがある。
【0069】
[単層型感光層140]
単層型感光層は、電荷発生物質と電荷輸送物質とバインダ樹脂とを含有する。
電荷発生物質は、積層型感光層の電荷発生層に含まれるものと同様の電荷発生物質の1種または2種以上を使用できる。
電荷輸送物質は、積層型感光層の電荷輸送層に含まれるものと同様の電荷輸送物質の1種または2種以上を使用できる。
バインダ樹脂は、積層型感光層に含まれるものと同様のバインダ樹脂の1種または2種以上を使用できる。
電荷発生物質とバインダ樹脂との使用割合および電荷輸送物質とバインダ樹脂との使用割合は、積層型感光層の電荷発生層および電荷輸送層を形成する場合と同様である。
単層型感光層は、前記2種の必須成分のほかに、必要に応じて各種添加剤を含んでもよく、積層型感光層に含まれるものと同様の添加剤の1種または2種以上を使用できる。
【0070】
単層型感光層の膜厚は特に限定されないが、5〜100μmが好ましく、10〜50μmが特に好ましい。単層型感光層の膜厚が5μm未満では、感光体表面の帯電保持能が低下するおそれがあり、逆に単層型感光層の膜厚が100μmを超えると、感光体の生産性が低下するおそれがある。
【0071】
また、単層型感光層および積層型感光層は、感度の向上を図り、繰返し使用時の残留電位の上昇および疲労などを抑えるために、さらに1種以上の電子受容物質や前記の色素を含んでもよい。
電子受容物質としては、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸および4−クロルナフタル酸無水物などの酸無水物、テトラシアノエチレンおよびテレフタルマロンジニトリルなどのシアノ化合物、4−ニトロベンズアルデヒドなどのアルデヒド類、アントラキノンおよび1−ニトロアントラキノンなどのアントラキノン類、2,4,7−トリニトロフルオレノンおよび2,4,5,7−テトラニトロフルオレノンなどの多環もしくは複素環ニトロ化合物、ならびにジフェノキノン化合物などの電子吸引性材料、またはこれらの電子吸引性材料を高分子化したものなどが挙げられる。
【0072】
[中間層15]
本発明の感光体は、導電性支持体と単層型感光層または積層型感光層との間に中間層を有するのが好ましい。
中間層は、導電性支持体から単層型感光層または積層型感光層への電荷の注入を防止する機能を有する。すなわち、単層型感光層または積層型感光層の帯電性の低下が抑制され、露光によって消去されるべき部分以外の表面電荷の減少が抑えられ、かぶりなどの画像欠陥の発生が防止される。特に、反転現像プロセスによる画像形成の際に、白地部分にトナーからなる微小な黒点が形成される黒ポチと呼ばれる画像かぶりが発生するのが防止される。
また、中間層で導電性支持体の表面を被覆する中間層は、導電性支持体の表面の欠陥である凹凸の度合を軽減して表面を均一化し、単層型感光層または積層型感光層の成膜性を高め、導電性支持体と単層型感光層または積層型感光層との密着性を向上させることができる。
【0073】
中間層は、例えば、樹脂材料を適当な溶剤に溶解させて中間層形成用塗布液を調製し、この塗布液を導電性支持体の表面に塗布し、乾燥により有機溶剤を除去することによって形成できる。
樹脂材料としては、感光層に含まれるものと同様のバインダ樹脂に加えて、カゼイン、ゼラチン、ポリビニルアルコール、エチルセルロースなどの天然高分子材料などが挙げられ、これらの1種または2種以上を使用できる。
樹脂材料を溶解または分散させる溶剤としては、例えば、水、メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール類、メチルカルビトール、ブチルカルビトールなどのグライム類、これらの溶剤を2種以上混合した混合溶剤などが挙げられる。
その他の工程およびその条件は、各感光層の形成に準ずる。
【0074】
また、中間層形成用塗布液は、金属酸化物粒子を含んでいてもよい。
金属酸化物粒子は、中間層の体積抵抗値を容易に調節でき、単層型感光層または積層型感光層への電荷の注入をさらに抑制できると共に、各種環境下において感光体の電気特性を維持できる。
金属酸化物粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化スズなどが挙げられる。
中間層形成用塗布液における樹脂材料と金属酸化物粒子との合計含有量をC、溶剤の含有量をDとするとき、両者の容量比率(C/D)は、1/99〜40/60(重量比率=0.01〜0.67)が好ましく、2/98〜30/70(重量比率=0.02〜0.43)が特に好ましい。
また、樹脂材料の含有量(E)と金属酸化物粒子の含有量(F)との容量比率(E/F)は、1/99〜90/10(重量比率=0.01〜9.0)が好ましく、5/95〜70/30(重量比率=0.05〜2.33)が特に好ましい。
【0075】
中間層の膜厚は特に限定されないが、0.01〜20μmが好ましくは、0.1〜10μmが特に好ましい。中間層の膜厚が0.01μm未満では、中間層として実質的に機能しなくなり、導電性支持体の欠陥を被覆して均一な表面が得られないおそれがあり、中間層の膜厚が20μmを超えると、均一な中間層を形成し難く、また各感光体の感度も低下するおそれがある。
なお、導電性支持体の構成材料がアルミニウムの場合には、アルマイトを含む層(アルマイト層)を形成し、中間層とすることができる。
【0076】
[表面保護層(図示せず)]
本発明の感光体は、単層型感光層または積層型感光層上に表面保護層を有するのが好ましい。表面保護層は、感光体の耐久性(耐刷性)を向上させる機能を有し、感光体表面を帯電させる際のコロナ放電によって発生するオゾンや窒素酸化物などの各感光層への化学的悪影響を防止することができる。
表面保護層は、例えばバインダ樹脂、無機フィラー含有樹脂、無機酸化物、電荷輸送物質などを含有する。
電荷輸送物質は、感光層に含まれるものと同様の電荷輸送物質の1種または2種以上を使用できる。
バインダ樹脂は、単層型感光層に含まれるものと同様のバインダ樹脂の1種または2種以上を使用できる。
【0077】
表面保護層5は、例えば、適当な有機溶剤に電荷輸送物質およびバインダ樹脂などを溶解または分散させて表面保護層形成用塗布液を調製し、この表面保護層形成用塗布液を単層型感光層140または積層型感光層14の表面に塗布し、乾燥により有機溶剤を除去することによって形成できる。ここで用いられる有機溶剤としては、感光層の形成に用いられる有機溶剤と同様のものを使用できる。
その他の工程およびその条件は、各感光層の形成に準ずる。
表面保護層5の膜厚は特に制限されないが、0.5〜10μmが好ましく、1〜5μmが特に好ましい。表面保護層5の膜厚が0.5μm未満では、感光体表面の耐擦過性が劣り、耐久性が不十分になるおそれがあり、逆に10μmを超えると、感光体の解像度が低下するおそれがある。
【0078】
本発明の画像形成装置は、本発明の感光体と、前記感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された前記感光体に対して露光を施す露光手段と、露光によって形成される静電潜像を現像する現像手段とを備えることを特徴とする。
【0079】
図面を用いて本発明の画像形成装置について説明するが、以下の記載内容に限定されるものではない。
図4は、本発明の画像形成装置の構成を示す模式側面図である。
図4の画像形成装置100は、本発明の感光体10(例えば、図1〜3の感光体1〜3)と、帯電手段(帯電器)32と、露光手段30と、現像手段(現像器)33と、転写器(転写帯電器)34と、クリーナ36と、定着器35とを含んで構成される。図番51は転写紙を示す。
【0080】
感光体10は、円筒状であって、図示しない画像形成装置100本体に回転自在に支持され、図示しない駆動手段によって回転軸線44回りに矢符41方向に回転駆動される。駆動手段は、例えば電動機と減速歯車とを含んで構成され、その駆動力を感光体10の芯体を構成する導電性支持体に伝えることによって、感光体10を所定の周速度で回転駆動させる。帯電器32、露光手段30、現像器33、転写器34およびクリーナ36は、この順序で、感光体10の外周面に沿って、矢符41で示される感光体10の回転方向上流側から下流側に向って設けられる。また転写紙51の進行方向には定着器35が設けられる。
【0081】
帯電器32は、感光体10の外周面43を正または負の所定の電位に帯電させる帯電手段である。本実施の形態では、帯電器32は、接触式の帯電ローラ32aと、帯電ローラ32aに電圧を印加するバイアス電源32bとによって実現される。
帯電手段としては非接触式のチャージャーワイヤも使用できるが、感光体表面の高い耐摩耗性が要求される帯電ローラにおいて、本発明による表面保護層が形成された感光体は耐久性向上により大きな効果を発揮する。
したがって、本発明の画像形成装置においては、帯電手段は接触帯電であるのが好ましい。
【0082】
露光手段30は、例えば半導体レーザなどを光源として備え、光源から出力されるレーザビームなどの光31を、感光体10の帯電器32と現像器33との間に照射することによって、帯電された感光体10の外周面43に対して画像情報に応じた露光を施す。光31は、主走査方向である感光体10の回転軸線44の延びる方向(長手方向)に繰返し走査され、これに伴って感光体10の表面43に静電潜像が順次形成される。
【0083】
現像器33は、露光によって感光体10の表面43に形成される静電潜像を、現像剤によって現像する現像手段であり、感光体10を臨んで設けられ、感光体10の外周面にトナーを供給する現像ローラ33aと、現像ローラ33aを感光体10の回転軸線44と平行な回転軸線まわりに回転可能に支持すると共にその内部空間にトナーを含む現像剤を収容するケーシング33bとを備える。
【0084】
転写器34は、現像によって感光体10の外周面に形成される可視像であるトナー像を、感光体10への露光と同期して図示しない搬送手段によって矢符42方向から感光体10と転写器34との間に供給される記録媒体である転写紙51上に転写させる転写手段である。転写器34は、例えば、帯電手段を備え、転写紙51にトナーと逆極性の電荷を与えることによってトナー像を転写紙51上に転写させる非接触式の転写手段である。
【0085】
クリーナ36は、転写器34による転写動作後に感光体10の外周面43に残留するトナーを除去し回収する清掃手段であり、感光体10の外周面に残留するトナーを剥離させるクリーニングブレード36aと、クリーニングブレード36aによって剥離されたトナーを収容する回収用ケーシング36bとを備える。また、このクリーナ27は、図示しない除電ランプと共に設けられる。
【0086】
また、画像形成装置100には、感光体10と転写器34との間を通過した転写紙51が搬送される下流側に、転写された画像を定着させる定着手段である定着器35が設けられる。定着器35は、図示しない加熱手段を有する加熱ローラ35aと、加熱ローラ35aに対向して設けられ、加熱ローラ35aに押圧されて当接部を形成する加圧ローラ35bとを備える。
【0087】
この画像形成装置100による画像形成動作は、次のようにして行われる。まず、感光体10が駆動手段によって矢符41方向に回転駆動されると、露光手段30による光31の結像点よりも感光体10の回転方向上流側に設けられる帯電器32によって、感光体10の表面が正または負の所定電位に均一に帯電される。
【0088】
次いで、露光手段32から、感光体10の表面に対して画像情報に応じた光31が照射される。感光体10は、この露光によって、光31が照射された部分の表面電荷が除去され、光31が照射された部分の表面電位と光31が照射されなかった部分の表面電位とに差異が生じ、静電潜像が形成される。
露光手段30による光31の結像点よりも感光体10の回転方向下流側に設けられる現像器33から、静電潜像の形成された感光体10の表面にトナーが供給されて静電潜像が現像され、トナー像が形成される。
【0089】
感光体10に対する露光と同期して、感光体10と転写器34との間に、転写紙51が供給される。転写器34によって、供給された転写紙51にトナーと逆極性の電荷が与えられ、感光体10の表面に形成されたトナー像が、転写紙51上に転写される。
トナー像の転写された転写紙51は、搬送手段によって定着器35に搬送され、定着器35の加熱ローラ35aと加圧ローラ35bとの当接部を通過する際に加熱および加圧され、トナー像が転写紙51に定着されて堅牢な画像となる。このようにして画像が形成された転写紙51は、搬送手段によって画像形成装置100の外部へ排紙される。
【0090】
一方、転写器34によるトナー像の転写後も感光体10の表面上に残留するトナーは、クリーナ36によって感光体10の表面から剥離されて回収される。このようにしてトナーが除去された感光体10の表面の電荷は、除電ランプからの光によって除去され、感光体10の表面上の静電潜像が消失する。その後、感光体10はさらに回転駆動され、再度帯電から始まる一連の動作が繰返されて連続的に画像が形成される。
【0091】
本発明による画像形成装置100は、電荷輸送物質として一般式(1)のトリアリールアミンダイマー化合物が均一に分散された感光層を有する感光体10を備えるので、黒点などの画像欠陥のない高品質の画像を形成することができる。
【0092】
したがって、本発明によれば、各種の環境下において高品質の画像を形成し得る、信頼性の高い画像形成装置を提供することができる。また、本発明の感光体は光暴露によって性能低下をすることがないので、メンテナンス時などに感光体が光に曝されることによる画質の低下を防ぎ、画像形成装置の信頼性を向上させることができる。
【実施例】
【0093】
以下に製造例、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、これらの製造例および実施例により本発明が限定されるものではない。
なお、製造例で得られた化合物の化学構造、分子量および元素分析は、以下の装置および条件により測定した。
【0094】
(化学構造)
核磁気共鳴装置:NMR(ブルカーバイオスピン社製、型式:DPX−200)
サンプル調整 約4mg試料/0.4m(CDCl3)
測定モード 1H(通常)、13C(通常、DPET−135)
【0095】
(分子量)
分子量測定装置:LC−MS(サーモクエスト社製、
フィネガン LCQ Deca マススペクトロメーターシステム)
LCカラム GL-Sciences Inertsil ODS-3 2.1×100mm
カラム温度 40℃
溶離液 メタノール:水=90:10
サンプル注入量 5μl
検出器 UV254nmおよびMS ESI
【0096】
(元素分析)
元素分析装置:パーキン エールマー社製、Elemental Analysis 2400
サンプル量: 約2mgを精秤
ガス流量(ml/分):He=1.5、O2=1.1、N2=4.3
燃焼管温度設定:925℃
還元管温度設定:640℃
なお、元素分析は、差動熱伝導度法による炭素(C)、水素(H)および窒素(N)同時定量法に分析した。
【0097】
(製造例1)トリアリールアミンダイマー化合物の合成(例示化合物No.1)
o−ジクロロベンゼン100ml中で、2,4−キシリル−β−ナフチルアミン4.75g(2.0当量)、4,4’−ジブロモビフェニル2.98g(1.0当量)、18−クラウン−6−エーテル1.02g(0.2当量)、銅粉末4.9g(4.0当量)、無水炭酸カリウム21.3g(8.0当量)を混合し、反応温度を180℃まで上げ、この温度を保つように加熱しながら18時間撹拌および還流して反応させた。反応終了後、熱時セライト瀘過を行い、瀘液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、白色粉末化合物4.95gを得た。
【0098】
得られた白色粉末状化合物の化学構造、分子量および元素を分析した。
核磁気共鳴装置:NMR
1H−NMRスペクトル(通常)は、δ=2.06(S,6H)、2.38(S,6H)、6.97〜7.82(m、28H)を示した。
また、13C−NMRスペクトル(通常、DEPT−135)は、δ=18.66(CH3,4C)、21.76(CH3,4C)、117.00(CH,2C)、121.96(CH,4C)、122.72(CH,2C)、124.00(CH,2C)、126.35(CH,2C)、126.87(CH,2C)、127.21(CH,4C)、127.66(CH,2C)、128.31(CH,2C)、128.78(CH,2C)、129.48(C,2C)、129.59(CH,2C)、132.60(CH,2C)、133.95(C,2C)、134.64(C,2C)、136.06(C,2C)、136.33(C,2C)、142.77(C,2C)、145.26(C,2C)、146.46(C,2C)を示した。
【0099】
図5〜7は、それぞれ1H−NMRスペクトルチャート図、通常の13C−NMRスペクトルチャート図およびDEPT−135の13C−NMRスペクトルチャート図である。これらのNMRシグナルは、目的とするベンゾフラン−アミン化合物である例示化合物No.1の構造をよく支持している。
【0100】
また、分子量測定装置:LC−MSは例示化合物No.1(分子量の計算値:644.32)にプロトンが付加した分子イオン[M+H]+に相当するピークが645.5に観測された。
【0101】
さらに、白色粉末状化合物の元素分析値は以下のとおりであった。
<例示化合物No.1の元素分析値>
理論値 C:89.40%、H:6.25%、N:4.34%
実測値 C:89.04%、H:5.97%、N:4.01%
以上、NMR、LC−MSおよび元素分析等の分析結果から、得られた白色粉末状化合物が、例示化合物No.1のトリアリールアミンダイマー化合物であることがわかった(収率:80.1%)。また、LC−MS測定時のHPLCの分析結果から、得られた例示化合物(1)の純度は99.0%であった。
【0102】
(製造例2〜5)例示化合物No3、7、13および20の合成
製造例1において、一般式(4)で示されるビスアリールジハロゲン化合物誘導体、一般式(5)で示される2級アミン化合物として表2に示す各原料化合物を用いて全く同様の操作を行ない、例示化合物No.3、7、13および20をそれぞれ製造した。なお、表2には、例示化合物No.1の原料化合物も併せて示す。
【0103】
【表2】

また、上記の製造例1〜5で得られた各例示化合物の元素分析値と分子量の計算値およびLC-MSによる実測値[M+H]を表3に示す。
【0104】
【表3】

【0105】
(実施例1)
以下のようにして、製造例1で製造した本発明による非対称ビスヒドロキシ化合物である例示化合物No.1を電荷輸送層の電荷輸送物質として用いた電子写真感光体を作製した。
導電性支持体には、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(略称PET)フィルムの表面にアルミニウムを蒸着したもの(以後、「アルミニウム蒸着PETフィルム」と称す)を用いた。
【0106】
酸化チタン(商品名:タイベークTTO55A、石原産業株式会社製)7重量部および共重合ナイロン樹脂(商品名:アミランCM8000、東レ株式会社製)13重量部を、メチルアルコール159重量部と1,3−ジオキソラン106重量部との混合溶剤に加え、ペイントシェーカにて8時間分散処理し、中間層形成用塗布液100gを調製した。この中間層形成用塗布液を、導電性支持体であるアルミニウム蒸着PETフィルムのアルミニウム表面にアプリケータによって塗布し、自然乾燥して膜厚1μmの中間層を形成した。
【0107】
次いで、X型無金属フタロシアニン(Fastogen Blue 8120、大日本インキ社製)1重量部およびブチラール樹脂(商品名:#6000−C、電気化学工業株式会社製)1重量部を、メチルエチルケトン98重量部に混合し、ペイントシェーカにて分散処理して電荷発生層形成用塗布液50gを調製した。この電荷発生層形成用塗布液を、前記の中間層と同様の方法で、先に設けた中間層表面に塗布し、自然乾燥して膜厚0.4μmの電荷発生層を形成した。
【0108】
次に、製造例1で製造した例示化合物No.1の化合物8質量部と、ポリカーボネート樹脂(帝人化成株式会社製:C−1400)10質量部とをTHF80質量部に溶解させ、電荷輸送層用塗布液を調製した。この電荷輸送層用塗布液を、先に形成した電荷発生層上にベーカアプリケータにて塗布した後、乾燥させ、膜厚10μmの電荷輸送層を形成した。以上のようにして、図1に示す構成の積層型の電子写真感光体を作製した。
【0109】
(実施例2)
電荷輸送物質として例示化合物No.1に代えて、表1に示す例示化合物No.3の化合物を用いたこと以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0110】
(実施例3〜5)
電荷輸送物質として例示化合物No.1に代えて、表1に示す例示化合物No.7、13、20の化合物を用いること以外は、実施例1と同様にして3種類の電子写真感光体を作製した。
【0111】
(比較例1)
電荷輸送物質として例示化合物No.1に代えて、トリアリールアミン構造を有する化合物α-Np-TPD(東京化成株式会社製)を用いること以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製しようとした。しかしながら、α-Np-TPDが使用の系に溶解せず、電子写真感光体を得ることができなかった。
【0112】
(比較例2)
電荷輸送物質として例示化合物No.1に代えて、トリアリールアミン構造を有する化合物4mM-TPD(高砂香料株式会社製)を用いること以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
(比較例3)
電荷輸送物質として例示化合物No.1に代えて、トリアリールアミン構造を有する化合物4mM-TPD(高砂香料株式会社製)を用い、電荷輸送物質の重量Mとバインダ樹脂の重量Bの比率M/Bを10/20とすること以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0113】
<電気特性評価>
実施例1〜5および比較例1〜3で得られた各電子写真感光体について、静電紙試験装置(商品名:EPA−8200、株式会社川口電機製作所製)を用いて、以下のようにして電気特性を評価した。
感光体にマイナス(−)5kVの電圧を印加することによって感光体表面を帯電させ、このときの感光体の表面電位を帯電電位V0[V]として測定した。次に、帯電された感光体表面に対して露光を施し、感光体の表面電位を帯電電位V0から半減させるのに要した露光量を半減露光量E1/2[μJ/cm2]として測定した。また、露光開始から10秒間経過した時点の感光体の表面電位を残留電位Vr[V]として測定した。なお、露光には、モノクロメータにて分光して得られた波長780nm、強度1μW/cm2の光を用いた。
【0114】
<耐刷性評価>
実施例1〜5および比較例1〜3で得られた各電子写真感光体について、以下のようにして耐刷性および電気特性の安定性を評価した。
作製した各電子写真感光体を、プロセススピードを225mm/secとしたデジタル複写機(シャープ株式会社製:AR-M450)にそれぞれ搭載した。画像形成を50,000枚行った後、感光層の膜厚d1を測定し、この値と作製時の感光層の膜厚d0との差を膜減り量Δd(=d0−d1)として求め、耐刷性の評価指標とした。
これらの評価結果を表4に示す。
【0115】
【表4】

【0116】
本発明であるトリアリールアミンダイマー化合物を電荷輸送層に用いた実施例1〜5の感光体は、電気特性および機械耐久性が良好であり、磨耗も少なかった。
比較例2の感光体は、初期の電気特性は良好であるけれども、耐刷性試験において実施例1〜5の感光体と比較して著しく劣ることが分かった。
電荷輸送物質に対するバインダ樹脂の比率を上げた比較例3の感光体は、機械的耐刷性が向上したものの、感光層中に電荷輸送物質の含有量が少なくなったことよりVrが大きくなり電気特性は悪くなった。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の積層型感光体の要部の構成を示す模式断面図である。
【図2】本発明の積層型感光体の要部の構成を示す模式断面図である。
【図3】本発明の単層型感光体の要部の構成を示す模式断面図である。
【図4】本発明の画像形成装置の構成を示す模式側面図である。
【図5】本発明の例示化合物No.1の1H−NMRスペクトルチャート図ある。
【図6】本発明の例示化合物No.1の通常の13C−NMRスペクトルチャート図ある。
【図7】本発明の例示化合物No.1のDEPT−135の13C−NMRスペクトルチャート図ある。
【符号の説明】
【0118】
1、2、3 感光体
11 導電性支持体
12 電荷発生層
13 電荷輸送層
14 積層型感光層
15 中間層
140 単層型感光層
【0119】
10 感光体
30 露光手段
31 光
32 帯電手段(帯電器)
32a 帯電ローラ
32b バイアス電源
33 現像手段(現像器)
33a 現像ローラ
33b ケーシング
34 転写器(転写帯電器)
35 定着器
35a 加熱ローラ
35b 加圧ローラ
36 クリーナ
36a クリーニングブレード
36b 回収用ケーシング
41、42 矢符
43 外周面(表面)
44 回転軸線
51 転写紙
100 画像形成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性材料からなる導電性支持体上に、電荷発生物質と電荷輸送物質とを含有する単層型感光層、または電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とが積層された積層型感光層が積層されてなる電子写真感光体であって、前記単層型感光層または前記積層型感光層の電荷輸送層が、電荷輸送物質として一般式(1):
【化1】

(式中、
Ar1およびAr2は、同一または異なって、置換基を有してもよいアリーレン基または置換基を有してもよい複素環基であり;
Ar3およびAr4は、同一または異なって、置換基を有してもよいアリール基または置換基を有してもよい複素環基であり;
1およびR2は、同一または異なって、アルキル基であり;
aおよびbは、同一または異なって、アルキル基、フルオロアルキル基、アルコキシ基、置換基を有してもよいアミノ基、ハロゲン原子または水素原子であるか、または結合する芳香環の隣合う炭素原子に−O−C−O−が結合していてもよく;
mおよびnは1〜4の整数であり、mおよびnが2以上のとき、複数のaおよびbは同一でも異なってもよい)
で示されるトリアリールアミンダイマー化合物を含有することを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】
前記トリアリールアミンダイマー化合物が、副式(2):
【化2】

(式中、
Ar1、Ar2、R1、R2、a、b、nおよびmは、一般式(1)と同義であり;
dおよびeは、aおよびbと同義であり;
oおよびpは1〜7の整数であり、oおよびpが2以上のとき、複数のdおよびeは同一でも異なってもよい)
で示される請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記トリアリールアミンダイマー化合物が、副式(3):
【化3】

(式中、
Ar1、R1、R2、a、b、nおよびmは、一般式(1)と同義であり;
d、e、oおよびpは、副式(2)と同義であり;
fおよびqは、一般式(1)のaおよびnと同義である)
で示される請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記電荷輸送層がバインダ樹脂を含有し、前記電荷輸送物質の重量Mと前記バインダ樹脂の重量との比率M/Bが10/8〜10/30である請求項1〜3のいずれか1つに記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記単層型感光層または前記積層型感光層の電荷発生層が、前記電荷発生物質として、Cu−Kα特性X線回折(波長:1.54Å)におけるブラッグ角(2θ±0.2°)が少なくとも27.2°に回折ピークを有するオキソチタニウムフタロシアニンを含有する請求項1〜4のいずれか1つに記載の電子写真感光体。
【請求項6】
前記導電性支持体と前記単層型感光層または前記積層型感光層との間に中間層を有する請求項1〜5のいずれか1つ記載の電子写真感光体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の電子写真感光体と、前記電子写真感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された前記電子写真感光体に対して露光を施す露光手段と、露光によって形成される静電潜像を現像する現像手段とを備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
構造式(I):
【化4】

で示されることを特徴とするトリアリールアミンダイマー化合物。
【請求項9】
構造式(II):
【化5】

で示されるビスアリールジハロゲン化合物誘導体(1.0当量)と、構造式(III):
【化6】

で示される2級アミン化合物(2.0〜2.1当量)とを、溶剤中、4.0〜8.0当量の銅粉末、8.0〜12.0当量の炭酸塩基、0.2〜0.8当量のクラウンエーテルを加え、反応させて請求項8に記載のトリアリールアミンダイマー化合物を得ることを特徴とするトリアリールアミンダイマー化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−275779(P2008−275779A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−117379(P2007−117379)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】