説明

電子写真感光体及び電子写真装置

本発明は、優れた電子写真特性を損なうことなく導電性基板上の欠陥を被覆し、繰り返し安定性や環境特性に優れた電子写真感光体を提供することを目的とする。
本発明は、導電性支持体上に下引層を介して感光層を形成した電子写真感光体において、該下引層がポリイミド樹脂を含有し、前記感光層中の電荷移動剤として下式で表される化合物の少なくとも1つを含有することを特徴とする電子写真感光体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やLED、LDプリンター等の電子写真装置に用いられる電子写真感光体に関し、特に下引層を形成させた有機光導電材料を用いた電子写真感光体及びそれらの感光体を搭載した電子写真装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に感光体を用いた電子写真プロセスは、以下のように行われる。すなわち、暗所で例えば接触帯電方式として帯電ローラーにより帯電し、次いで、像露光手段としてLED又はLDを用い、露光部のみの電荷を選択的に消失させて静電潜像を形成し、さらに、現像剤で可視化して画像形成する。
かかる電子写真感光体に要求される基本特性として、暗所で適当な電位に帯電できること、光照射により表面電荷を消失することができる機能を備えていること等がある。
現在実用化されている電子写真感光体は、導電性支持体上に感光層を形成したものが基本構成であるが、導電性支持体である切削アルミニウム管をダイアモンドバイト等により切削加工するときに、切削油や切削粉が支持体に残留し、その上に感光層を塗布することで画像形成時に欠陥となって現われたり、感光体表面に高電圧を印加した際に、前記支持体の切削バリ、汚れ、異物の付着等の欠陥部分から電流が流れ込み、部分的にショートしてしまうといった問題もある。また、チリ、カブリ等の画像欠陥として現われてくる。さらに、導電性基板上に形成する電荷発生層は1μm程度の膜厚のため、前記欠陥の影響を受け、感光体としての機能に悪影響を及ぼす。
このような導電性基板表面の欠陥に影響されないよう通常導電性基板上に陽極酸化処理を施しアルマイト被膜を設けたり、樹脂材料を用いた下引層を設ける等して、導電性基板上の欠陥を被覆してしまう方法が採られている。
【0003】
しかし、アルマイト被膜は、その製造工程上アルマイト被膜表面に形成される微細な穴に汚れが入ったり、穴をふさぐための封孔処理、洗浄処理等の工程でアルマイト被膜表面が汚染されやすい欠点があり、導電性基板表面の欠陥を被覆してもアルマイト被膜自身の汚れが悪影響を及ぼしてしまう。
下引層としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂等の樹脂材料を用いることが知られている。これらの樹脂のうち、特にポリアミド樹脂が好ましいとされている。
しかし、下引層にポリアミド樹脂等を使用した電子写真感光体においては、その体積抵抗値が1012〜1015Ω・cm程度であるために、下引層の膜厚を1μm以下に薄くしなければ、感光体に残留電位が蓄積され、画像にチリ、カブリ等が生じる。一方、薄膜化すると、導電性支持体上の欠陥を被覆できなくなるばかりか、繰り返し使用時における基板からのホール注入が加速され、帯電電位低下が著しく、光感度も低下するために画像にチリ、カブリ等が生じ、画質を損なうことになるという問題があった。
【0004】
有機溶剤に可溶なポリイミド樹脂を用いた下引層であって、具体的に膜厚0.5μmで形成したものも提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平8−30007号公報
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたようにポリイミド樹脂を含む下引層の膜厚を1.0μm未満の薄膜で形成させた状態の下引層と従来の電荷移動剤との組み合わせでは、感光体の繰り返し使用後の残留電位が上昇し、画像にチリ、カブリ等が発生するという問題があることがわかった。
また、下引層を感光体に直接接触させて帯電用電圧を印加する、接触帯電部材を備えた電子写真装置の場合、電子写真感光体に直接高電圧を印加することとなるため、チリ、カブリ等の発生が起こりやすい問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、優れた電子写真特性を損なうことなく導電性基板上の欠陥を被覆し、繰り返し安定性や環境特性に優れた電子写真感光体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、導電性支持体上に下引層を介して感光層を形成した電子写真感光体において、該下引層が特定のポリイミド樹脂を含有し、かつ特定の電荷移動剤を含有する電子写真感光体が、前記従来技術の問題点がなく、しかも長期間にわたって優れた静電特性を維持することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、導電性支持体上に下引層を介して感光層を形成した電子写真感光体において、該下引層がポリイミド樹脂を含有し、前記感光層中の電荷移動剤として一般式〔I〕若しくは一般式〔II〕で表される化合物の少なくとも1つを含有することを特徴とする電子写真感光体に関するものである。
一般式〔I〕
【化1】

(式中、R及びRは、各々独立に置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基を表し、Rは、水素原子又は少なくとも一つのアルキル基が炭素数2以上のジアルキルアミノ基のいずれかを表す。)
一般式〔II〕
【化2】

(式中、R〜Rは、各々同一であっても異なっていてもよく、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基若しくはアルコキシ基、又は置換基を有してもよいアリール基のいずれかを表し、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基若しくはアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアルケニル基若しくはアルカジエニル基、又は一般式〔II’〕のいずれかを表し、nは0又は1の整数を表す。)
一般式〔II’〕
【化3】

(式中、R、R10は、各々同一であっても異なっていてもよく、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基若しくはアルコキシ基、又は置換基を有してもよいアリール基のいずれかを表し、nは0又は1の整数を表す。)
かかる構成を有する請求項1記載の発明によると、導電性支持体のピンホール等の欠陥が被覆されるほか、繰り返し使用後の残留電位の上昇を抑え、画像上チリ、カブリ等の発生をなくすことができる。
【0009】
請求項2記載の発明は、下引層が一般式〔III〕で表されるポリイミド樹脂を含有することを特徴とする電子写真感光体に関するものである。
一般式〔III〕
【化4】

〔式中、Xは芳香環が異種原子で連結されてもよい2価の多環芳香族基であり、nは重合度を表す整数である。〕
【0010】
かかる構成を有する請求項2記載の発明によると、繰り返し使用後の残電上昇を抑えることができる。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1の電子写真感光体において、前記下引層の膜厚が1.0μm〜50μmであることを特徴とする電子写真感光体に関するものである。
【0012】
かかる構成を有する請求項3記載の発明によると、導電性支持体上の比較的大きな欠陥部分でも被覆でき、画像欠陥がなくなる。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項1の電子写真感光体において、下引層に酸化チタンを含有させることによって、下引層の誘電率を高くすることができ、分散性も向上する。さらにポリイミド樹脂と酸化チタンとの重量比が2:1〜1:4の範囲であることが好ましい。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項1の電子写真感光体において、下引層が一般式〔I〕で表されるポリイミド樹脂を含有する層とその上に熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂からなる層の2層構造を設けることによって、下引層が厚膜化しても残留電位の蓄積を抑えられ、帯電性を安定させられることから画像品質が向上する。
【0015】
請求項6記載の発明は、請求項1の電子写真感光体において、導電性支持体が無切削管を用いることにより、導電性支持体表面の欠陥を確実に被膜することができる。
【0016】
請求項7記載の発明は、請求項1の電子写真感光体において、帯電手段として接触帯電手段を有することを特徴とする電子写真装置によって、本発明の目的を達成することができる。
【0017】
請求項8記載の発明は、請求項1の電子写真感光体において、半導体レーザーによる露光手段を適用することによって画像の干渉縞を解消することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電子写真感光体は、表面電位や露光後電位等の静電特性は、繰り返し後でも大きな劣化がなく、画像欠陥が全く発生せず、繰り返し安定性に強い。
よって、本発明によれば、優れた電子写真特性、クリーニング性、耐油性を有し、かつ、メンテナンスの簡略化が図れる電子写真感光体を提供できる。
【0019】
以下、本発明に係る電子写真感光体の好ましい実施の形態を詳細に説明する。
本発明は、例えば、導電性支持体の上に少なくとも電荷発生剤が含有される電荷発生層が形成され、その上に少なくとも電荷移動剤が含有される電荷移動層が形成される機能分離型電子写真感光体に適用されるものである。この場合、電荷発生層と電荷移動層とにより感光層が形成される。
また、本発明は、電荷発生剤と電荷移動剤が同一の層に含有される単層型電子写真感光体や、電荷移動層、電荷発生層の順に積層された逆積層型電子写真感光体等に対しても適用することができる。
【0020】
本発明に用いることができる導電性支持体としては、アルミニウム、真鍮、ステンレス鋼、ニッケル、クロム、チタン、金、銀、銅、錫、白金、モリブデン、インジウム等の金属単体やその合金の加工体や、上記金属や炭素等の導電性物質を蒸着、メッキ等の方法で処理し、導電性を持たせたプラスチック板及びフィルム、さらに酸化錫、酸化インジウム、ヨウ化アルミニウムで被覆した導電性ガラス等、種類や形状に制限されることなく、導電性を有する種々の材料を使用して導電性支持体を構成することができる。また、導電性支持体の形状については、ドラム状、棒状、板状、シート状、ベルト状のものを使用することができる。
この中でも、JIS3000系、JIS5000系、JIS6000系等のアルミニウム合金が用いられ、EI法、ED法、DI法、II法等一般的な方法により成形を行なったものであり、ダイヤモンドバイト等による表面切削加工や研磨、陽極酸化処理等の表面処理を行なわない無切削管が好ましい。
【0021】
本発明に用いることができる電荷発生剤としては、ジスアゾ顔料やオキシチタニウムフタロシアニンが感度の相性が良い点で望ましいが、それに限定されるものではない。その他、例えば、セレン、セレン−テルル、セレン−砒素、アモルファスシリコン、無金属フタロシアニン、他の金属フタロシアニン顔料、モノアゾ顔料、トリスアゾ顔料、ポリアゾ顔料、インジゴ顔料、スレン顔料、トルイジン顔料、ピラゾリン顔料、ペリレン顔料、キナクリドン顔料、多環キノン顔料、ピリリウム塩等を用いることができる。特にオキシチタニウムフタロシアニンには、いくつもの結晶型が紹介されているが、その中でもCuKαを線源とするX線回折スペクトルにおいてブラック角(2θ±0.2°)27.3°に最大回折ピークを示す結晶型(図2に示す)、7.6°及び28.3°に主たる回折ピークを示す結晶型及び7.5°に最大ピークを有し、かつ他の回折ピーク強度が7.5°の回折ピーク強度に対して20%以下の強度である結晶型(図1に示す)のものが本発明の電子写真感光体用に特に好ましい。膜厚は、0.01〜5.0μm、好ましくは0.1〜1.0μmの範囲がよい。
【0022】
上記電荷発生剤は単体で用いてもよいし、適切な光感度波長や増感作用を得るために2種類以上を混合して用いてもよい。
【0023】
本発明の下引層には、ポリイミド化する前の中間体が含まれていてもよく、ポリイミド前駆体とポリイミド樹脂との混合割合は、該ポリイミド樹脂を該ポリイミド樹脂と該ポリイミド前駆体との合計重量の20〜70%含有させるのがよく、好ましくは30〜50%の範囲がよい。20%未満だと下引層が有機溶剤に溶解してしまい、70%超だとイミド化に近い状態となり、繰り返し使用後の残留電位が蓄積され画像不良となる。
【0024】
ポリイミド樹脂の分子量は、1,000〜100,000、特に10,000〜30,000の範囲のものが好ましい。Xの具体例は、下記のとおりである。
〔X−1〕
【化5】

〔X−2〕
【化6】

〔X−3〕
【化7】

【0025】
本発明の電子写真感光体は、下引層を介して感光層を形成した電子写真感光体において、該下引層が一般式(I)で表されるポリイミド樹脂を含有することにより、成膜性が向上し、薄膜においても導電性支持体のピンホール等の欠陥が被覆され、感光層のバリアー機能、接着機能が優れている。膜厚は1.0〜50μm、好ましくは20〜40μmで使用される。
【0026】
また、該下引層を形成する際の乾燥温度が110℃〜170℃の範囲が適当であり、好ましくは130℃〜150℃が良い。110℃未満では下引層が溶剤で溶解してしまう為、感光体に塗布できない。なお、110℃以上で乾燥すると有機溶剤に溶解しない。170℃超だと繰り返し使用後の残留電位が上昇し、画像濃度変化が発生してしまうという若干の問題が生ずる。
【0027】
さらに下引層が一般式(I)で表されるポリイミド樹脂を含有する層とその上に熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂からなる層の2層構造を設けることによって、下引層が厚膜化しても残留電位の蓄積を抑えられ、かつ画像品質が向上する。
【0028】
本発明の電子写真感光体は、下引層に酸化チタンを含有させてもよい。本発明で用いる酸化チタンは、体積抵抗値を低下させない限り、酸化チタン粒子表面に種々の処理を施してもよい。例えば、アルミニウム、ケイ素ニッケル等を処理剤として、その粒子表面に酸化膜の被覆を行うことができる。その他、必要に応じてカップリング材等の撥水性を付与することも可能である。また、酸化チタンの平均粒径1μm以下のものが好ましく、0.01〜0.5μmのものがさらに好ましい。酸化チタンの含有量はポリイミド1に対して0.5〜4倍の範囲が好ましい。
【0029】
さらに、下引層として、ポリイミド樹脂からなる層とその上に熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂からなる層の2層構造を設けてもよい。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリウレタン、フェノール、メラミン・アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー等が挙げられる。ポリイミド樹脂層の上に設ける樹脂層の膜厚は0.1〜10.0μm、好ましくは0.8〜5.0μmの範囲で使用できる。
【0030】
また、上記2層からなる層の両方又は片方の層中に、半導体レーザー露光時の光干渉を抑制する目的で白色顔料を含有させてもよい。例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ等が挙げられる。
【0031】
感光層を形成するために用いることができる結着樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエーテル、塩化ビニル−酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、フラン樹脂、ニトリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアリレート樹脂、ジアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、シリコーン樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂、フェノール樹脂、EVA(エチレン・酢酸ビニル・共重合体)樹脂、ACS(アクリロニトリル・塩素化ポリエチレン・スチレン)樹脂、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂、エポキシアリレート等の光硬化樹脂等がある。これらは、1種でも2種以上混合して使用することも可能である。また、分子量の異なった樹脂を混合して用いれば、硬度や耐摩耗性を改善できるのでより好ましい。
【0032】
本発明に用いることができる電荷移動剤としては、一般式(I)に含まれる化合物において、特に式(V)及び式(VI)に示す化合物が好ましい。
【0033】
式〔V〕
【化8】

【0034】
式〔VI〕
【化9】

また、一般式(II)に示す化合物において、特に式(VII)、式(VIII)、式(IX)、式(X)に示す化合物が好ましい。
【0035】
式〔VII〕
【化10】

【0036】
式〔VIII〕
【化11】

【0037】
式〔IX〕
【化12】

【0038】
式〔X〕
【化13】

【0039】
また、一般式(I)から選ばれる化合物と一般式(II)から選ばれる化合物とを同時に電荷移動剤として用いても、よい特性が得られて好ましい。
【0040】
上記電荷移動剤以外の他の電荷移動剤を用いることもできる。他の電荷移動剤としては、ポリビニルカルバゾール、ハロゲン化ポリビニルカルバゾール
さらに、本発明の電子写真感光体の感光層中には、他の電荷移動剤を添加することもできる。その場合には、感光層の感度を高めたり、残留電位を低下させることができるので、本発明の電子写真感光体の特性を改良することができる。
【0041】
そのような特性改良のために添加できる電荷移動剤としては、ポリビニルカルバゾール、ハロゲン化ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピレン、ポリビニルインドロキノキサリン、ポリビニルベンゾチオフェン、ポリビニルアントラセン、ポリビニルアクリジン、ポリビニルピラゾリン、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリイソチアナフテン、ポリアニリン、ポリジアセチレン、ポリヘプタジイエン、ポリピリジンジイル、ポリキノリン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェロセニレン、ポリペリナフチレン、ポリフタロシアニン等の導電性高分子化合物を用いることができる。
【0042】
また、低分子化合物として、トリニトロフルオレノン、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、キノン、ジフェノキノン、ナフトキノン、アントラキノン及びこれらの誘導体等、アントラセン、ピレン、フェナントレン等の多環芳香族化合物、インドール、カルバゾール、イミダゾール等の含窒素複素環化合物、フルオレノン、フルオレン、オキサジアゾール、オキサゾール、ピラゾリン、トリフェニルメタン、トリフェニルアミン、エナミン、スチルベン、前記以外のブタジエン、前記以外のヒドラゾン化合物等を電荷移動剤として添加することができる。
【0043】
また、同様の目的の電荷移動剤として、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸等の高分子化合物にLi(リチウム)イオン等の金属イオンをドープした高分子固体電解質等を添加することもできる。
【0044】
さらに、同様の目的の電荷移動剤として、テトラチアフルバレン−テトラシアノキノジメタンで代表される電子供与性物質と電子受容性物質で形成された有機電荷移動錯体等も用いることができる。
【0045】
なお、前記電荷移動剤は、1種だけ添加しても、2種以上の化合物を混合して添加しても所望の感光体特性を得ることができる。電荷移動層の膜厚は、5.0〜50μm、好ましくは10〜30μmがよい。
また、本発明の電子写真感光体の場合、感光層全体の膜厚は、10〜50μm、好ましくは15〜25μmの範囲がよい。例えば下引層を25μm程度に厚く設けた場合は、電荷移動層は15μm程度に薄く設ければよい。逆に下引層を1μm程度に薄く設けた場合は、電荷移動層を25μm程度に厚く設ければよい。
この理由として、帯電手段として、接触帯電手段を有する電子写真プロセスにおいて、感光体の耐圧性が要求されている。一般に、耐圧性が低い感光体は、リーク電流により感光体内から表面において欠陥が生じ、これが画像欠陥として現われる。即ち、感光体の耐圧性は感光体の総膜厚により決定されるので、下引層の膜厚を厚くすることで、耐圧性が向上するため電荷移動層を薄膜にできる。
【0046】
本発明の電子写真感光体は、光導電材料や結着樹脂の酸化劣化による特性変化、クラックの防止、機械的強度の向上の目的で、その感光層中に酸化防止剤や紫外線吸収剤を含有することが好ましい。
【0047】
本発明に用いることができる酸化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−4−メトキシフェノール、2−tert−ブチル−4−メトキシフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、ブチル化ヒドロキシアニソール、プロピオン酸ステアリル−β−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)、α−トコフェロール、β−トコフェロール、n−オクタデシル−3−(3′−5′−ジ−tert−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のモノフェノール系、2,2′−メチレンビス(6−tert−ブチル−4−メチルフェノール)、4,4′−ブチリデン−ビス−(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4′−チオビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス〔メチレン−3(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン等のポリフェノール系等が好ましく、これらを1種若しくは2種以上を同時に感光層中に含有することができる。
【0048】
また、紫外線吸収剤としては、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−5′−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系、サリチル酸フェニル、サリチル酸−p−tert−ブチルフェニル、サリチル酸−p−オクチルフェニル等のサリチル酸系が好ましく、これらを1種若しくは2種以上を同時に感光層に含有することができる。
【0049】
また、酸化防止剤と紫外線吸収剤を同時に添加することもできる。これらの添加は感光層中であれば何れの層でもよいが、最表面の層特に電荷移動層に添加することが好ましい。
【0050】
なお、酸化防止剤は、結着樹脂に対して3〜20重量%とすることが好ましく、紫外線吸収剤の添加量は、結着樹脂に対して3〜30重量%とすることが好ましい。さらに、酸化防止剤と紫外線吸収剤との両者を添加する場合には、両成分の添加量は、結着樹脂に対して5〜40重量%とすることが好ましい。
【0051】
前記酸化防止剤、紫外線吸収剤以外にも、ヒンダードアミン、ヒンダードフェノール化合物等の光安定剤、ジフェニルアミン化合物等の老化防止剤、界面活性剤等を感光層に添加することもできる。
【0052】
感光層の形成方法としては、所定の感光材料と結着樹脂と共に溶媒に分散あるいは溶解して塗工液を作成し、所定の下地上に塗工する方法が一般的である。
【0053】
塗工方法としては、浸漬塗工、カーテンフロー、バーコート、ロールコート、リングコート、スピンコート、スプレーコート等、下地の形状や塗工液の状態に合わせて行うことができる。
また、電荷発生層は真空蒸着法により形成させることもできる。
【0054】
塗工液に使用する溶剤には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、ブタノール、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ等のアルコール類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の飽和脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン等の塩素系炭化水素、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル等のエステル類、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド類等がある。これらは単独で用いても、2種類以上の溶剤を混合して用いてもよい。
【0055】
また、本発明の下引層には、樹脂中に金属化合物、金属酸化物、カーボン、シリカ、樹脂粉体等を分散させた中間層を用いることもできる。さらに、特性改善のために各種顔料、電子受容性物質や電子供与性物質等を含有させることもできる。
【0056】
加えて、感光層の表面に、ポリビニルホルマール樹脂、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂等の有機薄膜や、シランカップリング剤の加水分解物で形成されるシロキサン構造体から成る薄膜を成膜して表面保護層を設けてもよく、その場合には、感光体の耐久性が向上するので好ましい。この表面保護層は、耐久性向上以外の他の機能を向上させるために設けてもよい。
【0057】
次に、本発明の電子写真プロセス、電子写真装置について説明する。本発明の電子写真プロセスには、帯電手段、露光手段、現像手段、転写手段、定着手段、クリーニング手段等公知の手段を使用することができる。帯電手段においては、コロナ帯電方式等の非接触帯電方式、帯電ローラー、帯電ブラシ等の接触帯電方式を用いることができる。像露光手段の光源は、ハロゲン光、蛍光灯及びレーザー光等を用いることができる。半導体レーザーの波長は、780nm以下、好ましくは780〜500nmであり、レーザービーム径を絞る等の方式でもよい。現像方式は、乾式現像法、湿式現像法、2成分、1成分、磁性/非磁性いずれでもよい。転写方式もローラー、ベルトいずれでもよい。
【実施例】
【0058】
以下、本発明に係る電子写真感光体の実施例を比較例とともに詳細に説明する。
【0059】
実施例1
直径30mmの無切削アルミニウムからなる円筒ドラム上に、アルミナ被覆された酸化チタン粒子と一般式(III)のXが[X−1]のポリイミド樹脂とを重量比で1:1の割合で混合したものを塗布し、140℃で30分乾燥し、膜厚20.0μmの第1の下引層を形成した。次いで、前記下引層上に、熱硬化性樹脂としてのメラミン・アルキド樹脂と酸化チタンとを1:3の割合とし、メチルエチルケトンに溶解して塗布液として、前記下引層上に第2の下引層を18.0μmの膜厚で積層した。
【0060】
次いで、結着樹脂としてポリビニルブチラールを用い、X線回折強度7.5度に最大ピークを有するオキシチタニウムフタロシアニンの分散液を浸漬塗工により0.1μm塗布し、電荷発生層を形成した。
【0061】
次いで、結着樹脂としてポリカーボネート共重合体と、電荷移動剤として式〔VI〕のブタジエン化合物と、酸化防止剤として2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールとを、ポリカーボネート共重合体=1.0/0.8/0.18の重量比でテトラヒドロフランに溶解して塗工液を調製した。
【0062】
そして、浸漬塗工によりこの塗工液を塗布した後、100℃の温度下で1時間乾燥し、20μmの膜厚の電荷移動層を形成し、電子写真感光体を作製した。
【0063】
実施例2
実施例1の第1下引層のポリイミド樹脂と酸化チタンとの重量比を2:1に変えた以外は、実施例1と同様の方法で電子写真感光体を作製した。
【0064】
実施例3
実施例1の無切削アルミニウムをCP加工が施された切削アルミニウムに変えた以外は、実施例1と同様の方法で電子写真感光体を作製した。
【0065】
実施例4
実施例1の第1下引層のポリイミド樹脂と酸化チタンとの重量比を1:4に変えた以外は、実施例1と同様の方法で電子写真感光体を作製した。
【0066】
実施例5
実施例1の第1下引層の膜厚を1.0μmに変えた以外は、実施例1と同様の方法で電子写真感光体を作製した。
【0067】
実施例6
実施例1の第1下引層の膜厚を5.0μmに変えた以外は、実施例1と同様の方法で電子写真感光体を作製した。
【0068】
実施例7
実施例1の第1下引層の膜厚を30.0μmに変えた以外は、実施例1と同様の方法で電子写真感光体を作製した。
【0069】
実施例8
実施例1の第1下引層の膜厚を50.0μmに変えた以外は、実施例1と同様の方法で電子写真感光体を作製した。
【0070】
実施例9
実施例1の第2下引層のメラミン・アルキド樹脂をナイロン樹脂に変えた以外は、実施例1と同様の方法で電子写真感光体を作製した。
【0071】
実施例10
実施例1の第2下引層を削除した以外は、実施例1と同様の方法で電子写真感光体を作製した。
【0072】
実施例11
実施例1の式6の電荷移動剤を式7の電荷移動剤に変えた以外は、実施例1と同様の方法で電子写真感光体を作製した。
【0073】
実施例12
実施例1の式6の電荷移動剤と、式7の電荷移動剤とを混合した以外は、実施例1と同様の方法で電子写真感光体を作製した。
【0074】
実施例13
実施例1の電荷発生剤を、X線回折強度27.3度が最大ピークの電荷発生剤に変えた以外は、実施例1と同様の方法で電子写真感光体を作製した。
【0075】
実施例14
実施例1の第1下引層の酸化チタン及び第2下引層を無くした以外は、実施例1と同様の方法により電子写真感光体を作製した。
【0076】
実施例15
実施例1の第1下引層の酸化チタンを無くした以外は、実施例1と同様の方法により電子写真感光体を作製した。
【0077】
実施例16
実施例1の第1下引層の膜厚を0.5μmにした以外は、実施例1と同様の方法により電子写真感光体を作製した。
【0078】
比較例1
実施例1の下引層の代わりに陽極酸化処理したアルマイト層を形成した以外は、実施例1と同様の方法により電子写真感光体を作製した。
【0079】
比較例2
実施例1の第1下引層をなくした以外は、実施例1と同様の方法により電子写真感光体を作製した。
【0080】
比較例3
実施例1の第1及び第2下引層をなくした以外は、実施例1と同様の方法により電子写真感光体を作製した。
【0081】
比較例4
実施例1の式〔VI〕で表される電荷移動剤に代えて、下式〔A〕で表されるヒドラゾン化合物を用いた他は、実施例1と同様の方法で電子写真感光体を作製した。
【0082】
式〔A〕
【化14】

【0083】
評価方法1
〔静電特性の測定、繰り返しサイクル試験、画像試験〕
常温常湿(24℃、40%RH)の環境下にて、直接帯電方式の沖データ社製Microline14プリンターを用い、実施例1〜16及び比較例1〜4によって作製された円筒状電子写真感光体を帯電後の感光体表面電位が−800Vになるよう帯電させ、LED露光後の感光体の表面電位が−50Vになるようにして初期設定し、次いでA4用紙20,000枚印字後の表面電位V0(−V)、残留電位VR(−V)を測定した。画像試験は、20,000枚連続印字後の画像を評価した。以上の結果を表1に示す。判定は、「○」は良好なもの、「×」は画像不良等があり実用上問題があるものとした。
【0084】
【表1】

【0085】
表1から明らかなように、実施例1〜16の電子写真感光体は20,000枚繰り返し後の帯電性、光疲労特性において良好であり、画像においてもチリ、カブリ等の画像欠陥が全く発生しなかった。
【0086】
加えて、ポリイミド樹脂に酸化チタンを混合した場合やポリイミド樹脂層の上に熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂を積層した場合でも良好な結果が得られた。
つまり実施例1〜16の場合、結果が特に良好であった。
【0087】
これに対し、比較例2及び3はいずれもポリイミド樹脂層がない場合は、転写メモリーによる黒点やチリ、カブリが発生した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体上に下引層を介して感光層を形成した電子写真感光体において、該下引層がポリイミド樹脂を含有し、前記感光層中の電荷移動剤として一般式〔I〕若しくは一般式〔II〕で表される化合物の少なくとも1つを含有することを特徴とする電子写真感光体。
一般式〔I〕
【化1】

(式中、R及びRは、各々独立に置換基を有してもよい炭素数1〜6のアルキル基を表し、Rは、水素原子又は少なくとも一つのアルキル基が炭素数2以上のジアルキルアミノ基のいずれかを表す。)
一般式〔II〕
【化2】

(式中、R〜Rは、各々同一であっても異なっていてもよく、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基若しくはアルコキシ基、又は置換基を有してもよいアリール基のいずれかを表し、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基若しくはアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアルケニル基若しくはアルカジエニル基、又は一般式〔II’〕のいずれかを表し、nは0又は1の整数を表す。)
一般式〔II’〕
【化3】

(式中、R、R10は、各々同一であっても異なっていてもよく、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基若しくはアルコキシ基、又は置換基を有してもよいアリール基のいずれかを表し、nは0又は1の整数を表す。)
【請求項2】
請求項1の電子写真感光体において、前記下引層が一般式〔III〕で表されるポリイミド樹脂を含有することを特徴とする電子写真感光体。
一般式〔III〕
【化4】

(式中、Xは芳香環が異種原子で連結されてもよい2価の多環芳香族基であり、nは重合度を表す整数である。)
【請求項3】
請求項1の電子写真感光体において、前記下引層の膜厚が1.0μm〜50μmであることを特徴とする電子写真感光体。
【請求項4】
請求項1の電子写真感光体において、前記下引層が酸化チタンを含有し、ポリイミド樹脂と酸化チタンとの重量比が2:1〜1:4の範囲であることを特徴とする電子写真感光体。
【請求項5】
請求項1の電子写真感光体において、前記下引層がポリイミド樹脂を含有する層とその上に熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂からなる層との2層構造を有することを特徴とする電子写真感光体。
【請求項6】
請求項1の電子写真感光体において、前記導電性支持体が無切削管であることを特徴とする電子写真感光体。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電子写真感光体に、接触帯電手段を適用することを特徴とする電子写真装置。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電子写真感光体に、半導体レーザーによる露光手段を適用することを特徴とする電子写真装置。

【国際公開番号】WO2005/064415
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【発行日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516581(P2005−516581)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019063
【国際出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000180128)山梨電子工業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】