説明

電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア、および電子写真現像剤

【課題】電気的特性および磁気的特性が良好であり、環境依存性が小さい電子写真現像剤用キャリア芯材を提供する。
【解決手段】電子写真現像剤用キャリア芯材は、一般式:(MnMgCa)Fe4+V(x+y+z+w=3、−0.003<v)で表されるコア組成を主成分として有し、0.05≦y≦0.35、かつ、0.005≦z≦0.024の関係を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子写真現像剤用キャリア芯材(以下、単に「キャリア芯材」ということもある)、電子写真現像剤用キャリア(以下、単に「キャリア」ということもある)、および電子写真現像剤(以下、単に「現像剤」ということもある)に関するものであり、特に、複写機やMFP(Multifunctional Printer)等に用いられる電子写真現像剤に備えられる電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤に備えられる電子写真現像剤用キャリア、および電子写真現像剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機やMFP等においては、電子写真における乾式の現像方式として、トナーのみを現像剤の成分とする一成分系現像剤と、トナーおよびキャリアを現像剤の成分とする二成分系現像剤とがある。いずれの現像方式においても、所定の電荷量に帯電させたトナーを感光体に供給する。そして、感光体上に形成された静電潜像をトナーによって可視化し、これを用紙に転写する。その後、トナーによる可視画像を用紙に定着させ、所望の画像を得る。
【0003】
ここで、二成分系現像剤における現像について、簡単に説明する。現像器内には、所定量のトナーおよび所定量のキャリアが収容されている。現像器には、S極とN極とが周方向に交互に複数設けられた回転可能なマグネットローラおよびトナーとキャリアとを現像器内で攪拌混合する攪拌ローラが備えられている。磁性粉から構成されるキャリアは、マグネットローラによって担持される。このマグネットローラの磁力により、キャリア粒子による直鎖状の磁気ブラシが形成される。キャリア粒子の表面には、攪拌による摩擦帯電により複数のトナー粒子が付着している。マグネットローラの回転により、この磁気ブラシを感光体に当てるようにして、感光体の表面にトナーを供給する。二成分系現像剤においては、このようにして現像を行なう。
【0004】
トナーについては、用紙への定着により現像器内のトナーが順次消費されていくため、現像器に取り付けられたトナーホッパーから、消費された量に相当する新しいトナーが、現像器内に随時供給される。一方、キャリアについては、現像による消費がなく、寿命に達するまでそのまま用いられる。二成分系現像剤の構成材料であるキャリアには、攪拌による摩擦帯電により効率的にトナーを帯電させるトナー帯電機能や絶縁性、感光体にトナーを適切に搬送して供給するトナー搬送能力等、種々の機能が求められる。例えば、トナーの帯電能力向上の観点から、キャリアについては、その電気抵抗値(以下、単に抵抗値ということもある)が適切であること、また、絶縁性が適切であることが要求される。
【0005】
昨今において、上記したキャリアは、そのコア、すなわち、核となる部分を構成するキャリア芯材と、このキャリア芯材の表面を被覆するようにして設けられるコーティング樹脂とから構成されている。
【0006】
ここで、キャリア芯材については、その基本的特性として、磁気的特性が良好であることが望まれる。簡単に説明すると、キャリアは、現像器内において、上記したようにマグネットローラに磁力で担持されている。このような使用状況下において、キャリア芯材自体の磁性、具体的には、キャリア芯材自体の磁化が低いとマグネットローラに対する保持力が弱まり、いわゆるキャリア飛散等の問題が生ずるおそれがある。特に、昨今においては、形成される画像の高画質化の要求に応えるため、トナー粒子の粒径を小さくする傾向にあり、これに対応して、キャリア粒子の粒径も小さくする傾向にある。キャリアの小粒径化を図ると、各キャリア粒子の担持力が小さくなってしまうおそれがある。したがって、上記したキャリア飛散の問題に対して、より効果的な対策が望まれる。
【0007】
キャリア芯材に関する技術が種々開示されているが、キャリア飛散防止という観点に着目した技術については、特開2008−241742号公報(特許文献1)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−241742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
また、磁気的特性においては、高い外部磁場における磁化の値や最終的に到達する飽和磁化の値が単に高いのみならず、磁化の立ち上がり特性が高いことも要求される。すなわち、低い外部磁場の環境下においても、高い磁化に達することも要求される。このような要求は、上記したキャリア飛散のさらなる防止の観点からである。
【0010】
さらに、キャリア芯材については、電気的特性が良好であること、具体的には、例えば、キャリア芯材自体の帯電量の高いことや高い絶縁破壊電圧を有すること、さらに上記したような観点から、キャリア芯材自体についても適切な抵抗値を有することが望まれる。特に、キャリア芯材自体の帯電性能が、昨今では強く望まれる傾向にある。
【0011】
ここで、複写機は、一般的に事務所のオフィス等において設置されて使用されるものであるが、同じオフィス環境といえども、世界各国においては、種々のオフィス環境が存在する。例えば、30℃程度の高い温度の環境下で使用される場合や、相対湿度75%程度の高い湿度の環境下で使用される場合、また、逆に10℃程度の低い温度で使用される場合や、相対湿度35%程度の低い湿度の環境下で使用される場合がある。このような温度や相対湿度が変化する状況においても、複写機に備えられる現像器内の現像剤に対しては、その特性の変化を小さくすることが望ましく、キャリアを構成するキャリア芯材についても、環境が変化した場合における特性の変化の小さいこと、いわゆる環境依存性の小さいことが要求される。
【0012】
そこで、本願発明者らは、使用する環境によってキャリア物性、具体的には、帯電量や抵抗値が変動する原因について鋭意検討を行なった。その結果、キャリア芯材の物性変動が、コーティングを施したキャリアの物性に大きく影響することがわかった。そのため、
特許文献1に代表される従来のキャリア芯材では、上記した環境依存性に対して、不十分であることがわかった。例えば、具体的には、比較的高い相対湿度の環境下において、上記した帯電量や抵抗値が大きく低下してしまう場合があった。このようなキャリア芯材では、環境変化による影響が大きく、画質に影響を与えるおそれがある。
【0013】
この発明の目的は、電気的特性および磁気的特性が良好であり、環境依存性が小さい電子写真現像剤用キャリア芯材を提供することである。
【0014】
この発明の他の目的は、電気的特性および磁気的特性が良好であり、環境依存性が小さい電子写真現像剤用キャリアを提供することである。
【0015】
この発明のさらに他の目的は、種々の環境においても良好な画質の画像を形成することができる電子写真現像剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願発明者は、キャリア芯材自体の電気的特性および磁気的特性が良好であり、環境依存性が小さいキャリア芯材を得るための手段として、まず、基本的特性として良好な磁気的特性を確保すべく、マンガンおよび鉄をコア組成の主成分とすることを考えた。そして、さらなる磁気的特性および電気的特性や環境依存性の向上を図るべく、キャリア芯材の成分として、金属元素としてのマグネシウム(Mg)およびカルシウム(Ca)を所定量添加した。
【0017】
こうすることにより、以下のようなメカニズムで、キャリア芯材は、電気的特性および磁気的特性が良好となり、環境依存性が小さくなると考えられる。キャリア芯材については、積極的に添加しなくとも、不可避的に極微量のケイ素(Si)が含まれる。そして、キャリア芯材の表層部分においても、この極微量のケイ素(Si)の酸化物(SiO)が存在することとなる。この酸化物中のケイ素(Si)が、高い相対湿度の環境下において、比較的多く存在する水分と吸着して電荷のリークを促進し、その結果、高い相対湿度の環境下において抵抗値を低下させていると考えられる。しかし、上記のように、CaおよびMgを添加することにより、このCaおよびMgの少なくともいずれか一方が、キャリア芯材の表層部分に存在する酸化物としてのSiと反応して、金属複合酸化物を形成する。そして、このSiの金属複合酸化物が、高い相対湿度の環境下において電荷のリークを抑制してキャリア芯材の抵抗値の低下を防止し、その結果、環境依存性を小さくすることができると考えられる。
【0018】
また、所定量添加されたMgおよびCaの少なくともいずれか一方の一部については、比較的イオン半径が小さいため、コア組成の主成分の結晶構造において、スピネル構造中に固溶する。そうすると、キャリア芯材のコア組成の結晶構造は、比較的安定化する。したがって、酸化によって形成されるキャリア成分中のFeが析出しにくくなることになり、その結果、磁界変化に応じた磁壁の移動が進みやすくなることにより、磁化の立ち上がりが向上すると考えられる。ここで、所定量のMgやCaの添加について考えると、例えば、Caの含有量が増大するにつれ、帯電量が増加する傾向があるが、磁化については、やや減少する傾向がある。したがって、MgやCaの添加量を適量とすることにより、電気的特性および磁気的特性の双方について、良好なものとすることができる。なお、本願明細書においては、キャリア芯材中のMg等の含有量については、モル比率で示す場合がある。
【0019】
さらに、より環境依存性を小さくするため、コア組成中、すなわち、キャリア芯材に対して、酸素量を過剰にすることとした。
【0020】
すなわち、この発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材は、一般式:(MnMgCa)Fe4+V(x+y+z+w=3、−0.003<v)で表されるコア組成を主成分として有し、0.05≦y≦0.35、かつ、0.005≦z≦0.024の関係を有する。
【0021】
上記したような構成のキャリア芯材は、まず、一般式:(MnMgCa)Fe4+V(x+y+z+w=3、−0.003<v)で表される。すなわち、キャリア芯材中の酸素量については、−0.003<vとして、過剰気味に含有されるものである。このようなvの値を満足するキャリア芯材は、例えば、後述する電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法によって得られる。このようなキャリア芯材は、高い相対湿度の環境下における抵抗値の低下を抑制することができる。そして、本願発明に係るキャリア芯材は、Mgの含有量を、0.05≦y≦0.35とし、Caの含有量を、0.005≦z≦0.024とする構成である。このようなキャリア芯材の構成とすることにより、すなわち、MgおよびCaをそれぞれ上記した範囲内で所定量含有させることにより、初めて電気的特性および磁気的特性が良好であり、環境依存性が小さいキャリア芯材を得られるものである。
【0022】
なお、上記した一般式:(MnMgCa)Fe4+Vで表されるコア組成において、カッコ内、すなわち、(MnMgCa)の部分については、主として結晶構造中のAサイトを占めるものであり、Feの部分については、主として結晶構造中のBサイトを占めるものである。そして、xとyとzを足し合わせた値が1に近いもの、すなわち、x+y+z≒1の関係を有するものである。
【0023】
ここで、酸素量vの算出方法について説明する。本願発明において、酸素量vを算出するに当たって、Mnの原子価を2価と仮定する。そして、まず、Feの平均価数を算出する。Feの平均価数については、酸化還元滴定によりFe2+の定量と総Feの定量を行い、Fe2+量とFe3+量の算出結果から、Feの平均価数を求める。ここで、Fe2+の定量の方法、および総Feの定量の方法について詳述する。
【0024】
(1)Fe2+の定量
まず、鉄元素を含むフェライトを炭酸ガスのバブリング中で還元性の酸である塩酸(HCl)水に溶解させる。その後、この溶液中のFe2+イオンの量を過マンガン酸カリウム溶液で電位差滴定することにより定量分析し、Fe2+の滴定量を求めた。
【0025】
(2)総Fe量の定量
鉄元素を含むフェライトをFe2+定量の際と同量秤量し、塩酸と硝酸の混酸水に溶解させた。この溶液を蒸発乾固させた後、硫酸水を添加して再溶解し過剰な塩酸と硝酸とを揮発させる。この溶液に固体Alを添加して液中のFe3+をFe2+に還元する。続いて、この溶液を上記したFe2+定量で用いた方法と同一の分析手段により測定し、滴定量を求めた。
【0026】
(3)Fe平均価数の算出
上述した(1)では、Fe2+定量を表し、((2)滴定量−(1)滴定量)は、Fe3+量を表すので、以下の計算式により、Feの平均価数を算出した。
【0027】
Fe平均価数={3×((2)滴定量−(1)滴定量)+2×(1)滴定量}/(2)滴定量
【0028】
なお、上述した方法以外にも、鉄元素の価数を定量する方法として、異なる酸化還元滴定法が考えられるが、本分析に用いる反応は単純であり、得られた結果の解釈が容易なこと、一般に用いられる試薬および分析装置で十分な精度が出ること、分析者の熟練を要しないことなどから優れていると考えられる。
【0029】
そして、電気的中性の原理から、構造式において、Mn価数(+2価)×x+Fe平均価数×(3−x)=酸素価数(−2価)×(4+w)の関係が成立するため、上式からwの値を算出する。
【0030】
また、本願発明に係るキャリア芯材のSi、Mn、Ca、Mgの分析方法について説明する。
【0031】
(SiO含有量、Si含有量の分析)
キャリア芯材のSiO含有量は、JIS M8214−1995記載の二酸化珪素重量法に準拠して定量分析を行なった。本願発明に記載したキャリア芯材のSiO含有量は、この二酸化珪素重量法で定量分析し得られたSiO量である。
【0032】
(Mnの分析)
キャリア芯材のMn含有量は、JIS G1311−1987記載のフェロマンガン分析方法(電位差滴定法)に準拠して定量分析を行なった。本願発明に記載したキャリア芯材のMn含有量は、このフェロマンガン分析方法(電位差滴定法)で定量分析し得られたMn量である。
【0033】
(Mg、Caの分析)
キャリア芯材のMg、Ca含有量は、以下の方法で分析を行なった。本願発明に係るキャリア芯材を酸溶液中で溶解し、ICPにて定量分析を行なった。本願発明に記載したキャリア芯材のMg、Ca含有量は、このICPによる定量分析で得られたMg、Ca量である。なお、ICPによる分析については、ICP発光分析装置(島津製作所製、型番:ICPS−7510)を用いた。
【0034】
好ましくは、0.10≦y≦0.25、かつ、0.007≦z≦0.015の関係を有する。このように構成することにより、電気的特性および磁気的特性を向上させることができる。
【0035】
この発明のさらに他の局面においては、電子写真現像剤用キャリアは、電子写真の現像剤に用いられる電子写真現像剤用キャリアであって、一般式:(MnMgCa)Fe4+V(x+y+z+w=3、−0.003<v)で表されるコア組成を主成分として有し、0.05≦y≦0.35、かつ、0.005≦z≦0.024の関係を有する電子写真現像剤用キャリア芯材と、電子写真現像剤用キャリア芯材の表面を被覆する樹脂とを備える。
【0036】
このような電子写真現像剤用キャリアは、上記した構成の電子写真現像剤用キャリア芯材を備えるため、電気的特性および磁気的特性が良好であり、環境依存性が小さい。
【0037】
この発明のさらに他の局面においては、電子写真現像剤は、電子写真の現像に用いられる電子写真現像剤であって、一般式:(MnMgCa)Fe4+V(x+y+z+w=3、−0.003<v)で表されるコア組成を主成分として有し、0.05≦y≦0.35、かつ、0.005≦z≦0.024の関係を有する電子写真現像剤用キャリア芯材、および電子写真現像剤用キャリア芯材の表面を被覆する樹脂を備える電子写真現像剤用キャリアと、電子写真現像剤用キャリアとの摩擦帯電により電子写真における帯電が可能なトナーとを備える。
【0038】
このような電子写真現像剤は、上記した構成の電子写真現像剤用キャリアを備えるため、種々の環境においても良好な画質の画像を形成することができる。
【発明の効果】
【0039】
この発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材は、電気的特性および磁気的特性が良好であり、環境依存性が小さい。
【0040】
また、この発明に係る電子写真現像剤用キャリアは、電気的特性および磁気的特性が良好であり、環境依存性が小さい。
【0041】
また、この発明に係る電子写真現像剤は、種々の環境においても良好な画質の画像を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】この発明の一実施形態に係るキャリア芯材を製造する製造方法において、代表的な工程を示すフローチャートである。
【図2】Mgの含有量とσ500との関係を示すグラフである。
【図3】Caの含有量とコア帯電量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。まず、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材について説明する。
【0044】
この発明の一実施形態に係るキャリア芯材については、その外形形状が、略球形状である。この発明の一実施形態に係るキャリア芯材の粒径は、約35μmであり、適当な粒度分布を有している。上記した粒径は、体積平均粒径を意味する。この粒径および粒度分布については、要求される現像剤の特性や製造工程における歩留まり等により任意に設定される。キャリア芯材の表面には、主に後述する焼成工程で形成される微小の凹凸が形成されている。
【0045】
この発明の一実施形態に係るキャリアについても、キャリア芯材と同様に、その外形形状が、略球形状である。キャリアは、キャリア芯材の表面に薄く樹脂をコーティング、すなわち被覆したものであり、その粒径についても、キャリア芯材とほとんど変化は無い。キャリアの表面については、キャリア芯材と異なり、樹脂でほぼ完全に被覆されている。
【0046】
この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤は、上記したキャリアと、トナーとから構成されている。トナーの外形形状についても、略球形状である。トナーは、スチレンアクリル系樹脂やポリエステル系樹脂を主成分とするものであり、所定量の顔料やワックス等が配合されている。このようなトナーは、例えば、粉砕法や重合法によって製造される。トナーの粒径は、例えば、キャリアの粒径の7分の1程度の約5μm程度のものが使用される。また、トナーとキャリアの配合比についても、要求される現像剤の特性等に応じて、任意に設定される。このような現像剤は、所定量のキャリアとトナーとを適当な混合器で混合することにより製造される。
【0047】
次に、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材を製造する製造方法について説明する。図1は、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材を製造する製造方法において、代表的な工程を示すフローチャートである。以下、図1に沿って、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材の製造方法について説明する。
【0048】
まず、カルシウムを含む原料と、マグネシウムを含む原料と、マンガンを含む原料と、鉄を含む原料とを準備する。そして、準備した原料を、要求される特性に応じて、適当な配合比で配合し、これを混合する(図1(A))。ここで、適当な配合比とは、最終的に得られるキャリア芯材が、後述するような配合比である。
【0049】
この発明の一実施形態に係るキャリア芯材を構成する鉄原料については、金属鉄またはその酸化物であればよい。具体的には、常温常圧下で安定に存在するFeやFe、Feなどが好適に用いられる。また、マンガン原料については、金属マンガンまたはその酸化物であればよい。具体的には、常温常圧下で安定に存在する金属Mn、MnO、Mn、Mn、MnCOが好適に使用される。また、カルシウムを含む原料としては、金属カルシウムまたはその酸化物が好適に用いられる。具体的には、例えば、炭酸塩であるCaCOや、水酸化物であるCa(OH)、酸化物であるCaO等が挙げられる。また、マグネシウムを含む原料としては、金属マグネシウムまたはその酸化物が好適に用いられる。具体的には、例えば、炭酸塩であるMgCOや、水酸化物であるMg(OH)、酸化物であるMgO等が挙げられる。なお、上記原料(鉄原料、マンガン原料、カルシウム原料、マグネシウム原料等)をそれぞれ、若しくは目的の組成になるように混合した原料を仮焼して粉砕し原料として用いても良い。また、上記した鉄原料やマンガン原料については、極微量ながらマグネシウムも含有されている。
【0050】
次に、混合した原料のスラリー化を行なう(図1(B))。すなわち、これらの原料を、キャリア芯材の狙いとする組成に合わせて秤量し、混合してスラリー原料とする。
【0051】
この発明に係るキャリア芯材を製造する際の製造工程においては、後述する焼成工程の一部において、還元反応を進めるため、上述したスラリー原料へ、さらに還元剤を添加してもよい。還元剤としては、カーボン粉末やポリカルボン酸系有機物、ポリアクリル酸系有機物、マレイン酸、酢酸、ポリビニルアルコール(PVA(polyvinyl alcohol))系有機物、及びそれらの混合物が好適に用いられる。
【0052】
上述したスラリー原料に水を加え混合攪拌して、固形分濃度を40重量%以上、好ましくは50重量%以上とする。スラリー原料の固形分濃度が50重量%以上であれば、造粒ペレットの強度を保つことができるので好ましい。
【0053】
次に、スラリー化した原料について、造粒を行なう(図1(C))。上記混合攪拌して得られたスラリーの造粒は、噴霧乾燥機を用いて行なう。なお、スラリーに対し、造粒前に、さらに湿式粉砕を施すことも好ましい。
【0054】
噴霧乾燥時の雰囲気温度は100〜300℃程度とすればよい。これにより、概ね、粒子径が10〜200μmの造粒粉を得ることができる。得られた造粒粉は製品の最終粒径を考慮し、振動ふるい等を用いて、粗大粒子や微粉を除去し、この時点で粒度調整することが望ましい。
【0055】
その後、造粒した造粒物について、焼成を行なう(図1(D))。具体的には、得られた造粒粉を、900〜1500℃程度に加熱した炉に投入し、1〜24時間保持して焼成し、目的とする焼成物を生成させる。このとき、焼成炉内の酸素濃度は、フェライト化の反応が進む条件であればよく、具体的には、1200℃の場合、10−7%以上3%以下となるよう導入ガスの酸素濃度を調整し、フロー状態下で焼成を行う。
【0056】
また、先の還元剤の調整により、フェライト化に必要な還元雰囲気を制御してもよい。もっとも、工業化時に十分な生産性を確保できる反応速度を得る観点からは、900℃以上の温度が好ましい。一方、焼成温度が1500℃以下であれば、粒子同士の過剰焼結が起こらず、粉体の形態で焼成物を得ることができる。
【0057】
ここで、コア組成中の酸素量を過剰気味にする一つの手段として、焼成工程における冷却時の酸素濃度を所定の量以上とすることが考えられる。すなわち、焼成工程において、室温程度まで冷却を行なう際に、酸素濃度を所定の濃度、具体的には、0.03%よりも多くした雰囲気下で冷却を行なうようにしてもよい。具体的には、電気炉内に導入する導入ガスの酸素濃度を0.03%よりも多くし、フロー状態下で行なう。このように構成することにより、キャリア芯材の内部層において、フェライト中の酸素量を過剰に存在させることができる。すなわち、vの値として、−0.003<vとすることができる。一方、0.03%以下とすると、内部層における酸素の含有量が、相対的に少なくなる。すなわち、vの値が−0.003以下となってしまうおそれがある。したがって、ここでは、上記酸素濃度の環境下で、冷却を行なう。
【0058】
得られた焼成物は、さらにこの段階で粒度調整をすることが望ましい。例えば、焼成物をハンマーミル等で粗解粒する。すなわち、焼成を行った粒状物について、解粒を行なう(図1(E))。その後、振動ふるいなどで分級を行なう。すなわち、解粒した粒状物について、分級を行なう(図1(F))。こうすることにより、所望の粒径を持ったキャリア芯材の粒子を得ることができる。
【0059】
次に、分級した粒状物について、酸化を行なう(図1(G))。すなわち、この段階で得られたキャリア芯材の粒子表面を熱処理(酸化処理)する。そして、粒子の絶縁破壊電圧を250V以上に上げ、電気抵抗値を適切な電気抵抗値である1×10〜1×1013Ω・cmとする。酸化処理でキャリア芯材の電気抵抗値を上げることにより、電荷のリークによるキャリア飛散のおそれを低減することができる。
【0060】
具体的には、酸素濃度10〜100%の雰囲気下において、200〜700℃で0.1〜24時間保持して、目的とするキャリア芯材を得る。より好ましくは、250〜600℃で0.5〜20時間、さらに好ましくは、300〜550℃で1時間〜12時間である。このようにして、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材を製造する。なお、このような酸化処理工程については、必要に応じて任意に行なわれるものである。
【0061】
次に、このようにして得られたキャリア芯材に対して、樹脂により被覆を行なう(図1(H))。具体的には、得られたこの発明に係るキャリア芯材をシリコーン系樹脂やアクリル樹脂等で被覆する。このようにして、この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤用キャリアを得る。シリコーン系樹脂やアクリル樹脂等の被覆方法は、公知の手法により行うことができる。すなわち、この発明に係る電子写真現像剤用キャリアは、一般式:(MnMgCa)Fe4+V(x+y+z+w=3、−0.003<v)で表されるコア組成を主成分として有し、0.05≦y≦0.35、かつ、0.005≦z≦0.024の関係を有する電子写真現像剤用キャリア芯材と、電子写真現像剤用キャリア芯材の表面を被覆する樹脂とを備える。
【0062】
このような電子写真現像剤用キャリアは、上記した構成の電子写真現像剤用キャリア芯材を備えるため、電気的特性および磁気的特性が良好であり、環境依存性が小さい。
【0063】
次に、このようにして得られたキャリアとトナーとを所定量ずつ混合する(図1(I))。具体的には、上記した製造方法で得られたこの発明の一実施形態に係る電子写真現像剤用キャリアと、適宜な公知のトナーとを混合する。このようにして、この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤を得ることができる。混合は、例えば、ボールミル等、任意の混合器を用いる。この発明に係る電子写真現像剤は、電子写真の現像に用いられる電子写真現像剤であって、一般式:(MnMgCa)Fe4+V(x+y+z+w=3、−0.003<v)で表されるコア組成を主成分として有し、0.05≦y≦0.35、かつ、0.005≦z≦0.024の関係を有する電子写真現像剤用キャリア芯材、および電子写真現像剤用キャリア芯材の表面を被覆する樹脂を備える電子写真現像剤用キャリアと、電子写真現像剤用キャリアとの摩擦帯電により電子写真における帯電が可能なトナーとを備える。
【0064】
このような電子写真現像剤は、上記した構成の電子写真現像剤用キャリアを備えるため、種々の環境においても良好な画質の画像を形成することができる。
【実施例】
【0065】
(実施例1)
Fe(平均粒径:0.6μm)27.3kg、Mn(平均粒径:2μm)13.05kg、およびMgFeO4.65kgを、水15kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を270g、還元剤としてカーボンブラックを135g、CaCOを225g添加して混合物とした。このときの固形分濃度を測定した結果、75重量%であった。この混合物を湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、混合スラリーを得た。
【0066】
このスラリーをスプレードライヤーにて約130℃の熱風中に噴霧し、乾燥造粒粉を得た。なお、このとき、目的の粒度分布以外の造粒粉は、ふるいにより除去した。この造粒粉を、電気炉に投入し、1090℃で3時間焼成した。このとき、電気炉内は酸素濃度が0.8%、すなわち、8000ppmとなるよう、雰囲気を調整した電気炉にフローした。焼成時の冷却温度は、200℃/時間とした。ここで、焼成時の冷却温度、すなわち、焼成が終了した後、室温まで冷却する速度については、200℃/時間以下とすることが好ましく、さらに120℃/時間以下とすることがより好ましい。得られた焼成物を解粒後にふるいを用いて分級し、平均粒径25μmとした。さらに、得られたキャリア芯材に対して、465℃、大気下で1時間保持することにより酸化処理を施し、実施例1に係るキャリア芯材を得た。原料の配合量およびキャリア芯材の組成を表1に示し、得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性を表2に示す。なお、表1に記載のキャリア芯材組成は、得られたキャリア芯材を上記した分析方法で測定して得られた結果である。なお、粒径の測定については、日機装株式会社製のマイクロトラック、Model9320−X100を用いている。また、酸素濃度については、ジルコニア式酸素計(第一熱研株式会社製、ECOAZ TB−II F−S)を用い、炉内の雰囲気における酸素濃度を測定した。
【0067】
(実施例2)
Fe9.1kg、Mn4.35kg、およびMgFeO3.67kgを、水7kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を103g、還元剤としてカーボンブラックを51g、CaCOを86g添加した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2に係るキャリア芯材を得た。原料の配合量およびキャリア芯材の組成を表1に示し、得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性を表2に示す。なお、表1に記載のキャリア芯材組成は、得られたキャリア芯材を上記した分析方法で測定して得られた結果である。
【0068】
(実施例3)
Fe9.1kg、Mn4.35kg、MgFeO6.33kgを水8.1kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を119g、還元剤としてカーボンブラックを59g、CaCOを99g添加した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3に係るキャリア芯材を得た。原料の配合量およびキャリア芯材の組成を表1に示し、得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性を表2に示す。なお、表1に記載のキャリア芯材組成は、得られたキャリア芯材を上記した分析方法で測定して得られた結果である。
【0069】
(実施例4)
Fe9.1kg、Mn4.35kg、MgFeO1.55kgを水5kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を90g、還元剤としてカーボンブラックを45g、SiO原料としてのコロイダルシリカ(固形分濃度50重量%)を30g、CaCOを37.5g添加した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例4に係るキャリア芯材を得た。原料の配合量およびキャリア芯材の組成を表1に示し、得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性を表2に示す。なお、表1に記載のキャリア芯材組成は、得られたキャリア芯材を上記した分析方法で測定して得られた結果である。
【0070】
(実施例5)
Fe9.1kg、Mn4.35kg、MgFeO1.55kgを水5kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を90g、還元剤としてカーボンブラックを45g、SiO原料としてのコロイダルシリカ(固形分濃度50重量%)を30g、CaCOを75g添加した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例5に係るキャリア芯材を得た。原料の配合量およびキャリア芯材の組成を表1に示し、得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性を表2に示す。なお、表1に記載のキャリア芯材組成は、得られたキャリア芯材を上記した分析方法で測定して得られた結果である。
【0071】
(実施例6)
Fe30.61kg、Mn13.16kg、MgO1.02kg、CaCO0.22kg(220g)を振動ミルで混合した後、900℃、大気中で2時間、仮焼した。その後、体積平均粒径が1.5μmであり、45μmの篩上の残分が0.5重量%以下になるまで、振動ミルで粉砕し、これを仮焼原料として用いた。この仮焼原料45.2kgを水15kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を270g、還元剤としてカーボンブラックを135g添加した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例6に係るキャリア芯材を得た。原料の配合量およびキャリア芯材の組成を表1に示し、得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性を表2に示す。なお、表1に記載のキャリア芯材組成は、得られたキャリア芯材を上記した分析方法で測定して得られた結果である。なお、仮焼前の原料配合量を、表1中のかっこ書きで表している。
【0072】
(比較例1)
Fe10.8kg、Mn4.2kgを、水5kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を90g、還元剤としてカーボンブラックを45g、SiO原料としてのコロイダルシリカ(固形分濃度50%)を30g、CaCOを75g添加した以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1に係るキャリア芯材を得た。原料の配合量およびキャリア芯材の組成を表1に示し、得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性を表2に示す。なお、表1に記載のキャリア芯材組成は、得られたキャリア芯材を上記した分析方法で測定して得られた結果である。ここで、比較例1に係るキャリア芯材組成において存在するマグネシウムについては、鉄原料やマンガン原料中に極微量含有されているものであると考えられる。
【0073】
(比較例2)
Fe10.8kg、Mn4.2kgを、水5kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を90g、還元剤としてカーボンブラックを45g、SiO原料としてのコロイダルシリカ(固形分濃度50%)を30g、MgCOを127g添加した以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2に係るキャリア芯材を得た。原料の配合量およびキャリア芯材の組成を表1に示し、得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性を表2に示す。なお、表1に記載のキャリア芯材組成は、得られたキャリア芯材を上記した分析方法で測定して得られた結果である。
【0074】
(比較例3)
Fe9.1kg、Mn4.35kg、MgFeO1.55kgを水5kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を90g、還元剤としてカーボンブラックを45g、SiO原料としてのコロイダルシリカ(固形分濃度50%)を30g添加した以外は、実施例1と同様の方法で、比較例3に係るキャリア芯材を得た。原料の配合量およびキャリア芯材の組成を表1に示し、得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性を表2に示す。なお、表1に記載のキャリア芯材組成は、得られたキャリア芯材を上記した分析方法で測定して得られた結果である。
【0075】
(比較例4)
Fe18.2kg、Mn8.7kg、MgFeO3.1kgを水10kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を180g、還元剤としてカーボンブラックを90g、SiO原料としてのコロイダルシリカ(固形分濃度50%)を60g添加した以外は、実施例1と同様の方法で、比較例4に係るキャリア芯材を得た。原料の配合量およびキャリア芯材の組成を表1に示し、得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性を表2に示す。なお、表1に記載のキャリア芯材組成は、得られたキャリア芯材を上記した分析方法で測定して得られた結果である。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
表中のコア帯電量とは、コア、すなわち、キャリア芯材の帯電量のことである。ここで、帯電量の測定について説明する。キャリア芯材9.5g、市販のフルカラー機のトナー0.5gを100mlの栓付きガラス瓶に入れ、25℃、相対湿度50%の環境下で12時間放置して調湿する。調湿したキャリア芯材とトナーを振とう器で30分振とうし、混合する。ここで、振とう器については、株式会社ヤヨイ製のNEW−YS型を用い、200回/分、角度60°で行なった。混合したキャリア芯材とトナーを500mg計量し、帯電量測定装置で帯電量を測定した。この実施形態においては、日本パイオテク株式会社製のSTC−1−C1型を用い、吸引圧力5.0kPa、吸引用メッシュをSUS製の795meshで行なった。同一サンプルについて2回の測定を行い、これらの平均値を各コア帯電量とした。コア帯電量の算出式については、コア帯電量(μC(クーロン)/g)=実測電荷(nC)×10×係数(1.0083×10−3)÷トナー重量(吸引前重量(g)−吸引後重量(g))となる。
【0079】
次に、抵抗値の測定について説明する。キャリア芯材を、30℃、相対湿度75%の環境下(HH環境下)において1昼夜調湿した後、その環境下で測定を行なった。まず、水平に置かれた絶縁板、例えば、テフロン(登録商標)でコートされたアクリル板の上に、電極として表面を電解研摩した板厚2mmのSUS(JIS)304板2枚を、電極間距離1mmとなるように配置する。この時、2枚の電極板は、その法線方向が水平方向となるようにする。2枚の電極板の間の空隙に被測定粉体200±1mgを装入した後、それぞれの電極板の背後に断面積240mmの磁石を配置して電極間に被測定粉体のブリッジを形成させる。この状態で、電極間に各電圧を小さいものから順に直流電圧で印加し、被測定粉体を流れる電流値を2端子法により測定し、電気抵抗値を算出する。なお、ここでは、日置電機株式会社製の超絶縁計SM−8215を用いている。また、電気抵抗値の算出式は、電気抵抗値(Ω・cm)=実測抵抗値(Ω)×断面積(2.4cm)÷電極間距離(0.1cm)となる。そして、表中の各電圧を印加した場合の印加時の抵抗値(Ω・cm)を測定した。なお、使用する磁石は、粉体がブリッジを形成できる限り、種々のものが使用できるが、この実施形態では、表面の磁束密度が1000ガウス以上の永久磁石、例えば、フェライト磁石を使用している。
【0080】
また、磁気的特性を示す磁化の測定については、VSM(東英工業株式会社製、VSM−P7)を用いて、磁化率を測定した。ここで、表中、「σs」とは、飽和磁化であり、「σ1000(1k)」とは、外部磁場1000(1k)Oeである場合における磁化であり、「σ500」とは、外部磁場500Oeである場合における磁化である。
【0081】
ここで、yの値、すなわち、Mgの含有量とσ500との関係を、図2に示す。図2は、Mgの含有量とσ500との関係を示すグラフである。図2において、縦軸は、σ500の値を示し、横軸は、y(Mg含有量)の値を示す。また、zの値、すなわち、Caの含有量と、コア帯電量との関係を、図3に示す。図3は、Caの含有量とコア帯電量との関係を示すグラフである。図3において、縦軸は、コア帯電量の値を示し、横軸は、z(Ca含有量)の値を示す。図2において、実施例、および比較例を参考にして、各yに相当すると考えられるσ500の値を、点線で示している。また、図3において、実施例、および比較例を参考にして、各zに相当すると考えられるコア帯電量の値を、点線で示している。
【0082】
ここで、複写機の高速化に伴うキャリア飛散の増加を抑制するためには、磁気的特性におけるσ500の値として、38emu/g以上とすることが必要である。さらには、σ500の値として、38.5emu/g以上とすることが好ましい。また、電気的特性におけるコア帯電量としては、現像剤の長期間の使用によるキャリアの物性変動、具体的には、長期間の使用によるキャリア表面のコーティング樹脂の剥がれによるキャリア物性の変動を抑制するため、コア帯電量の値として、13μC/g以上とすることが必要である。さらには、コア帯電量の値として、16μC/g以上とすることが好ましい。
【0083】
そこで、図2、図3、および表2を参照すると、σ500の値については、y=0.13前後で極値、すなわち、最大となる値を示していることが把握できる。なお、比較例4について、σ500の値は37.5emu/gと低いが、これは、Caの含有量が高いことに起因するものと考えられる。この結果から、低磁場側での磁化の値を高くするためには、具体的には、σ500の値を38emu/g以上とするためには、yの値を0.05以上0.35以下とする必要があると考えられる。コア帯電量については、zの値が増加するにつれ、コア帯電量が増加する傾向があることが把握できる。そして、コア帯電量を13μC/g以上とするためには、zの値を少なくとも0.005以上とする必要があると考えられる。一方で、高い磁化の値の維持を考慮すると、zは0.024以下とすることが好ましいと考えられる。
【0084】
また、環境依存性について検討すると、以下の通りである。表2に記載の抵抗値については、高温高湿環境下(30℃、75%RH)における抵抗値を示している。この抵抗値自体が高ければ、高温高湿環境下において、抵抗値が低下しないことを意味するものであり、環境依存性が小さいと言えるものである。ここで、実施例1〜実施例6、および比較例4は、1000V印加したときに、8.0E+07(8×10)Ω・cm以上であるのに対し、比較例1〜比較例3は、8.0E+07(8×10)Ω・cm未満であることから、実施例1〜実施例6、および比較例4は、環境依存性が小さいものであることがわかる。
【0085】
上記から、実施例1〜実施例6に規定するyおよびzの範囲が、電気的特性および磁気的特性が良好であり、環境依存性が小さいものとなる。すなわち、0.05≦y≦0.35、かつ、0.005≦z≦0.024の関係を有すれば、電気的特性および磁気的特性が良好であり、環境依存性が小さいものとなる。
【0086】
以上より、この発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材、および電子写真現像剤用キャリアは、電気的特性および磁気的特性が良好であり、環境依存性が小さい。また、この発明に係る電子写真現像剤は、特性が良好である。
【0087】
なお、さらなる磁気的特性および電気的特性の向上を図る場合には、次のように構成すればよい。磁気的特性として、38.5emu/g以上となり、電気的特性として、コア帯電が16μC/g以上となるのは、0.10≦y≦0.25、かつ、0.007≦z≦0.015の範囲である。したがって、0.10≦y≦0.25、かつ、0.007≦z≦0.015の関係を有するものであれば、さらなる磁気的特性および電気的特性の向上を図ることができる。
【0088】
なお、上記の実施の形態においては、製造方法として、カルシウムを含む原料と、マグネシウムを含む原料と、マンガンを含む原料と、鉄を含む原料とを準備し、これらを混合して、本願発明に係るキャリア芯材を得ることとしたが、これに限らず、例えば、MnFeやMgFeを準備し、これらを混合して、本願発明に係るキャリア芯材を得ることにしてもよい。
【0089】
なお、上記の実施の形態において、酸素量vについては、キャリア芯材に過剰に含有させるために、焼成工程における冷却時の酸素濃度を所定の濃度よりも高くすることとしたが、これに限らず、例えば、原料混合工程における配合比率を調整して、キャリア芯材に過剰に含有させることとしてもよい。また、冷却する前の工程である焼結反応を進める工程において、冷却工程と同じ雰囲気下で行なうこととしてもよい。
【0090】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0091】
この発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア、および電子写真現像剤は、種々の環境下で使用される複写機等に適用される場合に、有効に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:(MnMgCa)Fe4+V(x+y+z+w=3、−0.003<v)で表されるコア組成を主成分として有し、
0.05≦y≦0.35、かつ、0.005≦z≦0.024の関係を有する、電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項2】
0.10≦y≦0.25、かつ、0.007≦z≦0.015の関係を有する、請求項1に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項3】
電子写真の現像剤に用いられる電子写真現像剤用キャリアであって、
一般式:(MnMgCa)Fe4+V(x+y+z+w=3、−0.003<v)で表されるコア組成を主成分として有し、0.05≦y≦0.35、かつ、0.005≦z≦0.024の関係を有する電子写真現像剤用キャリア芯材と、
前記電子写真現像剤用キャリア芯材の表面を被覆する樹脂とを備える、電子写真現像剤用キャリア。
【請求項4】
電子写真の現像に用いられる電子写真現像剤であって、
一般式:(MnMgCa)Fe4+V(x+y+z+w=3、−0.003<v)で表されるコア組成を主成分として有し、0.05≦y≦0.35、かつ、0.005≦z≦0.024の関係を有する電子写真現像剤用キャリア芯材、および前記電子写真現像剤用キャリア芯材の表面を被覆する樹脂を備える電子写真現像剤用キャリアと、
前記電子写真現像剤用キャリアとの摩擦帯電により電子写真における帯電が可能なトナーとを備える、電子写真現像剤。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−88385(P2012−88385A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232729(P2010−232729)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【特許番号】特許第4897916号(P4897916)
【特許公報発行日】平成24年3月14日(2012.3.14)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【出願人】(000224802)DOWA IPクリエイション株式会社 (96)
【Fターム(参考)】