説明

電子写真用ベルトの電気抵抗経時安定性の評価方法

【課題】ポリエーテルエーテルケトンとカーボンブラックとを含む電子写真用のベルトの電気抵抗の経時安定性の評価方法の提供。
【解決手段】ポリエーテルエーテルケトンとポリエーテルエーテルケトンに分散されてなるカーボンブラックとを含む電子写真用のベルトの電気抵抗の経時安定性の評価方法であって、該ベルトの切断面から観察されるカーボンブラックの個数平均粒子径を求め、平面重心座標値を中心として半径1.2μmの円形の範囲におけるRipleyのL関数を求め、該L関数の分布様式を判定する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真用ベルトの電気抵抗の経時安定性の評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真方式や静電記録方式等でいわゆる中間転写方式の画像形成装置が知られている。中間転写方式の画像形成装置においては、第一の像担持体としての感光体上に形成された静電潜像を現像装置で現像して現像剤像(トナー像)を形成し、第二の像担持体である中間転写体に、このトナー像を一次転写し、その後に用紙等の記録材に二次転写する。中間転写体を構成する材料として、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂等が用いられている。また、中間転写体は前記の樹脂材料をシームレスベルト形状に成形した、いわゆる中間転写ベルトが広く用いられている。
【0003】
従来より、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK樹脂)と導電性フィラーを含有する樹脂組成物から形成された半導電性フィルムとその製造方法が開示されている(特許文献1)。しかし、ポリエーテルエーテルケトン樹脂に導電性フィラーを添加した樹脂組成物を用いて、均一な厚みを有し、場所による体積抵抗率のバラツキが小さく、機械的強度にも優れた半導電性フィルムを製造することは容易ではなかった。特許文献1では、混合樹脂の溶融押出と冷却固化の際の温度制御を厳密に行うことにより、上記問題点を解決している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−112942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ポリエーテルエーテルケトン樹脂とカーボンブラックを含有してなる中間転写ベルトは、継続使用によって体積抵抗率が低下する場合がある。この継続使用による体積抵抗率の低下については、以下のようなメカニズムによるものと考えられる。すなわち、一次転写および二次転写時の転写電界が中間転写ベルトに繰り返し長時間かかることによりポリエーテルエーテルケトン樹脂の部分的な絶縁破壊が起こり、内部に導電パスが形成されることで、中間転写ベルトの体積抵抗が低下するというメカニズムである。この現象は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂中のカーボンブラックの凝集体の近傍や大きいサイズの凝集体同士の微小な隙間に電界が集中することによって、樹脂の部分的な絶縁破壊が起こるものと考えられる。そこで、絶縁破壊の直接的な原因となるカーボンブラックの分散性を評価することが、電気抵抗の経時安定性評価として有効であると考えられる。
【0006】
従来、樹脂中のカーボンブラックの分散性の評価方法としては、カーボンブラックの粒子サイズ(粒子径)や最近接粒子間距離、区画法などの指標が用いられてきた。
しかし、粒子サイズ(粒子径)の評価だけでは、粒子間の位置情報が反映されないため、粒子の空間的な分布は不明である。また、最近接粒子粒間距離の評価では、最接近している粒子だけに着目しているため、粒子全体の分散性を正確には評価できていない。また、区画内粒子数を数えて分布様式を知る方法(区画法)も知られているが、区画の区切り方(区画サイズや形)によって分布様式が異なり、分布の判定が困難であった。
【0007】
そこで本発明の目的は、カーボンブラックの分散状態をより正確に判定し、電子写真用のベルトの電気抵抗の経時安定性を評価する方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的に対して本発明者等が鋭意検討した結果、カーボンブラックの個数平均粒子径に加えて、RipleyのL関数およびGearyのC統計量を用いることで、カーボンブラックの分散状態をより定量的かつ正確に示す評価方法を見出した。 なお、RipleyのL関数は、カーボンブラック粒子の空間分布様式を示し、GearyのC統計量は、近接するカーボンブラックの粒子サイズの空間的自己相関を示す。
すなわち、本発明に係る電子写真用のベルトの電気抵抗の経時安定性の評価方法は、ポリエーテルエーテルケトンとポリエーテルエーテルケトンに分散されてなるカーボンブラックとを含む電子写真用のベルトの電気抵抗の経時安定性の評価方法であって、該ベルトの切断面から観察されるカーボンブラックの平面重心座標値を中心として半径1.2μmの円形の範囲におけるRipleyのL関数を求め、該L関数の分布様式を判定する工程を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリエーテルエーテルケトン樹脂とカーボンブラックを含有してなる電子写真用ベルトの電気抵抗の経時安定性を、より客観的かつ定量的に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の評価方法に用いたRipleyのL関数の一例を示す図。
【図2】本発明の評価方法を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
空間統計学の分野では点の空間分布様式をランダム分布、集中分布、規則分布(一定間隔型分布)の3つの分布に分けて考える。ランダム分布は各点が互いに他の点と無関係に、そしてどの地域のどの場所にも同じ確率で置かれたときに実現される点の空間分布である。集中分布は点が特定の地域にかたまっている空間分布である。また、規則分布(一定間隔型分布)は点が互いにある程度の間隔を保ちながら分布している空間分布である。
【0012】
RipleyのL関数について以下に説明する。まず始めに、RipleyのK関数は次のように定義される。
K(d)=
E[ランダムに選んだ点を中心とした半径dの円内に含まれる他の点の数]/ρ
つまりK関数であるK(d)はランダムに選んだ点を中心とした半径dの円内に含まれる他の点数の平均を、全地域の点の密度ρ(平均密度)で除した値である。有限の平面に点をランダムに散布するとポアソン分布に従うことが知られている。もし点がポアソン分布にしたがってランダムに分布していれば、半径dの円内に存在する他の点の数の期待値は、平均密度ρに円の面積πdを掛けた値なので、数式1で表される。
【0013】
【数1】

【0014】
ここで、K関数を標準化して、一次関数にしたものがL関数である。L関数であるL(d)は、数式2で表される。
【0015】
【数2】

【0016】
L関数という指数を考えると、半径dにかかわらず点がランダムに分布しているときには、L(d)=0となる。また、空間分布が集中分布のときにはL(d)は正の値をとり、規則型分布(一定間隔型分布)のときには負の値をとる。
【0017】
次にGearyのC統計量について説明する。
空間に分布する属性の値が地理的近さ(隣接関係)に基づいて一定の傾向をとるとき、空間的自己相関があるという。
GearyのC統計量は数式3で表される。
【0018】
【数3】

ここで、Nは全粒子数、Xi、Xjは隣接する粒子の粒子径(円相当径)であり、Wijは2進的重み係数である。0〜2の範囲の値をとる。同じような属性値(例えば粒子径)が並ぶときC統計量は0に近づき、これを正の空間的自己相関という。異なった属性値(例えば粒子径)が併置されるとき2に近づき、これを負の空間的自己相関という。属性値がランダムに分布するときC統計量は1となる。
【0019】
GearyのC統計量を用いれば、ある粒子の粒子径とその近傍に存在する粒子の粒子径に関する空間的自己相関を正確に評価することができる。C統計量がランダムを示せば、ある粒子の粒子径とその近傍粒子の粒子径の関係がランダムになっているから、分散性が「良好」という判断ができる。一方、C統計量が正の自己相関を示せば、同程度の粒子径をもった粒子同士が近接している場合を検出できるので、分散性が「不良」という判断ができる。また、C統計量が負の自己相関を示せば、大きなサイズの粒子の近傍に小さいサイズの粒子が多く存在することや小さなサイズの粒子の近傍に大きなサイズの粒子が多く存在することを検出できるので、分散性が「不良」という判断ができる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例をもって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)
<カーボンブラック含有PEEK樹脂ペレットの作製>
ポリエーテルエーテルケトン樹脂ペレット(ビクトレックス社製、「VICTREX PEEK 450G」)を凍結機械粉砕して、平均粒度200μmのPEEK樹脂粉末1を作製した。さらにポリエーテルエーテルケトン樹脂ペレット(ビクトレックス社製、「VICTREX PEEK 151G」)を凍結機械粉砕して、平均粒度200μmのPEEK樹脂粉末2を作製した。
PEEK樹脂粉末1とPEEK樹脂粉末2を重量比で60対40で混合し、円筒回転型ブレンダーにより5分間混合して、PEEK樹脂粉末3を作製した。
次に、ホッパーと定量供給器を備えた二軸押出機を用い、定量供給器からホッパー中にPEEK樹脂粉末3を100質量部とカーボンブラック(電気化学工業製、商品名「デンカブラック粒状品」)を表3に記載の所定質量部供給し、溶融混練した。このとき押出機のシリンダー設定温度は330℃〜370℃とした。溶融混練物はストランドダイから紐状に押出し、冷却水槽で冷却した後、ペレタイザーで切断して外径約2mm、長さ約3mmのカーボンブラック含有PEEK樹脂ペレットを作製した。
【0022】
<繰り返し混練>
得られたカーボンブラック含有PEEK樹脂ペレットを温度120℃で8時間、熱風循環型乾燥器内で乾燥したのち再度、二軸押出機に供給して、繰り返し溶融混練を行った後、前記と同じ工程でカーボンブラック含有PEEK樹脂ペレットを作製した。繰り返し溶融混練回数は表3に記載した回数(2〜6回)とした。
【0023】
<シームレスベルトの作製>
前記カーボンブラック含有PEEK樹脂ペレットを成形材料として、環状ダイとギヤポンプを備えた単軸押出機を用いて、表3に記載の所定の厚みの円筒状のフィルムを成形した。このとき押出機のシリンダー設定温度は350℃〜400℃とした。
次いで、得られた円筒状フィルムをスリッターを用いて所定の幅にカットし、PEEK樹脂製シームレスベルトを作製した。
さらに、シームレスベルトの内周面の両方の縁部分には、内側に突出して中間転写ベルト(電子写真用のベルト)の軸方向の移動を制限するウレタンゴム製のリブ(幅5mm、高さ1mm)を内面の一周に連続して取り付けた。
【0024】
<体積抵抗率の測定>
PEEK樹脂製シームレスベルトの体積抵抗率は、超高抵抗用抵抗計(エーディーシー製、商品名「R8340A」)、および測定電極(主電極(外径25mm、高さ10mm、ステンレス製)、ガード電極(内径35mm、外径40mm、高さ10mm、ステンレス製)および対向電極(外径80mm、厚み5mm、ステンレス製))を用いて測定した。測定条件は、印加電圧100V、測定時間10秒とした(測定雰囲気:温度23℃、相対湿度55%)。
【0025】
<耐久性評価試験>
作製したシームレスベルトを中間転写ベルトとして、画像形成装置(キヤノン製カラー複写機「iR−ADV C2030」)に組み込んだ。
温度23℃、相対湿度10%(常温・低湿環境)の条件で、A4サイズの紙(キヤノンCLC用紙、秤量80g/m)を使用し、画像比率5%の評価用画像をA4横送りで200K枚連続で出力し、耐久試験終了時点で中間転写ベルトを取り出した。中間転写ベルト表面をシルボン紙で軽く空拭きしたのち、耐久試験中と同じ常温・低湿環境条件下で耐久試験後の中間転写ベルトの体積抵抗率を測定した。体積抵抗率は中間転写ベルトの周長方向に10個所測定して平均値を求めた。耐久試験前に同じ常温・低湿環境条件下で測定した体積抵抗率と、耐久試験後の中間転写ベルトの体積抵抗率を比較し、抵抗低下特性を表1のようにランク分けした。
【0026】
【表1】

【0027】
<絶縁破壊強さの測定>
中間転写ベルトの絶縁破壊強さは、JIS規格C2110−1に準拠して、絶縁破壊試験装置(多摩電測製、商品名「TP−516UZ」)、および先端が外径20mmの球形プローブを用いて、温度23±1℃、相対湿度50±5%の空気雰囲気中で測定した。平均10秒から20数秒程度で絶縁破壊が起こるような一定速度でシームレスベルトの厚み方向に直流電圧を印加し、絶縁破壊を生じたときの電圧(KV)を測定した。その電圧(KV)をベルトの厚み(mm)で除して、絶縁破壊強さ(KV/mm)を求めた。
【0028】
<中間転写ベルト断面の観察>
中間転写ベルトから約5×5mmの試料を切り出し、ベルト断面が上面になるようにエポキシ樹脂で包埋した後、断面をバフ研磨器により平滑になるように研磨した。さらに試料の研磨面を真空中アルゴンイオンでイオンミリングして、中間転写ベルトの断面観察用試料を作製した。観察面に白金を真空蒸着した後、電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製 走査型電子顕微鏡S4800)を用いて試料断面を観察した。観察倍率は20000倍とした。また、断面の観察は中間転写ベルト1本あたり10ヵ所から試料を切り出して行った。
【0029】
<個数平均粒子径の算出>
走査型電子顕微鏡で得られた断面の画像を、画像解析装置(ニレコ製、「ルーゼックスAP」)を用いて2値化画像処理をした。
まず、2値化画像から求めた各粒子の断面積Aから、次式により各粒子の円相当径Dを算出した。
D=√(4A/π)
ついで全観察粒子の円相当径Dの合計を全観察粒子数で除した値(算術平均値)を、個数平均粒子径とした。
【0030】
<RipleyのL関数による分散性評価>
前記2値化画像をもとにPEEK樹脂中のカーボンブラック粒子の個数平均粒子径およびカーボンブラック粒子の平面重心座標値(X座標、Y座標)を求めた。次に数値解析用フリーソフト「R」のパッケージspatstatを用いて、カーボンブラック粒子の平面重心座標値(X座標、Y座標)から、半径1.2μmの円形の範囲におけるRipleyのL関数を求めた。L関数の分布様式が、「ランダム分布」あるいは「規則分布」(「一定間隔型分布」)を示すものは分散性が良好で、集中分布を示すものは分散性が不良とすることができる。
【0031】
それぞれの分布様式の判定は、フリーソフト「R」の一様乱数を用いて、観察領域と同一範囲内に解析粒子数と同数の点座標をランダムに発生させ、ランダム分布の範囲を求めることで行った。具体的には、一様乱数を1000回試行して、それぞれL関数を算出し、ランダム分布の上下限(範囲)を求めた。観察サンプルのL関数が、乱数から求めたランダム分布の上下限の範囲に入れば「ランダム分布」、上限を超えれば「集中分布」、下限を下回れば「規則分布」(あるいは「一定間隔型分布」)とした。L関数の一例を図1に示す。図1のグラフ中のグレーの部分が一様乱数を1000回試行して求めたランダム分布の範囲である。横軸が距離(半径d:μm)、縦軸がL関数(L(d))を示す。また、2値化画像の周縁部において、ある粒子の平面重心座標値(X座標、Y座標)から半径d内に存在する他の粒子数が、2値化画像の中央部に比べて減る傾向があることから、L関数の算出にはエッジ補正としてRipleyのエッジ補正法を用いた。
【0032】
<GearyのC統計量による分散性評価>
さらに、上記のRipleyのL関数算出結果において、分散性が「良好」の結果が得られたサンプルについて、GearyのC統計量を求めた。GearyのC統計量は、数値解析用フリーソフト「R」のパッケージspdepを用いて、カーボンブラック粒子の平面重心座標値(X座標、Y座標)と個数平均粒子径(円相当径)から求めた。カーボンブラック粒子の平面重心座標値において、任意のカーボンブラック粒子から見て距離から見て近接している順に選択された4粒子を隣接粒子として定義して、C統計量を算出した。また、各粒子の位置座標はそのままで、粒子径を一様分布の乱数(一様乱数)を用いてランダムに与えた場合、C統計量の範囲が0.85〜1.15となったので、実際の粒子から算出したC統計量に応じて表2のようにランク分けした。
【0033】
【表2】

【0034】
本発明の中間転写ベルトの評価方法の評価フローの例を図2に示す。
図2に示す例では、まず絶縁破壊強さを測定し、該絶縁破壊強さが7KV/mm(第1の閾値)以上であるかを判定し(ステップS11)、7KV/mm未満の場合は、不良と評価する(ステップS12)。7KV/mm以上の場合は、ステップS21へ進む。
ステップS21では、個数平均粒子径を測定し、該個数平均粒子径が115nm(第2の閾値)以下であるかを判定する。個数平均粒子径が115nm未満の場合は、不良と評価する(ステップS22)。個数平均粒子径が115nm以上の場合は、ステップS31へ進む。
【0035】
ステップS31では、中間転写ベルトサンプルから求めたL関数が、一様乱数を用いて解析粒子数と同数の点座標をランダムに発生させた場合のL関数の上下限内(範囲内)に入るかに基づいて分布様式を判定する。一様乱数を用いた場合のL関数の上限を超えた場合は、集中分布(すなわち、「不良」)と判定する(ステップS32)。一様乱数を用いた場合のL関数の下限以上かつ上限以下の場合は、「ランダム分布」と評価する。一様乱数を用いた場合のL関数の下限を下回った場合は「規則分布」と評価する。「ランダム分布」又は「規則分布」の場合は、ステップS41へ進む。
【0036】
ステップS41では、中間転写ベルトサンプルから求めたC統計量が、ベルトの切断面から観察されるカーボンブラック粒子の平面重心座標値はそのままで一様乱数を用いて粒子径をランダムに与えた場合のC統計量の範囲内に入るかを判定する。一様乱数を用いた場合のC統計量の上限を超えた場合は、「正の自己相関あり」と評価する。一様乱数を用いた場合のC統計量の下限を下回った場合は、「負の自己相関あり」と評価する。「正の自己相関あり」又は「負の自己相関あり」の場合は、「良好」と判定する(ステップS42)。一様乱数を用いた場合のC統計量の下限以上かつ上限以下の場合は、「ランダム(自己相関なし)」と評価し、「最良」と判定する(ステップS51)。
実施例の結果を表3に示す。
【0037】
【表3】

表中の「1μm以上粒子」は、個数平均粒子径1μm以上の粒子の割合(%)を示す。
【0038】
<実施例1−2、1−3、1−5、1−6、1−8、1−9、1−11、1−12>
絶縁破壊電圧が7KV/mm以上であり、個数平均粒子径が115nm以下であり、L関数がランダム分布であり、かつC統計量がランダムであるという条件を全て満たす中間転写ベルトは、画像耐久試験による体積抵抗率の低下が半桁未満であった。
<実施例1−1、1−4、1−7、1−10>
絶縁破壊電圧が7KV/mm以上であり、個数平均粒子径が115nm以下であり、かつL関数がランダム分布であるという条件は満たすが、C統計量がランダムであるという条件は満たさない中間転写ベルトは、体積抵抗率の低下が半桁以上1桁未満であった。
【0039】
(比較例1)
<カーボンブラック含有PEEK樹脂ペレットの作製>
実施例1と同様の方法で、ポリエーテルエーテルケトン樹脂ペレット(ビクトレックス製、「VICTREX PEEK 450G」)を凍結機械粉砕して、平均粒度200μmのPEEK樹脂粉末1を作製した。さらに同様にポリエーテルエーテルケトン樹脂ペレット(ビクトレックス製、「VICTREX PEEK 151G」)を凍結機械粉砕して、平均粒度200μmのPEEK樹脂粉末2を作製した。
実施例1と同様の方法でPEEK樹脂粉末1とPEEK樹脂粉末2を重量比で60対40で混合し、円筒回転型ブレンダーにより5分間混合して、PEEK樹脂粉末3を作製した。
【0040】
次に、実施例1と同様の方法で、ホッパーと定量供給器を備えた二軸押出機を用い、定量供給器からホッパー中にPEEK樹脂粉末3とカーボンブラックが表4に記載の材料混合比になるように供給し、溶融混練した。このとき押出機のシリンダー設定温度は330℃〜370℃とした。溶融混練物はストランドダイから紐状に押出し、冷却水槽で冷却した後、ペレタイザーで切断して外径約2mm、長さ約3mmのカーボンブラック含有PEEK樹脂ペレットを作製した。比較例1では二軸押出機による溶融混練は1回とした。また、シームレスベルトの作製および評価は実施例1と同様の方法で行った。
比較例の結果を表4に示す。
【0041】
【表4】

表中の「1μm以上粒子」は、個数平均粒子径1μm以上の粒子の割合(%)を示す。
【0042】
<比較例1−1、1−2、1−4>
L関数がランダム分布であるという条件を満たさない中間転写ベルトは、画像耐久試験による体積抵抗率の低下が1桁以上であった。
<比較例1−3>
絶縁破壊電圧が7KV/mm以上であり、L関数がランダム分布であり、かつC統計量がランダムであるという条件は満たすが、個数平均粒子径が115nm以下である、という条件は満たさない中間転写ベルトも、体積抵抗率の低下が1桁以上であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエーテルエーテルケトンとポリエーテルエーテルケトンに分散されてなるカーボンブラックとを含む電子写真用のベルトの電気抵抗の経時安定性の評価方法であって、
該ベルトの切断面から観察されるカーボンブラック粒子の個数平均粒子径を求め、
カーボンブラック粒子の平面重心座標値を中心として半径1.2μmの円形の範囲におけるRipleyのL関数を求め、該L関数の分布様式を判定する工程を含むことを特徴とする電子写真用のベルトの電気抵抗の経時安定性の評価方法。
【請求項2】
絶縁破壊強さを測定し、該絶縁破壊強さが第1の閾値以上であるかを判定する工程と、
個数平均粒子径を測定し、該個数平均粒子径が第2の閾値以下であるかを判定する工程と、をさらに含み、
前記L関数の分布様式を判定する工程において、前記L関数が、一様乱数を用いて解析粒子数と同数の点座標をランダムに発生させた場合のL関数の上限以下であるかを判定し、
GearyのC統計量を求め、該C統計量が、前記ベルトの切断面から観察されるカーボンブラック粒子の平面重心座標値はそのままで一様乱数を用いて粒子径をランダムに与えた場合のC統計量の範囲内に入るかを判定する工程を、さらに含む
ことを特徴とする請求項1に記載の電子写真用のベルトの電気抵抗の経時安定性の評価方法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−177811(P2012−177811A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40974(P2011−40974)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】