説明

電子写真用転写紙

【課題】電子写真法により画像を形成した直後においても、用紙の検出精度の低下を抑制することができる電子写真用転写紙を提供すること
【解決手段】パルプ繊維と磁性材料とを含み、式(1)を満たす電子写真用転写紙。
・式(1) 0.15≧平均脱湿速度S1a
〔式(1)中、平均脱湿速度S1a(質量%/秒)は、5枚の用紙の脱湿速度S1(下式(1A)参照)の平均値を意味する。〕
・式(1A) 脱湿速度S1=(W1a−W1b)/30
〔式(1A)中、W1aは、23℃50%RH環境下で12時間以上調湿された用紙中に含まれる水分の含有率(質量%)を表し、W1bは、23℃50%RH環境下で調湿された後の用紙を80℃の環境下にて30秒間放置して脱湿処理した後の用紙中に含まれる水分の含有率(質量%)を表し、式中の分母に示される定数値は、脱湿処理に要した時間(30秒)を意味する。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナーやインク等の一般的な記録材により印刷が可能であると共に、検出装置によって検出可能な信号を発する磁性材料を含む電子写真用転写紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙幣や有価証券等の特殊な文書(特殊文書)においては、偽造の防止が極めて重要である。この特殊文書における偽造防止のために、特殊文書中に磁気的手段により検知可能な磁性材料等からなる金属繊維をすき込んだり埋め込んだりする技術が従来より知られている(特許文献1、2等参照)。
【0003】
一方、近年、コンピュータや複合機およびネットワークの普及により、膨大な情報の中から所望の情報を容易に取得し、取得した情報を印刷、複写することが可能となってきた。このため、秘匿性の高い情報が不正に複写もしくは印刷された印刷物が持ち出されることによって機密情報が漏洩するという問題がクローズアップされつつある。そこで、秘匿性の高い情報が不正に複写もしくは印刷された印刷物が持ち出されることによって機密情報が漏洩することを防止するために情報のセキュリティーを強化した種々の装置や方法が提案されている。
【0004】
例えば、固有の識別情報が記録可能な磁性体を含む印刷用紙と、この識別情報を読み取って、印刷用紙に印刷された情報の正当性を判断する情報読取装置とを組合わせて利用することにより情報のセキュリティーを強化する方法が提案されている(特許文献3,4参照)。
【特許文献1】特開平10−143708号公報
【特許文献2】特開平7−32778号公報
【特許文献3】特開2004−284053号公報
【特許文献4】特開2004−285524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した偽造防止に利用される特殊文書や印刷用紙においては、用紙中に金属繊維等の磁性材料が漉き込まれたり埋め込まれる。ここで、磁性材料が大バルクハウゼン効果を有する場合、この効果を利用して磁性材料に起因するパルス信号を検出装置によって検出することによって、用紙の存在を確認することができる。しかし、大バルクハウゼン効果を有する磁性材料を含む用紙に対して、電子写真方式で画像を形成した場合、画像形成直後に一時的にパルス信号が弱くなり、結果として用紙の存在の検出精度も低下してしまう場合があった。
本発明は、上記問題点を解決することを課題とする。すなわち、本発明は、電子写真法により画像を形成した直後においても、用紙の検出精度の低下を抑制することができる電子写真用転写紙を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、本発明は、
<1>
パルプ繊維と大バルクハウゼン効果を起こす磁性材料とを少なくとも含み、下式(1)を満たすことを特徴とする電子写真用転写紙である。
・式(1) 0.15≧平均脱湿速度S1a
〔式(1)中、前記平均脱湿速度S1a(質量%/秒)とは、5枚の用紙の脱湿速度S1の平均値を意味し、ここで脱湿速度S1は、下式(1A)で表される値を意味する。〕
・式(1A) 脱湿速度S1=(W1a−W1b)/30
〔式(1A)中、W1aは、23℃50%RH環境下で12時間以上調湿された用紙中に含まれる水分の含有率(質量%)を表し、W1bは、23℃50%RH環境下で調湿された後の前記用紙を80℃の環境下にて30秒間放置して脱湿処理した後の用紙中に含まれる水分の含有率(質量%)を表し、式中の分母に示される定数値は、前記脱湿処理に要した時間(30秒)を意味する。〕
【0007】
<2>
パルプ繊維と大バルクハウゼン効果を起こす磁性材料とを少なくとも含み、下式(2)を満たすことを特徴とする電子写真用転写紙である。
・式(2) 平均吸湿速度S2a≧0.045
〔式(2)中、前記平均吸湿速度S2a(質量%/秒)とは、5枚の用紙の吸湿速度S2の平均値を意味し、ここで吸湿速度S2は、下式(2A)で表される値を意味する。〕
・式(2A) 吸湿速度S2=(W2b−W2a)/30
〔式(2A)中、W2aは、10℃15%RH環境下で12時間以上調湿された用紙中に含まれる水分の含有率(質量%)を表し、W2bは、10℃15%RH環境下で調湿された後の前記用紙を28℃85%RH環境下にて30秒間放置して吸湿処理した後の用紙中に含まれる水分の含有率(質量%)を表し、式中の分母に示される定数値は、前記吸湿処理に要した時間(30秒)を意味する。〕
【0008】
<3>
下式(3)を満たすことを特徴とする<1>又は<2>に記載の電子写真用転写紙である。
・式(3) |平均吸湿速度S2a/平均脱湿速度S1a|≧0.3
〔式(3)中、平均脱湿速度S1aは、式(1)中に示されるものと同様の値を意味し、平均吸湿速度S2aは、式(2)中に示されるものと同様の値を意味する。〕
【0009】
<4>
前記磁性材料は、長さが10mm以上430mm以下の範囲内であり、且つ、直径が10μm以上90μm以下の範囲内であるワイヤ状の磁性材料であることを特徴とする<1>〜<3>のいずれか1つに記載の電子写真用転写紙である。
【0010】
<5>
保湿剤を含み、前記保湿剤の含有量が前記パルプ繊維100質量部に対して0質量部を超え50質量部以下の範囲内であることを特徴とする<1>〜<4>のいずれか1つに記載の電子写真用転写紙である。
【0011】
<6>
バリア材料を含むバリア層を有し、
前記バリア層が、前記パルプ繊維と前記磁性材料とを少なくとも含む層の両側に配置されていることを特徴とする<1>〜<5>のいずれか1つに記載の電子写真用転写紙である。
【0012】
<7>
23℃50%RH環境下で12時間以上調湿した後の用紙中に含まれる水分の含有率が4.0質量%以上7.0質量%以下の範囲内であることを特徴とする<1>〜<6>のいずれか1つに記載の電子写真用転写紙である。
【発明の効果】
【0013】
以上、説明したように本発明によれば、電子写真法により画像を形成した直後においても、用紙の検出精度の低下を抑制することができる電子写真用転写紙が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<画像形成直後の一時的なパルス信号出力の低下について>
本発明者らは、電子写真法により画像を形成した直後においても、用紙の存在が確認できるようにするために、大バルクハウゼン効果を有する磁性材料を含む用紙に対して電子写真方式で画像を形成した場合、画像形成直後に一時的にパルス信号が検出しにくくなる現象について鋭意検討した。
このため、本発明者らは、まず、画像形成前後における用紙から検出されるパルス信号の強度変化について調査した。その結果、パルス信号強度は、図1に示されるように変化することが分かった。
【0015】
図1は、画像形成前後における用紙から検出されるパルス信号の強度変化の一例を示すグラフである。図1中、横軸は時間を表し、縦軸は検出されるパルス信号の強度を表し、符号Aで示される区間は定着前を意味し、符号Bで示される区間は定着中(用紙が加熱されながら定着機を通過している状態で、時間にして数十〜数百ms)を意味し、符号Cで示される区間は定着後(画像形成後)を意味し、符号NDで示される区間は検出装置によりパルス信号が検出しにくい状態
(又は、パルス信号強度が所定のレベル以下であるため、用紙が存在しないと検出装置が認識することがある状態)を意味する。
また、実線は、検出装置の検出エリア内の特定の一点における時間に対するパルス信号強度の変化を表す(但し、符号Bで示される区間は予測値を意味する)。また、符号Lで示される一点鎖線は、検出装置の検出エリア内の特定の一点におけるパルス信号の検出限界強度(又は、検出したパルス信号強度から用紙の存在が検出されたか否かを判断して、用紙検出と判断した場合にアラーム音などの検出シグナルを発する検出判定強度)を意味する。なお、区間NDの存在の有無やその長さは、検出装置の構成にもよるが、通常、検出装置の検出エリア内の位置によって変動するものである。
【0016】
図1から明らかなように、検出装置の検出エリア内の特定の一点では、パルス信号強度は、定着中に急激に低下して検出限界強度(又は、検出判定強度)以下となり、定着後に徐々に増加(回復)し、暫くすると(区間NDを経過すると)再び検出限界強度(又は、検出判定強度)以上となる。このため、定着後暫くの間、画像を形成した用紙の存在を検出装置により確認しようとしても、検出エリア内で、用紙が検出できない領域が発生することになる。
以上のことから、磁性材料を含む用紙に対して電子写真法により画像を形成した直後においても、用紙の検出精度の低下(検出確率の低下および/または検出エリア内での検出不可能な領域の増大)を抑制するには、画像形成直後のパルス信号強度が極小値を示す時点でも、用紙が検出できるように検出限界強度(又は、検出判定強度)を設定する方法が挙げられる。しかし、実際には、ノイズ信号を拾いやすくなるため検出装置の誤動作が多くなったり、かなり微弱なパルス信号でも検出できるように検出装置のスペックを向上させることなどが必要となり、実用性に欠ける場合がある。また、用紙中により多くの磁性材料を添加する方法も考えられるが、用紙表面に磁性材料に起因する凸凹が発生して、画像形成時にこの凸凹に起因する転写抜けが発生しやすくなる場合がある。
それゆえ、このような観点からは、(1)定着時におけるパルス信号強度の低下を抑制する方法や、(2)定着後におけるパルス信号強度の増加(回復)を促進する方法が最も有効であると考えられる。
【0017】
一方、定着中、磁性材料を含む用紙は、加熱状態にある定着ロールなどの定着部材によって加熱され、用紙中に含まれる水分が急激に蒸発して脱湿することにより、用紙に収縮応力が発生する。そして、定着後は、用紙中の水分含有量が均衡状態となるまで用紙が雰囲気中の水分を徐々に吸湿する過程で、定着時に発生した用紙の収縮応力が徐々に緩和される。
【0018】
本発明者らは、この定着前後の用紙の脱湿−吸湿変化に伴う収縮応力の急激な発生とこれに続く緩慢な緩和プロセスが、図1に例示するパルス信号強度の変化のプロセスと一致する傾向にあるため、用紙中に発生した収縮応力が磁性材料に影響し、図1に例示するパルス信号強度の変化をもたらしているものと考えた。 すなわち、用紙に収縮応力が急激に発生すれば、磁性材料にも同様に急激に応力が加わってパルス信号強度が急激に低下し、また、一旦発生した収縮応力が徐々に緩和すれば、磁性材料に加わっていた応力も徐々に緩和されてパルス信号強度が徐々に回復するものと推定される。
【0019】
以上のことから、本発明者らは、(1)定着時におけるパルス信号強度の低下を抑制するには、定着時の加熱による用紙からの脱湿が抑制されることが重要であると考え、以下に示す第1の本発明を見出した。加えて、本発明者らは、(2)定着後におけるパルス信号強度の増加(回復)を促進するには、定着後に、雰囲気中の水分が速やかに用紙に吸湿されることが重要であると考え、後述する第2の本発明を見出した。
【0020】
<電子写真用転写紙>
−第1の発明−
第1の本発明の電子写真用転写紙(以下、「電子写真用転写紙」を、「転写紙」または「用紙」と称す場合がある)は、パルプ繊維と大バルクハウゼン効果を起こす磁性材料(以下、単に「磁性材料」と称す場合がある)とを少なくとも含み、下式(1)を満たすことを特徴とする。
・式(1) 0.15≧平均脱湿速度S1a
〔式(1)中、前記平均脱湿速度S1a(質量%/秒)とは、5枚の用紙の脱湿速度S1の平均値を意味し、ここで脱湿速度S1は、下式(1A)で表される値を意味する。〕
・式(1A) 脱湿速度S1=(W1a−W1b)/30
〔式(1A)中、W1aは、23℃50%RH環境下で12時間以上調湿された用紙中に含まれる水分の含有率(質量%)を表し、W1bは、23℃50%RH環境下で調湿された後の前記用紙を80℃の環境下にて30秒間放置して脱湿処理した後の用紙中に含まれる水分の含有率(質量%)を表し、式中の分母に示される定数値は、前記脱湿処理に要した時間(30秒)を意味する。〕
【0021】
式(1A)に示すW1aは、「100×(23℃50%RH環境下で12時間以上調湿された用紙の質量−用紙の絶乾質量)/用紙の絶乾質量」を意味し、W1bは、「100×(脱湿処理した後の用紙の質量−用紙の絶乾質量)/用紙の絶乾質量」を意味する。
ここで、用紙の脱湿処理にはオーブン(DVS 401 ヤマト科学株式会社製)を用い、脱湿処理に際しては、23℃50%RHの空気を80℃に加熱した。
また、用紙の絶乾質量は、用紙を105℃のオーブン(DVS 401 ヤマト科学株式会社製)中で5時間以上加熱した後に、デシケーターに用紙を入れて30分間放熱させ、放熱処理後に用紙の質量を測定することにより求めた。
なお、各々の条件で処理された用紙の質量は天秤(AB204S、メトラー・トレド株式会社製)を用いて測定し、一連の測定・評価には用いた用紙のサイズはA4サイズとした。
【0022】
平均脱湿速度S1aは、式(1)に示すように0.15質量%/秒以下であることが必要であるが、0.14質量%/秒以下であることが好ましい。
平均脱湿速度S1aが0.15質量%/秒を超えると、定着時に、用紙からの水分の蒸発が急激となり、用紙に発生する収縮応力も大きくなるため、パルス信号強度の著しい低下が起こる。このため、画像形成直後における用紙の検出精度の低下を抑制できなくなる。
一方、平均脱湿速度S1aの下限値は特に限定されるものではないが、用紙自体の製造が困難になるなどの理由から、実用上は、0.08質量%/秒以上であることが好ましく、0.10質量%/秒以上であることがより好ましい。
【0023】
ここで、平均脱湿速度S1aは、用紙が加熱された際の脱湿特性を意味する指標であり、具体的には式(1A)に示すように算定される脱湿速度S1の平均値として求めた値である。
なお、式(1A)において、W1aは、定着前の状態(図1に示す例では、区間Aで示される状態)における用紙中に含まれる水分の含有率を意味するものであり、W1aを測定する際の調湿条件(23℃50%RH)は、画像形成装置が配置される一般的な環境を想定したものである。
また、W1bは、定着が終了した直後の状態(図1に示す例では、区間Bと区間Cとの境界位置における状態)における用紙中に含まれる水分の含有率を、擬似的に再現した値を意味する。
【0024】
なお、W1bを求める際の脱湿条件(80℃、30秒の脱湿処理)は、通常の定着条件と比較すると低温且つ長時間である。この脱湿条件に設定した理由は、通常の定着処理を実施した直後の用紙中の水分の含水率を再現性よく測定することが、定着機から測定装置への移動時間等を考慮すれば極めて困難であることが挙げられる。このため、本発明者らは、定着時の脱湿状態が擬似的に再現できる脱湿条件について検討し、80℃30秒という条件が妥当であると考えた。
【0025】
すなわち、調湿温度を80℃に設定した理由は、定着時には、用紙の内部と表面とでは温度差が生じて、用紙全体の温度としては定着温度を下回り80℃前後になると推定されるためである。
また、調湿時間を30秒に設定した理由は以下の通りである。まず、定着時の加熱は、加熱源も兼ねた定着部材が用紙に接触することにより行われる直接的な加熱(固体接触加熱)であるため、所定量の熱エネルギーを用紙に付与するには、短時間で済む。これに対して、W1bを求める際の脱湿条件は、オーブン中での間接的な加熱であるため、定着時に用紙に付与される熱エネルギーの総量にできる限り近い熱エネルギーを用紙に付与するためには、定着時間よりも長い時間加熱する必要があると考えられる。なお、測定値の再現性の確保という観点からは、加熱時間は長い方が好ましいが、加熱時間が長過ぎる場合には、脱湿処理した場合の用紙の脱湿特性と定着した場合の用紙の脱湿特性との乖離が大きくなることも予想される。それゆえ、本発明者らは、上述した観点に加えて、測定値の再現性の確保という点も考慮して調湿時間を30秒に設定した。
【0026】
なお、平均脱湿速度S1aを式(1)を満たすように制御する方法としては、特に限定されないが、大別すると、用紙の保湿性を高める方法と、用紙の厚み方向における水分の移動・拡散を阻害する方法とが挙げられる。
前者の方法としては、例えば、用紙に保湿剤を添加することが挙げられる。また、後者の方法としては、例えば、定着時の加熱処理によっても用紙の保湿性ができる限り高いレベルで維持できるように、用紙の厚み方向における水分の拡散を阻害する機能を有するバリア層を設けたり、用紙(少なくとも磁性材料が含まれる層)のステキヒトサイズ度を大きくすることなどが挙げられる。なお、これらの方法の詳細については後述する。
【0027】
−第2の発明−
第2の本発明の電子写真用転写紙は、パルプ繊維と大バルクハウゼン効果を起こす磁性材料とを少なくとも含み、下式(2)を満たすことを特徴とする。
・式(2) 平均吸湿速度S2a≧0.045
〔式(2)中、前記平均吸湿速度S2a(質量%/秒)とは、5枚の用紙の吸湿速度S2の平均値を意味し、ここで吸湿速度S2は、下式(2A)で表される値を意味する。〕
・式(2A) 吸湿速度S2=(W2b−W2a)/30
〔式(2A)中、W2aは、10℃15%RH環境下で12時間以上調湿された用紙中に含まれる水分の含有率(質量%)を表し、W2bは、10℃15%RH環境下で調湿された後の前記用紙を28℃85%RH環境下にて30秒間放置して吸湿処理した後の用紙中に含まれる水分の含有率(質量%)を表し、式中の分母に示される定数値は、前記吸湿処理に要した時間(30秒)を意味する。〕
【0028】
式(2A)に示すW2aは、「100×(10℃15%RH環境下で12時間以上調湿された用紙の質量−用紙の絶乾質量)/用紙の絶乾質量」を意味し、W2bは、「100×(吸湿処理した後の用紙の質量−用紙の絶乾質量)/用紙の絶乾質量」を意味する。
なお、絶乾質量を測定するための用紙の処理方法や、用紙の質量の測定方法、一連の測定・評価には用いた用紙のサイズは、式(1A)に示す場合と同様とした。
【0029】
平均吸湿速度S2aは、式(2)に示すように0.045質量%/秒以上であることが必要であるが、0.05質量%/秒以上であることが好ましい。
平均吸湿速度S2aが0.045質量%/秒未満であると、定着後に、雰囲気中の水分を用紙が速やかに吸湿できないために、定着時に用紙に発生した収縮応力の緩和が促進されず、パルス信号強度の増加(回復)が著しく遅くなる。このため、画像形成直後における用紙の検出精度の低下を抑制できなくなる。
一方、平均吸湿速度S2aの上限値は特に限定されるものではないが、用紙自体の製造が困難になるなどの理由から、実用上は、0.10質量%/秒以下であることが好ましく、0.09質量%/秒以下であることがより好ましい。
【0030】
ここで、平均吸湿速度S2aは、定着直後のなどの含水率の低い状態にある用紙の吸湿特性を意味する指標であり、具体的には式(2A)に示すように算定される吸水速度S2の平均値として求めた値である。
なお、用紙が本来有する吸湿特性を正確に評価する上では、定着後の温湿度条件を意識した吸湿試験で吸湿特性を評価するよりも、加速試験により吸湿特性を評価する方が有効であると考えられる。
【0031】
この理由は、用紙の種類や定着条件によって、定着直後の状態(図1中における区分Bと区分Cとの境界位置における状態)における用紙中の含水率にはある程度のばらつきがあると考えられることが挙げられる。すなわち、この場合、吸湿処理前の用紙中の含水率は一概には特定し難いといえる。
また、定着後に用紙が(人に持ち出されるなどによって)移動して、用紙の周囲の大気の湿度が様々に変化する場合(例えば、検出装置が戸外近傍の出入り口に配置されている場合など)も用紙中の含水率にはある程度のばらつきがあると考えられることが挙げられる。すなわち、この場合、吸湿処理後の用紙中の含水率は一概には特定し難いといえる。
このため、本発明者らは、吸水速度S2の算定に用いるW2b、W2aの測定時の温湿度条件は、吸湿処理前の用紙中の含水率ができる限り小さく、吸湿処理後の用紙の含水率ができる限り高くなるように選択した。
【0032】
また、式(2A)に示される吸湿処理時間は、短すぎる場合は測定値(W2b)の再現性が低下してしまう。一方、吸湿処理時間は、長すぎる場合は用紙の含水率が増加している状態のみならず飽和している状態でも吸湿処理している可能性が高くなり、算定される吸水速度S2の真値に対する乖離が大きくなり過ぎることも考えられる。このため、両者のバランスを取る観点から、吸湿処理時間は30秒とした。
【0033】
なお、平均吸湿速度S2aを式(2)を満たすように制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、用紙中に含まれるパルプ繊維の吸湿を阻害する成分である填料を用紙中に添加しない方法や、填料が用紙中に含まれる場合でも、填料の含有量を抑制する方法が挙げられる。
【0034】
上記以外の方法としては、用紙外部から用紙内部へと大気中の水分子が移動しやするために用紙の密度を小さくする方法や、用紙中に吸湿剤を添加する方法なども挙げられる。なお、これらの方法の詳細については後述する。
【0035】
−平均脱湿速度S1aおよび平均吸湿速度S2aについて−
以上に説明したように、本発明の用紙は、式(1)および式(2)から選択される少なくとも一方を満たすものであればよいが、画像形成直後における用紙の検出精度の低下をより確実に抑制するためには式(1)および式(2)を同時に満たすことが好ましい。また、式(1)および式(2)から選択される少なくとも一方を満たし、更に、下式(3)を満たすことも好ましい。
・式(3) |平均吸湿速度S2a/平均脱湿速度S1a|≧0.3
〔式(3)中、平均脱湿速度S1aは、式(1)中に示されるものと同様の値を意味し、平均吸湿速度S2aは、式(2)中に示されるものと同様の値を意味する。〕
【0036】
なお、|平均吸湿速度S2a/平均脱湿速度S1a|は式(3)に示されるように0.3以上であることが好ましく、0.32以上であることがより好ましく、0.35以上であることが更に好ましい。|平均吸湿速度S2a/平均脱湿速度S1a|が0.3未満では、画像形成直後における用紙の検出精度の低下をより確実に抑制することが困難となる場合がある。
なお、|平均吸湿速度S2a/平均脱湿速度S1a|の上限値は特に限定されないが、実用上は、1.0以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましい。
【0037】
次に、本発明の用紙の構成材料や、製造方法、諸物性等についてより詳細に説明する。
−磁性材料−
本発明の用紙に含有される磁性材料は、大バルクハウゼン効果を有するものが用いられる。ここで、大バルクハウゼン効果について簡単に説明する。図2は、大バルクハウゼン効果を説明するための図である。大バルクハウゼン効果は、図2(a)に示すB−H特性、つまり、ヒステリシスループがほぼ長方形で、保磁力(Hc)が比較的小さな材料、例えば、Co−Fe−Ni−B−Siからなるアモルファス磁性材料を交番磁界中においた際に、急峻な磁化反転が起きる現象である。このため、励磁コイルに交流電流を流して交番磁界を発生させ、その交番磁界中に磁性材料を置くと、磁化反転時に、磁性材料の近傍に配置した検知コイルにパルス状の電流が流れることとなる。
【0038】
例えば、励磁コイルにより図2(b)の上段に示す交番磁界を発生させた場合、検知コイルには、図2(b)の下段に示すパルス電流が流れることとなる。
【0039】
ただし、検知コイルに流れる電流には、交番磁界によって誘導される交流電流も流れており、パルス電流は、この交流電流に重畳されて検出されることとなる。また、複数の磁性材料を含むものを交番磁界中に置いた場合には、複数のパルス電流が重畳され、図2(c)に示す電流が検出される。
【0040】
本発明の用紙の内部に含有される磁性材料としては、一般には永久磁石、例えば希土類系のネオジュウム(Nd)−鉄(Fe)−ボロン(B)を主成分としたもの、サマリウム(Sm)−コバルト(Co)を主成分としたもの、アルニコ系のアルミ(Al)−ニッケル(Ni)−コバルト(Co)を主成分としたもの、フェライト系のバリュウム(Ba)又はストロンチウム(Sr)と酸化鉄(Fe)を主成分としたものや、その他に軟質磁性材料、酸化物軟質磁性材料等があるが、基本組成がFe−Co−SiやCo−FeNi系であるアモルファス磁性材料を用いることが好ましい。
【0041】
磁性材料の形状としては、大バルクハウゼン効果を起こすのに適した縦長の形状であれば特に限定されないが、大バルクハウゼン効果を起こすには、断面積に対して所定の長さが必要となってくることから、基本的にはワイヤ状や帯状などの繊維状であることが好ましく、ワイヤ状であることがより好ましい。
【0042】
磁性材料がワイヤ状である磁性体ワイヤの場合には、上述のように、大バルクハウゼン効果を起こすためにその直径は10μm以上であることが好ましい。また、最大直径としては90μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましい。直径が90μmを越えると磁性材料を用紙内部に配合しても表面に突出してしまう可能性がある。
【0043】
磁性体ワイヤの長さは、大バルクハウゼン効果を起こすために10mm以上が好ましい。なお磁性体ワイヤの最大長については、内部に含有されたときに、用紙から露出されない程度の長さであればよく、特に限定はされないが、430mm以下であることが好ましい。
なお、磁性体ワイヤの直径や長さは、用紙中に含まれる全ての磁性体ワイヤの直径や長さが上述した範囲を満たすことが好ましいが、値に分布がある場合には、平均値として上述した範囲を満たすことが好ましい。
【0044】
−用紙の検出方法および検出手段−
本発明の用紙には、上述した磁性材料が含まれるため、磁界中に用紙が置かれた場合に磁性材料に発生する電気的信号(例えば、図2に例示するパルス信号など)を、検出装置により検出することで、用紙の存在を確認できる。
検出装置としては、上述した電気的信号が何らかの形で検出できるものであればその構成や使用態様は特に限定されるものではない。しかし、本発明においては、人間が通過できる程度の幅を有するように所定の位置に固定して配置された一対の非接触型の検出手段から構成される検出装置(以下、「検出ゲート」と称す場合がある)を用いることが好適である。
この検出ゲートでは、一対の検出手段間に検出エリアが形成されるため、検出ゲートを本発明の用紙が通過する際に、用紙の存在を感知することが可能である。この検出ゲートを利用して用紙の存在を検出する場合、例えば、画像として用紙に形成された機密情報の不正複写や不正持ち出しを防止するなどの用途に利用することが可能である。但し、本発明の用紙は上述した用途での利用のみに限定されるものではない。
【0045】
−紙基材−
次に紙基材について説明する。本発明の用紙は、パルプ繊維と磁性材料とを含む紙基材を有する。なお、紙基材は、2つ以上の層から構成されていてもよく、また、紙基材の少なくとも片面に必要に応じて顔料塗工層などの表面層を設けることもできる。
紙基材の主成分として用いられるパルプ繊維としては、特に限定されるものではないが、例えば、広葉樹および/または針葉樹のクラフトパルプ繊維、サルファイトパルプ繊維、セミケミカルパルプ繊維、ケミグラウンドパルプ繊維、砕木パルプ繊維、リファイナーグラウンドパルプ繊維、サーモメカニカルパルプ繊維等を使用することが好ましい。また、これらの繊維中のセルロースあるいはヘミセルロースを化学的に修飾した繊維も必要に応じて使用することができる。
さらに、綿パルプ繊維、麻パルプ繊維、ケナフパルプ繊維、バガスパルプ繊維、ビスコースレーヨン繊維、再生セルロース繊維、銅アンモニアレーヨン繊維、セルロースアセテート繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリウレタン系繊維、フルオロカーボン系繊維、ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、金属繊維、シリコンカーバイド繊維等の各繊維を、単独あるいは複数組み合わせて使用することができる。
【0046】
また、必要に応じて、上記パルプ繊維にポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル等の合成樹脂を含浸あるいは熱融着させて得られた繊維を使用することでテーバー摩耗量、及び内部結合強度を向上させることができる。
【0047】
また、更に上記パルプ繊維に、上質系および中質系の古紙パルプを配合することもできる。古紙パルプの配合量としては、用途や目的等に応じて決定される。例えば、資源保護の観点から古紙パルプを配合する場合には、紙基材に含まれる全パルプ繊維に対して古紙パルプを10質量%以上配合することが好ましく、30質量%以上配合することがより好ましい。
【0048】
上記紙基材に使用可能な填料の種類は特に限定されるものではなく、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、チョーク等の炭酸カルシウム系填料や、カオリン、焼成クレー、パイロフィライト、セリサイト、及びタルク等のケイ酸類や二酸化チタン、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、ホワイトカーボン、サポナイト、ドロマイト、カルシウムモンモリロナイト、ソジウムモンモリロナイト、ベントナイト等の無機填料、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、キトサン粒子、セルロース粒子、ポリアミノ酸粒子、およびスチレン等の有機填料を使用できる。なお、電子写真方式における画質維持性および白色度向上の観点から中性抄紙での炭酸カルシウムの配合が好ましい。
【0049】
さらに、本発明の用紙を構成する紙基材には、サイズ剤等の各種薬品を内添または外添させることができる。
紙基材に添加可能なサイズ剤の種類としては、ロジン系サイズ剤、合成サイズ剤、石油樹脂系サイズ剤、中性サイズ剤等のサイズ剤を挙げることができる。さらに、硫酸バンド、カチオン化澱粉などのサイズ剤と、定着剤とを組み合わせて使用してもよい。
【0050】
上記サイズ剤の内、電子写真方式の画像形成装置において、画像が形成された後の用紙の保存性の観点から、中性サイズ剤、例えば、アルケニル無水コハク酸系サイズ剤、アルキルケテンダイマー、アルケニルケテンダイマー、中性ロジン、石油サイズ、オレフィン系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂等を用いることが好ましい。また、表面サイズ剤として、酸化変性澱粉、酵素変性澱粉、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース変性体、スチレン−アクリル系ラテックス、スチレン−マレイン酸系ラテックス、アクリル系ラテックスなどを単独もしくは組み合わせて使用することができる。
【0051】
さらに、本発明の用紙を構成する紙基材には、紙力増強剤を内添あるいは外添することができる。
紙力増強剤としては、例えば、でんぷん、変性でんぷん、植物ガム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、スチレン−無水マレイン酸共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリアクリル酸エステル尿素、ホルムアルデヒド樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、ジアルデヒドでんぷん、ポリエチレンイミン、エポキシ化ポリアミド、ポリアミド−エピクロルヒドリン系樹脂、メチロール化ポリアミド、キトサン誘導体等が挙げられ、これらの材料を単独あるいは混合して使用することができる。
【0052】
また、平均脱湿速度S1aをより小さくして、式(1)を満たすように制御するために、紙基材には保湿剤を添加することもできる。この場合、保湿剤の含有量は、用紙中に含まれるパルプ繊維100質量部に対して0質量部を超えることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、15質量部以上であることが更に好ましい。保湿剤を用いない場合には、平均脱湿速度S1aが、式(1)を満たすように制御できなくなり、用紙の検出精度の低下を抑制することが困難となる場合がある。なお、保湿剤の含有量の上限は特に限定されるものではないが、実用上は、用紙中に含まれるパルプ繊維100質量部に対して50質量部以下であることが好ましく、45質量部以下であることがより好ましく、40質量部以下であることが更に好ましい。
【0053】
使用できる保湿剤としては、例えば、グリセリン、アルカンジオール類、アルカントリオール類、植物抽出エキス、蜂蜜、1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)プロパン、単糖類やオリゴ糖類などの糖類、糖アルコールなどが挙げられる。
【0054】
単糖類としては例えば、D−及びL−フルクトース、タガトース、ソルポース、リボース、キシロース、アラビノース、リキソース、グルコース、マンノース、アロース、アルトロース、ギュロース、イドース、ガラクトース、タロース、グロースなどが挙げられる。
【0055】
オリゴ糖類としては例えば、マルトース、ラクトース、スクロース、ラフィノース、ゲンチアノース、スタキオース、キシランなどが挙げられる。
【0056】
糖アルコールとしては例えば、テトリトール、D−及びL−エリトリトール、アラビニトール、キシリトール、アドニトール、リビトール、D−ソルビトール、アリトール、D−マンニトール、D−イジトール、D−タリトール、ズルシトール、へプチトールなどが挙げられる。
【0057】
なお、保湿剤としては、上記に列挙した以外の物質でも、保湿能を有する物質であれば利用できるが、具体的には保湿率が1.5以上の物質を用いることが好適である。
ここで、保湿率は下式(4)で表されるものである。
・式(4) 保湿率=(保湿能を有する物質を1g/m塗布した用紙の調湿水分)/(未処理用紙の調湿水分)
【0058】
保湿率は、保湿能を有する物質を含む水溶液(保湿能を有する物質の濃度:10質量%)を濾紙に、固形分が1.0g/mになるように塗布した用紙の調湿水分と、保湿能を有する物質を含む水溶液を塗布しない未処理の用紙(濾紙)の調湿水分とを測定し、式(4)に基いて算出した。
なお、調湿水分の測定は、JIS−P−8111:1998に準拠した環境(温度23℃、相対湿度50%)下で、保湿能を有する物質を含む水溶液を塗布した用紙、および、未処理の用紙を24時間以上の調湿した後に実施した。
また、式(4)に示す「用紙の調湿水分」は、JIS−P−8127:1998に準拠した方法で測定した。
【0059】
一方、平均吸湿速度S2aをより大きくして、式(2)を満たすように制御するために、紙基材には吸湿剤を添加することもできる。この場合、吸湿剤の含有量は、用紙中に含まれるパルプ繊維100質量部に対して0質量部を超えることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、15質量部以上であることが更に好ましい。吸湿剤を用いない場合には、平均吸湿速度S2aが、式(2)を満たすように制御できなくなり、用紙の検出精度の低下を抑制することが困難となる場合がある。なお、吸湿剤の含有量の上限は特に限定されるものではないが、実用上は、用紙中に含まれるパルプ繊維100質量部に対して50質量部以下であることが好ましく、45質量部以下であることがより好ましく、40質量部以下であることが更に好ましい。
【0060】
使用できる吸湿剤としては吸湿能の高い物質であれば特に限定されるものではないが、例えば、シリカゲル、NaSOなどが利用できる。
【0061】
また、紙基材には、上記に列挙した種々の成分以外にも、染料、pH調整剤等、通常の紙媒体に配合される各種助剤を必要に応じて使用しても構わない。
【0062】
本発明の用紙の作製に際しては、紙基材を構成する材料の抄紙方法・順序や、紙基材に必要に応じて表面層を設けることにより、所望の層構成を有する用紙を作製することができる。
例えば、上述したパルプ繊維等の紙基材を構成する材料を混合し紙料スラリーを抄紙することによって作製した紙基材層の片面に、磁性材料を分散配置した後、この磁性材料が配置された面に他の紙基材層を貼り合わせるプロセスを経て紙基材を作製し、更に必要に応じてこの紙基材の表面に表面層を設けることができる。
また、パルプ繊維等の紙基材を構成する材料に磁性材料も配合した紙料スラリーを抄紙して単層の紙基材を作製し、必要に応じてこの紙基材の表面に表面層を設けることができる。あるいは、磁性材料を含む紙基材層の両面に、磁性材料を含まない紙料スラリーを用いて抄紙された紙基材層を貼り合わせて3層構成の紙基材を作製し、更に必要に応じてこの紙基材の表面に表面層を設けることができる。このように多層抄紙を利用して紙基材を作製したり、更に表面層を形成することで用紙を作製してもよい。
【0063】
なお、本発明の用紙は1層の紙基材のみからなる単層構成であってもよいが、2つ以上の層を有するものであることが好ましい。この場合、紙基材自体が2つ以上の層から構成されるものであってもよく、紙基材の片面あるいは両面に表面層を設けたものであってもよく、両者を組み合わせた構成としてもよい。
紙基材が2つ以上の層から構成される場合、磁性材料は層と層との界面に配置することにより、磁性材料が用紙表面に露出するのを防ぐと共に、用紙表面からより内部側の位置に磁性材料を含有させることができる。また、紙基材が3つ以上の層から構成される場合、磁性材料を紙基材の最外層以外の層中や層間に含有させることにより、用紙表面からより内部側の位置に磁性材料を含有させることができる。この場合に、パルプ繊維を少なくとも含む紙基材層を少なくとも2層以上有し、いずれか2つの紙基材層が、互いに隣接するように積層されると共に、2つの紙基材層の界面に磁性材料が配置されている層構成が最も好ましい。
また、磁性材料が用紙表面に露出するのを防いだり、用紙表面からより内部側の位置に磁性材料を含有させたりする上では、表面層を設けることも好ましく、特に紙基材が単層構成からなる場合に有効である。
【0064】
以上、説明したように用紙の厚み方向の層構成については、その製造プロセスを必要に応じて選択して組み合わせることにより所望の構成とすることが可能である。
【0065】
なお、平均脱湿速度S1aより大きくして、式(1)を満たすように制御するという観点からは、本発明の用紙はバリア層を有することが好適である。
ここで、バリア層とは、用紙の厚み方向に対して、用紙中に存在する水分子が用紙表面へと移動・拡散するのを阻害する機能を有する層を意味し、具体的には、樹脂および接着剤から選択される少なくとも1種のバリア材料を含む層(但し、バリア層中でのバリア材料の含有量は30質量%以上100質量%以下である)を意味する。
【0066】
なお、バリア層は、上述した用紙中の水分子の移動・拡散を阻害する機能のみならず、その他の機能を兼有するものであってもよい。また、バリア層は、用紙中の水分子の移動・拡散を阻害する機能がより確実に発揮できるようにバリア材料のみから構成されることが最も好ましい。バリア層の厚みとしては特に限定されるものではないが、用紙中の水分子の移動・拡散を阻害する機能が確実に発揮できるようにするという観点からは1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましい。これに対してバリア層の厚みの上限値は特に限定されるものではないが、実用上は25μm以下であることが好ましい。
【0067】
バリア層は、パルプ繊維と磁性材料とを含む層(なお、磁性材料が2つの層の界面に配置される場合は、界面を成す2つの層を意味する)の両側に配置される。例えば、パルプ繊維と磁性材料とを含む紙基材の両面にバリア層を配置する場合には、バリア層を紙基材表面と直接接するように設けてもよいし、紙基材の表面に接して設けられた顔料塗工層などの他の層上にバリア層を設けることもできる。なお、この場合、バリア層は樹脂を主成分として含む樹脂層であることが好ましい。
また、紙基材が3層の紙基材層を有し、用紙の厚み方向に対して中央に位置する紙基材層にのみ磁性材料が含まれる場合には、中央に位置する紙基材層と、この紙基材層の両側に位置する紙基材層との間にバリア層を設けることができる。なお、この場合、バリア層は、2つの紙基材層を接合するために、接着剤を主成分として含む接着剤層であることが好ましい。
【0068】
バリア層を構成するバリア材料としては、公知の熱可塑性樹脂や接着剤が利用できる。なお、熱可塑性樹脂としては、後述する樹脂層に用いられるものと同様のものが利用でき、接着剤としては、後述する顔料塗工層に用いられるものと同様のものが利用できる。
【0069】
紙基材(又は紙基材層)を作製する場合の抄紙法としては特に限定されるものではない。多層抄紙法または、従来知られている長網抄紙機や、円網抄紙機、ツインワイヤー方式など何れも使用できる。酸性または中性抄紙法いずれでも構わない。
【0070】
多層抄紙の方法としては、円網多筒抄紙、長網多筒、長網・円網コンビ、マルチヘッドボックス、短網・長網方式いずれの方法を用いても構わないし、例えば石黒三郎著の「最新抄紙技術−理論と実際」(製紙化学研究所,1984)に詳しく記載されている方法いずれを用いても構わないし、丸網を複数連ねた丸網多筒式等を用いてもよい。
【0071】
紙基材の表面(複数の紙基材層によって用紙の紙基材が構成される場合には、最表面の紙基材層の表面)には、ロジン系サイズ剤、合成サイズ剤、石油樹脂系サイズ剤、中性サイズ剤等のサイズ剤を、表面強度向上等の観点から水性液体の吸収を阻害しない程度に必要に応じて添加するようにしてもよい。さらに硫酸バンド、カチオン化澱粉などの、サイズ剤とパルプ繊維間の定着剤を組み合わせて使用してもよい。
【0072】
また、上記紙基材の表面(複数の紙基材層によって用紙の紙基材が構成される場合には、最表面の紙基材層の表面)には、下記に示すサイズプレス液を塗布することが好ましい。
サイズプレス液に用いるバインダは、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉などの未加工澱粉を始めとして、加工澱粉として酵素変性澱粉、燐酸エステル化澱粉、カチオン化澱粉、アセチル化澱粉などを使用することができる。また、その他にもポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、アルギン酸ソーダ、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、グアーガム、カゼイン、カードランなどの水溶性高分子及びそれらの誘導体などを単独あるいは混合して使用することができるが、これに限定されるものではない。ただし、製造コストの観点からは、より安価である澱粉を使用する場合が多い。
【0073】
また、本発明の用紙には磁性材料が含まれるため、磁性材料の表面が樹脂や金属酸化物等からなる絶縁層等により被覆されていない場合には、磁性材料周辺の電気抵抗が低下し易くなる。それゆえ、電子写真法により画像を形成する場合には、感光体や中間転写体表面に形成されたトナー像を転写する際に磁性材料が存在する部位の周辺では局所的な転写不良が発生し、画像の白抜けが発生してしまう場合がある。
この観点からは、用紙の表面抵抗率や体積抵抗率を白抜けが発生しにくいように所定の範囲に調整することが好適である。この抵抗調整を行うためには、本発明の用紙に、抵抗調整剤として塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、酸化亜鉛、二酸化チタン、酸化錫、酸化アルミニウム、及び酸化マグネシウム等の無機物や、アルキルリン酸エステル塩、アルキル硫酸エステル塩、スルホン酸ナトリウム塩、及び第4級アンモニウム塩等の有機系の材料を単独もしくは混合して使用することができる。また、これら抵抗調整剤を用紙に含有させる方法としては、これらの無機物や有機材料を上記サイズプレス液中に含有させて、上記紙基材表面に塗布するようにすればよい。
【0074】
上記サイズプレス液を上記紙基材表面(複数の紙基材層によって用紙の紙基材が構成される場合には、最表面の紙基材層の表面)に塗布する方法としては、サイズプレスのほか、シムサイズ、ゲートロール、ロールコータ、バーコータ、エアナイフコータ、ロッドブレードコータ、ブレードコータ等の通常使用されている塗工手段を用いることができる。
【0075】
さらに、本発明の用紙には、少なくとも片面に主として接着剤と顔料とからなる顔料塗工層用塗布液を塗工することにより顔料塗工層を形成してコート紙として用いることも可能である。
【0076】
また、高光沢画像を得るために、この顔料塗工層上に樹脂層を設ける事も可能である。
樹脂層として用いられる樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂であれば特に限定はなく、例えばエステル結合を有する樹脂;ポリウレタン樹脂;尿素樹脂等のポリアミド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル−プロビオン酸ビニル共重合体樹脂;ポリビニルブチラール等のポリオール樹脂、エチルセルロース樹脂、酢酸セルロース樹脂等のセルロース樹脂;ポリカプロラクトン樹脂、スチレン−無水マレイン酸樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリエーテル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、エチレンやプロピレン等のオレフィンと他のビニルモノマーとの共重合体樹脂、アクリル樹脂などを例示することができる。
【0077】
顔料塗工層用塗布液に含まれる接着剤としては、水溶性及び水分散性の何れか一方または双方の高分子化合物が用いられ、例えば、カチオン性澱粉、両性澱粉、酸化澱粉、酵素変性澱粉、熱化学変性澱粉、エステル化澱粉、エ−テル化澱粉等の澱粉類、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、ゼラチン、カゼイン、大豆蛋白、天然ゴム等の天然あるいは半合成高分子化合物、ポリビニルアルコール、イソプレン、ネオプレン、ポリブタジエン等のポリジエン類、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリアルケン類、ビニルハライド、酢酸ビニル、スチレン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、メチルビニルエーテル等のビニル系重合体や共重合体類、スチレン−ブタジエン系、メチルメタクリレート−ブタジエン系等の合成ゴムラテックス、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、オレフィン−無水マレイン酸樹脂、メラミン樹脂等の合成高分子化合物等を用いることができる。そしてこれらの中から、用紙の品質目標に応じて1種あるいは2種以上が選択して使用される。
【0078】
また、顔料塗工層用塗布液に含まれる顔料としては、例えば、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン、焼成カオリン、構造性カオリン、デラミカオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、シリカ、アルミノ珪酸マグネシウム、微粒子状珪酸カルシウム、微粒子状炭酸マグネシウム、微粒子状軽質炭酸カルシウム、ホワイトカーボン、ベントナイト、ゼオライト、セリサイト、スメクタイト等の鉱物質顔料や、ポリスチレン樹脂、スチレン−アクリル共重合樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂並びにそれらの微小中空粒子や貫通孔型の有機顔料等が挙げられ、これらの中から1種あるいは2種以上が用いられる。
【0079】
上記顔料塗工層用塗布液中の顔料に対する接着剤の配合割合は、顔料100質量部に対して5質量部以上50質量部以下の範囲内にあることが好ましい。接着剤の顔料100質量部に対する配合割合が5質量部未満では、顔料塗工層用塗布液を、上記紙基材上に塗工して、上記紙基材上に顔料塗工層を形成した後に、更に上記樹脂層を塗工する時に、紙基材の表面が樹脂液によって侵されるため、良好な白紙光沢度を得ることが出来ないという問題がある。また接着剤の顔料100質量部に対する配合割合が50質量部をこえると、顔料塗工層用塗布液を上記紙基材上に塗工する時に泡が発生し、顔料塗工面にザラツキを生ずるため、良好な白紙光沢度が得られなくなる場合がある。
【0080】
上記顔料塗工層用塗布液中には、更に、各種助剤、例えば界面活性剤、pH調節剤、粘度調節剤、柔軟剤、光沢付与剤、分散剤、流動変性剤、導電防止剤、安定化剤、帯電防止剤、架橋剤、酸化防止剤、サイズ剤、蛍光増白剤、着色剤、紫外線吸収剤、消泡剤、耐水化剤、可塑剤、滑剤、防腐剤、及び香料等を必要に応じて添加することも可能である。
【0081】
上記顔料塗工層用塗布液の上記用紙への塗工量については、本発明の用紙の使用目的に応じて選択されるものであるが、一般的には、用紙表面の凹凸を完全に覆う程度の量が必要であり、乾燥質量で2g/m以上8g/m以下の範囲内であることが好ましい。
【0082】
上記顔料塗工層用塗布液を、上記サイズプレス液が塗布された上記紙基材表面に更に塗布する方法としては一般に公知の塗被装置、例えばブレードコータ、エヤーナイフコータ、ロールコータ、リバースロールコータ、バーコータ、カーテンコータ、ダイコータ、グラビアコータ、チャンプレックスコータ、ブラシコータ、ツーロールあるいはメータリングブレード式のサイズプレスコータ、ビルブレードコータ、ショートドウェルコータ、ゲートロールコータ等を必要に応じて選択して用いることができる。
【0083】
顔料塗工層は、紙基材上に設けられることで、用紙の片面或いは両面の表面層として形成され、表面層は1層あるいは必要に応じて2層以上の中間層を設け、多層構造とすることも可能である。なお用紙の両面へ塗工、又は多層構造にする場合、各々の塗工層を形成するための塗布液の量が同一、且つ塗布液に含まれる上記材料の種類及び含有量が同一である必要はなく、上記規定範囲を満たす範囲内で所要の品質レベルに応じて調整して配合されればよい。
【0084】
また用紙の一方の面に顔料塗工層を設けた場合、他方の面に合成樹脂層や接着剤と顔料等からなる塗被層、または帯電防止層等を設けて、カール発生防止、印刷適性付与、及び給排紙適性等を付与することも可能である。
さらに用紙の上記他方の面に種々の加工、例えば粘着、磁性、難燃、耐熱、耐水、耐油、防滑等の後加工を施すことにより、各種の用途適性を付加することも勿論可能である。
【0085】
本発明の用紙は、紙基材表面に上記サイズ剤や、サイズプレス液や、上記顔料塗工層用塗布液等が必要に応じて塗布された後に、スーパーカレンダ、グロスカレンダ、ソフトカレンダ等の平滑化処理装置を用いて平滑化処理するのが好ましい。また、オンマシンやオフマシンで必要に応じて平滑化が施されてもよく、加圧装置の形態、加圧ニップの数、加温等も通常の平滑化処理装置に準じて適宜調節すればよい。
【0086】
−用紙の諸物性等−
本発明の用紙の坪量(JIS P−8124)は特に規定しないが、60g/m以上であることが望ましい。坪量が60g/mを下回ると、用紙のこしが小さくなることより、電子写真方式の画像形成装置に用いられたときに、用紙上に転写されたトナー像を用紙上に定着させる定着工程における、定着装置への巻き付きや、定着装置からの剥離不良にともなう画像欠陥を発生させやすくなるという問題がある。また、同様に、坪量が60g/mを下回ると、電子写真方式やインクジェット方式の画像形成装置に用いられたときに、用紙中に含有されている磁性材料が用紙表面から5μm未満の範囲内に存在し易くなるため、転写抜けが発生してしまう場合がある。
【0087】
なお、平均吸湿速度S2aをより大きくし、式(2)を満たすように制御するという観点からは、用紙の密度を1.0g/cm以下とすることが好ましく、0.9g/cm以下とすることがより好ましい。密度が1.0g/cmを超えると、平均吸湿速度S2aが式(2)を満たすように制御できなくなる場合がある。一方、用紙の密度の下限値は、特に限定されるものではないが、用紙厚みの増大を抑制するという観点からは、0.6g/cm以上とすることが好ましい。
【0088】
一方、平均脱湿速度S1aをより小さくし、式(1)を満たすように制御するという観点からは、用紙のステキヒトサイズ度は、大きい方が好ましく、具体的には40秒以上とすることが好適である。
但し、用紙が単層構成の紙基材のみから構成される場合に、ステキヒトサイズ度が40秒以上であると、画像形成時にトナーが用紙表面に転写されにくくなるなどの問題が発生する場合がある。
従って、ステキヒトサイズ度を調整する場合には、紙基材は、3層の紙基材層から構成され、且つ、用紙厚み方向に対して中央に位置する紙基材層にのみに磁性材料が含まれる層構成を有していることが好ましい。この場合、中央に位置する紙基材層のステキヒトサイズ度を40秒以上とし、中央に位置する紙基材層の両側の紙基材層のステキヒトサイズ度を35秒以下とすることにより、平均脱湿速度S1aをより小さくすることができると共に、トナーの転写不良の発生も抑制することができる。
【0089】
以上に説明した観点からは、中央に位置する紙基材層のステキヒトサイズ度は40秒以上であることが好ましいが、45秒以上であることがより好ましく、50秒以上であることが更に好ましい。なお、ステキヒトサイズ度の上限値は特に限定されるものではないが、実用上は60秒以下とすることが好適である。
一方、中央に位置する紙基材層の両側の紙基材層のステキヒトサイズ度は35秒以下であることが好ましいが、32秒以下であることがより好ましく、30秒以下であることが更に好ましい。なお、ステキヒトサイズ度の下限値は特に限定されるものではないが、実用上は5秒以上とすることが好適である。
紙基材(または紙基材層)のステキヒトサイズ度は、例えば、抄紙に際して用いる紙料スラリーの調整段階で内添サイズ剤を配合することにより、調整することができる。
【0090】
なお、本発明において、ステキヒトサイズ度については、JIS P8111:1998に規定する標準環境(温度23℃、相対湿度50%RH)において測定したJIS P8122:1976にいうステキヒトサイズ度を意味する。
【0091】
さらに、本発明の用紙を23℃50%RH環境下に12時間以上調湿したときの用紙中に含まれる水分の含有率は4.0質量%以上7.0質量%以下の範囲内が好ましく、4.5質量%以上7.0質量%以下の範囲内であることがより好ましい。水分の含有率が4.0質量%未満または7.0質量%を超えると電子写真方式で画像を形成したときに画質が悪化する場合がある。
なお、本発明の用紙は、電子写真方式以外の公知の記録方式、例えばインクジェット方式などを利用して画像を形成するために用いてもよい。
【実施例】
【0092】
以下に、本発明を実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の各実施例、比較例で用いた磁性体ワイヤは全て同じものを使用した。
(実施例1)
LBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)95質量部と、NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)5質量部とを含む紙料スラリー中に、パルプ固形分100質量部に対して、カチオン化デンプン(商品名:MS4600、日本食品化学工業(株)製)0.15質量部およびアルケニル無水コハク酸(ファイブラン81、日本NSC社製)0.1質量部を添加した。
続いて、前記紙料スラリー中に更に保湿剤としてグリセリン(精製グリセリン、花王株式会社製)45重量部と、直径20μm長さ40mmの磁性体ワイヤ(組成:Feベース)を5本混合した。
【0093】
このようにして得られた紙料スラリー(固形分濃度1.0質量%)を用いて配向性抄紙機(熊谷理機工業株式会社製)により、以下の条件で抄紙してシートを作製した。
<抄紙条件>
・ドラム回転速度:1000回転/min
・紙料噴射圧力:1.0kgf/cm
・ストローク回数:9回
【0094】
作製したシートは、角型シートマシンプレス(熊谷理機工業株式会社製)で10kgf/cmの圧力で1分間プレスし、その後KRK回転型乾燥機(熊谷理機工業株式会社製)で加熱温度100℃、回転速度100cm/minで乾燥し、坪量65g/mの用紙を得た。詳細な用紙特性を表1に示す。
【0095】
(実施例2)
グリセリンの配合量を5重量部に変更した紙料スラリーを用い、実施例1と同様にして用紙を作製した。得られた用紙の坪量は68g/mであった。詳細な用紙特性を表1に示す。
【0096】
(実施例3)
保湿剤および磁性材料を配合しなかった以外は実施例1で用いたものと同様に調整した紙料スラリーを用い、実施例1の抄紙条件のうちストローク回数を4回に変更した以外は実施例1と同様にして磁性材料を含まないシートを個別に2つ作製した。各々のシートの坪量は、31g/m(以下、当該シートを「シートA3」と称す。)および32g/m(以下、当該シートを「シートC3」と称す。)であった。
続いて、保湿剤を配合しなかった以外は実施例1で用いたものと同様に調整した紙料スラリーを用い、実施例1の抄紙条件のうちストローク回数を4回に変更した以外は実施例1と同様にして坪量31g/mのシート(以下、当該シートを「シートB4」と称す。)を作製した
【0097】
作製した3つのシートを個別に角型シートマシンプレス(熊谷理機工業株式会社製)で10kgf/cmの圧力で1分間プレスし、その後KRK回転型乾燥機(熊谷理機工業株式会社製)で加熱温度100℃、回転速度100cm/minで乾燥した。
【0098】
次に、シートBの表裏面にポリエステル樹脂(MD−1985 東洋紡績株式会社製)片面あたり3g/mとなるように、ブレードコータにより塗工した。そして、塗工後、直ちに前記シートB3をシートA3およびシートC3ではさみ、KRK回転型乾燥機(熊谷理機工業株式会社製)で加熱温度100℃、回転速度50cm/minで2回乾燥させることにより、3層の紙基材層がバリア層として機能する接着剤層により接合された層構成を有する坪量100g/mの用紙を得た。詳細な用紙特性を表1に示す。
【0099】
(実施例4)
LBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)95質量部と、NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)5質量部とを含む紙料スラリー中に、パルプ固形分100質量部に対して、カチオン化デンプン(商品名:MS4600、日本食品化学工業(株)製)0.05質量部およびアルケニル無水コハク酸(ファイブラン81、王子ナショナル(株)製)0.05質量部を添加した。
続いて、前記紙料スラリー中に更に直径20μm長さ40mmの磁性体ワイヤ(組成:Feベース)を5本混合した。
【0100】
このようにして得られた紙料スラリー(固形分濃度1.0質量%)を用いて配向性抄紙機(熊谷理機工業株式会社製)により、以下の条件で抄紙してシートを作製した。
<抄紙条件>
・ドラム回転速度:1000回転/min
・紙料噴射圧力:1.0kgf/cm
・ストローク回数:9回
【0101】
作製したシートは、角型シートマシンプレス(熊谷理機工業株式会社製)で10kgf/cmの圧力で1分間プレスし、その後KRK回転型乾燥機(熊谷理機工業株式会社製)で加熱温度100℃、回転速度100cm/minで乾燥し、坪量66g/mの用紙を得た。詳細な用紙特性を表1に示す。
【0102】
(実施例5)
保湿剤および磁性材料を配合しなかった以外は実施例1で用いたものと同様に調整した紙料スラリーを用い、実施例1の抄紙条件のうちストローク回数を4回に変更した以外は実施例1と同様にして磁性材料を含まないシートを個別に2つ作製した。各々のシートの坪量は、35g/m(以下、当該シートを「シートA4」と称す。)および34g/m(以下、当該シートを「シートC4」と称す。)であった。
【0103】
続いて、LBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)95質量部と、NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)5質量部とを含む紙料スラリー中に、パルプ固形分100質量部に対して、カチオン化デンプン(商品名:MS4600、日本食品化学工業(株)製)0.15質量部およびアルケニル無水コハク酸(ファイブラン81、日本NSC社製)0.6質量部を添加し、続いて、直径20μm長さ40mmの磁性体ワイヤ(組成:Feベース)を5本混合した。
【0104】
このようにして得られた紙料スラリー(固形分濃度1.0質量%)を用いて、配向性抄紙機(熊谷理機工業株式会社製)により、以下の条件で抄紙して坪量36g/mのシート(以下、当該シートを「シートB4」と称す。)を作製した。
<抄紙条件>
・ドラム回転速度:1000回転/min
・紙料噴射圧力:1.0kgf/cm
・紙料噴出角度:60°
・ストローク回数:4
【0105】
次に、作製した3つのシートをシートBが中央の層(中心層)となるようにシートAおよびシートCで挟み込み、角型シートマシンプレス(熊谷理機工業株式会社製)で10kgf/cmの圧力で1分間プレスし、その後KRK回転型乾燥機(熊谷理機工業株式会社製)で加熱温度100℃、回転速度100cm/minで乾燥した。これにより、3層の紙基材層が積層された層構成を有する坪量105g/mの用紙を得た。詳細な用紙特性を表1に示す。
【0106】
(比較例1)
LBKP(広葉樹晒クラフトパルプ)95質量部と、NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)5質量部とを含む紙料スラリー中に、パルプ固形分100質量部に対して、カチオン化デンプン(商品名:MS4600、日本食品化学工業(株)製)0.15質量部およびアルケニル無水コハク酸(ファイブラン81、日本NSC社製)0.2質量部を添加した。
【0107】
このようにして得られた紙料スラリー(固形分濃度1.0質量%)を用いて配向性抄紙機(熊谷理機工業株式会社製)により、以下の条件で抄紙してシートを2枚作製した。
<抄紙条件>
・ドラム回転速度:1000回転/min
・紙料噴射圧力:1.0kgf/cm
・ストローク回数:4回
【0108】
作製したシートは、角型シートマシンプレス(熊谷理機工業株式会社製)で10kgf/cmの圧力で1分間プレスし、その後KRK回転型乾燥機(熊谷理機工業株式会社製)で加熱温度100℃、回転速度100cm/minで乾燥し、シートA’1(坪量32g/m)、シートC’1(坪量33g/m)を得た。
【0109】
次に、実施例4で用いたものと同様の紙料スラリーを用い、以下の条件で抄紙してシート(シートB’1)を作製した。
<抄紙条件>
・ドラム回転速度:1000回転/min
・紙料噴射圧力:1.0kgf/cm
・ストローク回数:4回
【0110】
作製したシートは、角型シートマシンプレス(熊谷理機工業株式会社製)で10kgf/cmの圧力で1分間プレスし、その後KRK回転型乾燥機(熊谷理機工業株式会社製)で加熱温度100℃、回転速度100cm/minで乾燥し、シートB’1(坪量34g/m)を得た。
【0111】
次に、作製した3つのシートをシートB’1が中央の層(中心層)となるようにシートA’1およびシートC’1で挟み込み、角型シートマシンプレス(熊谷理機工業株式会社製)で10kgf/cmの圧力で1分間プレスし、その後KRK回転型乾燥機(熊谷理機工業株式会社製)で加熱温度100℃、回転速度100cm/minで乾燥した。これにより、3層の紙基材層が積層された層構成を有する坪量99g/mの用紙を得た。詳細な用紙特性を表1に示す。
【0112】
−評価−
用紙の存在の検出精度を評価するために、図3に示す検出ゲート(ユニパルス株式会社製、磁性ワイヤ方式物品監視システム、商品名;SAS)を用いて、用紙中に含まれる磁性材料に起因するパルス信号を測定した。
【0113】
評価に用いた検出ゲートは、交番磁界を形成する励磁コイルと用紙100中の磁性体ワイヤーの磁化反転を検出する検出コイルとを備えた2つの検出器を対にして配置したものである。図3は、実施例の評価に用いた検出ゲートの構成を示す概略模式図であり、図3(A)は検出ゲートの正面図であり、図3(B)は、検出ゲートを構成する一方の検出器を側面から観察した場合(図3(A)中の矢印X方向から観察した場合)の側面図であり、図3(C)は、検出ゲートを構成する一方の検出器を上方から観察した場合(図3(A)中の矢印Y方向から観察した場合)の上面図である。また、図中、100が(A4サイズの)用紙、300が検出ゲート、302が第1の検出器、304が第2の検出器、400が床面を表し、また、Hは床面400から用紙100までの高さ、Eが第1の検出器302の(長辺側の)側端部から用紙100の短辺の中心点までの距離を表す。
【0114】
図3に示すように検出ゲート300は、床面400上に対向配置された第1の検出器302と第2の検出器304とから構成され、検出器302および304は同等の構成を有し、その高さは約1.5mである。また、2つの検出器302、304間の距離は約0.9mである。
ここで、パルス信号の測定は、23℃30%RH環境下にて、図3に示すように用紙100を床面400と平行にした状態で、用紙100の一方の短辺を検出器302の検出器304が配置された側の面に接触させて静止した状態で実施した。なお、床面400から用紙100までの高さHは1250mmとし、検出ゲート302の側端部から用紙100の短辺の中心点までの距離Eは200mmとした。また、測定に際しては、検出器302の用紙を接触させる面内において、床面からの高さH、検出器302の側端部からの距離Eの位置の交番磁界の最大強度が、9.2Oeとなるように設定した。
【0115】
なお、検出ゲート300により検出されたパルス信号はディジタルオシロスコープ(DL1540 横河電機株式会社製)に取り込み、パルスのピーク値の電圧をパルス値とした。
【0116】
パルス値としては、各々の実施例、比較例で作製した用紙について定着前の用紙のパルス値(初期パルス値)と、画像形成装置により画像を形成した後のパルス値(定着後パルス値)とを測定した。
ここで、初期パルス値は、画像形成テスト前の用紙を23℃50%RH環境下で12時間以上調湿した後に測定した。
【0117】
また、定着後パルス値は、画像形成テスト前の23℃50%RH環境下で12時間以上調湿された用紙を用いて画像形成装置(富士ゼロックス株式会社製、DocuCentreColor f450)により、普通紙Aモード、フルカラーモードで白紙画像を両面プリントし、両面プリントが終了した後の用紙を検出ゲート300まで移動させて図3に示す状態に配置して測定した。
ここで、定着後パルス値は、用紙の両面プリントが終了して画像形成装置から排紙された直後(2回目の定着直後)の時点を始点として30秒後に測定したパルス値を意味する。
なお、2回目の定着直後から30秒後にパルス値を測定した理由は、画像形成装置が配置された部屋の出入り口に検出ゲートが配置されたオフィスにおいて、画像形成装置により画像を出力した人間が、用紙を持って部屋の外へと移動するといった典型的なケースを想定したものである。
【0118】
そして、初期パルス値および定着後パルス値から、下式(5)に基づいてパルス値変化量T(%)を求めた。結果を表1に示す。
・式(5) パルス値変化量T=(定着後パルス値/初期パルス値)×100
なお、このパルス値変化量Tが小さいほど、用紙の検出精度が低下する傾向にあるものといえる。
【0119】
なお、表1中に示す評価グレードの判定基準は以下の通りである。
G0:T=80以上100以下。
G1:T=50以上80未満。
G2:T=30以上50未満。
G3:T=30未満。
【0120】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】画像形成前後における用紙から検出されるパルス信号の強度変化の一例を示すグラフである。
【図2】大バルクハウゼン効果を説明するための図である。
【図3】実施例の評価に用いた検出ゲートの構成を示す概略模式図である。
【符号の説明】
【0122】
100 用紙
300 検出ゲート
302 第1の検出器
304 第2の検出器
400 床面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ繊維と大バルクハウゼン効果を起こす磁性材料とを少なくとも含み、下式(1)を満たすことを特徴とする電子写真用転写紙。
・式(1) 0.15≧平均脱湿速度S1a
〔式(1)中、前記平均脱湿速度S1a(質量%/秒)とは、5枚の用紙の脱湿速度S1の平均値を意味し、ここで脱湿速度S1は、下式(1A)で表される値を意味する。〕
・式(1A) 脱湿速度S1=(W1a−W1b)/30
〔式(1A)中、W1aは、23℃50%RH環境下で12時間以上調湿された用紙中に含まれる水分の含有率(質量%)を表し、W1bは、23℃50%RH環境下で調湿された後の前記用紙を80℃の環境下にて30秒間放置して脱湿処理した後の用紙中に含まれる水分の含有率(質量%)を表し、式中の分母に示される定数値は、前記脱湿処理に要した時間(30秒)を意味する。〕
【請求項2】
パルプ繊維と大バルクハウゼン効果を起こす磁性材料とを少なくとも含み、下式(2)を満たすことを特徴とする電子写真用転写紙。
・式(2) 平均吸湿速度S2a≧0.045
〔式(2)中、前記平均吸湿速度S2a(質量%/秒)とは、5枚の用紙の吸湿速度S2の平均値を意味し、ここで吸湿速度S2は、下式(2A)で表される値を意味する。〕
・式(2A) 吸湿速度S2=(W2b−W2a)/30
〔式(2A)中、W2aは、10℃15%RH環境下で12時間以上調湿された用紙中に含まれる水分の含有率(質量%)を表し、W2bは、10℃15%RH環境下で調湿された後の前記用紙を28℃85%RH環境下にて30秒間放置して吸湿処理した後の用紙中に含まれる水分の含有率(質量%)を表し、式中の分母に示される定数値は、前記吸湿処理に要した時間(30秒)を意味する。〕
【請求項3】
下式(3)を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の電子写真用転写紙。
・式(3) |平均吸湿速度S2a/平均脱湿速度S1a|≧0.3
〔式(3)中、平均脱湿速度S1aは、式(1)中に示されるものと同様の値を意味し、平均吸湿速度S2aは、式(2)中に示されるものと同様の値を意味する。〕
【請求項4】
前記磁性材料は、長さが10mm以上430mm以下の範囲内であり、且つ、直径が10μm以上90μm以下の範囲内であるワイヤ状の磁性材料であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の電子写真用転写紙。
【請求項5】
保湿剤を含み、前記保湿剤の含有量が前記パルプ繊維100質量部に対して0質量部を超え50質量部以下の範囲内であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の電子写真用転写紙。
【請求項6】
バリア材料を含むバリア層を有し、
前記バリア層が、前記パルプ繊維と前記磁性材料とを少なくとも含む層の両側に配置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の電子写真用転写紙。
【請求項7】
23℃50%RH環境下で12時間以上調湿した後の用紙中に含まれる水分の含有率が4.0質量%以上7.0質量%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の電子写真用転写紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−224985(P2008−224985A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−62348(P2007−62348)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】