説明

電子写真装置及びプロセスカートリッジ

【課題】良好な注入帯電を行うことができ、優れた画像を得ることができ、かつ感光体の耐久寿命の十分長い電子写真装置およびプロセスカートリッジを提供する。
【解決手段】電子写真感光体、該電子写真感光体に接触配置され、電圧を印加されることにより該電子写真感光体を帯電する帯電部材、露光手段、現像手段及び転写手段を有する電子写真装置において、該電子写真感光体がラジカル硬化されていない感光層と、ラジカル硬化組成物及び導電性微粒子を含有する表面層を有し、該ラジカル硬化組成物中に少なくとも下記一般式(A)で表される構造単位を含有し、かつ該帯電が注入帯電であることを特徴とする電子写真装置。


(式中、Ar1、Ar2、Ar3はそれぞれ置換基を有しても良いアリーレン基を表し、Xは酸素原子又はイオウ原子を表し、nは0又は1を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた画像を得ることができる電子写真装置及びプロセスカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子写真における帯電方法としては、コロナ帯電方法や接触帯電方法が使用されてきた。
コロナ帯電方法には、コロトロン方式とグリッドを有するスコロトロン方式があり、金属板で遮蔽されたハウジングの中央に帳架されたタングステンやニッケルのチャージワイヤーに、直流もしくは交流を重畳した直流電圧を印加する事によりコロナ放電を起こし、感光体を帯電する方法である。しかしこの方法では、チャージワイヤーに高電圧を印加するために、オゾンや窒素酸化物などが生成される。この生成物は、環境的側面ばかりでなく、感光体に対しても、耐久性や画像特性に対し、悪影響を及ぼすことが知られている。
【0003】
近年、この方法に代わり、低オゾン、低電力を目的として、接触帯電方法が、実用化されてきている。接触帯電方法は、感光体に102〜1010Ω・cm程度の抵抗を持つ帯電部材に、直流もしくは交流を重畳した直流電圧を印加し、感光体に加圧当接させ、電荷を付与する方法である。この帯電方法は、パッシェンの法則に従い、帯電部材から被帯電体への放電によって行われるため、あるしきい値電圧以上の電圧を印加することによって帯電が開始される。この接触帯電方法は、コロナ帯電方法と比較すると、帯電部材への印加電圧は、低くなるが、放電が伴うために、少量のオゾン及び窒素酸化物が発生する。
【0004】
このために、新たなる帯電方式として、感光体への電荷の直接注入による帯電方式が特許文献1に開示されている。この帯電方式は、電荷注入層を感光体表面に設け、帯電ローラ、帯電ブラシ、帯電磁気ブラシ等の接触導電部材に電圧を印加し、電荷を接触により、注入帯電を行なう方法である。この帯電方式では、ほとんど放電現象を伴わずに、印加電圧に対して、ほぼ1対1の帯電が可能なため、従来の接触帯電方式と比べると、オゾン、NOx発生量が、非常に少なく、低電力の優れた帯電方式である。
【0005】
これらの電荷注入帯電を行うために感光体に設けられる電荷注入層は、樹脂中に、酸化すずなどの金属酸化物を分散させたものが用いられている。これらの金属酸化物と樹脂で構成される電荷注入層は、金属酸化物の分散ムラなどにより、感光体表面の帯電ムラが生じやすく、さらに、接触帯電部やトナー現像部、転写部での接触による耐久性が劣ることが明らかとなった。
また、従来注入帯電に用いる試みがなされた電子写真感光体では帯電部材から感光体表面への電荷の注入性が十分ではなく、注入帯電を良好に行うためには、帯電部材と感光体表面との接触面積を十分確保し、かつ接触圧を高くし帯電に十分長い時間をかける必要があった。
【0006】
しかし、このように帯電部材と感光体表面の接触圧を高くした場合には、繰り返し使用時において帯電部材と感光体表面との摺擦によって感光体表面にキズが発生し、また表面が削れ、これによって感光体の耐久寿命が決定されていた。
これに対し、特許文献2に記載の感光体は、比較的高い極性基であるアクリロイル基を1分子中に3個以上もった光硬化型アクリル系モノマー中に導電性粒子を分散させ、これを感光体の感光層上に塗布、光硬化させることによって形成した表面層を用いることで、膜強度及び導電性微粒子の分散性を供に向上させている。
【0007】
上記のような技術により導電性微粒子の分散性及び膜強度を改良してきたが、高い耐摩耗性を狙い官能基量を増やすと膜強度は増加するが硬化時の収縮率が大きく、電子写真感光体においては下層となる感光層にクラックの発生を引き起こすため、導電性微粒子の分散性が良く、十分な膜強度を有し、かつ、収縮率の小さい硬化系表面層の形成は困難であった。
【特許文献1】特開平6−003921号公報
【特許文献2】特開平6−35220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、良好な注入帯電を行うことができ、優れた画像を得ることができ、かつ感光体の耐久寿命の十分長い電子写真装置およびプロセスカートリッジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、次の(1)〜(9)により上記目的を達成できることを見出して、本発明を完成するに至った。
(1)電子写真感光体、該電子写真感光体に接触配置され、電圧を印加されることにより該電子写真感光体を帯電する帯電部材、露光手段、現像手段及び転写手段を有する電子写真装置において、該電子写真感光体がラジカル硬化されていない感光層と、ラジカル硬化組成物及び導電性微粒子を含有する表面層を有し、該ラジカル硬化組成物中に少なくとも下記一般式(A)で表される構造単位を含有し、かつ該帯電が注入帯電であることを特徴とする電子写真装置。
【化1】

(式中、Ar1、Ar2、Ar3はそれぞれ置換基を有しても良いアリーレン基を表し、Xは酸素原子又はイオウ原子を表し、nは0又は1を表す。)
【0010】
(2)前記電子写真感光体の表面層が、少なくとも導電性微粒子及び下記一般式(B)で表されるラジカル重合性化合物を含有する塗工液を感光層表面に塗工した後、該塗膜中のラジカル重合性化合物をラジカル硬化させることによって形成されることを特徴とする前記(1)記載の電子写真装置。
【化2】

(式中、Ar1、Ar2、Ar3はそれぞれ置換基を有しても良いアリーレン基を表し、R1、R2はそれぞれ水素原子又はメチル基を表し、R5及びR6はぞれぞれ炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状アルキレン基、1−ケトへキシレン基を表し、i、jは0〜4の整数を表し、Xは酸素原子又はイオウ原子を表し、nは0又は1を表す。)
【0011】
(3)前記電子写真感光体の表面層が、少なくとも導電性微粒子及び下記一般式(C)で表されるラジカル重合性化合物を含有する塗工液を感光層表面に塗工した後、該塗膜中のラジカル重合性化合物をラジカル硬化させることによって形成されることを特徴とする前記(1)記載の電子写真装置。
【化3】

(式中、Ar1、Ar2、Ar3はそれぞれ置換基を有しても良いアリーレン基を表し、R1、R2、R3、R4はそれぞれ水素原子又はメチル基を表し、Xは酸素原子又はイオウ原子を表し、nは0又は1を表す。)
【0012】
(4)前記電子写真感光体の表面層が、少なくとも導電性微粒子及び下記一般式(D)で表されるラジカル重合性化合物を含有する塗工液を感光層表面に塗工した後、該塗膜中のラジカル重合性化合物をラジカル硬化させることによって形成されることを特徴とする前記(1)記載の電子写真装置。
【化4】

(式中、Ar1、Ar2、Ar3はそれぞれ置換基を有しても良いアリーレン基を表し、R1、R2はそれぞれ水素原子又はメチル基を表し、Xは酸素原子又はイオウ原子を表し、nは0又は1を表し、mは1〜50の整数を表す。)
【0013】
(5)前記電子写真感光体の表面層が、少なくとも導電性微粒子及び前記一般式(B)、(C)、(D)で表されるラジカル重合性化合物のいずれかと、更にラジカル重合性官能基を3つ以上有するモノマーを含有する塗工液を感光層表面に塗布して塗膜を形成し、該塗膜中のラジカル重合性化合物及びラジカル重合性官能基を3つ以上有するモノマーをラジカル硬化させることによって形成されることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の電子写真装置。
(6)前記電子写真感光体の表面層が、光のエネルギーを用いた手段で硬化されていることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の電子写真装置。
(7)前記導電性微粒子が金属酸化物であることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載の電子写真装置。
【0014】
(8)前記電子写真感光体のラジカル硬化されていない感光層が、導電性支持体上に少なくとも電荷発生層と電荷輸送層を順次積層した構成をとることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかに記載の電子写真装置。
(9)前記(1)〜(8)のいずれかに記載の電子写真装置に用いるプロセスカートリッジであって、電子写真感光体と、更に帯電手段、露光手段、現像手段、転写手段、クリーニング手段、除電手段から選択される少なくとも1つの手段とが一体となり、電子写真装置と着脱自在であることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るラジカル硬化されていない感光層と、一般式(A)の構造を含むラジカル硬化組成物及び導電性微粒子を含有する表面層とを有する電子写真感光体は、導電性微粒子の分散性がよく、優れた膜強度を有し、かつ収縮率が小さく、クラックの発生がない。したがって、前記電子写真感光体を、電荷を直接注入する帯電方式の電子写真装置に用いることにより、良好な注入帯電を行うことができ、優れた画像を得ることができ、かつ感光体の耐久寿命が十分長い電子写真装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明においては、表面層を形成するラジカル硬化組成物の構造中に下記一般式(A)の化学構造を組み込むことにより、優れた膜強度と同時に、収縮率の小さい硬化系表面層の形成ができ、クラックの発生を抑制できることが判明した。
【化5】

(式中、Ar1、Ar2、Ar3はそれぞれ置換基を有しても良いアリーレン基を表し、Xは酸素原子又はイオウ原子を表し、nは0又は1を表す。)
【0017】
<優れた膜強度かつ耐クラック性発現理由に関して>
従来、ラジカル硬化性組成物からなる表面層は、緻密な3次元網目構造が形成でき、これにより高い膜強度が発揮されることが知られていた。特開2004−302451号公報、特開2006−003863号公報に記載されているように、膜強度を支配する要因は硬化組成物中のラジカル硬化性官能基量を増やすことが重要で、例えばアクリル基の場合アクリル当量(モノマー分子量を官能基数で割った値)の小さいモノマーを用いることで、より緻密な3次元架橋構造が形成され、高い耐摩耗性が達成されることが開示されている。また、官能基数が多いモノマー、例えば3官能以上のモノマー、更には6官能モノマーを用いることも耐摩耗性向上に有効であり、官能基の中の少なくとも1つが重合することで分子量が増大する確率が高まることによる。従って、2官能以下のモノマーを主成分として用いると膜強度が低下し、表面層の耐摩耗性が低下することが予想されるものであった。
【0018】
一方官能基の数が多いほど膜の硬度は高く、摺擦による表面の摩耗やキズの発生は少なくなる。しかしながら官能基の多いものほど、硬化時の膜の収縮率が大きく、電子写真感光体においては、表面層や下層となる感光層にクラックの発生を引き起こす場合があった。
【0019】
これに対し、本発明ではラジカル硬化組成物中に一般式(A)で表される構造単位を含有させることで、前記多官能モノマーを用いた場合に以上の膜強度が得られることが判明した。これは、従来の技術には見られないものである。この理由は明らかではないが以下のように推測される。硬化組成物中に一般式(A)の構造単位を含有させる場合、上記公報文献記載の多官能脂肪族モノマーに比べ官能基の割合は希薄となり、機械的強度が低下すると考えられていた。しかし、架橋密度は低下するものの、直鎖状ポリマーでみられる分子間の絡み合いの効果(この場合は一般式(A)の構造間の絡み合い)が発現するものと推定される。また、一般式(A)のπ電子共役系同士によるπ−πスタッキング効果が発現する。特に、一般式(A)の構造においてはビスフェノールA構造と異なり、2つのベンゼン環の中心が酸素原子、硫黄原子であるため平面性が高いため、スタッキングの力が更に強まり、これにより上記効果が顕著に表れると考えられる。感光体の摩耗は、クリーニング作用からの熱や帯電器の放電により切断された分子が現像剤やクリーニングブレードで引き抜かれることで起こるため、絡み合いやスタッキングの力が分子の引き抜きを防止し、摩耗の抑制に繋がったと推測される。
【0020】
更に、分子間の絡み合い及びπ−πスタッキングによる分子間相互作用により、硬化時の膜収縮を大幅に抑制でき、硬化膜の強度をほとんど落とすことがなく、下層となる感光層へのクラックを抑制できたと、推測される。
【0021】
<優れた導電性微粒子分散性に関して>
また、一般式(A)の構造単位を有する硬化組成物を含有する表面層は、少なくとも導電性微粒子及び一般式(B)、(C)、(D)のいずれかのラジカル重合性化合物を含有する塗工液を用いて形成されることが好ましい。一般式(B)、(C)、(D)で示すラジカル重合性化合物は、アクリル基又はメタクリル基をもっているため、比較的高い極性を有する。このため、該ラジカル重合性化合物を含有する結着樹脂に、導電性微粒子を分散させることによって、分散粒子の二次粒子の形成もなく、経時的にも安定した分散性の良い塗工液が得られる。さらに、この塗工液より形成した表面層は、透明度が良く、耐水性、耐薬品性などの耐環境性に優れた膜が得られる。
【0022】
上記のような理由から、本発明の硬化組成物中に一般式(A)の構造単位を含有させることで、優れた膜強度と同時に、収縮率の小さい硬化系表面層の形成ができ、クラックの発生を抑制できる表面層が達成できたと考えられる。
【0023】
<ラジカル硬化組成物に関して>
次に、本発明の表面層を形成するラジカル硬化組成物の構成成分について説明する。
本発明は、前記ラジカル硬化組成物中に一般式(A)の構造単位を含有させるものであるが、かかる構造単位を有するラジカル重合性モノマー、ラジカル重合性オリゴマー又はラジカル重合性官能基を有するポリマー等のラジカル重合性化合物を、光、熱又は電子線等の放射線エネルギーにより硬化することで、表面層中の硬化物構造中に導入される。この硬化に際し、一般式(A)の構造単位は分解することなく固定化され、硬化表面層を熱分解GC分析によるMSスペクトル測定、赤外分光分析による特性吸収測定等で確認できる。一般式(A)の構造単位は全ラジカル硬化組成物量に対し5〜80重量%、好ましくは10〜50重量%である。5重量%未満では硬化収縮によるクラックを抑制できない。また、80重量%を超えると硬化性官能基が少ないため耐摩耗性、耐傷性などの機械的強度が低下したり、膜厚が厚くなると残留電位上昇することがある。
【0024】
上記ラジカル重合性モノマー、オリゴマー、ポリマーはラジカル重合性官能基を有しているが、この官能基とは炭素−炭素2重結合を有し、ラジカル重合可能な基であれば何れでもよい。これらラジカル重合性官能基としては、例えば、下記に示す1−置換エチレン官能基、1,1−置換エチレン官能基等が挙げられる。
【0025】
(1)1−置換エチレン官能基としては、例えば以下の式で表される官能基(P)が挙げられる。
官能基(P)
CH2=CH−X1
(ただし、式中、X1は、置換基を有していてもよいフェニレン基、ナフチレン基等のアリーレン基、置換基を有していてもよいアルケニレン基、−CO−基、−COO−基、−CON(R21)−基(R21は、水素、メチル基、エチル基等のアルキル基、ベンジル基、ナフチルメチル基、フェネチル基等のアラルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基を表わす。)、または−S−基を表わす。)
これらの置換基を具体的に例示すると、ビニル基、スチリル基、2−メチル−1,3−ブタジエニル基、ビニルカルボニル基、アクリロイルオキシ基、アクリロイルアミド基、ビニルチオエーテル基等が挙げられる。
【0026】
(2)1,1−置換エチレン官能基としては、例えば以下の式で表される官能基(R)が挙げられる。
官能基(R)
CH2=C(Y)−X2
(ただし、式中、Yは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基等のアリール基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、メトキシ基あるいはエトキシ基等のアルコキシ基、−COOR22基(R22は、水素原子、置換基を有していてもよいメチル基、エチル基等のアルキル基、置換基を有していてもよいベンジル、フェネチル基等のアラルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基等のアリール基)、または−CONR2324(R23およびR24は、水素原子、置換基を有していてもよいメチル基、エチル基等のアルキル基、置換基を有していてもよいベンジル基、ナフチルメチル基、あるいはフェネチル基等のアラルキル基、または置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基等のアリール基を表わし、互いに同一または異なっていてもよい。)、また、X2は官能基(P)のX1と同一の置換基及び単結合、アルキレン基を表わす。ただし、Y、X2の少なくとも何れか一方がオキシカルボニル基、シアノ基、アルケニレン基、及び芳香族環である。)
これらの置換基を具体的に例示すると、α−塩化アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、α−シアノエチレン基、α−シアノアクリロイルオキシ基、α−シアノフェニレン基、メタクリロイルアミノ基等が挙げられる。
【0027】
なお、これらX1、X2、Yについての置換基にさらに置換される置換基としては、例えばハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基等のアリールオキシ基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基等が挙げられる。
これらのラジカル重合性官能基の中では、特にアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基が有用であり、アクリロイルオキシ基を有する化合物は、例えば水酸基がある化合物とアクリル酸(塩)、アクリル酸ハライド、アクリル酸エステルを用い、エステル化反応あるいはエステル交換反応させることにより得ることができる。また、メタクリロイルオキシ基を有する化合物も同様にして得ることができる。ラジカル硬化性官能基を複数有する場合、それらが同一であっても異なっても良い。
【0028】
<一般式(B)のラジカル重合性化合物に関して>
一般式(A)の構造単位を導入するには、下記一般式(B)で表されるラジカル重合性化合物を含有する塗工液を感光層上に塗工した後、ラジカル硬化させることが特に好ましい。
【化6】

(式中、Ar1、Ar2、Ar3はそれぞれ置換基を有しても良いアリーレン基を表し、R1、R2はそれぞれ水素原子又はメチル基を表し、R5及びR6はぞれぞれ炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状アルキレン基、1−ケトへキシレン基を表し、i、jは0〜4の整数を表し、Xは酸素原子又はイオウ原子を表し、nは0又は1を表す。)
【0029】
一般式(B)で表されるラジカル重合性化合物は、例えば以下の製造法により容易に合成することができる。
<n、mがいずれも0の場合>
B1−1工程
【化7】

【0030】
<n、mが0以外の場合>
B2−1工程
【化8】

【0031】
B2−2工程
【化9】

【0032】
一般式Bで表されるラジカル重合性化合物としては、以下のものが例示されるが、これらの化合物に限定されるものではない。
【化10】

【0033】
【化11】

【0034】
【化12】

【0035】
【化13】

【0036】
【化14】

【0037】
【化15】

【0038】
【化16】

【0039】
【化17】

【0040】
【化18】

【0041】
【化19】

【0042】
【化20】

【0043】
【化21】

【0044】
<一般式(C)のラジカル重合性化合物に関して>
一般式(A)の構造単位を導入するには、下記一般式(C)で表されるラジカル重合性化合物を含有する塗工液を感光層上に塗工した後、ラジカル硬化させることが特に好ましい。
【化22】

(式中、Ar1、Ar2、Ar3はそれぞれ置換基を有しても良いアリーレン基を表し、R1、R2、R3、R4はそれぞれ水素原子又はメチル基を表し、Xは酸素原子又はイオウ原子を表し、nは0又は1を表す。)
【0045】
一般式(C)で表されるラジカル重合性化合物は、例えば以下の製造法により容易に合成することができる。
C1−1工程
【化23】

【0046】
C1−2工程
【化24】

【0047】
また、C1−1工程を次の方法(C2−1&C2−2)に変えても容易に合成できる。
C2−1工程
【化25】

【0048】
C2−2工程
【化26】

【0049】
また、一般式(C)のR1〜R4が全て同じ基である場合は、下記C3工程により合成することができる。
C3−1工程
【化27】

【0050】
C3−2工程
【化28】

【0051】
以上の各工程における反応条件は、従来公知のエポキシ環のヒドロキシ基への開環付加反応や酸クロリドとヒドロキシ基によるエステル化反応の条件にて行うことができる。
また、工程に記載以外の従来合成方法を適用することも可能である。例えば、(メタ)アクリロイル化の工程を上記工程では、酸クロリドとヒドロキシ基との反応を用いて例示したが、適応する酸とヒドロキシ基との脱水縮合反応を用いることも可能であり、また、アクリロイル化では、下記(C4)に示す反応を適用することもできる。
【0052】
C4工程
【化29】

【0053】
一般式(C)で表されるラジカル重合性化合物としては、以下のものが例示されるが、これらの化合物に限定されるものではない。
【化30】

【0054】
【化31】

【0055】
<一般式(D)のラジカル重合性化合物に関して>
一般式(A)の構造単位を導入するには、下記一般式(D)で表されるラジカル重合性化合物を含有する塗工液を感光層上に塗工した後、ラジカル硬化させることが特に好ましい。
【化32】

(式中、Ar1、Ar2、Ar3はそれぞれ置換基を有しても良いアリーレン基を表し、R1、R2はそれぞれ水素原子又はメチル基を表し、Xは酸素原子又はイオウ原子を表し、nは0又は1を表し、mは1〜50の整数を表す。)
【0056】
一般式(D)のラジカル重合性化合物は下記の経路で合成される。
D1−1工程
【化33】

【0057】
D1−2工程
【化34】

【0058】
一般式(D)で表されるラジカル重合性化合物としては、以下のものが例示されるが、これらの化合物に限定されるものではない。
【化35】

【0059】
【化36】

【0060】
本発明に好適に用いられる一般式(B)、(C)、(D)のラジカル重合性化合物は、硬化性を有する構成物質全量に対し10〜100重量%、好ましくは20〜70重量%である。これらのラジカル重合性化合物が10重量%未満では、硬化組成物中における一般式(A)の構造単位が希薄となり、硬化収縮によるクラックを抑制できない。また、70重量%を超えると硬化性官能基が少ないため耐摩耗性、耐傷性などの機械的強度が低下したり、膜厚が厚くなると残留電位が上昇することがある。
【0061】
<ラジカル重合性官能基を3つ以上有するモノマーに関して>
本発明の表面層は一般式(A)の構造単位を有する硬化組成物を含有しているが、耐摩耗性、硬度、塗工液粘度、硬化速度等を調節する目的で、ラジカル重合性官能基を3つ以上有するモノマーを混合使用することができる。このラジカル重合性官能基としては、先のラジカル重合性化合物で示したものが挙げられ、特にアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基が有用である。
【0062】
3官能以上のラジカル重合性モノマーとしては、以下のものが例示されるが、これらの化合物に限定されるものではない。
すなわち、本発明において好適に用いられる3官能以上のラジカル重合性モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパンアルキレン変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキシ変性(以後EO変性)トリアクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキシ変性(以後PO変性)トリアクリレート、トリメチロールプロパンカプロラクトン変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンアルキレン変性トリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、グリセロールトリアクリレート、グリセロールエピクロロヒドリン変性(以後ECH変性)トリアクリレート、グリセロールEO変性トリアクリレート、グリセロールPO変性トリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、ジペンタエリスリトールカプロラクトン変性ヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、アルキル化ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、アルキル化ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、アルキル化ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、リン酸EO変性トリアクリレート、2,2,5,5,−テトラヒドロキシメチルシクロペンタノンテトラアクリレートなどが挙げられ、これらは、単独又は2種類以上を混合使用することもできる。
【0063】
本発明に混合使用できるラジカル重合性官能基を3つ以上有するモノマーの量は、硬化性を有する構成物質全量に対し0〜90重量%、好ましくは0〜50重量%であり、本発明の目的とする十分な膜強度を有し、硬化収縮におけるクラッキングを抑制するには、一般式(B)、(C)、(D)のラジカル重合性化合物に対し等量以下にすることが好ましい。
【0064】
<その他のラジカル重合性官能基を有する添加剤に関して>
本発明の表面層は、上記一般式(A)で表される構造単位を含有するものであるが、これ以外に塗工時の粘度調整、表面層の応力緩和、低表面エネルギー化や摩擦係数低減などの機能付与の目的で1官能及び2官能のラジカル重合性モノマー、機能性モノマー、及びラジカル重合性オリゴマーを併用することができる。これらのラジカル重合性モノマー、オリゴマーとしては、公知のものが利用できる。
【0065】
1官能のラジカル重合性モノマーとしては、例えば、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−エチルヘキシルカルビトールアクリレート、3−メトキシブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソブチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、セチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ステアリルアクリレート、スチレンモノマーなどが挙げられる。
【0066】
2官能のラジカル重合性モノマーとしては、例えば、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ビスフェノールA−EO変性ジアクリレート、ビスフェノールF−EO変性ジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレートなどが挙げられる。
【0067】
機能性モノマーとしては、例えば、オクタフルオロペンチルアクリレート、2−パーフルオロオクチルエチルアクリレート、2−パーフルオロオクチルエチルメタクリレート、2−パーフルオロイソノニルエチルアクリレートなどのフッ素原子を置換したもの、特公平5−60503号公報、特公平6−45770号公報記載のシロキサン繰り返し単位:20〜70のアクリロイルポリジメチルシロキサンエチル、メタクリロイルポリジメチルシロキサンエチル、アクリロイルポリジメチルシロキサンプロピル、アクリロイルポリジメチルシロキサンブチル、ジアクリロイルポリジメチルシロキサンジエチルなどのポリシロキサン基を有するビニルモノマー、アクリレート及びメタクリレートが挙げられる。
【0068】
ラジカル重合性オリゴマーとしては、例えば、エポキシアクリレート系、ウレタンアクリレート系、ポリエステルアクリレート系オリゴマーが挙げられる。
但し、1官能及び2官能のラジカル重合性モノマーやラジカル重合性オリゴマーを多量に含有させると表面層の3次元架橋結合密度が実質的に低下し、耐摩耗性の低下を招く。このためこれらのモノマーやオリゴマーの含有量は、表面層の硬化性を有する構成物質全量に対し30重量%以下、好ましくは20重量%以下に制限される。
【0069】
<重合開始剤に関して>
また、本発明の表面層はラジカル硬化組成物中に少なくとも上記一般式(A)で表される構造単位を含有するものであるが、必要に応じて硬化反応を効率よく進行させるために表面層塗布液中に重合開始剤を含有させても良い。
【0070】
光重合開始剤としては、ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−2−モルフォリノ(4−メチルチオフェニル)プロパン−1−オン、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、などのアセトフェノン系またはケタール系光重合開始剤、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、などのベンゾインエーテル系光重合開始剤、ベンゾフェノン、4−ヒドロキシベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、2−ベンゾイルナフタレン、4−ベンゾイルビフェニル、4−ベンゾイルフェニールエーテル、アクリル化ベンゾフェノン、1,4−ベンゾイルベンゼン、などのベンゾフェノン系光重合開始剤、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、などのチオキサントン系光重合開始剤、その他の光重合開始剤としては、エチルアントラキノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルエトキシホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、メチルフェニルグリオキシエステル、9,10−フェナントレン、アクリジン系化合物、トリアジン系化合物、イミダゾール系化合物、が挙げられる。また、光重合促進効果を有するものを単独または上記光重合開始剤と併用して用いることもできる。例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、安息香酸(2−ジメチルアミノ)エチル、4,4’−ジメチルアミノベンゾフェノン、などが挙げられる。
【0071】
熱重合開始剤としては、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(パーオキシベンゾイル)ヘキシン−3、ジ−t−ブチルベルオキサイド、t−ブチルヒドロベルオキサイド、クメンヒドロベルオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシ)プロパンなどの過酸化物系開始剤、アゾビスイソブチルニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル、アゾビスイソブチルアミジン塩酸塩、4,4’−アゾビス−4−シアノ吉草酸などのアゾ系開始剤が挙げられる。
これらの重合開始剤は1種又は2種以上を混合して用いてもよい。重合開始剤の含有量は、ラジカル重合性を有する総含有物100重量部に対し、0.5〜40重量部、好ましくは1〜20重量部である。
【0072】
<その他の添加剤に関して>
更に、本発明の表面層塗工液は必要に応じて、各種可塑剤(応力緩和や接着性向上の目的)、レベリング剤、ラジカル反応性を有しない低分子電荷輸送物質、バインダー樹脂などの添加剤が含有できる。これらの添加剤は公知のものが使用可能であり、可塑剤としてはジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等の一般の樹脂に使用されているものが利用可能で、その使用量は塗工液の総固形分に対し20重量%以下、好ましくは10重量%以下に抑えられる。また、レベリング剤としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のシリコーンオイル類や、側鎖にパーフルオロアルキル基を有するポリマーあるいはオリゴマーが使用でき、その使用量は塗工液の総固形分に対し3重量%以下が適当である。低分子電荷輸送物質は表面層の電荷輸送性を向上し露光部電位を下げるために有効であるが、添加により硬化性材料が少なくなることから高い耐摩耗性の効果が減じられる。このため添加量は用いるプロセスで調整されるが、表面層全成分の50重量%以下、好ましくは30重量%以下で使用される。バインダー樹脂は表面層の内部応力を減らし均一性を上げ、クラックや傷の発生を抑制する効果がある。但し、他の添加剤と同様に添加により高い耐摩耗性の効果が減じられるため、添加量は20重量%以下、好ましくは10重量%以下に抑えられる。
【0073】
<導電性微粒子に関して>
導電性微粒子の粒径は、表面層の透明性から決定される。光散乱を防止するという意味から、0.3μm以下が好ましい。本発明で用いる導電性微粒子としては、金属微粉や金属酸化物粒子が使用可能であるが、透明度の点から金属酸化物がより好ましい。
本発明で用いる導電性微粒子としては、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化ビスマス、スズをドープした酸化インジウム、アンチモンをドープした酸化スズ、酸化ジルコニウム等の超微粒子を用いることができる。これら金属酸化物は一種類もしくは、二種類以上を混合して用いる。二種類以上を混合した場合には固溶体または融着の形をとってもよい。
【0074】
<導電性微粒子の分散性に関して>
本発明における表面層において、その膜強度と導電性微粒子の分散性均一性は特に重要である。感光体の表面層は電子写真のプロセスにおいて、トナー現像、クリーニング等、機械的摺擦にさらされる。特に本発明に用いる導電性微粒子分散膜は、削れ、キズに対して高い強度が要求される。また導電性微粒子の分散性は、これが均一に分散されていない場合には、注入電荷の不均一から、画像ムラが発生するという問題がおこり、導電性微粒子は樹脂中に均一に分散されている必要がある。
【0075】
従来から、表面層の強度と導電性微粒子の分散均一性は、表面層の樹脂によって大きく左右されることが知られているが、本発明で用いる表面層用の樹脂としては、市販のポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、アクリル、エポキシ、シリコーン、アルキド、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等を併用することもできる。さらにクラックを抑制し膜強度及び分散性を向上させるための検討を行なった結果、一般式(A)を構成する少なくとも一般式(B)、(C)及び(D)で示すラジカル重合性化合物中に導電性粒子を分散させ、これを感光体の感光層上に塗布、硬化させることによって形成した表面層を用いることで、クラックを抑制し、膜強度及び導電性粒子の分散性供に飛躍的に向上した。
なお、前述のポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、アクリル、エポキシ、シリコーン、アルキド、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等と混合して用いても、充分にそのクラックの抑制、膜強度、導電性粒子の分散性に対する効果は達せられる。
また、導電性粒子の分散性の向上、接着性あるいは平滑性の向上を目的として、種々の添加剤を加えることができる。特にクリーニング性などの特性向上を目的としてポリテトラフルオロエチレンやフッ化炭素粒子などの含フッ素樹脂微粒子やシリコーン微粒子などの滑剤を分散することは非常に有効である。
【0076】
<表面層の導電性粒子の割合について>
表面層における樹脂と導電性微粒子との割合は直接的に電荷注入層の抵抗を決定する値であり、注入帯電が安定に帯電できる電荷注入層の体積抵抗である1010〜1015(Ω・cm)の範囲になるように設定することが好ましく、1010〜1014(Ω・cm)であることがより好ましい。更に好ましくは、1011〜1013(Ω・cm)である。
【0077】
<塗工溶媒に関して>
本発明の表面層は、少なくとも上記一般式(A)の構造単位を含有するラジカル重合性化合物を含む塗工液を後に記載の感光層上に塗布、硬化することにより形成される。かかる塗工液はラジカル重合性化合物が液体である場合、これに他の成分を溶解して塗布することも可能であるが、必要に応じて溶媒により希釈して塗布される。このとき用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール系、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系、テトラヒドロフラン、ジオキサン、プロピルエーテルなどのエーテル系、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン系、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、セロソルブアセテートなどのセロソルブ系などが挙げられる。これらの溶媒は単独または2種以上を混合して用いてもよい。溶媒による希釈率は組成物の溶解性、塗工法、目的とする膜厚により変わり、任意である。塗布は、浸漬塗工法やスプレーコート、ビードコート、リングコート法などを用いて行なうことができる。
【0078】
本発明においては、かかる表面層塗工液を塗布後、外部からエネルギーを与え硬化させ、表面層を形成するものであるが、このとき用いられる外部エネルギーとしては、光、熱又は放射線がある。光のエネルギーとしては主に紫外光に発光波長をもつ高圧水銀灯やメタルハライドランプなどのUV照射光源が利用できるが、ラジカル重合性含有物や光重合開始剤の吸収波長に合わせ可視光光源の選択も可能である。照射光量は50mW/cm2以上、1000mW/cm2以下が好ましく、50mW/cm2未満では硬化反応に時間を要する。1000mW/cm2より強いと反応の進行が不均一となり、表面層の表面に局部的な皺が発生したり、多数の未反応残基、反応停止末端が生ずる。また、急激な架橋により内部応力が大きくなり、クラックや膜剥がれの原因となる。照射時間は構成材料や膜厚によるUV光の浸透性に依存するが、5秒〜5分が好ましく、短すぎると硬化が不十分となり、長すぎると構成材料が分解し電気特性が低下する。また硬化時の温度上昇を50℃以下に制御し、構成材料の分解や不均一な硬化反応を抑えることが望ましい。
【0079】
熱のエネルギーを用い硬化する場合、100〜170℃で10分〜3時間が好ましく、100℃より低い温度又は10分より短い時間では、硬化が不十分となる。また、逆に170℃より高い温度又は3時間より長い時間では構成材料の分解や不均一な硬化反応が進行し、良好な表面層が得られない。
放射線のエネルギーとしては電子線が好適に用いられる。電子線の加速電圧は300KV以下、好ましくは150KV以下、線量は1〜100Mradの条件で硬化される。加速電圧が300KVを超える又は線量が100Mradを超えると構成材料の分解が進み、本発明の効果が発揮されない。
これらのエネルギーの中で、反応速度制御の容易さ、装置の簡便さから光のエネルギーを用いたものが有用である。
【0080】
<表面層の膜厚について>
本発明の表面層の膜厚は、膜強度と電荷注入性の点より、0.1〜10μmであることが好ましく、0.5〜7μmであることがより好ましい。
以下、本発明をその層構造に従い説明する。
【0081】
<電子写真感光体の層構造について>
本発明に用いられる電子写真感光体を図面に基づいて説明する。
図1、2は、本発明の電子写真感光体を表わす断面図である。
図1は導電性支持体上に、電荷発生機能と電荷輸送機能を同時に有する感光層が設けられた単層構造で、表面層が感光層の表面部分である場合を示す。すなわち、ラジカル硬化されていない感光層は、図の電荷発生機能と電荷輸送機能を同時に有する感光層を表し、ラジカル硬化組成物を含有する表面層は、図の表面層を表す。
【0082】
図2は、導電性支持体上に、感光層として、電荷発生機能を有する電荷発生層と電荷輸送物機能を有する電荷輸送層とが積層された積層構造の感光体である。表面層が電荷輸送層の表面部分である場合を示す。すなわち、ラジカル硬化されていない感光層は、図の電荷発生層と電荷輸送層を表し、ラジカル硬化組成物を含有する表面層は、図の表面層を表す。
【0083】
<導電性支持体について>
導電性支持体としては、体積抵抗1010Ω・cm以下の導電性を示すもの、例えば、アルミニウム、ニッケル、クロム、ニクロム、銅、金、銀、白金などの金属、酸化スズ、酸化インジウムなどの金属酸化物を蒸着またはスパッタリングにより、フィルム状もしくは円筒状のプラスチック、紙に被覆したもの、あるいはアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ステンレスなどの板およびそれらを押し出し、引き抜きなどの工法で素管化後、切削、超仕上げ、研摩などの表面処理を施した管などを使用することができる。また、特開昭52−36016号公報に開示されたエンドレスニッケルベルト、エンドレスステンレスベルトも導電性支持体として用いることができる。
この他、上記支持体上に導電性粉体を適当な結着樹脂に分散して塗工したものについても、本発明の導電性支持体として用いることができる。
【0084】
この導電性粉体としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、また、アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀などの金属粉、あるいは導電性酸化スズ、ITOなどの金属酸化物粉体などが挙げられる。また、同時に用いられる結着樹脂には、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート、酢酸セルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルトルエン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂などの熱可塑性、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂が挙げられる。このような導電性層は、これらの導電性粉体と結着樹脂を適当な溶剤、例えば、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、メチルエチルケトン、トルエンなどに分散して塗布することにより設けることができる。
更に、適当な円筒基体上にポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、塩化ゴム、テフロン(登録商標)などの素材に前記導電性粉体を含有させた熱収縮チューブによって導電性層を設けてなるものも、本発明の導電性支持体として良好に用いることができる。
【0085】
<感光層について>
次に感光層について説明する。感光層は積層構造でも単層構造でもよい。
積層構造の場合には、感光層は電荷発生機能を有する電荷発生層と電荷輸送機能を有する電荷輸送層とから構成される。また、単層構造の場合には、感光層は電荷発生機能と電荷輸送機能を同時に有する層から構成される。
以下、積層構造の感光層及び単層構造の感光層のそれぞれについて述べる。
【0086】
<感光層が積層構成のもの>
(1)電荷発生層について
電荷発生層は、電荷発生機能を有する電荷発生物質を主成分とする層で、必要に応じてバインダー樹脂を併用することもできる。電荷発生物質としては、無機系材料と有機系材料を用いることができる。
無機系材料には、結晶セレン、アモルファス・セレン、セレン−テルル、セレン−テルル−ハロゲン、セレン−ヒ素化合物や、アモルファス・シリコン等が挙げられる。アモルファス・シリコンにおいては、ダングリングボンドを水素原子、ハロゲン原子でターミネートしたものや、ホウ素原子、リン原子等をドープしたものが良好に用いられる。
一方、有機系材料としては、公知の材料を用いることができる。例えば、金属フタロシアニン、無金属フタロシアニン等のフタロシアニン系顔料、アズレニウム塩顔料、スクエアリック酸メチン顔料、カルバゾール骨格を有するアゾ顔料、トリフェニルアミン骨格を有するアゾ顔料、ジフェニルアミン骨格を有するアゾ顔料、ジベンゾチオフェン骨格を有するアゾ顔料、フルオレノン骨格を有するアゾ顔料、オキサジアゾール骨格を有するアゾ顔料、ビススチルベン骨格を有するアゾ顔料、ジスチリルオキサジアゾール骨格を有するアゾ顔料、ジスチリルカルバゾール骨格を有するアゾ顔料、ペリレン系顔料、アントラキノン系または多環キノン系顔料、キノンイミン系顔料、ジフェニルメタン及びトリフェニルメタン系顔料、ベンゾキノン及びナフトキノン系顔料、シアニン及びアゾメチン系顔料、インジゴイド系顔料、ビスベンズイミダゾール系顔料などが挙げられる。これらの電荷発生物質は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。
【0087】
電荷発生層に必要に応じて用いられるバインダー樹脂としては、ポリアミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリケトン、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルケトン、ポリスチレン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリアクリルアミドなどが挙げられる。これらのバインダー樹脂は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。また、電荷発生層のバインダー樹脂として上述のバインダー樹脂の他に、電荷輸送機能を有する高分子電荷輸送物質、例えば、アリールアミン骨格やベンジジン骨格やヒドラゾン骨格やカルバゾール骨格やスチルベン骨格やピラゾリン骨格等を有するポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリシロキサン、アクリル樹脂等の高分子材料やポリシラン骨格を有する高分子材料等を用いることができる。
【0088】
前者の具体的な例としては、特開平01−001728号公報、特開平01−009964号公報、特開平01−013061号公報、特開平01−019049号公報、特開平01−241559号公報、特開平04−011627号公報、特開平04−175337号公報、特開平04−183719号公報、特開平04−225014号公報、特開平04−230767号公報、特開平04−320420号公報、特開平05−232727号公報、特開平05−310904号公報、特開平06−234836号公報、特開平06−234837号公報、特開平06−234838号公報、特開平06−234839号公報、特開平06−234840号公報、特開平06−234841号公報、特開平06−239049号公報、特開平06−236050号公報、特開平06−236051号公報、特開平06−295077号公報、特開平07−056374号公報、特開平08−176293号公報、特開平08−208820号公報、特開平08−211640号公報、特開平08−253568号公報、特開平08−269183号公報、特開平09−062019号公報、特開平09−043883号公報、特開平09−71642号公報、特開平09−87376号公報、特開平09−104746号公報、特開平09−110974号公報、特開平09−110976号公報、特開平09−157378号公報、特開平09−221544号公報、特開平09−227669号公報、特開平09−235367号公報、特開平09−241369号公報、特開平09−268226号公報、特開平09−272735号公報、特開平09−302084号公報、特開平09−302085号公報、特開平09−328539号公報等に記載の電荷輸送性高分子材料が挙げられる。
【0089】
また、後者の具体例としては、例えば特開昭63−285552号公報、特開平05−19497号公報、特開平05−70595号公報、特開平10−73944号公報等に記載のポリシリレン重合体が例示される。
【0090】
また、電荷発生層には低分子電荷輸送物質を含有させることができる。
電荷発生層に併用できる低分子電荷輸送物質には、正孔輸送物質と電子輸送物質とがある。
電子輸送物質としては、たとえばクロルアニル、ブロムアニル、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロキサントン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、2,6,8−トリニトロ−4H−インデノ〔1,2−b〕チオフェン−4−オン、1,3,7−トリニトロジベンゾチオフェン−5,5−ジオキサイド、ジフェノキノン誘導体などの電子受容性物質が挙げられる。これらの電子輸送物質は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。
【0091】
正孔輸送物質としては、以下に表わされる電子供与性物質が挙げられ、良好に用いられる。正孔輸送物質としては、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、モノアリールアミン誘導体、ジアリールアミン誘導体、トリアリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、α−フェニルスチルベン誘導体、ベンジジン誘導体、ジアリールメタン誘導体、トリアリールメタン誘導体、9−スチリルアントラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、ジビニルベンゼン誘導体、ヒドラゾン誘導体、インデン誘導体、ブタジェン誘導体、ピレン誘導体等、ビススチルベン誘導体、エナミン誘導体等、その他公知の材料が挙げられる。これらの正孔輸送物質は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。
【0092】
電荷発生層を形成する方法には、真空薄膜作製法と溶液分散系からのキャスティング法とが大きく挙げられる。
前者の方法には、真空蒸着法、グロー放電分解法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、CVD法等が用いられ、上述した無機系材料、有機系材料が良好に形成できる。
また、後述のキャスティング法によって電荷発生層を設けるには、上述した無機系もしくは有機系電荷発生物質を必要ならばバインダー樹脂と共にテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、トルエン、ジクロロメタン、モノクロロベンゼン、ジクロロエタン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、アニソール、キシレン、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等の溶媒を用いてボールミル、アトライター、サンドミル、ビーズミル等により分散し、分散液を適度に希釈して塗布することにより、形成できる。また、必要に応じて、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のレベリング剤を添加することができる。塗布は、浸漬塗工法やスプレーコート、ビードコート、リングコート法などを用いて行なうことができる。
以上のようにして設けられる電荷発生層の膜厚は、0.01〜5μm程度が適当であり、好ましくは0.05〜2μmである。
【0093】
(2)電荷輸送層について
電荷輸送層は電荷輸送機能を有する電荷輸送物質および結着樹脂を適当な溶剤に溶解ないし分散し、これを電荷発生層上に塗布、乾燥することにより形成される。
電荷輸送物質としては、前記電荷発生層で記載した電子輸送物質、正孔輸送物質及び高分子電荷輸送物質を用いることができる。特に高分子電荷輸送物質を用いることは、表面層塗工時の下層の溶解性を低減効果を示し、とりわけ有用である。
結着樹脂としては、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート、酢酸セルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルトルエン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂等の熱可塑性または熱硬化性樹脂が挙げられる。
電荷輸送物質の量は結着樹脂100重量部に対し、20〜300重量部、好ましくは40〜150重量部が適当である。但し、高分子電荷輸送物質を用いる場合は、単独でも結着樹脂との併用も可能である。
【0094】
電荷輸送層の塗工に用いられる溶媒としては前記電荷発生層と同様なものが使用できるが、電荷輸送物質及び結着樹脂を良好に溶解するものが適している。これらの溶剤は単独で使用しても2種以上混合して使用しても良い。また、電荷輸送層の形成には電荷発生層と同様な塗工法が可能である。
【0095】
また、必要により可塑剤、レベリング剤を添加することもできる。
電荷輸送層に併用できる可塑剤としては、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等の一般的に樹脂の可塑剤として使用されているものがそのまま使用でき、その使用量は、結着樹脂100重量部に対して0〜30重量部程度が適当である。
電荷輸送層に併用できるレベリング剤としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のシリコーンオイル類や、側鎖にパーフルオロアルキル基を有するポリマーあるいはオリゴマーが使用され、その使用量は、結着樹脂100重量部に対して0〜1重量部程度が適当である。
電荷輸送層の膜厚は、5〜40μm程度が適当であり、好ましくは10〜30μm程度が適当である。
【0096】
<感光層が単層のもの>
単層構造の感光層は、電荷発生機能と電荷輸送機能を同時に有する層である。
感光層が電荷発生機能と電荷輸送機能を同時に有する層である場合、感光層は電荷発生機能を有する電荷発生物質と電荷輸送機能を有する電荷輸送物質と結着樹脂を適当な溶媒に溶解ないし分散し、これを塗布、乾燥することによって形成できる。また、必要により可塑剤やレベリング剤等を添加することもできる。電荷発生物質の分散方法、それぞれ電荷発生物質、電荷輸送物質、可塑剤、レベリング剤は前記電荷発生層、電荷輸送層において既に述べたものと同様なものが使用できる。結着樹脂としては、先に電荷輸送層の項で挙げた結着樹脂のほかに、電荷発生層で挙げたバインダー樹脂を混合して用いてもよい。また、先に挙げた高分子電荷輸送物質も使用可能で、表面層への感光層組成物の混入を低減できる点で有用である。感光層中に含有される電荷発生物質は感光層全量に対し1〜30重量%が好ましく、感光層に含有される結着樹脂は全量の20〜80重量%、電荷輸送物質は10〜70重量部が良好に用いられる。
かかる感光層の膜厚は、5〜30μm、好ましくは10〜25μmが用いられる。
【0097】
<中間層について>
本発明の感光体においては、表面層が感光層の表面部分となる場合、表面層と感光層との間に中間層を設けることが可能である。この中間層はラジカル硬化組成物を含有する表面層中にラジカル硬化されていない感光層組成物の混入により生ずる、硬化反応の阻害や表面層の凹凸を防止する。また、感光層と表面層の接着性を向上させることも可能である。
中間層には、一般にバインダー樹脂を主成分として用いる。これら樹脂としては、ポリアミド、アルコール可溶性ナイロン、水溶性ポリビニルブチラール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。中間層の形成法としては、前述のごとく一般に用いられる塗工法が採用される。なお、中間層の厚さは0.05〜2μm程度が適当である。
【0098】
<下引き層について>
本発明の感光体においては、導電性支持体と感光層との間に下引き層を設けることができる。下引き層は一般には樹脂を主成分とするが、これらの樹脂はその上に感光層を溶剤で塗布することを考えると、一般の有機溶剤に対して耐溶剤性の高い樹脂であることが望ましい。このような樹脂としては、ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリアクリル酸ナトリウム等の水溶性樹脂、共重合ナイロン、メトキシメチル化ナイロン等のアルコール可溶性樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド−メラミン樹脂、エポキシ樹脂等、三次元網目構造を形成する硬化型樹脂等が挙げられる。また、下引き層にはモアレ防止、残留電位の低減等のために酸化チタン、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化インジウム等で例示できる金属酸化物の微粉末顔料を加えてもよい。
【0099】
これらの下引き層は、前述の感光層の如く適当な溶媒及び塗工法を用いて形成することができる。更に本発明の下引き層として、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、クロムカップリング剤等を使用することもできる。この他、本発明の下引き層には、Al23を陽極酸化にて設けたものや、ポリパラキシリレン(パリレン)等の有機物やSiO2、SnO2、TiO2、ITO、CeO2等の無機物を真空薄膜作成法にて設けたものも良好に使用できる。このほかにも公知のものを用いることができる。下引き層の膜厚は0〜5μmが適当である。
【0100】
<各層への酸化防止剤の添加について>
また、本発明においては、耐環境性の改善のため、とりわけ、感度低下、残留電位の上昇を防止する目的で、表面層、電荷発生層、電荷輸送層、下引き層、中間層等の各層に酸化防止剤を添加することができる。
本発明に用いることができる酸化防止剤として、下記のものが挙げられる。
(フェノール系化合物)
2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3’−ビス(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコ−ルエステル、トコフェロール類など。
【0101】
(パラフェニレンジアミン類)
N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジ−t−ブチル−p−フェニレンジアミンなど。
(ハイドロキノン類)
2,5−ジ−t−オクチルハイドロキノン、2,6−ジドデシルハイドロキノン、2−ドデシルハイドロキノン、2−ドデシル−5−クロロハイドロキノン、2−t−オクチル−5−メチルハイドロキノン、2−(2−オクタデセニル)−5−メチルハイドロキノンなど。
【0102】
(有機硫黄化合物類)
ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジテトラデシル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオープロピオネート)など。
(有機燐化合物類)
トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリ(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2―エチルヘキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、ジフェニルモノ(2−エチルヘキシル)ホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、トリス(2,4、ジーt−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4,ジーt―ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジーt−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、テトラキス(2,4−ジーt−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレンージーホスホナイト、ジラウリルハイドロゲンホスファイト、ジフェニルハイドロゲンホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、テトラ(トリデシル)−4,4’イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、水添ビスフェノールA・ペンタエリスリトールホスファイトポリマーなど。
これら化合物は、ゴム、プラスチック、油脂類などの酸化防止剤として知られており、市販品を容易に入手できる。
本発明における酸化防止剤の添加量は、添加する層の総重量に対して0.01〜10重量%である。
【0103】
次に本発明における帯電方法について、説明する。本発明の帯電方法は、放電現象を伴わない接触帯電方法である。つまり、接触帯電装置への印加電圧に対応した電位で感光体を帯電出来る電荷注入帯電方法である。この方法は、放電を伴わないために、オゾンや窒素酸化物発生が少なく、また感光体を帯電させるための印加電圧も、従来の接触帯電方法を用いたプロセスよりも更に低いため、省エネルギーである。
使用される感光体には、前述した最表層に電荷注入層の機能を有する表面層が設けられる。電荷注入層は、いわゆるコンデンサーの電極的役割を果たす。この電極に対して、導電性の接触帯電部材を当接させ、電圧を印加すると、電荷を注入することが可能となる。このような電荷注入層がない場合、感光体表面には、電極となりうるものがなく、十分な電荷注入が出来ない。
【0104】
電荷注入層を感光層表面に設けることにより、電荷注入層下の感光層面に均一なチャージシートを形成することが可能となる。電荷注入層には接触帯電装置により印加された電荷を速やかに感光層表層に移動させ、均一なチャージシートを形成する特性が要求される。
均一なチャージシートを形成させるためには電荷注入層及び接触帯電装置双方に均一な接触性、ニップ、接触抵抗、部材の体積固有抵抗等の特性が必要であり、それらの特性を好適な範囲に設定する必要がある。
【0105】
接触帯電方法としては図3に示すような方式例がある。
図3(I)は磁気ブラシ帯電方法、図3(II)は(導電性)ブラシ帯電方法、図3(III)は導電性のソフトローラーを使用したローラー帯電方法、図3(IV)は固定式(ブレード式)の帯電方法、図3(V)は2本のローラーを使用し導電性ベルトを使用したベルト式帯電方法である。
感光体を均一に放電を伴わずに帯電するためには、適正な印加電圧で感光体との必要なニップを確保し、感光体と帯電器の空隙を出来るだけ減らし、接触を出来る限り密にする必要がある。
【0106】
図3(I)の磁気ブラシ帯電方法ではS、N極の磁石を交互に配置したマグネットローラーにアルミニウムやベークライトなどの非磁性材のスリーブを被覆し構成された磁性ローラーに20〜150μm程度の球形もしくはほぼ球形のフェライト、酸化マンガン、γ酸化第II鉄などの磁性微粒子、もしくはそれらにポリエステル樹脂やフッ素樹脂などの流動性改善、保護層等を目的として被覆された微粒子を1から5mm程度の厚さに吸引し、層形成されたものが使用される。
前記微粒子の抵抗値は通常105Ω・cm〜1010Ω・cmの範囲のもので、抵抗の低い方が電荷注入性は良好である。磁気ブラシを使用することによって、クリーニングレスのプロセスを形成することも可能である。
【0107】
図3(II)の導電性ブラシ帯電法はレーヨン、アクリル、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアクリルニトリル等の繊維をカーボンや硫化銅等で導電処理したり、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタンなどの導電性フィラーを練り込んだ繊維と紡糸したり、さらには金属糸を編み込んだりした部材を用いブラシ状化される。
また、繊維を不活性ガス雰囲気中で焼成した炭素繊維や活性炭素繊維等も使用できる。
接触帯電装置の部材の抵抗は102Ω・cm〜1010Ω・cmの範囲のものが好ましい。
炭素繊維や活性炭素繊維は焼成温度で堆積固有抵抗を自由に変化させることが可能である。炭素成分が90%以上にもなると、抵抗が102Ω・cm程度と極めて低くなる。したがって、感光体にピンホールがある場合には放電破壊の危険性があるが、低い電圧で使用する場合には問題ない。通常は100KΩ〜5MΩ程度の保護抵抗を電圧供給源との間に直列に挿入して使用する。
【0108】
図3(III)の(ソフト)ローラー帯電法は感光体とのニップを稼ぐのと、感光体との密着性を良好にする為に好適である。ソフトローラーの材質は軟質性のゴムやソフトフォーム(ウレタン系のスポンジやフォームなど)等が使用され、表層もしくは層全体に導電処理が施される。導電処理材としてはSnO2やTiO2、ZnO2、カーボンブラックなどの導電性フィラー、炭素繊維、活性炭素繊維などの導電性繊維などがある。
図3(IV)の固定式(ブレード式)の帯電方法は感光体を摺擦するような形式で帯電する方法で、前述した部材は殆ど使用可能である。
構成としては、例えば、スポンジやフォームのような弾性部材に帯電部材として織り目の細かい炭素繊維や活性炭素繊維(ユニチカ、東邦レーヨン、同ベスロン等で制作、東邦レーヨンの例ではFW210や同310など)を被覆するような形として、感光体に当接させ帯電を行う。
【0109】
図3(V)のベルト式帯電装置は感光体とのニップを稼ぐのに良好な手段である。使用できる材料は、導電性ブラシ帯電方法、ローラー帯電方法で説明したような部材が使用できる。
感光体との接触に必要なニップは幅広いほど好ましいが、通常は3mm〜10mm程度以上あれば良く、感光体に均等に、均一に接触するようにするのが望ましい。
以上述べた各種部材を帯電部材として使用した場合の体積固有抵抗は102Ω・cm〜1010Ω・cmが望ましく、好ましくは108Ω・cm以下がよい。抵抗が高い程、電荷注入性が低下する。低すぎる場合には、電荷注入性は問題ないが、感光体にピンホールが有った場合に、電源ブレークや画像上に横黒筋が発生する危険性がある。通常は感光体の帯電々位は−500〜−800V程度であるため、放電破壊に対する危険性は小さく、オゾンが発生したとしても極めて少ないため、実用上の影響は小さい。
本発明の感光体は、電荷注入帯電方法を含む一般的な電子写真プロセスに用いることが出来る。
【0110】
次に本発明の電子写真プロセスの例である電子写真プロセスカートリッジを説明する。プロセスカートリッジは、帯電部、現像部、クリーニング部等のユニットが、一体構成となっているもので、取り付け、取り外しなどが、簡便となる。図4は、その電子写真プロセスカートリッジの一例である。この模式断面図の説明に沿って、本発明の電子写真プロセスを説明する。
図中11は本発明の電子写真用感光体である。まず帯電装置[図中は図3(III)の帯電器]12により、感光体は、注入帯電する。感光体が帯電された後、イメージ露光13を受け、露光された部分で、電荷が発生し、感光体表面に静電潜像が形成される。感光体表面に静電潜像を形成した後、現像ローラー14を介して現像剤と接触し、トナー像を形成する。感光体表面に形成されたトナー像は、転写ローラー16により紙などの転写部材15へ転写され、定着ユニット19を通過してハードコピーとなる。電子写真用感光体11上の残留トナーはクリーニングユニット17により除去され、残留電荷は除電ランプ18で除かれて、次の電子写真サイクルに移る。
【0111】
本画像形成方法及び感光体を用いる電子写真プロセスは、上記一例に限定されるものではなく、少なくとも、帯電及び露光により、静電潜像を形成するプロセスであれば、どのようなものであってもかまわない。特にこの画像形成方法では、トナーの転写効率を上げ、転写後残留するトナーを、クリーニングユニットを用いずに、帯電装置や現像装置で回収するクリーナーレスである方が、感光体に対し、機械的負荷が小さいため、望ましい。
【0112】
<本発明で使用される一般式(B)で表されるラジカル重合性化合物の合成例1>
<本発明で使用される例示化合物B−1−2の合成例>
4,4’−チオビスフェノール19g(0.087mol)をテトラヒドロフラン200mlに溶解し、窒素気流中で水酸化ナトリウム(NaOH:13.92g,水:56ml)を滴下した。この溶液を6℃に冷却し、アクリル酸クロライド22.10g(0.348mol)を1時間かけて滴下した。その後、2.5時間攪拌し反応を終了させた。この反応液を水に注ぎ、トルエンにて抽出した。この抽出液を水で繰り返し洗浄した。その後、このトルエン溶液から溶媒を除去し、カラムクロマトグラフィー処理(吸着媒体:シリカゲル、展開溶媒:トルエン/酢酸エチル(1/1))にて精製した。得られた無色のオイルにメタノールを加え、結晶を析出させた。このようにして例示化合物NO.B−1−2の白色結晶15.04g(収率=53.0%)を得た。得られた化合物の融点及び元素分析値を以下に示す。また、赤外吸収スペクトルを図5に示す。
融点:50.5〜51.5℃
【0113】
【表1】

【0114】
<本発明で使用される例示化合物B−1−9の合成例>
4,4’−オキシビス(2−メチルフェノール)20g(0.087mol)をテトラヒドロフラン200mlに溶解し、窒素気流中で水酸化ナトリウム(NaOH:13.92g,水:56ml)を滴下した。この溶液を6℃に冷却し、アクリル酸クロライド22.10g(0.348mol)を1時間かけて滴下した。その後、2.5時間攪拌し反応を終了させた。この反応液を水に注ぎ、トルエンにて抽出した。この抽出液を水で繰り返し洗浄した。その後、このトルエン溶液から溶媒を除去し、カラムクロマトグラフィー処理(吸着媒体:シリカゲル、展開溶媒:トルエン/酢酸エチル(1/1))にて精製した。得られた無色のオイルにメタノールを加え、結晶を析出させた。このようにして例示化合物NO.B−1−9の白色結晶20.04g(収率=69.2%)を得た。得られた化合物の融点及び元素分析値を以下に示す。また、赤外吸収スペクトルを図6に示す。
融点:57〜58℃
【0115】
【表2】

以上のように他のジフェノール体についても同様にして合成できる。
【0116】
<本発明で使用される例示化合物C−1−1の合成例>
(1)ビス{4−(2,3−ジヒドロキシプロピルオキシ)フェニル}エーテルの合成
4,4’−オキシビスフェノール5.9g(0.029mol)とグリシジルメタクリレート9.5g(0.064mmol)をトルエン50mlに溶解させ、トリエチルアミン0.3mlを加え、アルゴン気流中、95℃で9時間攪拌した。その後、室温で10質量%水酸化ナトリウム水溶液33ml、トルエン30mlを加え、92℃で6時間攪拌し反応を終了させた。この反応液を塩酸で中和した後、酢酸エチルにて抽出し、水で繰り返し洗浄した。その後、この酢酸エチル溶液から溶媒を除去し、カラムクロマトグラフィー処理(吸着媒体:シリカゲル、展開溶媒:酢酸エチル/THF(1/1))にて精製した。このようにして無色粉末状の下記構造式Aで示される化合物を8.6g(収率85%)得た。
【化37】

【0117】
(2)C−1−1の合成
ビス{4−(2,3−ジヒドロキシプロピルオキシ)フェニル}エーテル3.54g(0.010mol)をジメチルアセトアミド40mlに溶解させた。3−クロロプロピオン酸クロリド7.7(60.7mmol)gをアルゴン気流中3℃で加え、室温で7時間攪拌した。その後トリエチルアミン20mlを3℃で加え、60℃で5時間攪拌し、反応を終了させた。この反応液を水に注ぎ、ジクロロメタンにて抽出した。この抽出液を水で繰り返し洗浄した。その後、このジクロロメタン溶液から溶媒を除去し、カラムクロマトグラフィー処理(吸着媒体:シリカゲル、展開溶媒:n−ヘキサン/酢酸エチル(2/1))にて精製した。このようにして、オイル状の例示化合物C−1−1を4.52g(収率=77.7%)得た。
【0118】
【表3】

以上のように他のジフェノール体についても同様にして合成できる。
【0119】
<本発明で使用される例示化合物D−1−1の合成例>
かき混ぜ装置、温度計、滴下漏斗をつけた反応容器に、4,4’−オキシビスフェノール4.0g(0.020mol)とエピクロルヒドリン18.51g(200mmol)、トルエン20mlを入れ、窒素気流下、110℃で加熱攪拌した。これに反応系内の温度が100℃〜120℃を維持するように20wt%水酸化ナトリウム水溶液9.60g(48mmol)を30分間かけて滴下し、110℃で4時間反応させた。これを室温まで放冷し、過剰のエピクロルヒドリンを減圧回収した後、トルエンを加えて有機層を水洗浄した。このトルエン溶液を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。この液をカラムクロマトグラフィー処理(吸着媒体:シリカゲル、展開溶媒:n−トルエン/酢酸エチル(1/1))し、原料と高分子量成分を除去した。これにより無色のオイル状物質5.05gを得た。
【0120】
このオイル状物質を再度トルエン80mlに溶解させ、アクリル酸0.72g(10mmol)、トリエチルアミン0.2mlと共に反応容器に入れて、80℃で3時間反応させた。放冷後、水洗し、減圧下で濃縮した。これを、再度トルエン溶液と、活性白土5gを加えて室温で30間吸着処理した後、カラムクロマトグラフィー処理(吸着媒体:シリカゲル、展開溶媒:n−トルエン/酢酸エチル(3/1))にて精製した。このようにして、無色のオイル状のD−1−1を4.5g得た。この物をゲルパーミエーションクロマトグラフィーで分子量を測定したところ、nが1〜10の混合物を主成分とする組成物である値を示した。
以上のように他のジフェノール体についても同様にして合成できる。
【実施例】
【0121】
次に、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中において使用する「部」は、すべて重量部を表す。
<実施例1>
φ30mmのアルミニウムシリンダー上に、下記組成の感光層塗工液を浸漬法で塗工し、乾燥後の厚みが23μmの感光層を形成した。この感光層上に下記組成の表面層塗工液をスプレー塗工し、5分自然乾燥した後、メタルハライドランプ:160W/cm、照射距離:120mm、照射強度:800mW/cm2、照射時間:60秒の条件で光照射を行ない塗布膜を硬化させた。更に130℃で20分乾燥を加え2μmの表面層を設け、本発明の電子写真感光体を得た。
【0122】
[感光層塗工液]
下記処方において、無金属フタロシアニンとテトラヒドロフランの固形分3%溶液をジルコニアボールで24時間ボールミル分散した。作製した顔料分散液を、残り材料を混合溶解させた溶液に加え、塗工液を作製した。
・無金属フタロシアニン: 2部
(FastogenBlue8120B、大日本インキ化学工業株式会社製)
・下記構造式の電荷輸送物質: 24部
【化38】

・下記ジフェノキノン化合物: 20部
2,6−ジメチル−2’,6’−ジ−tert−ブチル−ジフェノキノン
・ビスフェノールZ型ポリカーボネート: 41部
(パンライトTS−2050、帝人化成製)
・テトラヒドロフラン: 382部
・1%シリコーンオイルのテトラヒドロフラン溶液: 0.2部
(KF50−100CS、信越化学工業株式会社製)
【0123】
[表面層塗工液]
下記処方において全ての材料を混合し、ボールミルにて48時間分散を行い、塗工液を作製した。
・例示化合物B−1−2のラジカル重合性化合物: 20部
・導電性微粒子: 20部
アンチモンドープ酸化スズ(T−1、三菱マテアリアル製)
・光重合開始剤: 1部
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)
・トルエン: 100部
【0124】
<実施例2>
実施例1の表面層塗工液を下記のものに変えた以外は実施例1と同様に電子写真感光体を作製した。
[表面層塗工液]
・例示化合物C−1−1のラジカル重合性化合物: 20部
・導電性微粒子: 20部
アンチモンドープ酸化スズ(T−1、三菱マテアリアル製)
・光重合開始剤: 1部
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)
・トルエン: 100部
【0125】
<実施例3>
実施例1の表面層塗工液を下記のものに変えた以外は実施例1と同様に電子写真感光体を作製した。
[表面層塗工液]
・例示化合物D−1−1のラジカル重合性化合物: 20部
・導電性微粒子: 20部
アンチモンドープ酸化スズ(T−1、三菱マテアリアル製)
・光重合開始剤: 1部
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)
・トルエン: 100部
【0126】
<実施例4>
φ30mmのアルミニウムシリンダー上に、下記組成の下引き層用塗工液、電荷発生層用塗工液、電荷輸送層用塗工液を順次、塗布、乾燥することにより、3.5μmの下引き層、0.2μmの電荷発生層、18μmの電荷輸送層を形成した。この電荷輸送層上に下記組成の表面層塗工液をスプレー塗工し、5分自然乾燥した後、メタルハライドランプ:160W/cm、照射距離:120mm、照射強度:800mW/cm2、照射時間:60秒の条件で光照射を行ない塗布膜を硬化させた。更に130℃で20分乾燥を加え3μmの表面層を設け、本発明の電子写真感光体を得た。
【0127】
[下引き層塗工液]
下記処方において、全ての材料を混合しアルミナボールで48時間ボールミル分散した。この分散液を500メッシュのステンレスメッシュで濾過し、塗工液を作製した。
・アルキッド樹脂: 6部
(ベッコライト M−6401−50、大日本インキ化学工業製)
・メラミン樹脂: 4部
(スーパーベッカミン G−821−60、大日本インキ化学工業製)
・酸化チタン: 40部
・メチルエチルケトン: 50部
【0128】
[電荷発生層用塗工液]
下記処方において、ビスアゾ顔料とメチルエチルケトンの固形分10%溶液をジルコニアボールで10日間ボールミル分散した。この分散液にシクロヘキサノンを加え、固形分3%の顔料分散液とし、更に2時間ボールミル分散した。この顔料分散液を、残りの材料を混合溶解した溶液に加え、よく撹拌した後、1000メッシュのステンレスメッシュで濾過し、塗工液を作製した。
・下記構造のビスアゾ顔料: 2.5部
【化39】

・ポリビニルブチラール(XYHL、UCC製): 0.5部
・シクロヘキサノン: 200部
・メチルエチルケトン: 80部
【0129】
[電荷輸送層用塗工液]
下記処方において、全ての材料を混合溶解し、塗工液を作製した。
・ビスフェノールZ型ポリカーボネート: 10部
(パンライトTS−2050、帝人化成製)
・下記構造式の電荷輸送物質: 7部
【化40】

・トルエン: 100部
・1%シリコーンオイルのテトラヒドロフラン溶液: 1部
(KF50−100CS、信越化学工業製)
【0130】
[表面層塗工液]
下記処方において全ての材料を混合し、ボールミルにて48時間分散を行い、塗工液を作製した。
・例示化合物B−1−2のラジカル重合性化合物: 20部
・導電性微粒子: 20部
アンチモンドープ酸化スズ(T−1、三菱マテアリアル製)
・光重合開始剤: 1部
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)
・トルエン: 100部
【0131】
<実施例5>
実施例4の表面層塗工液を下記のものに変えた以外は実施例4と同様に電子写真感光体を作製した。
[表面層塗工液]
・例示化合物C−1−1のラジカル重合性化合物: 20部
・導電性微粒子: 20部
アンチモンフリー酸化スズ(S−1、三菱マテアリアル製)
・光重合開始剤: 1部
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)
・テトラヒドロフラン: 100部
【0132】
<実施例6>
実施例4の表面層塗工液を下記のものに変えた以外は実施例4と同様に電子写真感光体を作製した。
[表面層塗工液]
・例示化合物D−1−1のラジカル重合性化合物: 20部
・導電性微粒子: 20部
アンチモンドープ酸化スズ(T−1、三菱マテアリアル製)
・光重合開始剤: 1部
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)
・トルエン: 100部
【0133】
<実施例7>
実施例4の表面層塗工液を下記のものに変えた以外は実施例4と同様に電子写真感光体を作製した。
[表面層塗工液]
・例示化合物B−1−2のラジカル重合性化合物: 10部
・ラジカル重合性官能基を3つ以上有するモノマー: 10部
トリメチロールプロパントリアクリレート(KAYARAD TMPTA、日本化薬製)
【化41】

・導電性微粒子: 20部
アンチモンドープ酸化スズ(T−1、三菱マテアリアル製)
・光重合開始剤: 1部
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)
・トルエン: 100部
【0134】
<実施例8>
実施例4の表面層塗工液を下記のものに変えた以外は実施例4と同様に電子写真感光体を作製した。
[表面層塗工液]
・例示化合物B−1−9のラジカル重合性化合物: 10部
・ラジカル重合性官能基を3つ以上有するモノマー: 10部
ジペンタエリスリトールカプロラクトン変性ヘキサアクリレート
(KAYARAD DPCA-120、日本化薬製)
【化42】

・導電性微粒子: 20部
アンチモンドープ酸化スズ(T−1、三菱マテアリアル製)
・光重合開始剤: 1部
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)
・トルエン: 100部
【0135】
<実施例9>
実施例4の表面層塗工液を下記のものに変えた以外は実施例4と同様に電子写真感光体を作製した。
[表面層塗工液]
・例示化合物B−1−1のラジカル重合性化合物: 10部
・ラジカル重合性官能基を3つ以上有するモノマー: 10部
ジペンタエリスリトールカプロラクトン変性ヘキサアクリレート
(KAYARAD DPCA-120、日本化薬製)
・導電性微粒子: 20部
アンチモンドープ酸化スズ(T−1、三菱マテアリアル製)
・光重合開始剤: 1部
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)
・トルエン: 100部
【0136】
<実施例10>
実施例4の表面層塗工液を下記のものに変えた以外は実施例4と同様に電子写真感光体を作製した。
[表面層塗工液]
・例示化合物B−1−10のラジカル重合性化合物: 10部
例示化合物B−1−10はジフェノール体 BisP-PZ(本州化学製)からB−1−2
の合成例と同様にして合成されたジアクリレート体
・ラジカル重合性官能基を3つ以上有するモノマー: 10部
トリメチロールプロパントリアクリレート(KAYARAD TMPTA、日本化薬製)
・導電性微粒子: 20部
アンチモンドープ酸化スズ(T−1、三菱マテアリアル製)
・光重合開始剤: 1部
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)
・トルエン: 100部
【0137】
<実施例11>
実施例4の表面層塗工液を下記のものに変えた以外は実施例4と同様に電子写真感光体を作製した。
[表面層塗工液]
・例示化合物B−2−2のラジカル重合性化合物: 10部
・ラジカル重合性官能基を3つ以上有するモノマー: 10部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(KAYARAD DPHA、日本化薬製)
【化43】

・導電性微粒子: 20部
アンチモンドープ酸化スズ(T−1、三菱マテアリアル製)
・光重合開始剤: 1部
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)
・トルエン: 100部
【0138】
<実施例12>
実施例4の表面層塗工液を下記のものに変えた以外は実施例4と同様に電子写真感光体を作製した。
[表面層塗工液]
・例示化合物C−2−1のラジカル重合性化合物: 10部
・ラジカル重合性官能基を3つ以上有するモノマー: 10部
トリメチロールプロパントリアクリレート(KAYARAD TMPTA、日本化薬製)
・導電性微粒子: 20部
アンチモンフリー酸化スズ(S−1、三菱マテアリアル製)
・光重合開始剤: 1部
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)
・テトラヒドロフラン: 100部
【0139】
<実施例13>
実施例4の表面層塗工液を下記のものに変えた以外は実施例4と同様に電子写真感光体を作製した。
[表面層塗工液]
・例示化合物D−1−2のラジカル重合性化合物: 20部
例示化合物D−1−2はD−1−1合成例の4,4′−オキシビスフェノールを4,
4′−チオビスフェノールに変更し、D−1−1と同様にして合成されたジアクリレ
ート体
・導電性微粒子: 20部
アンチモンドープ酸化スズ(T−1、三菱マテアリアル製)
・光重合開始剤: 1部
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)
・トルエン: 100部
【0140】
<実施例14>
実施例4の表面層塗工液を下記のものに変えた以外は実施例4と同様に電子写真感光体を作製した。
[表面層塗工液]
・例示化合物D−1−4のラジカル重合性化合物: 10部
・ラジカル重合性官能基を3つ以上有するモノマー: 10部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(KAYARAD DPHA、日本化薬製)
・導電性微粒子: 20部
アンチモンフリー酸化スズ(S−1、三菱マテアリアル製)
・光重合開始剤: 1部
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)
・トルエン: 100部
【0141】
<比較例1>
実施例1の表面層塗工液を下記のものに変えた以外は実施例1と同様に電子写真感光体を作製した。
[表面層塗工液]
・下記構造式のラジカル重合性モノマー: 20部
【化44】

ビスフェノールAエチレンオキシ変性ジアクリレート
(A―BPE−4、新中村化学工業)
・導電性微粒子: 20部
アンチモンドープ酸化スズ(T−1、三菱マテアリアル製)
・光重合開始剤: 1部
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)
・トルエン: 100部
【0142】
<比較例2>
実施例4の表面層塗工液を下記のものに変えた以外は実施例4と同様に電子写真感光体を作製した。
[表面層塗工液]
・ラジカル重合性モノマー: 20部
ビスフェノールAエチレンオキシ変性ジアクリレート
(ABE−300、新中村化学工業)
【化45】

・導電性微粒子: 20部
アンチモンドープ酸化スズ(T−1、三菱マテアリアル製)
・光重合開始剤: 1部
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)
・トルエン: 100部
【0143】
<比較例3>
実施例4の表面層塗工液を下記のものに変えた以外は実施例4と同様に電子写真感光体を作製した。
[表面層塗工液]
・ラジカル重合性モノマー: 10部
ビスフェノールAエチレンオキシ変性ジアクリレート
(ABE−300、新中村化学工業)
・ラジカル重合性官能基を3つ以上有するモノマー: 10部
トリメチロールプロパントリアクリレート(KAYARAD TMPTA、日本化薬製)
・導電性微粒子: 20部
アンチモンドープ酸化スズ(T−1、三菱マテアリアル製)
・光重合開始剤: 1部
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)
・トルエン: 100部
【0144】
<比較例4>
実施例4の表面層塗工液を下記のものに変えた以外は実施例4と同様に電子写真感光体を作製した。
[表面層塗工液]
・下記構造式のラジカル重合性モノマー: 20部
(KAYARAD SR-230、日本化薬製)
【化46】

・導電性微粒子: 20部
アンチモンドープ酸化スズ(T−1、三菱マテアリアル製)
・光重合開始剤: 1部
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)
・トルエン: 100部
【0145】
<比較例5>
実施例4の表面層塗工液を下記のものに変えた以外は実施例4と同様に電子写真感光体を作製した。
[表面層塗工液]
・ラジカル重合性モノマー: 20部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(KAYARAD DPHA、日本化薬製)
・導電性微粒子: 20部
アンチモンドープ酸化スズ(T−1、三菱マテアリアル製)
・光重合開始剤: 1部
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)
・トルエン: 100部
【0146】
<比較例6>
実施例4の表面層塗工液を下記のものに変えた以外は実施例4と同様に電子写真感光体を作製した。
[表面層塗工液]
・ラジカル重合性官能基を3つ以上有するモノマー: 10部
トリメチロールプロパントリアクリレート(KAYARAD TMPTA、日本化薬製)
・導電性微粒子: 20部
アンチモンドープ酸化スズ(T−1、三菱マテアリアル製)
・光重合開始剤: 1部
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)
・トルエン: 100部
【0147】
<比較例7>
実施例4の表面層塗工液を下記のものに変えた以外は実施例4と同様に電子写真感光体を作製した。
[表面層塗工液]
・ラジカル重合性官能基を3つ以上有するモノマー: 10部
エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート
(KAYARAD SR-415、日本化薬製)
【化47】

・導電性微粒子: 20部
アンチモンドープ酸化スズ(T−1、三菱マテアリアル製)
・光重合開始剤: 1部
1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン
(イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)
・トルエン: 100部
【0148】
以上のように作製した実施例1〜14、比較例1〜7の感光体を、イマジオMF2200改造機を用いて、A4サイズ10万枚の通紙試験(常温、常湿下)を実施した。
イマジオMF2200改造機 … 帯電部を図3(IV)に示す固定式帯電方法とした。(帯電部材:東邦レーヨン製FW210、イノアックコーポレーション製SP−80)
まず、前記感光体を電子写真装置用プロセスカートリッジに装着し、画像露光光源として655nmの半導体レーザーを用い初期暗部電位を−700Vに設定した。その後通紙試験を開始し、初期と10万枚複写後の画像評価、電子写真感光体の摩耗量(通紙試験終了後の感光体膜厚から初期の感光体膜厚を引いた値、膜厚測定はフィシャースコープMMS Fischer製を使用)を測定した。その結果を下記表4に示す。
【0149】
【表4】

【0150】
以上のように、本実施例の感光体は摩耗量が格段に少なく、耐摩耗性が優れており良好な画像が持続して得られる。また、比較例1〜3ではビスフェノールA型ジアクリレートをモノマーに使用した結果、本実施例の感光体に比べ摩耗量が多かった。3官能以上のモノマーを用いた比較例5〜6では官能基数では高い耐摩耗性が得られているものの、画像に白抜けが発生した。これは感光体表面に発生した微小なクラックが発生したためと思われる。比較例4の2官能モノマーを用いた感光体は摩耗量が多かった。従って、本実施例の感光体は比較例の感光体に比べ、総合的に優れていることが分かる。
【0151】
次に、実施例1〜3、比較例5〜7の感光体に対して感光層のクラック促進試験を行った。結果を表5に示す。評価方法としては電子写真感光体の表面に指油を付着させ、50℃常圧下で3日間放置した後、感光層の表面状態を観察した。
【表5】

以上のように、本実施例の感光体はクラック促進試験においても優れた耐久性をもっている。比較例5、6、7の感光体においてはクラックが発生している、3官能以上のアクリルモノマーのみを使った場合、硬化時の膜の収縮率が高いためである。
【0152】
以上より、実施例1〜14に示される上記一般式(A)の構造を含むラジカル硬化組成物を含有する電子写真感光体が、優れた膜強度かつクラックの発生のない優れた画像出力安定性を備えていることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】電子写真感光体の層構成の一例を示す。
【図2】電子写真感光体の層構成の他の例を示す。
【図3】接触帯電方式例を示す。
【図4】電子写真プロセスカートリッジの一例を示す。
【図5】本発明に使用される例示化合物B−1−2の合成例で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図6】本発明に使用される例示化合物B−1−9の合成例で得られた化合物の赤外吸収スペクトルである。
【符号の説明】
【0154】
11 電子写真感光体
12 帯電装置
13 イメージ露光
14 現像ローラー
15 転写部材
16 転写ローラー
17 クリーニングユニット
18 徐電ランプ
19 定着ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真感光体、該電子写真感光体に接触配置され、電圧を印加されることにより該電子写真感光体を帯電する帯電部材、露光手段、現像手段及び転写手段を有する電子写真装置において、該電子写真感光体がラジカル硬化されていない感光層と、ラジカル硬化組成物及び導電性微粒子を含有する表面層を有し、該ラジカル硬化組成物中に少なくとも下記一般式(A)で表される構造単位を含有し、かつ該帯電が注入帯電であることを特徴とする電子写真装置。
【化1】

(式中、Ar1、Ar2、Ar3はそれぞれ置換基を有しても良いアリーレン基を表し、Xは酸素原子又はイオウ原子を表し、nは0又は1を表す。)
【請求項2】
前記電子写真感光体の表面層が、少なくとも導電性微粒子及び下記一般式(B)で表されるラジカル重合性化合物を含有する塗工液を感光層表面に塗工した後、該塗膜中のラジカル重合性化合物をラジカル硬化させることによって形成されることを特徴とする請求項1記載の電子写真装置。
【化2】

(式中、Ar1、Ar2、Ar3はそれぞれ置換基を有しても良いアリーレン基を表し、R1、R2はそれぞれ水素原子又はメチル基を表し、R5及びR6はぞれぞれ炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状アルキレン基、1−ケトへキシレン基を表し、i、jは0〜4の整数を表し、Xは酸素原子又はイオウ原子を表し、nは0又は1を表す。)
【請求項3】
前記電子写真感光体の表面層が、少なくとも導電性微粒子及び下記一般式(C)で表されるラジカル重合性化合物を含有する塗工液を感光層表面に塗工した後、該塗膜中のラジカル重合性化合物をラジカル硬化させることによって形成されることを特徴とする請求項1記載の電子写真装置。
【化3】

(式中、Ar1、Ar2、Ar3はそれぞれ置換基を有しても良いアリーレン基を表し、R1、R2、R3、R4はそれぞれ水素原子又はメチル基を表し、Xは酸素原子又はイオウ原子を表し、nは0又は1を表す。)
【請求項4】
前記電子写真感光体の表面層が、少なくとも導電性微粒子及び下記一般式(D)で表されるラジカル重合性化合物を含有する塗工液を感光層表面に塗工した後、該塗膜中のラジカル重合性化合物をラジカル硬化させることによって形成されることを特徴とする請求項1記載の電子写真装置。
【化4】

(式中、Ar1、Ar2、Ar3はそれぞれ置換基を有しても良いアリーレン基を表し、R1、R2はそれぞれ水素原子又はメチル基を表し、Xは酸素原子又はイオウ原子を表し、nは0又は1を表し、mは1〜50の整数を表す。)
【請求項5】
前記電子写真感光体の表面層が、少なくとも導電性微粒子及び前記一般式(B)、(C)、(D)で表されるラジカル重合性化合物のいずれかと、更にラジカル重合性官能基を3つ以上有するモノマーを含有する塗工液を感光層表面に塗布して塗膜を形成し、該塗膜中のラジカル重合性化合物及びラジカル重合性官能基を3つ以上有するモノマーをラジカル硬化させることによって形成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電子写真装置。
【請求項6】
前記電子写真感光体の表面層が、光のエネルギーを用いた手段で硬化されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電子写真装置。
【請求項7】
前記導電性微粒子が金属酸化物であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の電子写真装置。
【請求項8】
前記電子写真感光体のラジカル硬化されていない感光層が、導電性支持体上に少なくとも電荷発生層と電荷輸送層を順次積層した構成をとることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の電子写真装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の電子写真装置に用いるプロセスカートリッジであって、電子写真感光体と、更に帯電手段、露光手段、現像手段、転写手段、クリーニング手段、除電手段から選択される少なくとも1つの手段とが一体となり、電子写真装置と着脱自在であることを特徴とするプロセスカートリッジ。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−304720(P2008−304720A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−152207(P2007−152207)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】