説明

電子基板の保持構造及び電子基板の封止方法

【課題】コネクタハウジングに貫通孔が形成されたコネクタ部材を実装する電子基板を、電子基板収容ケース内部において樹脂層にて封止した場合であっても、コネクタ部材と外部のハーネスとの良好な嵌合状態を確保可能とする。
【解決手段】電子基板を収容した状態にてコネクタハウジングの貫通孔が電子基板の開口部側の端よりも上方に位置し、かつ電子基板の開口部側の端が開口部よりも下方に位置するように電子基板収容ケースを傾斜させ、電子基板収容ケースを傾斜させた状態にて、電子基板が埋まりかつ貫通孔が埋まらない位置まで軟化された樹脂を電子基板収容ケースに充填し、軟化された樹脂を硬化させて樹脂層とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子基板の保持構造及び電子基板の封止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動二輪車や自動四輪車等の車両に制御用の電子基板を設置する場合には、コネクタ部材等の電子部品が実装された上記電子基板を、袋構造の電子基板収容ケースにコネクタ部材が露出するように収容して保持し、当該電子基板収容ケースごと設置する場合がある。
そして、このような電子基板収容ケースが、振動の大きい自動二輪車等に設置された場合には、電子基板収容ケースの内部にて電子基板に実装された電子部品の脱落の防止や防水のために、電子基板収容ケースの内部に樹脂を充填し、電子基板を樹脂層にて封止する。
【0003】
例えば、特許文献1には、電子基板収容ケースの内部に樹脂を充填して電子基板を封止する方法が記載されている。
具体的には、電子基板収容ケースに電子基板を収容した状態にて電子基板収容ケースの内部に樹脂を充填することによって電子基板を封止している。
【特許文献1】特開平11−324705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、比較的振動が小さくかつ水分に晒される虞が少ない自動四輪車等に電子基板を設置する場合には、電子基板を樹脂にて封止しない場合が一般的である。
このような場合には、電子基板上における結露を防止する等のために、コネクタ部材のコネクタハウジングに対して、ケースと外部とを接続して換気するための貫通孔が形成されている場合がある。
【0005】
製造コストの観点から、防水コネクタではなく、コネクタハウジングに貫通孔が形成された汎用品のコネクタ部材を、上述のような樹脂層にて封止される電子基板に流用することが望まれているが、このようなコネクタ部材を用いた場合には、電子基板収容ケースの内部に充填された樹脂が、コネクタハウジングに形成された貫通孔から接続端子の設置領域に流れ込み硬化することで、電子基板に実装されたコネクタ部材と外部のハーネスとの嵌合不良を招く虞がある。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、コネクタハウジングに貫通孔が形成されたコネクタ部材を実装する電子基板を、電子基板収容ケース内部において樹脂層にて封止した場合であっても、コネクタ部材と外部のハーネスとの良好な嵌合状態を確保可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の電子基板の保持構造は、接続端子と該接続端子を支持すると共に貫通孔が形成されたコネクタハウジングとを有するコネクタ部材が実装された電子基板を、袋構造の電子基板収容ケースの開口部において上記接続端子が露出する状態にて上記電子基板収容ケースに収容して保持し、さらに上記電子基板収容ケースの内部が樹脂にて充填された電子基板の保持構造であって、上記樹脂からなる樹脂層は、上記電子基板が埋設されると共に上記コネクタハウジングの貫通孔が埋設されないように上記開口部側の露出面が傾斜されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の電子基板の封止方法は、接続端子と該接続端子を支持すると共に貫通孔を備えるコネクタハウジングとを有するコネクタ部材が実装された電子基板を、袋構造の電子基板収容ケースの開口部において上記接続端子が露出する状態にて上記電子基板収容ケースに収容して保持し、上記電子基板を樹脂層にて封止する電子基板の封止方法であって、上記電子基板を収容した状態にて上記コネクタハウジングの上記貫通孔が上記電子基板の上記開口部側の端よりも上方に位置し、かつ上記電子基板の上記開口部側の端が上記開口部よりも下方に位置するように上記電子基板収容ケースを傾斜させ、上記電子基板収容ケースを傾斜させた状態にて、上記電子基板が埋まりかつ上記貫通孔が埋まらない位置まで軟化された樹脂を上記電子基板収容ケースに充填し、上記軟化された樹脂を硬化させて上記樹脂層とすることによって上記電子基板を樹脂層にて封止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電子基板の保持構造によれば、樹脂層の電子基板収容ケースの開口部側に位置する露出面が、樹脂層に電子基板が埋設されると共に樹脂層にコネクタハウジングの貫通孔が埋設されないように傾斜されている。つまり、樹脂層がコネクタハウジングの貫通孔まで到達していない。
また、本発明の電子基板の封止方法によれば、電子基板収容ケースを傾斜させて軟化された樹脂を、電子基板が埋まりかつ貫通孔が埋まらない位置まで充填し、この樹脂を硬化させることによって樹脂層が形成される。つまり、コネクタハウジングの貫通孔まで到達しない樹脂層が形成される。
このように、本発明の電子基板の保持構造及び電子基板の封止方法によれば、電子基板を封止する樹脂層が、コネクタハウジングの貫通孔まで到達しないため、当該貫通孔から樹脂が漏れることがない。
したがって、接続端子の設置領域に硬化した樹脂が存在することがなくなるため、コネクタ部材とハーネスとを良好に嵌合することができる。
よって、本発明によれば、コネクタハウジングに貫通孔が形成されたコネクタ部材を実装する電子基板を、電子基板収容ケース内部において樹脂層にて封止した場合であっても、コネクタ部材と外部のハーネスとの良好な嵌合状態を確保することが可能となる。また、汎用品のコネクタ部材を使用することにより、製造コストを低く抑えることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明に係る電子基板の保持構造の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0011】
図1は、本実施形態の電子基板の保持構造10の斜視図である。また、図2は、本実施形態の電子基板の保持構造10の鉛直断面図である。また、図3は、電子基板の保持構造10を電子基板Pの挿入方向から見た正面図である。
なお、図1〜図3においては、電子基板の保持構造10と共に電子基板Pを図示し、さらに図1においては、電子基板Pを電子基板収容ケース1から引き出した状態を示すと共に樹脂層3の図示を省略している。
また、本実施形態の説明においては、便宜上、後述する電子基板収容ケース1の正規位置に収容された電子基板Pの表裏面に沿う方向を水平方向とし、電子基板Pの表裏面に直交する方向を鉛直方向として説明する。しかしながら、実際に取り付けられる際の電子基板収容ケース1の姿勢は、設置箇所に応じて自由である。
【0012】
図1〜図3に示すように、本実施形態の電子基板の保持構造10は、電子基板収容ケース1と、レール対2、樹脂層3とを備えている。
【0013】
本実施形態の電子基板収容ケース1は、電子基板Pを内部にて保持した状態にて収容する袋状の構造体であり、電子基板Pを挿入出するための開口部11を有している。この電子基板収容ケース1は、例えばプラスチック等により形成されている。
なお、電子基板Pは、配線が形成されると共に複数の電子部品が実装されたプリント基板であり、電子部品の1つであるコネクタ部材Cが一端部P1の表面側に実装されている。このコネクタ部材Cは、電子基板Pの一端部P1から離れた側の側部C1に配列される複数の接続端子C2と、当該接続端子C2を支持すると共に複数の貫通孔C31(図3参照)が形成されたコネクタハウジングC3とを有している。そして、電子基板Pが電子基板収容ケース1の内部に収容されている場合には、コネクタ部材Cの側部C1のみが電子基板収容ケース1の開口部11(図3参照)に露出され、これによってコネクタ部材Cと外部のハーネスとが嵌合可能とされる。つまり、電子基板Pが電子基板収容ケース1に収容されて保持され、この際、電子基板収容ケース1の開口部11にて接続端子C2が露出された状態となる。
【0014】
電子基板収容ケース1は、水平方向に対向配置された上壁部1a及び下壁部1bと、鉛直方向に対向配置される側壁部1c,1dと、鉛直方向に配置されると共に上壁部1a、下壁部1b、側壁部1c,1dとに垂直に接続される奥壁部1eとによって袋構造とされた構成を有しており、電子基板Pの挿入方向から見る形状が略矩形とされている。
【0015】
そして、本実施形態の電子基板収容ケース1は、各々の側壁部1c,1dの内部側に2本のレールからなるレール対2が設置されている。
これらのレール対2は、鉛直方向に配列される上側レール2aと下側レール2bとによって構成されている。
上側レール2aは、電子基板Pが収容されている場合に、電子基板Pの表面側に配置されると共に電子基板Pの挿入出方向に延在するレールである。一方、下側レール2bは、電子基板Pが収容されている場合に、電子基板Pの裏面側に配置されると共に電子基板Pの挿入出方向に延在するレールである。
【0016】
このようなレール対2を構成する上側レール2a及び下側レール2bは、電子基板Pを電子基板収容ケース1に対して挿入出する際のガイドとして機能すると共に電子基板Pが挿入された場合に電子基板Pを電子基板収容ケース1の内部にて支持するように機能する。
より詳細には、電子基板Pは、両側の端部が上下に配列された上側レール2aと下側レール2b間である溝に嵌合されることによって保持され、また当該溝に沿って摺動することによって挿入出の際に案内される。
【0017】
樹脂層3は、電子基板収容ケース1の内部に充填された樹脂によって形成されている。そして、本実施形態の電子基板の保持構造10においては、図2に示すように、開口部11側の露出面3aが、電子基板Pが樹脂層3に埋設されると共にコネクタハウジングC3の貫通孔C31が樹脂層3に埋設されないように傾斜されている。
【0018】
このように構成された本実施形態の電子基板の保持構造10によれば、樹脂層3の露出面3aが傾斜され、電子基板Pが樹脂層3に埋設されると共にコネクタハウジングC3の貫通孔C31が樹脂層3に埋設されないように構成されている。つまり、本実施形態の電子基板の保持構造10は、コネクタハウジングC3の貫通孔C31まで到達しない樹脂層3を有している。このため、電子基板P全体を封止できると共に貫通孔C31から樹脂が漏れることがない。
したがって、接続端子の設置領域に硬化した樹脂が存在することがなくなるため、コネクタ部材Cと外部のハーネスとを良好に嵌合することができる。
よって、本実施形態の電子基板の保持構造10によれば、コネクタハウジングC3に貫通孔C31が形成されたコネクタ部材Cを実装する電子基板Pを、電子基板収容ケース1内部において樹脂層3にて封止した場合であっても、コネクタ部材Cと外部のハーネスとの良好な嵌合状態を確保することが可能となる。また、汎用品のコネクタ部材を使用することにより、製造コストを低く抑えることが可能である。
【0019】
次に、本実施形態の電子基板の保持構造10の形成方法(電子基板の封止方法)について説明する。
【0020】
まず、樹脂が充填されていない電子基板収容ケース1に、電子基板Pを挿入して収容する。この際、電子基板Pは、電子基板収容ケース1の内部に設置されたレール対2によって電子基板収容ケース1の正規の位置に案内される。
【0021】
続いて、図4に示すように、電子基板Pが収容された状態にて、コネクタハウジングC3の貫通孔C31が電子基板Pの開口部11側の端P2よりも上方に位置し、かつ電子基板Pの開口部側の端P2が開口部11よりも下方に位置するように電子基板収容ケース1を傾斜させる。なお、本実施形態においては、電子基板収容ケース1は、水平面に対して45°傾斜されている。
【0022】
続いて、このように電子基板収容ケース1を傾斜させた状態にて、電子基板Pが埋まりかつ貫通孔C31が埋まらない位置まで、軟化された樹脂31を電子基板収容ケース1に充填する。なお、軟化された樹脂31は、図4に示すように、コネクタ部材Cと電子基板収容ケース1の下壁部1bとの間から電子基板収容ケース1の内部に充填する。
【0023】
最後に、樹脂31が充填された電子基板収容ケース1を熱処理することによって、樹脂31が硬化されて上述した樹脂層3が形成され、これによって電子基板Pが封止される。
【0024】
このような本実施形態の電子基板の保持構造10の形成方法によれば、コネクタハウジングC3の貫通孔C31が電子基板Pの開口部11側の端P2よりも上方に位置し、かつ電子基板Pの開口部側の端P2が開口部11よりも下方に位置するように電子基板収容ケース1が傾斜された状態にて樹脂31を電子基板収容ケース1内に充填する。
このため、樹脂31の充填量を適切に調整することによって、電子基板Pを全て樹脂31に埋没させ、樹脂31が電子基板収容ケース1の開口部11から漏れ出さず、かつ、樹脂31がコネクタハウジングC3の貫通孔C31に到達しないように樹脂31を充填することができる。
そして、樹脂層3は、このように充填された樹脂31が硬化されることによって形成される。このため、電子基板Pを全て樹脂31に埋没させ、樹脂31が電子基板収容ケース1の開口部11から漏れ出さず、かつ、樹脂31がコネクタハウジングC3の貫通孔C31に到達しない樹脂層3(すなわち開口部11側の露出面3aが、電子基板Pが樹脂層3に埋設されると共にコネクタハウジングC3の貫通孔C31が樹脂層3に埋設されないように傾斜された樹脂層3)を形成することができる。
【0025】
つまり、本実施形態の電子基板の保持構造10の形成方法(電子基板の封止方法)によれば、接続端子C2の設置領域に樹脂が漏れ出さずに、電子基板Pを樹脂層3にて封止することができる。よって、コネクタハウジングC3に貫通孔C31が形成されたコネクタ部材Cを実装する電子基板Pを、電子基板収容ケース1内部において樹脂層3にて封止した場合であっても、コネクタ部材Cと外部のハーネスとの良好な嵌合状態を確保することが可能となる。
【0026】
また、本実施形態の電子基板の保持構造10の形成方法によれば、一度の熱処理にて樹脂層3を形成することができる。
したがって、短時間で、接続端子C2の設置領域に樹脂を漏れ出させることなく、電子基板Pを樹脂層3にて封止することができる。
【0027】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る電子基板の保持構造及び電子基板の封止方法の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0028】
例えば、上記実施形態においては、軟化した樹脂31を電子基板収容ケース1に充填する際に、電子基板収容ケース1を水平面に対して45°傾斜させる構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、コネクタハウジングC3の貫通孔C31、開口部11及び電子基板Pの形状や位置に応じて、電子基板収容ケース1を傾斜させる角度は変化する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態における電子基板の保持構造の斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態における電子基板の保持構造の鉛直断面図である。
【図3】本発明の一実施形態における電子基板の保持構造を電子基板の挿入方向から見た正面図である。
【図4】本発明の一実施形態における電子基板の保持構造の形成方法を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1……電子基板収容ケース、11……開口部、3……樹脂層、3a……露出面、31……樹脂、10……電子基板の保持構造、P……電子基板、P2……端、C……コネクタ部材、C2……接続端子、C3……コネクタハウジング、C31……貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接続端子と該接続端子を支持すると共に貫通孔が形成されたコネクタハウジングとを有するコネクタ部材が実装された電子基板を、袋構造の電子基板収容ケースの開口部において前記接続端子が露出する状態にて前記電子基板収容ケースに収容して保持し、さらに前記電子基板収容ケースの内部が樹脂にて充填された電子基板の保持構造であって、
前記樹脂からなる樹脂層は、前記電子基板が埋設されると共に前記コネクタハウジングの貫通孔が埋設されないように前記開口部側の露出面が傾斜されていることを特徴とする電子基板の保持構造。
【請求項2】
接続端子と該接続端子を支持すると共に貫通孔を備えるコネクタハウジングとを有するコネクタ部材が実装された電子基板を、袋構造の電子基板収容ケースの開口部において前記接続端子が露出する状態にて前記電子基板収容ケースに収容して保持し、前記電子基板を樹脂層にて封止する電子基板の封止方法であって、
前記電子基板を収容した状態にて前記コネクタハウジングの前記貫通孔が前記電子基板の前記開口部側の端よりも上方に位置し、かつ前記電子基板の前記開口部側の端が前記開口部よりも下方に位置するように前記電子基板収容ケースを傾斜させ、
前記電子基板収容ケースを傾斜させた状態にて、前記電子基板が埋まりかつ前記貫通孔が埋まらない位置まで軟化された樹脂を前記電子基板収容ケースに充填し、
前記軟化された樹脂を硬化させて前記樹脂層とすることによって前記電子基板を樹脂層にて封止する
ことを特徴とする電子基板の封止方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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