説明

電子工業用高純度酢酸の製造方法

【課題】電子工業用高純度酢酸の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は電子工業用高純度酢酸の製造方法に係り、1.工業用酢酸を高速蒸留し、2.孔径0.05〜0.3μmのろ過膜によって留分に対して膜ろ過を行い、3.精留を行い、4.再び膜ろ過を行うステップを含む。前記設計によって、純度が99.8%まで高く、単一金属イオン含有量が1ppbより小さく、0.5μm以上の固体不純物粒子の含有量が5個/mlより小さい電子工業用高純度酢酸を得ることができ、また、本発明により提供される製造方法はエネルギー消耗が低く、操作が簡単で、安全性が良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子化学品の製造方法に係り、特に電子工業用高純度酢酸の製造方法に係る。
【背景技術】
【0002】
電子工業用酢酸(acetic acid)は電子工業における重要な溶剤で、不可欠なマイクロ電子用化学薬品の1つである。工業上、酢酸の生産、輸送及び貯蔵のプロセスにおいて、原料及び設備などの原因によって、製品に粉塵粒子、金属イオン、十分に反応されなかった原料と中間品または副生成物が混在していることは避けられず、これらの不純物、特に金属イオンの存在は酸化誘起積層欠陥(OISF)の発生を引き起こしやすいため、p‐n接合漏洩電流を増加させ、破壊・キャリヤ寿命の短縮を招くことによって、線幅が比較的小さい集積回路に対して、複数の金属イオンまたは粉塵粒子が全体の回路の廃棄に至ることは十分である。超大規模集積回路の発展によって、各種の電子工業用試薬の純度に対しても要求がますます高くなり、技術傾向から見れば、ナノレベルの集積回路の加工要求を満たすことは電子工業用試薬の発展方向である。
【0003】
酢酸などの電子工業用液体高純度試薬(Ultra‐clean and High‐purity Reagents、「プロセスケミカル、Process Chemicals」とも呼ばれる)を製造する「要」は金属イオンなどの不純物含有量と粒度を基準に適合させることにあり、主な製造方法としてはイオン非沸騰蒸留法、共沸蒸留法、(多段)蒸留法及び化学処理法などが挙げられるが、電子工業用高純度酢酸の製造に対しては、現在良い方法はまだない。
【0004】
(多段)蒸留法は電子工業用高純度化学薬品の最も常用の製造方法であり、例えば中国特許CN1285560Cに開示された高純度酢酸の製造方法及び装置は、2段精留の方法によってSEMI‐C7標準に適合する酢酸を得た。(多段)蒸留法は長周期連続に生産できるが、エネルギー消耗が多く、危険性も高い。
【0005】
中国特許CN100372586Cは清浄高純度試薬酸の製造方法及び装置を開示し、従来の精留方法及び装置に対して改善を行い、棘式精留塔と充填塔とを上下直列して精留塔を構成し、電子工業用高純度試薬酸、例えば塩酸、酢酸などの製造に用いられるが、該装置内部の構造が複雑すぎである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は電子工業用高純度酢酸の製造方法を提供し、膜ろ過、蒸留及び精留を結合し、金属イオン及び固体粒子を簡単有効に除去することによって、電子工業用高純度酢酸を得ることができ、且つ操作が簡単で、エネルギー消耗が低く、安全性が高い。
【0007】
本発明により提供される電子工業用高純度酢酸の製造方法は、
1.工業用酢酸を高速蒸留し、20L/minより遅くない速度で留分を収集し、工業用酢酸を製造するときに十分に反応されなかった一部の原料と中間品を除去し、好ましくは、20〜50L/minの速度で留分を収集し、
2.孔径0.05〜0.3μmのろ過膜によって、ステップ1に収集された留分に対してろ過を行い、
3.ろ液を精留して留分を収集し、
4.孔径0.05〜0.3μmのろ過膜によって、ステップ3に収集された留分に対してろ過を行い、ろ液を収集し、所望の生成物を得るステップを含む。
【0008】
前記ステップ1において、好ましくは、蒸留温度が130〜140℃である。
【0009】
前記ステップ2において、好ましくは、β−シクロデキストリン複合膜によってろ過を行う。
【0010】
前記ステップ3において、好ましくは、125〜135℃で常圧精留し、117.5〜118.5℃の留分を収集する。
【0011】
前記ステップ4において、好ましくは、18‐クラウン‐6複合膜によってろ過を行う。
【0012】
そのうち、前記β−シクロデキストリン複合膜または18‐クラウン‐6複合膜によってろ過を行う速度が1〜5L/hに制御される。
【0013】
前記製造方法の好適な実施例において、充填塔によって精留を行う。
【0014】
そのうち、好ましくは、前記精留充填物がHDPEとPFAとの混合物である。
【0015】
さらに好ましくは、HDPEとPFAとの重量比が10〜15:1である。
【0016】
本発明の電子工業用高純度酢酸の製造方法は、精留の前にまず快速蒸留を行い、大部分の蟻酸、アルデヒドなどの有機不純物を除去でき、且つ精留と比べると、蒸留のコストが大幅に低い。
【0017】
蒸留するときに大部分の不純物がすでに除去されたため、精留するときに原料液の純度が比較的高く、精留の稼動負担を大幅に下げ、従来方法における高エネルギー消耗及び危険性などが下げられまたは減少された。
【0018】
2回の膜ろ過によって金属イオンを除去することは、精留に対して、ろ過プロセスの操作が簡単で、コストが低く、環境に優しく、酢酸における金属イオンの含有量を下げられるだけでなく、固体不純物粒子を除去することもできる。
【0019】
HDPEとPFAとの混合物を充填物とするときに、PFAの優れた分離効果を維持できると同時に、HDPEの添加は充填物のコストを大幅に下げ、且つ分離効果にも影響を与えない。
【0020】
前記を総括すると、本発明電子工業用高純度酢酸の製造方法は、操作が簡単で、コストが低いなどの利点を有し、製造された電子工業用高純度酢酸の純度が99.8%に達し、単一金属イオン濃度が1ppbより小さく、0.5μm以上の粒子の含量が5個/mlより小さい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明電子工業用高純度酢酸の製造方法の実施例4のプロセスフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下は具体的な実施例に合わせて本発明電子工業用高純度酢酸の製造方法に対して詳しく説明する。
【実施例1】
【0023】
ステップ1、工業用酢酸を高速蒸留し、工業用酢酸を製造するときに十分に反応されなかった一部の原料と中間品、副生成物などの主な不純物を除去する。
【0024】
蒸留によってこれらの不純物の大部分を除去でき、且つ精留と比べると、蒸留のコストが低く、操作がより簡単である。
【0025】
そのうち、蒸留温度を130〜140℃に制御してもよく、且つ好ましくは、20〜50L/minの速度で留分を収集し、蒸留速度を上げ、時間を節約し、生産効率を向上させることができる。
【0026】
ステップ2、孔径0.05〜0.3μmのろ過膜によって、ステップ1に収集された留分に対してろ過を行い、過大な圧力が過膜を破壊しまたはろ過効果に影響を与えることを防止するように、ろ過速度を1〜5L/hに制御する。
【0027】
ステップ3、125〜135℃でろ液を常圧精留し、117.5〜118.5℃の留分を収集する。
【0028】
そのうち、充填塔によって精留してもよく、充填塔は塔内の充填物を気液2相の接触部材とする物質伝達装置で、生産能力が大きく、分離効率が高く、エネルギー消耗が少なく、圧力降下が小さいなどの利点を有する。
【0029】
精留充填物は充填塔の核心で、塔内の気液2相を接触させて物質伝達、熱伝達を行うための表面を提供する。PFA(四フッ化エチレン/パーフルオロアルコキシビニル共重合体)を充填物とした場合は、良好な分離効果を有し、且つPFAは優れた耐腐食性及び耐高温性などの性能を有する。
【0030】
さらにHDPE(高密度ポリエチレン)とPFAとの混合物を充填物としてもよく、好ましくは、重量比が10〜15:1で、PFAの優れた分離効果を維持できると同時に、HDPEの低廉な価格によって、充填物のコストを50〜500倍に下げ、一方、精留効果にも影響を与えない。
【0031】
ステップ4、孔径0.05〜0.3μmのろ過膜によって、ステップ3に収集された留分に対してろ過を行い、ろ液を収集し、前記電子工業用高純度酢酸を得る。
【0032】
同様に、ろ過速度を1〜5L/hに制御する。
【0033】
精留によって金属イオンを除去し、膜ろ過によって比較的大きな固体不純物粒子を除去することによって、電子工業用高純度酢酸を製造する目的を達成する。
【実施例2】
【0034】
ステップ1、130〜140℃で、工業用酢酸を高速蒸留し、工業用酢酸を製造するときに十分に反応されなかった一部の原料と中間品、副生成物などの不純物を除去し、留分を収集する。
【0035】
ステップ2、β−シクロデキストリン複合膜によってステップ1に収集された留分に対して微多孔膜ろ過を行い、ろ過の速度を1〜5L/hに制御する。
【0036】
β−シクロデキストリン(β−cyclodextrin,β−CD)は1種の環状オリゴ糖であり、分子は桶状構造になっており、このような構造によってβ−シクロデキストリン複合膜が重金属イオンを除去できる。
【0037】
よって、β−シクロデキストリン複合膜は一部の固体粒子を除去すると同時に、一部の金属イオンを除去することもでき、次の精留プロセスの稼動負担を下げた。
【0038】
β−シクロデキストリン複合膜の製造方法は、固相カオリン(主な成分は二酸化ケイ素、酸化アルミニウム及び水である)とβ−シクロデキストリンとを混合して200〜300メッシュの微粒子に研磨し、その後粘着剤(例えばポリビニルアルコール)と混合して素地にし、低温乾燥した後、200〜250℃で焼結し、孔径0.05〜0.3μmの、β−シクロデキストリンと固相担体カオリンとの複合膜を得る。
【0039】
ステップ3、125〜135℃でろ液を常圧精留し、117.5〜118.5℃の留分を収集する。
【0040】
ステップ4、孔径0.05〜0.3μmのろ過膜によって、ステップ3に収集された留分をろ過し、ろ過速度を1〜5L/hに制御する。
【0041】
ろ液を収集し、前記電子工業用高純度酢酸を得る。
【実施例3】
【0042】
ステップ1、130〜140℃で、工業用酢酸を高速蒸留し、工業用酢酸を製造するときに十分に反応されなかった一部の原料と中間品、副生成物などの不純物を除去し、留分を収集する。
【0043】
ステップ2、孔径0.05〜0.3μmのろ過膜によってステップ1に収集された留分に対してろ過を行い、ろ過の速度を1〜5L/hに制御する。
【0044】
ステップ3、118〜119℃でろ液を常圧精留し、117.5〜118.5℃の留分を収集する。
【0045】
ステップ4、18−クラウン−6複合膜によってステップ3に収集された留分に対して微多孔膜ろ過を行い、ろ過の速度を1〜5L/hに制御する。
【0046】
18−クラウン−6(18‐crown‐6ether)は1,4,7,10,13,16‐ヘキサオキサシクロオクタデカン(1,4,7,10,13,16‐hexaoxacyclooctadecane)とも呼ばれ、1種のクラウンエーテルで、分子環直径がカリウムイオンなどの金属イオンの直径と相当であり、よく錯体化することができるため、カリウムイオン、ナトリウムイオンなどの軽質金属イオンを有効に除去できる。一部の固体不純物粒子を除去すると同時に、さらに精留後残していた一部の金属イオンを除去できる。
【0047】
18−クラウン−6複合膜は実施例2におけるβ−シクロデキストリン複合膜の製造方法に参照して製造することができる。
【0048】
その後ろ液を収集し、前記電子工業用高純度酢酸を得る。
【実施例4】
【0049】
前記実施例をベースにし、前記電子工業用高純度酢酸の製造方法は以下の通りである。
【0050】
ステップ1、130〜140℃で、工業用酢酸を蒸留し、工業用酢酸を製造するときに十分に反応されなかった一部の原料と中間品、副生成物などの不純物を除去し、20〜50L/minの速度で留分を収集する。
【0051】
ステップ2、孔径0.05〜0.3μmのβ−シクロデキストリン複合膜によって収集された留分に対してろ過を行い、ろ過の速度を1〜5L/hに制御する。
【0052】
ステップ3、125〜135℃で充填塔においてろ液を常圧精留し、117.5〜118.5℃の留分を収集する。
【0053】
ステップ4、孔径0.05〜0.3μmの18−クラウン−6複合膜によって、ステップ3に収集された留分に対して膜ろ過を行い、ろ過の速度を1〜5L/hに制御する。
【0054】
ろ液を収集し、前記電子工業用高純度酢酸を得る。
【0055】
実施例1に得られた電子工業用高純度酢酸製品に対して純度測定を行い、そのうち、酢酸含有量は自動滴定装置によって測定分析を行い、カチオンは誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP‐MS)によって測定分析を行い、アニオンは濁度計及び紫外分光光度計によって測定分析を行い、粉塵粒子はレーザ粒度分布測定装置によって測定分析を行う。純度測定結果は以下の通りである。
【0056】
【表1】



前記測定結果から分かるように、本発明の方法により得られた電子工業用高純度酢酸の純度が99.8%で、単一金属イオン含有量が1ppbより小さく、0.5μm以上の粉塵粒子が5個/mlより少なく、電子工業用高純度酢酸として使用されることができる。
【0057】
前記内容は本発明の具体的な実施例であり、そのうち詳細に記載されなかった試薬、設備、操作及び測定方法などは、本分野における既知の通常の試薬、設備、操作及び測定方法などによって実施されることとして理解すれば良い。
【0058】
以上は本発明の具体的な実施例に対して詳細に説明したが、本発明の主旨に対する例として挙げたに過ぎず、本発明は以上に説明された例に限定されるではない。本分野当業者にとって、本発明に対して行った同等な修正及び代用も本発明の範囲に属する。そのため、本発明の主旨及び範囲を逸脱しない場合に行った類似な変更及び修正は、ともに本発明の範囲内に属すべきである。
【符号の説明】
【0059】
1 工業用酢酸
2 蒸留塔
3 冷却塔
4 β−シクロデキストリン複合膜ろ過装置
5 精留塔
6 冷却塔
7 18‐クラウン‐6複合膜ろ過装置
8 製品タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子工業用高純度酢酸の製造方法において、
ステップ1.工業用酢酸を高速蒸留し、20L/minより遅くない速度で留分を収集し、
ステップ2.孔径0.05〜0.3μmのろ過膜によって、ステップ1に収集された留分に対してろ過を行い、
ステップ3.ろ液を精留して留分を収集し、
ステップ4.孔径0.05〜0.3μmのろ過膜によって、ステップ3に収集された留分に対してろ過を行い、ろ液を収集し、所望の生成物を得ることを特徴とする電子工業用高純度酢酸の製造方法。
【請求項2】
前記ステップ1において、20〜50L/minの速度で留分を収集することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ステップ1において、蒸留温度が130〜140℃に制御されることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
ステップ2における前記膜ろ過はβ−シクロデキストリン複合膜によってろ過を行うことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
ステップ4における前記膜ろ過は18‐クラウン‐6複合膜によってろ過を行うことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記複合膜によってろ過を行う速度が1〜5L/hに制御されることを特徴とする請求項4または5に記載の製造方法。
【請求項7】
ステップ3における前記精留は125〜135℃で常圧精留し、117.5〜118.5℃の留分を収集することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
ステップ3における前記精留は充填塔によって精留を行うことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
HDPEとPFAとの混合物を精留充填物とすることを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記混合物において、HDPEとPFAとの重量比が10〜15:1に制御されることを特徴とする請求項9に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−62299(P2012−62299A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254013(P2010−254013)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(510301448)上海華誼微電子材料有限公司 (2)
【Fターム(参考)】