説明

電子放出顕微分光撮像での非点収差を補正するための方法

【課題】電子放出顕微分光装置の電子光学カラムの非点収差を補正するための方法を提供すること。
【解決手段】本方法は、・撮像されるべき対象とする構造を含む試料の表面上に参照構造(100b)を形成するステップと、・二次電子を用いておよび内殻準位光電子を用いて顕微分光装置によって参照構造を撮像するステップと、・二次電子を用いるおよび内殻準位光電子を用いる参照構造の撮像中に現れる非点収差欠陥を除去するステップとを含み、参照構造の材料は、内殻準位光電子撮像中に、参照構造の材料の平均強度Iaと試料の材料の平均強度Ibとの間のコントラストCが、


であるように選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微分光撮像の分野、より明確には、例えば光励起電子または光電子放出を用いる電子放出顕微分光装置の電子光学カラムの欠陥、特に非点収差の補正の分野に関する。本発明は特に、全視野XPS(X線光電子顕微分光)撮像の分野に適用される。
【背景技術】
【0002】
電子分光法と顕微鏡法とを組み合わせる顕微分光法は、あるエネルギーを有する幅広ビームによって撮像されるべき試料の大きな表面を照射するという撮像技術である。前記ビームがX線ビームであるとき、それは、XPS撮像として周知である。この技術は、撮像されるべき試料の材料の原子における電子のいくつかに関する光電効果の原理を使用する。光子が、試料材料の原子の電子殻の1つからの電子と相互作用するとき、前記光子は、その初期エネルギーをその電子へ移動させる。このエネルギーの一部は、電子がその初期軌道から真空準位への遷移を行うことを可能にする。このエネルギーは、電子の結合エネルギーに相当する。残留エネルギーは、運動エネルギーの形で電子に送られる。エネルギーフィルターとしてもまた周知の、エネルギー分析器を用いてこの運動エネルギーを測定し、入射放射のエネルギーを知ることによって、排出された電子の結合エネルギーをこれから推定し、それ故に化学元素の観点から試料の性質を特徴づけることが可能である。
【0003】
全視野顕微分光法は、電子光学カラムおよびエネルギー分析器を用いて行われる。カラムは、光電効果によって試料の表面から排出されるすべての電子を収集し、撮像する。光電子は、抽出電界として周知の、試料とカラムの対物レンズとの間に生成される強い電界を用いてカラムによって収集される。例えば半球型のエネルギー分析器は、カラムによって送られる電子を非常に小さなエネルギー間隔で選択することによって、カラムによって生成される画像のエネルギーフィルタリングを行う。
【0004】
方位分解能(試料の面内での画像の分解能)を制限するさまざまな要因が、電子放出撮像、例えばPEEMに存在する。
【0005】
初めに、試料の物理的トポグラフィは、得られる画像の品質において重要な役割を果たす。実際、もし試料の表面が粗いならば、これらの不規則性は、試料と対物レンズとの間に生成される抽出電界を乱し、このことは、放出される光電子の経路を偏向させる影響を有し、得られる画像に過剰強度および過小強度をもたらす。したがって、試料は、試料のトポグラフィに起因するこれらの欠陥を低減するために、できる限り平坦な表面を有しなければならない。
【0006】
抽出電界と対物レンズの静電レンズ自体の両方に起因する、球面および色収差もまた、電子放出撮像での分解能を制限する欠陥である。球面収差は、同じ運動エネルギーに対して、光軸に関して広角度を提示する光電子が、焦点面内で合焦しないという影響を有する。隔膜の使用は、最大光電子収集角度を制限することを可能にするが、他方ではカラムによって送られる強度を低減する。一方、色収差は、光軸に関して同様の角度を有する光電子が、異なる運動エネルギーを有し得、それ故に同じ面内で合焦することにはならないという事実から生じる。
【0007】
従来技術は、いろいろな機器、即ち電子ミラー、六重極、その他を用いることによって、これらの球面および色収差をどのように補正するかを教示する。
【0008】
非点収差もまた、PEEM撮像での方位分解能を制限する要因である。実際、PEEMカラムは、完全な光軸を有さず、これらの不完全性は一般に、レンズ間または代わりに残留磁界間の不整合である。レンズ自体は、どちらも完全ではなく、しばしば光軸周りのそれらの透過率は、対称的ではない。光軸周りの焦点距離はそれ故に、観察の方向に応じて変化することがあり得る。電子経路は、光軸に平行な面内および光軸に垂直な面内で同じようには合焦しない、即ち、垂直成分は、タンジェンシャル面として周知の面内でより短い距離に合焦し、水平成分は、サジタル面として周知の面内でより長い距離に合焦する。このようにして、画像は、変形して見えることになる。例えば、画像焦点の周りに位置付けられるとき、正方形は、長方形のように見え、円形は、楕円形のように見えるであろう。この非点収差は、得られる画像の品質の低減(方位分解能、コントラスト、その他の低減)をもたらし、印加される必要がある正しい合焦電圧は、見いだすことが困難である。
【0009】
特許文献1は、例えば顕微分光装置の電子光学カラムの非点収差を補正するための方法を開示し、この方法では、カラムの非点収差の評価、次いで前記非点収差の補正は、カラムの偏向器/スティグマトールの制御電流を繰り返し利用することによって行われ、偏向器/スティグマトールは、すべての方向の非点収差が補正されることを可能にする静電八重極でありうる。
【0010】
図1Aは、顕微鏡の光学系に非点収差がない状態で撮像された円形パターンを表す。対照的に、図1Bは、異なる方向での顕著な非点収差に起因する変形がある状態で撮像されたこの同じ撮像パターンを表す。非点収差は、カラムのスティグマトールのSx軸の制御電圧を利用することによって補正することができ、X軸に関して平行および垂直方向(X軸に関して0°および90°)に沿った変形、ならびにカラムのスティグマトールのSy軸の制御電圧を利用することによって補正することができ、X軸に関して45°および135°にある方向に沿った変形をもたらし得ることが、この図1Bで分かる。
【0011】
それにもかかわらず、そのような方法は、一般に撮像することが望まれるこれらの試料の対象とする構造が、カラムの非点収差欠陥を明確に浮かび上がらせることを可能にしないパターンを有するので、実際には多くの試料に適用できないという重大な欠点を有する。例えば、撮像することが望まれる対象とする構造が水平な細片から成る試料の場合には、試料の対象とする構造の細片の向きに平行なこの水平方向での非点収差を評価し、補正することはできないであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第7126120号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】S. Halas、「100 years of work function」、Materials Science−Poland、Vol. 24、No. 4、2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、顕微分光装置の電子光学カラムの欠陥、特に非点収差を補正することによって、試料の対象とする構造の、例えば光電子を用いる電子放出顕微分光撮像の方法における観察条件を最適化することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的で、本発明は、少なくとも、
− 撮像されるべき対象とする構造を含む試料の表面上に参照構造を形成するステップであって、互いに垂直で試料の表面に平行な面内にある2つの軸に沿う、参照構造の外側輪郭の寸法は、実質的に同様であるステップと、
− 二次電子を用いておよび内殻準位光電子を用いて顕微分光装置によって参照構造を撮像するステップと、
− 二次電子を用いるおよび内殻準位光電子を用いる参照構造の撮像中に現れる非点収差欠陥を除去するステップとを含み、
参照構造の材料は、内殻準位光電子を用いる観察中に、参照構造の材料の平均強度Iaと試料の材料の平均強度Ibとの間のコントラストCが、
【0016】
【数1】

【0017】
であるように選択される、電子放出顕微分光装置の電子光学カラムの非点収差を補正するための方法を提案する。
【0018】
ここで、および本明細書の残り全体にわたって、「平均強度」は、所与の領域に対する画像内の画素の光強度の平均値を意味するために採用される。
【0019】
非点収差欠陥の除去は、顕微分光装置のスティグマトールの制御電圧の調節、次いで顕微分光装置の合焦電圧の調節によって行われてもよい。
【0020】
二次電子を用いてまたは内殻準位光電子を用いて撮像できる参照構造はそれ故に、調べられるべき試料の表面上に形成される。撮像することが望まれる対象とする構造を含む試料上に形成される参照構造の使用のおかげで、対象とする構造のどんな幾何学様式(形状、寸法、その他)が撮像されるにしても、特に対象とする構造が、顕微分光装置のカラムの非点収差を補正するために単独では使用できない、縦方向に延びる要素、例えば細片を含むときには、顕微分光装置のカラムの非点収差を補正することが可能である。対象とする構造の、例えばXPS型の撮像はそれ故に、高方位分解能で行われてもよい。
【0021】
参照構造はそれ故に、例えば円板形状または別の幾何学的形状の単一の材料部分を含んでもよい。
【0022】
参照構造は、異なる大きさで、非ゼロの距離だけ互いに分離された同心状パターンを形成する、参照構造の材料の複数の部分を含んでもよい。
【0023】
それ故に、参照構造の異なるパターンを使用することによって、異なる大きさの、即ち大きい、言い換えれば例えば約600μmと100μmとの間の、中間の、言い換えれば例えば約100μmと25μmとの間の、または小さい、言い換えれば例えば約25μm未満の、視野上に現れる非点収差欠陥を補正することが可能である。使用者はそれ故に、対象とする視野に対してこれらの異なるパターンを観察し、非点収差欠陥を補正するために顕微分光装置の倍率を調節しなければならないだけである。
【0024】
参照構造の材料部分の外側輪郭は、参照構造の中心の周りで互いに相似でありかつ/または360°延びてもよい。それ故に、参照構造は、互いに重なり合ういくつかの幾何学的パターン(正方形、円板、その他)を含んで、使用者のために非点収差の存在の視覚認識(定性的)を容易にしてもよい。
【0025】
参照構造の材料部分のパターンは、互いの中に配置される幾何学的パターンを含む、または格子もしくはらせんパターン(いくつかの同心状パターンに分解でき、非ゼロの距離だけ互いに分離できる格子およびらせん)を含んでもよい。
【0026】
例えば、参照構造の材料部分のパターンは、リングを含んでもよい。
【0027】
参照構造の材料部分のパターンは、異なる幅(基板の面内での材料部分の寸法)を含んでもよい。
【0028】
参照構造の外側輪郭の寸法は、非点収差の補正のために使用される顕微分光装置の視野に応じて選択されてもよく、例えば、顕微分光装置の視野の大きさの少なくとも約1/25に等しくてもよい。例えば、約127μm未満の視野に対しては、参照構造の外側輪郭の寸法は、約2μmと10μmとの間であってもよい。約20μmと127μmとの間の視野に対しては、これらの寸法は、約5μmと10μmとの間、例えば約10μmに等しくてもよい。約20μm未満、例えば約18μmに等しい視野に対しては、これらの寸法は、約2μmと5μmとの間、例えば約5μmに等しくてもよい。例えば顕微分光装置の視野の大きさの少なくとも約1/25に等しい、十分な寸法の参照構造を形成するように選択することによって、非点収差の補正は、特に顕微分光装置が広い視野(例えば約200μmに等しい観察窓)および内殻準位光電子撮像で構成されるとき、内殻準位光電子を用いる顕微分光装置によって使用される典型的な視野において良好な計数統計で働く可能性を保持することによって容易になる。
【0029】
加えて、内殻準位について非点収差を補正することが望まれるとき、もし内殻準位光電子の励起の確率が二次電子の励起の確率よりも低いならば、そのような寸法は、容易に撮像できる十分に大きな参照構造を形成することを可能にする。例えば、内殻準位光電子を用いる顕微分光装置は、一方では十分な計数統計を可能にするために十分に広い視野をおよび、他方では、例えば視野の大きさの約1/25よりも大きい十分に大きな表面を有する参照構造を選択することによって、限られた輝度の励起源とともに使用されてもよく、このことは、画像の取得時間を低減することを可能にし、それ故に非点収差の調節を洗練するためにより多くの数の画像の取得を行うことを可能にする。
【0030】
例えばXPS型の撮像機器の場合には、その空間分解能は、使用される放射のエネルギーに応じて変化する。参照構造の材料部分間の距離および/または参照構造の材料部分の幅(互いに垂直で試料の表面に平行な面内にある2つの軸の1つに沿った寸法)は、対象とする構造の観察中の顕微分光装置の最良の空間分解能の約2倍以上、または約1.5倍と2.5倍との間であってもよい。
【0031】
約0.2以上のコントラストを得るためには、参照構造がその上に形成される試料の材料と比較して適切な材料で参照構造を形成することが必要である。この目的で、参照構造の材料は、その元素組成が試料の材料のものと著しく異なるように選択されてもよい。
【0032】
それ故に、参照構造の材料の仕事関数と試料の材料の仕事関数との差は、約0.2eV以上であってもよく、および/または参照構造および試料の材料が少なくとも1つの同じ元素に基づくとき、参照構造の材料内のこの元素の濃度は、試料の材料内のこの元素の濃度と異なってもよく、および/または参照構造および試料の材料が同じ性質であるとき、前記材料は、異なってドープされてもよい。
【0033】
有利には、参照構造の材料を、その材料の少なくとも1つの構成元素の内殻準位光電子が、試料の観察中に使用される励起ビームのエネルギーに応じて高断面積を有するように、選択することが可能である。参照構造の材料は、参照構造の材料の少なくとも1つの構成元素の内殻準位光電子の断面積が、約0.1Mbarn(1Mbarn=10−22)以上であるように選択されてもよい。そのような断面積を有する材料を選択することによって、参照構造の材料の内殻準位電子の光励起の良好な確率は、保証される。
【0034】
参照構造の材料は、前記材料の構成元素の少なくとも1つを撮像するために使用される内殻準位光電子の運動エネルギーが、約数百eV以下、または約1000eV未満であるようなものでもよい。例えば、撮像されるべきその中の光電子を、それらの運動エネルギーが低くなるような方法で励起することができる(運動エネルギーは励起ビームのエネルギーに依存する)材料を選択することによって、顕微分光装置によるそれらの透過率は、改善されて、参照構造の材料と試料の材料との間で得られるコントラストを改善する。
【0035】
参照構造の材料は、電気的に導体または半導体であってもよい。電荷補償デバイスを使用することによって、参照構造の材料は、誘電体であってもよい。
【0036】
参照構造の形成は、対象とする構造のどんな劣化も避けるために、対象とする構造から約100μmよりも大きい距離における試料上への参照構造の材料の局所的堆積の少なくとも1つのステップ、および堆積材料を機械加工し、参照構造を形成するステップを含んでもよい。
【0037】
この場合には、参照構造の材料は、約15nmと200nmとの間の、有利には約30nm未満の実質的に一様な厚さで堆積されてもよく、および/または機械加工は、堆積材料の厚さ内で約1nmまたは2nmよりも大きい深さで行われてもよい。
【0038】
非点収差を補正するための方法はさらに、内殻準位光電子を用いて顕微分光装置によって参照構造を撮像するステップ、次いで参照構造の内殻準位光電子撮像中に現れる非点収差欠陥を除去するステップの実施より前に、二次電子を用いて顕微分光装置によって参照構造を撮像するステップ、次いで参照構造の二次電子撮像中に現れる非点収差欠陥を除去するステップを含んでもよい。
【0039】
二次電子を用いるまたは内殻準位光電子を用いる参照構造の撮像中に現れる非点収差欠陥の除去は、カラムのスティグマトールの制御電圧の調節によって、次いで顕微分光装置の合焦電圧の調節によって行われてもよい。
【0040】
本発明はまた、電子放出顕微分光撮像の方法にも関係し、上述のように非点収差を補正するための方法の実施、ならびに二次電子を用いておよび/または内殻準位光電子を用いて対象とする構造を撮像する1つまたは複数のステップを含む。
【0041】
本発明は、純粋に表示のためであり決して限定のためにではなく与えられた実施形態の説明を読み、添付の図面を参照することによって、より良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1A】顕微鏡の光学系に非点収差がない状態で撮像された円形パターンを概略的に表す図である。
【図1B】異なる方向で顕著な非点収差に起因する変形がある状態で撮像されたこの同じパターンを概略的に表す図である。
【図2】本発明の目的である、撮像方法で使用される、例えば光電子を用いる電子放出顕微分光装置の電子光学カラムの例を表す図である。
【図3】本発明の目的である、撮像方法中に撮像された対象とする構造および参照構造を含む試料の例を表す図である。
【図4】本発明の目的である、撮像方法中に形成され、使用される参照構造の例を表す図である。
【図5】本発明の目的である、撮像方法中に排出された電子の運動エネルギーの関数として顕微分光装置の合焦電圧の変化を表現する外挿曲線を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
これから先で説明される、異なる図の同一の、同様のまたは同等の部分は、1つの図から次へと進むのをより容易にするように、同じ参照番号を有する。
【0044】
図を読み取るのをより容易にするために、図内の異なる部分は、必ずしも一様な縮尺で表されていない。
【0045】
異なる可能性(代替案および実施形態)は、互いに相互排他的ではないと理解されるべきであり、一緒に組み合わされてもよい。
【0046】
まず、顕微分光装置の電子光学カラム10を表す図2を参照すると、本明細書では電子光学カラム10はPEEMカラムであり、図3で約85μmの視野内で表される試料1の全視野XPS撮像方法を実施するために使用され、試料1上には円板形状の参照構造100aおよび撮像することが望まれる対象とする構造3がある。ここで説明される例では、対象とする構造3は、シリコンおよびシリコン−ゲルマニウムのエピタキシャル層のスタックの直線切断面であり、それ故にこの単一の対象とする構造3からカラム10の非点収差の推定および補正を行うことを可能にするどんなパターンも含まない。
【0047】
顕微分光装置はまた、エネルギー源12、ここではX線放射体も含み、その放射を受け取る試料1の材料の原子を光電効果によって励起することを可能にする。カラム10の光学システムはもっぱら、静電要素から成る。カラム10は、試料1の表面とカラム10の第1の要素を形成するエキストラクターとして周知の液浸レンズの第1の電極との間に印加される、例えば約7kV.mm−1に等しい強電界を用いて試料1から排出された光電子の収集を行う。前記エキストラクターは、合焦レンズと結合され、カラム10の対物レンズ14の一部を形成する。
【0048】
カラム10はさらに、光電子の最大開口角を制限することを可能にし、後部焦点面がその高さに形成される、コントラストアパーチャ16を含む。カラム10は次いで、偏向器/スティグマトール18として周知の非点収差を補正し、偏向を調節するためのシステム、および中間画像がその中に形成される領域選択隔膜20を含む。カラム10は次いで、最終画像を与えるために中間画像を拡大するいくつかの投影レンズ22および24を含む。
【0049】
カラム10はさらに、光電子に作用することによって画像の増幅を行うMCP(マイクロチャンネルプレート)28、および電子画像をCCDカメラ32によって検出可能な光に変換する蛍光画面30を含む検出器26を含む。図2の例で表されるように、顕微分光装置10はまた、検出器26と投影レンズ22および24との間に配置される画像遅延フィルター34を含むことができる。
【0050】
カラム10を用いて実施される試料1の全視野XPS撮像の方法の例を、次に説明する。この方法中に、内殻準位光電子を用い、そしてなおさらそうだが、二次電子を用いるカラム10の非点収差は、対象とする構造3のそばで試料1の表面上に形成される参照構造100のおかげで補正され、その一例は、図4で表される。
【0051】
図4の例では、参照構造100bは、ブロック102を形成する第1の材料部分を含み、その形状は、図4で表される平面(X、Y)に相当する試料1の表面の面内では、円板である。参照構造100bはさらに、ブロック102を取り囲み、平面(X、Y)内にリング形状を含む第2の材料部分104を含む。ブロック102およびリング104は、同心状であり、非ゼロの距離「e」だけ互いに分離されて、ブロック102とリング104との間に間隙を形成し、その中では、試料1の表面の部分106は、参照構造100bの材料によって覆われず、それ故にカラム10によって見ることができる。この部分106は、平面(X、Y)内でブロック102を取り囲むリング形状を含む。
【0052】
ここではリング形状部分104の「d」と参照符号が付けられた外側直径に相当する、参照構造100bの全体的な大きさ、言い換えれば試料1の表面の面内での参照構造100bの外側輪郭の寸法は、顕微分光装置の視野の約1/25よりも大きく、例えば約90μmの視野に対して約10μmに等しい。視野に応じて、参照構造100bの全体的な大きさが、視野の約1/25未満であることもまた可能である。この参照構造100bはそれ故に、異なる視野に対して内殻準位光電子を用いる、同様に二次電子を用いる非点収差の補正と両立できる十分大きな表面を提供する。
【0053】
参照構造100bの異なる材料部分間の間隔、同様にこれらの部分の幅(試料1の表面の面内、言い換えれば平面(X、Y)内の寸法)は、観察機器、即ち電子光学カラム10の空間分解能に応じて選択される。図4の例では、この間隔は、図4では「e」と参照され、ブロック102をリング部分104から分離するギャップに相当する。このギャップ「e」、同様に「l」と参照符号が付けられたリング部分104の幅およびブロック102の直径「m」は、入射放射のエネルギーに応じて、顕微分光装置によって試料について得られる最良の実際的な空間分解能の約2倍に等しく、または約1.5倍と2.5倍との間に選択される。
【0054】
例えば、「NanoESCA」型顕微分光装置の場合には、実験室AlKα型X線源を約1486.7eVで使用することによって、測定される最良の空間分解能は、約500nmに等しい。ギャップ「e」、幅「l」および直径「m」はそれ故に、少なくとも約1μmに等しく選択される。シンクロトロン放射などの軟X線型線源を約250eVで使用することによって、測定される最良の空間分解能は、約100nmに等しい。ギャップ「e」、幅「l」および直径「m」はこの場合、少なくとも約200nmに等しく選択される。最後に、約4.9eVに等しい実験室型UV源、例えば水銀放電を使用することによって、空間分解能はこの場合、約40nmに等しい。ギャップ「e」、幅「l」および直径「m」はそれ故に、少なくとも約80nmに等しく選択される。
【0055】
参照構造100bの材料、言い換えれば部分102および104の材料は、試料1の材料に対して良好なコントラストを有するために、参照構造100bがその上に形成される試料1の材料に応じて選択される。参照構造100bの材料は、参照構造100bのその部分の材料の平均強度Iaと試料1の材料の平均強度Ibとの間のコントラストCが、
【0056】
【数2】

【0057】
であるように選択される。
【0058】
そのようなコントラストは、試料1の材料の仕事関数と比較して仕事関数の差を有する、試料1の材料とは化学的に似ていない材料から参照構造100bを形成するために選択することによって得られてもよい。実際、この仕事関数の差は、部分102および104を形成する参照構造100bの材料、および試料1の材料の局所電子構造が異なることを示唆する。光励起の確率および電子が放出され始めるエネルギーしきい値(光電子放出しきい値)はそれ故に、参照構造100bの材料の場合、試料1の材料のそれらとは異なり、これにより、2つの材料間のコントラストに対応して、得られる画像に強度の差がもたらされる。参照構造100bの材料は特に、試料1の材料とは異なる光電子放出しきい値を有するように、例えばこれらの材料の仕事関数が少なくとも0.2eVだけ異なるように選択されてもよい。シリコンに基づく試料1の場合には、参照構造100bの材料は、例えばタングステン、ゲルマニウム、ガリウムまたは代わりにチタンの中から選択される。加えて、試料1および参照構造100bの材料は、励起源が低エネルギー励起、例えばUV源を含むとき、これらの材料の仕事関数の値が励起源のエネルギーよりも低いように選択されてもよい。それぞれの材料の仕事関数の値は、例えば非特許文献1で説明される。
【0059】
代替案では、試料1の材料と参照構造100bの材料との間のコントラストの差はまた、これらの材料に共通する元素の濃度を変えることによって得られてもよい。例えば、試料1は、GaAsに基づき、参照構造100bは、AlGa1−xAsに基づくことも可能である。別の代替案では、コントラストの差はまた、例えば前記材料が半導体であるとき、2つの材料のうちの1つのドーピングレベルをもう1つと比較して変えることによって得られてもよい。例えばn−ドープシリコンに基づく試料1およびp−ドープシリコンに基づく参照構造100bを有することが可能である。
【0060】
もし内殻準位光電子を用いるカラム10の非点収差の補正がこの方法で行われるならば、十分なイオン化電子を有し、それによって比較的短い取得時間(最長でも数分)で内殻準位光電子を用いて画像を得るために、内殻準位光電子を用いて画像および試料1の表面と参照構造100bとの間のコントラスの強度を最大にすることもまた望まれる。
【0061】
内殻準位光電子を用いる観察の場合には、コントラストの強度は、試料1の表面に到達する光子束に比例する。シンクロトロン放射を使用することにより、内殻準位光電子を用いて得られる画像でのコントラストの強度を最大にするために、この光子束が最大にされることを保証することが可能である。
【0062】
また、参照構造100bの材料は、ここでは、試料1の表面を調べる入射放射に応じて選択される。実際、本発明者らは本明細書では、材料の所与の元素および所与の光子エネルギーに対して、所与の電子殻の光励起の確率に相当する、材料の断面積パラメータに関心がある。この断面積はそれ故に、考えられる元素、考えられる電子殻および光子の入射エネルギーにもまた一度にかつ同時に依存する。現在の場合には、参照構造100bの材料は、この材料を構成する元素の内殻準位光電子が、少なくとも0.1Mbに等しい断面積を有するように選択される。
【0063】
最後に、参照構造100bの材料は、その内殻準位光電子の運動エネルギーに応じて選択される。このようにして、内殻準位光電子の運動エネルギーができる限り低い、例えば最大でも数百eVに等しいまたは約1000eV未満である、内殻準位を撮像することを目標とする。実際、カラム10の透過率Tは、光電子の運動エネルギーEに反比例して、
【0064】
【数3】

【0065】
であるように変化し、ただし、rapは、カラム10のコントラスト開口半径16である。
【0066】
それ故に、内殻準位光電子が良好な断面積(≧0.1Mb)を有する材料に対しては、透過率を改善するように、高結合エネルギーを、それ故に低運動エネルギー(<200eV)を有する元素が好ましい。以下の表は、1486.7eVでのX線励起ビームによって照射されたいろいろな材料に関連する断面積および運動エネルギーの値を与える。「線」列は、撮像された光電遷移に相当する。
【0067】
【表1】

【0068】
最後に、参照構造100bの材料はまた、顕微分光装置の透過率を最大にするように、前記材料が試料1の材料の内殻準位結合エネルギーに近い内殻準位結合エネルギーを有するように選択されてもよい。
【0069】
最後に、参照構造100bの材料は、帯電効果を避けるための、および超高真空(約10−7Pa未満の圧力)下で脱気しない非電気絶縁材料の中から、言い換えれば、導体または半導体材料の中から選択されてもよい。
【0070】
参照構造100bが形成される材料を、選択することを可能にする方法の例を、次に説明する。
【0071】
周知の励起ビームのエネルギーに応じて、二次電子を用いる非点収差の補正を行うために、試料1の材料に対して少なくとも約0.2eVに等しい仕事関数の差を有する材料が、決定される。
【0072】
もしこれらの材料のいずれかから形成される参照構造を用いて得ることができる非点収差の補正が、十分であるならば、これらの材料の1つが、参照構造100bを形成するために選択される。
【0073】
もし二次電子を用いる非点収差の補正が十分でなく、もし内殻準位光電子を用いて非点収差を補正することができることが望まれるならば、周知の励起ビームのエネルギーに応じて、先に選択された材料の中から、内殻準位光電子が約0.1Mb以上の断面積を有する材料が、選択される。
【0074】
好ましくは、この新しく選択された材料の中から、試料1の材料に対する良好なコントラスト(0.2以上)、同様に低運動エネルギー(例えば約200eV未満)でかつ対象とする構造3の材料の光電遷移に近い光電遷移を有する1種類または複数種類の材料が、次いで選択される。
【0075】
いったん参照構造100bの材料が選択されると、次いで参照構造100bが形成される。
【0076】
参照構造100bの材料は、例えばFIB(集束イオンビーム)型の局所的堆積技術によって堆積され、次いで参照構造100bの同心状部分102、104を形成するために機械加工される。堆積を行う機器自体が、形成される参照構造100b内にひずみを引き起こさないように、非点収差欠陥に対して補正される。
【0077】
参照構造100bは、対象とする構造3の近くに、例えば対象とする構造3から数十ミクロンに、または最大でも約500μmに堆積される。実際、もし収差を補正すること、言い換えれば光学カラム10の要素をできる限り最良に整列させることが求められるならば、参照構造100bを使用して非点収差の補正を行った後、参照構造100bを撮像することから対象とする構造3を撮像することへ進む際の移動を制限し、それによって光学カラム10の調整を誤り、もう一度収差を導入する機会を制限するために、参照構造100bを対象とする構造3から分離する距離をできる限り低減することが好ましい。それ故に、参照構造100bについて非点収差を補償することにより、もし対象とする構造3が近いならば、撮像されるべき対象とする構造3の領域について残留収差の補正の最小化は、保証される。
【0078】
試料1の表面上に参照構造100bの材料を堆積させることによって、使用される局所的堆積技術が何であれ、周囲を汚染する可能性があるという事実もまた考慮される。それ故に、対象とする構造3を損傷しないように十分な距離を選択することに注意が払われる。もしこの材料の堆積に起因する損傷の範囲が知られていないならば、使用されず、対象とする構造3から遠く離れた試料1の表面の領域上に参照構造100bの材料を最初に堆積させることが可能である。次いで汚染された帯域を測定し、試料1上の対象とする構造3の近くでの参照構造100bの材料の堆積中にこの距離を考慮することが可能である。
【0079】
参照構造100bを形成するために、好ましくは、画像のあり得るひずみを避けるために、できる限り最小のトポグラフィを有する一様な厚さの堆積が、行われる。この堆積は特に、例えば約15nmと30nmとの間の高さで行われてもよい。それにもかかわらず、参照構造100bを形成するために、より厚い堆積(例えば30nmと200nmとの間、またはさらに厚くさえ)を行うことが、可能である。
【0080】
もし観察されるべき対象とする構造3の表面が、それにもかかわらず汚染されるまたは酸化されるならば、前記表面は、顕微分光装置内の超高真空下でイオン衝撃を行うことによって清浄にされる。参照構造100bの材料の堆積は、参照構造100bが、そのようなイオン衝撃に耐えることができるように、薄過ぎない、言い換えれば少なくとも数ナノメータの厚さであることを保証することに注意が払われる。
【0081】
参照構造100bの材料を堆積させた後、参照構造100bの材料を通り抜けて、基板1に至るまで確実に機械加工するために、堆積高さプラス約1または2nmに相当する深さで、機械加工が行われる。トポグラフィの影響を避けるために、彫り込み厚さを最小限にすることに注意が払われる。材料の単純な堆積では一般に、きちんとした、明確な構造が得られず、そのような構造は他方では、材料の堆積後に機械加工を行うことによって得ることができる。この機械加工はそれ故に、材料の局所的堆積から、参照構造100bの異なる部分(図4での102および104)を形成することを可能にする。
【0082】
もしここで調べられる対象とする構造3が、SiおよびSiGeのエピタキシャル層のスタックによって形成されるならば、参照構造100bは、例えばタングステンに基づく。実際、4.85eVである、試料1の材料、ここではシリコンの仕事関数は、4.55eVであるタングステンの仕事関数と異なる(0.3eVの差)。1486.7eVの励起エネルギー(AlKα型X線源)に対してタングステンから排出される内殻準位光電子の断面積は、約0.15Mbに等しい。
【0083】
もしここで1486.7eVで使用されるX線源が、約500nmの空間分解能を得ることを可能にするならば、約1μmの周期に従って互いの中に配置される同心状リングの形で参照構造100bを形成することが、決定されてもよく、タングステンは、約20nmに等しい厚さでFIBによって堆積され、次いで参照構造100bの同心状部分を形成するために機械加工される。
【0084】
先に説明された参照構造100bの例は、いくつかの同心状材料部分を含むけれども、この単一の材料部分は、カラムの非点収差を補正するために使用できるので、参照構造が単一の材料部分だけを含むこともまた可能である。このことは、互いに関して垂直で試料の表面に平行な面内にある2つの軸に沿う参照構造の外側輪郭の寸法が、例えば円板(例えば図3で表される参照構造100aなど)、正方形、または多角形などの他の規則的な幾何学的形状に対する場合がそうであるように、実質的に同様であるときにそうである。
【0085】
参照構造100bの形成の後、参照構造100bに近接して、試料1の表面上に十字形マークを形成することもまた可能である。好ましくは非対称な、そのような十字形は、撮像方法の実施中に参照構造100bを容易に位置付けることを可能にする。実際、試料1の表面が撮像されるときには、広い視野(数百マイクロメータを超える視野)から始められ、参照構造100bを位置付けることが困難である。この十字形はそれ故に、使用者が、参照構造100bを見いだし、撮像するために、参照構造100bがその中にある領域を特定し、十字形が非対称であるときは、試料1に関してカラム10を移動させる方向を知ることを可能にする。ここで説明される例では、この十字形は、FIB堆積によって形成され、十字形の枝部の大きさは、約200μmに等しい。一般的に言えば、十字形以外の形状のマーク用パターンを形成することもまた可能である。
【0086】
参照構造100bを形成した後、形成された参照構造100bが、所望の構造(寸法、トポグラフィ、形状、その他)に相当することが検証される。例えばそのような検証は、例えばKFM(ケルビン力顕微鏡)、AFM(原子間力顕微鏡)またはSEM(走査型電子顕微鏡)型の相補型表面特性化技術によって行われる。
【0087】
もし形成された参照構造100bが所望の参照構造に相当するならば、参照構造100bを含む試料1は、顕微分光装置内に導入される。十字形マークから、参照構造100bの位置が決定され、次いで参照構造100bが、所与のエネルギーの二次電子に対して、広い視野(例えば600μm)によって撮像される。選択されたそれぞれの視野に対して、カラム10の合焦および偏向が調節される。
【0088】
二次電子を用いた観察での非点収差が、次いで補正されてもよい。この目的で、顕微分光装置の合焦電圧が、変動される。もし参照構造100bが変形して見えるならば、スティグマトール18の軸SxおよびSyの電圧が、調節される。顕微分光装置の合焦電圧が次いで、所与のエネルギーに対して修正される。
【0089】
次いで中間視野(例えば約100μm)に変わり、先に説明されたように二次電子を用いる非点収差の補正および偏向の補正を行うことが可能である。
【0090】
次いで、撮像モードから分光モードに変わる。
【0091】
第1のスペクトルは、試料の表面に存在する元素を決定するために低分解能で取得される。参照構造100bの形成中の材料の堆積による試料の表面の、それ故に対象とする構造3の汚染の程度を決定することが、それによって可能である。例えば、もし炭素のピークが検出されるならば、対象とする構造3の内殻準位の高分解能撮像を行う前に、イオン衝撃が、試料の表面をはぎ取るために行われる。この第1のスペクトルは、元素定量分析を行い、対象とする構造3の対象とする元素の線、即ちその中の内殻準位を撮像したいと望む線を決定することを可能にする。
【0092】
この目的で、対象とするスペクトル線のマーク付けが、最初に行われる。対象とする線のそれぞれの高分解能スペクトルが次いで、試料1上に存在する対象とする構造3の内殻準位光電子の運動エネルギー、それ故に結合エネルギーの洗練された測定を有するように取得される。
【0093】
撮像は、狭い視野(例えば約25μm未満)内で異なる運動エネルギーにおいて行われ、このことは、顕微分光装置の合焦電圧の再調節を示唆する。この電圧は、電子の運動エネルギーだけでなく、カラム10の対物レンズ14に関して対象とする構造3の距離にもまた依存する。二次電子の所与の運動エネルギーに対する合焦電圧を見いだした後、二次電子のフィルタリングを行うための別の運動エネルギーが、選択され、新しい合焦電圧が、求められる。
【0094】
対象とする構造3の内殻準位光電子撮像を行うことを可能にするであろう合焦電圧の考えを有するために、得られた曲線の外挿が次いで、例えば適切なソフトウェアによって行われ、光電子の結合エネルギーの(それ故に運動エネルギーの)関数として合焦電圧を与える。より多くの積分時間が、内殻準位に対して必要とされるので、正しい合焦電圧を前もって知ることは、撮像方法を行うための時間を低減することを可能にする。図5は、そのような外挿によって得られる曲線の例を表し、光電子の運動エネルギーの関数として合焦電圧の変化を与える。
【0095】
対象とするそれぞれの線に対して、言い換えればそれぞれのフィルタリングエネルギーに対して、参照構造100bに対してであろうと対象とする構造3に対してであろうと、いくつかの画像が、最良の合焦電圧を見いだすために、内殻準位光電子についての異なる合焦電圧に対して生成される。
【0096】
前記最良の合焦電圧を決定した後、参照構造100bの材料の内殻準位が、次いで撮像され、参照構造100bについての非点収差が、スティグマトール18の制御電圧を介して補正される。
【0097】
参照構造100bについて非点収差が補正されると、視野は、対象とする構造3上へ移動される。合焦電圧についての検証は、合焦電圧が変化しなかったことを調べることによって、およびもし必要ならば合焦電圧を補正することによって行われる。対象とする構造3の内殻準位についての高分解能撮像が、次いで行われる。
【0098】
最初に二次電子画像について、次いで内殻準位光電子画像について非点収差を補正することによって、顕微分光装置の電子光学カラムの非点収差の解消が、次第に洗練される。
【符号の説明】
【0099】
1 試料
3 対象とする構造
10 顕微分光装置の電子光学カラム
12 エネルギー源
14 対物レンズ
16 コントラスト開口
18 偏向器/スティグマトール
20 領域選択隔膜
22 投影レンズ
24 投影レンズ
26 検出器
28 MCP(マイクロチャンネルプレート)
30 蛍光画面
32 CCDカメラ
34 画像遅延フィルター
100a 参照構造
100b 参照構造
102 ブロック、第1の材料部分
104 リング、第2の材料部分
106 試料1の表面の部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子放出顕微分光装置の電子光学カラム(10)の非点収差を補正するための方法において、
撮像されるべき対象とする構造(3)を含む試料(1)の表面上に参照構造(100a、100b)を形成するステップであって、互いに垂直で前記試料(1)の前記表面に平行な面内にある2つの軸に沿う、前記参照構造(100a、100b)の外側輪郭の寸法は、実質的に同様であるステップと、
二次電子を用いておよび内殻準位光電子を用いて前記顕微分光装置によって前記参照構造(100a、100b)を撮像するステップと、
二次電子を用いるおよび内殻準位光電子を用いる前記参照構造(100a、100b)の撮像中に現れる非点収差欠陥を除去するステップとを含み、
前記参照構造(100a、100b)の材料は、内殻準位光電子撮像中に、前記参照構造(100a、100b)の前記材料の平均強度Iaと前記試料(1)の材料の平均強度Ibとの間のコントラストCが、
【数1】

であるように選択される、非点収差を補正するための方法。
【請求項2】
前記参照構造(100b)は、異なる大きさで非ゼロの距離だけ互いに分離された同心状パターンを形成する前記参照構造(100b)の前記材料の複数の部分(102、104)を含む、請求項1に記載の非点収差を補正するための方法。
【請求項3】
前記参照構造(100b)の材料部分(102、104)の外側輪郭は、前記参照構造(100b)の中心の周りで互いに相似でありかつ/または360°延びる、請求項2に記載の非点収差を補正するための方法。
【請求項4】
前記参照構造(100b)の前記材料部分(102、104)の前記パターンは、互いの中に配置される幾何学的パターンを含むか、または格子もしくはらせんパターンを含む、請求項2または3の一項に記載の非点収差を補正するための方法。
【請求項5】
前記参照構造(100b)の前記材料部分(104)の前記パターンは、リングを含む、請求項2から4の一項に記載の非点収差を補正するための方法。
【請求項6】
前記参照構造(100b)の前記材料部分(102、104)間の距離および/または前記参照構造(100b)の前記材料部分(102、104)の幅は、前記対象とする構造(3)の観察中の前記顕微分光装置の最良の空間分解能の約2倍以上である、請求項2から5の一項に記載の非点収差を補正するための方法。
【請求項7】
前記参照構造(100a、100b)の前記外側輪郭の前記寸法は、前記顕微分光装置の視野の大きさの少なくとも約1/25に等しい、請求項1から6の一項に記載の非点収差を補正するための方法。
【請求項8】
前記参照構造(100a、100b)の前記材料の仕事関数と前記試料(1)の前記材料の仕事関数との間の差は、約0.2eV以上でありかつ/または、前記参照構造(100a、100b)および前記試料(1)の前記材料が少なくとも1つの同じ元素に基づくとき、前記参照構造(100a、100b)の前記材料内の前記元素の濃度は、前記試料(1)の前記材料内のこの成分の濃度とは異なりかつ/または、前記参照構造(100a、100b)および前記試料(1)の前記材料が同じ性質であるとき、前記材料は異なってドープされる、請求項1から7の一項に記載の非点収差を補正するための方法。
【請求項9】
前記参照構造(100a、100b)の前記材料の少なくとも1つの構成元素の内殻準位光電子の断面積は、約0.1Mbarn以上である、請求項1から8の一項に記載の非点収差を補正するための方法。
【請求項10】
前記参照構造(100a、100b)の前記材料の構成元素の少なくとも1つを撮像するために使用される前記内殻準位光電子の運動エネルギーは、約1000eV未満である、請求項1から9の一項に記載の非点収差を補正するための方法。
【請求項11】
前記参照構造(100a、100b)の前記形成は、前記対象とする構造(3)から約100μmより大きい距離における前記試料(1)上への前記参照構造(100a、100b)の前記材料の局所的堆積の少なくとも1つのステップ、および前記堆積材料を機械加工し、前記参照構造(100a、100b)を形成するステップを含む、請求項1から10の一項に記載の非点収差を補正するための方法。
【請求項12】
前記参照構造(100a、100b)の前記材料は、約15nmと200nmとの間の実質的に一様な厚さで堆積され、および/または前記機械加工は、前記堆積材料の厚さ内で約1nmまたは2nmよりも大きい深さで行われる、請求項11に記載の非点収差を補正するための方法。
【請求項13】
内殻準位光電子を用いて前記顕微分光装置によって前記参照構造(100a、100b)を撮像するステップ、次いで前記参照構造(100a、100b)の前記内殻準位光電子撮像中に現れる非点収差欠陥を除去するステップの実施より前に、二次電子を用いて前記顕微分光装置によって前記参照構造(100a、100b)を撮像するステップ、次いで前記参照構造(100a、100b)の前記二次電子撮像中に現れる非点収差欠陥を除去するステップを含む、請求項1から12の一項に記載の非点収差を補正するための方法。
【請求項14】
二次電子を用いるまたは内殻準位光電子を用いる前記参照構造(100a、100b)の撮像中に現れる非点収差欠陥の除去は、前記カラム(10)のスティグマトール(18)の軸の制御電圧の調節によって、次いで前記顕微分光装置の合焦電圧の調節によって行われる、請求項1から13の一項に記載の非点収差を補正するための方法。
【請求項15】
請求項1から14の一項に記載の非点収差を補正するための方法の実施、ならびに二次電子を用いておよび/または内殻準位光電子を用いて前記対象とする構造(3)を撮像する1つまたは複数のステップを含む、電子放出顕微分光撮像の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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