説明

電子機器の吸音構造

【課題】
設置スペースを小さく保ちつつ吸音効果を高めることが可能な吸音構造を提供する。
【解決手段】
電子機器2搭載されている送風機3からの冷却流体の流路に所定形態の吸音材4を所定の間隔で複数個配置することにより複数の貫通口5を設ける吸音構造であって、送風機3から貫通口5の貫通面に垂直に入射する音が直接的に電子機器2の外部に出ないように前記複数の吸音材4を配置し、吸音材4に制振材6、7、8を取り付けることで吸音材4の振動を抑えると共に吸音材4を通過して音が水平方向に直接的に電子機器2の外部に出ないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送風機によって発熱体の冷却を行う構造を持つ電子機器の吸音構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に用いられる半導体、とりわけ情報処理装置のCPUに代表されるような半導体の進化はすさまじく、高発熱量・高密度化の一途をたどっているのは周知の事実である。これに伴い、冷却の為の送風機の実装数および回転数の増大により、装置の騒音値も上昇傾向にある。一方で、電子機器は従来の専用のマシン室への設置ではなく、事務所に設置される頻度が高くなり、電子機器の低騒音化の要望が強くなっている。そこで電子機器筐体内部の送風機近傍あるいは電子機器筐体外部の電子機器を搭載しているラックキャビネット等に、吸音材を用いた吸音構造を設置することが多くなっている。複数の吸音材を組み合わせて吸音経路を設けたこれまでの吸音構造は、吸音構造自体の容積が大きくなってしまい、設置スペースや取り扱い上での制約が多く、また複数の吸音材を組み合わせた不均衡な吸音構造の為に、冷却媒体の分布にバラツキを生じさせ電子機器内部を一様に冷却する上で障害となる恐れがあった。
【0003】
さらに、近年の電子機器はその内部の基板や板金構造は基本的に同一でありながら、内部に搭載されるCPUを入れ替えることで、複数の世代に渡って使用されることが多くなってきた。その為、その世代毎に応じた冷却性能を得る為に、送風機の回転数を変化させたり、許容される内部機器の流体抵抗に応じ、吸音構造の変更をその都度実施してきた。
【0004】
これらの問題を解決する為に、特開2008-235381号公報には、吸音材の形状を傾斜、V字或いはU字とし、所定の間隔で吸音材を複数個配置することにより複数の貫通口を設け、送風機から貫通口の貫通面に垂直に入射する音が直接的に電子機器の外部に出ないように複数の吸音材を配置する吸音構造が開示されている。
【0005】
しかし、電子機器の外部へ出る音の経路は貫通口から傾斜、V字或いはU字の経路を辿る以外に吸音材を水平に通過し、そのまま外部へ出る経路が存在し、この経路は場所によっては吸音材を十分に通らずに電子機器の外部に出てしまう問題があった。これを解決する為には吸音材自体を厚くし、吸音材を水平に通過する経路に対しても十分吸音させるしか方法がなかったが、この方法では吸音構造自体の容積が大きくなってしまい、設置スペースが拡大してしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-226864号公報
【特許文献2】実開平3-48293号公報
【特許文献3】実開昭63-145392号公報
【特許文献4】特開2008-235381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の電子機器の吸音構造を図10に示す。図10は、電子機器102内の送風機103からの冷却媒体の流路に所定形態の吸音材104を所定の間隔で複数個配置することにより複数の貫通口105を設ける電子機器の吸音構造であり、貫通口105の経路を傾斜、V字型やU字型にすることにより送風機103から貫通口105の貫通面に垂直に入射する音が直接的に電子機器を搭載したラック101の外部に出ないようにしている。また、貫通口105の経路を傾斜、V字型やU字型にすることにより吸音材104の厚さを抑えることができコンパクトな設計を可能としていた。
【0008】
しかし、図10に示した従来の吸音構造では以下の課題があった。電子機器102の外部へ出る音の経路は貫通口105から傾斜、V字或いはU字の経路を辿る以外に吸音材104を水平に通過し、そのまま外部へ出る経路が存在する。吸音材104を水平に通過する音の経路106では音は十分に吸音されるが、吸音材104を水平に通過する音の経路107では音は吸音材104を十分に通らずに電子機器を搭載したラック101の外部に出てしまう問題があった。これを解決する為には吸音材104自体を厚くし、吸音材104を水平に通過する経路に対しても十分な吸音材の厚みを持たせるしか方法がなかったが、この方法では吸音構造自体の容積が大きくなってしまい、設置スペースが拡大してしまう問題があった。
【0009】
また、吸音材104自体は筐体の側面でしか固定されない為、送風機103からの風により吸音材104が振動し、冷却媒体の排気側のドアに当たって騒音となる問題があった。
【0010】
従って、設置スペースを小さく保ちつつ且つ吸音効果を高める吸音構造の開発、および吸音材を固定し振動を抑える吸音構造の開発が課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、送風機からの冷却媒体の流路に所定形態の吸音材を所定の間隔で複数個配置することにより、複数の貫通口を設ける電子機器の吸音構造であって、前記送風機から前記貫通口の貫通面に垂直に入射する音が直接的に電子機器の外部に出ないように前記複数の吸音材を配置し、前記吸音材に制振材を取り付けることで前記送風機による前記吸音材の振動を抑えると共に前記吸音材を通過して音が水平方向に直接的に電子機器の外部に出ないように遮音することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の吸音構造を、送風機を搭載した電子機器の筐体内部あるいは外部の入排気方向に設置することにより、電子機器の冷却性能を保持したまま、電子機器の騒音を従来の吸音構造より減らすことができる。更に、吸音構造の基本吸音部材の設置位置や数量、あるいは角度を変えることで、ラックキャビネットサイズの変化への対応、電子機器内部のCPUの複数世代におよぶ必要冷却性能の変化に対応が可能となる。
【0013】
また、貫通口は冷却媒体の通過口であると同時に音が衝突し吸収される空間である為、貫通面の面積が同一であれば貫通口の経路が長いほど音の減衰も大きくなる。従って、本発明の吸音構造は、傾斜やV字型にした長い吸音経路となる貫通口を多数個持っている為、吸音構造に必要な容積をコンパクトにできる。また本発明の吸音構造は、貫通口の位置および寸法をバランスよく設けることで、貫通口前後の冷却媒体の分布および冷却流体が通過する際の圧力損失を一様とすることが可能である為、冷却性能を妨げることがない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施例の全体断面図である。
【図2】本発明の第1の実施例の吸音構造の側面の断面図である。
【図3】本発明の第2の実施例の吸音構造の側面の断面図である。
【図4】本発明の第3の実施例の吸音構造の側面の断面図である。
【図5】本発明の第4の実施例の吸音構造の側面の断面図である。
【図6】本発明の第5の実施例の全体図である。
【図7】本発明の第5の実施例の後面ドアの図である。
【図8】本発明の第5の実施例の後面ドアと吸音材および制振材の固定板金の取付図である。
【図9】本発明の第5の実施例の吸音材と制振材の取付図である。
【図10】従来の電子機器用吸音構造の全体断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
【実施例1】
【0016】
本発明の第1の実施例の全体断面図を図1に示す。これは電子機器を搭載したラックキャビネットを側面から見た図である。電子機器2に搭載されている送風機3からの冷却媒体の流路に所定形態の吸音材4を所定の間隔で複数個配置し、複数の貫通口5を設け、送風機3から貫通口5の貫通面に垂直に入射する音が直接的に電子機器搭載のラック1の外部に出ないように複数の吸音材4を配置している。そして、電子機器2から見て、それぞれの吸音材4の外側に制振材6、7、8を取り付けることで吸音材4を通過して音が水平方向に直接的に電子機器を搭載したラック1の外部に出ないように遮音効果を持たせている。また、制振材6、7、8は吸音材4を固定し、吸音材4の振動を抑える効果もある。吸音材はグラスウールやウレタンフォームに代表される吸音構造体を使用する。
【0017】
電子機器2の搭載位置は図1ではラック1の中央部に搭載しているが、複数の吸音材4および貫通口5で構成された吸音構造が排気側全面に配置している為、搭載位置は問わない。
【0018】
図2に第1の実施例の吸音構造部の断面図を示す。冷却流体は吸音材21で遮断されている為、貫通口22から貫通口の経路23を通り、外部へ排気される。一方、騒音は吸音材21に吸収され減衰するか、または貫通口22に対し垂直に入り、貫通口の経路23で吸音され減衰する。更に、吸音材21で減衰しきれなかった騒音を、吸音材21の外側に取り付けている制振材24で吸音材を通過して直接外部へ出て行くのを防ぐ。吸音構造部が従来の吸音材21と貫通口22および貫通口の経路23で構成されていた場合では、吸音材21で減衰しきれなかった騒音が外部に出てしまうことがあった。本発明は吸音材21と制振材24を組み合わせることで、より吸音を高める効果がある。
【実施例2】
【0019】
本発明による第2の実施例を図3に示す。吸音材31、貫通口32、貫通口の経路33および制振材34の構造は図2と全く同じで、冷却媒体は吸音材で遮断されている為、貫通口32から貫通口の経路33を通り外部へ排気される。一方、騒音は吸音材31に吸収され減衰するか、または貫通口32に対し垂直に入り、貫通口の経路33で吸収され減衰する。更に、吸音材31で減衰しきれなかった騒音を、吸音材31の外側に取り付けている制振材34で吸音材31を通過して直接外部へ出て行くのを防ぐ。第1の実施例と比べ、吸音材31の傾きを変えており、吸音経路を長くすることより吸音効果を高めることができる。
【実施例3】
【0020】
本発明による第3の実施例を図4に示す。ここでは貫通口の経路43を逆V字形にすることにより貫通面に対して入射する音が逆V字型の吸音材41の壁面に衝突し減衰されながら外部へ出る為、実施例1および実施例2に比べ吸音効果を高めることができる。また、吸音材41の外側に制振材44を取り付け、吸音材41を通過して直接外部へ音が出て行くのを防ぐ。図4では吸音材41の形状は逆V字型となっているが、上下反転させV字形とする形状も同様に考えられる。
【実施例4】
【0021】
本発明による第4の実施例を図5に示す。吸音材51、貫通口52、貫通口の経路53および制振材54の構造は図4と全く同じである。第3の実施例と比べ、吸音材51の傾きを変えており、吸音経路を長くすることより吸音効果を高めることができる。
【実施例5】
【0022】
本発明による第5の実施例の全体図を図6、後面ドアの図を図7に示す。図6は電子機器を搭載したラック61に吸音構造部を装備した後面ドア62を取り付けている。図7は後面ドアを開いた図であり、後面ドア72の内側には吸音構造部である吸音材および制振材73を装備している。電子機器内の送風機からの冷却媒体の排気側となるラック後面ドア全面に本発明の吸音構造を取り付けることで、電子機器の冷却性能の保持と騒音低減をコンパクトな容積で実現することが可能となる。また、同じ吸音構造を用い、吸音材の数量を増減させることで、高低さの違うラックに適用することができる。
【0023】
次に後面ドアと吸音材および制振材の固定板金の取り付けおよび取り外しを図8に、吸音材と制振材の取り付けおよび取り外しを図9に示す。吸音材および制振材の固定板金82は後面ドア81からネジ等の着脱のみで取り付けおよび取り外しができる構造となっている。吸音材および制振材の固定板金82は、その内側に複数の吸音財および制振材83を搭載している。吸音財および制振材83は図9に示すように吸音材91および制振材92、93、94から構成される。制振材92、93は1枚の板金を折り曲げ実現している。吸音材91には制振材92、93、94を専用の接着剤で取付ける構造となっており、制振材93、94の両端を1cmほど折り曲げネジ止めすることで、図8の吸音材および制振材の固定板金82への取付けが容易となる。また、吸音材91自体の振動を抑えることができる。制振材92、93、94は図1の全体断面図の制振材6、7、8とそれぞれ対応している。
【0024】
以上の構造により、対象となる電子機器のCPUの世代交代により許容流体抵抗が変化しても、新たな後面ドアを設計することなく対応が可能である。
【0025】
本発明は、貫通面を正面から見た場合に送風機が見えないように、傾斜やV字といった経路を持たせた貫通口を吸音構造部に多数個設け、前記送風機から貫通面に垂直に入射する音が直接的に電子機器の外部に出ないように複数の吸音材を配置し、それぞれの吸音材に制振材を取り付けることで吸音性能を高めるものである。電子機器の冷却用送風機入排気方向に設置した場合、貫通口には傾斜やV字型の経路を持たせている為、音が貫通面から入射した場合は、そのまま通過することなく貫通口内部の傾斜部やV字部分に衝突し吸収され減衰する。また、吸音材を通過し外部へ出ようとする音に対しても、吸音材に制振材を取り付けることにより吸音効果を高めることができ、コンパクトな設計が可能で、吸音構造として大きな容積を必要としない。
【符号の説明】
【0026】
1…電子機器を搭載したラック側面の断面
2…電子機器側面の断面
3…電子機器内の送風機側面の断面
4…貫通口にV字型の経路を持たせた吸音材側面の断面
5…V字型の貫通口
6…制振材側面の断面
21…吸音材側面の断面
22…貫通口
23…貫通口の経路
24…制振材
31…吸音材側面の断面
32…貫通口
33…貫通口の経路
34…制振材
41…吸音材側面の断面
42…貫通口
43…貫通口の経路
44…制振材
51…吸音材側面の断面
52…貫通口
53…貫通口の経路
54…吸音材側面の断面
61…電子機器を搭載したラック
62…後面ドア
71…電子機器を搭載したラック
72…後面ドア
73…吸音材および制振材
81…後面ドア
82…吸音材および制振材の固定板金
83…吸音材および制振材
91…吸音材
92…制振材
93…制振材
94…制振材
101…電子機器を搭載したラック側面の断面
102…電子機器側面の断面
103…電子機器内の送風機側面の断面
104…貫通口にV字型の経路を持たせた吸音材側面の断面
105…V字型の貫通口
106…吸音材を水平に通過する音の経路
107…吸音材を水平に通過する音の経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送風機からの冷却流体の流路に所定形態の吸音材を所定の間隔で複数個配置することにより複数の貫通口を設ける電子機器の吸音構造であって、
前記送風機から前記貫通口の貫通面に垂直に入射する音が直接的に電子機器の外部に出ないように前記複数の吸音材を配置し、前記吸音材に制振材を取り付けることで前記吸音材の振動を抑えると共に前記吸音材を通過する音が水平方向に直接的に電子機器の外部に出ないようにすることを特徴とする電子機器の吸音構造。
【請求項2】
送風機によりラックキャビネットの背面又は前面から入気して前記ラックキャビネットの前面又は背面から排気する冷却構造をもつ電子機器の吸音構造において、
前記送風機からの冷却流体の流路に所定形態の吸音材を前記ラックキャビネットの高さ方向に所定の間隔で複数個重ねて配置することにより複数の貫通口を設ける電子機器の吸音構造であって、前記貫通口の貫通面を正面から見た場合に前記送風機が見えないように前記複数の吸音材を配置し、前記吸音材に制振材を取り付けることを特徴とする電子機器の吸音構造。
【請求項3】
送風機によりラックキャビネットの背面又は前面から入気して前記ラックキャビネットの前面又は背面から排気する冷却構造をもつ電子機器の吸音構造において、
前記送風機からの冷却流体の流路に傾斜形状の吸音材を前記ラックキャビネットの高さ方向に所定の間隔で複数個重ねて配置し、前記吸音材の外側表面に制振材を取り付けることを特徴とする電子機器の吸音構造。
【請求項4】
送風機によりラックキャビネットの背面又は前面から入気して前記ラックキャビネットの前面又は背面から排気する冷却構造をもつ電子機器の吸音構造において、
前記送風機からの冷却流体の流路にV字型形状又は逆V字型形状の吸音材を前記ラックキャビネットの高さ方向に所定の間隔で複数個重ねて配置し、前記吸音材の外側表面に制振材を取り付けることを特徴とする電子機器の吸音構造。
【請求項5】
ラックキャビネットに搭載される電子機器において、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の吸音構造を排気側あるいは入気側のラックドアに設けたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−18997(P2012−18997A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154419(P2010−154419)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】