説明

電子機器用マグネシウム製筐体部品および電子機器用マグネシウム製筐体

【課題】耐食性、剛性に優れ、薄肉化による軽量化が可能な電子機器用マグネシウム製筐体部品を提供すること。
【解決手段】マグネシウム純金属またはマグネシウム合金からなる成形体と、前記成形体をプラズマ電解酸化処理することによって前記成形体の表面に形成され、厚さが2μm以上、かつナノインデンテーション法による弾性率が200GPa以上である高剛性緻密質のプラズマ電解酸化膜とを具備する電子機器用マグネシウム製筐体部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性に優れると共に剛性に優れ、軽量化が容易な電子機器用マグネシウム製筐体部品および電子機器用マグネシウム製筐体に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム材は、実用金属の中で最も軽量であり、また一般的なプラスチック材料に比べるとはるかに高い熱伝導率および電磁波吸収能を有することから、近年、軽量および熱放散性、電磁波シールド性が要求されるノート型パソコン、携帯電話、ハードディスクドライブ、デジタルカメラ等の電子機器用筐体として用いられるようになっている。
【0003】
しかしながら、マグネシウム材は実用金属の中で電気化学的に最もイオン化傾向が強く、また最も低剛性であるというマグネシウム金属原子由来の欠点を有しており、その特性により表面が腐食しやすいことに加え、容易に弾性変形しやすいという使用上の欠点を有している。
【0004】
このような欠点を改善する方法として、被覆成分を主成分とする処理液剤中に対象物を浸漬し、酸化還元反応を用いてP−Mn−Ca系等の皮膜を形成することにより耐食性を高める化成処理や、陽極に対象物を接触させて通電することにより表面に酸化膜を形成する陽極酸化処理が行われている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2002−235l82号公報
【特許文献2】特開2005−27923号公報
【特許文献3】特開2001−l92854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、化成処理、陽極酸化処理共にマグネシウム材を剛性、強度面において補強するような作用はなく、マグネシウム材の欠点である低剛性を改善した筐体は得られていない。そのため、筐体には軽量化が求められているものの、実際にはマグネシウム材の剛性不足から薄肉化が制限されており、必ずしも十分な軽量化がなされていない。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために得られたものであって、耐食性、剛性に優れ、薄肉化による軽量化が可能な電子機器用マグネシウム製筐体部品および電子機器用マグネシウム製筐体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来の表面処理法によって得られる電子機器用マグネシウム製筐体部品あるいは筐体の耐食性、剛性不足を改善するために鋭意研究を重ねた結果、マグネシウム純金属またはマグネシウム合金からなる成形体の表面にプラズマ電解酸化処理によって所定の厚さおよび弾性率のプラズマ電解酸化膜を形成することで、電子機器用マグネシウム製筐体部品あるいは筐体の耐食性を向上させると共に、剛性も向上させることができ、結果として薄肉化による軽量化も可能となることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明の電子機器用マグネシウム製筐体部品は、マグネシウム純金属またはマグネシウム合金からなる成形体と、前記成形体をプラズマ電解酸化処理することによって前記成形体の表面に形成され、厚さが2μm以上、かつナノインデンテーション法による弾性率が200GPa以上である高剛性緻密質のプラズマ電解酸化膜とを具備することを特徴としている。
【0009】
本発明の電子機器用マグネシウム製筐体部品においては、前記成形体の厚さが0.7mm以下、かつ前記プラズマ電解酸化膜の厚さが2μm以上30μm以下であることが好ましい。そして、前記プラズマ電解酸化膜の表面には、マグネシウム、クロムおよびモリブデンの中から選ばれる少なくとも1種の元素から主としてなる無電解めっき層が形成されていることが好ましい。
【0010】
また、本発明の電子機器用マグネシウム製筐体は、マグネシウム純金属またはマグネシウム合金からなる成形体と、前記成形体をプラズマ電解酸化処理することによって前記成形体の表面に形成され、厚さが2μm以上、かつナノインデンテーション法による弾性率が200GPa以上である高剛性緻密質のプラズマ電解酸化膜とを具備することを特徴としている。
【0011】
本発明の電子機器用マグネシウム製筐体においては、前記成形体の厚さが0.7mm以下、かつ前記プラズマ電解酸化膜の厚さが2μm以上30μm以下であることが好ましい。そして、前記プラズマ電解酸化膜の表面には、マグネシウム、クロムおよびモリブデンの中から選ばれる少なくとも1種の元素から主としてなる無電解めっき層が形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電子機器用マグネシウム製筐体部品または電子機器用マグネシウム製筐体によれば、マグネシウム純金属またはマグネシウム合金からなる成形体の表面に、この成形体をプラズマ電解酸化処理することによって形成される特定の厚さおよび弾性率のプラズマ電解酸化膜を設けることで、耐食性および剛性に優れたものとすることができ、結果として成形体を薄肉化することができ、軽量化することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について説明する。
本発明の電子機器用マグネシウム製筐体部品(以下、単に筐体部品と呼ぶ)、電子機器用マグネシウム製筐体(以下、単に筐体と呼ぶ)は、マグネシウム純金属またはマグネシウム合金からなる成形体と、この表面に形成された酸化膜とを具備するものである。本発明では、このような酸化膜が成形体をプラズマ電解酸化処理することによって形成されたものであると共に、その厚さが2μm以上かつナノインデンテーション法による弾性率(ヤング率)が200GPa以上であることを特徴としている。
【0014】
本発明における成形体は、上記したようにマグネシウム純金属またはマグネシウム合金からなるものである。マグネシウム合金としては、例えばAZ91(Mg合金中Alが9%、Zn1%、残部Mg)、AZ31(Mg合金中Alが3%、Zn1%、残部Mg)等が挙げられるが、必ずしもこれらに限られるものではない。
【0015】
本発明における成形体としては、例えば図1に示すような携帯電話機の筐体となる成形体1が挙げられるが、必ずしもこのようなものに限定されるものではなく、例えばノート型パソコン、ハードディスクドライブ、デジタルカメラ等の各種電子機器の筐体部品または筐体となる成形体が挙げられる。
【0016】
成形体1としては、例えばマグネシウム純金属またはマグネシウム合金を溶融して型により成形したものが挙げられるが、例えば鋳造、チクソモールド、ダイカスト、圧延等により得られたものであってもよい。また、成形体1としては、筐体部品または筐体の軽量化の観点から、厚さが0.7mm以下、さらには0.4mm以下であることが好ましい。なお、筐体部品または筐体の強度を確保する観点からは、成形体1の厚さは0.1mm以上であることが好ましい。
【0017】
本発明では、このような成形体1の表面にプラズマ電解酸化膜を設けることで、従来に比べて筐体部品または筐体の耐食性を向上させることができると共に、剛性も向上させることができる。また、剛性の向上が可能となることから、筐体部品または筐体となる成形体1の薄肉化が可能となり、軽量化も可能となる。
【0018】
しかしながら、プラズマ電解酸化膜の厚さが2μm未満と薄い場合、必ずしも耐食性および剛性を向上させる効果が十分でなく、またナノインデンテーション法による弾性率が200GPa未満と低い場合についても、剛性を向上させる効果が十分でないことから、本発明ではプラズマ電解酸化膜の厚さを2μm以上とすると共に、ナノインデンテーション法による弾性率を200GPa以上としている。
【0019】
プラズマ電解酸化膜の厚さは、筐体部品または筐体の耐食性および剛性をより一層向上させる観点から4μm以上とすることが好ましい。なお、プラズマ電解酸化膜の厚さは、筐体部品または筐体の耐食性および剛性の向上の観点からは厚くすることが好ましいが、生産性、例えば成膜時間の短縮化等の観点からは薄くすることが好ましく、これら耐食性、剛性、生産性等のバランスから30μm以下とすることが好ましい。
【0020】
また、プラズマ電解酸化膜のナノインデンテーション法による弾性率は、筐体部品または筐体の剛性をより一層向上させる観点から230GPa以上とすることが好ましい。なお、プラズマ電解酸化膜の弾性率は、450GPa以下であることが好ましい。ここで、ナノインデンテーション法は、圧子を試料に押し込んだときの、圧子への負荷荷重と押し込み深さとを負荷時、除荷時にわたり連続的に測定し、得られた負荷荷重−押し込み深さ曲線から弾性率を求めるものである。具体的には、例えば超微小押し込み硬さ試験機ENT−1100a(株式会社エリオニクス社製、商品名)を用い、測定条件を温度:25℃、荷重:1mN、負荷・除荷速度:0.1mN/s、保持時間:1sとして測定することで求めることができる。
【0021】
本発明の筐体部品または筐体については、少なくともマグネシウム純金属またはマグネシウム合金からなる成形体1の表面にプラズマ電解酸化処理による所定の厚さおよび弾性率のプラズマ電解酸化膜が形成されていればよいが、プラズマ電解酸化膜が白色乃至灰色であることから外観の意匠性を高めるべく、または内部回路から発生する高周波電流を逃がして電磁ノイズを抑制すべく、その表面に塗膜または無電解めっき層等が形成されていてもよい。
【0022】
無電解めっき層は、例えば硬質金属からなることが好ましく、具体的にはマグネシウム、クロムおよびモリブデンの中から選ばれる少なくとも1種の元素からなるものが好ましい。無電解めっき層をこのような元素からなるものとすることで、耐摩耗性に優れためっき層とし、瑕疵が発生しにくい筐体と構成することができる。
【0023】
本発明の筐体部品または筐体は、マグネシウム純金属またはマグネシウム合金からなる成形体1にプラズマ電解酸化処理を行って所定の厚さおよび弾性率のプラズマ電解酸化膜を形成することで製造することができる。プラズマ電解酸化処理は、交流電流(例えば、50Hz以上60Hz以下の交流電流)を用いて電解質(例えば、アルカリ性電解質)中の陽極、陰極酸化によって被覆を形成するものである。
【0024】
このようなプラズマ電解酸化処理では、例えば初期段階については1.5A/cm以上2.0A/cm以下の電流密度で40秒以上90秒以下の範囲で通電を行い、生成した酸化膜に絶縁破壊を発生せしめた後は所望の厚さとなるまで0.05A/cm以上0.3A/cm以下の電流密度で通電を行うことが好ましい。初期段階において高電流密度値で強力な微小アーク放電を発生させることで、成形体1と酸化膜との間での相互拡散を増大させることができ、成形体1への酸化膜の付着強度を向上させることができる。この際、通電時間が40秒未満であると上記効果を十分に得ることができず、一方、90秒を超えても得られる酸化膜の品質は認識できるほどには向上しない。
【0025】
図2は、プラズマ電解酸化処理に用いられる装置の一例を模式的に示したものである。図2に示されるように、電解槽11の内部には、例えばアルカリ金属水酸化物とアルカリ金属ケイ酸塩とアルカリ金属ポリリン酸塩とを撹拌混合した電解液12が貯留されている。このような電解液12には、さらに過酸化物化合物が含有されていることが好ましい。
【0026】
アルカリ金属水酸化物としては、例えばKOH、NaOH等が好適なものとして挙げられる。アルカリ金属ケイ酸塩としては、例えば水ガラス(NaSiO)が好適なものとして挙げられる。アルカリ金属ポリリン酸塩としては、例えばNa、NaPO、Na18等から選ばれる1種または2種以上が好適なものとして挙げられる。また、過酸化物化合物としては、過酸化水素(H)および/またはアルカリ金属過酸化物(Na、K、Li)、またはアルカリ金属ペルオキソソルベート(ペルオキソリン酸塩、ペルオキソ炭酸塩、ペルオキソホウ酸塩等)が挙げられる。
【0027】
電解液12は、上記成分を蒸留または脱イオン水に溶解することで調製できる。この際、成形体1の表面に形成するプラズマ電解酸化膜の厚さ、弾性率等との関係で、各成分の濃度を適宜に調整することが好ましい。具体的には、アルカリ金属水酸化物を1g/l以上5g/l以下、アルカリ金属ケイ酸塩を2g/l以上15g/l以下およびアルカリ金属ポリリン酸塩を2g/l以上20g/l以下含むものが好ましい。さらに、電解液12は、2g/l以上15g/l以下の30%のH転換の過酸化物化合物を含むものが好ましい。このようにして調製される電解液12のpHは8以上10以下であることが好ましい。
【0028】
このような電解液12を貯留する電解槽11はカソード極を形成するように例えばステンレス鋼等の良導電材料から構成されており、該カソード極として形成された電解槽11に対して後述するようなパルスモードの電流を供給可能なパルス生成装置13が電気的に接続されている。
【0029】
また、このような電解槽11内に貯留された電解液12中には、マグネシウム純金属またはマグネシウム合金からなる成形体1がアノード極として浸漬される。このような成形体1は、成膜性を向上させるために予め中性脱脂工程および水洗工程が施されたものが好ましい。アノード極を構成する成形体1にはパルス生成装置13が電気的に接続され、このパルス生成装置13から出力されるパルスモード電流がアノード極としての成形体1に印加される。
【0030】
パルス生成装置13は、その内部において適宜のパルスモードを作成して電流を出力する機能を有しており、図3に示すような正分極するアノード型パルスモード、図4に示すような負分極するカソード型パルスモードおよび図5に示すようなこれらが交互に現出する交番パルスモードの中から選ばれる適宜のパルスモード電流がアノード極としての成形体1に供給されてプラズマ電解酸化処理が実行される。
【0031】
電解槽11には、例えば空気供給装置15が付設され、この空気供給装置15から電解槽11の底部に空気を送給することによって、電解槽11の内部全体にバブリングが行われる。また、電解槽11には、例えば冷却装置16から循環用配管16a、16bを介して冷媒が送り込まれて電解液12が冷却されている。そして、プラズマ電解酸化処理中、このような冷却装置16によって、電解液12は例えば15℃以上40℃以下に維持される。
【0032】
すなわち、プラズマ電解酸化処理が開始されると、成形体1の表面には高温・高圧のスポットが発生することから電解液12の温度が上昇する。電解液12の液温が40℃より高くなると、例えば水ガラスのSiOが分離し始め、凝固しやすくなる。一方、電解液12の液温が15℃より低くなると、例えば通電過程で生成した各種のイオンが酸素膜で被覆され、プラズマフィラメントが発生しにくくなる。このため、冷却装置16によって電解液12を15℃以上40℃以下に維持することで、プラズマ電解酸化膜を適切に形成できる。
【0033】
このような電解槽11では、上記したようにパルス生成装置13からアノード型パルスモード、カソード型パルスモードおよび交番パルスモードの中から適宜選択されるパルスモードの電流を供給することで、成形体1にプラズマ電解酸化処理を行い、その表面にプラズマ電解酸化膜を形成する。
【0034】
このようなプラズマ電解酸化処理によってプラズマ電解酸化膜の厚さを2μm以上とするには、上記したように通電時間を調整することで容易に行うことができる。また、プラズマ電解酸化膜の弾性率を200GPa以上とするには、プラズマ電解酸化処理に用いられる電解液12の組成、pHおよび温度を上記したようなものとすると共に、プラズマ電解酸化処理の際の通電を上記したような所定の電流密度とすればよく、特に電解液12の温度を変化させることで弾性率を容易に調整できる。すなわち、電解液12の温度を変化させることで、プラズマ電解酸化膜の緻密度を変化させることができ、これにより弾性率を変化させることができる。
【0035】
このようにしてプラズマ電解酸化膜が形成された成形体1は、そのままの状態で本発明の筐体部品または筐体としてもよいし、さらにプラズマ電解酸化膜の表面に塗膜を形成したり、無電解めっき層を形成したりして筐体部品または筐体としてもよい。無電解めっき層を形成するための無電解めっき処理は、成形体1に形成されたプラズマ電解酸化膜の表面に対して直接行ってもよいが、プラズマ電解酸化膜に対して前処理、すなわち無電解めっきの金属の析出を促進する核を生成する触媒化処理を行った後に行うことが好ましい。
【0036】
触媒化処理としては、例えばパラジウム錯体法が挙げられ、これによりパラジウム核をプラズマ電解酸化膜に付着させることができるが、触媒化する処理としては必ずしもこのようなものに限定されるものではない。このようにプラズマ電解酸化膜にパラジウム核が点在すると、無電解めっき処理により金属がこのパラジウム核を種にして析出することができ、めっきが促進され、作業性が向上する。
【0037】
以上、本発明の筐体部品または筐体について説明したが、本発明の筐体部品または筐体としては上記したような携帯電話機の筐体部品または筐体に限られるものではなく、例えばノート型パソコン、ハードディスクドライブ、デジタルカメラ等の耐食性および剛性が求められると共に、軽量化が求められる各種電子機器の筐体部品または筐体であってもよい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明について実施例を参照してさらに詳細に説明する。
【0039】
(実施例1)
携帯電話機用筐体となる成形体として、マグネシウム合金の中でも最も耐食性に優れるAZ9lDを用い、ダイカスト成形によって外形寸法が長さ90mm×幅45mm、厚さ0.7mmのものを作製した。
【0040】
次に、図2に示されるような装置を用い、上記成形体を陽極とすると共に、電解液の温度を30℃としてプラズマ電解酸化処理を行い、上記成形体の表面に厚さ2μm、弾性率230GPaのプラズマ電解酸化膜を形成して携帯電話機用筐体とした。
【0041】
プラズマ電解酸化処理に用いた電解液は、アルカリ金属水酸化物としてのKOHを3.0g/l、アルカリ金属ケイ酸塩としてのNaSiOを10g/l、アルカリ金属ポリリン酸塩としてのNaを14g/l、過酸化物化合物としてのHを300ml/l含み、pHが9.5となるものである。
【0042】
また、プラズマ電解酸化処理における通電は、交流周波数を50Hzとし、プラズマ電解酸化処理の初期段階においては1.8A/cmの電流密度で60秒間通電し、生成したプラズマ電解酸化膜に絶縁破壊を発生させた後はその厚さが2μmとなるまで0.1A/cmの電流密度とした。
【0043】
なお、プラズマ電解酸化膜の弾性率は、上記したようにプラズマ電解酸化処理における電解液の温度を30℃とすることにより調整した。また、プラズマ電解酸化膜の弾性率は、超微小押し込み硬さ試験機ENT−1100a(株式会社エリオニクス社製、商品名)を用い、測定条件を温度:25℃、荷重:1mN、負荷・除荷速度:0.1mN/s、保持時間:1sとして得られた負荷荷重−押し込み深さ曲線から求めた。
【0044】
(実施例2〜6)
成形体の厚さ、プラズマ電解酸化膜の厚さおよび弾性率を表1に示すようなものとした以外は実施例1と略同様にして携帯電話機用筐体を作製した。なお、プラズマ電解酸化膜の厚さは、プラズマ電解酸化処理における通電時間を変化させることにより調整した。また、プラズマ電解酸化膜の弾性率は、主としてプラズマ電解酸化処理における電解液の温度を変化させることにより調整した。
【0045】
(比較例1、2)
成形体の厚さ、プラズマ電解酸化膜の厚さおよび弾性率を表1に示すようなものとした以外は実施例1と略同様にして携帯電話機用筐体を作製した。なお、比較例1、2の携帯電話機用筐体は、プラズマ電解酸化膜の厚さが本発明の範囲外となるものである。なお、プラズマ電解酸化膜の厚さは、プラズマ電解酸化処理の通電時間を変化させることにより調整した。
【0046】
(比較例3、4)
表1に示すような厚さの成形体に対して、JIS H8651に規格化された陽極酸化処理を行い、表1に示すような厚さおよび弾性率の酸化膜を形成した。なお、比較例3、4の携帯電話機用筐体は、酸化膜の形成方法が本発明とは異なると共に、該酸化膜の弾性率が本発明の範囲外となるものである。
【0047】
次に、実施例1〜6および比較例1〜4の携帯電話機用筐体について、その中央部に5kgの集中荷重を加えることによって生じる撓みの量の測定および評価を行った。結果を表1に示す。なお、表中の撓みの評価は、撓みの量が0.10mm未満であるものを撓みが少なく良好として「○」で示し、撓みの量が0.10mm以上0.15mm未満であるものを撓みが比較的少ないとして「△」で示し、撓みの量が0.15mm以上であるものを撓みが大きすぎるとして「×」で示した。
【0048】
さらに、実施例1〜6および比較例1〜4の携帯電話機用筐体について、JIS Z 2371にしめす塩水噴霧試験を200時間実施し、レイティングナンバを求めた。結果を表1に示す。レイティングナンバは、まず拡大鏡を用い、腐食部の短径が0.1mm以上となるものの長径(d1)および短径(d2)を測定し、腐食面積=(d1×d2×π)/4を求めた。そして、このようにして求められた各腐食面積の合計を評価対象面の面積で除し、全腐食面積率を求めた。さらに、表2から、全腐食面積率に対応するレイティングナンバを求めた。
【0049】
また、表1には、撓みの評価とレイティングナンバとを総合した評価としての性能評価、ならびに経済性および筐体重量とその評価を示す。表中、性能評価は、レイティングナンバが9以上のものの中で撓みの評価が「○」のものを特に良好として「◎」で示し、撓みの評価が「△」のものを良好として「○」で示し、レイティングナンバが9未満であるものは撓みの評価に関わらず「×」で示した。
【0050】
また、経済性は、筐体の原価の中で表面処理費が占める割合が10%未満であるものを「○」で示し、前記割合が10%以上20%未満であるものを「△」で示し、前記割合が20%以上であるものを「×」で示した。
【0051】
さらに、筐体の評価は、重量が40g以下であるものを特に軽量で良好として「◎」で示し、40gを超え50g以下であるものをほぼ良好として「○」で示し、50gを超えたものを重すぎるとして「×」で示した。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
表1に示されるように、プラズマ電解酸化膜の厚さが2μm以上かつ弾性率が200GPa以上である実施例1〜6の携帯電話機用筐体については、いずれも撓みが少なく、また耐食性も良好であることが認められた。特に、実施例4〜6の携帯電話機用筐体の結果から、プラズマ電解酸化膜の厚さを4μm以上とすることで、成形体の厚さが0.4mmと薄い場合であっても、撓みの量を0.10mm未満と小さくできることがわかる。
【0055】
これに対して、プラズマ電解酸化膜の厚さを2μm未満とした比較例1、2の携帯電話機用筐体については、いずれも撓み量が多く、耐食性も低くなる結果となった。また、陽極酸化処理により酸化膜を形成した比較例3、4の携帯電話機用筐体については、酸化膜の厚さが厚いにも係わらず、撓みの量が多く、耐食性も低くなる結果となった。
【0056】
(実施例7、8、比較例5、6)
実施例1、4、比較例1、3の携帯電話機用筐体について、さらにプラズマ電解酸化膜または陽極酸化膜の表面に表3に示すような厚さの無電解めっき層を形成し、それぞれ実施例7、8、比較例5、6の携帯電話機用筐体とした。
【0057】
なお、無電解めっき層の形成は以下のようにして行った。まず、前処理としてパラジウム錯体法を用いてパラジウム核を生成させる触媒化処理および触媒促進処理を行った。触媒化処理は、プラズマ電解酸化膜が形成された携帯電話機用筐体を表4に示す組成のpH12.1の浴に30℃で60分間浸漬した。また、触媒化促進処理は、上記触媒化処理が行われたものを表5に示す組成のpH8.1の浴に25℃で5分間浸漬した。次いで、上記触媒化処理および触媒促進処理を行ったものを表6に示す組成のpH7.2の無電解ニッケルめっき浴に70℃で浸漬し、所定の厚さの無電解めっき層を形成した。
【0058】
次に、得られた実施例7、8、比較例5、6の携帯電話機用筐体について、先の実施例と同様に塩水噴霧試験を行い、レイティングナンバを求めた。結果を表3に示す。
【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

【0061】
【表5】

【0062】
【表6】

【0063】
表3から明らかなように、厚さが2μm以上かつ弾性率が200GPa以上のプラズマ電解酸化膜が設けられた実施例7、8の携帯電話機用筐体については、いずれも塩水噴霧試験後のレイティングナンバが高く、耐食性に優れていることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の電子機器用マグネシウム製筐体部品に用いられるマグネシウム純金属またはマグネシウム合金からなる成形体の一例を示す平面図。
【図2】プラズマ電解酸化処理に用いられる装置の一例を示す模式図。
【図3】プラズマ電解酸化処理で供給する電流のアノードパルスの波形の一例を示す線図。
【図4】プラズマ電解酸化処理で供給する電流のカソードパルスの波形の一例を示す線図。
【図5】プラズマ電解酸化処理で供給する電流の交番パルスの波形の一例を示す線図。
【符号の説明】
【0065】
1…マグネシウム純金属またはマグネシウム合金からなる成形体、11…電解槽、12…電解液、13…パルス生成装置、15…空気供給装置、16…冷却装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム純金属またはマグネシウム合金からなる成形体と、
前記成形体をプラズマ電解酸化処理することによって前記成形体の表面に形成され、厚さが2μm以上、かつナノインデンテーション法による弾性率が200GPa以上である高剛性緻密質のプラズマ電解酸化膜と
を具備することを特徴とする電子機器用マグネシウム製筐体部品。
【請求項2】
前記成形体の厚さが0.7mm以下、かつ前記プラズマ電解酸化膜の厚さが2μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項1記載の電子機器用マグネシウム製筐体部品。
【請求項3】
前記プラズマ電解酸化膜の表面に、マグネシウム、クロムおよびモリブデンの中から選ばれる少なくとも1種の元素から主としてなる無電解めっき層が形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の電子機器用マグネシウム製筐体部品。
【請求項4】
マグネシウム純金属またはマグネシウム合金からなる成形体と、
前記成形体をプラズマ電解酸化処理することによって前記成形体の表面に形成され、厚さが2μm以上、かつナノインデンテーション法による弾性率が200GPa以上である高剛性緻密質のプラズマ電解酸化膜と
を具備することを特徴とする電子機器用マグネシウム製筐体。
【請求項5】
前記成形体の厚さが0.7mm以下、かつ前記プラズマ電解酸化膜の厚さが2μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項4記載の電子機器用マグネシウム製筐体。
【請求項6】
前記プラズマ電解酸化膜の表面に、マグネシウム、クロムおよびモリブデンの中から選ばれる少なくとも1種の元素から主としてなる無電解めっき層が形成されていることを特徴とする請求項4または5記載の電子機器用マグネシウム製筐体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−46707(P2009−46707A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−211630(P2007−211630)
【出願日】平成19年8月15日(2007.8.15)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】