説明

電子線装置およびその制御方法

【課題】 プローブ電流の大小に拘わらず、差動排気絞りの汚染を抑止できる電子線装置を提供する。
【解決手段】 電子線装置101は、内部空間が超高真空に保たれ一次電子ビーム3を発生する電子銃部31と、内部空間が電子銃部31よりも低い真空度に保たれ、電子銃部31で発生した一次電子ビーム3を試料12上に集束させた電子プローブにより試料12の走査を行う鏡体部32と、電子銃部31と鏡体部32との内部空間を連通させるとともに、一次電子ビーム3を通過させる差動排気絞り33と、電子線装置101内の各部を制御するための制御部40とを具備している。さらに、第二陽極4と第一収束レンズ6の間には、相異なる複数の開口径の絞りを持った絞り機構34が配置され、この絞りによって、第一収束レンズ6方向へ進行する一次電子ビーム3のプローブ電流Ipの最大値が決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線装置に関し、特に、プローブ電流値にかかわらず、差動排気絞りの汚染を抑止できる電子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡に代表される電子線装置では、各種の観察条件パラメータを、試料や観察条件などに合わせて設定し、試料の拡大像を観察する。観察条件パラメータには、例えば、加速電圧、電子銃のエミッション電流、収束レンズ条件、動作距離(working distance; 対物レンズと試料との距離)、試料観察像の信号検出系の条件、対物絞り開口径などが挙げられる。
【0003】
そのほか、電子線装置は、種々の分析装置と組み合わせることにより、試料上の微小領域の分析に利用される。分析法には、例えば、エネルギー分散形X線分析(EDX; energy-dispersive X-ray spectroscopy)法、波長分散型X線分析(WDX; wavelength-dispersive X-ray spectroscopy)法、後方散乱電子線回折パターン(EBSP; electron backscatter diffraction pattern)法がある。
【0004】
EDX法は、試料から発生した特性X線を直接半導体検出器で検出し、電気信号に変えて分光分析する方法であり、検出した特性X線のエネルギーに比例したパルス電流を生じさせ、これを多チャンネル波高分析器で選別して測定を行う。
【0005】
WDX法は、試料から発生する特性X線を、分光結晶でのブラッグ反射を利用し特定波長のX線を分離検出することにより、分光分析する方法であり、分光結晶によりブラッグ反射した特性X線の回折角度からX線の波長を測定し、元素の種類を同定する。
【0006】
EBSP法は、試料からの非弾性後方散乱電子によって作られる菊池図形(Kikuchi pattern)が試料の方位に依存して変化することから、入射電子プローブで試料を走査して、このパターンを解析し、多結晶性試料の結晶方位の分布像を得る方法である。
【0007】
これらの分析法を実施する場合、試料に照射する電子ビームの電流(プローブ電流Ip)値を、単に試料の拡大像を得るときよりも、大きくする必要がある。例えば、高分解能観察のためのプローブ電流Ipは、数[pA]〜数十[pA]でよいが、EDX法では数百[pA]、EBSP法では数[nA]、WDX法では数十[nA]程度にする必要がある。
【0008】
一般に、照射された電子ビームの電荷が増えるほど、また、電子ビームが照射された部位の真空度が低い(残存する内部圧力が高い)ほど、各絞りなどの電子線装置内部の汚染(contamination)が増加しやすいと考えられる。つまり、試料の拡大像の観察を行うよりも、試料の分析を行うほうが、装置内部を汚染しやすい。
【0009】
電子線装置では、一般的に、試料の載置された鏡体部内部は高真空に保ち、電子を射出する陰極などを含む電子銃部内部は、鏡体部内部よりも低圧な超高真空状態に保つ。電子ビームを通過させるため、電子銃部内部と鏡体部内部とは、差動排気絞りと称される小開口により連通している。
【0010】
したがって、差動排気絞りの開口径は、光学系へ影響を及ぼさず、かつ、気体等の物質の流出入を抑止する観点から、最小限の大きさとするのが好ましい。換言すれば、差動排気絞りの汚染は、電子線装置の光学性能を直ちに低下させる原因となりうる。
【0011】
そこで、従来、一方のシャフトに長い絞り板を巻き付けておき、他方のシャフトを回転させこの絞り板を巻き取ると、絞り板の表面に穿設された絞り穴がケースにあけられた孔を横断することにより、1つの絞り穴が汚染されても、次の絞り穴に交代させることができる電子顕微鏡等用可動絞り装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0012】
また、絞り板に当たった一次電子線の総電荷量が予め定めた基準値を超えたとき、絞り穴の汚れ(コンタミネーション)が像質に影響を与えない許容限度値を超えたと判断し、絞り穴をアクチュエータで切り替える荷電粒子線装置が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0013】
また、絞り穴を有する絞り板と、穴部を有し絞り板に積層した厚板とを備え、電圧印加手段により絞り板に高電圧を加えてフラッシングを行い、絞り板に付着した汚染物質を除去する走査型電子顕微鏡が提案されている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平11−233053号公報(段落0012〜0014、図2)
【特許文献2】特開2004−95459号公報(段落0021、図2)
【特許文献3】特開2000−200574号公報(段落0019、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、前記従来の電子顕微鏡等用可動絞り装置(特許文献1記載)では、ケースと絞り板とが摺動することとなるため、摺動箇所で気体等の漏れが生じやすく、差動排気絞りとして用いるのは適当ではないという問題点があった。
【0016】
また、前記従来の荷電粒子線装置(特許文献2記載)では、絞り穴をアクチュエータで切り替える機構を備えている。この機構も切替箇所で気体等の漏れを生じる危険があるとともに、差動排気絞り部分の構造が複雑になるため、当該部分に用いるのは難しいという問題点があった。
【0017】
また、前記従来の走査型電子顕微鏡(特許文献3記載)では、絞り板の汚染を効果的に防ぐには、厚板の厚さを大きくしなければならず、また、フラッシングのための高電圧を印加するため、絞り板の周囲を高絶縁構造にしなければならない。したがって、高真空雰囲気と超高真空雰囲気が接する箇所であるとともに、光学的にも精密な位置関係を保持する必要がある差動排気絞りにこのような構成を採用するのは難しい問題があった。
【0018】
また、前記したいずれの従来技術も、基本的に、絞り穴が汚染してから事後対策をとるものである。特に、プローブ電流が大きいと、差動排気絞りの汚染も増加するという問題があった。これらのため、絞り穴の開口径に過度の余裕を持たせることによる真空度の低下や光学性能の変動の回避、構造の簡略化、操作、保守および管理の容易性などを求める観点から、差動排気絞りが汚染されるごとに交換や除染を行うのではなく、当該絞りへの汚染物質の付着そのものを抑止する技術が希求されていた。
【0019】
そこで、本発明の目的は、このような従来技術の各問題点に鑑み、プローブ電流の大小に拘わらず、差動排気絞りの汚染を抑止できる電子線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記課題を解決するため、本発明の電子線装置は、電子源を有し一次電子線を発生する電子銃と、前記電子銃が収められた電子銃部と試料が収められた鏡体部とを連通させる差動排気絞りと、前記一次電子線を前記差動排気絞りの開口面上またはその近傍で一旦収束させる収束レンズと、を具備した電子線装置であって、前記電子源から前記収束レンズへの光路中に配置され開口径を切替可能な絞り機構と、前記収束レンズにより前記一次電子線が一旦収束したクロスオーバ点の位置に対応して前記絞り機構の前記開口径を切り替える切替機構と、を具備したことを特徴とする。
【0021】
また、前記課題を解決するため、本発明の電子線装置の制御方法は、電子源を有し一次電子線を発生する電子銃と、前記電子銃が収められた電子銃部と試料が収められた鏡体部とを連通させる差動排気絞りと、前記一次電子線を前記差動排気絞りの開口面上またはその近傍で一旦収束させる収束レンズと、を具備した電子線装置の制御方法であって、前記電子線装置はさらに、前記電子源から前記収束レンズへの光路中に配置され開口径を切替可能な絞り機構を具備し、前記収束レンズにより前記一次電子線が一旦収束したクロスオーバ点の位置に対応して前記絞り機構の前記開口径を切り替える切替ステップ、を具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の電子線装置およびその制御方法によれば、電子源と収束レンズとの間に開口径を切替可能な絞り機構を配置し、クロスオーバ点の位置に対応して開口径を切り替えるようにしたので、プローブ電流値にかかわらず、差動排気絞りの汚染を抑止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】比較例の電子線装置においてプローブ電流を変化させたとき発生する問題点を説明した説明図である。
【図2】本発明による第1実施形態の電子線装置を示す構成ブロック図である。
【図3】図3は、クロスオーバ位置b1とプローブ電流Ipとの関係を示す部分光路説明図である。
【図4】第一収束レンズ6のクロスオーバ位置b1に対するプローブ電流Ipの変化を示すグラフ、および、クロスオーバ位置b1に対する差動排気絞り33の開口面上でのビームの広がりの変化を示すグラフである。
【図5】表示装置に表示される警告表示の一例を示す画面図である。
【図6】本発明による第2実施形態の電子線装置を示す構成ブロック図である。
【図7】本発明による第3実施形態の電子線装置を示す構成ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明の一実施形態について、図面を参照し詳細に説明する。
まず、図1を参照し、比較例の電子線装置105において、プローブ電流Ipを変化させたとき発生する問題点について説明する。
【0025】
電子線装置105は、内部空間が高真空に保たれた鏡体部32と、内部空間が鏡体部32よりもさらに気圧が低い超高真空に保たれた電子銃部31と、鏡体部32の内部空間と、電子銃部31の内部空間とを連通させる差動排気絞り33とを含んでいる。
【0026】
電子銃部31は、電子源51と、この電子源51の直下に置いた絞り53と、電子源51から出射した一次電子ビーム3を収束するための収束レンズ(コンデンサレンズ)55とを含んでいる。また、鏡体部32は、プローブ電流量を制限するための対物絞り7を含んでいる。
【0027】
電子線装置105では、電子源51から出射した一次電子ビーム3束は、電子源51直下の絞り53を通過し、収束レンズ(コンデンサレンズ)55によって一旦収束され、再び広がる。広がった一次電子ビーム3束が対物絞り7によって制限され、その一部が遮られることにより、対物絞り7を通過した後の一次電子ビーム3の電流値(≒プローブ電流Ip)が規定される。
【0028】
収束レンズ55により、一次電子ビーム3束が一旦収束される箇所、すなわち、クロスオーバ点(crossover point)56は、収束レンズ55の磁場コイル(図示せず)に流す電流量を調節することにより、光軸方向に沿って前後させることができる。
【0029】
そこで、図1(a)に示すように、クロスオーバ点56を対物絞り7(の開口面、以下、本段落において同じ)から遠ざけるほど、プローブ電流Ipは小さくなる。そこから、図1(b)に示すように、クロスオーバ点56を対物絞り7に近づけるに従ってプローブ電流Ipは大きくなり、クロスオーバ点56と対物絞り7とが同一面内にあるとき、プローブ電流Ipは、絞り53を通過した一次電子ビーム3の電流値とほぼ等しくなる。このように、プローブ電流Ipは、収束レンズ55を制御し、クロスオーバ点56を前後させて、調節できる。
【0030】
電子線装置105の一種である走査電子顕微鏡では、「観察用モード」や「分析用モード」などと称される専用モードを選択可能な構成を有するものがある。この走査電子顕微鏡では、選択されたモードに従って、収束レンズ55を制御することにより、適切なプローブ電流Ipの値を設定している。例えば「観察用モード」に設定すると、収束レンズ55の駆動電流を大きくするので、クロスオーバ点56が対物絞り7から遠ざかり、試料観察用の小さいプローブ電流Ipが得られる。また「分析モード」に設定すると、収束レンズ55の電流を小さくするので、クロスオーバ点56が対物絞り7に近づき、試料分析用の大きいプローブ電流Ipが得られる。
【0031】
さて、図1(c)に示すように、クロスオーバ点56を対物絞り7からさらに遠ざけると、差動排気絞り33の開口面において、一次電子ビーム3束が差動排気絞り33の開口径以上に広がり、一次電子ビーム3束の一部が差動排気絞り33自身に差し掛かってしまう場合がある。一次電子ビーム3の照射を受けると、差動排気絞り33に汚染が生じる。差動排気絞り33の開口部が汚染されると、当該絞りの開口径が小さくなって、プローブ電流Ipが減少したり、開口の形状が歪んで異常な非点収差が発生したりするなどの障害が起こり、電子線装置105の性能が低下することとなる。
【0032】
なお、電子源51直下の絞り53は、一次電子ビーム3が照射されても、超高真空雰囲気中にあるため、汚染が生じにくい。また、対物絞り7は、一次電子ビーム3が照射されると汚染を生じるが、構造上、比較的交換が容易であり、また、加熱機構を具備して除染を行うこともできる。
【0033】
しかし、差動排気絞り33は、電子銃部31よりも真空度の低い(残留圧力の大きい)鏡体部32の内部空間に接しているため、一次電子ビーム3の照射により汚染を生じやすい。また、差動排気絞り33の交換は、電子銃部31全体を鏡体部32から一旦取り外してから行うため、手間が掛かり作業が困難である。さらに、電子銃部31と鏡体部32との境界に介在しているため、除染のための加熱機構を具備することが困難である。このため、差動排気絞り33を清浄に保つのが困難である問題点があった。
【0034】
電子線装置105は、観察や分析などの使用目的によって、試料を走査する電子プローブのプローブ電流Ipを、適切に設定する必要がある。また、プローブ電流Ipの大小に拘わらず、差動排気絞り33の汚染を抑止し、電子線装置105の性能低下を招かないようにする必要がある。
【0035】
そこで、本願発明者は、差動排気絞り33を清浄に保つには、一次電子ビーム3が差動排気絞り33に照射されないようにすればよいことに着目した。一次電子ビーム3を差動排気絞り33に当てないようにしつつ、プローブ電流Ipを変化させるには、例えば次のことが考えられる。
【0036】
(1)クロスオーバ点56の位置の制御範囲を、一次電子ビーム3束が差動排気絞り33の板上に差し掛からない範囲に制限する。
(2)電子源51直下の絞り53に小さい開口径のものを使用し、差動排気絞り33の位置での一次電子ビーム3束の広がりを小さくする。
(3)差動排気絞り33の開口径を大きくして、一次電子ビーム3束が広がっても、差動排気絞り33に当たらないようにする。
【0037】
例えば、前記(1)では、プローブ電流Ipのダイナミックレンジが極めて制限されるため、所望の観察や分析方法が採れないという問題点がある。また、前記(2)では、プローブ電流Ipの最大値が小さく制限されるという問題点がある。また、前記(3)では、鏡体部32から電子銃部31への気体等の物質の漏れが大きくなるという問題点がある。
【0038】
図2は、本発明による第1実施形態の電子線装置101を示す構成ブロック図である。
電子線装置101がショットキー放出形電子銃を搭載した走査電子顕微鏡である場合について説明するが、電子線装置および電子銃の形式とも、他の形式であってもよい。例えば、電子線装置は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope: TEM)のほか、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope: SEM)または走査型透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope: STEM)などの形式とすることもできる。
【0039】
また、例えば、電子銃は、ショットキー型電子銃(Schottky-type electron gun)のほか、電界放出型電子銃(FEG: field-emission electron gun)、熱陰極電界放出型電子銃(thermal (thermally assisted) field-emission electron gun)、熱電子放出型電子銃(thermionic-emission electron gun)、冷陰極電界放出型電子銃(cold (cathode)field-emission electron gun)などを用いてもよい。
【0040】
電子線装置101は、内部空間が超高真空に保たれ一次電子ビーム3を発生する電子銃部31と、内部空間が電子銃部31よりも低い真空度に保たれ、電子銃部31で発生した一次電子ビーム3を試料12上に集束させた電子プローブにより試料12の走査を行う鏡体部32と、電子銃部31と鏡体部32との内部空間を連通させるとともに、一次電子ビーム3を通過させる差動排気絞り33と、電子線装置101内の各部を制御するための制御部40とを具備している。
【0041】
電子線装置101では、陰極1と第一陽極2との間に印加される引出電圧V1によって一次電子ビーム3が放出され、さらに、第二陽極4に印加される加速電圧Vaccに加速されて、後段の電磁レンズ系に進行する。なお、サプレッサ電極5は、陰極1を保持しているフィラメントに加熱電流Ifを流すことによって放出される不要な熱電子を抑制するための電極であり、負のサプレッサ電圧Vsが印加されている。高電圧制御回路21は、コンピュータ28の制御により、加速電圧Vacc、引出電圧V1、およびサプレッサ電圧Vsを発生させる機能を有する。
【0042】
第一収束レンズ6は、第一収束レンズ制御回路22の制御に基づき、一次電子ビーム3を一旦収束する。一次電子ビーム3は、収束後、再度発散する。対物絞り7は、一次電子ビーム3の照射角を制限する。第二収束レンズ8は、第二収束レンズ制御回路23の制御に基づき、発散した一次電子ビーム3を再び収束する。対物レンズ11は、対物レンズ制御回路25の制御に基づき、一次電子ビーム3を細く絞り、電子プローブとする。さらに、二段偏向コイルを構成する上段偏向コイル9および下段偏向コイル10は、倍率制御回路24の制御に基づき、電子プローブを偏向させ、試料12を走査する。
【0043】
ここで、試料12は試料微動制御回路27に制御されている試料微動装置13上に載置されている。試料12の一次電子ビーム3の照射点から発生する信号のうち、比較的浅い角度で放出されるエネルギーの高い反射電子信号14は、検出器17に検出されて増幅器18で増幅される。またエネルギーの低い二次電子信号15は、対物レンズ11の磁場によって巻き上げられて、対物レンズ11上部に配置された直交電磁界(EXB)装置16によって一次電子ビーム3に軸ずれを起こすことなく検出器19に検出され、増幅器20で増幅される。増幅器18および20の出力信号(検出信号)は、信号制御回路26へ入力される。
【0044】
コンピュータ28は、高電圧制御回路21、第一収束レンズ制御回路22、第二収束レンズ制御回路23、倍率制御回路24、対物レンズ制御回路25、信号制御回路26および試料微動制御回路27を制御するとともに、増幅された二次電子及び反射電子の信号を処理して、表示装置29の画面に試料12の拡大像として表示させる。
【0045】
前記した「観察モード」や「分析モード」などのモード設定は、入力装置30を介して、コンピュータ28に選択または設定することができる。すると、コンピュータ28の制御に基づき、選択されたモードに対する第一収束レンズ6の電流が第一収束レンズ制御回路22によって設定されて、クロスオーバ点が制御され、目的のプローブ電流Ipが設定される。
【0046】
前記したように、電子銃部31と鏡体部32の間には、差動排気絞り33が配置されている。さらに、第二陽極4と第一収束レンズ6の間には、相異なる複数の開口径(例えば直径0.5[mm]および直径0.1[mm])の絞りを持った絞り機構34が配置され、この絞りによって、第一収束レンズ方向へ進行する一次電子ビーム3のプローブ電流Ipの最大値が決定される。
【0047】
図3は、クロスオーバ位置b1とプローブ電流Ipとの関係を示す部分光路説明図である。
ここで、第一収束レンズ6の主点からクロスオーバ点までの距離をクロスオーバ位置b1、プローブ電流をIp、差動排気絞り33上でのビームの広がりをdsとする。
【0048】
対物絞り7の開口を第一収束レンズ6によって絞り機構34の開口面上に投影したときに与えられる一次電子ビーム3の開き半角αgから、投影径内を通過するプローブ電流Ipは、次式で与えられる。ここで、αgmaxは最大プローブ電流Ipmaxが得られるビーム開き角であり、絞り機構34の開口径に依存する。最大プローブ電流Ipmaxが100[nA]を基準とした場合について例示するが、最大プローブ電流Ipmaxの値はこれより増減させてよい。
【0049】
【数1】

【0050】
また、絞り機構34の開口径dca、第一収束レンズ6の主点と絞り機構34の開口面との距離Lca、は陰極1と第一収束レンズ6との距離a1から、ビーム開き角αgmaxは、次式で与えられる。
【0051】
【数2】

【0052】
ここで、絞り機構34の開口径dca,距離Lca,距離a1を変化させると、最大プローブ電流Ipmaxが変化する。そこで、基準となる最大プローブ電流Ipmaxとして100[nA]を得ると仮定したときと、寸法変更後の開口径dca,距離Lca,距離a1を比較し、最大プローブ電流Ipmaxを再計算する必要がある。ビーム開き角αgを対物絞り7で制限したビーム開き角αg1は、次式で与えられる。なお、M1は第一収束レンズ6の縮小率、raは対物絞りの7の開口半径、L1は第一収束レンズ6と対物絞り7との距離である。
【0053】
【数3】

【0054】
αgは各クロスオーバ位置b1条件で、対物絞り7で制限されないビーム開き角αgmaxと対物絞り7で制限されたビーム開き角αg1とを比較して、小さい方の条件を選択する。すなわち、min(X,Y)を、X,Yのうち小さい方を選択する演算子とすると、実効的なビーム開き角αgは、次式で与えられる。
【0055】
【数4】

【0056】
このビーム開き角αgを用いて、クロスオーバ位置b1とプローブ電流Ipの関係が式(1)より求まる。
【0057】
ここで、差動排気絞り33上でのビーム径dsは、第一収束レンズ6と差動排気絞り33間の距離Lsから、次式で与えられる。
【0058】
【数5】

【0059】
図4(a)は、第一収束レンズ6のクロスオーバ位置b1に対するプローブ電流Ipの変化を示すグラフであり、図4(b)は、クロスオーバ位置b1に対する差動排気絞り33の開口面上でのビームの広がりの変化を示すグラフである。
絞り機構34は、開口径が0.5[mm]および0.1[mm]の絞りを備え、その他の条件は、次の通りとした。
【0060】
Ipmax 100[nA]
a1 40[mm]
b1 10〜150[mm]
ra 0.025[mm]
L1 150[mm]
dca 0.5[mm]
Lca 20[mm]
Ls 100[mm]
【0061】
図4(a)に示すように、プローブ電流Ipを0.001[nA](1[pA])から100[nA]まで変化させたとき、差動排気絞り33の開口径を0.5[mm]とした場合は、クロスオーバ位置b1を10[mm]から145[mm]まで変化させたことで実現できたが、差動排気絞り33の開口径を0.1[mm]とした場合は、クロスオーバ位置b1が120[mm]のとき4 [nA]となり、それ以上のプローブ電流Ipを得ることはできなかった。
【0062】
一方、差動排気絞り33の開口径を0.5[mm]としたとき、差動排気絞り33そのものにビームが照射されないようにするためには、ビームの広がりdsを0.5[mm]以下にする必要がある。このとき、図4(b)より、絞り機構34の開口径が0.5[mm]のときは、クロスオーバ位置b1を70[mm]以上にする必要があり、また絞り機構34の開口径が0.1[mm]のときは、クロスオーバ位置b1を30[mm]以上にする必要がある。
【0063】
したがって、前記した「観察モード」用の小さいプローブ電流Ipを得るときは、クロスオーバ位置b1を30[mm]〜120[mm]の範囲で設定し、かつ絞り機構34の開口径を0.1[mm]に選択する。また「分析モード」用の大きいプローブ電流Ipを得るときは、クロスオーバ位置b1を70[mm]〜145[mm]の範囲で設定し、かつ絞り機構34の開口径を0.5[mm]に選択すれば、差動排気絞り33にビームが照射されて汚染されることなく、20[pA]から100[nA]までのダイナミックレンジの広いプローブ電流Ipを得ることができる。なお、プローブ電流設定モードが2つである場合について説明したが、プローブ電流設定モードを3つ以上にしてもよい。
【0064】
図5は、表示装置29に表示される警告表示の一例を示す画面図である。
電子線装置101は、操作者が入力装置30を操作し「観察モード」や「分析モード」などのモード選択をしたとき、コンピュータ28の制御により、図5に示すような、操作者に対して絞り機構34において適切な開口径の絞りの選択することを促す警告ウィンドウ(ダイアログボックス)61を、表示装置29に表示させるようにしてもよい。
【0065】
この場合、操作者は、絞り機構34の開口径が適切に選択されていることを確認してから、入力装置30(ポインティングデバイスを含むものとする。)を操作して、表示装置29の画面上でポインタ62を動かし、確認ボタン63を押下する。すると、コンピュータ28は、確認ボタン63が押下されるのを待って、次の処理を実行する。このため、操作者が絞り機構34の設定を変更し忘れることがなくなり、確実に選択したモードに応じて絞り機構34において適切な開口径の絞りの選択が行われることとなる。
【0066】
図6は、本発明による第2実施形態の電子線装置102を示す構成ブロック図である。 この第2実施形態の電子線装置102は、絞り機構34に付設された開口径読取機構35を具備したほかは、第1実施形態の電子線装置101と同様の構成でよい。開口径読取機構35は、絞り機構34において選択されている絞りの開口径、または、選択した絞りを識別する設定番号などを表す絞り情報を読み取る機能を有する。開口径読取機構35は、読み取った絞り情報を、接続されているコンピュータ28へ転送する。そして、コンピュータ28は、絞り機構34において設定されている絞りの開口径または設定番号に応じて、適切なプローブ電流設定モードの選択を行う。こうして、第一収束レンズ6の電流が、差動排気絞り33に汚染を生じない範囲に、第一収束レンズ制御回路22によって設定される。
【0067】
この電子線装置102によれば、操作者が不用意に絞り機構34の絞りを異なる開口径のものに切り替えても、開口径読取機構35が、選択された絞りの開口径などを読み取り、コンピュータ28が、読み取られた開口径に応じたプローブ電流モードを選択することにより、差動排気絞り33を汚染させるようなプローブ電流モードの設定を自動で回避することができる。
【0068】
図7は、本発明による第3実施形態の電子線装置103を示す構成ブロック図である。 この第3実施形態の電子線装置103は、絞り機構34に機械的または電気的に接続された駆動機構36と、この駆動機構36に接続されコンピュータ28によって制御される駆動機構制御回路37とを具備したほかは、第1実施形態の電子線装置101と同様の構成でよい。
【0069】
操作者がプローブ電流設定モードを変更すると、設定変更された旨がコンピュータ28に転送される。そして、変更された後のプローブ電流モードに対して、絞り機構34の開口径の設定が適切な状態になるように、駆動機構制御回路37によって駆動機構36が働き、絞りの開口径が自動で切り替えられる。
【0070】
この電子線装置103によれば、プローブ電流モードが変更されても、差動排気絞り33を汚染させるような絞り機構34の開口径の使用を回避し、常にプローブ電流モードに対応した絞り機構34の開口径を設定することができる。
【0071】
このように、本実施形態の電子線装置101〜103によれば、陰極1と第一収束レンズ6との間に異なる開口径の複数の絞りを有する絞り機構34を具備し、第一収束レンズ6による一次電子線の収束位置(クロスオーバ点)に対応して、絞り機構34の絞りの開口径を選択して使用できるようにした。このため、差動排気絞り33上での一次電子ビーム3の広がりを抑制し、電子線装置101〜103の機能低下の原因となる絞り開口の汚染を防止しつつ、種々の観察や分析に利用するダイナミックレンジの広いプローブ電流Ipを得ることができる。
【符号の説明】
【0072】
1 陰極
2 第一陽極
3 一次電子ビーム
4 第二陽極
5 サプレッサ電極
6 第一収束レンズ
7 対物絞り
8 第二収束レンズ
9 上段偏向コイル
10 下段偏向コイル
11 対物レンズ
12 試料
13 試料微動装置
14 反射電子信号
15 二次電子信号
16 直交電磁界(EXB)装置
17,19 検出器
18,20 増幅器
21 高電圧制御回路
22 第一収束レンズ制御回路
23 第二収束レンズ制御回路
24 倍率制御回路
25 対物レンズ制御回路
26 信号制御回路
27 試料微動制御回路
28 コンピュータ
29 表示装置
30 入力装置
31 電子銃部
32 鏡体部
33 差動排気絞り
34 絞り機構
35 開口径読取機構
36 駆動機構
37 駆動機構制御回路
40 制御部
51 電子源
55 収束レンズ
56 クロスオーバ点
62 ポインタ
63 確認ボタン
101,102,103,105 電子線装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次電子線を発生する電子銃が収められた電子銃部と、
前記一次電子線を絞って電子プローブを形成する対物レンズが収められた鏡体部と、
前記電子銃部と前記鏡体部とを連通させる差動排気絞りとを備えた電子線装置において、
前記鏡体部は、前記一次電子線を前記差動排気絞りの開口面上またはその近傍で一旦収束させることによりクロスオーバ点を形成する収束レンズを備え、
更に電子線装置は、
前記電子銃から前記収束レンズへの光路中に配置され開口径を切替可能な絞り機構と、
前記クロスオーバ点の位置に対応して前記絞り機構の前記開口径を切り替える切替機構と、
前記絞り機構の開口径を選択する選択画面が表示される表示装置と、を備え、
前記切替機構は、前記選択画面の操作に従って、前記絞り機構の前記開口径を変更することを特徴とする電子線装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電子線装置において、
前記絞り機構の開口径を読み取る開口径読み取り機構を備えたことを特徴とする電子線装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電子線装置において、
前記クロスオーバ点における前記一次電子線のビーム電流値または前記収束レンズの制御電流値を、前記開口径読み取り機構により読み取られた開口径に応じて、前記差動排気絞りに汚染を生じない範囲に設定するコンピュータを備えたことを特徴とする電子線装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電子線装置において、
前記コンピュータの設定した値に応じて前記収束レンズを制御する収束レンズ制御回路を備えたことを特徴とする電子線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−282977(P2010−282977A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203890(P2010−203890)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【分割の表示】特願2005−266931(P2005−266931)の分割
【原出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】