電子血圧計
【課題】容積補償法に従う血圧測定のためのサーボゲインを速やかに決定する。
【解決手段】電子血圧計は、血圧の測定部位に装着されるカフ内のカフ圧を検出する。動脈容積検出回路74は測定部位の動脈容積信号を検出する。カフ圧を初期カフ圧に設定した後に、サーボ制御部106は、検出される動脈容積信号に基づいて、動脈の容積が一定となるようにカフ圧調整部をサーボ制御する。サーボ制御において、ゲイン決定部109は容積変化消去率(制御中の動脈容積信号の振幅/制御前の動脈容積信号の振幅)を算出し、算出した容積変化消去率を用いてゲイン増加量を算出する。算出毎にサーボ制御部106のサーボゲインは算出された分だけ増加する。これにより、サーボゲインの増加速度を制御誤差の大きさに応じて変更することができる。
【解決手段】電子血圧計は、血圧の測定部位に装着されるカフ内のカフ圧を検出する。動脈容積検出回路74は測定部位の動脈容積信号を検出する。カフ圧を初期カフ圧に設定した後に、サーボ制御部106は、検出される動脈容積信号に基づいて、動脈の容積が一定となるようにカフ圧調整部をサーボ制御する。サーボ制御において、ゲイン決定部109は容積変化消去率(制御中の動脈容積信号の振幅/制御前の動脈容積信号の振幅)を算出し、算出した容積変化消去率を用いてゲイン増加量を算出する。算出毎にサーボ制御部106のサーボゲインは算出された分だけ増加する。これにより、サーボゲインの増加速度を制御誤差の大きさに応じて変更することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子血圧計に関し、特に、容積補償法を用いて血圧を測定する電子血圧計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電子血圧計は、オシロメトリック法に従い血圧を測定するものがある。オシロメトリック法とは、被測定者の測定部位に予め腕帯(カフ)を巻き付けておく。測定時には、カフ内の圧力(カフ圧)を最高血圧より高く加圧し、その後徐々に減圧していく。この減圧する過程において、測定部位の動脈で発生する脈動をカフを介して圧力センサで脈波信号として検出する。その時のカフ圧と検出した脈動の大きさ(脈波信号の振幅)を利用して最高血圧と最低血圧を決定している。
【0003】
一方、非侵襲で1心拍毎に連続的に血圧波形を測定することができる容積補償法式血圧計がある(特許文献1:特公昭59−5296号公報)。
【0004】
容積補償法とは次のようである。つまり、生体外からカフによって動脈を圧迫し、心拍に同期して脈動する動脈の容積を常時一定に保つことで測定部位を圧迫する圧力(カフ圧)と測定部位の動脈の内圧すなわち血圧とを平衡させ、この平衡状態を維持したときのカフ圧を検出することにより連続的に血圧値を得る方式である。
【0005】
したがって、容積補償法では、動脈が無負荷状態(動脈の血管壁に圧力のかからない自然な状態)にあるときの容積値(以下、制御目標値という)の検出、および、この無負荷状態を維持すること(サーボ制御すること)の2点が重要となる。
【0006】
制御目標値の決定方法としては、カフにより動脈を徐々に圧迫していきながら、動脈容積変化信号(容積脈波の交流成分)を検出する。検出される動脈容積変化信号のレベルが最大となったことを検出したときに検出される動脈容積信号(容積脈波の直流成分)のレベルを、制御目標値に決定する方法が提案されている(特許文献2:特公平1−31370号公報)。
【0007】
制御目標値が決定すると、カフ圧を制御初期カフ圧に設定した後、動脈容積変化信号のレベルが最小となるように、すなわち動脈の容積が一定になるようにカフ圧をサーボ制御する。サーボ制御の過程において動脈容積変化信号のレベルが所定値より小さくなったことが検出されると、この時のカフ圧は血圧と等しくなる。この状態を維持してカフ圧を測定することによって連続的な血圧の測定が可能になる。
【特許文献1】特公昭59−5296号公報
【特許文献2】特公平1−31370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した容積補償法を用いた電子血圧計では、サーボ制御の方法としてはフィードバック制御であるPID制御(比例制御(Proportional Control)、積分制御(Integral Control)、微分制御(Derivative Control)を組み合わせて制御目標値に収束させる制御を指す)が用いられる。すなわち、現在の動脈容積信号と予め求めた制御目標値との偏差、偏差の積分、偏差の微分に、それぞれある定数:constant value(以下、サーボゲインという)を掛けて足し合わせたものを制御量として出力するものである。高い精度で血圧測定を行うためにはサーボゲインの最適値を制御対象に合わせて調整する必要がある。
【0009】
上記した特許文献2(特公平1−31370号公報)の構成においては、サーボゲインを一定速度で徐々に増加させていき、容積脈波信号の消去率(制御中の容積脈波信号の振幅/制御前の容積脈波信号の振幅)が所定値より小さくなる時のサーボゲインを、血圧測定において採用する。しかし、この方法ではサーボゲインの決定に時間がかかり、血圧測定を迅速に開始できない。
【0010】
それゆえに、この発明の目的は、サーボ制御の下で容積補償法に従い血圧を測定する電子血圧計において、当該サーボ制御のためのサーボゲインを速やかに決定することができる電子血圧計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明のある局面に従う、容積補償法に従い血圧を測定するための電子血圧計は、血圧の測定部位に装着されるカフと、カフ内の圧力を表わすカフ圧を検出するための圧力検出手段と、カフに設けられ、且つカフ圧を加える過程で測定部位の動脈の容積を示す動脈容積信号を検出するための容積検出手段と、カフ圧を加圧および減圧により調整するためのカフ圧調整手段と、制御手段と、を備える。
【0012】
制御手段は、カフ圧調整手段を制御して、カフ圧を、特定の圧力値を表わす初期カフ圧に設定するための第1の制御手段と、カフ圧を初期カフ圧に設定した後に、動脈の容積が一定となるように、カフ圧調整手段を、サーボゲインを用いてサーボ制御するためのサーボ制御手段と、サーボ制御手段によるサーボ制御が行なわれている際に、脈波一拍毎に、容積検出手段により検出される動脈容積信号が指す動脈容積とサーボ制御の目標値との差に応じた量を用いて、サーボゲインを更新するサーボゲイン決定手段と、を含む。
【0013】
そして、カフ圧を初期カフ圧に設定したときに検出される動脈容積信号の振幅は最大であり、目標値は、動脈容積信号について最大の振幅が検出されたときの動脈容積を指す。
【0014】
好ましくは、サーボゲイン決定手段は、サーボ制御手段によるサーボ制御が行なわれている際に、脈波一拍毎に、容積検出手段により検出される動脈容積信号の振幅と、カフ圧を初期カフ圧に設定したときに検出された動脈容積信号の振幅と、の比を検出する振幅比検出手段を、有する。そして、振幅比検出手段により検出された比に基づきサーボゲインの増加量を決定し、決定した増加量を用いて現在のサーボゲインの値を更新する。
【0015】
好ましくは、サーボゲインの値を更新しながらサーボ制御する過程において、容積検出手段により検出される動脈の容積の変化量が最小値に収束したときに、圧力検出手段により検出されるカフ圧を血圧として検出する。
【0016】
好ましくは、振幅比検出手段により検出される比が、所定値よりも小さくなることを検出したとき、動脈の容積の変化の量が最小値に収束したことを検出する。
【0017】
好ましくは、サーボゲイン決定手段は、サーボ制御手段による制御が行なわれている際に、容積検出手段により検出される動脈容積信号が示す動脈容積と、動脈容積信号について最大の振幅が検出されたときの動脈容積との差分を、脈波1拍分について積分した積分値を検出し、検出される積分値と、カフ圧を初期カフ圧に設定したときに検出された積分値と、の比を検出する積分比検出手段と、積分比検出手段により検出された比に基づきサーボゲインの増加量を決定し、決定した増加量を用いて現在のサーボゲインの値を更新する。
【0018】
好ましくは、サーボゲインの値を更新しながらサーボ制御する過程において、容積検出手段により検出される動脈の容積の変化量が最小値に収束したときに、圧力検出手段により検出されるカフ圧を血圧として検出する。
【0019】
好ましくは、積分比検出手段により検出される比が、所定値よりも小さくなることを検出したとき、動脈の容積の変化の量が最小値に収束したことを検出する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、容積補償法による電子血圧計の構成におけるサーボゲイン調整処理において、サーボ制御による脈波一拍毎の制御誤差の大きさに応じた量を用いて、すなわち、脈波一拍毎に、容積検出手段により検出される動脈容積信号が指す動脈容積とサーボ制御の目標値との差に応じた量を用いて、サーボゲインを更新する。
【0021】
これにより、サーボゲインを増加させるなどの更新の速度を制御誤差の大きさに応じて変更するとしたので、制御の安定性を保ちながらサーボゲイン調整に掛かる時間を短縮できる。その結果、容積補償法に従う血圧測定のためのサーボゲインを速やかに決定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は同一または相当部分を指し、その説明は繰返さない。
【0023】
発明者らは、容積補償法において、動脈の無負荷状態を維持するためのサーボ制御に係るサーボゲインの決定について次のような知見を得た。
【0024】
サーボゲインを増加していくにつれて、動脈容積変化信号の振幅は次第に小さくなり振幅は最小値に収束していく。つまり、サーボ制御により、サーボゲインを増加させていく過程において、カフ圧信号から検出される脈動の大きさも収束し、動脈の容積の変化の量が最小値に収束する。それ以上にサーボゲインを増加すると、制御系が不安定になるため、制御信号において不要な高周波成分の振動が生じる。さらにサーボゲインを増加すると、制御信号において異常発振が生じて制御不能になるという性質がある。そこで、発明者らは、この性質を利用して、サーボゲインを増加させながらサーボ制御を行う過程で動脈容積変化信号の振幅が最小となる点を検出することにより、個人毎に動脈の無負荷状態を維持するための最適なサーボゲインを決定できるとの知見を得た。
【0025】
以下に、各実施の形態に係る容積補償法を用いて血圧を測定する電子血圧計を説明する。
【0026】
本実施の形態に係る電子血圧計は、容積補償法により連続的に血圧を測定する。電子血圧計は、生体外から動脈に外圧を加え、生体外圧と動脈内圧すなわち血圧とが常時平衡するように、決定した最適なサーボゲインを用いてサーボ制御する。つまり、電子血圧計は、動脈壁が無負荷状態に維持されるようにカフ圧を微調整し、そのとき(無負荷状態)の生体外圧を測定することにより連続的に血圧を測定する。
【0027】
図1は、本発明の実施の形態に係る電子血圧計1の外観斜視図である。
図1を参照して、電子血圧計1は、本体部10と、被測定者の四肢に巻き付け可能なカフ20とを備える。本体部10はカフ20に取り付けられている。本体部10の表面には、たとえば液晶等により構成される表示部40と、ユーザ(被測定者)からの指示を受付けるための操作部41とが配置されている。操作部41は、複数のスイッチを含む。
【0028】
本実施の形態において、「四肢」とは、上肢および下肢のうち、それぞれの指を除く部位を表わす。つまり、四肢は、手首から腕の付け根までの部位と、足首から足の付け根までの部位とを含む。以下の説明においては、カフ20は、被測定者の手首に装着されるものとする。
【0029】
なお、本実施の形態における電子血圧計1は、図1に示されるように、本体部10がカフ20に取り付けられた形態を例に説明するが、上腕式の血圧計で採用されているような、本体部10とカフ20とがエアチューブ(後述の図3においてエアチューブ31)によって接続される形態のものであってもよい。
【0030】
図2は、本発明の実施の形態に係る電子血圧計1における血圧測定のためのカフ圧を制御する概念を表わした図である。図2には、カフ20が、被測定者の手首200に装着された様子が示される。
【0031】
図2を参照して、本体部10には、ポンプ51および排気弁(以下、単に「弁」という)52を含むカフ圧の調整機構が配置される。
【0032】
ポンプ51、弁52、および空気袋21内の圧力(カフ圧)を検出するための圧力センサ32からなるエア系30は、エアチューブ31を介して、カフ20に内包される空気袋21と接続される。このように、エア系30が本体部10に設けられるため、カフ20の厚みを薄く保つことができる。
【0033】
空気袋21の内側には発光素子71と受光素子72とが所定の間隔に配置される。本実施の形態では、カフ20の装着状態における手首の周に沿って発光素子71と受光素子72とが並べられるが、このような配置例に限定されるものではない。
【0034】
図3は、本発明の実施の形態に係る電子血圧計1のハードウェア構成を表わすブロック図である。
【0035】
図3を参照して、電子血圧計1のカフ20は、空気袋21と、動脈容積センサ70とを含む。動脈容積センサ70は、上述した発光素子71と受光素子72とを有する。発光素子71は、動脈に対して光を照射し、受光素子72は、発光素子71によって照射された光の動脈の透過光または反射光を受光する。
【0036】
なお、動脈容積センサ70は、動脈の容積が検出できるものであればよく、インピーダンスにより動脈の容積を検出するものであってもよい。その場合、発光素子71および受光素子72に代えて、動脈を含む部位のインピーダンスを検出するための複数の電極が含まれる。
【0037】
本体部10は、上述の表示部40および操作部41に加え、各部を集中的に制御し、各種の演算処理を行なうためのCPU(Central Processing Unit)100と、CPU100に所定の動作をさせるプログラムや各種データを記憶するためのメモリ部42と、測定された血圧データを後述の図8に従い記憶するための不揮発性メモリ(たとえばフラッシュメモリ)43と、CPU100を介し各部に電力を供給するための電源44、および現在時間を計時して計時データをCPU100に出力するタイマ45とを含む。操作部41は、電源をONまたはOFFするための指示の入力を受付ける電源スイッチ41Aと、測定開始の指示を受付けるための測定スイッチ41Bと、測定停止の指示を受付けるための停止スイッチ41Cと、不揮発性メモリ43に記録された血圧などの情報を読出す指示を受付けるためのメモリスイッチ41Dと、被測定者を識別するためのID(Identifier)情報を入力するために操作されるIDスイッチ41Eを有する。
【0038】
本体部10は、さらに、上述したエア系30と、カフ圧の調整機構50と、発振回路33と、発光素子駆動回路73と、動脈容積検出回路74とを含む。
【0039】
調整機構50は、ポンプ51および弁52の他、ポンプ駆動回路53と弁駆動回路54とを有する。
【0040】
ポンプ51は、カフ圧を加圧するために、空気袋21に空気を供給する。弁52は、空気袋21の空気を排出しまたは封入するために開閉される。ポンプ駆動回路53は、ポンプ51の駆動をCPU100から与えられる制御信号に基づいて制御する。弁駆動回路54は弁52の開閉制御をCPU100から与えられる制御信号に基づいて行なう。
【0041】
発光素子駆動回路73は、CPU100からの指令信号に応じて、発光素子71を所定のタイミングで発光させる。動脈容積検出回路74は、受光素子72からの信号に基づき、動脈容積を検出する。
【0042】
圧力センサ32は、静電容量型の圧力センサでありカフ圧により容量値が変化する。発振回路33は、圧力センサ32の容量値に応じた発振周波数の信号をCPU100に出力する。CPU100は、発振回路33から得られる信号を圧力に変換し圧力を検知する。
【0043】
図5は、本発明の実施の形態に係る電子血圧計1の機能構成を示す機能ブロック図である。
【0044】
図5を参照して、CPU100は、カフ圧を初期カフ圧にセットするための制御を行なう駆動制御部101と、血圧を連続的に測定するためのフィードバック制御を行なうサーボ制御部106と、血圧決定部108と、サーボゲインを決定するためのサーボゲイン決定部109とを含む。なお、図5には、説明を簡単にするために、CPU100の有するこれら各部との間で直接的に信号を授受する周辺のハードウェアのみ示されている。
【0045】
駆動制御部101は、サーボ制御のための制御目標値を検出するための制御目標値検出部102と、カフ圧を設定するためのカフ圧設定部104とを含む。
【0046】
制御目標値検出部102は、カフ圧を所定値(たとえば200mmHg)まで加圧させる過程において、初期カフ圧を導出する処理を行なう。制御目標値検出部102は、ポンプ駆動回路53にポンプ51を駆動させるとともに、発光素子駆動回路73に発光素子71を駆動させる。ポンプ51が駆動されることで、カフ圧が徐々に上昇する。発光素子71の駆動により、受光素子72が受付けた信号が、動脈容積検出回路74に出力される。制御目標値検出部102は、動脈容積検出回路74から出力される動脈容積信号の1拍毎の変化(振幅)を表わす動脈容積変化信号を入力する。
【0047】
制御目標値検出部102は、カフ圧が所定値となるまでポンプ駆動回路53の駆動を制御する。カフ圧が所定値に達するまでの間、動脈容積変化信号の(仮の)最大値を検出するとともに、発振回路33からの信号を入力し、入力した信号を圧力値に変換する。そして、検出された仮の最大値とその時点におけるカフ圧とを、不揮発性メモリ43の所定の領域に記録する。仮の最大値とカフ圧とは、記録された(仮の)最大値が更新されるたびに上書き記録されてよい。
【0048】
最終的に、動脈容積変化信号の最大値として記録された値は、サーボ制御の際の制御目標値として確定される。また、動脈容積変化信号が最大値のときのカフ圧(サーボ制御の際の基準カフ圧)は、初期カフ圧として確定される。
【0049】
制御目標値検出部102は、カフ圧が所定値となったことを検知すると、ポンプ駆動回路53の駆動を停止する。そして、確定された初期カフ圧および制御目標値をカフ圧設定部104に出力する。
【0050】
なお、カフ圧を所定値から減圧させる過程において、初期カフ圧としての基準カフ圧が導出されてもよい。
【0051】
カフ圧設定部104は、発振回路33からの信号を入力し、カフ圧が初期カフ圧となるまで弁駆動回路54を駆動する。これにより、弁52が空気を排出し、カフ圧が所定値のカフ圧から初期カフ圧まで減少される。
【0052】
サーボ制御部106は、発光素子駆動回路73を駆動する。そして、動脈容積検出回路74からの信号に基づいて、動脈の容積が一定となるようにポンプ駆動回路53または弁駆動回路54を制御する。
【0053】
より具体的には、サーボ制御部106は、動脈容積検出回路74から受付けた動脈容積信号と制御目標値との差が最小となるように(好ましくはゼロになるように)、サーボゲインに従う制御量に基づきポンプ駆動回路53または弁駆動回路54を制御する。つまり、ポンプ駆動回路53または弁駆動回路54は、動脈容積変化信号の値(振幅)が所定の閾値以下となるようにポンプ51の動作または弁52の開閉を制御する。
【0054】
血圧決定部108は、サーボ制御部106による制御が行なわれている際に、発振回路33から入力する信号(「圧力検出信号」という)を連続的に(定期的に)受付けて、圧力検出信号に応じたカフ圧を、血圧として決定するための処理を行なう。
【0055】
より具体的には、血圧決定部108は、動脈容積信号の値と制御目標値との差が、所定の閾値以下であるか否かを検出する。そうである場合にのみ、そのときのカフ圧を血圧として決定する。決定された血圧は、不揮発性メモリ43に時系列に格納される。
【0056】
サーボゲイン決定部109は、最適なサーボゲインを決定するために、図6に示すように振幅値算出部110と、容積変化消去率算部111およびゲイン増加量決定部112を含む。これらの各部の機能は後述する。
【0057】
なお、CPU100に含まれる各機能ブロックの動作は、メモリ部42中に格納されたソフトウェアを実行することで実現されてもよいし、これらの機能ブロックのうち少なくとも1つについては、ハードウェアで実現されてもよい。
【0058】
あるいは、ハードウェア(回路)として記載したブロックのうち少なくとも1つについては、CPU100がメモリ部42中に格納されたソフトウェアを実行することで実現されてもよい。
【0059】
次に、本実施の形態における電子血圧計1の動作について説明する。
図7は、本発明の実施の形態における血圧測定処理を示すフローチャートである。図7のフローチャートに示す処理は、予めプログラムとしてメモリ部42に格納されており、CPU100がこのプログラムを読み出して実行することにより、血圧測定処理の機能が実現される。なお、被測定者は、血圧測定をするときには、電子血圧計1のカフ20を図3に示すように測定部位である手首に装着していると想定する。
【0060】
図7を参照して、CPU100は、電源スイッチ41Aが操作(たとえば押下)されたか否かを検出する(ステップS2)。電源スイッチ41Aが操作されたと検出した場合(ステップS2においてYES)、ステップS4に進む。
【0061】
ステップS4において、CPU100は、初期化処理を行なう。具体的には、メモリ部42の所定の領域を初期化し、空気袋21の空気を排気し、圧力センサ32の補正を行なう。また、このとき、サーボ制御のためのサーボゲインが決定されたか否かを指示するためのフラグFLの値が初期化される。たとえば、フラグFLの値は0に更新される。フラグFLは、当該フローチャートのために準備される一時変数であり、CPU100の図示のない内部メモリの所定記憶領域を指している。
【0062】
初期化が終わると、CPU100は、測定スイッチ41Bが操作(たとえば押下)されたか否かを検出する(ステップS6)。測定スイッチ41Bが操作されるまで待機する。測定スイッチ41Bが押下されたと検出すると(ステップS6においてYES)、ステップS8に進む。
【0063】
ステップS8において、制御目標値検出部102は、初期カフ圧および制御目標値の検出の処理を実行する。初期カフ圧および制御目標値の検出は以下のように行う。
【0064】
カフ圧を徐々に増加させながら、その時の動脈容積信号(容積脈波信号の直流成分)PGdcと動脈容積変化信号(容積脈波信号の交流成分)PGacを検出する。これら信号は、動脈容積検出回路74により検出される。つまり、動脈容積検出回路74は図示のないHPF(High Pass Filter)回路を有している。
【0065】
動作において、動脈容積センサ70から動脈の容積の変化を指す容積脈波信号を入力すると、その入力信号をHPF回路により、容積脈波信号の直流成分の動脈容積信号PGdcと交流成分の動脈容積変化信号PGacに分離して出力する。たとえば、フィルタ定数を1Hzとして、1Hz以下の信号は直流成分として導出されて、1Hzを超える信号は交流成分として導出される。制御目標値検出部102は、動脈容積信号PGdcと動脈容積変化信号PGacを入力する。
【0066】
制御目標値検出部102は、現在検出される動脈容積変化信号PGacの値が最大であるかを検出し、その時に検出される動脈容積信号PGacの値と動脈容積信号PGdcの値とカフ圧とを関連付けて所定のメモリ領域に格納する。カフ圧が所定の圧力に達するまでこの動作を繰り返す。この所定の圧力は、不揮発性メモリ43から読出されるカフ圧データPC1(たとえば200mmHg)により指示される。
【0067】
カフ圧が所定の圧力に達したことを検出したときに所定のメモリ領域に格納されている動脈容積変化信号PGacの値うちの最大値に関連付けられる動脈容積信号PGdcの値を制御目標値とし、関連して格納されていたカフ圧を制御初期カフ圧として確定する。これにより、制御目標帯と初期カフ圧が検出される。
【0068】
このような、制御目標値と初期カフ圧の検出について、図8および図9を用いて詳細に説明する。
【0069】
図8は、本発明の実施の形態における制御目標値と初期カフ圧検出処理を示すフローチャートである。図9は、本発明の実施の形態の血圧測定処理を説明するための図である。図9の上段には、圧力センサ32によって検出されるカフ圧Pcを示す信号がタイマ45が計時する時間軸に沿って示される。図9の中段と下段には、同一の時間軸に沿った動脈容積変化信号PGacと動脈容積信号PGdcが示される。
【0070】
図8の手順を、図9を参照しながら説明する。図8を参照して、制御目標値検出部102は、メモリ部42の所定の領域に記憶される、動脈容積変化信号PGacの最大値およびカフ圧値を初期化する(ステップS102)。この時点で図9のtime=0に相当する。なお、以下の処理において動脈容積変化信号PGacの最大値は随時更新されるものであるので、最終的に最大値として確定するまでの値を「容積仮最大値」というものとする。
【0071】
次に、ポンプ駆動回路53を制御して、カフ圧を加圧する(ステップS104)。
カフ圧を加圧する段階において、制御目標値検出部102は、動脈容積検出回路74から、動脈容積信号PGdcと動脈容積変化信号PGacを入力する(ステップS106)。
【0072】
制御目標値検出部102は、動脈容積変化信号PGacの値と、メモリ部42から読出した容積仮最大動脈容積変化信号PGacの値とを比較し、比較結果に基づき、動脈容積変化信号PGacの値が容積仮最大値以上であるか否かを検出する(ステップS108)。動脈容積変化信号PGacの値が容積仮最大値以上であると検出された場合(ステップS108においてYES)、ステップS110に進む。一方、動脈容積変化信号PGacの値が容積仮最大値未満であると検出された場合(ステップS108においてNO)、ステップS112に進む。
【0073】
ステップS110において、制御目標値検出部102は、動脈容積変化信号PGacの値を用いてメモリ部42の容積仮最大値を更新するとともに、メモリ部42の容積仮最大値に関連付けられているカフ圧を、その時点で検出されたカフ圧Pcにより上書きする。この処理が終わると、処理はステップS112に移される。
【0074】
ステップS112において、制御目標値検出部102は、検出するカフ圧Pcが所定値PC1のカフ圧以上を指示するか否かを検出する。カフ圧Pcが所定値PC1のカフ圧以上を指示しないと検出した場合(ステップS112においてNO)、ステップS104に戻る。一方、カフ圧Pcが所定値PC1のカフ圧以上を指示すると検出した場合(ステップS112においてYES)、ステップS114に進む。このようなステップS104〜S112のループ処理は、図9の時刻T0に至る期間において行なわれる。
【0075】
ステップS114において、制御目標値検出部102は、ステップS110において最終的に記録された容積仮最大値を最大値として確定するとともに、最大値が検出された時刻T0において検出されたカフ圧Pcの値を、初期カフ圧(図9の符号MBPが指すカフ圧)として確定する。制御目標値検出部102は、さらに、時刻T0において動脈容積変化信号PGacに関連付けされて格納されていた動脈容積信号PGdcの値を制御目標値V0として確定する。このような制御目標値V0の検出の手順は特許文献1に従うものである。
【0076】
ステップS114の処理が終わると、処理はメインルーチンに戻される。
再び図7を参照して、上述のような制御目標値と初期カフ圧の検出処理が終了すると、カフ圧設定部104は、弁駆動回路54を制御して、カフ圧Pcを初期カフ圧に設定する(ステップS10)。図9を参照して、カフ圧設定部104は、カフ圧Pcが初期カフ圧に設定された時刻T1で、弁駆動回路54を停止させる。
【0077】
このようにカフ圧が初期カフ圧に設定されると、動脈容積変化信号PGacが示す振幅は最大となる。
【0078】
カフ圧が初期カフ圧に設定されると、サーボ制御のための最適なサーボゲインが決定されるまでの期間は(ステップS12でNO)、すなわち図9の時刻T1〜T2の期間では、サーボゲイン決定部109によるサーボゲイン決定処理(ステップS26)が行なわれる。ステップS12における最適なサーボゲインが決定済みであるか否かの検出は、フラグFLの値に従い行なわれる。具体的には、フラグFLの値が1を指示すると検出すると、最適なサーボゲインが決定済みである(ステップS12でYES)と検出し、そうでないと(ステップS12でNO)、未決定であると検出し、サーボゲイン決定処理(ステップS26)に移行する。サーボゲイン決定の手順については後述する。
【0079】
最適なサーボゲインが決定済みの場合には(ステップS12でYES)、決定した最適サーボゲインを用いたサーボ制御部106によるサーボ制御によって動脈容積一定制御が実行される(ステップS14)。具体的には、サーボ制御部106は、動脈容積信号PGdcおよび動脈容積変化信号PGacを動脈容積検出回路74から入力するとともに、ポンプ駆動回路53および弁駆動回路54に、サーボゲインに従い決定した制御量に基づく制御信号を出力する。これにより、ポンプ51および弁52は、検出される動脈容積信号PGdcの値と制御目標値V0との差が最小となるように駆動される。
【0080】
ポンプ51および弁52の制御信号は、具体的には動脈容積信号PGdcの値と制御目標値V0との差分にサーボゲインを掛け合わせた値から算出される。サーボゲインを大きくすれば、サーボ制御によってカフ圧が示す脈動が大きくなる。すなわち、本実施の形態において、サーボゲインとはサーボ制御によるカフ圧の脈動の大きさを決定する係数を指す。
【0081】
図9の例では、時刻T1からT2までの期間において最適なサーボゲインの決定処理が行われ、時刻T2から動脈容積一定制御(サーボ制御)が開始されたことが示される。
【0082】
このような動脈容積一定制御に並行して、血圧決定部108は、血圧算出および血圧決定の処理(ステップS16とS18)を実行する。具体的には、動脈容積一定制御を行っている間において検出されるカフ圧Pcを血圧として決定する(ステップS18)。
【0083】
決定した血圧のデータは不揮発性メモリ43に格納される(ステップS20)。ステップS20の処理が終わると、処理はステップS22に移行する。
【0084】
図9に示される時刻T2以降は、決定したサーボゲインを用いたサーボ制御により動脈容積と制御目標値V0との差はゼロに近い。すなわち、サーボ制御部106により動脈は無負荷状態に維持される。したがって、時刻T2以降において検出されるカフ圧Pcが血圧として決定される。つまり、血圧決定部108は、動脈壁が無負荷状態に維持されている期間において、カフ圧Pc(外圧)が指す信号の1拍毎の振幅の最大値と最小値を当該信号の波形を微分処理などすることにより検出して、検出した最大値は最高血圧(収縮期血圧)に、最小値は最低血圧(拡張期血圧)に相当するとして算出する。
【0085】
続いて、ステップS22において、CPU100は、停止スイッチ41Cが操作(たとえば押下)されたか否かを検出する。停止スイッチ41Cが操作されていないと検出した場合(ステップS22においてNO)、処理はステップS12に戻る。停止スイッチ41Cが操作されたと検出した場合(ステップS22においてYES)、不揮発性メモリ43から測定された血圧データを読出し表示部40に表示する(ステップS24)。これにより、一連の血圧測定処理は終了する。
【0086】
本実施の形態では、停止スイッチ41Cの操作が検知された場合に、血圧測定処理を終了することとしたが、動脈容積一定制御が開始されてから、タイマ45によって所定時間経過したと検出された場合に、終了することとしてもよい。
【0087】
本実施の形態では、血圧測定を迅速に開始するために、サーボゲイン決定処理(ステップS26)が行なわれる。サーボゲイン決定処理において、サーボゲインの増加速度(単位時間当たりの増加量)を適切に設定し、サーボゲイン決定に掛かる時間を短縮する必要がある。時間短縮のためには速く増加させることが望ましい。しかし、増加速度が大きすぎると、制御限界点(すなわち最適サーボゲイン)の検出が困難となり、また必要以上にサーボゲイン値が大きくなるので制御信号において異常発振が生じてサーボ制御が不能となる。そのためサーボゲインの増加速度を適切に設定する必要がある。適切な増加速度は、検出される動脈容積変化信号PGacの値またはサーボ制御を行ったときの動脈容積変化信号PGacの値の減少量などにより影響され、一概には決定できない。
【0088】
そこで、本実施の形態では、図10のフローチャートに従い、制御誤差に着目してサーボゲインの増加速度を調整する。ここで、制御誤差とは、制御目標値V0と検出される動脈容積信号PGdcの値との差分を指す。図10のサーボゲイン決定処理においては、サーボゲインが小さく制御誤差が大きいときは、サーボゲインの増加速度を大きくして速やかにサーボゲインを増大させて、また、サーボゲインが大きくなり制御誤差が小さくなるに従いサーボゲインの増加速度を小さくする。これにより、制御の安定性を保ちながら最適サーボゲインの決定に掛かる時間を短縮するものである
図10のサーボゲイン決定処理では、サーボゲインを、制御誤差に応じて増加させていく過程において、容積変化消去率が、予め定められた容積変化消去率目標値(以下、消去率目標値という)未満を指示すると検出したときに得られているサーボゲインを、容積補償法に従う血圧測定のための最適なサーボゲインと決定する。したがって、本実施の形態によれば、従来のようにサーボゲインを一定値で増加させることにより最適サーボゲインを検出する構成に比較して、速やかに最適サーボゲインを決定することができる。
【0089】
図10を参照して本実施の形態に係るサーボゲイン決定処理を説明する。なお、サーボゲインは、上述の異常発振を回避可能なように、予め小さい値に設定されていると想定する。
【0090】
動作において、まず、振幅値算出部110は、検出される動脈容積変化信号PGacに基づき一拍毎の振幅値を算出する(ステップST3)。
【0091】
次に、容積変化消去率算部111は、動脈容積変化信号PGacの1拍毎に、この時点の容積変化消去率(現在の動脈容積変化信号PGacの振幅値/カフ圧を初期カフ圧に設定したときに検出された動脈容積変化信号PGacの振幅値)を算出し、不揮発性メモリ43に格納する(ステップST5)。現在の動脈容積変化信号PGacの振幅値は、ステップST3によって算出された値である。また、カフ圧を初期カフ圧に設定したときに検出された動脈容積変化信号PGacの振幅値は、CPU100の内部メモリに格納されていると想定する。
【0092】
次に、サーボゲイン増加量算出部112は、不揮発性メモリ43から読出した容積変化消去率に所定係数を乗じた結果の値を、サーボゲインの増加量(以下、サーボゲイン増加量という)として算出する(ステップST7)。算出されたサーボゲイン増加量のデータは不揮発性メモリ43に格納される。
【0093】
サーボ制御部106は、現在のサーボゲインを、不揮発性メモリ43から読出したサーボゲイン増加量を加算することにより更新する(ステップST9)。これにより、サーボゲインを容積変化消去率の値の大きさに従い増加させることができる。
【0094】
続いて、サーボ制御部106は、この更新後のサーボゲインを用いて、動脈容積信号PGdcの値と制御目標値V0との差が最小となるように、サーボ制御を行う(ステップST11)。サーボ制御が行なわれている間において、振幅値算出部110は、検出される動脈容積変化信号PGacに基づき一拍毎の振幅値を算出し、容積変化消去率算部111は、この算出された振幅値を用いて上述のように容積変化消去率を算出する。
【0095】
続いて、サーボゲイン決定部109は、ステップST13において算出された容積変化消去率と容積変化消去率の目標値TH1とを比較し、比較結果に基づき、算出された容積変化消去率が目標値TH1よりも小さいことを連続して検出すると(ステップST41でNO)、動脈容積変化信号PGacが最小の値に収束したと検出し、血圧算出処理で使用するべきサーボゲインを、この時点のサーボゲインに決定する(ステップST43)。決定したサーボゲインは、不揮発性メモリ43に格納される。サーボ制御部106は、不揮発性メモリ43から当該サーボゲインを読出し、読出したサーボゲインに基づき血圧算出処理におけるサーボ制御を行う。
【0096】
そして、サーボゲイン決定部109は、血圧測定のためのサーボゲインが決定済みであることを指示するためにフラグFLに1を設定する(ステップST45)。
【0097】
以上の手順により、本実施の形態に係るサーボゲイン決定(ステップS26)の処理は終了する。
【0098】
上述の閾値TH1は、多数の被験者からサンプリングして予め決定しておいた値である。
【0099】
このように、サーボ制御部106により、サーボゲインを、検出される容積変化消去率の値に従う量だけ増加させながらサーボ制御が行われる過程において、心拍に同期して示す容積変化消去率が閾値TH1に収束したとき、動脈容積の変化量が最小値に収束したことを検出できる。
【0100】
図11には、サーボゲイン決定処理の開始から動脈容積変化信号PGacの振幅が収束するまでの期間における、動脈容積変化信号PGacの変化とサーボゲインの変化とが同一時間軸に従い模式的に示される。図11は図9の時刻T1〜T2の期間におけるサーボゲインの増加速度と動脈容積変化信号PGacの振幅値の関係を模式的に示すものであり、縦軸のスケールは図9のそれとは異なっている。
【0101】
ここでは、サーボゲインの変化をわかり易く示すために、サーボゲイン決定処理を開始する時点のサーボゲインは0であると想定している。図示されるように、容積変化消去率が比較的に大きい処理開始時には、サーボゲインの増加速度は速いが、その後のサーボ制御の期間は、動脈容積変化信号PGacの振幅値が次第に収束しつつあるので容積変化消去率も次第に小さくなる。したがって、このサーボ制御の期間ではサーボゲインの増加速度は次第に遅くなる。
【0102】
(サーボゲイン増加量の他の算出手順)
上述のステップST7におけるサーボゲイン増加量を算出する手順は、上述したものに限定されず、次のように算出してもよい。つまり、ゲイン決定部109は動脈容積変化信号PGacの振幅値のかわりに、ゲイン決定部109が有する図示のない積分値算出部が算出する、一拍毎の制御誤差信号Errを使用してもよい。ここで、制御誤差信号Errは、制御目標値V0と動脈容積信号PGdcの値との差分を2乗したもの、もしくは差分の絶対値を、脈波一拍分について積分した値として算出される。この場合には、ゲイン決定部109が有する図示のない積分比検出手段は、容積変化消去率として、(現在の制御誤差信号Errの値/カフ圧を初期カフ圧に設定したときに検出された制御誤差信号Errの値)との値を算出する。ゲイン決定部109は、この算出された容積変化消去率が閾値TH1以下となったとき、動脈容積の変化量が収束したことを検出できる。
【0103】
ここで、以上の血圧測定処理により不揮発性メモリ43に格納される各測定データのデータ構造について説明する。
【0104】
図4は、本発明の実施の形態の不揮発性メモリ43に格納される測定データのデータ構造を示す図である。
【0105】
図4を参照して、不揮発性メモリ43は領域E1、作業領域E2および測定データの格納領域E3を含む。領域E1には、制御目標値および初期カフ圧検出のために参照されるカフ圧データPC1と、サーボゲイン決定のために参照される閾値TH1が格納される。
【0106】
領域E3には、複数の測定データ80が格納される。測定データ80の各々は、一例として、「ID情報」のフィールド81と、測定情報のフィールド83とを含む。フィールド81には、血圧測定時のIDスイッチ41Eの操作により入力したID情報が格納される。フィールド83には、測定データの測定開始日時や測定期間などのタイマ45により計時されたデータ831および測定された血圧のデータ832が関連付けて格納される。
【0107】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の実施の形態に係る電子血圧計の外観斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る電子血圧計における血圧測定のためのカフ圧を制御する概念を表わした図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る電子血圧計のハードウェア構成を表わすブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る測定データの格納例を説明する図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る電子血圧計の機能構成を示す機能ブロック図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るサーボゲイン決定部の機能構成を示す機能ブロック図である。
【図7】本発明の実施の形態における血圧測定処理を示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態における制御目標値と初期カフ圧検出処理を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態の血圧測定処理を説明するための図である。
【図10】本発明の実施の形態に係るサーボゲイン決定処理のフローチャートである。
【図11】本発明の実施の形態に係るサーボゲイン増加速度を説明する図である。
【符号の説明】
【0109】
1 電子血圧計、102 制御目標値検出部、104 カフ圧設定部、106 サーボ制御部、108 血圧決定部、109 ゲイン決定部、110 振幅値算出部、111 容積変化消去率算出部、112 ゲイン増加量算出部。
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子血圧計に関し、特に、容積補償法を用いて血圧を測定する電子血圧計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電子血圧計は、オシロメトリック法に従い血圧を測定するものがある。オシロメトリック法とは、被測定者の測定部位に予め腕帯(カフ)を巻き付けておく。測定時には、カフ内の圧力(カフ圧)を最高血圧より高く加圧し、その後徐々に減圧していく。この減圧する過程において、測定部位の動脈で発生する脈動をカフを介して圧力センサで脈波信号として検出する。その時のカフ圧と検出した脈動の大きさ(脈波信号の振幅)を利用して最高血圧と最低血圧を決定している。
【0003】
一方、非侵襲で1心拍毎に連続的に血圧波形を測定することができる容積補償法式血圧計がある(特許文献1:特公昭59−5296号公報)。
【0004】
容積補償法とは次のようである。つまり、生体外からカフによって動脈を圧迫し、心拍に同期して脈動する動脈の容積を常時一定に保つことで測定部位を圧迫する圧力(カフ圧)と測定部位の動脈の内圧すなわち血圧とを平衡させ、この平衡状態を維持したときのカフ圧を検出することにより連続的に血圧値を得る方式である。
【0005】
したがって、容積補償法では、動脈が無負荷状態(動脈の血管壁に圧力のかからない自然な状態)にあるときの容積値(以下、制御目標値という)の検出、および、この無負荷状態を維持すること(サーボ制御すること)の2点が重要となる。
【0006】
制御目標値の決定方法としては、カフにより動脈を徐々に圧迫していきながら、動脈容積変化信号(容積脈波の交流成分)を検出する。検出される動脈容積変化信号のレベルが最大となったことを検出したときに検出される動脈容積信号(容積脈波の直流成分)のレベルを、制御目標値に決定する方法が提案されている(特許文献2:特公平1−31370号公報)。
【0007】
制御目標値が決定すると、カフ圧を制御初期カフ圧に設定した後、動脈容積変化信号のレベルが最小となるように、すなわち動脈の容積が一定になるようにカフ圧をサーボ制御する。サーボ制御の過程において動脈容積変化信号のレベルが所定値より小さくなったことが検出されると、この時のカフ圧は血圧と等しくなる。この状態を維持してカフ圧を測定することによって連続的な血圧の測定が可能になる。
【特許文献1】特公昭59−5296号公報
【特許文献2】特公平1−31370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した容積補償法を用いた電子血圧計では、サーボ制御の方法としてはフィードバック制御であるPID制御(比例制御(Proportional Control)、積分制御(Integral Control)、微分制御(Derivative Control)を組み合わせて制御目標値に収束させる制御を指す)が用いられる。すなわち、現在の動脈容積信号と予め求めた制御目標値との偏差、偏差の積分、偏差の微分に、それぞれある定数:constant value(以下、サーボゲインという)を掛けて足し合わせたものを制御量として出力するものである。高い精度で血圧測定を行うためにはサーボゲインの最適値を制御対象に合わせて調整する必要がある。
【0009】
上記した特許文献2(特公平1−31370号公報)の構成においては、サーボゲインを一定速度で徐々に増加させていき、容積脈波信号の消去率(制御中の容積脈波信号の振幅/制御前の容積脈波信号の振幅)が所定値より小さくなる時のサーボゲインを、血圧測定において採用する。しかし、この方法ではサーボゲインの決定に時間がかかり、血圧測定を迅速に開始できない。
【0010】
それゆえに、この発明の目的は、サーボ制御の下で容積補償法に従い血圧を測定する電子血圧計において、当該サーボ制御のためのサーボゲインを速やかに決定することができる電子血圧計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明のある局面に従う、容積補償法に従い血圧を測定するための電子血圧計は、血圧の測定部位に装着されるカフと、カフ内の圧力を表わすカフ圧を検出するための圧力検出手段と、カフに設けられ、且つカフ圧を加える過程で測定部位の動脈の容積を示す動脈容積信号を検出するための容積検出手段と、カフ圧を加圧および減圧により調整するためのカフ圧調整手段と、制御手段と、を備える。
【0012】
制御手段は、カフ圧調整手段を制御して、カフ圧を、特定の圧力値を表わす初期カフ圧に設定するための第1の制御手段と、カフ圧を初期カフ圧に設定した後に、動脈の容積が一定となるように、カフ圧調整手段を、サーボゲインを用いてサーボ制御するためのサーボ制御手段と、サーボ制御手段によるサーボ制御が行なわれている際に、脈波一拍毎に、容積検出手段により検出される動脈容積信号が指す動脈容積とサーボ制御の目標値との差に応じた量を用いて、サーボゲインを更新するサーボゲイン決定手段と、を含む。
【0013】
そして、カフ圧を初期カフ圧に設定したときに検出される動脈容積信号の振幅は最大であり、目標値は、動脈容積信号について最大の振幅が検出されたときの動脈容積を指す。
【0014】
好ましくは、サーボゲイン決定手段は、サーボ制御手段によるサーボ制御が行なわれている際に、脈波一拍毎に、容積検出手段により検出される動脈容積信号の振幅と、カフ圧を初期カフ圧に設定したときに検出された動脈容積信号の振幅と、の比を検出する振幅比検出手段を、有する。そして、振幅比検出手段により検出された比に基づきサーボゲインの増加量を決定し、決定した増加量を用いて現在のサーボゲインの値を更新する。
【0015】
好ましくは、サーボゲインの値を更新しながらサーボ制御する過程において、容積検出手段により検出される動脈の容積の変化量が最小値に収束したときに、圧力検出手段により検出されるカフ圧を血圧として検出する。
【0016】
好ましくは、振幅比検出手段により検出される比が、所定値よりも小さくなることを検出したとき、動脈の容積の変化の量が最小値に収束したことを検出する。
【0017】
好ましくは、サーボゲイン決定手段は、サーボ制御手段による制御が行なわれている際に、容積検出手段により検出される動脈容積信号が示す動脈容積と、動脈容積信号について最大の振幅が検出されたときの動脈容積との差分を、脈波1拍分について積分した積分値を検出し、検出される積分値と、カフ圧を初期カフ圧に設定したときに検出された積分値と、の比を検出する積分比検出手段と、積分比検出手段により検出された比に基づきサーボゲインの増加量を決定し、決定した増加量を用いて現在のサーボゲインの値を更新する。
【0018】
好ましくは、サーボゲインの値を更新しながらサーボ制御する過程において、容積検出手段により検出される動脈の容積の変化量が最小値に収束したときに、圧力検出手段により検出されるカフ圧を血圧として検出する。
【0019】
好ましくは、積分比検出手段により検出される比が、所定値よりも小さくなることを検出したとき、動脈の容積の変化の量が最小値に収束したことを検出する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、容積補償法による電子血圧計の構成におけるサーボゲイン調整処理において、サーボ制御による脈波一拍毎の制御誤差の大きさに応じた量を用いて、すなわち、脈波一拍毎に、容積検出手段により検出される動脈容積信号が指す動脈容積とサーボ制御の目標値との差に応じた量を用いて、サーボゲインを更新する。
【0021】
これにより、サーボゲインを増加させるなどの更新の速度を制御誤差の大きさに応じて変更するとしたので、制御の安定性を保ちながらサーボゲイン調整に掛かる時間を短縮できる。その結果、容積補償法に従う血圧測定のためのサーボゲインを速やかに決定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は同一または相当部分を指し、その説明は繰返さない。
【0023】
発明者らは、容積補償法において、動脈の無負荷状態を維持するためのサーボ制御に係るサーボゲインの決定について次のような知見を得た。
【0024】
サーボゲインを増加していくにつれて、動脈容積変化信号の振幅は次第に小さくなり振幅は最小値に収束していく。つまり、サーボ制御により、サーボゲインを増加させていく過程において、カフ圧信号から検出される脈動の大きさも収束し、動脈の容積の変化の量が最小値に収束する。それ以上にサーボゲインを増加すると、制御系が不安定になるため、制御信号において不要な高周波成分の振動が生じる。さらにサーボゲインを増加すると、制御信号において異常発振が生じて制御不能になるという性質がある。そこで、発明者らは、この性質を利用して、サーボゲインを増加させながらサーボ制御を行う過程で動脈容積変化信号の振幅が最小となる点を検出することにより、個人毎に動脈の無負荷状態を維持するための最適なサーボゲインを決定できるとの知見を得た。
【0025】
以下に、各実施の形態に係る容積補償法を用いて血圧を測定する電子血圧計を説明する。
【0026】
本実施の形態に係る電子血圧計は、容積補償法により連続的に血圧を測定する。電子血圧計は、生体外から動脈に外圧を加え、生体外圧と動脈内圧すなわち血圧とが常時平衡するように、決定した最適なサーボゲインを用いてサーボ制御する。つまり、電子血圧計は、動脈壁が無負荷状態に維持されるようにカフ圧を微調整し、そのとき(無負荷状態)の生体外圧を測定することにより連続的に血圧を測定する。
【0027】
図1は、本発明の実施の形態に係る電子血圧計1の外観斜視図である。
図1を参照して、電子血圧計1は、本体部10と、被測定者の四肢に巻き付け可能なカフ20とを備える。本体部10はカフ20に取り付けられている。本体部10の表面には、たとえば液晶等により構成される表示部40と、ユーザ(被測定者)からの指示を受付けるための操作部41とが配置されている。操作部41は、複数のスイッチを含む。
【0028】
本実施の形態において、「四肢」とは、上肢および下肢のうち、それぞれの指を除く部位を表わす。つまり、四肢は、手首から腕の付け根までの部位と、足首から足の付け根までの部位とを含む。以下の説明においては、カフ20は、被測定者の手首に装着されるものとする。
【0029】
なお、本実施の形態における電子血圧計1は、図1に示されるように、本体部10がカフ20に取り付けられた形態を例に説明するが、上腕式の血圧計で採用されているような、本体部10とカフ20とがエアチューブ(後述の図3においてエアチューブ31)によって接続される形態のものであってもよい。
【0030】
図2は、本発明の実施の形態に係る電子血圧計1における血圧測定のためのカフ圧を制御する概念を表わした図である。図2には、カフ20が、被測定者の手首200に装着された様子が示される。
【0031】
図2を参照して、本体部10には、ポンプ51および排気弁(以下、単に「弁」という)52を含むカフ圧の調整機構が配置される。
【0032】
ポンプ51、弁52、および空気袋21内の圧力(カフ圧)を検出するための圧力センサ32からなるエア系30は、エアチューブ31を介して、カフ20に内包される空気袋21と接続される。このように、エア系30が本体部10に設けられるため、カフ20の厚みを薄く保つことができる。
【0033】
空気袋21の内側には発光素子71と受光素子72とが所定の間隔に配置される。本実施の形態では、カフ20の装着状態における手首の周に沿って発光素子71と受光素子72とが並べられるが、このような配置例に限定されるものではない。
【0034】
図3は、本発明の実施の形態に係る電子血圧計1のハードウェア構成を表わすブロック図である。
【0035】
図3を参照して、電子血圧計1のカフ20は、空気袋21と、動脈容積センサ70とを含む。動脈容積センサ70は、上述した発光素子71と受光素子72とを有する。発光素子71は、動脈に対して光を照射し、受光素子72は、発光素子71によって照射された光の動脈の透過光または反射光を受光する。
【0036】
なお、動脈容積センサ70は、動脈の容積が検出できるものであればよく、インピーダンスにより動脈の容積を検出するものであってもよい。その場合、発光素子71および受光素子72に代えて、動脈を含む部位のインピーダンスを検出するための複数の電極が含まれる。
【0037】
本体部10は、上述の表示部40および操作部41に加え、各部を集中的に制御し、各種の演算処理を行なうためのCPU(Central Processing Unit)100と、CPU100に所定の動作をさせるプログラムや各種データを記憶するためのメモリ部42と、測定された血圧データを後述の図8に従い記憶するための不揮発性メモリ(たとえばフラッシュメモリ)43と、CPU100を介し各部に電力を供給するための電源44、および現在時間を計時して計時データをCPU100に出力するタイマ45とを含む。操作部41は、電源をONまたはOFFするための指示の入力を受付ける電源スイッチ41Aと、測定開始の指示を受付けるための測定スイッチ41Bと、測定停止の指示を受付けるための停止スイッチ41Cと、不揮発性メモリ43に記録された血圧などの情報を読出す指示を受付けるためのメモリスイッチ41Dと、被測定者を識別するためのID(Identifier)情報を入力するために操作されるIDスイッチ41Eを有する。
【0038】
本体部10は、さらに、上述したエア系30と、カフ圧の調整機構50と、発振回路33と、発光素子駆動回路73と、動脈容積検出回路74とを含む。
【0039】
調整機構50は、ポンプ51および弁52の他、ポンプ駆動回路53と弁駆動回路54とを有する。
【0040】
ポンプ51は、カフ圧を加圧するために、空気袋21に空気を供給する。弁52は、空気袋21の空気を排出しまたは封入するために開閉される。ポンプ駆動回路53は、ポンプ51の駆動をCPU100から与えられる制御信号に基づいて制御する。弁駆動回路54は弁52の開閉制御をCPU100から与えられる制御信号に基づいて行なう。
【0041】
発光素子駆動回路73は、CPU100からの指令信号に応じて、発光素子71を所定のタイミングで発光させる。動脈容積検出回路74は、受光素子72からの信号に基づき、動脈容積を検出する。
【0042】
圧力センサ32は、静電容量型の圧力センサでありカフ圧により容量値が変化する。発振回路33は、圧力センサ32の容量値に応じた発振周波数の信号をCPU100に出力する。CPU100は、発振回路33から得られる信号を圧力に変換し圧力を検知する。
【0043】
図5は、本発明の実施の形態に係る電子血圧計1の機能構成を示す機能ブロック図である。
【0044】
図5を参照して、CPU100は、カフ圧を初期カフ圧にセットするための制御を行なう駆動制御部101と、血圧を連続的に測定するためのフィードバック制御を行なうサーボ制御部106と、血圧決定部108と、サーボゲインを決定するためのサーボゲイン決定部109とを含む。なお、図5には、説明を簡単にするために、CPU100の有するこれら各部との間で直接的に信号を授受する周辺のハードウェアのみ示されている。
【0045】
駆動制御部101は、サーボ制御のための制御目標値を検出するための制御目標値検出部102と、カフ圧を設定するためのカフ圧設定部104とを含む。
【0046】
制御目標値検出部102は、カフ圧を所定値(たとえば200mmHg)まで加圧させる過程において、初期カフ圧を導出する処理を行なう。制御目標値検出部102は、ポンプ駆動回路53にポンプ51を駆動させるとともに、発光素子駆動回路73に発光素子71を駆動させる。ポンプ51が駆動されることで、カフ圧が徐々に上昇する。発光素子71の駆動により、受光素子72が受付けた信号が、動脈容積検出回路74に出力される。制御目標値検出部102は、動脈容積検出回路74から出力される動脈容積信号の1拍毎の変化(振幅)を表わす動脈容積変化信号を入力する。
【0047】
制御目標値検出部102は、カフ圧が所定値となるまでポンプ駆動回路53の駆動を制御する。カフ圧が所定値に達するまでの間、動脈容積変化信号の(仮の)最大値を検出するとともに、発振回路33からの信号を入力し、入力した信号を圧力値に変換する。そして、検出された仮の最大値とその時点におけるカフ圧とを、不揮発性メモリ43の所定の領域に記録する。仮の最大値とカフ圧とは、記録された(仮の)最大値が更新されるたびに上書き記録されてよい。
【0048】
最終的に、動脈容積変化信号の最大値として記録された値は、サーボ制御の際の制御目標値として確定される。また、動脈容積変化信号が最大値のときのカフ圧(サーボ制御の際の基準カフ圧)は、初期カフ圧として確定される。
【0049】
制御目標値検出部102は、カフ圧が所定値となったことを検知すると、ポンプ駆動回路53の駆動を停止する。そして、確定された初期カフ圧および制御目標値をカフ圧設定部104に出力する。
【0050】
なお、カフ圧を所定値から減圧させる過程において、初期カフ圧としての基準カフ圧が導出されてもよい。
【0051】
カフ圧設定部104は、発振回路33からの信号を入力し、カフ圧が初期カフ圧となるまで弁駆動回路54を駆動する。これにより、弁52が空気を排出し、カフ圧が所定値のカフ圧から初期カフ圧まで減少される。
【0052】
サーボ制御部106は、発光素子駆動回路73を駆動する。そして、動脈容積検出回路74からの信号に基づいて、動脈の容積が一定となるようにポンプ駆動回路53または弁駆動回路54を制御する。
【0053】
より具体的には、サーボ制御部106は、動脈容積検出回路74から受付けた動脈容積信号と制御目標値との差が最小となるように(好ましくはゼロになるように)、サーボゲインに従う制御量に基づきポンプ駆動回路53または弁駆動回路54を制御する。つまり、ポンプ駆動回路53または弁駆動回路54は、動脈容積変化信号の値(振幅)が所定の閾値以下となるようにポンプ51の動作または弁52の開閉を制御する。
【0054】
血圧決定部108は、サーボ制御部106による制御が行なわれている際に、発振回路33から入力する信号(「圧力検出信号」という)を連続的に(定期的に)受付けて、圧力検出信号に応じたカフ圧を、血圧として決定するための処理を行なう。
【0055】
より具体的には、血圧決定部108は、動脈容積信号の値と制御目標値との差が、所定の閾値以下であるか否かを検出する。そうである場合にのみ、そのときのカフ圧を血圧として決定する。決定された血圧は、不揮発性メモリ43に時系列に格納される。
【0056】
サーボゲイン決定部109は、最適なサーボゲインを決定するために、図6に示すように振幅値算出部110と、容積変化消去率算部111およびゲイン増加量決定部112を含む。これらの各部の機能は後述する。
【0057】
なお、CPU100に含まれる各機能ブロックの動作は、メモリ部42中に格納されたソフトウェアを実行することで実現されてもよいし、これらの機能ブロックのうち少なくとも1つについては、ハードウェアで実現されてもよい。
【0058】
あるいは、ハードウェア(回路)として記載したブロックのうち少なくとも1つについては、CPU100がメモリ部42中に格納されたソフトウェアを実行することで実現されてもよい。
【0059】
次に、本実施の形態における電子血圧計1の動作について説明する。
図7は、本発明の実施の形態における血圧測定処理を示すフローチャートである。図7のフローチャートに示す処理は、予めプログラムとしてメモリ部42に格納されており、CPU100がこのプログラムを読み出して実行することにより、血圧測定処理の機能が実現される。なお、被測定者は、血圧測定をするときには、電子血圧計1のカフ20を図3に示すように測定部位である手首に装着していると想定する。
【0060】
図7を参照して、CPU100は、電源スイッチ41Aが操作(たとえば押下)されたか否かを検出する(ステップS2)。電源スイッチ41Aが操作されたと検出した場合(ステップS2においてYES)、ステップS4に進む。
【0061】
ステップS4において、CPU100は、初期化処理を行なう。具体的には、メモリ部42の所定の領域を初期化し、空気袋21の空気を排気し、圧力センサ32の補正を行なう。また、このとき、サーボ制御のためのサーボゲインが決定されたか否かを指示するためのフラグFLの値が初期化される。たとえば、フラグFLの値は0に更新される。フラグFLは、当該フローチャートのために準備される一時変数であり、CPU100の図示のない内部メモリの所定記憶領域を指している。
【0062】
初期化が終わると、CPU100は、測定スイッチ41Bが操作(たとえば押下)されたか否かを検出する(ステップS6)。測定スイッチ41Bが操作されるまで待機する。測定スイッチ41Bが押下されたと検出すると(ステップS6においてYES)、ステップS8に進む。
【0063】
ステップS8において、制御目標値検出部102は、初期カフ圧および制御目標値の検出の処理を実行する。初期カフ圧および制御目標値の検出は以下のように行う。
【0064】
カフ圧を徐々に増加させながら、その時の動脈容積信号(容積脈波信号の直流成分)PGdcと動脈容積変化信号(容積脈波信号の交流成分)PGacを検出する。これら信号は、動脈容積検出回路74により検出される。つまり、動脈容積検出回路74は図示のないHPF(High Pass Filter)回路を有している。
【0065】
動作において、動脈容積センサ70から動脈の容積の変化を指す容積脈波信号を入力すると、その入力信号をHPF回路により、容積脈波信号の直流成分の動脈容積信号PGdcと交流成分の動脈容積変化信号PGacに分離して出力する。たとえば、フィルタ定数を1Hzとして、1Hz以下の信号は直流成分として導出されて、1Hzを超える信号は交流成分として導出される。制御目標値検出部102は、動脈容積信号PGdcと動脈容積変化信号PGacを入力する。
【0066】
制御目標値検出部102は、現在検出される動脈容積変化信号PGacの値が最大であるかを検出し、その時に検出される動脈容積信号PGacの値と動脈容積信号PGdcの値とカフ圧とを関連付けて所定のメモリ領域に格納する。カフ圧が所定の圧力に達するまでこの動作を繰り返す。この所定の圧力は、不揮発性メモリ43から読出されるカフ圧データPC1(たとえば200mmHg)により指示される。
【0067】
カフ圧が所定の圧力に達したことを検出したときに所定のメモリ領域に格納されている動脈容積変化信号PGacの値うちの最大値に関連付けられる動脈容積信号PGdcの値を制御目標値とし、関連して格納されていたカフ圧を制御初期カフ圧として確定する。これにより、制御目標帯と初期カフ圧が検出される。
【0068】
このような、制御目標値と初期カフ圧の検出について、図8および図9を用いて詳細に説明する。
【0069】
図8は、本発明の実施の形態における制御目標値と初期カフ圧検出処理を示すフローチャートである。図9は、本発明の実施の形態の血圧測定処理を説明するための図である。図9の上段には、圧力センサ32によって検出されるカフ圧Pcを示す信号がタイマ45が計時する時間軸に沿って示される。図9の中段と下段には、同一の時間軸に沿った動脈容積変化信号PGacと動脈容積信号PGdcが示される。
【0070】
図8の手順を、図9を参照しながら説明する。図8を参照して、制御目標値検出部102は、メモリ部42の所定の領域に記憶される、動脈容積変化信号PGacの最大値およびカフ圧値を初期化する(ステップS102)。この時点で図9のtime=0に相当する。なお、以下の処理において動脈容積変化信号PGacの最大値は随時更新されるものであるので、最終的に最大値として確定するまでの値を「容積仮最大値」というものとする。
【0071】
次に、ポンプ駆動回路53を制御して、カフ圧を加圧する(ステップS104)。
カフ圧を加圧する段階において、制御目標値検出部102は、動脈容積検出回路74から、動脈容積信号PGdcと動脈容積変化信号PGacを入力する(ステップS106)。
【0072】
制御目標値検出部102は、動脈容積変化信号PGacの値と、メモリ部42から読出した容積仮最大動脈容積変化信号PGacの値とを比較し、比較結果に基づき、動脈容積変化信号PGacの値が容積仮最大値以上であるか否かを検出する(ステップS108)。動脈容積変化信号PGacの値が容積仮最大値以上であると検出された場合(ステップS108においてYES)、ステップS110に進む。一方、動脈容積変化信号PGacの値が容積仮最大値未満であると検出された場合(ステップS108においてNO)、ステップS112に進む。
【0073】
ステップS110において、制御目標値検出部102は、動脈容積変化信号PGacの値を用いてメモリ部42の容積仮最大値を更新するとともに、メモリ部42の容積仮最大値に関連付けられているカフ圧を、その時点で検出されたカフ圧Pcにより上書きする。この処理が終わると、処理はステップS112に移される。
【0074】
ステップS112において、制御目標値検出部102は、検出するカフ圧Pcが所定値PC1のカフ圧以上を指示するか否かを検出する。カフ圧Pcが所定値PC1のカフ圧以上を指示しないと検出した場合(ステップS112においてNO)、ステップS104に戻る。一方、カフ圧Pcが所定値PC1のカフ圧以上を指示すると検出した場合(ステップS112においてYES)、ステップS114に進む。このようなステップS104〜S112のループ処理は、図9の時刻T0に至る期間において行なわれる。
【0075】
ステップS114において、制御目標値検出部102は、ステップS110において最終的に記録された容積仮最大値を最大値として確定するとともに、最大値が検出された時刻T0において検出されたカフ圧Pcの値を、初期カフ圧(図9の符号MBPが指すカフ圧)として確定する。制御目標値検出部102は、さらに、時刻T0において動脈容積変化信号PGacに関連付けされて格納されていた動脈容積信号PGdcの値を制御目標値V0として確定する。このような制御目標値V0の検出の手順は特許文献1に従うものである。
【0076】
ステップS114の処理が終わると、処理はメインルーチンに戻される。
再び図7を参照して、上述のような制御目標値と初期カフ圧の検出処理が終了すると、カフ圧設定部104は、弁駆動回路54を制御して、カフ圧Pcを初期カフ圧に設定する(ステップS10)。図9を参照して、カフ圧設定部104は、カフ圧Pcが初期カフ圧に設定された時刻T1で、弁駆動回路54を停止させる。
【0077】
このようにカフ圧が初期カフ圧に設定されると、動脈容積変化信号PGacが示す振幅は最大となる。
【0078】
カフ圧が初期カフ圧に設定されると、サーボ制御のための最適なサーボゲインが決定されるまでの期間は(ステップS12でNO)、すなわち図9の時刻T1〜T2の期間では、サーボゲイン決定部109によるサーボゲイン決定処理(ステップS26)が行なわれる。ステップS12における最適なサーボゲインが決定済みであるか否かの検出は、フラグFLの値に従い行なわれる。具体的には、フラグFLの値が1を指示すると検出すると、最適なサーボゲインが決定済みである(ステップS12でYES)と検出し、そうでないと(ステップS12でNO)、未決定であると検出し、サーボゲイン決定処理(ステップS26)に移行する。サーボゲイン決定の手順については後述する。
【0079】
最適なサーボゲインが決定済みの場合には(ステップS12でYES)、決定した最適サーボゲインを用いたサーボ制御部106によるサーボ制御によって動脈容積一定制御が実行される(ステップS14)。具体的には、サーボ制御部106は、動脈容積信号PGdcおよび動脈容積変化信号PGacを動脈容積検出回路74から入力するとともに、ポンプ駆動回路53および弁駆動回路54に、サーボゲインに従い決定した制御量に基づく制御信号を出力する。これにより、ポンプ51および弁52は、検出される動脈容積信号PGdcの値と制御目標値V0との差が最小となるように駆動される。
【0080】
ポンプ51および弁52の制御信号は、具体的には動脈容積信号PGdcの値と制御目標値V0との差分にサーボゲインを掛け合わせた値から算出される。サーボゲインを大きくすれば、サーボ制御によってカフ圧が示す脈動が大きくなる。すなわち、本実施の形態において、サーボゲインとはサーボ制御によるカフ圧の脈動の大きさを決定する係数を指す。
【0081】
図9の例では、時刻T1からT2までの期間において最適なサーボゲインの決定処理が行われ、時刻T2から動脈容積一定制御(サーボ制御)が開始されたことが示される。
【0082】
このような動脈容積一定制御に並行して、血圧決定部108は、血圧算出および血圧決定の処理(ステップS16とS18)を実行する。具体的には、動脈容積一定制御を行っている間において検出されるカフ圧Pcを血圧として決定する(ステップS18)。
【0083】
決定した血圧のデータは不揮発性メモリ43に格納される(ステップS20)。ステップS20の処理が終わると、処理はステップS22に移行する。
【0084】
図9に示される時刻T2以降は、決定したサーボゲインを用いたサーボ制御により動脈容積と制御目標値V0との差はゼロに近い。すなわち、サーボ制御部106により動脈は無負荷状態に維持される。したがって、時刻T2以降において検出されるカフ圧Pcが血圧として決定される。つまり、血圧決定部108は、動脈壁が無負荷状態に維持されている期間において、カフ圧Pc(外圧)が指す信号の1拍毎の振幅の最大値と最小値を当該信号の波形を微分処理などすることにより検出して、検出した最大値は最高血圧(収縮期血圧)に、最小値は最低血圧(拡張期血圧)に相当するとして算出する。
【0085】
続いて、ステップS22において、CPU100は、停止スイッチ41Cが操作(たとえば押下)されたか否かを検出する。停止スイッチ41Cが操作されていないと検出した場合(ステップS22においてNO)、処理はステップS12に戻る。停止スイッチ41Cが操作されたと検出した場合(ステップS22においてYES)、不揮発性メモリ43から測定された血圧データを読出し表示部40に表示する(ステップS24)。これにより、一連の血圧測定処理は終了する。
【0086】
本実施の形態では、停止スイッチ41Cの操作が検知された場合に、血圧測定処理を終了することとしたが、動脈容積一定制御が開始されてから、タイマ45によって所定時間経過したと検出された場合に、終了することとしてもよい。
【0087】
本実施の形態では、血圧測定を迅速に開始するために、サーボゲイン決定処理(ステップS26)が行なわれる。サーボゲイン決定処理において、サーボゲインの増加速度(単位時間当たりの増加量)を適切に設定し、サーボゲイン決定に掛かる時間を短縮する必要がある。時間短縮のためには速く増加させることが望ましい。しかし、増加速度が大きすぎると、制御限界点(すなわち最適サーボゲイン)の検出が困難となり、また必要以上にサーボゲイン値が大きくなるので制御信号において異常発振が生じてサーボ制御が不能となる。そのためサーボゲインの増加速度を適切に設定する必要がある。適切な増加速度は、検出される動脈容積変化信号PGacの値またはサーボ制御を行ったときの動脈容積変化信号PGacの値の減少量などにより影響され、一概には決定できない。
【0088】
そこで、本実施の形態では、図10のフローチャートに従い、制御誤差に着目してサーボゲインの増加速度を調整する。ここで、制御誤差とは、制御目標値V0と検出される動脈容積信号PGdcの値との差分を指す。図10のサーボゲイン決定処理においては、サーボゲインが小さく制御誤差が大きいときは、サーボゲインの増加速度を大きくして速やかにサーボゲインを増大させて、また、サーボゲインが大きくなり制御誤差が小さくなるに従いサーボゲインの増加速度を小さくする。これにより、制御の安定性を保ちながら最適サーボゲインの決定に掛かる時間を短縮するものである
図10のサーボゲイン決定処理では、サーボゲインを、制御誤差に応じて増加させていく過程において、容積変化消去率が、予め定められた容積変化消去率目標値(以下、消去率目標値という)未満を指示すると検出したときに得られているサーボゲインを、容積補償法に従う血圧測定のための最適なサーボゲインと決定する。したがって、本実施の形態によれば、従来のようにサーボゲインを一定値で増加させることにより最適サーボゲインを検出する構成に比較して、速やかに最適サーボゲインを決定することができる。
【0089】
図10を参照して本実施の形態に係るサーボゲイン決定処理を説明する。なお、サーボゲインは、上述の異常発振を回避可能なように、予め小さい値に設定されていると想定する。
【0090】
動作において、まず、振幅値算出部110は、検出される動脈容積変化信号PGacに基づき一拍毎の振幅値を算出する(ステップST3)。
【0091】
次に、容積変化消去率算部111は、動脈容積変化信号PGacの1拍毎に、この時点の容積変化消去率(現在の動脈容積変化信号PGacの振幅値/カフ圧を初期カフ圧に設定したときに検出された動脈容積変化信号PGacの振幅値)を算出し、不揮発性メモリ43に格納する(ステップST5)。現在の動脈容積変化信号PGacの振幅値は、ステップST3によって算出された値である。また、カフ圧を初期カフ圧に設定したときに検出された動脈容積変化信号PGacの振幅値は、CPU100の内部メモリに格納されていると想定する。
【0092】
次に、サーボゲイン増加量算出部112は、不揮発性メモリ43から読出した容積変化消去率に所定係数を乗じた結果の値を、サーボゲインの増加量(以下、サーボゲイン増加量という)として算出する(ステップST7)。算出されたサーボゲイン増加量のデータは不揮発性メモリ43に格納される。
【0093】
サーボ制御部106は、現在のサーボゲインを、不揮発性メモリ43から読出したサーボゲイン増加量を加算することにより更新する(ステップST9)。これにより、サーボゲインを容積変化消去率の値の大きさに従い増加させることができる。
【0094】
続いて、サーボ制御部106は、この更新後のサーボゲインを用いて、動脈容積信号PGdcの値と制御目標値V0との差が最小となるように、サーボ制御を行う(ステップST11)。サーボ制御が行なわれている間において、振幅値算出部110は、検出される動脈容積変化信号PGacに基づき一拍毎の振幅値を算出し、容積変化消去率算部111は、この算出された振幅値を用いて上述のように容積変化消去率を算出する。
【0095】
続いて、サーボゲイン決定部109は、ステップST13において算出された容積変化消去率と容積変化消去率の目標値TH1とを比較し、比較結果に基づき、算出された容積変化消去率が目標値TH1よりも小さいことを連続して検出すると(ステップST41でNO)、動脈容積変化信号PGacが最小の値に収束したと検出し、血圧算出処理で使用するべきサーボゲインを、この時点のサーボゲインに決定する(ステップST43)。決定したサーボゲインは、不揮発性メモリ43に格納される。サーボ制御部106は、不揮発性メモリ43から当該サーボゲインを読出し、読出したサーボゲインに基づき血圧算出処理におけるサーボ制御を行う。
【0096】
そして、サーボゲイン決定部109は、血圧測定のためのサーボゲインが決定済みであることを指示するためにフラグFLに1を設定する(ステップST45)。
【0097】
以上の手順により、本実施の形態に係るサーボゲイン決定(ステップS26)の処理は終了する。
【0098】
上述の閾値TH1は、多数の被験者からサンプリングして予め決定しておいた値である。
【0099】
このように、サーボ制御部106により、サーボゲインを、検出される容積変化消去率の値に従う量だけ増加させながらサーボ制御が行われる過程において、心拍に同期して示す容積変化消去率が閾値TH1に収束したとき、動脈容積の変化量が最小値に収束したことを検出できる。
【0100】
図11には、サーボゲイン決定処理の開始から動脈容積変化信号PGacの振幅が収束するまでの期間における、動脈容積変化信号PGacの変化とサーボゲインの変化とが同一時間軸に従い模式的に示される。図11は図9の時刻T1〜T2の期間におけるサーボゲインの増加速度と動脈容積変化信号PGacの振幅値の関係を模式的に示すものであり、縦軸のスケールは図9のそれとは異なっている。
【0101】
ここでは、サーボゲインの変化をわかり易く示すために、サーボゲイン決定処理を開始する時点のサーボゲインは0であると想定している。図示されるように、容積変化消去率が比較的に大きい処理開始時には、サーボゲインの増加速度は速いが、その後のサーボ制御の期間は、動脈容積変化信号PGacの振幅値が次第に収束しつつあるので容積変化消去率も次第に小さくなる。したがって、このサーボ制御の期間ではサーボゲインの増加速度は次第に遅くなる。
【0102】
(サーボゲイン増加量の他の算出手順)
上述のステップST7におけるサーボゲイン増加量を算出する手順は、上述したものに限定されず、次のように算出してもよい。つまり、ゲイン決定部109は動脈容積変化信号PGacの振幅値のかわりに、ゲイン決定部109が有する図示のない積分値算出部が算出する、一拍毎の制御誤差信号Errを使用してもよい。ここで、制御誤差信号Errは、制御目標値V0と動脈容積信号PGdcの値との差分を2乗したもの、もしくは差分の絶対値を、脈波一拍分について積分した値として算出される。この場合には、ゲイン決定部109が有する図示のない積分比検出手段は、容積変化消去率として、(現在の制御誤差信号Errの値/カフ圧を初期カフ圧に設定したときに検出された制御誤差信号Errの値)との値を算出する。ゲイン決定部109は、この算出された容積変化消去率が閾値TH1以下となったとき、動脈容積の変化量が収束したことを検出できる。
【0103】
ここで、以上の血圧測定処理により不揮発性メモリ43に格納される各測定データのデータ構造について説明する。
【0104】
図4は、本発明の実施の形態の不揮発性メモリ43に格納される測定データのデータ構造を示す図である。
【0105】
図4を参照して、不揮発性メモリ43は領域E1、作業領域E2および測定データの格納領域E3を含む。領域E1には、制御目標値および初期カフ圧検出のために参照されるカフ圧データPC1と、サーボゲイン決定のために参照される閾値TH1が格納される。
【0106】
領域E3には、複数の測定データ80が格納される。測定データ80の各々は、一例として、「ID情報」のフィールド81と、測定情報のフィールド83とを含む。フィールド81には、血圧測定時のIDスイッチ41Eの操作により入力したID情報が格納される。フィールド83には、測定データの測定開始日時や測定期間などのタイマ45により計時されたデータ831および測定された血圧のデータ832が関連付けて格納される。
【0107】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の実施の形態に係る電子血圧計の外観斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る電子血圧計における血圧測定のためのカフ圧を制御する概念を表わした図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る電子血圧計のハードウェア構成を表わすブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る測定データの格納例を説明する図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る電子血圧計の機能構成を示す機能ブロック図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るサーボゲイン決定部の機能構成を示す機能ブロック図である。
【図7】本発明の実施の形態における血圧測定処理を示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態における制御目標値と初期カフ圧検出処理を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態の血圧測定処理を説明するための図である。
【図10】本発明の実施の形態に係るサーボゲイン決定処理のフローチャートである。
【図11】本発明の実施の形態に係るサーボゲイン増加速度を説明する図である。
【符号の説明】
【0109】
1 電子血圧計、102 制御目標値検出部、104 カフ圧設定部、106 サーボ制御部、108 血圧決定部、109 ゲイン決定部、110 振幅値算出部、111 容積変化消去率算出部、112 ゲイン増加量算出部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容積補償法に従い血圧を測定するための電子血圧計であって、
血圧の測定部位に装着されるカフと、
前記カフ内の圧力を表わすカフ圧を検出するための圧力検出手段と、
前記カフに設けられ、且つ前記カフ圧を加える過程で前記測定部位の動脈の容積を示す動脈容積信号を検出するための容積検出手段と、
カフ圧を加圧および減圧により調整するためのカフ圧調整手段と、
制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記カフ圧調整手段を制御して、カフ圧を、特定の圧力値を表わす初期カフ圧に設定するための第1の制御手段と、
カフ圧を前記初期カフ圧に設定した後に、前記動脈の容積が一定となるように、前記カフ圧調整手段を、サーボゲインを用いてサーボ制御するためのサーボ制御手段と、
前記サーボ制御手段によるサーボ制御が行なわれている際に、脈波一拍毎に、前記容積検出手段により検出される前記動脈容積信号が指す動脈容積とサーボ制御の目標値との差に応じた量を用いて、前記サーボゲインを更新するサーボゲイン決定手段と、を含み、
カフ圧を前記初期カフ圧に設定したときに検出される前記動脈容積信号の振幅は最大であり、
前記目標値は、前記動脈容積信号について最大の振幅が検出されたときの動脈容積を指す、電子血圧計。
【請求項2】
前記サーボゲイン決定手段は、
前記サーボ制御手段によるサーボ制御が行なわれている際に、脈波一拍毎に、前記容積検出手段により検出される前記動脈容積信号の振幅と、前記カフ圧を前記初期カフ圧に設定したときに検出された前記動脈容積信号の振幅と、の比を検出する振幅比検出手段を、有し、
前記振幅比検出手段により検出された前記比に基づき前記サーボゲインの増加量を決定し、決定した前記増加量を用いて現在の前記サーボゲインの値を更新する、請求項1に記載の電子血圧計。
【請求項3】
前記サーボゲインの値を更新しながらサーボ制御する過程において、前記容積検出手段により検出される前記動脈の容積の変化量が最小値に収束したときに、前記圧力検出手段により検出される前記カフ圧を血圧として検出する、請求項1または2に記載の電子血圧計。
【請求項4】
前記振幅比検出手段により検出される前記比が、所定値よりも小さくなることを検出したとき、前記動脈の容積の変化の量が最小値に収束したことを検出する、請求項3に記載の電子血圧計。
【請求項5】
前記サーボゲイン決定手段は、
前記サーボ制御手段による制御が行なわれている際に、前記容積検出手段により検出される前記動脈容積信号が示す動脈容積と、前記動脈容積信号について最大の振幅が検出されたときの動脈容積との差分を、脈波1拍分について積分した積分値を検出し、検出される前記積分値と、前記カフ圧を前記初期カフ圧に設定したときに検出された前記積分値と、の比を検出する積分比検出手段と、
前記積分比検出手段により検出された前記比に基づき前記サーボゲインの増加量を決定し、決定した前記増加量を用いて現在の前記サーボゲインの値を更新する、請求項1に記載の電子血圧計。
【請求項6】
前記サーボゲインの値を更新しながらサーボ制御する過程において、前記容積検出手段により検出される前記動脈の容積の変化量が最小値に収束したときに、前記圧力検出手段により検出される前記カフ圧を血圧として検出する、請求項5に記載の電子血圧計。
【請求項7】
前記積分比検出手段により検出される前記比が、所定値よりも小さくなることを検出したとき、前記動脈の容積の変化の量が最小値に収束したことを検出する、請求項6に記載の電子血圧計。
【請求項1】
容積補償法に従い血圧を測定するための電子血圧計であって、
血圧の測定部位に装着されるカフと、
前記カフ内の圧力を表わすカフ圧を検出するための圧力検出手段と、
前記カフに設けられ、且つ前記カフ圧を加える過程で前記測定部位の動脈の容積を示す動脈容積信号を検出するための容積検出手段と、
カフ圧を加圧および減圧により調整するためのカフ圧調整手段と、
制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記カフ圧調整手段を制御して、カフ圧を、特定の圧力値を表わす初期カフ圧に設定するための第1の制御手段と、
カフ圧を前記初期カフ圧に設定した後に、前記動脈の容積が一定となるように、前記カフ圧調整手段を、サーボゲインを用いてサーボ制御するためのサーボ制御手段と、
前記サーボ制御手段によるサーボ制御が行なわれている際に、脈波一拍毎に、前記容積検出手段により検出される前記動脈容積信号が指す動脈容積とサーボ制御の目標値との差に応じた量を用いて、前記サーボゲインを更新するサーボゲイン決定手段と、を含み、
カフ圧を前記初期カフ圧に設定したときに検出される前記動脈容積信号の振幅は最大であり、
前記目標値は、前記動脈容積信号について最大の振幅が検出されたときの動脈容積を指す、電子血圧計。
【請求項2】
前記サーボゲイン決定手段は、
前記サーボ制御手段によるサーボ制御が行なわれている際に、脈波一拍毎に、前記容積検出手段により検出される前記動脈容積信号の振幅と、前記カフ圧を前記初期カフ圧に設定したときに検出された前記動脈容積信号の振幅と、の比を検出する振幅比検出手段を、有し、
前記振幅比検出手段により検出された前記比に基づき前記サーボゲインの増加量を決定し、決定した前記増加量を用いて現在の前記サーボゲインの値を更新する、請求項1に記載の電子血圧計。
【請求項3】
前記サーボゲインの値を更新しながらサーボ制御する過程において、前記容積検出手段により検出される前記動脈の容積の変化量が最小値に収束したときに、前記圧力検出手段により検出される前記カフ圧を血圧として検出する、請求項1または2に記載の電子血圧計。
【請求項4】
前記振幅比検出手段により検出される前記比が、所定値よりも小さくなることを検出したとき、前記動脈の容積の変化の量が最小値に収束したことを検出する、請求項3に記載の電子血圧計。
【請求項5】
前記サーボゲイン決定手段は、
前記サーボ制御手段による制御が行なわれている際に、前記容積検出手段により検出される前記動脈容積信号が示す動脈容積と、前記動脈容積信号について最大の振幅が検出されたときの動脈容積との差分を、脈波1拍分について積分した積分値を検出し、検出される前記積分値と、前記カフ圧を前記初期カフ圧に設定したときに検出された前記積分値と、の比を検出する積分比検出手段と、
前記積分比検出手段により検出された前記比に基づき前記サーボゲインの増加量を決定し、決定した前記増加量を用いて現在の前記サーボゲインの値を更新する、請求項1に記載の電子血圧計。
【請求項6】
前記サーボゲインの値を更新しながらサーボ制御する過程において、前記容積検出手段により検出される前記動脈の容積の変化量が最小値に収束したときに、前記圧力検出手段により検出される前記カフ圧を血圧として検出する、請求項5に記載の電子血圧計。
【請求項7】
前記積分比検出手段により検出される前記比が、所定値よりも小さくなることを検出したとき、前記動脈の容積の変化の量が最小値に収束したことを検出する、請求項6に記載の電子血圧計。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−285028(P2009−285028A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−139248(P2008−139248)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(503246015)オムロンヘルスケア株式会社 (584)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(503246015)オムロンヘルスケア株式会社 (584)
【Fターム(参考)】
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