説明

電子輸送チタン酸化物層

【課題】有機太陽電池に使用するのに十分な導電性を有し、ポスト処理を必要としない、溶液生まれのETL層に適した、チタン酸化物ゾルゲル層を形成するための、前駆体溶液形成方法を提供する。
【解決手段】以下の工程:a)酸を水と混ぜて、第1混合物を得る工程、b)第1混合物を水混和性アルコールと混ぜて、第2混合物を得る工程、c)一般式N(R)(R)(R)の化合物を第2混合物と混ぜて、第3混合物を得る工程、d)例えば10分から15分のような、第3混合物が室温になるために十分な時間待つ工程、e)チタン酸化物前駆体を第3混合物に加えて、溶液を得る工程、を含むチタン酸化物ゾルゲル層を形成するための前駆体溶液形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機オプトエレクトロニクスの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
有機太陽電池は、一般に、少なくとも、アノード、カソード、およびアノードとカソードとの間の有機活性層を含む。アノードとカソードの少なくとも一方は透明である。有機太陽電池に光が照射された場合、活性層は光の一部を吸収して、活性層中で電子と正孔を形成する。次に、正孔はアノードで集められ、電子はカソードで集められる。もしアノードを電子が通り抜けられた場合、またはもしカソードを正孔が通り抜けられた場合、再結合によりそれらの電荷が失われるため、太陽電池の性能は低下する。それゆえに、正孔のみがアノードを通り抜けられることができ、電子のみがカソードを通り抜けられることが重要である。これを行うために、正孔輸送層HTL(電子ブロック層とも呼ばれる)がアノードと活性層との間に配置され、電子輸送層ETL(正孔ブロック層とも呼ばれる)がカソードと活性層との間に配置される。太陽電池の最終効率は、HTLおよびETLの品質に直接依存する。アノード側では、通常インジウムスズ酸化物(ITO)が、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)と組み合わされて、HTLとして使用される。PEDOT−TPPは、例えばスピンコートまたはスプレーコートにより溶液から処理される。PEDOT:PSSは、高い仕事関数を有し、非常に安定した材料である。ETLにとって、フッ化リチウム(LiF)、イットリウム(Yb)またはサマリウム(Sm)のような蒸着された材料が使用される。それらの材料は低い仕事関数を有し、非常に容易に酸化される。溶液から完全に処理されたデバイスを作製するために、溶液生まれのETLおよびHTLの開発が必要である。溶液生まれのHTLのための溶液は既に存在するため(PEDOT:PSS)、次の工程は、溶液生まれのETLを見出すことである。今までのところ、有機太陽電池で溶液処理されたETLとして使用できる、2つの材料が開発された。多くのグループにより使用される亜鉛酸化物散布(ZnO)と、Nature Photonics, Volume 3 (May 2009) 297-303でAlan Heegerのグループにより表され、追加の情報がそれに添付されたチタン酸化物(TiO)である。全てのそれらのETL層は、熱アニール(例えばZnOナノ粒子のシンタのために250℃まで)、空気中の処理(例えばTiO溶液は、加水分解と液化処理のために空気中に出される)、またはUV照射(UV光下で、酸化物はいくつかの追加の正孔を形成する。正孔濃度の増加は、より高い電子移動度につながり、導電性を増加させる)のようないくつかのポスト処理を、導電性を改良するために必要とする。例えば、Heegerらは、溶液系のチタン酸化物を用いたポリマー太陽電池を、光学スペーサとして記載し、この中では、TiO層は、5mlのチタン(IV)イソプロポキシドを、20mlの2−メトキシエタノールと2mlのエタノールアミンと共に室温での混合を含むゾルゲル手続により得られる。出発材料は、この順番で注入される。1時間、室温で攪拌した後、混合溶液は80℃で1時間加熱され、続いて120℃で更に1時間加熱される。全ての手続の間、混合物はN雰囲気におかれ、溶液は600〜800rpmで連続的に攪拌される。室温への冷却後の最終工程は、メタノール、エタノール、またはイソプロパノールから選択されたアルコール10mlを、混合物に加える工程である。メタノールで200倍に希釈した後、HeegerのTiOゾルゲルが、空気中で、活性層の上にスピンコートされる。サンプルは、続いて80℃で10分間、空気中でアニールされ、その後、アルミニウム電極が堆積される。この熱アニールの手続は、エネルギーが必要な加熱を必要とする。また、堆積された膜の空気中でのアニールは、エネルギーを必要とするのみならず、有機活性層にとって危険である(活性層として使用される有機材料は、空気中で酸化され、全てのそれらのオプトエレクトロニクス特性の損失となる)。それゆえに、空気中の熱ポスト処理は勿論のこと、熱ポスト処理を必要としないETL層を提供するための改良されたプロセスが技術的に必要であり、このプロセスではETL層が溶液で覆われ、溶液は加熱されない。
【発明の概要】
【0003】
本発明の目的は、有機太陽電池に使用するのに十分な導電性を有し、ポスト処理を必要としない、溶液生まれのETL層を提供することである。
【0004】
本発明の具体例の長所は、ETL層が熱アニール工程を必要としないことである。
【0005】
本発明の具体例の長所は、ゾルゲル溶液の加熱と、(空気中での熱アニールは勿論)スピンコート膜の熱アニール工程が、加水分解と液化工程において必要とされないため、効率の良いETLチタン酸化物層が、エネルギー効率の良い方法で得られることである。
【0006】
上記目的は、本発明にかかる方法およびデバイスにより達成される。
【0007】
第1の形態では、本発明は、例えばTiOのようなチタン酸化物のゾルゲル層を形成するための溶液を作製するためのプロセスに関する。このプロセスは、好適には不活性雰囲気で行われる。
【0008】
1つの具体例では、このプロセスは、
酸、
水、
水混和性アルコール、
チタン酸化物前駆体、および
一般式(I)の化合物、
N(R)(R)(R) (I)
の混合物を含む。
【0009】
ここで、Rは、C−C直鎖アルキルグループとC−C分岐アルキルグループとからなるリストから選択される。ここでアルキルグループのいくつかは、任意的に、−NH、−SH、−OH、−NR、−SR’、−OR”からなるリストから選択されるグループYにより置き換えられ、ここで、R、R、R’およびR”は、C−C直鎖アルキルグループとC−C分岐アルキルグループからなるリストから選択される。ここでRおよびRは、H、C−C直鎖アルキルグループ、およびC−C分岐アルキルグループからなるリストから独立して選択される。ここでアルキルグループのいくつかは、任意的に、−NH、−SH、−OH、−NR、−SR’、−OR”からなるリストから選択されるグループYにより置き換えられ、ここで、R、R、R’およびR”は、C−C直鎖アルキルグループとC−C分岐アルキルグループからなるリストから選択される。
【0010】
混合工程は、
a)酸を水と混ぜて、第1混合物を得る工程と、
b)第1混合物を水混和性アルコールと混ぜて、第2混合物を得る工程と、
c)一般式(I)の化合物を第2混合物と混ぜて、第3混合物を得る工程と、
d)例えば10分から15分のような、第3混合物が室温になるために十分な時間待つ工程と、
e)例えばTiOのようなチタン酸化物前駆体を第3混合物に加えて、溶液を得る工程と、を含む。
【0011】
式(I)において、RとRは独立であり、好適にはHである。
【0012】
式(I)において、Rは好適には(CH−Yである。
【0013】
式(I)において、Yは好適にはOHである。
【0014】
好適には、N(R)(R)(R)は、エタノールアミンである。
【0015】
本発明の異なる形態のチタン酸化物は、好適にはアナターゼ相を有する。
【0016】
チタン酸化物前駆体の例は、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラオキシクロライド、チタンテトラクロライド、およびチタンn−プロポキシドを含むが、これらに限定されるものではない。チタン酸化物前駆体は、好適にはチタンアルコキシドであり、好適には一般式(II):
Ti(OR) (II)
のチタン(IV)アルコキシドである。ここで、RはC−C直鎖アルキル鎖またはC−C分岐アルキル鎖からなるリストから選択される。最も好ましくは、チタン酸化物前駆体は、チタン(IV)イソプロポキシドである。
【0017】
水混和性アルコールは、少なくとも1つのアルコール機能を含み、室温で1気圧で全ての割合で水に溶けうる有機化合物を意味する。水混和性アルコールは、好適には一般式(III):
R−OH (III)
を有する。ここで、RはC−C直鎖アルキルおよびC分岐アルキル鎖のグループから選択される。好適には、このアルコールはエタノールである。
【0018】
酸はいずれの酸でも良いが、好適には有機酸である。この酸のpKaは、例えば−2から12でも良い。より好適には、これは一般式(VI):
R−COOH (V)
を有する。ここで、RはC−C直鎖アルキルおよびC−C分岐アルキルのグループから選択される。
【0019】
好適には、酸は酢酸である。
【0020】
好適な具体例では、工程(b)で、第1混合物は、更に炭水化物と混ぜられる。好適には、炭水化物は糖アルコールで、好適には糖アルコールは6つの炭素を有し、最も好適にはD−ソルビトールである。炭水化物の添加は有利である。なぜならば、層の基板への付着力が増加するからである。これは、特に逆型のデバイス(図2参照)で有利である。なぜならば、チタン酸化物層は、その上では接着が一般に問題である無機導電性酸化物(例えばITO)の上に堆積させなければならないからである。
【0021】
具体例では、上記プロセスのいずれかの工程で、界面活性剤が混合物に加えられても良い。これは、溶液が基板を濡らす能力を増加させるために有利である。
【0022】
好適には、工程(e)の後に得られた溶液は、澄んでいる。換言すれば、これは好適には不透明ではない。不透明な溶液は、より低い効率となり、光活性化の後にのみ最大性能を示すデバイスになることが、発明者により示された(図5参照)。
【0023】
本発明の第1の形態の好適な具体例では、上述の溶液の構造の相対比率は以下のとおりである。
【0024】
アルコール:5.0から20モル当量で、好適には8から13モル当量。最終溶液中に存在するアルコール量には実際の上限は無い。なぜならば、本発明の第1の形態に従って、一旦形成されれば、使用前(例えば堆積前)に溶液は希釈できるからである。希釈は、層の目標膜厚に依存する。堆積された(例えばスピンコートされた)膜の目標最終膜厚に到達するために、溶液希釈および/または(例えば、特別なスピンプログラムを適用することで)堆積パラメータを調整できる。異なるスピンプログラムと、溶液のスプレーコートやインジェクションプリントのような異なる処理方法が、異なる希釈でより良く行われる。チタン酸化物層の最適な好ましい膜厚は、5nmから20nmであり、最も好適には7nmから13nm(例えば、約10nm)である。具体例では、溶液は、800rpmから1200rpm(例えば1000rpm)で、40秒から80秒(例えば60秒)のスピンと組み合わせて、5体積%と15体積%の間(例えば、10体積%(1ml溶液+9mlアルコール))で希釈され、5nmから15nm(例えば、約10nm)の膜厚が得られる。好適には、本発明の第1の形態にかかる溶液は、少なくとも1000モル当量の水混和性アルコールを含む。
【0025】
炭水化物:5×10−2から2×10−1モル当量で、好適には8×10−2から1.2×10−1モル当量。
【0026】
水:1から5モル当量で、好適には2.0から2.6モル当量。
【0027】
酸:0.5から3.0モル当量で、好適には1.0から1.8モル当量。
【0028】
一般式(I)の化合物:2.5モル当量から10モル当量で、好適には4.0から6.4モル当量。
【0029】
チタン酸化物前駆体:0.5から2モル当量で、好適には0.8から1.2モル当量。
【0030】
好適な具体例では、このプロセスは、例えば18から25℃のような室温で行われる。好適な具体例では、このプロセスは不活性雰囲気で行われる。例えば、NやArのような不活性ガスを充填したグローブボックス中で行っても良い。
【0031】
好適な具体例では、プロセスは更に、以下の工程:
f)第3の形態の工程(b)を行う前に、または第1の形態の工程(e)で得られた溶液を、水混和性アルコールを用いて更に希釈する前に、少なくとも90分待つ工程、を含んでも良い。
【0032】
第1の形態にかかる具体例では、混合工程は300から1400rpmで行われる。
【0033】
第1の形態の好適な具体例では、工程(e)の後に得られた溶液のpHは、8.0から10.0である。
【0034】
第2の形態では、本発明は、第1の形態のいずれかの具体例のプロセスと、任意的にそれに続く水混和性アルコール中での希釈で得られる溶液に関する。この希釈は、例えば、(体積で)2倍から20倍であり、好適には5倍から15倍である。第3の形態の工程(b)を行う前に、溶液を希釈するのが好ましい。
【0035】
第3の形態では、本発明は、デバイスを作製するためのプロセスに関し、このプロセスは以下の工程:
a)基板を提供する工程、および
b)好適には不活性雰囲気で、第2の形態にかかる溶液を、基板に供給する工程、を含む。
好適には、第3の形態にかかるプロセスは、室温で行われる。
【0036】
第3の形態の好適な具体例では、第2の形態の溶液は、第1の形態の工程(e)の後で、溶液を希釈する工程および/または基板に(任意的に希釈された)溶液を提供する工程を行う前に、室温で少なくとも90分間、保持しても良い。
【0037】
好適な具体例では、第3の形態のプロセスは、アニール工程、酸素処理、またはUV光を用いた光ドーピングを、第3の形態にかかるデバイスを作製するプロセスの工程(b)の後に含まない。
【0038】
第3の形態にかかるプロセスの具体例では、工程(b)は、スピンコーティング、スプレーコーティング、またはインクジェットプリンティングで行われる。
【0039】
第4の形態では、本発明はデバイスに関する。デバイスは、好適にはオプトエレクトロニクスデバイスである。より好適には、太陽電池デバイスおよび/または有機オプトエレクトロニクスデバイスである。最も好適には、有機太陽電池デバイスである。
【0040】
第4の形態のデバイスは、本発明の第3の形態のプロセスで得られる。
【0041】
第4の形態にかかるデバイスは、例えばチタン亜酸化物層のようなチタン酸化物層を含む。一般には、このチタン酸化物層は電子輸送層を提供する。
【0042】
チタン酸化物層中の、酸素のチタンに対する比は、一般には1.1から1.9の範囲の値である。
【0043】
第4の形態のデバイスが有機太陽電池の場合、これは一般には、透明基板(例えばガラス)、透明基板上の透明アノード(アノードは、一般にはインジウムスズ酸化物(ITO))、アノードの上のHTL、HTLの上の活性層、活性層の上のETL、およびETLの上のカソード(カソードは、例えばAlまたはAgカソードでもよい)を含む。このタイプの構造は、「従来型(conventional)と呼ばれる。代わりに、デバイスは、ETLがカソードの上にある(例えばITOがカソードとして使用される)「逆型(reversed)」デバイスでも良く、活性層はETLの上にあり、HTLは活性層の上にあり、およびアノードはHTLの上にある(アノードは、例えばAu、Al、またはAg層でも良い)。
【0044】
好適な具体例では、第4の形態にかかるデバイスは、更にカソードとアノードを含む。
【0045】
第4の形態の好適な具体例では、カソードはアルミニウムカソードである。
【0046】
第4の形態の好適な具体例では、電子輸送層は、5nmから40nmまで、好適には10nmから35nmまで、より好適には20nmから30nmまでの膜厚を有する。
【0047】
第4の形態の好適な具体例では、電子輸送層は界面活性剤を含む。
【0048】
第4の形態の好適な具体例では、電子輸送層は、本発明の第1の形態のいずれかの具体例で規定されたような炭水化物を含む。
【0049】
第4の形態の好適な具体例では、電子輸送層はエタノールアミンを含む。
【0050】
特別で好適な本発明の形態は、添付の独立請求項および従属請求項に表される。従属請求項の特徴は、必要に応じて独立請求項の特徴と組み合わせても良く、他の従属請求項の特徴と組み合わせても良く、単に請求項に明確に表されたとおりではない。
【0051】
この分野のデバイスでは、連続した改良、変化、および進化があるが、この概念は、従来の実施からの出発を含み、より効率的で安定した、信頼性のあるこの性質のデバイスとなる本質的に新しく新規な改良を表すものと信じる。
【0052】
本発明の上記および他の特徴、長所、および利点は、本発明の原理を例示の方法で表す添付の図面を参照しながら以下の詳細な説明から明確になるであろう。この説明は、単に例示目的であり、本発明の範囲を限定するものではない。以下で引用される参照符号は、添付の図面に関する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の具体例にかかる従来型デバイスの模式図である。
【図2】本発明の具体例にかかる逆型デバイスの模式図である。
【図3】本発明の具体例にかかる従来型デバイス(四角形)と、従来技術にかかる従来型デバイス(三角形)の、電流密度と電圧とのグラフであり、前もって暗く保った後に直接測定した場合(d)と、露出した後に測定した場合(i)の双方である。
【図4】本発明の具体例にかかる逆型デバイスの、電流密度と電圧とのグラフであり、前もって暗く保った後に直接測定した場合(四角形)と、UV照射に露出した後に測定した場合(丸)である。
【図5】多くの酸の使用から得られた不適切な不透明な溶液から形成した比較の具体例にかかる逆型デバイスの、電流密度と電圧とのグラフであり、前もって暗く保った後に直接測定した場合(ダイアモンド)と、UV照射に様々な時間露出した後に測定した場合である。
【図6】本発明の具体例にかかる逆型デバイスの、電流密度と電圧とのグラフであり、前もって暗く保った後に直接測定した場合(四角形)と、UV照射に露出した後に測定した場合(丸)である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本発明は、特定の具体例について、添付図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではなく、請求の範囲によってのみ限定されるものである。記載された図面は、単に模式的であり、限定するものではない。図面において、図示目的で、いくつかの要素の大きさは拡張され、縮尺通りに記載されていない。寸法と相対寸法は、本発明の実施の実際の縮小には対応していない。
【0055】
更に、説明や請求の範囲中の、第1、第2、第3等の用語は、類似の要素の間で区別するために使用され、順位やその他の方法で、一時的、空間的な順序を表す必要はない。そのように使用される用語は、適当な状況下で入替え可能であり、ここに記載された発明の具体例は、ここに記載や図示されたものと異なる順序によっても操作できることを理解すべきである。
【0056】
また、説明や請求の範囲中の、上、下、上に、下に等の用語は、記載目的のために使用され、相対的な位置を示すものではない。そのように使用される用語は、適当な状況下で入替え可能であり、ここに記載された発明は、ここに記載や図示されたものと異なる位置でも操作できることを理解すべきである。
【0057】
また、請求の範囲で使用される「含む(comprising)」の用語は、それ以降に示される手段に限定して解釈すべきではなく、他の要素や工程を排除しない。このように、言及された特徴、数字、工程、または成分の存在を記述するように解釈され、1またはそれ以上の他の特徴、数字、工程、または成分、またはこれらの組み合わせの存在または追加を排除してはならない。このように、「手段AおよびBを含むデバイス」の表現の範囲は、構成要素AとBのみを含むデバイスに限定されるべきではない。本発明では、単にデバイスに関連した構成要素がAとBであることを意味する。
【0058】
同様に、請求の範囲でも使用される「接続された(coupled)」の用語は、直接的な接続のみに限定して解釈すべきでない。「接続された(coupled)」、「接続された(connected)」の用語は、それらの派生語と共に使用しても良い。それらの用語は互いに同義語であることを意図するものではないことを理解すべきである。このように、「デバイスBに接続されたデバイスA(a device A coupled to a device B)」の表現の範囲は、デバイスAの出力がデバイスBの入力に直接接続されたデバイスまたはシステムに限定すべきでない。これは、デバイスAの出力とデバイスBの入力との間に経路を有し、この経路は他のデバイスや手段を含む経路でも良いことを意味する。「接続された(coupled)」は、2またはそれ以上の要素が直接物理的または電気的に接触すること、または2またはそれ以上の要素は互いに直接接触しないが、互いに協働または作用しあうことを意味する。
【0059】
この明細書を通じて参照される「一の具体例(one embodiment)」または「ある具体例(an embodiment)」は、この具体例に関係して記載された特定の長所、構造、または特徴は、本発明の少なくとも1つの具体例に含まれることを意味する。このように、この明細書を通して多くの場所の「一の具体例(one embodiment)」または「ある具体例(an embodiment)」の語句の表現は、同じ具体例を表す必要はなく、表しても構わない。更に、特定の長所、構造、または特徴は、この説明から当業者に明らかなように、1またはそれ以上の具体例中で適当な方法で組み合わせることができる。
【0060】
同様に、本発明の例示の説明中において、能率的に開示し、様々な発明の形態の1またはそれ以上の理解を助ける目的で、本発明の様々な長所は、時には1つの具体例、図面、またはその説明中にまとめられることを評価すべきである。しかしながら、この説明の方法は、請求される発明がそれぞれの請求項に記載されたものより多くの特徴を必要とすることを意図して表されていると解釈すべきではない。むしろ、以下の請求項が表すように、発明の態様は、1つの記載された具体例の全ての長所より少なくなる。このように詳細な説明に続く請求の範囲は、これにより詳細な説明中に明確に含まれ、それぞれの請求項は、この発明の別々の具体例としてそれ自身で成立する。
【0061】
更に、ここで記載された幾つかの具体例は幾つかの特徴で、他の具体例に含まれる以外の特徴を含み、異なった具体例の長所の組み合わせは、本発明の範囲に入ることを意味し、当業者に理解されるように異なった具体例を形成する。例えば、以下の請求の範囲では、請求された具体例のいくつかは、いくつかの組み合わせにおいても使用することができる。
【0062】
ここで与えられる説明において、多くの特別な細部が示される。しかしながら、本発明の具体例はそれらの特別な細部無しに実施できることを理解すべきである。他の例では、公知の方法、構造、および技術は、この説明の理解をわかりにくくしないために、詳細には示されていない。
【0063】
以下の用語は、単に本発明の理解を助けるために提供される。
【0064】
定義
本発明の説明で使用されるチタン亜酸化物(titanium suboxide)の用語は、O/Tiの原子の比が1と2の間、好適には1.1と1.9の間のチタン酸化物を意味する。一般には、チタン亜酸化物は、電子伝導特性を有する。
【0065】
本発明の説明で使用されるような、溶液に適用された場合の澄んだ(clear)の用語は、濁りが人間の眼で観察されないことを意味する。
【0066】
本発明は、本発明の多くの具体例の詳細な説明により記載される。本発明の他の具体例は、本発明の真実の精神や技術的示唆から離れることなく当業者の知識により形成でき、発明は添付された請求の範囲の用語によってのみ限定されることは明らかである。
【0067】
例1:本発明の具体例にかかる溶液
例1−a
4mlボトルが、室温に保たれた不活性雰囲気のグローブボックス中で、攪拌プレート(600rpm)の上に配置された。エタノール1mlが、D−ソルビトール3mgと、全てのソルビトールが分解するまで混ぜられた。結果の混合物(混合物X)は澄んでいた。
【0068】
他のボトルでは、1体積分率(1 part per volume)の酢酸が、0.5体積分率の蒸留水と混ぜられた。結果の混合物は混合物Yと呼ばれた。混合物Y0.2mlが混合物Xに加えられ、これにより混合物Zが得られた。0.5mlのエタノールアミンが、混合物Zに加えられた。これで、熱と煙が発生した。数分後、温度が室温に戻った時、イソプロポキシドIVチタン0.5mlが上述の混合物にゆっくり加えられた。混合物は、更に、攪拌プレート上で2、3時間(a couple of hours)混合された。最終溶液は完全に澄んでいた。
【0069】
この具体例では、溶液のそれぞれの要素の比率は以下の通りであった。
アルコール:11.6重量分率、10.6モル当量
炭水化物:44.8重量分率、10モル当量
水:1.0重量分率、2.3モル当量
酸:2.0重量分率、1.4モル当量
一般式(I)の化合物:7.6重量分率、5.2モル当量
チタン酸化物前駆体:7.0重量分率、1モル当量
【0070】
例1−b
4mlボトルが、室温に保たれた不活性雰囲気のグローブボックス中で、攪拌プレート(600rpm)の上に配置され、1体積分率の酢酸が、0.5体積分率の蒸留水に混ぜられた。結果の混合物は混合物Yと呼ばれた。エタノール1mlが、混合物Y0.2mlに加えられ、これにより混合物Zが得られた。
【0071】
0.5mlのエタノールアミンが、混合物Zに加えられた。これで、熱と煙が発生した。2、3分後、温度が室温に戻った時、イソプロポキシドIVチタン0.5mlが上述の混合物にゆっくり加えられた。混合物は、更に、攪拌プレート上で2時間混合された。最終溶液は完全に澄んでいた。
【0072】
この溶液は、ITO層に、より接着しにくいことを除けば、例1の溶液と同じ特性を有した。
【0073】
例2:従来型セルの作製
図1では、ガラス基板6、ITOアノード5、HTL4、および活性媒体3からなるスタックが、最初に準備された。次に、N雰囲気のグローブボックス中で、例1−aの溶液がエタノールで5倍に希釈され、ポリ(3−ヘキシルチオフェン):フェニル−C61−酪酸メチルエステル(P3HT:PC60BM)バルクヘテロ接合からなる活性層3の上にスピンコートされた。得られたチタン酸化物層2は、更なる処理には晒されなかった。カソード1が最後にチタン酸化物層の上に蒸着された。結果のデバイスは以下の構造を有した。ITO/PEDOT/P3HT:PC60BM(250nm)/チタン酸化物(10nm)/Al(100nm)。
【0074】
比較例1
4mlボトルが、室温に保たれた不活性雰囲気のグローブボックス中で、攪拌プレート(600rpm)の上に配置された。エタノール1mlが、D−ソルビトール3mgと、全てのソルビトールが分解するまで混ぜられた。結果の混合物(混合物X)は澄んでいた。
【0075】
他のボトルでは、1体積分率の酢酸が、0.5体積分率の蒸留水と混ぜられた。結果の混合物は混合物Yと呼ばれた。
【0076】
混合物Y0.6mlが混合物Xに加えられ、これにより混合物Zが得られた。
【0077】
0.5mlのエタノールアミンが、混合物Zに加えられた。これで、熱と煙が発生した。数分後、温度が室温に戻った時、イソプロポキシドIVチタン0.5mlが上述の混合物にゆっくり加えられた。混合物は、更に、攪拌プレート上で2、3時間混合された。最終溶液は完全に不透明であった。
【0078】
比較例2
チタン酸化物層2が蒸着されたYb層2で置き換えられたことを除いて、例2と同じデバイスが作製された。結果のデバイスは、以下の構造を有する。ITO/PEDOT/P3HT:PC60BM(250nm)/Yb(50nm)/Al(100nm)。
【0079】
例2のデバイスと比較例2のデバイスの比較
図3を参照すると、dの線は、暗い所で測定された電流密度と電圧との関係に対応し、一方、iの線はUV照射に晒した測定に対応する。四角形は例2に対応する点であり、一方、三角形は比較例2に対応する点である。例2のデバイスに対する曲線因子は64.0%であり、デバイスの効率は4.17%であった。比較例2のデバイスに対する曲線因子は71.1%であり、デバイスの効率は4.07%であった。例2にかかるデバイスの電流は、比較例2にかかるデバイスの電流より明らかに高い。これは、チタン酸化物層がETLと光学スペーサの2つの機能を満たし、これにより活性層の内部での光分布を改良し、より高い光電流を形成するためと思われる。
【0080】
例3:逆型セルの作製
図2を参照すると、ガラス基板6とITOカソード5とからなるスタックが、最初に準備された。次に、不活性ガス(N、グローブボックス)下で、例1−aにかかるチタン酸化物溶液で、エタノールで5倍に希釈された溶液が、ITOカソード5の上でスピンコートされて、更なる処理に晒すことなく乾燥させ、これによりチタン酸化物ゲル2を形成した。次に、ポリ(3−ヘキシルチオフォン)とフェニル−C61−酪酸メチルエステルとからなる活性層3が、チタン酸化物ゲル2の上でスピンコートされた。活性層3は、乾燥させた。次に、HTL4が、活性層3の上にスピンコートされて、乾燥させた。100nmのAlアノードがHTL4の上に蒸着された。結果のデバイスは以下の構造を有する。ITO/チタン酸化物(10−12nm)/P3HT:PC60BM(250nm)/PEDOT/Al(100nm)。
【0081】
図4を参照すると、四角形は暗い所で測定された電流密度と電圧との関係に対応し、一方、丸はUV照射に晒した測定に対応する。デバイスの曲線因子は62.0%であり、デバイスの効率は3.63%であった。
【0082】
比較例3
例1の溶液の代わりに比較例1の溶液が用いられ、250nm膜厚の代わりに80nm膜厚のP3HT:PC60BM活性層が使用されたことを除き、例3と同じ手続きが用いられた。ここで図5を参照すると、比較例1の不透明な溶液が用いられた場合、第1の測定(照射前、円)は、31.6%の低い曲線因子と0.66%の低い効率を有する低品質の太陽電池を示す。UV光の照射後にのみ、デバイスの性能が改良される。
【0083】
5秒のUV照射後、曲線因子は45.5%で、効率は1.67%であった(上向きの三角形)。
【0084】
15秒のUV照射後、曲線因子は49.8%で、効率は1.99%であった(下向きの三角形)。
【0085】
60秒のUV照射後、曲線因子は50.1%で、効率は2.16%であった(ダイアモンド)。
【0086】
2、3および4分のUV照射後、曲線因子は50.1%で、効率は2.17%であった(それぞれ、左向きの三角形、右向きの三角形、および六角形)。
【0087】
UV照射後でさえも、最大到達品質は、例1の澄んだ溶液を用いた場合より低かった(図4参照)。比較の溶液1の不透明な溶液は、例1の澄んだ溶液が用いられた場合のデバイスの性能には決して到達しないような効率となった。
【0088】
ここで図6を参照すると、直接測定されたセル(即ち、測定の時までセルが暗いところに保持された場合)と測定前に1分間UV照射したセルが、一定の効率を達成することが示される。これは、溶液が凝集することなく透明な場合(例1の溶液の場合)、光ドーピングが不要であることを示す。
【0089】
本発明にかかるデバイスについて、ここでは、材料と同様に、好適な具体例、特定の構造および形態について検討されたが、形態や細部において様々な変化や変形が、この発明の範囲および精神から離れることなく行えることを理解すべきである。例えば、上述の式は、使用される手続きの単なる典型例である。本発明の範囲内で、記載された方法に、工程を加えたり削除したりできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸化物ゾルゲル層を形成するための溶液を形成するプロセスであって、このプロセスは好適には不活性雰囲気で行われ、このプロセスは、
0.5から3.0モル当量で、好適には1.0から1.8モル当量の酸、
1.0から5.0モル当量で、好適には2.0から2.6モル当量の水、
5.0から20モル当量で、好適には8から13モル当量の水混和性アルコール、
0.5から2モル当量で、好適には0.8から1.2モル当量のチタン酸化物前駆体、
2.5から10モル当量で、好適には4.0から6.4モル当量の一般式(I):
N(R)(R)(R) (I)
の化合物、
ここで、Rは、C−C直鎖アルキルグループとC−C分岐アルキルグループとからなるリストから選択され、ここでアルキルグループのいくつかは、任意的に、−NH、−SH、−OH、−NR、−SR’、−OR”からなるリストから選択されるグループYにより置き換えられ、ここで、R、R、R’およびR”は、C−C直鎖アルキルグループとC−C分岐アルキルグループからなるリストから選択され、ここでRおよびRは、H、C−C直鎖アルキルグループ、およびC−C分岐アルキルグループからなるリストから独立して選択され、ここでアルキルグループのいくつかは、任意的に、−NH、−SH、−OH、−NR、−SR’、−OR”からなるリストから選択されるグループYにより置き換えられ、ここで、R、R、R’およびR”は、C−C直鎖アルキルグループとC−C分岐アルキルグループからなるリストから選択される、
の混合工程を含み、
この混合工程は、
a)酸を水と混ぜて、第1混合物を得る工程と、
b)第1混合物を水混和性アルコールと混ぜて、第2混合物を得る工程と、
c)一般式(I)の化合物を第2混合物と混ぜて、第3混合物を得る工程と、
d)例えば10分から15分のような、第3混合物が室温になるために十分な時間待つ工程と、
e)チタン酸化物前駆体を第3混合物に加えて、溶液を得る工程と、を含むプロセス。
【請求項2】
工程(b)において、第1混合物は、更に、炭水化物、好適にはD−ソルビトールと混ぜられる請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
炭水化物は、5×10−2から2×10−1モル当量で、好適には8×10−2から1.2×10−1モル当量の中に含まれる請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
室温で行われる請求項1〜3のいずれかに記載のプロセス。
【請求項5】
工程(e)で得られた溶液は澄んでいる請求項1〜4のいずれかに記載のプロセス。
【請求項6】
チタン酸化物前駆体はチタンアルコキシドであり、好適には一般式(II):
Ti(OR) (II)
のチタン(IV)アルコキシドであり、
ここで、RはC−C直鎖アルキル鎖またはC−C分岐アルキル鎖から選択される請求項1〜5のいずれかに記載のプロセス。
【請求項7】
チタン酸化物前駆体は、チタン(IV)イソポロポキシドである請求項1〜6のいずれかに記載のプロセス。
【請求項8】
水混和性アルコールは、一般式(III):
R−OH (III)
を有し、ここで、RはC−C直鎖アルキルおよびC分岐アルキル鎖のグループから選択される請求項1〜7のいずれかに記載のプロセス。
【請求項9】
水混和性アルコールはエタノールである請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
酸は有機酸であり、好適には一般式(VI):
R−COOH (V)
を有し、ここで、RはC−C直鎖アルキルおよびC−C分岐アルキルのグループから選択される請求項1〜9のいずれかに記載のプロセス。
【請求項11】
酸は酢酸である請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
任意的に、混和性アルコール中での希釈工程が続いて行われる請求項1〜11のいずれかに記載のプロセス。
【請求項13】
デバイスを作製する方法であって、
a)基板を準備する工程と、
b)好適には不活性雰囲気で、請求項12にかかる溶液を基板に供給する工程と、
を含むプロセス。
【請求項14】
請求項13の工程(b)の後に、アニール工程、酸素処理、またはUV光を用いた光ドーピングを含まない請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
請求項13または14のプロセスを用いて得られるデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−211068(P2012−211068A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−8142(P2012−8142)
【出願日】平成24年1月18日(2012.1.18)
【出願人】(591060898)アイメック (302)
【氏名又は名称原語表記】IMEC
【Fターム(参考)】