説明

電子部品、固体電解コンデンサおよび回路基板

【課題】過大な短絡電流が流れた場合に、電流の遮断機能を維持しつつ、小型化することが可能な電子部品を提供する。
【解決手段】高分子層を備えた電子部品において、この高分子層として熱膨張性黒鉛を含有したものを用いる。固体電解コンデンサの場合、陽極リード線1aが導出された陽極体1と、この陽極体1の表面に形成された誘電体層2と、誘電体層2の上に形成された導電性高分子層3と、この導電性高分子層3の上に形成された陰極層5と、を有するコンデンサ素子10を備える。そして、導電性高分子層3にはその内部に熱負荷により膨張する熱膨張性黒鉛4が層全面にわたって含有される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品、固体電解コンデンサおよびこれを搭載した回路基板に関し、ヒューズ内蔵型の電子部品、固体電解コンデンサおよびこうした固体電解コンデンサを搭載した回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯情報端末を中心とした電子機器の小型化が進むに伴って、電子機器の回路を構成する各種の電子部品に対しても小型化と同時に、高い安全性が求められている。
【0003】
このような電子部品の中でも、特に、固体電解コンデンサは、パソコン、携帯電話などの各種携帯情報端末、デジタルカメラなどの各種映像情報機器、その他の電子機器などにおいて、CPUの電源回路およびその周辺回路などに数多く組み込まれて使用されており、故障率が小さいことが利点とされている。
【0004】
近年、こうした固体電解コンデンサとして、コンデンサ素子と端子間にヒューズを接続し、そのヒューズを外装樹脂内に封入した構成のいわゆるヒューズ内蔵型の固体電解コンデンサが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に記載のヒューズ内蔵型の固体電荷コンデンサでは、コンデンサ素子と端子間にヒューズ(300℃程度で溶断するワイヤ状の焼結体ヒューズ)を設置することにより、過大な短絡電流がコンデンサ素子に流れた場合に、電気回路を開放させて電流を遮断する。
【特許文献1】特開2001−176374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のヒューズ内蔵型の固体電解コンデンサでは、構造が複雑になる上、ヒューズを収納するスペースの分だけ内部素子の体積効率が低下する問題があり、固体電解コンデンサの小型化および大容量化には一定の限界があった。このようなヒューズの付加による小型化の限界と云う課題は、固体電解コンデンサに限らず、電子機器に用いられる各種の電子部品における共通の課題であった。
【0007】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、過大な短絡電流がコンデンサ素子に流れた場合に、電流の遮断機能を維持しつつ、小型化することが可能な固体電解コンデンサおよびこうした固体電解コンデンサを搭載した回路基板を提供することにある。
【0008】
また、上述の固体コンデンサ素子に限らず、従来のヒューズに代わる機能、即ち電流の遮断機能を備えた電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る固体電解コンデンサは、陽極体の表面に、誘電体層、導電性高分子層、及び陰極層が順次形成された固体電解コンデンサであって、導電性高分子層は、膨張する熱膨張性黒鉛を含有していることを特徴とする。斯かる熱膨張性黒鉛は、加熱によって膨張するものであり、膨張する前の状態で、前記導電性高分子層内に含有されている。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る回路基板は、上記した固体電解コンデンサをはんだ部材を用いて実装した回路基板であって、熱膨張性黒鉛は、膨張を開始する温度がはんだ部材が溶融する温度よりも高いことを特徴とする。
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る電子部品は、たとえば、電池からなる電子部品や半導体回路チップを基板に配置した電子部品は、熱膨張性黒鉛を含有した高分子層を備えることを特徴としている。なお、本発明が対象とする電子部品とは、前述の例示として列挙したものに限るものでなく、高分子層を備えることができる電子部品であり、その高分子層に膨張前の熱膨張性黒鉛を含有できる電子部品であればよい。
【0012】
なお、本発明における電子部品とは、電気回路を構成する部品であって、トランジスタ、ダイオード、サイリスタなどの能動素子、および抵抗、コンデンサ、電池、コイル、圧電素子などの受動素子を含み、さらには、これらの能動素子や受動素子を基板などに取り付けてモジュール化したものも含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、短絡電流などの異常に大きな電流が電子部品、たとえば、コンデンサ素子に流れた場合に、電流の遮断機能を維持しつつ、小型化することが可能な固体電解コンデンサおよびこうした固体電解コンデンサを搭載した回路基板が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を具現化した実施形態について図面に基づいて説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0015】
図1は本実施形態に係る固体電解コンデンサの構成を示す概略断面図である。なお、図1(A)は固体電解コンデンサ全体の概略断面図、図1(B)は同固体電解コンデンサの導電性高分子層近傍の部分拡大図を示す。また、図2は熱負荷により熱膨張性黒鉛が膨張する前後の状態を示す模式図である。
【0016】
本実施形態の固体電解コンデンサは、図1(A)に示すように、陽極リード線1aが導出された陽極体1と、この陽極体1の表面に形成された誘電体層2と、誘電体層2の上に形成された導電性高分子層3と、この導電性高分子層3の上に形成された陰極層5と、を有するコンデンサ素子10を備えている。そして、図1(B)に示すように、導電性高分子層3にはその内部に熱負荷により膨張する熱膨張性黒鉛4が層全面にわたって含有されている。そして、図1(A)に示すように、コンデンサ素子10の陰極層5の上に導電性接着材(図示せず)を介して平板状の陰極端子7が接合され、陽極リード線1aに平板状の陽極端子6が接合されている。そして、陽極端子6および陰極端子7の一部が、図1(A)のように外部に引き出される形で、エポキシ樹脂などからなるモールド外装体8が成形されている。
【0017】
具体的な固体電解コンデンサの構成は以下の通りである。
【0018】
陽極体1は弁作用金属からなる金属粒子の多孔質焼結体で構成され、陽極リード線1aは同じ弁作用金属からなる棒状のリード線からなる。そして、陽極リード線1aはその一部が陽極体1から突出する形で、陽極体1の内部に埋め込まれている。ここで、陽極リード線1aおよび陽極体1を構成する弁作用金属としては、絶縁性の酸化膜を形成できる金属材料であり、たとえば、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)などの金属の単体が採用される。また、上述の弁作用金属同士の合金を採用してもよい。
【0019】
誘電体層2は、弁作用金属の酸化物からなる誘電体で構成され、陽極体1の表面上に所定の厚さで設けられている。たとえば、弁作用金属がタンタル金属から構成される場合には、誘電体層2は酸化タンタルとなる。
【0020】
導電性高分子層3は、電解質層として機能し、誘電体層2の表面上に設けられている。導電性高分子層3の材料としては、導電性を有する高分子材料であれば特に限定されないが、導電性に優れたポリエチレンジオキシチオフェン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンやこれらの誘導体などの材料が採用される。そして、こうした導電性高分子層3にはその内部に熱膨張性黒鉛4が層全面にわたって含有されている。この熱膨張性黒鉛4は、図2に示すように、主として層状の黒鉛結晶4aと層間物4bとにより構成され、熱負荷(高温加熱)により層間物4bが分解し、そのガス圧で黒鉛結晶4aが矢印の方向に膨張する特性を有している。このように膨張した黒鉛結晶4aは結晶間に空隙(空間)を有する構造体を形成するので、本実施形態の導電性高分子層3には、熱負荷によりその内部に熱膨張性黒鉛4に起因した電気的ギャップが形成される。
【0021】
熱膨張性黒鉛4は、膨張度(黒鉛を1000℃で10秒間加熱した際の1gあたりの体積:cm/g)、膨張開始温度(もとの体積の1.1倍以上に膨張した際の温度:℃)、含有量(導電性高分子層の総重量に対する熱膨張性黒鉛の重量:重量%)などを調整することにより、こうした熱膨張性黒鉛4を含有する導電性高分子層3の電気的ギャップの形成能力を制御することができる。
【0022】
陰極層5は、カーボン粒子を含む層からなる導電性カーボン層5aと、銀粒子を含む層からなる銀ペースト層5bとの積層膜で構成され、導電性高分子層3の上に設けられている。
【0023】
コンデンサ素子10は、上述の陽極リード線1aが導出された陽極体1、誘電体層2、導電性高分子層3、及び陰極層5により構成される。
【0024】
陽極端子6および陰極端子7は、銅(Cu)、ニッケル(Ni)などの導電性材料からなる平板状の端子が採用され、固体電解コンデンサの外部リード端子としてそれぞれ機能する。陽極端子6は陽極リード線1aとスポット溶接により接合され、陰極端子7は陰極層5と導電性接着剤(図示せず)を介して接合されている。
【0025】
そして、陽極端子6および陰極端子7の一部が、相反する方向の外部に引き出される形で、エポキシ樹脂などからなるモールド外装体8が成形されている。さらに、モールド外装体8から露出した陽極端子6および陰極端子7の端部は、モールド外装体8の側面および下面に沿って折り曲げられ、実装基板に本固体電解コンデンサを搭載(はんだ付け)する際の端子として機能させる。
【0026】
なお、陽極体1は本発明の「陽極体」、誘電体層2は本発明の「誘電体層」、導電性高分子層3は本発明の「導電性高分子層」、熱膨張性黒鉛4は本発明の「熱膨張性黒鉛」、及び陰極層5は本発明の「陰極層」の一例である。
【0027】
(製造方法)
次に、図1に示す本実施形態の固体電解コンデンサの製造方法について説明する。
【0028】
工程1:陽極リード線1aの周囲に、陽極リード線1aの一部を埋め込むように成形された弁作用を有する金属粒子からなる成形体を真空中で焼結することにより、多孔質焼結体からなる陽極体1を形成する。この際、金属粒子間は溶着される。
【0029】
工程2:陽極体1に対してリン酸水溶液中において陽極酸化を行うことにより、陽極体1の周囲を覆うように弁作用金属の酸化物からなる誘電体層2を所定の厚さで形成する。
【0030】
工程3:誘電体層2の表面上に、化学重合法を用いて導電性高分子層を形成する。具体的には、モノマーおよび酸化剤を溶解させた化学重合液を用いて、酸化剤によりモノマーを酸化重合することにより導電性高分子層3を形成する。本実施形態では、化学重合液に熱膨張する前の熱膨張性黒鉛4を混合した状態で酸化重合を行うことにより、導電性高分子層3の内部に所定の含有量で熱膨張性黒鉛4を含有させている。この際、熱膨張性黒鉛4は誘電体層2の表面上に形成された導電性高分子層全面にわたって添加される。
【0031】
ここで、熱膨張性黒鉛4には、たとえば、黒鉛を硫酸と酸化剤の混合物中に投入し反応することで得られた酸処理黒鉛に固体中和剤を混合する方法や、黒鉛を硫酸と酸化剤の混合物中で処理した後、アルカリ水溶液または水で洗浄したものに固体中和剤を混合する方法により作製したものを採用している。なお、上述の処理において黒鉛(黒鉛結晶4a)に導入される層間化合物(層間物4b)を調整することにより、熱膨張性黒鉛4の膨張性能(膨張度、膨張開始温度など)を容易に制御することができる。
【0032】
工程4:導電性高分子層3上にカーボン粒子を含む導電性カーボンペーストを塗布、乾燥することにより導電性カーボン層5aを形成する。さらに、この導電性カーボン層5a上に銀ペーストを塗布、乾燥することにより銀ペースト層5bを形成する。これにより、導電性高分子層3上に導電性カーボン層5aと銀ペースト層5bとの積層膜からなる陰極層5が形成される。
【0033】
以上の工程1〜工程4を経てコンデンサ素子10が製造される。
【0034】
工程5:平板状の陰極端子7上に導電性接着剤(図示せず)を塗布した後、この導電性接着剤(図示せず)を介して陰極層5と陰極端子7とを接触させた状態で乾燥させることにより、陰極層5と陰極端子7とを接合する。また、陽極リード線1a上に平板状の陽極端子6をスポット溶接により接合する。
【0035】
工程6:トランスファー法でモールドを行い、コンデンサ素子10の周囲にモールド外装体8を成形する。この際、陽極リード線1a、陽極体1、誘電体層2、導電性高分子層3、及び陰極層5を内部に収納するとともに、陽極端子6および陰極端子7の端部を外部(相反する方向)に引き出すように成形する。なお、モールド外装体8を成形する樹脂としては、モールド外装体として水分が出入りするのを抑制するため、また、はんだリフロー時(加熱処理時)のクラックや剥離を防止するため、吸水率の小さな樹脂(たとえば、エポキシ樹脂)が好ましく採用される。
【0036】
工程7:モールド外装体8から露出した陽極端子6および陰極端子7の先端部を下方に折り曲げ、モールド外装体8の側面および下面に沿って配置する。この両端子の先端部は、固体電解コンデンサの端子として機能し、実装基板にはんだ部材を介して固体電解コンデンサを電気的に接続するために使用される。
【0037】
工程8:最後に固体電解コンデンサの両端子を介して所定の電圧を印加するエージング処理を行う。これにより、固体電解コンデンサの特性を安定化させる。
【0038】
以上の工程を経て、本実施形態の固体電解コンデンサが製造される。
【実施例1】
【0039】
まず、予備実験として、化学重合法を用いて形成される導電性高分子層に含まれる熱膨張性黒鉛の含有量に関する評価を行った。
【0040】
<予備実験>
重合性モノマーとしてのピロール10重量%と、ドーパント付与剤兼酸化剤としてのパラトルエンスルホン酸鉄(III )16重量%とを、エタノールと水の5:1混合溶媒に溶解させた化学重合液を調製し、この化学重合液に対して粒子状(中心粒径:約10μm)の熱膨張性黒鉛(膨張開始温度250℃、膨張度10cm/g)粉末20重量%を均一に混合する。その後、この混合液をガラス基板に一定量(0.1g)を塗布し、大気中で2時間放置することにより重合反応を進行させ、ガラス基板の上に導電性高分子膜(厚み:約100μm)を成膜する。そして、成膜前後のガラス基板の重量を正確に秤量したところ、成膜された導電性高分子膜の重量は0.05gであった。混合した熱膨張性黒鉛は重合反応に寄与しないので、導電性高分子膜の成膜前後で熱膨張性黒鉛の重量は変化しない。これにより、成膜された導電性高分子膜に含まれる熱膨張性黒鉛の含有量は40重量%(=0.1g×20重量%/0.05g)と算出された。なお、上述の熱膨張性黒鉛には、市販されているエア・ウォーター社製の熱膨張性黒鉛(TEG)を採用した。
【0041】
以下の実施例および比較例では、上述の工程を踏まえて固体電解コンデンサを作製し、その特性評価を行った。なお、各実施例では、予備実験の結果を踏まえ、導電性高分子層に含まれる熱膨張性黒鉛の含有量を制御している。
【0042】
<実験1>
次に、導電性高分子層3に含まれる熱膨張性黒鉛4の膨張開始温度の影響に関する評価を行った。
【0043】
(実施例1)
実施例1では、上述の実施形態の製造方法における各工程(工程1〜工程8)に対応した工程を経て固体電解コンデンサA1を作製した。
【0044】
工程1A:平均粒径が約2μmのタンタル金属粉末を用いて陽極リード線1aの一部を埋め込むようにして略板状に成型し、真空中において焼結する。これにより、タンタル多孔質焼結体からなる陽極体1を形成する。この際、タンタル金属粒子間は溶着される。
【0045】
工程2A:焼結された陽極体1に対して、約60℃に保持した約0.1重量%のリン酸水溶液中において約8Vの定電圧で約10時間陽極酸化を行う。これにより、陽極体1の周囲を覆うように酸化タンタルからなる誘電体層2を形成する。
【0046】
工程3A:重合性モノマーとしてのピロール10重量%と、ドーパント付与剤兼酸化剤としてのパラトルエンスルホン酸鉄(III )16重量%とを、エタノールと水の5:1混合溶媒に溶解させた化学重合液を調製し、この化学重合液に対して所定の膨張性能(膨張開始温度250℃、膨張度10cm/g)を有する熱膨張性黒鉛粉末(粒子状粉末/中心粒径:約10μm)20重量%を均一に混合した混合液を用意する。そして、この混合液に誘電体層2が形成された陽極体1を浸漬し、大気中に2時間放置することにより重合反応を進行させる。このようにして、誘電体層2上にポリピロールからなる導電性高分子層3(厚み:約100μm)を形成する。この際、導電性高分子層3の内部には所定の膨張性能を有する熱膨張性黒鉛4が40重量%の含有量で添加される。なお、熱膨張性黒鉛4は誘電体層2の表面上に形成された導電性高分子層3の全面にわたって均一に添加される。
【0047】
工程4A:導電性高分子層3上に導電性カーボンペーストを塗布、乾燥することによりカーボン粒子を含む層からなる導電性カーボン層5aを形成し、さらにこの導電性カーボン層5a上に銀ペーストを塗布、乾燥することにより銀粒子を含む層からなる銀ペースト層5bを形成する。これにより、導電性高分子層3上に導電性カーボン層5aと銀ペースト層5bとの積層膜からなる陰極層5を形成する。
【0048】
この後、上述の工程5〜工程8を経て実施例1における固体電解コンデンサA1が製造される。
【0049】
(実施例2〜5)
実施例2〜5では、工程3Aにおいて、膨張開始温度が300℃、350℃、400℃、450℃である熱膨張性黒鉛4(膨張度10cm/g)を採用し、こうした熱膨張性黒鉛40重量%を含有する導電性高分子層3をそれぞれ形成したこと以外は、実施例1と同様にして固体電解コンデンサA2〜A5を作製した。
【0050】
(比較例1)
比較例1では、工程3Aにおいて、熱膨張性黒鉛4を混合していない化学重合液を用いて導電性高分子層3を形成したこと以外は、実施例1と同様にして固体電解コンデンサXを作製した。なお、この比較例1(固体電解コンデンサX)は、一般的な固体電解コンデンサ(ヒューズ機能をもたない固体電解コンデンサ)の一例である。
【0051】
(比較例2)
図3は比較例2における固体電解コンデンサの構成を示す概略断面図である。図3に示すように、比較例2では、工程5において、平板状の陰極端子7aと陰極層5(銀ペースト層5b)とを、ヒューズとして機能する金ワイヤ線9(線径50μm)を介して接続したこと以外は、比較例1と同様にして固体電解コンデンサYを作製した。なお、この比較例2(固体電解コンデンサY)は、一般的な従来のヒューズ内蔵型の固体電解コンデンサの一例である。
【0052】
(評価)
まず、各固体電解コンデンサについて素子占有率(固体電解コンデンサの体積に対するコンデンサ素子の体積の占有率)を評価した。固体電解コンデンサおよびこれに内蔵されるコンデンサ素子の体積について、それぞれの状態での外形寸法から算出した結果、たとえば、実施例1(固体電解コンデンサA1)では、固体電解コンデンサの体積が38.8mm、コンデンサ素子の体積が13.5mmであった。また、比較例2(固体電解コンデンサY)では、固体電解コンデンサの体積が125.6mm、コンデンサ素子の体積が13.1mmであった。なお、他の固体電解コンデンサについても同様にそれぞれの外形寸法を基にして各体積を算出した。表1にこれらの値をもとに算出した素子占有率の結果をまとめる。
【0053】
次に、各固体電解コンデンサについて静電容量を評価した。静電容量は、各固体電解コンデンサをプリント基板にはんだ部材を介して実装した後、LCRメータを用いて周波数120Hzで測定した。表1に各固体電解コンデンサにおける静電容量の評価結果をまとめる。なお、表中の静電容量の測定値は、固体電解コンデンサ試料100個の平均値を用い、比較例1(固体電解コンデンサX)における静電容量の測定結果を100として規格化している。
【0054】
次に、各固体電解コンデンサについてヒューズ機能確認試験および燃焼確認試験を行った。ヒューズ機能確認試験は、各固体電解コンデンサをプリント基板に実装した後、工程2Aにおける陽極酸化電圧の2倍である16Vの過電圧を印加してコンデンサ素子を短絡し、5Aの過電流を印加した状態で、電気回路が開放となるか否かを観察した。また、燃焼確認試験は、同様の条件下で、コンデンサ素子が発煙・発火するか否かを確認した。表1に各固体電解コンデンサにおけるヒューズ機能確認試験および燃焼確認試験の評価結果をまとめる。なお、ヒューズ機能確認試験では、固体電解コンデンサ試料100個を使用し、そのうち電気回路が開放となった数(回路開放数)をカウントし、燃焼確認試験では、同100個を使用し、コンデンサ素子が発煙に至った数(発煙数)およびコンデンサ素子が発火に至った数(発火数)をカウントした。
【0055】
なお、上述の静電容量の評価および各試験(ヒューズ機能確認試験、燃焼確認試験)では、はんだ部材として一般的なPbフリーはんだ材料を採用し、固体電解コンデンサをプリント基板にはんだ部材を介して実装する際には、はんだ部材ははんだごてを用いてコンデンサ素子を過熱(具体的には、250℃以上に加熱)しないように形成した。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示すように、従来のヒューズ内蔵型の比較例2(固体電解コンデンサY)では、ヒューズを設けない比較例1(固体電解コンデンサX)と比較して、ヒューズ機能が働いて回路開放数が大幅に増加しているものの、評価試料の一部(13個)でヒューズ機能が働かず発煙あるいは発火に至る場合が確認された。これに対し、熱膨張性黒鉛4を含有する導電性高分子層3を採用した実施例1〜5(固体電解コンデンサA1〜A5)では、いずれも回路開放数が100個となっており、過電流が流れた際の電流の遮断を行うヒューズ機能が確実に働いていることが分かる。これは、導電性高分子層3に熱膨張性黒鉛4を含有させておくことで、過電流が流れた際に、コンデンサ素子10の発熱により熱膨張性黒鉛4が膨張し、導電性高分子層3の内部に電気的ギャップが生じる結果、固体電解コンデンサ(コンデンサ素子10)に流れる電流を遮断できたためと考えられる。
【0058】
また、実施例1〜5(固体電解コンデンサA1〜A5)は、ヒューズ内蔵型の比較例2(固体電解コンデンサY)よりも素子占有率が高く、コンデンサ素子の体積効率が改善されている。また、実施例1〜5(固体電解コンデンサA1〜A5)は、従来のヒューズを設けない比較例1(固体電解コンデンサX)と同等の素子占有率を維持していることが分かる。
【0059】
また、実施例1〜5(固体電解コンデンサA1〜A5)は、比較例1(固体電解コンデンサX)や比較例2(固体電解コンデンサY)と同等の静電容量を有している。詳細な傾向は後述するが、導電性高分子層3に含有する熱膨張性黒鉛4(含有量:40重量%)が静電容量に及ぼす影響はほとんどないことが分かる。
【0060】
以上のことから、従来のヒューズを設けない固体電解コンデンサの構成を維持した状態で、固体電解コンデンサにヒューズ機能を付与するには、本発明のように導電性高分子層3の内部に熱膨張性黒鉛4を含有させることが有効であることが分かる。
【0061】
一方、実施例5(固体電解コンデンサA5)では、回路開放数(ヒューズ機能確認試験)は良好な結果を示したものの、評価試料の一部(5個)で発煙が確認された。これは、実施例5で採用した熱膨張性黒鉛4の膨張開始温度が450℃であるため、熱膨張性黒鉛4が膨張を開始して電流を遮断する前に、コンデンサ素子10の発煙が生じているためと推察される。なお、従来のヒューズを設けない比較例1(固体電解コンデンサX)の場合には、別途行った実験(加熱試験)において、400℃を超えた温度で発煙し、さらに発火に至ることを確認している。
【0062】
次に、固体電解コンデンサをプリント基板にはんだ部材を介して実装する際の手法を変更して、表1に対応する各固体電解コンデンサの静電容量の評価と、各試験(ヒューズ機能確認試験、燃焼確認試験)を行った。具体的には、はんだ部材を用いて実装する際に、量産時の製造プロセスに採用されるはんだリフロー方式(実装温度260℃以上、加熱処理時間10秒)を用いてはんだ部材を形成した。なお、はんだリフロー方式における実装温度は少なくともはんだ部材が溶融する温度以上の温度である。
【0063】
実施例1(固体電解コンデンサA1)では、静電容量の測定のできたものが90%となったが、残りの実施例2〜5、比較例1、及び比較例2の各固体電解コンデンサ(固体電解コンデンサA2〜A5、X、及びY)では、上記表1と同様の評価結果が得られた。これは、実施例1で採用した熱膨張性黒鉛4の膨張開始温度が250℃であるため、一部のコンデンサについてはリフロー時に熱膨張性黒鉛4が膨張を開始し、固体電解コンデンサ(コンデンサ素子10)が故障したためと推察される。
【0064】
以上のことから、本発明のように導電性高分子層3の内部に熱膨張性黒鉛4を含有させる場合、はんだ部材が溶融する温度(実装温度)よりも高い膨張開始温度を有する熱膨張性黒鉛4を採用することが好ましく、さらには膨張開始温度が300℃〜400℃の範囲である熱膨張性黒鉛4を採用することがより好ましいことが分かる。たとえば、温度300℃の環境下において、熱膨張性黒鉛4が膨張し、コンデンサ素子10(陽極端子6と陰極端子7との間)に電流が流れなくなるようにした場合には、コンデンサ素子10の発熱(過剰な発熱)を防止することができるため、万一の誤接続や故障の際における固体電解コンデンサの信頼性(安全性)を向上させることができる。なお、温度300℃の環境下とは、固体電解コンデンサ(あるいはこれを搭載する実装基板)が温度300℃に加熱された状態、あるいは温度300℃の雰囲気に晒された状態を示す。
【0065】
<実験2>
次に、導電性高分子層3に含まれる熱膨張性黒鉛4の膨張度の影響に関する評価を行った。
【0066】
(実施例6〜9)
実施例6〜9では、工程3Aにおいて、膨張度が2cm/g、2.5cm/g、3cm/g、30cm/gである熱膨張性黒鉛4(膨張開始温度300℃)を採用し、こうした熱膨張性黒鉛40重量%を含有する導電性高分子層3をそれぞれ形成したこと以外は、実施例1と同様にして固体電解コンデンサB1〜B4を作製した。
【0067】
(評価)
各固体電解コンデンサについて静電容量の評価とヒューズ機能確認試験を行った。表2に各固体電解コンデンサの静電容量と回路開放数の評価結果(膨張度依存)を示す。なお、プリント基板への実装には上述のはんだリフロー方式を採用し、静電容量の評価とヒューズ機能確認試験は表1の場合と同様にして行った。また、表中の静電容量の測定値は、固体電解コンデンサ試料100個の平均値を用い、比較例1(固体電解コンデンサX)における静電容量の測定結果を100として規格化している。
【0068】
【表2】

【0069】
表2に示すように、各膨張度を有する熱膨張性黒鉛4を含有させた実施例2、6〜9(固体電解コンデンサA2、B1〜B4)では、ヒューズを設けない比較例1(固体電解コンデンサX)やヒューズ内蔵型の比較例2(固体電解コンデンサY)と比較して、ヒューズ機能が働いて電気回路が開放された回路開放数が増加していることが分かる。また、熱膨張性黒鉛4の膨張度が大きい方が、短絡時に電流を確実に遮断させることができる点から好ましいことが分かる。これは、膨張度が小さい場合には、熱負荷により熱膨張性黒鉛4が膨張しても導電性高分子層3の内部に電気的ギャップが十分形成されず、電気回路を開放し電流を遮断できなくなるためと推察される。
【0070】
また、実施例2、6〜9(固体電解コンデンサA2、B1〜B4)は、比較例1(固体電解コンデンサX)や比較例2(固体電解コンデンサY)と同等の静電容量を有していることが分かる。
【0071】
以上のことから、本発明のように導電性高分子層3の内部に熱膨張性黒鉛4を含有させる場合には、熱膨張性黒鉛4の膨張度が2.5cm/g以上のものを採用することが好ましいことが分かる。
【0072】
<実験3>
次に、導電性高分子層3に含まれる熱膨張性黒鉛4の含有量の影響に関する評価を行った。
【0073】
(実施例10〜14)
実施例10〜14では、工程3Aにおいて、膨張開始温度300℃、膨張度20cm/gを有する熱膨張性黒鉛4を採用し、この熱膨張性黒鉛4の含有量が2.5重量%、5重量%、10重量%、40重量%、45重量%となる導電性高分子層3をそれぞれ形成したこと以外は、実施例1と同様にして固体電解コンデンサC1〜C5を作製した。
【0074】
(評価)
各固体電解コンデンサについて静電容量の評価とヒューズ機能確認試験を行った。表3に各固体電解コンデンサの静電容量と回路開放数の評価結果(含有量依存)を示す。なお、プリント基板への実装には上述のはんだリフロー方式を採用し、静電容量の評価とヒューズ機能確認試験は表1の場合と同様にして行った。また、表中の静電容量の測定値は、固体電解コンデンサ試料100個の平均値を用い、比較例1(固体電解コンデンサX)における静電容量の測定結果を100として規格化している。
【0075】
【表3】

【0076】
表3に示すように、各含有量で熱膨張性黒鉛4を含有させた実施例10〜14(固体電解コンデンサC1〜C5)では、ヒューズを設けない比較例1(固体電解コンデンサX)やヒューズ内蔵型の比較例2(固体電解コンデンサY)と比較して、ヒューズ機能が働いて電気回路が開放された回路開放数が増加していることが分かる。また、熱膨張性黒鉛4の含有量が多い方が、短絡時に電流を確実に遮断させることができる点から好ましいことが分かる。これは、含有量が少ない場合には、熱負荷により熱膨張性黒鉛4が膨張しても導電性高分子層3の内部に電気的ギャップが十分形成されず、電気回路を開放し電流を遮断できなくなるためと推察される。
【0077】
一方、実施例14(固体電解コンデンサC5)では、回路開放数(ヒューズ機能確認試験)は良好な結果を示したものの、静電容量の低下が確認された。これは、実施例14における熱膨張性黒鉛4の含有量が45重量%であり、他の実施例に比べて熱膨張性黒鉛4が誘電体層2と接する部分が多くなることにより、静電容量の増減に寄与する誘電体層2と導電性高分子層3との接触面積が減少したためと推察される。
【0078】
以上のことから、本発明のように熱膨張性黒鉛4を含有する導電性高分子層3には、熱膨張性黒鉛4の含有量が5重量%〜40重量%の範囲のものを採用することが好ましいことが分かる。
【0079】
<実験4>
次に、導電性高分子層3に含まれる熱膨張性黒鉛4の性能指数の影響に関する評価を行った。なお、この性能指数は熱膨張性黒鉛4の膨張度(cm/g)と含有量(重量%)との積により算出される値である。
【0080】
(実施例15〜20)
実施例15〜20では、工程3Aにおいて、膨張度が2cm/g、2.5cm/g、5cm/g、10cm/g、20cm/g、50cm/gである熱膨張性黒鉛4(膨張開始温度300℃)を採用し、こうした熱膨張性黒鉛20重量%を含有する導電性高分子層3をそれぞれ形成したこと以外は、実施例1と同様にして固体電解コンデンサD1〜D6を作製した。なお、実施例15〜20の条件では、熱膨張性黒鉛4の性能指数は順に40、50、100、200、400、1000となっている。
【0081】
(評価)
各固体電解コンデンサについてヒューズ機能確認試験を行った。表4に各固体電解コンデンサの回路開放数の評価結果(性能指数依存)を示す。なお、プリント基板への実装には上述のはんだリフロー方式を採用し、ヒューズ機能確認試験は表1の場合と同様にして行った。また、表中には、熱膨張性黒鉛4(膨張開始温度300℃)の含有量が40重量%以下である実施例2(固体電解コンデンサA2)、実施例6〜9(固体電解コンデンサB1〜B4)、及び実施例10〜13(固体電解コンデンサC1〜C4)の各条件における性能指数の評価結果を合わせている。
【0082】
【表4】

【0083】
表4に示すように、熱膨張性黒鉛4の性能指数(膨張度と含有量の積)が大きい方が、短絡時に電流を遮断させることができることが分かる。特に性能指数が100以上の場合には、いずれも回路開放数が100個となっており、過電流が流れた際の電流の遮断を行うヒューズ機能がさらに確実に働くことが分かる。
【0084】
以上のことから、本発明のように導電性高分子層3の内部に熱膨張性黒鉛4を含有させる場合には、熱膨張性黒鉛4の性能指数を100以上となるものを採用することがより好ましいことが分かる。
【0085】
本実施形態の固体電解コンデンサによれば、以下の効果を得ることができる。
【0086】
(1)導電性高分子層3の内部に熱膨張性黒鉛4を含有させたことで、固体電解コンデンサに対して、コンデンサ素子10に過電流が流れた際の電流の遮断を行うヒューズ機能を付与することができる。
【0087】
(2)導電性高分子層3の内部に熱膨張性黒鉛4を含有させたことにより、従来のヒューズを設けない固体電解コンデンサの構成を維持した状態で、すなわち、固体電解コンデンサを大型化することなく、上記(1)の効果を享受することができる。
【0088】
(3)従来の導電性高分子層を、熱膨張性黒鉛4を含有する導電性高分子層3に変更するだけで、ヒューズ機能を有する固体電解コンデンサとすることができるので、従来のヒューズ内蔵型の固体電解コンデンサに比べ、こうした固体電解コンデンサの小型化を図ることができる。
【0089】
(4)誘電体層2上に形成された導電性高分子層3の全面にわたって熱膨張性黒鉛4を分布させたことで、熱負荷によって導電性高分子層3の全面に電気的ギャップを生じさせることができ、コンデンサ素子10に流れる電流を確実に遮断することができる。このため、上記(1)〜(3)に記載のヒューズ機能をより確実に働かせることができる。
【0090】
(5)導電性高分子層3の内部に熱膨張性黒鉛4を含有させる際、膨張開始温度が300℃〜400℃の範囲である熱膨張性黒鉛を採用することが好ましく、これにより短絡時に電流を確実に遮断することができる。このため、上記(1)〜(4)に記載のヒューズ機能をより確実に働かせることができる。
【0091】
(6)導電性高分子層3の内部に熱膨張性黒鉛4を含有させる際、膨張度が2.5cm/g以上である熱膨張性黒鉛を採用することが好ましく、これにより短絡時に電流を確実に遮断することができる。このため、上記(1)〜(5)に記載のヒューズ機能をさらに確実に働かせることができる。
【0092】
(7)熱膨張性黒鉛4を含有する導電性高分子層3には、熱膨張性黒鉛4の含有量が5重量%〜40重量%の範囲のものを採用することが好ましく、これにより短絡時に電流を確実に遮断することができる。このため、上記(1)〜(5)に記載のヒューズ機能をさらに確実に働かせることができる。
【0093】
(8)導電性高分子層3の内部に熱膨張性黒鉛4を含有させる際、熱膨張性黒鉛4の性能指数(膨張度(cm/g)と含有量(重量%)の積)を100以上となるものを採用することがより好ましく、これにより短絡時に電流を確実に遮断することができる。このため、上記(1)〜(7)に記載のヒューズ機能をより一層確実に働かせることができる。
【0094】
(9)従来の導電性高分子層を、熱膨張性黒鉛4を含有する導電性高分子層3に変更するだけで、ヒューズ機能を有する固体電解コンデンサとすることができるので、従来のヒューズ内蔵型の固体電解コンデンサに比べ、こうした固体電解コンデンサの低コスト化を図ることができる。
【0095】
(実装基板)
本発明の実装基板は、上述の各実施例における固体電解コンデンサを、はんだ部材を用いて実装した基板である。具体的には、実装基板は、その実装面に固体電解コンデンサを実装するための2つの外部電極を有し、その一方の外部電極には固体電解コンデンサの陽極端子6がはんだ部材を介して接続され、もう一方の外部電極には固体電解コンデンサの陰極端子7がはんだ部材を介して接続されている。ここで、はんだ部材には一般的なPbフリーはんだ材料が採用され、はんだ部材を用いて両端子(陽極端子6、陰極端子7)を接続する際には、はんだリフロー方式(実装温度260℃程度)を採用して行っている。
【0096】
なお、はんだ部材は本発明の「はんだ部材」および実装基板は本発明の「回路基板」の一例である。
【0097】
本発明の固体電解コンデンサをはんだ部材を用いて実装した実装基板によれば、以下の効果を得ることができる。
【0098】
(10)実装基板の異常により固体電解コンデンサ(コンデンサ素子10)が発熱して短絡状態となっても、ヒューズ機能が働いてコンデンサ素子10に流れる電流を確実に遮断することができる。
【0099】
(11)固体電解コンデンサを構成する導電性高分子層3の内部に熱膨張性黒鉛4を含有させる場合、リフロー時にはんだ部材が溶融する温度(実装温度)よりも高い膨張開始温度を有する熱膨張性黒鉛4を採用することが好ましく、これにより熱膨張性黒鉛4を膨張させることなく、はんだ部材を溶着することができる。すなわち、はんだリフロー時に導電性高分子層3の内部に電気的ギャップが発生して固体電解コンデンサ(コンデンサ素子10)が破損することなく、固体電解コンデンサをはんだ部材を介して実装基板上に搭載することができる。このため、こうした実装基板の製造歩留まりを向上させることができる。
【0100】
(12)実装基板の異常により固体電解コンデンサ(コンデンサ素子10)が発熱して短絡状態となっても、ヒューズ機能が働くので、固体電解コンデンサから実装基板に搭載された他の部品(たとえば、ICチップ)に対して熱負荷(熱ダメージ)が加わることを防止することができる。
【実施例2】
【0101】
本発明の電子部品の実施形態である二次電池について、以下に説明する。図4に、二次電池の実施例を示す。
【0102】
図4は、電池、この場合、二次電池20の構成を示す断面図である。同図の本発明の電池20は、層状の正極層21と層状の負極層22との間に、膨張する前の状態の熱膨張性黒鉛(図示せず)を含有する高分子からなる層状の電解質層23を介在させている。そして、積層状態の正極層21、電解質23、負極層22が電池ケース24内に収納されている。具体的には、電池ケース24は、天板の無い缶状をなす正極缶24aと底板の無い缶状をなす負極缶24bとが嵌り合った構成になっており、層状の正極集電体層25を介して正極層21を正極缶24aに接続させる一方、層状の負極集電体層26を介して負極層22を負極缶24bに接続させ、この正極缶24aと負極缶24bとを環状の絶縁パッキン27を介して電気的に絶縁しながら連結されている。なお、この二次電池20の高分子電解質23に含有させる熱膨張性黒鉛としては、前述の実施例1の固体電解コンデンサのコンデンサ素子10の導電性高分子層3に含有させるものと同じものが使用できる。
【0103】
同図の二次電池20は、たとえば、過充電などの原因によって、異常に電流が流れて高温度まで発熱する場合には、高分子の電解質層23内の熱膨張性黒鉛が膨張し、電解質層23の内部に大きな空隙が生じ、この空隙が電気的ギャップとなって絶縁効果を発揮するため、二次電池20に流れる電流を遮断することができ、異常な発熱の防止が可能となる。
【0104】
このような構成の本実施形態の二次電池20の実施例においては、前記電解質23の内部に熱膨張性黒鉛4を含有させたことにより、従来のヒューズを設けない二次電池の構成を維持した状態で、すなわち、二次電池を大型化することなく、ヒューズ機能を得ることができる。
【0105】
また、前記熱膨張性黒鉛は、前記電解質層23の内部全体に渡って分布させており、このため、熱負荷によって電解質層23の全面に渡って、電気的ギャップを生じさせることができ、二次電池20に流れる電流を確実に遮断することができる。
【0106】
なお、前記電解質層23の内部に熱膨張性黒鉛を含有させる際、膨張開始温度が300℃〜400℃の範囲である熱膨張性黒鉛を採用することが好ましい。また、膨張度が2.5cm/g以上である熱膨張性黒鉛を採用することが好ましい。さらに、前記熱膨張性黒鉛を含有する前記電解質層23には、熱膨張性黒鉛の含有量が5重量%〜40重量%の範囲のものを採用することが好ましい。さらに、また、熱膨張性黒鉛の性能指数(膨張度(cm/g)と含有量(重量%)の積)を100以上となるものを採用することがより好ましい。
【0107】
従って、これらの条件を満たすように、前記熱膨張性黒鉛を選定し、この熱膨張性黒鉛を前記電解質層23の内部に含有させることにより、短絡などによる熱付加時に電流を確実に遮断することができる。
【0108】
本実施例2においては、従来の高分子の電解質層を、熱膨張性黒鉛を含有する電解質層23に変更するだけで、ヒューズ機能を有する二次電池20が得られるので、二次電池20に従来のヒューズを内蔵させる場合に比べて、二次電池の製造のための低コスト化が図れる。
【実施例3】
【0109】
本発明の電子部品の他の実施形態である半導体回路装置について、以下に説明する。図5に、半導体回路装置の実施例を示す。
【0110】
図5(A)は、半導体回路装置の構成を示す平面同図であり、同図(B)は図5(B)の鎖線で示すX−X線に沿った断面図である。これらの図に示す本発明の半導体回路装置30は、金属製の基板31上に絶縁膜を形成し、更にこの絶縁膜32上に導電路33を形成した回路基板に半導体回路チップ34を取り付けることによって、モジュール化している。そして、この集積回路装置30においては、半導体回路チップ34の裏面の接地端子と導電路33とが膨張前の熱膨張性黒鉛(図示せず)を含有する導電性高分子からなる導電性接着剤層36によって機械的な接着と電気的な接続とを実現している。なお、この半導体チップ34の上面に設けた2つの信号端子38、38と基板31上の接続端子37、37とは、金属線35、35のワイヤボンデングによって、それぞれ接続されている。なお、この半導体回路装置30の導電性接着剤層36に含有させる熱膨張性黒鉛としては、前述の実施例1の固体電解コンデンサのコンデンサ素子10の導電性高分子層3に含有させるものと同じものが使用できる。
【0111】
同図の半導体回路装置30は、たとえば、半導体チップ34での過電流や短絡などの原因によって、異常に高温度まで発熱する場合には、導電性接着剤層36内の熱膨張性黒鉛が膨張し、この導電性接着剤層36の内部に大きな空隙が生じ、この空隙が電気的ギャップとなって絶縁効果を発揮するため、半導体チップ34に流れる電流を遮断することができ、異常な発熱の防止が可能となる。
【0112】
このような構成の本実施形態の半導体回路装置30の実施例においては、前記導電性接着剤層36の内部に熱膨張性黒鉛を含有させたことにより、従来のヒューズを設けない半導体回路装置の構成を維持した状態で、すなわち、半導体回路装置30を大型化することなく、ヒューズ機能を得ることができる。
【0113】
また、前記熱膨張性黒鉛は、前記導電性接着剤層36の内部全体に渡って分布させており、このため、熱負荷によって導電性接着剤層36の全面に渡って、電気的ギャップを生じさせることができ、半導体回路装置30の半導体チップ34に流れる電流を確実に遮断することができる。
【0114】
なお、前記導電性接着剤層36の内部に熱膨張性黒鉛を含有させる際、膨張開始温度が300℃〜400℃の範囲である熱膨張性黒鉛を採用することが好ましい。また、膨張度が2.5cm/g以上である熱膨張性黒鉛を採用することが好ましい。さらに、前記熱膨張性黒鉛を含有する前記高分子電解質23には、熱膨張性黒鉛4の含有量が5重量%〜40重量%の範囲のものを採用することが好ましい。さらに、また、熱膨張性黒鉛4の性能指数(膨張度(cm/g)と含有量(重量%)の積)を100以上となるものを採用することがより好ましい。従って、これらの条件を満たすように、熱膨張性黒鉛を選定して、この熱膨張性黒鉛を前記導電性接着剤層36の内部に含有させることにより、短絡などによる熱付加時に電流を確実に遮断することができる。
【0115】
本実施例3においては、従来の導電性接着剤層を、熱膨張性黒鉛を含有する導電性接着剤層36に変更するだけで、ヒューズ機能を有する半導体回路装置30が得られるので、半導体回路装置に従来のヒューズを内蔵させる場合に比べて、半導体回路装置30の製造のための低コスト化が図れる。
【0116】
なお、本発明は、上記した固体電解コンデンサ、二次電池、あるいは半導体回路装置などの電子部品の実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【0117】
上記の固体電解コンデンサの実施形態の説明においては、弁作用金属からなる金属粒子の多孔質焼結体からなる陽極体を採用した固体電解コンデンサの実施例を示したが、本発明はこれに限らない。たとえは、弁作用金属からなる陽極箔を採用した固体電解コンデンサであってもよい。この場合にも同様の効果を享受することができる。
【0118】
上記の固体電解コンデンサの実施形態の説明では、化学重合法を用いて、熱膨張性黒鉛を含有する導電性高分子層を形成した実施例を示したが、本発明はこれに限らない。たとえば、電解重合法を用いて形成してもよいし、化学重合法と電解重合法とを組み合わせて形成してもよい。こうした場合にも同様の効果を享受することができる。
【0119】
上記の各実施形態では、熱膨張性黒鉛を含有する導電性高分子層を、単一層の導電性高分子層からなる単層構造で採用した例を示したが、本発明はこれに限らない。たとえば、複数層の導電性高分子層からなる積層構造で採用し、この積層構造の少なくとも1層の導電性高分子層に熱膨張性黒鉛を含有するようにしてもよい。なお、導電性高分子層を積層構造とする場合には、各層をすべて同一の材料としてもよいし、あるいは各層を異なる材料としてもよい。こうした場合にも同様の効果を享受することができる。
【0120】
上記の各実施形態では、粒子状の熱膨張性黒鉛粉末を採用した例を示したが、本発明はこれに限らない。たとえば、フレーク状の熱膨張性黒鉛粉末を採用してもよいし、また粒子状とフレーク状の混合粉末を採用してもよい。こうした場合にも同様の効果を享受することができる。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】(A)本実施形態に係る固体電解コンデンサの構成を示す概略断面図、(B)同固体電解コンデンサにおける導電性高分子層近傍の部分拡大図。
【図2】熱負荷により熱膨張性黒鉛が膨張する前後の状態を示す模式図。
【図3】従来のヒューズ内蔵型の固体電解コンデンサの構成を示す概略断面図。
【図4】本実施形態に係る二次電池の構成を示す概略構造図。
【図5】(A)本実施形態に係る半導体回路装置の概略平面図、(B)同装置の概略断面図。
【符号の説明】
【0122】
1 陽極体、1a 陽極リード、2 誘電体層、3 導電性高分子層、4 熱膨張性黒鉛、4a 黒鉛結晶、4b 層間物、5 陰極層、5a 導電性カーボン層、5b 銀ペースト層、6 陽極端子、7 陰極端子、8 モールド外装体、10 コンデンサ素子、20 二次電池、23 電解質層、30 半導体回路装置、36 導電性接着剤層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極体の表面に、誘電体層、導電性高分子層、及び陰極層が順次形成された固体電解コンデンサであって、
前記導電性高分子層は、熱膨張性黒鉛を含有していることを特徴とした固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記熱膨張性黒鉛は、前記誘電体層上に形成された前記導電性高分子層の全面にわたって分布していることを特徴とした請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記熱膨張性黒鉛は、膨張を開始する温度が300℃〜400℃の範囲であることを特徴とした請求項1または2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
温度300℃の環境下において、前記熱膨張性黒鉛が膨張し、前記陽極体と前記陰極層との間に電流が流れなくなることを特徴とした請求項1または2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記熱膨張性黒鉛は、前記導電性高分子層の総重量に対する含有量(重量%)と、膨張度(cm/g)との積が100以上であることを特徴とした請求項1〜4のいずれか一項に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記熱膨張性黒鉛は、膨張度が2.5cm/g以上であることを特徴とした請求項1〜5のいずれか一項に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項7】
前記熱膨張性黒鉛は、含有量が前記導電性高分子層の総重量に対して5重量%〜40重量%の範囲であることを特徴とした請求項1〜6のいずれか一項に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の固体電解コンデンサをはんだ部材を用いて実装した回路基板であって、
前記熱膨張性黒鉛は、膨張を開始する温度が前記はんだ部材が溶融する温度よりも高いことを特徴とした回路基板。
【請求項9】
高分子層を備えた電子部品において、
前記高分子層は、熱膨張性黒鉛を含有していることを特徴とした電子部品。
【請求項10】
前記請求項9記載の電子部品は、正極と負極との間に電解質層を備えた電池であって、
前記電解質層が前記熱膨張性黒鉛を含有した高分子層からなることを特徴とした電子部品。
【請求項11】
前記請求項9記載の電子部品は、基板上に集積回路チップを配置した集積回路装置であって、
前記集積回路チップと前期基板との間に、前記熱膨張性黒鉛を用いた前記高分子層を介在させたことを特徴とした電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−170882(P2009−170882A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293504(P2008−293504)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】