説明

電子部品実装構造の信頼性評価方法

【課題】
はんだ接続部を含む電子部品実装構造の信頼性を高い精度で評価すること。
【解決手段】
本発明による電子部品実装構造の信頼性評価方法は:(1)この電子部品実装構造のはんだ接続部に複数回の温度サイクルを繰り返し印加して、このはんだ接続部をその内部におけるクラックの進展で破断せしめる第1の温度サイクル数N1と、その熱抵抗を所定の値Rpより高く上昇せしめる第2の温度サイクル数N2とを基準として導出する工程と;(2)評価対象となる実装構造で測定された熱抵抗Roと所定の熱抵抗値Rpとの比較に基づき且つ前記第2サイクル数N2を基準として評価対象への印加が許容される前記温度サイクルの許容値Naとを算出する工程と;(3)第1サイクル数N1と温度サイクルの許容値Naとの比較から評価対象となる実装構造のはんだ接続部の信頼性を評価する工程とをこの順に行い、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだによる電子部品の実装構造の、温度サイクルに対する信頼性の予測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子等の電子デバイスを基板上に実装するためのはんだ接続部には、その温度サイクル試験や実使用環境によるクラックが進展し、最後にはその破断による基板とこれに実装された電子デバイスとの導通不良が引き起こされることが多い。はんだ接続部にこれが破断するまで印加される温度変化のサイクル数を破断寿命といい、精度よく予測された破断寿命は、十分な信頼性を有する製品開発にフィードバックされている。
【0003】
【特許文献1】特開平8−29210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子デバイスに起こる不良の原因は、これを基板に固定するはんだの破断による導通不良や、このデバイス温度の上昇によるこれ自体の機能障害があり、電子デバイスの信頼性はこの二つの不良モードに対して考慮される必要がある。電子デバイスの温度は一般にその発熱により上昇するが、その温度(デバイス温度)がその耐熱温度を超えるとその機能に障害が生じ、電子デバイスの不良を起こすこともある。このため発熱量の大きな電子デバイスほど、これを基板等に実装して成る「電子部品実装構造」の放熱性が重要となる。
【0005】
一方、はんだ接続部等の熱伝導部材におけるクラックの進展は、その破断の前に電子デバイスに設けられた排熱経路の熱抵抗を上昇させ、電子デバイスの機能の低下や停止を惹き起こすこともある。電子部品実装構造の放熱性評価は、通常、そのテストサンプルの熱抵抗測定により行なわれる。例えば、テストサンプルの熱伝導シミュレーションにより、当該電子部品実装構造の放熱性評価が効率よく行なわれることもある。
【0006】
しかし、図2に示されるような、電子デバイス210がはんだ220により基板240(これに設けられた配線層230上)に実装された電子部品実装構造において、その加速試験で当該電子部品実装構造の雰囲気温度の変調、所謂温度サイクルにより、はんだ220に生じたクラック250がその内部で進展する過程での、「電子デバイス210の放熱性(電子デバイス210の上面のA点260から基板240の下面のB点270に到る熱伝導路(AB間)の熱抵抗)の変化」を予測する方法は確立されていなかった。電子部品実装構造の言わば遷移状態にある熱伝導を熱抵抗計算により予測するシミュレーションは、その結果が当該熱伝導の実際と大きく乖離するため、電子部品実装構造の放熱性評価に用いるには問題があった。
【0007】
そのため、電子部品実装構造の温度サイクル経過後の放熱性は、これに類似したテストサンプルを試作し、これらに温度サイクル試験等を経験させて、そのはんだ接合部に実際にクラックを進展させた後、夫々の熱抵抗を実測するという帰納的な手法で予測せざるを得なかった。しかし、電子部品実装構造(電子デバイスモジュール)の製品の多様化に伴い、多種類のモデルの試作、試験、及び評価が必要となり、夫々の製品の放熱性を評価するには膨大な時間と手間を掛けざるを得なかった。
【0008】
斯様な技術的背景に鑑み、本発明は、クラックが進展しつつあるはんだ接合部の熱抵抗の新規な予測法を提供して、実装構造の温度サイクルを経た後の放熱性評価を効率化すること、および、破断寿命と熱抵抗の二つの観点からはんだの信頼性を評価する手法を提供して、実装構造の信頼性予測精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的に鑑み、本発明は、はんだ接続部により電子部品が実装された実装構造の信頼性を、これに加えられる温度サイクル数とこの熱抵抗の関係(それにより求まる熱抵抗寿命)と、このはんだ接続部のはんだ破断寿命とで評価する新規な手法を提供する。はんだ接続部の破断寿命は、これに用いられるはんだの寿命予測曲線から求められ、例えば当該寿命予測曲線と上記実装構造の熱応力シミュレーションとにより得られる。温度サイクル数とこれが印加される実装構造の熱抵抗との関係は、温度サイクル数に対する実装構造のはんだ接続部形状の変化と、このはんだ接続部におけるクラック発生部の伝熱を考慮した熱伝導シミュレーションにより構築される。なお、温度サイクルの試験条件とその試験を受ける前記実装構造の熱抵抗とを定義する2点は、例えば、本発明による評価手法を行なおうとする者が任意に設定する。
【0010】
一方、温度サイクル数とこれを経験した実装構造のはんだ接続部形状との関係は、実装構造のはんだ接続部の破断寿命とクラック進展速度とにより構築される。クラック進展速度は、例えば本発明による評価手法を行なおうとする者が任意に設定し、又は、実験的に調査された温度サイクル数とはんだ接続部形状の関係を調査することにより得ればよい。
【0011】
熱伝導シミュレーションにおいて、はんだ接続部に生じたクラックには仮想的な熱伝導率を与えるとよく、例えばクラックをゼロより大きな熱伝導率を有する仮想物質に擬えるとよい。クラック(仮想物質)に与える熱伝導率は、例えば、はんだ接続部を含む実装構造の当該はんだ接続部で隔てられた2点の間の熱抵抗を実験的に測定した結果と熱伝導シミュレーションの結果との照合により規定される。
【発明の効果】
【0012】
本発明による信頼性評価方法を用いることで、特に高熱を発し易い電子部品が搭載された実装構造(電子デバイスモジュール)に対しても、そのはんだ接続部に印加される温度サイクルに対する当該実装構造の寿命の変化を高精度に予測することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施形態を、下記実施例とこれに関連する図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、本発明による電子部品実装構造の信頼性評価の流れを纏めたブロック図であり、その流れには、評価対象となる実装構造の熱抵抗寿命と破断寿命による信頼性評価工程110と、その評価基準となる実装構造の熱抵抗予測曲線の構築工程120及び実装構造のはんだ接続部に生じたクラックの仮想熱伝導率λの導出工程130とが含まれる。
【0015】
上述した熱抵抗予測曲線の構築工程120及び仮想熱伝導率λの導出工程130による作業は、実装構造の信頼性評価工程110毎に必ずしも要請されない。過去に導出された熱抵抗予測曲線や仮想熱伝導率λで被検体(Device under Test)の信頼性が適切に評価できれば、この信頼性評価工程110に対して熱抵抗予測曲線や仮想熱伝導率λを新たに求める必要はない。
【0016】
しかし、本発明による電子部品実装構造の信頼性評価方法の顕著な特徴は、仮想熱伝導率λの導出工程130や熱抵抗予測曲線の構築工程120にも認められるため、下記実施例ではこれらも含めた本発明による電子部品実装構造の信頼性評価方法が説明される。
【0017】
〔クラックの仮想熱伝導率λの導出工程130〕
本工程で求める仮想熱伝導率λは、後述する熱抵抗予測曲線の構築工程120における実装構造での熱伝導のシミュレーションに用いられる定数であり、評価対象となる実装構造と同等又はこれに類似するように構成され、又はこれに等価な熱伝導特性を示す構造体のはんだ接続部に生じたクラックの値として求められる。
【0018】
本工程には、上記構造体の試作品(Prototype)の実験による熱抵抗測定132と、これをモデルとした熱伝導シミュレーション133と、これらの結果を照合して仮想熱伝導率λを決める工程131とが含まれる。
【0019】
実験による熱抵抗測定132は、試作品のはんだ接続部を成すはんだ中にクラックを進展させた状態で行なわれる。はんだ接続部におけるクラックの仮想熱伝導率λは、当該はんだ接続部を含む構造体の形状より、これを構成するはんだの組成に大きく依存するため、試作品もそのはんだ接続部が評価すべき実装構造に含まれるはんだ接続部と同じ「はんだ」で形成される限りにおいて、その形状は特に制限されない。本実施例では、試作品として、図3に示すようなSiチップ(シリコンチップ)310をCu板(銅板)330にSn−3Ag−0.5Cuはんだ320にてはんだづけして成る構造体が用意された。Siチップ310は、その裏面(図3における下面)の全域が、はんだに濡れるようにNiでめっきされている。
【0020】
前記熱抵抗測定132では、上述した試作品に温度サイクルを繰り返して印加する実験(以下、温度サイクル試験)を行ない、そのはんだ320中にクラック340を生じさせ、且つ進展させる。はんだ320によるSiチップ310とCu板330との接続状態は、その接続面積(図3ではSiチップ310の裏面面積)に対するクラック発生領域の面積の比率である「破断面積率」として評価される。試作品のはんだ接続部(はんだ320)の面内におけるクラック340の発生面積は、SAT(超音波探傷)等により確認され、その後、試作品の熱抵抗が測定される。なお、仮想熱伝導率λの精度を上げるためには、上記破断面積率が50%以上となっていることが望ましい。
【0021】
試作品や後述する実装構造の「熱抵抗」は、その所定の2点における温度差を、当該2点間に生じる熱流(単位時間あたりに流れる熱量)で除することで得られる。本実施例における試作品の熱抵抗測定132では、これを構成するSiチップ310の上面中央部の点A(350)とCu板下面との間の温度差と熱流から、その熱抵抗が求められる。ただし、Cu板330の下面の温度は一様と見なされるため、この面をその面内における点B(360)に代表させて、その温度が測定される。Siチップ310の上面及び側面、はんだ接続部(はんだ320)の側面、並びにCu板330の側面から空気中への放熱は、Siチップ310とCu板330との間で移動する熱量に比べて非常に小さいため、試作品の熱抵抗測定において無視できる。換言すれば、Siチップ310の上面で発生した熱はすべてCu板330の下面へ流れ込むと考えられるため、その間に生じる熱流は試作品(実装構造)全体の発熱量に等しい。したがって点A(350)と点B(360)との温度をそれぞれTA、TBとし、発熱量をPとすると、AB間の熱抵抗Rは次式で与えられる。
(数1)
R=(TA−TB)/P … 式1
本実施例の試作品を成すSiチップ310に通電させるなどして、これを任意の発熱量で発熱させ、熱電対などにより点A(350)および点B(360)の温度を測定すると、前式により熱抵抗Rが算出される。このようにして、適当なクラックがはんだ接続部に進展された試作品の当該はんだ接続部で隔てられた2点A,B間の熱抵抗が実験的に求められる。
【0022】
熱伝導シミュレーション133では、上記試作品(実験サンプル)と同様にクラックが進展したはんだ接続部を有する構造体をモデルとして、その2点間(前記試作品のAB間に対応)の熱抵抗を計算され、仮想熱伝導率λを決める工程131では、熱伝導シミュレーション133で求められた「熱抵抗(計算値)」と前記実験(132)の結果として得られた「熱抵抗(測定値)」とが照合されて、クラックの仮想熱伝導率λが規定される。
【0023】
図4には、この熱伝導シミュレーション133に用いられた構造体のモデルが示される。このモデルも、図3に示された試作品と同様に、Siチップ410をCu板430にSn−3Ag−0.5Cuはんだ420で固定して成る構造体を呈し、Sn−3Ag−0.5Cuはんだ420内にはクラック440が形成されている。通常の熱伝導シミュレーションモデルでは、その熱流路に生じたクラックやボイドは断熱空間と見なされるが、本発明においては“0(ゼロ)”ではない熱伝導率λを持つ仮想物質としてクラック440を表現する。なお、クラック440は一様な厚さを持ち、上面および下面が接続面に平行な直方体形状であるとする。クラック440の厚さは任意であるが、ここでは同様なサンプルに生じたクラックの観察結果に基づき5μmとする。また、Siチップ410の主面に垂直な方向(Siチップ410の厚み方向)にz座標を取り、Siチップ410/はんだ420界面をz=0、はんだ420/配線(Cu板430)界面をz=dとすると、はんだクラック440は0<z<dにかけて発生しうる。しかし、シミュレーションにおいてzがモデルの熱抵抗に与える影響は小さく、無視できる。ここではクラック440の発生位置ははんだの中腹(z=d/2)としている。上記ルールに基づいてシミュレーションモデルを作製し、熱抵抗を計算する。チップ410に実験と同様な発熱を与え、λの値を変化させて熱伝導シミュレーションを行ない、その上面における点A(450)とCu板430の下面における点B(460)との温度を計算する。その後、先述した式1により熱抵抗を算出する。仮想熱伝導率λを大きく設定すると「構造体(点AB間)の熱抵抗」は実験結果のそれより小さくなり、これを小さく設定すると「構造体の熱抵抗」は実験結果のそれより大きくなる。このように仮想熱伝導率λを変えながら計算を繰り返し、これに対応する構造体の「熱抵抗」が実験結果として得られた「熱抵抗」と一致したときのλをクラックの仮想熱伝導率として規定する。
【0024】
〔熱抵抗予測曲線の構築工程120〕
熱抵抗予測曲線の構築工程120は、評価対象となる「電子部品実装構造」の形状(設計)の変更毎に行なうことが望ましい。以下、本工程で述べる構造体は、これが新たに設計されたものであることに鑑み、「新規構造体(Newly Designed Structure)」と記される。本工程における「新規構造体」の熱抵抗予測曲線の構築120は、3つの主要工程より構成される。すなわち、「新規構造体」におけるはんだ接続部の寿命(以下、はんだ破断寿命)を取得する工程125、「新規構造体」に印加される温度サイクル数と「新規構造体」のはんだ接続部形状の関係を構築する工程123、及び「新規構造体」に印加される温度サイクル数と「新規構造体」の熱抵抗の関係の構築121である。
【0025】
図5には、「新規構造体」の一例が示される。この一例は、Siチップ510をSn−3Ag−0.5Cuはんだ520により基板560に実装していることで、図3及び図4を参照して説明した電子部品実装構造と共通するが、基板560の母材となるCuベース550の主面には絶縁樹脂膜540が形成され、且つ絶縁樹脂膜540上にはNi配線530が形成(パターニング)されること、及びこのNi配線530にSiチップ510が上述したはんだ520で固定されていることで先述の実装構造(試作品)と相違する。
【0026】
この「新規構造体」の熱抵抗は、Siチップ510の上面内の点A(570)からCuベース550(基板560)の下面に到り且つはんだ520が介挿された熱流路について求められるが、Cuベース550の下面の温度が一定であるとの想定の下、その下面の温度は当該下面内の点B(580)にて測定される。
【0027】
新規構造体のはんだ破断寿命の取得工程125において、この寿命は、既に知られ又は予め求められた「はんだの寿命予測曲線(128)」に基づく「熱応力シミュレーション(127)」により求める。図6には、Sn−3Ag−0.5Cuはんだの寿命予測曲線が示される。図6に示されたグラフの縦軸は「はんだに発生するひずみ振幅の最大値」が示され、横軸にはクラック進展によりはんだが破断するときの温度サイクル数(=破断寿命)の関係を表している。
【0028】
新規構造体のはんだ接合部に発生する最大ひずみ振幅は、その熱応力シミュレーションにより求まる。例えば、図5に示された新規構造体の熱応力シミュレーションを行ない、そのはんだ接続部520に発生するひずみを計算すると、ひずみ振幅ははんだのコーナー部分(図5の右側におけるSiチップ510の面の四隅)で最大となり、その大きさはε%である。この結果を図6とともに検討すると、最大ひずみ振幅:ε%の発生で、被検体である新規構造体の50%のはんだ接続部520を破断せしめるに要する温度サイクル数(即ち、はんだ接続部520の破断寿命)はNサイクルとなる。このサイクル数Nは、信頼性が評価されるべき実装構造の50%に対して、「はんだ接続部をその内部におけるクラックの進展で破断せしめる温度サイクルの第1サイクル数N1」でもある。信頼性が評価されるべき実装構造の5%及び100%に対する第1サイクル数N1の値は、その50%に対する値と互いに異なる。例えば、実装構造の量産ラインにて、その歩留まりをどの割合で確保するかにより、第1サイクル数N1の数値も変わる。
【0029】
温度サイクル数とはんだ接続部形状との関係は、はんだ破断寿命とクラック進展速度により、有限要素法を用いて構築される(工程123)。この関係を構築する上で参照される「クラック進展速度」は、次のように定義される(工程124)。はんだ接続部520におけるSiチップ510と基板560との間の熱流路をなす領域の割合(以下、はんだの接続面積)は、当該はんだ接続部520におけるクラックの進展により減少していく。一般に長方形の接続面を有するはんだ710(例えば、はんだ接続部520に相当)に熱衝撃が加わると、図7に示すように長方形の角部分に優先的にクラック730が入り、その後、この熱流路となる面(接続面)は、その四隅が徐々に削られて楕円形720を呈する。楕円状のはんだ接続部720を囲むように進行するクラック730は、徐々に楕円の長軸と短軸との差を縮めるように進行し、円形のはんだ接続部740を囲むクラック750となる。換言すれば、クラック730は楕円状のはんだ接続部720の周縁沿いに等方的に進行せず、一時的にSiチップ510の矩形接合面の短辺方向を接線とする部分に優先的に進行する。その後、円形のはんだ接続部740を囲むクラック750は、はんだ接続部740を円形に保ちながらその半径を徐々に小さくするように進展する。
【0030】
このようなクラック730,750の挙動を、接続部720,740の中心点Oを原点とした極座標(r,θ)により、Oから初期接続部の端部までの長さを初期接続長L(θ)とし、温度サイクルの繰り返し回数(サイクル数)nにおけるOからクラック端部までの長さを接続長l(θ,n)、クラック端部から初期接続部端部までの長さをクラック長lcr(θ,n)と設定する。この接続長lは、初期接続長Lからクラック長lcrを減じたものであり、その関係は次式で妨げられる。
(数2)
l(θ,n)=L(θ)−lcr(θ,n) … 式2
温度サイクルの1サイクルにおけるクラック長lcrの増加量は、クラック進展速度:vcr(θ,n)として、累積されたサイクル数nに対して次式の如く定まる。
【0031】
【数3】

【0032】
このvcrを用いて、温度サイクル数:nと接続部形状との関係を構築する(工程121)。ここではvcrはθのみに依存し、nでは変化しないものとする。破断寿命がNサイクルであるので、例えばθ=0rad(0ラジアン)においてvcr(0)=(a/2)/N=aN/2、θ=π/2においてvcr(π/2)=(b/2)/N=bN/2となり、接続部形状の変化はおよそ図8のようになる。これを用いて接続部形状と構造体の熱抵抗の関係を構築する(工程123)。
【0033】
この関係を以って、図5に示された実装構造の熱抵抗が、温度サイクルの繰り返し回数(サイクル数)nとこれによるはんだ接続部で接続面の減少に対する変化として、熱伝導シミュレーションにより計算される(工程122)。この熱伝導シミュレーションでは、先述した如く算出され又は所与の「クラックの仮想熱伝導率λ」が参照される(工程126)。熱伝導シミュレーションで計算した結果、温度サイクルのnサイクル、nサイクル、nサイクル、及びnサイクルの印加において(ただしn<n<n<n)、はんだ接続部における接続面の面積は、それぞれ初期状態(例えば図7,8に示される矩形のはんだ面710)のf%、f%、f%、f%と計算された(ただしf>f>f>f)。なお、より正確な温度サイクル数とはんだ接続部の形状との関係を熱伝導シミュレーションに反映させたい場合は、評価対象と同様な実装構造の試作品を用意し、これに印加した温度サイクル試験の回数に応じて、試作品のはんだ接続部の形状を逐次SAT等により調査してもよい。
【0034】
温度サイクル数と新規構造体の熱抵抗との関係は、温度サイクル数と新規構造体のはんだ接続部形状の関係123と、熱伝導シミュレーション122とにより構築される(工程121)。上述したはんだ接続部形状を有する新規構造体に適当な発熱を与えた状態で熱伝導シミュレーション(工程122)を行ない、その温度分布を計算することで、熱抵抗が得られる。たとえば、nサイクル、nサイクル、nサイクル、nサイクルにおける熱抵抗はそれぞれr,r,r,r℃/Wとなった(図9参照)。評価対象たる電子部品実装構造に、その熱抵抗をr℃/W以下に抑えることが要請されているとき、これに許容される熱抵抗寿命はnサイクル以下となる(ただし、n<n<n且つr<r<r)。このように規格が定められた電子部品実装構造において、そのはんだ接続部に許容される形状(上述した破断面積率)も、その熱抵抗寿命(許容される温度サイクル試験の回数):nを基準として特定される。電子部品実装構造の品質管理の基準として、その熱抵抗:r℃/Wを所定の値Rpと定めるとき、これに対応する温度サイクル数:nは、当該実装構造の熱抵抗を所定の値Rpより大きくしないための基準、即ち第2サイクル数N2となる。
【0035】
〔実試料の信頼性評価工程110〕
熱抵抗予測曲線を用いた実試料(例えば、出荷直前の電子部品実装構造)の信頼性は、上述の如く求めた「熱抵抗予測曲線」による、そのはんだ接続部の破断寿命113及び当該実装構造の熱抵抗寿命112により評価される(工程110)。例えば、電子デバイスモジュール等の実装構造の量産ラインにおいて、個別に評価することが困難であったロット毎のはんだ接続部の形状検査が、その熱抵抗検査に置き換えられる。これにより、実装構造の不良品発生が迅速且つ確実に発見され、その不良ロットの増加が抑えられる。
【0036】
例えば、評価対象となる実装構造で測定され又はこれに要請される熱抵抗Roと上述した所定の熱抵抗値Rpとの比較に基づき且つ第2サイクル数N2を基準として、この評価対象への印加が許容される温度サイクルの繰り返し回数(許容値Na)が算出される。次にこの実装構造に対応した温度サイクルの第1サイクル数N1とこれに許容された値Naとの比較から、この実装構造のはんだ接続部の信頼性が評価される。
【0037】
このように、本発明を実施すれば、電子部品実装構造が新規な形状を呈しても、その信頼性をはんだ破断寿命と熱抵抗との双方の観点から評価できる。また、多様な実装構造を試作することなく、また多様な実験を行なわずに、シミュレーションによって、クラックが入ったはんだ接続部を有する実装構造の熱抵抗が予測できるため、試作および評価にかかる時間とコストを減ずることができる。なお、実装構造の設計変更によっては、クラックの仮想熱伝導率λや熱抵抗予測曲線の構築を再度行なう必要はない。また、はんだ接合部に用いるはんだ(合金)の組成が同じ複数種の実装構造の評価においては、クラックの仮想熱伝導率λを改めて得る必要はなく、これらの形状に応じた熱抵抗予測曲線の構築120を改めて行うだけでよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明による電子部品実装構造の信頼性評価方法によれば、例えば実装基板に半導体素子等の部品をはんだ付けして成るモジュールの品質管理が簡便且つ確実に行なえる。特に、SAT(超音波探傷)等で時間をかけねば発見できなかったモジュール製品のはんだ接続部における部分的な破損も、その熱抵抗測定だけで迅速に把握でき、その不良ロットの増産が未然に抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の概略を示すフローチャートである。
【図2】一般的なICチップの実装形態の一例である。
【図3】本発明におけるクラックの熱伝導率の規定に用いるサンプルの一例である。
【図4】本発明においてクラックの熱伝導率の規定のために実施する熱伝導シミュレーションモデルの模式図である。
【図5】本発明を実施することにより熱抵抗を予測するサンプル例である。
【図6】Sn−3Ag−0.5Cuはんだの寿命予測曲線の一例である。
【図7】接続面が長方形であるはんだ接続部の一般的なクラック進展過程の模式図である。
【図8】本発明にて仮定するクラック進展速度によるクラック進展過程である。
【図9】本発明を利用することにより求まる温度サイクル数と熱抵抗の関係の一例である。
【符号の説明】
【0040】
210,310,410,510…Siチップ、220,320,420,520…はんだ(はんだ接続部)、230,530…配線層、240,330,430,550…Cuベース(基材)、250,340,440…クラック。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
はんだ接続部により電子部品が実装された実装構造の信頼性評価方法であって、
前記はんだ接続部に複数回の温度サイクルを繰り返し印加して、
該はんだ接続部をその内部におけるクラックの進展で破断せしめる該温度サイクルの第1サイクル数N1と、
前記実装構造の熱抵抗を上昇せしめ且つ所定の値Rpを超えさせる該温度サイクルの第2サイクル数N2とを導出した後、
評価対象となる実装構造で測定され又はこれに要請される熱抵抗Roと前記所定の熱抵抗値Rpとの比較に基づき且つ前記第2サイクル数N2を基準として該評価対象への印加が許容される前記温度サイクルの許容値Naを算出し、
前記第1サイクル数N1と前記温度サイクルの許容値Naとの比較から前記評価対象となる実装構造のはんだ接続部の信頼性を評価することを特徴とする電子部品実装構造の信頼性評価方法。
【請求項2】
前記第1サイクル数N1に到る前記温度サイクルが印加されてきた前記実装構造の前記はんだ接続部における熱伝導を、該実装構造のはんだ接続部に想定されるクラックの進展をモデルとした有限要素法により解析し、且つ
該第1サイクル数N1の温度サイクルが印加された該はんだ接続部に進展したクラックを、ゼロでない特定の熱伝導率を持つ仮想物質に置き換えることを特徴とする請求項1記載の電子部品実装構造の信頼性評価方法。
【請求項3】
前記実装構造の前記はんだ接続部の形状を、前記温度サイクルの1サイクル毎における前記クラックの端部の位置とその進展速度により定めることを特徴とする請求項2記載の電子部品実装構造の信頼性評価方法。
【請求項4】
前記はんだ接合部における前記クラックの進展速度は、前記実装構造と同様な構造体を試作し、これに前記温度サイクルを繰り返し加えることにより、該温度サイクルの繰り返し回数とそれに応じた該構造体におけるはんだ接続部の形状との関係を求めて得られることを特徴とする請求項3記載の電子部品実装構造の信頼性評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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