説明

電子部品用セパレータ

【課題】本発明は、耐熱性に優れる高信頼性の電子部品用セパレータを提供する。
【解決手段】引張荷重4KPa、昇温速度10℃/分で300℃まで熱膨張測定した際の50℃から最大試料長に達した温度までのTMA曲線と直線とで囲われた部分の積分値が0.7mm×分以下で、且つ、50℃から300℃までの最大伸び率が2.0%未満である湿式不織布からなる電子部品用セパレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れる高信頼性の電子部品用セパレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気二重層キャパシタのセパレータとしては、再生セルロースや溶剤紡糸セルロースを主体とする紙製セパレータ(例えば、特許文献1、2参照)が使用されてきた。有機溶媒と電解質からなる電解液を備えた電気二重層キャパシタにおいては、水分がわずかでも混入すると所定の電圧にならない、電圧がふらつく、内部抵抗が大きくなるなど電気二重層キャパシタ特性に悪影響を及ぼすため、電極とセパレータを一緒に高温で長時間乾燥させてこれら部材に含まれる水分を除去してから電気二重層キャパシタが製造されている。溶剤紡糸セルロースを主体とする電解紙やセパレータは、200℃以上の高温で処理するとセルロース成分が炭化や分解してしまう問題と、充放電で体積膨張と収縮を繰り返す電極を用いた場合には、セパレータが破れてしまう問題があった。最近では耐熱性に優れるアラミド薄葉材(例えば、特許文献3参照)が提案されているが、強度が弱く取り扱いにくい問題と耐久性が悪い問題があった。
【0003】
従来、電解コンデンサのセパレータとしては、再生セルロースや溶剤紡糸セルロースを主体とする紙製セパレータ(例えば、特許文献4参照)が用いられてきた。しかし、これらのセパレータは、最近の半田の脱鉛化に伴う高融点半田による半田リフローでは、半田リフロー後に内部抵抗が上昇したり、漏れ電流が増加するなどの問題があった。
【特許文献1】特開平11−168033号公報
【特許文献2】特開2000−3834号公報
【特許文献3】特開2005−307360号公報
【特許文献4】特開平5−267103号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、耐熱性に優れる高信頼性の電子部品用セパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、特定の条件で熱膨張測定して得られる曲線(以下、TMA曲線と表記する)において、TMA面積と伸び率が特定の範囲にある湿式不織布からなる電子部品用セパレータが、耐熱性に優れ、高性能の電子部品を実現できることを見出し、本発明に至った。
【0006】
即ち、本発明は、湿式不織布からなる電子部品用セパレータにおいて、引張荷重4KPa、昇温速度10℃/分で300℃まで熱膨張測定した際の50℃から最大試料長に達した温度までのTMA曲線と直線とで囲われた部分の積分値が0.7mm×分以下で、且つ、50℃から300℃までの最大伸び率が2.0%未満である電子部品用セパレータである。
【0007】
本発明においては、湿式不織布が、フィブリル化耐熱性繊維、非フィブリル化耐熱性繊維、フィブリル化セルロースの3成分を必須成分とし、必須3成分の合計含有量が45〜100質量%、非フィブリル化非耐熱性繊維の含有量が55〜0質量%で、フィブリル化耐熱性繊維と非フィブリル化耐熱性繊維の合計含有量が40質量%以上であることが好ましい。
【0008】
本発明においては、フィブリル化耐熱性繊維が、フィブリル化パラ系全芳香族ポリアミド繊維であることが好ましい。
【0009】
本発明においては、非フィブリル化耐熱性繊維が、非フィブリル化パラ系全芳香族ポリアミド繊維であることが好ましい。
【0010】
本発明においては、電子部品が、電気二重層キャパシタであることが好ましい。
【0011】
本発明においては、電子部品が、電解コンデンサであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、耐熱性に優れる高信頼性の電子部品用セパレータが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の電子部品用セパレータについて詳説する。
【0014】
本発明における電子部品とは、対向する2つの電極間に誘電体または電気二重層を挟んだ形で構成されてなる蓄電機能を有するものである。前者はアルミ電解コンデンサやタンタル電解コンデンサなどが挙げられ、蓄電機能の他にノイズ吸収、共振などの機能も持つ。後者は電気二重層キャパシタが挙げられる。電気二重層キャパシタの電極としては、一対の電気二重層型電極、一方が電気二重層型電極でもう片方が酸化還元型電極の組み合わせの何れでも良い。電解液には、イオン解離性の塩を溶解させた水溶液、プロピレンカーボネート(略称PC)、エチレンカーボネート(略称EC)、ジメチルカーボネート(略称DMC)、ジエチルカーボネート(略称DEC)、アセトニトリル(略称AN)、γ−ブチロラクトン(略称BL)、ジメチルホルムアミド(略称DMF)、テトラヒドロフラン(略称THF)、ジメトキシエタン(略称DME)、ジメトキシメタン(略称DMM)、スルホラン(略称SL)、ジメチルスルホキシド(略称DMSO)、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの有機溶媒にイオン解離性の塩を溶解させたもの、イオン性液体(固体溶融塩)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。水溶液系と有機溶媒系の何れも利用できる電気化学素子の場合は、水溶液系は耐電圧が低いため、有機溶媒系の方が好ましい。電解液の代わりにポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、これらの誘導体などの導電性高分子膜を用いても良い。
【0015】
本発明に用いるTMAとは、試料の温度を変化させながら、圧縮、引張、曲げ、ねじりなどの非振動的荷重を加えてその物質の変形を温度の関数として測定する方法のことである。さらに熱膨張測定とは、先端がチャックを支持できる構造のプローブを用いて、2個の小型チャックで試料の上端と下端を固定して、引張方向に測定温度範囲で試料が変形しない程度の引張荷重を加えたときの熱膨張による変位を測定する方法のことであり、横軸に温度又は時間を取ったものがTMA曲線である。
【0016】
本発明の電子部品用セパレータは、引張荷重4KPa、昇温速度10℃/分で300℃まで熱膨張測定した際の50℃から最大試料長に達した温度までのTMA曲線と直線とで囲われた部分の積分値が0.7mm×分以下で、且つ、50℃から300℃までの最大伸び率が2.0%未満であるが、このことはTMA曲線が直線的で傾きが小さく、温度上昇に伴って電子部品用セパレータが引張方向に急激かつ大幅に伸び縮みしたり、切断しないことを意味する。そのため本発明の電子部品用セパレータは、200℃以上、特に230℃以上の高温に曝されても、変形や劣化しにくい。本発明においては、最大試料長に達する温度は280〜300℃が好ましく、300℃に近い程好ましい。50℃から300℃までの最大伸び率とは、50℃のときの試料長さをL50、300℃までの間で示した最大試料長をLmaxとしたとき、(Lmax−L50)/L50×100で算出される値を指す。TMA面積が0.7mm×分より大きいか、最大伸び率が2.0%以上の場合は、温度上昇に伴って電子部品用セパレータが急激に伸びたり、縮んだり、切断することを意味する。電子部品用セパレータの急激な伸び縮みや切断は、電子部品用セパレータを構成する繊維の軟化、溶融、劣化、分解などに起因している。そのため最大伸び率が2.0%以上のセパレータは、200℃以上、特に230℃以上の高温で処理されると、繊維同士の絡みや結合力が弱くなり、その上、電解液が含浸されることにより繊維がほぐれやすくなるため、該セパレータを具備した電子部品に振動、衝突、落下などの衝撃や荷重が加わった場合や、充放電に伴って膨張・収縮する電極を用いた場合には、該セパレータに破れや亀裂が生じ、電子部品に致命的な欠陥が発生しやすくなる。また、該セパレータを具備した電子部品を半田付けした際には、該セパレータ形状が変形したり、セパレータの空隙の一部が塞がるなどして内部抵抗や電圧が不安定になったり異常値を示す場合がある。最大伸び率は0%以上であることが好ましい。
【0017】
本発明における耐熱性繊維とは、軟化点、融点、熱分解温度の何れもが250℃以上、700℃以下である繊維を指す。具体的には、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、全芳香族ポリエステルアミド、全芳香族ポリエーテル、全芳香族ポリカーボネート、全芳香族ポリアゾメチン、ポリフェニレンスルフィド(略称PPS)、ポリ(パラ−フェニレンベンゾビスチアゾール)(略称PBZT)、ポリベンゾイミダゾール(略称PBI)、ポリエーテルエーテルケトン(略称PEEK)、ポリアミドイミド(略称PAI)、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン(略称PTFE)、ポリ(パラ−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)(略称PBO)からなる繊維が挙げられ、これら単独でも良いし、2種類以上の組み合わせでも良い。PBZTはトランス型、シス型の何れでも良い。ここで、「軟化点、融点、熱分解温度の何れも250℃以上、700℃以下」の範疇には、軟化点や融点が明瞭ではないが、熱分解温度が250℃以上、700℃以下であるものも含まれる。全芳香族ポリアミドやPBOなどはその例である。これらの繊維の中でも、液晶性のため均一に細くフィブリル化されやすいパラ系全芳香族ポリアミド繊維が好ましい。
【0018】
本発明におけるパラ系全芳香族ポリアミドとは、パラ配向芳香族ジアミンとパラ配向芳香族ジカルボン酸ハライドとの重縮合で得られるポリマー、前述のモノマーに対して共重合率40%以下でメタ配向芳香族ジアミン、メタ配向芳香族ジハライド、脂肪族ジアミン、脂肪族ジカルボン酸などを重縮合して得られるポリマーであって、アミド結合が芳香環のパラ位またはそれに準じた配向位で結合した繰り返し単位からなるポリマーである。また、パラ配向芳香族ジアミンとパラ配向芳香族ジカルボン酸ハライドの芳香環の一部の水素原子は、アミド結合を形成しない置換基で置換されていても良く、芳香環は多環でも良い。アミド結合を形成しない置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン、スルフォニル基、ニトロ基、フェニル基、その他が挙げられる。アルキル基とアルコキシ基は、炭素数が長いと重縮合を阻害しやすくなるため、炭素数は1〜4が好ましい。例えば、芳香環の一部の水素原子がアルキル基で置換されたパラ配向芳香族ジアミンとしては、N,N´−ジメチルパラフェニレンジアミン、N,N´−ジエチルパラフェニレンジアミン、2−メチル−4−エチルパラフェニレンジアミン、2−メチル−4−エチル−5−プロピルパラフェニレンジアミンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、芳香環の一部の水素原子がアルコキシ基で置換されたパラ配向芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、ジメトキシテレフタル酸クロライド、ジエトキシテレフタル酸クロライド、2−メトキシ−4−エトキシテレフタル酸クロライドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、芳香環が多環なパラ配向芳香族ジアミンとしては、4,4´−オキシジフェニルジアミン、4,4´−スルフォニルジフェニルジアミン、4,4´−ジフェニルジアミン、3,3´−オキシジフェニルジアミン、3,3´−スルフォニルジフェニルジアミン、3,3´−ジフェニルジアミンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらに、これらの芳香環の一部の水素原子が、前述したように、アミド結合を形成しない置換基で置換されていても良い。例えば、芳香環が多環なパラ配向芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、4,4´−オキシジベンゾイルクロライド、4,4´−スルフォニルジベンゾイルクロライド、4,4´−ジベンゾイルクロライド、3,3´−オキシジベンゾイルクロライド、3,3´−スルフォニルジベンゾイルクロライド、3,3´−ジベンゾイルクロライドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらにこれらの芳香環の一部の水素原子が、前述したように、アミド結合を形成しない置換基で置換されていても良い。
【0019】
本発明におけるパラ系全芳香族ポリアミドとしては、上記したポリマーの中でも特に耐熱性に優れるポリ(パラ−フェニレンテレフタルアミド)やコポリ(パラ−フェニレン−3,4´−オキシジフェニレンテレフタルアミド)が好ましい。
【0020】
本発明におけるフィブリルとは、フィルム状ではなく、主に繊維軸と平行な方向に非常に細かく分割された部分を有する繊維状で、少なくとも一部が繊維径1μm以下になっている繊維を指し、フィブリッドとは製法、形状が異なる。長さと巾のアスペクト比は約20〜約100000の範囲に分布し、カナディアンスタンダードフリーネスは0〜500ml以下の範囲にあることが好ましく、0〜200mlの範囲にあることがより好ましい。さらに重量平均繊維長が0.1〜2mmの範囲にあるものが好ましい。
【0021】
本発明におけるフィブリル化は、リファイナー、ビーター、ミル、摩砕装置、高速の回転刃によりせん断力を与える回転刃式ホモジナイザー、高速で回転する円筒形の内刃と固定された外刃との間で剪断力を生じる二重円筒式の高速ホモジナイザー、超音波による衝撃で微細化する超音波破砕器、繊維懸濁液に少なくとも3000psiの圧力差を与えて小径のオリフィスを通過させて高速度とし、これを衝突させて急減速することにより繊維に剪断力、切断力を加える高圧ホモジナイザー等を用いて行うが、特に高圧ホモジナイザーで処理すると細かいフィブリルが得られるため好ましい。
【0022】
フィブリッドとは、非顆粒状、非剛性の繊維状またはフィルム状微小粒子で、繊維状の場合は、径と長さがμmの範囲にあり、フィルム状の場合は厚み、巾、長さのうち何れか1つの大きさがμmの範囲にあるものを指す。フィブリッドは、米国特許第2999788号明細書や米国特許第3018091号明細書に明示されているように、ポリマー溶液を貧溶媒(凝固浴)の中へ剪断沈殿させることによって製造される。
【0023】
本発明における非フィブリル化耐熱性繊維は、上記した耐熱性繊維でフィブリル化していないものを指す。非フィブリル化耐熱性繊維の繊度は0.01〜1.5dtexが好ましく、0.1〜0.9dtexがより好ましい。繊度が0.01dtex未満では、該繊維が脆くなりやすい。1.5dtexより大きいと電子部品用セパレータの目が粗くなりやすく、内部短絡の原因になりやすい。本発明においては、非フィブリル化耐熱性繊維の中でも、特に耐熱性に優れるポリ(パラ−フェニレンテレフタルアミド)やコポリ(パラ−フェニレン−3,4´−オキシジフェニレンテレフタルアミド)などのパラ系全芳香族ポリアミド繊維が好ましい。
【0024】
本発明における非フィブリル化非耐熱性繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、それらの誘導体などのポリエステル、ポリオレフィン、アクリロニトリル系共重合体(アクリル)、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、ポリエーテルスルホン(略称PES)、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルなどからなる単繊維や複合繊維が挙げられ、これら1種類でも良いし、2種類以上混合して用いても良い。ここで、半芳香族とは、主鎖の一部に例えば脂肪鎖などを有するものを指すが、これに限定されるものではない。これらの中でも、アクリロニトリル系共重合体からなる繊維は、TMA面積と伸び率を小さくする効果があるため好ましい。芯部がポリエチレンテレフタレートなど高融点の樹脂からなり、鞘部がポリエチレンイソフタレートなど低融点成分を含有する樹脂からなる芯鞘複合繊維は、電子部品用セパレータの強度を強くするため好ましい。
【0025】
本発明における非フィブリル化非耐熱性繊維の繊度は、0.01〜2.0dtexが好ましい。繊度が0.01dtex未満では、繊維が細すぎて湿式不織布の基本骨格を形成し難い。繊度が2.0dtexより大きいと、フィブリル化耐熱性繊維とフィブリル化セルロースが脱落しやすく、その結果、ピンホールができやすく、地合いが不均一になりやすい。非フィブリル化非耐熱性繊維の繊維長は1mm〜15mmが好ましく、2mm〜10mmがより好ましい。繊維長が1mmより短いと電子部品用セパレータから脱落しやすく、15mmより長いと、繊維がもつれてダマになりやすく、厚みむらが生じやすい。
【0026】
本発明におけるフィブリル化セルロースは、バクテリアセルロースや機械的にフィブリル化したセルロースを指す。前者は微生物が産生するバクテリアセルロースのことを指す。このバクテリアセルロースは、セルロースおよびセルロースを主鎖とするヘテロ多糖を含むものおよびβ―1,3、β−1,2等のグルカンを含むものである。ヘテロ多糖の場合のセルロース以外の構成成分はマンノース、フラクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、ラムノース、グルクロン酸等の六炭糖、五炭糖および有機酸等である。これらの多糖は単一物質で構成される場合もあるが、2種以上の多糖が水素結合などで結合して構成されている場合もあり、何れも利用できる。
【0027】
後者は、リンターをはじめとする各種パルプ、リントなどを原料とし、上記フィブリル化耐熱性繊維と同様にフィブリル化されたものを指す。これら天然セルロースから得られるフィブリル化セルロースやバクテリアセルロースは、TMA面積を小さくする効果が大きいため好ましい。
【0028】
本発明の湿式不織布は、フィブリル化耐熱性繊維、非フィブリル化耐熱性繊維、フィブリル化セルロースの3成分を必須成分とし、必須3成分の合計含有量が45〜100質量%、非フィブリル化非耐熱性繊維の含有量が55〜0質量%で、フィブリル化耐熱性繊維と非フィブリル化耐熱性繊維の合計含有量が40質量%以上で構成されることが好ましい。この条件を満たさない場合は必要な耐熱性が得られにくく、高信頼性の電子部品が得られないことがある。
【0029】
本発明における湿式不織布は、長網抄紙機、短網抄紙機、円網抄紙機、傾斜型抄紙機、これらの中から同種あるいは異種の抄紙機を2つ以上組み合わせたコンビネーションマシンなどを用いて湿式抄紙して製造される。湿式抄紙の際に用いる水はイオン交換水が好ましく、分散助剤やその他添加薬品、剥離剤などは、非イオン性のものが好ましいが、電子部品の特性に影響を及ぼさない程度であれば、イオン性のものを適量用いても良い。
【0030】
本発明における電子部品用セパレータの坪量は、特に制限はないが、5〜50g/mが好ましく、8〜35g/mがさらに好ましく用いられる。
【0031】
本発明における電子部品用セパレータの厚みは、特に制限はないが、電子部品が小型化できること、収容できる電極面積を大きくでき容量を稼げる点から薄い方が好ましい。具体的には電子部品組立時に破断しない程度の強度を持ち、ピンホールが無く、高い均一性を備える厚みとして10〜300μmが好ましく用いられ、20〜100μm、さらには20〜60μmがより好ましく用いられる。10μm未満では、電子部品の製造時の短絡不良率が増加するため好ましくない。一方、300μmより厚くなると、電子部品に収納できる電極面積が減少するため電子部品の容量が低いものになる。
【0032】
本発明の電子部品用セパレータは、必要に応じて、カレンダー処理、熱カレンダー処理、熱処理などの熱加工処理が施される。熱処理の場合は、150℃〜300℃の温度で処理することが好ましい。150℃未満では熱処理が不十分になりやすく、300℃より高いと熱収縮しやすい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の内容は実施例に限定されるものではない。
【0034】
<フィブリル化耐熱性繊維1の作製>
パラ系全芳香族ポリアミド繊維(帝人テクノプロダクツ製、トワロン1080)を初期濃度5%になるようにイオン交換水に分散させ、ダブルディスクリファイナーを用いて、15回繰り返し叩解処理し、重量平均繊維長1.35mm、カナディアンスタンダードフリーネス90mlのフィブリル化パラ系全芳香族ポリアミド繊維を作製した。以下、これをフィブリル化耐熱性繊維1またはFB1と表記する。
【0035】
<フィブリル化耐熱性繊維2の作製>
フィブリル化耐熱性繊維1をさらに高圧ホモジナイザーで50MPaの条件で25回繰り返し叩解処理し、重量平均繊維長0.58mm、カナディアンスタンダードフリーネス0mlのフィブリル化パラ系全芳香族ポリアミド繊維を作製した。以下、これをフィブリル化耐熱性繊維2またはFB2と表記する。
【0036】
<パラ系全芳香族ポリアミド繊維1>
ポリ(パラ−フェニレンテレフタルアミド)樹脂を液晶紡糸し、洗浄して繊度0.1dtexのトウを作製した。これを長さ3mmに切断してパラ系全芳香族ポリアミド繊維を作製した。以下、これをパラ系全芳香族ポリアミド繊維1またはPA1と表記する。
【0037】
<ポリエステル繊維1>
ポリエチレンテレフタレート樹脂を溶融紡糸し、延伸して繊度0.05dtexのトウを作製した。これを長さ3mmに切断してポリエチレンテレフタレート繊維を得た。以下、これをポリエステル繊維1またはPET1と表記する。
【0038】
<アクリル繊維1>
アクリロニトリル、アクリル酸メチル、酢酸ビニルの3成分からなるアクリロニトリル系共重合体を湿式紡糸し、洗浄、延伸して繊度0.01dtexのトウを作製した。これを長さ2mmに切断してアクリル繊維を得た。以下、これをアクリル繊維1またはA1と表記する。
【0039】
<フィブリル化セルロース1の作製>
リンターを5%濃度になるようにイオン交換水中に分散させ、高圧ホモジナイザーを用いて50MPaの圧力で20回繰り返し処理して、重量平均繊維長0.33mm、カナディアンスタンダードフリーネス0mlのフィブリル化セルロースを作製した。以下、これをフィブリル化セルロース1またはFBC1と表記する。
【0040】
<フィブリル化セルロース2の作製>
麻繊維をイオン交換水中に分散させ、ビーターで叩解した後、高圧ホモジナイザーを用いて50MPaの圧力で20回繰り返し処理して、重量平均繊維長0.45mm、カナディアンスタンダードフリーネス0mlのフィブリル化セルロースを作製した。以下、これをフィブリル化セルロース2またはFBC2と表記する。
【0041】
<メタ系全芳香族ポリアミドフィブリッドの作製>
ポリ(メタ−フェニレンイソフタルアミド)、トリエチルアミン、トリエチルアミンヒドロクロライドを所定量溶解させたメチレンクロライド溶液をワーリンブレンダーで撹拌しながら、イソフタル酸クロライドを溶解させたメチレンクロライド溶液を加えて重縮合反応させ、ポリ(メタ−フェニレンイソフタルアミド)を合成した。N,N´−ジメチルアセトアミド30%、水68%、塩化カルシウム2%の割合で混合した凝固浴をワーリンブレンダーで高速攪拌させ、これにポリ(メタ−フェニレンイソフタルアミド)溶液を接触させ、アラミドフィブリッドを沈殿生成させた。得られたアラミドフィブリッドを水洗した。以下、これをメタ系全芳香族ポリアミドフィブリッド1またはFD1と表記する。FD1のカナディアンフリーネスは30mlであった。
【0042】
表1に示した原料と配合量に従って、抄紙用スラリーを調製した。ここで、表1中の「PET2」は、繊度0.1dtex、繊維長3mmのポリエチレンテレフタレート繊維(帝人ファイバー製、テピルスTM04PN)、「PET3」は、繊度1.1dtex、繊維長5mmの芯鞘複合繊維(帝人ファイバー製、TJ04CN、芯部:融点255℃のポリエチレンテレフタレート、鞘部:ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンイソフタレートの共重合体、融点110℃)を意味する。「A2」は、繊度0.1dtex、繊維長3mmのアクリル繊維(三菱レイヨン製、ボンネルM.V.P、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、メタクリル酸誘導体の3成分からなるアクリロニトリル系共重合体)、「A3」は、繊度0.4dtex、繊維長3mmのアクリル繊維(三菱レイヨン製、ボンネルM.V.P、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、メタクリル酸誘導体の3成分からなるアクリロニトリル系共重合体)を意味する。「PA2」は、繊度0.75dtex、繊維長3mmのパラ系全芳香族ポリアミド繊維(帝人テクノプロダクツ製、テクノーラ、コポリ(パラ−フェニレン−3,4´−オキシジフェニレンテレフタルアミド))、「PA3」は、繊度1.2dtex、繊維長5mmのパラ系全芳香族ポリアミド繊維(帝人テクノプロダクツ製、トワロン1080、ポリ(パラ−フェニレンテレフタルアミド))、「PA4」は、繊度0.08dtex、繊維長3mmの芳香族ポリアミド繊維(クラレ製、ジェネスタ、融点255℃、軟化点230℃)を意味する。「P1」は、をカナディアンスタンダードフリーネス20mlになるまで叩解した溶剤紡糸セルロース(レンチング社製、テンセル)、「P2」は、カナディアンスタンダードフリーネス500mlのポリノジックレーヨン、「P3」は、カナディアンフリーネス640mlのマニラ麻を意味する。
【0043】
実施例1〜18
円網抄紙機と円網抄紙機のコンビネーション抄紙機を用いてスラリー1〜18を湿式抄紙し、線圧10〜500N/cmでカレンダー処理して、電子部品用セパレータ1〜18を作製した。
【0044】
(比較例1、2)
長網抄紙機を用いてスラリー19、20を湿式抄紙し、線圧10〜500N/cmでカレンダー処理して、電子部品用セパレータ19、20を作製した。
【0045】
(比較例3〜7)
円網抄紙機と円網抄紙機のコンビネーション抄紙機を用いてスラリー21〜25を湿式抄紙し、線圧10〜500N/cmでカレンダー処理して、電子部品用セパレータ21〜25を作製した。
【0046】
<電気二重層キャパシタの作製>
電極活物質として非多孔性炭素85%、導電材としてカーボンブラック10%、結着材としてポリテトラフルオロエチレン5%を混練して厚み0.2mmのシート状電極を作製した。これを厚み50μmのアルミニウム箔の両面に導電性接着剤を用いて接着させ、圧延して電極を作製した。この電極を正極および負極として用いた。電子部品用セパレータを負極と正極の間に介して積層し、巻回機を用いて渦巻き型に巻回して渦巻き型素子を作製した。正極側および負極側の最外層には何れも電子部品用セパレータを配した。この渦巻き型素子をアルミニウム製ケースに収納した。ケースに取り付けられた正極端子および負極端子に正極リードおよび負極リードを溶接した後、電解液注液口を残してケースを封口した。この素子を収納したケースごと240℃に20時間加熱し乾燥処理した。但し、電子部品19、20については、200℃に40時間加熱した。これを室温まで放冷した後、ケース内に電解液を注入し、注液口を密栓して電気二重層キャパシタを作製した。電解液には、プロピレンカーボネートに1.5mol/lになるように(C(CH)NBFを溶解させたものを用いた。
【0047】
<電解コンデンサの作製>
厚み50μm、エッチング孔径1〜5μmのアルミニウム箔を電極として用い、該電極の片面に陽極用コネクタをスポット溶接した後、90℃の温度に保たれたホウ酸溶液に浸漬し、30Aの電流で15分間、アルミニウム箔面を酸化して、酸化アルミニウム誘電体層を形成した。これを陽極として用いた。同様に、エッチングしたアルミニウム箔電極の片面に陰極用コネクタをスポット溶接して、陰極として用いた。電子部品用セパレータを陽極の誘電体層上に配置し、陰極と合わせて巻き取った後、電解コンデンサ用セルに挿入し、電解液(フタル酸テトラエチルアンモニウム24.1質量%、γ−ブチロラクトン70質量%、エチレングリコール5.9質量%)を注入した後、セルを密封してアルミ電解コンデンサを作製した。
【0048】
電子部品用セパレータ、電気二重層キャパシタ、および電解コンデンサについて、下記の試験方法により測定し、その結果を下記表2、3に示した。
【0049】
<厚み>
電子部品用セパレータ1〜25の厚みをJIS C2111に準拠して測定し、その結果を表2に示した。
【0050】
<密度>
電子部品用セパレータ1〜25の密度をJIS C2111に準拠して測定し、その結果を表2に示した。
【0051】
<TMA面積>
電子部品用セパレータを5mm巾×13mm長の短冊状にMD(マシンディレクション)方向に長くなるように切断して、TMA装置(パーキンエルマー製、TMA7)用のチャックで試料の両端を固定した。固定した試料を石英製引張プローブのフックに引掛けて、窒素ガス雰囲気中、引張荷重4KPa、昇温速度10℃/分の条件で室温から300℃まで温度上昇させ、熱膨張による試料の変位を測定した。TMA面積は、50℃から最大試料長に達した温度までのTMA曲線と直線とで囲われた部分の積分値から求め、表2に示した。
【0052】
<伸び率>
<TMA面積>の項の熱膨張測定において検出される50℃のときの試料長をL50、最大試料長をLmaxとし、次の式(1)より電子部品用セパレータの伸び率を算出し、表2に示した。
伸び率(%)=(Lmax−L50)/L50×100 (1)
【0053】
<最大試料長温度>
<TMA面積>の項の熱膨張測定において、試料長が最大に達した温度を表2に示した。この温度が高いほど好ましい。
【0054】
<DC抵抗>
電気二重層キャパシタを3.3Vまで充電した後、20Aの定電流放電したときの放電開始直後の電圧低下より算出し、表3に示した。
【0055】
<耐久性>
電気二重層キャパシタを3.3Vまで充電した後、2.0Vまで放電させる充放電を500回繰り返した。電極が体積膨張してもセパレータが突き破れることなく正常に500回作動した割合(%)を求め、表3に示した。電極の膨張圧力は0.3MPaであった。数値が大きいほど、耐久性に優れることを意味する。
【0056】
<リフロー後漏れ電流>
電解コンデンサにピーク温度260℃、30秒間を含む230℃以上の半田リフロー処理を1分間行った後の漏れ電流を測定し、表3に示した。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
表2に示した通り、実施例1〜18の電子部品用セパレータは、引張荷重4KPa、昇温速度10℃/分で300℃まで熱膨張測定した際の50℃から最大試料長に達した温度までのTMA曲線と直線とで囲われた部分の積分値が0.7mm×分以下で、且つ最大伸び率が2.0%未満であった。そのため該セパレータは200℃以上の高温で処理されても劣化しにくく、該セパレータを具備した電気二重層キャパシタは、DC抵抗が低く、耐久性が優れていた。また、該セパレータを具備した電解コンデンサは、高温の半田リフロー処理後の漏れ電流が小さく優れていた。
【0061】
一方、比較例1および2の電子部品用セパレータは、セルロース100%であるため、引張荷重4KPa、昇温速度10℃/分で300℃まで熱膨張測定した際の50℃から最大試料長に達した温度までのTMA曲線と直線とで囲われた部分の積分値が0.7mm×分より大きかった。該セパレータを具備した電気二重層キャパシタは、その製造工程において実施例よりも低温である200℃で乾燥処理されたため、DC抵抗は低かったものの耐久性が著しく悪かった。該セパレータを具備した電解コンデンサは、高温の半田リフロー処理後の漏れ電流が大きくなった。
【0062】
比較例3の電子部品用セパレータは、強度が弱いため熱膨張測定において試料が切断してしまいTMA面積を測定できなかった。
【0063】
比較例4〜6の電子部品用セパレータは、引張荷重4KPa、昇温速度10℃/分で熱膨張測定した際の50℃から最大試料長に達した温度までのTMA曲線と直線とで囲われた部分の積分値が0.7mm×分より大きく、最大伸び率が2.0%以上であったため、該セパレータを具備した電気二重層キャパシタは、DC抵抗が高いかやや高めで、耐久性が劣っていた。また、該セパレータを具備した電解コンデンサは、高温の半田リフロー処理後の漏れ電流が大きくなった。
【0064】
比較例7の電子部品用セパレータは、引張荷重4KPa、昇温速度10℃/分で熱膨張測定した際の50℃から最大試料長に達した温度までのTMA曲線と直線とで囲われた部分の積分値が0.7mm×分より大きかったため、該セパレータを具備した電気二重層キャパシタは、DC抵抗が高めで、耐久性が劣っていた。また、該セパレータを具備した電解コンデンサは、高温の半田リフロー処理後の漏れ電流が大きくなった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の活用例としては、耐熱性と高信頼性が要求される用途、例えば、電気二重層キャパシタ、電解コンデンサなどの電子部品用セパレータが挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張荷重4KPa、昇温速度10℃/分で300℃まで熱膨張測定した際の50℃から最大試料長に達した温度までのTMA曲線と直線とで囲われた部分の積分値が0.7mm×分以下で、且つ、50℃から300℃までの最大伸び率が2.0%未満である湿式不織布からなる電子部品用セパレータ。
【請求項2】
湿式不織布が、フィブリル化耐熱性繊維、非フィブリル化耐熱性繊維、フィブリル化セルロースの3成分を必須成分とし、必須3成分の合計含有量が45〜100質量%、非フィブリル化非耐熱性繊維の含有量が55〜0質量%で、フィブリル化耐熱性繊維と非フィブリル化耐熱性繊維の合計含有量が40質量%以上である請求項1記載の電子部品用セパレータ。
【請求項3】
フィブリル化耐熱性繊維が、フィブリル化パラ系全芳香族ポリアミド繊維である請求項2に記載の電子部品用セパレータ。
【請求項4】
非フィブリル化耐熱性繊維が、非フィブリル化パラ系全芳香族ポリアミド繊維である請求項2に記載の電子部品用セパレータ。
【請求項5】
電子部品が、電気二重層キャパシタであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の電子部品用セパレータ。
【請求項6】
電子部品が、電解コンデンサであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の電子部品用セパレータ。

【公開番号】特開2006−245550(P2006−245550A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−17159(P2006−17159)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】