説明

電子顕微鏡、および電子顕微鏡の光軸調整方法

【課題】電子源の交換後、蛍光板上で電子線の位置を確認することができないような光軸のずれがある状態でも光軸の自動調整が可能な電子顕微鏡を提供する。
【課題手段】蛍光板の電流を測定して電子線が蛍光板に照射されているか否かを判断し、照射されていない場合は、偏向器を制御して電子線が蛍光板に照射されるように電子線を移動させ、照射されている場合は、当該電流の大きさが極大であり、かつ蛍光板に照射されている電子線の画像から得られる輝度の大きさが極大となるように、偏向器を制御するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡に係り、特に電子源の交換作業の後等に実施される電子線の光軸の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡の電子源には、一般的にタングステンフィラメント,ランタンヘキサボライトフィラメント等がある。電子顕微鏡では、この電子源の劣化や破断があるので、電子源の交換作業が行われる。電子源は、電子銃とよばれる筐体に入れられて、電子顕微鏡本体の鏡体と接続されている。電子銃内の電子源の交換作業は、作業者が電子銃を鏡体と分離して持ち上げ、電子源を交換し、交換後に再び電子銃を下げて鏡体と接続するという手順で行われる。したがって、電子源の中心軸と電子顕微鏡の中心軸とのずれは避けられないため、電子源の交換の後には、光軸合わせの作業が必ず行われる。
【0003】
例えば、透過電子顕微鏡では、電子源から蛍光板に照射された電子線の像を作業者が目視し、電子線の光軸が蛍光板の中央に一致するように、経験と勘を頼りに電子線を偏向する偏向器を手動で調整して、光軸を補正している。近年は、蛍光板を直接目視するのではなく、電子顕微鏡内に蛍光板を撮影するテレビカメラを設けたり、試料を透過した像を試料の直下で撮影するテレビカメラを設けたりして、テレビカメラで撮影された電子線像をディスプレイで確認しながら、光軸を調整する手法が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
光軸調整は、電子顕微鏡の鏡体に設けられた偏向コイルの強度を変えることで電子線の光軸を移動させ、蛍光板の中心等の所望の位置に合せることで行われる。したがって、光軸調整作業は、偏向コイルにどのくらいの電圧を与えると光軸がどの位移動するかといった経験が必要な作業であり、作業者の経験に左右されない自動化調整の機能が電子顕微鏡に求められている。自動化の試みとして、テレビカメラで撮影した画像から電子線の水平成分を調整し、電子線のビーム電流量から傾斜成分を調整する技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、電子源交換後、電子線が傾向板に全く照射されないといった状況は想定されていないため、その調整は手作業が必要である。このように、電子源交換後の電子線の光軸調整を完全に自動化した試みは未だ実現されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−266840号公報
【特許文献2】特開2002−117794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、電子源の交換後、蛍光板上で電子線の位置を確認することができないような光軸のずれがある状態でも光軸の自動調整が可能な電子顕微鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の実施態様は、蛍光板の電流を測定して電子線が蛍光板に照射されているか否かを判断し、照射されていない場合は、偏向器を制御して電子線が蛍光板に照射されるように電子線を移動させ、照射されている場合は、当該電流の大きさが極大であり、かつ蛍光板に照射されている電子線の画像から得られる輝度の大きさが極大となるように、偏向器を制御するものである。
【発明の効果】
【0008】
上記構成により、本発明によれば、電子源の交換後、蛍光板上で電子線の位置を確認することができないような光軸のずれがある状態でも光軸の自動調整が可能な電子顕微鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】透過電子顕微鏡の主要な構成を示す構成図である。
【図2】透過電子顕微鏡の主要な構成を示す構成図である。
【図3】ディスプレイに表示される画面の一例を示す画面図である。
【図4】ディスプレイに表示される画面の一例を示す画面図である。
【図5】ディスプレイに表示される画面の一例を示す画面図である。
【図6】光軸調整の処理の手順を示すフローチャートである。
【図7】ディスプレイへ表示される蛍光板の画像を示す画面図である。
【図8】ディスプレイへ表示される蛍光板の画像を示す画面図である。
【図9】図6のステップ606の偏向コイル粗調整処理の詳細を示すフローチャートである。
【図10】傾斜偏向コイルのx軸とy軸での電子線4の光軸の移動を示す概念図である。
【図11】位置偏向コイルのx軸とy軸での電子線4の光軸の移動を示す概念図である。
【図12】図6のステップ607の偏向コイル微調整処理の詳細を示すフローチャートである。
【図13】図12のステップ1202の傾斜偏向極大電流設定処理の詳細を示すフローチャートである。
【図14】蛍光板から得られる電流値Ixと傾斜偏向コイルによる偏向量GT−xとの関係を示す相関図である。
【図15】図6のステップ611の傾斜偏向極大輝度設定処理の詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。
【0011】
〔実施例〕
図1は、透過電子顕微鏡の主要な構成を示す構成図である。電子源3から試料18へ照射された電子線4は、試料18を透過し、テレビカメラ20等の撮影装置で撮影されて制御装置15へ送られ、ディスプレイ等に表示される。電子源3は電子銃1とよばれる筐体内に設置され、電子銃1と電子顕微鏡本体の鏡体2とが接続されてから、内部が真空に保持される。電子源3には、タングステンフィラメント,ランタンヘキサボライトフィラメント,熱電子銃,電解放出電子銃,ショットキー電子源等各種あるが、本発明はいずれの電子源にも適用可能である。
【0012】
鏡体2には、電子線4を試料18へ集束させる電磁レンズ7,テレビカメラ20へ集束させる結像系レンズ19,試料18を固定する試料台17が内蔵されている。電子源3へは電子源制御装置9から加速電圧,フィラメント電圧,バイアス電圧が印加され、電子線4が発生する。鏡体2は、真空排気装置22により内部が真空に保持される。電磁レンズ7や結像系レンズ19は、電磁レンズ制御装置11から電流が供給されてレンズ強度が変更される。試料台17は、試料制御装置21で駆動されて、3次元方向の位置が変更される。
【0013】
鏡体2の外部に設けられた制御装置15は、メモリ15eに格納されたプログラムをプロセッサ15aが実行することで、電子源3へ加速電圧を供給する電子源制御装置9への指令,位置偏向コイル5や傾斜偏向コイル6へ電流を供給する電子線制御装置10への指令,電磁レンズ7や結像系レンズ19へ電流を供給する電磁レンズ制御装置11への指令を与える。テレビカメラ20で撮影された画像信号は画像処理装置15gへ送られ、画像を一時保持するメモリ15dや多量の画像を保存可能な画像保存メモリ15fに保存される。また、画像信号は、メモリ15bに一時保持されて入出力インターフェース15cから外部に接続されたディスプレイに表示されたり、大容量の記憶装置に保管されたりする。
【0014】
図2は、透過電子顕微鏡の主要な構成を示す構成図である。透過電子顕微鏡では、蛍光板8の電子線像を作業者が目視観察することで、光軸調整が行われている。本実施例では、蛍光板8の電子線像をテレビカメラ12で撮影し、画像処理装置13を経由して制御装置15へ送り、電子線像の輝度が求められ、また、ディスプレイ16に表示されるようにしている。また、蛍光板8には電流計測装置14が接続され、蛍光板8に電子線4が照射されることで変化する電流値を計測し、電流値が制御装置15へ送られる。
【0015】
電子線4の光軸の調整の目的で、鏡体2の内部には、位置偏向コイル5や傾斜偏向コイル6が設けられ、位置偏向コイル5により電子線4の水平位置と垂直位置が、傾斜偏向コイル6により傾斜角度が制御される。制御装置15からの指令により、電子線制御装置10は、位置偏向コイル5や傾斜偏向コイル6の強度を調整する。制御装置15からの指令により、電磁レンズ制御装置11は、電磁レンズ7の強度を調整する。
【0016】
電子源3が設置される電子銃1は、電子顕微鏡本体である鏡体2と接続されているが、電子銃1の内部の電子源3の交換作業のときには、電子銃1と鏡体2とが分離される。電子銃1内に装着する電子源3の交換作業は、電子銃1を上げ鏡体2と分離しなければならない。電子源3の交換後、再び電子銃1を下ろし鏡体2と一体化させるが、電子源3の取り付け位置、および、電子銃1の上げ下げによる設置位置の僅かな誤差により、電子銃1と鏡体2の電子線光軸にずれが生じ、蛍光板8に電子線4が表示されなくなる、または、電子線4が表示されていても調整が必要な状態となる。
【0017】
電子線4の光軸が蛍光板8の中心と一致していれば、蛍光板8の電流値は極大値となり、蛍光板8の電子線の画像から得られる輝度も極大値となる。したがって、制御装置15は、蛍光板8の電流値や電子線像の輝度値を演算し、それぞれの値が極大値になるように、各制御装置へ送信する制御データを演算し、送信する。この制御データに基づいて、位置偏向コイル5や傾斜偏向コイル6により、電子線4の光軸が調整される。
【0018】
図3,図4および図5は、ディスプレイ16に表示される画面の例を示す画面図である。図3は、電子源3の破断を感知したときに、電子顕微鏡の操作者に警告されるメッセージを表示した画面の例である。操作者は、この画面が表示されたら、電子顕微鏡を停止させ、電子源3を交換する。図4は、電子源3の光軸調整と、鏡体2の光軸調整のどちらを実行するかを選択し、光軸調整を自動実行させるための画面の例であり、電子源3を交換した後に表示される。自動光軸調整にあたり、操作者は、電子源3の加速電圧やエミッション電流の最適値がいくつであるか直ちにはわからないため、これらを手入力するのはわずらわしい。そこで、図4の画面に続いて図5の画面を表示させ、操作者が加速電圧印加を指定するボタンを指定する。これにより、図2に示した制御装置15で、予め設定された加速電圧やエミッション電流を自動設定するプログラムが実行され、続いて、これに連動して光軸調整のプログラムが実行され、光軸が自動調整される。
【0019】
図6は、光軸調整の処理の手順を示すフローチャートである。図2に示された制御装置15は、図6に示された手順のプログラムを実行して得られた制御データを出力し、位置偏向コイル5や傾斜偏向コイル6を制御して、光軸調整を自動実行する。なお、図6に示した手順は、本発明の主要部分を示すものであり、省略された詳細な手順は、別の図を用いて説明する。
【0020】
図6において、はじめに、位置偏向コイル5と傾斜偏向コイル6の初期値を設定する(ステップ601)。ここで、初期値は、位置偏向コイル5においては原点位置,傾斜偏向コイル6においては傾斜0°となる値を設定する。なお、電子顕微鏡の製造過程や、その他の要因による個体差により、コイルの原点が必ずしも光軸と一致しているとは限らない。この場合は、鏡体2を基準とした光軸に合わせるように補正された値を初期値とする。これにより、電子顕微鏡の個体差による偏差を無くすることができるので、電子源3の取り付け位置に対する光軸の誤差を調整するだけでよい。
【0021】
図7,図8は、ディスプレイ16へ表示される蛍光板の画像を示す画面図である。図2に示した蛍光板8をテレビカメラ12で撮影した画像から、制御装置15は輝度値を求める(ステップ602)。蛍光板8の画像は、図2に示したように斜め方向から撮影した画像のため、例えば円の画像が写っている場合、そのままディスプレイへ表示させると図7に示すように、楕円形に変形した形状で表示される。制御装置15では、楕円形の画像を円形に修正する画像変換処理を行う。そして、図8に示されるような円の画像として電子線像がディスプレイ16に表示される。画像変換処理の後に、制御装置15は、画像の諧調値から輝度値を求める。例えば、画像の画素毎の輝度値の総和を求め、画素数で除算して平均値を輝度値とする。蛍光板8に電子線4が照射されていない場合は、輝度値はほぼ0である。
【0022】
次に、蛍光板8の電流値が電流計測装置14で計測され、制御装置15へ送信される(ステップ603)。偏向コイルに初期値を設定した時点で輝度値が得られなければ、蛍光板8には撮影可能な電子線が照射されていないことになるが、蛍光板8には微小な電子線が照射されている可能性がある。したがって、輝度値が得られなくても、制御装置15は電流値に基づいて光軸を調整することが可能である。
【0023】
ステップ602の計算処理で輝度値が得られたかどうかを判定し(ステップ604)、輝度値が得られなかった場合は、電流値が得られたかどうかを判定する(ステップ605)。電流値が得られなかったときは、位置偏向コイル5と傾斜偏向コイル6の値を変更し、電子線4を移動させて粗調整を行い(ステップ606)、再度、ステップ602の輝度値の算出と、ステップ603の電流値の算出を行う。ステップ606の粗調整処理の詳細は後述する。
【0024】
ステップ605で電流値が得られたときは、電子線4が蛍光板8に照射されていることを示しているので、位置偏向コイル5と傾斜偏向コイル6の値を変更し、電子線4を移動させて微調整を行い(ステップ607)、再度、ステップ602の輝度値の算出と、ステップ603の電流値の算出を行う。ステップ607の微調整処理の詳細は後述する。以上を繰り返すことで、電子線4が蛍光板8を照射するようになり、輝度値を得ることができる。
【0025】
ステップ604で輝度値を得られた場合、蛍光板8の中心座標へ電子線4を位置偏向コイル5で移動させる処理(ステップ609)を行う。この処理は一度行えばよいので、その前にこの処理が実行されたか否かを確認する(ステップ608)。制御装置15は、ステップ607の偏向コイル微調整処理で求めた電子線4の現在の位置座標と蛍光板8の中心座標との間の差を求め、この差を移動量として位置偏向コイル5へ電子線4の偏向指令を送信する。もし、ステップ604で輝度値が得られた場合、電子線4の現在の位置座標はわからないので、制御装置15は、予め設定された移動量を用いて、位置偏向コイル5へ電子線4の偏向指令を送信する。
【0026】
続いて、蛍光板8から得られる輝度が極大値かどうかを確認する(ステップ610)。蛍光板8の画像を取得し、制御装置15は輝度値を演算する。蛍光板8の面上の輝度分布からは、光軸の正確な位置はわからないが、例えば、蛍光板8の全体から得られる輝度値の総量や平均値が極大になるときの光軸の位置が、蛍光板8の中心と一致した位置であると推定することができる。したがって、1回目は輝度値がひとつしかないが、3回目以降、極大値かどうかを判定することができるので、これを繰り返すことで、輝度値の総量や平均値が極大になるときの光軸の位置を求めることができる。
【0027】
ステップ610で、輝度値が極大値でない場合は、後述する傾斜偏向極大輝度設定処理(ステップ611)を実行した後、ステップ602以降を再度実行し、ステップ610の輝度値の判定で極大値になるまで、処理が継続される。
【0028】
図9は、図6のステップ606の偏向コイル粗調整処理の詳細を示すフローチャートである。また、図10は、傾斜偏向コイルのx軸とy軸での電子線4の光軸の移動を示す概念図であり、点101から点104まで順番に電子線4が偏向される。最終の点104で表される範囲は、蛍光板8の全領域を網羅するように設定される。偏向コイル粗調整処理は、輝度値、および、電流値が得られず、蛍光板8上に電子線4が照射されていない状態で、電流値を得るようにするための処理である。制御装置15で傾斜座標を計算し、傾斜偏向コイル6にその座標データを設定することで、電子線4を傾斜させる(ステップ901)。図10において、初期状態は点101であり、電子線4をある値だけ傾斜させると点102になる。そして、この点102に相当する位置だけ電子線4を偏向させる。傾斜座標は、図10に示す点104まで多数あり、点102の場合は、全傾斜についてまだ完了していない状態なので(ステップ902)、以下のステップを実行せずに図6のステップ602へ戻り、ステップ602の輝度計算からステップ603の電流計測までを行い、ステップ604およびステップ605の判定を行う。判定の結果、再度粗調整処理が必要であれば、図9に示す手順を再度実行するが、このときの開始点は図10の点102であり、図10の点102から点103へ電子線4を傾斜させ(ステップ901)、ステップ902の判定でまだ全傾斜が完了していないので、再度、図6のステップ602へ戻り、これを繰り返す。図10の最終の点104では、図9のステップ902は全傾斜が完了していないと判定して、図6のステップ602へ戻る。図6のステップ604で輝度値を得られず、ステップ605で電流値が得られない場合は、再びステップ606の詳細を図9に示した偏向コイル粗調整処理が実行され、図10の最終の点104の次の点がないので、図9のステップ901での傾斜偏向コイル6の変更が行われない。そして、制御装置15は、ステップ902で、全ての傾斜について完了したと判定し、傾斜偏向コイル6の値を初期値に戻し(ステップ903)、位置偏向コイル5のみを用いて電子線4を偏向させ、光軸の位置を変える(ステップ904)。
【0029】
図11は、位置偏向コイルのx軸とy軸での電子線4の光軸の移動を示す概念図である。最終の点114で表される範囲は、蛍光板8の全領域を網羅するように設定される。図2に示す制御装置15で、位置座標に図11の点111で示す初期値を設定し、全位置が完了したかどうかを判定し(ステップ905)、今回は初期値である点111なので、図9に示す手順を終了して、図6に示すステップ602とステップ603を実行し、輝度値と電流値が得られたかどうかを判定する。いずれも得られなかった場合はステップ606の図9の手順へ戻り、輝度値または電流値が得られるまで、ステップ901からの手順が繰り返される。図9に示すステップ904では、図11に示す点111,点112,点113から最終の点114までが、位置偏向コイル5の設定位置である。
【0030】
図9のステップ905で、図11に示す最終の点114でも、輝度値も電流値も得られないときは、電子線4が照射されていないことや、全く見当違いの方向に照射されているというような光軸調整を行う以前の問題が考えられる。したがって、この場合はエラーメッセージをディスプレイ等に表示して、光軸調整の処理を中止する(ステップ906)。例えば、電子源の交換時に誤って不良である電子源を取り付けてしまった場合、電子線は発射されない、あるいは、電子源の取り付け方が不十分で、電子源が正規の位置に取り付けられなかったり、脱落してしまった場合も、電子線が発射されない。
【0031】
図12は、図6のステップ607の偏向コイル微調整処理の詳細を示すフローチャートである。偏向コイル微調整処理は、蛍光板8から得られる電流値が増大する方向に傾斜偏向コイル6、および位置偏向コイル5により電子線4を偏向させ、蛍光板8の画像から輝度値を得るまでを行う処理である。
【0032】
図6のステップ606の偏向コイル粗調整処理で得られた傾斜偏向コイル6の設定値と位置偏向コイル5の設定値を、初期値として使用する。はじめに、図6のステップ603で測定した蛍光板8の電流値が極大値かどうかを判定する(ステップ1201)。これは、今回の値より前回の値が大きく、そのひとつ前の値がそれより小さければ、前回の値が極大であると判定できる。最初は値の数が1つであり、極大かどうかの判定ができないので、その電流値が極大となるように傾斜偏向コイル6の設定値を変える処理を実行する(ステップ1202)。この処理の詳細は後述する。
【0033】
ステップ1201で蛍光板8の電流値が極大であった場合、図11に示した点111を初期値とし、位置偏向コイル5の設定値を変えて電子線4を偏向させ、光軸の位置を変える(ステップ1203)。ここでは、図11に示した位置偏向コイルのx軸とy軸での電子線4の光軸の移動を行う。最終の点114で表される範囲は、蛍光板8の全領域を網羅するように設定される。制御装置15で位置座標に図11の点111で示す初期値を設定し、全位置が完了したかどうかを判定し(ステップ1204)、最初は初期値である点111なので、図12に示す手順を終了して、図6に示すステップ607から抜け、ステップ602とステップ603を実行し、輝度値と電流値が得られたかどうかを判定する。輝度値は得られなかったが電流値が得られた場合はステップ607の図12に示す処理を再度実行する。
【0034】
輝度値を得られずにステップ1204の全位置が完了したら、図11の点114まで行っても電子線4の光軸が全く見つからなかったということなので、光軸調整を行う以前の問題が考えられる。したがって、この場合はエラーメッセージをディスプレイ16等に表示して、光軸調整の処理を中止する(ステップ1205)。エラーには、例えば、電子源の交換時に誤って不良である電子源を取り付けてしまった場合、電子線が発射されない、あるいは、取り付け方が不十分で、電子源が正規の位置に取り付けられなかったり、脱落してしまった場合等も、電子線が発射されない。したがって、制御装置15は、これらに相当するようなメッセージをディスプレイ16へ表示する。
【0035】
図13は、図12のステップ1202の傾斜偏向極大電流設定処理の詳細を示すフローチャートである。傾斜偏向コイル6による電子線のx方向の偏向をGT−x,y方向の偏向をGT−yと定義する。はじめに傾斜偏向コイル6によりx軸の傾斜が完了したかどうかを判断し(ステップ1301)、完了した場合はy軸の傾斜が完了したかどうかを判断する(ステップ1302)。
【0036】
ステップ1301でx軸の傾斜が完了していないと判断された場合は、x軸について、二分探索法を用いて、蛍光板8の電流値が極大となるx方向の偏向の値GT−xmaxを求める(ステップ1303)。そしてその値を傾斜偏向コイル6の設定値とし(ステップ1304)、図13に示した傾斜偏向極大電流設定処理を終了し、図12に示したステップ1202を終了して偏向コイル微調整処理を終了し、図6に示したステップ607を終了する。
【0037】
ステップ1302でy軸の傾斜が完了していないと判断された場合は、y軸について、二分探索法を用いて、蛍光板8の電流値が極大となるy方向の偏向の値GT−ymaxを求める(ステップ1305)。そしてその値を傾斜偏向コイル6の設定値とし(ステップ1306)、図13に示した傾斜偏向極大電流設定処理を終了し、図12に示したステップ1202を終了して偏向コイル微調整処理を終了し、図6に示したステップ607を終了する。
【0038】
図14は、蛍光板8から得られる電流値Ixと傾斜偏向コイル6による偏向量GT−xとの関係を示す相関図である。図14を用いて、x軸方向について、二分探索法により電流値が増大する方向とそのときの設定座標を求める方法を説明する。傾斜偏向コイル6による電子線のx方向の偏向をGT−xとし、この初期値をGT−x0とする。この初期値GT−x0を傾斜偏向コイル6に設定した時に蛍光板8から得られる電流値をIx0とする。次に、偏向量の初期値GT−x0からΔGTだけ減少させたときの偏向量をGT−x1とし、このときに蛍光板から得られる電流値を測定して、この電流値をIx1とする。次に、初期値GT−x0からΔGTだけ増加させたときの偏向量をGT−x2とし、このときに蛍光板から得られる電流値を測定して、この電流値をIx2とする。そして、二分探索法を用いると、電流値Ixの極大値Ixmaxと、そのときの偏向量GT−xmaxを求めることができる。y軸方向についても、上述のx軸方向と同じ二分探索法により、電流値の極大値Iymaxに対応する偏向量GT−ymaxが設定される。図14において、例えば、電流値Ix0よりも電流値Ix2の方が大きい場合は、電流値Ix2が極大値Ixmaxとなり、電流値Ix2に対応する偏向量GT−x2が設定される。
【0039】
図15は、図6のステップ611の傾斜偏向極大輝度設定処理の詳細を示すフローチャートである。本処理は、図13に示した極大電流値を求める処理に対して、電流値を輝度値に置き換えた処理であり、処理の考え方は同じである。傾斜偏向コイル6による電子線のx方向の偏向をGT−x,y方向の偏向をGT−yと定義する。はじめに傾斜偏向コイル6によりx軸の傾斜が完了したかどうかを判断し(ステップ1501)、完了した場合はy軸の傾斜が完了したかどうかを判断する(ステップ1502)。
【0040】
ステップ1501でx軸の傾斜が完了していないと判断された場合は、x軸について、二分探索法を用いて、蛍光板8の輝度値が極大となるx方向の偏向の値GT−xmaxを求める(ステップ1503)。そしてその値を傾斜偏向コイル6の設定値とし(ステップ1504)、図15に示した傾斜偏向極大輝度設定処理を終了し、図6に示したステップ611を終了する。
【0041】
ステップ1502でy軸の傾斜が完了していないと判断された場合は、y軸について、二分探索法を用いて、蛍光板8の輝度値が極大となるy方向の偏向の値GT−ymaxを求める(ステップ1505)。そしてその値を傾斜偏向コイル6の設定値とし(ステップ1506)、図15に示した傾斜偏向極大輝度設定処理を終了し、図6に示したステップ611を終了する。
【0042】
本発明の実施例によれば、蛍光板から得られる微小な電流値と、蛍光板に照射された電子線の輝度値を併用し、かつ両方の値をそれぞれ確認しながら電子線を偏向させることで、電子線の光軸調整を自動化することができる。これにより、電子源の交換後に、経験や勘を頼らずに誰でも容易に、かつ、正確に電子線の光軸調整ができる。さらに、電子源の交換後に加速電圧印加操作に連動して電子線の光軸調整を自動実行することで、電子顕微鏡の操作者は、光軸調整を全く意識せずに電子顕微鏡を扱うことが可能になる。
【符号の説明】
【0043】
1 電子銃
2 鏡体
3 電子源
4 電子線
5 位置偏向コイル
6 傾斜偏向コイル
7 電磁レンズ
8 蛍光板
9 電子源制御装置
10 電子線制御装置
11 電磁レンズ制御装置
12,20 テレビカメラ
13 画像処理装置
14 電流計測装置
15 制御装置
16 ディスプレイ
17 試料台
18 試料
19 結像系レンズ
21 試料制御装置
22 真空排気装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光板に照射された電子線の像を撮影する撮影装置、
前記蛍光板の電流を測定する電流計測装置、
前記撮影装置から送られる前記電子線の像から輝度を求め、該輝度の値または前記電流の値に基づいて、前記電子線の光軸を偏向させる偏向コイルへの指令を出力する制御装置
を備えたことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御装置は、前記輝度の値または前記電流の値が得られない場合は、前記電子線の光軸を移動させるための前記偏向コイルへの指令を出力するとともに、再度前記輝度の値または前記電流の値が得られたかどうかを判定し、前記輝度の値または前記電流の値が得られるまで、前記電子線の光軸を移動させるための前記偏向コイルへの指令の出力と前記輝度の値または前記電流の値が得られたかどうかの判定を繰り返すことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項1において、
前記制御装置は、前記輝度の値が得られない場合は、前記電流の値を確認することを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項4】
請求項3において、
前記制御装置は、前記電流の値が得られない場合に、前記電子線の光軸を移動させるための前記偏向コイルへの指令を出力することを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項3において、
前記制御装置は、前記電流の値が得られた場合に、該電流の値が極大か否かを判定し、極大でない場合は、前記電子線の光軸を傾斜させるための前記偏向コイルへの指令を出力することを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項6】
請求項5において、
前記制御装置は、前記電子線の光軸を前記蛍光板上に設けられた複数の座標点に移動させるとともに、該複数の座標点の全てについて前記電子線の光軸を移動させても前記電流の値が極大でない場合は、エラーメッセージを出力することを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項3において、
前記制御装置は、前記電流の値が得られた場合に、該電流の値が極大か否かを判定し、極大の場合は、前記電子線の光軸を水平移動させるための前記偏向コイルへの指令を出力することを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項8】
請求項1において、
前記制御装置は、前記輝度の値が得られた場合は、前記電子線の光軸を偏向させる偏向コイルへの指令を出力することを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項9】
請求項8において、
前記制御装置は、前記輝度の値が極大か否かを判定し、極大でない場合は、前記電子線の光軸を傾斜させるための前記偏向コイルへの指令を出力することを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項10】
蛍光板の電流を測定して電子線が蛍光板に照射されているか否かを判断し、照射されていない場合は、偏向器を制御して電子線が蛍光板に照射されるように電子線を移動させ、照射されている場合は、当該電流の大きさが極大であり、かつ蛍光板に照射されている電子線の画像から得られる輝度の大きさが極大となるように偏向器を制御することを特徴とする電子顕微鏡の光軸調整方法。
【請求項11】
蛍光板に照射された電子線の像から輝度を求め、
前記蛍光板の電流を測定し、
前記輝度の値または前記電流の値に基づいて、前記電子線の光軸を偏向させることを特徴とする電子顕微鏡の光軸調整方法。
【請求項12】
請求項11において、
前記輝度の値または前記電流の値が得られない場合は、前記電子線の光軸を移動させ、再度前記輝度の値または前記電流の値が得られたかどうかを判定し、前記輝度の値または前記電流の値が得られるまで、前記電子線の光軸の移動と前記輝度の値または前記電流の値が得られたかどうかの判定とを繰り返すことを特徴とする電子顕微鏡の光軸調整方法。
【請求項13】
請求項11において、
前記輝度の値が得られない場合は、前記電流の値を確認することを特徴とする電子顕微鏡の光軸調整方法。
【請求項14】
請求項13において、
前記電流の値が得られない場合に、前記電子線の光軸を移動させることを特徴とする電子顕微鏡の光軸調整方法。
【請求項15】
請求項13において、
前記電流の値が得られた場合に、該電流の値が極大か否かを判定し、極大でない場合は、前記電子線の光軸を傾斜させることを特徴とする電子顕微鏡の光軸調整方法。
【請求項16】
請求項15において、
前記電子線の光軸を前記蛍光板上に設けられた複数の座標点に移動させるとともに、該複数の座標点の全てについて前記電子線の光軸を移動させても前記電流の値が極大でない場合は、エラーメッセージを出力することを特徴とする電子顕微鏡の光軸調整方法。
【請求項17】
請求項13において、
前記電流の値が得られた場合に、該電流の値が極大か否かを判定し、極大の場合は、前記電子線の光軸を水平移動させることを特徴とする電子顕微鏡の光軸調整方法。
【請求項18】
請求項11において、
前記輝度の値が得られた場合は、前記電子線の光軸を偏向させることを特徴とする電子顕微鏡の光軸調整方法。
【請求項19】
請求項18において、
前記輝度の値が極大か否かを判定し、極大でない場合は、前記電子線の光軸を傾斜させることを特徴とする電子顕微鏡の光軸調整方法。
【請求項20】
請求項18において、
前記輝度の値が極大か否かを判定し、極大であると判定した場合、前記電子線の光軸調整処理を終了することを特徴とする電子顕微鏡の光軸調整方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2011−243470(P2011−243470A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115884(P2010−115884)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】