説明

電子顕微鏡

【課題】
エネルギー幅の小さい電子線を提供できるエネルギーフィルタ装置及び、試料面上の電子線プローブ径が小さい電子顕微鏡を提供すること。
【解決手段】
スリットの開口部中央から電子線がずれた場合、試料等から発生する2次電子の強度変化を基に、そのずれを高精度に補正する。スリットの開口部中央を透過した電子線を用いて試料を観察する。
【効果】
対物レンズの収差の影響を小さく抑えることができるため、空間分解能の高い電子顕微鏡像を観察することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエネルギーフィルタを備えた電子顕微鏡、及び電子顕微鏡観察方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスや磁気ヘッド素子等の微細化,小型化により、微小領域の分析が必要であり、電子顕微鏡による観察が重要となっている。エネルギーフィルタ(モノクロメーターとも呼ばれる)で入射電子線のエネルギー幅を小さくすることにより試料面上の電子線プローブを小さくし、電子顕微鏡の空間分解能を向上させることができる。
【0003】
これまでに、入射した電子線強度の差を検出できる蛍光体など、電子線を検出できるセンサを有するスリットによりエネルギーフィルタのスリット上の電子線位置を調整・安定化させるエネルギーフィルタに関する文献がある(特許文献1)。
【0004】
また、スリット開口部を透過する電子線のパーセンテージを予め決め、その一定値以下になったときに自動調整を行う電子顕微鏡に関する文献がある。自動調整の方法は、上下2個で構成されたスリットのそれぞれに入射した電子線量を比較し、電子線量の多いスリットから少ないスリット側にスリット開口部の一端を横切るように全て遮蔽された状態から全て透過するよう電子線を移動させ、電子線の像の積分強度を計測し、そのサーフェースプロット(surface plot)を解析することによって、スペクトルのフォーカス等の調整を行うものである(特許文献2)。
【0005】
また、スリット開口部を透過した光を検出する光検出器の出力信号を基にスリットの片方をアクチュエータでシフトさせ、スリット開口部の幅を制御する装置に関する文献がある(特許文献3)。
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,097,126号公報
【特許文献2】米国特許第5,798,524号公報
【特許文献3】米国特許第5,640,012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エネルギーフィルタのスリットの開口部の幅は数μm程度と小さく、その開口部中央に電子線を透過させることは難しい。一度透過させた後でも、電子線源の不安定性等の影響によりスリット上の電子線位置がシフトし、スリット開口部を電子線が透過しなくなり、高分解能の観察は困難になる。
【0008】
特許文献1および2では、スリット上に電子線が位置する程大きくスリット開口部からずれている場合には、そのずれを補正することができない。特許文献3では、スリット中央部の幅を高精度に制御する技術が開示されているが、スリット開口部の中央に電子線が位置するようにスリット上の電子線位置を補正することができない。
【0009】
本発明の目的は、電子線がスリット開口部からずれている場合、そのずれ量を定量的に検出し、スリット開口部の中央に電子線を精度よく戻してエネルギー選択を行うことにより、高分解能観察を行う電子顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、スリット上の電子線位置を移動させ、エネルギーフィルタ電子線検出器からの信号に基づいて電子線とスリットの相対位置を調整するエネルギーフィルタ制御装置を有する電子顕微鏡を提供するものである。また、電子線位置を移動させ、電子線検出器を用いて透過した電子線量に基づいて電子線位置を特定し、スリット位置又は電子線位置を制御してスリット開口部中央に電子線を透過させるエネルギーフィルタ制御方法を提供するものである。特に、スリット上の電子線が遮断された位置から開口部を経て再度遮断された位置まで移動させること、またはスリットに対して電子線照射位置を周期的に移動させることにより定量的にずれを検出することができる。この場合、周期的に移動させるとは、例えば電子線位置を初期値に対して両側に往復移動させることである。
【0011】
また、本発明はエネルギー分光器のオン・オフの切り替えが可能であり、オンのときにはエネルギー分散された電子線がスリットをとおり、オフの時にはエネルギー分散されていない電子線が直接試料に照射される、あるいは試料を透過した電子線を観察する電子顕微鏡である。
【0012】
特許文献1等に開示された電子顕微鏡は、スリットがエネルギーフィルタの動作如何に関わらず、電子線の軌道上に設置されている。エネルギーフィルタを動作させない状態でもスリットを電子線が透過するようにしなければならず、スリットを通過させることにより、電子線量が減少し、コントラストが低くなる。本発明のような構成とすることにより、高コントラストかつ高速に試料を観察する場合と、高い空間分解能で試料を観察する場合とを容易に切り替え可能な電子顕微鏡を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エネルギーフィルタを備えた電子顕微鏡において、高空間分解能の電子顕微鏡像を取得可能な装置および方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(顕微鏡の説明)
電子顕微鏡には、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM),透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM),走査透過型電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope:STEM)がある。
【0015】
エネルギーフィルタとは、入射した荷電粒子、例えば電子線を磁場や電場を作用させてエネルギー分散を起こさせ、エネルギー分散面上に設置したスリットを用いて、所望のエネルギー幅の電子線を取り出す装置である。主にエネルギー分散を起こさせるエネルギー分光部と、エネルギー分散方向に数μmから数十mmの幅で電子線を透過するための開口部を有するスリット部、及びエネルギー分光部の磁場や電場の強さを制御する分光制御部で構成される。
【0016】
SEM,STEMでは、空間分解能を向上させるため、電子プローブの大きさを縮小する必要がある。そこで、エネルギーフィルタにより出射された電子線をエネルギー分散させ、スリットで電子線を選択することにより、電子線のエネルギー幅を小さくし、電子プローブを小さくすることができる。
【0017】
また、TEM,STEMは試料を透過した電子線をエネルギー分散させ、スリットで電子線を選択し、選択した電子線で像を結像し観察する装置である。電子線は試料を透過する際に、試料を構成する元素との相互作用により、元素(電子構造)固有のエネルギー損失を生ずる。試料を透過した電子を電子分光器によりエネルギー分析する電子エネルギー損失分光法(Electron Energy Loss Spectroscopy:EELS)は、試料内の元素分析を行うことができる分析方法である。さらに、同一元素においてもその元素の化学結合状態の違い(特に元素の電子構造の違い)を反映して、数eV程度のエネルギーシフトとして現れる。精度よく電子線を選択することにより、高精度の測定が可能となる。
【0018】
本実施例の電子顕微鏡は、電子線を発生する電子線発生源と、電子線のエネルギーを分散するエネルギー分光器とエネルギー分散した電子線のエネルギーを選択するスリットとを備えたエネルギーフィルタと、エネルギーフィルタによって選択された電子線を検出するエネルギーフィルタ検出器と、スリット上における電子線を周期的に移動制御できる電子線移動制御装置、あるいはスリットを周期的に移動制御できるスリット移動制御装置と、電子線移動制御装置あるいは移動制御装置からの出力信号と電子線を検出する検出器からの出力信号に基づきスリット上での電子線位置を制御する制御装置とを備えている。
【0019】
また、本発明の電子顕微鏡は、スリットと試料との間にスリットを透過した電子線を走査する走査コイル等を備えた走査型電子顕微鏡または走査透過型電子顕微鏡、もしくはスリットの下流側に試料を配置した透過型電子顕微鏡である。本発明によれば、空間分解能の高い電子顕微鏡像を観察することができる。
【0020】
また、本発明の電子顕微鏡は、電子線発生源とエネルギー分光器の間に、試料を設置する試料ステージまたは試料ホルダーを備えた透過型電子顕微鏡または走査透過型電子顕微鏡である。本発明によれば、高精度の元素分析あるいは、化学結合状態分析をすることができる。
【0021】
(測定方法)
本発明の電子顕微鏡は、スリット上での電子線を周期的に移動させる、あるいはスリットの一方もしくは両方を周期的に移動させることにより電子線位置を制御できる。その制御方法とは、周期的な電子線位置の変化に対応して電子線が変化する様子(例えば電子線強度の周期や振幅)を測定し、その結果、得られるスリット開口部を透過した電子線の強度、もしくは透過した電子線が照射した試料等から発生する2次電子の強度から、詳細に電子線の位置を特定するものである。
【0022】
また、電子線やスリットを1方向に移動させたときの電子線強度変化を測定し、電子線の位置を特定するものである。1方向にだけ移動させるとは、電子線をスリットの一端から開口部を経てスリットの他端にシフトさせ、あるいは電子線が遮断された状態から透過し再び遮断された状態を実現するようにスリットを移動させることである。
【0023】
このような電子線強度の測定結果に基づいて、スリット上の電子線位置を高精度に検出することが可能で、それを基にスリット開口部の中央に電子線を移動させることができる。その結果、電子線強度の減少を抑えながら、エネルギー分解能の良い,つまりエネルギー幅の小さい電子線を取り出すことができる。
【0024】
従来技術では、試料を透過した電子線は、試料との非弾性散乱によりエネルギー分布が生じ、そのエネルギー分布をエネルギー分光器とスリットを有するエネルギーフィルタで選択し、選択した電子線を使って電子顕微鏡像やEELSスペクトルを観測する。本発明によれば、高精度でスリットの中央部に電子線を位置するように制御することで、エネルギー分解能の高い電子顕微鏡像、あるいはスペクトルを観測することができる。
【0025】
また、本発明の電子顕微鏡観察方法では、スリット上の電子線の位置を周期的に移動させ、あるいはスリットの一方または両方を周期的に移動させ、スリット開口部を透過した電子線、あるいは電子線が試料等に照射することで発生する2次電子を検出することにより、スリットの開口部中央に電子線を高精度に移動制御できる。スリットの開口部中央に電子線を移動制御する上記の方法を用い、エネルギーフィルタを透過しエネルギー幅の小さい電子線を試料に照射すること、あるいはエネルギー幅の小さい電子線によりプローブ径の小さい電子線プローブを形成し試料に照射することで、高い空間分解能で試料を観察することが可能となる。本発明は、スリット上の電子線を周期的に移動させる移動制御装置の出力信号の周期と比較して、電子線検出器で検出する出力信号の周期、あるいは及び振幅を基にして、スリット上の電子線位置を制御する方法を用い、試料を観察することを特徴とする電子顕微鏡観察法である。
【0026】
上記の電子顕微鏡観察法は、試料を透過した電子線を対象として適用することが可能である。つまり、透過型電子顕微鏡において、試料を透過した電子線に対し、スリットの開口部中央に電子線を移動制御する上記の方法を用い、エネルギー選択された透過電子線を観察することができる。
【0027】
また、本発明の電子顕微鏡の特徴は、エネルギーフィルタのエネルギー分光器を動作させない状態において、スリットが電子顕微鏡の電子軌道から外れた位置に設置することである。これにより、スリットの開口部へ電子線を調整するといった操作を用いなくても、電子線発生源から試料までの電子顕微鏡の電子軌道の軸調整を可能とし、軸調整の簡便化が図れる。さらに、エネルギーフィルタを用いなくても良い程度の空間分解能で試料を観察する場合と、エネルギーフィルタを用いてエネルギー幅の小さい電子線を用いて高い空間分解能で試料を観察する場合とを容易に切り替えて電子顕微鏡観察をすることができる。
【0028】
以下、上記の本発明を実施例を用いてさらに詳細に説明する。
【0029】
(実施例)
図1は、本発明の実施例の、エネルギーフィルタを備えた走査型電子顕微鏡の主要部分の概略構成図である。電子線発生器1で発生した電子線2は、収束レンズ3で収束した後、エネルギーフィルタ5に入射される。エネルギーフィルタ5は電磁場を発生するエネルギーフィルタ6と、電子線の分散面に設置されたスリット7で構成されている。エネルギーフィルタ6を構成している磁石の磁場あるいは電極の電場は、図1の紙面に垂直な磁場あるいは電場空間を形成し、電子線2をエネルギー毎に分散させる。エネルギーフィルタ6は、前述のように電子線のエネルギーを分散させればよく、その形状は図1に示すものに限定するものではない。
【0030】
上記のようにエネルギーフィルタ5が動作した状態では、電子線はエネルギーフィルタ6の電磁場の分散作用を受け、スリット7により選択されたエネルギーの電子線がエネルギーフィルタ5より出射される。一方、エネルギーフィルタ5が動作しない状態では、エネルギーフィルタ6の電磁場は発生せず、電子線2は直進し、エネルギーフィルタ5の後側に出射される。
【0031】
エネルギーフィルタ5の後側に出射した電子線は、対物レンズ12で試料13面上にプローブとして形成される。試料13上の電子線は、電子線走査コイル10により2次元に走査され、試料から発生する2次電子14を2次電子検出器15で検出し、試料の2次電子像を表示装置25に表示する。
【0032】
また、本実施例では、エネルギーフィルタ5より後方に出射した電子線強度を測定するためのエネルギーフィルタ電子線検出器11と、エネルギーフィルタ電子線検出器11に電子線を入射させ、またはエネルギーフィルタ5から出射された電子線の軌道を補正するためのセンサ検出コイル9を備えている。
【0033】
制御装置20は、電子線発生器1における電子の加速条件や各種コイルの設定条件等を制御する電子顕微鏡制御部21,エネルギーフィルタ6の磁場発生コイルまたは電場発生電極等を含むエネルギーフィルタ5を制御するエネルギーフィルタ制御部22,スリット7上の電子線位置またはスリット7の一方若しくは両方の位置を制御する為の変調信号を発生する移動制御装置23,2次電子検出器15またはエネルギーフィルタ電子線検出器11からの出力信号と、移動制御装置23からの出力信号とよりスリット上での電子線位置を解析する信号解析部24で構成されており、操作者が測定条件等を入力する入力装置26が接続されている。
【0034】
スリット7上の電子線の位置は、電子線発生源1における電子の加速条件や、エネルギー分光部6の磁場または電場強度、あるいは収束レンズ3とエネルギーフィルタ5の間に設置された偏向コイル4によって制御することができる。また、本発明の実施例のスリット8の一例を図6に示す。スリットの一方あるいは両方(31aと31b)を圧電素子(33aと33b)と接続させ、移動制御装置からの出力に従い圧電素子を動作させることにより、スリット全体を移動させ、またはスリットの開口部の幅を変化させて、スリット上での電子線の位置を調整することもできる。
【0035】
本発明の電子顕微鏡は、エネルギーフィルタがオフとされており、エネルギーフィルタの影響がない場合には、電子線発生器1から試料への照射の間に電子線がスリットを通過しない位置に配置されている。エネルギー分散させずに電子線量が多い測定をする場合には、電子線量の減少がなく、高コントラストの測定をすることができる。高分解能像を観察するためには、電子線のエネルギー幅を小さくすることが必要であり、同時に電子占領が減少することにより像のコントラストは低下する。スケールの大きい観察や、試料を高速に観察する場合には、エネルギー分散やスリット透過をさせずに高コントラストの測定をすることができる。また、スイッチのオン・オフにより、高速で高コントラストの観察と高分解能の観察を容易に選択することができる。
【0036】
次に、本実施例を用いて電子顕微鏡像を観察するための調整方法の実施例を図2,図3,図4,図5を用いて述べる。
【0037】
(高コントラスト観察時の電子顕微鏡軸調整方法)
上記のように、エネルギーフィルタを動作させず、電子線量の多い測定をすることにより、高コントラストの観察を行うことができる。まず、エネルギーフィルタ5を動作させない状態で電子顕微鏡の軸調整(101)を行う。エネルギーフィルタ5を動作させない場合、エネルギーフィルタ6では電磁場が印加されず、入射した電子線はエネルギーフィルタ5を直進して透過する。軸調整(101)が完了後、試料から発生する2次電子の強度(Is0)、またはエネルギーフィルタ電子線検出器11による電子線強度(If0)を測定する(102)。電子線強度(If0)を測定するためには、エネルギーフィルタ電子線検出器11に電子線が入射するように、センサ検出コイル9で電子線の軌道を制御する。
【0038】
(エネルギーフィルタの調整方法)
次に、エネルギーフィルタ5のスリット7の開口部の幅を初期設定値(w0)に設定する(103)。初期設定値には、例えばエネルギー分散した全ての電子線がスリット7の開口部を透過する程度まで幅を広げるように設定することができる。スリットの幅を初期設定値(w0)とし、2次電子線強度(Is1)、またはエネルギーフィルタ電子線検出器11で電子線強度(If1)を測定する(104)。測定された2次電子線強度(Is1)またはエネルギーフィルタ電子線検出器11で検出した電子線強度(If1)がゼロ以上であれば、スリット7の開口部の幅を所望の設定値(w1)に設定する(105)。もし、Is1がほぼゼロ、またはIf1がほぼゼロの場合、つまり、スリット7によって殆ど全ての電子線が遮断されエネルギーフィルタ5を透過する電子線が少ない場合には、エネルギーフィルタの粗い軸調整を行う(120)。
【0039】
(エネルギーフィルタの粗い軸調整方法)
図3を用いて、エネルギーフィルタ5の粗い軸調整の調整方法の実施例を説明する。スリット7の上の電子線を移動させるか、またはスリット7の一方あるいは両方を移動させる(121)。移動の制御は周期(ω),振幅(A1)とする。そして、2次電子線強度(Is1(ω))、またはエネルギーフィルタ電子線検出器11で電子線強度(If1(ω))を測定し(122)、Is1(ω)またはIf1(ω)がゼロ以上になるまで移動制御の振幅を大きくし(123,125)、そのときの振幅をA2とする。電子線強度(Is1(ω)またはIf1(ω))を解析することにより、電子線がスリット7の上部スリット31もしくは下部スリット32のどちらに位置するかを判別する(126)。そして、スリット7の開口部の幅を設定値(w1)に設定する(127)。さらに、スリット7上の電子線位置をδxだけスリット7の開口部側にシフトさせる(128)。δxは次の条件で決める。スリット7上の電子線の位置からスリット7の開口部までの距離が、操作(127)によって変化ない場合δx=A2+w1/2。操作(127)によって距離が長くなる場合、例えば前記よりw0−w1だけ長くなる場合はδx=A2+w0−w1/2となる。最後に、スリット7上の電子線の振幅、またはスリット7の一方もしくは両方を移動させる振幅を2×w1と設定し(129)、粗い軸調整は完了する。
【0040】
(エネルギーフィルタの高精度の軸調整方法)
次に、本実施例を用いたスリット上の電子線の位置を高精度に制御する方法(150)の実施例を図4,図5を用いて述べる。
【0041】
スリット7上の電子線を周期;ω、振幅;A5で変化させ、またはスリット7の一方あるいは両方を周期;ω、振幅;A5で変化させる(151)。そのとき、2次電子線強度、またはエネルギーフィルタ電子線検出器11での電子線強度を測定し、それぞれの電子線強度の最大値(Is5max、またはIf5max)を計測する(152)。振幅A5はスリット7の開口幅;w1の半分、もしくはw1の同程度でよい。次に、2次電子線強度、またはエネルギーフィルタ電子線検出器11で測定した電子線強度の周期(θ)を解析し(153)、強度変化の周期(θ)が2ωであるか否かの判別を行う(154)。
【0042】
強度変化の周期が2ωに等しい場合は、高精度の調整が完了している(155)。周期がωの場合は、以下に述べる調整を行う。強度変化の周期を基に、高精度の調整の要否を判別する根拠を図5で説明する。
【0043】
(スリット上の電子線位置の検出方法)
図5は、スリット7上の電子線位置を振幅;w1で1周期振動させたときの電子線の位置変化と、2次電子線の強度変化を示したものである。振動しない状態での電子線の位置がスリット7の開口部中央の場合(スリットの開口部の中央に電子線が位置する場合)(図5(a))、スリット7の開口部の端の場合(スリットの上部スリット端に電子線が位置する場合)(図5(b))、スリット7の開口部の端からw1/2だけ更にシフトした場合(スリットの上部スリット端からw1/2スリット側にずれた位置に電子線が位置する場合)(図5(c))、w1だけシフトした場合(スリットの上部スリット端からw1スリット側にずれた位置に電子線が位置する場合)(図5(d))を示す。図5から明らかなように、スリット7の開口部の中央に電子線が位置している場合のみ、2次電子の強度変化は2ωの周期である(図5(a))。それ以外では2次電子の周期はωとなる。
【0044】
スリット7の開口部の端に電子線が位置する場合は、2次電子の最大強度(Imaxとする)は1周期に2度現れる(図5(b))。電子線がさらに開口部から外れると、2次電子の最大強度(Imax)が1周期に1度しか現れず(図5(c))、それ以上開口部から外れると2次電子の強度は常にImaxより小さくなる(図5(d))。従って、強度変化の周期を基に、高精度の調整の要否を判別することができる。また、1周期中に2次電子の最大強度(Imax)が現れる回数によって、スリット7上の電子線がどの程度スリット7の開口部の中央からずれているかを判別できる。
【0045】
次に、2次電子の強度変化の周期(θ)が2ωに等しくないとき、例えばθ=ωのとき、以下のような調整を行う。
【0046】
まず、2次電子の電子線強度、またはエネルギーフィルタ電子線検出器11で電子線強度の最大強度(Imax)がωの1周期に現れる個数(n)を判定する(156)。n=2のとき、2次電子の強度が最大となる電子線のシフト量を解析し、電子線をシフトさせる(157)。又は、エネルギーフィルタ電子線検出器11で測定した強度において、強度が最大となるスリットの移動量を解析し、電子線をシフトさせる(157)。n=1または0のとき、スリット7上の電子線をスリット7の開口部側にスリット7の開口部の幅(w1)の半分シフトさせた後(158)、2次電子線の強度、またはエネルギーフィルタ電子線検出器11で電子線強度を測定する操作(152)に戻り、調整を行う。
【0047】
(エネルギーフィルタの高精度軸調整後の電子顕微鏡観察)
以上のようにして調整することにより、例えばエネルギーフィルタ6に入射する電子線の位置や入射角度が偏向コイル4によって変更された場合、その変更量を補償するようにセンサ検出コイル9を使って電子線位置や出射角度を調整する。
【0048】
このようにエネルギーフィルタ5の入射端と出射端でそれぞれ電子線の位置・角度を補正することで、エネルギーフィルタ5の分散作用がオフの場合と同じ電子軌道を電子線が辿ることができる。その結果、エネルギーフィルタ5から出射する電子線のエネルギー幅を小さくすることができる。
【0049】
次に対物レンズ12を用いて、試料13上にエネルギー幅を小さくした電子線のプローブを形成する。エネルギーフィルタ5から出射した電子線のエネルギー幅は小さく、対物レンズ12の色収差の影響を抑えることができる。その結果、試料面上の電子線プローブの径は、エネルギーフィルタを透過させない場合と比較して、約1/2の大きさまで小さくすることができる。
【0050】
電子線走査コイル10を制御し、電子線プローブにより試料13の試料面を2次元に走査する。試料から発生する2次電子14を対物レンズ12で検出し、2次電子像を信号解析部24で観察する。このように小さい電子線プローブを用いると、空間分解能のよい2次電子像を観察することができる。
【0051】
電子顕微鏡像の観察を行いながら、適宜必要に応じて電子線の軸ずれをチェックし、高精度の軸調整を行う。軸ずれのチェック方法は、周期がω、振幅が2×w1でスリット7上の電子線を振動させ、2次電子線の強度、またはエネルギーフィルタ電子線検出器11で電子線の強度を測定し、その強度変化より判断する。判断基準は、図5に示すように、強度変化の周期(θ)と最大電子線強度の現れる回数である。このように測定することにより、容易に分解能の高い状態を維持し、適切な試料観察が可能である。
【0052】
本実施例では、走査型電子顕微鏡の例を示したが、試料13を透過した電子線を検出する電子線検出器や、電子線検出器に照射するよう調整する投影レンズ等の公知の走査透過型電子顕微鏡に用いられているのと同等の検出器やレンズ系を備えた走査透過型電子顕微鏡においても、エネルギーフィルタ5は同様のものを用いることができる。したがって、本実施例の図1に示した概略構成図は、走査透過型電子顕微鏡にも適用できるものである。
【0053】
図7は、本発明の別の実施例の、エネルギーフィルタを備えた透過型電子顕微鏡の主要部分の構成概略図である。電子線発生器1で発生した電子線2は、収束レンズ3と対物レンズ12により、試料13に照射される。試料13を透過した電子線はエネルギーフィルタ5に入射され、エネルギーフィルタ6でエネルギー分散され、スリット7でエネルギー選択された後、中間レンズや投影レンズで観察室に投影され、電子顕微鏡像を観察したり、電子線エネルギー損失スペクトルを測定する。本実施例のエネルギーフィルタ5の動作は、図1に示す実施例を同じである。
【0054】
図8は、本実施例の別の実施例の、エネルギーフィルタを2台備えた透過型電子顕微鏡の概略構成図である。電子線発生器1と、試料13より上流側に配置され、電子線発生器1からの電子線のエネルギー幅を小さくするためのエネルギーフィルタ6aと、試料13を透過した電子線のエネルギーを分析する為のエネルギーフィルタ6bを含み、電子顕微鏡像を観察する為の検出器等は省略してある。本実施例の電子顕微鏡を用いれば、エネルギー幅の小さい電子線を照射することで、空間分解能の優れた電子顕微鏡像を観察することが出来、かつ試料を透過した電子線のエネルギー分析をすることで、高精度のエネルギー分析した元素分布像や化学結合状態を解析した像やスペクトルを得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施例の主要部分を示す概略構成図。
【図2】本発明の実施例を用いて電子顕微鏡像を観察するための軸調整から観察するまでの調整の一例を示す図。
【図3】図2に示した調整の一例において、粗い軸調整の方法の一例を示す図。
【図4】図2に示した調整の一例において、高精度の軸調整の方法の一例を示す図。
【図5】スリットと電子線の周期;ω、振幅;w1の位置変化の様子、及び位置変化に対応する2次電子の強度変化の一例を示す図。
【図6】図1に示した概略構成図のスリット7の構成の一例を示す図。
【図7】本発明の別の実施例の主要部分を示す概略構成図。
【図8】本発明の別の実施例の主要部分を示す概略構成図。
【符号の説明】
【0056】
1…電子線発生源、2…電子線、3…収束コイル、4…偏向コイル、5…エネルギーフィルタ、6…エネルギー分光部、7…スリット、8…スリット可動部、9…センサ検出コイル、10…電子線走査コイル、11…エネルギーフィルタ電子線検出器、12…対物レンズ、13…試料、14…2次電子、15…2次電子検出器、20…制御装置、21…電子顕微鏡制御装置、22…エネルギーフィルタ制御部、23…関数発生装置、24…信号解析部、25…表示装置、26…入力装置、31…スリットの上部スリット、32…スリットの下部スリット、50…中間レンズ系、51…投影レンズ系、52…蛍光板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を発生する電子線発生源と、前記電子線をエネルギーにより分散するエネルギー分光器及び前記エネルギー分散された電子線を選択するスリットを備えたエネルギーフィルタと、対物レンズと、前記エネルギーフィルタによって選択された電子線の量を検出するエネルギーフィルタ電子線検出器とを有する電子顕微鏡であって、前記エネルギー分光器はオン・オフ切り替えが可能であり、前記スリットはエネルギー分散された電子線の軌道上に配置されており、エネルギー分光器がオフのとき電子線の軌道は前記スリット上にないことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1記載の電子顕微鏡において、前記エネルギー分光器がオンのときに前記スリット上の前記電子線が照射される位置を移動させ、前記エネルギーフィルタ電子線検出器からの信号に基づいて前記電子線の軌道位置または前記スリット位置を調整するエネルギーフィルタ制御装置を有することを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項3】
請求項1記載の電子顕微鏡において、前記エネルギーフィルタが電子線発生源と試料との間に配置される、もしくは試料より下流側に配置されており、前記エネルギーフィルタにより選択された電子線により試料を観察することを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項4】
電子線を発生する電子線発生源と、前記電子線をエネルギーにより分散するエネルギー分光器及び前記エネルギー分散された電子線を選択するスリットを備えたエネルギーフィルタと、対物レンズと、前記エネルギーフィルタによって選択された電子線の量を検出するエネルギーフィルタ電子線検出器とを有する電子顕微鏡であって、前記スリット上の前記電子線が照射される位置を移動させ、前記エネルギーフィルタ電子線検出器からの信号に基づいて前記電子線の軌道位置または前記スリット位置を調整するエネルギーフィルタ制御装置を有することを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項5】
請求項4に記載の電子顕微鏡において、前記エネルギーフィルタ制御装置は、前記スリット上の電子線の位置を移動させる電子線移動制御部と、前記電子線移動制御部からの出力信号と前記エネルギーフィルタ電子線検出器からの出力信号とに基づき前記スリット上での電子線位置を解析する信号解析部と、前記エネルギーフィルタの入射端と出射端での電子線位置を制御するエネルギーフィルタ偏向コイルを制御するエネルギーフィルタ偏向コイル制御部とを有することを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項6】
電子線を発生する電子線発生源と、エネルギーにより前記電子線を分散するエネルギー分光器とエネルギー分散された電子線を選択するスリットとを備えたエネルギーフィルタと、対物レンズと、前記エネルギーフィルタによって選択された試料による2次電子の量を検出するエネルギーフィルタ電子線検出器とを有する電子顕微鏡であって、前記エネルギー分光器はオン・オフ切り替えが可能であり、エネルギー分光器がオンのときに、前記スリット上の電子線の照射される位置を周期的に移動させ、前記エネルギーフィルタ電子線検出器からの信号に基づいて前記電子線の照射される位置を特定し、前記電子線の軌道位置または前記スリット位置を調整するエネルギーフィルタ制御装置を有することを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項7】
請求項6に記載の電子顕微鏡において、前記エネルギーフィルタ電子線検出器は出射口より下流側の電子線の軌道と重複しない位置に配置され、出射口から出射された電子線偏向コイルを備えたことを特徴とする電子顕微鏡。
【請求項8】
電子線源から発生した電子線が試料に照射される前に、もしくは試料を透過した後、いずれかの電子線に対して、エネルギー分光部でエネルギーにより電子線を分光し、2つ以上の遮蔽板で構成されるスリットを備えたエネルギーフィルタで上記分光された電子線のうちいずれかのエネルギーを有する電子線を選択し、上記選択された電子線を観察する電子顕微鏡観察法において、前記スリット上の前記電子線が前記スリットの第一の遮蔽板で遮断される位置から、前記スリットの開口部を経て、前記スリットの第二の遮蔽板で遮断される位置まで移動させる操作を1回以上繰り返し、前記操作に対応して前記スリットを透過した電子線強度を検出し、前記スリットを透過した電子線の強度変化に基づき前記スリット上での前記電子線位置を制御するステップを有することを特徴とする電子顕微鏡観察法。
【請求項9】
請求項8に記載した電子顕微鏡観察法において、複数の部材からなる前記スリットのそれぞれ若しくは全体を一回以上往復移動させ、前記スリットの移動距離に対応する前記スリットを透過した電子線を検出し、スリットの移動距離及び前記スリットを透過した電子線の強度変化量に基づいて、前記スリット上での前記電子線位置を制御することを特徴とする電子顕微鏡観察法。
【請求項10】
請求項8に記載した電子顕微鏡観察法において、スリット上の電子線の照射位置をスリット幅以上の距離移動させ、前記電子線の移動距離に対応して前記スリットを透過した電子線を検出し、電子線の移動距離及び前記スリットを透過した電子線の強度変化量に基づいて、前記スリット上での前記電子線位置を制御することを特徴とする電子顕微鏡観察法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−266016(P2007−266016A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−190304(P2007−190304)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【分割の表示】特願2002−333020(P2002−333020)の分割
【原出願日】平成14年11月18日(2002.11.18)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】