説明

電極、その製造方法およびその電極を備えたリチウムイオン二次電池

【課題】電極の合剤層の表面近傍には、樹脂バインダが偏析しやすく、合剤層内部への電解液浸透の妨げとなって、リチウムイオン二次電池の負荷特性を低下させる要因となっていた。
【解決手段】合剤層の表面に形成されたバインダの偏析部分を除去することにより、全体にバインダがほぼ均一に分布した合剤層を有する電極を構成することができる。これにより、高容量化などのため電極の合剤層を厚膜化した場合でも、電解液が合剤層内部まで浸透しやすくなり、電極の反応性が向上して、負荷特性に優れたリチウムイオン二次電池を構成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電極、その製造方法およびその電極を備えたリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、活物質を含む電極ペーストを金属芯材に塗着して作製した帯状の電極部材の表面に付着した付着物を砥粒層を有する研磨テープで払拭する電池用極板の製造法が知られている(特許文献1)。
【0003】
この電池用極板の製造法においては、研磨テープを電極部材に接触走行させて電極部材の表面の付着物を払拭する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−134100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、一般的に、粒子とバインダ樹脂と溶剤とからなる混合液を塗布乾燥させると、表層に樹脂比率の高い層が形成される。特に、急速乾燥を行う場合、または塗膜の厚みが厚くなった場合、著しい樹脂の表面偏析が見られるため、そのような条件で作製された電極を用いてリチウムイオン二次電池を作製すると、電極中に電解液が浸透し難くなり、リチウムイオン二次電池の負荷特性が低下するという問題がある。
【0006】
そこで、この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、負荷特性の低下を抑制可能な電極を提供することである。
【0007】
また、この発明の別の目的は、負荷特性の低下を抑制可能な電極の製造方法を提供することである。
【0008】
更に、この発明の別の目的は、負荷特性の低下を抑制可能な電極を備えたリチウムイオン二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電極は、集電体と、活物質とフッ素樹脂バインダとを含み、前記集電体上に塗布された合剤層とを備えた電極であって、前記合剤層の表面から深さ方向にフッ素量を積算した場合に、その積算値が前記合剤層全体におけるフッ素量の半分になる深さをx(μm)とし、前記合剤層の厚みをD(μm)としたとき、45≦x/D×100≦55であることを特徴とする。
【0010】
本発明においては、前記合剤層の厚みが80〜250μmであることを好ましい実施態様とする。
【0011】
また、本発明のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極とを備え、前記正極および前記負極の少なくとも一方に、前記本発明の電極を用いたことを特徴とする。
【0012】
さらに、前記本発明の電極の製造方法は、活物質とフッ素樹脂バインダとを含む合剤塗料を集電体上に塗布して乾燥し、合剤層を形成する工程と、前記合剤層の表面の前記バインダが偏析した部分を除去する工程とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明の実施の形態による電極は、バインダ樹脂が合剤層の全体にほぼ均一に分散しているため、電解液が合剤層の全域に浸透しやすく、電解液との反応性が向上して、リチウムイオンが合剤層に吸蔵・放出され易くなる。このため、前記電極を正極および負極の少なくとも一方に用いたリチウムイオン二次電池では、負荷特性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態による電極の断面図である。
【図2】図1に示す合剤層の断面を示す概念図である。
【図3】図1に示す電極の製造方法を示す工程図である。
【図4】図3に示す工程S2の概念図である。
【図5】図1に示す電極を備えたリチウムイオン二次電池の平面図である。
【図6】図5に示す線VI−VI間におけるリチウムイオン二次電池の断面図である。
【図7】図5および図6に示すリチウムイオン二次電池の製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0016】
図1は、この発明の実施の形態による電極の断面図である。図1を参照して、この発明の実施の形態による電極10は、集電体1と、合剤層2とを備える。合剤層2は、合剤層2aと合剤層2bとからなる。合剤層2aは、集電体1の一方の表面に塗布される。合剤層2bは、集電体1の他方の表面に塗布される。
【0017】
集電体1は、電極10が正極として用いられる場合、例えば、アルミニウム箔およびアルミニウム合金箔のいずれかからなる。そして、集電体1の厚みは、リチウムイオン二次電池の容量によって異なるが、例えば、0.01〜0.02mmであることが好ましい。
【0018】
また、集電体1は、電極10が負極として用いられる場合、例えば、銅箔からなる。そして、集電体1の厚みは、電池の大きさまたは容量によるが、例えば、0.05〜0.02mmであることが好ましい。
【0019】
合剤層2a,2bの各々は、電極10が正極として用いられる場合、正極活物質、導電助剤およびバインダ樹脂等を含有する。
【0020】
正極活物質は、例えば、電極10がリチウムイオン二次電池の正極として用いられる場合、リチウムイオンを吸蔵・放出できる活物質からなる。このような正極活物質は、例えば、Li1+xMO(−0.1<x<0.1、M:Co,Ni,Mn,Al,Mg等)で表される層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物、LiMn、元素の一部を他の元素で置き換えたスピネル構造のリチウムマンガン酸化物、およびLiMPO(M:Co,Ni,Mn,Fe等)で表されるオリビン型化合物等が挙げられる。
【0021】
そして、層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物は、例えば、LiCoO、LiNi1−xCox−yAl(0.1≦x≦0.3,0.01≦y≦0.2)、および少なくともCo,NiおよびMnを含む酸化物(LiMn1/3Ni1/3Co1/3,LiMn5/12Ni5/12Co1/6,LiNi3/5Mn1/5Co1/5等)等が挙げられる。
【0022】
導電助剤は、例えば、黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラックおよび繊維状炭素等が挙げられる。
【0023】
フッ素樹脂バインダは、例えば、ポリフッ化ビリニデン(PVDF)、フッ化ビリニデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体等が挙げられる。
【0024】
また、合剤層2a,2bの各々は、電極10が負極として用いられる場合、負極活物質、導電助剤およびバインダ樹脂等を含有する。
【0025】
負極活物質は、例えば、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、および炭素繊維等のリチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素系材料の1種または2種以上の混合物からなる。
【0026】
また、上記以外の負極活物質は、例えば、Si,Sn,Ge,Bi,Sb,In等の元素、Si,Sn,Ge,Bi,Sb,Inの合金、リチウム含有窒化物、およびリチウム酸化物等のリチウム金属に近い低電圧で充放電できる化合物(LiTi12等)、リチウム金属、およびリチウム/アルミニウム合金等が挙げられる。
【0027】
導電助剤は、正極の導電助剤と同じ材料を用いることができる。
【0028】
バインダ樹脂は、例えば、PVDF、スチレンブタジエンゴム(SBR)のようなゴム系バインダとカルボキシメチルセルロース(CMC)との混合バインダ等が挙げられる。
【0029】
そして、合剤層2a,2bの各々は、電極10が正極および/または負極として用いられる場合、例えば、80〜250μmの厚みを有する。
【0030】
本発明の電極10を構成する合剤層2a,2bは、活物質とフッ素樹脂バインダと必要に応じ導電助剤を含む合剤塗料を集電体1上に塗布して乾燥することにより形成されるが、乾燥後の合剤層の表面近傍には、バインダであるフッ素樹脂が他の領域よりも高濃度で存在する偏析部が形成されやすい。前記偏析部の一部あるいは全部を除去することにより、表面から深さ方向にわたってバインダがほぼ均一に分布する合剤層を得ることができる。
【0031】
ここで、合剤層2a,2bの表面部において除去すべき深さは、以下の基準で決めることができる。
【0032】
合剤層の表面から深さ方向にフッ素量を積算し、合剤層の表面から深さs(μm)までのフッ素量の積算値nを測定し、nが、合剤層におけるフッ素の全量Nの1/2になる深さsを求める。次に、深さsを合剤層の厚みt(μm)で割り、100を掛けた値(これを樹脂累積頻度とする)を求める。
【0033】
通常、前記樹脂累積頻度は、45よりも小さい値となる。すなわち、合剤層の表面にバインダが濃化していることにより、合剤層の表面から45%の深さよりも浅い部分に、合剤層中の全バインダのうちの1/2の量が存在することになる。このため、合剤層の深い部分まで電解液が浸透するのが妨げられることになる。
【0034】
そこで、合剤層の表面部分を、表面から適当な深さ(通常は、0.1〜10μm程度)まで除去し、その除去作業後の合剤層について、新たな厚みD(μm)、合剤層におけるフッ素の全量M、合剤層の表面から深さx(μm)までのフッ素量の積算値mを測定し、前記と同様にして樹脂累積頻度:x/D×100を求める。ここで、樹脂累積頻度が45以上55以下の範囲となるよう、除去する合剤層の深さを決めることにより、バインダ樹脂が合剤層の全体にほぼ均一に分散した電極を作製することができる。すなわち、樹脂累積頻度が45以上55以下の範囲であれば、合剤層を上下1/2ずつに分けた場合に、それぞれの層にバインダがほぼ同じ量で存在することになり、電解液が合剤層の深い部分まで浸透しやすくなる。
【0035】
図2は、図1に示す合剤層の断面を示す概念図であり、表面部分を除去する工程を経た後の合剤層の状態を示すものである。合剤層2aは、フッ素樹脂20を含み、厚みDを有する。
【0036】
合剤層2aにおけるフッ素の全量をMとする。そして、合剤層2aの表面から深さxまでのフッ素量を積算し、その積算した積算値m(x)がMの1/2となるときのxを求める。樹脂が偏析している部分を除去したため、フッ素樹脂20は、合剤層2aの全体に均一に分散しており、深さxは、厚みDの半分D/2の近傍の値となる。即ち、45≦x/D×100≦55を満たす合剤層となる。
【0037】
樹脂累積頻度は、上述したように、積算値m(x)がフッ素の全量Mの半分になるときの合剤層2aの表面からの深さxを合剤層2aの厚みDで割り、更に100を掛けた値で表される。
【0038】
従って、フッ素樹脂20(フッ素)が合剤層2aの全体に均一に分散している場合、x=D/2となり、樹脂累積頻度は、50となる。合剤層2bについても同じである。
【0039】
樹脂累積頻度が50である場合、上述したように、フッ素樹脂20は、合剤層2a,2bに均一に分散しているので、電解液が合剤層2a,2bの全域に浸透し易くなる。その結果、リチウムイオンが正極および/または負極に吸蔵・放出され易くなる。
【0040】
従って、電極10を正極および/または負極として用いたリチウムイオン二次電池の負荷特性の低下を抑制できる。
【0041】
図3は、図1に示す電極10の製造方法を示す工程図である。図3を参照して、電極10の製造が開始されると、活物質(正極活物質または負極活物質)とバインダ樹脂とを含む合剤塗料を集電体1上に塗布して乾燥し、合剤層を形成する(工程S1)。
【0042】
そして、樹脂累積頻度が45〜55になるように合剤層の表面部分を除去する(工程S2)。この場合、例えば、ラッピングテープを用いて合剤層2の表面部分を除去する。これによって、電極10が製造される。
【0043】
図4は、図3に示す工程S2の概念図である。図4を参照して、図3に示す工程S1が完了した時点では、集電体1の両面には、それぞれ、合剤層21a,21bが形成されている。
【0044】
合剤層21a,21bの各々は、厚みD1を有し、フッ素樹脂20が合剤層21a,21bの表面部分に偏析している。
【0045】
そして、合剤層21aの表面から深さ方向へフッ素量を計測し、樹脂累積頻度が45〜55の範囲になるような合剤層の厚みDと、フッ素樹脂20が偏析した表面部分の厚みd1とを決定する。合剤層21bについても、同様にして、合剤層の厚みDと、表面部分の厚みd1とを決定する(図4の(a)参照)。
【0046】
その後、合剤層21a,21bの各々において、厚みd1を有する表面部分をラッピングテープによって除去する。これによって、集電体1の両面には、それぞれ、合剤層2a,2bが形成される(図4の(b)参照)。この場合、合剤層2a,2bの各々は、厚みDを有し、合剤層2a,2bの各々における樹脂累積頻度は、45〜55の範囲である。
【0047】
なお、正極を製造する場合、図3に示す工程S1においては、正極活物質とバインダ樹脂とを含む合剤塗料を集電体1上に塗布して乾燥し、合剤層を形成する。
【0048】
また、負極を製造する場合、図3に示す工程S1においては、負極活物質とバインダ樹脂とを含む合剤塗料を集電体1上に塗布して乾燥し、合剤層を形成する。
【0049】
更に、正極または負極を製造する場合、図3に示す工程S1においては、活物質とバインダ樹脂とを含む合剤塗料を集電体1上に塗布して乾燥し、必要に応じてプレス処理によって合剤層の厚みを調整するようにしてもよい。
【0050】
図5は、図1に示す電極10を備えたリチウムイオン二次電池の平面図である。また、図6は、図5に示す線VI−VI間におけるリチウムイオン二次電池の断面図である。
【0051】
図5および図6を参照して、リチウムイオン二次電池100は、正極101と、負極102と、セパレータ103と、ラミネートフィルム104と、正極外部端子105と、負極外部端子106とを備える。
【0052】
正極101、負極102およびセパレータ103は、シート状の形状を有する。また、正極101および負極102の各々は、図1に示す電極10からなる。そして、正極101、負極102およびセパレータ103は、積層され、積層体120を構成する。正極101は、リチウムイオン二次電池100の面内方向DR1において、負極102よりも小さいサイズを有する。また、負極102は、面内方向DR1において、セパレータ103よりも小さいサイズを有する。
【0053】
そして、正極101、負極102およびセパレータ103は、面内方向DR1において、セパレータ103の両端が負極102の両端よりも外側に位置し、負極102の両端が正極101の両端よりも外側に位置するように配置される。
【0054】
ラミネートフィルム104は、略四角形の平面形状を有し、積層体120を収納する。そして、ラミネートフィルム104は、その縁部がシールされている。正極外部端子105は、平面状の形状を有し、その一方端が正極101に直接またはリード体107を介して接続される。そして、正極外部端子105は、その他方端がラミネートフィルム104を介して外部に引き出される。
【0055】
負極外部端子106は、平面状の形状を有し、その一方端が負極102に直接またはリード体を介して接続される。そして、負極外部端子106は、その他方端がラミネートフィルム104を介して外部に引き出される。
【0056】
なお、図5においては、正極外部端子105および負極外部端子106は、ラミネートフィルム104の同一辺から引き出されているが、この発明の実施の形態においては、これに限らず、正極外部端子105および負極外部端子106は、ラミネートフィルム104の異なる辺から引き出されていてもよい。
【0057】
そして、正極外部端子105の厚みは、50〜300μmである。即ち、正極外部端子105の厚みを50μm以上に設定することによって、正極外部端子105の溶接時において、正極外部端子105が切断されるのを防止できるとともに、正極外部端子105が引っ張りおよび折り曲げによって断裂するのを防止できる。また、正極外部端子105の厚みを300μm以下に設定することによって、ラミネートフィルム104の熱シール部に厚み方向の隙間が生じるのを防止できる。
【0058】
なお、ラミネートフィルム104と正極外部端子105との接着強度を高めるために、正極外部端子105において熱シール部に位置することが予定される箇所に、予め、樹脂製の接着層(例えば、ラミネートフィルム104を構成する金属ラミネートフィルムが有する熱融着樹脂層を構成する樹脂と同種の樹脂により構成された接着層)を設けてもよい。
【0059】
正極101における集電体1または該集電体1に接続したアルミニウム製のリード体107と、正極外部端子105との接続方法としては、例えば、抵抗溶接、超音波溶接、レーザー溶接、カシメ、および導電性接着剤による方法等、各種の方法を採用することができる。これらの中では、超音波溶接が特に適している。
【0060】
負極外部端子106は、ニッケル、ニッケルメッキをした銅、およびニッケル−銅クラッド等の金属の箔またはリボンからなる。また、負極外部端子106の厚みは、正極外部端子105と同様に50〜300μmであることが好ましい。
【0061】
即ち、負極外部端子106の厚みを50μm以上に設定することによって、負極外部端子106の溶接時において、負極外部端子106が切断されるのを防止できるとともに、負極外部端子106が引っ張りおよび折り曲げによって断裂するのを防止できる。また、負極外部端子106の厚みを300μm以下に設定することによって、ラミネートフィルム104の熱シール部に厚み方向の隙間が生じるのを防止できる。
【0062】
なお、ラミネートフィルム104と負極外部端子106との接着強度を高めるために、負極外部端子106において熱シール部に位置することが予定される箇所に、予め、樹脂製の接着層(例えば、ラミネートフィルム104を構成する金属ラミネートフィルムが有する熱融着樹脂層を構成する樹脂と同種の樹脂により構成された接着層)を設けてもよい。
【0063】
負極102と負極外部端子106との接続は、負極102の集電体1と負極外部端子106とを直接接続することによって行われてもよいが、例えば、銅製のリード体を介して行われてもよい。銅製のリード体の厚みは、負極外部端子106と同様に、50〜300μmであることが好ましい。このようなリード体は、特に、負極集電体である銅箔が薄く、負極外部端子106と直接接続するには、強度が不足するような場合に用いられることが好ましい。
【0064】
負極102における集電体1または該集電体1に接続した銅製のリード体と、負極外部端子106との接続は、例えば、抵抗溶接、超音波溶接、レーザー溶接、カシメおよび導電性接着剤による方法等、各種の方法によって行われる。これらの方法の中でも、超音波溶接が特に適している。
【0065】
セパレータ103は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンとの融合体、ポリエチレンテレフタレート、およびポリブチレンテレフタレート等で構成された多孔質フィルムまたは不織布からなる。
【0066】
セパレータ103の厚みは、10〜50μmであることが好ましく、空孔率は、30〜70%であることが好ましい。
【0067】
また、多孔質フィルムと不織布とを重ねる等、複数枚のセパレータを用いることによって、短絡を防止する効果を高め、電池の信頼性をより向上させることができる。
【0068】
リチウムイオン二次電池100に用いられる電解液は、例えば、高誘電率溶媒または有機溶媒にLiPF,LiBF等の溶質を溶解した溶液(非水電解液)からなる。高誘電率溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、およびγ−ブチロラクトン(BL)などを用いることができる。有機溶媒は、直鎖状のジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、およびメチルエチルカーボネート(EMC)等の低粘度溶媒からなる。
【0069】
なお、電解液溶媒には、上述した高誘電率溶媒と、低粘度溶媒との混合溶媒を使用することが好ましい。また、上述した溶液に、PVDF、ゴム系の材料、脂環エポキシ、およびオキセタン系の三次元架橋構造を有する材料等を混合して固化し、ポリマー電解液としてもよい。
【0070】
図7は、図5および図6に示すリチウムイオン二次電池100の製造方法を示す工程図である。図7を参照して、リチウムイオン二次電池100の製造が開始されると、図3に示す工程S1,S2を繰り返し実行して正極101および負極102となる電極10を作製する(工程S11)。
【0071】
そして、正極101および負極102をセパレータ103を介して積層し、積層体120を作製する(工程S12)。
【0072】
その後、積層体120の一方側に配置すべき第1のラミネートフィルムの一主面と積層体120の他方側に配置すべき第2のラミネートフィルムの一主面とに樹脂を塗布する(工程S13)。
【0073】
そして、第1のラミネートフィルムの一主面と第2のラミネートフィルムの一主面とによって積層体120を挟み込むように第1および第2のラミネートフィルムを積層体の両側に配置する(工程S14)。
【0074】
そうすると、次の方法(1)〜(3)のいずれかの方法を用いて積層体120をラミネートフィルム104内に収容し、電解液を注入する一辺以外の辺を熱シールする(工程S15)。
【0075】
(1)2枚のラミネートフィルムの間に積層体120を挟んだ後に、これらの2枚のラミネートフィルムの外周辺を電解液を注入するための一辺を残して熱シールする方法
(2)ラミネートフィルムの外周辺のうち電解液を注入するための一辺を残して予め袋状に成形したラミネートフィルム内に電解液を注入するための一辺から積層体120を挿入する方法
(3)ラミネートフィルム上に積層体120を置き、積層体120を包むようにラミネートフィルムを2つ折りにし、電解液を注入するための一辺を残して残りの外周辺を熱シールする方法(なお、外周辺のうち、ラミネートフィルムを二つ折りにした折り曲げ部分は、熱シールしてもよいし、熱シールしなくてもよい)
【0076】
工程S15の後、電解液を注入し(工程S16)、電解液を注入した一辺からラミネートフィルム104内を真空に引きながら電解液を注入した一辺を熱シールする(工程S17)。
【0077】
これによって、リチウムイオン二次電池100が完成する。
【0078】
なお、上記においては、正極101および負極102の両方が図1に示す電極10からなると説明したが、この発明の実施の形態においては、これに限らず、正極101および負極102の少なくとも一方が図1に示す電極10からなっていればよい。
【0079】
正極101および負極102の少なくとも一方が図1に示す電極10からなっていれば、電解液が正極101および負極102の少なくとも一方に浸透し易くなるとともに、リチウムイオンが正極101および負極102の少なくとも一方に吸蔵・放出され易くなり、リチウムイオン二次電池100の負荷特性の低下を抑制できるからである。
【0080】
以下、実施例について説明する。
【0081】
(実施例1)
図1に示す電極10からなる正極と、負極合剤層の表面部分を除去しない負極とを用いて図7に示す工程図に従ってリチウムイオン二次電池を作製した。この場合、正極合剤層における樹脂累積頻度は、50であり、正極合剤層の厚み(合剤層2a,2bのそれぞれの厚み)は、100μmである。
【0082】
(比較例1)
正極合剤層の表面部分を除去しなかった以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。この場合、正極合剤層における樹脂累積頻度は、40であり、正極合剤層の厚み(合剤層2a,2bのそれぞれの厚み)は、105μmである。
【0083】
(比較例2)
正極合剤層の厚み(合剤層2a,2bのそれぞれの厚み)を300μmとした以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。この場合、正極合剤層における樹脂累積頻度は、50である。
【0084】
実施例1および比較例1,2におけるリチウムイオン二次電池の負荷特性および電解液浸透性を表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
表1において充電電流を1C(A)とし、放電電流を1C(A)として、充放電を行った際の放電容量が100(mAh/g)以上のものを負荷特性◎、50(mAh/g)以上で100(mAh/g)未満のものを負荷特性△、50(mAh/g)未満のものを負荷特性×とした。単位としてのmAh/gは、正極活物質単位重量(g)当たりの放電容量としている。また、電解液浸透性は、5cm×5cmの大きさの電極をつり下げ、その下端をDEC液面に浸けてからの重量変化より吸い上がり速度を測定し、1分間に吸い上がった重量を断面積(塗膜厚み×5cm)で除算した値が0.3(g/cm2・min)以上のものを◎、0.2(g/cm2・min)以上で0.3(g/cm2・min)未満のものを△、0.2(g/cm2・min)未満のものを×とした。
【0087】
なお、表1における正極の厚みは、合剤層の表面部分を除去した後の厚みである。
【0088】
表1に示すように、実施例1によるリチウムイオン二次電池においては、電解液浸透性が優れている。その結果、電解液が正極に浸透し易くなり、リチウムイオンが正極に吸蔵・放出され易くなる。従って、リチウムイオン二次電池の負荷特性が良好になる。
【0089】
また、比較例1によるリチウムイオン二次電池においては、電解液浸透性が実施例1によるリチウムイオン二次電池よりも低下し、その結果、負荷特性も実施例1によるリチウムイオン二次電池よりも低下する。
【0090】
更に、比較例2によるリチウムイオン二次電池においては、電解液浸透性が著しく低下し、その結果、電解液が正極に浸透し難くなり、リチウムイオンが正極に吸蔵・放出され難くなる。従って、負荷特性も著しく低下する。これは、正極合剤層の厚みが300μmと厚いためと考えられる。
【0091】
高容量化の観点から、正極合剤層の厚みは、80μm以上とするのが好ましいが、表1に示す負荷特性および電解液浸透性の結果から、正極合剤層の厚みは、250μm以下とするのが適切である。
【0092】
また、樹脂累積頻度は、50を中心値として、45〜50の範囲とするのが好ましい。樹脂累積頻度が55よりも大きくなると、即ち、集電体側にバインダが偏析するようになると、正極合剤層と集電体との間の直列抵抗が高くなり、負荷特性が低下する。従って、電解液の浸透性と電極の抵抗との兼ね合いから、樹脂累積頻度は、45〜55の範囲であることが好ましい。上記合剤層の厚みと樹脂累積頻度の好適な範囲は、負極についても同様である。
【0093】
なお、電極10は、集電体1の両面に合剤層2a,2bを形成した構造からなると説明したが、この発明の実施の形態においては、これに限らず、電極10は、樹脂累積頻度が45〜55の範囲である合剤層を集電体1の片面に形成した構造からなっていてもよい。
【0094】
また、この発明の実施の形態によるリチウムイオン二次電池は、正極および負極の少なくとも一方が図1に示す電極10からなり、正極および負極をセパレータを介して捲回した捲回体を電池缶に収納した構造からなるリチウムイオン二次電池であってもよい。
【0095】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0096】
この発明は、電極、その製造方法およびその電極を備えたリチウムイオン二次電池に適用される。
【符号の説明】
【0097】
1 集電体、2,2a,2b,21a,21b 合剤層、10 電極、20 フッ素樹脂、100 リチウムイオン二次電池、101 正極、102 負極、103 セパレータ、104 ラミネートフィルム、105 正極外部端子、106 負極外部端子、107 リード体、120 積層体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
活物質とフッ素樹脂バインダとを含み、前記集電体上に塗布された合剤層とを備えた電極であって、
前記合剤層の表面から深さ方向にフッ素量を積算した場合に、その積算値が前記合剤層全体におけるフッ素量の半分になる深さをx(μm)とし、前記合剤層の厚みをD(μm)としたとき、45≦x/D×100≦55である、電極。
【請求項2】
前記合剤層の厚みは、80〜250μmである、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
正極と、
負極とを備え、
前記正極および前記負極の少なくとも一方が請求項1または請求項2に記載の電極からなるリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の電極の製造方法であって、
活物質とフッ素樹脂バインダとを含む合剤塗料を集電体上に塗布して乾燥し、合剤層を形成する工程と、
前記合剤層の表面の前記フッ素樹脂バインダが偏析した部分を除去する工程とを備える電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−62131(P2013−62131A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199615(P2011−199615)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】