説明

電極一体型高分子電解質膜とこれを用いた電気化学素子

【課題】高温下での変形が抑制された電極一体型高分子電解質膜を提供する。
【解決手段】式(1)に示す構造単位を含む部分架橋ポリマからなる電解質膜前駆体を、イオン種と式(2)に示すオリゴマーとを含む電解液を含浸させ、かつ一対の電極により狭持した状態で架橋させ、前駆体を電解質膜としながら電極と一体化させた電解質膜とする。




式(1)のR1はHまたはCH3、R2はCH3またはC26、nは2〜12の自然数。式(2)のR3はCH3、C26またはC38、R4はHまたはCH3、mは3〜12の自然数。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質膜と電極とが一体化された電極一体型高分子電解質膜と、これを用いた電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
固体状態でイオン伝導性を示す物質を固体電解質という。特に、高分子(ポリマー)をベースとする高分子固体電解質(高分子電解質)は、柔軟性および屈曲性に優れるというポリマー由来の特性に基づき、形状加工の自由度および電極との密着性に優れるなどの特長を有することから、近年、リチウム二次電池などの電気化学素子(以下、単に「素子」ともいう)に用いる次世代の電解質として注目されている。
【0003】
高分子電解質を用いた素子は、一般的な電解質溶液(例えば、イオン種としてリチウム塩などの電解質塩を非水溶媒に溶解させた溶液)を用いた素子に比べて、液漏れなどの心配がなく、安全性に優れている。また、膜状の高分子電解質(高分子電解質膜)とすることにより、素子形状の自由度を高くすることができ、情報・携帯機器に用いる電源への応用が期待される。高分子電解質膜を電気化学素子に用いる場合、当該素子は、通常、高分子電解質膜を一対の電極(正極および負極)により狭持した構造を有する。
【0004】
また、高分子電解質のベースとなるポリマー(ベースポリマー)として、従来、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドなどのアルキレンオキシド基を側鎖に有するポリマーが数多く検討されている(例えば、特許文献1に記載)。特許文献1に記載のポリマーは、プロピレンオキシド基を側鎖に有する構造単位を含むポリエーテル共重合体である。
【特許文献1】特開平10−204172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のポリマーなどの従来のベースポリマーと、イオン種とを複合化して電解質膜とし、当該電解質膜を一対の電極により狭持して電気化学素子を構成した場合、異常発熱時など、素子が高温雰囲気となった場合に電解質膜が変形する、典型的には収縮する、ことがある。電解質膜が変形すると素子としての機能が失われる他、その程度があまりにも酷くなると、最悪の場合、電極間の短絡にもつながりかねない。
【0006】
そこで本発明は、高温下(例えば、100℃以上)での電解質膜の変形が抑制され、仮に高温雰囲気となった場合にも、従来の素子よりも機能を長く保持できる素子を実現可能な、電解質膜と電極とが一体化された高分子電解質膜(電極一体型高分子電解質膜)の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電極一体型高分子電解質膜は、アルキレンオキシド基を側鎖に有する以下の化学式(1)に示す第1の構造単位を含む部分架橋ポリマーからなる膜状の電解質膜前駆体を、イオン種と以下の化学式(2)に示すアルキレンオキシドオリゴマーとを含む電解液を含浸させ、かつ、一対の電極により狭持した状態で、さらに架橋させることにより、前記前駆体を電解質膜とするとともに前記一対の電極と一体化させて得た電解質膜である。
【0008】
【化4】

【0009】
【化5】

【0010】
上記式(1)において、R1は、HまたはCH3であり、R2は、CH3またはC26であり、nは、2以上12以下の自然数である。上記式(2)において、R3は、CH3、C26またはC38であり、R4は、HまたはCH3であり、mは、3以上12以下の自然数である。
【0011】
本発明の電気化学素子は、一対の電極と、前記一対の電極によって狭持された電解質膜とを含む電気化学素子であって、前記一対の電極および電解質膜として、上記本発明の電極一体型高分子電解質膜を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電極一体型高分子電解質膜によれば、高温下での電解質膜の変形を抑制でき、仮に高温雰囲気となった場合にも、従来の素子よりも機能を長く保持できる電気化学素子を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(電解質膜前駆体)
本発明の電極一体型高分子電解質膜は、以下の化学式(1)に示す第1の構造単位を含む部分架橋ポリマーからなる膜状の電解質膜前駆体から形成される。式(1)において、R1は、HまたはCH3であり、R2は、CH3またはC26であり、nは、2以上12以下の自然数である。
【0014】
【化6】

【0015】
上記式(1)により示される第1の構造単位は、アルキレンオキシド基をその側鎖に有する。このような構造単位は、アルキレンオキシド基を側鎖に有する、以下の化学式(4)に示す(メタ)アクリル酸エステルモノマーの重合により形成できる。式(4)において、R1は、HまたはCH3であり、R2は、CH3またはC26であり、nは、2以上12以下の自然数である。
【0016】
【化7】

【0017】
なお、本明細書における「(メタ)アクリル酸」の表記は、アクリル酸(R1=H)またはメタクリル酸(R1=CH3)を意味している。「(メタ)アクリレート」についても同様に、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0018】
電解質膜前駆体は、第1の構造単位を含む部分架橋ポリマーからなる。この部分架橋ポリマーは、当該前駆体に電解液を含浸させ、かつ、当該前駆体を一対の電極により狭持した状態で行われるさらなる架橋(以下、この架橋を「二次架橋」ともいう)により、本発明の電解質膜のベースポリマーとなる。なお、「部分架橋ポリマー」とは、内部に架橋構造を有しながら、架橋剤などによるさらなる架橋が可能であるポリマーをいう。
【0019】
電解質膜前駆体のゲル分率(酢酸エチルに不溶な部分の重量から求めたゲル分率)は特に限定されないが、通常、10%を超えればよく、より高いイオン伝導率を有する電解質膜を形成でき、二次架橋時における電極との一体化をより確実に行える(即ち、高温下での電解質膜の変形をより抑制できる)ことから、20%以上が好ましく、40%以上がより好ましい。上記ゲル分率の上限は第1の構造単位の具体的な構成により異なるが、通常、50から95%程度である。
【0020】
電解質膜前駆体を酢酸エチルに含浸させたときの膨潤率は2倍以上であることが好ましい。膨潤率が2倍未満では、電解質膜としてのイオン伝導率が不十分となることがある。
【0021】
前駆体の膨潤率が、二次架橋により形成された電解質膜のイオン伝導率に影響を与える理由は明確ではないが、膨潤率が過度に低い前駆体では、当該前駆体に含浸される電解液の量が不十分となることがある他、イオン伝導に寄与すると考えられる、第1の構造単位における側鎖の運動が阻害されるようなポリマー構造が形成されている可能性がある。
【0022】
上記膨潤率は、より高いイオン伝導率を有する電解質膜を形成できることから、5倍以上、15倍以上の順に、より好ましい。ただし、前駆体の膨潤率が高いことが、二次架橋により形成された電解質膜のイオン伝導率の向上に直ちに繋がるわけではなく、電解質膜のイオン伝導率は、上記ゲル分率、前駆体に含浸させる電解液の成分など、その他の要素にも大きな影響を受ける。
【0023】
上記膨潤率の上限は第1の構造単位の具体的な構成により異なるが、通常、5〜100倍程度である。
【0024】
第1の構造単位における上記nの値は2以上12以下の自然数である。nの値が2未満では、イオン伝導に寄与すると考えられる側鎖の長さが過度に短くなり、電解質膜としてのイオン伝導率が不十分となる。nの値が12を超えると、側鎖の長さが長くなることで結晶化が進みやすくなり、電解質膜としての柔軟性が損なわれる他、二次架橋による電極との一体化が難しくなる。
【0025】
上記nの値は、前駆体を二次架橋させて電解質膜としても、基本的に変化しない。
【0026】
上記nの値は、前駆体あるいは電解質膜を加水分解した後に、GPC(ゲル透過クロマトグラフ)測定および/またはNMR(核磁気共鳴)測定を行うことなどにより求めることができるが、前駆体あるいは電解質膜に含まれる複数の第1の構造単位間のバラツキを反映し平均値として測定されるため、上記nの測定値は必ずしも自然数とはならない。
【0027】
上記nの値は、電解質膜としてより高いイオン伝導率を確保できることから、3以上11以下の自然数であることが好ましく、7以上11以下の自然数であることが好ましい。
【0028】
電解質膜前駆体は、例えば、上記式(4)に示す(メタ)アクリルエステル酸モノマーと、架橋点を形成しうる官能性モノマーとを含むモノマー群を、重合および架橋して形成できる。なお、本明細書では、上記式(4)に示す(メタ)アクリルエステル酸モノマーを含むモノマー群から部分架橋ポリマーを形成する際に行われる上記架橋を、上述した「二次架橋」に対して「一次架橋」と呼ぶ。一次架橋時の架橋反応と、二次架橋時の架橋反応とは同一であっても異なっていてもよく、また、各々の架橋は、複数の架橋反応に基づくものであってもよい。架橋点を形成しうる官能性モノマーは「架橋剤」であるともいえ、本明細書では、一次架橋時にモノマー群に加えられる上記官能性モノマーを「第1の架橋剤」とも呼ぶ。
【0029】
上記官能性モノマーは、上記式(4)に示す(メタ)アクリルエステル酸モノマーと共重合できるとともに、この共重合に際して架橋点を形成しうる分子構造を有する限り特に限定されず、例えば、カルボキシル基含有モノマー、ヒドロキシル基(水酸基)含有モノマーなどであってもよい。
【0030】
カルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、カルボキシル(メタ)アクリレート、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸などが挙げられ、当該モノマーは、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの酸無水物であってもよい。
【0031】
ヒドロキシル基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸−6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸−8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸−10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸−12−ヒドロキシラウリル、(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)−メチルアクリレートなどが挙げられる。
【0032】
一次架橋時のモノマー群に含まれる官能性モノマーの量は特に限定されないが、例えば、当該官能性モノマー以外の全モノマー100重量部に対して0.01〜20重量部程度であり、0.05〜5重量部程度が好ましい。
【0033】
また、この官能性モノマーは、二次架橋時の架橋反応に利用することも可能であり、このような二次架橋における利用を考慮すると、一次架橋時のモノマー群に含まれる官能性モノマーの量は、当該官能性モノマー以外の全モノマー100重量部に対して、例えば、0.05〜40重量部程度であり、0.1〜10重量部程度が好ましい。
【0034】
モノマー群から部分架橋ポリマーを形成する重合および架橋方法は特に限定されず、酢酸エチルあるいはトルエンなどの一般的な重合溶媒を用いた溶液重合、および、紫外線を利用したUV重合などの各種の重合方法を用いることができる。
【0035】
溶液重合としては、過酸化ベンゾイルや2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)などの重合開始剤を用いたラジカル重合が一般的である。その他、二酸化炭素の高圧液相中あるいは超臨界状態下における重合方法としてもよく、この方法では、モノマー群が官能性モノマーとして2官能性モノマーを含む場合においても、一次架橋の過剰な進行を抑制し、形成した部分架橋ポリマーのゲル分率が過度に大きくなったり、膨潤率が過度に小さくなったりすることを抑制できる。
【0036】
UV重合方法、例えば、ジビニルベンゼンあるいはトリメチロールプロパン−トリ(メタ)アクリレートなどの官能性モノマーをモノマー群に加えて薄層状態とし、紫外線の照射により重合を進める方法、では、当該重合により、膜状の部分架橋ポリマーを直接形成できる。また、この方法は、モノマー群が官能性モノマーとして2官能性モノマーを含む場合においても、重合の進行が阻害されにくいなどの特徴を有する。
【0037】
重合により形成した部分架橋ポリマーが溶液状である場合、当該ポリマーを成形して膜状とする方法は特に限定されず、例えば、表面に剥離処理を施した支持フィルムに溶液状の部分架橋ポリマーを塗布した後に、塗布したポリマーを乾燥(必要により硬化)させればよい。支持フィルムには、例えば、シリコーンなどで剥離処理した紙、あるいは、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂フィルムを好適に用いることができる。
【0038】
重合により形成した部分架橋ポリマーに対しては、必要に応じ、膜状の部分架橋ポリマーとするための架橋をさらに行ってもよい。具体的には、例えば、形成したポリマー溶液に架橋剤(第3の架橋剤)を加え、第3の架橋剤を加えたポリマー溶液を、当該架橋剤による架橋反応が起きる所定の条件下において架橋を進めればよい。なお、この架橋は、膜状の部分架橋ポリマーを得るための「一次架橋」の一部であり、「二次架橋」ではない。
【0039】
重合により形成した部分架橋ポリマーが溶液状である場合、当該ポリマーの分子量は、膜状への成形のし易さ、および、膜状とする際の取り扱いの容易さから、重量平均分子量にして10万以上が好ましい。部分架橋ポリマーの分子量は、重合系を選択することにより制御できる。
【0040】
上記式(4)に示す(メタ)アクリルエステル酸モノマーと、架橋点を形成しうる官能性モノマーとを含むモノマー群を重合および架橋して得た部分架橋ポリマーは、双方のモノマーの共重合体であるともいえ、第1の構造単位と、上記官能性モノマーに対応する構造単位とを含む。
【0041】
このように、電解質膜前駆体を構成する部分架橋ポリマーは、第1の構造単位以外の構造単位を含んでいてもよい。この場合、上記部分架橋ポリマーは、上記式(4)に示す(メタ)アクリルエステル酸モノマーと、第1の構造単位以外の構造単位に対応する他のモノマー(共重合モノマー)との共重合体であり、このような部分架橋ポリマーは、上記式(4)に示す(メタ)アクリルエステル酸モノマーと、第1の構造単位以外の構造単位に対応する他のモノマーとを含むモノマー群の重合により形成できる。
【0042】
具体的には、例えば、部分架橋ポリマーが、前駆体に含浸させる電解液に含まれるイオン種、典型的にはリチウムイオン、の存在下で架橋反応を起こす第2の構造単位をさらに含んでいてもよい。この場合、二次架橋の際に、部分架橋ポリマー内における第2の構造単位を架橋点とする架橋反応を進行させることができる。なお、この場合、部分架橋ポリマーは、上記式(4)に示す(メタ)アクリルエステル酸モノマーと、第2の構造単位に対応するモノマーとを含むモノマー群の共重合体となる。
【0043】
第2の構造単位としては、例えば、オキセタン基を側鎖に有する構造単位が挙げられ、具体的には、以下の化学式(3)に示す構造単位であってもよい。以下の式(3)におけるR5は、HまたはCH3である。
【0044】
【化8】

【0045】
上記式(3)に示す構造単位は、以下の化学式(5)に示す、オキセタン基を側鎖に有する(メタ)アクリレートモノマーである、3−メチル−3−オキセタニルメチル(メタ)アクリレートの重合により形成できる。以下の式(5)におけるR5は、HまたはCH3である。
【0046】
【化9】

【0047】
部分架橋ポリマーが上記第2の構造単位を含む場合、当該ポリマーにおける全構造単位に占める第2の構造単位の割合は特に限定されないが、例えば、2〜50%程度の範囲である。
【0048】
上記第2の構造単位を含む部分架橋ポリマーは、上記式(4)に示す(メタ)アクリルエステル酸モノマーと、上記式(5)に示す(メタ)アクリレートモノマーとを含むモノマー群の重合により形成できるが、当該モノマー群が、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有モノマー、あるいは、脂環式エポキシ化合物を含むことが好ましい。これらの物質は、上記(メタ)アクリルエステル酸モノマーおよび(メタ)アクリレートモノマーとともに共重合した状態、あるいは、単独の状態で部分架橋ポリマー内に存在し、イオン種の存在下における当該ポリマーの二次架橋反応性を向上させる効果を有する。
【0049】
また例えば、部分架橋ポリマーが、第1の構造単位以外の構造単位として、以下に示す各モノマーの重合により形成された構造単位を1種類あるいは2種類以上含んでいてもよい:(メタ)アクリル酸アルキルエステル−その分子構造は、直鎖状であっても分岐を有していてもよく、環状構造を含んでいてもよい。アルキル基の炭素数は、1〜18程度が好ましい。例えば、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート;ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート;N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどのアクリルアミド類;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリンなどに代表されるN−置換(メタ)アクリルアミドなどのアミド系モノマー;ジアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノ基含有モノマー;酢酸ビニルおよびスチレンならびにこれらの誘導体;ビニレンカーボネート、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルボン酸アミド類などのビニル系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアノアクリレート系モノマー;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、フッ素化アルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートなどの各種のモノマー類。
【0050】
部分架橋ポリマーがこれらの構造単位を含む場合、その種類によっては、当該ポリマーの力学的および/または熱的特性を制御できる他、当該ポリマーと、当該ポリマーに含浸させる電解液に含まれるアルキレンオキシドオリゴマーとの親和性を向上できる。
【0051】
(二次架橋)
本発明の電極一体型高分子電解質膜は、電解質膜前駆体を、イオン種と以下の化学式(2)に示すアルキレンオキシドオリゴマーとを含む電解液を含浸させた状態、かつ、一対の電極により狭持した状態で、さらに架橋(二次架橋)させることにより、前駆体を電解質膜とするとともに、当該前駆体を上記一対の電極と一体化させて得た電解質膜である。
【0052】
【化10】

【0053】
上記式(2)において、R3は、CH3、C26またはC38であり、R4は、HまたはCH3であり、mは、3以上12以下の自然数である。
【0054】
この二次架橋により、電解質膜前駆体に電解液が含浸して電解質膜となるとともに、当該電解質膜と電極とが接合されて、電極が一体化した高分子電解質膜となる。このような電解質膜は、従来の電解質膜に比べて高温下での変形、典型的には収縮、を抑制でき、また、このような電解質膜を備える電気化学素子は、仮に素子が高温雰囲気となった場合にも、従来の素子よりもその機能を長く保持できる。
【0055】
前駆体を二次架橋させる方法は特に限定されず、例えば、架橋剤(第2の架橋剤)をさらに含む電解液を前駆体に含浸させ、電解液を含浸させた当該前駆体を、上記架橋剤を架橋点とする架橋反応が起こる条件下におけばよい。
【0056】
第2の架橋剤は、部分架橋ポリマーをさらに架橋させることができる限り特に限定されないが、例えば、部分架橋ポリマーが当該ポリマー中にヒドロキシル基を有する場合には多官能性イソシアネート化合物を、また、部分架橋ポリマーが当該ポリマー中にカルボキシル基を有する場合には多官能性エポキシ化合物を用いることが好ましい。この場合、二次架橋時の架橋反応の反応性を向上できる。
【0057】
多官能性イソシアネート化合物としては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、および、シクロヘキサンジイソシアネートなど(以上、2官能性)、ならびに、トリメチロールプロパンアダクト、および、イソシアヌル酸の塩であるイソシアヌレート類など(以上、3官能性)、が挙げられる。
【0058】
多官能性エポキシ化合物としては、例えば、テトラグリシジルキシレンジアミン、および、ビス−(ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンなどが挙げられる。
【0059】
部分架橋ポリマーが、前駆体に含浸させる電解液に含まれるイオン種の存在下で架橋反応を起こす上記第2の構造単位を含む場合、二次架橋時に、当該構造単位を架橋点とする架橋反応を進めることができる。なお、この場合、電解液は、第2の架橋剤を含んでいてもいなくてもよい。
【0060】
前駆体に含浸させる電解液は、上記式(2)に示すアルキレンオキシドオリゴマーを含む。このようなオリゴマーを含む電解液を含浸させることが、得られた電解質膜の高温下での変形を抑制するために必要である。また、このようなオリゴマーを含む電解液を含浸させることで、イオン伝導率に優れる電解質膜とすることができる。
【0061】
上記式(2)におけるmの値は3以上12以下の自然数である。mの値が3未満では、分子量が低すぎるためにオリゴマーの揮発性が過度に大きくなり、高温下における電解質膜の変形を抑制する効果が十分に得られない。mの値が12を超えると、逆に分子量が高すぎることで、電解液の粘度が過度に増大して前駆体への含浸が困難となったり、得られた電解質膜のイオン伝導率が低下したりする。
【0062】
上記mの値は、二次架橋後も、基本的に変化しない。
【0063】
上記mの値は、電解液をGPC測定および/またはNMR測定を行うことなどにより求めることができるが、電解液中に含まれる複数のオリゴマー間のバラツキを反映し平均値として測定されるため、上記mの測定値は必ずしも自然数とはならない。
【0064】
上記mの値は、高温下での電解質膜の変形をより確実に抑制でき、電解質膜としてより良好なイオン伝導率を確保できることから、4以上11以下の自然数であることが好ましい。
【0065】
前駆体に含浸させる電解液はイオン種を含むが、このイオン種は、上記式(1)に示す構造単位および上記式(2)に示すアルキレンオキシドオリゴマーを介して輸送される種、即ち、電解質膜として伝導性を有する種、である限り特に限定されず、典型的には、リチウムイオンである。イオン種がリチウムイオンである場合、本発明の電解質膜は、リチウム一次/二次電池、あるいは、キャパシタなどに用いることができる。
【0066】
上記式(2)に示すオリゴマーおよびイオン種を含む電解液は、例えば、当該オリゴマー、ならびに、当該イオン種の塩を、両者を溶解可能な溶媒に溶解させて形成できる。第2の架橋剤をさらに含む電解液は、上記オリゴマー、上記イオン種の塩、および、当該架橋剤を、これら全てを溶解可能な溶媒に溶解させて形成できる。このような溶媒(電解液溶媒)としては、例えば、酢酸エチル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルカーボネートなどを用いればよい。なお、イオン種がリチウムイオンである場合、電解液溶媒は非水溶媒(水を実質的に含まない溶媒)であることが好ましい。
【0067】
イオン種がリチウムイオンである場合、上記イオン種の塩は特に限定されず、例えば、LiClO4、LiCF3SO3、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22、LiAlF4、LiGaF4、LiInF4、LiSiF6、LiN(CF3SO2)(C49SO2)などを用いればよい。混合するイオン種の量は、電解質膜として必要なイオン種の量に応じて設定すればよい。よりイオン伝導率に優れる電解質膜を形成できることから、LiBF4および/またはLiPF6を用いることが好ましい。
【0068】
電解液における上記オリゴマーの含有率は特に限定されないが、イオン伝導率に優れる電解質膜を形成するためには、例えば、ポリマーおよびオリゴマーのアルキルオキシドの酸素原子1個に対するLi原子の数が0.01〜1.0個程度とすればよく、当該数が0.02〜0.2個程度が好ましい。
【0069】
電解液が第2の架橋剤を含む場合、電解液における第2の架橋剤の含有率は特に限定されないが、例えば、前駆体に含まれる官能基(架橋点を形成できる官能基)の量に対して0.9〜2当量程度であればよい。当該含有率が過度に大きくなると、得られた電解質膜中に未反応の架橋剤が残留して、電解質膜のイオン伝導率に悪影響を及ぼすことがある。当該含有率が過度に小さくなると、十分な二次架橋がなされず、得られた電解質膜が高温下で容易に変形することがある。
【0070】
前駆体に電解液を含浸させる方法は特に限定されない。前駆体の架橋の程度、あるいは、電解液の粘度などによっては、前駆体に電解液を含浸させにくい状況も考えられるが、その場合は、電解液に含まれる各成分に悪影響を与えない揮発性の溶剤を電解液に添加してその粘度を低下させ、粘度を低下させた電解液を前駆体に含浸させた後に、当該溶剤を揮発させてもよい。
【0071】
前駆体を一対の電極により狭持するためには、例えば、膜状の前駆体における双方の主面にそれぞれ電極を配置すればよく、電極の配置は、電解液を前駆体に含浸させる前に行っても、後で行ってもよい。なお、含浸時の取り扱いが容易であることから、膜状の前駆体における少なくとも一方の主面に電極を配置した後に、電解液を含浸させることが好ましい。
【0072】
本発明の電解質膜を電気化学素子に用いる場合、通常、電解質膜は素子を構成する容器、例えば、電池缶あるいは図1に示すケース7、に収容されている。この場合、二次架橋を当該容器内で行ってもよい。具体的には、例えば、膜状の電解質膜前駆体を一対の電極により狭持して積層体とし、この積層体を上記容器内に電解液とともに収容した後に、架橋反応を進めるための所定の条件に保持して二次架橋させればよい。
【0073】
本発明の電解質膜は、必要に応じ、ベースポリマーおよび電解液以外の材料を含んでいてもよく、例えば、ポリマーや無機物からなる絶縁性粒子を含んでいてもよい。これらの粒子は、電解質膜が用いられる環境(例えば、二次電池内)において溶解しないことが好ましい。粒子の種類を適宜選択することによって、電解質膜としての力学的特性、例えば、強度、を向上できたり、電解質膜を狭持する電極間の短絡抑制効果を向上できる。
【0074】
絶縁性粒子のサイズは平均粒径にして、1〜100μm程度が好ましい。
【0075】
絶縁性粒子の具体的な種類は特に限定されないが、例えば、アルミナ粒子、シリカ粒子などの無機粒子、および、架橋ポリスチレン粒子などのポリスチレン粒子、ポリオレフィン粒子、ポリ4フッ化エチレン粒子などのポリマー粒子が挙げられる。
【0076】
本発明の電解質膜が絶縁性粒子を含む場合、その含有量は特に限定されず、例えば、ベースポリマー100重量部に対して10〜1000重量部程度であればよい。
【0077】
本発明の電解質膜の23℃におけるイオン伝導率は、通常、1×10-5(S/cm)以上であり、電解質膜の構成によっては、1×10-4(S/cm)以上あるいは2×10-4S/cm)以上とすることができる。
【0078】
本発明の電解質膜を製造する方法について、上述した説明をまとめると、以下のとおりとなる。
【0079】
即ち、本発明の電極一体型高分子電解質膜の製造方法は、アルキレンオキシド基を側鎖に有する以下の化学式(1)に示す第1の構造単位を含む部分架橋ポリマーからなる膜状の電解質膜前駆体を、イオン種と以下の化学式(2)に示すアルキレンオキシドオリゴマーとを含む非水電解液を含浸させ、かつ、一対の電極により狭持した状態で、さらに架橋させることにより、上記前駆体を電解質膜とするとともに上記一対の電極と一体化させる方法である。
【0080】
【化11】

【0081】
【化12】

【0082】
上記式(1)において、R1は、HまたはCH3であり、R2は、CH3またはC26であり、nは、2以上12以下の自然数である。上記式(2)において、R3は、CH3、C26またはC38であり、R4は、HまたはCH3であり、mは、3以上12以下の自然数である。
【0083】
電解質膜前駆体は、例えば、アルキレンオキシド基を側鎖に有する以下の化学式(4)に示す(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、架橋点を形成しうる官能性モノマー(第1の架橋剤)とを含むモノマー群を、重合および架橋(一次架橋)して形成できる。
【0084】
【化13】

【0085】
上記式(4)において、R1は、HまたはCH3であり、R2は、CH3またはC26であり、nは、2以上12以下の自然数である。
【0086】
膜状の電解質膜前駆体は、例えば、一次架橋により形成した部分架橋ポリマーを膜状に成形して形成できるが、モノマー群の重合方法としてUV重合法を用いた場合などには、一次架橋により、膜状の部分架橋ポリマーを直接形成できる。モノマー群の重合方法として溶液重合を用いた場合など、部分架橋ポリマーがポリマー溶液として得られる場合などには、例えば、支持フィルム上にポリマー溶液を塗布した後、乾燥させればよい。また、必要に応じて、ポリマー溶液に第3の架橋剤を加え、加えた架橋剤による架橋を併用してもよい。この架橋は電解質膜前駆体を得るための一次架橋の一部である。
【0087】
本発明の電気化学素子は、一対の電極(正極および負極)と、この一対の電極によって狭持された電解質膜とを含む素子であって、上記一対の電極および電解質膜として、本発明の電極一体型高分子電解質膜を備える。本発明の電解質膜は、従来の電解質膜に比べて高温下での収縮が抑制された電解質膜であるため、本発明の素子は、高温雰囲気となった場合にも、従来の素子よりもその機能を長く保持できる。
【0088】
本発明の素子の具体的な構成は特に限定されない。正極および負極の構成、電解質膜(電解液)に含まれるイオン種などを選択することによって、一次電池、二次電池、キャパシタ、センサーなどを構成できる。
【0089】
図1に、本発明の電気化学素子の一例を示す。図1に示す電気化学素子1は、コイン型のリチウム二次電池である。素子1は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出できる負極活物質を含む負極2と、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出できる正極活物質を含む正極3と、負極2および正極3によって狭持された電解質膜4とを含んでいる。ここで、負極2、正極3および電解質膜4は、上述した本発明の電極一体型電解質膜である。電解質膜4には、イオン種としてリチウムイオンを、および、上述したアルキレンオキシドオリゴマーを含む電解液が含浸しており、電解質膜4はリチウムイオン伝導性を有している。
【0090】
負極2、正極3および電解質膜4は、正極端子を兼ねるケース7に収容されており、ケース7の開口部は、負極端子を兼ねる封口板8および絶縁性のガスケット9により密閉されている。ケース7および封口板8は、例えば、ニッケルメッキを施したステンレス鋼板からなる。
【0091】
負極2は、例えば、板状のリチウム金属や黒鉛からなり、銅ネットなどの負極集電体5を介してケース7と電気的に接続されている。正極3は、例えば、リチウムマンガン複合酸化物に代表される正極活物質と、黒鉛に代表される導電材とを、ポリエチレン、ポリプロピレンあるいはポリテトラフルオロエチレンなどの結着性樹脂と混合し、これを加圧成形して得た構造を有する。正極3は、アルミニウムネットなどの正極集電体6を介して封口板8と電気的に接続されている。
【0092】
電気化学素子1は、負極2および正極3と一体化された電解質膜4の形成を除き、リチウム二次電池の一般的な製造方法を応用して形成できる。
【実施例】
【0093】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0094】
(ポリマー溶液の作製)
−溶液A−
末端がメチルエーテル(式(4)におけるR2がメチル基)であるアルキレンオキシド基(n(平均値)=7)を側鎖に有するアクリル酸エステルモノマー80重量部と、共重合モノマーとしてアクリロニトリル20重量部と、第1の架橋剤としてアクリル酸−4−ヒドロキシブチル0.5重量部とからなるモノマー群に、重合溶媒として酢酸エチル100重量部およびジメチルフォルムアミド(DMF)50重量部、ならびに、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.3重量部を加えた重合溶液100gを内容積300mlのフラスコに投入し、当該重合溶液を攪拌羽で攪拌しながらフラスコ内の空気を窒素ガスにより置換した後に全体を60〜70℃に保持し、適宜酢酸エチルを滴下しながら10時間重合させて、ポリマー濃度25重量%のポリマー溶液(溶液A)を得た。なお、得られた溶液A中のポリマーの重量平均分子量を、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)により別途測定したところ、約28万であった。
【0095】
−溶液B−
上記のようにして得た溶液Aに対し、ヘキサンならびに酢酸エチルとDMFとの混合溶液(酢酸エチル:DMF(体積比)=2:1)を用いて再沈操作を3回繰り返し、ポリマー濃度15重量%のポリマー溶液(溶液B)を得た。
【0096】
−溶液C−
重合させるモノマー群を、末端がメチルエーテル(式(4)におけるR2がメチル基)であるアルキレンオキシド基(n(平均値)=7)を側鎖に有するアクリル酸エステルモノマー100重量部と、第1の架橋剤としてアクリル酸−4−ヒドロキシブチル0.4重量部とからなるモノマー群とした以外は、溶液Aと同様にして、ポリマー濃度25重量%のポリマー溶液(溶液C)を得た。なお、得られた溶液C中のポリマーの重量平均分子量をGPCにより別途測定したところ、約33万であった。
【0097】
−溶液D−
重合させるモノマー群を、末端がメチルエーテル(式(4)におけるR2がメチル基)であるアルキレンオキシド基(n(平均値)=11)を側鎖に有するアクリル酸エステルモノマー80重量部と、共重合モノマーとしてアクリロニトリル20重量部と、第1の架橋剤としてアクリル酸−4−ヒドロキシブチル0.6重量部とからなるモノマー群とした以外は、溶液Aと同様にして、ポリマー濃度25重量%のポリマー溶液(溶液D)を得た。なお、得られた溶液D中のポリマーの重量平均分子量をGPCにより別途測定したところ、約25万であった。
【0098】
−溶液E−
重合させるモノマー群を、末端がメチルエーテル(式(4)におけるR2がメチル基)であるアルキレンオキシド基(n(平均値)=7)を側鎖に有するアクリル酸エステルモノマー75重量部と、共重合モノマーとして(3−メチル−3−オキセタニル)メチルアクリレート20重量部および3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート5重量部と、第1の架橋剤としてアクリル酸−4−ヒドロキシルブチル0.2重量部とからなるモノマー群とした以外は、溶液Aと同様にして、ポリマー濃度25重量%のポリマー溶液(溶液E)を得た。なお、得られた溶液E中のポリマーの重量平均分子量をGPCにより別途測定したところ、約26万であった。
【0099】
−溶液F−
重合させるモノマー群を、末端がメチルエーテル(式(4)におけるR2がメチル基)であるアルキレンオキシド基(n(平均値)=7)を側鎖に有するアクリル酸エステルモノマー75重量部と、共重合モノマーとしてアクリロニトリル20重量部と、第1の架橋剤としてアクリル酸−4−ヒドロキシブチル5重量部とからなるモノマー群とした以外は、溶液Aと同様にして、ポリマー濃度25重量%のポリマー溶液(溶液F)を得た。なお、得られた溶液F中のポリマーの重量平均分子量をGPCにより別途測定したところ、約27万であった。
【0100】
−溶液G−
重合させるモノマー群を、末端がメチルエーテル(式(4)におけるR2がメチル基)であるアルキレンオキシド基(n(平均値)=3)を側鎖に有するアクリル酸エステルモノマー75重量部と、共重合モノマーとしてアクリロニトリル20重量部と、第1の架橋剤としてアクリル酸−4−ヒドロキシブチル(ポリ−4−メチルペンテン(p−MP)0.03重量%含有)0.2重量部とからなるモノマー群とした以外は、溶液Aと同様にして、ポリマー濃度25重量%のポリマー溶液(溶液G)を得た。なお、得られた溶液G中のポリマーの重量平均分子量をGPCにより別途測定したところ、約24万であった。
【0101】
溶液A〜溶液Gの作製に用いたアクリル酸モノマーのnの値、共重合モノマーおよび架橋剤の種類、ならびに、上記各成分の重量部を、以下の表1にまとめて示す。
【0102】
【表1】

【0103】
(電解液の作製)
電解質膜前駆体(作製方法は後述)に含浸させる電解液は、以下のように作製した。
【0104】
−電解液A−
アルゴン雰囲気下において、アルカリ金属塩としてリチウム−ビス−トリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI:キシダ化学社製)2.8gと、アルキレンオキシドオリゴマーとしてテトラエチレングリコールジメチルエーテル(和光純薬社製)2.0gと、第2の架橋剤として3官能イソシアネート(日本ポリウレタン社製コロネートC/HL)のテトラヒドロフラン(THF)200倍希釈液0.3gと、電解液溶媒としてTHF3gとを混合して、溶媒中にLiTFSIを完全に溶解させた後に、室温で3時間、次いで50℃で3時間の真空乾燥処理を行って、電解液Aとした。
【0105】
−電解液B−
アルキレンオキシドオリゴマーとして、テトラエチレングリコールジメチルエーテルの代わりにポリエチレングリコールジメチルエーテル(平均分子量500:m(平均値)=11:Aldrich社製)を用いた以外は、電解液Aと同様にして、電解液Bを作製した。
【0106】
−電解液C−
第2の架橋剤(3官能イソシアネート)を加えなかった以外は、電解液Aと同様にして、電解液Cを作製した。
【0107】
−電解液D−
アルキレンオキシドオリゴマーとして、ジエチレングリコールジメチルエーテル(和光純薬社製)を用いた以外は、電解液Aと同様にして、電解液Bを作製した。
【0108】
−電解液E−
アルカリ金属塩としてLiTFSI(キシダ化学社製)2.1gと、溶媒としてエチレンカーボネート1.0gおよびジメチルカーボネート2.0gとを混合して、LiTFSiを溶媒に完全に溶解させて電解液Eとした。
【0109】
(電解質膜前駆体および電解質膜サンプルの作製)
次に、上記のようにして作製したポリマー溶液を用いて電解質膜前駆体を形成し、形成した電解質膜前駆体に電解液を含浸させて、実施例7種類(サンプル1〜6、12)、比較例4種類(サンプル7〜10)の電解質膜サンプルを作製した。各サンプルの作製方法を以下に示す。
【0110】
−サンプル1−
ポリマー溶液Aに第3の架橋剤として3官能イソシアネート(日本ポリウレタン社製、コロネートC/HL)を、溶液A中のポリマー100重量部に対して0.5重量部加えて配合液とし、この配合液を、剥離処理を表面に施した支持フィルムであるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの当該表面に塗布して乾燥させた後、50℃において5日間保持して第3の架橋剤による架橋を進行させ、PETフィルム上に電解質膜前駆体(厚さ約10μm、直径約20mmの円板状)を形成した。
【0111】
次に、形成した電解質膜前駆体におけるPETフィルム側とは反対側の表面に直径約18mmの円形の白金電極板を貼付した後、前駆体とPETフィルムとを剥離し、前駆体全体に電解液A0.05gをスポイトで塗布して含浸させ、室温で3時間放置した。
【0112】
この放置により電解液Aが十分に電解質膜前駆体に含浸したことを確認後、電解液が含浸した前駆体を既に貼付した白金電極板とともに狭持するように、直径約18mmの円形の白金電極板を新たに前駆体に貼付し、全体を50℃において7日間保持して二次架橋させ、電解質膜と当該電解質膜を狭持する一対の白金電極とが一体化された電解質膜サンプル(サンプル1)を作製した。
【0113】
なお、サンプル1の作製とは別に、電解液を含浸させる前の電解質膜前駆体のゲル分率および膨潤度を以下のように評価した。
【0114】
電解質膜前駆体の一部を重量にしてWp(g)切り出し、切り出した破片を酢酸エチル中に室温で7日間浸漬させた後に、全体を80メッシュのナイロン紗で濾過し、ナイロン紗上に残留したゲルの表面の酢酸エチルを拭き取った後、当該ゲルの重量Wb(g)を測定し、さらにこれを乾燥させた乾燥ゲルの重量Wg(g)を測定して、以下の計算式(A)、(B)から、電解質膜前駆体のゲル分率および膨潤度をそれぞれ求めた。なお、酢酸エチルへの浸漬および各重量の測定は、23℃で行った。
(膨潤度) =Wb/Wg (倍) ・・・(A)
(ゲル分率)=Wg/Wp×100(%) ・・・(B)
【0115】
−サンプル2−
ポリマー溶液Aに加える3官能イソシアネートの量を、溶液A中のポリマー100重量部に対して1.5重量部とした以外は、サンプル1と同様にして、PETフィルム上に電解質膜前駆体(厚さ約10μm、直径約20mmの円板状)を形成した。
【0116】
次に、形成した電解質膜前駆体におけるPETフィルム側とは反対側の表面に直径約18mmの円形の白金電極板を貼付した後、前駆体とPETフィルムとを剥離し、前駆体全体に電解液A0.05gをスポイトで塗布して含浸させ、室温で3時間放置した。
【0117】
この放置により電解液Aが十分に電解質膜前駆体に含浸したことを確認後、電解液が含浸した前駆体を既に貼付した白金電極板とともに狭持するように、直径約18mmの円形の白金電極板を新たに前駆体に貼付し、全体を50℃において7日間保持して二次架橋させ、電解質膜と当該電解質膜を狭持する一対の白金電極とが一体化された電解質膜サンプル(サンプル2)を作製した。
【0118】
なお、サンプル2の作製とは別に、電解液を含浸させる前の電解質膜前駆体のゲル分率および膨潤度をサンプル1と同様に評価した。
【0119】
−サンプル3−
ポリマー溶液として溶液Aの代わりに溶液Bを用いた以外は、サンプル1と同様にして、PETフィルム上に電解質膜前駆体(厚さ約10μm、直径約20mmの円板状)を形成した。
【0120】
次に、形成した電解質膜前駆体におけるPETフィルム側とは反対側の表面に直径約18mmの円形の白金電極板を貼付した後、前駆体とPETフィルムとを剥離し、前駆体全体に電解液A0.05gをスポイトで塗布して含浸させ、室温で3時間放置した。
【0121】
この放置により電解液Aが十分に電解質膜前駆体に含浸したことを確認後、電解液が含浸した前駆体を既に貼付した白金電極板とともに狭持するように、直径約18mmの円形の白金電極板を新たに前駆体に貼付し、全体を50℃において7日間保持して二次架橋させ、電解質膜と当該電解質膜を狭持する一対の白金電極とが一体化された電解質膜サンプル(サンプル3)を作製した。
【0122】
なお、サンプル3の作製とは別に、電解液を含浸させる前の電解質膜前駆体のゲル分率および膨潤度をサンプル1と同様に評価した。
【0123】
−サンプル4−
ポリマー溶液として溶液Aの代わりに溶液Cを用いた以外は、サンプル1と同様にして、配合液を形成し、この配合液を、剥離処理を表面に施した支持フィルムであるPETフィルムの当該表面に塗布して乾燥させ、PETフィルム上にポリマー膜(厚さ約5μm)を形成した。
【0124】
次に、形成したポリマー膜におけるPETフィルム側とは反対側の表面に、平均粒子径にして約20μmのアルミナ粒子を、形成したポリマー膜100重量部に対して200重量部、均一に配置した後、同様に形成した別のポリマー膜を、当該ポリマー膜がアルミナ粒子と接するように積層圧着させ、全体を50℃において5日間保持してポリマー膜に含まれる第3の架橋剤による架橋を進行させ、一対のPETフィルムにより狭持され、内部にアルミナ粒子が分散した電解質膜前駆体(厚さ約10μm、直径約20mmの円板状)を形成した。
【0125】
次に、形成した電解質膜前駆体と一方のPETフィルムとを剥離し、電解質膜前駆体における剥離面に直径18mmの円形の白金電極板を貼付した後、さらに他方のPETフィルムを剥離して、前駆体全体に電解液A0.05gをスポイトで塗布して含浸させ、室温で3時間放置した。
【0126】
この放置により電解液Aが十分に電解質膜前駆体に含浸したことを確認後、電解液が含浸した前駆体を既に貼付した白金電極板とともに狭持するように、直径約18mmの円形の白金電極板を新たに前駆体に貼付し、全体を50℃において7日間保持して二次架橋させ、電解質膜と当該電解質膜を狭持する一対の白金電極とが一体化された電解質膜サンプル(サンプル4)を作製した。
【0127】
なお、サンプル4の作製とは別に、電解液を含浸させる前の電解質膜前駆体のゲル分率および膨潤度をサンプル1と同様に評価した。
【0128】
−サンプル5−
ポリマー溶液として溶液Aの代わりに溶液Dを用いた以外は、サンプル1と同様にして、PETフィルム上に電解質膜前駆体(厚さ約10μm、直径約20mmの円板状)を形成した。
【0129】
次に、形成した電解質膜前駆体におけるPETフィルム側とは反対側の表面に直径約18mmの円形の白金電極板を貼付した後、前駆体とPETフィルムとを剥離し、前駆体全体に電解液B0.05gをスポイトにより塗布して含浸させ、室温で3時間放置した。
【0130】
この放置により電解液Bが十分に電解質膜前駆体に含浸したことを確認後、電解液が含浸した前駆体を既に貼付した白金電極板とともに狭持するように、直径約18mmの円形の白金電極板を新たに前駆体に貼付し、全体を50℃において7日間保持して二次架橋させ、電解質膜と当該電解質膜を狭持する一対の白金電極とが一体化された電解質膜サンプル(サンプル5)を作製した。
【0131】
なお、サンプル5の作製とは別に、電解液を含浸させる前の電解質膜前駆体のゲル分率および膨潤度をサンプル1と同様に評価した。
【0132】
−サンプル6−
ポリマー溶液として溶液Aの代わりに溶液Eを用いた以外は、サンプル1と同様にして、PETフィルム上に電解質膜前駆体(厚さ約10μm、直径約20mmの円板状)を形成した。
【0133】
次に、形成した電解質膜前駆体におけるPETフィルム側とは反対側の表面に直径約18mmの円形の白金電極板を貼付した後、前駆体とPETフィルムとを剥離し、前駆体全体に電解液C0.05gをスポイトで塗布して含浸させ、室温で3時間放置した。
【0134】
この放置により電解液Cが十分に電解質膜前駆体に含浸したことを確認後、電解液が含浸した前駆体を既に貼付した白金電極板とともに狭持するように、直径約18mmの円形の白金電極板を新たに前駆体に貼付し、全体を50℃において7日間保持して二次架橋させ、電解質膜と当該電解質膜を狭持する一対の白金電極とが一体化された電解質膜サンプル(サンプル6)を作製した。
【0135】
なお、サンプル6の作製とは別に、電解液を含浸させる前の電解質膜前駆体のゲル分率および膨潤度をサンプル1と同様に評価した。
【0136】
−サンプル7(比較例)−
サンプル1と同様にして、PETフィルム上に電解質膜前駆体(厚さ約10μm、直径約20mmの円板状)を形成した。
【0137】
次に、形成した電解質膜前駆体におけるPETフィルム側とは反対側の表面に直径約18mmの円形の白金電極板を貼付した後、前駆体とPETフィルムとを剥離し、前駆体全体に電解液D0.05gをスポイトで塗布して含浸させ、室温で3時間放置した。
【0138】
この放置により電解液Dが十分に電解質膜前駆体に含浸したことを確認後、電解液が含浸した前駆体を既に貼付した白金電極板とともに狭持するように、直径約18mmの円形の白金電極板を新たに前駆体に貼付し、全体を50℃において7日間保持して二次架橋させ、比較例である電解質膜サンプル(サンプル7)を作製した。
【0139】
−サンプル8(比較例)−
ポリマー溶液として溶液Aの代わりに溶液Fを用い、ポリマー溶液に加える第3の架橋剤(3官能イソシアネート)の量を、溶液F中のポリマー100重量部に対して18重量部とした以外は、サンプル1と同様にして、PETフィルム上に電解質膜前駆体(厚さ約10μm、直径約20mmの円板状)を形成した。
【0140】
次に、形成した電解質膜前駆体におけるPETフィルム側とは反対側の表面に直径約18mmの円形の白金電極板を貼付した後、前駆体とPETフィルムとを剥離し、前駆体全体に電解液A0.05gをスポイトで塗布して含浸させ、室温で3時間放置した。
【0141】
この放置により電解液Aが十分に電解質膜前駆体に含浸したことを確認後、電解液が含浸した前駆体を既に貼付した白金電極板とともに狭持するように、直径約18mmの円形の白金電極板を新たに前駆体に貼付し、全体を50℃において7日間保持して二次架橋させ、比較例である電解質膜サンプル(サンプル8)を作製した。
【0142】
なお、サンプル8の作製とは別に、電解液を含浸させる前の電解質膜前駆体のゲル分率および膨潤度をサンプル1と同様に評価した。
【0143】
−サンプル9(比較例)−
第3の架橋剤(3官能イソシアネート)の代わりにイソシアン酸ベンジルを、溶液A中のポリマー100重量部に対して1重量部加えた以外は、サンプル1と同様にして、PETフィルム上に電解質膜前駆体(厚さ約10μm、直径約20mmの円板状)を形成した。
【0144】
次に、形成した電解質膜前駆体におけるPETフィルム側とは反対側の表面に直径約18mmの円形の白金電極板を貼付した後、前駆体とPETフィルムとを剥離し、前駆体全体に電解液A0.05gをスポイトで塗布して含浸させ、室温で3時間放置した。
【0145】
この放置により電解液Aが十分に電解質膜前駆体に含浸したことを確認後、電解液が含浸した前駆体を既に貼付した白金電極板とともに狭持するように、直径約18mmの円形の白金電極板を新たに前駆体に貼付し、全体を50℃において7日間保持して二次架橋させ、比較例である電解質膜サンプル(サンプル9)を作製した。
【0146】
なお、サンプル9の作製とは別に、電解液を含浸させる前の電解質膜前駆体のゲル分率および膨潤度をサンプル1と同様に評価したところ、ゲル分率はほぼ0%であり、また、当該前駆体全体が酢酸エチルに溶解してしまったために膨潤度の評価はできなかった。
【0147】
−サンプル10(比較例)−
サンプル1と同様にして、PETフィルム上に電解質膜前駆体(厚さ約10μm、直径約20mmの円板状)を形成した。
【0148】
次に、形成した電解質膜前駆体におけるPETフィルム側とは反対側の表面に直径約18mmの円形の白金電極板を貼付した後、前駆体とPETフィルムとを剥離し、前駆体全体に電解液E0.05gをスポイトで塗布して含浸させ、室温で3時間放置した。
【0149】
この放置により電解液Eが十分に電解質膜前駆体に含浸したことを確認後、電解液が含浸した前駆体を既に貼付した白金電極板とともに狭持するように、直径約18mmの円形の白金電極板を新たに前駆体に貼付して、比較例である電解質膜サンプル(サンプル10)とした。
【0150】
−サンプル11(従来例)−
実施例および比較例の各電解質膜サンプルとは別に、従来例として、ポリプロピレン多孔質膜(厚さ20μm)に電解液Eを含浸させた後、電解液を含浸させた当該多孔質膜を一対の白金電極板(直径18mmの円形)により狭持して、従来例である電解質膜サンプル(サンプル11)とした。
【0151】
−サンプル12−
ポリマー溶液として溶液Aの代わりに溶液Gを用いた以外は、サンプル1と同様にして、PETフィルム上に電解質膜前駆体(厚さ約10μm、直径約20mmの円板状)を形成した。
【0152】
次に、形成した電解質膜前駆体におけるPETフィルム側とは反対側の表面に直径約18mmの円形の白金電極板を貼付した後、前駆体とPETフィルムとを剥離し、前駆体全体に電解液A0.05gをスポイトで塗布して含浸させ、室温で3時間放置した。
【0153】
この放置により電解液Aが十分に電解質膜前駆体に含浸したことを確認後、電解液が含浸した前駆体を既に貼付した白金電極板とともに狭持するように、直径約18mmの円形の白金電極板を新たに前駆体に貼付し、全体を50℃において7日間保持して二次架橋させ、電解質膜と当該電解質膜を狭持する一対の白金電極とが一体化された電解質膜サンプル(サンプル12)を作製した。
【0154】
なお、サンプル12の作製とは別に、電解液を含浸させる前の電解質膜前駆体のゲル分率および膨潤度をサンプル1と同様に評価した。
【0155】
(イオン伝導率の評価)
このようにして作製した各電解質膜サンプルのイオン伝導率を測定した。測定は、以下のように行った。
【0156】
各電解質膜サンプルの白金電極板にインピーダンス測定装置(263Aポテンショスタット+5210アンプ:プリンストン アプライド リサーチ社製)を接続し、全体をアルゴン雰囲気下のグローブボックスに収容して23℃に保持した状態で、複素インピーダンス解析法により、高周波数側の円弧と低周波数側の直線との交点である実数インピーダンス成分R(Ω)を求めた。電解質サンプルのイオン伝導率σ(S/cm)は、インピーダンス成分R(Ω)、電解質サンプルの厚さd(cm)、および、白金電極と電解質サンプルとが接触している面積A(cm2)から、式σ=d/(R・A)により求めた。
【0157】
(耐熱性の評価)
各電解質膜サンプルをアルゴン雰囲気下のグローブボックスに収容して150℃で1時間加熱した後に、室温に戻し、その形状の変化を目視により確認した。電解質膜の形状の変化(収縮)が大きく、そのイオン伝導率を測定できない場合を「×」とし、形状変化の程度が小さいかあるいはほとんど見られず、そのイオン伝導率を測定できる場合を「○」とした。「○」のサンプルについては、上記方法により、再度イオン伝導率を評価した。
【0158】
各電解質膜前駆体におけるゲル分率および膨潤度の評価結果を以下の表2に、各電解質膜サンプルのイオン伝導率および耐熱性の評価結果を以下の表3に示す。
【0159】
【表2】

【0160】
【表3】

【0161】
表2、3に示すように、実施例サンプル1〜6および12では、23℃において、5×10-5(S/cm)以上の高いイオン伝導率が得られた。また、150℃1時間の加熱後も電解質膜の収縮の程度は小さく、2×10-5(S/cm)以上の高いイオン伝導率を確保できた。
【0162】
これに対して、上記mの値が2であるアルキレンオキシドオリゴマーを含む電解液を前駆体に含浸させた比較例サンプル7、前駆体のゲル分率が0である(即ち、前駆体が部分架橋ポリマーではない)比較例サンプル9、LiTFSI、エチレンカーボネートおよびジメチルカーボネートの混合物である電解液Eを前駆体に含浸させた比較例サンプル10、ならびに、従来例サンプル11では、その形成直後こそ、2×10-5(S/cm)以上の高いイオン伝導率が得られたものの、150℃1時間の加熱により、電解質膜が大きく収縮して加熱後のイオン伝導率を測定できなかった。また、前駆体の膨潤率が1.5と、2未満の値である比較例サンプル8では、150℃1時間の加熱後もイオン伝導率の測定は可能であったが、その値は8×10-7(S/cm)と実施例サンプルに比べて大きく低下した。
【産業上の利用可能性】
【0163】
本発明によれば、高温下での変形が抑制された電極一体型高分子電解質膜を提供でき、この電解質膜によれば、高温雰囲気となった場合にも、従来の素子よりも機能を長く保持できる電気化学素子を実現できる。
【0164】
本発明の電解質膜は、一次電池、二次電池、電気二重層キャパシタ、ケミカルコンデンサー、センサー、エレクトロクロミックデバイスなど、各種の電気化学素子に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】本発明の電気化学素子の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0166】
1 電気化学素子(リチウム二次電池)
2 負極
3 正極
4 電解質膜
5 負極集電体
6 正極集電体
7 ケース
8 封口板
9 ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキレンオキシド基を側鎖に有する以下の化学式(1)に示す第1の構造単位を含む部分架橋ポリマーからなる膜状の電解質膜前駆体を、
イオン種と以下の化学式(2)に示すアルキレンオキシドオリゴマーとを含む電解液を含浸させ、かつ、一対の電極により狭持した状態で、さらに架橋させることにより、前記前駆体を電解質膜とするとともに前記一対の電極と一体化させて得た電極一体型高分子電解質膜。
【化1】

【化2】

上記式(1)において、R1は、HまたはCH3であり、R2は、CH3またはC26であり、nは、2以上12以下の自然数である。
上記式(2)において、R3は、CH3、C26またはC38であり、R4は、HまたはCH3であり、mは、3以上12以下の自然数である。
【請求項2】
酢酸エチルに不溶な部分の重量から求めた前記前駆体のゲル分率が20%以上である請求項1に記載の電極一体型高分子電解質膜。
【請求項3】
酢酸エチルに不溶な部分の重量から求めた前記前駆体のゲル分率が55%以上である請求項1に記載の電極一体型高分子電解質膜。
【請求項4】
酢酸エチルに含浸させたときの前記前駆体の膨潤率が2倍以上である請求項1に記載の電極一体型高分子電解質膜。
【請求項5】
酢酸エチルに含浸させたときの前記前駆体の膨潤率が5倍以上である請求項1に記載の電極一体型高分子電解質膜。
【請求項6】
前記nが、3以上11以下の自然数である請求項1に記載の電極一体型高分子電解質膜。
【請求項7】
前記mが、4以上11以下の自然数である請求項1に記載の電極一体型高分子電解質膜。
【請求項8】
前記電解液が架橋剤をさらに含む請求項1に記載の電極一体型高分子電解質膜。
【請求項9】
前記部分架橋ポリマーが、前記イオン種の存在下で架橋反応を起こす第2の構造単位をさらに含む請求項1に記載の電極一体型高分子電解質膜。
【請求項10】
前記第2の構造単位が、オキセタン基を側鎖に有する以下の化学式(3)に示す構造単位である請求項9に記載の電極一体型高分子電解質膜。
【化3】

上記式(3)において、R5は、HまたはCH3である。
【請求項11】
前記電解質膜の内部に、平均粒径にして1〜100μm程度のサイズの絶縁性粒子が配置されている請求項1に記載の電極一体型高分子電解質膜。
【請求項12】
前記イオン種がリチウムイオンである請求項1に記載の電極一体型高分子電解質膜。
【請求項13】
一対の電極と、
前記一対の電極によって狭持された電解質膜とを含む電気化学素子であって、
前記一対の電極および電解質膜として、請求項1に記載の電極一体型高分子電解質膜を備える電気化学素子。

【図1】
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【公開番号】特開2008−204858(P2008−204858A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40853(P2007−40853)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】