電極材料として有用なフルオロ硫酸塩
本発明は、随意にドープされたフルオロ硫酸塩の粒子から構成される材料に関するものである。このフルオロ硫酸塩は、次式(I)の歪タボライト型構造を有する:(A1-aA’a)x(Z1-bZ’b)z(SO4)sFf。式中、A=Li又はNaであり、A’は原子価又は少なくとも1個のドーパント元素であり、ZはFe、Co及びNiから選択される少なくとも1個の元素であり、Z’は原子価又は少なくとも1個のドーパント元素であり、指数a、b、x、z、s及びfは、該化合物の電気的中性を確保するように選択され、そして、a≧0、b≧0、x≧0、z>0、s>0、f>0であり、ドーパントA及びZ'の各量a及びbは、該タボライト型構造を維持する量である。この材料は、その先駆物質からイオノサーマル手段又はセラミック手段により密閉反応器内で得られる。この材料は、特に活性な電極材料として使用される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極活物質として使用することのできる弗素化材料に関するものであり、また、その製造方法に関するものでもある。
【背景技術】
【0002】
従来技術
正極操作の基礎として、純粋な状態で又はニッケルとマンガンとアルミニウムとの固溶体の状態で使用されるLixCoO2(0.4=x=1)などの挿入化合物を使用するリチウム電池が知られている。このタイプの電気化学を一般化するにあたっての主要な障害は、コバルトの希少性と、遷移金属酸化物の過剰な陽電位であり、その結果として電池に対する安全性の問題である。
【0003】
また、LixTMmZyP1-sSisO4化合物(「オキシアニオン」)(式中、TMはFe、M及びCoから選択され、Zは、1〜5の原子価を有し、かつ、遷移金属又はリチウムの部位に置換され得る1個以上の元素を表す。)も知られている。これらの化合物は、リチウムのみを交換し、しかも、非常に低い電子伝導率及びイオン伝導率しか有さない。これらの障害は、非常に細かい粒子(例えばナノ粒子)を使用し、かつ、有機化合物の熱分解により炭素被覆を付着させることによって克服できるかもしれない。ナノ粒子を使用することに関連する欠点は、比エネルギーの損失をもたらす低いタップ密度であり、そしてこの問題は、炭素の付着によりさらに深刻化する。さらに、炭素の付着は、還元性条件下において高温で起こる。実際に、FeII及びMnII以外の遷移元素を使用することは困難であり、CoII及びNiII元素は、金属状態に容易に還元される。同じことが、イオン伝導率又は電子伝導率を増大させるための有利なドーパントであるFeIII、MnIII、CrIII、VIII及びVIVについても言える。
【0004】
一般式:AaMb(SO4)cZd(式中、Aは少なくとも1種のアルカリ金属を表し、ZはF及びOHから選択される少なくとも1種の元素を表し、Mは、少なくとも1種の2価又は3価の金属陽イオンを表す。)に相当する他の化合物も提案されている。L.Sebastian外,[J.Mater.Chem.2002,374−377]には、セラミック手段によりLiMgSO4Fを製造することが記載され、また、タボライトLiFeOHPO4の構造と同型である該化合物の結晶構造も記載されている。著者は、この化合物の高いイオン伝導について言及し、そして同型構造と考えられる化合物LiMSO4F(MはFe、Co又はNiである。)が、MII/MIII酸化状態に伴って生じるリチウムのレドックス挿入/引き抜きにとって重要であると思われることを示唆している。また、この著者は、Fe、Ni又はCoの化合物をセラミック手段により製造することが進行中であることも明示しているが、その後、これらの化合物に関する文献は出されていない。
【0005】
さらに、米国特許出願公開第2005/0163699号には、セラミック手段により前記化合物AaMb(SO4)cZdを製造することが記載されている。その技術は、MがNi、Fe、Co、Mn、(MnMg)、(FeZn)又は(FeCo)である化合物に関する具体例により例示されている。これらの化合物は、LiF(Liの先駆物質)及びM元素の硫酸塩からセラミック手段により製造される。これらの化合物のうち、最も有利なものは、Feを含有する化合物である。というのは、これらの化合物はコストが比較的低いことのみならず、構造及び化学的性質(特に結合のイオン共有性)の考察に基づき、大量用途のための確実な使用を確保するのに望ましい所定の範囲の電位よりも有利な電気化学的特性を有することができるからである。誘電作用のため、その表面は、その構造にかかわらず、ホスフェートからの高い電位を有するはずである。様々な金属元素を含有する化合物の製造例が記載されているが、電気化学的特性については報告されていない。例えば、例2には、LiFeSO4F化合物を、セラミック方法により、不均一化合物を与える600℃で、次いで、該化合物が赤/黒になる500℃で、又は該化合物が赤色になる空気中400℃で製造することが記載されている。この方法は、酸素の不存在下で、SO42-+Fe2+→SO2+2O2-,2Fe3+に従ってSO42-基をFe2+により還元させることができる。上記様々な温度で得られた化合物において観察される赤色は、酸化物Fe2O3などの結晶格子におけるO2+/Fe3+会合によるものである。さらに、FeIIの化合物は、空気中において200℃で酸化してFeIIIとなること、及び空気中400℃での例2による製造によりこれが確認されることも知られている。そのため、米国特許出願公開第2005/0163699号に従いLiF及び硫酸鉄から出発してセラミック手段により製造される鉄を含有する化合物はLiFeSO4Fからなるものではない。同様に、MがCo、Niである化合物は、推奨されたセラミック手段による製造の間において使用される温度では安定でないように思われる。したがって、米国特許出願公開第2005/0163699号に記載された化合物が実際に得られたとは考えにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0163699号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】L.Sebastian外,J.Mater.Chem.2002,374−377
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明
本発明の目的は、理論容量に近い改善された電気化学的活性を有する新規な電極材料(すなわち弗素化オキシアニオン単位当たり1個のアルカリ金属イオンを挿入することのできる材料)を提供すること、また、該材料を確実で、迅速で、しかも経済的な方法で製造することを可能にする方法も提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の材料は、歪タボライト型構造を有し、かつ、次式(I)に相当するフルオロ硫酸塩の粒子からなる:
(A1-aA’a)x(Z1-bZ’b)z(SO4)sFf(I)
式中:
・AはLi又はNaを表し;
・A’は原子価又は少なくとも1個のドーパント元素を表し;
・ZはFe、Co及びNiから選択される少なくとも1個の元素を表し;
・Z’は原子価又は少なくとも1個のドーパント元素を表し;
・指数a、b、x、z、s及びfは、該化合物の電気的中性を確保するように選択され、そして、a≧0、b≧0、x≧0、z>0、s>0、f>0であり;
・ドーパントA及びZ'の各量a及びbは、該タボライト型構造を維持する量である。
【0010】
タボライト構造は、中心のZに頂点の弗素が結合し、c軸に沿って鎖を形成するZO4F2八面体を含む。この八面体は全てトランス位にF原子を有するが、ただし、これらは2つの異なる型に分類される。鎖は、分離したSO4四面体により互いに結合し、それによって三次元構造が創り出され、[100]、[010]及び[101]軸に沿ってトンネルが画定され、化合物(I)のA1-aA’a元素は、該トンネルにとどまる(3D拡散)。
【0011】
AがLiの場合には、化合物(I)の歪タボライト型構造は、空間群P−1の三斜格子を有する。AがNaの場合には、化合物(I)の歪タボライト型構造は単斜晶系格子(P21/C)を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、三斜格子を有する歪タボライト型構造の略図である。
【図2】図2は、単斜晶系格子を有する歪タボライト型構造の略図である。
【図3】図3は、左の三斜格子と右の単斜晶系格子との比較図である。
【図4】図4は、例1からのLiFeSO4F材料についてのSEMにより得られた画像を示す。
【図5a】図5aは、例1からのLiFeSO4F材料についてのTEM画像、特に対応するSAED図を示す。
【図5b】図5bは、Fの存在を示すEDSスペクトルを示している。強度は、x軸のエネルギーE(keVで表す)の関数としてy軸(任意単位)に与えている。
【図6】図6は、X線回折図と、差込として、例1からのLiFeSO4F材料の構造とを示している。
【図7】図7は、例1からのLiFeSO4F材料の質量分析と共同したTGAによるキャラクタリゼーションの間に得られた図を示している。
【図8】図8は、LiFeSO4Fの試料についての、温度の上昇の間におけるX線回折図の変化を示している。
【図9a】図9aはFeSO4+LiF混合物についてのX線回折図を示す。
【図9b】図9bは、熱処理後に得られた材料についてのX線回折図を示す。
【図10】図10は、例2から得られたLiFeSO4F材料のX線回折図を示す。
【図11】図11は、例3から得られたLiFeSO4F材料のX線回折図を示す。
【図12】図12は、例4から得られたLiFeSO4F材料のX線回折図を示す。
【図13】図13は、例5から得られたLiFeSO4F材料のX線回折図を示す。
【図14】図14は、例6からのLiCoSO4材料のTGAによるキャラクタリゼーションの間に得られたX線回折図を示す。
【図15】図15は、例6からのLiCoSO4材料のTGAによるキャラクタリゼーションの間に得られた線図を示す。
【図16】図16は、LiCoSO4の試料についての、温度の上昇の間におけるX線回折図の変化を示す。
【図17】図17は、例7からのLiNiSO4F材料のTGAによるキャラクタリゼーションの間に得られたX線回折図及び線図を示す。
【図18】図18は、例7からのLiNiSO4F材料のTGAによるキャラクタリゼーションの間に得られたX線回折図及び線図を示す。
【図19】図19は、LiNiSO4Fの試料についての、温度の上昇の間におけるX線回折図の変化を示す。
【図20】図20は、例8からのFe0.5Mn0.5SO4・H2O材料のX線回折図を示す。
【図21】図21は、例9からのNaFeSO4F材料のX線回折図を示す。
【図22】図22は、例10で得られたLiFeSO4F材料のX線回折図を示す。
【図23】図23は、例11で得られたLiFeSO4F材料のX線回折図を示す。
【図24】図24は、左に、例12で得られたLiFeSO4F材料のX線回折図、右に、該材料のSEM顕微鏡写真を示す。
【図25】図25は、例13からのNaFeSO4F材料のX線回折図を示す。
【図26】図26は、例14からのNaCoSO4F材料のX線回折図を示す。
【図27】図27は、例15からのFeSO4F材料のX線回折図を示す。
【図28a】図28aは、例3に従って製造されたLiFeSO4Fのいくつかの試料に関連する。図28aは、リチウムの挿入速度xの関数としての電位の変化(Vで表す)及び(差込として)C/10レジームでのサイクル数Nの関数としての容量Cの変化(mAh/gで表す)を示す。
【図28b】図28bは、C/2レジームでのリチウムの挿入速度xの関数としての電位の変化(Vで表す)。
【図28c】図28cは、レジームRの関数としての容量の変化を示す。
【図29】図29は、例12からのLiFeSO4材料についての、リチウムの挿入速度(左手の曲線)の関数としての電位の変化P(Vで表す)及びサイクル数Nの関数(右手の曲線)としての容量Cの変化(mAh/gで表す)を示す。
【図30】図30は、例13からのNaFeSO4F材料についての、リチウムの挿入速度の関数としての電位の変化P(Vで表す)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
全てのX線回折図において、強度I(任意単位で表す)をy軸に与え、波長2θをx軸上に与えている。
【0014】
TGA図において、TG(%)は、温度T(℃)に応じた重量損失を示し、随意に、DSCは、(mW)で表すエネルギー量を示す。
【0015】
本発明に従う化合物は粒状であり、その寸法は、100μm未満、又はさらに100nm未満である。
【0016】
A'がドーパント元素である場合に、A’は、Aとは異なるアルカリ金属、アルカリ土類金属又は3d金属、特にTi、V、Cr、Mn、Fe、Mn、Co又はCuであることができる。一般に、ドーパントA'の「a」含有量は、好ましくは0.25%未満、すなわちa<0.25である。
【0017】
Z’がドーパント元素である場合には、Z’はアルカリ金属、Mn、Mg、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Zn、Al、Ga、Sn、Zr、Nb及びTaから、それらの酸化度の少なくとも一つの状態で選択される金属であることができる。一般に、ドーパントZ'の「b」含有量は、好ましくは25%未満、すなわちb<0.25である。特に有利なZ’ドーパントはMn、Mg、Zn、Ti及びAlである。
【0018】
特に好ましい本発明に従う化合物は、次式:Li(Z1-bZ’b)SO4F及びNa(Z1-bZ’b)zSO4Fに相当するもの、特にLiFeSO4F、LiCoSO4F、LiNiSO4F及びそれらの固溶体、NaFeSO4F、NaCoSO4F、NaNiSO4F及びそれらの固溶体のみならず、固溶体のLi(Z1-bMnb)SO4F及びNa(Z1-bMnb)SO4F(式中、ZはFe、Co又はNiであり、b≦0.2である。)である。
【0019】
化合物(I)の特定のカテゴリーの一つは、(Z1-bZ’b)基が2個以上の元素を示す化合物を含む。これらは、ZがFe、Co及びNiから選択される2個以上の元素を示す化合物、また、b≠0の化合物である(この2つの場合を組み合わせてもよい)。
【0020】
x=0の化合物(I)、すなわち式(Z1-bZ’b)z(SO4)sFfの化合物、特に化合物ZSO4F、特にFeSO4Fが有利である。というのは、これは、リチウムアノード及び液体又はゲルタイプの電解質により帯電状態の第一電気化学的発電装置、又は特に高分子電解質により第二発電装置を構築することを可能にするからである。
【0021】
x>0である本発明に従う材料(I)は、セラミック手段により又はイオノサーマル手段によりこれを形成する元素の先駆体から得られ得る。
【0022】
A又はA'の先駆体は、無機酸塩(炭酸塩及び炭酸水素塩、水酸化物、過酸化物及び硝酸塩など)、揮発性有機酸塩(酢酸塩及び蟻酸塩など)、熱分解性酸塩(蓚酸塩、マロン酸塩及びクエン酸塩など)、弗化物及び硫酸塩から選択できる。このような先駆物質のなかでは、Li2CO3、LiHCO3、LiOH、Li2O、Li2O2、LiNO3、LiCH3CO2、LiCHO2、Li2C2O4、Li3C6H5O7、Na2CO3、NaOH、Na2O2、NaNO3、NaCH3CO2、NaCHO2、Na2C2O4、Na3C6H5O7及びそれらの水和物が特に好ましい。弗化物及び硫酸塩などの、最終生成物の少なくとも2種の成分を与えるLi又はNaの先駆物質が特に好ましく、特に水和された状態のLiF、NaF、LiHSO4並び硫酸塩Li2SO4、Na2SO4及びNaHSO4が好ましい。
【0023】
Z又はZ’元素の先駆物質は、好ましくは、タボライト型構造を有し、かつ、化合物(I)のタボライト型構造を得ることを可能にするであろうZ又はZ’の硫酸塩から選択される。
【0024】
A、A'、Z又はZ'の先駆物質が任意のF又はS元素を与えない場合、或いは製造される化合物(I)の化学両論に対して不十分な量しか与えない場合には、単に1種の又は数種のF又はS元素を与える先駆物質を添加することが可能である。
【0025】
オキシアニオンSO42-の先駆物質は、酸H2SO4及びその熱不安定性アンモニウム、アミン、イミダゾール又はピリミジン塩、例えば、NH4HSO4、(NH4)2SO4、(C3H5)HSO4、(C5H6)2SO4及び(C3H5)2SO4、(C5H6)HSO4から選択できる。
【0026】
また、Sの先駆物質は、Mg又はCaの塩からも選択できる。例えば、次の化合物:A”(HSO4)2及びA”SO4、A”HPO4及びA”2P2O7、A”(PO3)2(式中、A”はアルカリ土類金属(Mg、Ca)を表す)が挙げられる。
【0027】
弗化物イオン先駆物質は、弗化アンモニウム(NH4F・nHF)、弗化イミダゾリウム(C3H5N2F・nHF)又は弗化ピリジニウム(C5H6NF・nHF)0=n=5から選択できる。勿論、同じ成分のために数種の先駆物質を使用することが可能である。
【0028】
好ましい一実施形態では、Zの先駆物質及び、必要に応じてZ’の先駆物質は、Z及び/又はZ’元素の硫酸塩から選択される。Aの先駆物質及び、必要に応じて、A’の先駆物質は、A及び/又はA’元素の弗化物から選択される。好ましくは、水和物の形態、特に一水和物の形態の硫酸塩が使用される。驚くべきことに、歪タボライト型構造を有する硫酸塩一水和物先駆物質を使用すると、弗化物との反応の間に歪タボライト型構造を事実上保持することが可能になることが観察された。
【0029】
その反応は、ZSO4・H2Oと対応するLi及びNa相との構造的関係のため、構造骨組においてSO4四面体及びZO4F2八面体の一般配置を維持することに基づいてトポタクチックである。
【0030】
一水和ZSO4・H2Oは、150℃〜450℃の温度(例えば200℃)で真空下において加熱するか、又はイオン液体中で加熱する(例えばEMI−TFSI中において270℃で2時間)かのいずれかによって、ZSO4・7H2Oから得られ得る。
【0031】
(Z1-bZ’b)基が2個以上の元素を示す化合物(I)は、好ましくは、Z及びZ'の先駆物質として、硫酸塩の固溶体、好ましくは水和状態の硫酸塩固溶体を使用することによって製造される。
【0032】
特定の一実施形態では、Fe1−bZ’bSO4・H2O先駆物質を製造することを目的とする方法は次の工程を含む:
・1−bモルのFeSO4・nH2O及びbモルのZ’SO4・nH2Oをアルゴン又は窒素で予め脱気した水に溶解させてFe(II)、b≦0.25及びn≦7の酸化を防ぎ;
・アルコール(例えばエタノール又はイソプロパノール)を添加してFe1-bZ’bSO4・nH2Oを沈殿させ;
・形成された粉末を回収し(例えば遠心分離により);そして
・アルコールで洗浄し、次いで、真空下において150〜250℃の温度(例えば200℃)で1時間加熱する。
【0033】
ZがFe及びCo又はFe及びNiを表す先駆物質の製造は、Z’SO4・nH2O(つまりbは1未満)のためにCoSO4・nH2O又はNiSO4・nH2Oを選択することによって、同じ方法で実施できる。
【0034】
本発明の化合物は、イオノサーマル手段により330℃未満の温度での合成方法で得ることができる。
【0035】
イオノサーマル手段による方法は次の工程を含む:
(i)該先駆物質を、陽イオン及び陰イオンからなる少なくとも1種のイオン液体であってその電荷がバランスしているものを含む支持液体に分散させて、該先駆物質の該液体への懸濁液を得;
(ii)該懸濁液を25〜330℃の温度に加熱し;
(iii)該イオン液体と、該先駆物質間の反応により得られた式(I)の無機酸化物とを分離すること。
【0036】
硫酸塩一水和物先駆物質は、予備工程の間に、前もって又はイオン液体中においてその場で製造できる。
【0037】
表現「イオン液体」とは、陰イオン及び陽イオンのみを含有する、電荷がバランスした化合物であって、本発明の化合物の形成反応温度では液体のものであり、当該液体そのもの又は他の添加剤との混合物を意味するものと解する。
【0038】
工程(i)においてイオン液体に存在する先駆物質の量は、好ましくは0.01重量%〜85重量%、より好ましくは5〜60重量%である。
【0039】
各種先駆物質のそれぞれの量は、製造される化合物(I)の化学両論性による。それらの反応は化学量論的であるから、それらを決定することは当業者の知識の範囲内にある。好ましくは、過剰の弗化物、好ましくはおよそ5〜25%の弗化物を使用する。
【0040】
本発明の好ましい一実施形態によれば、イオン液体の陽イオンは、次式の陽イオンから選択される:
【表1】
式中:
・R4〜R7、R17、R27、R24、R28、R29、R37、R34、R39、R43及びR46〜R57基は、それぞれ独立に、C1−C24アルキル、C1−C24アリールアルキル又は(C1−C24)アルキルアリール基を表し;
・R8−R16基はR4について与えた意味を有し、或いは、それぞれ(C1−C20)アルキルアリール基又はNR63R64基を表し;
・R18〜R22、R23、R25、R26、R30〜R33、R35、R36、R38、R40〜R42、R44及びR45基は、水素原子、C1−C24アルキル、アリール又はC1−C24オキサアルキル基又は−[(CH)2]nQ基(ここで、Qは、−OH、−CN、−C(=O)OR58、−C(=O)NR59R60、−NR61R62、−CH(OH)CH2OH又は1−イミダゾイル、3−イミダゾイル若しくは4−イミダゾイル基を表し、0≦n≦12である。)を表し;
・R58〜R64は、互いに独立して、水素原子、C1−C20アルキル、アリール又はC1−C20オキサアルキル基を表す。
【0041】
特に好ましいのは、R23=H又はCH3、R24=CH3、R25=R26=H、及びR27=C2H5、C3H7、C4H9、C5H11、C6H13、C8H17、(CH2)3OH、(CH2)3CN、(CH2)4OH、又は(CH2)4CNであるイミダゾリウム陽イオンと、R23=H又はCH3、R24=C4H9、R25=R26=H、R27=(CH2)2OH、(CH2)2CN、(CH2)3OH、(CH2)3CN、(CH2)4OH、(CH2)4CN又はCH2CH(OH)CH2OHであるイミダゾリウム陽イオンとである。
【0042】
イオン液体の陰イオンは、好ましくはCl、Br、I、RSO3-、ROSO3-、[RPO2]-、[R(R’O)PO2]-、[(RO)2PO2]-、BF4-、RfBF3-、PF6-、RfPF5-、(Rf)2PF4-、(Rf)3PF3-、RfCO2-、RfSO3-、[(RfSO2)2N]-、[(RfSO2)2CH]-、[(RfSO2)2C(CN)]-、[RfSO2C(CN)2]-、[(RfSO2)3C]-、N(CN)2-、C(CN)3-、[(C2O4)2B]-から選択され、式中:
・R及びR’は、同一のもの又は異なるものであり、それぞれC1−C24アルキル、アリール又は(C1−C24)アルキルアリール基を表し;
・Rfは、CnF2n+1(0=n=8)、CF3OCF2、HCF2CF2及びC6F5から選択されるフルオロ基である。
【0043】
イオン液体の陽イオンがイミダゾリウム陽イオンの場合には、イミダゾリウム陽イオンのC2炭素を、好ましくは1〜4個の炭素原子を有するアルキル基によって保護することが望ましい。というのは、A成分の先駆物質は弗化物だからである。そうしなければ、C2炭素によって保持される酸のプロトンがイオン液体の陽イオンの分解をもたらすであろう。
【0044】
疎水性の高いイオン液体は、Aの先駆物質(AF)と水和ZSO4先駆物質との反応に好都合である。これは、開放反応器で合成を実施することを可能にする。親水性イオン液体はさほど好都合ではなく、減圧の密閉反応器内で合成を実施する必要がある。
【0045】
1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート(BMI−トリフレート)、及び1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI−TFSI)が特に好ましい。BMI−トリフレートよりも疎水性のEMI−TFSIが特に好ましい。
【0046】
本発明の好ましい一実施形態によれば、工程(ii)において懸濁液を加熱するための温度は、100℃〜330℃、さらに好ましくは150〜280℃である。
【0047】
この加熱工程(ii)は、好ましくは不活性雰囲気下において大気圧で実施される。実際に、本発明に従う方法の主な利点の一つは、イオン液体が揮発しないため、与圧室を必要としないことである。
【0048】
この加熱は、様々な手段、特にオーブン内での加熱やマイクロ波加熱により実施できる。これは、イオン液体及び化合物(I)の先駆物質が流れる加熱室内において、反応を完了させることのできる滞留時間で連続的に実施できる。
【0049】
加熱工程(ii)の所要時間は、一般に、10分〜200時間、好ましくは3〜48時間である。
【0050】
工程(iii)における化合物(I)の分離は、例えば、溶剤によるイオン液体の抽出や遠心分離、及びアルコール、ニトリル、ケトン又は1〜6個の炭素原子を有するクロロアルカンによる、見込まれる副生成物の除去などの、当業者に知られている任意の技術によって実施できる.
【0051】
合成の終了時に、化合物(I)を、例えばアセトン、アセトニトリル又は酢酸エチルなどの有機溶媒で洗浄し、続いてさらに精製することなく使用することができる。
【0052】
同様に、合成の終了時に、イオン液体を回収し、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、メチルエチルケトン、ペンタノン、酢酸エチル及び蟻酸エチル含めたエステルで随意に希釈し、そして、好ましくは水及び/又は酸溶液、例えば、塩酸、硫酸又はスルファミン酸の水溶液などの酸溶液で洗浄することができる。洗浄及び乾燥(例えばRotavapor(商標)を使用)後に又は予備真空下で、イオン液体は新たな合成のために使用できるが、これは、経済的な観点から非常に好都合である。
【0053】
セラミック手段により物質(I)を製造する方法は、イオノサーマル手段による方法と同じ先駆物質を使用する。これは、先駆物質の粉末を接触させ、そしてこの混合物を熱処理することからなる。これは、次のことを特徴とする:
・SO4、Z及び必要に応じてZ’成分を、水和硫酸塩の形態での単一の先駆物質によって与え;
・F、A及び必要に応じてA'成分をそれぞれ弗化物によって与え;
・熱処理を密閉反応器内で実施する。
【0054】
この硫酸塩水和物は、好ましくは(Z1−bZ’b)SO4・H2O先駆物質一水和物の形態である。
【0055】
先駆物質は、化学両論量、或いは弗化物過剰、好ましくはおよそ5〜25%で使用される。
【0056】
粉末の混合物は、好ましくは反応器に導入する前に圧縮によりペレット化される。
【0057】
熱処理は、反応器の容量(例えばスチール製又は石英製)及び先駆物質の反応器への導入量に依存する温度及び圧力条件下で実施される。タボライト相と寄生相との割合は、「処理された先駆物質/密閉反応器の容量」比による。閉じ込めが高い方が単一のタボライト相の生成に好都合である。各特定の相に好適な条件を決定することは、当業者の通常の知識内にある。
【0058】
x=0である本発明に従う材料(I)、例えば化合物FeSO4Fは、NO2BF4又は(CF3CO2)2ICC6H5の存在下でLiFeSO4Fを電気化学的酸化又は化学酸化することによって得られ得る。これは、次の格子定数:a=5.0683(7)(Å)、b=5.0649(19)(Å)、c=7.2552(19)(Å)、α=69.36(3)、β=68.80(3)、γ=88.16(2)及びV=161.52(8)(Å3)の三斜構造、空間群P−1を有する。
【0059】
化合物(I)は、それを形成する成分に応じて様々な用途に使用できる。例えば、本発明の化合物(I)は、電池及びエレクトロクロミック装置における電極の製造用の活物質、セラミック、情報を保存するための磁性材料又は顔料として、或いは従来使用されているTiO2を用いて得られるよりも結果が良好光吸収材料として太陽電池に使用できる。
【0060】
本発明に従う化合物を電極材料として使用する場合に、この電極は、電流コレクタに、本発明の化合物及び炭素を含む混合物を手作業による粉砕又は機械粉砕により(例えばSPEX 1800ミルを使用した約10分間にわたる粉砕により)混合させることによって得られた複合材料を付着させることによって製造できる。「化合物(I)+炭素」複合材料に対する化合物(I)の重量%は、50〜99%、特に80〜95%であることができる。
【0061】
また、電極を製造するために使用される複合材料は、追加の化合物を含有することもでき、化合物(I)/追加の化合物重量比は5%を超える。この追加の化合物は、例えば、MがFe、Co及びNi元素の少なくとも一つを表すLiMPO4物質、又はLiCoO2若しくはLiNiO2酸化物などのかんらん石構造を有する材料であることができる。
【0062】
電流コレクタ上に付着する物質の量は、好ましくは本発明に従う化合物の量が0.1〜200、好ましくは1〜50mg/cm2というものである。電流コレクタは、アルミニウム、チタン、グラファイトペーパー又はステンレススチールのグリッド又はシートからなる。
【0063】
本発明に従う電極は、電解質によって隔離された正極及び負極を備える電気化学セルに使用できる。本発明に従う電極は正極となる。
【0064】
負極は、金属リチウム若しくは合金の1種、又は酸化リチウムのナノスケール分散体を形成する遷移金属酸化物、又はリチウム及び遷移金属の二重窒化物からなることができる。また、負極は、1.6V未満の電位でLi+イオンを可逆的に挿入することのできる材料からなることもできる。このような材料の例としては、一般式Li1+y+x/3Ti2-x/3O4(0≦x≦1、0≦y≦1)、Li4+x'Ti5O12(0≦x’≦3)を有する低電位酸化物、炭素及び有機物質の熱分解により生じた炭素系生成物、またジカルボキシレートも挙げられる。
【0065】
電解質は、極性非プロトン性液体溶媒、液体溶媒若しくはイオン液体によって可塑化されていてよい溶媒和性重合体又は溶媒和性重合体若しくは非溶媒和性重合体の添加によってゲル化された液体溶媒からなるゲルへの溶液の状態の少なくとも1種のリチウム塩又はナトリウム塩を含むことが有益である。
【0066】
本発明を次の例示的実施形態により例示するが、これは限定ではない。
【0067】
特に言及しない限り、FeSO4・H2Oは、FeSO4・7H2Oから減圧下において200℃で加熱することにより、或いはFeSO4・7H2OをEMI−TFSIイオン液体中において250℃で2時間加熱することによって製造した。
【実施例】
【0068】
例1
予備工程において、FeSO4・7H2OをEMI−TFSI中において250℃で10時間、続いて280℃で24時間熱処理した。形成されたFeSO4・H2O一水和物を遠心分離により回収し、酢酸エチルで洗浄し、次いで真空下において100℃で乾燥させる。
乳鉢において、このようにして得られた0.85gのFeSO4・H2Oと0.148gのLiF(1/1.14モル比)とを混合し、そしてこの混合物をParr(商標)ボンベ熱量計に導入し、5mLのエチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI−TFSI)を添加した。この混合物を室温で20分間撹拌し、沈降するまで2時間放置し、次いで、開放ボンベ熱量計内において撹拌することなく2時間にわたり300℃で加熱した。
この反応混合物を室温にまで冷却した後に、得られた粉末を遠心分離により分離し、20mLのジクロロメタンで3回洗浄し、次いでオーブン内において60℃で乾燥させた。
得られた生成物は、淡緑色の粉末の状態である。これについて様々な分析を行った。
【0069】
SEM分析
図4はSEMによって得られた画像を示し、粉末がミクロンサイズの粒子からなる凝集体の状態であることを示している。
【0070】
TEM分析
図5aはTEM画像、特に対応するSAED図を示し、また、これは粒子が多数の晶子からなることを示している。図5bはFの存在を示すEDSスペクトルを示している。強度は、x軸のエネルギーE(keVで表す)の関数としてy軸(任意単位)に与えている。
【0071】
X線回折
図6はX線回折図を示しており、差込の形で、得られた化合物の構造を示している。この構造は、独立のFeO4F2八面体(「2」で表す)、Li+イオン(「3」で表す)が見出されるトンネルを有するSO4四面体(「1」で表す)を有する。
【0072】
熱重量分析(TGA)
図7は、質量分析と一体になったTGAによる化合物のキャラクタリゼーションの間に得られた図を示している。上の曲線(−1.14%、0.07%などと明示されている)はTGA分析に相当し、中程の曲線(458.5℃及び507.4℃と表示されている)は、示差走査熱量測定(DSC)に相当し、下の曲線(m48及びm64と表示されている)は質量分析に相当する。これらの曲線は、23.41%の重量損失が400℃〜700℃で生じ、これがSO2の脱離(これは、質量分析計での電子衝撃下で、SOに部分的に断片化する)に相当することを示している。350℃よりも高い温度についてのTGA及びDSC曲線の不規則性は、化合物の熱不安定化の開始を示している。
【0073】
このように、DSC及びTGA分析は、米国特許出願公開第2005/0163699号に記載されるように400℃を超える温度で実施されるセラミック手段による方法ではLiFeSO4Fを得ることは可能ではないことを示している。
【0074】
この事実を確認するために、この例で得られた生成物の試料を、米国特許出願公開第2005/0163699号のとおりに30分間にわたり空気中で加熱した。図8は温度の上昇の間におけるX線回折図の変化を示している。RTは室温を表す。500℃で見られる線はこの温度で存在する化合物に起因するものであり、JCPDSファイルの番号を基準にして、次のとおりに特定される物質に相当する:
* Fe2O3(79−1741)
| Fe2O3(25−1402)
↓ Li2SO4(32−064)+FeF3.3H2O(32−0464)
・ LiHSO4(31−0721)
【0075】
比較例1
無水FeSO4及びLiFの等モル混合物を製造し、そしてこれを空気中において450℃で15分間加熱した。
図9は、出発反応体の混合物についてのX線回折図(図9a)及び450℃で15分間の熱処理後に得られた生成物についてのX線回折図(図9b)を示す。それぞれFeSO4及びLiFに相当するピークが図9aで見られるのに対し、図9bは、それぞれLiF、Li2SO4、Fe2O3及びLi2S2O7に相当するピークを示している。
この例は、Fe及びSの先駆物質と、Fの先駆物質との混合物をセラミック手段により処理しても、米国特許出願公開第2005/0163699号に記載された条件下では化合物LiFeSO4Fが得られないことを確認するものである。
【0076】
例2
EMI−TFSI中でのFeSO4・7H2O及びLiFからLiFeSO4Fの合成
3mLの1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI−TFSI)を含有するPTFEフラスコに、乳鉢で調製した1.404gのFeSO4・7H2O及び0.149gのLIFの混合物を導入し、この混合物を20分間にわたって室温で磁気撹拌し、撹拌を停止し、続いて2mLのイオン液体(EMI−TFSI)を添加し、そして混合物を撹拌することなく室温で30分間放置した。続いて、この集合物全体を200℃のオーブンに導入し、このオーブンの温度を20分毎に10℃ずつ275℃にまで上昇させ、12時間にわたってこの値で保持し、続いて放置してゆっくりと冷却した。
熱処理中に形成された粉末を遠心分離によりイオン液体から分離し、10mLのジクロロメタンで3回洗浄し、次いでオーブン内において60℃で乾燥させた。
銅陰極で実施されたX線回折スペクトルの精密化(図10に示される)は、均等な割合の二つの相LiFeSO4F及びFeSO4・H2Oの存在を示している。
【0077】
相1:LiFeSO4F
三斜晶系、空間群:P−1(2)
A=5.1819(5)Å、b=5.4853(4)Å、c=7.2297(4)Å、
α=106.4564(3)°、β=107.134(6)°、γ=97.922(5)°
V=182.761(4)Å3。
【0078】
相2:FeSO4・H2O
三斜晶系、空間群:P−1(2)
A=5.178(7)Å、b=5.176(7)Å、c=7.599(7)Å;
α=107.58(6)°、β=107.58(8)°、γ=93.34(6)°
V=182.56(4)Å3。
【0079】
例3
EMI−TFSI中におけるFeSO4・7H2O及びLiFからLiFeSO4Fの合成
3mLの1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI−TFSI)を含有するPTFEフラスコに、乳鉢において調製された0.85gのFeSO4・H2O及び0.149gのLiF(1/1.14モル比)の混合物を導入し、この混合物を20分間にわたって室温で磁気撹拌し、撹拌を停止し、続いて2mLのイオン液体(EMI−TFSI)を添加し、そして混合物を撹拌することなく室温で30分間放置した。続いて、この集合物全体を200℃のオーブンに導入し、このオーブンの温度を20分毎に10℃ずつ275℃にまで上昇させ、12時間にわたってこの値で保持し、続いて放置してゆっくりと冷却した。
熱処理中に形成された粉末を遠心分離によりイオン液体から分離し、10mLのジクロロメタンで3回洗浄し、次いでオーブン内において60℃で乾燥させた。
銅陰極で実施されたX線回折スペクトルの精密化(図11に示される)は、単一のLiFeSO4F相の存在を示しており、その格子定数は次の通りである:
三斜晶系、空間群:P−1(2)
a=5.1827(7)Å、b=5.4946(6)Å、c=7.2285(7)Å、
α=106.535(7)°、β=107.187(6)°、γ=97.876(5)°
V=182.95(4)Å3。
【0080】
例2と3の比較から、言及した前記第1のものが単一相を得ることを可能にし、対して第2のものが混合物を与える限りにおいて、硫酸塩一水和物を使用する方が硫酸塩七水和物を使用するよりも好都合であることが示される。
【0081】
例4
FeSO4・H2O及びLiFからLiFeSO4Fの合成
LiFeSO4Fの合成をイオノサーマル手段により280℃のオートクレーブ内で実施する。
3mLの1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI−TFSI)を含有するオートクレーブに、乳鉢において調製された0.85gのFeSO4・H2O及び0.149gのLiF(1/1.14モル比)の混合物を導入し、この混合物を30分間にわたって室温で磁気撹拌し、撹拌を停止し、続いて2mLのイオン液体(EMI−TFSI)を添加し、そして混合物を撹拌することなく室温で30分間放置した。オートクレーブをアルゴン下で密閉した後に、続いてこの集合物全体を200℃のオーブンに導入し、このオーブンの温度を20分毎に10℃ずつ280℃にまで上昇させ、48時間にわたってこの値で保持し、続いて放置してゆっくりと冷却した。
熱処理中に形成された粉末を遠心分離によりイオン液体から分離し、10mLのジクロロメタンで3回洗浄し、次いでオーブン内において60℃で乾燥させた。
得られた生成物は、白みがかった粉末の状態である。この例1の試料とはわずかに異なる色は、操作条件によっては、相が非化学両論性になる素質があることを示している。
銅陰極で実施されたX線回折スペクトルの精密化(図12に示される)は、単一のLiFeSO4F相の存在を示しており、その格子定数は次の通りである:
三斜晶系、空間群:P−1(2)
a=5.1782(4)Å、b=5.4972(4)Å、c=7.2252(4)Å、
α=106.537(4)°、β=107.221(4)°、γ=97.788(3)°
V=182.82(4)Å3。
【0082】
例5
1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート(トリフレート)中でのFeSO4・H2O及びLiFからLiFeSO4Fの合成
LiFeSO4Fの合成をイオノサーマル手段により270℃のオートクレーブ内で実施する。
3mLの1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート(トリフレート)を含有するオートクレーブに、乳鉢において調製された0.85gのFeSO4・H2O及び0.149gのLiF(1/1.14モル比)の混合物を導入し、この混合物を30分間にわたって室温で磁気撹拌し、撹拌を停止し、続いて2mLのイオン液体(EMI−Tf)を添加し、そして混合物を撹拌することなく室温で30分間放置した。オートクレーブをアルゴン下で密閉した後に、続いてこの集合物全体を200℃のオーブンに導入し、このオーブンの温度を20分毎に10℃ずつ270℃にまで上昇させ、48時間にわたってこの値で保持し、続いて放置してゆっくりと冷却した。
熱処理中に形成された粉末を遠心分離によりイオン液体から分離し、10mLのジクロロメタンで3回洗浄し、次いでオーブン内において60℃で乾燥させた。
コバルトカソードで実施されたX線回折スペクトルの精密化(図13に示される)から、LiFeSO4F相(約50重量%を占める)と、2つの「無水FeSO4」相との存在が示される。
相1:LiFeSO4F、三斜晶系、空間群P−1(2)
相2:斜方晶系、空間群Cmcm(63)
相3:斜方晶系、空間群Pbnm(62)
例4と5の比較から、言及した第1のものが単一相を得ることを可能にし、対して第2のものが混合物を与える限りにおいて、疎水性イオン液体を使用する方が親水性イオン液体を使用するよりも好都合であることが示される。
【0083】
例6
EMI−TFSI中でのCoSO4・H2O及びLiFからLiCoSO4Fの合成
使用したCoSO4・H2O先駆物質を、CoSO4・7H2Oから真空下において160℃で2時間にわたり加熱することによって製造した。
5mLの1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI−TFSI)を含有するPTFEフラスコに、乳鉢において調製された0.86gのCoSO4・H2O及び0.149gのLiF(1/1.13モル比)の混合物を導入し、この混合物を20分間にわたって室温で磁気撹拌し、そして撹拌を停止させた。続いて、このフラスコをアルゴン下で密閉し、そして、反応混合物を撹拌することなく室温で30分間保持した。続いて、この集合物全体を250℃のオーブンに導入し、このオーブンの温度を10分毎に5℃ずつ275℃にまで上昇させ、36時間にわたってこの値で保持し、続いて放置してゆっくりと冷却した。
熱処理中に形成された粉末を遠心分離によりイオン液体から分離し、10mLの酢酸エチルで3回洗浄し、次いでオーブン内において60℃で乾燥させた。
コバルトカソードで実施されたX線回折スペクトルの精密化(図14に示される)は単一のLiCoSO4F相の存在を示しており、その格子定数は次の通りである:
a=5.1719(6)Å、b=5.4192(6)Å、c=7.1818(7)Å、
α=106.811(7)°、β=107.771(7)°、γ=97.975(5)°
V=177.71(3)Å3。
【0084】
熱重量分析によって得られた曲線を図15に示している。これは、400℃から始まる重量の損失を示しているところ、これは、化合物LiCoSO4Fが分解することを実証するものである。したがって、高い温度を使用した固相での方法では得ることができない。
この事実を確認するために、この例で得られた生成物の試料を、米国特許出願公開第2005/0163699号のとおりに30分間にわたり空気中で加熱した。図16は温度の上昇の間におけるX線回折図の変化を示している。RTは室温を表す。矢印は、分解生成物に相当するピークが見出される領域を示す。このように、化合物は375℃で分解し始めるように思われる。下の曲線の右手にある「RT」の表示は「室温」を表す。
【0085】
例7
EMI−TFSI中でのNiSO4・H2O及びLiFからLiNiSO4Fの合成
先駆物質として使用したNiSO4・H2O一水和物をNiSO4・7H2Oから真空下において240℃で2時間にわたり加熱することによって製造した。
5mLの1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI−TFSI)を含有するPTFEフラスコに、乳鉢において調製された0.86gのNiSO4・H2O及び0.149gのLiF(1/1.13モル比)の混合物を導入し、この混合物を20分間にわたって室温で磁気撹拌し、そして撹拌を停止させた。続いて、このフラスコをアルゴン下で密閉し、そして、反応混合物を撹拌することなく室温で30分間保持した。続いて、この集合物全体を250℃のオーブンに導入し、オーブンの温度を285℃にまで2時間にわたって上昇させ、36時間にわたってこの値で保持し、続いて放置してゆっくりと冷却した。
熱処理中に形成された粉末を遠心分離によりイオン液体から分離し、10mLの酢酸エチルで3回洗浄し、次いでオーブン内において60℃で乾燥させた。
コバルトカソードで作製されたX線回折図(図17に示される)は、得られた化合物がLiFeSO4F又はLiCoSO4Fと同様の相を90.95%よりも多く含有することを示している。この相の格子定数は次の通りである:
三斜晶系、空間群:P−1(2)
a=5.173(1)Å、b=5.4209(5)Å、c=7.183(1)Å、
α=106.828(9)°、β=107.776(8)°、γ=97.923(8)°
V=177.85(5)Å3。
【0086】
熱重量分析によって得られた曲線を図18に示している。これは、380℃から始まる重量の損失を示しているところ、これは、化合物LiNiSO4Fが分解することを実証するものである。したがって、高い温度を使用した固相での方法では得ることができない。
この事実を確認するために、この例で得られた生成物の試料を、米国特許出願公開第2005/0163699号のとおりに30分間にわたり空気中で加熱した。図19は温度の上昇の間におけるX線回折図の変化を示している。矢印は、分解生成物に相当するピークが見出される領域を示す。このように、化合物は375℃で分解し始めるように思われる。下の曲線の右手にある「RT」の表示は「室温」を表す。
【0087】
例8
LiFe1-yMnySO4F固溶体
LiFe1-yMnySO4F化合物を、LiF及び先駆物質としてのFe1-yMnySO4・H2O固溶体から製造した。
【0088】
先駆物質の製造
1−yモルのFeSO4・7H2O及びyモルのMnSO4・H2O を、Fe(II)の酸化を防ぐために予めアルゴン下で脱気した2mLの水に溶解させて、続いて20mLのエタノールを添加した。エタノールの添加中に沈殿により形成された粉末を遠心分離によって回収し、20mLのエタノールで2回洗浄し、続いて真空下において200℃で1時間にわたり加熱した。
yの値を変えて、様々な試料を調製した。
これらの試料をX線回折で分析した。得られた「y=0.5」試料の回折図を図20に示している。これは、Fe0.5Mn0.5SO4・H2O固溶体であることを示しており、その格子定数は次の通りである:
三斜晶系、空間群:P−1(2)
a=5.2069Å、b=5.2056Å、c=7.6725Å、
α=107.7196°、β=107.4498°、γ=93.08°
V=186.56Å3。
【0089】
LiFe1-yMnySO4F固溶体の製造
合成を、様々な先駆物質の試料について、イオノサーマル手段により270℃のオートクレーブ内で実施する。
3mLの1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI−TFSI)を含有するオートクレーブに、乳鉢において調製された0.85gのFe0.5Mn0.5SO4・H2O及び0.149gのLiF(1/1.14モル比)の混合物を導入し、この混合物を20分間にわたって室温で磁気撹拌し、撹拌を停止し、続いて2mLのイオン液体(EMI−TFSI)を添加し、そして混合物を撹拌することなく室温で30分間放置した。オートクレーブをアルゴン下で密閉した後に、続いてこの集合物全体を200℃のオーブンに導入し、このオーブンの温度を20分毎に10℃ずつ270℃にまで上昇させ、そして48時間にわたってこの値で保持し、続いて放置してゆっくりと冷却した。
熱処理中に形成された粉末を遠心分離によりイオン液体から分離し、10mLのジクロロメタンで3回洗浄し、次いでオーブン内において60℃で乾燥させた。
X線回折から、低いy値(特にy<0.1)ではLiFe1-yMnySO4F固溶体が形成し、それよりも高いy値(特にy>0.25)については混合相が形成することを示している。
【0090】
例9
FeSO4・7H2O及びNaFからNaFeSO4Fの合成
5mLのEMI−TFSI及び2.808gのFeSO4・7H2Oの混合物を開放Parr(商標)ボンベ熱量計に導入し、そして230℃で加熱した。5時間加熱後、この混合物を室温にまで冷却し、続いて0.42gのNaFを添加してから、Parr(商標)ボンベ熱量計を密閉した。10分の磁気撹拌後、混合物を250℃で24時間加熱した。室温にまで冷却後、回収した粉末を20mLのアセトンで2回洗浄し、続いて60℃のオーブン内で乾燥させた。図21に示されるX線回折図は、空間群P21/Cを有する単斜晶系歪タボライト型構造を持つ新たな相の形成を示している。
これらの実施例では、FeSO4・H2O及びCoSO4・H2Oを、FeSO4・7H2O及びCoSO4・7H2Oをそれぞれ加熱し、そして一次真空を200℃で1時間にわたって加えることによって製造した。
【0091】
例10
LiFeSO4Fの合成
乳鉢において、0.850gのFeSO4・H2O一水和物と0.145gのLiFとを手作業で混合させた(化学両論量に対して10%のLiF過剰に相当する)。この粉末を10トンの負荷下でペレット化し、続いてこのペレットを、キャリアガスとしてアルゴンを使用したドライボックス内で組み立てられたParrボンベ熱量計を導入した。続いて、このボンベ熱量計をオーブン内に設置し、その温度を5時間にわたって280℃にし、そしてこの値を60時間にわたって保持した。続いて、このオーブンを急速に冷却し、ペレットを回収し、そして粉砕してXRDによりこれを特徴付けた。
XRD図を図22に示している。これは、得られた生成物が95%単一相生成物であることを示している。
【0092】
例11
FeSO4・H2O及びLiFからLiFeSO4Fの280℃での合成(内圧の影響)
FeSO4・H2O/LiF粉末の1/1.14モル比の混合物を製造し、そして1gの粉末混合物を10トンの負荷下で圧縮することによってペレットを調製した。このペレットを、キャリアガスとしてアルゴンを使用したドライボックス内で組み立てられたParrボンベ熱量計に導入した。続いて、Parrボンベ熱量計に次のスキームに従う熱処理を施した:250℃で1時間、260℃で1時間、270℃で1時間、280℃で60時間、ゆっくりと冷却。続いて、このオーブンを急速に冷却し、ペレットを回収し、そしてこれを粉砕してXRDにより特徴付けた(CuKα)。
この手順は、一方では25mLのParrボンベ熱量計で実施し、他方では50mLのParrボンベ熱量計で実施した。
XRD図を図23に示す。上の曲線25mLのParrボンベ熱量計での実施に相当し、下の曲線は50mLのParrボンベ熱量計での実施に相当する。これらの図は、*の表示で特定された線のLiFeSO4F相特性及び不純物の形成を示している。不純物のレベルは、25mLボンベ熱量計で最も低い。すなわち約5%である。
【0093】
例12
FeSO4・H2O及びLiFから出発するLiFeSO4Fの290℃での合成
0.850gのFeSO4・H2O及び0.2gのLiFの混合物を、SPEX−800ミルで10分間にわたり機械的に粉砕することによって製造し、続いて、この混合物を10トンの負荷下でペレット化し、そして得られたペレットをアルゴン下で密閉された25mLのParrボンベ熱量計内に設置した。続いて、次の熱処理を適用した:250℃で1時間、260℃で1時間、270℃で1時間、290℃で48時間、ゆっくりと冷却。続いて、このオーブンを急速に冷却し、ペレットを回収し、そしてこれを粉砕してXRDにより特徴付けた(CuKα)。図24は、XR回折図(左手の部分)及び走査電子顕微鏡写真(右手の部分)を示している。XRD図は、三斜格子で結晶化した、空間群P-1の純粋LiFeSO4F相の形成を示している。これは次の格子定数を有する:a=5.1865(11)(Å)、b=5.4863(9)(Å)、c=7.2326(12)(Å)、α=106.49(1)、β=107.153(9)、γ=97.888(8)、及び容積V=182.99(6)Å3。走査電子顕微鏡写真から、サイズが非常に様々な小さいナノスケール粒子の凝集体を示している(400nm〜800nm)。
【0094】
例13
NaFeSO4Fの合成
乳鉢において、0.850mgのFeSO4・H2O一水和物と24545mgのNaFとを手作業で混合させた(これは、化学両論量に対して10%のNaF過剰に相当する)。この粉末を10000psiの圧力下でペレット化させ、続いてこのペレットを、キャリアガスとしてアルゴンを使用したドライボックス内で組み立てられたParrボンベ熱量計に導入した。続いて、このボンベ熱量計をオーブン内に設置し、その温度を5時間にわたって290℃にし、そしてこの値を80時間にわたって保持した。続いて、このオーブンを急速に冷却し、ペレットを回収し、そして粉砕してXRDにより特徴付けを行った。XRD図を図25に示している。これは、得られた化合物がNaFeSO4Fであり、単斜晶系格子(空間群P21/c)に次のパラメーターで結晶化することを示している:a=6.6798(2)(Å)、b=8.7061(2)(Å)、c=7.19124(18)(Å)、b=113.517(2)(Å)及びV=383.473(Å3)。
【0095】
例14
NaCoSO4Fの合成
乳鉢において、0.855mgのCoSO4・H2O一水和物と245mgのNaFとを手作業で混合させた(これは、化学両論量に対して10%のNaF過剰に相当する)。この粉末を10000psiの圧力下でペレット化させ、続いてこのペレットを、キャリアガスとしてアルゴンを使用したドライボックス内で組み立てられたParrボンベ熱量計に導入した。続いて、このボンベ熱量計をオーブン内に設置し、この温度を5時間にわたって300℃にし、そしてこの値で1週間保持した。続いて、このオーブンを急速に冷却し、ペレットを回収し、そして粉砕してXRDにより特徴付けを行った。XRD図を図26に示している。これは、主としてNCoSO4F相が存在することを示しており、これは空間群P21/cで次の格子定数で結晶化する:a=6.645(2)Å、b=8.825(2)Å、c=7.162(2)Å、β=112.73(3)及びV=387.38(3)Å3。
【0096】
例15
FeSO4Fの製造
この化合物を、アセトニトリル中においてLiFeSO4FをNO2OF4により室温で化学的脱リチオ化することによって製造した。図27に示されるX線回折スペクトルは、この化合物が結晶化して格子になることを示している。そのパラメーターは次の通りである:
三斜晶系、空間群:P−1(2)
A=5.0682Å、b=5.0649Å、c=7.255Å
α=69.36°、β=68.80°、γ=88.16°
V=161.52Å3。
【0097】
例18
電気化学的試験
例3に従って製造された化合物LiFeSO4Fの試料を、電極がリチウムホイルであり、2個の電極が1/1炭酸エチレン/炭酸ジメチルEC−DMC混合物へのLiPF6の1M溶液が浸漬したポリプロピレンセパレータによって隔離されたスウェージロックセルの正極材料として試験した。正極を製造するために、80mgのLiFeSO4F(1μmの平均直径を有する粒子の状態)及び20mgの炭素をSPEX1800ミルで15分間にわたり機械的に破砕することにより混合させた。1cm2当たり8mgのLiFeSO4Fに相当する量の混合物をアルミニウム電流コレクタに適用した。
図28aでは、主要な曲線は、C/10レジームでのセルのサイクル中における、リチウムの挿入速度に応じた電位変化を示しており、差し込みは、C/10レジームでのサイクルの連続中におけるセルの容量変化を示している。Nはサイクル数である。
図28bは、C/2レジームでのセルのサイクル中における、リチウムの挿入速度に応じた電位変化を示している。
図28cは、サイクルレジームRに応じたセルの容量変化を示している。
このように、容量はC/2レジームでは90%にとどまり、C/10レジームでは67%にとどまることが分かる。
【0098】
例19
電気化学的試験
例12に従って製造されたLiFeSO4F試料を電気化学的試験に付した。LiFeSO4F(セラミック)/炭素(アセチレンブラック)複合材料(85/15の重量割合)をSPEX(商標)ミルで15分間にわたり機械的粉砕により製造した。この複合材料をアルミニウム電流コレクタに適用し、そして、負のアノードがリチウムホイルであり、電解質が市販のLP30型電解質であるセルに取り付けた。このようにして得られたセルを、C/5レジーム(5時間にわたり1電子交換)下において電位窓[2.5V〜4.5V]で循環させた。電気化学的試験の結果を図29に示しており、そこでは、左手の曲線は、フルオロ硫酸塩におけるリチウムイオン含有量に応じた電位変化を示しており、右手の曲線は、サイクル数に応じた容量変化を示している。材料の電気化学的活性は3.6Vの近くに中心があり、可逆容量は約80mAh/gである(少なくとも最初の5サイクルでは安定である)と思われる。
【0099】
例20
電気化学的試験
例13に従って製造したNaFeSO4F試料を例19の条件下で試験した。サイクル曲線を図30に示している。これは、材料がイオン液体媒体中で製造された対応する材料と同様の電気化学的活性を有することを示している。特に、Liに対する相の反応性は、製造方法にかかわらず、式単位当たり0.2のLiに制限される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極活物質として使用することのできる弗素化材料に関するものであり、また、その製造方法に関するものでもある。
【背景技術】
【0002】
従来技術
正極操作の基礎として、純粋な状態で又はニッケルとマンガンとアルミニウムとの固溶体の状態で使用されるLixCoO2(0.4=x=1)などの挿入化合物を使用するリチウム電池が知られている。このタイプの電気化学を一般化するにあたっての主要な障害は、コバルトの希少性と、遷移金属酸化物の過剰な陽電位であり、その結果として電池に対する安全性の問題である。
【0003】
また、LixTMmZyP1-sSisO4化合物(「オキシアニオン」)(式中、TMはFe、M及びCoから選択され、Zは、1〜5の原子価を有し、かつ、遷移金属又はリチウムの部位に置換され得る1個以上の元素を表す。)も知られている。これらの化合物は、リチウムのみを交換し、しかも、非常に低い電子伝導率及びイオン伝導率しか有さない。これらの障害は、非常に細かい粒子(例えばナノ粒子)を使用し、かつ、有機化合物の熱分解により炭素被覆を付着させることによって克服できるかもしれない。ナノ粒子を使用することに関連する欠点は、比エネルギーの損失をもたらす低いタップ密度であり、そしてこの問題は、炭素の付着によりさらに深刻化する。さらに、炭素の付着は、還元性条件下において高温で起こる。実際に、FeII及びMnII以外の遷移元素を使用することは困難であり、CoII及びNiII元素は、金属状態に容易に還元される。同じことが、イオン伝導率又は電子伝導率を増大させるための有利なドーパントであるFeIII、MnIII、CrIII、VIII及びVIVについても言える。
【0004】
一般式:AaMb(SO4)cZd(式中、Aは少なくとも1種のアルカリ金属を表し、ZはF及びOHから選択される少なくとも1種の元素を表し、Mは、少なくとも1種の2価又は3価の金属陽イオンを表す。)に相当する他の化合物も提案されている。L.Sebastian外,[J.Mater.Chem.2002,374−377]には、セラミック手段によりLiMgSO4Fを製造することが記載され、また、タボライトLiFeOHPO4の構造と同型である該化合物の結晶構造も記載されている。著者は、この化合物の高いイオン伝導について言及し、そして同型構造と考えられる化合物LiMSO4F(MはFe、Co又はNiである。)が、MII/MIII酸化状態に伴って生じるリチウムのレドックス挿入/引き抜きにとって重要であると思われることを示唆している。また、この著者は、Fe、Ni又はCoの化合物をセラミック手段により製造することが進行中であることも明示しているが、その後、これらの化合物に関する文献は出されていない。
【0005】
さらに、米国特許出願公開第2005/0163699号には、セラミック手段により前記化合物AaMb(SO4)cZdを製造することが記載されている。その技術は、MがNi、Fe、Co、Mn、(MnMg)、(FeZn)又は(FeCo)である化合物に関する具体例により例示されている。これらの化合物は、LiF(Liの先駆物質)及びM元素の硫酸塩からセラミック手段により製造される。これらの化合物のうち、最も有利なものは、Feを含有する化合物である。というのは、これらの化合物はコストが比較的低いことのみならず、構造及び化学的性質(特に結合のイオン共有性)の考察に基づき、大量用途のための確実な使用を確保するのに望ましい所定の範囲の電位よりも有利な電気化学的特性を有することができるからである。誘電作用のため、その表面は、その構造にかかわらず、ホスフェートからの高い電位を有するはずである。様々な金属元素を含有する化合物の製造例が記載されているが、電気化学的特性については報告されていない。例えば、例2には、LiFeSO4F化合物を、セラミック方法により、不均一化合物を与える600℃で、次いで、該化合物が赤/黒になる500℃で、又は該化合物が赤色になる空気中400℃で製造することが記載されている。この方法は、酸素の不存在下で、SO42-+Fe2+→SO2+2O2-,2Fe3+に従ってSO42-基をFe2+により還元させることができる。上記様々な温度で得られた化合物において観察される赤色は、酸化物Fe2O3などの結晶格子におけるO2+/Fe3+会合によるものである。さらに、FeIIの化合物は、空気中において200℃で酸化してFeIIIとなること、及び空気中400℃での例2による製造によりこれが確認されることも知られている。そのため、米国特許出願公開第2005/0163699号に従いLiF及び硫酸鉄から出発してセラミック手段により製造される鉄を含有する化合物はLiFeSO4Fからなるものではない。同様に、MがCo、Niである化合物は、推奨されたセラミック手段による製造の間において使用される温度では安定でないように思われる。したがって、米国特許出願公開第2005/0163699号に記載された化合物が実際に得られたとは考えにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0163699号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】L.Sebastian外,J.Mater.Chem.2002,374−377
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明
本発明の目的は、理論容量に近い改善された電気化学的活性を有する新規な電極材料(すなわち弗素化オキシアニオン単位当たり1個のアルカリ金属イオンを挿入することのできる材料)を提供すること、また、該材料を確実で、迅速で、しかも経済的な方法で製造することを可能にする方法も提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の材料は、歪タボライト型構造を有し、かつ、次式(I)に相当するフルオロ硫酸塩の粒子からなる:
(A1-aA’a)x(Z1-bZ’b)z(SO4)sFf(I)
式中:
・AはLi又はNaを表し;
・A’は原子価又は少なくとも1個のドーパント元素を表し;
・ZはFe、Co及びNiから選択される少なくとも1個の元素を表し;
・Z’は原子価又は少なくとも1個のドーパント元素を表し;
・指数a、b、x、z、s及びfは、該化合物の電気的中性を確保するように選択され、そして、a≧0、b≧0、x≧0、z>0、s>0、f>0であり;
・ドーパントA及びZ'の各量a及びbは、該タボライト型構造を維持する量である。
【0010】
タボライト構造は、中心のZに頂点の弗素が結合し、c軸に沿って鎖を形成するZO4F2八面体を含む。この八面体は全てトランス位にF原子を有するが、ただし、これらは2つの異なる型に分類される。鎖は、分離したSO4四面体により互いに結合し、それによって三次元構造が創り出され、[100]、[010]及び[101]軸に沿ってトンネルが画定され、化合物(I)のA1-aA’a元素は、該トンネルにとどまる(3D拡散)。
【0011】
AがLiの場合には、化合物(I)の歪タボライト型構造は、空間群P−1の三斜格子を有する。AがNaの場合には、化合物(I)の歪タボライト型構造は単斜晶系格子(P21/C)を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、三斜格子を有する歪タボライト型構造の略図である。
【図2】図2は、単斜晶系格子を有する歪タボライト型構造の略図である。
【図3】図3は、左の三斜格子と右の単斜晶系格子との比較図である。
【図4】図4は、例1からのLiFeSO4F材料についてのSEMにより得られた画像を示す。
【図5a】図5aは、例1からのLiFeSO4F材料についてのTEM画像、特に対応するSAED図を示す。
【図5b】図5bは、Fの存在を示すEDSスペクトルを示している。強度は、x軸のエネルギーE(keVで表す)の関数としてy軸(任意単位)に与えている。
【図6】図6は、X線回折図と、差込として、例1からのLiFeSO4F材料の構造とを示している。
【図7】図7は、例1からのLiFeSO4F材料の質量分析と共同したTGAによるキャラクタリゼーションの間に得られた図を示している。
【図8】図8は、LiFeSO4Fの試料についての、温度の上昇の間におけるX線回折図の変化を示している。
【図9a】図9aはFeSO4+LiF混合物についてのX線回折図を示す。
【図9b】図9bは、熱処理後に得られた材料についてのX線回折図を示す。
【図10】図10は、例2から得られたLiFeSO4F材料のX線回折図を示す。
【図11】図11は、例3から得られたLiFeSO4F材料のX線回折図を示す。
【図12】図12は、例4から得られたLiFeSO4F材料のX線回折図を示す。
【図13】図13は、例5から得られたLiFeSO4F材料のX線回折図を示す。
【図14】図14は、例6からのLiCoSO4材料のTGAによるキャラクタリゼーションの間に得られたX線回折図を示す。
【図15】図15は、例6からのLiCoSO4材料のTGAによるキャラクタリゼーションの間に得られた線図を示す。
【図16】図16は、LiCoSO4の試料についての、温度の上昇の間におけるX線回折図の変化を示す。
【図17】図17は、例7からのLiNiSO4F材料のTGAによるキャラクタリゼーションの間に得られたX線回折図及び線図を示す。
【図18】図18は、例7からのLiNiSO4F材料のTGAによるキャラクタリゼーションの間に得られたX線回折図及び線図を示す。
【図19】図19は、LiNiSO4Fの試料についての、温度の上昇の間におけるX線回折図の変化を示す。
【図20】図20は、例8からのFe0.5Mn0.5SO4・H2O材料のX線回折図を示す。
【図21】図21は、例9からのNaFeSO4F材料のX線回折図を示す。
【図22】図22は、例10で得られたLiFeSO4F材料のX線回折図を示す。
【図23】図23は、例11で得られたLiFeSO4F材料のX線回折図を示す。
【図24】図24は、左に、例12で得られたLiFeSO4F材料のX線回折図、右に、該材料のSEM顕微鏡写真を示す。
【図25】図25は、例13からのNaFeSO4F材料のX線回折図を示す。
【図26】図26は、例14からのNaCoSO4F材料のX線回折図を示す。
【図27】図27は、例15からのFeSO4F材料のX線回折図を示す。
【図28a】図28aは、例3に従って製造されたLiFeSO4Fのいくつかの試料に関連する。図28aは、リチウムの挿入速度xの関数としての電位の変化(Vで表す)及び(差込として)C/10レジームでのサイクル数Nの関数としての容量Cの変化(mAh/gで表す)を示す。
【図28b】図28bは、C/2レジームでのリチウムの挿入速度xの関数としての電位の変化(Vで表す)。
【図28c】図28cは、レジームRの関数としての容量の変化を示す。
【図29】図29は、例12からのLiFeSO4材料についての、リチウムの挿入速度(左手の曲線)の関数としての電位の変化P(Vで表す)及びサイクル数Nの関数(右手の曲線)としての容量Cの変化(mAh/gで表す)を示す。
【図30】図30は、例13からのNaFeSO4F材料についての、リチウムの挿入速度の関数としての電位の変化P(Vで表す)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
全てのX線回折図において、強度I(任意単位で表す)をy軸に与え、波長2θをx軸上に与えている。
【0014】
TGA図において、TG(%)は、温度T(℃)に応じた重量損失を示し、随意に、DSCは、(mW)で表すエネルギー量を示す。
【0015】
本発明に従う化合物は粒状であり、その寸法は、100μm未満、又はさらに100nm未満である。
【0016】
A'がドーパント元素である場合に、A’は、Aとは異なるアルカリ金属、アルカリ土類金属又は3d金属、特にTi、V、Cr、Mn、Fe、Mn、Co又はCuであることができる。一般に、ドーパントA'の「a」含有量は、好ましくは0.25%未満、すなわちa<0.25である。
【0017】
Z’がドーパント元素である場合には、Z’はアルカリ金属、Mn、Mg、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Zn、Al、Ga、Sn、Zr、Nb及びTaから、それらの酸化度の少なくとも一つの状態で選択される金属であることができる。一般に、ドーパントZ'の「b」含有量は、好ましくは25%未満、すなわちb<0.25である。特に有利なZ’ドーパントはMn、Mg、Zn、Ti及びAlである。
【0018】
特に好ましい本発明に従う化合物は、次式:Li(Z1-bZ’b)SO4F及びNa(Z1-bZ’b)zSO4Fに相当するもの、特にLiFeSO4F、LiCoSO4F、LiNiSO4F及びそれらの固溶体、NaFeSO4F、NaCoSO4F、NaNiSO4F及びそれらの固溶体のみならず、固溶体のLi(Z1-bMnb)SO4F及びNa(Z1-bMnb)SO4F(式中、ZはFe、Co又はNiであり、b≦0.2である。)である。
【0019】
化合物(I)の特定のカテゴリーの一つは、(Z1-bZ’b)基が2個以上の元素を示す化合物を含む。これらは、ZがFe、Co及びNiから選択される2個以上の元素を示す化合物、また、b≠0の化合物である(この2つの場合を組み合わせてもよい)。
【0020】
x=0の化合物(I)、すなわち式(Z1-bZ’b)z(SO4)sFfの化合物、特に化合物ZSO4F、特にFeSO4Fが有利である。というのは、これは、リチウムアノード及び液体又はゲルタイプの電解質により帯電状態の第一電気化学的発電装置、又は特に高分子電解質により第二発電装置を構築することを可能にするからである。
【0021】
x>0である本発明に従う材料(I)は、セラミック手段により又はイオノサーマル手段によりこれを形成する元素の先駆体から得られ得る。
【0022】
A又はA'の先駆体は、無機酸塩(炭酸塩及び炭酸水素塩、水酸化物、過酸化物及び硝酸塩など)、揮発性有機酸塩(酢酸塩及び蟻酸塩など)、熱分解性酸塩(蓚酸塩、マロン酸塩及びクエン酸塩など)、弗化物及び硫酸塩から選択できる。このような先駆物質のなかでは、Li2CO3、LiHCO3、LiOH、Li2O、Li2O2、LiNO3、LiCH3CO2、LiCHO2、Li2C2O4、Li3C6H5O7、Na2CO3、NaOH、Na2O2、NaNO3、NaCH3CO2、NaCHO2、Na2C2O4、Na3C6H5O7及びそれらの水和物が特に好ましい。弗化物及び硫酸塩などの、最終生成物の少なくとも2種の成分を与えるLi又はNaの先駆物質が特に好ましく、特に水和された状態のLiF、NaF、LiHSO4並び硫酸塩Li2SO4、Na2SO4及びNaHSO4が好ましい。
【0023】
Z又はZ’元素の先駆物質は、好ましくは、タボライト型構造を有し、かつ、化合物(I)のタボライト型構造を得ることを可能にするであろうZ又はZ’の硫酸塩から選択される。
【0024】
A、A'、Z又はZ'の先駆物質が任意のF又はS元素を与えない場合、或いは製造される化合物(I)の化学両論に対して不十分な量しか与えない場合には、単に1種の又は数種のF又はS元素を与える先駆物質を添加することが可能である。
【0025】
オキシアニオンSO42-の先駆物質は、酸H2SO4及びその熱不安定性アンモニウム、アミン、イミダゾール又はピリミジン塩、例えば、NH4HSO4、(NH4)2SO4、(C3H5)HSO4、(C5H6)2SO4及び(C3H5)2SO4、(C5H6)HSO4から選択できる。
【0026】
また、Sの先駆物質は、Mg又はCaの塩からも選択できる。例えば、次の化合物:A”(HSO4)2及びA”SO4、A”HPO4及びA”2P2O7、A”(PO3)2(式中、A”はアルカリ土類金属(Mg、Ca)を表す)が挙げられる。
【0027】
弗化物イオン先駆物質は、弗化アンモニウム(NH4F・nHF)、弗化イミダゾリウム(C3H5N2F・nHF)又は弗化ピリジニウム(C5H6NF・nHF)0=n=5から選択できる。勿論、同じ成分のために数種の先駆物質を使用することが可能である。
【0028】
好ましい一実施形態では、Zの先駆物質及び、必要に応じてZ’の先駆物質は、Z及び/又はZ’元素の硫酸塩から選択される。Aの先駆物質及び、必要に応じて、A’の先駆物質は、A及び/又はA’元素の弗化物から選択される。好ましくは、水和物の形態、特に一水和物の形態の硫酸塩が使用される。驚くべきことに、歪タボライト型構造を有する硫酸塩一水和物先駆物質を使用すると、弗化物との反応の間に歪タボライト型構造を事実上保持することが可能になることが観察された。
【0029】
その反応は、ZSO4・H2Oと対応するLi及びNa相との構造的関係のため、構造骨組においてSO4四面体及びZO4F2八面体の一般配置を維持することに基づいてトポタクチックである。
【0030】
一水和ZSO4・H2Oは、150℃〜450℃の温度(例えば200℃)で真空下において加熱するか、又はイオン液体中で加熱する(例えばEMI−TFSI中において270℃で2時間)かのいずれかによって、ZSO4・7H2Oから得られ得る。
【0031】
(Z1-bZ’b)基が2個以上の元素を示す化合物(I)は、好ましくは、Z及びZ'の先駆物質として、硫酸塩の固溶体、好ましくは水和状態の硫酸塩固溶体を使用することによって製造される。
【0032】
特定の一実施形態では、Fe1−bZ’bSO4・H2O先駆物質を製造することを目的とする方法は次の工程を含む:
・1−bモルのFeSO4・nH2O及びbモルのZ’SO4・nH2Oをアルゴン又は窒素で予め脱気した水に溶解させてFe(II)、b≦0.25及びn≦7の酸化を防ぎ;
・アルコール(例えばエタノール又はイソプロパノール)を添加してFe1-bZ’bSO4・nH2Oを沈殿させ;
・形成された粉末を回収し(例えば遠心分離により);そして
・アルコールで洗浄し、次いで、真空下において150〜250℃の温度(例えば200℃)で1時間加熱する。
【0033】
ZがFe及びCo又はFe及びNiを表す先駆物質の製造は、Z’SO4・nH2O(つまりbは1未満)のためにCoSO4・nH2O又はNiSO4・nH2Oを選択することによって、同じ方法で実施できる。
【0034】
本発明の化合物は、イオノサーマル手段により330℃未満の温度での合成方法で得ることができる。
【0035】
イオノサーマル手段による方法は次の工程を含む:
(i)該先駆物質を、陽イオン及び陰イオンからなる少なくとも1種のイオン液体であってその電荷がバランスしているものを含む支持液体に分散させて、該先駆物質の該液体への懸濁液を得;
(ii)該懸濁液を25〜330℃の温度に加熱し;
(iii)該イオン液体と、該先駆物質間の反応により得られた式(I)の無機酸化物とを分離すること。
【0036】
硫酸塩一水和物先駆物質は、予備工程の間に、前もって又はイオン液体中においてその場で製造できる。
【0037】
表現「イオン液体」とは、陰イオン及び陽イオンのみを含有する、電荷がバランスした化合物であって、本発明の化合物の形成反応温度では液体のものであり、当該液体そのもの又は他の添加剤との混合物を意味するものと解する。
【0038】
工程(i)においてイオン液体に存在する先駆物質の量は、好ましくは0.01重量%〜85重量%、より好ましくは5〜60重量%である。
【0039】
各種先駆物質のそれぞれの量は、製造される化合物(I)の化学両論性による。それらの反応は化学量論的であるから、それらを決定することは当業者の知識の範囲内にある。好ましくは、過剰の弗化物、好ましくはおよそ5〜25%の弗化物を使用する。
【0040】
本発明の好ましい一実施形態によれば、イオン液体の陽イオンは、次式の陽イオンから選択される:
【表1】
式中:
・R4〜R7、R17、R27、R24、R28、R29、R37、R34、R39、R43及びR46〜R57基は、それぞれ独立に、C1−C24アルキル、C1−C24アリールアルキル又は(C1−C24)アルキルアリール基を表し;
・R8−R16基はR4について与えた意味を有し、或いは、それぞれ(C1−C20)アルキルアリール基又はNR63R64基を表し;
・R18〜R22、R23、R25、R26、R30〜R33、R35、R36、R38、R40〜R42、R44及びR45基は、水素原子、C1−C24アルキル、アリール又はC1−C24オキサアルキル基又は−[(CH)2]nQ基(ここで、Qは、−OH、−CN、−C(=O)OR58、−C(=O)NR59R60、−NR61R62、−CH(OH)CH2OH又は1−イミダゾイル、3−イミダゾイル若しくは4−イミダゾイル基を表し、0≦n≦12である。)を表し;
・R58〜R64は、互いに独立して、水素原子、C1−C20アルキル、アリール又はC1−C20オキサアルキル基を表す。
【0041】
特に好ましいのは、R23=H又はCH3、R24=CH3、R25=R26=H、及びR27=C2H5、C3H7、C4H9、C5H11、C6H13、C8H17、(CH2)3OH、(CH2)3CN、(CH2)4OH、又は(CH2)4CNであるイミダゾリウム陽イオンと、R23=H又はCH3、R24=C4H9、R25=R26=H、R27=(CH2)2OH、(CH2)2CN、(CH2)3OH、(CH2)3CN、(CH2)4OH、(CH2)4CN又はCH2CH(OH)CH2OHであるイミダゾリウム陽イオンとである。
【0042】
イオン液体の陰イオンは、好ましくはCl、Br、I、RSO3-、ROSO3-、[RPO2]-、[R(R’O)PO2]-、[(RO)2PO2]-、BF4-、RfBF3-、PF6-、RfPF5-、(Rf)2PF4-、(Rf)3PF3-、RfCO2-、RfSO3-、[(RfSO2)2N]-、[(RfSO2)2CH]-、[(RfSO2)2C(CN)]-、[RfSO2C(CN)2]-、[(RfSO2)3C]-、N(CN)2-、C(CN)3-、[(C2O4)2B]-から選択され、式中:
・R及びR’は、同一のもの又は異なるものであり、それぞれC1−C24アルキル、アリール又は(C1−C24)アルキルアリール基を表し;
・Rfは、CnF2n+1(0=n=8)、CF3OCF2、HCF2CF2及びC6F5から選択されるフルオロ基である。
【0043】
イオン液体の陽イオンがイミダゾリウム陽イオンの場合には、イミダゾリウム陽イオンのC2炭素を、好ましくは1〜4個の炭素原子を有するアルキル基によって保護することが望ましい。というのは、A成分の先駆物質は弗化物だからである。そうしなければ、C2炭素によって保持される酸のプロトンがイオン液体の陽イオンの分解をもたらすであろう。
【0044】
疎水性の高いイオン液体は、Aの先駆物質(AF)と水和ZSO4先駆物質との反応に好都合である。これは、開放反応器で合成を実施することを可能にする。親水性イオン液体はさほど好都合ではなく、減圧の密閉反応器内で合成を実施する必要がある。
【0045】
1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート(BMI−トリフレート)、及び1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI−TFSI)が特に好ましい。BMI−トリフレートよりも疎水性のEMI−TFSIが特に好ましい。
【0046】
本発明の好ましい一実施形態によれば、工程(ii)において懸濁液を加熱するための温度は、100℃〜330℃、さらに好ましくは150〜280℃である。
【0047】
この加熱工程(ii)は、好ましくは不活性雰囲気下において大気圧で実施される。実際に、本発明に従う方法の主な利点の一つは、イオン液体が揮発しないため、与圧室を必要としないことである。
【0048】
この加熱は、様々な手段、特にオーブン内での加熱やマイクロ波加熱により実施できる。これは、イオン液体及び化合物(I)の先駆物質が流れる加熱室内において、反応を完了させることのできる滞留時間で連続的に実施できる。
【0049】
加熱工程(ii)の所要時間は、一般に、10分〜200時間、好ましくは3〜48時間である。
【0050】
工程(iii)における化合物(I)の分離は、例えば、溶剤によるイオン液体の抽出や遠心分離、及びアルコール、ニトリル、ケトン又は1〜6個の炭素原子を有するクロロアルカンによる、見込まれる副生成物の除去などの、当業者に知られている任意の技術によって実施できる.
【0051】
合成の終了時に、化合物(I)を、例えばアセトン、アセトニトリル又は酢酸エチルなどの有機溶媒で洗浄し、続いてさらに精製することなく使用することができる。
【0052】
同様に、合成の終了時に、イオン液体を回収し、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、メチルエチルケトン、ペンタノン、酢酸エチル及び蟻酸エチル含めたエステルで随意に希釈し、そして、好ましくは水及び/又は酸溶液、例えば、塩酸、硫酸又はスルファミン酸の水溶液などの酸溶液で洗浄することができる。洗浄及び乾燥(例えばRotavapor(商標)を使用)後に又は予備真空下で、イオン液体は新たな合成のために使用できるが、これは、経済的な観点から非常に好都合である。
【0053】
セラミック手段により物質(I)を製造する方法は、イオノサーマル手段による方法と同じ先駆物質を使用する。これは、先駆物質の粉末を接触させ、そしてこの混合物を熱処理することからなる。これは、次のことを特徴とする:
・SO4、Z及び必要に応じてZ’成分を、水和硫酸塩の形態での単一の先駆物質によって与え;
・F、A及び必要に応じてA'成分をそれぞれ弗化物によって与え;
・熱処理を密閉反応器内で実施する。
【0054】
この硫酸塩水和物は、好ましくは(Z1−bZ’b)SO4・H2O先駆物質一水和物の形態である。
【0055】
先駆物質は、化学両論量、或いは弗化物過剰、好ましくはおよそ5〜25%で使用される。
【0056】
粉末の混合物は、好ましくは反応器に導入する前に圧縮によりペレット化される。
【0057】
熱処理は、反応器の容量(例えばスチール製又は石英製)及び先駆物質の反応器への導入量に依存する温度及び圧力条件下で実施される。タボライト相と寄生相との割合は、「処理された先駆物質/密閉反応器の容量」比による。閉じ込めが高い方が単一のタボライト相の生成に好都合である。各特定の相に好適な条件を決定することは、当業者の通常の知識内にある。
【0058】
x=0である本発明に従う材料(I)、例えば化合物FeSO4Fは、NO2BF4又は(CF3CO2)2ICC6H5の存在下でLiFeSO4Fを電気化学的酸化又は化学酸化することによって得られ得る。これは、次の格子定数:a=5.0683(7)(Å)、b=5.0649(19)(Å)、c=7.2552(19)(Å)、α=69.36(3)、β=68.80(3)、γ=88.16(2)及びV=161.52(8)(Å3)の三斜構造、空間群P−1を有する。
【0059】
化合物(I)は、それを形成する成分に応じて様々な用途に使用できる。例えば、本発明の化合物(I)は、電池及びエレクトロクロミック装置における電極の製造用の活物質、セラミック、情報を保存するための磁性材料又は顔料として、或いは従来使用されているTiO2を用いて得られるよりも結果が良好光吸収材料として太陽電池に使用できる。
【0060】
本発明に従う化合物を電極材料として使用する場合に、この電極は、電流コレクタに、本発明の化合物及び炭素を含む混合物を手作業による粉砕又は機械粉砕により(例えばSPEX 1800ミルを使用した約10分間にわたる粉砕により)混合させることによって得られた複合材料を付着させることによって製造できる。「化合物(I)+炭素」複合材料に対する化合物(I)の重量%は、50〜99%、特に80〜95%であることができる。
【0061】
また、電極を製造するために使用される複合材料は、追加の化合物を含有することもでき、化合物(I)/追加の化合物重量比は5%を超える。この追加の化合物は、例えば、MがFe、Co及びNi元素の少なくとも一つを表すLiMPO4物質、又はLiCoO2若しくはLiNiO2酸化物などのかんらん石構造を有する材料であることができる。
【0062】
電流コレクタ上に付着する物質の量は、好ましくは本発明に従う化合物の量が0.1〜200、好ましくは1〜50mg/cm2というものである。電流コレクタは、アルミニウム、チタン、グラファイトペーパー又はステンレススチールのグリッド又はシートからなる。
【0063】
本発明に従う電極は、電解質によって隔離された正極及び負極を備える電気化学セルに使用できる。本発明に従う電極は正極となる。
【0064】
負極は、金属リチウム若しくは合金の1種、又は酸化リチウムのナノスケール分散体を形成する遷移金属酸化物、又はリチウム及び遷移金属の二重窒化物からなることができる。また、負極は、1.6V未満の電位でLi+イオンを可逆的に挿入することのできる材料からなることもできる。このような材料の例としては、一般式Li1+y+x/3Ti2-x/3O4(0≦x≦1、0≦y≦1)、Li4+x'Ti5O12(0≦x’≦3)を有する低電位酸化物、炭素及び有機物質の熱分解により生じた炭素系生成物、またジカルボキシレートも挙げられる。
【0065】
電解質は、極性非プロトン性液体溶媒、液体溶媒若しくはイオン液体によって可塑化されていてよい溶媒和性重合体又は溶媒和性重合体若しくは非溶媒和性重合体の添加によってゲル化された液体溶媒からなるゲルへの溶液の状態の少なくとも1種のリチウム塩又はナトリウム塩を含むことが有益である。
【0066】
本発明を次の例示的実施形態により例示するが、これは限定ではない。
【0067】
特に言及しない限り、FeSO4・H2Oは、FeSO4・7H2Oから減圧下において200℃で加熱することにより、或いはFeSO4・7H2OをEMI−TFSIイオン液体中において250℃で2時間加熱することによって製造した。
【実施例】
【0068】
例1
予備工程において、FeSO4・7H2OをEMI−TFSI中において250℃で10時間、続いて280℃で24時間熱処理した。形成されたFeSO4・H2O一水和物を遠心分離により回収し、酢酸エチルで洗浄し、次いで真空下において100℃で乾燥させる。
乳鉢において、このようにして得られた0.85gのFeSO4・H2Oと0.148gのLiF(1/1.14モル比)とを混合し、そしてこの混合物をParr(商標)ボンベ熱量計に導入し、5mLのエチルメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI−TFSI)を添加した。この混合物を室温で20分間撹拌し、沈降するまで2時間放置し、次いで、開放ボンベ熱量計内において撹拌することなく2時間にわたり300℃で加熱した。
この反応混合物を室温にまで冷却した後に、得られた粉末を遠心分離により分離し、20mLのジクロロメタンで3回洗浄し、次いでオーブン内において60℃で乾燥させた。
得られた生成物は、淡緑色の粉末の状態である。これについて様々な分析を行った。
【0069】
SEM分析
図4はSEMによって得られた画像を示し、粉末がミクロンサイズの粒子からなる凝集体の状態であることを示している。
【0070】
TEM分析
図5aはTEM画像、特に対応するSAED図を示し、また、これは粒子が多数の晶子からなることを示している。図5bはFの存在を示すEDSスペクトルを示している。強度は、x軸のエネルギーE(keVで表す)の関数としてy軸(任意単位)に与えている。
【0071】
X線回折
図6はX線回折図を示しており、差込の形で、得られた化合物の構造を示している。この構造は、独立のFeO4F2八面体(「2」で表す)、Li+イオン(「3」で表す)が見出されるトンネルを有するSO4四面体(「1」で表す)を有する。
【0072】
熱重量分析(TGA)
図7は、質量分析と一体になったTGAによる化合物のキャラクタリゼーションの間に得られた図を示している。上の曲線(−1.14%、0.07%などと明示されている)はTGA分析に相当し、中程の曲線(458.5℃及び507.4℃と表示されている)は、示差走査熱量測定(DSC)に相当し、下の曲線(m48及びm64と表示されている)は質量分析に相当する。これらの曲線は、23.41%の重量損失が400℃〜700℃で生じ、これがSO2の脱離(これは、質量分析計での電子衝撃下で、SOに部分的に断片化する)に相当することを示している。350℃よりも高い温度についてのTGA及びDSC曲線の不規則性は、化合物の熱不安定化の開始を示している。
【0073】
このように、DSC及びTGA分析は、米国特許出願公開第2005/0163699号に記載されるように400℃を超える温度で実施されるセラミック手段による方法ではLiFeSO4Fを得ることは可能ではないことを示している。
【0074】
この事実を確認するために、この例で得られた生成物の試料を、米国特許出願公開第2005/0163699号のとおりに30分間にわたり空気中で加熱した。図8は温度の上昇の間におけるX線回折図の変化を示している。RTは室温を表す。500℃で見られる線はこの温度で存在する化合物に起因するものであり、JCPDSファイルの番号を基準にして、次のとおりに特定される物質に相当する:
* Fe2O3(79−1741)
| Fe2O3(25−1402)
↓ Li2SO4(32−064)+FeF3.3H2O(32−0464)
・ LiHSO4(31−0721)
【0075】
比較例1
無水FeSO4及びLiFの等モル混合物を製造し、そしてこれを空気中において450℃で15分間加熱した。
図9は、出発反応体の混合物についてのX線回折図(図9a)及び450℃で15分間の熱処理後に得られた生成物についてのX線回折図(図9b)を示す。それぞれFeSO4及びLiFに相当するピークが図9aで見られるのに対し、図9bは、それぞれLiF、Li2SO4、Fe2O3及びLi2S2O7に相当するピークを示している。
この例は、Fe及びSの先駆物質と、Fの先駆物質との混合物をセラミック手段により処理しても、米国特許出願公開第2005/0163699号に記載された条件下では化合物LiFeSO4Fが得られないことを確認するものである。
【0076】
例2
EMI−TFSI中でのFeSO4・7H2O及びLiFからLiFeSO4Fの合成
3mLの1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI−TFSI)を含有するPTFEフラスコに、乳鉢で調製した1.404gのFeSO4・7H2O及び0.149gのLIFの混合物を導入し、この混合物を20分間にわたって室温で磁気撹拌し、撹拌を停止し、続いて2mLのイオン液体(EMI−TFSI)を添加し、そして混合物を撹拌することなく室温で30分間放置した。続いて、この集合物全体を200℃のオーブンに導入し、このオーブンの温度を20分毎に10℃ずつ275℃にまで上昇させ、12時間にわたってこの値で保持し、続いて放置してゆっくりと冷却した。
熱処理中に形成された粉末を遠心分離によりイオン液体から分離し、10mLのジクロロメタンで3回洗浄し、次いでオーブン内において60℃で乾燥させた。
銅陰極で実施されたX線回折スペクトルの精密化(図10に示される)は、均等な割合の二つの相LiFeSO4F及びFeSO4・H2Oの存在を示している。
【0077】
相1:LiFeSO4F
三斜晶系、空間群:P−1(2)
A=5.1819(5)Å、b=5.4853(4)Å、c=7.2297(4)Å、
α=106.4564(3)°、β=107.134(6)°、γ=97.922(5)°
V=182.761(4)Å3。
【0078】
相2:FeSO4・H2O
三斜晶系、空間群:P−1(2)
A=5.178(7)Å、b=5.176(7)Å、c=7.599(7)Å;
α=107.58(6)°、β=107.58(8)°、γ=93.34(6)°
V=182.56(4)Å3。
【0079】
例3
EMI−TFSI中におけるFeSO4・7H2O及びLiFからLiFeSO4Fの合成
3mLの1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI−TFSI)を含有するPTFEフラスコに、乳鉢において調製された0.85gのFeSO4・H2O及び0.149gのLiF(1/1.14モル比)の混合物を導入し、この混合物を20分間にわたって室温で磁気撹拌し、撹拌を停止し、続いて2mLのイオン液体(EMI−TFSI)を添加し、そして混合物を撹拌することなく室温で30分間放置した。続いて、この集合物全体を200℃のオーブンに導入し、このオーブンの温度を20分毎に10℃ずつ275℃にまで上昇させ、12時間にわたってこの値で保持し、続いて放置してゆっくりと冷却した。
熱処理中に形成された粉末を遠心分離によりイオン液体から分離し、10mLのジクロロメタンで3回洗浄し、次いでオーブン内において60℃で乾燥させた。
銅陰極で実施されたX線回折スペクトルの精密化(図11に示される)は、単一のLiFeSO4F相の存在を示しており、その格子定数は次の通りである:
三斜晶系、空間群:P−1(2)
a=5.1827(7)Å、b=5.4946(6)Å、c=7.2285(7)Å、
α=106.535(7)°、β=107.187(6)°、γ=97.876(5)°
V=182.95(4)Å3。
【0080】
例2と3の比較から、言及した前記第1のものが単一相を得ることを可能にし、対して第2のものが混合物を与える限りにおいて、硫酸塩一水和物を使用する方が硫酸塩七水和物を使用するよりも好都合であることが示される。
【0081】
例4
FeSO4・H2O及びLiFからLiFeSO4Fの合成
LiFeSO4Fの合成をイオノサーマル手段により280℃のオートクレーブ内で実施する。
3mLの1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI−TFSI)を含有するオートクレーブに、乳鉢において調製された0.85gのFeSO4・H2O及び0.149gのLiF(1/1.14モル比)の混合物を導入し、この混合物を30分間にわたって室温で磁気撹拌し、撹拌を停止し、続いて2mLのイオン液体(EMI−TFSI)を添加し、そして混合物を撹拌することなく室温で30分間放置した。オートクレーブをアルゴン下で密閉した後に、続いてこの集合物全体を200℃のオーブンに導入し、このオーブンの温度を20分毎に10℃ずつ280℃にまで上昇させ、48時間にわたってこの値で保持し、続いて放置してゆっくりと冷却した。
熱処理中に形成された粉末を遠心分離によりイオン液体から分離し、10mLのジクロロメタンで3回洗浄し、次いでオーブン内において60℃で乾燥させた。
得られた生成物は、白みがかった粉末の状態である。この例1の試料とはわずかに異なる色は、操作条件によっては、相が非化学両論性になる素質があることを示している。
銅陰極で実施されたX線回折スペクトルの精密化(図12に示される)は、単一のLiFeSO4F相の存在を示しており、その格子定数は次の通りである:
三斜晶系、空間群:P−1(2)
a=5.1782(4)Å、b=5.4972(4)Å、c=7.2252(4)Å、
α=106.537(4)°、β=107.221(4)°、γ=97.788(3)°
V=182.82(4)Å3。
【0082】
例5
1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート(トリフレート)中でのFeSO4・H2O及びLiFからLiFeSO4Fの合成
LiFeSO4Fの合成をイオノサーマル手段により270℃のオートクレーブ内で実施する。
3mLの1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート(トリフレート)を含有するオートクレーブに、乳鉢において調製された0.85gのFeSO4・H2O及び0.149gのLiF(1/1.14モル比)の混合物を導入し、この混合物を30分間にわたって室温で磁気撹拌し、撹拌を停止し、続いて2mLのイオン液体(EMI−Tf)を添加し、そして混合物を撹拌することなく室温で30分間放置した。オートクレーブをアルゴン下で密閉した後に、続いてこの集合物全体を200℃のオーブンに導入し、このオーブンの温度を20分毎に10℃ずつ270℃にまで上昇させ、48時間にわたってこの値で保持し、続いて放置してゆっくりと冷却した。
熱処理中に形成された粉末を遠心分離によりイオン液体から分離し、10mLのジクロロメタンで3回洗浄し、次いでオーブン内において60℃で乾燥させた。
コバルトカソードで実施されたX線回折スペクトルの精密化(図13に示される)から、LiFeSO4F相(約50重量%を占める)と、2つの「無水FeSO4」相との存在が示される。
相1:LiFeSO4F、三斜晶系、空間群P−1(2)
相2:斜方晶系、空間群Cmcm(63)
相3:斜方晶系、空間群Pbnm(62)
例4と5の比較から、言及した第1のものが単一相を得ることを可能にし、対して第2のものが混合物を与える限りにおいて、疎水性イオン液体を使用する方が親水性イオン液体を使用するよりも好都合であることが示される。
【0083】
例6
EMI−TFSI中でのCoSO4・H2O及びLiFからLiCoSO4Fの合成
使用したCoSO4・H2O先駆物質を、CoSO4・7H2Oから真空下において160℃で2時間にわたり加熱することによって製造した。
5mLの1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI−TFSI)を含有するPTFEフラスコに、乳鉢において調製された0.86gのCoSO4・H2O及び0.149gのLiF(1/1.13モル比)の混合物を導入し、この混合物を20分間にわたって室温で磁気撹拌し、そして撹拌を停止させた。続いて、このフラスコをアルゴン下で密閉し、そして、反応混合物を撹拌することなく室温で30分間保持した。続いて、この集合物全体を250℃のオーブンに導入し、このオーブンの温度を10分毎に5℃ずつ275℃にまで上昇させ、36時間にわたってこの値で保持し、続いて放置してゆっくりと冷却した。
熱処理中に形成された粉末を遠心分離によりイオン液体から分離し、10mLの酢酸エチルで3回洗浄し、次いでオーブン内において60℃で乾燥させた。
コバルトカソードで実施されたX線回折スペクトルの精密化(図14に示される)は単一のLiCoSO4F相の存在を示しており、その格子定数は次の通りである:
a=5.1719(6)Å、b=5.4192(6)Å、c=7.1818(7)Å、
α=106.811(7)°、β=107.771(7)°、γ=97.975(5)°
V=177.71(3)Å3。
【0084】
熱重量分析によって得られた曲線を図15に示している。これは、400℃から始まる重量の損失を示しているところ、これは、化合物LiCoSO4Fが分解することを実証するものである。したがって、高い温度を使用した固相での方法では得ることができない。
この事実を確認するために、この例で得られた生成物の試料を、米国特許出願公開第2005/0163699号のとおりに30分間にわたり空気中で加熱した。図16は温度の上昇の間におけるX線回折図の変化を示している。RTは室温を表す。矢印は、分解生成物に相当するピークが見出される領域を示す。このように、化合物は375℃で分解し始めるように思われる。下の曲線の右手にある「RT」の表示は「室温」を表す。
【0085】
例7
EMI−TFSI中でのNiSO4・H2O及びLiFからLiNiSO4Fの合成
先駆物質として使用したNiSO4・H2O一水和物をNiSO4・7H2Oから真空下において240℃で2時間にわたり加熱することによって製造した。
5mLの1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI−TFSI)を含有するPTFEフラスコに、乳鉢において調製された0.86gのNiSO4・H2O及び0.149gのLiF(1/1.13モル比)の混合物を導入し、この混合物を20分間にわたって室温で磁気撹拌し、そして撹拌を停止させた。続いて、このフラスコをアルゴン下で密閉し、そして、反応混合物を撹拌することなく室温で30分間保持した。続いて、この集合物全体を250℃のオーブンに導入し、オーブンの温度を285℃にまで2時間にわたって上昇させ、36時間にわたってこの値で保持し、続いて放置してゆっくりと冷却した。
熱処理中に形成された粉末を遠心分離によりイオン液体から分離し、10mLの酢酸エチルで3回洗浄し、次いでオーブン内において60℃で乾燥させた。
コバルトカソードで作製されたX線回折図(図17に示される)は、得られた化合物がLiFeSO4F又はLiCoSO4Fと同様の相を90.95%よりも多く含有することを示している。この相の格子定数は次の通りである:
三斜晶系、空間群:P−1(2)
a=5.173(1)Å、b=5.4209(5)Å、c=7.183(1)Å、
α=106.828(9)°、β=107.776(8)°、γ=97.923(8)°
V=177.85(5)Å3。
【0086】
熱重量分析によって得られた曲線を図18に示している。これは、380℃から始まる重量の損失を示しているところ、これは、化合物LiNiSO4Fが分解することを実証するものである。したがって、高い温度を使用した固相での方法では得ることができない。
この事実を確認するために、この例で得られた生成物の試料を、米国特許出願公開第2005/0163699号のとおりに30分間にわたり空気中で加熱した。図19は温度の上昇の間におけるX線回折図の変化を示している。矢印は、分解生成物に相当するピークが見出される領域を示す。このように、化合物は375℃で分解し始めるように思われる。下の曲線の右手にある「RT」の表示は「室温」を表す。
【0087】
例8
LiFe1-yMnySO4F固溶体
LiFe1-yMnySO4F化合物を、LiF及び先駆物質としてのFe1-yMnySO4・H2O固溶体から製造した。
【0088】
先駆物質の製造
1−yモルのFeSO4・7H2O及びyモルのMnSO4・H2O を、Fe(II)の酸化を防ぐために予めアルゴン下で脱気した2mLの水に溶解させて、続いて20mLのエタノールを添加した。エタノールの添加中に沈殿により形成された粉末を遠心分離によって回収し、20mLのエタノールで2回洗浄し、続いて真空下において200℃で1時間にわたり加熱した。
yの値を変えて、様々な試料を調製した。
これらの試料をX線回折で分析した。得られた「y=0.5」試料の回折図を図20に示している。これは、Fe0.5Mn0.5SO4・H2O固溶体であることを示しており、その格子定数は次の通りである:
三斜晶系、空間群:P−1(2)
a=5.2069Å、b=5.2056Å、c=7.6725Å、
α=107.7196°、β=107.4498°、γ=93.08°
V=186.56Å3。
【0089】
LiFe1-yMnySO4F固溶体の製造
合成を、様々な先駆物質の試料について、イオノサーマル手段により270℃のオートクレーブ内で実施する。
3mLの1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI−TFSI)を含有するオートクレーブに、乳鉢において調製された0.85gのFe0.5Mn0.5SO4・H2O及び0.149gのLiF(1/1.14モル比)の混合物を導入し、この混合物を20分間にわたって室温で磁気撹拌し、撹拌を停止し、続いて2mLのイオン液体(EMI−TFSI)を添加し、そして混合物を撹拌することなく室温で30分間放置した。オートクレーブをアルゴン下で密閉した後に、続いてこの集合物全体を200℃のオーブンに導入し、このオーブンの温度を20分毎に10℃ずつ270℃にまで上昇させ、そして48時間にわたってこの値で保持し、続いて放置してゆっくりと冷却した。
熱処理中に形成された粉末を遠心分離によりイオン液体から分離し、10mLのジクロロメタンで3回洗浄し、次いでオーブン内において60℃で乾燥させた。
X線回折から、低いy値(特にy<0.1)ではLiFe1-yMnySO4F固溶体が形成し、それよりも高いy値(特にy>0.25)については混合相が形成することを示している。
【0090】
例9
FeSO4・7H2O及びNaFからNaFeSO4Fの合成
5mLのEMI−TFSI及び2.808gのFeSO4・7H2Oの混合物を開放Parr(商標)ボンベ熱量計に導入し、そして230℃で加熱した。5時間加熱後、この混合物を室温にまで冷却し、続いて0.42gのNaFを添加してから、Parr(商標)ボンベ熱量計を密閉した。10分の磁気撹拌後、混合物を250℃で24時間加熱した。室温にまで冷却後、回収した粉末を20mLのアセトンで2回洗浄し、続いて60℃のオーブン内で乾燥させた。図21に示されるX線回折図は、空間群P21/Cを有する単斜晶系歪タボライト型構造を持つ新たな相の形成を示している。
これらの実施例では、FeSO4・H2O及びCoSO4・H2Oを、FeSO4・7H2O及びCoSO4・7H2Oをそれぞれ加熱し、そして一次真空を200℃で1時間にわたって加えることによって製造した。
【0091】
例10
LiFeSO4Fの合成
乳鉢において、0.850gのFeSO4・H2O一水和物と0.145gのLiFとを手作業で混合させた(化学両論量に対して10%のLiF過剰に相当する)。この粉末を10トンの負荷下でペレット化し、続いてこのペレットを、キャリアガスとしてアルゴンを使用したドライボックス内で組み立てられたParrボンベ熱量計を導入した。続いて、このボンベ熱量計をオーブン内に設置し、その温度を5時間にわたって280℃にし、そしてこの値を60時間にわたって保持した。続いて、このオーブンを急速に冷却し、ペレットを回収し、そして粉砕してXRDによりこれを特徴付けた。
XRD図を図22に示している。これは、得られた生成物が95%単一相生成物であることを示している。
【0092】
例11
FeSO4・H2O及びLiFからLiFeSO4Fの280℃での合成(内圧の影響)
FeSO4・H2O/LiF粉末の1/1.14モル比の混合物を製造し、そして1gの粉末混合物を10トンの負荷下で圧縮することによってペレットを調製した。このペレットを、キャリアガスとしてアルゴンを使用したドライボックス内で組み立てられたParrボンベ熱量計に導入した。続いて、Parrボンベ熱量計に次のスキームに従う熱処理を施した:250℃で1時間、260℃で1時間、270℃で1時間、280℃で60時間、ゆっくりと冷却。続いて、このオーブンを急速に冷却し、ペレットを回収し、そしてこれを粉砕してXRDにより特徴付けた(CuKα)。
この手順は、一方では25mLのParrボンベ熱量計で実施し、他方では50mLのParrボンベ熱量計で実施した。
XRD図を図23に示す。上の曲線25mLのParrボンベ熱量計での実施に相当し、下の曲線は50mLのParrボンベ熱量計での実施に相当する。これらの図は、*の表示で特定された線のLiFeSO4F相特性及び不純物の形成を示している。不純物のレベルは、25mLボンベ熱量計で最も低い。すなわち約5%である。
【0093】
例12
FeSO4・H2O及びLiFから出発するLiFeSO4Fの290℃での合成
0.850gのFeSO4・H2O及び0.2gのLiFの混合物を、SPEX−800ミルで10分間にわたり機械的に粉砕することによって製造し、続いて、この混合物を10トンの負荷下でペレット化し、そして得られたペレットをアルゴン下で密閉された25mLのParrボンベ熱量計内に設置した。続いて、次の熱処理を適用した:250℃で1時間、260℃で1時間、270℃で1時間、290℃で48時間、ゆっくりと冷却。続いて、このオーブンを急速に冷却し、ペレットを回収し、そしてこれを粉砕してXRDにより特徴付けた(CuKα)。図24は、XR回折図(左手の部分)及び走査電子顕微鏡写真(右手の部分)を示している。XRD図は、三斜格子で結晶化した、空間群P-1の純粋LiFeSO4F相の形成を示している。これは次の格子定数を有する:a=5.1865(11)(Å)、b=5.4863(9)(Å)、c=7.2326(12)(Å)、α=106.49(1)、β=107.153(9)、γ=97.888(8)、及び容積V=182.99(6)Å3。走査電子顕微鏡写真から、サイズが非常に様々な小さいナノスケール粒子の凝集体を示している(400nm〜800nm)。
【0094】
例13
NaFeSO4Fの合成
乳鉢において、0.850mgのFeSO4・H2O一水和物と24545mgのNaFとを手作業で混合させた(これは、化学両論量に対して10%のNaF過剰に相当する)。この粉末を10000psiの圧力下でペレット化させ、続いてこのペレットを、キャリアガスとしてアルゴンを使用したドライボックス内で組み立てられたParrボンベ熱量計に導入した。続いて、このボンベ熱量計をオーブン内に設置し、その温度を5時間にわたって290℃にし、そしてこの値を80時間にわたって保持した。続いて、このオーブンを急速に冷却し、ペレットを回収し、そして粉砕してXRDにより特徴付けを行った。XRD図を図25に示している。これは、得られた化合物がNaFeSO4Fであり、単斜晶系格子(空間群P21/c)に次のパラメーターで結晶化することを示している:a=6.6798(2)(Å)、b=8.7061(2)(Å)、c=7.19124(18)(Å)、b=113.517(2)(Å)及びV=383.473(Å3)。
【0095】
例14
NaCoSO4Fの合成
乳鉢において、0.855mgのCoSO4・H2O一水和物と245mgのNaFとを手作業で混合させた(これは、化学両論量に対して10%のNaF過剰に相当する)。この粉末を10000psiの圧力下でペレット化させ、続いてこのペレットを、キャリアガスとしてアルゴンを使用したドライボックス内で組み立てられたParrボンベ熱量計に導入した。続いて、このボンベ熱量計をオーブン内に設置し、この温度を5時間にわたって300℃にし、そしてこの値で1週間保持した。続いて、このオーブンを急速に冷却し、ペレットを回収し、そして粉砕してXRDにより特徴付けを行った。XRD図を図26に示している。これは、主としてNCoSO4F相が存在することを示しており、これは空間群P21/cで次の格子定数で結晶化する:a=6.645(2)Å、b=8.825(2)Å、c=7.162(2)Å、β=112.73(3)及びV=387.38(3)Å3。
【0096】
例15
FeSO4Fの製造
この化合物を、アセトニトリル中においてLiFeSO4FをNO2OF4により室温で化学的脱リチオ化することによって製造した。図27に示されるX線回折スペクトルは、この化合物が結晶化して格子になることを示している。そのパラメーターは次の通りである:
三斜晶系、空間群:P−1(2)
A=5.0682Å、b=5.0649Å、c=7.255Å
α=69.36°、β=68.80°、γ=88.16°
V=161.52Å3。
【0097】
例18
電気化学的試験
例3に従って製造された化合物LiFeSO4Fの試料を、電極がリチウムホイルであり、2個の電極が1/1炭酸エチレン/炭酸ジメチルEC−DMC混合物へのLiPF6の1M溶液が浸漬したポリプロピレンセパレータによって隔離されたスウェージロックセルの正極材料として試験した。正極を製造するために、80mgのLiFeSO4F(1μmの平均直径を有する粒子の状態)及び20mgの炭素をSPEX1800ミルで15分間にわたり機械的に破砕することにより混合させた。1cm2当たり8mgのLiFeSO4Fに相当する量の混合物をアルミニウム電流コレクタに適用した。
図28aでは、主要な曲線は、C/10レジームでのセルのサイクル中における、リチウムの挿入速度に応じた電位変化を示しており、差し込みは、C/10レジームでのサイクルの連続中におけるセルの容量変化を示している。Nはサイクル数である。
図28bは、C/2レジームでのセルのサイクル中における、リチウムの挿入速度に応じた電位変化を示している。
図28cは、サイクルレジームRに応じたセルの容量変化を示している。
このように、容量はC/2レジームでは90%にとどまり、C/10レジームでは67%にとどまることが分かる。
【0098】
例19
電気化学的試験
例12に従って製造されたLiFeSO4F試料を電気化学的試験に付した。LiFeSO4F(セラミック)/炭素(アセチレンブラック)複合材料(85/15の重量割合)をSPEX(商標)ミルで15分間にわたり機械的粉砕により製造した。この複合材料をアルミニウム電流コレクタに適用し、そして、負のアノードがリチウムホイルであり、電解質が市販のLP30型電解質であるセルに取り付けた。このようにして得られたセルを、C/5レジーム(5時間にわたり1電子交換)下において電位窓[2.5V〜4.5V]で循環させた。電気化学的試験の結果を図29に示しており、そこでは、左手の曲線は、フルオロ硫酸塩におけるリチウムイオン含有量に応じた電位変化を示しており、右手の曲線は、サイクル数に応じた容量変化を示している。材料の電気化学的活性は3.6Vの近くに中心があり、可逆容量は約80mAh/gである(少なくとも最初の5サイクルでは安定である)と思われる。
【0099】
例20
電気化学的試験
例13に従って製造したNaFeSO4F試料を例19の条件下で試験した。サイクル曲線を図30に示している。これは、材料がイオン液体媒体中で製造された対応する材料と同様の電気化学的活性を有することを示している。特に、Liに対する相の反応性は、製造方法にかかわらず、式単位当たり0.2のLiに制限される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歪タボライト型構造を有し、かつ、次式(I)に相当する弗素化化合物の粒子からなる材料:
(A1-aA’a)x(Z1-bZ’b)z(SO4)sFf(I)
式中、
・AはLi又はNaを表し;
・A’は原子価又は少なくとも1個のドーパント元素を表し;
・ZはFe、Co及びNiから選択される少なくとも1個の元素を表し;
・Z’は原子価又は少なくとも1個のドーパント元素を表し;
・指数a、b、x、z、s及びfは、該化合物の電気的中性を確保するように選択され、そして、a≧0、b≧0、x≧0、z>0、s>0、f>0であり;
・ドーパントA及びZ'の各量a及びbは、該タボライト型構造を維持する量である。
【請求項2】
a≧0.25及びb≧0.25であることを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
AがLiであり、化合物(I)の歪タボライト型構造が空間群P−1の三斜格子を有する、又はAがNaであり、化合物(I)の歪タボライト型構造が単斜晶系格子を有することを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項4】
前記材料が粒状であり、その寸法が100μm未満であることを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項5】
A’がAとは異なるアルカリ金属、アルカリ土類金属又は3d金属であることを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項6】
Z’がアルカリ金属、Mn、Mg、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Zn、Al、Ga、Sn、Zr、Nb及びTaからそれらの酸化度の少なくとも一つで選択されることを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項7】
前記弗素化化合物が式:Li(Z1-bZ’b)SO4F及びNa(Z1-bZ’b)zSO4Fの一つに相当することを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項8】
前記弗素化化合物が式(Z1-bZ’b)z(SO4)sFfに相当することを特徴とする、請求項1に記載の材料。次の工程:
(i)該先駆物質を、陽イオン及び陰イオンからなる少なくとも1種のイオン液体であってその電荷がバランスしているものを含む支持液体に分散させて、該先駆物質の該液体への懸濁液を得;
(ii)該懸濁液を25〜330℃の温度に加熱し;
(iii)該イオン液体と、該先駆物質間の反応により得られた式(I)の無機酸化物とを分離すること
を含む、請求項1に記載の材料の製造方法。
【請求項9】
前記工程(i)においてイオン液体に存在する先駆物質の量が0.01重量%〜85重量%であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項10】
先駆物質の粉末を接触させ、そして該混合物を熱処理することからなる請求項1に記載の材料の製造方法であって、
・SO4、Z及び必要に応じてZ'成分を、水和硫酸塩の形態での単一の先駆物質によって与え;
・F、A及び必要に応じてA'成分をそれぞれ弗化物によって与え;
・熱処理を密閉反応器内で実施する
ことを特徴とする前記方法。
【請求項11】
前記粉末の混合物を反応器に導入する前に圧縮によりペレット化することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項12】
前記Liの先駆物質が無機酸塩、揮発性有機酸塩、熱分解性酸塩、弗化物及び硫酸塩から選択されることを特徴とする、請求項9又は11に記載の方法。
【請求項13】
Z又はZ’元素の先駆物質がタボライト型構造を有するZの硫酸塩及び/又は燐酸塩であることを特徴とする、請求項9又は11に記載の方法。
【請求項14】
Zの先駆物質及び必要に応じてZ' の先駆物質が一水和物のZSO4・H2O若しくはZ’SO4・H2O又は混合一水和物のZ1-bZ’bSO4・H2Oであり、Aの先駆物質及び必要に応じてA’の先駆物質が弗化物であることを特徴とする、請求項9又は11に記載の方法。
【請求項15】
電流コレクタ上に活物質を有する電極であって、該活物質が請求項1に記載の材料であることを特徴とする電極。
【請求項16】
電解質によって隔離された正極及び負極を備える電気化学セルであって、該正極が請求項15に記載の電極であることを特徴とする電気化学セル。
【請求項1】
歪タボライト型構造を有し、かつ、次式(I)に相当する弗素化化合物の粒子からなる材料:
(A1-aA’a)x(Z1-bZ’b)z(SO4)sFf(I)
式中、
・AはLi又はNaを表し;
・A’は原子価又は少なくとも1個のドーパント元素を表し;
・ZはFe、Co及びNiから選択される少なくとも1個の元素を表し;
・Z’は原子価又は少なくとも1個のドーパント元素を表し;
・指数a、b、x、z、s及びfは、該化合物の電気的中性を確保するように選択され、そして、a≧0、b≧0、x≧0、z>0、s>0、f>0であり;
・ドーパントA及びZ'の各量a及びbは、該タボライト型構造を維持する量である。
【請求項2】
a≧0.25及びb≧0.25であることを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
AがLiであり、化合物(I)の歪タボライト型構造が空間群P−1の三斜格子を有する、又はAがNaであり、化合物(I)の歪タボライト型構造が単斜晶系格子を有することを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項4】
前記材料が粒状であり、その寸法が100μm未満であることを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項5】
A’がAとは異なるアルカリ金属、アルカリ土類金属又は3d金属であることを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項6】
Z’がアルカリ金属、Mn、Mg、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Zn、Al、Ga、Sn、Zr、Nb及びTaからそれらの酸化度の少なくとも一つで選択されることを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項7】
前記弗素化化合物が式:Li(Z1-bZ’b)SO4F及びNa(Z1-bZ’b)zSO4Fの一つに相当することを特徴とする、請求項1に記載の材料。
【請求項8】
前記弗素化化合物が式(Z1-bZ’b)z(SO4)sFfに相当することを特徴とする、請求項1に記載の材料。次の工程:
(i)該先駆物質を、陽イオン及び陰イオンからなる少なくとも1種のイオン液体であってその電荷がバランスしているものを含む支持液体に分散させて、該先駆物質の該液体への懸濁液を得;
(ii)該懸濁液を25〜330℃の温度に加熱し;
(iii)該イオン液体と、該先駆物質間の反応により得られた式(I)の無機酸化物とを分離すること
を含む、請求項1に記載の材料の製造方法。
【請求項9】
前記工程(i)においてイオン液体に存在する先駆物質の量が0.01重量%〜85重量%であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項10】
先駆物質の粉末を接触させ、そして該混合物を熱処理することからなる請求項1に記載の材料の製造方法であって、
・SO4、Z及び必要に応じてZ'成分を、水和硫酸塩の形態での単一の先駆物質によって与え;
・F、A及び必要に応じてA'成分をそれぞれ弗化物によって与え;
・熱処理を密閉反応器内で実施する
ことを特徴とする前記方法。
【請求項11】
前記粉末の混合物を反応器に導入する前に圧縮によりペレット化することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項12】
前記Liの先駆物質が無機酸塩、揮発性有機酸塩、熱分解性酸塩、弗化物及び硫酸塩から選択されることを特徴とする、請求項9又は11に記載の方法。
【請求項13】
Z又はZ’元素の先駆物質がタボライト型構造を有するZの硫酸塩及び/又は燐酸塩であることを特徴とする、請求項9又は11に記載の方法。
【請求項14】
Zの先駆物質及び必要に応じてZ' の先駆物質が一水和物のZSO4・H2O若しくはZ’SO4・H2O又は混合一水和物のZ1-bZ’bSO4・H2Oであり、Aの先駆物質及び必要に応じてA’の先駆物質が弗化物であることを特徴とする、請求項9又は11に記載の方法。
【請求項15】
電流コレクタ上に活物質を有する電極であって、該活物質が請求項1に記載の材料であることを特徴とする電極。
【請求項16】
電解質によって隔離された正極及び負極を備える電気化学セルであって、該正極が請求項15に記載の電極であることを特徴とする電気化学セル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28a】
【図28b】
【図28c】
【図29】
【図30】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28a】
【図28b】
【図28c】
【図29】
【図30】
【公表番号】特表2012−506361(P2012−506361A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532696(P2011−532696)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【国際出願番号】PCT/FR2009/052040
【国際公開番号】WO2010/046610
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(506369944)サントル ナスィオナル ド ラ ルシェルシュ スィアンティフィク (45)
【出願人】(510252782)ユニベルシテ・ド・ピカルディ・ジュール・ヴェルヌ (4)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE PICARDIE JULES VERNE
【住所又は居所原語表記】33 rue de Saint Leu,F−80039 Amiens,France
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【国際出願番号】PCT/FR2009/052040
【国際公開番号】WO2010/046610
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(506369944)サントル ナスィオナル ド ラ ルシェルシュ スィアンティフィク (45)
【出願人】(510252782)ユニベルシテ・ド・ピカルディ・ジュール・ヴェルヌ (4)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE PICARDIE JULES VERNE
【住所又は居所原語表記】33 rue de Saint Leu,F−80039 Amiens,France
【Fターム(参考)】
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