説明

電極板の製造方法

【課題】非塗工部の歪みやよれが抑制されているとともに,端部の機械的強度が大きい電極板を得られる電極板の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の電極板の製造方法は,金属箔の少なくとも一面に活物質層を設けてなる電極板の製造方法であって,帯状の金属箔(以下,箔という)の少なくとも一面に,幅方向の端部に非塗工部を残しつつ,活物質のペーストを塗工して活物質層を形成する塗工工程と,活物質層が形成された箔を,箔の焼き鈍し温度より高く,活物質層の成分の溶融温度より低い温度に加熱する熱処理工程と,熱処理工程後に,箔を長手方向に搬送しつつ,箔の厚さ方向に加圧する圧延工程とを有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,例えば二次電池等の電極板として用いられるものであって,金属製の集電箔に電極ペーストが塗工されているシート状の電極板を製造する製造方法に関する。さらに詳細には,ペーストを塗工した後に圧延する工程を含む電極板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より,例えばリチウムイオン二次電池等において,シート状の電極板が使用されている。アルミニウム箔や銅箔にペースト状の活物質を塗工して圧延することにより,正負それぞれの電極板が製造される。正負の電極板は,例えばセパレータを挟んで重ねて捲回され,電解液に浸漬されて用いられる。
【0003】
従来の製造方法では,帯状の集電箔の幅方向両端部を残して電極ペーストを塗工し,加圧ロール等に通すことにより圧延する。その後,幅を半分に切断してから捲回していた。しかし,ペーストの塗工箇所と両端部の非塗工箇所とで圧延による伸び量が異なり,電極板が湾曲するという問題点があった。それに対し,本出願人は,圧延工程と切断工程との間に,非塗工箇所を加熱しつつ張力を加える工程を設けることにより歪みを緩和する方法を提案した(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−93236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,前記した製造方法によって電極板の強い湾曲は解消されたものの,加熱により非塗工箇所の集電箔に波打ち状のよれが発生する場合がある。このようになると,この非塗工箇所の機械的強度が低下するという問題点があった。この非塗工箇所において,例えば電極端子等と接合されるものでは,端子の接合強度にも影響があることが分かってきた。そこで,歪みを抑制しつつ,端部の機械的強度を損なわない電極板の製造方法が望まれていた。
【0006】
本発明は,前記した従来の電極板の製造方法が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,非塗工部の歪みやよれが抑制されているとともに,端部の機械的強度が大きい電極板を得られる電極板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の電極板の製造方法は,金属箔の少なくとも一面に活物質層を設けてなる電極板の製造方法であって,帯状の金属箔(以下,箔という)の少なくとも一面に,幅方向の端部に非塗工部を残しつつ,活物質のペーストを塗工して活物質層を形成する塗工工程と,活物質層が形成された箔を,箔の焼き鈍し温度より高く,活物質層の成分の溶融温度より低い温度に加熱する熱処理工程と,熱処理工程後に,箔を長手方向に搬送しつつ,箔の厚さ方向に加圧する圧延工程とを有するものである。
【0008】
本発明の電極板の製造方法によれば,金属箔に活物質を塗工した後,圧延工程の前に熱処理工程を行う。この熱処理により,金属箔が焼き鈍しされた状態となる。そして,軟らかく伸びやすくなる。従って,その後に圧延工程を行っても,活物質と同程度に金属箔もその全体がほぼ均一に容易に伸びる。従って,塗工部と非塗工部とでの伸びの違いによる歪みや,非塗工部のみが大きく伸びることによるよれ等の発生を防止して,良好な電極板を得ることができる。従って,捲回等により非塗工部が重ねられた端部の機械的強度が大きく,電極端子を溶接等によって取り付けた場合にも,十分な接合強度を得ることができる。なお,箔の焼き鈍し温度とは,箔を形成する金属に再結晶もしくは相転移等の歪み解放過程が起こる最低の温度のことである。
【0009】
電極板としてリチウムイオン二次電池の正極板を製造する場合には,金属箔としてアルミニウム箔を,活物質としてリチウムイオン二次電池の正極活物質を,それぞれ使用する。さらに,熱処理工程での加熱温度は,150〜400℃の範囲内の温度とする。
電極板としてリチウムイオン二次電池の負極板を製造する場合には,金属箔として銅箔を,活物質としてリチウムイオン二次電池の負極活物質を,それぞれ使用する。さらに,熱処理工程での加熱温度は,110〜300℃の範囲内の温度とする。
【0010】
さらに本発明では,塗工工程では,箔の幅方向の両端部を残して塗工し,塗工工程より後で,かつ,熱処理工程より前に,箔を幅方向の一箇所で長手方向に切断する切断工程を有することが望ましい。
このようにすれば,塗工が容易である。そして,歪みのない状態で切断できるので,容易にかつ適切に切断することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電極板の製造方法によれば,非塗工部の歪みやよれが抑制されているとともに,端部の機械的強度が大きい電極板を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本形態に係る工程図である。
【図2】塗工工程が終了した状態を示す説明図である。
【図3】切断工程が終了した状態を示す説明図である。
【図4】熱処理工程を示す説明図である。
【図5】圧延工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下,本発明を具体化した最良の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,リチウムイオン二次電池に用いられる電極板を製造するための製造方法に本発明を適用したものである。
【0014】
本形態では,リチウムイオン二次電池の正極に使用される電極板の製造方法を例にとって本発明を説明する。この電極板は,例えばアルミニウム等の金属箔の両面に,リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質の層が設けられているものである。正極活物質としては,例えば,ニッケル酸リチウム(LiNiO2),マンガン酸リチウム(LiMnO2),コバルト酸リチウム(LiCoO2)等のリチウム複合酸化物などが用いられる。
【0015】
本形態による電極板の製造方法は,図1にその工程図を示すように,準備工程(S1),塗工工程(S2),切断工程(S3),熱処理工程(S4),圧延工程(S5)の順に行うものである。まず,金属箔,ペースト状にした活物質をそれぞれ準備する(準備工程)。金属箔としては,製造する電極板の2倍の幅を有する帯状のアルミニウム箔を準備する。この準備工程は,従来と同様ものとすればよい。
【0016】
次に,図2に示すように,アルミニウム箔10の両面に活物質20を塗工し,塗工済みアルミニウム箔30を製造する(塗工工程)。この工程では,アルミニウム箔10の幅方向(図中上下方向)の両端部に,表裏両面とも,適切な幅の非塗工部12を残す。この非塗工部12は,後に溶接等によって電極端子が取り付けられる箇所である。
【0017】
次に,塗工済みアルミニウム箔30の幅方向の中央部を,長手方向に切断する(切断工程)。これにより,図3に示すように,同形の2枚の塗工済みアルミニウム箔31,32が得られる。なお,アルミニウム箔10に活物質20を塗工した後,この工程までの間には,熱や圧力を加えていないので,アルミニウム箔10に湾曲等の歪みが新たに生じる理由はない。従って,容易に適切な分断が可能である。
【0018】
次に,図4に示すように,切断済みの塗工済みアルミニウム箔31,32に対して熱処理工程を行う。すなわち,加圧せず単に加熱する。例えば,幅方向(図4中奥行き方向)に,塗工済みアルミニウム箔31,32の幅(図3中で上下方向の大きさ)より幅広の加熱ローラ40を用いて加熱する。この工程によりアルミニウム箔10が,アルミニウムの焼き鈍し温度(再結晶もしくは相転移等の歪み解放過程が起こる最低の温度)より高く,塗工した活物質20の層の成分の溶融温度より低い温度まで加熱されるように,加熱ローラ40の温度を調整する。予熱は不要である。また,加熱後にも特段の冷却手段は不要である。大気放冷すればよい。これにより,ゆっくりと冷却されるので,アルミニウム箔10が軟らかく,伸びやすくなる。一方,活物質20には,特段の影響を与えることはない。
【0019】
本形態では,加熱ローラ40の温度は,150℃以上,400℃以下が好ましい。例えば,300℃程度が適している。150℃より低い温度では,効果が小さい。また,400℃より高い温度では,活物質20の層の成分が溶けるおそれがある。そして,図4に示すように,例えば直径50cm程度の加熱ローラにアルミニウム箔31,32を載せて,周速5m/min程度で走行させることにより,アルミニウム箔の各箇所について10秒程度加熱する。
【0020】
次に,図5に示すように,2つの圧延ローラ50の間を通過させることにより圧延する(圧延工程)。これにより,活物質20の層が圧縮されて緻密な状態となるとともに,アルミニウム箔10に確実に圧着される。活物質20の層は,例えば,圧延前に1.15g/cm3程度であったものが,2.29g/cm3程度となる。また,電極板が,長手方向に1〜3%程度延伸される。これにより,本形態による電極板の製造方法は終了である。
【0021】
本形態では,この圧延工程の前に熱処理工程を行っているので,アルミニウム箔10が,熱処理前と比較してかなり軟らかくなっている。そして,塗工されている活物質20の層と比べてもそんなに変わらない程度に伸びやすくなっている。そのため,活物質20の層の厚さにより,圧延ローラ50によって直接圧接されない非塗工部12においても,塗工されている範囲とほぼ同様に伸びる。従って,圧延工程を行っても,アルミニウム箔10に湾曲やよれが発生することはない。
【0022】
なお,本形態では,切断工程を,塗工工程と熱処理工程との間に配置したが,熱処理工程の後で行ってもよい。またあるいは,圧延工程の後で行うこともできる。本形態の製造方法によれば,アルミニウム箔10の変形が発生しないので,切断工程の順序を自由に選択できる。
【0023】
なお,負極用の電極板についても,同様の製造方法によって適切に製造することができる。負極用の電極板は,銅箔にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極活物質を塗布したものである。負極活物質として,非晶質炭素,難黒鉛化炭素,易黒鉛化炭素,黒鉛等の炭素系物質が用いられる。そして,負極板の場合には,加熱処理工程における加熱ローラの温度は,110〜300℃の範囲内が好ましい。例えば190℃程度が適している。また,活物質による層の密度は,圧延前に0.75g/cm3程度であったものが,圧延工程によって1.41g/cm3程度となった。
【0024】
このようにして製造した正負の電極板を,セパレータを介して捲回または積層し,それぞれの非塗工部12に電極端子を溶接する。本形態で製造した電極板では,金属箔に強い湾曲が生じていないので,歪み無く容易に捲回または積層することが出来る。さらに,非塗工部12によれが発生していないので,電極端子の溶接は容易であり,溶接箇所は十分な機械的強度を有したものとなる。
【0025】
以上詳細に説明したように,本形態の製造方法によれば,金属箔に活物質を塗工した後,圧延前に熱処理を行う。従って,金属箔のうち活物質が塗工されていない範囲においても,活物質による層と同程度に伸びやすい状態とすることができる。従って,圧延工程後においても,金属箔に湾曲やよれの発生が抑止されている。これにより,非塗工部の歪みやよれを抑制しつつ,端部の機械的強度を損なわない製造方法となっている。
【0026】
なお,本形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。
例えば本発明は,リチウムイオン二次電池に限らず,各種の電池の電極板の製造方法に適用可能である。また,集電箔に用いる金属や電極ペーストの材質は適宜選択可能である。活物質層は,金属箔の片面のみに設けたものでもよい。片面にのみ塗工したものでは,金属箔側を加熱ローラに接触させるとよい。また例えば,熱処理工程の処理方法や処理時間は,電極板の材質や大きさに応じて,適宜変更可能なものである。また,電極板に適した幅の金属箔を用意して幅方向の一方のみに非塗工部を残すように塗工すれば,切断工程は不要である。
【符号の説明】
【0027】
10 アルミニウム箔
20 活物質
S2 塗工工程
S3 切断工程
S4 熱処理工程
S5 圧延工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔の少なくとも一面に活物質層を設けてなる電極板の製造方法において,
帯状の金属箔(以下,箔という)の少なくとも一面に,幅方向の端部に非塗工部を残しつつ,活物質のペーストを塗工して活物質層を形成する塗工工程と,
前記活物質層が形成された前記箔を,前記箔の焼き鈍し温度より高く,前記活物質層の成分の溶融温度より低い温度に加熱する熱処理工程と,
前記熱処理工程後に,前記箔を長手方向に搬送しつつ,前記箔の厚さ方向に加圧する圧延工程とを有することを特徴とする電極板の製造方法。
【請求項2】
アルミニウム箔の少なくとも一面に活物質層を設けてなる電極板の製造方法において,
帯状のアルミニウム箔(以下,箔という)の少なくとも一面に,幅方向の端部に非塗工部を残しつつ,リチウムイオン二次電池の正極活物質のペーストを塗工して活物質層を形成する塗工工程と,
前記活物質層が形成された前記箔を,150〜400℃の範囲内の温度に加熱する熱処理工程と,
前記熱処理工程後に,前記箔を長手方向に搬送しつつ,前記箔の厚さ方向に加圧する圧延工程とを有することを特徴とする電極板の製造方法。
【請求項3】
銅箔の少なくとも一面に活物質層を設けてなる電極板の製造方法において,
帯状の銅箔(以下,箔という)の少なくとも一面に,幅方向の端部に非塗工部を残しつつ,リチウムイオン二次電池の負極活物質のペーストを塗工して活物質層を形成する塗工工程と,
前記活物質層が形成された前記箔を,110〜300℃の範囲内の温度に加熱する熱処理工程と,
前記熱処理工程後に,前記箔を長手方向に搬送しつつ,前記箔の厚さ方向に加圧する圧延工程とを有することを特徴とする電極板の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1つに記載の電極板の製造方法において,
前記塗工工程では,前記箔の幅方向の両端部を残して塗工し,
前記塗工工程より後で,かつ,前記熱処理工程より前に,前記箔を幅方向の一箇所で長手方向に切断する切断工程を有することを特徴とする電極板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−244748(P2010−244748A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89901(P2009−89901)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】