説明

電極触媒、酵素電極、燃料電池及びバイオセンサ

【課題】過電圧が小さく、発電効率に優れたマルチ銅酸化酵素からなる電極触媒を提供する。また、該電極触媒を備えた酵素電極、並びに該酵素電極を備えた燃料電池及びバイオセンサを提供する。
【解決手段】少なくともタイプI銅を含む複数の銅原子を有する、マルチ銅酸化酵素からなる電極触媒であって、少なくとも1つのシステイン残基及び2つのヒスチジン残基が、前記タイプI銅に配位しており、前記システイン残基と前記2つのヒスチジン残基のうちリガンドループを形成しているヒスチジン残基との間に存在するプロリン残基、又は、前記2つのヒスチジン残基のうちリガンドループを形成していないヒスチジン残基の下流側に隣接するプロリン残基が、プロリン残基以外のアミノ酸残基で置換され、置換アミノ酸残基のアミドプロトンとタイプI銅配位システイン残基の硫黄原子との間に水素結合を有することを特徴とする電極触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極触媒、該電極触媒を備える酵素電極、並びに該酵素電極を備える燃料電池及びバイオセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
酵素は、生体内の化学反応(代謝)を進行させる生体触媒であり、主としてペプチド結合によってリンクされたアミノ酸の鎖からなるタンパク質を基本構造とする。酵素は、タンパク質のみからなるものもあるが、その多くは、触媒活性を発現させ又は触媒活性を高めるために、タンパク質以外の成分(補因子)を必要とする。
酵素は、(1)常温、常圧付近の温和な条件で触媒作用を示す、(2)特定の基質にのみ作用する基質特異性と、特定の化学反応に対して触媒作用を示し、副反応を起こさない反応特異性とを併せ持つ、という特徴がある。
【0003】
酵素の中でも、生体内の酸化還元を触媒する酵素を、酸化還元酵素という。また、基質を酸化させる酵素を特に酸化酵素といい、基質を還元させる酵素を特に還元酵素という。電極表面にある種の酸化還元酵素を固定すると、酵素の触媒作用によって電極上で特定の酸化還元反応のみが選択的に進行し、酸化還元反応による物質の変化を電極により電気信号に変換することができる。このような電極は酵素電極と呼ばれており、各種のバイオセンサ、燃料電池などの電極に利用されている。
【0004】
例えば、ラッカーゼ、ビリルビン酸化酵素(BOD)、CueO(Copper efflux Oxidase)、等のマルチ銅酸化酵素は、タイプI、II、IIIに分類される3種、計4個(タイプI銅1個、タイプII銅1個、タイプIII銅2個)の銅イオンからなる活性中心を有する。タイプI銅は基質から電子を引き抜く機能を有し(電子受容部位)、タイプII銅と一対のタイプIII銅は、タイプI銅から分子内を輸送された電子を用いて、酸素を水に還元(酸素4電子還元)する機能を有する。
このように、少なくともタイプI、II、IIIに分類される3種、計4個の銅を有するマルチ銅酸化酵素は、電子供与体との反応サイト(タイプI銅部位)と、電子受容体との反応サイト(タイプII−III銅クラスター)とが異なる。すなわち、電極から電子を受け取るサイトと、酸素に電子を渡すサイトが異なるため、酸素還元反応を高効率で触媒することができる。ゆえに、このようなマルチ銅酸化酵素は、生物燃料電池のカソード(酸素還元極)用の電極触媒として使用されており、中でもCueOは最も有望な電極触媒の1つである。
【0005】
また、マルチ銅酸化酵素に分類される酵素として、マルチ銅含有亜硝酸還元酵素がある。マルチ銅含有亜硝酸還元酵素は、タイプI銅及びタイプII銅を有し、タイプI銅が電子供与タンパク質から電子を受け取り、タイプII銅にて亜硝酸イオンを1電子還元し、一酸化窒素を生成する。
【0006】
カソード用電極触媒としてのマルチ銅酸化酵素には、電子受容部位であるタイプI銅の酸化還元電位が、より正側にあることが求められる。カソード電極における過電圧の低下により、生物燃料電池の発電効率向上や、バイオセンサの高感度化が実現されるからである。
しかしながら、例えば、CueOの電子受容部位であるタイプI銅の酸化還元電位は、同じくマルチ銅酸化酵素であるラッカーゼ等に比較して負側で、過電圧による発電効率の低下を招いている。そこで、マルチ銅酸化酵素の電極触媒としての性能を高めるべく、また、マルチ銅酸化酵素の触媒活性メカニズムを解明すべく、変異体の作製も行われている。本発明者らも従来、マルチ銅酸化酵素の改変に積極的に取り組んできた。
【0007】
例えば、非特許文献1では、マルチ銅酸化酵素であるビリルビン酸化酵素のタイプI銅において、軸位配位子である467番目のメチオニンを、非配位性のフェニルアラニン及びロイシンで置換し、スペクトル特性、磁気特性、酸化酵素活性を変化させている。しかしながら、非特許文献1の変異体では、軸位配位子の置換による構造変化により、銅含量、活性の低下、タイプI銅の還元電位の負側へのシフトが生じている。
【0008】
また、非特許文献2では、CotAラッカーゼのタイプI銅部位において、軸位配位子である502番目のメチオニン残基を、ロイシン残基、フェニルアラニン残基で置換することによって、野生型と比較して、還元電位をおよそ100mV、正側にシフトさせることに成功している。しかしながら、非特許文献2の変異体では、軸位配位子の置換による構造変化によって、銅含量、活性、安定性の低下が生じている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Biochem. Biophys. Res. Commun. 2008, 371, 416-419
【非特許文献2】J. Biol. Inorg. Chem. 11 (2006) 514-526
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、過電圧が小さく、発電効率に優れたマルチ銅酸化酵素からなる電極触媒の提供、該電極触媒を備えた酵素電極、並びに該酵素電極を備えた燃料電池及びバイオセンサの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の電極触媒は、少なくともタイプI銅を含む複数の銅原子を有する、マルチ銅酸化酵素からなる電極触媒であって、少なくとも1つのシステイン残基及び2つのヒスチジン残基が、前記タイプI銅に配位しており、前記システイン残基と前記2つのヒスチジン残基のうちリガンドループを形成しているヒスチジン残基との間に存在するプロリン残基、又は、前記2つのヒスチジン残基のうちリガンドループを形成していないヒスチジン残基の下流側に隣接するプロリン残基が、プロリン残基以外のアミノ酸残基で置換され、置換アミノ酸残基のアミドプロトンとタイプI銅配位システイン残基の硫黄原子との間に水素結合を有することを特徴とするものである。
【0012】
本発明者らは、マルチ銅酸化酵素の1つであるCueOについて鋭意研究した結果、上記リガンドループを形成していないヒスチジン残基(以下、リガンドループ外配位ヒスチジン残基、ということがある)の下流側に隣接するプロリン残基を、プロリン以外のアミノ酸の残基で置換することによって、タイプI銅の酸化還元電位を正側にシフトできることを見出した。このような酸化還元電位の正側へのシフトは、タイプI銅部位における上記変異導入によって、上記2つのヒスチジン残基と共にタイプI銅に配位し且つ上記リガンドループを形成するシステイン残基の硫黄原子と、置換アミノ酸残基のアミドプロトンと、の間に生じた水素結合に起因すると考えられる。
プロリン残基をアミノ酸残基に置換する上記変異導入は、リガンドループ外配位ヒスチジン残基に隣接するプロリン残基が保存されているCueO以外のマルチ銅酸化酵素、さらには、リガンドループを形成する前記システイン残基と前記ヒスチジン残基との間にプロリン残基を有するマルチ銅酸化酵素においても有効であり、前記システイン残基の硫黄原子と置換アミノ酸残基のアミドプロトンとの間に水素結合を生じさせることができる。
【0013】
本発明において、前記マルチ銅酸化酵素としては、少なくとも、タイプI銅1個、タイプII銅1個及びタイプIII銅2個を有するマルチ銅酸化酵素が好ましい。
また、前記マルチ銅酸化酵素として、具体的には、CueO、ラッカーゼ、アスコルビン酸酸化酵素、ビリルビン酸化酵素、マルチ銅含有金属酸化酵素、マルチ銅含有亜硝酸還元酵素から選ばれる1種が挙げられる。
【0014】
前記マルチ銅酸化酵素がCueOである場合、本発明の電極触媒は、配列番号:1(オープンリーディングフレーム)に示されるアミノ酸配列において、444番のプロリン残基を、前記アミノ酸残基(プロリン残基以外のアミノ酸残基)で置換したCueO変異体からなる。
【0015】
本発明の酵素電極は、上記本発明の電極触媒を備えることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の燃料電池は、上記本発明の酵素電極を酸化剤極として備えることを特徴とするものである。また、本発明のバイオセンサは、上記本発明の酵素電極を備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、タイプI銅の酸化還元電位を正側にシフトさせたマルチ銅酸化酵素からなる電極触媒を提供することができる。すなわち、本発明の電極触媒は反応過電圧が小さく、本発明の電極触媒を用いることによって発電効率に優れた燃料電池や高感度のバイオセンサの実現を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】マルチ銅酸化酵素のタイプI銅配位子周囲のアミノ酸配列を示すものである。
【図2】野生型CueOのタイプI銅部位の構造を示すものである。
【図3】実施例におけるサイクリックボルタムグラムの結果を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の電極触媒は、少なくともタイプI銅を含む複数の銅原子を有する、マルチ銅酸化酵素からなる電極触媒であって、
少なくとも1つのシステイン残基及び2つのヒスチジン残基が、前記タイプI銅に配位しており、前記システイン残基と前記2つのヒスチジン残基のうちリガンドループを形成しているヒスチジン残基との間に存在するプロリン残基、又は、前記2つのヒスチジン残基のうちリガンドループを形成していないヒスチジン残基の下流側に隣接するプロリン残基が、プロリン残基以外のアミノ酸残基で置換され、置換アミノ酸残基のアミドプロトンとタイプI銅配位システイン残基の硫黄原子との間に水素結合を有することを特徴とするものである。
【0020】
マルチ銅酸化酵素のタイプI銅には、少なくとも、システイン(Cys、C)残基1つと、ヒスチジン(His、H)残基2つが配位している。その他、軸配位子としてメチオニン(Met、M)残基が配位している場合もある(図1参照)。これらタイプI銅に配位したシステイン残基(配位システイン残基)、及び、2つのヒスチジン残基(配位ヒスチジン残基)のうちの一方は、リガンドループを形成している。メチオニン残基が配位している場合には、この配位メチオニン残基もリガンドループを形成している。
【0021】
ここで、リガンドループとは、タイプI銅に配位した配位システイン残基と配位メチオニン残基の間のペプチドがなす構造をいう。軸配位子としてタイプI銅にメチオニン残基が配位していない場合には、タイプI銅に配位したシステイン残基と、該配位システイン残基の下流の前記配位メチオニン残基に対応する位置に存在するアミノ酸残基と、の間のペプチドがなす構造をいう。軸配位子としてメチオニン残基が配位していない場合において、配位メチオニン残基に対応する位置に存在するアミノ酸残基としては、例えば、フェニルアラニン残基、イソロイシン残基、ロイシン残基等が挙げられる。
図1にマルチ銅酸化酵素ファミリーの銅配位子周辺のアミノ酸配列の比較を示す。図1において、1、2、3の数字は、それぞれ、タイプI、II、III銅に配位したアミノ酸残基を表す。また、マルチ銅含有亜硝酸還元酵素(NIR)のリガンドループ中の+は、APEGM(Ala−Pro−Glu−Gly−Met)又はAPPGM(Ala−Pro−Pro−Gly−Met)のペンタペプチド配列の挿入を表している。
また、図1において各マルチ銅酸化酵素は、下記略名で示している。
【0022】
MvBO;Myrothecium verrucaria bilirubin oxidase
RvLc;Rhus vernicifera laccase
CpAO;Cucurbita pepo ascorbate oxidase
TvLc;Trametes versicolor laccase
CcLc;Coprinus cinerius laccase
Fet3p;Saccharomyces cerevisiae ferroxidase
CumA;Pseudomonas putida Mn2+ oxidase
CotA;Bacillus subtilis endospore coat laccase
SLAC;small laccase from Streptomyces coelicolor
hCp;human ceruloplasmin
AxNIR;Alcaligenes xylosoxidans nitrite reductase
AcNIR;Achromobacter cycloclastes nitrite reductase
AfNIR;Alcaligenes faecalis nitrite reductase
【0023】
例えば、CueOの場合、図2に示すように、Cys500とMet510の間のペプチドがなす構造をリガンドループという。図2は、野生型CueOのタイプI銅部位の構造を示すものである。
本発明者らは、マルチ銅酸化酵素のタイプI銅周辺の水素結合ネットワークに着目した。そして、マルチ銅酸化酵素の1つであるCueOのタイプI銅部位において、リガンドループを形成している配位システイン残基(Cys500)の硫黄原子が、同じくリガンドループを形成するロイシン残基(Leu502)との間にのみ水素結合を有し、他のアミノ酸残基との間には水素結合を有していないことを確認した(図2参照)。
【0024】
そこで、本発明者らは、CueOのタイプI銅部位において、アミド結合を有していないためにCys500の硫黄原子と水素結合を形成することができない、444番目のプロリン残基(Pro444)(図1、図2参照)を、主鎖アミド水素原子(アミドプロトン)を有するアミノ酸残基に置換することで、Cys500の硫黄原子に444番目の置換アミノ酸残基のアミドプロトンからの水素結合を導入できることを見出した。
配列表の配列番号1に、野生型(組換え型)の大腸菌由来CueOのアミノ酸配列を示す。また、配列表の配列番号2〜4に、配列番号1のアミノ酸配列を有する野生型(組換え型)の大腸菌由来CueOにおいて、444番目のプロリン残基をアラニン残基、イソロイシン残基、ロイシン残基にそれぞれ置換した変異型CueOのアミノ酸配列を示す。
尚、配列番号1〜4のアミノ酸配列は、オープンリーディングフレームである。また、配列番号1〜4のアミノ酸配列において、N末端側から1番目のメチオニン(Met1)〜28番目のアラニン(Ala28)は、TAT分泌シグナル配列である。
【0025】
そして、このような変異導入を行うことで、CueOのタイプI銅の酸化還元電位を、正側に50〜100mVシフトさせることに成功した。さらに、上記変異導入を行ったCueOは、野生型CueOと比較して、酵素活性が約10倍に増大することも確認された。
【0026】
CueOにおいて、変異を導入したプロリン残基(Pro444)は、タイプI銅に配位した配位ヒスチジン残基(His443、His505)のうち、リガンドループを形成していない配位ヒスチジン残基(His443、リガンドループ外配位ヒスチジン残基)の下流側に隣接している。
図1に示すように、CueOにおいて変異を導入したプロリン残基(リガンドループ外配位ヒスチジン残基に隣接するプロリン残基)は、ほとんどのマルチ銅酸化酵素(図1においては、SLAC、hCp、AxNIR、AcNIR及びAfNIR以外)において保存されている。
ゆえに、リガンドループ外配位ヒスチジン残基に隣接するプロリン残基が保存されているマルチ銅酸化酵素であれば、該プロリン残基をプロリン残基以外のアミノ酸残基で置換する、上記変異導入を行うことによって、配位システイン残基の硫黄原子と置換アミノ残基のアミドプロトンとの間に水素結合を生じさせ、タイプI銅の酸化還元電位を正側にシフトさせることが可能であると考えられる。すなわち、本発明によれば、カソード用電極触媒としてのマルチ銅酸化酵素の性能を、容易に向上させることが可能である。
【0027】
一方、AxNIR、AcNIR及びAfNIR等のマルチ銅酸化酵素は、タイプI銅部位において、リガンドループ外配位ヒスチジン残基の下流側に隣接するプロリン残基を有していない(図1参照)。しかし、これらのマルチ銅酸化酵素では、タイプI銅部位において、配位システイン残基とリガンドループを形成する配位ヒスチジン残基との間にプロリン残基、すなわち、リガンドループ上において、配位システイン残基と配位ヒスチジン残基との間にプロリン残基(以下、リガンドループ内プロリン残基ということがある。)が存在することが確認されている(J. Biochem, 1998,Vol. 124, No.5 876-879、Biochemistry 2001, 40, 9132-9141)。
このようなタイプI銅部位の構造(例えば、リガンドループ内プロリン残基と配位システイン残基との距離等)から、該リガンドループ内プロリン残基を、プロリン残基以外のアミノ酸残基で置換することによって、配位システイン残基の硫黄原子と置換アミノ酸残基のアミドプロトンとの間に水素結合を導入可能であることが推測される。
【0028】
すなわち、配位システイン残基とリガンドループを形成する配位ヒスチジン残基との間に存在するプロリン残基を有するマルチ銅酸化酵素は、リガンドループ内プロリン残基を、プロリン残基以外のアミノ酸残基で置換することによって、配位システイン残基の硫黄原子と置換アミノ酸残基のアミドプロトンとの間に水素結合を形成させることができる。その結果、上記同様、タイプI銅の酸化還元電位を正側にシフトさせることが可能である。
【0029】
具体的には、図1に示すように、AxNIR、AcNIR及びAfNIRのタイプI銅部位には、リガンドループ外配位ヒスチジン残基(His95)の下流側に隣接するプロリン残基はない。しかし、リガンドループを形成している配位システイン残基(Cys136)と、同じくリガンドループを形成している配位ヒスチジン残基(His145)との間に、プロリン残基(Pro143)が存在する。このリガンドループ上に存在するPro143は、アミドプロトンを有していないため、Cys136の硫黄原子との間に水素結合を形成することができない。
そこで、Pro143を、アミドプロトンを有するアミノ酸残基に置換することで、Cys136の硫黄原子に、143番目の置換アミノ酸残基のアミドプロトンからの水素結合を導入でき、タイプI銅の酸化還元電位を、正側にシフトさせることができる。
これらAxNIR、AcNIR及びAfNIRは、マルチ銅含有亜硝酸還元酵素であり、タイプI銅及びタイプII銅を有するマルチ銅酸化酵素に分類される。
【0030】
尚、本明細書において、アミノ酸配列又は塩基配列の下流とは、対象とするアミノ酸配列のC末端又は塩基配列の3’側に続く領域を示し、上流とは、対象とするアミノ酸配列のN末端又は塩基配列の5’側に続く領域を示す。
【0031】
また、タイプI銅に配位した配位システイン残基の硫黄原子と、置換アミノ酸残基のアミドプロトンとの間に水素結合があるかどうかは、X線結晶構造解析等、一般的な手法により確認することができる。
【0032】
以下、本発明の電極触媒、酵素電極、燃料電池及びバイオセンサについて詳しく説明していく。
【0033】
[電極触媒]
本発明において、変異導入を行うマルチ銅酸化酵素は、少なくともタイプI銅を含む複数の銅原子を有し、少なくとも1つのシステイン残基及び2つのヒスチジン残基がタイプI銅に配位しており、該配位システイン残基と2つの配位ヒスチジン残基のうちリガンドループを形成しているヒスチジン残基との間に存在するプロリン残基(リガンドループ内プロリン残基)、又は、2つの配位ヒスチジン残基のうちリガンドループを形成していないヒスチジン残基(リガンドループ外配位ヒスチジン残基)に隣接するプロリン残基を有するものであれば特に限定されない。
例えば、少なくともタイプI銅1個、タイプII銅1個及びタイプIII銅2個を有するマルチ銅酸化酵素の他、タイプI銅及びタイプII銅を有するマルチ銅酸化酵素も含まれる。
本発明において好適に用いられるマルチ銅酸化酵素として、具体的には、少なくともタイプI銅1個、タイプII銅1個及びタイプIII銅2個を有するマルチ銅酸化酵素としては、例えば、CueO、ラッカーゼ(ビリルビン酸化酵素を除く)、ビリルビン酸化酵素(BOD)、アスコルビン酸酸化酵素、マルチ銅含有金属酸化酵素(CueOを除く)等が挙げられ、タイプI銅及びタイプII銅を有するマルチ銅酸化酵素としては、例えば、マルチ銅含有亜硝酸還元酵素が挙げられる。
【0034】
中でも、生物燃料電池のカソード用電極触媒として優れた性能を有する少なくともタイプI銅1個、タイプII銅1個及びタイプIII銅2個を有するマルチ銅酸化酵素が好ましく、例えば、ビリルビン酸化酵素(例えば、MvBOなど)、CotA、RvLc、TvLc、CcLc等のラッカーゼ;CpAO等のアスコルビン酸酸化酵素;CueO、Fet3P、CumA等のマルチ銅含有金属酸化酵素等が挙げられ、これらのうち、特にCueOが好ましい。
また、マルチ銅含有亜硝酸還元酵素としては、例えば、AxNIR、AcNIR、AfNIR等が挙げられる。
【0035】
尚、本発明において、変異を導入するマルチ銅酸化酵素は、菌株から直接採取された野生型マルチ銅酸化酵素でもよく、或いは、本発明において変異導入を行うアミノ酸残基以外において、電極触媒としての触媒活性を消失させない範囲において、野生型マルチ銅酸化酵素の一部を変更、削除等した(例えば、1個乃至数十個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入又は付加された)改変型マルチ銅酸化酵素であってもよい。また、野生型マルチ銅酸化酵素とは、天然型のマルチ銅酸化酵素、及びその組換え型を含む。
【0036】
上記したように、リガンドループ外配位ヒスチジン残基の下流側に隣接するプロリン残基を、プロリン以外のアミノ酸の残基に置換することによって、該置換アミノ酸残基のアミドプロトンから、配位システイン残基の硫黄原子に水素結合を導入することができる。
リガンドループ外配位ヒスチジン残基の下流側に隣接するプロリン残基と置換するアミノ酸残基は、プロリン残基以外のアミノ酸残基であれば、アミドプロトンを有するため、特に限定されない。好ましい置換アミノ酸残基としては、例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン等が挙げられる。
【0037】
本発明において、上記プロリン残基を他のアミノ酸残基に置換する方法は、特に限定されず、一般的な手法を採用することができる。具体的な方法については、実施例において説明し、ここでは、一般的な手法の一例について、その概略を説明する。
【0038】
まず、マルチ銅酸化酵素の発現ベクターを鋳型として、変異導入オリゴヌクレオチドプライマーを用いて、変異導入するプロリン残基を、その他のアミノ酸残基に置換した変異型マルチ銅酸化酵素の発現プラスミドを作製する。このとき、目的の変異型遺伝子領域を単離、調製する方法としては、例えば、PCR法による遺伝子の増幅が挙げられる。
次に、この発現プラスミドを宿主細胞に導入して宿主細胞を形質転換し、この形質転換体を培養することで、変異型マルチ銅酸化酵素を誘導発現させる。このとき、形質転換の方法としては、ヒートショック法、エレクトロポーション法のどちらでもよい。また、形質転換体は、培養し、生育したコロニーからプラスミドを単離し、電気泳動等によって目的の変異型遺伝子が発現しているかどうかを確認する。誘導発現の方法としては、例えば、IPTG(イソプロピルチオガラクトサイド)を誘導物質として用いる方法が挙げられる。
続いて、培養した形質転換体を集菌、破砕し、変異型マルチ銅酸化酵素を精製する。変異型マルチ銅酸化酵素を精製する方法としては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等が挙げられる。
【0039】
尚、本発明において、変異型マルチ銅酸化酵素の調製方法は、上記方法に限定されるものではなく、マルチ銅酸化酵素、宿主細胞、等に応じて、その他の方法を適宜選択することができる。
【0040】
[酵素電極]
本発明の酵素電極は、上記したような変異型マルチ銅酸化酵素からなる電極触媒を備えるものである。酵素電極の具体的な構造としては、電極触媒が、導電性担体の表面に担持されたものが挙げられる。
【0041】
導電性担体としては、酵素電極の導電性担体として一般的に使用されているものを用いることができ、例えば、グラファイト、カーボンブラック、活性炭、カーボンゲル等のカーボン多孔体、白金、金等の金属、等が挙げられる。カーボンゲルは、例えば、特開2008−64514号公報に記載の方法に準じて製造することができる。
【0042】
導電性担体に電極触媒を担持させる方法は特に限定されず、好ましい方法として、例えば、含浸法が挙げられる。含浸法は、まず、電極触媒である酸化酵素を、沈殿が生じない濃度(好ましくは0.1〜1000mg/mL)となるように水又は緩衝液に溶解させた溶液を調製する。そして、その溶液が凍結することなく、また酵素が変性することのない温度(好ましくは0〜50℃)で、該溶液中に粉末状の担体を懸濁又はシート状の担体を浸漬し、酵素と担体を接触させる。接触時間は、5分以上が好ましく、30分以上がさらに好ましい。
また、ポリマー等の固定剤や、含硫黄化合物等のプロモーターを用いて、電極触媒を担体表面に固定化させてもよい。
【0043】
尚、導電性担体がシート状である場合には、そのまま電極として用いることができる。導電性担体が粉末状である場合には、電極触媒を担持した導電性担体をさらに、シート状導電性基材に固定して使用することもできる。
また、酵素電極は、導電性担体及び電極触媒のみから構成されてもよいが、さらに、導電性担体−電極触媒間の電子の受け渡しを促進するメディエータを備えていてもよい。メディエータは、電極触媒であるマルチ銅酸化酵素に合わせて適宜選択すればよい。メディエータは、導電性担体の表面に固定化されることが好ましく、その固定方法は特に限定されるものではない。
【0044】
[燃料電池及びバイオセンサ]
本発明の酵素電極は、燃料電池用電極や、バイオセンサ等の電気化学ディバイスに利用することができる。
例えば、酸素の4電子還元反応に対して触媒活性を有するマルチ銅酸化酵素を備える酵素電極は、基質(電子供与体)若しくはアノード極から受け取った電子を利用して、酸素(電子受容体)を水に還元する、酸素還元電極として機能する。本発明の電極触媒は、上記したように、野生型のマルチ銅酸化酵素と比較して、タイプI銅の酸化還元電位を正側にシフトしているため、過電圧が小さく、発電効率に優れている。従って、本発明の電極触媒を備える酵素電極を、酸素還元電極(カソード)として用いることで、発電性能に優れた燃料電池を得ることができる。
【0045】
このような本発明の酵素電極(酸素還元電極)と対をなす燃料極(アノード)としては、特に限定されず、例えば、酸化還元酵素がグルコース等の基質を燃料とし、酸化する酵素電極であってもよいし、或いは、白金や白金合金等の金属触媒が水素やメタノール等の燃料を酸化する電極であってもよい。燃料極において、電極触媒として酵素を用いる場合、金属触媒を用いる場合の具体的な電極構成は、特に限定されず、一般的な構成を採用することができる。
【0046】
また、本発明の酵素電極をバイオセンサに用いる場合、本発明の酵素電極及び対をなす電極間の電流又は電圧を検知することで、アノード電極における電子供与体の存在の有無又は濃度、或いは、カソード電極における電子受容体の存在の有無又は濃度を測定することができる。本発明の酵素電極は、上記したように、野生型のマルチ銅酸化酵素と比較してタイプI銅の酸化還元電位が正側にシフトした変異型マルチ銅酸化酵素を電極触媒として備えているため、測定感度に優れたバイオセンサを提供することができる。バイオセンサの具体的な構成は、特に限定されず、測定対象、測定目的に応じて、適宜決定すればよい。
【実施例】
【0047】
(1)変異型CueO遺伝子の作製
CueO遺伝子の塩基配列の開始コドンの前に制限酵素EcoRI切断部位、3'末端にヒスチジンタグをコードする塩基配列と制限酵素BamHI切断部位を付加し、さらに、CueO遺伝子内部にアミノ酸置換のないサイレントな変異により制限酵素NcoI切断部位を導入した遺伝子を、クローニングベクターpUC18のEcoRI‐BamHI切断部位に挿入した組換え型CueO発現プラスミドpUCCueO'を鋳型に、PCRを用いるクイックチェンジ法により、444位のPro残基をAla、Ile、Leu残基に置換した変異型CueO発現プラスミドを増幅した。
それぞれ、P444A変異型遺伝子の増幅にはCueO_P444A(+)、CueO_P444A(-)、P444I変異型遺伝子の増幅にはCueO_P444I(+)、CueO_P444I(-)、P444L変異型遺伝子の増幅にはCueO_P444L(+)、CueO_P444L(-)のプライマーセットを使用し、以下に示すPCR反応液を用い、以下の反応サイクルで変異導入を行った。また、増幅には、DNAポリメラーゼとして、Pwo Super Yield DNA Polymerase (ロッシュ・ダイアグノスティクス社製)を使用した。
pUCCueO'中の組換え型CueO遺伝子の塩基配列を、配列表の配列番号5に示す。尚、配列番号5の塩基配列において、5’末端側から、1〜6番目の塩基(gaattc)はEcoRI切断部位、7〜9番目の塩基(atg)は開始コドン、1130〜1135番目の塩基(ccatgg)はNcoI切断部位、1558〜1575番目の塩基(catcatcatcatcatcat)はHisタグコード配列、1576〜1578番目の塩基(taa)は終止コドン、1579〜1584番目の塩基(ggatcc)はBamHI切断部位である。
【0048】
<合成オリゴヌクレオチドプライマー>
CueO_P444A(+) : 5'-cat gat gct gca tgc gtt cca tat cca cg-3'
CueO_P444A(-) : 5'-cgt gga tat gga acg cat gca gca tca tg-3'
CueO_P444I(+) : 5'-cat gat gct gca tat ctt cca tat cca cg-3'
CueO_P444I(-) : 5'-cgt gga tat gga aga tat gca gca tca tg-3'
CueO_P444L(+) : 5'-cat gat gct gca tct gtt cca tat cca cg-3'
CueO_P444L(-) : 5'-cgt gga tat gga aca gat gca gca tca tg-3'
【0049】
<PCR反応液>
Pwo Super Yield PCR buffer (×10) with MgCl2 5.0μl
pUCCueO'(10 ng/μl) 1.0μl
(+)、(-)プライマー(10pmol/μl) 各1.0μl
GC-RICH solution (ストラタジーン社製) 10.0μl
dNTPmix (2 mM,東洋紡社製) 5.0μl
滅菌水 26.5μl
Pwo Super Yield DNA Polymerase 0.5μl
合計 50.0μl
【0050】
<反応サイクル>
(1)95℃、60sec予熱
(2)95℃、50sec変性
(3)56℃、50secアニーリング
(4)68℃、90sec伸長
→(2)に戻る(18サイクル)
(5)68℃、7min伸長
【0051】
上記反応終了後、下記エタノール沈殿で増幅産物を濃縮した。
(2)エタノール沈殿
50μlのサンプルに3M酢酸ナトリウム5μlとエタノール100μlを加えて混合し、−80℃で10分間静置した。その後、遠心分離を行い、上清を捨てた。ペレットに70%エタノールを500μl加え、洗浄後、再度遠心分離を行い、上清を捨てた。5分ほど減圧乾燥を行い、ペレットを20μlのTE緩衝液に溶かした。
【0052】
(3)制限酵素消化
以下の反応系で増幅断片中の鋳型DNAの制限酵素DpnI消化処理を行った。
【0053】
<反応液>
PCR増幅断片 20.0μl
Tango緩衝液(x10,フェルメンタス社製) 5.0μl
DpnI(10 U/μl、フェルメンタス社製) 1.0μl
滅菌水 24.0μl
合計 50.0μl
反応液調整後、37℃で1晩消化し、エタノール沈殿および減圧乾燥を行った。
【0054】
(4)変異型CueO発現プラスミドの製造
<形質転換>
上記制限消化後、エタノール沈殿で得たペレットを10μlの滅菌水に溶解し、E. coli XL10-Goldコンピテントセル50μlに加え、全量をキュベット(1 mm電極ギャップ)に入れた。バイオラッド社製Micro Pulserを用いて、プログラムEC-1でエレクトロポレーションを行い、大腸菌を1 mlのLB培地に懸濁し回収した。37℃で1時間震盪した後、アンピシリンを含むLB寒天培地プレートに塗布した。プレートは37℃で1晩静置した。なお、コンピテントセルの調整はバイラッド社のインストラクションに従って行った。
【0055】
<変異型CueO発現プラスミドの確認>
生育したコロニーから、アルカリSDS法によってプラスミドを単離し、得られたプラスミドの中に変異型遺伝子の配列を確認した。得られた3種の変異型CueO発現プラスミドをそれぞれ、pUCCueO-P444A、pUCCueO-P444I、pUCCueO-P444Lとする。
配列表の配列番号2〜4に、pUCCueO-P444Aのコードする変異型CueO(配列番号2)、pUCCueO-P444Iのコードする変異型CueO(配列番号3)、pUCCueO-P444Lのコードする変異型CueO(配列番号4)のアミノ酸配列を示す。
【0056】
(5)変異型CueOの製造及び精製
(形質転換体の培養)
形質転換体E. coli XL10-Gold / pUCCueO-P444A (pUCCueO-P444I,pUCCueO-P444L)を以下の二段階で培養し、変異型タンパク質を発現させた。
前培養(試験管) : 0.1mg/mlアンピシリンを含むLB培地4ml中、37℃で、一晩好気培養を行った。
本培養(2Lバッフル付三角フラスコ) : 1mM CuCl2、0.5mM IPTGを添加した400mlの上記培地中、32℃で、12時間好気培養を行った。
その後、遠心分離により集菌し、0.85%の塩化ナトリウム水溶液で洗浄後、直ちに以下のオスモティックショックを行った。
【0057】
(変異型タンパク質の採取及び精製)
<オスモティックショック>
菌体を氷冷した20%ショ糖、100mM Tris-HCl緩衝液(pH7.5)、10mM EDTA溶液に懸濁し、氷水中で10分間静置後、遠心分離により菌体を回収した。次に、プロテアーゼ阻害剤を含む氷冷蒸留水に懸濁し、氷水中で10分間静置後、遠心分離により上清を回収した。得られた上清を、さらに90,000×g、30分間超遠心分離に供し、その上清を粗酵素液とした。
【0058】
<IMAC(金属アフィニティークロマトグラフィー)>
300 mM NaClを含む50 mM Tris-H2SO4 緩衝液 (pH 8.0)で平衡化したNi-NTA agarose カラム(20 ml)に粗酵素液を重層し、20 mMイミダゾールを含む50 mM Tris-H2SO4 緩衝液 (pH 8.0) 300 mlでカラムを洗浄した。その後、200 mMイミダゾールを含む50 mM Tris-H2SO4緩衝液 (pH 8.0)で吸着したタンパク質を溶出させた。溶出画分を回収・濃縮し、100 mM リン酸緩衝液 (pH 6.0)で透析して精製標品とした。
【0059】
(6)発色基質ABTS(2,2'-azino-bis(3-ethylbenzothiazoline-6-sulfonic acid)に対する変異型CueOの活性評価
キュベット中で100 mM酢酸緩衝液 (pH 5.5) 0.89 mlと、60 mM ABTS水溶液0.1 mlとを混合し、変異型CueO水溶液10μlを加えて倒立混合し、分光光度計(JASCO U-560,日本分光)を用いて、0〜30秒後までの420 nmにおける吸光度の変化を測定した。ABTSの420 nmにおけるモル吸光係数ε420 = 36,000を用いて,活性値を算出した。活性の単位(U)は、1分間に1μmolのABTSを酸化する酵素量とした。
<結果>
各変異型CueOのABTS酸化反応の比活性(タンパク質1 mg当たりの活性値)は、それぞれ、P444Aが5.1 U/mg、P444Iが5.3 U/mg、P444Lが5.2 U/mgであり、野生型CueOの0.45 U/mgと比較し、約10倍の活性化が確認された。
【0060】
(7)変異型CueOの電気化学的特性評価
<カーボンゲルの作製>
レゾルシノール5.5g及び炭酸ナトリウム26.5mgを蒸留水16.9gに溶解させ、その後37%ホルムアルデヒド溶液8.1gを加えて撹拌混合した。なお、各成分のモル比は、レゾルシノール:炭酸ナトリウム:ホルムアルデヒド=200:1:400である。
次に、得られた原液に水を加えて、体積比で2倍に希釈した。希釈した溶液をバイアル瓶に入れて密栓し、室温で24時間、さらに90℃で72時間静置し、水和された有機ゲルを得た。
次に、有機ゲル中の水分を除去するために、交換溶媒であるアセトン中に有機ゲルを浸漬した。水分の拡散が飽和したところで、アセトンを交換する操作を数回繰り返し、ゲル中の水分を完全にアセトンに置換した。次いで、浸漬溶媒をn−ペンタンに変更し、有機ゲル中のアセトンがn−ペンタンに完全に入れ替わるまで、溶媒交換−浸漬を繰り返した。さらに、n−ペンタンに溶媒置換された有機ゲルを風乾させ、乾燥有機ゲルを得た。
得られた乾燥有機ゲルを窒素気流下(流量300ml/min)、1000℃で6時間加熱し、有機ゲルを炭化させた。
【0061】
<酵素電極の作製>
約0.35%PVDF(Polyvinylidine Difuluoride)を含有するNMP(N-Methyl-pyrrolidone)溶液160μlに、5mgのカーボンゲルを懸濁したスラリーを調整し、直径6mmのグラッシーカーボン電極(BAS社製、型番:002021)表面に上記スラリーを1.5μl添加してカーボン担体を電極表面にコートした。得られたカーボン修飾電極をCueO変異体水溶液(20μg/ml)に浸漬することにより、酵素をカーボン修飾電極に固定化した。
【0062】
<試験方法>
得られた酵素電極を作用電極として、サイクリックボルタムグラム法(電位:0〜700mVの間で電流掃引、電流掃引速度:20mVsec-1もしくは5mVsec-1、回転電極:3000rpm)により電極の電気特性を評価した。対極には、白金を用い、参照極には、銀/塩化銀電極を用いた。電解質には、硫酸カリウムでイオン強度を0.3に調整し、酸素を飽和させた、0.1M McIlvaine緩衝液(pH5.0)を用いた。
【0063】
<結果>
図3にサイクリックボルタムグラムを示す。図3より、P444A、P444I、P444Lいずれの変異体を用いた酵素電極も、野生型CueOを用いた場合に比べ、-0.1mAcm-2における酸素還元電流の立上がり電位が約50〜100mV正側にシフトすることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともタイプI銅を含む複数の銅原子を有する、マルチ銅酸化酵素からなる電極触媒であって、
少なくとも1つのシステイン残基及び2つのヒスチジン残基が、前記タイプI銅に配位しており、
前記システイン残基と前記2つのヒスチジン残基のうちリガンドループを形成しているヒスチジン残基との間に存在するプロリン残基、又は、前記2つのヒスチジン残基のうちリガンドループを形成していないヒスチジン残基の下流側に隣接するプロリン残基が、プロリン残基以外のアミノ酸残基で置換され、置換アミノ酸残基のアミドプロトンとタイプI銅配位システイン残基の硫黄原子との間に水素結合を有することを特徴とする電極触媒。
【請求項2】
前記マルチ銅酸化酵素が、少なくとも、タイプI銅1個、タイプII銅1個及びタイプIII銅2個を有する、請求項1に記載の電極触媒。
【請求項3】
前記マルチ銅酸化酵素が、CueO、ラッカーゼ、アスコルビン酸酸化酵素、ビリルビン酸化酵素、マルチ銅含有金属酸化酵素、マルチ銅含有亜硝酸還元酵素から選ばれる1種である、請求項1又は2に記載の電極触媒。
【請求項4】
前記マルチ銅酸化酵素がCueOであって、配列番号:1(オープンリーディングフレーム)に示されるアミノ酸配列において、444番のプロリン残基が、前記アミノ酸残基で置換された、請求項3に記載の電極触媒。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の前記電極触媒を備えることを特徴とする、酵素電極。
【請求項6】
請求項5に記載の酵素電極を酸化剤極として備える、燃料電池。
【請求項7】
請求項5に記載の酵素電極を備える、バイオセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−183857(P2010−183857A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28988(P2009−28988)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】