説明

電気めっきにおける外観不良判別方法

【課題】経験則、試行錯誤による判断に伴う不具合箇所(不良発生めっきセル)の特定に替えて、電気めっきの際の実際の電流波形から、外観不良を判別することにより、かかる外観不良が発生しているめっきセルを迅速に特定することができる外観不良判別方法を提供する。
【解決手段】各めっきセル毎の通電電流の変化を、めっき整流器により測定し、該通電電流の波形変化により、めっき外観不良の発生箇所を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のめっきセルを用いた電気めっき処理において、めっき外観不良が発生した場合に、原因のあるめっきセルを迅速かつ簡便に特定することができる、電気めっきにおける外観不良判別方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電気めっき鋼板の外観のコントロール方法は、めっき液流量や通電時の電流密度、通電「入」「切」によるめっき層、地鉄表面のエッチングの有無などのマクロ的な観点より、電気めっき処理後の外観不良(めっき処理に起因したもの)を定性的にコントロールするものであった。
【0003】
また、上記の外観のコントロール方法を、複数セルに適用するに当たっては、作業者の試行錯誤により、そのパターンを決定していた(特許文献1、2参照)。
さらに、複数のめっきセルのうち、めっき外観不良(模様等)を発生させているめっきセルの特定に関しても、作業者の試行錯誤により特定されているのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−206928号公報
【特許文献2】特開2005−272980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記した複数のめっきセルのめっき液流量や通電時の電流密度、通電「入」「切」などで、めっき外観不良が発生しているめっきセルを特定するには、特定までに長時間を要する問題があった。また、直接的に外観に悪影響を及ぼしている箇所の誤認識(前後のめっきセルでの処理条件による軽減効果の影響等)が生じやすく、本質的な発生箇所の特定が困難であるという問題があった。その結果、後日、めっき外観不良が再発しやすい等の問題もあった。
【0006】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、上述したような経験則、試行錯誤による判断に伴う不具合箇所(不良発生めっきセル)の特定に替えて、電気めっきの際の実際の電流波形から、外観不良を判別することにより、かかる外観不良が発生しているめっきセルを迅速に特定することができる外観不良判別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
(1)複数基のめっきセルを用いて鋼板に電気めっきを施すに際し、各めっきセル毎の通電電流の変化を、めっき整流器により測定し、該通電電流の波形変化により、めっき外観不良の発生箇所を特定することを特徴とする電気めっきにおける外観不良判別方法。
【0008】
(2)前記めっきセルの通電電流の波形の振幅が、予め定めたしきい値を超えた場合に、当該セルにおいて外観不良が発生していると特定することを特徴とする前記(1)に記載の電気めっきにおける外観不良判別方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、めっき整流器で通電電流の波形変化を測定し、この波形変化で複数のめっきセル中のめっき液流れ状態を、めっきセル毎に把握することができ、そのため、外観不良が発生しているめっきセルを迅速に特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】巻き込み泡を有するめっき液流れを示した図である。
【図2】巻き込み泡がないめっき液流れを示した図である。
【図3】めっき電流波形例1を示した図である。
【図4】めっき電流波形例2を示した図である。
【図5】外観不良判別区域を周期fと振幅Hとの関係で示した図である。
【図6】電流収集システムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の解明経緯について説明する。
発明者らは、まず、電気めっきを施す際に発生する外観不良の原因について検討した。
その結果、図1に示すように、めっきの外観不良が発生しているめっきセルには、めっきセル内でのめっき液流れに関し、泡巻き込み等による流れの不均一な箇所が認められる場合が多いことが判明した。これに対し、図2に示すように、外観が良好な場合は、泡等は認められず整流となっていることが分かった。
【0012】
通常、電気めっきは定電流の設定で行われることが多いが、上述したような泡巻き込み等が発生した場合、泡部分に関しては相対的に電圧が高くなり、定電流とするために整流器は電流をプラスする方向に作用し、泡の有無で電流変動と定電流への調整で、実際の電流が細かい周期でハンチングする。このことから、めっき整流器の実際の電流波形を観察することにより、めっきセル内のめっき液流れを間接的にではあるが評価、判定することができ、この評価、判定によって、めっき外観への影響を評価できるのではないかと考えた。
【0013】
そこで、電気めっきを施す際の整流器電流波形を観察し、めっき外観との関係を調査した。
図3および4にそれぞれ、めっきの外観不良が発生している場合とめっきの外観不良が発生していない場合におけるめっき整流器電流波形の例を、電流波形例1、2として示す。
図3は、短周期での振幅変動、かつ長周期での振幅変動が認められる。このような場合には、めっき液中に泡流れが生じていることが認められた。
一方、図4に示すような波形の場合には、めっき液中に泡流れは認められなかった。
【0014】
このことから、定電流に設定した整流器の実際の電流波形の変化によって、めっきセル内のめっき状態の変化を推定でき、当該セルでの電気めっき外観不良の判別および特定ができるとの結論に到った。
【0015】
そこで次に、具体的にめっき外観不良の判別要領について検討した。
その結果、一定の通板速度で、所定厚みのめっきを施そうとする場合には、予め定めた振幅変動のしきい値を超えた時にめっき外観不良が発生していると判別できることが分かった。なお、この振幅変動のしきい値は、使用する整流器の性能に応じて適宜設定すれば良い。
【0016】
その一例を図5に示す。図中、この例では通電電流の波形の振幅が0.05kAを超えた場合に、不良域に入ったと判断している。
なお、この時の鋼板の通板速度Vは70mpmであり、めっき厚みtは20μmであった。
【0017】
上述した手順に従えば、所定の鋼板の通板速度Vとめっき厚みtとに応じためっき外観不良を判別することができ、その結果、めっき鋼板の外観不良が発生したセルを迅速かつ正確に特定することができる。
【実施例】
【0018】
連続焼鈍後の鋼板(SPCC(JIS G 3141))を電気めっきラインで処理する際の電流の波形変化を図6に示す電流収集システムを用いて測定した。図中、1は整流器、2は電流、3は通電ロール(陰極)、4はめっき鋼板、5はゴムロール、6は整流器の電流収集器である。
なお、この時の鋼板の通板速度Vは70mpmであり、めっき厚みtは20μmの一定とした。
【0019】
図5の判定要領に従う外観不良判別方法を適用した場合は、1週間の連続操業で3回の外観不良を検出したが、その際迅速に外観不良が発生したセルを特定することができた。なお、その後の1週間で外観不良が再発したセルは1台もなかった。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明に従う外観不良判別方法を適用することにより、電気めっき鋼板の外観不良の発生セルを迅速に特定することができ、また、電気めっきによる外観不良の再発を防止できるので、高品質低価格な電気めっき鋼板を提供できる。
【符号の説明】
【0021】
1 整流器
2 電流
3 通電ロール(陰極)
4 電気めっき鋼板
5 ゴムロール
6 整流器の電流収集器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数基のめっきセルを用いて鋼板に電気めっきを施すに際し、各めっきセル毎の通電電流の変化を、めっき整流器により測定し、該通電電流の波形変化により、めっき外観不良の発生箇所を特定することを特徴とする電気めっきにおける外観不良判別方法。
【請求項2】
前記めっきセルの通電電流の波形の振幅が、予め定めたしきい値を超えた場合に、当該セルにおいて外観不良が発生していると特定することを特徴とする請求項1に記載の電気めっきにおける外観不良判別方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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