説明

電気インピーダンス測定に基づいた肝脂肪症の診断およびモニター装置

【課題】
1以上の周波数での肝臓の電気インピーダンスを直接測定することで肝脂肪症(肝臓内の脂肪)の程度を迅速に決定するためのシステムを提供する。
【解決手段】
測定は、医療用のその他の装置(例:腹腔鏡プローブ)にカップリングできる表面または最小程度に侵襲的であるセンサによって行なわれる。インピーダンスと参照生検内の肝脂肪割合との間の相関関係に基づくインターポレーションアルゴリズムによって、システムは臓器の肝脂肪症程度を迅速に他の処置を必要とせずに決定できる。本発明は肝臓移植等に利用することができ、その他の外科手術と併せて移植臓器の利用可能性について迅速な診断を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療/保健分野に関し、特には医療用の記録および診断装置に関する。特に本発明は肝脂肪症の程度を迅速および非侵襲的に判定するための電気インピーダンスの測定に基づいた装置の利用に関する。本発明の主たる利用目的は臓器移植を意図した肝臓の脂肪症の診断である。
【背景技術】
【0002】
[肝脂肪症の定義]
肝脂肪症(HS)とは肝細胞(肝臓細胞)の細胞質内に存在する組織的に可視である脂質の蓄積症状であり、肝臓関係で最も頻繁に発症する代謝性変質のことである。幾つかの原因のうちでHSは脂肪の摂取量の増加(増大摂取)、β-酸化現象の低下、タンパク質の減少あるいは毒素の摂取によると考えられる。西洋社会においては最も可能性が高い原因は肥満とアルコール摂取である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
[肝脂肪症の判定]
肝臓穿刺生検(HPB)手段による組織検査はHSの診断のために最も利用されている医療技術であり、従ってこの病気の診断のための基準となっている。それでもHPBはいくつかの弱点を有している。まずこの技術は侵襲的であり、その検査分野は限定的であり、発症には非常に多様なパターンが存在するためにHSの診断は複雑である。また処理分析に要する時間が長く、専門の病理医を必要とする。その結果、検査費用が高額になり、判断が主観的になる可能性がある。
【0004】
罹患している肝臓の細胞(肝細胞)の割合によってHSは分類される。(1)軽度:罹患肝細胞の25%以内、(2)中程度:罹患肝細胞の25%から50%、(3)重度:罹患肝細胞の50%以上。さらにHSでは2つの主要な形態的区分が存在する。すなわち大胞性HSと小胞性HSであり、それら両方がHSで同時的に発見されることがある。
【0005】
[肝脂肪症と肝臓移植]
歴史的にHSは移植後の死亡率および病症程度に密接に関係付けられてきた。15%以上のHS(とりわけ大胞性病症)、65歳以上であること、およびC型肝炎ウィルスの保菌は肝器官の寿命または移植された患者の余命に大きく影響を及ぼす3つの基本的で独立的なパラメータである。
【0006】
今日、肝臓のドナーの需要が益々増加しているため、年配のドナーの数が増加しており、その結果、肥満あるいはアルコール中毒のごとき病症を有したドナーの数が益々多くなっている。この事実は肝臓移植に使用される肝臓が多かれ少なかれ肝脂肪症を患っている可能性が高くなっていることを意味する。
【0007】
脂肪肝の使用は移植後の肝機能不全(PNF)の増加に関与している。この肝機能不全は脂肪肝が正常肝臓よりも移植に付随する虚血/再灌流の処理および冷蔵保存により発症する病変に対する抵抗力が弱いという事実に関係する。
【0008】
このことによって大きく明確な障害が伴うHSは移植組織に対する拒絶反応の主要原因の1つである。この診断はドナーの病歴データ、酵素レベルの分析、視覚的検査、超音波検査および数は少ないもののHPBを利用して行われる。移植におけるHSの主な問題点はさほど顕著ではない肝脂肪症程度の検出が必要なことである。なぜならHSが疑わしい外観(黄色表面)を有した肝臓が移植対象である場合、移植臓器としてその肝臓を使用するか否かを手術(腹腔鏡手術)の最中に決定しなければならないことがあるからである。
【0009】
HPBは現在実施されているもので最も信頼性が高いHS診断試験であるが、移植の手術時に実施される場合にはその弱点が増幅される。HSの局所的影響および長い処理時間を回避するためにいくつかの侵襲的穿刺を実行することは迅速および最低限の侵襲的診断を旨とする移植プロセスそのものの基本的な必要性とは相容れない。加えて移植の特殊な場合にはHPBは臓器保存のための急速冷却技術によって不確定的結果をもたらし、病理医による解釈を困難にする。
【0010】
これらのため、移植用肝臓の迅速で信頼性の高い評価には問題が残っており、肝臓の移植手術にとって大きな関心事である。
【0011】
[肝臓組織の評価に利用される電気インピーダンス]
“電気インピーダンス”はサンプルに適用される交流電圧と、そこを流れる電流との関係を表す。そのサンプルが生物の一部である特殊な場合には通常は“電気バイオインピーダンス”または単に“バイオインピーダンス”と呼ばれるものが利用される。電気バイオインピーダンスは自身では直接的な解釈を有する生理学的パラメータを構築しない。いずれにしろバイオインピーダンス値あるいはそれから数学的に導き出した受動的電気特性は医療に利用できる特定の状況および出来事を間接的に反映する。
【0012】
電気インピーダンスの測定から得られた値はサンプルのジオメトリや、サンプルを構成する物質の電気特性により変動する。様々な要素で成るサンプルではそれら要素間のジオメトリな関連性が得られる値に大きく影響を及ぼすであろう。事実、様々な解剖学的要素で発生するマクロスコープのスケールでのジオメトリ変化がバイオインピーダンスのために引き起こす影響にそれらの機能が基づいている重要な医療技術がいくつか存在する。この医療技術のいくつかの例にはインピーダンス心電図検査、インピーダンスプレチスモグラフィおよびインピーダンス肺撮影が含まれる。“バイオインピーダンス分析(BIA)”と呼ばれる別技術はその機能を、脂肪組織が赤身組織よりもずっと大きな電気抵抗性を示すという事実に基づかせている。インピーダンスの測定は体内の水分の割合を決定させる。この事実および被験者の体重や性別等の様々な追加のパラメータとのその相関性のお陰で、体脂肪の割合は数学公式や基準値を利用することによって体内に存在する赤身組織や他の組織(骨等)との関係で導き出される。
【0013】
この点で本発明は、その目的がマクロスコープのスケールでジオメトリな特徴を明らかにすることではない上述のものとは異なる。すなわちこれは1つのマクロスコープの均質な組織を扱うものであり、バイオインピーダンスから導かれたパラメータが分析に回された組織に適した電気特性によって変動することを想定している。換言するとバイオインピーダンスは生体組織の状況を特徴づけるのに使用されるであろう。生体組織の様々な物理的特徴および化学的特性はそれらを区別させるだけではなく、特定の病状を検出して正常との比較により評価させる特定インピーダンスを提供する。ガン等(US2006100488、US2005065418、EP1600104、WO03084383、US2003105411)、虚血症(WO2004105862、US5807272、WO0114866)およびカリエス(US6230050)等、生体組織の特定病症の存在を検出し、状態を診断するためにインピーダンスを利用する発明は既に存在する。しかし今日に至るまで臓器の脂肪症を診断するために電気インピーダンスを利用する発明は為されておらず、この点に関する科学的研究も行われていない。
【0014】
[電気インピーダンスの生理学モデルおよび測定]
生物の細胞膜は2つの電解媒質(細胞外媒質および細胞内媒質)とに分けられる不完全な誘電材料の薄層として作用すると一般的には考えられている。このモデルは他の材料に対するインピーダンスの観点から生体組織の通常の特徴を大まかに説明する。このモデルのパラメータを変更するいかなる因子も電気インピーダンスの手段で得られる値の一部に影響を及ぼすであろう。多数の細胞変性または組織変性は、細胞浮腫、細胞外浮腫、細胞死滅、細胞内イオン結合の閉鎖または開放、細胞の物理的脱結合、イオンの非均衡、細胞形状の変化および電気穿孔による膜の孔開け等がインピーダンス値を変更するとして解説されている。
【0015】
分析される各周波数に対して電気インピーダンスは対の値を提供する。この対はインピーダンスの“強度”並びに“位相”として表現できる。しかし強度と位相に数学的に関係する他の対の値(例えばインピーダンスの“実数部分”および“虚数部分”または“導電率”および“誘電率”)が普通は使用される。個別または数学的に組み合わされたこれら全ての値は組織の特徴付けに利用できる。経験に基づく数学モデル(例えばコールモデル)は生体組織の特徴付けで必要とされる値の数を最小とするのに多用される。
【0016】
生体組織の受動的電気特性を得るための様々な技術が存在する。高周波数(100MHz以上)では電磁波の伝達または反射に基づく方法が通常は使用される。もっと普通に利用される方法は電極に基づく測定方法であるが、低周波数の場合には方法は誘導性結合に基づいて利用できる。多くの場合には4個の電極の手段(四極法またはケルビン法)による測定が選択されるが、2つの電極または3つの電極であっても可能である。バイオインピーダンスの測定技術とそれらの利用法は“バイオインピーダンスと生物電気の基礎”(S.グリムネスとO.G.マルチンセン;アカデミックプレス社により2000年に発行、ロンドン)で詳しく説明されている。
【0017】
本発明は発明者自身が観察した電気インピーダンスの測定が生物の肝脂肪症程度の検出と診断に利用できるという事実に基づく。この事実は新規である。なぜなら前述したように生体組織の病変を検出して診断するためにインピーダンスを利用する発明は存在するが、いずれも脂肪症には言及していないからである。
【0018】
この発見に基づき、本発明の目的は臨床目的および動物を使用した実験目的で生物医学的な利用のための測定機器あるいは装置を提供することである。これは肝脂肪症(HS)として知られる肝臓での脂肪の蓄積による肝臓障害の診断に利用できる。
【0019】
従って本発明の目的は肝臓の脂肪症の診断に臨床的に使用する装置(発明装置)の提供であり、脂肪症の程度の判定のために肝臓器官の電気インピーダンスを測定するものである。臨床用装置とは医療用および獣医用の利用のために設計された装置のことであり、消毒可能であって生体適合性であり、電気的に安全なものである。
【0020】
本発明の特定の目的は少なくとも以下を含んで構成される脂肪症の検出のための発明装置の提供である。
【0021】
a)様々な生体適合性電極で形成されたインピーダンス測定センサ
b)10Hzから10MHzの電気インピーダンスの測定モジュール
c)得られた測定値の制御と分析のための電子機器
【0022】
この装置は肝臓と接触する電極を利用し実行され、臨床的に利用できるように肝臓内の脂肪の割合を脂肪症の程度に関連付けるインピーダンス測定手段によって肝臓内の脂肪の割合(脂肪症)を決定するものである。
【0023】
肝脂肪症に侵された臓器において、およびこの病症の結果として脂肪が細胞内に蓄積する過程で、異なる周波数にて組織の電気インピーダンスを変える組織の構造に徐々に変化が生じ(主として細胞サイズの増大と細胞外空間の縮小)、インピーダンスの直接的な測定に基づいて肝脂肪症の程度を区別させる。1以上の周波数でのインピーダンスの測定で正常肝組織と脂肪肝組織との間に明らかな相違が観測される。これらの相違は蓄積した脂肪の割合の関数として線的に増加し、組織学的に判定されたHSの程度との信頼性が高い相関関係を提供する。
【0024】
前述したように電気インピーダンスの測定は1以上の周波数で行われる。1つの周波数(典型的には低周波数)での測定は肝脂肪症の検出のために理論的には可能であるが、そのような測定値は患者間の大きな生理学的相違のために信頼度が劣る。この意味で複数の周波数での測定は診断の結果を向上させる。なぜなら複数の間接的パラメータが抽出され、変動幅を小さくし、診断の信頼性を高めるからである。これらパラメータは、例えば複数の弾性率間の関係または高低周波数の相違のごとき単純な関係でよい。あるいはインピーダンススペクトルのモデルに適合するものから得られるさらに複雑なパラメータ(アルファ、中央周波数、R0とR∞)でもよい。
【0025】
この点で本発明の別目的は以下の特徴を備えた脂肪症の検出のための発明装置の提供である。この装置は10Hzから10MHzの様々な周波数で肝臓の電気インピーダンスを測定する手段を含み、肝脂肪症の程度を診断するために異なる周波数での測定値間の関連性を利用する。
【0026】
電気インピーダンスの測定は媒質内への電流の注入と、結果としての電位の同時的な読取値の取得により実行する。この点で電極の数、材質、形態および配置は電気インピーダンスの測定に非常に重要である。なぜならそれらはそれぞれ測定技術、測定効率および測定組織量に影響を及ぼすからである。同様に、並びに特に臨床での利用においては電極の形態と配置はインピーダンス測定の侵襲的性格をも決定し、それら電極に使用される材質は生体適合性に重要な考察要素である。
【0027】
この点で脂肪症を検出する発明装置が含むインピーダンス測定センサは以下の配置構成を含む。
a)異なるサイズと形態でも構わない電極で成る表面センサ
b)最低限程度の侵襲性であるセンサ。この場合、電極は損傷を最小に押さえるために肝臓に刺す小型針内に配置される。このシステムでは4つの電極を備えた1本の針から、それぞれ1つの電極を備えた4本の針まで利用できる。
【0028】
よって本発明の1実施例は非侵襲的表面センサとして電極を含んで構成される脂肪症検出のための装置を提供する。本発明の別な1実施例は最小程度に侵襲的であるセンサとして小型針内に配置された電極を含む脂肪症の検出装置を提供する。
【0029】
材質に関しては本発明の別な1実施例は、インピーダンス測定センサとして高導電性である金、銀、塩化銀、プラチナまたはその他の生体適合性材料で作成及び/又はコーティングされた電極を含んだ脂肪症の検出装置を提供する。
【0030】
測定技術と電極の配置構成に関しては本発明の別な1実施例は、電極の数が2個から4個である表面及び/又は侵襲的電極で成るセンサを含んだ脂肪症検出装置を提供する。これら電極形状は使用される方法により決定される2箇所、3箇所および4箇所でインピーダンス測定を実行させる。この電極形態はアース端末として作用する電気メスのアース作用を利用して3箇所で測定を実施させることもできる。
【0031】
同様に、本発明の別な1実施例は臓器表面の様々な立体箇所でインピーダンスを測定させるための2個、3個あるいは4個づつに独立して選択できる半剛質またはフレキシブルな基板上の複数(5個以上)の表面及び/又は侵襲的電極を含んだ脂肪症検出のための発明装置を提供する。
【0032】
脂肪症を検出する発明装置は、臓器移植に関係しない他の腹部病変で開腹手術が必要な患者に移植される肝臓器官において迅速および非侵襲的に肝脂肪症の程度を診断でき、開腹手術は必要としないが最小限度に侵襲的な腹部手術によってプローブやカテーテルを介して肝臓の表面にアクセスさせる手術において利用される。
【0033】
よって本発明の別な1目的は、開腹手術中に手動で扱えるように1体の装置に複数の電極を組み込んだ脂肪症検出のための発明装置の提供である。図1はこのような利用に供する脂肪症検出装置を図示する。
【0034】
本発明の別な1目的は、装置の内蔵プローブまたはカテーテル内に配置される医療用腹腔鏡装置内に電極が内蔵されており、腹腔鏡手術中に開かれた腔部内に導入される脂肪症検出のための発明装置の提供である(図2)。
【0035】
本発明の別目的は、臓器の重量を測定し、肝臓が摘出されると使用されるようにプラットフォーム上に電極が配置された脂肪症検出のための発明装置の提供である。この脂肪症検出の発明装置は臓器移植中および法医学処理において肝臓器官の摘出用に設計されている。勿論この実施例では外部ワイヤによる接続は存在せず、電極と処理回路との間の接続はこのプラットフォーム上で行われる。図3は脂肪症検出のための発明装置のこの設計を図示する。
【0036】
脂肪症検出のための発明装置は、得られたインピーダンス値を調整し、電気インピーダンスの測定値が電極に加えられる圧力または測定対象組織の温度または周囲温度の変動によって狂うのを回避するために温度センサ及び/又は圧力センサを内蔵することができる(図5)。
【0037】
この点で本発明の別な1目的は、インピーダンス測定値を調整し、測定対象組織の温度変化または周囲温度の変動によって測定値が影響を受けないようにするため温度センサおよび温度の測定モジュールを含むことを特徴とする脂肪症検出のための発明装置の提供である。
【0038】
同様に本発明の別な1目的は、インピーダンス測定値を調整し、センサ装置と臓器との間の圧力によって測定値が影響を受けないように圧力センサおよび圧力の測定モジュールを含むことを特徴とする脂肪症検出のための発明装置の提供である。
【0039】
上述したように本発明は以下のステップを特徴とする診断方法を提供する。
【0040】
*電気インピーダンスを測定するために肝臓組織に脂肪症検出のための発明装置のインピーダンスセンサを結合させるステップ
*10Hzから10MHzの範囲の少なくとも1周波数でインピーダンスを測定するステップ
*システムが温度センサを有する場合には温度の関数としてのインピーダンス値を補正するステップ
*システムが圧力センサを有する場合にはインピーダンス測定中に過剰圧力を自動補正し、または表面に加えられる圧力が正しいか否かを知らせるステップ
*インピーダンス測定値に基づき臓器の状態を特定するパラメータを計算するステップ
*個体群サンプルから抽出された脂肪症の異なる程度の有無を特徴とする臓器の知られた平均パラメータに関して測定された電気インピーダンスの測定値で脂肪症程度を推定するステップ
【0041】
肝臓器官の異なる箇所にて発明装置による測定は容易に反復できる。これは肝臓組織内での脂肪の発生の異質な特徴の影響下においては重要な事実である。
【0042】
肝臓の脂肪症の程度は数学的計算によって異なる変動パラメータを比較することで得られる。基本的パラメータは弾性率、位相、異なる周波数のインピーダンスの実数部分と虚数部分の値であるが、このシステムはインピーダンススペクトルのモデルにフィットするものから得られる臓器間の変動にさほど影響を受けることのない変動が少なく信頼性が高いパラメータを発生させるために基本パラメータ間の関係をさらに幅広く利用する。
【0043】
得られたパラメータに対して相関アルゴリズムが適用される。この相関アルゴリズムは年齢、体重および性別等のインピーダンスに影響する患者の他のパラメータをその患者の他の病状と共に組み込む。さらに血液灌流の程度、低温での液体保存または外移植状況、等々の臓器の状態に特有なパラメータをも組み込む。精度の程度や相関するパラメータの数によってアルゴリズムは線状あるいは非線状である相関関係を提供することができる。この相関関係の変動は専門家により、あるいは自動回帰法を利用して手動で調整することができる。
【0044】
肝臓生検(HPB、基準モデル)に関するこの肝脂肪症の診断方法の利点は脂肪症を検出する発明装置の以下の特徴により提供される。
【0045】
*非侵襲的である(組織の摘出を必要としない)。
*傷跡や線維性後遺症を残さない。
*迅速な診断を提供する。
*部分サンプル採取だけではなく肝臓全体を網羅する容易で迅速に実行可能な種々の測定が可能であり、局所に偏る影響を排除し、肝臓脂肪の発生の異種混合による誤差を回避する。
*記録されたデータは脂肪症データの習慣的な臨床利用と自動的に相関され、その解釈に利用される。
【0046】
この点で本発明の別な1目的は診断を通じて肝臓器官の脂肪症程度を検出して診断するために電気インピーダンスを測定する装置の利用である。
【0047】
利用範囲内で本発明の別目的は人の肝臓の脂肪症検出のために電気インピーダンスを測定する装置の利用である。
【0048】
本発明の別目的は動物の肝臓の脂肪症検出のために電気インピーダンスを測定する装置の利用である。
【0049】
本発明の別目的は臓器移植のための手術において脂肪症の検出のために電気インピーダンスを測定する装置の利用である。
【0050】
本発明の別目的は開腹手術や腹腔鏡手術(最低限度の侵襲的手術)による脂肪症の検出のために電気インピーダンスを測定する装置の利用である。
【0051】
本発明の別目的は法医学的利用において脂肪症の検出のために電気インピーダンスを測定する装置の利用である。
【0052】
本発明の別目的は動物の食事コントロールを目的として脂肪症の検出のために電気インピーダンスを測定する装置の利用である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は脂肪症検出のための発明装置を図示している。センサ(2)は肝臓(1)に接触して配置されており、電子測定システム(3)にワイヤ手段によって接続されている。データは送信されてコンピュータ(4)または電子アジェンダ(PDA)(5)等の外部装置に保存される。この構造は開腹手術での使用に適している。
【図2】図2は腹腔鏡手術で使用される脂肪症検出のための発明装置のセンサ構造を図示しており、センサは腹腔鏡手術用の医療装置のプローブ(1)内に含まれており、ワイヤ(2)とその対応コネクタ(3)とによって医療装置の電子機器に接続されている。
【図3】図3は、法医学処理で外植された肝臓、または外植肝臓のその他の利用形態での臨床的使用のための重量測定システムにおける脂肪症検出のための発明装置を図示している。この装置はインピーダンス測定電極(1)とベタサーム(BETATHERM)社製造の10K3A1B温度センサ(2)とを含んでいる。
【図4】図4は前述の実施例に対応する脂肪症検出のための発明装置の配線図である。この装置は4箇所でインピーダンスを測定し、次の要素を含んでいる。電極接触部(I+、V+、V−、I−)と、電極I+とI−との間に電流が流され、電極V+とV−との間で電圧が測定される。(1)外部電極(I+とI−)間で電流を発生させる電流発生器と、(2)電流を測定する電流電圧変換器と、(3)内部電極間の電圧を測定する計測用増幅器と、(4)信号を個別値に変換するアナログ‐デジタル変換器と、(5)インピーダンスを計算して脂肪症の程度を計算する制御ユニット。
【図5】図5はセンサ構造を示している。これは(1)インピーダンスセンサとしての4個の電極と、(2)ベタサーム(BETATHERM)社製造の10K3A1B温度センサと、(3)ハネウェル社製造のFSG圧力センサとを含んでいる。これらのセンサはワイヤ(4)によって電子ユニットに接続されており、脂肪症検出のための発明装置を構成している。
【図6】図6は肝臓のインピーダンスをさらに広範囲で測定し、結果として肝脂肪症の程度と分布を迅速かつ全体的に評価するためのセンサ構造を示している。センサ(2)は肝臓(1)の広範部分を覆う電極のフレキシブルなアレイを含んでいる。測定装置(3)は電極の異なる形態を対象として調査し、全体的にインピーダンス測定値の分析を実施する。
【図7】図7は肝臓の複周波数インピーダンス測定のナイキスト表示であり、実線は非脂肪症の肝臓から得られた結果を示し、破線は脂肪症の肝臓から得られた結果を示している。グラフの軸はインピーダンスの実数部分(縦軸)と虚数部分(横軸)を示している。最も低い周波数はグラフの右に、最も高い周波数はグラフの左に示している。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下の実施例は脂肪症測定のための発明装置と肝臓移植への利用法について説明している。脂肪症測定のための発明装置の肝臓移植における利用目的は、移植のために提供された肝臓を処分するか、または使用するかの決定において外科医を補助する目的で肝脂肪症状程度の迅速な診断を可能にすることである。
【0055】
[脂肪症測定のための発明装置の説明]
本実施例では、発明者による脂肪症測定のための発明装置が以下の構造で使用されている(図4)。
*0.64mm径であり、I+とV+間が2.54mm、V+とV−間が7.62mm、V−とI−間が2.54mmの距離である4個の金電極(E-TEC S.A社製(SIB‐120−S037−22))で成るインピーダンス測定センサ。電極の高さは2mmであり、残りの電極はEPO−TEK社製のエポキシOG147−7がコーティングされている。これらの電極はワイヤによって測定装置に接続されている。
【0056】
*測定装置は、(1)電極I+を介して送られる1kHzから100kHzの正弦波信号を発生させるDDS AD9835発生器で構成されるモジュールと、(2)測定される電流に比例する電圧を発生させるAD844増幅器を用いてI−に進入する電流を測定する別モジュールと、(3)AD8130計測用増幅器を用いて2個の内部電極(V+とV−)間の電圧を測定する別モジュールと、(4)2つの読み取られた電圧をデジタル化するAD9243アナログ−デジタル変換器で構成される別モジュールとで成る。
【0057】
*アナログ−デジタル変換モデルを制御する富士通のMB90F583Bマイクロコントローラは、電圧と電流のデジタル値に基づいてインピーダンス値を計算する。これはマイクロコントローラのメモリに保存された表(後出)に基づくインターポレーションアルゴリズムによって脂肪症程度への最終的な変換を実行し、ボタン操作および操作の異なるモードを管理する。
*バリトロニクス(Varitronix)社製のLCD VI303−DPRCディスプレイ(5)および装置操作のための様々なボタン。
【0058】
[使用法の説明]
[初期作業]
装置の使用手順は非常に単純である。開腹を実施して肝臓が見えるようにすると、起動ボタンを押して脂肪症測定のための発明装置を起動させる。起動後すぐに脂肪症測定のための発明装置が画面に使用準備が整ったことを示す。モードボタンを押して、1測定と複数測定の2つの機能モードのうちの1つを選択し、周波数ボタンを押して、単周波数と複周波数の2つの記録モードうちの1つを選択する。
【0059】
[操作および測定]
装置を起動させて機能モードを選択すると、脂肪症測定のための発明装置の電極を肝臓表面と接触させて配置する。電極を配置したら読取開始ボタンを押し、その直後に画面に肝脂肪症の程度を反映するパーセントが表示される。複数の読取モードが選択されている場合の読取は、各読取後にモードボタンを押し、肝臓の別部分に電極を再配置し、再びボタンを押して読取を開始させることで順番に行なわれる。最終読取の最後にモードボタンを2度押すと、装置が異なる箇所での読取値の平均に基づいて決定された脂肪症の程度を表示する。
【0060】
[肝脂肪症程度の計算と診断]
脂肪症測定のための本発明装置の特定実施例において複周波数モードおよび単周波数モードを用いた肝脂肪症程度の計算方法を以下に示す。
【0061】
[複周波数モード]
複周波数モードにおいて脂肪症測定のための発明装置は、ナイキスト表示に従って表示される複周波数インピーダンス値を利用するアルゴリズムによって肝脂肪症の程度を計算する。複周波数インピーダンスの表示は、サンプル周波数の範囲でアルゴリズムにインピーダンスの実数部分の最大値と最小値を取得させる。アルゴリズムはその後に最小周波数と最大周波数での実数部分値を分割し、後に肝脂肪症の程度と相関される因子Z‐実数を取得する。
【0062】
【数1】

【0063】
インターポーレーション表としてアルゴリズムに含まれるこの相関性は、対照群と試験群でのスプラーグ‐ドーレイラットの肝臓における数々の異なる試験によって実験的に取得されたものである。試験群のラットには多脂肪でハイパープロテインの食餌プロトコルによって脂肪症を発症させた。インピーダンス測定に続いて、使用した肝臓生検の組織学的試験を行なった。脂肪肝の組織学的分類をフィールド毎の脂肪胞子数に基づいて行い、検査サンプルを次のカテゴリーに従って次のように分類した。脂肪症なし、軽度脂肪症10%未満、中程度脂肪症10%から25%、および重度脂肪症25%から60%である。この分類は後に因子Z‐実数の式によってインピーダンスの測定と相関され、以下のインターポーレーション表に示す結果となった。
【0064】
因子 脂肪症の割合
3未満 10%未満(正常)
3から5 10%から25%(軽度脂肪症)
5から7 25%から60%(中程度脂肪症)
表1 インピーダンス測定から導き出される因子と肝脂肪症割合との相関性
【0065】
[単周波数モード]
単周波数で測定する場合には、装置は1kHzの周波数での測定のみを実施し、得られたインピーダンス値は、前述の複周波数のケースで説明したものと同じ実験で得られた単周波数での測定用の表で相関される。
【0066】
因子 脂肪症の割合
1000未満 10%未満(正常)
1001から2500 10%から25%(軽度脂肪症)
2501から3200 25%から60%(中程度脂肪症)
表2 単周波数でのインピーダンス測定値と肝脂肪症割合との相関性
【0067】
[使用例]
図7は、ラット肝臓での単周波数読取モードでの脂肪症測定のための発明装置で得られた2つの実験結果を示している。この肝脂肪症診断への利用と、後の移植臓器としての拒否/受入の決定における利用が解説されている。
【0068】
[ケース1]
図7の実線で示された第1ケースは、対照群(非脂肪症)からのラット肝臓でのインピーダンス測定結果である。このケースで脂肪症測定のための発明装置は、因子Z‐実数として値3を算出した。
【0069】
【数2】

【0070】
計算された因子Z‐実数を使用して脂肪症測定のための発明装置はこの値を前述のインターポーレーション表(表1)と相関させ、脂肪症程度を示す指標値、10未満(正常)を示した。
【0071】
[ケース2]
図7の実施例に引き続き、第2のケース(図7の破線データで表示)は試験群(脂肪症肝臓)からのラット肝臓で得られた結果に対応している。脂肪症測定のための発明装置は、因子Z‐実数として値5.2を算出した。
【0072】
【数3】

【0073】
得られた因子Z‐実数の脂肪症程度に相関表を適用し、脂肪症測定のための発明装置は脂肪症程度25%から60%(中程度脂肪症)の指標値を得た。
【0074】
[臓器廃棄決定での利用]
図7の例で説明した2ケースの結果を肝臓移植状況で利用する場合、得られた結果により、第2ケースの肝臓は中程度の脂肪症に罹患しており、臓器提供には適さないと決定できるであろう。移植臓器の臨床研究による必要なインターポーレーション表を得ることだけが必要であるため、脂肪症測定のための発明装置の利用は人間の肝臓移植のケースにも十分に適用できるであろう。客観的かつ迅速な方法で脂肪症程度の指標を得ることで、生検を実施して組織学的結果を待っていたならば不可能であろうインフォームドデシジョンを可能とし、保健分野および時間が非常に重要とされる分野において信頼性と迅速性を大幅に向上させる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝脂肪症の診断及び/又はモニターのための臨床用装置であって、肝臓の脂肪症程度を決定するために肝臓の電気インピーダンスを測定することを特徴とする装置。
【請求項2】
a)様々な生体適合性電極で形成されたインピーダンス測定センサと、
b)10Hzから10MHzの電気インピーダンスの測定モジュールと、
c)得られた測定値の制御と分析のための電子機器と、
を少なくとも含んでいることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
様々な周波数で肝臓の電気インピーダンスを測定する手段を含んでいることを特徴とする請求項1および2記載の装置。
【請求項4】
非侵襲的表面センサとしての電極を含んでいることを特徴とする請求項2記載の装置。
【請求項5】
最小程度に侵襲的であるセンサとして小型針内に配置された電極を含んでいることを特徴とする請求項2記載の装置。
【請求項6】
インピーダンス測定センサとして高導電性である金、銀、塩化銀、プラチナまたはその他の生体適合性材料で作成及び/又はコーティングされた電極を含んでいることを特徴とする請求項2記載の装置。
【請求項7】
電極の数が2個から4個である電気インピーダンスセンサを含んでいることを特徴とする請求項4から6記載の装置。
【請求項8】
2個、3個あるいは4個の電極間でインピーダンスを測定するための自動的に選択できる半剛質またはフレキシブルな支持体上に5個以上の電極を備えた電気インピーダンスセンサを含んでいることを特徴とする請求項4から6記載の装置。
【請求項9】
開腹手術中に手動で扱えるように1体の装置に複数の電極を組み込んでいることを特徴とする請求項4から6記載の装置。
【請求項10】
装置の内蔵プローブまたはカテーテル内に配置される医療用腹腔鏡装置内に電極が内蔵されており、腹腔鏡手術中に腹腔内に導入されることを特徴とする請求項1および2記載の装置。
【請求項11】
臓器移植中、法医学処理およびその他の臓器移植手続において、臓器の重量を測定し、肝臓が患者の身体から摘出されると使用されるようにプラットフォーム上に電極が配置されていることを特徴とする請求項1および2記載の装置。
【請求項12】
インピーダンス測定値を調整し、温度によって測定値が影響を受けないようにするための温度センサおよび温度の測定モジュールを含んでいることを特徴とする請求項1および2記載の脂肪症検出装置。
【請求項13】
インピーダンス測定値を調整し、センサ装置と臓器との間の圧力によって測定値が影響を受けないように圧力センサおよび圧力の測定モジュールを含んでいることを特徴とする請求項1および2記載の脂肪症検出装置。
【請求項14】
肝臓器官の脂肪症程度の診断及び/又はモニターのための請求項1から13記載の装置の利用。
【請求項15】
人の肝臓の脂肪症程度の診断及び/又はモニターのための請求項14記載の装置の利用。
【請求項16】
動物の肝臓の脂肪症程度の検出および決定のための請求項14記載の装置の利用。
【請求項17】
生体内および生体外での臓器の外科移植手術における肝脂肪症程度の検出および決定ステップを含むことを特徴とする請求項14から16記載の装置の利用。
【請求項18】
開腹手術における脂肪症程度の検出および決定ステップを含むことを特徴とする請求項14から16記載の装置の利用。
【請求項19】
法医学処理における脂肪症程度の検出および決定ステップを含むことを特徴とする請求項14から16記載の装置の利用。
【請求項20】
食事コントロールに利用される脂肪症程度の検出および決定ステップを含むことを特徴とする請求項16記載の装置の利用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−505169(P2011−505169A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−530964(P2009−530964)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【国際出願番号】PCT/IB2007/003753
【国際公開番号】WO2008/041128
【国際公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(508157886)コンセジョ スペリオール デ インベスティガショネス シエンティフィカス (21)
【Fターム(参考)】