説明

電気コネクタ

【課題】製品の製造公差にかかわらず、第1ハウジングが常に相手コネクタに完全に嵌合し、インピーダンス不整合がなく所望の伝送特性が得られる電気コネクタを提供する。
【解決手段】電気コネクタ1は、相手コネクタ40に嵌合すると共に、相手コネクタ40に設けられた相手コンタクト60に接触するコンタクト11を備えた第1ハウジング10と、第1ハウジング10を嵌合方向及び嵌合方向と逆方向に移動可能に支持すると共に、相手コネクタ40側にロックされるロック部23を有する第2ハウジング20と、第2ハウジング20に支持されると共に、第1ハウジング40を嵌合方向に付勢する弾性部材30とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速伝送に用いられる電気コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理機器・通信機器の発達と動画像などによるデータの大容量化に伴い、各機器で使用する信号の高速化が求められている。例えば、サーバ間接続においては、6Gbps以上の高速伝送特性が求められている。
従来、この高速伝送に用いられる電気コネクタとして、例えば、図5乃至図8に示すものが知られている(特許文献1参照)。図5は、従来例の電気コネクタを相手コネクタに嵌合した状態の側面模式図で、両コネクタを嵌合した際に製品の製造公差の関係で相手ハウジングの底部と第1ハウジングの先端との間に隙間Δができる状態を示している。図6は、図5における6−6線に沿う断面図である。図7は、従来例の電気コネクタを相手コネクタに嵌合した状態の側面模式図で、両コネクタを嵌合した際にロック部がパネルにロックされない状態を示している。図8は、図7における8−8線に沿う断面図である。
【0003】
図5乃至図8に示す電気コネクタ101は、相手コネクタ130に嵌合する第1ハウジング110と、第1ハウジング110に固定された金属製のシェル120とを備えている。
第1ハウジング110には、複数の弾性コンタクト111が取り付けられている。各弾性コンタクト111は、嵌合方向前方(図6における左方)に位置する弾性接触部112及び嵌合方向後方に位置する接続部113を備えている。弾性接触部112は、相手コネクタ130に設けられた相手コンタクト150に弾性接触する。接続部113には、ケーブルCの絶縁電線C1が半田接続される。
【0004】
シェル120は、内部に空洞部121を有し、この空洞部121内に第1ハウジング110を固定する。第1ハウジング110の嵌合方向後端部には、突起部114が形成され、この突起部114がシェル120に形成された凹部122に入り込んで第1ハウジング110がシェル120に固定される。シェル120の嵌合方向前端部には、複数対のロック部123が設けられている。
【0005】
一方、相手コネクタ130は、相手ハウジング140と、相手ハウジング140に取り付けられた複数の相手コンタクト150とを備えている。相手コンタクト140は雄型コンタクトで構成され、相手コネクタ130はヘッダを構成する。相手コネクタ130は、回路基板160上に実装される。回路基板160は、パネル180との間にスペーサ170を介して図示しない取付ねじ等によりパネル180に取り付けられる。
【0006】
電気コネクタ101は、パネル180に形成された開口部181に第1ハウジング110を挿通させ、第1ハウジング110を相手コネクタ130に嵌合させる。この際、第1コネクタ101のシェル120に設けられたロック部123がパネル180の開口部181にロックされる。これにより、電気コネクタ101と相手コネクタ130との嵌合が完了し、ケーブルCと回路基板160とが電気的に接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第7637767号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この図5乃至図8に示した電気コネクタ101にあっては、次の問題点があった。
即ち、ロック部123、第1ハウジング110、相手コネクタ130、及びスペーサ170等の製品の製造公差が原因で、図5に示すように、第1ハウジング110を相手コネクタ130に嵌合した際に第1ハウジンング110の先端と相手ハウジング140の底部との間に隙間Δができるときがある。この場合、コンタクト111の接触部112が相手コンタクト150に接触する接点位置が、図6に示すように、第1ハウジンング110の先端が相手ハウジング140の底部に当接する場合より相手コンタクト150の先端側のD1となる。すると、接点位置D1から相手コンタクト150の先端までの距離がE1となる。この距離E1は、第1ハウジンング110の先端が相手ハウジング140の底部に当接する場合の、接点位置から相手コンタクト150の先端までの距離よりも短くなる。接点位置から相手コンタクト150の先端までの距離はいわゆるスタブ(stub)量とよばれ、このスタブ量が、第1ハウジンング110の先端が相手ハウジング140の底部に当接する場合のスタブ量よりも小さくなる。スタブ量が小さくなると、接点付近のキャパシタンスあるいはインダクタンスが変化することになる。インピーダンス整合の設計においては、第1ハウジンング110の先端が相手ハウジング140の底部に当接する場合、つまり第1ハウジング110が相手コネクタ130に完全に嵌合する場合を想定して接点位置を決め、この接点位置に基くスタブ量に基いてインピーダンス整合の設計を行っている。従って、スタブ量が小さくなると、設計値に対してインピーダンスが変化し、インピーダンス不整合が生じることになる。これにより、信号品質が低下し、インピーダンスやリターンロスといった伝送特性が悪化してしまうという問題があった。
【0009】
一方、図7に示すように、隙間Δが生じないように第1ハウジング110を大きくすると、製品の製造公差が原因で、シェル120に設けられたロック部123がパネル180にロックされない場合がでてくる。
従って、本発明は、上述の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、製品の製造公差にかかわらず、第1ハウジングが常に相手コネクタに完全に嵌合し、インピーダンス不整合がなく所望の伝送特性が得られる電気コネクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明のうち請求項1に係る電気コネクタは、相手コネクタに嵌合すると共に、前記相手コネクタに設けられた相手コンタクトに接触するコンタクトを備えた第1ハウジングと、該第1ハウジングを嵌合方向及び該嵌合方向と逆方向に移動可能に支持すると共に、前記相手コネクタ側にロックされるロック部を有する第2ハウジングと、該第2ハウジングに支持されると共に、前記第1ハウジングを前記嵌合方向に付勢する弾性部材とを具備することを特徴としている。
【0011】
ここで、「相手コネクタ側」とは、相手コネクタ及び相手コネクタに接続されたパネル等の接続部材を意味する。
また、本発明のうち請求項2に係る電気コネクタは、請求項1記載の電気コネクタにおいて、前記弾性部材が、圧縮コイルばねであることを特徴としている。
更に、本発明のうち請求項3に係る電気コネクタは、請求項1又は2記載の電気コネクタにおいて、前記ロック部が、前記相手コネクタを支持するパネルにロックされることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る電気コネクタによれば、第1ハウジングを嵌合方向及び該嵌合方向と逆方向に移動可能に支持すると共に、相手コネクタ側にロックされるロック部を有する第2ハウジングと、第2ハウジングに支持されると共に、第1ハウジングを嵌合方向に付勢する弾性部材とを具備するので、第2ハウジングをロック部によって相手コネクタ側にロックして第1ハウジングが相手コネクタに嵌合する際に、第1ハウジングが弾性部材により嵌合方向に付勢される。このため、製品の製造公差にかかわらず、第1ハウジングが常に相手コネクタに完全に嵌合し、インピーダンス不整合がなく所望の伝送特性が得られる電気コネクタを提供できる。第2ハウジングは、ロック部により相手コネクタ側に確実にロックされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る電気コネクタの実施形態を示す側面模式図であり、第1ハウジングが相手コネクタに嵌合する前の状態を示している。
【図2】図1における2−2線に沿う断面図である。
【図3】本発明に係る電気コネクタの実施形態を示す側面模式図であり、第1ハウジングが相手コネクタに嵌合した状態を示している。
【図4】図3における4−4線に沿う断面図である。
【図5】従来例の電気コネクタを相手コネクタに嵌合した状態の側面模式図で、両コネクタを嵌合した際に製品の製造公差の関係で相手ハウジングの底部と第1ハウジングの先端との間に隙間ができる状態を示している。
【図6】図5における6−6線に沿う断面図である。
【図7】従来例の電気コネクタを相手コネクタに嵌合した状態の側面模式図で、両コネクタを嵌合した際にロック部がパネルにロックされない状態を示している。
【図8】図7における8−8線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る電気接続構造の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図4に示す電気コネクタ1は、例えば、6Gbps以上の高速伝送に用いられるもので、相手コネクタ40に嵌合する第1ハウジング10と、第2ハウジング20と、複数の弾性部材30とを具備している。
第1ハウジング10は、絶縁性部材で、嵌合方向(図2において矢印で示す方向)の後端部に複数(本実施形態にあっては4個)の突起部14を有している。複数の突起部14は、第1ハウジング10の正面(図2における左面)から見て90°間隔に配置されている。
【0015】
そして、第1ハウジング10には、複数のコンタクト11が取り付けられている。各コンタクト11は、嵌合方向の前端(図2における左端)に位置する弾性接触部12と、嵌合方向の後端に位置する接続部13とを備えている。各コンタクト11は、導電性金属板を打抜き及び曲げ加工することによって形成される。弾性接触部12は、相手コネクタ40に設けられた相手コンタクト60に弾性接触する。接続部13には、ケーブルCの絶縁電線C1が半田接続される。
【0016】
また、第2ハウジング20は、金属製のシェル部材で、金属板を打抜き及び曲げ加工することによって形成される。第2ハウジング20は、内部に空洞部21を有し、この空洞部21内に第1ハウジング10を嵌合方向及びこの嵌合方向と逆方向に移動可能に支持する。第2ハウジング20の空洞部21の嵌合方向前方部には、第1ハウジング10の突起部14が入り込む複数(本実施形態にあっては4個)の凹部22が形成されている。各凹部22には各突起部14が入り込むので、複数の凹部22は、第2ハウジング20の正面から見て90°間隔に配置されている。第1ハウジング10の嵌合方向前方(嵌合方向)への移動は、突起部14が凹部22の嵌合方向前壁部に当接することによって規制される。一方、第1ハウジング11の嵌合方向後方(嵌合方向と逆方向)への移動は、突起部14が凹部22の嵌合方向後壁部に当接することによって規制される。また、第2ハウジング20の嵌合方向前端部の上端及び下端には、後述する相手コネクタ40を支持するパネル90にロックされるロック部23が設けられている。
【0017】
また、複数の弾性部材30は、本実施形態にあっては4個設けられる。各弾性部材30は、圧縮コイルばねで構成され、第2ハウジング20の各凹部22内で第1ハウジング10との間で第2ハウジング20に支持される。各弾性部材30は、各凹部22内で支持されるので、第2ハウジング20の正面から見て90°間隔に配置されている。各弾性部材30の支持構造について具体的に説明すると、各凹部22の嵌合方向後壁部に弾性部材30の一端を支持する突起(図示せず)が形成されている。一方、第1ハウジング10の嵌合方向後壁部には、弾性部材30の他端を支持する突起(図示せず)が設けられている。各弾性部材30は、第2ハウジング20側の突起と第1ハウジング10側の突起とに支持されて第2ハウジング20と第1ハウジング10との間に配置されている。各弾性部材30は、圧縮コイルばねで構成されているので、各弾性部材30により第1ハウジング10は嵌合方向(嵌合方向前方)に付勢される。この結果、第1ハウジング10を相手コネクタ40に嵌合する前の状態では、図2に示すように、第1ハウジング10の各突起部14が第2ハウジング20に形成された凹部22の嵌合方向前壁部に当接した状態となる。
【0018】
第1ハウジング10が嵌合する相手コネクタ40は、相手ハウジング50と、相手ハウジング50に取り付けられた複数の相手コンタクト60とを備えている。相手ハウジング50は、第1ハウジング10を受容する第1ハウジング受容キャビティ51を有している。相手コネクタ40は、回路基板70上に実装される。各相手コンタクト60の一端は、回路基板70上の導電部に半田等により接続され、他端は、第1ハウジング受容キャビティ51内に延びる。各相手コンタクト60は雄型コンタクトで構成され、相手コネクタ40はヘッダを構成する。
【0019】
そして、相手コネクタ40を実装した回路基板70は、パネル90との間にスペーサ80を介して図示しない取付ねじ等によりパネル90に取り付けられる。
電気コネクタ1は、図3及び図4に示すように、第1ハウジング10をパネル90に形成された開口部91を挿通させ、第1ハウジング10を相手ハウジング50の第1ハウジング受容キャビティ51内に挿入させる。
【0020】
そして、第1ハウジング10の挿入を進行させると、先ず、第1ハウジング10の先端が相手ハウジング50の底部に当接する(第1ハウジング10が相手コネクタ40に完全に嵌合する)。なお、この状態は、弾性部材30の反発力がコネクタ嵌合時の挿入力を上回る限り、達成される。この状態では、図4に示すように、コンタクト11の接触部12が相手コンタクト60に接触する。これにより、コンタクト11に接続されたケーブルCと、相手コンタクト60に接続された回路基板70とが電気的に導通する。そして、コンタクト11の接触部12が相手コンタクト60に接触する接点位置が、Dとなる。また、この接点位置Dから相手コンタクト60の先端までの距離がEとなる。この接点位置Dは、第1ハウジンング10の先端が相手ハウジング50の底部に当接する場合、つまり第1ハウジング10が相手コネクタ40に完全に嵌合する場合を想定して決めた接点位置に等しい。また、距離Eは、第1ハウジング10が相手コネクタ40に完全に嵌合する場合を想定して決めたスタブ量に等しい。
【0021】
更に、電気コネクタ1を相手コネクタ40に対して押し込むと、第1ハウジング10は相手ハウジング50の底部に当接しているため動かない。従って、接点位置D及び距離Eに変化はない。その一方、第2ハウジング20及びロック部23が、図3及び図4に示すように、パネル90に形成された開口部91を挿通し、ロック部23がパネル90にロックされる。第2ハウジング20によって第1ハウジング10を嵌合方向及び嵌合方向と逆方向に移動可能に支持しているからである。ロックの際、第2ハウジング20は、弾性部材30のばね力に抗して進み、第2ハウジング20に形成された凹部22の嵌合方向前壁部が第1ハウジング10の各突起部14から離れることになる。ロック部23がパネル90にロックされると、第1ハウジング10の相手コネクタ20に対する嵌合が完了する。
【0022】
ロック部23、第1ハウジング10、相手コネクタ40、及びスペーサ80等の製品に製造公差は必ずあるが、第1ハウジング10が常に相手コネクタ40に完全に嵌合する。このため、接点位置D及び距離Eに変化はなく、さらに、第2ハウジング20がロック部23によって確実にパネル90にロックされる。このため、インピーダンス不整合がなく所望の伝送特性が得られる電気コネクタ1を提供できる。
【0023】
この理由は、ロック部23を有する第2ハウジング20によって第1ハウジング10を嵌合方向及び嵌合方向と逆方向に移動可能に支持すると共に、第2ハウジング20に支持された弾性部材30によって、第1ハウジング10を嵌合方向に付勢するからである。
また、本実施形態に係る電気コネクタ1においては、弾性部材30を圧縮コイルばねで構成したため、簡単な構造で、第2ハウジング20に支持できるとともに第1ハウジング10を嵌合方向へ付勢することができる。
【0024】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに種々の変更、改良を行うことができる。
例えば、ロック部23がロックされるのは、パネル90に限られず、相手コネクタ40自体でもよいし、あるいは、相手コネクタ40に接続されたパネル以外の接続部材でもよい。
【0025】
また、弾性部材30は、必ずしも圧縮ばねである必要はなく、第1ハウジング10を嵌合方向に付勢するものであれば、弾性エラストマー等の弾性構造をもったものでもよい。
更に、第2ハウジング20は、金属製のシェル部材に限られず、絶縁性のあるる樹脂部材であってもよい。
また、弾性部材30は、複数設ける必要はなく、1つであってもよい。また、弾性部材30を複数設ける場合、第1ハウジング10を嵌合方向に安定して付勢できるのであれば、第2ハウジング20の正面から見て90°間隔に配置する必要は必ずしもない。
【符号の説明】
【0026】
1 電気コネクタ
10 第1ハウジング
11 コンタクト
20 第2ハウジング
23 ロック部
30 弾性部材
40 相手コネクタ
50 相手ハウジング
60 相手コンタクト
90 パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相手コネクタに嵌合すると共に、前記相手コネクタに設けられた相手コンタクトに接触するコンタクトを備えた第1ハウジングと、
該第1ハウジングを嵌合方向及び該嵌合方向と逆方向に移動可能に支持すると共に、前記相手コネクタ側にロックされるロック部を有する第2ハウジングと、
該第2ハウジングに支持されると共に、前記第1ハウジングを前記嵌合方向に付勢する弾性部材とを具備することを特徴とする電気コネクタ。
【請求項2】
前記弾性部材が、圧縮コイルばねであることを特徴とする請求項1記載の電気コネクタ。
【請求項3】
前記ロック部が、前記相手コネクタを支持するパネルにロックされることを特徴とする請求項1又は2記載の電気コネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−25891(P2013−25891A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156818(P2011−156818)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000227995)タイコエレクトロニクスジャパン合同会社 (340)
【Fターム(参考)】