説明

電気メッキ装置

【課題】被処理物b1に対して部分メッキを、被覆の必要なく連続的に行うこと。
【解決手段】
頭部b10と下部b01の間に括れ部b03を有し、下部b01側に重心位置を有する被処理物b1対して、頭部b10を除いた範囲に電気メッキを施す。一対のレール3は、頭部b10よりも狭く、且つ括れ部b03よりも広い間隔の隙間を持ち、電極20が配されている。メッキ槽5は、レール3の下側に位置し、極板25がメッキ液中に配置されている。被処理物b1の括れ部b03をレール3の間の隙間に位置させて、ロッド18をレール3の上から隙間を通って被処理物b1の重心よりも下の位置に当接させる。ロッド18をレール3に沿って移動させて、レール3よりも下に位置する被処理物b1にメッキを施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メッキ範囲及び重心位置の上側に被支持面部を有する被処理物のメッキ範囲に電気化学的にメッキ金属を析出させる電気メッキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気メッキにおいて、一部範囲にのみメッキ金属を析出させる部分メッキが、例えば特許文献1及び2等に開示されている。特許文献1においては、陰極であるバー電極には同時に複数個の被処理部材が引っ掛けられてそれぞれのメッキ範囲のみを電解溶液中に浸漬されるように位置保持される。
特許文献2においては、メッキ処理の対象となる導電性基材の絶縁層である自己組織化膜で部分的に被覆した状態とし、連続的に電解溶液中に送り出して自己組織化膜の存在しない範囲のみをメッキ処理する。
【0003】
特許文献3には、部分メッキではないが、筒状の被メッキ物をレール上の載せ、エンドレス軌道を移動するピンをレールの溝に当該筒を通して挿入し、電解液の中で引き回す電気メッキ装置が開示されている。レール上には、被メッキ物が接触する電極が設けられている。また、ピンの代わりにフックを用いることも示唆している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−93292号公報
【特許文献2】特開2010−43292号公報
【特許文献3】実開昭62−141072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術によれば、メッキ液の中で被処理部材の位置が固定されているので、メッキ液中における被処理物の位置によって固定電極からの電解強度が異なるため、メッキ品質にバラツキが生じ易い。
特許文献2によれば、被メッキ対象となる導電性基材が、メッキ液の中を移動するので、電極の位置によるメッキ品質のバラツキを抑制できるが、導電性基材に自己組織化膜を形成する手間が必要となって作業能率が低下する。
【0006】
特許文献3によれば、被メッキ物が接触する電極はメッキ液に浸かっており、電極上を摺動する位置におけるメッキの析出面が荒れる要因となるうえ、電極自体へのメッキ付着を避けるためにはその材料が限定される。また、被メッキ物の全体がメッキ液に浸かるものであるので、部分メッキを行う際のメッキ付着を避ける範囲への考慮がされていない。
本発明は、品質のバラツキを抑制し、連続的に部分メッキすることのできる電気メッキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するため本発明は、頭部の下に括れ部を有し、括れ部の下側に重心位置を有する被処理物に対して、前記括れ部よりも上部を除いた範囲に電気メッキを施す電気メッキ装置であって、前記頭部よりも狭く、且つ括れ部よりも広い間隔の隙間を持ち、電極が配された一対のレールと、前記一対のレールの下側に位置し、電極板がメッキ液中に配置されたメッキ槽と、前記括れ部を前記一対のレールの間の隙間に位置させて、前記頭部が前記一対のレールの上側に、前記括れよりも下が前記一対のレールの下側に位置するように被処理物を配置する供給装置と、前記一対のレールの上から前記一対のレールの隙間を通って前記被処理物の重心よりも下の位置を押すことにより、前記支持板の上で前記電極と接触した状態で前記一対のレール上を摺動させるロッドとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、被処理物を安定した姿勢でメッキ液の中を移動させるため、メッキ範囲以外の表面を絶縁層で被わなくても、メッキ液の浸かっていない部分を除いて、連続的に部分メッキを行うことが出来る。
また、電極をメッキ液に浸かっていない箇所におけるため、被処理物に電極跡を残さずにきれいに部分メッキをすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】電気メッキ装置の実施例を示す側面図である。
【図2】上記電気メッキ装置の実施例を示す平面図である。
【図3】図1のx1―x1部を示す断面図である。
【図4】被処理物を支持した状態を示す正面視部分断面図である。
【図5】一対のレールの上を被処理物がロッドで押し移動される状態の側面を示す部分側面図である。
【図6】一対のレールの上を被処理物がロッドで押し移動される状態の正面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施例について図面を参照して詳細に説明する。
図1において本実施例の電気メッキ装置1は、メッキ槽5と、これの上方に配設された搬送装置2と、被処理物b1を案内する一対のレール3とを備えた構成としている。
【0011】
この電気メッキ装置1は、図4に示す被処理物b1にメッキ処理を施すものである。被処理物b1は、頭部b10と下部b01とを有し、その間に括れ部b03を有するものであり、本実施例においては、頭部b10が部分球体であり、下部b01がボルトの形状をし、その間に括れ部b03を有している。下部b01はメッキされる範囲に相当し、スパナ等で回転操作力を付与される入力部b11、及び雄ネジ部b12が形成されている。頭部b10はメッキを行わない部分である。被処理物b1の重心位置b02は、下部b01内の入力部b11のやや上に存在する。
【0012】
被処理物b1は、頭部b10の部分が関節のような摺動面となる機械部品である。下部b01にはメッキによる防錆処理をする一方で、摺動面はメッキが剥げて飛散するのを防止するため、メッキ処理を行わない。
【0013】
図1に戻り、電気メッキ装置1は枠体4の上部にメッキ槽5を載せている。搬送装置2は、駆動部7、駆動軸8、従動軸9、駆動側スプロケット8a、従動側スプロケット9a及び無端状チェーン10を具備している。
駆動側スプロケット8aは5個設け(図2)、それぞれが駆動軸8の長さ途中に固定してあり、また従動側スプロケット9aも5個設け、それぞれは従動軸9の長さ途中の、駆動側スプロケット8aに対応した位置に固定している。
各無端状チェーン10は駆動側スプロケット8a及び従動側スプロケット9aの対応した一対に掛け回されており、間隔を経て離散的に配置されたチェーン案内枠13に沿って周回移動する。図3において、各チェーン案内枠13は、枠体4の上であって、無端状チェーン10に対して垂直な方向に渡された門形枠16にチェーンガイド17を取り付けた構成となっている。
【0014】
各無端状チェーン10は図5に示すように単位リンク14をピン15で結合した構造とされている。図6の正面図を参照し、各単位リンク14は左右一対のリンク板14a、14bとこれらを一定距離に保持するローラ14c等で形成されており、各リンク板14a、14bの外周側の縁は、さらに外側へ延長し90度に折り曲げて水平面部d1、d1を形成している。
【0015】
各チェーンガイド17は、規制体17b、17cとからなっている。各規制体17b、17cは無端状チェーン10に左右移動及び下方移動を規制し前後移動を許容するように係合した構成としている。また下側の規制体17cには、各単位リンク14の一方の水平面部d1を支持して各単位リンク14の起立姿勢を保持させる水平支持面部e1及び、水平面部d1が水平支持面部e1から上方へ離反するのを規制する規制体e2を設けている。
【0016】
各無端状チェーン10には、被処理物b1に押し力を付与するためのロッド18が設けてある。ロッド18は合成樹脂材等の非導電材からなる細長板状のものであり、各単位リンク14の水平面部d2に無端状チェーン10の外周側へ向かう張り出し状に固定されている。
【0017】
一対のレール3はメッキ槽5の上縁の高さに近似した高さで各無端状チェーン10の下に、各無端状チェーン10に沿って位置している。一対のレール3は、細長状の支持板19、19と、これら支持板19、19に固定され表面を平滑にされた細長状の銅板からなる電極20、20とで形成している。支持板19、19は、門形枠部16により固定されている。一対のレール3の間隔(本実施例では、この間隔は間隔の狭い方の電極20、20で定められている)は、括れ部b03よりも広い間隔であるが、頭部b10よりも狭い。
【0018】
図1に戻り、各無端状チェーン10の後ろ側(図1の右側)には、被処理物b1の供給部23が形成してあり、前側には被処理物b1の取出部24が形成されている。
【0019】
供給部23は、頭部b10を上にした状態で被処理物b1が投入される誘導レール23aと、各誘導レール23a上に投入された多数の被処理物b1を一つずつ各一対のレール3の案内始点f1に対応した位置に滑り落とす開閉シャッタ板n1とその後側の開閉シャッタ板n2からなっている。各誘導レール23aは、左右一対の支持部材p1、p2を有しており(図2)、その間隔は一対のレール3の隙間と同じである。誘導レール23aは、レール3に向けて下り傾斜しており、一対の支持部材p1、p2の隙間は一対のレール3の隙間へ連続している。このため、被処理物b1は重力作用により誘導レール23aからレール3に向けて滑り降下して、レール3に移載される。
【0020】
そして取出し部24は、液受け部24aと、各無端状チェーン10の進行方向へ向け下がり傾斜となるように延長した延長レール24bと、これの下側に位置して被処理物b1を前下方へ案内するシュート24cからなっている。
メッキ槽5内には図3に示すメッキ金属からなる多数の極板25を電解溶液a1に浸漬させて前後方向へ列状に配置してあり、これら極板25は電源の陽極25aに接続させている。また各電極20は電源の陰極に接続させている。
次に上記した本実施例の電気メッキ装置の作用について説明する。
メッキ槽5内の電解溶液a1の自由液面a01は各一対のレール3に支持された被処理物b1の下部b01が電解溶液a1中に浸漬される程度とする。この状態で、駆動部7を作動させ、各無端状チェーン10を一定移動軌跡上で周回変位させる。
【0021】
この状態の下で、誘導レール23aに被処理物b1を投入すると、被処理物b1は閉位置にある前側の開閉シャッタ板n1に受け止められて整列する。次に開閉シャッタ板n1が開位置に移動すると、最前列の被処理物b1が開閉シャッタ板n2により受け止められる。開閉シャッタ板n1を閉位置にし、開閉シャッタ板n2が開位置に移動されると、最前列の被処理物b1が一対のレール3の案内始点f1まで滑り落ちる。開閉シャッタ板n1、n2をロッド18間隔に同期するように可動させることにより、被処理物b1は一つずつロッド18の間に供給される。
これら各被処理物b1は案内始点f1にて頭部b10が一対のレール3の支持板19、19で吊るされた状態で支持され、かつ重心が支持位置より低い位置にあるため重力作用により自然に起立姿勢となる。ロッド18は、一対のレール3の上から支持板19の間の隙間を通して、一対のレール3の下側に延び、後ろ側から重心位置b02に位置する入力部b11に当接して、この位置を押してレール3上を移動させる(図5)。
【0022】
以後、供給部23のこのような作動の繰り返しにより、各無端状チェーン10の隣接した各対のロッド18、18間のそれぞれに1つの被処理物b1が位置されると共に、その対応する一対のレール3の左右の電極20、20間に位置されて括れ部b03の左右箇所を電極20、20で支持された状態となる。この状態の各被処理物b1は後部にこれに当接したロッド18から押し力を付与されて電極20、20上を滑り移動される。この移動の過程で、この被処理物b1はメッキ槽5中の電解溶液a1中への浸漬を開始される。
【0023】
図4に示すように、被処理物b1は電解溶液a1に対して下部b01を電解溶液a1に浸漬された状態となる。この状態となった後、各被処理物b1はロッド18から押し力を付与されてさらにレール3に沿って移動される。
そして、被処理物b1はメッキ槽5内の電解溶液a1側から大気中に引き上げられ、その後、液受け部5d上を通過して取出し部24に到達する。
【0024】
被処理物b1の重心位置b02は、一対のレール3の下側に存在し、ロッド18は、重心位置b02よりもやや下の入力部b11に当接し、これを押すようになる。これにより、被処理物b1が電極20、20との間で生じる摩擦により頭部b10が移動を拒もうとしても、ロッド18はレール3の上から伸びており、姿勢を崩そうとする被処理物b1の頭部b10に当接するため、姿勢が保たれたまま移動がなされる。一方、被処理物b1の重心位置b02よりもやや下の位置を押しているため、頭部b10のみが前に押し出されることも無く、被処理物b1は適正な起立姿勢で安定的にレール3上を移動する。従って、予期しない位置へのメッキの析出が避けられる。
【0025】
一方、搬送装置2で押し移動される被処理物b1がメッキ槽5の電解溶液a1に浸漬されている期間中、被処理物b1は電極20、20を介して陰極電位を付与され、また極板25には陽極電位を付与される。これにより、被処理物b1のうち電解溶液a1中に浸漬された部分にはメッキ金属が析出される。このさい、被処理物b1は下部b01を電解溶液a1に浸漬されて移動するため、極板25の偏在による電解の不均一性が解消され、ムラが抑制される。
【0026】
また、電極20は、空中にありメッキ液の影響を受けないので、導電性の良い金属を選択して使用することができるうえ、被処理物b1に対して電極跡を残さない。
【0027】
被処理物b1が前側の傾斜下張り部10aを通過したとき、被処理物b1はロッド18の押し力を付与されなくなるが、この被処理物b1は延長レール24bの案内作用とロッド18の押し力で押し移動される後続の他の被処理物b1に押されて前下方へ滑落し、シュート24c上に落下する。シュート24cはこれの上面に達した被処理物b1をさらに前下方の収容場所に滑落させる。
【0028】
このように、本実施例においては、頭部b10に対して何ら被覆をすることなく、連続的に部分メッキ処理を安定的に行うことが出来るという効果がある。
【0029】
上記実施例においては、1つのロッド18により被処理物b1を1つ押し移動させていたが、ロッド18、18間の距離を大きくし、開閉シャッタ板n1とn2の間隔を広げて一度に、案内開始始点f1に滑り落ちる被処理物b1の数を複数(例えば3個)にしても良い。
【0030】
上記実施例においては、被処理物b1の括れ部b03は、頭部b10と下部b01よりも幅の狭いものであった。しかしながら、頭部b10がレール3に懸架されればよいのであり、括れ部b03は頭部b10から括れたことを意味し、下部b01からは括れている必要は無く、従って、括れ部b03は下部b01よりも広くてもよい。上記実施例においては、ロッド18は、細長板状のものを使用したが、少なくとも、被処理物b1の重心よりやや下に当接して主にこれを押し、レール3より上に出た被処理物の頭部が姿勢を崩そうとしたときにその頭部を押す形状であれば良い。
【符号の説明】
【0031】
1 電気メッキ装置
2 搬送装置
3 レール
5 メッキ槽
10 無端状のチェーン
18 ロッド
20 電極
a1 電解溶液
b1 被処理物
b10 頭部
b02 重心位置
b03 括れ部
b01 下部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部と下部の間に括れ部を有し、下部側に重心位置を有する被処理物に対して、前記頭部を除いた範囲に電気メッキを施す電気メッキ装置であって、
前記頭部よりも狭く、且つ括れ部よりも広い間隔の隙間を持ち、電極が配された一対のレールと、
前記一対のレールの下側に位置し、電極板がメッキ液中に配置されたメッキ槽と、
前記括れ部を前記一対のレールの間の隙間に位置させて、前記頭部が前記一対のレールの上側に、前記括れよりも下が前記一対のレールの下側に位置するように被処理物を配置する供給装置と、
前記一対のレールの上から前記一対のレールの隙間を通って前記被処理物の重心よりも下の位置を押すことにより、前記支持板の上で前記電極と接触した状態で前記一対のレール上を摺動させるロッドとを備えたことを特徴とする電気メッキ装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−172246(P2012−172246A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38199(P2011−38199)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【特許番号】特許第4755729号(P4755729)
【特許公報発行日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(511049347)株式会社 大塚金属 (1)
【Fターム(参考)】