説明

電気・電子機器用銅合金

【課題】 曲げ加工性に優れ、引張強度の強い電気・電子機器用のコネクタ、端子材等、例えば自動車車載用のコネクタや端子材、リレー、スイッチなどに適した電気・電子機器用銅合金を提供する。
【解決手段】 Niが0.5〜4.0mass%、Coが0.5〜2.0mass%、Siが0.3〜1.5mass%を含有し、残部が銅と不可避不純物からなり、材料表面における{111}面からの回折強度をI{111}、{200}面からの回折強度をI{200}、{220}面からの回折強度をI{220}、{311}面からの回折強度をI{311}、これらの回折強度の中の{200}面からの回折強度の割合をR{200}=I{200}/(I{111}+I{200}+I{220}+I{311})とした場合に、R{200}が0.3以上である、電気・電子機器用銅合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気・電子機器用のリードフレーム、コネクタ、端子材等、例えば、自動車車載用などのコネクタや端子材、リレー、スイッチなどに適用される電気・電子機器用銅合金に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的に電気・電子機器用材料としては、鉄系材料の他、電気伝導性および熱伝導性に優れるリン青銅、丹銅、黄銅等の銅系材料も広く用いられている。近年、電気・電子機器の小型化、軽量化、高機能化、さらにこれに伴う高密度実装化に対する要求が高まり、これらに適用される銅系材料にも種々の特性が求められている。
例えば、CPUの発熱量増加に伴ってCPUソケットなどに使用される銅合金には抜熱のためにこれまでよりも導電率が求められている。また、車載用のコネクタでも使用環境が厳しくなっており、放熱性を向上する目的で端子材の銅合金に、これまでよりも導電率が求められている。
部品の小型化に伴って材料の薄肉化が進行しており、材料強度の向上が求められている。リレーなどの用途では疲労特性の要求が高まっており、強度の向上が必要である。また、部品の小型化に伴って、曲げ加工される場合の条件が厳しくなっており、高い強度を持ちながら、なおかつ、曲げ加工性に優れていることが要求されている。さらに、部品の小型化に伴って、部品の寸法精度がこれまでよりも要求されており、接圧をとる部分でのバネ材の変位量が少なくなっている。長時間使用した場合の材料のヘタリがこれまでよりも問題になるため、材料には耐応力緩和特性の要求が高まっている。自動車などでは使用環境温度が高いために、更に耐応力緩和特性への要求が高い。
【0003】
これらの要求特性はリン青銅、丹銅、黄銅などの市販量産合金では満足できないところに到達している。これらの合金は、SnやZnをCu中に固溶させて、それに圧延や引き抜き加工などの冷間加工を加えることにより強度を向上させている。この方法では、導電率が優れない上、高い冷間加工率(一般的に50%以上)を加えることにより高強度な材料を得ることができるものの、曲げ加工性が著しく悪くなることが知られている。一般的にこの方法は固溶強化と加工強化の組み合わせである。
【0004】
これに替わる強化法として材料中にナノメートル・オーダーの微細な析出物を形成して強化する析出強化がある。この方法は強度が高くなることに加えて、導電率を同時に向上させるメリットがあるため、多くの合金系で行われている。その中で、Cu中にNiとSiを加え、Ni−Si化合物を微細析出させて強化させたコルソン合金と呼ばれる合金は、多くの析出型合金の中ではその強化する能力が非常に高く、いくつかの市販合金(例えば、CDA(Copper Development Association)登録合金であるCDA70250)でも用いられている。
【0005】
一般に析出強化型合金の製造工程には、次の2つの重要な熱処理を取り入れられる。まず、溶体化処理と呼ばれる高温(通常は700℃以上)にてNiとSiをCu母相に固溶させる目的の熱処理と、溶体化処理温度より低い温度で熱処理する、いわゆる時効析出処理であり、高温で固溶したNiとSiを析出物として析出させる目的である。これは、高い温度と低い温度でNiとSiがCuに固溶する原子の量の差を使って強化する方法であり、析出型合金の製造方法においては周知の技術である。
【0006】
コルソン系合金の使用量は増加しているが、先述した高い要求特性に対して、導電率が不足する。一方、コルソン系合金のNiの一部をCoで置き換えたCu−Ni−Co−Si系合金の例がある(例えば特許文献1)。この系は、Ni−Co−Si、Ni−Si、Co−Siなどの化合物の析出硬化合金であり、コルソン系よりも固溶限界が小さい特徴があり、固溶元素が少ないために、高い導電性を実現できる優位性がある。
【0007】
その優位性の反面、固溶限界が小さいことに起因して、Cu−Ni−Si系よりも溶体化熱処理温度を高くする必要性がある。また、溶体化温度を高められない場合には溶体化時に固溶量が少なくなるために、時効析出熱処理において、析出硬化量が低くなってしまい、比較的高い加工率の加工硬化によって強度を補う必要がある。その結果、溶体化熱処理温度が高い場合は結晶粒の粗大化によって、また、比較的高い加工率の加工硬化を導入する場合は材料内の転位密度の上昇によって、重要な要求特性である曲げ加工性がそれぞれ悪化する問題があり、近年の電子機器や自動車などの分野で高まっている銅材料への要求特性を満足出来ない。
【0008】
Cu−Ni−Si系において、曲げ加工性を制御するために、板表面のX線回折強度によって結晶方位の集積を規定した発明例がある(例えば特許文献2)。但し、この発明は溶体化熱処理条件の調整による結晶粒径の制御と、加工硬化量の低減による手法であり、前述したようにCu−Ni−Co−Si系のような高温での溶体化熱処理が必要な場合において、強度や曲げ加工性の低下を招くために適さない。
【特許文献1】特表2005−532477号公報
【特許文献2】特許第3739214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような問題点に鑑み、本発明の目的は、曲げ加工性に優れ、優れた強度を有し、電気・電子機器用のリードフレーム、コネクタ、端子材等、特に自動車車載用などのコネクタや端子材、リレー、スイッチなどに適した電気・電子機器用銅合金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、電気・電子部品用途に適した銅合金について研究を行い、Cu−Ni−Co−Si系銅合金において、曲げ加工性、強度、導電性、耐応力緩和特性を大きく向上させるために、材料表面(例えば板状または条状材料の表面であって、好ましくは板状材料の板表面)のX線回折強度によって規定される結晶方位の集積様式と曲げ加工性について相関があることを見出し、鋭意検討の末に本発明をなすに至った。また、それに加えて、本合金系において導電率を損なうことなく、強度や耐応力緩和特性を向上させる働きのある添加元素や、曲げ加工性を良好にする平均結晶粒径を見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)Niが0.5〜4.0mass%、Coが0.5〜2.0mass%、Siが0.3〜1.5mass%を含有し、残部が銅と不可避不純物からなり、材料表面における{111}面からの回折強度をI{111}、{200}面からの回折強度をI{200}、{220}面からの回折強度をI{220}、{311}面からの回折強度をI{311}、これらの回折強度の中の{200}面からの回折強度の割合をR{200}=I{200}/(I{111}+I{200}+I{220}+I{311})とした場合に、R{200}が0.3以上であることを特徴とする、電気・電子機器用銅合金、
(2)Niが0.5〜4.0mass%、Coが0.5〜2.0mass%、Siが0.3〜1.5mass%を含有し、更にAg、B、Cr、Fe、Hf、Mg、Mn、P、Sn、Ti、Zn、Zrから選ばれる1種または2種以上を合計で3mass%以下含有し、残部が銅と不可避不純物からなり、材料表面における{111}面からの回折強度をI{111}、{200}面からの回折強度をI{200}、{220}面からの回折強度をI{220}、{311}面からの回折強度をI{311}、これらの回折強度の中の{200}面からの回折強度の割合をR{200}=I{200}/(I{111}+I{200}+I{220}+I{311})とした場合に、R{200}が0.3以上であることを特徴とする、電気・電子機器用銅合金、
(3)平均結晶粒径が20μm以下であることを特徴とする、(1)または(2)項記載の電気・電子機器用銅合金、および
(4)0.2%耐力が600MPa以上であり、導電率が40%IACS以上であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の電気・電子機器用銅合金
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電気・電子機器用銅合金は強度、曲げ加工性、導電率、耐応力緩和特性に優れる。本発明の銅合金は、上記のような特性により、電気・電子機器用のリードフレーム、コネクタ、端子材等、特に自動車車載用などのコネクタや端子材、リレー、スイッチなどに特に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の銅合金の好ましい実施の態様について、詳細に説明する。なお、以下の説明においては、例として、本発明の銅合金は板や条などの形状を有するものとして説明する。
NiとCoとSiについては、Ni+CoとSiの添加比を制御することによりNi−Si、Co−Si、Ni−Co−Si化合物の析出強化によって銅合金の強度を向上させることが目的として形成させる元素である。Niの含有量は0.5〜4.0mass%であり、好ましくは1.0〜3.0mass%である。Coの含有量は0.5〜2.0mass%であり、好ましくは0.7〜1.7mass%である。Siの含有量は0.3〜1.5mass%であり、好ましくは0.4〜1.2mass%である。これらの元素はこの規定範囲よりも添加量が多いと導電率を低下させ、また、少ないと強度が不足する。
【0014】
曲げ加工性を改善するために、本発明者らは曲げ加工部に発生するクラックの発生原因について調査し、塑性変形が局所的に発達し、局所的に加工限界に達することが原因であることを確認した。その対策として、板表面におけるX線回折強度の{200}面からの回折強度を高めることで、曲げ加工性を良好にできることを発見した。これは、表面方向に{200}面が向く状態で曲げ加工が行われた場合に、クラックの原因となる局所的な変形帯やせん断帯の発達を抑制する効果があるからである。即ち、曲げ加工の応力方向に対して、より多くの原子の滑り系が活動できる方位関係になることによって変形を分散させる効果があり、局所的な変形の発達を抑制することによって、クラックの発生を抑制できるものと考えられる。
【0015】
板表面における{111}面からの回折強度をI{111}、{200}面からの回折強度をI{200}、{220}面からの回折強度をI{220}、{311}面からの回折強度をI{311}、これらの回折強度の中の{200}面からの回折強度の割合をR{200}=I{200}/(I{111}+I{200}+I{220}+I{311})とした場合に、R{200}は0.3以上であり、好ましくは0.4以上である。R{200}が上記の値となることで、曲げ加工性を良好にできる。本発明において前記R{200}の上限値に特に制限はないが、通常0.98以下である。
本発明において、R{200}を規定する材料表面(例えば、板表面)とは一連の製造工程の全てを完了した最終の状態の板等の表面をいう。
【0016】
本発明に係る銅合金のR{200}を上下させる方法については、例えば以下のような製造条件が挙げられるが、これに限定されるものではない。最終再結晶熱処理の前に、加工組織が完全に再結晶しない程度の中間焼鈍と、それに加えて中間圧延を導入することでI{200}が高くなり、R{200}が高まる。また、熱間圧延後に冷間加工と再結晶熱処理を1回または複数回繰り返した後に、冷間加工し、最終再結晶熱処理を施すことで、I{111}やI{220}の回折強度が高くなり、もしくは、熱間圧延後に90%以上の高い加工率の冷間加工を行った後に最終再結晶熱処理を行うことでI{311}が高くなり、R{200}は低くなる。
【0017】
ここで、本発明で規定する特徴的なR{200}を達成する工程の一例を示すが、これに限定されるものではない。全工程を終えた最終状態におけるR{200}は、製造工程の中でも最後の中間溶体化熱処理中に起きる材料の再結晶において発達する結晶方位によって大きく支配されるので、その最後の中間溶体化熱処理の前の工程を適正に調整することが好ましい。ここで、最後の中間溶体化熱処理とは、全工程中のある工程と別のある工程の中間に複数回施される溶体化熱処理の内で、工程の順序として最後に施される溶体化熱処理をいう。そのような最後の中間溶体化熱処理の前の工程としては、50%以上の加工率の冷間圧延と、続いて、部分的に再結晶させるもしくは平均結晶粒径が5μm以下の再結晶組織が得られる様な熱処理、続いて、50%以下の加工率の冷間圧延の後に、最後の中間溶体化熱処理を行うことが、好ましい。部分的に再結晶させるもしくは平均結晶粒径が5μm以下の再結晶組織が得られる様な熱処理としては、例えば、350〜750℃における5分〜10時間の保持や、あるいは、より高温の600〜850℃における5秒〜5分間の保持などが挙げられるが、これに限定されるものではない。この様な熱処理によって、良好な再結晶組織が得られる。次に、最後の中間溶体化熱処理の後の好ましい工程の例を示す。例えば、最後の中間溶体化熱処理の後には、中間冷間圧延、時効析出熱処理、仕上げ冷間圧延、調質焼鈍を施すことによって、強度や導電率、その他の諸特性を用途に応じて調整することができる。ここで、時効析出熱処理の後の仕上げ冷間圧延における冷間加工率(圧下率)を30%以下とすることが好ましい。
【0018】
次に本合金へのAg、B、Cr、Fe、Hf、Mg、Mn、P、Sn、Ti、Zn、Zrの副添加元素の効果について示す。これらの元素はその含有量の総量が多すぎると導電率を低下させる弊害を生じる場合がある。添加効果を充分に活用し、かつ導電率を低下させないためには、総量で通常3mass%以下とするが、好ましくは0.01mass%〜2.5mass%であり、さらに好ましくは、0.03mass%〜2mass%である。
【0019】
Mg、Sn、Znは、Cu−Ni−Co−Si系合金に添加することで耐応力緩和特性を向上させる。それぞれを添加した場合よりも併せて添加した場合に相乗効果によって更に耐応力緩和特性が向上する。また、半田脆化が著しく改善する効果がある。これらの元素は、好ましくはMg、Sn、Znの含有量の合計で0.05mass%を越え2mass%以下とすることが好ましい。この合計量が少なすぎると効果が現れない場合があり、多すぎると導電率を低下させる場合がある。
【0020】
Mnは添加すると熱間加工性を向上させる。また強度を向上させる。これは、熱間加工における溶質原子の粒界への偏析を抑制し、このときに固溶する溶質原子量を高める効果があるため、より時効処理における析出硬化量を高めることによると考えられる。
【0021】
Cr、Fe、Ti、Zr、HfはNiやCoやSiとの化合物や単体で微細に析出し、析出硬化に寄与する。また、化合物として50〜500nmの大きさで析出し、粒成長を抑制することによって結晶粒径を微細にする効果があり、曲げ加工性を良好にする。
【0022】
また、平均結晶粒径は通常20μm以下に、さらに好ましくは、10μm以下に制御することによって、優れた曲げ加工性を実現する。本発明において前記平均結晶粒径の下限値に特に制限はないが、通常3μm以上である。なお、結晶粒径は、JIS H 0501(切断法)に基づき測定した。
【0023】
本発明の銅合金は、Ni、Co、Siの主成分の配合量、およびX線回折強度の{200}回折強度を上記規定の範囲内とすることによって、さらに該当する場合には、その他の副添加元素の配合量、および平均結晶粒径を上記好ましい範囲内とすることによって、優れた曲げ加工性と強度、導電率を両立させることができる。本発明の銅合金のJIS Z2241による引張強度(0.2%耐力)は好ましくは600MPa以上、さらに好ましくは650MPa以上、導電率は好ましくは40%IACS以上、さらに好ましくは45%IACS以上である。ここで、0.2%耐力の上限値に特に制限はないが、通常1000MPa以下である。導電率の上限値に特に制限はないが、通常70%IACS以下である。また、日本電子材料工業会標準規格 EMAS−3003に従い150℃×1000時間の条件で測定した応力緩和率は40%以下であることが好ましく、25%以下であることがさらに好ましい。前記応力緩和率の下限値に特に制限はないが、通常3%以上である。
【実施例】
【0024】
以下に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0025】
(実施例1)
表中に示す成分になるように元素を配合し、残部がCuと不可避不純物から成る合金を高周波溶解炉により溶解し、これを0.1〜100℃/秒の冷却速度で鋳造して鋳塊を得た。これを900〜1020℃で3分から10時間の保持後、熱間加工を行った後に水焼き入れを行い、酸化スケール除去のために面削を行った。
この後の工程は、次に記載する工程A−1〜B−4の処理を施すことによって銅合金を製造した。
製造工程には、1回または2回以上の溶体化熱処理を含み、ここでは、その中の最後の溶体化熱処理の前後で工程を分類し、中間溶体化までの工程をA工程とし、A−1〜A−6の工程、中間溶体化より後の工程をB工程とし、B−1〜B−4の工程、そして、これらの組合せによって本発明例および比較例の銅合金を得、それらを供試材とした。
【0026】
以下に工程A−1〜A−6、B−1〜B−4の内容を示す。
工程A−1:断面減少率が20%以上の冷間加工を施し、800〜1000℃で5秒〜30分の溶体化熱処理を施す。
工程A−2:350〜750℃で5分〜10時間の熱処理を施し、断面減少率が20%以上の冷間加工を施し、800〜1000℃で5秒〜30分の溶体化熱処理を施す。
工程A−3:断面減少率が20%以上の冷間加工を施し、350〜750℃で5分〜10時間の熱処理を施し、断面減少率が5〜50%の冷間加工を施し、800〜1000℃で5秒〜30分の溶体化熱処理を施す。
工程A−4:断面減少率が20%以上の冷間加工を施し、800〜1000℃で5秒〜30分の溶体化熱処理を施し、350〜750℃で5分〜10時間の熱処理を施し、断面減少率が5〜50%の冷間加工を施し、800〜1000℃で5秒〜30分の溶体化熱処理を施す。
工程A−5:断面減少率が5%以上の冷間加工を施し、850℃より高く1000℃以下で5秒〜5分の溶体化熱処理を施し、断面減少率が5%以上の冷間加工を施し、800〜1000℃で5秒〜5分の溶体化熱処理を施す。
工程A−6:断面減少率が5%以上の冷間加工を施し、600〜850℃で5秒〜5分の熱処理を施し、断面減少率が5%以上の冷間加工を施し、800〜1000℃で5秒〜5分の溶体化熱処理を施す。
なお、溶体化熱処理において、保持する温度までの昇温速度は5〜500℃/secで、保持後の冷却速度は1〜300℃/secの条件で行った。
【0027】
工程B−1:400〜700℃で5分〜10時間の熱処理を施す。
工程B−2:400〜700℃で5分〜10時間の熱処理を施し、断面減少率が30%以下の冷間加工を施し、200〜550℃で5秒〜10時間の調質焼鈍を施す。
工程B−3:断面減少率が50%以下の冷間加工を施し、400〜700℃で5分〜10時間の熱処理を施し、断面減少率が30%以下の冷間加工を施し、200〜550℃で5秒〜10時間の調質焼鈍を施す。
工程B−4:400〜700℃で5分〜10時間の熱処理を施し、断面減少率が50%以下の冷間加工を施し、400〜700℃で5分〜10時間の熱処理を施し、断面減少率が30%以下の冷間加工を施し、200〜550℃で5秒〜10時間の調質焼鈍を施す。
【0028】
各供試材について下記の特性調査を行った。結果を以下の表中に合わせて示す。
a.X線回折強度
反射法で試料に対して1つの回転軸の回りの回折強度を測定した。ターゲットには銅を使用し、KαのX線を使用した。管電流20mA、管電圧40kV、の条件で測定し、回折各と回折強度のプロファイルにおいて、回折強度のバックグラウンドを除去後、各ピークのKα1とKα2を合わせた積分回折強度を求め、上記の式よりR{200}の値を求めた。
b.曲げ加工性
曲げの軸が圧延方向に直角と平行になるようにW曲げしたものをそれぞれGW、BWとし、曲げ部における割れの有無を50倍の光学顕微鏡で観察し、クラックの有無を調査した。曲げ部の内側半径は0.2mmで実施した。n=5の視野においてクラックが観察されなかったものを○で、クラックが観察されたものを×で示した。
c.引張強度(以下の表中では「YS」とする)
圧延平行方向から切り出したJIS Z2201−13B号の試験片をJIS Z2241に準じて3本測定しその平均値(0.2%耐力)を示した。
d.導電率(以下の表中では「EC」とする)
20℃(±0.5℃)に保たれた恒温漕中で四端子法により比抵抗を計測して導電率を算出した。なお、端子間距離は100mmとした。
e.応力緩和率(以下の表中では「SR」とする)
日本電子材料工業会標準規格 EMAS−3003に準じて150℃×1000時間の条件で測定した。片持ち梁法により耐力の80%の初期応力を負荷した。
図1は耐応力緩和特性の試験方法の説明図であり、(a)は熱処理前、(b)は熱処理後の状態である。図1(a)に示すように、試験台4に片持ちで保持した試験片1に、耐力の80%の初期応力を付与した時の試験片1の位置は、基準からδの距離である。これを150℃の恒温槽に1000時間保持(前記試験片1の状態での熱処理)し、負荷を除いた後の試験片2の位置は、図1(b)に示すように基準からHの距離である。3は応力を負荷しなかった場合の試験片であり、その位置は基準からHの距離である。この関係から、応力緩和率(%)は(H−H)/δ×100と算出した。式中、δは、基準から試験片1までの距離であり、H1は、基準から試験片3までの距離であり、Htは、基準から試験片2までの距離である。
f.平均結晶粒径(以下の表中では「GS」とする)
JISH0501(切断法)に基づき、測定した。
【0029】
【表1−1】

【0030】
【表1−2】

【0031】
表1−1に示すように、本発明例1−1〜本発明例1−19は、曲げ加工性、耐力、導電率、および耐応力緩和特性がいずれも優れたものであった。しかし、表1−2に示すように、本発明の規定を満たさない場合は、上記特性の少なくとも1つが劣るものとなった。すなわち、比較例1−1はCoを含まないために、導電率が劣った。比較例1−2はNi量が低いために、析出量が減少し、強度が劣った。比較例1−3は、Si量が低いために析出量が減少し、強度と導電率が劣った。比較例1−4はNi量が多いために、導電率が劣った。比較例1−5は、Co量が多いために晶出物や粗大な析出物が多くそれらがクラックの基点となり曲げ加工性が劣った。比較例1−6は、Si量が多いために導電率が劣った。比較例1−7、比較例1−8、比較例1−9はR{200}が低く、曲げ加工性が劣った。
【0032】
【表2−1】

【0033】
【表2−2】

【0034】
表2−1に示すように、本発明例2−1〜本発明例2−17は、曲げ加工性、耐力、導電率、および耐応力緩和特性のいずれもが優れたものであった。しかし、表2−2に示すように、本発明の規定を満たさない場合は、上記特性の少なくとも一つが劣るものとなった。すなわち、比較例2−1、2−2は、その他の元素の添加量が多いために、導電率が劣った。また、比較例2−3、比較例2−4、比較例2−5はR{200}が低く、曲げ加工性が劣った。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例における耐応力緩和試験方法の説明図であり、(a)は熱処理前、(b)は熱処理後の状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0036】
1 耐力の80%の初期応力を付与した試験片
2 試験片1の状態で熱処理し、負荷を除いた後の試験片
3 応力を負荷しなかった場合の試験片
4 試験台
δ 基準から試験片1までの距離
基準から試験片3までの距離
基準から試験片2までの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Niが0.5〜4.0mass%、Coが0.5〜2.0mass%、Siが0.3〜1.5mass%を含有し、残部が銅と不可避不純物からなり、材料表面における{111}面からの回折強度をI{111}、{200}面からの回折強度をI{200}、{220}面からの回折強度をI{220}、{311}面からの回折強度をI{311}、これらの回折強度の中の{200}面からの回折強度の割合をR{200}=I{200}/(I{111}+I{200}+I{220}+I{311})とした場合に、R{200}が0.3以上であることを特徴とする、電気・電子機器用銅合金。
【請求項2】
Niが0.5〜4.0mass%、Coが0.5〜2.0mass%、Siが0.3〜1.5mass%を含有し、更にAg、B、Cr、Fe、Hf、Mg、Mn、P、Sn、Ti、Zn、Zrから選ばれる1種または2種以上を合計で3mass%以下含有し、残部が銅と不可避不純物からなり、材料表面における{111}面からの回折強度をI{111}、{200}面からの回折強度をI{200}、{220}面からの回折強度をI{220}、{311}面からの回折強度をI{311}、これらの回折強度の中の{200}面からの回折強度の割合をR{200}=I{200}/(I{111}+I{200}+I{220}+I{311})とした場合に、R{200}が0.3以上であることを特徴とする、電気・電子機器用銅合金。
【請求項3】
平均結晶粒径が20μm以下であることを特徴とする、請求項1または2記載の電気・電子機器用銅合金。
【請求項4】
0.2%耐力が600MPa以上であり、導電率が40%IACS以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気・電子機器用銅合金。

【図1】
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【公開番号】特開2009−7666(P2009−7666A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136851(P2008−136851)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】