説明

電気二重層キャパシタ用電極の評価方法

【課題】電極のイオン伝導度に寄与する電極材料粒子間の空孔を短時間で精度よく簡便に評価する方法を提供する。
【解決手段】活物質と導電性フィラーと高分子バインダからなる分散液を集電体や可撓性フィルムに塗布し乾燥することによって得られた分極性電極を、集電体や可撓性フィルムから剥離した後に、前記分極性電極内における空孔をガーレー試験機により測定できる透気抵抗度をもって定量する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気二重層キャパシタ用電極の評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタは二次電池に比べて出力密度が優れており、大きな出力を要する瞬時電圧低下補償装置の電源として採用されている。このような電源ではとりわけ大きな出力密度が求められることから、電気二重層キャパシタの内部抵抗をいかに低くするかが課題となっている。内部抵抗を低くするためには、分極性電極内におけるイオン伝導度を大きくすることが重要である。ここで言うイオン伝導度とは、電解液中における電解質イオンの移動度のことを言う。そして、イオン移動度を大きくするためには、電解質イオンの拡散抵抗を小さくすればよく、それには電解質イオンの移動経路を大きくすればよい。具体的には、活物質における細孔径が電解質イオン径よりも適度に大きい分布を有すること、そして、活物質、導電性フィラー、高分子バインダといった分極性電極を構成する材料の間の空孔が大きく、充分な電解液の含浸性や拡散性を有することがイオン伝導度を大きくするための要件となる。このような特徴を備えた電気二重層キャパシタは、放電時に電気二重層を形成していた電解質イオンを効果的に拡散させることができるため、内部抵抗が低くなる。
【0003】
分極性電極においてイオン伝導度を評価する手段は、分極性電極の設計時のみならず、分極性電極の品質を調査する製造検査でも重要である。一般に、分極性電極におけるイオン伝導度を評価する方法として、分極性電極の空孔量を定量する方法が採用されており、それには電極材料単体の空孔と、電極材料粒子間の空孔の2種類を評価する必要がある。
【0004】
この内、電極材料単体の空孔の評価については、活物質における細孔径分布および細孔容積を測定すればよく、これらは窒素の吸着・脱離等温線により求めることができる。電極材料粒子間の空孔の評価については、分極性電極内全ての空孔を評価する方法と併せて、いくつかの方法が提案されている。
【0005】
従来の分極性電極における空孔の定量方法として、分極性電極を構成する各材料の重量と嵩密度より各構成材料の体積を求め、これらと分極性電極の体積との差から分極性電極の全空孔体積を求める方法の他に、分極性電極にエタノールを含浸させて、含浸したエタノールの重量を体積に換算し、これを分極性電極の全空孔体積とする方法(特許文献1)がある。また、分極性電極の全空孔体積を水銀ポロシメーターにより求める方法(特許文献2)、電極密度、活性炭質量比率、水銀ポロシメーターから求める活性炭の全空孔体積と分極性電極の全空孔体積から、電極材料粒子間の空孔体積を算出する方法(特許文献3)がある。また、分極性電極の空孔体積ではなく、分極性電極表面にある空孔の面積によりイオン伝導度を評価する方法も知られており、分極性電極表面の電子顕微鏡写真から画像解析ソフトを用いて空孔面積を求める方法(特許文献4)が公知となっている。
【特許文献1】特許第2993965号(平成11年10月22日登録)
【特許文献2】特許第3540629号(平成16年4月2日登録)
【特許文献3】特開2008−60457号公報(2008年3月13日公開)
【特許文献4】特開2007−53278号公報(2007年3月1日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特許文献1および3のように、分極性電極における全ての空孔量を求める場合、高出力化に重要な電極材料粒子間の空孔を評価できないという問題があった。また、特許文献1のように、分極性電極の空孔量をエタノールで評価する方法では、測定中にエタノールが揮発し、測定個体によってエタノールの含浸量に誤差が生じる。また、液体を含浸した電極の表面上に余分な液体が多く付着するため、これが誤差となり空孔率を精度よく評価することが困難であった。
【0007】
特許文献2および3のように、水銀ポロシメーターを使用する測定では、電極材料の細孔まで水銀を圧入する際に、大きな圧入圧力を必要とするため、電極の強度によっては水銀の圧力に耐えることができずに破壊する虞がある他、装置が大きく高価であるため、製造現場における検査に不適である。また、水銀ポロシメーターは多孔質体の空孔容積を定量することができる。しかし、イオン伝導度を評価する上では、空孔の量だけでなく空孔の形状も必要であるが、空孔の複雑な形状について評価することはできないという問題があった。一方、特許文献4では、分極性電極表面の空孔を定量しており、分極性電極内部の空孔には触れられていない。したがって、電極材料粒子間の空孔の状態は不明であった。
【0008】
本発明は上記状況に鑑みてなされたものであり、電極のイオン伝導度に寄与する電極材料粒子間の空孔を短時間で精度よく簡便に評価することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
活物質と、導電性フィラーと、高分子バインダからなる分散液を集電体に塗布し、乾燥することによって得られる電気二重層キャパシタ用の電極において、分極性電極を酸またはアルカリを用いて集電体と分離した後に、前記分極性電極内における空孔をガーレー試験機により測定できる透気抵抗度をもって定量することを特徴とする。
【0010】
活物質と、導電性フィラーと、高分子バインダからなる分散液を高分子からなる可撓性フィルムに塗布し、乾燥することによって得られる電気二重層キャパシタ用の分極性電極において、分極性電極を可撓性フィルムから剥離した後に、前記分極性電極内における空孔をガーレー試験機により測定できる透気抵抗度をもって定量することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電気二重層キャパシタ用電極の評価方法は、分極性電極の透気抵抗度を測定することによって、イオン伝導度に関係する電極材料粒子間の空孔を省スペースで簡単かつ迅速に評価することができる。それゆえ、分極性電極の品質検査において、分極性電極の電気特性についての品質を製造現場で短時間に検査できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
分極性電極の空孔を制御する手段として、ISO−5635/5(紙及び板紙−透気度試験方法(中間領域)−第5部:ガーレー法)およびJIS P 8117(紙及び板紙−透気度試験方法−ガーレー試験機法)に準拠したガーレー試験機とその測定方法を使用した。また、その際のガーレー試験機のガスケット内径は28.6mmとし、100mLの空気を透過させた。
【0013】
ガーレー試験機を使用した理由は以下の通りである。分極性電極は多孔質であり、通気性を有するものである。それゆえ、ガーレー試験機で分極性電極に対し一定量の空気を一定圧力で通過させれば、分極性電極構造内における材料粒子間の空孔の量および形状によって、空気が透過する際の抵抗(透気抵抗度)が異なる。そして、この透気抵抗は空気が透過する時間とした透気抵抗度(sec)で表現される。一方、分極性電極のおけるイオン伝導度は、電極材料粒子間の空孔の量および形状によって変化する。したがって、分極性電極におけるイオン伝導度を透気抵抗度によって評価することが可能となる。
【0014】
さらに、ガーレー試験機を使用する方法は、水銀ポロシメーターを使用する方法とは異なり、空孔量の絶対値を測定することはできないが、透気抵抗度は空孔量に空孔の形状を加味した評価であって、空孔の状態を総合的に評価できる。また、測定値の誤差が生じにくく再現性もよいため、分極性電極におけるイオン伝導度の評価に適した手法である。また、ガーレー試験機は小型で安価であることから、電極の製造現場でも品質検査の用途として好適に使用することができる。
【0015】
ガーレー試験機による空孔率の測定として、ISO5636/5およびJIS P 8117に準拠した装置と方法を使用する。ガーレー試験機にはA型とB型の2種類があるが、製品流通量が多く、比較的少量の試料で測定することができるB型を好適に使用できる。また、電極に透過させる空気の量としては、100mLが一般的に使用されるが、空孔率の小さい電極において、測定に時間を要す場合には、空気量を50mLとし、透気抵抗度を2倍してもよい。
【0016】
本発明では、図1および図2に示すように、透気抵抗度は電極の厚みに比例することから、透気抵抗度(sec)を電極厚み(μm)で規格化して速度とした透気度(μm/sec)を使用する。
【0017】
また、電極をガーレー試験機に固定するためのガスケットとして、内径が28.6mmのものを通常使用するが、このサイズに限定されない。分極性電極の強度によっては、空気圧に耐えることができず測定中に試料が破れる場合があるため、空気圧を調整するためにガスケット径を変更してもよい。
【0018】
電気二重層キャパシタ用の電極の製造方法として、活物質材、導電性フィラー、高分子バインダを混練した電極合材とをシート状に成型してなる分極性電極を集電体と一体化するシート法と、インク状の電極合材を集電体に塗工(塗布)する塗工法とに大別される。
【0019】
本発明はこのようなシート法と塗工法の分極性電極両方に適用することが可能である。シート法電極は、集電体に貼り合せる前の多孔質シートの状態でガーレー試験機により測定するが、塗工法により製造される電極は、空気が透過しない集電体と一体化しているため、そのままではガーレー試験機による測定は不可能である。このような集電体と一体化している電極の透気抵抗度を測定する場合には、一体化電極を酸またはアルカリに浸漬して、集電体の一部を溶解した後に、分極性電極と集電体を分離して得た多孔質シートを測定する。
【0020】
この際に使用する酸としては硫酸を水で希釈したものを、アルカリとしては水酸化ナトリウム水溶液を好適に使用することができるが、これらに限定されず、酸やアルカリで一般的に使用されているものであれば何でも良い。例えば、10Nの硫酸を使用する場合に、数時間から1日で、集電体と一体化した電極から集電体を分離し、分極性電極のみを得ることができる。この時に、より早く集電体を分離する場合は、水素イオン濃度を大きくすれば良い。
【0021】
さらに、本発明では可撓性フィルムに電極材料の分散液を塗布し、乾燥させて得られるシートから、可撓性フィルムを剥離させた後に、分極性電極の透気抵抗度を測定するようにしても良い。この方法によると、塗工法電極において、多孔質シート(分極性電極)と集電体との分離を少ない工数で短時間に行うことができ、また、酸やアルカリを使用する必要がないために安全である。さらに、この方法によると、可撓性フィルムから分離した分極性電極はアルミ箔等の集電体と一体化されることによって、電気二重層キャパシタ用の電極として使用することができる。
【0022】
可撓性フィルムとしては、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラートポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー等の樹脂を使用することができ、フィルムの表面は鏡面であってもよく、ワックスやシリコンコーティング等で離型処理をされていてもよい。
【実施例】
【0023】
活性炭粉末(比表面積:2000m/g、平均粒径:4μm):80質量%、カーボンブラック粉末(比表面積:75m/g、1次粒子平均粒径:35nm)10質量%、ポリビニリデンフルオライド(PVDF):10質量%に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を加えて分散・混練した合材を、40μm厚みのエッチドアルミ箔に塗工して100℃で乾燥した。さらにこれを真空中、130℃で十分乾燥することによって、カーボン層の厚み80μmの電極を得た。この電極を50mm角に打ち抜いた後に、10Nの硫酸に3時間浸漬することによってアルミ箔を分離し、分極性電極を得た。得られた分極性電極は十分に水洗した後に100℃で1時間乾燥を行った。以上の操作を10回繰り返し、10ロット分の分極性電極を得た。
【0024】
次に、内径28.6mmのガスケットを装着したガーレー試験機(「ガーレー式デンソメータ」(東洋精機製作所製))を使用し、分極性電極に対して100mLの空気が透過する時間である透気抵抗度(sec)を測定し、電極の厚み(μm)を透気抵抗度で除することによって、透気度(μm/sec)を求めた。
【0025】
その結果、10試料中8試料で、1.48(誤差範囲:±0.02)μm/secであり、1試料で1.40μm/secであり、1試料で1.33μm/secであった。次にこれらの分極性電極をφ16mmに打ち抜き、セルロース製セパレータおよび電解液としてテトラエチルアンモニウムテトラフルオロブレートのプロピレンカーボネート溶液を使用した電極2枚構成のコイン型セルを作製して内部抵抗を測定した。その結果、透気抵抗度が1.48μm/secであった分極性電極8試料の内部抵抗の平均値を100(誤差範囲:±2)とすると、1.43μm/secであった分極性電極の内部抵抗は105であり、1.48μm/secであった分極性電極の内部抵抗は108であった。
【0026】
以上の結果から、透気度が1.40μm/sec、1.33μm/secである分極性電極は、透気度が1.48μm/secである分極性電極よりも電気二重層キャパシタの内部抵抗が高くなったことから、電気特性に不良のある分極性電極を透気度の数値異常によって精度よく選別できることが分かった。一方、1試料当りに要した測定時間は1分弱であり、極めて短時間で測定することができた。
【0027】
以上に示した実施形態または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例のみに限定して狭義に解釈されるものではなく、本発明の精神と特許請求事項の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の電気二重層キャパシタ用電極の評価方法は、イオン導電度に寄与する分極性電極の空孔を簡便かつ短時間で精度良く測定できるため、分極性電極の製品検査の場で好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】分極性電極において、2種類の透気度を示す概念図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質と、導電性フィラーと、高分子バインダからなる分散液を集電体に塗布し、乾燥することによって得られる電気二重層キャパシタ用の電極において、分極性電極を酸またはアルカリを用いて集電体と分離した後に、前記分極性電極内における空孔をガーレー試験機により測定できる透気抵抗度をもって定量することを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極の評価方法。
【請求項2】
活物質と、導電性フィラーと、高分子バインダからなる分散液を高分子からなる可撓性フィルムに塗布し、乾燥することによって得られる電気二重層キャパシタ用の分極性電極において、分極性電極を可撓性フィルムから剥離した後に、前記分極性電極内における空孔をガーレー試験機により測定できる透気抵抗度をもって定量することを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極の評価方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−109188(P2010−109188A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280382(P2008−280382)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】