説明

電気二重層キャパシタ用電解液及び電気二重層キャパシタ

【課題】電気伝導度および耐電圧が高く、かつ、広い温度範囲、特に低温において凝固や塩の析出がなく安定した液状を呈し、優れた電気的特性を発現でき、さらに長期信頼性に優れる電気二重層キャパシタ用電解液を提供する。
【解決手段】有機溶媒中に第4級アンモニウム塩を溶解した電解液であって、前記有機溶媒が下記一般式(1)


で表される鎖状スルホンを含有し、前記第4級アンモニウム塩が下記一般式(2)


である電気二重層キャパシタ用電解液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気二重層キャパシタ用電解液に関し、更に詳細には、スピロ型第4級アンモニウム塩及び鎖状スルホンを使用した、耐電圧が高く、広範な温度で使用可能であり、特に低温で凝固することなく優れた電気的特性を示し、長期信頼性にも優れる電気二重層キャパシタ用電解液及び該電解液を利用した電気二重層キャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタは、重金属等の環境負荷物質を含まず安全であり、パワー密度が大きく、優れた充放電サイクル寿命を有しているという特徴を持つため、近年、瞬停補償装置や電気自動車等様々な分野への利用が進められている。
【0003】
しかしながら、この電気二重層キャパシタの問題点として、分極性電極に活性炭を使用するため、電解液の分解電圧を越えるような高い電圧で使用すると、電気二重層キャパシタの内部抵抗増大や容量減少を招いてしまうことが挙げられる。
【0004】
したがって、電気二重層キャパシタに用いられる電解液は、高い電気伝導性を有するとともに、電気化学的安定性に優れることが要求される。加えて、電気二重層キャパシタは過酷な条件下において使用されることが想定されるため、その電解液としては、低温から高温に至るまでの広い温度範囲において、電気二重層キャパシタを長期間安定に作動させることのできる特性も重要である。
【0005】
特許文献1及び非特許文献1に記載されているように、従来の一般的な電気二重層キャパシタ用電解液としては、有機溶媒であるプロピレンカーボネートに、電解質として脂肪族第4級アンモニウム塩であるテトラフルオロホウ酸テトラエチルアンモニウムを溶解させたものが使用されている。
【0006】
しかしながら、上記のプロピレンカーボネートを溶媒とした電解液では、印加電圧が2.6〜2.8Vに達すると溶媒が分解し始めることから、該電解液を用いた場合の電気二重層キャパシタの最大印加電圧は、2.5V前後となり、耐電圧としては不十分であるという問題点があった。
【0007】
また、特許文献2に、耐電圧の向上を目的として、有機溶媒にスルホランと3−メチルスルホランの混合液、スルホランと2,4−ジメチルスルホランの混合液などを用いた電解液が提案されている。
【0008】
しかし、スルホランの融点が+29℃、3−メチルスルホランの融点が+6℃、2,4−ジメチルスルホランの融点が−3℃と比較的高いため、低温では電解液が凝固し、電気二重層キャパシタの特性が著しく低下してしまうという問題点があった。
【0009】
さらに、特許文献3及び特許文献4に、電解質としてテトラフルオロホウ酸テトラエチルアンモニウムを使用し、鎖状スルホンを有機溶媒に用いた電気二重層キャパシタ用電解液が提案されている。
【0010】
しかしながら、テトラフルオロホウ酸テトラエチルアンモニウムは、鎖状スルホンに対する溶解度が1.0mol/L以下と著しく低く、実用的ではない。加えて、一般的な電気二重層キャパシタ用電解液の電解質である、テトラフルオロホウ酸トリエチルメチルアンモニウムやテトラフルオロホウ酸テトラエチルアンモニウムは、高電圧印加時にホフマン分解を起こし、エチル基が離脱しやすいという問題点があった。
【0011】
また特許文献5に、溶媒がスルホラン又はその誘導体15〜85体積%、鎖状炭酸エステルとしてエチルメチルカーボネートを85〜15体積%を含む溶媒に、第4級オニウム塩を溶解した電解液を、ポリアセン骨格を有する有機半導体材料を電極に用いた有機電解質電池に用いる事が提案されている。
【0012】
しかし、電解液の耐電圧は、スルホランよりも耐酸化性に劣るエチルメチルカーボネートが律してしまうため、耐電圧が著しく劣ってしまうという問題点があった。
【0013】
さらに特許文献6では、スルホラン:鎖状スルホンを70〜90:30〜10で混合した有機溶媒に、第4級アンモニウム塩であるテトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウム等を溶解させた電解液を、電気二重層キャパシタに用いることが提案されている。
【0014】
しかし、この電解液は、極低温下では凝固が生じる場合があり、また長期信頼性の面においても十分なものとはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2000−114105号公報
【特許文献2】特開平7−74061号公報
【特許文献3】特開平9−92579号公報
【特許文献4】特開平9−205041号公報
【特許文献5】特開平10−27623号公報
【特許文献6】特開2008−171902号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】監修:西野 敦、直井勝彦、「大容量キャパシタ技術と材料II −電気二重層キャパシタとスーパーキャパシタの最新動向−」、p.80〜p.93
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、電気伝導度および耐電圧が高く、かつ、広い温度範囲、特に低温において凝固や塩の析出がなく安定した液状を呈し、優れた電気的特性を発現することができ、さらに長期信頼性に優れる電気二重層キャパシタ用電解液が望まれており、本発明は、そのような電気二重層キャパシタ用電解液およびこれを利用した電気二重層キャパシタを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、一般式(2)に示した第4級アンモニウム塩が、他の第4級アンモニウム塩と比べて、鎖状スルホンに特異的に溶解するため電気伝導度が高く、耐電圧にも優れ、これを用いた電気二重層キャパシタは、非常に広い温度範囲で使用可能であり、特に低温でも凝固することなく優れた電気的特性を示し、かつ長期信頼性にも優れることを見出した。さらに、アルキル基の合計の炭素数が異なる鎖状スルホンを組み合わせることにより、単独使用の場合と比較して、凝固点を低下させることができるため、より低温での使用が可能となるとともに、電気的特性がさらに向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明は、有機溶媒中に第4級アンモニウム塩を溶解した電解液であって、
前記有機溶媒が下記一般式(1)

【化3】

(式(1)中、R、Rは同一でも異なっていても良い直鎖又は分岐の炭素数1〜5のアルキル基を示す。)
で表される鎖状スルホンを含有し、
前記第4級アンモニウム塩が下記一般式(2)
【化4】

(式(2)中、m及びnは4〜6の整数を示す。Xは酸成分を示す。)
で表される第4級アンモニウム塩であることを特徴とする電気二重層キャパシタ用電解液である。
【0020】
また発明は、前記有機溶媒が、RとRの炭素数の合計が2〜3である一般式(1)で表される鎖状スルホンおよびRとRの炭素数の合計が4〜8である一般式(1)で表される鎖状スルホンを含有する電気二重層キャパシタ用電解液である。
【0021】
さらに本発明は、前記有機溶媒中、一般式(1)で表される鎖状スルホンを75%以上含有する電気二重層キャパシタ用電解液である。
【0022】
さらにまた本発明は、セパレータを挟み込んだ分極性電極に、上記電気二重層キャパシタ用電解液を含浸させてなる電気二重層キャパシタである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の電気二重層キャパシタ用電解液は、耐電圧および電気伝導度が高く、また低温でも凝固することなく優れた電気的特性を発現し得るものであり、この電解液を用いることにより、使用可能な温度領域が非常に広く、特に低温特性に優れ、かつ長期信頼性にも優れる電気二重層キャパシタを得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るコイン型電気二重層キャパシタの構成の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の電気二重層キャパシタ用電解液について詳細に説明する。
【0026】
本発明の電気二重層キャパシタ用電解液は、非水系であり、溶媒として有機溶媒を使用する。本発明は、有機溶媒として下記一般式(1)に示される鎖状スルホンを使用するものである。
【0027】
【化5】

【0028】
式(1)中、R及びRはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい炭素数1〜5の直鎖又は分岐のアルキル基を示す。炭素数が5を超える場合、常温で固体を呈し、仮に電解液にしたとしても、著しく粘度が高くなってしまうことから、キャパシタの特性が悪化してしまう欠点がある。具体的には、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、プロピルメチルスルホン、イソプロピルメチルスルホン、プロピルエチルスルホン、イソプロピルエチルスルホン、ジプロピルスルホン、ジイソプロピルスルホン等が例示できる。
【0029】
上記鎖状スルホンは、単独で使用してもよく、また、2種以上の混合溶媒として使用してもよい。混合溶媒とする場合は、上記一般式(1)中、R及びRの炭素数の合計が2〜3の鎖状スルホンと、R及びRの炭素数の合計が4〜8、好ましくは、4〜6の鎖状スルホンとを併用することにより、それぞれの単独使用と比較して電解液の凝固点を著しく低下させることができ、低温においても凝固することなく、優れた電気的特性を発現できる。R及びRの炭素数の合計が2〜3の鎖状スルホンとしては、ジメチルスルホンおよびエチルメチルスルホンが挙げられ、R及びRの炭素数の合計が4〜8の鎖状スルホンとしては、メチルイソプロピルスルホン、エチルイソブチルスルホン、ブチルイソブチルスルホン、エチルイソプロピルスルホン、プロピルイソブチルスルホン、イソプルピル−S−ブチルスルホン等が挙げられる。これらの中でも、エチルメチルスルホンとエチルイソプルピルスルホンの組み合わせが、低粘性率で高電気伝導度であるとともに、低温下でも凝固することなく電気的特性に優れるために好ましい。
【0030】
及びRの炭素数の合計が2〜3の鎖状スルホンと、R及びRの炭素数の合計が4〜8の鎖状スルホンの混合比は、低温下での凝固を抑制し、静電容量を高く、内部抵抗を低くすることができるため、質量比で10:90〜90:10であることが好ましく、10:90〜50:50であることがより好ましく、10:90〜30:70がさらに好ましく、10:90〜20:80が特に好ましい。質量比において、R及びRの炭素数の合計が2〜3の鎖状スルホンが10未満では、極低温下で凝固する場合がある。炭素数の合計が2〜3の鎖状スルホンが電気伝導度の向上に寄与し、炭素数の合計が4〜8の鎖状スルホンが低温特性の改善に寄与すると考えられる。
【0031】
一方、単独使用の場合は、低温下での凝固を抑制できることから、上記一般式(1)中、R及びRの炭素数の合計が4〜8、好ましくは4〜6の鎖状スルホンを用いることが好適であり、具体的には、イソプロピルメチルスルホン、メチルイソプロピルスルホン、エチルイソブチルスルホンが好ましく用いられる。
【0032】
本発明の電気二重層キャパシタ用電解液において、有機溶媒中の上記一般式(1)の鎖状スルホンの含有量は、好ましくは75%以上であり、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは98%以上であり、100%であることが特に好ましい。このような範囲とすることによって、耐電圧を低下させること無く優れた低温特性を有する電解液を得ることができる。
【0033】
本発明の電気二重層キャパシタ用電解液に用いる有機溶媒には、本発明の効果を損なわない範囲において、上記一般式(1)で表される鎖状スルホン以外の他の有機溶媒を使用することができる。このような有機溶媒として、例えば、スルホラン、3−メチルスルホラン、ガンマ‐ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が例示できる。
【0034】
本発明の電気二重層キャパシタ用電解液には、電解質として下記一般式(2)に示される第4級アンモニウム塩を使用する。
【0035】
【化6】

【0036】
式(2)中、m及びnは4〜6の整数を示す。Xは酸成分を示す。
【0037】
上記一般式(2)中のカチオンとして、具体的には、スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムイオン、スピロ−(1,1’)−ビピペリジニウムイオン、ピペリジン−1−スピロ−1’−ピロリジニウムイオン等が例示できる。これらのうち、スルホン系溶媒へ溶解度が高く、電気化学的安定性に優れ、電解液としたときに高い電気伝導度が得られるため、スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムイオンが好ましい。なお、これらのカチオンは、2種以上が混合されていてもよい。
【0038】
上記一般式(2)中のXは、特に限定されるものではないが、非金属元素のみからなるアニオンが好ましく、例えば、BF、PF、CFSO、N(CFSO、N(CSO、N(CFSO)(CSO、C(CFSO、C(CSOが好ましい。これらの中でも、BF、PF、N(CFSOがスルホン系溶媒へ溶解度が高く、電気化学的安定性に優れ、電解液としたときに高い電気伝導度が得られるため特に好ましい。なお、これらのアニオンは、2種以上が混合されていてもよい。
【0039】
上記一般式(2)で表される第4級アンモニウム塩としては、テトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジウム、テトラフルオロホウ酸ピペリジン−1−スピロ−1’−ピロリジニウム、テトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピペリジニウム、トリフルオロメタンスルホン酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジウム、トリフルオロメタンスルホン酸ピペリジン−1−スピロ−1’−ピロリジニウム、トリフルオロメタンスルホン酸スピロ−(1,1’)−ビピペリジニウム、ヘキサフルオロリン酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジウム、ヘキサフルオロリン酸ピペリジン−1−スピロ−1’−ピロリジニウム、ヘキサフルオロリン酸スピロ−(1,1’)−ビピペリジニウム、スピロ−1,1’−ビピロリニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、ピペリジン−1−スピロ−1’−ピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、スピロ−(1,1’)−ビピペリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド等が挙げられる。
【0040】
上記一般式(2)で表される第4級アンモニウム塩は公知の方法に従って製造することができる。例えば、テトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジウムは、まず、ピロリジンにハロゲン化剤としてジハロゲン化ブタンを反応させて、ハロゲン化スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムを合成した後、イオン交換膜を用いた電気透析法により、水酸化スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウム水溶液を得て、これにテトラフルオロホウ峻(HBF)を当量添加して中和反応させた後、減圧下で脱水させることによって得られる。
【0041】
また、テトラフルオロホウ酸ピペリジン−1−スピロ−1’−ピロリジニウムは、まず、ピペリジンにハロゲン化剤としてジハロゲン化ブタンを反応させて、ハロゲン化ピペリジン−1−スピロ−1’−ピロリジニウムを合成した後、イオン交換膜を用いた電気透析法により、水酸化ピペリジン−1−スピロ−1’−ピロリジニウム水溶液を得て、これにテトラフルオロホウ酸(HBF)を当量添加して中和反応させた後、減圧下で脱水させることによって得ることができる。またHBFをKCFSO、HPF、又はLiN(CFSO等に代えて同様に合成することによって、対応するアニオンを有する第4級アンモニウム塩を得ることができる。
【0042】
上記第4級アンモニウム塩の濃度は、電解液全体に対して、0.1〜3.0mol/Lが好ましく、0.5〜2.0mol/Lがより好ましく、1.3〜1.7mol/Lが特に好ましい。第4級アンモニウム塩の濃度が0.1mol/L未満では、電気伝導度が不足する場合があり、また3.0mol/Lより多いと、電解液の粘度が増大するため含浸性が低下し、電気二重層キャパシタにした場合に、電気特性が劣る場合がある。
【0043】
本発明の電気二重層キャパシタ用電解液は、含浸性向上や難燃性を付与するような添加剤を加えてもよい。このような添加剤として、具体的には、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン等のシロキサン化合物が例示できる。
【0044】
本発明の電気二重層キャパシタ用電解液は、以下の製造方法により調製することができる。
【0045】
すなわち、上記溶媒に、上記一般式(2)に示す第4級アンモニウム塩からなる電解質塩を加え、攪拌して塩が完全に溶解したことを確認する。得られた電解液を脱水し、電解液中の水分を100ppm以下、好ましくは20ppm以下にまで減少させることで、目的とする電気二重層キャパシタ用電解液が得られる。
【0046】
このようにして調製された電解液を使用して電気二重層キャパシタを作製することができる。本発明のキャパシタの作製は、一般的なキャパシタの製造方法によることができ、すなわち、セパレータを挟み込んだ分極性電極に、駆動用電解液となる本発明の電気二重層キャパシタ用電解液を含浸させ、これを容器に密封することにより行われる。
【0047】
キャパシタ電極に用いられる分極性電極としては、活性炭粉末、活性炭繊維などの多孔性炭素材料や、金属酸化物材料、あるいは導電性高分子材料などが用いられるが、多孔性炭素材料が安価で好ましい。また、セパレータとしては、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン系不織布などの素材からなるセパレータを用いることができる。
【0048】
本発明の電気二重層キャパシタの形状としては、特に限定されず、フィルム型、コイン型、円筒型、箱型などの形状に作製することができる。
【0049】
図1は上記形状のうち、コイン型電気二重層キャパシタの例であり、本発明の電気二重層キャパシタの構成の一例を示す概略断面図である。
【0050】
図1中、負極キャップ1、負極電極2、集電体3からなる負極部と、集電体3、正極電極6、正極ケース7からなる正極部とを有し、正負両電極はセパレータ5を介し対向するよう配置される。電解液4は電極、セパレータ、及び容器中に含浸、充填される。負極キャップ1と正極ケース7とはガスケット8によって絶縁され、嵌合される。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明する。なお、本発明は実施例によりなんら限定されない。
【0052】
溶媒として使用した鎖状スルホン「ジメチルスルホン(東京化成工業株式会社製試薬)」「エチルメチルスルホン(東京化成工業株式会社製試薬)」「メチルイソプロピルスルホン(東京化成工業株式会社製試薬)」「エチルイソプロピルスルホン(住友精化株式会社製)」「エチルイソブチルスルホン(住友精化株式会社製)」と、比較として使用した環状スルホン「スルホラン(住友精化株式会社製)」について、それぞれの構造式とアルキル基の炭素数の合計を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
実 施 例 1
各鎖状スルホンに対する第4級アンモニウム塩の溶解度:
本発明に用いるテトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムと、一般的な第4級アンモニウム塩であるテトラフルオロホウ酸トリエチルメチルアンモニウム及びテトラフルオロホウ酸テトラエチルアンモニウムについて、表1に示す各鎖状スルホンへの、25℃での溶解度を調査した。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
表2に示すように、テトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムは、他の第4級アンモニウム塩に比べ、鎖状スルホンに対して特異的に溶解することが分かった。
【0057】
実 施 例 2
電気二重層キャパシタ用電解液の調製及び物性測定:
[電気二重層キャパシタ用電解液の調製]
(1種の鎖状スルホン単独溶媒)
【0058】
エチルメチルスルホンに濃度1.0mol/Lとなるようにテトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「発明品1」とする)。
【0059】
メチルイソプロピルスルホンに濃度1.0mol/Lとなるようにテトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「発明品2」とする)。
【0060】
エチルイソプロピルスルホンに濃度1.0mol/Lとなるようにテトラフルオロホウ酸スピロ−(11,1’)−ビピロリジニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「発明品3」とする)。
【0061】
エチルイソブチルスルホンに濃度1.0mol/Lとなるようにテトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「発明品4」とする)。
【0062】
エチルメチルカーボネートに濃度1.0mol/Lとなるようにテトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「比較品1」とする)。
【0063】
スルホランに濃度1.0mol/Lとなるようにテトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「比較品2」とする)。
【0064】
エチルメチルスルホンに濃度1.0mol/Lとなるようにテトラフルオロホウ酸トリエチルメチルアンモニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「比較品3」とする)。
【0065】
エチルイソプロピルスルホンに濃度1.0mol/Lとなるようにテトラフルオロホウ酸トリエチルメチルアンモニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「比較品4」とする)。
【0066】
(2種の鎖状スルホンの混合溶媒)
【0067】
質量比でエチルメチルスルホン:エチルイソプロピルスルホン=10:90で混合して過熱し、溶解させて室温に戻した溶媒に、濃度1.0mol/Lとなるように、テトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「発明品5」とする)。
【0068】
質量比でエチルメチルスルホン:エチルイソプロピルスルホン=20:80で混合して過熱し、溶解させて室温に戻した溶媒に、濃度1.0mol/Lとなるように、テトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「発明品6」とする)。
【0069】
質量比でエチルメチルスルホン:エチルイソプロピルスルホン=30:70で混合して過熱し、溶解させて室温に戻した溶媒に、濃度1.0mol/Lとなるように、テトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「発明品7」とする)。
【0070】
質量比でエチルメチルスルホン:エチルイソプロピルスルホン=40:60で混合して過熱し、溶解させて室温に戻した溶媒に、濃度1.0mol/Lとなるように、テトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「発明品8」とする)。
【0071】
質量比でエチルメチルスルホン:エチルイソプロピルスルホン=50:50で混合して過熱し、溶解させて室温に戻した溶媒に、濃度1.0mol/Lとなるように、テトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「発明品9」とする)。
【0072】
質量比でエチルメチルスルホン:エチルイソプロピルスルホン=60:40で混合して過熱し、溶解させて室温に戻した溶媒に、濃度1.0mol/Lとなるように、テトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「発明品10」とする)。
【0073】
質量比でエチルメチルスルホン:エチルイソプロピルスルホン=70:30で混合して過熱し、溶解させて室温に戻した溶媒に、濃度1.0mol/Lとなるように、テトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「発明品11」とする)。
【0074】
質量比でエチルメチルスルホン:エチルイソプロピルスルホン=80:20で混合して過熱し、溶解させて室温に戻した溶媒に、濃度1.0mol/Lとなるように、テトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「発明品12」とする)。
【0075】
質量比でエチルメチルスルホン:エチルイソプロピルスルホン=90:10で混合して過熱し、溶解させて室温に戻した溶媒に、濃度1.0mol/Lとなるように、テトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「発明品13」とする)。
【0076】
質量比でエチルメチルスルホン:メチルイソプロピルスルホン=10:90で混合して過熱し、溶解させて室温に戻した溶媒に、濃度1.0mol/Lとなるように、テトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「発明品14」とする)。
【0077】
質量比でエチルメチルスルホン:エチルイソブチルスルホン=10:90で混合して過熱し、溶解させて室温に戻した溶媒に、濃度1.0mol/Lとなるように、テトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「発明品15」とする)。
【0078】
質量比でジメチルスルホン:エチルイソプロピルスルホン=10:90で混合して過熱し、溶解させて室温に戻した溶媒に、濃度1.0mol/Lとなるように、テトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「発明品16」とする)。
【0079】
質量比でエチルメチルスルホン:メチルイソプロピルスルホン=10:90で混合して過熱し、溶解させて室温に戻した溶媒に、濃度1.5mol/Lとなるように、テトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「発明品17」とする)。
【0080】
質量比でエチルメチルスルホン:エチルイソプロピルスルホン=10:90で混合した溶媒に、濃度1.5mol/Lとなるように、テトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「発明品18」とする)。
【0081】
質量比でエチルメチルスルホン:エチルイソブチルスルホン=10:90で混合した溶媒に、濃度1.5mol/Lとなるように、テトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「発明品19」とする)。
【0082】
質量比でスルホラン:エチルメチルカーボネート=75:25で混合した溶媒に濃度1.0mol/Lとなるようにテトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「比較品5」とする)。
【0083】
質量比でスルホラン:エチルメチルスルホン=80:20で混合した溶媒に濃度1.0mol/Lとなるようにテトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「比較品6」とする)。
【0084】
質量比でエチルメチルスルホン:エチルイソプロピルスルホン=10:90で混合した溶媒に濃度1.0mol/Lとなるようにテトラフルオロホウ酸トリエチルメチルアンモニウムを加え、脱水して水分値を20ppm以下にした電気二重層キャパシタ用電解液を得た(この電解液及び電解液を用いた電気二重層キャパシタを「比較品7」とする)。
【0085】
[電解液の物性測定]
得られた電解液(発明品1〜19及び比較品1〜7)について、25℃における粘性率(cp)と電気伝導度(mS/cm)及び電位窓(V)を測定した。なお、粘性率はサン科学製のCR−500DX、電気伝導度は、横河電機製の導電率計SC72を用いて測定した。また、電位窓は北斗電工製の電気化学システムHZ5000を用いてサイクリックボルタモグラムを測定することで得られた酸化分解電圧、還元分解電圧の値から求めた。すなわち、作用極に白金線(直径3mm)、対極に白金板、参照電極にAg/Ag、掃引速度10mV/sで0.1mA/cmの電流が流れるまでの電圧を測定し、還元分解及び酸化分解電圧値から電位窓を決定した。結果を表3および4に示す。
【0086】
【表3】

【0087】
【表4】

【0088】
表中の略号は下記のとおりである。
SBP-BF4:テトラフルオロホウ酸スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウム
TEMA-BF4:テトラフルオロホウ酸トリエチルメチルアンモニウム
DMS:ジメチルスルホン
EMS:エチルメチルスルホン
MIPS:メチルイソプロピルスルホン
EIPS:エチルイソプロピルスルホン
EIBS:エチルイソブチルスルホン
EMC:エチルメチルカーボネート
SL:スルホラン
【0089】
表3より、鎖状カーボネートを用いた比較品1は、鎖状スルホンを用いた発明品1〜4に対し低粘性率且つ高電気伝導度であるものの、電位窓は還元側で約0.3V、酸化側でも0.3V狭くなっており、耐電圧が大幅に劣ることは明らかである。また、発明品1〜4では、環状スルホンであるスルホランを用いた比較品2に対して、粘性率を約38〜12%低減することができ、また電気伝導度を約14〜43%向上することができた。さらに、電解質塩としてTEMA−BF4を用いた比較品3,4に対し、同一溶媒でSBP−BF4を用いた発明品1,3の方が、粘性率は19〜29%低減し、電気伝導度も5〜12%向上しており、SBP−BF4を用いることで更なる高性能化が可能となることがわかる。
【0090】
表4より、カーボネート系溶媒であるEMCと環状スルホンであるSLを用いた比較品5に対して、アルキル基の炭素数が異なる鎖状スルホンの混合溶媒を用いた発明品5〜19の方が、還元側で0.25〜0.3V、酸化側で0.1〜0.15V程度広くなっており、耐電圧が大幅に向上していることが分かる。また、発明品5〜20は、スルホン系溶媒のみで構成される比較品6と比較すると、電位窓はほぼ同等であるものの、粘性率および伝導度が著しく向上することが示された。さらに、比較品7と発明品5との比較では、電解質塩にSBP−BF4を用いることで、粘性率で約27%、電気伝導度で約9.5%それぞれ向上していることがわかる。塩濃度を1.0mol/Lから1.5mol/Lに増加させた発明品17〜19では、電気伝導度は約15〜20%向上し、最も高い電気伝導度を得られることが示された。
【0091】
実 施 例 3
電気二重層キャパシタの作製及び評価:
[電気二重層キャパシタの作製]
実施例2で得られた電解液(発明品1〜19及び比較品1〜7)を用いて、図1に示すような電気二重層キャパシタを作製した。
【0092】
正極及び負極電極は活物質(活性炭:日本エンバイロケミカルズ株式会社、白鷺KA)、導電材(ケッチェンブラック:ライオン株式会社、ECP−600JD)、バインダー(PTFE:三井・デュポンフロロケミカル株式会社、30−J)を混合し作製した。その質量組成比は活物質:導電材:バインダー=80:10:10とした。これらの混合物にエタノールを加えながら十分に混錬し、圧延することで平均して厚み0.85mmの活性炭シート電極を得た。この活性炭シート電極をφ15のポンチで打ち抜いたものを、集電体(φ17のSUS316製プレート)が溶接されたケース、キャップ(何れもSUS316製)に導電性接着剤にて接着し、それぞれ正極部、負極部を得た。それらの電極に実施例1の電解液をそれぞれ注液し、0.060MPaで10分減圧含浸した後、ポリプロピレン製不織布をセパレータとして介し、ポリプロピレン製ガスケットをキャップに装着して組み立て、カシメ機にて嵌合して2032サイズのコイン型電気二重層キャパシタを完成した。
【0093】
[電気二重層キャパシタの評価]
(初期特性)
作製した電気二重層キャパシタの初期の特性を、それぞれの電気二重層キャパシタについて、20℃、0℃、−20℃、−25℃、−30℃、−35℃において充放電試験を行うことで求めた。具体的には、各キャパシタを所定の測定温度下に30分以上放置し、キャパシタが所定温度に達した後、定格電圧として2.5Vを30分印加後、放電電流2mAにて定電流放電し、キャパシタ端子間電圧が2Vから1Vになるまでの時間より静電容量を算出した。また、放電の下限値を0.0Vとした。内部抵抗は静電容量測定時と同様に定格電圧として2.5Vを30分印加後、放電電流100mAにて定電流放電したときのIRドロップより算出した。結果を表5,6,8,9に示す。
(長期信頼性試験)
初期特性と同様にして、電気二重層キャパシタに3.5Vを1000時間連続印加した後の静電容量と内部抵抗を測定し、初期に対するそれぞれの変化率を求めた。雰囲気温度は60℃とした。結果を表7および10に示す。
【0094】
【表5】

【0095】
【表6】

【0096】
【表7】

【0097】
表5および6から、溶媒にカーボネート系であるEMCを用いた比較品1は、静電容量および内部抵抗共に最も優れた特性を示したが、表7に示すように長期信頼性が著しく劣るものであった。これは、上記したようにEMCが他のスルホン系溶媒を用いた場合に比べ電位窓が狭く、耐電圧として著しく劣ることから、印加により分解しているものと考えられる。また、純SL溶媒使用の比較品2やTEMA−BF4を使用した比較品3,4では、最も低温でも−20℃までしか特性が発現しないのに対し、発明品2〜4では、−30℃まで特性が発現していることがわかる。特に発明品3が優れた特性を示した。さらに、表7に示すように、発明品1〜4は、3.5Vという高電圧を1000hにわたり印加しても、静電容量の変化率は3.1%以下、内部抵抗の上昇率は約30%以下と特性の劣化はほとんど無く、比較品1〜4に対して優れた長期信頼性を示した。TEMA−BF4を用いた比較品3,4では、アルキルアンモニウム特有のホフマン分解によるエチル基の離脱などにより、内部抵抗の増大等が生じているものと考えられる。
【0098】
【表8】

【0099】
【表9】

【0100】
【表10】

【0101】
表8および9から、鎖状スルホンの混合溶媒を用いた発明品5〜19では、低温特性が−35℃まで測定可能となり、比較品5〜7よりも5〜10℃程度低温でも使用できることが分かった。またEMS:EIPS=10:90の組成で1.5mol/LのSBP−BF4を溶解した発明品18が最も優れた特性を示したが、これはSBP−BF4が鎖状スルホンに特異的に溶解することから、塩濃度を高めることで、モル凝固点降下の低下効果を向上することができ、その結果、より低温でも優れた特性が発現できるようになったものと考えられる。
【0102】
また表10から、発明品5〜19は3.5Vという高電圧を1000hにわたり印加しても、静電容量の変化率は3.8%以下、内部抵抗の上昇率は約30%以下と特性の劣化はほとんど無く、優れた長期信頼性を示した。それに比べて、カーボネート系溶媒を用いた比較品5は著しく特性の劣る結果となったが、これは溶媒そのものの分解が原因と考えられる。比較品6,7も発明品と比較して静電容量の減少や内部抵抗の増大が大きいものであった。比較品7では、電解質にTEMA−BF4を用いおり、アルキルアンモニウム特有のホフマン分解によるエチル基の離脱などが主原因であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の電解液は、耐電圧が高く耐久性に優れ、また広範な温度範囲で使用可能であり、特に低温でも凝固することなく優れた電気的特性を有するため、小型電子機器から大型自動車用途まで種々の産業分野において使用される電気二重層キャパシタ用の電解液として極めて有用なものである。
【符号の説明】
【0104】
1 負極キャップ
2 負極電極
3 集電体
4 電解液
5 セパレータ
6 正極電極
7 正極ケース
8 ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒中に第4級アンモニウム塩を溶解した電解液であって、
前記有機溶媒が下記一般式(1)
【化1】

(式(1)中、R、Rは同一でも異なっていても良い炭素数1〜5の直鎖又は分岐のアルキル基を示す。)
で表される鎖状スルホンを含有し、
前記第4級アンモニウム塩が下記一般式(2)
【化2】

(式(2)中、m及びnは4〜6の整数を示す。Xは酸成分を示す。)
で表される第4級アンモニウム塩であることを特徴とする電気二重層キャパシタ用電解液。
【請求項2】
前記有機溶媒が、RとRの炭素数の合計が2〜3である一般式(1)で表される鎖状スルホンおよびRとRの炭素数の合計が4〜8である一般式(1)で表される鎖状スルホンを含有するものである請求項1記載の電気二重層キャパシタ用電解液。
【請求項3】
とRの炭素数の合計が2〜3である一般式(1)で表される鎖状スルホンと、RとRの炭素数の合計が4〜8である一般式(1)で表される鎖状スルホンとの質量比が、10:90〜90:10である請求項2記載の電気二重層キャパシタ用電解液。
【請求項4】
前記有機溶媒中、一般式(1)で表される鎖状スルホンを75%以上含有するものである請求項1ないし3のいずれかの項記載の電気二重層キャパシタ用電解液。
【請求項5】
セパレータを挟み込んだ分極性電極に、請求項1ないし4のいずれかの項に記載の電気二重層キャパシタ用電解液を含浸させてなる電気二重層キャパシタ。

【図1】
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【公開番号】特開2011−44632(P2011−44632A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192855(P2009−192855)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】