電気亜鉛めっき鋼板の製造方法および製造装置
【課題】 めっき層の視感が幅方向で異なること無く、表面外観の均一性に優れた電気亜鉛めっき鋼板の製造装置を提供する。
【解決手段】 電気亜鉛めっき鋼板の製造装置20は、電気亜鉛めっきされるべき素鋼板21を水で洗浄する第2水洗装置25と、めっき液によって素鋼板21に電気亜鉛めっきを施す電気亜鉛めっき装置27との間に、素鋼板21を、めっき液のpH以上かつ水のpH以下の酸性溶液で湿潤処理する湿潤処理手段26を含むように構成される。この酸性溶液には、めっき処理が施された電気亜鉛めっき鋼板21aを後水洗装置28で洗浄した洗浄水が用いられる。
【解決手段】 電気亜鉛めっき鋼板の製造装置20は、電気亜鉛めっきされるべき素鋼板21を水で洗浄する第2水洗装置25と、めっき液によって素鋼板21に電気亜鉛めっきを施す電気亜鉛めっき装置27との間に、素鋼板21を、めっき液のpH以上かつ水のpH以下の酸性溶液で湿潤処理する湿潤処理手段26を含むように構成される。この酸性溶液には、めっき処理が施された電気亜鉛めっき鋼板21aを後水洗装置28で洗浄した洗浄水が用いられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気亜鉛めっき鋼板の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛(Zn)系のめっき鋼板(以後、亜鉛めっき鋼板と呼ぶ)は、耐食性および加工性に優れ、また安価であることから、建材、自動車部材、家電部材、ガードレールなど種々の用途に用いられている。亜鉛めっき鋼板は、このように広汎な用途に利用されるので、用途に応じて種々のめっき付着量のものが求められている。一般的に、亜鉛めっき鋼板においては、耐食性に重点を置いて付着量を多くする場合、溶融亜鉛めっきが行われ、加工性に重点を置いて付着量を少なくする場合、電気亜鉛めっきが行われている。
【0003】
図3は、電気亜鉛めっき鋼板の製造に用いる従来の電気亜鉛めっき鋼板製造装置1の構成を例示する図である。電気亜鉛めっき鋼板製造装置1は、電気亜鉛めっきされるべき素鋼板2の矢符9にて示す通板方向上流側から下流側に向って、大略、アルカリ脱脂装置3、第1水洗装置4、酸洗装置5、第2水洗装置6、電気亜鉛めっき装置7および後水洗装置8を、この順に備える。
【0004】
以下、図3を参照して従来の電気亜鉛めっき鋼板の製造について説明する。不図示の巻戻し装置から巻戻された素鋼板2は、まずアルカリ脱脂装置3において鋼板表面の油脂分が洗浄除去される。次に、素鋼板2は、第1水洗装置4において、表面が水によって洗浄され、表面に残留しているアルカリ脱脂液などが、洗浄除去される。
【0005】
水洗後の素鋼板2は、酸洗装置5において酸洗液によって酸洗され、表面が活性化される。活性化処理された素鋼板2は、第2水洗装置6において水によって洗浄され、表面に残留している酸洗液などが、洗浄除去される。第2水洗装置6で水洗された素鋼板2は、第2水洗装置6の出側に設けられる一対のリンガーロール10a,10bによって洗浄水の水切りが行われる。その後、素鋼板2は、電気亜鉛めっき装置7へ装入され、電気亜鉛めっき装置7に備わるめっき槽中に貯留されるめっき液中に浸漬され、不図示の電極を介して通電されることによって、電気亜鉛めっきが施される。
【0006】
電気亜鉛めっきが施された素鋼板2は、電気亜鉛めっき鋼板2aとなり、後水洗装置8において、その表面が水によって洗浄され、残留しているめっき液などが、洗浄除去される。なお、ここで、鋼板なる用語は、鋼帯をも含む意味に用いる。
【0007】
前述のように、第2水洗装置6で水洗された素鋼板2は、水洗に用いられた水が表面に付着したまま電気亜鉛めっき装置7に持ちこまれてめっき液を希釈しないように、第2水洗装置6出側のリンガーロール10a,10bによって水切りされる。しかしながら、水切りは、常に充分行われるわけではなく、素鋼板2の幅方向端部付近の方が、幅方向中央部よりも水切りが不充分になる傾向がある。
【0008】
図4は、水切りが不充分な状態でめっきが施された電気亜鉛めっき鋼板2aの斜視図である。図4には、素鋼板2の幅方向端部付近11の方が、幅方向中央部12よりも水切りが不充分な状態で、電気亜鉛めっき装置7によってめっきが施された電気亜鉛めっき鋼板2aを示す。水切りが不充分な状態でめっきが施された電気亜鉛めっき鋼板2aには、幅方向端部付近11と幅方向中央部12とで、亜鉛めっき層の視感が異なる不均一な模様が形成される。このような模様が形成された電気亜鉛めっき鋼板2aは、外観不良として製品化することができないので、歩留を低下させるという問題がある。
【0009】
電気亜鉛めっき鋼板の表面外観を向上する従来技術には、酸性めっき浴による電気亜鉛めっき工程に先立ち、酸性めっき浴と実質的に同一組成の酸性溶液によって、素鋼板表面を酸洗するものがある(特許文献1参照)。
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示される技術は、めっき工程前に施す酸洗に起因する素鋼板表面の不純物濃化層または酸化物層の除去不良、および肌荒れもしくは酸焼け(汚れ)の発生を防止することによって、電気亜鉛めっき鋼板の表面外観を改善するものである。すなわち、めっき処理前における素鋼板表面の機械的な表面形状もしくは酸焼け(汚れ)に起因する表面外観不良を改善するものである。
【0011】
したがって、前述したような、素鋼板に機械的な表面形状不良もしくは汚れが無いにも関わらず、水洗の水切りが不充分であることに起因する亜鉛めっき層の視感が異なる不均一な模様について、特許文献1では、全く言及しておらず、またその改善技術についても何ら開示していない。
【0012】
また、電気亜鉛めっき鋼板の表面外観向上に関するもう一つの従来技術に、酸性のめっき液が、電気亜鉛めっき後の鋼板表面に残留し、電気亜鉛めっき層を再溶解することに起因する外観不良を改善するために、最終洗浄セクションに至る間の液のpH値が段階的に高くなるようにpH値を調整した洗浄水を使用し、最終洗浄セクションでは、中性の洗浄水で洗浄処理するものがある(特許文献2参照)。
【0013】
しかしながら、特許文献2に開示される技術も、めっき処理前の水洗の水切りが不充分であることに起因する亜鉛めっき層の視感が異なる不均一な模様について、全く言及しておらず、またその改善技術についても何ら開示していない。
【0014】
【特許文献1】特開平10−110290号公報
【特許文献2】特開平11−92991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、めっき層の視感が幅方向で異なること無く、表面外観の均一性に優れた電気亜鉛めっき鋼板の製造方法および製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らによる鋭意研究の結果によれば、このような視感が異なる不均一な模様は、めっき液中に装入された鋼板表面付近に存在するめっき液の鋼板幅方向におけるpHが、端部付近と中央部とで異なることに因るものである。すなわち、めっきを施す前に行われる水洗の後の水切りが、必ずしも充分ではない場合、鋼板幅方向端部付近の方が、中央部よりも多量に水が残留する傾向にある。このような状態で、電気亜鉛めっき液中に鋼板が装入されると、一般的にpH:1〜2に調整されているめっき液が、鋼板幅方向端部付近では大きく希釈されてpHが高くなり、鋼板幅方向中央部ではほとんど希釈されないのでpHが低くなる。したがって、鋼板幅方向端部付近ではめっき液のpHが高く、鋼板幅方向中央部ではめっき液のpHが低い状態でめっきされる。
【0017】
本発明者らは、電気亜鉛めっきによって鋼板表面に形成される亜鉛めっき層の結晶成長方位は、めっき液のpHに対する依存性があり、鋼板幅方向におけるpHが異なることに起因して、端部付近と中央部とで結晶の成長方位が異なり、めっき後の視感が異なる不均一な模様が生じるとの知見を得、本発明に至ったものである。
【0018】
本発明は、素鋼板に電気亜鉛めっきを施して電気亜鉛めっき鋼板を製造する電気亜鉛めっき鋼板の製造方法において、
電気亜鉛めっきされるべき素鋼板を水で洗浄する水洗ステップと、
水洗後かつ電気亜鉛めっき前に、めっき液のpH以上、水のpH以下であるpHを有する酸性溶液で素鋼板の表面を湿潤処理する湿潤処理ステップと、
酸性溶液で湿潤処理された素鋼板をめっき液によって電気亜鉛めっきを施すめっき処理ステップとを含むことを特徴とする電気亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
【0019】
また本発明は、めっき処理ステップの後に電気亜鉛めっき鋼板を水で洗浄する後水洗ステップを含み、
酸性溶液が、後水洗ステップで用いられた洗浄水であることを特徴とする。
また本発明は、酸性溶液のpHが、3以上、5以下であることを特徴とする。
【0020】
本発明は、素鋼板に電気亜鉛めっきを施して電気亜鉛めっき鋼板を製造する電気亜鉛めっき鋼板の製造装置において、
電気亜鉛めっきされるべき素鋼板を水で洗浄する水洗手段と、
めっき液によって素鋼板に電気亜鉛めっきを施す電気亜鉛めっき手段と、
水洗手段と電気亜鉛めっき手段との間に設けられ、水洗された素鋼板を、めっき液のpH以上、水のpH以下であるpHを有する酸性溶液で湿潤処理する湿潤処理手段とを含むことを特徴とする電気亜鉛めっき鋼板の製造装置である。
【0021】
また本発明は、電気亜鉛めっきが施された電気亜鉛めっき鋼板を水で洗浄する後水洗手段をさらに含み、
酸性溶液が、後水洗手段によって洗浄に用いられた洗浄水であることを特徴とする。
【0022】
また本発明は、湿潤処理手段で用いられる酸性溶液のpHが、3以上、5以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、電気亜鉛めっきされるべき素鋼板は、水洗後、電気亜鉛めっきを施す前に、めっき液のpH以上、水のpH以下であるpHを有する酸性溶液で、その表面が湿潤処理される。このことによって、めっき液中に装入された素鋼板の表面付近に存在するめっき液は、鋼板幅方向におけるpHの差異が著しく緩和されるので、素鋼板の表面に形成される亜鉛めっき層の結晶成長方位が揃い、不均一な模様の発生が防止される。
【0024】
また本発明によれば、酸性溶液として、電気亜鉛めっきが施された電気亜鉛めっき鋼板を水洗する後水洗ステップで用いられた洗浄水が用いられる。このことによって、別途酸性溶液を調整するための材料および装置が不用になるので、装置をコンパクトにし、またコストを削減することができる。
【0025】
また本発明によれば、酸性溶液のpHが、3以上、5以下であるので、めっき液に装入された素鋼板の表面付近に存在するめっき液の鋼板幅方向におけるpHを一層確実に均一化することができる。
【0026】
本発明によれば、めっき層における視感が異なる不均一な模様の発生を防止することのできる電気亜鉛めっき鋼板の製造装置が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1は、本発明の実施の一形態である電気亜鉛めっき鋼板の製造装置20の構成を示す図である。電気亜鉛めっき鋼板の製造装置20(以後、製造装置20と略称する)は、素鋼板21に電気亜鉛めっき処理を行って電気亜鉛めっき鋼板21aを製造することに用いられる。
【0028】
製造装置20は、アルカリ脱脂装置22と、電気亜鉛めっきされるべき素鋼板21を水で洗浄する水洗手段である第1水洗装置23と、第1水洗装置23で水洗された素鋼板21を酸洗する酸洗装置24と、酸洗後の素鋼板21を水で洗浄する水洗手段である第2水洗装置25と、めっき液によって素鋼板21に電気亜鉛めっきを施す電気亜鉛めっき手段である電気亜鉛めっき装置27と、第2水洗装置25と電気亜鉛めっき装置27との間に設けられ、水洗された素鋼板21を、めっき液のpH以上、水のpH以下であるpHを有する酸性溶液で湿潤処理する湿潤処理手段26と、電気亜鉛めっきが施された電気亜鉛めっき鋼板21aを水で洗浄する後水洗手段である後水洗装置28とを含む構成である。
【0029】
素鋼板21は、不図示の巻戻し装置から巻戻され、矢符29にて示す方向に通板される過程において、各処理が施され、各処理が施されて電気亜鉛めっき鋼板21aとされた後、不図示の巻取り装置によって巻取られる。
【0030】
アルカリ脱脂装置22は、アルカリ脱脂液が貯留される脱脂槽22aと、脱脂槽22a中に設けられる不図示の電極グリッドと、電極グリッド間に電圧を印加する不図示の電源とを含む構成である。アルカリ脱脂液には、公知のたとえば水酸化ナトリウム(NaOH)などが用いられる。素鋼板21は、脱脂槽22a中に設けられ電圧が印加された電極グリッド間を通過する際に、電解脱脂洗浄され、その表面から油脂分が除去される。
【0031】
第1水洗装置23は、水洗に用いる水を貯留する水洗槽23aを備える。アルカリ脱脂処理された素鋼板21は、水洗槽23aに貯留された水の中を移送されることによって水洗される。なお第1水洗装置23は、上記の構成に限定されることなく、水を供給する水供給源と、水供給源と水洗槽までの配管と、水洗槽中の素鋼板移送経路を挟んで設けられる水噴射ノズルとを設け、水供給源から供給される水を、ノズルから素鋼板に吹付けて素鋼板表面を水洗し、水洗後の水を水洗槽に予め形成される排水口から回収するように構成されても良い。
【0032】
酸洗装置24は、たとえば硫酸水溶液などの酸洗液を貯留する酸洗槽24aを備える。第1水洗装置23によって水洗された素鋼板21は、酸洗槽24aに貯留される酸洗液の中を移送されることによって酸洗され、素鋼板表面の酸化スケール等が除去されるとともに活性化される。
【0033】
第2水洗装置25は、酸洗後の素鋼板表面に残留する酸洗液を、水で洗浄除去するための装置であり、水洗槽25aと、水を供給する水供給源と、水供給源と水洗槽25aまでの配管と、水洗槽25a中の素鋼板移送経路を挟んで設けられる水噴射ノズルとを設け、水供給源から供給される水を、ノズルから素鋼板21に吹付けて素鋼板表面を水洗し、水洗後の水を水洗槽25aに予め形成される排水口から回収するように構成される。
【0034】
湿潤処理手段26は、本実施の形態では、その主要部が第2水洗装置25の出側に設けられる。湿潤処理手段26は、第2水洗装置25の出側で、素鋼板21の移送経路を挟んで1対が設けられるリンガーロール31a,31bと、リンガーロール31a,31bを臨むとともに素鋼板21の移送経路を挟んで設けられる第1および第2噴射ノズル32a,32b,33a,33b(本実施の形態では2対)と、酸性溶液供給手段である後水洗装置28と、後水洗装置28と第1および第2噴射ノズル32a,32b,33a,33bとを接続して酸性溶液の流路を成す酸性溶液管路34と、酸性溶液管路34の途中に設けられて酸性溶液を送給するポンプ35とを含んで構成される。
【0035】
リンガーロール31a,31bは、第2水洗装置25によって水洗された素鋼板21の水切りと、第1および第2噴射ノズル32a,32b,33a,33bからロール表面に対して噴射される酸性溶液を、水洗後の素鋼板21へ塗布して湿潤させる処理とを行う。
【0036】
リンガーロール31a,31bに対して噴射され、素鋼板21に塗布される酸性溶液には、電気亜鉛めっきに用いられるめっき液のpH以上、水のpH以下であるpHを有するものが用いられる。好ましくは、酸性溶液のpHは、3以上、5以下である。
【0037】
酸性溶液のpHが3未満では、特に不都合は無いけれども、詳細を後述する後水洗に用いた洗浄水を酸性溶液として利用することが困難になり、別途pHを調整した酸性溶液を準備しなければならなくなるのでコスト面で不利を招く。酸性溶液のpHが5を超えると、めっき処理時における素鋼板21の表面付近に存在するめっき液の鋼板幅方向におけるpHを均一化する効果を充分に得ることができない。したがって、酸性溶液のpHを好ましくは3〜5とした。
【0038】
なお、酸性溶液には、めっき液に含まれる酸成分を含有する水溶液を用いることが好ましい。たとえば、めっき液に硫酸成分が含まれるとき、酸性溶液には、硫酸成分を含有する水溶液を用いることが好ましい。酸性溶液は、素鋼板21の表面に付着してめっき液中に持ちこまれるので、めっき液と酸性溶液との成分を共通化することによって、酸性溶液の混入によるめっき液組成の変化を抑制し、めっき品質の劣化を防止できるからである。
【0039】
前述のように本実施の形態では、後水洗装置28が、湿潤処理手段26の一部を構成する。後水洗装置28は、めっき処理が施された後の電気亜鉛めっき鋼板21aの表面に残留するめっき液を洗浄除去する装置である。後水洗装置28は、第2水洗装置25と同様の構成を有し、水洗槽28aと、水を供給する水供給源と、水供給源と水洗槽28aまでの配管と、水洗槽28a中の電気亜鉛めっき鋼板移送経路を挟んで設けられる水噴射ノズルとを設け、水供給源から供給される水を、ノズルから電気亜鉛めっき鋼板21aに吹付けて表面を水洗し、水洗後の水を水洗槽28aに予め形成される排水口から回収するように構成される。
【0040】
本実施の形態では、酸性溶液として、水洗槽28aの排水口から回収される後水洗に用いた洗浄水が用いられる。排水口から回収される洗浄水をポンプ35で第1および第2噴射ノズル32a,32b,33a,33bへ送給し、リンガーロール31a,31bに対して噴射する。なお、ポンプ35と第1および第2噴射ノズル32a,32b,33a,33bとの間の酸性溶液管路34には、流量調整弁を設け、酸性溶液の噴射流量が調整できるようにしても良い。
【0041】
電気亜鉛めっき手段である電気亜鉛めっき装置27は、めっき液を貯留するめっき槽27aと、めっき槽27a中に設けられる不図示のめっき電極と、めっき電極に電圧を印加する不図示のめっき電源とを備える。本実施の形態では、めっき液には、硫酸亜鉛と硫酸とを含む溶液が用いられ、そのpHが1〜2に調整される。
【0042】
湿潤処理手段26によって、酸性溶液で湿潤処理された素鋼板21の表面には、リンガーロール31a,31bによる水切りが充分ではないとき、酸性溶液が残留する。しかしながら、酸性溶液は、pH:3〜5に調整され、めっき液のpHに近いpHを有するので、めっき液中に装入された素鋼板21の幅方向端部付近と中央部とで希釈されるめっき液のpHにほとんど差異が生じない。したがって、素鋼板21の表面に形成されるめっき層の亜鉛結晶の成長方位が、端部付近と中央部とで一致するので、視感の異なる不均一な模様の発生することが防止される。
【0043】
前述した後水洗装置28は、めっき処理が施された後の電気亜鉛めっき鋼板21aの表面に残留するめっき液を水洗除去するので、水洗に用いられた後の洗浄水は、めっき液に含まれる硫酸成分を含有し、酸性溶液として用いるのに好適なpHを有するようになる。
【0044】
このように、後水洗装置28において、電気亜鉛めっき鋼板21aの洗浄に用いた洗浄水を酸性溶液として使用することができるので、酸性溶液を供給するための別途装置を設ける必要がなくなるので、製造装置をコンパクトにすることができるとともに、製造装置のイニシャルコストおよび生産のランニングコストを低減することができる。
【0045】
以下、製造装置20における電気亜鉛めっき鋼板の製造方法について説明する。
不図示の巻戻し装置から巻戻された素鋼板21は、アルカリ脱脂装置22へ装入されてアルカリ電解洗浄され、表面の油脂分が除去される。アルカリ脱脂された素鋼板21は、第1水洗装置23へ装入され、表面に残留しているアルカリ脱脂液等が水で洗浄される。第1水洗装置23における水洗後、素鋼板21は、酸洗装置24へ装入され、活性化される。
【0046】
酸洗後、素鋼板21は、第2水洗装置25へ装入され、表面に残留している酸洗液等が水で洗浄される。水洗された素鋼板21は、第2水洗装置25の出側に設けられるリンガーロール31a,31bによって、めっき液のpH以上、水のpH以下のpHを有する酸性溶液が塗布されて湿潤処理される。この酸性溶液は、後水洗装置28において電気亜鉛めっき鋼板21を洗浄した後洗浄水が利用される。この後洗浄水は、pHが3〜5の範囲にあり、ポンプ35で送給されて酸性溶液管路34内を流過し、第1および第2噴射ノズル32a,32b,33a,33bからリンガーロール31a,31bに吹付けられ、素鋼板21に塗布される。
【0047】
湿潤処理された素鋼板21は、電気亜鉛めっき装置27に備わるめっき槽27aに装入され、幅方向におけるめっき液のpHがほぼ均一な状態で、電気亜鉛めっきが施される。素鋼板21は、めっきが施されて電気亜鉛めっき鋼板21aとなり、後水洗装置28に装入される。電気亜鉛めっき鋼板21aは、後水洗装置28において、表面に残留しているめっき液が水で洗浄される。この後洗浄水が、前述のように酸性溶液として利用される。
【0048】
後水洗装置28で洗浄された電気亜鉛めっき鋼板21aは、不図示の乾燥装置で乾燥され、巻取り装置で巻取られて、電気亜鉛めっき鋼板の製造が終了する。
【実施例】
【0049】
以下本発明の実施例について説明する。
図1に示す製造装置20を用い、酸性溶液のpHを変化させて電気亜鉛めっき鋼板を製造し、その外観を試験した。素鋼板として、厚さ:1.6mm、幅:1219mmの日本工業規格(JIS)G3141に規定されるSPCCを用い、速度:70m/minにて製造装置20を通板させて電気亜鉛めっき鋼板を製造した。
【0050】
アルカリ脱脂装置22、酸洗装置24および電気亜鉛めっき装置27に使用したアルカリ脱脂液、酸洗液およびめっき液の組成については、表1に合わせて示す。
【0051】
【表1】
【0052】
酸性溶液である後水洗における洗浄水のpHを次のようにして変化させた。上記速度で素鋼板を通板させた場合、後水洗装置28で得られる後洗浄水のpHは4になる。pH4以外の後洗浄水は、水または硫酸を添加することによって調整した。後洗浄水に対して単位時間当りに添加混合する水または硫酸の量と、得られる後洗浄水のpHとの関係を予め試験して求めておき、後洗浄水のpHを、4よりも低くする場合には硫酸を添加し、4よりも高くする場合には水を添加することによって、意図的に3〜8まで変化させた。
【0053】
それぞれのpHを有する後洗浄水(酸性溶液)を用いて湿潤処理した素鋼板に、付着量が20g/m2になるように亜鉛めっきを施して電気亜鉛めっき鋼板を製造した。製造後の電気亜鉛めっき鋼板を巻替装置で巻替えながらその表面を目視観察し、表面に不均一な模様が形成されているか否かを目視観察によって試験した。表面外観の評価基準を、以下のように設定した。
【0054】
評価3:模様がなく極めて良好
評価2:極軽微な模様があるけれども品質上問題がない
評価1:模様があり品質上問題がある
評価0:はっきりとした模様があり使用に耐えない
【0055】
評価結果を図2に示す。図2は、酸性溶液のpHと表面外観の評価結果との関係を示す図である。図2に示すように、酸性溶液のpHが5以下において、評価2以上の良好な品質の電気亜鉛めっき鋼板が得られた。
【0056】
以上に述べたように、本実施の形態では、湿潤処理手段は、酸性溶液をリンガーロールに噴射し、リンガーロールによって素鋼板に塗布する構成であるけれども、これに限定されることなく、素鋼板に直接噴射する構成であっても良い。
【0057】
また、酸性溶液には、後洗浄水が利用されるけれども、これに限定されることなく、たとえば硫酸等を水に混合してpHを調整した水溶液を用いても良い。このような別途調整した酸性溶液を用いる場合、湿潤処理手段は、酸性溶液を貯留する酸性溶液槽を準備し該槽中に素鋼板を浸漬するように構成されてもよい。また、酸性溶液は、硫酸成分を含む水溶液であるけれども、これに限定されることなく、塩酸等他の酸成分を含む水溶液であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施の一形態である電気亜鉛めっき鋼板の製造装置20の構成を示す図である。
【図2】酸性溶液のpHと表面外観の評価結果との関係を示す図である。
【図3】電気亜鉛めっき鋼板の製造に用いる従来の電気亜鉛めっき鋼板製造装置1の構成を例示する図である。
【図4】水切りが不充分な状態でめっきが施された電気亜鉛めっき鋼板2aの斜視図である。
【符号の説明】
【0059】
20 電気亜鉛めっき鋼板の製造装置
21 素鋼板
22 アルカリ脱脂装置
23 第1水洗装置
24 酸洗装置
25 第2水洗装置
26 湿潤処理手段
27 電気亜鉛めっき装置
28 後水洗装置
31 リンガーロール
32,33 噴射ノズル
34 酸性溶液管路
35 ポンプ
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気亜鉛めっき鋼板の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛(Zn)系のめっき鋼板(以後、亜鉛めっき鋼板と呼ぶ)は、耐食性および加工性に優れ、また安価であることから、建材、自動車部材、家電部材、ガードレールなど種々の用途に用いられている。亜鉛めっき鋼板は、このように広汎な用途に利用されるので、用途に応じて種々のめっき付着量のものが求められている。一般的に、亜鉛めっき鋼板においては、耐食性に重点を置いて付着量を多くする場合、溶融亜鉛めっきが行われ、加工性に重点を置いて付着量を少なくする場合、電気亜鉛めっきが行われている。
【0003】
図3は、電気亜鉛めっき鋼板の製造に用いる従来の電気亜鉛めっき鋼板製造装置1の構成を例示する図である。電気亜鉛めっき鋼板製造装置1は、電気亜鉛めっきされるべき素鋼板2の矢符9にて示す通板方向上流側から下流側に向って、大略、アルカリ脱脂装置3、第1水洗装置4、酸洗装置5、第2水洗装置6、電気亜鉛めっき装置7および後水洗装置8を、この順に備える。
【0004】
以下、図3を参照して従来の電気亜鉛めっき鋼板の製造について説明する。不図示の巻戻し装置から巻戻された素鋼板2は、まずアルカリ脱脂装置3において鋼板表面の油脂分が洗浄除去される。次に、素鋼板2は、第1水洗装置4において、表面が水によって洗浄され、表面に残留しているアルカリ脱脂液などが、洗浄除去される。
【0005】
水洗後の素鋼板2は、酸洗装置5において酸洗液によって酸洗され、表面が活性化される。活性化処理された素鋼板2は、第2水洗装置6において水によって洗浄され、表面に残留している酸洗液などが、洗浄除去される。第2水洗装置6で水洗された素鋼板2は、第2水洗装置6の出側に設けられる一対のリンガーロール10a,10bによって洗浄水の水切りが行われる。その後、素鋼板2は、電気亜鉛めっき装置7へ装入され、電気亜鉛めっき装置7に備わるめっき槽中に貯留されるめっき液中に浸漬され、不図示の電極を介して通電されることによって、電気亜鉛めっきが施される。
【0006】
電気亜鉛めっきが施された素鋼板2は、電気亜鉛めっき鋼板2aとなり、後水洗装置8において、その表面が水によって洗浄され、残留しているめっき液などが、洗浄除去される。なお、ここで、鋼板なる用語は、鋼帯をも含む意味に用いる。
【0007】
前述のように、第2水洗装置6で水洗された素鋼板2は、水洗に用いられた水が表面に付着したまま電気亜鉛めっき装置7に持ちこまれてめっき液を希釈しないように、第2水洗装置6出側のリンガーロール10a,10bによって水切りされる。しかしながら、水切りは、常に充分行われるわけではなく、素鋼板2の幅方向端部付近の方が、幅方向中央部よりも水切りが不充分になる傾向がある。
【0008】
図4は、水切りが不充分な状態でめっきが施された電気亜鉛めっき鋼板2aの斜視図である。図4には、素鋼板2の幅方向端部付近11の方が、幅方向中央部12よりも水切りが不充分な状態で、電気亜鉛めっき装置7によってめっきが施された電気亜鉛めっき鋼板2aを示す。水切りが不充分な状態でめっきが施された電気亜鉛めっき鋼板2aには、幅方向端部付近11と幅方向中央部12とで、亜鉛めっき層の視感が異なる不均一な模様が形成される。このような模様が形成された電気亜鉛めっき鋼板2aは、外観不良として製品化することができないので、歩留を低下させるという問題がある。
【0009】
電気亜鉛めっき鋼板の表面外観を向上する従来技術には、酸性めっき浴による電気亜鉛めっき工程に先立ち、酸性めっき浴と実質的に同一組成の酸性溶液によって、素鋼板表面を酸洗するものがある(特許文献1参照)。
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示される技術は、めっき工程前に施す酸洗に起因する素鋼板表面の不純物濃化層または酸化物層の除去不良、および肌荒れもしくは酸焼け(汚れ)の発生を防止することによって、電気亜鉛めっき鋼板の表面外観を改善するものである。すなわち、めっき処理前における素鋼板表面の機械的な表面形状もしくは酸焼け(汚れ)に起因する表面外観不良を改善するものである。
【0011】
したがって、前述したような、素鋼板に機械的な表面形状不良もしくは汚れが無いにも関わらず、水洗の水切りが不充分であることに起因する亜鉛めっき層の視感が異なる不均一な模様について、特許文献1では、全く言及しておらず、またその改善技術についても何ら開示していない。
【0012】
また、電気亜鉛めっき鋼板の表面外観向上に関するもう一つの従来技術に、酸性のめっき液が、電気亜鉛めっき後の鋼板表面に残留し、電気亜鉛めっき層を再溶解することに起因する外観不良を改善するために、最終洗浄セクションに至る間の液のpH値が段階的に高くなるようにpH値を調整した洗浄水を使用し、最終洗浄セクションでは、中性の洗浄水で洗浄処理するものがある(特許文献2参照)。
【0013】
しかしながら、特許文献2に開示される技術も、めっき処理前の水洗の水切りが不充分であることに起因する亜鉛めっき層の視感が異なる不均一な模様について、全く言及しておらず、またその改善技術についても何ら開示していない。
【0014】
【特許文献1】特開平10−110290号公報
【特許文献2】特開平11−92991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、めっき層の視感が幅方向で異なること無く、表面外観の均一性に優れた電気亜鉛めっき鋼板の製造方法および製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らによる鋭意研究の結果によれば、このような視感が異なる不均一な模様は、めっき液中に装入された鋼板表面付近に存在するめっき液の鋼板幅方向におけるpHが、端部付近と中央部とで異なることに因るものである。すなわち、めっきを施す前に行われる水洗の後の水切りが、必ずしも充分ではない場合、鋼板幅方向端部付近の方が、中央部よりも多量に水が残留する傾向にある。このような状態で、電気亜鉛めっき液中に鋼板が装入されると、一般的にpH:1〜2に調整されているめっき液が、鋼板幅方向端部付近では大きく希釈されてpHが高くなり、鋼板幅方向中央部ではほとんど希釈されないのでpHが低くなる。したがって、鋼板幅方向端部付近ではめっき液のpHが高く、鋼板幅方向中央部ではめっき液のpHが低い状態でめっきされる。
【0017】
本発明者らは、電気亜鉛めっきによって鋼板表面に形成される亜鉛めっき層の結晶成長方位は、めっき液のpHに対する依存性があり、鋼板幅方向におけるpHが異なることに起因して、端部付近と中央部とで結晶の成長方位が異なり、めっき後の視感が異なる不均一な模様が生じるとの知見を得、本発明に至ったものである。
【0018】
本発明は、素鋼板に電気亜鉛めっきを施して電気亜鉛めっき鋼板を製造する電気亜鉛めっき鋼板の製造方法において、
電気亜鉛めっきされるべき素鋼板を水で洗浄する水洗ステップと、
水洗後かつ電気亜鉛めっき前に、めっき液のpH以上、水のpH以下であるpHを有する酸性溶液で素鋼板の表面を湿潤処理する湿潤処理ステップと、
酸性溶液で湿潤処理された素鋼板をめっき液によって電気亜鉛めっきを施すめっき処理ステップとを含むことを特徴とする電気亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
【0019】
また本発明は、めっき処理ステップの後に電気亜鉛めっき鋼板を水で洗浄する後水洗ステップを含み、
酸性溶液が、後水洗ステップで用いられた洗浄水であることを特徴とする。
また本発明は、酸性溶液のpHが、3以上、5以下であることを特徴とする。
【0020】
本発明は、素鋼板に電気亜鉛めっきを施して電気亜鉛めっき鋼板を製造する電気亜鉛めっき鋼板の製造装置において、
電気亜鉛めっきされるべき素鋼板を水で洗浄する水洗手段と、
めっき液によって素鋼板に電気亜鉛めっきを施す電気亜鉛めっき手段と、
水洗手段と電気亜鉛めっき手段との間に設けられ、水洗された素鋼板を、めっき液のpH以上、水のpH以下であるpHを有する酸性溶液で湿潤処理する湿潤処理手段とを含むことを特徴とする電気亜鉛めっき鋼板の製造装置である。
【0021】
また本発明は、電気亜鉛めっきが施された電気亜鉛めっき鋼板を水で洗浄する後水洗手段をさらに含み、
酸性溶液が、後水洗手段によって洗浄に用いられた洗浄水であることを特徴とする。
【0022】
また本発明は、湿潤処理手段で用いられる酸性溶液のpHが、3以上、5以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、電気亜鉛めっきされるべき素鋼板は、水洗後、電気亜鉛めっきを施す前に、めっき液のpH以上、水のpH以下であるpHを有する酸性溶液で、その表面が湿潤処理される。このことによって、めっき液中に装入された素鋼板の表面付近に存在するめっき液は、鋼板幅方向におけるpHの差異が著しく緩和されるので、素鋼板の表面に形成される亜鉛めっき層の結晶成長方位が揃い、不均一な模様の発生が防止される。
【0024】
また本発明によれば、酸性溶液として、電気亜鉛めっきが施された電気亜鉛めっき鋼板を水洗する後水洗ステップで用いられた洗浄水が用いられる。このことによって、別途酸性溶液を調整するための材料および装置が不用になるので、装置をコンパクトにし、またコストを削減することができる。
【0025】
また本発明によれば、酸性溶液のpHが、3以上、5以下であるので、めっき液に装入された素鋼板の表面付近に存在するめっき液の鋼板幅方向におけるpHを一層確実に均一化することができる。
【0026】
本発明によれば、めっき層における視感が異なる不均一な模様の発生を防止することのできる電気亜鉛めっき鋼板の製造装置が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1は、本発明の実施の一形態である電気亜鉛めっき鋼板の製造装置20の構成を示す図である。電気亜鉛めっき鋼板の製造装置20(以後、製造装置20と略称する)は、素鋼板21に電気亜鉛めっき処理を行って電気亜鉛めっき鋼板21aを製造することに用いられる。
【0028】
製造装置20は、アルカリ脱脂装置22と、電気亜鉛めっきされるべき素鋼板21を水で洗浄する水洗手段である第1水洗装置23と、第1水洗装置23で水洗された素鋼板21を酸洗する酸洗装置24と、酸洗後の素鋼板21を水で洗浄する水洗手段である第2水洗装置25と、めっき液によって素鋼板21に電気亜鉛めっきを施す電気亜鉛めっき手段である電気亜鉛めっき装置27と、第2水洗装置25と電気亜鉛めっき装置27との間に設けられ、水洗された素鋼板21を、めっき液のpH以上、水のpH以下であるpHを有する酸性溶液で湿潤処理する湿潤処理手段26と、電気亜鉛めっきが施された電気亜鉛めっき鋼板21aを水で洗浄する後水洗手段である後水洗装置28とを含む構成である。
【0029】
素鋼板21は、不図示の巻戻し装置から巻戻され、矢符29にて示す方向に通板される過程において、各処理が施され、各処理が施されて電気亜鉛めっき鋼板21aとされた後、不図示の巻取り装置によって巻取られる。
【0030】
アルカリ脱脂装置22は、アルカリ脱脂液が貯留される脱脂槽22aと、脱脂槽22a中に設けられる不図示の電極グリッドと、電極グリッド間に電圧を印加する不図示の電源とを含む構成である。アルカリ脱脂液には、公知のたとえば水酸化ナトリウム(NaOH)などが用いられる。素鋼板21は、脱脂槽22a中に設けられ電圧が印加された電極グリッド間を通過する際に、電解脱脂洗浄され、その表面から油脂分が除去される。
【0031】
第1水洗装置23は、水洗に用いる水を貯留する水洗槽23aを備える。アルカリ脱脂処理された素鋼板21は、水洗槽23aに貯留された水の中を移送されることによって水洗される。なお第1水洗装置23は、上記の構成に限定されることなく、水を供給する水供給源と、水供給源と水洗槽までの配管と、水洗槽中の素鋼板移送経路を挟んで設けられる水噴射ノズルとを設け、水供給源から供給される水を、ノズルから素鋼板に吹付けて素鋼板表面を水洗し、水洗後の水を水洗槽に予め形成される排水口から回収するように構成されても良い。
【0032】
酸洗装置24は、たとえば硫酸水溶液などの酸洗液を貯留する酸洗槽24aを備える。第1水洗装置23によって水洗された素鋼板21は、酸洗槽24aに貯留される酸洗液の中を移送されることによって酸洗され、素鋼板表面の酸化スケール等が除去されるとともに活性化される。
【0033】
第2水洗装置25は、酸洗後の素鋼板表面に残留する酸洗液を、水で洗浄除去するための装置であり、水洗槽25aと、水を供給する水供給源と、水供給源と水洗槽25aまでの配管と、水洗槽25a中の素鋼板移送経路を挟んで設けられる水噴射ノズルとを設け、水供給源から供給される水を、ノズルから素鋼板21に吹付けて素鋼板表面を水洗し、水洗後の水を水洗槽25aに予め形成される排水口から回収するように構成される。
【0034】
湿潤処理手段26は、本実施の形態では、その主要部が第2水洗装置25の出側に設けられる。湿潤処理手段26は、第2水洗装置25の出側で、素鋼板21の移送経路を挟んで1対が設けられるリンガーロール31a,31bと、リンガーロール31a,31bを臨むとともに素鋼板21の移送経路を挟んで設けられる第1および第2噴射ノズル32a,32b,33a,33b(本実施の形態では2対)と、酸性溶液供給手段である後水洗装置28と、後水洗装置28と第1および第2噴射ノズル32a,32b,33a,33bとを接続して酸性溶液の流路を成す酸性溶液管路34と、酸性溶液管路34の途中に設けられて酸性溶液を送給するポンプ35とを含んで構成される。
【0035】
リンガーロール31a,31bは、第2水洗装置25によって水洗された素鋼板21の水切りと、第1および第2噴射ノズル32a,32b,33a,33bからロール表面に対して噴射される酸性溶液を、水洗後の素鋼板21へ塗布して湿潤させる処理とを行う。
【0036】
リンガーロール31a,31bに対して噴射され、素鋼板21に塗布される酸性溶液には、電気亜鉛めっきに用いられるめっき液のpH以上、水のpH以下であるpHを有するものが用いられる。好ましくは、酸性溶液のpHは、3以上、5以下である。
【0037】
酸性溶液のpHが3未満では、特に不都合は無いけれども、詳細を後述する後水洗に用いた洗浄水を酸性溶液として利用することが困難になり、別途pHを調整した酸性溶液を準備しなければならなくなるのでコスト面で不利を招く。酸性溶液のpHが5を超えると、めっき処理時における素鋼板21の表面付近に存在するめっき液の鋼板幅方向におけるpHを均一化する効果を充分に得ることができない。したがって、酸性溶液のpHを好ましくは3〜5とした。
【0038】
なお、酸性溶液には、めっき液に含まれる酸成分を含有する水溶液を用いることが好ましい。たとえば、めっき液に硫酸成分が含まれるとき、酸性溶液には、硫酸成分を含有する水溶液を用いることが好ましい。酸性溶液は、素鋼板21の表面に付着してめっき液中に持ちこまれるので、めっき液と酸性溶液との成分を共通化することによって、酸性溶液の混入によるめっき液組成の変化を抑制し、めっき品質の劣化を防止できるからである。
【0039】
前述のように本実施の形態では、後水洗装置28が、湿潤処理手段26の一部を構成する。後水洗装置28は、めっき処理が施された後の電気亜鉛めっき鋼板21aの表面に残留するめっき液を洗浄除去する装置である。後水洗装置28は、第2水洗装置25と同様の構成を有し、水洗槽28aと、水を供給する水供給源と、水供給源と水洗槽28aまでの配管と、水洗槽28a中の電気亜鉛めっき鋼板移送経路を挟んで設けられる水噴射ノズルとを設け、水供給源から供給される水を、ノズルから電気亜鉛めっき鋼板21aに吹付けて表面を水洗し、水洗後の水を水洗槽28aに予め形成される排水口から回収するように構成される。
【0040】
本実施の形態では、酸性溶液として、水洗槽28aの排水口から回収される後水洗に用いた洗浄水が用いられる。排水口から回収される洗浄水をポンプ35で第1および第2噴射ノズル32a,32b,33a,33bへ送給し、リンガーロール31a,31bに対して噴射する。なお、ポンプ35と第1および第2噴射ノズル32a,32b,33a,33bとの間の酸性溶液管路34には、流量調整弁を設け、酸性溶液の噴射流量が調整できるようにしても良い。
【0041】
電気亜鉛めっき手段である電気亜鉛めっき装置27は、めっき液を貯留するめっき槽27aと、めっき槽27a中に設けられる不図示のめっき電極と、めっき電極に電圧を印加する不図示のめっき電源とを備える。本実施の形態では、めっき液には、硫酸亜鉛と硫酸とを含む溶液が用いられ、そのpHが1〜2に調整される。
【0042】
湿潤処理手段26によって、酸性溶液で湿潤処理された素鋼板21の表面には、リンガーロール31a,31bによる水切りが充分ではないとき、酸性溶液が残留する。しかしながら、酸性溶液は、pH:3〜5に調整され、めっき液のpHに近いpHを有するので、めっき液中に装入された素鋼板21の幅方向端部付近と中央部とで希釈されるめっき液のpHにほとんど差異が生じない。したがって、素鋼板21の表面に形成されるめっき層の亜鉛結晶の成長方位が、端部付近と中央部とで一致するので、視感の異なる不均一な模様の発生することが防止される。
【0043】
前述した後水洗装置28は、めっき処理が施された後の電気亜鉛めっき鋼板21aの表面に残留するめっき液を水洗除去するので、水洗に用いられた後の洗浄水は、めっき液に含まれる硫酸成分を含有し、酸性溶液として用いるのに好適なpHを有するようになる。
【0044】
このように、後水洗装置28において、電気亜鉛めっき鋼板21aの洗浄に用いた洗浄水を酸性溶液として使用することができるので、酸性溶液を供給するための別途装置を設ける必要がなくなるので、製造装置をコンパクトにすることができるとともに、製造装置のイニシャルコストおよび生産のランニングコストを低減することができる。
【0045】
以下、製造装置20における電気亜鉛めっき鋼板の製造方法について説明する。
不図示の巻戻し装置から巻戻された素鋼板21は、アルカリ脱脂装置22へ装入されてアルカリ電解洗浄され、表面の油脂分が除去される。アルカリ脱脂された素鋼板21は、第1水洗装置23へ装入され、表面に残留しているアルカリ脱脂液等が水で洗浄される。第1水洗装置23における水洗後、素鋼板21は、酸洗装置24へ装入され、活性化される。
【0046】
酸洗後、素鋼板21は、第2水洗装置25へ装入され、表面に残留している酸洗液等が水で洗浄される。水洗された素鋼板21は、第2水洗装置25の出側に設けられるリンガーロール31a,31bによって、めっき液のpH以上、水のpH以下のpHを有する酸性溶液が塗布されて湿潤処理される。この酸性溶液は、後水洗装置28において電気亜鉛めっき鋼板21を洗浄した後洗浄水が利用される。この後洗浄水は、pHが3〜5の範囲にあり、ポンプ35で送給されて酸性溶液管路34内を流過し、第1および第2噴射ノズル32a,32b,33a,33bからリンガーロール31a,31bに吹付けられ、素鋼板21に塗布される。
【0047】
湿潤処理された素鋼板21は、電気亜鉛めっき装置27に備わるめっき槽27aに装入され、幅方向におけるめっき液のpHがほぼ均一な状態で、電気亜鉛めっきが施される。素鋼板21は、めっきが施されて電気亜鉛めっき鋼板21aとなり、後水洗装置28に装入される。電気亜鉛めっき鋼板21aは、後水洗装置28において、表面に残留しているめっき液が水で洗浄される。この後洗浄水が、前述のように酸性溶液として利用される。
【0048】
後水洗装置28で洗浄された電気亜鉛めっき鋼板21aは、不図示の乾燥装置で乾燥され、巻取り装置で巻取られて、電気亜鉛めっき鋼板の製造が終了する。
【実施例】
【0049】
以下本発明の実施例について説明する。
図1に示す製造装置20を用い、酸性溶液のpHを変化させて電気亜鉛めっき鋼板を製造し、その外観を試験した。素鋼板として、厚さ:1.6mm、幅:1219mmの日本工業規格(JIS)G3141に規定されるSPCCを用い、速度:70m/minにて製造装置20を通板させて電気亜鉛めっき鋼板を製造した。
【0050】
アルカリ脱脂装置22、酸洗装置24および電気亜鉛めっき装置27に使用したアルカリ脱脂液、酸洗液およびめっき液の組成については、表1に合わせて示す。
【0051】
【表1】
【0052】
酸性溶液である後水洗における洗浄水のpHを次のようにして変化させた。上記速度で素鋼板を通板させた場合、後水洗装置28で得られる後洗浄水のpHは4になる。pH4以外の後洗浄水は、水または硫酸を添加することによって調整した。後洗浄水に対して単位時間当りに添加混合する水または硫酸の量と、得られる後洗浄水のpHとの関係を予め試験して求めておき、後洗浄水のpHを、4よりも低くする場合には硫酸を添加し、4よりも高くする場合には水を添加することによって、意図的に3〜8まで変化させた。
【0053】
それぞれのpHを有する後洗浄水(酸性溶液)を用いて湿潤処理した素鋼板に、付着量が20g/m2になるように亜鉛めっきを施して電気亜鉛めっき鋼板を製造した。製造後の電気亜鉛めっき鋼板を巻替装置で巻替えながらその表面を目視観察し、表面に不均一な模様が形成されているか否かを目視観察によって試験した。表面外観の評価基準を、以下のように設定した。
【0054】
評価3:模様がなく極めて良好
評価2:極軽微な模様があるけれども品質上問題がない
評価1:模様があり品質上問題がある
評価0:はっきりとした模様があり使用に耐えない
【0055】
評価結果を図2に示す。図2は、酸性溶液のpHと表面外観の評価結果との関係を示す図である。図2に示すように、酸性溶液のpHが5以下において、評価2以上の良好な品質の電気亜鉛めっき鋼板が得られた。
【0056】
以上に述べたように、本実施の形態では、湿潤処理手段は、酸性溶液をリンガーロールに噴射し、リンガーロールによって素鋼板に塗布する構成であるけれども、これに限定されることなく、素鋼板に直接噴射する構成であっても良い。
【0057】
また、酸性溶液には、後洗浄水が利用されるけれども、これに限定されることなく、たとえば硫酸等を水に混合してpHを調整した水溶液を用いても良い。このような別途調整した酸性溶液を用いる場合、湿潤処理手段は、酸性溶液を貯留する酸性溶液槽を準備し該槽中に素鋼板を浸漬するように構成されてもよい。また、酸性溶液は、硫酸成分を含む水溶液であるけれども、これに限定されることなく、塩酸等他の酸成分を含む水溶液であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施の一形態である電気亜鉛めっき鋼板の製造装置20の構成を示す図である。
【図2】酸性溶液のpHと表面外観の評価結果との関係を示す図である。
【図3】電気亜鉛めっき鋼板の製造に用いる従来の電気亜鉛めっき鋼板製造装置1の構成を例示する図である。
【図4】水切りが不充分な状態でめっきが施された電気亜鉛めっき鋼板2aの斜視図である。
【符号の説明】
【0059】
20 電気亜鉛めっき鋼板の製造装置
21 素鋼板
22 アルカリ脱脂装置
23 第1水洗装置
24 酸洗装置
25 第2水洗装置
26 湿潤処理手段
27 電気亜鉛めっき装置
28 後水洗装置
31 リンガーロール
32,33 噴射ノズル
34 酸性溶液管路
35 ポンプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素鋼板に電気亜鉛めっきを施して電気亜鉛めっき鋼板を製造する電気亜鉛めっき鋼板の製造方法において、
電気亜鉛めっきされるべき素鋼板を水で洗浄する水洗ステップと、
水洗後かつ電気亜鉛めっき前に、めっき液のpH以上、水のpH以下であるpHを有する酸性溶液で素鋼板の表面を湿潤処理する湿潤処理ステップと、
酸性溶液で湿潤処理された素鋼板をめっき液によって電気亜鉛めっきを施すめっき処理ステップとを含むことを特徴とする電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
めっき処理ステップの後に電気亜鉛めっき鋼板を水で洗浄する後水洗ステップを含み、
酸性溶液が、後水洗ステップで用いられた洗浄水であることを特徴とする請求項1記載の電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
酸性溶液のpHが、3以上、5以下であることを特徴とする請求項1または2記載の電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
素鋼板に電気亜鉛めっきを施して電気亜鉛めっき鋼板を製造する電気亜鉛めっき鋼板の製造装置において、
電気亜鉛めっきされるべき素鋼板を水で洗浄する水洗手段と、
めっき液によって素鋼板に電気亜鉛めっきを施す電気亜鉛めっき手段と、
水洗手段と電気亜鉛めっき手段との間に設けられ、水洗された素鋼板を、めっき液のpH以上、水のpH以下であるpHを有する酸性溶液で湿潤処理する湿潤処理手段とを含むことを特徴とする電気亜鉛めっき鋼板の製造装置。
【請求項5】
電気亜鉛めっきが施された電気亜鉛めっき鋼板を水で洗浄する後水洗手段をさらに含み、
酸性溶液が、後水洗手段によって洗浄に用いられた洗浄水であることを特徴とする請求項4記載の電気亜鉛めっき鋼板の製造装置。
【請求項6】
酸性溶液のpHが、3以上、5以下であることを特徴とする請求項4または5記載の電気亜鉛めっき鋼板の製造装置。
【請求項1】
素鋼板に電気亜鉛めっきを施して電気亜鉛めっき鋼板を製造する電気亜鉛めっき鋼板の製造方法において、
電気亜鉛めっきされるべき素鋼板を水で洗浄する水洗ステップと、
水洗後かつ電気亜鉛めっき前に、めっき液のpH以上、水のpH以下であるpHを有する酸性溶液で素鋼板の表面を湿潤処理する湿潤処理ステップと、
酸性溶液で湿潤処理された素鋼板をめっき液によって電気亜鉛めっきを施すめっき処理ステップとを含むことを特徴とする電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
めっき処理ステップの後に電気亜鉛めっき鋼板を水で洗浄する後水洗ステップを含み、
酸性溶液が、後水洗ステップで用いられた洗浄水であることを特徴とする請求項1記載の電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
酸性溶液のpHが、3以上、5以下であることを特徴とする請求項1または2記載の電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
素鋼板に電気亜鉛めっきを施して電気亜鉛めっき鋼板を製造する電気亜鉛めっき鋼板の製造装置において、
電気亜鉛めっきされるべき素鋼板を水で洗浄する水洗手段と、
めっき液によって素鋼板に電気亜鉛めっきを施す電気亜鉛めっき手段と、
水洗手段と電気亜鉛めっき手段との間に設けられ、水洗された素鋼板を、めっき液のpH以上、水のpH以下であるpHを有する酸性溶液で湿潤処理する湿潤処理手段とを含むことを特徴とする電気亜鉛めっき鋼板の製造装置。
【請求項5】
電気亜鉛めっきが施された電気亜鉛めっき鋼板を水で洗浄する後水洗手段をさらに含み、
酸性溶液が、後水洗手段によって洗浄に用いられた洗浄水であることを特徴とする請求項4記載の電気亜鉛めっき鋼板の製造装置。
【請求項6】
酸性溶液のpHが、3以上、5以下であることを特徴とする請求項4または5記載の電気亜鉛めっき鋼板の製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2006−193818(P2006−193818A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−9373(P2005−9373)
【出願日】平成17年1月17日(2005.1.17)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月17日(2005.1.17)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】
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