説明

電気分解による水素化金属の析出及び回収方法

【課題】海洋塩や石灰石等の天然資源或いは産業廃棄物の鐵鋼スラグ等から水素発生と貯蔵を同時に満たす固体燃料としての水素化金属を太陽や風力から得た電力を利用して電解槽で電気分解法で回収し、常時は石油類中に浸漬させて保管し、水素燃料の需要に応じて水素生産施設及び水素製造容器で、水素化金属に水を添加させて水素を得て燃料等に提供する。
【解決手段】低温での溶融塩電気分解により得られた金属の溶融塩21に電解槽42中で陰極27となる素焼きの細孔を有するセラミックからマイナスイオンに帯電させた水素28を発生させ、溶融塩21中に含まれている各種金属類とマイナスイオンに帯電させた水素28と直接イオン結合させて水素化金属45を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の第一の目的は、海洋塩、塩湖塩、岩塩、結晶化塩、温泉水含有塩、鉱泉含有塩、石灰石(炭酸カルシウムを主成分とする石灰石、大理石、方解石、石灰藻、石灰華)および/又は、ボーキサイト等の天然資源又は産業廃棄物(スラグ、貝殻、甲殻類)等から水素化金属を製造し、或いは産業廃棄物の中の溶鉱炉スラグや燃殻としての石灰などを構成する周期律表の1族、2族、13族、14族等の主に卑金属元素類の塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、炭酸塩などの単独塩又は複合塩および/又は貝殻を溶融塩電気分解により陰極に当該金属類を析出させ、或いは当該金属がイオンの状態で、それらと水素ガスとを当該水素化金属の融点以下の温度雰囲気で反応させ、水素化金属を生成させ、
若しくは元素の周期律表1族、2族及び/又は13族の金属塩化塩の複合塩を300℃以下の低温で溶融塩電解し、金属水素化物を得るに際して、塩化亜鉛又は塩化アルミを融点降下剤として添加させ、かつ、電極反応によりマイナスイオンに帯電させた水素を生成させて、前記周期律表1族、2族及び/又は13族の金属と該マイナスイオンに帯電させた水素とを直接結合させて水素化金属を得ることを特徴とする固体電解質電極反応により水素化金属を生成(製造)させ、若しくは、調達した各種単体金属を水素ガスと反応させ、生成した水素化金属を油中に保管させると同時に当該水素化金属に水とを接触させて必要に応じて水素を製造し、燃料用等に提供することを目的とする。
【0002】
本発明の第二の目的は、(0001)に記載で得られた溶融塩を電解質に接して素焼き又は固体電解質からなる固体容器aの陰極電極と固体容器bの中央部には陽極になる炭素又は黒鉛電極を配備させ、溶融塩電解槽の中に両極を対峙させた位置に配置させ、該陰極となる固体容器aの素焼きの内側又は外側のいずれか一方の面又は固体電解質の内側面には金属電極を密着させ、かつ、固体容器aには水素ガスを導入させることにより、両電極間にマイナスイオンに帯電させた水素を生成させる電位を付与させることにより、該マイナスイオンが溶融塩電解質側に移動する際に溶融塩電解質の金属イオンと結合して水素化金属を生成させることを特徴とする水素のマイナスイオンを生成させることによる水素化金属を生成させる方法及び当該電解槽の構造の提供を目的とする。
前記固体電解質電極反応の電解槽の構造は、電解槽の外周にヒーターを配設させ、電解槽の任意の一方を陽極となる炭素又は黒鉛電極を配置し、距離を隔てて、陰極となる素焼き又は固体電解質からなる固体容器bの内壁若しくは外壁面に白金又はニッケルコーテイングを施した電極を配置させ、該固体容器bには水素ガスを連通管により挿入させ、水素ガスが固体容器bにコーティングした白金又はニッケル電極に接し、水素のマイナスイオンが形成され、予め電解槽に注入された溶融塩を炭素又は黒鉛電極が溶融塩電解質と直接接触させた構造若しくは素焼き又は固体電解質である固体容器bからなる陽極電極と陰極部間の間隙間に溶融塩を静置若しくは連続的に連通管から供給し、陰極及び陽極間には2.25V内外の電位差を付与させ、かつ、電解槽中に連通管から供給される溶融塩の状態を維持させるために所望する温度にヒーターで調整することにより、元素の周期律表1族、2族及び/又は13族の金属塩化塩、水酸化塩、酸化塩又は炭酸塩や硫酸塩の夫々の単独塩又は複合塩の溶融塩から水素化金属を析出させ、回収可能とする構造を有する電解槽及び当該電解槽における固体電解質電極反応により水素化金属を生成(製造)し、回収することを目的とする。
【背景技術】
【0003】
小資源国日本がエネルギー源としての石油の調達は海外に依存していることに論を挟む余地はない。炭素を含む化石燃料を燃焼させるとCO2を排出するが、燃焼によるCO2排出を抑制する方策と手段として水素の実用化を早急に実現させ、化石燃料と併用させることが望まれる。我が国のCO2排出量は、非特許文献1(産業関連表による環境負荷原単位データブック/独立行政法人国立環境研究所 地球環境センター/2002年9月)によると、年間約11億トン。その内、約29%の3.2億トンが電力・ガス・熱供給部門、約18%の2億トンが運輸部門、約12%の1.3億トンが鉄鋼部門、約7%の0.8億トンが石灰石を原料とするセメント工業を主体とする窯業・土石製品製造部門である。これら4部門だけで我が国の総CO2排出量の66%を占める。そこで先ず考えねばならないことが、第一番目の電力・ガス・熱供給部門と2番目の運輸部門の石油から水素エネルギーへの変換である。これには国内から調達可能で無尽蔵とも謂える海洋塩、温泉水含有塩、鉱泉含有塩、石灰石など、或いは世界中に偏在無く無尽蔵に分布する塩湖塩や岩塩等の天然資源。これら天然資源を太陽光、風力、波力、重力・浮力、地熱等の自然エネルギーで得られた電力で溶融塩電気分解して、水素化金属を製造することが可能である。
一方、第3番目の鉄鋼部門および第4番目のセメント部門では、石灰石を焼いて生石灰を作る工程が不可欠であり、この工程でのCO2の発生を省略することは出来ない。更に、考えねばならないことは、この石灰石こそ我が国で数少ない自給率100%の資源である。そこで本発明では、この石灰石の主成分たる炭酸カルシウムCaCO3のカルシウCaを水素発生金属として活用すると同時に、鉄鋼製造過程で出る廃棄物としての約30%に及ぶ高温スラグをも水素エネルギーに変換することである。このようにクリーンエネルギーとしての水素を持続的に得られれば今後の地球環境負荷低減と経済活動の二律背反的な課題に対しての解決策を提供することが可能となる。
これら天然資源を太陽光、風力、波力、重力・浮力、地熱等の自然エネルギーで得られた電力で溶融塩電気分解して、水素化金属を製造することが可能であると同時に来るべく水素化社会の到来を睥睨して、資源戦争を回避させるためには国内外から調達可能で無尽蔵とも言える海洋塩、温泉水含有塩、鉱泉含有塩、石灰石など、或いは世界中に偏在無く無尽蔵に分布する塩湖塩や岩塩等の天然資源。これら天然資源を太陽光、風力、波力、重力・浮力、地熱等の自然エネルギーで得られた電力で溶融塩電気分解して、水素化金属を製造し、水素化金属から水素を容易に得ることを目的とし、得られた水素は発電用、自動車用燃料、家庭用燃料、産業用動力等に提供しようとするものである。
2011年3月11日、東北地方東海岸の広域地帯を襲った地震による津波は甚大な被害をもたらし、之に誘発されて発生した福島第1原発の炉心熔融事故による電力獲得の機能が停止状態になり、電力供給の制限が実施される結果となり、企業活動、日常生活にも影響を及ぼしている。
【0004】
更に、生産工程、輸送過程、消費過程における経済活動を主とした人間の営みには、電力源、動力源を獲得するためのエネルギー源としては石油系化石燃料等々から賄われ、CO2の発生を皆無にすることは困難である。そこで本発明では、この点も勘案し、極力、自然界に数多にしかも平等に存在している天然物を原資にし、しかも水素、各種金属類の製造に必要とする電力源獲得は、風力発電、太陽光発電、波力発電、地熱発電、重力・浮力発電等々の自然法則を利用したものから獲得し、エネルギーの使用後、大気開放されても環境負荷が掛からず、かつ、水素を製造、輸送、貯蔵する過程において極力、常温、常圧に近いエネルギー消費で目的を達成させる方式を選択した。
【0005】
従来、水素は水の電気分解による製法が一般的であるが、その貯蔵や輸送には重いボンベが必要である。このためボンベの軽量化や水素ガスの液化或いは水素吸蔵合金などの開発が進められている。一方、需要に応じ、短時間に大量に水素を必要とする発電所や都市ガス或いは燃料電池充電工場などの施設では、固体水素が相応しい。この固体水素の代替として、水よりも軽い電力貯蔵固体として海水や岩塩から金属ナトリウムを製造し、これを石油中に保存して、電力消費地の火力発電所に輸送し、水を注いで発生させた水素で発電し、副産物の苛性ソーダはソーダ工業の原料として供給するか、或いは再度溶融塩電気分解して金属ナトリウムを再製して、ナトリウム燃料サイクル(水素燃料サイクル)として、苛性ソーダの熔融塩電気分解を繰り返す再処理システムとして、金属ナトリウムが水よりも軽い電力貯蔵固体として、枯渇の心配が全く無く、CO2も出さず、放射能も出さない化石燃料の代替エネルギーであることを特許文献1(国際出願番号:PCT/JP2008/058500、国際公開番号:WO/2008/142995)に開示している。
【0006】
一方、金属ナトリウムの加水分解では1/2モルの水素しか発生しないが、それに対して水素化ナトリウム(NaH)の加水分解では理論的には倍になる1モルの水素を発生させることと、水素化ナトリウム(NaH)の製造方法は電気化学的に電気炉内で原料の水酸化ナトリウムから酸素固体電解質電極を用い、直接NaHを製造する方法が特許文献2(特開2007-223839)に開示されている。又、水素化金属を燃料電池の燃料源として用いる方法として、特許文献3(特開2003-229134)には水素化金属としてNaH、NaBH4、KBH4、LiAlH4、KHが開示されている。更に、特許文献4(特開2003-234115)には水素化金属としてLiH、CaH2、BaH2、MgH2が開示されている。これらはすべて、比較的低温度の反応で水素を得、しかも水素燃料サイクルを形成させて持続的に所望する水素燃料を得ることと、出発原料となる金属類や水は自然状態のものから得ることを目的としているために環境負荷を少なくし、持続的社会を目指す人類の経済活動に貢献するものである。
【0007】
更に、本発明の目的は、産業上利用可能な金属類を、海洋塩、塩湖塩、岩塩、結晶化塩、温泉水含有塩、鉱泉含有塩、石灰石、ボーキサイト等の天然資源或いは産業廃棄物の中の溶鉱炉スラグや燃殻としての石灰などを得ることを目的とするために、喩え万一、資源外交問題で石油・金属資源供給国との間で不慮の経済摩擦が発生した場合にも備えて、国内で調達できることを目的とすると同時に水素エネルギー社会の到来を踏まえて安全に、持続的に水素の供給・輸送・保管を可能にすることを目的とするものである。
【0008】
又、工業規模で水素を多量に得るための水素発生装置(タンク)の構造、水素の生産現場から消費地への水素ローリ車による安全移送、水素ステーションでの内燃機関用の動力源獲得のために補給する際に、需要量に応じた給水素量をオンディマンドで製造可能とするように、補給基地としての製造・貯蔵・保管等々、地球温暖化対策としてやがて到来するであろう水素社会を睥睨しての課題点と解決策を提供することも目的とする。
【0009】
上記記載による本発明の目的を達成させるためには、最終手段的には、アルカリ金属、アルカリ土類金属を含有する海洋塩、塩湖塩、岩塩、結晶化塩、温泉水含有塩、鉱泉含有塩、石灰石、或いは周期律表第13族元素のアルミニウムを含有する粘土やボーキサイト等の天然資源或いは産業廃棄物の中の溶鉱炉スラグや燃殻としての石灰などを溶融状態で電気分解により、各種金属類を陰極で単離させた後、水素ガスと反応させて各種水素化金属を生成する方法と、各種溶融塩の電気分解過程で陰極から出る水素イオンと陰極近傍の被析出金属イオンを結合させて直接水素化金属を採取することを目的とするために膨大な実施例のデータと時間が必要になるために、本発明の実施例は、比較的簡単に、しかも確実性のある取得可能な方法に限定して実施例とすることにし、他の多くの必要とされる実施例データは公知のデータ、非特許文献等に記載されている事象に基づき、理論的に可能性ありとの見解に基づき記載した。
元素の周期律表1族、2族及び/又は13族の金属塩化塩の複合塩を好ましくは300℃以内の低温で溶融塩電解し、金属水素化物を得るに際して、塩化亜鉛又は塩化アルミを融点降下剤として添加させ、かつ、電極反応によりマイナスイオンに帯電させた水素を生成させて、前記周期律表1族、2族及び/又は3族の金属と該マイナスイオンに帯電させた水素とを直接結合させて水素化金属を得ることを特徴とする固体電解質電極反応による水素化金属を生成、回収させることにある。
【0010】
本発明を実施するための出発物質の原料は自然状態で存在している海洋塩、塩湖塩、岩塩、結晶化塩、温泉水含有塩、鉱泉含有塩、石灰石等であるが、非特許文献2(『“風力よ”エタノール化からトウモロコシを救え<風力発電による海洋資源回収と洋上工場>/パワー社出版』)15ページに示してあるように、海水1リットル中に35gの塩分を含み、その中にアルカリ金属としてNa(10.8g), K(0.38g), Li(0.002g)、アルカリ土類金属はMg(1.3g), Ca(0.4g), Sr(0.01g), Ba(0.0002g)、13族のAlは(0.0002g)である。非特許文献3(石垣島の自然岩塩:http://www.binchoutan.com/ishigaki.html)には、製品100g中に、Na(32g), Mg(1.2g), Ca(0.53g), K(0.42g)である。塩湖塩としては世界最大の南米・ボリビアのウユニ塩湖の塩(100g)の成分はNa(38.7g), Ca(0.34g), K(0.03g), Mg(0.03g), Fe(0.0004g)である。岩塩としてはモンゴル岩塩(100g)の成分は Na(37.86g), Mg(0.1g), Ca(0.08g), K(0.03g), 水分(2.94g)である。温泉水の内、成分比として塩類が多いのは、兵庫県有馬温泉では1リットル中に海水の2倍に匹敵する71gの塩類からなり、その成分比はNa(20g), K(5g), Ca(3.4g), Sr(0.6g), Li(0.5g), Ba(0.5)gと非常に多くのミネラルが含有されている。我が国で最もアルミニウムイオンが多い温泉は蔵王温泉で、1リットル中には6.7gの塩類からなり、金属イオンで最も多いのがAl(0.3g)で次がCa(0.11g), Fe(0.09g), Na(0.076g), Mg(0.072g), K(0.06g)である。2番目が秋田県玉川温泉で、1リットル中には6.6gの塩類からなり、金属イオンで最も多いのがAl(0.28g)で次がFe(0.16g), Ca(0.16g), Na(0.066g), Mg(0.053g), K(0.034g)である。最もカルシウムが多いのは静岡県駿河健康ランドで、1リットル中には25gの塩類からなり、金属イオンで最も多いのがCa(4.6g)で次がNa(1.9g), Mg(1.8g), K(0.61g)である。勿論岩塩など水が無いものは、金属を取り出すには有利であるが、海水、温泉水或いは鉱泉のように95%以上が水の場合でも、淡水化により真水を、陰イオンから塩酸や硫酸を製造すれば、その副産物だけでも採算に合う。海水から金属を取り出すプロセスにおいて、副産物として出る、真水、硫酸、塩酸も従来大電力を要して生産していたものであり、この副産物だけでも採算性があることが、特許文献1(国際出願番号:PCT/JP2008/058500、国際公開番号:WO/2008/142995)および非特許文献2(『“風力よ”エタノール化からトウモロコシを救え<風力発電による海洋資源回収と洋上工場>/パワー社出版』)、非特許文献4(『Climate Change and Sustainable Development, Edited by Ruth A. Reck, Chapter 19“Wind Power and Seawater Save Corn from Ethanol Production: A Marine resources recovery and Offshore Integrated Plant for Sodium Fuel, Fresh Water, Ethanol, Vegetable, and Fish Production with Wind Energy and Seawater, p215-221,By Masataka Murahara / Linton Atlantic Books, Ltd, Feb. 2010』)に開示されている。
石灰岩の主成分は、炭酸カルシウム(CaCO3)で、少量の酸化マグネシウム(MgO)、シリカ(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化鉄(Fe2O3)を含む。非特許文献5(石灰石・ドロマイトとは/ http://www.yoshizawa.co.jp/company/index.html)によると石灰石の起源は海底のサンゴで、海中のCO2を取り込み石灰質の殻を作り、これが堆積したのが石灰石で、従って純粋な炭酸カルシウム(CaCO3)の化学成分は炭酸カルシウム(CaO):56.03%、二酸化炭素(CO2):43.9%である。我が国では年間1億7千トンが生産され、その殆どが露天掘りで、採掘費が安く、数少ない自給率100%の資源である。石灰石の用途はセメント原料や製鉄(生石灰(CaO)は鉄鉱石やコークスなどの原料に含まれる不純物を除去)に使われることが開示されている。又本発明の水素化カルシウム(CaH2)も生石灰(CaO)を使う。従って、これらの用途のために、多くの石灰石は熱分解して生石灰(CaO)として使う。そのため多量のCO2を発生させなければ成らないが、この石灰石熱分解プロセスは発電所や自動車のガソリン内燃機関と異なり酸素を用いない。現在、火力発電所などで純粋なCO2を回収するために、空気を用いず、空気から分離した酸素を使い、燃焼後のCO2を液化して深海底に埋設することが進められている。しかしこの石灰石の熱分解で得られるCO2は純粋なので、このまま液化することが出来る。又、この液化CO2を深海底の鉱物資源掘削運搬用浮力源や内燃機関の動力源として利用することが本発明者らによって特許文献5(深海資源採掘・回収統合洋上工場/特願2009-22119)に開示されている。このようにプロセス過程で排出するCO2も有効利用して大気に放出することなく石灰石を用いれば、我が国はもとより世界中に広く分布し、採掘が容易で、かつ採掘岩に約39%内外のカルシウム(Ca)を含有するエネルギー資源は他に無いと考える。この含有率39%は塩中に約38%の金属ナトリウムを含有する岩塩と肩を並べるものである。しかも、地表から深さ18 Kmの範囲の岩石圏(火成岩95%、頁岩4%、砂岩0.75%、石灰石0.25%)の中で0.25%を占める石灰石は、世界中に偏存無く広く分布し、かつ、クラーク数によると、カルシウム(Ca)は3.39%で5番目(1番:酸素/49.5%、2番:ケイ素/25.8%、3番:アルミニウム/7.56%、4番目:鉄/4.7%、5番目:カルシウム/3.39%、6番目:ナトリウム/2.63%、7番目:カリウム/2.4%、8番目:マグネシウム/1.93%)である。このクラーク数で1番目の酸素は殆どの金属の酸化物であるため、地表上で最も多い金属元素はケイ素(Si)である。従って豊富なエネルギー資源はケイ素(Si)である。これら周期律表14族元素(C,Si,Ge,Sn,Pb)の水素化金属は融点が低く、常温ではすべて気体であり、しかも酸素とは激しく反応する。このため、エネルギー源としては申し分ない。ところが燃焼後生成する酸化物はCO2 やSiO2のように超安定でその還元には大量のエネルギーが必要である。しかし、水素を燃焼させて得られる水(H2O)はその状態で、種々の物質の溶媒として或いは生物の成長エネルギーとして、或いは電気や光により簡単に還元が出来るなど、第14族元素の水素化物と比較すると経済的である。3番目のアルミニウム(Al)は、第13族元素(B, Al, Ga, In, TI) に属すが、アルミニウム以外は水素化金属の融点が低く、常温で気体であり毒性が強く、かつ酸素や水蒸気と激しく反応するためエネルギー源としては相応しくないと考える。ただし水素化アルミニウム(AlH3)だけは融点が150℃と高い。このように比較的融点が高い水素化金属の中に在って、融点が200℃以下の物質はRbの170℃、Alの150℃、Csの140℃、Beの125℃である。これら低融点材料の中で最も資源として豊富なものがアルミニウムであり、しかも水素化アルミニウム(AlH3)の比重は1.49と軽く、かつ融点が193℃、沸点が182℃と低いため昇華現象を回避すれば低温度での溶融塩電気分解が可能である。とくに水素化アルミニウム(AlH3)の融点150℃付近は、回転機、摩擦熱、或いはエンジンの発熱で水素を吐き出すことが出来るため自動車用エネルギーとして利用できる。5番目のカルシウム(Ca)と8番目のマグネシウム(Mg)などの第2族元素(Be, Mg, Ca, Sr, Ba, Ra)の金属単体表面は酸素雰囲気で酸化皮膜が形成される水との直接反応を阻害する。ベリリウム(Be)は100℃でも反応しない。マグネシウム(Mg)は水では反応せず熱水で反応する。カルシウム(Ca)は水と作用させると常温では水酸化カルシウムの保護膜を作るため、反応は緩やかで、熱すると激しく反応して水素を生成する。ラジウム(Ra)は反応性に富むが、ストロンチウム(Sr)やバリウム(Ba)はカルシウム(Ca)に似ている。しかるに第2族元素の水との直接反応で水素を発生させることは効率が低いが、水素化物にすれば常温で激しく水と反応して水素を発生する。更に、金属カルシウムを水と反応させた時には1モルの水素(H)を生成する(Ca + 2H2O →H2+ Ca(OH)2)。ところが水素化ナトリウム(CaH2)の場合には2モルの水素)を生成する((CaH2 + 2H2O → 2H2 + Ca(OH)2)。従って水素化カルシウム(CaH2)は、水素(H2)発生物質として有望である。クラーク数8番目のマグネシウム(Mg)、19番目のバリウム(Ba)、22番目のストロンチウム(Sr)およびそれ以下のベリリウム(Be)についても同様で水素化物にすると水との反応性が向上し、水素発生効率が上昇する。
第6番目のナトリウム(Na)は海水、塩湖、岩塩などに多く含まれているため、最も有望な金属である。この金属ナトリウムは、第1族元素(Li, Na, K, Rb, Cs, Fr)はアルカリ金属として最も反応性に富み、かつ水を注ぐと激しく反応して水素を発生する。しかし、大気中でも水分と反応して爆発するなど、取り扱いに注意が必要である。一般に金属ナトリウムは軽油などの油の中に保存するが、水素化ナトリウム(NaH)にパラフィンをコーティングするぐらいで安全に使用できる。更に、金属ナトリウムを水と反応させた時には0.5モルの水素(H)を生成する(Na+ H2O →1/2H2 + NaOH)。ところが水素化ナトリウム(NaH)の場合には1モル(2倍の水素)を生成する(NaH + H2O → H2 + NaOH)。従って水素化ナトリウム(NaH)は、水素(H2)発生物質として有望である。クラーク数7目のカリウム(K)、18番目のルビジウム(Rb)、更に、少ないセシウム(Cs)やリチウム(Li) についても同様で水素化物にすると水との反応性が向上し、水素発生効率が上昇する。このように、国内にある豊富な資源を原料として水素化を狙うことも今後の有力な代替エネルギー候補と成り得る。
【0011】
上記記載の海洋塩、塩湖塩、岩塩、結晶化塩、温泉水含有塩、鉱泉含有塩、石灰石、ボーキサイト等の天然資源或いは産業廃棄物の中の溶鉱炉スラグや燃殻としての石灰などの複合塩を出発原料とするのが目的であるが、各種金属の水素化物を得ることを一義的に考え、そのために各種金属毎の塩化物、水酸化物又は酸化物を、夫々単塩毎の溶融塩電気分解から始め、順次それら複数の塩を組み合わせた複合塩を溶融塩電気分解する。一般に溶融塩はイオン導電により高い導電率を示す。非特許文献6(高橋武彦著電気化学概論 223頁 /1991年2月20日 新版刷)には、導電率はイオン性が小さいほど高く、陽イオンが同じならばCl-> Br- >I- の順に、又陰イオンが同じならばLi+> Na+ > K+ > Rb+ >Se+ の順に低くなる。従って、溶融塩を金属製造などの工業分野から考える場合には、その導電率ができるだけ高く、又、できるだけ低い温度で使用できることが望ましいと記載されている。非特許文献7(伊藤康彦編 溶融塩の応用 16頁/ 2003年7月31日)には、ダウンズ法による金属ナトリウム製造において、NaClの融点は803℃と高く、実用化するには、融点の低下が望まれる。このためCaCl2-NaCl系溶融塩の相平衡効果を用い、混合溶融塩を用いることにより、電解浴の融点を下げることが記載されている。非特許文献8(電気化学便覧 第5版:丸善株式会社 平成13年6月30日発行)の125頁には2成分系および3成分系の共融混合物の組成と融点が降下することについて記載されている。更に、特許文献6の224頁には溶融塩の電解では、溶質の分解電圧が溶媒の分解電圧より高ければ溶質の電解は不可能であれば、単一塩の溶融体では溶媒が無いので、その塩の分解電圧に達しさえすれば電解が可能であると記載されている。そこで、非特許文献9(理科年表:丸善株式会社 平成15年版)や非特許文献10(実験化学ガイドブック:丸善株式会社 昭和59年6月15日発行)、非特許文献11(化学便覧 基礎編 I、II 改訂3版:丸善株式会社 昭和59年6月15日発行)、非特許文献8(電気化学便覧 第5版:丸善株式会社 平成13年6月30日発行)などから本発明遂行に必要とする金属および金属化合物の物理的定数を典型元素の中から周期律表の第1族,2族,13族元素および他の金属と比較して融点が低いため溶融塩の融点を下げる効果を期待して、遷移元素で第12族元素の亜鉛(Zn)を選び、それらについて調べると、各金属の比重は、Li(0.54) >K(0.86) >Na(0.97) >Rb(1.53) >Ca(1.55) >Mg(1.74) >Be(1.85) >Cs(1.87) >Sr(2.60) >Al(2.69) >Ba(3.5)とLiが最も軽い。金属の融点は、Al(182)<Zn(283)<
Be(405)<Li(605)<Cs(645)<Mg(714)<Rb(718)<K(770)<Ca(772)<Na(801)<Sr(875)<
Ba(925)の順に高くなる。塩化物の融点は、Al(193)<Be(405) <Li(605) <Li(605) <Cs(645)<Mg(714)<Rb(718)<K(770)<Ca(772)<Na(801)<Sr(875)<Ba(925)の順に高くる。水酸化物の融点は、Zn(125℃)< Cs(272) < Zn(125℃)<Cs(272) <Al(300)<Rb(301)<
Na(318)<Ba(325)<Mg(350)<K(360)<Sr(375)<Li(450)<Ca(580)の順に高くなる。水素化物は、Be(125℃)<Cs(140)<Al(150)<Mg(287)< Rb(300) <K(417)<Ca(600)< Li(680)<
Na(800)<Ba(1675) の順に高くなる。酸化物の融点は、Na(1275)<Li(1570)Ba(1918)<
Zn(1975)<Al(2054)< Sr(2430)<Be(2530)<Ca(2572)<Mg(2800) の順に高くなる。硫酸塩の融点は、Na(1275)<Li(1570)Ba(1918)<Ca(1450)<Ba(1580)<Sr(1605)の順に高くなる(単位は℃)。又、Pt, Pd, Ti, V, Fe, Mn, La などの遷移元素は水素が吸蔵され易いことが一般に知られている。これら遷移金属元素の中でTi, Fe, Mn などの元素化合物は本発明の溶融塩の中に含める。とくに低い温度で溶融塩電気分解を行うために、溶媒として高い導電率を有し、かつ溶質よりも分解電圧が高い溶媒を選択することが必要である。このために溶融電解塩の溶質としては、塩化カルシウム(CaCl2)或いは塩化バリウム(BaCl2)が適している。とくに本発明においては、水素化カルシウム(CaH2)は有力な代替エネルギー源である。しかし塩化カルシウム(CaCl2)は分解電圧が高いためCaの析出には大電力が必要である。ところが、非特許文献12(鈴木亮輔 「溶融塩化カルシウム中でのCaO電解を利用した酸化物の還元」平成21年度溶融塩賞受賞記念論文)には、塩化カルシウム(CaCl2)の中に生石灰(CaO)を溶融させると、CaOの理論分解電圧(約2.6V)がCaCl2の理論分解電圧(約3.2V)よりも低いので、この電圧を印加すればCaCl2の中でCaOのみを電気分解して、Caを得、これで酸化チタン(TiO2)を還元することが可能であると示唆している。このように溶融塩電気分解においては、溶媒と溶質を如何に選択するかが、実用化の鍵を握ると考える。本発明では、これら溶融塩を電気分解する過程で陰極又は陰極近傍で水素と反応させ、水素化金属を生成することに尽きる。一方、陽極では塩素、酸素、二酸化炭素、亜硫酸ガスなどを採取して、化学工業用塩酸や硫酸として或いは酸素は燃焼用として供給する。上記の手段により得られた金属の水素化物は比較的安定な化合物であるが、出来る限り油中で保管・移送・管理し、オンディマンド(On Demand)で水素の需要量に応じて水と接触させて燃料用途としての水素を得る。本発明を実施させるための原材料となる水素化金属類は、市販のものを調達することにより得ることも吝かではない。
【0012】
陸上の固鉱物資源から水素化金属を得るには、鉱脈が豊かであれば経済的である。水素化アルミニウム(AlH3)はボーキサイト、水素化ナトリウム(NaH)は岩塩、水素化カルシウム(CaH2)は石灰石から製造する。ボーキサイトや岩塩は地域に偏存する。ところが石灰石は世界中の地表や海岸の浅瀬や海底に広く分布する。この石灰岩の自給率が100%に近い我が国にとっては打って付けなエネルギー資源である。又、国外においても同様である。バルト海中央に位置するスエーデンのゴットランド島は、風が強く、古くから自然エネルギーに頼った生活様式が根付き、持続可能社会(Sustainable Society)の発想を生んだ場所でもある。島の内部や海岸或いは海上の至る所に風車が電力を生産し、その一部は海底ケーブルで送電し、本土のスエーデン国鉄の特急列車(X2000)を動かしている。このバルト海は水深が浅く、しかも塩分濃度は世界の海水の塩分濃度3%の1/3の1%と低い。しかし地下水が豊富であるため、海水の淡水化も必要が無く、海水から金属ナトリウムを回収する方法には消極的であった。ところがこの島の成因は石灰石である。至る所に露天掘りの石灰石鉱山が在り、その周囲にはセメント工場が多い。本発明は、この石灰石と風力発電を代替エネルギー資源にしようとする発想から生まれたものである。
【0013】
炭酸カルシウム(CaCO3)を主成分とする石灰石から水素化カルシウム(CaH2)を得るには、先ず、CaCO3を熱分解して、酸化カルシウムと二酸化炭素(CO2)を得る(CaCO3→CaO+CO2)。この場合、二酸化炭素(CO2)は、地球温暖化の要因ガスになるので、別途、二酸化炭素(CO2)を利用した内燃機関用の動力源とするために、液化炭酸ガス若しくはドライアイスにして貯蔵する。一方、溶質としての酸化カルシウム(CaO)は、溶融状態にある溶媒としての塩化カルシウム(CaCl2)に良く溶け、しかも塩化カルシウム(CaCl2)よりも酸化カルシウム(CaO)の方が電解電圧が低いので、酸化カルシウム(CaO)が先に電解され、陰極にカルシウム(Ca)が析出される。ここで、陰極内部或いは周囲から水素ガスを送って水素化カルシウムCaH2を生成させる。ここで陰極にはセラミック製水素電解質電極を用い、水素ガスを満たし、セラミック製電解質に接した金属電極を陰極として、イオン化された水素をセラミック製電解質電極を隔てて当該電解質近傍の溶融塩側の金属イオンと反応して水素化金属を形成させる。ここで金属イオンがカルシウムの場合は水素化カルシウム(CaH2)が生成する。この水素化カルシウム(CaH2)の比重(1.91)より重く、塩化カルシウム(CaCl2)の比重(2.15)より軽いため、最終的には水素化カルシウム(CaH2)は最上部に浮き回収される。このときの反応温度は600℃以下であることは勿論のことである。これにより、水素化カルシウムCa(H2)燃料として供給が可能となる。石灰石中には約56%の炭酸カルシウム(CaCO3)が含まれているが、更に、多い95〜98%以上含まれているのが貝殻である。この貝殻は石灰岩のような鉄分やアルミニウムなどの不純物は全く無く至って純粋な炭酸カルシウムである。例えば帆立貝を例に取ると、国内では年間21万トンが廃棄物として出るが、現在薬品などへの利用が考えられている。この貝殻も、水素化カルシウム(CaH2)製造として有望である。更に、骨や甲殻類の主成分は約58%が燐酸カルシウム(CaPO3)だが、燐を含むため公害にもなりかねないが、燐分の肥料化などをすれば、これも有望なエネルギー資源であると考える。
【0014】
製鉄の原料は、鉄鉱石、コークス、石灰石である。このプロセスには大量の熱エネルギーが投入される。コークス炉で石炭やプラスチックを燃やして製造したコークスと焼結した鉄鉱石と石灰石とを高炉中で燃やし、溶鉄を作り、これを転炉に送り、酸化剤を用い、余分な炭素や不純物を取り除くために加熱溶融した後、鋳造圧延工程を経て鉄鋼製品が出来上がる。コークス炉の副産物にコークス炉ガスが有るが、その中の56%が水素ガスである。非特許文献13(鉄鋼廃熱有効利用研究会の概要:環境・エネルギー工学部会/(社)日本鉄鋼協会:http://www.isij.or.jp/Bukai/Gakujutsu/Eco/study_01.htm)によると、各部所の廃熱温度は高炉ガス:150℃、コークス炉ガス:250℃、焼結炉ガス:400℃、転炉ガス:1500℃、高炉スラグ:1500℃、転炉スラグ:1550℃である。この高炉スラグや転炉スラグの廃熱は未使用であると記載されている。非特許文献14(鉄鋼スラグとは:株式会社 テツゲン:http://www.tetsugen.co.jp/slag.htm)によると、鉄鋼スラグの成分は、生石灰(CaO)が最も多く、高炉スラグで(CaO:41.7%, SiO2:33.8%, Al2O3:13.5%, MgO:7.4%, S:0.8%, Fe: 0.4%, MnO:0.3%)、転炉スラグで(CaO:45.8%, SiO2:11.0%, Al2O3:1.9%, MgO:6.5%, S:0.06%, Fe: 17.4%, MnO:5.3% )である。これら1500℃内外のスラグは、大型高炉では100〜150t/hの速度で連続的に排出され、大気中冷却や水冷して、コンクリート用骨材、セメント、道路補修用路盤剤、地盤改良剤、肥料などに使われている。しかし、熱回収は殆ど行われていない。非特許文献15(日本国勢図絵 第5版 2007/2008)表19-8によると2005年の我が国の銑鉄生産高が8,300万トンであるから、排出されるスラグは、約2,400万トン(鉄鋼の30%がスラグ)と莫大な量である。しかも、1,500℃に及ぶ未使用の廃熱となる。
そこで本発明では、塩化カルシウム(CaCl2)や塩化バリウム(BaCl2)の単塩又は複合塩に高温スラグを投入して混合溶融塩を作り、これを溶融塩電気分解して、金属カルシウム(Ca)を製造し、250〜300℃内外でコークス炉から得られた副産物の水素ガス(H2)と反応させて、水素化カルシウム(CaH2)を製造する。或いは、塩化カルシウム(CaCl2)や塩化バリウム(BaCl2) 或いは塩化カリウム(KCl)の組み合わせによる複合塩に高温スラグを投入して混合溶融塩を作り、600℃以下で溶融塩電気分解を行い、陰極内部或いは周囲から、コークス炉から得られた副産物の水素ガスを送って水素化カルシウムCaH2を生成する。この水素化カルシウムCaH2の比重(1.91)より重く、塩化カルシウム(CaCl2)の比重(2.15)より軽いため、最終的には水素化カルシウム(CaH2)は最上部で回収することができる。ここで、陰極内部或いは周囲から水素ガスを送って水素化カルシウムCaH2を生成させる。ここで陰極にはセラミック製水素電解質電極を用い、水素ガスを満たし、セラミック製電解質に接した金属電極を陰極として、イオン化された水素をセラミック製電解質電極を隔てて当該電解質近傍の溶融塩側の金属イオンと反応して水素化金属を形成させる。
特に、溶融塩の溶媒と溶質の複数種が含有するような場合、溶融温度も変化する。この場合、析出物に応じて溶媒を増やしたり減らしたりして処理する。又、溶融塩は温度によって導電率が異なる。その理由として、自由電子(熱電子)の運動に基因するからである。従って、溶融塩温度が低い場合でも、自由電子の動きが活発になれば、電流が流れ、電気分解の進行速度が速められると考えられる。これを実現するために磁場を掛け、陰極から陽極への電子の動きを加速すると、低温でも反応速度が速まると考えられる。
一般的に、電子の加速は気体放電の中で論じられているが、本発明は溶融塩のような液体中に磁場を掛けることにより、電子が加速される可能性がある。
【0015】
水素化金属は水分や水蒸気と反応して水素を発生する。水素化金属は金属よりも安全であると共に“禁水”であり、消防法:危険物第3類であるが、危険等級は金属ナトリウムはI、水素化ナトリウムはIIと取り扱いは楽である、
そのため、油の中に保管するが、製造工程も油で保護されれば、安全作業に繋がる。沸点が高い油は、軽油(引火点:130℃以下、沸点:180〜350℃)、一般に絶縁オイルや熱媒体油は引火点や沸点が高く、市販のものでは400℃まで気相および液相循環ができる。シリコーンオイルでは引火点が300℃である。又、引火点350℃のものもある。一方、水素化金属の融点が300℃以下の物は、Mg(287℃)> Rb(170)> Al(150) > Cs(140)> Be(125)である。ここで、エネルギー資源として利用価値が高いのは、アルミニウム(Al)とマグネシウム(Mg)である。マグネシウムの融点は651℃、塩化マグネシウム(MgCl2)は714℃、酸化マグネシウム(MgO)は2,800℃と、融点287℃の水素化マグネシウム(MgH2)よりも高く、しかも現時点では、混合塩により、溶融塩電気分解雰囲気を287℃以下にすることは難しい。そのため金属マグネシウム(Mg)を高温で水素ガスと反応させる以外に方法は無い。
一方金属アルミニウム(Al)は融点が660℃、塩化アルミニウム(AlCl3)は193℃、酸化アルミニウム(Al2O3)は2,054℃であり、何れの温度も水素化アルミニウム(AlH3)の融点150℃より高い。更に、注意しないとならないことは、塩化アルミニウム(AlCl3)の沸点が182℃と融点より低い。これは溶融溶液に成る前に昇華してしまうことを意味する。したがって、溶融塩電気分解は182℃以下の温度で実施しなければならない。幸いなことに、非特許文献8(電気化学便覧 第5版:丸善株式会社 平成13年6月30日発行)の124-125頁には、塩化アルミにウム(AlCl3)の複合塩は50℃まで溶融塩温度を降下することができることが示されている。しかも、水素化アルミニウム(AlH3)の比重は1.49であり、塩化アルミニウム(AlCl3)の比重が2.47、絶縁油或いは軽油の比重(0.8)であるため、生成した水素化アルミニウム(AlH3)は溶融塩の上に浮き、その上部を油が覆うことになり、目的製品を全く大気に触れさせないで回収することができる。ここの低温溶融塩を電気分解過程で陰極又は陰極近傍で水素と反応させ、水素化アルミニウム(AlH3)を生成することが可能である。もともと金属アルミニウム(Al)の比重は2.69と鉄(Fe)の7.44に比べて軽いため、車載用水素源として相応しい。従来水素自動車は、水素貯蔵用に重い製鉄製ボンベを必要とした。しかし、本発明のように水素発生源に水素化アルミニウム(AlH3)を用いれば、ボンベは不必要であり、かつ自動車の回転機、摩擦熱、或いはエンジンの発熱など150℃の温度で水素を吐き出し、金属アルミニウム(Al)になるため、スタンドで回収すれば、金属アルミニウムの原料として利用できるし、再度溶融塩電気分解により陽極で得られる塩素と、或いは水素か水と反応させて生成した塩化水素や塩酸と反応させて塩化アルミニウム(AlCl3)に戻した後、溶融塩電気分解を行う、水素燃料サイクルが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】(国際出願番号:PCT/JP2008/058500、国際公開番号:WO/2008/142995)
【特許文献2】特願2006-46287 (特開2007-223839)
【特許文献3】特開2003-229134
【特許文献4】特開2003-234115
【特許文献5】特願2009-22119「深海資源採掘・回収統合洋上工場」
【特許文献6】特願 2002-107806,特開2003-306301
【特許文献7】特願2004-168549,特開2005-343771
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】産業関連表による環境負荷原単位データブック/独立行政法人国立環境研究所 地球環境センター/2002年9月
【非特許文献2】村原正隆・関和市 著『“風力よ”エタノール化からトウモロコシを救え<風力発電による海洋資源回収と洋上工場>/パワー社出版』
【非特許文献3】石垣島の自然岩塩:http://www.binchoutan.com/ishigaki.html
【非特許文献4】『Climate Change and Sustainable Development, Edited by Ruth A. Reck, Chapter 19“Wind Power and Seawater Save Corn from Ethanol Production: A Marine resources recovery and Offshore Integrated Plant for Sodium Fuel, Fresh Water, Ethanol, Vegetable, and Fish Production with Wind Energy and Seawater, p215-221,By Masataka Murahara / Linton Atlantic Books, Ltd, Feb. 2010』
【非特許文献5】石灰石・ドロマイトとは/ http://www.yoshizawa.co.jp/company/index.html)
【非特許文献6】高橋武彦著 電気化学概論 223頁/ 1991年2月20日 新版刷
【非特許文献7】伊藤靖彦編 溶融塩の応用―エネルギー・環境技術への展開223頁、―株式会社アイピーシー、2003年7月31日発刊
【非特許文献8】電気化学便覧 第5版:丸善株式会社 平成13年6月30日発行
【非特許文献9】理科年表:丸善株式会社 平成15年版
【非特許文献10】実験化学ガイドブック:丸善株式会社 昭和59年6月15日発行
【非特許文献11】化学便覧 基礎編 I、II 改訂3版:丸善株式会社 昭和59年6月15日発行
【非特許文献12】鈴木亮輔 「溶融塩化カルシウム中でのCaO電解を利用した酸化物の還元」平成21年度溶融塩賞受賞記念論文
【非特許文献13】鉄鋼廃熱有効利用研究会の概要:環境・エネルギー工学部会/(社)日本鉄鋼協会: http://www.isij.or.jp/Bukai/Gakujutsu/Eco/study_01.htm)
【非特許文献14】鉄鋼スラグとは:株式会社 テツゲン: http://www.tetsugen.co.jp/slag.htm)
【非特許文献15】日本国勢図絵 第5版2007/2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従来、水素の製法は、水を電気分解する方法、石油等のガス状炭化水素化合物からニッケルや酸化鉄を触媒にして加熱分解する方法、溶鉱炉のコークスを製造する過程で副産物として発生させる方法等がある。これらの水素ガスを需要に応じ、必要量だけを供給するシステムが必要である。その手段としては、製造した水素ガスをボンベに貯蔵したり、液化した後高圧ボンベに貯蔵したり、水素吸蔵合金に吸蔵させた後、交通手段を用い消費地に輸送したり、パイプラインで直接輸送する方法が考えられている。しかし、水素自身は軽いが輸送するには容器類が重い。水素吸蔵合金に至っては寿命が短く重い。気体である以上輸送時のガス漏れなどが心配である。水素を石油や石炭の代替エネルギーとして普及させるためには、石炭や石油のように安全で長期間の貯蔵と長距離輸送を可能にしなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明では、前述した課題点を解決する手段として、海洋塩、塩湖塩、岩塩、結晶化塩、温泉水含有塩、鉱泉含有塩、石灰石、ボーキサイトなどを構成する周期律表の1族、2族、13族、14族等の主に卑金属元素類の塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、炭酸塩などを構成する元素のうち、クラーク数で地球上での賦存量が多い鉱物資源や産業廃棄物の中の溶鉱炉スラグ或いは廃棄された貝殻や甲殻類を原料として用い、これらから水素化金属を製造するための電力を太陽光、風力、波力、重力・浮力、地熱等の自然エネルギーから調達し、かつ、熱エネルギーの一部は溶鉱炉の廃熱を利用するものとする。
【0020】
従って、上記金属の塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、炭酸塩などを溶融塩電解することからはじめる訳だが、当該金属がイオンの状態のままで、それらと水素ガスとを当該水素化金属の融点以下の温度雰囲気で反応させ、水素化金属を生成させ、若しくは、調達した各種単体金属を水素ガスと反応させ、生成した水素化金属を油中に保管させると同時に当該水素化金属に水を接触反応させ、必要に応じて水素を製造し、燃料用に提供すると同時に、残渣として析出する水酸化金属は脱水することにより、1族元素は溶融塩電気分解用の原料としてリサイクルにより再度供給し、2族元素の水素化金属は融点以上で水を放出して酸化金属になるため、2族金属元素塩化物を直接溶融塩電気分解するか、或いは溶媒としての2族元素塩化物と溶質としての2族元素酸化物から成る混合塩を溶融塩電気分解して陰極に当該金属類を析出させ、或いは当該金属がイオンの状態のままで、それらと水素ガスとを当該水素化金属の融点以下の温度雰囲気で反応させ、水素化金属を生成させ、若しくは、調達した各種単体金属を水素ガスと反応させ、生成した水素化金属を油中に安全に保管させ、需要に応じて水と接触させることにより、水素燃料を製造させるサイクルを維持させようとするものである。又、上記地球上に偏存無く、かつ極自然に存在する天然資源や産業廃棄物から産業上必要とする各種金属類を獲得することも目的とする。
【0021】
金属の塩化物を溶融塩電気分解すると陰極に各金属が析出し、陽極には塩素ガス(Cl)が生成される。陽極に生成された塩素ガスと熱水を反応させることにより、塩酸と酸素が自然生成される(2NaCl → 2Na+Cl2 , 2Cl2+ 2H2O → 4HCl+O2)。或いは、生成した塩素ガスに、高温下で水素ガスを流し、塩化水素を生成させ、それを水に吸収させて塩酸を得る方法(Cl2+ H2 → 2HCl )もあるが、コスト的には塩素ガスと熱水とを反応させる方が有利である。又、ここで得られた塩酸を濃縮して濃塩酸を得るには、特許文献5(特願2009-22119「深海資源採掘・回収統合洋上工場」)に示されているように高速気流により発生する気圧差を利用して水分を蒸発させ、塩酸を濃縮する方法がある。
【0022】
ナトリウム(Na)は海水、塩湖、岩塩などに多く含まれているため、最も有望な金属である。この金属ナトリウムは、第1族元素(Li, Na, K, Rb, Cs, Fr)はアルカリ金属として最も反応性に富み、かつ水を注ぐと激しく反応して水素を発生する。しかし、大気中でも水分と反応して爆発するなど、取り扱いに注意が必要である。一般に金属ナトリウム(Na)と水素化ナトリウム(NaH)の安全性を比較すると、ともに水と激しく反応し、消防法では共に「禁水」薬品であり、危険物第3類である。ただし、危険等級は金属ナトリウムの等級Iに対し、水素化ナトリウムは等級IIと低く、比較的安全であり、取り扱いが楽である。しかるに、一般には、金属ナトリウムが灯油に保存されているが、水素化ナトリウム(NaH)は粒子がパラフィンでコーティングされているぐらいで、比較的安全に使用できる。更に、金属ナトリウムを水と反応させた時には0.5モルの水素(H)を生成する(Na+ H2O →1/2H2 + NaOH)。ところが水素化ナトリウム(NaH)の場合には1モル(2倍の水素)を生成する(NaH + H2O → H2 + NaOH)。従って水素化ナトリウム(NaH)は、水素(H2)発生物質として有望である。このようにナトリウム(Na)は、油中で保管しないと不安定で、条件によっては爆発の危険性もあるが、一端水素化させ、水素化ナトリウム(NaH)にすると、融点が800℃になり、安全にかつ、長期間の保管にも耐え、必要時に水と反応させて水素を発生させるのに好適に用いられるようになる。
【0023】
カルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)などの第2族元素(Be, Mg, Ca, Sr, Ba, Ra)の金属単体表面は酸素雰囲気で酸化皮膜が形成される水との直接反応を阻害する。ベリリウム(Be)は100℃でも反応しない。マグネシウム(Mg)は水では反応せず熱水で反応する。カルシウム(Ca)は水と作用させると常温では水酸化カルシウムの保護膜を作るため、反応は緩やかで、熱すると激しく反応するようになり水素を生成する。ラジウム(Ra)は反応性に富むが、ストロンチウム(Sr)やバリウム(Ba)はカルシウム(Ca)に似ている。しかるに第2族元素の水との直接反応で水素を発生させることは効率が低いが、水素化物にすれば常温で激しく水と反応して水素を発生するようになる。更に、金属カルシウムを水と反応させた時と比較して、水素化ナトリウムの場合には2倍の水素を生成する。しかも従って水素化カルシウム(CaH2)は、水素(H2)発生物質として有望である。クラーク数8番目のマグネシウム(Mg)、19番目のバリウム(Ba)、22番目のストロンチウム(Sr)およびそれ以下のベリリウム(Be)についても同様で水素化物にすると水との反応性が向上し、水素発生効率が上昇する。消防法では水素化ナトリウムと同じ「禁水」薬品であり、危険物第3類、険等級はIIに分類され、比較的安全であり、取り扱いが楽である。しかるに、水素化ナトリウム(NaH)同様に粒子はパラフィンでコーティングされて市販されており、比較的安全に使用できる。
【0024】
この周期律表第2族に属するカルシウム(Ca)は、国内に普遍的に存在する、炭酸カルシウム(CaCO3)を主成分とする石灰石から得られる。このカルシウム(Ca)に水素を貯蔵し、水素化カルシウム(CaH2)を製造し、これを水素燃料として用いることは、資源小国日本にとって有望な技術と考える。この石灰石中の炭酸カルシウム(CaCO3)の純度は、従来の鉱物資源に比べて50%以上と高く、我が国に限らず世界中の陸地や海岸周囲で採掘できるため、持続可能社会を構築のためには打って付けな資源であると考える。炭酸カルシウム(CaCO3)を主成分とする石灰石から水素化カルシウム(CaH2)を得るには、先ず、CaCO3を熱分解して、酸化カルシウムと二酸化炭素を得る。化学反応式は、CaCO3→CaO+CO2である。この場合、二酸化炭素(CO2)は、地球温暖化の要因ガスになるので、別途、二酸化炭素(CO2)を利用した内燃機関用の動力源とするために、液化炭酸ガス若しくはドライアイスにして貯蔵させる。一方、酸化カルシウム(CaO)は、塩化カルシウム(CaCl2)又は塩化バリウム(BaCl2)の単独又は複合塩を溶媒とした溶融塩電解液の中に溶質として溶かし、電解電圧の低い酸化カルシウム(CaO)が、先ず選択的に溶融塩電気分解され、陰極周囲にカルシウムイオン(Ca++)が析出される。そこで、陰極内部或いは周囲から水素ガスを送って水素化カルシウム(CaH2)を生成させる。水素化カルシウムは、比重が1.91と比較的軽く、かつ、温度を600℃以下に保てば、水素を放出しないので保管が楽である。幸いなことに、常温で水と激しく反応して水素(H2)を発生させるので、燃料としての供給が可能となる。
【0025】
周期律表第13族に属し、軽金属として社会生活に欠かせない金属アルミニウムの塩化物は他の金属には見られない低温度溶融塩である。しかるに、塩化アルミニウム(AlCl3)を出発原料にして溶融塩電解をさせることにより水素燃料サイクルを考えることができる。塩化アルミニウム(AlCl3)の融点は、193℃であり、沸点が182℃であるために水素ガス又は油圧を利用して圧力をかけると陽極では、塩素ガス(Cl2)が発生し、水に吸収させて塩酸をつくり、陰極では、水素化アルミニウム(AlH3)が生成され、これを150℃以上で過熱すると体積で3倍の水素が発生する。これは、水素燃料サイクルを応用した内燃機関用・外燃機関用の将来の動力源として提供の可能性があり、とりわけ、潤滑油や軽油の中に或いはワックス等でコーティングされた水素吸蔵アルミニウム燃料(水素化アルミニウム)は、弁当箱のようなパッケージ容器商品として、水素燃料補給基地(水素スティーション等)で、ガス欠の際の交換、取り付け部品として利用でき、内燃機関の廃熱で、軽油或いはワックスと共に加温すれば、水素を吐き出し、水素燃料としてシリンダーに供給できる。更に、潤滑油等は大気中の湿気や水との接触を防止する効果を持つと同時に等価回路を形成させるコンデンサーの役割も演じ、緊急時を知らせる警報回路の構成が可能となる。又、水素を吐き出して、水素吸蔵金属の役目を終えアルミニウムは、水素燃料補給基地(水素スティーション等)で回収することにより、リサイクルが何度でも可能となる。
【0026】
溶融塩を電気分解するには高い導電率が要求される。この溶融塩の電気的性質は、非特許文献6(高橋武彦著 電気化学概論 1991年2月20日 新版刷)222頁に示されているように、例えば塩化ナトリウム(NaCl)の伝導率κ(S/cm)は、18℃、10%の水溶液でκ=0.121(S/cm)、700℃における固体時でκ=0.000087(S/cm)であるが、融点の801℃を超えると、結晶のイオン配列が乱れ、空孔が増大し、水溶液の10倍以上の導電率を示すようになり、850℃でκ=3.5(S/cm)であり、分極電圧はV=2.5Vである。この導電率は、非特許文献11(化学便覧 基礎編 I、II 改訂3版:丸善株式会社 昭和59年6月15日発行)II−461,462頁に示されるように、塩の種類によって大きく異なり、例えば塩化アルミニウム(AlCl3)では200℃でκ=.00000056(S/cm)であるが、塩化カルシウム(CaCl2)では800℃でκ=2.1(S/cm)、塩化バリウム(BaCl2)では1000℃でκ=2.17(S/cm)、塩化カリウム(KCl) では800℃でκ=2.24(S/cm)、塩化リチウム(LiCl) では800℃でκ=6.61(S/cm)である。更に、これらの塩類を混合すると、融点は下がり、かつ導電率も大きく変わる。このため効果的に溶融塩電気分解を行うためには、導電率を高くし、かつ融点を低くしなければならない。更に、電気分解したい溶質の分解電圧に達すれば、電気分解が行われるから、目的溶質よりも分解電圧が高く、しかも融点が低くなるように塩類を組み合わせた溶媒を処方すれば、目的金属を選択的に析出させることが可能である。
【0027】
溶融塩電気分解槽としては、陰極に目的金属を析出させ、陽極に塩化物の場合は塩素ガス、水酸化物や酸化物の場合は酸素ガスを析出させる。例えば水酸化ナトリウム(NaOH)を溶融塩として電気分解するCastner法によると、陰極で金属ナトリウムが析出し、陽極では水が生成する。この反応雰囲気温度320℃において、水酸化ナトリウムの分解電圧は約2.2Vであるが、水の電気分解電圧が約1.4Vであるから、水も電解されるため、電解効率は50%以下であると、非特許文献6(高橋武彦著 電気化学概論 1991年2月20日 新版刷)238頁に記載されている。幸いなことに、この電解効率を100%にする提案が、非特許文献7(伊藤靖彦編 溶融塩の応用―エネルギー・環境技術への展開、株式会社アイピーシー、2003年7月31日発刊)21,22頁に、β−アルミナ隔膜法として記載されており、ナトリウムイオン選択透過性固体電解質 β−アルミナを隔膜として陽極室側に置かれた水酸化ナトリウムを電気分解し、溶融ナトリウムを陰極として陰極室に金属ナトリウムを析出させることにより反応温度が350℃と低く、しかも電流効率100%が可能であると記載されている。更に、、同じ装置を用い、塩化亜鉛(ZnCl2)を60%と塩化ナトリウム(NaCl)を40%の混合溶融塩にすると330〜350℃で塩化ナトリウムの電気分解が可能で、電流効率は、ほぼ100%で高純度金属ナトリウムが得られことが示されている。イットリア安定化ジルコニア、スカンジア安定化ジルコニア等のセラミック固体電解質を用いて水酸化ナトリウム(NaOH)から酸素を引き抜く方法及び装置として、ジルコニア系セラミックスから成る電解るつぼの中に水酸化ナトリウムを仕込み、固体電解質の内外面に、電圧印加のための白金メッキされた電極が備えられ、そこに約2.2Vの電圧を印加して、溶融塩温度を320℃以上450℃以下に保ちながら電気分解を行い水素化ナトリウムを製造する方法と装置が、特許文献2(電気化学的水素化ナトリウム製造方法及び装置(特願2006-46287/特開2007-223839)に開示されている。これらのように、イオン選択透過性固体電解質を隔離膜兼電極として用いれば電流効率の向上が可能であると考える。
【0028】
請求項1に記載の発明は、水素マイナスイオン発生用電極で生成した水素のマイナスイオンと溶融塩中に存在する金属イオンとが結合して水素化金属を生成させるものである。溶融塩電解質が満たされた溶融塩電解槽の中に、固体容器aから成る水素のマイナスイオン発生用陰極と水素のマイナスイオン発生のための電位を与えるための陽極とを対峙させて挿入し、両電極間に電位をあたえる。ここで水素のマイナスイオン発生用陰極は固体容器aの素焼きの内側又は外側のいずれか一方の面又は固体電解質の内側面に金属電極を密着させものであり、かつ、固体容器aに水素ガスを導入させる構造を有している。他方陽極は固体容器bの中央部に陽極になる炭素又は黒鉛電極を配備させた構造を有し、該マイナスイオンが溶融塩電解質側に移動する際に溶融塩電解質の金属イオンと結合して水素化金属を生成させるものである。
【0029】
請求項2に記載の発明は、溶融塩が塩素化合物を含む場合には、陽極に集まる塩素イオンを水と反応させて、塩酸として回収し、同時に水から遊離した酸素をも回収するものである。この場合の陽極構造は、素焼き又は固体電解質である固体容器bから成り、該固体容器bの下部から水を注入し、かつ、該固体容器bの内部には陽極となる炭素又は黒鉛電極が配備され、溶融塩電解質中の塩素イオンが素焼き又は固体電解質を透過して該固体容器bの内部の水と接触して生成した塩酸を回収し、同時に遊離した酸素を別途回収するものである。
【0030】
請求項3に記載の発明は、請求項1記載の溶融塩に酸素化合物が含有している場合には、陽極を炭素又は黒鉛にすると該酸素は直接炭素と反応して二酸化炭素を生成する。もし、酸素ガスを単体で回収できれば、水素の燃焼用に供することができる。そこで、固体容器bを酸素透過固体電解質とし、この固体容器bの内側内壁面に白金又はニッケル電極を被覆させることにより、溶融塩中の酸素イオンを選択的に酸素透過固体電解質を通過させ、この固体電解質bの電極界面で電子を与え酸素イオンは酸素原子と成って、上部酸素取り出し口から酸素ガスとして回収するものである。
【0031】
請求項4に記載の発明は、溶融塩が海洋塩、塩湖塩、岩塩、結晶化塩、温泉水含有塩、鉱泉含有塩、石灰石又はボーキサイトの天然資源又は産業廃棄物あるいは鉄鋼スラグなどの溶融塩は複数の金属イオンが混在している。従来の溶融塩電気分解法では、夫々の金属イオンの電解電圧が異なるため、印加電圧制御が複雑であるため、一般には含有金属イオンの純度を高くする必要があった。ところが本発明では、生成させるのは水素のマイナスイオンだけで、溶融塩中に存在する金属イオンは全く区別しない。夫々の単独塩又は複合塩など溶融塩中に存在する全ての金属イオンが水素のマイナスイオンと反応して水素化金属を作る。ただし、夫々の水素化金属の分離回収が必要な場合には、融点や沸点あるいは比重により分離回収を行う。さらに、塩化物、水酸化物、酸化物又は炭酸塩や硫酸塩に含まれる陰イオンも固体電解質電極を用い単体のガスとして溶融塩と隔離して分離回収することができる。
【0032】
水素化金属と水を接触、反応させて水素を得る際に、用いる水は、水道水、地下水、工業用水、温泉水、鉱泉水、蒸留水、河川水、湖沼水、雨水等で差し支えないが、比較的不純物の少ない、汚染されていない水を使用することが望ましい。
【発明の効果】
【0033】
本発明による水素化金属の製法によると、従来行われていた溶融塩電気分解法では金属を析出するために大電流を必要としたが、本発明では小電力で生成した水素のマイナスイオンがすでに溶融塩状態にある金属の正イオンと結合し、水素化金属を生成するため電力消費量が極端に少ない。例えば金属ナトリウムについて述べると、金属ナトリウムの融点は溶融塩の温度よりも極端に低い98℃であるため、その回収においては雰囲気温度を低くしなければ成らなかった。しかし、水素化ナトリウムの融点は800℃と極端に高いため、その必要は無い。
さらに、本発明による電解槽での電気分解法による水素化金属の生成法は、溶融塩を電解槽中に連続的に供給することにより連続的に水素化金属が生成されるので、来るべく水素化社会の到来に対して、水素化金属を原材料として必要な量の水素を必要な場所において得る手段として期待される。
また、本発明によると水素を得るための原材料は、元素の周期律表でアルカリ金属、アルカリ土類金属の自然、天然物に依存させていることと、電気分解に必要とする電力を極力自然エネルギーから獲得し、かつ、各金属の単体を得る出発物質となる基材を海水、塩湖、岩塩、温泉水、石灰岩等ルギー源から賄うために、小資源国であり、海洋に囲まれている日本としては、地球温暖化を低減させながら経済活動の営みを持続的に継続させて行くことを可能ならしめる。更に、天然物から得られた金属の塩化物は溶融塩電解により、水素と反応させ、水素化金属を獲得し、油中で保管・管理させ、水素の需要時には水素化金属に水と接触反応させて水素が容易に得られる。上記金属および水素化金属を得るための原材料となる金属元素の塩化塩、水酸化塩、酸化塩又は炭酸塩や硫酸塩の夫々の単独塩又は複合塩は別途市販のものを入手することにより水素化金属を得ることも可能である。
【0034】
又、必要に応じて、各種水素化金属化合物を選択的に入手して、水素を得るための出発物質とすることができ、各種水素金属化合物と水との接触反応により、需要(On Demand)に応じた水素を製造させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】各種金属元素と夫々の金属塩の融点を示す図。
【図2】各複合塩と融点の関係を示す図。
【図3】溶融塩の種類と雰囲気温度に於ける電気伝導率の関係を示す図。
【図4】溶融塩の種類と雰囲気温度に於ける分解電圧の関係を示す図。
【図5】水酸化ナトリウム・水酸化カルシウムの溶融塩電気分解による水素吸蔵金属の製造と加水分解による水素燃料製造サイクルの概略図。
【図6】水素のマイナスイオン発生用陰極の構造図。(A)は金属電極が固体容器aの内壁にある場合の陰極、(B)は金属電極が固体容器aの外壁にある場合の陰極。
【図7】水素のマイナスイオン発生用陽極の構造図。(A)は炭素又は黒鉛電極の構造図(溶融塩に直接接触)、(B)は塩素イオンを塩酸として回収する陽極の構造図、(C)は酸素イオンを酸素ガスとして回収する陽極の構造図。
【図8】水素のマイナスイオンを用いた溶融塩中での水素化金属製造方法の概念図。(A)は矩形型固体容器aの陰極と陽極の組み合わせ。(B)は円筒型固体容器aの陰極と陽極の組み合わせ。
【図9】水素化金属製造装置概念図。
【図10】融点降下剤(塩化アルミ&塩化亜鉛)を食塩に添加して融点温度降下特性図。
【図11】融点降下剤(塩化アルミ&塩化亜鉛)を塩化カルシウム、塩化マグネシウムに添加して融点温度降下特性図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の効果的な実施の形態を図1〜図11に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0037】
図1は、各種金属元素と夫々の金属塩の融点を示す図である(請求項1の説明)。1は金属元素の融点。2は金属塩化物(塩化金属)の融点。3は金属水酸化物(水酸化金属)の融点。4は金属酸化物(酸化金属)の融点。5は金属水素化物(水素化金属)の融点である。本発明で最も重要なことは、水素化金属5の融点以下で、水素化反応や溶融塩電気分解を行うことである。もし水素化金属5の融点以上の場合には、一旦金属元素を析出させた後に、水素化金属の融点以下の温度で水素ガスとの反応を行わねばならない。したがって、各金属塩の融点が低い化合物を探すことである。概して金属酸化物4は融点が高い。これに反し、水酸化物3は融点が低い。しかし、周期律第1族元素のLi,K,Naは融点が低いため金属水酸化物で溶融塩を作り、直接溶融塩電気分解ができる。しかし第2族のCa,Mg,Sr,Baなどは夫々の融点で水分子を放出して金属酸化物4に変化してしまうため、実質的には金属酸化物4を溶融して電気分解を行なうことになる。幸いなことに、金属塩化物2は比較的融点が低く、しかも導電率が高く、金属酸化物4の溶媒になり、複合塩を形成し、融点を下げる効果が期待される。とくに、本発明の出発原料が、海洋塩、塩湖塩、岩塩、結晶化塩、温泉水含有塩、鉱泉含有塩であり、これらの中の塩類は塩化物が大半を占めているため、これらの塩を電気分解する。炭酸カルシウムや酸化カルシウムの主成分は石灰石や鉄鋼スラグであるから、これら溶質としての酸化カルシウムと溶媒としての金属塩化物2の複合溶融塩を電気分解し、かつ水素と反応させて水素化金属を製造する。第3族のAlは塩化物2である塩化アルミニウムの融点が水素化金属5である水素化アルミニウムよりも融点が低いので水素化金属を作ることができる。
【0038】
図2は、各複合塩と融点の関係を示す図である。本発明で重要なことは図1に示す水素化金属5よりも溶融塩の温度を低くすることである。したがって夫々の水素化金属(点線矢印で示す)の融点よりも溶融塩を低くする複数塩の処方が必要である。6は、金属アルミニウムの塩類の組み合わせ複合塩と水素化アルミニウムの融点6に示すように、金属アルミニウム塩類の組み合わせ塩では水素化アルミニウムの融点(150℃)よりも低い溶融塩を作ることができる。7は、金属マグネシウム塩類の組み合わせと水素化マグネシウムの融点7である。これらの組み合わせ塩の融点は全て287℃以上であるので、電気分解中での水素化反応は困難であり、この場合は電気分解で金属マグネシウムを析出させた後に、低い温度で水素化する方法を採用する。8は、金属ナトリウム塩類の組み合わせと水素化ナトリウム融点8を示す。これらの金属ナトリウム塩類の組み合わせ塩はすべて水素化ナトリウムの融点(800℃)よりも低いので水素化ナトリウムを生成するのは楽である。9は、金属カルシウム塩類の組み合わせと水素化カルシウム融点9を示す。これらの金属カルシウム塩類の組み合わせ塩は水素化カルシウムの融点(600℃)よりも低い処方があるので水素化カルシウムを生成するのは楽である。10は、金属リチウム塩類の組み合わせと水素化リチウム融点10を示す。これらの金属リチウム塩類の組み合わせ塩は水素化リチウムの融点(680℃)よりも全て低いので水素化リチウムを生成するのは楽である。11は、金属カリウム塩類の組み合わせと水素化カリウム融点11を示す。これらの金属カリウム塩類の組み合わせ塩は水素化カリウムの融点(417℃)よりも低い処方が多々あるので水素化カリウムを生成するのは楽である。12は、金属バリウム塩類の組み合わせと水素化バリウム融点12を示す。これらの金属バリウム塩類の組み合わせ塩は水素化バリウムの融点(1675℃)よりも全て低いので水素化リチウムを生成するのは楽である。この他にも、複合塩の処方の組み合わせ次第では、さらに融点を下げることが可能であると考える。
【0039】
図3は、溶融塩の種類と雰囲気温度に於ける電気伝導率の関係を示す図である。図2の6に示したように金属アルミニウムは溶融塩温度を最も低くする溶融塩であるが、この図から明らかなように、電気伝導率は10万分の1と他の塩化物に比べて極端に低い。しかし、電気伝導率の高いLiCl,CaCl2, BaCl2、NaCl, PbCl2等の溶媒を用いて混合塩を処方すればさらに伝導率を上げることができる。
【0040】
図4は、溶融塩の種類と雰囲気温度に於ける分解電圧の関係を示す図である。この図からわかるように溶融塩の温度が高くなると電気分解の分解電圧が低くなる。このため温度を高くした方が印加電圧は下がり、陰極からの金属の析出率を上げる。図2の6に示したように金属アルミニウムは溶融塩温度を最も低くする溶融塩であるが、この図から明らかなように、電気伝導率は10万分の1と他の塩化物に比べて極端に低い。しかし、電気伝導率の高いLiCl,CaCl2, BaCl2、NaCl, PbCl2等の溶媒を用いて混合塩を処方すればさらに伝導率を上げることができる。この図を見てわかるように、各種金属塩化物の分解電圧が異なることを利用すれば、当該複合塩の中に混合された夫々の塩の分解電圧に差があるから、たとえばBaCl2の中にNaClを入れて650℃で電気分解したとすると、BaCl2の電解電圧が3.71Vであり、NaClの電解電圧が3.36Vであるため電圧差が0.35Vあるため、3.71V以下の電圧で電気分解すれば、金属バリウム(Ba)は析出せず、金属ナトリウム(Na)のみが析出する。しかるに、電解電圧が高い塩化バリウム(BaCl2)や塩化カルシウム(CaCl2)を溶融塩溶媒に用い、これにこの図には記載していないが、酸化金属を溶質として混入させると、例えばCaCl2よりもCaOの方が電解電圧が低いので、さらに電圧差が広がり、金属カルシウム(Ca)を析出する。他の金属においても、一般に、酸化物の方が塩化物よりも電解電圧が低いので電圧差を利用して金属を析出させることができる。とくに複合塩では、夫々の金属の分解電圧が異なるから、電解電圧を低い側から高い側に段階的に昇げて行けば、その電圧(電位差)に応じて異なった金属を選択的に析出することができる。さらに電極近傍で水素と反応させれば、夫々の水素化金属が単体で、あるいは複合体で製造することができる。とくに、海洋塩や岩塩など異なる金属塩が混入している。石灰岩や鉄鋼スラグも純粋な物は無い。これらの自然から得られる資源や産業廃棄物をあまり純度を上げること無く、不純物と共に溶融塩電気分解することも可能であることが本発明の趣旨でもある。以上のように、効果的な溶融塩電気分解を行うためには、導電率を高くし、かつ融点を低くし、さらに、電解電圧に達すれば、電気分解が行われるから、目的とする溶質よりも分解電圧が高く、しかも融点が低くなるような塩類を組み合わせた溶媒を処方し、かつ電解電圧を低い側から順次昇らせて行くことにより、金属の分別回収が可能となる。この電解電圧の差を利用して複合塩から目的金属を選択的に析出させることが可能である。
【0041】
図5は、水酸化ナトリウム・水酸化カルシウムの溶融塩電気分解による水素吸蔵金属の製造と加水分解による水素燃料製造サイクルの概略図である。水素燃料製造サイクルを形成させる目的で、塩化ナトリウムや水酸化ナトリウム又は塩化カルシウムや酸化カルシウムを溶融塩電気分解して得られた金属と別系統から供給した水素13を反応させて、水素吸蔵金属14である水素化ナトリウム(NaH)や水素化カルシウム(CaH2)を製造し、これを14の消費地で加水分解15を行い、水素16を生成し水素燃焼発電や燃料電池用に供給する。ここで生成される副産物の水酸化ナトリウム(NaOH)は自然エネルギーや余剰電力で溶融塩電気分解17を行う。同様に水酸化カルシウム(Ca(OH)2)は熱分解18を経て変化した酸化カルシウム(CaO)は自然エネルギーや余剰電力で溶融塩電気分解17を行う。この再度の溶融塩電気分解により陽極から酸素19が放出され、これも燃料用に供される。このように各種金属の水酸化物を再度溶融塩電気分解して、水素化金属の生成を繰り返す水素燃料サイクルが提供できる。
【0042】
図6は、水素のマイナスイオン発生用陰極の構造図である(請求項1の説明)(A)は金属電極が固体容器aの内壁にある場合の陰極、(B)は金属電極が固体容器aの外壁にある場合の陰極である。
固体容器a(矩形又は円筒形)20の溶融塩21側には素焼き隔膜22又は固体電解質隔膜23を備え、固体容器a20の上部には水素ガス入り口24から水素ガス13を導入し、電極リード線25により金属電極26が固体容器aの内壁にある場合の水素マイナスイオン発生用陰極(A)27で生成した水素マイナスイオン(H-)28 は溶融塩21に向かって陽極に進む。一方、金属電極26が固体容器aの外壁にある場合の水素マイナスイオン発生用陰極(B)29では素焼き隔膜22を出た水素ガス13は、金属電極26で水素マイナスイオン(H-)28 を生成し溶融塩21に向かって陽極に進む。
【0043】
図7は、水素のマイナスイオン発生用陽極の構造図である(請求項2及び請求項3の説明)。(A)は炭素又は黒鉛電極(溶融塩に直接接触)、(B)は塩素イオンを塩酸として回収する陽極の構造図、(C)は酸素イオンを酸素ガスとして回収する陽極の構造図である。(A)は溶融塩22の中に直接炭素又は黒鉛陽極30を設備する方式31であるが、溶融塩21に塩化物を含む場合は塩素が陽極周辺から、酸化物を含む場合には酸素イオンが炭素又は黒鉛陽極30と反応して二酸化炭素が陽極周辺から発生する。この方法は陽極の炭素又は黒鉛30が消耗品であり、かつCO2を生成する場合もあるので非経済的である。
(B)は溶融塩21の中に塩化物を含む場合であり、固体容器b(矩形又は円筒形)32の溶融塩21側には素焼き隔膜22又は固体電解質隔膜23を備え、同時に固体容器bの中央部には炭素又は黒鉛陽極30を備え、かつ固体容器bの内側には予め希塩酸33を注入しておくことにより溶融塩21の塩素イオンは素焼き隔膜22又は固体電解質隔膜23を通過して希塩酸33中を進み炭素又は黒鉛陽極30に至る。その間希塩酸33中の水34は溶融塩21と炭素又は黒鉛陽極30間の電位差により電気分解されて生成した水素イオンと素焼き隔膜22又は固体電解質隔膜23を通過してきた塩素イオンとが結合して塩化水素ができ、この塩化水素が即、水34と化合して希塩酸33を生成する。同時に生成した酸素19は酸素取り出し口35から回収する。この塩酸と酸素製造を連続的に行なうために、この塩素イオンを塩酸として回収する陽極装置36の下方又は上方のいずれか一方の側に水投入口37を備え、そこから水34を導入し、他方の塩酸取り出し口38から希塩酸33を回収し、同時に固体容器b32の頂上部に設備した酸素取り出し口35から酸素19を回収する。
(C)は溶融塩21の中に酸化物を含む場合であり、固体容器b(矩形又は円筒形)32の溶融塩21側には酸素透過固体電解質隔膜39を備え、同時に酸素透過固体電解質隔膜39の固体容器b32の内側には白金やニッケルなどの金属電極26を備え、電極リード線25により陽極陰極間の電子の流れのループを作る。この水素のマイナスイオン形成のための陽極兼酸素ガス生成用陽極装置40により、溶融塩21中の酸素イオンは酸素透過固体電解質隔膜39を通過後、金属電極26に電子を与え酸素原子に成り、酸素ガス19を生成して酸素ガス取り出し口41から回収される。
【0044】
図8は、水素のマイナスイオンを用いた溶融塩の中での水素化金属製造方法の概念図である(請求項4及び請求項1の説明図)。(A)は矩形型固体容器aの陰極と陽極の組み合わせ。(B)は円筒型固体容器aの陰極と陽極の組み合わせである。
溶融塩電解槽42の中に溶融塩(電解質)21を満たし、陰極と陽極間の電位分布が均等になるように、各電極を配置する。(A)は矩形型の固体容器aから成る水素マイナスイオン発生用陰極27、29及び水素マイナスイオン発生用陽極兼塩素イオンを塩酸として回収する陽極装置36や酸素ガス生成用陽極装置40と組み合わせた電極配置で両極間に直流電源43を印加する。(B)は(A)は円筒型の固体容器aから成る水素マイナスイオン発生用陰極27、29及び水素マイナスイオン発生用陽極兼塩素イオンを塩酸として回収する陽極装置36や酸素ガス生成用陽極装置40と組み合わせた電極配置で両極間に直流電源43を印加する。
【0045】
図9は、水素化金属製造装置概念図である(請求項1、2、3、4の説明)。海洋塩、塩湖塩、岩塩、結晶化塩、温泉水含有塩、鉱泉含有塩、石灰石又はボーキサイトの天然資源又は産業廃棄物あるいは鉄鋼スラグなどの溶融塩21を溶融塩電解槽42に入れ、溶融塩の融点を維持するためにヒーター44で加熱することが望ましいが、鉄鋼スラグなどの高温廃熱を利用することもできる。また塩化アルミ(AlCl3)や塩化亜鉛(ZnCl2)などの低融点剤を適量添加して300℃以下の温度で水素化金属を生成することができる。とくに水素化金属は溶融塩に比べ比重が小さいので生成した水素化金属は浮遊する。そこで水素のマイナスイオン発生陰極27、29と陽極36、40の間に水素化金属取り出し口45から回収する。とくに沸点が低い水素化金属は気体として、あるいは他の生成するガスなどはガス回収口46から回収し、水冷によりガスと水素化金属を分離回収する。ここで水素のマイナスイオン生成電位は-3Vから-1Vを印加する。
【0046】
図10は、食塩の2成分系共融混合物の融点変化と組成比(降下剤:塩化アルミ&塩化亜鉛)の関係図である。食塩(NaCl)の融点は801℃であり、塩化アルミ(AlCl3)は193℃、塩化亜鉛(ZnCl2)は365℃である。食塩に対する降下剤の重量%をX軸、温度をY軸に示すと、AlCl3:NaCl=60:40で102℃、ZnCl2:NaCl=60:40で232℃である。
【0047】
図11は、塩化カルシウムや塩化マグネシウムの2成分系共融混合物の融点と組成比(降下剤:塩化アルミ&塩化亜鉛)の関係図である。塩化カルシウム(CaCl2)の融点は772℃であり、塩化マグネシウム(MgCl2)は714℃である。塩化アルミ(AlCl3)は193℃、塩化亜鉛(ZnCl2)は365℃である。食塩に対する降下剤の重量%をX軸、温度をY軸に示すと、AlCl3:CaCl2=80:20で160℃、ZnCl2:CaCl2=80:20で350℃であり、AlCl3:MgCl2=80:20で150℃、ZnCl2:MgCl2=80:20で300℃である。
【実施例1】
【0048】
磁性ルツボに0.1モル(13.35g)の塩化アルミニウム(AlCl3)に対し、0.01モル(0.585g)から1モル(58.5g)の塩化ナトリウム(NaCl)を秤量し、ルツボの中に一対の炭素電極と熱電対を備え、その中に試料を入れ、炉の温度を100℃から900℃まで連続的に過熱し、炭素電極間の電気抵抗を図3に基づき、テスターで計測し、伝導率の変化と試料温度から融点を計測した。
同様に磁性ルツボに0.1モル(13.35g)の塩化亜鉛(ZnCl2)に対し、0.01モル(0.585g)から1モル(58.5g)の塩化ナトリウム(NaCl)を秤量し、試料の温度と伝導率変化を計測した。その測定結果を図10に示す。ここで電気炉は(1300Furnace, Barnstead International Model No.FB1314M, 100V, 10.6A, 1060W, 50/60HZ Phase1. Serial No.1256040370950)であった。
【実施例2】
【0049】
磁性ルツボに0.1モル(13.35g)の塩化アルミニウム(AlCl3)に対し、0.01モル(1.1g)から1モル(111g)の塩化カルシウム(CaCl2)を秤量し、ルツボの中に一対の炭素電極と熱電対を備え、その中に試料を入れ、炉の温度を100℃から900℃まで連続的に過熱し、炭素電極間の電気抵抗を図3に基づき、テスターで計測し、伝導率の変化と試料温度から融点を計測した。
同様に磁性ルツボに0.1モル(13.64g)の塩化亜鉛(ZnCl2)に対し、0.01モル(1.1g)から1モル(111g)の塩化カルシウム(CaCl2)を秤量し、試料の温度と伝導率変化を計測した。
磁性ルツボに0.1モル(13.35g)の塩化アルミニウム(AlCl3)に対し、0.01モル(0.953g)から1モル(95.3g)の塩化マグネシウム(MgCl2)を秤量し、同様に磁性ルツボに0.1モル(13.64g)の塩化亜鉛(ZnCl2)に対し、0.01モル(0.953g)から1モル(95.3g)の塩化カルシウム(MgCl2)を秤量し、試料の温度と伝導率変化を計測した。その測定結果を図11に示す。ここで電気炉は(1300Furnace, Barnstead International Model No.FB1314M, 100V, 10.6A, 1060W, 50/60HZ Phase1. Serial No.1256040370950)であった。
【実施例3】
【0050】
図9に示した装置を用い、実施例1の図10に基づき食塩(NaCl)0.1モル(5.85g)と塩化亜鉛(ZnCl2)0.1モル(13.64g)で複合溶融塩、炉温度400から500℃で溶融塩を形成し、水素マイナスイオン発生用電極として、内壁面に白金電極をコーティングした円筒形セラミック製固体電解質電極(ZR-8Y 保護管、10×7×100mm)を陰極とし、陽極部を炭素電極溶融塩それ自体とし、電解槽として形成させ、陰極部と陽極部と間に−2.25Vの電位を付与し、かつ、円筒形セラミック製電極の内筒部位から水素ガスを連通管により圧入し、内筒の電極界面でできた水素のマイナスイオンは固体電解質を通過し溶融塩電解質を通り炭素陽極に進む。ここで溶融塩中のナトリウムイオンが反応し、溶融塩の上部に黄白色の水素化ナトリウムが浮上した。炭素陽極周囲からは塩素ガスが析出した。塩化ナトリウムの比重は2.16、塩化亜鉛の比重は2.91であるのに対し、水素化ナトリウムの比重は1.49と軽いため、比重差を利用して水素化金属を析出させ、電解槽の取り出し口より回収した。
【実施例4】
【0051】
図9に示した装置を用い、実施例1の図10に基づき食塩(CaCl2)0.1モル(11.1g)と塩化亜鉛(ZnCl2)0.1モル(13.64g)で複合溶融塩、炉温度500から550℃で溶融塩を形成し、水素マイナスイオン発生用電極として、内壁面に白金電極をコーティングした円筒形セラミック製固体電解質電極(ZR-8Y 保護管、10×7×100mm)を陰極とし、陽極部を炭素電極溶融塩それ自体とし、電解槽として形成させ、陰極部と陽極部と間に−2.25Vの電位を付与し、かつ、円筒形セラミック製電極の内筒部位から水素ガスを連通管により圧入し、内筒の電極界面でできた水素のマイナスイオンは固体電解質を通過し溶融塩電解質を通り炭素陽極に進む。ここで溶融塩中のカルシウムイオンが反応し、溶融塩の上部に白色の水素化カルシウムが浮上した。炭素陽極周囲からは塩素ガスが析出した。塩化カルシウムの比重は2.15、塩化亜鉛の比重は2.91であるのに対し、水素化カルシウムの比重は1.91と軽いため、比重差を利用して水素化カルシウムを析出させ、電解槽の取り出し口より回収した。
【産業上の利用可能性】
【0052】
従来、エネルギー源として頼っていた石炭、石油、天然ガス等の化石燃料の主成分は炭化水素系であるために、燃焼により副生成物として、炭酸ガスCO2を生成させる。更に、石油に至っては国内資源で需要量を調達させるには殆ど不可能と言っても差し支えない。又、中東等の石油産油国に依存して行くには、政情不安定その他の要因により安定的に確保できる保証はないし、石油の埋蔵量に限度があるならば、今後の長期間に亘る資源確保も保証の限りではない。
一方、原子力エネルギーに頼る傾向もあるが、放射能漏れなどの万一の事故に対する不安が付き纏う。
従って、本発明の第一の特徴は、国内外に普遍的に存在している海水、塩湖水、塩田、温泉水、石灰岩等の天然、自然物を原資と看做し、それらから地球環境を損なうことの無い、特に、地球温暖化に比較的影響の少ないクリーンエネルギーとしての水素を得ることを第一義的な目的としたものである。
【0053】
本発明の第二の特徴は、産業の発展に欠かせない金属類で、特に、昨今の半導体産業に欠かせないレアーメタルを得る手段として、海水若しくは海底から自然エネルギーを極力利用して金属類を析出、分離して目的とする各種金属類を得ることを目的としている。取り分け、海水に比較的多く含まれる塩化ナトリウムNaCl(塩)や他の金属の塩化物から、水素化ナトリウムや水素化金属物を生成させ、需要(On Demand)に応じて、任意の場所で水と水素化金属を接触反応させ、比較的簡単に必要量の水素燃料を獲得することを目的とする。
更に、水素化金属に水と接触反応させて水素を発生させた後の副生成物としての各金属の水酸化物は、例えば、水酸化ナトリウムNaOHは、カセイソーダとして無機化学工業の出発物質として利用可能であり、水素燃料サイクルを循環させて、資源の無駄の無い有効活用法を提供することにある。
【符号の説明】
【0054】
1 金属元素の融点
2 金属塩化物(塩化金属)の融点
3 金属水酸化物(水酸化金属)の融点
4 金属酸化物(酸化金属)の融点
5 金属水素化物(水素化金属)の融点
6 金属アルミニウムの塩類の組み合わせ複合塩と水素化アルミニウムの融点
7 金属マグネシウム塩類の組み合わせと水素化マグネシウムの融点
8 金属ナトリウム塩類の組み合わせと水素化ナトリウム融点
9 金属カルシウム塩類の組み合わせと水素化カルシウム融点
10 金属リチウム塩類の組み合わせと水素化リチウム融点
11 金属カリウム塩類の組み合わせと水素化カリウム融点
12 金属バリウム塩類の組み合わせと水素化バリウム融点
13 水素(供給される水素)
14 水素吸蔵金属
15 消費地で加水分解
16 水素(製造する水素)
17 自然エネルギーや余剰電力で溶融塩電気分解
18 熱分解
19 酸素(製造する酸素)
20 固体容器a(矩形又は円筒形)
21 溶融塩
22 素焼き隔膜
23 固体電解質隔膜
24 水素ガス入り口
25 電極リード線
26 金属電極
27 金属電極が固体容器aの内壁にある場合の水素マイナスイオン発生用陰極
28 水素マイナスイオン(H-
29 金属電極が固体容器aの外壁にある場合の水素マイナスイオン発生用陰極
30 炭素又は黒鉛陽極
31 溶融塩の中に直接炭素又は黒鉛陽極を設備する方式
32 固体容器b(矩形又は円筒形)
33 希塩酸
34 水
35 酸素取り出し口
36 塩素イオンを塩酸として回収する陽極装置
37 水投入口
38 塩酸取り出し口
39 酸素透過固体電解質隔膜
40 水素のマイナスイオン形成のための陽極兼酸素ガス生成用陽極装置
41 酸素ガス取り出し口
42 溶融塩電解槽
43 直流電源
44 ヒーター
45 水素化金属
46 水素化金属取り出し口
47 ガス取り出し口




【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融塩中の金属イオンと水素のマイナスイオンとを結合させて水素化金属を生成するに際して、ヒーターを外周に具備させた溶融塩電解槽の中に溶融塩電解質を静値若しくは連通管により連続的に供給し、該溶融塩電解質に接して素焼き又は固体電解質からなる固体容器aの陰極電極と固体容器bの中央部には陽極になる炭素又は黒鉛電極を配備させ、溶融塩電解槽の中に両極を対峙させた位置に配置させ、該陰極となる固体容器aの素焼きの内側又は外側のいずれか一方の面又は固体電解質の内側面には金属電極を密着させ、かつ、固体容器aには水素ガスを導入させることにより、両電極間に水素のマイナスイオンを生成させる電位を付与させることにより、該マイナスイオンに帯電した水素が溶融塩電解質側に移動する際に溶融塩電解質の金属イオンと結合して水素化金属を生成させるに電気分解により水素のマイナスイオンを生成させることを特徴とした水素化金属の生成方法。
【請求項2】
請求項1記載の溶融塩に塩素化合物が含有している場合は、前記陽極となる炭素又は黒鉛電極が前記溶融塩電解質と直接接触させた構造若しくは素焼き又は固体電解質である固体容器bからなり、該固体容器bの下部から水を注入させ、かつ、該固体容器bの内部には陽極となる炭素又は黒鉛電極が配備され、前記溶融塩電解質の金属イオンに水素のマイナスイオンが結合した残余の塩素イオンが前記素焼き又は固体電解質を透過して該固体容器bの内部の水と接触して塩酸及び酸素ガスを生成させることを特徴とする請求項1記載の電気分解により水素のマイナスイオンを生成させることを特徴とした水素化金属の生成方法。
【請求項3】
請求項1記載の溶融塩に酸素化合物が含有している場合は、前記固体容器bが酸素透過固体電解質からなり、前記固体容器bの内側内壁面に白金又はニッケル電極を被覆させることにより、前記固体電解質bの電極界面から酸素ガスを発生させ、該固体容器bの上部酸素取り出し口から酸素を回収することを特徴とする請求項1及び請求項2記載の電気分解により水素のマイナスイオンを生成させることを特徴とした水素化金属の生成方法。
【請求項4】
請求項1記載の溶融塩が海洋塩、塩湖塩、岩塩、結晶化塩、温泉水含有塩、鉱泉含有塩、石灰石又はボーキサイトの天然資源又は産業廃棄物あるいは鉄鋼スラグなどのから再生された金属の塩化物、水酸化物、酸化物又は炭酸塩や硫酸塩の夫々の単独塩又は複合塩を原材料として溶融塩電気分解法若しくは加熱法により得られた溶融塩を用いることを特徴とする請求項1、請求項2及び請求項3記載の電気分解により水素のマイナスイオンを生成させることを特徴とした水素化金属の生成方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−64174(P2013−64174A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202838(P2011−202838)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(308026724)株式会社エム光・エネルギー開発研究所 (10)
【Fターム(参考)】