説明

電気分解装置

【課題】腐食性のガス種を生成するための電気分解装置において、陽極ゾーンと陰極ゾーンとを構成している電極を互いに接近させることが可能であり、かつ腐食−侵食現象を効果的に抑える分離膜を有する電気分解装置を提供する。
【解決手段】電気分解装置200は電解質202、例えばフッ化水素酸(HF)溶液を収容し、陰極203と陽極204が配置された容器201を有する。また、互いに隣接した列の陰極203と陽極204との間に、夫々配置された4つの分離膜214ないし217を有する。さらに当該分離膜214ないし217は、炭素マトリックスにより硬化された炭素繊維強化材により構成され、電解質に生成されるガス種に対して不透過性を有し、かつイオンに対して透過性を有する多孔部分を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解セル、即ち電気分解装置の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、フッ素を生成するために使用される電解セル、即ち電気分解装置100を示す概略図である。この電気分解装置100は、電解質102、例えばフッ化水素酸(HF)の溶液を収容する容器101を有し、この電解質中に2つのタイプの電極、即ち陰極103と陽極104とが浸漬されている。これら陽極104は、ブスバー(busbar)105の両側に夫々取着され、電気的に接続されている。このブスバー105は、陽極104を支持すると共に、電解電流を陽極に送る。良く知られた形態では、前記ブスバー105は、直流(DC)発電機(図示されず)の正極に接続され、前記陰極103は、発電機の負極に接続される。陽極104は、ブスバー105の両側に長手方向に沿って夫々配置され、ブスバーの下面105aを超えて突出している。
【0003】
図1は、動作中、即ち、電極103,104が電解質中に浸漬され、発電機により直流が供給されている電気分解装置100を示している。例えば、フッ化水素酸よりなる電解質の場合、電気分解によって、ガス状のフッ素の泡108が陽極104に生じ、水素の泡109が陰極103に生じる。これら2つのガス種の泡は、電解質の液面へと上昇し、電気分解装置100の上部の独立ダクト110,111により収集される。ガス状のフッ素108の泡が、ダクト110により選択的に収集され、水素の泡109がダクト111により収集され得るように、ダイヤフラム112が、夫々の電極の上部と同じレベルに配置されている。
【0004】
前記陰極103と陽極104とは、ガス状で発生された水素とフッ素とが混合するのを防止するように、所定の距離dだけ互いに離間されている。この距離dは、ガス状のフッ素108の泡が、陰極103に沿って上昇する水素の泡109と接触する危険がないように、陽極104に沿って上昇するのを確実にすることが可能である。
【0005】
しかしながら、陽極と陰極との間のこのようなスペースは、電気分解装置の効率を低減する。電気分解装置の電気化学的効率又はファラデー効率、即ち、供給された電気エネルギーから算出されるようなガス量により割り当てられ、実際に生成されるガス(ここではフッ素)量の割合は、特に、陽極と陰極との間の距離によって決定される。言い換えると、ファラデー効率は、陽極と陰極との間の距離が大きくなるにつれて低減する。更に、図1に示されているように、様々な列の電極103,104間に形成された距離dは、前記容器101中に配置され得る電極の列数を限定し、従って、電気分解装置の生産性に不利益をもたらす。
【0006】
陰極と陽極との間の距離を低減するために、陰極と陽極との間に膜を設けることが知られている。しかしながら、フッ素のような腐食性のガス種を生成するための電気分解装置において、利用される膜は、非常に特有の耐腐食特性を示す必要性がある。電気分解によりフッ素を生成するとき、上述されたように、発生されるガス状のフッ素の泡は、電気分解中に接触する装置の部材の腐食並びに浸食をもたらす。陽極近くに配置された膜は、電解質の液面に向けて上昇するフッ素の泡のほとんどと接触する。かくして、この膜は、膜に沿って移動する泡の影響に関連した、泡をなしているガス種の化学的性質からもたらされる組み合わせの腐食−浸食現象を受ける。また、使用される膜は、発生されるガス種間の良好な分離を補償し、かつ電極との接触を回避するために、電解質槽の移動又は泡の移動の影響を受けて動いてしまうことのないように、十分に硬くなければならない。
【0007】
分離膜を形成するために現在使用されている材料では、腐食−侵食現象に対する十分な耐性を得ることができず、そして、この分離膜は、早期に劣化してしまうことにより、発生されるガス種を透過させ得るようになるリスクがある。良好な耐性を与えるための一解決策は、膜の厚みを大きくすることであるが、これは、陰極と陽極との間の距離を大きくすることに等しく、従って、装置の生産性とファラデー効率とを低減する。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、陽極ゾーンと陰極ゾーンとを構成している電極を互いに接近させることが可能であり、かつ上述した腐食−侵食現象を効果的に抑える分離膜を有する電気分解装置の新しいデザインを提案することにより、上述された欠点をなくすことである。
【0009】
この目的のために、本発明は、電極の所で腐食性の1種以上のガス種を発生させる液体電解質中に少なくとも部分的に浸漬された複数の列の電極を有する電気分解装置を提案している。この電気分解装置は、本発明に従えば、炭素マトリックスにより硬化された微細な炭素繊維強化材により構成された少なくとも1つの分離膜を更に有し、この膜は、更に、イオンに対して透過性を有し、電極に生じるガス種に対して不透過性を有する多孔部分を備えている。
【0010】
かくして、本発明の分離膜により、腐食性のガス種が発生された場合でさえ、電気分解装置の互いに隣接した陰極と陽極との間の距離を減じて、ファラデー効率を最適にすることが可能である。イオンは、ガスの泡よりも小さいディメンションを有するので、本発明の電気分解装置の膜は、膜の両側に発生されるガス種の泡を通すことなく、イオンを通し得る透過性を示す(電解反応が生じるのに必要な状態)。各シリーズの電極間の距離を減じることにより、所定の容積の容器中に比較的多くの列の電極を有し、従って装置の生産性を向上させることが、また、可能である。
【0011】
前記膜は、腐食−浸食現象に特に良好に耐えるように、炭素/炭素材料で形成されている。従って、本発明の膜は、寿命が長く、かくして、ガス種の分離を維持する機能に対して大きな信頼性を補償している。
【0012】
本発明の装置の膜は、変更されることなく、即ちコーティングされる必要なく、単に、炭素/炭素材料で形成されることができる。別の実施形態では、この膜の片面又は両面は、例えば、濡れ性を改良、即ち低減するために、又は、特定の電気特性を与えるために、所定の処理により変更されても良いし、1種以上の特定の材料でコーティングされても良い。
【0013】
更に、炭素マトリックスにより緻密にされた微細な繊維強化材を使用することにより、剛性を有するにもかかわらず厚さの薄い膜が得られる。この膜は、また、特定の形状の構造を有することができる。例えば、この膜は、波形状を有することができ、従って、膜のスチフネスを更に向上させることを可能にしている。
【0014】
前記膜の多孔部分で、本発明の膜は、1.5ミリメートル(mm)ないし5mmの範囲の厚さを有し、従って、非常に小さなスペースしかとらない。
【0015】
本発明の一態様では、前記膜は、強化材の厚さ方向に貫通した複数の開口を有している。これら開口は、実質的に0.2mmないし5mmの範囲の幅を有している。
【0016】
前記開口は、最初から存在し、即ち膜の固有の特性から形成されていても良いし、機械加工されても良い。
【0017】
前記開口は、任意の形状であり得る。非限定的な例として、開口は、0.2mmないし5mmの範囲の直径を有するホール形状であっても良いし、0.2mmないし5mmの範囲の幅のスロット形状であっても良い。これら開口は、想定しているガス種の泡に応じて、可変の断面、即ち、収束又は発散した断面を有しても良い。スロット形状等の開口の場合、開口は、膜の長手方向に対して0°ないし90°の範囲の角度で方向付けられて良い。
【0018】
本発明の他の態様では、開口は、強化材の面に対して所定の角度で方向付けられている。特に、開口は、強化材の面に対して垂直又は斜めに方向付けられても良い。
本発明の更なる他の態様では、膜は、また、前記多孔部分に接続された取り付け部分を有している。
【0019】
本発明は、また、電極の所で腐食性の1種以上のガス種を生じさせる液体電解質中に少なくとも部分的に浸漬された少なくとも2列の電極と、これら少なくとも2列の電極間に配置された少なくとも1つの分離膜とを有し、前記分離膜は、炭素繊維強化材を形成して、この強化材を炭素マトリックスで緻密にし、そして緻密にされた強化材に多孔部分を形成することにより、製造され、この多孔部分は、イオンに対して透過性を有し、電極の所に生じるガス種に対して不透過性を有する、電気分解装置を形成するための製造方法を提供する。
【0020】
本発明の一態様では、前記膜の多孔部分は、1.5mmないし5mmの範囲の厚さを有する。
【0021】
本発明の他の態様では、前記多孔部分は、前記強化材の厚さ方向に貫通した複数の開口を有している。これら開口は、いずれのタイプの形状を有しても良く、特に、開口は、0.2mmないし5mmの範囲の幅のホール又はスロットの形状であり得る。これら開口の断面は、一定であっても良いし、可変であっても良い(収束又は発散した断面)。これら開口は、強化材の面に対して垂直に形成されても良いし、所定の角度で形成されても良い。スロット等の形状の開口において、これら開口は、膜の長手方向に対して0°ないし90°の範囲の角度で方向付けられることができる。
【0022】
前記多孔部分は、多孔部分のスチフネスを強化し得る特定の構造で形成されることもできる。特に、この多孔部分は、波形状を有して良い。
【0023】
この方法は、また、前記膜を電気分解装置の所定の位置に取り付け得るように、前記多孔部分に接続された取り付け部分を形成することを含む。
【0024】
この方法は、また、膜の多孔部分の表面の少なくとも一部を変更、即ちコーティングする工程を含むこともできる。
【0025】
本発明の他の特徴並びに利点は、非限定的な例として添付図面を参照して与えられた本発明の特定の実施形態の以下の説明から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】上述された、動作時の電気分解装置の断面図である
【図2】本発明に従って分離膜を形成する、C/Cの複合材料からなるプレートの概略的な斜視図である。
【図3】図2のプレートから機械加工されたような分離膜の一般的な形状を示している。
【図4】図2のプレートから形成された分離膜の斜視図である。
【図5A】分離膜の強化面に対して90°で方向付けられた開口を示す部分断面図である。
【図5B】分離膜の強化面に対して45°で方向付けられた開口を示す部分断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係わる分離膜を形成するために使用されるモールドとカウンターモールドとの概略図である。
【図7】本発明の分離膜の他の実施形態の概略的な斜視図である。
【図8】本発明の分離膜の他の実施形態の部分断面図である。
【図9】本発明の分離膜の他の実施形態の部分概略図である。
【図10】本発明の分離膜の他の実施形態の部分概略図である。
【図11】本発明の分離膜の他の実施形態の部分概略図である。
【図12】本発明の分離膜の他の実施形態の部分概略図である。
【図13】本発明に係わる分離膜を有する電気分解装置の概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の適用例の特定の、しかし非限定的な分野は、例えばフッ素又は塩素のような腐食性のガス種を生成するのに使用されるための電気分解装置の分野である。本発明は、生成効率を向上させるために、このような装置の陰極と陽極との間の距離を減じることを提案している。この目的のために、本発明は、互いに隣接した2つのシリーズの電極(陰極及び陽極)間に分離膜を介在させることを提案している。この膜は、イオンに対して透過性を示すが、各電極に生成されるガスの泡に対して不透過性を維持する炭素/炭素(C/C)複合材料の微細な硬いプレートにより構成されている。このC/C材料からなる膜は、即ち、表面コーティング又は表面処理されることなく使用されても良いし、これとは対照的に、例えば、膜の濡れ性を改良又は低減するか、特定の電気特性を膜に与えるために、膜の片面又は両面にコーティング又は処理が施されても良い。
【0028】
前記C/C材料は、材料自体のスチフネスを膜に与え、このスチフネスは、電解質槽の移動の際に陽極又は陰極と接触するのを回避するように、プレートに特定の構造を与えることにより(例えば、起伏を形成することにより)、補強されることができる。
【0029】
このような制御された濡れ性を得るため、以下に詳細に説明されるように、前記膜は、イオンを通し得るがガスの泡を通さないようなディメンションの開口又は孔(ホール、スロット等)を有する孔構造を有している。これは、イオンが、ガスの泡のディメンションよりも非常に小さいディメンションを有するので、可能である。
【0030】
イオンを通すことを可能にしつつ、前記膜の両側に夫々発生されるガス種間の接触を防止することにより、ガス種間の接触を回避するためのこのような膜がないときに通常必要とされる距離と比較して、2つのシリーズの電極間のスペースの距離を減じることが可能である。電極間の距離を大きく減じて、電気分解装置の効率と生産性とを最良にするために、できるだけ微細な膜を有する必要がある。しかし、膜は、ガス種を分離し続ける機能を果たすために、腐食−浸食現象にもかかわらず、膜自体の構造的完全性を維持することができなければならない。特に、イオンを通し得る膜の孔隙率は、腐食−侵食現象の影響を受けて、時間と共に、増加してはならない。それは、膜が、発生されるガスの泡に対して透過性を有するようになるリスクになるからである。
【0031】
この目的のために、本発明の膜は、知られた方法で、炭素マトリックスにより緻密にされた炭素繊維強化材からなり、かつ腐食並びに侵食に対する非常に良好な耐性を有する炭素/炭素(C/C)複合材料で形成されている。
【0032】
前記C/C複合材料部分の製造が、良く知られている。この製造は、製造される部分の形状に近い形状の炭素繊維プリフォームを形成することと、このプリフォームをマトリックスで緻密にすることとを含んでいる。この繊維プリフォームは、前記部分の強化材を構成し、この繊維プリフォームの機能は、機械的特性に関して不可欠である。このプリフォームは、繊維テクスチャ:ヤーン、トウ、組紐、ファブリック、フェルト等から得られる。成形は、ファブリックの二次元のプライ又はトウのシートを巻いたり、織ったり、重ねたり、縫ったりすることにより、果たされる。
【0033】
前記繊維強化材は、液体技術(炭素マトリックスの前駆体である樹脂を含浸して、架橋結合並びに熱分解によりこの樹脂を変形し、この処理は繰り返され得る)、若しくは、ガス技術(炭素マトリックスの化学蒸気浸透法(CVI))を使用して緻密にされることができる。
【0034】
本発明に係わる分離膜の実施形態が、以下に説明される。
分離膜を製造するための本発明の方法の第1の実施形態では、炭素プリフォームが、縫われた炭素ファブリックから形成される。そして、このプリフォームは、少なくとも1.4の相対密度を有するC/C材料を得るために、CVIにより熱分解炭素で緻密にされる。図2に示されているように、このプリフォームは、一例として、長さLが1000mm、幅lが20mm、そして、高さhが500mmであり、かつ膜の最終的な形状を得るために機械加工されるのに十分な剛性を有するC/C複合材料のプレート10を形成する。より詳細には、図3に示されているように、プレート10は、「カバーゾーン」と称される部分11を形成するように機械加工され、1.5mmないし5mmの範囲の厚さPを有する。このカバーゾーン11は、陽極と陰極とにより発生されるガス流を分離しつつ、イオンを通し得るために使用される膜の多孔部分に対応している。プレート10の上側部分で、取り付け部分12が、また、機械加工され、この取り付け部分は、図13を参照して後述されるように、取り付け部材(例えば、ねじ)を受けるための取り付け用のオリフィス122とフック用のフランジ121とを有している。
【0035】
最終的な形状が機械加工で得られると、複数の開口が、例えば、圧力を受けた水のジェットにより、前記カバーゾーン11に形成される。これら開口は、例えばホール、スロット等の任意の形状であり得る。これら開口のサイズ(例えば、ホールの直径又はスロットの幅)は、0.2mmないし5mmの範囲である。
【0036】
図4に示されているように、ホール110形状の複数の開口を有し、かつ膜の多孔部分に対応したカバーゾーン11と共に、取り付け部分12を有する膜14が、得られる。カバーゾーン11のホール110は、図5Aに示されているように、膜の面に対して直交するように延びることができる。しかしながら、ホールは、膜の強化面に対して任意の角度で方向付けられることができる。例えば、図5Bに示されているカバー部分11’のホール110’は、強化面に対して45°の角度で方向付けられている。
【0037】
前記膜14は、変更されることなく使用されても良い。しかしながら、この膜14は、貫通された開口を較正するための熱分解炭素の更なる溶浸、膜の濡れ性を変更するための材料(例えば、炭化けい素(SiC))の蒸着、若しくは、膜の表面特性を変更するための確実な処理のような更なる処理を受けることが可能である。
【0038】
本発明の分離膜を製造する方法の他の実施形態に係われば、繊維プリフォームは、約12mmの厚さを有する縫われた炭素ファブリックから形成されている。図6に示されているように、プリフォーム20が、モールド31とカウンターモールド32とで成形され、各モールドは、膜に形成される多孔部分と整合するスパイク310又は320を有している。前記モールド及びカウンターモールド(図6に示されず)の他の部分は、成形される取り付け部分に対応した形状を有している。
【0039】
この後に、強化材が、形状を保持しつつ、液体技術により凝固され、即ち、強化材に、炭素前駆体樹脂が含浸され、この樹脂が、架橋結合及び熱分解により、炭素マトリックスに変形される。
【0040】
この物品は、モールドから外されると、必要に応じて、カバーゾーンの厚さを1.5mmないし5mmに調節して、取り付け部分を形成し、更に、取り付け用のオリフィスを形成するように、機械加工される。
【0041】
このようにして、図4に示されている膜に類似した膜が形成され、上述されたように、この膜は、同様に、変更されることなく使用されても良いし、更なる処理が施されても良い。
【0042】
所望される開口の形状に応じて、前記スパイクは、適切な形状を有することができ、例えば、スパイクは、円筒形、三角形、又は正方形であり、スパイクの断面は、一定であっても良いし、可変であっても良い。
【0043】
別の実施形態では、膜は、上述されたように、しかし、スパイクを有さないモールドとカウンターモールドとを使用して形成されることができる。このような状況では、開口は、モールドから外された後に、例えば圧力を受けた水のジェットを使用して形成される。
【0044】
図7及び8は、カバーゾーン41が波形状を有している点で図4と異なる分離膜40の実施形態を示している。この特定の構造は、膜のスチフネスを強化して、電解質槽の移動に耐える機能を強化する役割を果たしている。図4の膜14のように、この膜40は、フック用のフランジ421と取り付け用のオリフィス422とが形成された取り付け部分42と共に、膜の多孔部分を規定するカバーゾーンに複数の開口410を有している。膜40に形成された波形状は、起伏が小さく、従って、これら波形状は、陽極と陰極との間の距離の低減に不利益を与えることはない。
【0045】
図9は、カバーゾーン51にホールを有する代わりにスロット510を有する点で図4と異なる分離膜50の更なる他の実施形態を示している。これらスロットは、膜の長手方向に対して0°ないし90°の範囲の角度で方向付けられることができる(図9では、スロットが、0°で方向付けられている)。更に、これらスロットは、膜の厚さ方向に、カバーゾーンの面に対して直交方向に貫通していても良いし(図5Aのホールのように)、他の角度、例えば、45°の角度に沿って貫通していても良い(図5Bのホールのように)。
【0046】
図10ないし12は、異なる形状の開口を有する点で上述されたものと異なる分離膜の他の実施形態を示している。図10は、ダブルT形状、即ちI形状の開口610をカバーゾーン61に有する膜60を示している。図11は、十字形状の開口710をカバーゾーン71に有する膜70を示している。また、図12は、膜の長手方向に対して平行の方向と垂直の方向とに交互に方向付けられたスロット形状の開口810をカバーゾーン81に有する膜80を示している。これら開口610,710,及び810の幅は、0.2mmないし5mmの範囲である。更に、これら開口610,710,及び810は、膜の厚さ方向に、カバーゾーンの面に対して直交方向に形成されても良いし(図5Aのホールのように)、45°の角度のような他の角度で形成されても良い(図5Bのホールのように)。
【0047】
製造された後、上述された膜は、変更されることなく、即ち特定の処理を施されることなく使用されることができる。しかしながら、膜は、製造された後に、変更されるために又は膜に特別な特性を与えるために、更なる処理を施されても良い。かくして、本発明の膜のC/C材料は、炭化けい素、テフロン(登録商標)、他の絶縁性の炭素含有材料のような1種以上の更なる材料でコーティングされることができる。これら膜は、また、表面特性を変更するために、例えば熱処理又は表面酸化処理のような処理が施されても良い。
【0048】
一例として、図13は、陰極と陽極との間の距離が、本発明の分離膜を使用することにより、どのようにして低減され得るかを示している。この例では、図1を参照して上述された電気分解装置と類似した電気分解装置200が、使用される。この電気分解装置は、同じディメンションを有し、電解質202、例えばフッ化水素酸(HF)溶液を収容し、そして陰極203と陽極204とが中に配置された容器201を有している。本発明に係われば、この電気分解装置200は、また、互いに隣接した列の陰極203と陽極204との間に夫々配置され、かつ図4に示されたタイプの4つの分離膜214ないし217を有している。これら分離膜214ないし217は、取り付け部分を介してねじ218によりダイヤフラム212に留められている。スペーサ219が、また、隣接した2つの膜間で、これら膜の下端部に取着されることができる。
【0049】
上述されたように、各膜は、複数の開口が形成されたカバーゾーンを有しているので、イオンが、電解反応を生じさせ得るように、陰極と陽極との間で交換されることができる。しかしながら、膜に形成された開口は、イオンを通し得るが、陽極204に発生されるようなガス状のフッ素208の泡と、陰極203に発生されるような水素209の泡とを膜に通すことを防止している。
【0050】
従って、図1と比較したとき、図13に示されているように、水素とフッ素とが混合するのを防止するために、陰極と陽極との間に通常必要とされる距離d(図1)は、本発明の分離膜を使用することにより、大きく減じられることができる。図13に示されているように、電極は、ガス種の泡が電極に発生して上昇するために膜と電極との間に必要とされる所定のスペースによってのみ限定される比較的小さな距離drだけ、互いに離間されている。
【0051】
ガスが混合する危険がないように陽極と陰極とを互いに接近させ得ることにより、電気分解装置のファラデー効率は、改善される。更に、図13に示されているように、所定の容積の容器の場合、陽極と陰極とを互いに接近させることにより、陽極と陰極との更なる列を配置して、電気分解装置の生産性を改良することを可能にするスペースが、もたらされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極の所で腐食性の1種以上のガス種を発生させる液体電解質中に少なくとも部分的に浸漬される少なくとも2列の電極と、互いに隣接した2列の電極間に配置された少なくとも1つの分離膜とを具備し、前記膜は、炭素マトリクスにより硬化された炭素繊維強化材により構成され、また、前記膜は、前記電極の所に発生されるガス種に対して不透過性を有し、かつイオンに対して透過性を有する少なくとも1つの多孔部分を有している電気分解装置。
【請求項2】
前記多孔部分は、1.5mmないし5mmの範囲の厚さを有している請求項1の電気分解装置。
【請求項3】
前記多孔部分は、前記強化材の厚さ方向に貫通した複数の開口を有している請求項1の電気分解装置。
【請求項4】
前記開口は、0.2mmないし5mmの範囲の幅を有している請求項3の電気分解装置。
【請求項5】
前記開口は、前記強化材の面に対して所定の角度で方向付けられている請求項3の電気分解装置。
【請求項6】
前記開口は、前記膜の長手方向に対して0°ないし90°の範囲の角度で方向付けられたスロット形状を有している請求項4の電気分解装置。
【請求項7】
前記開口は、前記膜の厚さ方向において可変の断面を有している請求項3の電気分解装置。
【請求項8】
前記多孔部分は、波形状を有している請求項1の電気分解装置。
【請求項9】
前記少なくとも1つの分離膜は、前記多孔部分に接続された取り付け部分を更に有している請求項1の電気分解装置。
【請求項10】
電極の所で腐食性の1種以上のガス種を発生させる液体電解質中に少なくとも部分的に浸漬された少なくとも2列の電極と、2列の電極間に配置された少なくとも1つの分離膜とを具備し、前記少なくとも1つの分離膜は、炭素繊維強化材を形成して、この強化材を炭素マトリックスで緻密にし、そして緻密にされたこの強化材に多孔部分を形成することにより、製造され、前記多孔部分は、イオンに対して透過性を有し、前記電極の所に発生されたガス種に対して不透過性を有する、電気分解装置を形成する方法。
【請求項11】
前記多孔部分は、1.5mmないし5mmの範囲の厚さを有する請求項10の方法。
【請求項12】
貫通した複数の開口が、前記強化材の厚さ方向で前記多孔部分に形成される請求項10の方法。
【請求項13】
前記開口は、0.2mmないし5mmの範囲の幅を有するように形成される請求項12の方法。
【請求項14】
前記開口は、前記強化材の面に対して所定の角度で方向付けられる請求項12の方法。
【請求項15】
前記開口は、前記膜の長手方向に対して0°ないし90°の範囲の角度で方向付けられたスロット形状を有する請求項13の方法。
【請求項16】
前記開口は、前記膜の厚さ方向において可変の断面を有する請求項12の方法。
【請求項17】
前記多孔部分は、波形状に形成される請求項10の方法。
【請求項18】
前記膜の前記多孔部分の表面の少なくとも一部を変更又はコーティングする工程を更に具備する請求項10の方法。
【請求項19】
前記多孔部分に接続された取り付け部分が形成される請求項10の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−263765(P2009−263765A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−32560(P2009−32560)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(502202281)スネクマ・プロピュルシオン・ソリド (48)
【氏名又は名称原語表記】SNECMA PROPULSION SOLIDE
【Fターム(参考)】