説明

電気化学的に活性な化合物

【課題】核酸溶液を電気化学活性マーカーで標識されたオリゴヌクレオチドプローブと接触させ、プローブが核酸溶液中に存在する相補標的配列を少なくとも部分的にハイブリッド形成可能にする条件、および部分的または全体にハイブリッド形成された、あるいはハイブリッド形成されない核酸プローブの何れかを選択的に分解し、電気化学活性マーカーに関する情報を電気化学的に決定することから成る核酸を調べる方法、さらに、前記方法で使用される新規な分子を提供する。
【解決手段】標識された原子団を有し、標的とハイブリッド形成可能な配列を持つオリゴヌクレオチドを含む、特定の構造を有する化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸配列の特異性を検出するためのプローブとその方法に関する。本発明は、さらに、核酸結合タンパク質が認知配列を含む核酸と優先的に結合する性質を利用して、核酸結合タンパク質を検出するためのプローブとその方法に関する。より詳しく言えば、本発明は、核酸および/またはタンパク質の検出に使用して好適な標識化したオリゴヌクレオチドとその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特定なDNAまたはRNAの配列を検出することは、食物、環境および臨床的診断などの業界や、ゲノム学、学究、薬学、薬理遺伝学などの研究分野で幅広く利用され、重要な役割を担っている。その検出は、感度が高く、配列に特異的であり、比較的迅速に且つ低コストで、しかも正確に検出でき、日常的な使用および/または自動操作に適していることが理想である。さらに、理想的には、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)などの既存のDNA増幅法やその他の核酸増幅法と統合できることが望ましい。
【0003】
PCRなどの増幅法に基づく、あるいは前記増幅法と統合した核酸検出法以外にも、核酸の配列特異を検出するための技術が知られており、その技術は、以前には必ずしも増幅する必要のなかった標的へのプローブの特異結合に基づいている。サザンブロット法およびノーザンブロット法は、この技術の代表例で例である。増幅ステージを含まない検出技術は、信号を検出するために、通常、高感度でなければならない。所要の感度を得るために、典型的には、オートラジオグラフ法または化学ルミネセンス法に基づく検出技術が利用されている。
【0004】
サザンブロット法およびノーザンブロット法では、標的核酸を膜基質に結合させなければならないが、そうするには時間が掛かるうえ、自動操作に向かないという問題を伴う。
【0005】
増幅に基づくDNA検出法は、通常、蛍光化学または放射性標識の較差を利用する。分析対象の標的DNAは、しばしば、例えばPCRによって酵素的に増幅され、次に、これを蛍光DNA結合色素にて着色して可視化し、ゲル電気泳動によってサイズ分離される。ゲル電気泳動を利用しない代替法も幾つか開発されている。これらの代替法は、しばしば、例えば、SYBRグリーンまたは臭化エチジウムなどの配列特異性でない蛍光色素を用いて、DNA増幅の即時検出を可能にする。特異DNA配列とハイブリッドを形成する蛍光で標識した様々なオリゴヌクレオチドプローブを使用して、PCRによるDNA増幅と、蛍光に基づく検出とを統合した検定法も開発されている。DNAポリメラーゼのヌクレアーゼ活性を利用した多くの検定法も開発されている。商業的に利用可能なヌクレアーゼ検定の例としては、インベーダー(Invader)(商標:サードウェーブテクノロジーThird Wave Technologies)、リーディット(Readit)(商標:プロメガPromega)、タックマン(TaqMan)(商標:アプライドバイオシステムズApplied Biosystems)などがある。例えば、米国特許第5,487,972号、同第5,538,848号、同第5,804,375号に開示されたタックマン検定では、Taqのポリメラーゼ活性によるプライマー伸長に付随するTaqポリメラーゼの固有5′ヌクレアーゼ活性によって、ハイブリッド形成オリゴヌクレオチドが消化される。
【0006】
電気化学を利用したDNA検出は、感度と簡便さの点で他の検出システムに比べ潜在的な優位性がある。電気化学的な検出装置は、携行性、堅牢性、小型化への容易性、並びに大量生産できる可能性を秘めているので、特に、臨床診断、食品検査、環境診断などの分野に適している。
【0007】
電気化学に基づく遺伝子プローブは、電極結合ハイブリッド形成法に焦点を合わせている。典型的には、捕獲プローブ(オリゴヌクレオチドまたはペプチド核酸)が、電極表面に固定され、核酸の複合混合体から標的の相補性核酸を抽出する。ハイブリッド形成の現象は、二次プローブを用いて標的と接触させるレドックス活性ハイブリッド形成指示薬(例えば、ルテニウム塩またはコバルト塩)を使用して測定可能な電気信号に変換されるか、あるいは、ハイブリッド形成の結果物である溶液と電極との界面における物性変化に起因する電極の静電容量の変化を直接計測することで、電気信号に変換される。こうした手法においては、十分な感度を得るために、例えばPCRによって標的配列を予め増幅することがしばしば必要になる。
【0008】
核酸結合タンパク質の検出方法は、ヌクレアーゼ保護試験法を含む。こうした試験法では、核酸プローブを溶液中で推定上の核酸結合タンパク質と混合する。適当な条件下のもとで、核酸結合タンパク質は、プローブ内に存在する核酸配列と結合可能となる。推定上の結合に続いて、非結合プローブまたはその領域が、適当なヌクレアーゼによって消化可能となる。結合したタンパク質は、ヌクレアーゼの立体障害となるので、結合した核酸プローブは、ヌクレアーゼ消化から保護される。消化された核酸プローブと消化されなかった核酸プローブは、例えばゲル濾過やゲル電気泳動法を用いて、または、未消化核酸を膜やその他の基質に結合させることによって分離され、定量される。典型的には、プローブは、放射性同位元素で標識され、プローブ自身およびその分解生成物を定量することができる。しかし、放射性同位元素の使用には、試薬の有効期限を短縮させ、人体の健康および環境に悪影響を及ぼす放射性崩壊の問題がある。
【0009】
核酸結合タンパク質を検出するのに適した核酸プローブは、インビボで核酸結合タンパク質と結合することが知られている配列から実質的になる核酸を含む。さらに、核酸結合タンパク質を検出するのに適したプローブには、アプタマー(aptamer)が含まれるが、このアプタマーは、特異な機能を果たすようにインビトロで進化する核酸である(その詳細は、例えば、「ブロディおよびゴールドの共著、分子生体学レビュー」9巻、1999年、324〜329頁(Brody and Gold, Reviews in Molecular Biology 9 (1999) 324-329)、ジャスク他著、「シンレット」6巻、1999年、825〜833頁(Jaschke et al., Synlett 6(1999) 825-833)、グリフィスとトウフィックの共著、「生物工学における最新考察」11巻、2000年、338〜353頁(Current Opinion in Biotechnology 11(2000) 338-335)など参照)。アプタマーは、核酸結合タンパク質であると通常見なされるタンパク質以外のどのようなタンパク質と結合する可能性を持つように生成される。
【0010】
本明細書において、核酸に関して使用する「ハイブリッド形成」なる用語は、第1の核酸が、相補的配列の第2の核酸と結合することを意味する。また、ハイブリッド形成には、核酸配列の相補性が完全である必要はない。ハイブリッド形成は、相補的結合を包含し、その相補的結合には、記載された方法の効率を本質的に損なわない程度で、塩基ミスマッチを含む。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、電気化学的に活性なマーカーで標識されたオリゴヌクレオチドプローブに、核酸溶液を接触させ、前記プローブが核酸溶液に存在する相補(標的)配列とハイブリッド形成できる条件を用意し、ハイブリッド形成された核酸プローブ又はハイブリッド形成されなかった核酸プローブの何れかを選択的に分解し、電気化学的活性マーカーに関する情報を、電気化学的に判定することを包含する核酸探索方法を提供する。前記マーカーに関する情報は、少なくとも一つの核酸種の有無に関する情報の取得に好適に使用される。好ましくは、電気化学的技法が、分解したプローブと非分解のプローブとの相対的な比率を定量するのに使用される。本明細書中では、「分解」なる用語は、例えば消化などによる酵素活性の退化をも包含する。
【0012】
ハイブリッド形成された核酸プローブまたはハイブリッド形成されなかった核酸プローブの何れかを選択的に分解するには、幾つかの方法が採用可能であり、その方法には、酵素的手法や化学的処理が含まれる。酵素は、核酸プローブを消化によって分解するのに用いられ、リン酸‐エステル結合の開裂あるいはサッカライド結合又はグリコシド結合の開裂を生じさせる。
【0013】
コウジカビまたは別の適当なソースから分離されたS1ヌクレアーゼ、あるいは類似の特異性を有する酵素は、ハイブリッド形成されない核酸の選択的消化に使用できる。Taqポリメラーゼまたは類似の酵素の5'ヌクレアーゼ活性は、核酸プローブの消化に使用することができ、その核酸プローブは、一対のPCRプライマー間にある標的位置にてハイブリダイズする。この場合は、プローブの消化は、プライマーの伸張と同時に起る。
【0014】
サードウェーブテクノロジー社のインベーダー(商標)システム(米国特許第5,846,717号、同第5,837,450号、同第5,795,763号、同第5,614,402号)は、蛍光発生的核酸検出システムを提供しているが、このシステムは、図14aに示す本発明の電気化学的検出システムの変更例で使用できるように改変することができる。すなわち、2つの短いオリゴヌクレオチドプローブを、標的核酸とハイブリッド形成させ、両プローブが鎖長の少なくとも一部でハイブリッド形成して核酸二本鎖を形成する一方で、2つのプローブ間で重複する配列領域が存在するように、前記のプローブを消化する。こうして生成される特異構造が、酵素によって認識されるが、その酵素はプローブの1つを開裂して重複領域から"5'フラップ"を放出させる。適当な酵素の1つは、アルケオグロブス・フルギダス(Archaeoglobus fulgidus)から得られるフラップエンドヌクレアーゼ(FEN1)であって、このものは、商標「クリベースVIII」で市販されている。電気化学的に活性なマーカーはプライマーと結合し、プライマーの5'末端またはこれに向かう5'フラップを形成する。反応混合物に5'フラップが存在するかどうかは、電気化学的手法で検出される。特に、電気化学的に標識された5'フラップは、各分子のオリゴヌクレオチド部分の長さが異なるため、電気化学的に標識されたプライマーから識別することができる。
【0015】
図14bに示すように、別法では、5'フラップを電気化学的に活性なマーカーと結合させる必要がない。5'フラップの放出は、オリゴヌクレオチド認識カセットによって検出され、そのカセットは、開裂酵素によって認識かつ開裂される核酸トリプレックスを形成する。電気化学的に活性なマーカーは、認識カセットに結合し、認識カセットの開裂は、する結果、この電気化学的活性なマーカーが、全長認識カセットでなく、認識カセットの断片に結合する結果を招く。電気化学的に標識された認識カセット断片と、電気化学的に標識された全長認識カセットとは、各分子のオリゴヌクレオチド部分の長さの違いから、区別することができる。
【0016】
本発明は、メタロセンのような電気化学的に活性なマーカーが、ヌクレオチドと結合するかどうかによって、ヌクレオチドがオリゴヌクレオチドに組み入れられるかどうかによって、また、ヌクレオチドの長さによって、異なった電気化学的特性を示すことを観察することを基礎としている。
【0017】
電気化学的に活性なマーカーと結合する分子の大きさと特性は、電気化学的マーカーの知覚特性に影響を及ぼし、例えば、電界に応じて又は拡散によって移動速度に影響を及ぼす。
【0018】
マーカーの電気化学的活性も、マーカーが結合した分子の存在するために、立体効果の影響を受ける。例えば、立体障害はマーカーの電極への接近を邪魔し、電子の受け渡しを妨害する。
【0019】
マーカーがオリゴヌクレオチドに結合すると、オリゴヌクレオチドの二次構造(一次配列によってほぼ決定される)がマーカーの物性に影響を及ぼす。例えば、マーカーが自己相補的な一次配列を有するオリゴヌクレオチドと結合すると、そのステム・アンド・ループ二次構造は、電気化学的に活性なマーカーを立体的な障害となり、ボルタンメトリーによって得られる信号を衰微させる。オリゴヌクレオチドの消化は、ステム・アンド・ループ構造を破壊または遊離させ、マーカーへの影響を減少または消滅させる。
【0020】
オリゴヌクレオチドの二次構造は、温度に依存するので、電気化学的に活性なマーカーがオリゴヌクレオチドに及ぼす影響は、温度によって変化する。
【0021】
当業者であれば、信号対暗雑音の最適比を得るために、本発明の電気化学的手法の実施に適した温度を容易に選ぶことができる。本発明の電気化学的手法を、PCRやサーマルサイクリング装置を使用するその他の技術と組合せる場合は、所望温度での計測を、PCRの温度調整における適当なポイントで平易に行うことができる。
【0022】
本発明に従う方法の1つでは、電気化学的に活性なマーカーで標識したプローブの5'ヌクレアーゼ消化は、PCRプライマーの伸長と同時に生起する。この方法は、溶液の電気化学的活性を、PCRサイクルの間に自動的に測定するリアルタイムのPCRを包含する。試料に標的が多く存在すればするほど、プライマーの伸長とプローブの消化も多く生起すると思われる。消化されたプローブは、電気化学的活性の違いから非消化プローブとから区別することができる。上述したように、計測が行われる温度(PCR期)は、得られる信号の質に影響を及ぼす。
【0023】
分かりやすくするために、単一の核酸種を検出する場合を例にとって、本発明を説明する。しかし、本発明はこれに限定されず、複数の核酸種を同時に検出するための方法と装置を用いる複合システムをも、本発明が包含していることは理解されよう。複合システムは、対照実験を検定実験と同一の条件のもとで同時に行える利点や、幾つかの分析を同じ条件で同時に行える利点がある。従って、複合システムを採用すれば、試薬と時間が節約できる。こうした複合システムの一例としては、2個またはそれ以上の異なる標的に相補的なオリゴヌクレオチドプローブの使用がある。これらのプローブは、レドックス特性が異なる電気化学的に活性なマーカーでそれぞれ標識され、従って、例えば、ディフェレンシャルパルスボルタンメトリーのような適当な電気化学的手法によって、互いに識別可能である。ここで使用する2個(またはそれ以上)のマーカーは、それぞれが分解して分析できるように、互いに十分に異なるレドックス特性を備える必要がある。例えば、ディフェレンシャルパルスボルタンメトリーを使用する場合、2個(またはそれ以上)のマーカーは、それらのボルタモグラムトレース(voltammogram traces)が、互いに分解可能な電圧にピークを有するべきである。好ましくは、2個の異なるマーカーを使用する。本発明は、新規な電気化学的マーカーを提供するが、これらは複合システムで使用することができる。新規なマーカーの提供は、利用可能なマーカーの領域を拡大し、従って、複合システムの開発を可能にする。
【0024】
本発明の第一実施例で使用される標識されたオリゴヌクレオチドは、特異な強い電気化学的信号を発することができるが、この信号発生は、配列依存ヌクレアーゼ検定においてハイブリッド形成したオリゴヌクレオチドから、フェロセン化した(ferrocenylated)モノヌクレオチド、ジヌクレオチド、またはオリゴヌクレオチドが放出されることに由来する。前記の検定は、特異な核酸配列を認識することで強い新しい信号が発生するように、プローブを変化させるヌクレアーゼ活性に依存したものである。
【0025】
必要に応じて、電気化学的な検出ステップは、1つ又はそれ以上の特性に基づいて分子を選択的に排除できる膜で被覆された1つ又はそれ以上の電極を使用して実施することができ、前記の特性としては、例えば、分子の大きさ、電荷、疎水性などがある。膜の使用は、例えば、荷電した核酸または非消化の標識されたオリゴヌクレオチドから生じるバックグラウンド電流を除外するのに役立つ。
【0026】
適当な電気化学的に活性なマーカーには、メタロ炭素環式パイ複合体(metallo-carbocyclic pi complexes)が、すなわち、部分的にまたは全体的に非局在化したパイ電子(pi electrons)を有する有機複合体が含まれる。適当なマーカーには、2つの炭素環が平行であるサンドイッチ化合物や、曲がりサンドイッチ化合物(アンギュラー化合物)と、モノサイクロペンタジエニル類(monocyclopendatienyls)も含まれる。電気化学的に活性なマーカーは、メタロセニル標識であることが好ましく、フェロセニル標識であるがより好ましい。
【0027】
本発明のプローブで使用されるフェロセニル標識およびメタロセニル標識は、N置換フェロセンまたはメタロセンカルボキサミドであることが有益である。標識部分を構成するフェロセンまたはメタロセン環は、置換されていなくてもよい。必要に応じて、フェロセンまたはメタロセン環は、1個またはそれ以上の置換基で置換することができ、置換基の種類と置換位置は、フェロセンまたはメタロセン部分のレドックス特性に好影響を及ぼすように選択される。フェロセンまたはメタロセン環は、前記の置換基で置換される代わりに、前記の置換基に加えて又は付加的に、標識の電気化学的感度を本質的に減少させることのない別の環状置換基で置換されていても差し支えなく、また、当該環状置換基と前記の置換基の両方で置換されていても差し支えない。フェロセンまたはメタロセンカルボキサミド部分は、カルボキサミドの窒素を介してヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドと結合することができる。ヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドへの結合は、リン酸基またはヌクレオチド塩基を介しているのが好ましい。どちらの結合方法も、オリゴヌクレオチドの長さに沿って標識をヌクレオチドに付着させる。しかし、結合がリン酸基を介している場合は、その結合は、3'または5'末端リン酸基を介しているのが望ましい。何故なら、このように結合していれば、オリゴヌクレオチドのワトソン・クリックハイブリダイゼーションを立体的に妨げ、あるいは、ヌクレアーゼ活性に悪影響を及ぼす可能性を最小限に抑えられるからである。ワトソン・クリックの塩基対形成に含まれない塩基領域を介しての結合は、こうした塩基対形成の分裂が起こりにくいと予測される。従って、塩基を介しての結合は、末端以外のヌクレオチド部位での標識化により適している。標識されたオリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドと標識部分の間にリンカーを持つことができる。好ましくは、標識されたオリゴヌクレオチドは、リンカー部分でオリゴヌクレオチドに結合したフェロセニル標識部分を備えている。
【0028】
任意の適当なリンカーが使用される。適当なリンカーには、脂肪族炭素鎖が含まれ、その脂肪族炭素鎖は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、また、飽和、不飽和のいずれであっても差し支えない。リンカーは、4〜20個の、好ましくは6〜16個、より好ましくは8〜14個、最も好ましくは12個の炭素原子を有する直鎖状又は分岐状の脂肪族鎖である。アルキレン鎖は、任意の置換基で置換することができるほか、任意の原子または原子団で中断されても差し支えない。但し、これらの任意の置換基、原子および原子団は、標識の電気化学的感度を本質的に低下させないことが条件である。本発明で使用可能なフェロセニル標識の具体例には、式I〜IIIで示すものがある。式Ia〜IIIaで示す分子は、対応するフェロセニル標識で標識されたオリゴヌクレオチドである。式IVはヌクレオチド塩基を介して結合できるフェロセニル標識の一例を示し、説明の都合上、式IVではアミノ変性チミン塩基が示されている。
【0029】
【化1】


【化2】


【化3】


【化4】

【0030】
【化5】


【化6】


【化7】


【化8】

【0031】
フェロセンで標識されたプローブは、任意の適当な方法で調製することができる。一例として、アミノ変性オリゴヌクレオチドは、末端アミノ基を有する遊離基をオリゴヌクレオチドに導入することで調製可能である。こうしたアミノ変性ヌクレオチドの具体例は、式Vで示す変性ヌクレオチドである。次に、アミノ変性ヌクレオチドを、フェロセンをフェロセンカルボン酸のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(式VI)と反応させることでフェロセンを導入し、標識されたオリゴヌクレオチドを得る。
【化9】


【化10】

【0032】
代替法としては、オリゴヌクレオチドの固相合成の過程で、フェロセン部分を添加する方法で、フェロセンで標識されたオリゴヌクレオチドを調製することもできる。フェロセン標識は、以下に説明する2通りの一般的手法により、オリゴヌクレオチドを固相合成する過程で導入することができる。その第1は、オリゴヌクレオチドの3'末端にオリゴヌクレオチドを添加するには、適当な樹脂を用いる必要がある。その樹脂は、フェロセン誘導体で標識される。オリゴヌクレオチドの内部または5'末端に、フェロセンを付加するには、固体支持体に結合したオリゴヌクレオチドと、例えば、フェロセニル誘導ホスホラミダイトとをカップリングさせるためのカップリング剤を用いる必要があり、前記のフェロセニル誘導ホスホラミダイトは、例えば、式IX又は式Xで示される。
【化11】


【化12】

【0033】
本発明は、また、電気化学的に活性な新マーカーや標識や標識部分を提供する。本発明は、式XIの化合物を提供する。
Mc−NR'−C(=O)−X−(Ar)−(L)−R (XI)
式中、Mcは、メタロセニル基であって、各環は個別に置換されていても無置換でも。良く、このメタロセニル基は、鉄、クロム、コバルト、オスミウム、ルテニウム、ニッケルおよびチタンからなる群から選ばれる金属イオンを含み、
R'は、Hまたは低級アルキルであり、
Xは、NR'またはOの何れかであり、
Arは、置換されたまたは無置換のアリール基であり、
nは、0または1であり、
Lは、リンカー基であり、
mは、0または1であり、
Rは、標識される原子団を示し、脱離基(a leaving group)を含む原子団である。
【0034】
Mc基は、低級アルキル基(例えば、C〜Cアルキル基)、ヒドロキシ、ハロ、シアノ、オキソ、アミノ、エステル、アミド、または別のメタロセン基で置換された低級アルキル基、低級アルケニル基、ヒドロキシ、ハロ、シアノ、オキソ、アミノ、エステル、アミド、または別のメタロセン基で置換された低級アルケニル基、アリール基、ヒドロキシ、ハロ、シアノ、オキソ、アミノ、エステル、アミド、または別のメタロセン基で置換されたアリール基から選択される1つまたはそれ以上の基で置換可能である。そして、前記別のメタロセン基は、本発明に係る化合物中のMc基の総数が、好ましくは4つを超えないほかは、Mc基と同様に置換可能である。好ましくは、Mc基は無置換である。
【0035】
メタロセニル基中の金属イオンは、好ましくは、鉄、オスミウム、ルテニウムから選択される1つであり、最も好ましいのは、鉄イオンである。金属イオンが鉄である場合、Mcはフェロセニル基である。
【0036】
低級アルキル基は、好ましくは、C1〜C4のアルキル基である。R'は、好ましくは水素であり、個々のR'は、他のR'とは別個の固有性を有する。
【0037】
Xは、好ましくはNHである。
【0038】
Ar基は、低級アルキル基(例えば、C〜Cアルキル基)、ヒドロキシ、ハロ、シアノ、オキソ、アミノ、エステル、またはアミド基で置換された低級アルキル基、低級アルケニル基、ヒドロキシ、ハロ、シアノ、オキソ、アミノ、エステル、またはアミド基で置換された低級アルケニル基、アリール基、ヒドロキシ、ハロ、シアノ、オキソ、アミノ、エステル、またはアミド基で置換されたアリール基から選ばれる1つまたはそれ以上の置換基で置換されても差し支えないが、好ましくは、Ar基は無置換である。
【0039】
好ましくは、n=1であり、m=1である。
【0040】
適当なリンカー基は、脂肪族鎖を含み、その炭素鎖は直鎖状であっても、分岐鎖状であっても差し支えなく、また、飽和炭素鎖であっても、不飽和炭素鎖であっても差し支えない。リンカー基は、4〜20個の、好ましくは6〜16個の、より好ましくは8〜14個の、最も好ましくは12個の炭素原子を有する直鎖状または分岐鎖状脂肪族鎖であるのが好適である。アルキレン鎖は、任意の置換基で置換することができるほか、任意の原子または原子団で中断されても差し支えない。但し、これらの任意の置換基、原子および原子団は、標識の電気化学的感度を本質的に低下させないことが条件である。
【0041】
本発明の化合物は、複数のメタロセン基を備える。本発明の化合物においては、メタロセン基は、他の任意の電気化学的に活性なマーカーで置換されて差し支えない。本発明の化合物は、そのままで電気化学的に活性であるものと、部分開裂によって電気化学的に活性になるものの両方を含む。
【0042】
好ましくは、標識される部位は、アミノ酸、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、ヌクレオシド、糖質、炭水化物、ペプチド、タンパク質、またはこれらの分子の何れかの誘導体である。好ましい実施例において、Rは、ヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドである。ヌクレオチドは、アデノシン、チミジン、グアノシン、シチジン、またはウリジンから選択される。好ましくは、ヌクレオチドは、ヌクレオチドのデオキシリボースまたはリボースに付着するグループを介して、例えば、2'、3'、5'位で付着する。最も好ましくは、ヌクレオチドは、3'または5'位で、例えば、5'位で付着する。2'、3'または5'位での付着は、好ましくは、酸素原子または窒素原子を介している。
【0043】
さらに好ましい具体例では、Rは、脱離基を含む基であって、好ましくは脱離基を含むアルキル基またはカルボニル基である。アルキル基の中で好ましいのは、低級アルキル基(例えばC〜Cアルキル基)である。脱離基としては、ヒドロキシル基、ハロゲン化物、有機酸、およびN−ヒドロキシジアシルアミンが挙げられる。脱離基は、例えば、塩化物、臭化物またはヨウ化物、酢酸、安息香酸、2,6−ジクロロ安息香酸、N−ヒドロキシサクシンアミド、マレイミド、ヨードアセトアミドまたはイソチオシアネートなどである。好ましい脱離基は、N−ヒドロキシサクシンアミドである。脱離基は、固体支持体に結合した原子団とのカップリング反応に使用するのに適した活性化可能な基であって差し支えない。例えば、脱離基は、ホスホラミダイト基であって差し支えない。
【0044】
Rが脱離基を含む基である場合、その化合物は、別の分子を電気化学的に標識化するのに使用できる標識試薬である。この標識試薬は、既知の方法や本発明の方法で使用される生化学的に重要な分子を、標識化するのに特に有用である。標識化の対象となる分子は、アミノ酸、ヌクレオチド、ヌクレオシド、糖質、ペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、炭水化物およびこれら分子の任意の誘導体などであるが、これに限定されない。
【0045】
標識試薬は、直接またはリンカーを介して付着する。そのリンカーは、初めに標識試薬または標識化される分子に付着する。リンカーが標識化される分子に最初に付着する場合、そのリンカーは、例えばアミノ基やチオール基を含むことができ、これらの基は標識化反応を補助する。この場合、アミノ基が好ましい。
【0046】
標識される分子が、ヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドの場合、3'末端または5'末端が標識されるのが好ましい。そのオリゴヌクレオチドは、アミノ変性されていて差し支えなく、当該変性は標識化反応をアシストする。アミノ変性したオリゴヌクレオチドは、普通の方法で合成できるほか、例えば、オズウェル・サイエンティフィック(サウスアンプトン、イギリス)(Oswel Scientific, Southampton, UK)から商業的に入手可能である。アミノ変性したオリゴヌクレオチドは、リンカーモチーフと合体することもでき、これには、例えば、5'アミノへキシル基または3'アミノへキシル基あるいは5'−C12アミノ基の付加が含まれる。この場合、標識化される分子は、好ましくはリンカーを含む。
【0047】
オリゴヌクレオチドの場合、分子のオリゴヌクレオチド部分の配列は、その分子が相補的標的配列とハイブリッド形成することでき、従って、分子生物学的手法でプローブとして、使用可能であることが好ましい。前記の分子生物学的手法には、本明細書に開示した核酸の検出法が含まれる。
【0048】
本発明によって標識された生物学的分子は、消化または非消化の状態で電気化学的に活性である。理想的には、電気化学的活性度は、消化の程度によって変化する。
【0049】
式VIIIは、電気化学的に活性な新規なマーカーがオリゴヌクレオチドへ結合した態様を図示したものである。式VIIIの分子は、5'−アミノへキシル変性オリゴヌクレオチドと、式VIIで示した分子との反応で得ることができる。
【化13】


【化14】

【0050】
4−(3'−フェロセニルレイド)−1−安息香酸のN−ヒドロキシサクシンイミドエステルの詳細と、この化合物を用いてオリゴヌクレオチドを標識化することの詳細は、実施例7および8に示す。しかし、当業者には、標識がオリゴヌクレオチドの任意の適当な位置に付着することができ、その付着がオリゴヌクレオチドの5'末端に限定されないことが理解できよう。また、新規なマーカーの付着にアミノヘキシルリンカーの介在を必要とせず、マーカーが必ずしもオリゴヌクレオチドに付着する必要がないことも理解されよう。本発明に係る新規なマーカーは、他の分子、特に、タンパク質、炭水化物、抗体などのような生物学的分子の標識化に使用することができる。
【0051】
本発明に係る分子は、本発明の方法で特に有用である。表3に記載した条件において、置換フェロセンカルボン酸の電極電位は、ほぼ400mVである。一方、本発明に係る置換メタロセン分子は、ほぼ150mVの電極電位を有する。電位が低いことは、バックグラウンド不純物によってデータ収集が妨害される可能性が極めて低いことを示す。従って、本発明に係る分子は、より高感度の読み取りを可能にする。図23(a)および(b)に示すボルタモグラムは、従前のフェロセン誘導体(フェロセンカルボン酸XII)の電極電位を示し、図23(c)および(d)に示すそれは、本発明に係る分子に見られるフェロセン部分を備えたフェロセン誘導体であるところの、4−(3'−フェロセニルレイド)−1−安息香酸の電極電位を示す。図23(b)と(d)を比較すると、本発明に係る分子に見られるフェロセン部分を備えたフェロセン誘導体のピークが、バックグラウンド信号が弱く、従って、分子をより高感度に検出できるボルタンモグラムの走査領域に移行していることが分かる。
【0052】
本発明はさらに、本明細書に開示した方法の1つ又はそれ以上を実施するための装置を提供する。そうした装置は、適当な電極と、電気化学セルと、使い捨てのプラスチック製器物と、試験結果を検出、記録、操作および表示する器具を含み、PCR法の場合は、適正にプログラムされた、またはプログラム可能な熱サイクラーをさらに含む。こうした装置には、プライマー、プローブ、およびサイクル条件を最適に設計するための装置が包含される。
【0053】
本発明の装置は、1つ以上の試料を受け取るための1つ以上の試料受け部と、試料受け部の温度を制御する手段と、試料の電気化学的特性を測定する手段とを備える。本発明に係る装置の一具体例には、熱サイクラーが設けられるが、このものは従来の試料温度制御手段に、試料を電気化学的に測定できる手段を組み込んだものである。このような装置は、従来の電極セルを利用して製造することができる(例えば、本発明の実施例で使用される装置)。
【0054】
本発明の装置はさらに、1つまたはそれ以上の試料を受け取って保持する1つまたはそれ以上の容器を備えることができる。こうした容器は、目下、PCRで使用されているポリプロピレン管または96ウェルプレートのように設計されてよい。理想的には、こうした容器は、少なくとも1つの電極要素を受け入れることができる。電極要素を、例えば、容器の蓋部分に設ければ、蓋を閉めた際に、電極要素が試料溶液に到達する。このような容器は、熱サイクラーで使用するように設計されておらず、従って、最適な熱伝導性を備えていない従来の電気化学セルを凌ぐ利点を持つ。従来の電気化学セルは、相対的にコスト高であるため、一般には使い捨て方式ではない。使い捨て可能なプラスチック製器具の使用は、試料による汚染のリスクを減らすために、分子生物学では標準的習慣となっている。
【0055】
本発明に係る装置は、PCRのポリプロピレン管または96ウェルプレートで既知の設計を基本として、その基本設計に、本発明の方法で使用される1つまたはそれ以上の電極要素が組み込んだ容器が備えることもできる。こうした容器は、大量生産が可能であるので、電極要素が使い捨てになっても、そのコストを減少させることができる。
【0056】
本発明の実施例を添付の図面を参照しながら、以下に詳述する。
【0057】
図1において、本明細書に記載した循環式ボルタメトリー実験に使用する電気化学セル1は、酢酸アンモニウムの100mM水溶液からなるバックグラウンド電解質溶液3を含む容器2を備える。溶液3にはチャンバー4が浸漬され、そのチャンバーには、試験対象の試料と、試料中に浸したガラス状カーボンの作用電極5とが収容されている。作用電極には、金電極を代用することもできる。また、溶液3には白金ワイヤの対電極6と、4Mの塩化カリウム溶液に浸漬された銀−塩化銀の参照電極7とが浸漬されており、電解質溶液3と塩化カリウム溶液とは、焼結ディスクを介して相互に連通している。
【0058】
図15aおよび15bにおいて、T7エクソヌクレアーゼ(T7遺伝子6エクソヌクレア−ゼとも称される)は、二重鎖の特異5'〜3'エクソヌクレア−ゼである。DNAの標的部分にアニ−ルされたオリゴヌクレオチドを、前記の酵素が消化し、モノヌクレオチド、ジヌクレオチド、短尺のオリゴヌクレオチドフラグメントを産出する。酵素の基質特異性により、フェロセンのような電気化学的マーカーで5'末端が標識されたオリゴヌクレオチドプローブが消化される。消化されたフェロセン標識化プローブは、例えば差分パルスボルタンメトリーなどの電気化学的手法で検出可能である。T7エクソヌクレアーゼは、熱安定性に乏しいため、PCRで通常使用される熱サイクリング条件の下では不安定である。
【0059】
T7エクソヌクレアーゼは、PCRに基づくDNA検出において2通りに使用できる。フェロセンなどのマーカーにて5'末端が標識されたPCR生成物は、5'標識プライマーを使用して合成できる。その後、T7エクソヌクレアーゼを添加したPCR混合物が、標識されたPCR生成物を消化する。非増幅の一本鎖プライマーは消化されない(図15a)。2番目の方法では、配列特異PCR生成物を検出するために、プライマー配列間の標的核酸とハイブリッド形成するように設計されたタックマンプローブ(商標:アプライドバイオシステムズ)と同様に、電気化学的に標識されたプローブが、標識されたプライマーの代りに用いられる。このプローブは、熱サイクリング後PCR混合物に導入され、標的にアニ−ルさせる。次いでT7エクソヌクレアーゼが添加され、相補性PCR生成物とのアニ−ルによって二重鎖が形成された時のみ、プローブは消化される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例で記載した差分パルスボルタンメトリー測定に使用される電気化学セルの概略図。
【図2a】実施例4(a)に記載したフェロセン標識BAPRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図2b】実施例4(a)に記載したフェロセン標識BAPRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図2c】実施例4(a)に記載したフェロセン標識BAPRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図2d】実施例4(a)に記載したフェロセン標識BAPRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図3a】実施例4(b)に記載したフェロセン標識BAPRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図3b】実施例4(b)に記載したフェロセン標識BAPRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図3c】実施例4(b)に記載したフェロセン標識BAPRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図3d】実施例4(b)に記載したフェロセン標識BAPRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図4a】実施例4(c)に記載したフェロセン標識TIBAPRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図4b】実施例4(c)に記載したフェロセン標識TIBAPRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図4c】実施例4(c)に記載したフェロセン標識TIBAPRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図4d】実施例4(c)に記載したフェロセン標識TIBAPRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図5a】実施例4(d)に記載したフェロセン標識BAPRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図5b】実施例4(d)に記載したフェロセン標識BAPRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図5c】実施例4(d)に記載したフェロセン標識BAPRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図5d】実施例4(d)に記載したフェロセン標識BAPRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図6a】実施例4(e)に記載したフェロセン標識GSDPRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図6b】実施例4(e)に記載したフェロセン標識GSDPRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図6c】実施例4(e)に記載したフェロセン標識GSDPRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図6d】実施例4(e)に記載したフェロセン標識GSDPRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図7a】実施例4(f)に記載したフェロセン標識MC11PRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図7b】実施例4(f)に記載したフェロセン標識MC11PRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図7c】実施例4(f)に記載したフェロセン標識MC11PRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図7d】実施例4(f)に記載したフェロセン標識MC11PRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図8a】実施例4(g)に記載した無標識BAFRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図8b】実施例4(g)に記載した無標識BAFRオリゴヌクレオチドの差分パルスボルタンモグラム。
【図9a】実施例4(h)に記載したフェロセン標識TIBAPRオリゴヌクレオチドの制御反応の差分パルスボルタンモグラム。
【図9b】実施例4(h)に記載したフェロセン標識TIBAPRオリゴヌクレオチドの制御反応の差分パルスボルタンモグラム。
【図10a】実施例5(a)に記載した標識BAPRオリゴヌクレオチドを含むPCR混合物の差分パルスボルタンモグラム。
【図10b】実施例5(a)に記載した標識BAPRオリゴヌクレオチドを含むPCR混合物の差分パルスボルタンモグラム。
【図10c】実施例5(a)に記載した標識BAPRオリゴヌクレオチドを含むPCR混合物の差分パルスボルタンモグラム。
【図10d】実施例5(a)に記載した標識BAPRオリゴヌクレオチドを含むPCR混合物の差分パルスボルタンモグラム。
【図11a】実施例5(b)に記載したフェロセン標識MC11PRオリゴヌクレオチドを含む別のPCR混合物の差分パルスボルタンモグラム。
【図11b】実施例5(b)に記載したフェロセン標識MC11PRオリゴヌクレオチドを含む別のPCR混合物の差分パルスボルタンモグラム。
【図11c】実施例5(b)に記載したフェロセン標識MC11PRオリゴヌクレオチドを含む別のPCR混合物の差分パルスボルタンモグラム。
【図11d】実施例5(b)に記載したフェロセン標識MC11PRオリゴヌクレオチドを含む別のPCR混合物の差分パルスボルタンモグラム。
【図12a】実施例5(c)に記載したフェロセン標識TIBAPRオリゴヌクレオチドを含むPCR混合物の差分パルスボルタンモグラム。
【図12b】実施例5(c)に記載したフェロセン標識TIBAPRオリゴヌクレオチドを含むPCR混合物の差分パルスボルタンモグラム。
【図12c】実施例5(c)に記載したフェロセン標識TIBAPRオリゴヌクレオチドを含むPCR混合物の差分パルスボルタンモグラム。
【図12d】実施例5(c)に記載したフェロセン標識TIBAPRオリゴヌクレオチドを含むPCR混合物の差分パルスボルタンモグラム。
【図13a】実施例5(d)に記載したフェロセン標識GSDPRオリゴヌクレオチドを含むPCR混合物の差分パルスボルタンモグラム。
【図13b】実施例5(d)に記載したフェロセン標識GSDPRオリゴヌクレオチドを含むPCR混合物の差分パルスボルタンモグラム。
【図13c】実施例5(d)に記載したフェロセン標識GSDPRオリゴヌクレオチドを含むPCR混合物の差分パルスボルタンモグラム。
【図13d】実施例5(d)に記載したフェロセン標識GSDPRオリゴヌクレオチドを含むPCR混合物の差分パルスボルタンモグラム。
【図14a】本発明の方法で使用されるインベーダー・蛍光発生的核酸検出システムの概略図。
【図14b】本発明の方法で使用されるインベーダー・蛍光発生的核酸検出システムの概略図。
【図15a】T7エクソヌクレアーゼ検定における本発明の方法の説明図。
【図15b】PCR生成物にアニールされる標識オリゴヌクレオチドプローブのT7エクソヌクレアーゼ消化を組合せた検定における本発明の方法の説明図。
【図16a】T7エクソヌクレアーゼ基質特異性を示す差分パルスボルタンモグラム(実施例9)。
【図16b】T7エクソヌクレアーゼ基質特異性を示す差分パルスボルタンモグラム(実施例9)。
【図17a】5'フェロセン化プライマーで標識されたPCR生成物のT7エクソヌクレアーゼ消化を示す差分パルスボルタンモグラム(実施例10(a))。
【図17b】5'フェロセン化プライマーで標識されたPCR生成物のT7エクソヌクレアーゼ消化を示す差分パルスボルタンモグラム(実施例10(a))。
【図18】PCR生成物にアニールされるタックマン(商標:アプライドバイオシステムズ)プローブのT7エクソヌクレアーゼ消化を示す差分パルスボルタンモグラム(実施例10(b))。
【図19】PCR生成物にアニールされるタックマン(商標:アプライドバイオシステムズ)プローブのT7エクソヌクレアーゼ消化を示す差分パルスボルタンモグラム(実施例10(b))。
【図20】PCR生成物にアニールされるタックマン(商標:アプライドバイオシステムズ)プローブのT7エクソヌクレアーゼ消化を示す差分パルスボルタンモグラム(実施例10(b))。
【図21a】シュトッフェルフラグメントを用いたPCR増幅を示す差分パルスボルタンモグラム(実施例10(c))。
【図21b】シュトッフェルフラグメントを用いたPCR増幅を示す差分パルスボルタンモグラム(実施例10(c))。
【図22a】T7エクソヌクレアーゼを使用しない実験を示す差分パルスボルタンモグラム(実施例10(d))。
【図22b】T7エクソヌクレアーゼを使用しない実験を示す差分パルスボルタンモグラム(実施例10(d))。
【図23a】濃度がそれぞれ10μMおよび1μMのフェロセンカルボン酸の電極電位を示す差分パルスボルタンモグラム。
【図23b】濃度がそれぞれ10μMおよび1μMのフェロセンカルボン酸の電極電位を示す差分パルスボルタンモグラム。
【図23c】濃度がそれぞれ10μMおよび1μMの4−(3'−フェロセニルレイド)−1−安息香酸の電極電位を示す差分パルスボルタンモグラム。
【図23d】濃度がそれぞれ10μMおよび1μMの4−(3'−フェロセニルレイド)−1−安息香酸の電極電位を示す差分パルスボルタンモグラム。
【図24】基質が下記の(a)〜(c)であるヌクレア−ゼ消化反応による生成物の差分パルスボルタンモグラム。 (a)12炭素スペーサー原子団(2.5μM)を持つフェロセンによって5'末端が標識されたBAPRオリゴヌクレオチドと、12炭素スペーサー原子団(1.5μM)を持つ4−(3'−フェロセニルレイド)−1−安息香酸によって5'末端が標識されたMC11wオリゴヌクレオチド、 (b)12炭素スペーサー原子団(2.5μM)持つフェロセンによって5'末端が標識されたBAPRオリゴヌクレオチド、 (c)12炭素スペーサー原子団(1.5μM)を持つ4−(3'−フェロセニルレイド)−1−安息香酸によって5'末端が標識されたMC11wオリゴヌクレオチド、
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下に本発明の実施例を詳述する。
材料と方法−オリゴヌクレオチドの調製と検定
オリゴヌクレオチドは、シグマジェンソシス(Sigma Gensosys)から入手した。オリゴヌクレオチドは全て脱塩されたものを用い、それ以上の精製は行わなかった。N,N'−ジメチルホルムアミド(DMF)(99.8%A.C.S.試薬)および酢酸亜鉛二水和物(99.999%)は、アルドリッチ(Aldrich)から入手した。
【0062】
重炭酸カリウム(A.C.S.試薬)、炭酸カリウム(最小値99%)、酢酸アンモニウム(約98%)、酢酸マグネシウム(最小値99%)、過硫酸アンモニウム(電気泳動試薬)、N,N,N',N',−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)および分子生物学的グレードの水は、それぞれシグマ(Sigma)から入手した。
【0063】
NAP10カラム(G25DNAグレードセファデックス(商標))は、アマーシャムバイオサイエンシス(Amersham Biosciences)から入手した。
【0064】
S1ヌクレアーゼ、dNTPsおよびヒトゲノムDNAは、プロメガ(Promega)から入手した。
【0065】
25mMの塩化マグネシウムとジーンアンプ(GeneAmp)(商標)10X PCRゴールド緩衝液を含むアンプリタック・ゴールド(AmpliTaq Gold)、アンプリタックDNAポリメラーゼ、10Xストッフェル緩衝液と25mMの塩化マグネシウムを含むストッフェルフラグメントは、それぞれアプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)から入手した。
【0066】
T7エクソヌクレアーゼは、ニューイングランドバイオラボ(New England Biolabs)から入手した。
【0067】
PCT−100プログラム可能熱制御装置(Programmable Thermal Controller)(MJリサーチ社:MJ Research Inc.)を用いて、インキュベーションを行った。260nmでの吸光度測定は、ケリー100バイオ分光光度計(バリアン社:Varian Ltd.)を用いて行った。
【0068】
ポリアクリルアミドゲルは、プロトゲル(ProtoGel)(ナショナルダイゴノスティック:National Diagnostics)で調製し、SYBRゴールド(SYBR Gold)(モレキュラープローブス社:molecular Probes Inc.)で染色した。
【0069】
アガロースゲルは、シーケムLEアガロース(SeaKem LE agarose)(バイオウィッテーカーモレキュラーアプリケーションズ:BioWhittaker Molecular Applications)で調製し、臭化エチジウム(アルドリッチ:Aldrich)で染色した。ゲルは、0.5Xトリス/ホウ酸塩/EDTA(TBE)緩衝液(シグマ:Sigma)で電気泳動させた。溶液は全て、高圧滅菌脱イオン水(ウォータープロシステム、ラボコンコ:WaterPro system, Labconco)を用いて調製した。
【0070】
オリゴヌクレオチド配列
ブドウ糖−6−ホスファターゼと、中位鎖のアシルCoAデヒドロゲナーゼプライマーとプローブのオリゴヌクレオチド配列は、2000年刊行のクニヒロフジイ、ヨーイチマツバラ、ジュンアカヌマ、カズトシタカハシ、シゲオクレ、ヨーイチスズキ、マスエイマイズミ、カズイエイイヌマ、オサムサカツメ、ピエロ・リナルド(Piero Rinaldo)、クニアキナリサワ著、「ヒト突然変異(Human Mutation)」の189〜196頁に開示されている。
【0071】
βアクチンプライマーとプローブのオリゴヌクレオチド配列は、2000年刊行のA.M.ジョセフソン(Josefsson)、P.K.E.マグヌソン(Magnusson)、N.イリタロー(Ilitalo)、P.ソレンソン(Sorensn)、P.O.タビン(Tubbin)、P.アンダーソン(Andersen)、M.メルビー(Melbye)、H.アダミー(Adami)、U.ギレンステン(Gyllensten)著、「ランセット(Lancet)」355巻、2189〜2193頁に開示されている。
【0072】
HFE遺伝子プライマーとプローブのオリゴヌクレオチド配列は、2002年刊行のL.A.ウゴゾリ(Ugozzoli)、D.チン(Chinn)、K.ハンビー(Hamby)著による「分析生化学(Analytical Biochemistry)」307巻、47〜53頁に開示されている。
【0073】
ACTB(βアクチン)
プローブ
BAPR:ATG CCC TCC CCC ATG CCA TCC TGC GT
C9-T1BAPR:T(C9)G CCC TCC CCC ATG CCA TCC TGC GT
(T(C9)=C9リンカーを持つアミノ変性チミン、式IV)
プライマー
BAF:CAG CGG AAC CGC TCA TTG CCA ATG G
BAR:TCA CCC ACA CTG TGC CCA TCT ACG A
BAFR:CAG GTC CCG GCC AGC CAG
【0074】
C282Y(HFE遺伝子、C282Y突然変異)
プローブ
C282YP:ATA TAC GTG CCA GGT GGA
プライマー
C282YF:CTG GAT AAC TTG GCT GTA C
C282YR:TCA GTC ACA TAC CCC AGA T
【0075】
H63D(HFE遺伝子、H63F突然変異)
プローブ
H63DP:ATA TAC GTG CCA GGT GGA
プライマー
H63DF:CTT GGT CTT TCC TTG TTT GAA G
H63DR:ACA TCT GGC TTG AAA TTC TAC T
【0076】
CFTR(嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子)
プライマー
CFT01:AGG CCT AGT TGT CTT ACA GTC CT
CFT03:TGC CCC CTA ATT TGT TAC TTC
【0077】
G6PC(ブドウ糖−6−ホスファターゼ)
プローブ
GSDPR:TGT GGA TGT GGC TGA AAG TTT CTG AAC
プライマー
GSDw:CCG ATG GCG AAG CTG AAC
GSDcom:TGC TTT CTT CCA CTC AGG CA
【0078】
ACADM(中位鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ)
プローブ
MC11PR:CTA GAA TGA GTT ACC AGA GAG GAG CTT GG
プライマー
MC11w:GCT GGC TGA AAT GGC AAT GA
MC11com:CTG CAC AGC ATC AGT AGC TAA CTG A
【0079】
ヘアピンオリゴヌクレオチド
reHP:CAG AAT ACA GCA GGT GCT CGC CCG GGC GAG CAC
CTG TAT TCT G
【0080】
一本鎖オリゴヌクレオチド
reBAF:CAG AAT ACA GCA GGT TCA CCC ACA CTG TGC CCA
TCT ACG A
【0081】
実施例7および8で使用したオリゴヌクレオチドは、5'末端がC12アミノ変性されたものである。他の実施例で使用したオリゴヌクレオチドは変性されていない。
【0082】
材料および方法−電気化学的検出
以下の電極と小容量セルは、英国、チェシャー、コンレントン(Congleton, Cheshire,UK)のBASから入手した。
【0083】
実施例4と5では、ガラス状カーボンの作用電極(カタログ番号MF−2012)を用いた。実施例8〜10では、金の作用電極(カタログ番号MF−2014)を使用した。
【0084】
銀−塩化銀参照電極は、カタログ番号MF−2079を用いた。
【0085】
白金ワイヤの対電極(補助)は、カタログ番号MW−4130を用いた。
【0086】
小容量のセル(カタログ番号MF−2040)は、ガラス製ボルタンメトリー瓶と、先端部に交換可能な耐熱ガラス(vycor)を設けたガラス製試料チャンバーを備える。
【0087】
オートラボ(AutoLab)電気化学ワークステーションは、ウインザーサイエンティフィックリミテッド(Windsor Scientific Limited)から入手した。このワークステーションは、エコケミBV(Eco Chemie B.V.)製のPGSTAT30を備えた周波数応答分析機またはμオートラボタイプIIの何れかを備えている。
【0088】
実施例1
本実施例は、以下の実施例3〜5および8〜10で採用する循環式ボルタンメトリー法(cyclic voltammetry method)を説明する。
【0089】
図1の小容量セルを、約10mlの酢酸アンモニウム溶液(100mM)で満たした。
【0090】
分析用試料のアリコット200μlを、ガラス製試料チャンバー4に収め、これを参照電極7および対電極6と共に、小容量セル内に設置した。電極をオートラボ電気化学ワークステーションに接続し、以下に記載するパラメーターを用いて差分パルスボルタンメトリーを実行した。実験に先立ち、作用電極を研磨し(BASのカタログ番号MF−2060の研磨セットを使用)し、次いでコンディショニングした。電極のコンディショニングは、適当なバックグラウンド緩衝液中において、±1ボルトの範囲でスイーピングする循環ボルタンメトリーから成る。
【0091】
差分パルスボルタンメトリーのパラメーター
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
【表3】

【0095】
実施例2−フェロセンカルボン酸のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル合成
フェロセンカルボン酸(303mg、1.32mmol)と、N−ヒドロキシスクシンイミド(170mg、1.47mmol)をジオキサン(15ml)に溶解し、この溶液を、ジオキサン(3ml)にジシクロヘキシルカルボジイミド(305mg、1.48mmol)を溶かした溶液に攪拌下に加える。得られた混合物を室温で24時間攪拌して沈殿物を生成させた。沈殿物を濾過して除去し、濾液から溶剤を真空除去し、残った固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに掛け、ワセリン対酢酸エチル=8:2で溶離させて精製した。収量は320gで、収率は74%であった。
【0096】
実施例3−フェロセニルオリゴヌクレオチドの合成
凍結乾燥させたアミノ変性オリゴヌクレオチドを正確な量のKCO/KHCO緩衝液(500mM、pH9.0)で再水和し、オリゴヌクレオチド濃度を0.5nmol/μlとした。このアミノ変性オリゴヌクレオチド(40μl、0.5nmol/μl)を、フェロセンカルボン酸のN−ヒドロキシスクシンイミドエステルのDMF(40μl、375mM)溶液に、渦状にゆっくり添加した。次に、この溶液を室温で一晩振盪した。その後、これを酢酸アンモニウム(920μl、100mM、pH7.0)で稀釈し、2個のNAP10カラムを使用し、最初に酢酸アンモニウム(100mM、pH7.0)で溶離し、次に高圧滅菌脱イオン水で溶離することで精製した。フェロセニルオリゴヌクレオチドをNAP10カラムで部分的に精製して、塩類と低分子量フェロセン種を除去し、フェロセン標識されたオリゴヌクレオチドと、標識されていないオリゴヌクレオチドの混合物を得た。使用前にこれ以上の精製を行わなかった。
構造および付着部位が異なる4種のリンカー構造、すなわち、C7、C6、C12、T(C9)を有するアミノ変性オリゴヌクレオチドを、標識化反応に使用した。C6、C12およびT(C9)リンカーは、末端のリン酸エステルまたは塩基を介して、オリゴヌクレオチドの5'末端に付着した。C7リンカーは、末端のリン酸エステルを介してオリゴヌクレオチドの3'末端に付着した。それらの構造を式I〜IVに示す。溶出液のオリゴヌクレオチド濃度は、260nmでの吸光度を計測して測定した。フェロセン標識の存在は、ボルタンメトリック分析で確認された。
【0097】
実施例4
S1ヌクレア−ゼの消化
オリゴヌクレオチドの消化反応液(100μl)には、オリゴヌクレオチド(3.5〜9μM、濃度は後述)、酢酸アンモニウム(250mM、pH6.5)、酢酸亜鉛(4.5mM)およびS1ヌクレア−ゼ(0.4U/μl)が含まれていた。消化反応は、37℃で1時間インキュベートした。オリゴヌクレオチドの完全消化は、粗製の反応混合物のアリコット10μlをポリアクリルアミドゲルで分析して確認した。ボルタンメトリック分析に先立って、複数回の反応液を蓄積し、最終容量を200μlとした。
比較のため、反応混合物からS1ヌクレア−ゼを除去した以外は、上と同様な"無酵素"の消化実験を行った。また、予め95℃で15分間加熱して熱変性させたS1ヌクレア−ゼを使用した上と同様な比較実験も行った。
【0098】
以下に反応物と条件を、上記と同じように記載する。ボルタンメトリー条件は、特に記載しない限り、表1と同一である。
【0099】
実施例4(a)
オリゴヌクレオチド:7炭素スペーサー原子団を持つフェロセンによって、3'末端が標識化されたBAPRオリゴヌクレオチド(式I)
オリゴヌクレオチドの濃度:7.0μM
ボルタンメトリー条件:間隔時間を0.09s、変調時間が0.5sと変更した以外は、表1と同じ。
【0100】
実験結果を図2a〜図2dに示す。図2aは"無酵素"実験での陰極掃引を、図2bはS1ヌクレア−ゼを含む溶液の陰極掃引を、図2cは"無酵素"実験での陽極掃引を、図2dはS1ヌクレア−ゼを含む溶液の陽極掃引をそれぞれ示す。S1ヌクレア−ゼ(すなわち、消化オリゴヌクレオチド)含有溶液のピーク値、ピーク位置、ピークエンハンスメント(%)の測定結果を、"無酵素"の比較実験と対比して表4に記す。
【0101】
実施例4(b)
オリゴヌクレオチド:6炭素スペーサー原子団を持つフェロセンによって5'末端で標識化されたBAPRオリゴヌクレオチド(式II)
オリゴヌクレオチドの濃度:7.0μM
ボルタンメトリー条件:間隔時間を0.09s、変調時間を0.5sとした以外は、表1と同じ。
【0102】
結果を図3a〜図3dに示す。図3aは"無酵素"実験の陰極掃引を、図3bはS1ヌクレア−ゼを含む溶液の陰極掃引を、図3cは"無酵素"実験の陽極掃引を、図3dはS1ヌクレア−ゼを含む溶液の陽極掃引をそれぞれ示す。"S1ヌクレア−ゼ(すなわち、消化オリゴヌクレオチド)を含む溶液のピーク値、ピーク位置、ピークエンハンスメント(%)の測定結果を、無酵素"実験と比較して表2に記す。
【0103】
実施例4(c)
オリゴヌクレオチド:9炭素スペーサー原子団を持つフェロセンによって3'末端で標識化されたTIBAPRオリゴヌクレオチド(式IV)
オリゴヌクレオチドの濃度:8.8μM
ボルタンメトリー条件:表1と同じ
【0104】
結果を図4a〜図4dに示す。図4aは"無酵素"実験の陰極掃引を、図4bはS1ヌクレア−ゼを含む溶液の陰極掃引を、図4cは"無酵素"実験の陽極掃引を、図4dはS1ヌクレア−ゼを含む溶液の陽極掃引をそれぞれ示す。S1ヌクレア−ゼ(すなわち、消化オリゴヌクレオチド)を含む溶液のピーク値、ピーク位置、ピークエンハンスメント(%)の測定結果を、"無酵素"実験と対比して表4に記す。
【0105】
実施例4(d)
オリゴヌクレオチド:12炭素スペーサー原子団を持つフェロセンによって5'末端で標識化されたBAPRオリゴヌクレオチド(式III)
オリゴヌクレオチドの濃度:7.0μM
ボルタンメトリー条件:間隔時間を0.09s、変調時間を0.5sとした以外は表1と同じ
【0106】
結果を図5a〜図5dに示す。図5aは"無酵素"実験の陰極掃引を、図5bはS1ヌクレア−ゼを含む溶液の陰極掃引を、図5cは"無酵素"制御の陽極掃引を、図5dはS1ヌクレア−ゼを含む溶液の陽極掃引をそれぞれ示す。S1ヌクレア−ゼ(すなわち、消化オリゴヌクレオチド)を含む溶液のピーク値、ピーク位置、ピークエンハンスメント(%)の測定結果を、"無酵素"実験と対比して表4に記す。
【0107】
実施例4(e)
オリゴヌクレオチド:12炭素スペーサー原子団を持つフェロセンによって5'末端で標識化されたGSDPRオリゴヌクレオチド(式III)
オリゴヌクレオチドの濃度:3.5μM
ボルタンメトリー条件:表1と同じ
【0108】
結果を図6a〜図6dに示す。図6aは"無酵素"実験の陰極掃引を、図6bはS1ヌクレア−ゼを含む溶液の陰極掃引を、図6cは"無酵素"実験の陽極掃引を、図6dはS1ヌクレア−ゼを含む溶液の陽極掃引をそれぞれ示す。S1ヌクレア−ゼ(すなわち、消化オリゴヌクレオチド)を含む溶液のピーク値、ピーク位置、ピークエンハンスメント(%)の測定結果を、"無酵素"実験と対比して表4に記す。
【0109】
実施例4(f)
オリゴヌクレオチド:12炭素スペーサー原子団を持つフェロセンによって5'末端で標識化されたMCllPRオリゴヌクレオチド(式III)
オリゴヌクレオチドの濃度:3.5μM
ボルタンメトリー条件:表1と同じ
【0110】
結果を図7a〜図7dに示す。図7aは"無酵素"実験の陰極掃引を、図7bはS1ヌクレア−ゼを含む溶液の陰極掃引を、図7cは"無酵素"実験の陽極掃引を、図7dはS1ヌクレア−ゼを含む溶液の陽極掃引をそれぞれ示す。S1ヌクレア−ゼ(すなわち、消化オリゴヌクレオチド)を含む溶液のピーク値、ピーク位置、ピークエンハンスメント(%)の測定結果を、"無酵素"実験と対比して表4に記す。
【0111】
実施例4(g)(比較例)
オリゴヌクレオチド:無標識のBAFR
オリゴヌクレオチドの濃度:8.8μM
ボルタンメトリー条件:表1と同じ
【0112】
結果を図8a(陰極掃引)と図8b(陽極掃引)に記す。何れの掃引にもピークは認められなかった。
【0113】
実施例4(h)(比較例)
オリゴヌクレオチド:9炭素スペーサー原子団を持つフェロセンによって5'末端で標識化されたTlBAPRオリゴヌクレオチド(式IV)
オリゴヌクレオチドの濃度:8.8μM
ボルタンメトリー条件:表1と同じ
【0114】
結果を図9a("無酵素"制御の陽極掃引)と図9b(S1ヌクレア−ゼを含む加熱酵素制御の陽極掃引)に記す。図9aにおいて60.6μAのピーク値(ピーク位置は424mV)が記録され、図9bにおいては39.9μAのピーク値(ピーク位置は409mV)が記録された。
【0115】
フェロセン関連のピークは、300〜500mVで観察された。フェロセン化されない(non-ferrocenylated)オリゴヌクレオチドを分析した時にはこの電位範囲でのピークは観察されなかった(図8aおよび8b)。消化したフェロセニル標識オリゴヌクレオチドと無酵素の比較実験を対比すると、オリゴヌクレオチドを消化することでピーク値が上昇することが分かる(表4)。
【0116】
観察された変化が酵素または酵素貯蔵緩衝液成分の存在によるものでないことを確認するために、加熱変性された酵素を使用した実験を行った(実施例4(h))。加熱変性酵素実験と無酵素実験との間には、フェロセン信号に有意な変化は認められなかった。
【0117】
C12フェロセンオリゴヌクレオチドリンカーを備えた2つのオリゴヌクレオチド配列、すなわち、フェロセン−C12−MCllPRおよびフェロセン−C12−GSDPRについて、さらに別の消化実験を行った(図6および10)。それぞれの配列において、消化オリゴヌクレオチドのフェロセン関連信号において、ピーク高さの上昇が認められた。
【0118】
【表4】

【0119】


【0120】
実施例5−PCR
ヒトゲノムDNA(100μl反応につき40ng)またはゲル精製PCRアンプリコンからPCR増幅を行った。後続の増幅に使用したPCRアンプリコンは、提供されている手順書に従い、ヌクレオスピン抽出セット(Nucleospin Extract kits)(マチェリー・ナゲル:Macherey-Nagel)を用いてアガロースゲルで精製した。全てのフェロセニルオリゴヌクレオチドプローブは、3'位でリン酸エステル化されていた。
【0121】
個々の反応に使用されたプライマー、テンプレート、プローブを以下に示す。
【0122】
100μlの反応液は、トリスHCL(15mM、pH8.0)、塩化カリウム(50mM)、塩化マグネシウム(3.5mM)、dATP、TTP、dCTP、dGTP(各200μM)、フォワードプライマー(1.0μM)、リバースプライマー(1.0μM)、フェロセニルオリゴヌクレオチドプローブ(0.9μM)、アンプリタックゴールド(0.04Uμl−1)を含んでいた。各試料を95℃で10分間インキュベートし(初期変性と酵素の活性化)、その後、95℃で15秒間の変性を40回繰り返し,さらに、プライマーのアニーリングおよび伸長を60℃で1分間行った。
【0123】
100μlの反応液を15個調製してプールした。ボルタンメトリック分析に先立って、粗製の反応混合物を濃縮して総量を200μlとした。
【0124】
以下に反応物と条件を、上記と同じように記載する。ボルタンメトリー条件は、特に記載しない限り、表1と同一である。
【0125】
実施例5(a)
オリゴヌクレオチド:12炭素スペーサー原子団の5'末端が標識化されたBAPRオリゴヌクレオチド(式III)
陽性反応:(βアクチン)テンプレート:βアクチンPCRアンプリコン;プライマー:BAF、BAR
陰性反応:(嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子)テンプレート:嚢胞性線維症PCRアンプリコン;プライマー:CFT01、CFT03
ボルタンメトリー条件:表1と同じ
【0126】
結果は以下のとおりである:
図10a 陰性反応、陰極掃引、ピークは観察されなかった
図10b 陽性反応、陰極掃引、ピーク位置:493mV、ピーク高さ:19.4nA
図10c 陰性反応、陽極掃引、ピークは観察されなかった
図10d 陽性反応、陽極掃引、ピーク位置:373mV、ピーク高さ:27.3nA
【0127】
実施例5(b)
オリゴヌクレオチド:12炭素スペーサー原子団の5'末端が標識化されたMCllPRオリゴヌクレオチド(式III)
陽性反応:(中位鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ)テンプレート:MCADPCRアンプリコンまたはゲノムテンプレート;プライマー:MC11w、MC11com
陰性反応:(グルコース−6−リン酸ホスファターゼ)テンプレート:グルコース−6−リン酸ホスファターゼPCRアンプリコン;プライマー:GSDw、GSDcom
【0128】
結果は以下のとおりである:
図11a 陰性反応、陽極掃引、ピーク位置:429mV、ピーク高さ:1.84nA
図11b 陽性反応(PCRアンプリコンテンプレート)、陽極掃引、ピーク位置:388mV、ピーク高さ:7.62nA
図11c 陽性反応(ゲノムテンプレート)、陽極掃引、ピーク位置:409mV、ピーク高さ:8.11nA
【0129】
実施例5(c)
オリゴヌクレオチド:9炭素スペーサー原子団の5'末端が標識化されたTlBAPRオリゴヌクレオチド
陽性反応:(βアクチン)テンプレート:ヒトゲノムDNA;プライマー:BAF、BAR
陰性反応:(グルコース−6−リン酸ホスファターゼ)テンプレート:ヒトゲノムDNA;プライマー:GSDw、GSDcom
ボルタンメトリー条件:表1と同じ
【0130】
結果は以下のとおりである:
図12a 陰性反応、陽極掃引
図12b 陽性反応、陽極掃引、ピーク位置:429mV、ピーク高さ:36nA
図12c 陰性反応、陰極掃引
図12d 陽性反応、陰極掃引、ピーク位置:498mV、ピーク高さ:14nA
【0131】
実施例5(d)
オリゴヌクレオチド:12炭素スペーサー原子団の5'末端が標識化されたGSDPRオリゴヌクレオチド
陽性反応:(グルコース−6−リン酸ホスファターゼ)テンプレート:ヒトゲノムDNA;プライマー:GSDw、GSDcom
陰性反応:(βアクチン)テンプレート:ヒトゲノムDNA;プライマー:BAF、BAR
【0132】
結果は以下のとおりである:
図13a 性反応、陽極掃引
図13b 陽性反応、陽極掃引、ピーク位置:439mV、ピーク高さ:23nA
図13c 陰性反応、陰極掃引
図13d 陽性反応、陰極掃引
【0133】
この実施例では、フェロセニルオリゴヌクレオチドプローブを用いたPCR生成物の配列特異検出を説明するために、予め最適化した蛍光発生的な(fluorogenic)5'ヌクレアーゼ検定からのプローブとプライマー配列を用いた。βアクチングルコース−6−リン酸ホスファターゼおよび中位鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ遺伝子からのPCR増幅は、精製アンプリコンまたはヒトゲノムDNAテンプレートの何れかを用いて実施した。PCR実験で使用されたプローブは、全て5'末端にC12フェロセンリンカーが付着したプローブを使用した。PCR実験で使用されたプローブの3'末端は、全てリン酸化によって伸長がブロックされている。
【0134】
フェロセニルオリゴヌクレオチドプローブを、相補的標的(陽性反応)および非相補的標的(陰性反応)を増幅したPCR混合物に添加した。フェロセン種の検出を向上させるため、ボルタンメトリック分析に先立って、反応を組合せて濃縮した。
【0135】
ボルタンメトリック分析は、粗製のPCR混合物について行った(図10および11)。各々の分析で、フェロセン関連信号は、陽性反応(消化プローブを含有)で観察される。陰性反応(非消化プローブを含有)では、信号が観察されない。
【0136】
実施例6(a) フェロセンカルボニルアジドの合成
フェロセンカルボン酸を塩化オキサリルとアジ化ナトリウムに反応させてフェロセンカルボニルアジドを調製した。
【0137】
実施例6(b) 4−(3'−フェロセニルレイド)−1−安息香酸のN−ヒドロキシスクシンイミドエステルの合成
【化15】

【0138】
清浄にした丸底フラスコに、窒素下でフェロセンカルボニルアジド(300mg、1.18mmol、1.00当量)、4−アミノ安息香酸(244mg、1.78mmol、1.50当量)、1,4−ジオキサン(40ml)を窒素雰囲気中で収容した。この混合物を窒素下で100℃の湯煎を行いながら2時間50分間攪拌して室温まで冷ました。2Mの塩酸(100ml)を反応混合物に加え、生成物を酢酸エチル(150ml)に抽出した。この相を2Mの塩酸(100ml)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、真空内で濃縮して生成物を得た。これを真空乾燥器でさらに乾燥して、結晶を得た(413mg、96%)。H−NMRδ(300MHz、d−DSMO)、3.96(2H,b,Hc),4.14(5H,s,Ha),4.53(2H,b,Hb),7.54(2H,m,Hf),7.85(2H、m、Hg)、7.98(1H,s,Hd)、8.87(1H,s,He)、12.57(1H、s、Hh)、13C−NMRδ(75.5MHz、d−DSMO),61.0,64.1,66.7,68.1(Ca,d),117.2(Cg),123.5(Cj),130.9(Ch),144.6(Cf),152.8(Ce)。
【0139】
実施例6(c) 4−(3'−フェロセニルレイド)−1−安息香酸のN−ヒドロキシスクシンイミドエステルの合成
ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(194mg、0.939mmol、1.14当量)を、無水1,4−ジオキサン(2ml)に溶解し、これを窒素雰囲気下で清浄な丸底フラスコに収め、さらに、N−ヒドロキシスクシンイミド(108mg、0.939mmol、1.14当量)を加えた。4−(3'−フェロセニルウレイド)−1−安息香酸(300mg、0.823mmol、1.0当量)を、無水1,4−ジオキサン(13ml)に溶解し、前記のフラスコに滴下し、溶液を23時間室温で攪拌した。赤/オレンジの反応混合物からブフナー濾過で少量の薄褐色結晶を除去した。反応混合物に水(100ml)と酢酸エチル(50ml)を加え、酢酸エチル相を分離し、水相を酢酸エチル(100ml)で抽出した。2つ酢酸エチル相を併せて、硫酸ナトリウムで乾燥し、真空で濃縮することで、オレンジ色のオイル状粗製生成物を得た。シリカフラッシュクロマトグラフィーを用い、酢酸エチル60/石油エーテル(bp40〜60℃)40から酢酸エチルへの勾配系にて、前記の粗製生成物を精製した。真空乾燥により、4−(3'−フェロセニルレイド)−1−安息香酸のN−ヒドロキシスクシンイミドエステルを、オレンジ色の微細結晶(237mg、66%)の形で得た。R(酢酸エチル/石油エーテル5:1(bp=40〜60℃)=0.41、H−NMRδ(300MHz,d−DSMO)、2.88(4H,s,Hh)、3.98(2H,t,J=1.8Hz,Hc)、4.16(5H,s,Ha)、4.55(2H,t,J=1.8Hz,Hb)、7.68(2H,m,Hf)、8.00(2H,m,Hg)、8.11(1H,s,Hd)、9.16(1H,s,He)、13C−NMRδ(75.5MHz,d−DSMO)、25.9(Cl)、61.1、64.2(CbとCc)、69.1(Ca)、117.7(Cg)、131.9(Ch)、170.9(Ck)、MS(FAB+m/z)462.07[M+H]。
【0140】
実施例6(d) 3,5−ジ(3'−フェロセニルウレイド)−1−安息香酸の合成
【化16】

【0141】
清浄な丸底フラスコに、フェロセンカルボニルアジド(800mg、3.14mmol、2.5当量)、3,5−ジアミノ安息香酸(194mg、1.25mmol、1.00当量)、1,4−ジオキサン(60ml)を窒素雰囲気で収容した。窒素下でこの反応混合物を100℃の湯煎で1時間攪拌し、室温まで冷却した。冷却した反応混合物に水(300ml)と酢酸エチル(150ml)を添加した。分離を促進するため水相に塩酸を加えた。酢酸エチル相を水(100ml)で洗浄後、静置して固体を沈殿させた。液相を真空濃縮してオレンジ色のオイル状粗製生成物を得た後、トルエン(100ml)と共沸させて乾燥し、薄オレンジ色の固体を得た。シリカフラッシュクロマトグラフィーを使用し、DCM90/MeOH10からDCM50/MeOH50の勾配系にて、前記の固体生成物を精製した。真空乾燥によりオレンジ色の結晶(205mg、27%)を得た。H−NMRδ(300MHz,d−DSMO)、3.95(4H,b,He)、4.14(10H,s,Ha)、4.54(4H,b,Hb)、7.69(2H,s,Hf)、7.81(1H,s,Hg)、8.08(2H,s,Hd)、8.94(2H,s,He)、MS(FAB+m/z)607.07[M+H]。
【0142】
実施例7 4−(3'−フェロセニルレイド)−1−安息香酸オリゴヌクレオチドの合成
5nmol/μl濃度のオリゴヌクレオチドを得るのに適量のKCO/KHCO緩衝液(500mM、pH9.0)にて、凍結乾燥したアミノ変性変異オリゴヌクレオチドを再水和した。アミノ変性オリゴヌクレオチド(40μl、0.5nmolμl−1)を、フェロセン活性エステルのDMSO溶液(40μl、375mM)に、渦巻状に徐々に添加した。得られた溶液を室温で一晩攪拌し、その後、酢酸アンモニウム(920μl、100mM、pH7.0)で稀釈し、2個のNAP10カラムを使用して精製(提示された手順に従う)し、初めに酢酸アンモニウム(100mM、pH7.0)で溶離させ、次に加圧滅菌した脱イオン水で溶離させた。溶離液のオリゴヌクレオチド濃度は260nmで吸光度を測定した。ボルタンメトリック分析でフェロセン標識の存在を確認した。
【0143】
実施例8 4−(3'−フェロセニルウレイド)−1−安息香酸で標識化させた基質/プローブを用いたS1ヌクレア−ゼおよびPCR
4−(3'−フェロセニルウレイド)−1−安息香酸標識化基質/プローブと、表2に記載のボルタンメトリーパラメーターを用いて、実施例4と実施例5を繰り返した。試薬濃度は全て、実施例4、5に記載したものと同じである。4−(3'−フェロセニルレウイド)−1−安息香酸ヌクレオチドのピーク電位は、フェロセン標識化ヌクレオチドと比較して低い。これにより電気化学的マーカーの検出感度が高まる。実施例8の実験では、従って、実施例4と5で行った試料の濃縮を行う必要はなく、手順は大幅に簡素化された。実施例8の結果(記載省略)は、試料の濃縮プロセスを省いても、高感度であることを示すものであった。
【0144】
実施例9 T7エクソヌクレアーゼの基質特異性
200μlのヘアピンオリゴヌクレオチドと、200μlの一本鎖オリゴヌクレオチドを、それぞれ濃度7μMの1xT7反応緩衝液を充填した別々の反応チューブに添加した。T7酵素を各チューブに添加し(5μl、2U/μl)、混合物を25℃で1時間インキュベートした。オリゴは両方とも予めC12リンカーを介してフェロセンで標識化されている。
【0145】
結果は以下のとおりである:
図16aのラインA ヘアピンオリゴヌクレオチド二本鎖の消化
図16aのラインB ヘアピンオリゴヌクレオチド、無酵素対照
図16bのラインA 一本鎖オリゴヌクレオチドの消化
図16bのラインB 一本鎖オリゴヌクレオチドの無酵素対照
【0146】
実施例10 T7エクソヌクレアーゼ消化を用いるPCR増幅
実施例10(a) 5'フェロセン化プライマー及びT7エクソヌクレアーゼ消化を用いるPCR増幅
ヒトゲノムDNA(100μl反応につきl40ng)からPCR増幅を実行した。個々の反応で使用するプライマー、テンプレートおよびプローブは、結果の欄に詳述する。100μlの反応液に含まれたのは、トリスHCl(15mM、pH8.0)、塩化カリウム(50mM)、塩化マグネシウム(3.5mM)、dATP、TTP、dCTP、dGTP(各200μM)、5'フェロセン化フォワードプライマー(0.5μM)、リバースプライマー(0.5μM)、アンプリタックゴールドポリメラーゼ(0.1Uμl−1)、BSA(0.1mgμl−1)である。各試料は95℃で10分間インキュベートされ(初期変性および酵素活性)、その後、95℃で15秒間の変性と、60℃で1分間のプライマーのアニーリングおよび伸長を40サイクル繰り返した。試料を即座に25℃に冷却し、25℃で5分間インキュベートした。T7エクソヌクレアーゼ(5μl、2Uμl−1)を粗製のPCR混合物に添加してさらに20分間インキュベートした。
100μl反応液を2つ調製し、ボルタンメトリック分析に先駆けてプールした。
【0147】
結果は以下のとおりである:
フォワードプライマー:C12リンカーを介してフェロセン化されたMW11w
リバースプライマー:MC11com
図17aのラインA MCAD PCR増幅陽性
図17aのラインB MCAD PCR無タック陰性対照
図17bのラインAおよびB 基線修正データを付した以外は、図17aと同じ
【0148】
実施例10(b) 非変性プライマー、終末点プローブアニーリング、T7エクソヌクレアーゼ消化を用いるPCR増幅
PCR増幅を上述したとおりに行った。PCRを完成させるのに、試料を95℃で2分間加熱し、この間にフェロセン化したオリゴヌクレオチドプローブを添加した(最終濃度0.5μM)。試料を25℃に冷却し、25℃で5分間インキュベートした。T7エクソヌクレアーゼ(5μl、2Uμl−1)を粗製PCR混合物に添加し、試料をさらに20分間インキュベートした。
100μl反応を2つ調製し、ボルタンメトリック分析に先駆けてプールした。
【0149】
結果は以下のとおりである:
βアクチンPCR増幅
ラインAは、陽性PCR標的増幅反応を示し、ラインBは、全て無標的増幅対照を示す。
プローブ:C12リンカーを介してフェロセン化したBAPR
フォワード標的増幅プライマー:BAF
リバース標的増幅プライマー:BAR
フォワード無標的増幅プライマー:GSDF
リバース無標的増幅プライマー:GSDR
図18a 標準データ、陽極掃引
図18b 基線修正データ、陽極掃引
【0150】
HFE遺伝子PCR増幅
ラインAは、陽性PCR標的増幅反応を示し、ラインBは、全て無標的増幅対照を示す。
プローブ:C12リンカーを介してフェロセン化したH63DP
フォワード標的増幅プライマー:H63DF
リバース標的増幅プライマー:H63DR
フォワード無標的増幅プライマー:C282YF
リバース無標的増幅プライマー:C282YR
図19a 標準データ、陽極掃引
図19b 基線修正データ、陽極掃引
【0151】
HFE遺伝子PCRのC282Y突然変異増幅
ラインAは、陽性PCR標的増幅反応を示し、ラインBは全て、無標的増幅対照を示す。
プローブ:C12リンカーを介してフェロセン化したC282YP
フォワード標的増幅プライマー:C282YF
リバース標的増幅プライマー:C282YR
フォワード無標的増幅プライマー:H63DF
リバース無標的増幅プライマー:H63DR
図20a 標準データ、陽極掃引
図20b 基線修正データ、陽極掃引
【0152】
実施例10(c) 非変性プライマー、終点プローブアニーリング、T7エクソヌクレアーゼ消化を用いるPCR増幅:シュトッフェルフラグメント
アンプリタックゴールドDNAポリメラーゼおよび供給緩衝液を、アンプリタックDNAポリメラーゼシュトッフェルフラグメントおよび供給緩衝液に変更した以外、前項で述べたとおりにPCR、プローブアニーリングおよびT7エクソヌクレアーゼ消化を行った。
【0153】
結果は以下のとおりである:
HFE遺伝子PCR増幅
ラインAは陽性、PCR標的増幅反応を示し、ラインBは全て、無標的増幅対照を示す。
プローブ:C12リンカーを介してフェロセン化したC282YP
フォワード標的増幅プライマー:C282YF
リバース標的増幅プライマー:C282YR
フォワード無標的増幅プライマー: H63DF
リバース無標的増幅プライマー:H63DR
図21a 標準データ、陽極掃引
図21b 基線修正データ、陽極掃引
【0154】
実施例10(d) 非変性プライマー、終末点プローブアニーリング、T7エクソヌクレアーゼ消化を用いるPCR増幅:T7エクソヌクレアーゼの対照なし
アンプリタックゴールドDNAポリメラーゼを使用して実施例9cで述べたとおりにPCRおよびプローブアニーリングを行った。T7エクソヌクレアーゼはPCR混合物に添加しなかった。
結果は以下のとおりである:
HFE遺伝子PCR増幅
ラインAは、陽性PCR標的増幅反応を示し、ラインBは全て、無標的増幅対照を示す。
プローブ:C12リンカーを介してフェロセン化したC282YP
フォワード標的増幅プライマー:C282YF
リバース標的増幅プライマー:C282YR
フォワード無標的増幅プライマー: H63DF
リバース無標的増幅プライマー:H63DR
図22a 標準データ、陽極掃引
図22b 基線修正データ、陽極掃引
【0155】
実施例11 フェロセンカルボン酸および4−(3'−フェロセニルウレイド)−1−安息香酸の差分パルスボルタンモグラム分析
10%のDMSOを含む100mMの塩化ナトリウム水溶液を使用して、濃度10μMと濃度1μMのフェロセンカルボン酸溶液を調製し、同様にして、濃度10μMと、濃度1μMの4−(3'−フェロセニルレイド)−1−安息香酸溶液を調製した。各試料200μlについて、金の作用電極を用い、実施例1に記載した装置にて差分パルス分析を行った。差分パルスの条件は表3に示したものと同じである。ボルタンモグラムを図23に示すが、図23(a)および図23(b)はそれぞれ、10μMおよび1μMのフェロセンカルボン酸のボルタンモグラムである。図23(c)および23(d)はそれぞれ、10μMおよび1μMの4−(3'−フェロセニルレイド)−1−安息香酸のボルタンモグラムを示す。
【0156】
実施例12 フェロセン化オリゴヌクレオチド混合物のS1ヌクレア−ゼ消化の差分パルスボルタンモグラム分析
実施例4に詳述したところに従って、3つのオリゴヌクレオチド消化反応を実施した。反応(a)では、12炭素スペーサー原子団(2.5μM)を持つフェロセンによって5'末端が標識化されたBAPRオリゴヌクレオチドと、12炭素スペーサー原子団(1.5μM)を持つ4−(3'−フェロセニルレイド)−1−安息香酸によって5'末端が標識化されたMC11wオリゴヌクレオチドとを基質に使用した。反応(b)では、12炭素スペーサー原子団(2.5μM)を持つフェロセンによって5'末端が標識化されたBAPRオリゴヌクレオチドを基質に用いた。反応(c)では、12炭素スペーサー原子団(1.5μM)を持つ4−(3'−フェロセニルウレイド)−1−安息香酸によって5'末端が標識化されたMCllwオリゴヌクレオチドを基質に使用した。
【0157】
各消化反応が完遂した後、最終電位を0.5Vとした以外は表3に示す条件で、差分パルスボルタンメトリーによる反応混合物の分析を行った。ボルタンモグラムを、図24(a)、24(b)、24(c)にそれぞれ示す。データは基線修正と共に提示されている。図から明らかなように、4−(3'−フェロセニルウレイド)−1−安息香酸の標識では、差分パルスボルタンモグラムのピークが130mV近くであるが、フェロセン標識のピークは370mVの辺りである。図24(a)に示すように、ピークは混合物内で分割できる程度に十分離れている。2つのピークが分割可能なため、この2つの標識は、同じ反応混合物内の2個の異なる標的配列を同時に調べる多重実験で使用するのに適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式XIで示される化合物。
Mc−NR'−C(=O)−X−(Ar)−(L)−R (XI)
式中、
Mcは、各環が独立して置換されて差し支えないあるいは置換されていないメタロセニル基を示し、そのメタロセニル基は、鉄、クロム、コバルト、オスミウム、ルテニウム、ニッケルまたはチタンからなる群から選ばれる金属イオンMを含み、
R'はHまたは低級アルキル基であり、
XはNR'またはOの何れかであり、
Arは置換または非置換のアリール基であり、
nは0または1であり、
Lはリンカー基であり、
mは0または1であり、
Rは標識される原子団あるいは脱離基を含む原子団である。
【請求項2】
Mc基が、低級アルキル基、ヒドロキシ、ハロ、シアノ、オキソ、アミノ、エステルまたはアミド基で置換された低級アルキル基、低級アルケニル基、ヒドロキシ、ハロ、シアノ、オキソ、アミノ、エステルまたはアミド基で置換された低級アルケニル基、アリール基、ヒドロキシ、ハロ、シアノ、オキソ、アミノ、エステルまたはアミド基と置換されたアリール基から選択される1つまたはそれ以上の置換基で置換されている請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Mc基は置換されない請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
金属イオンMが鉄イオンである請求項1〜3の何れかに記載の化合物。
【請求項5】
R'がHである請求項1〜4の何れかに記載の化合物。
【請求項6】
XがNHである請求項1〜5の何れかに記載の化合物。
【請求項7】
n=1である請求項1〜6の何れかに記載の化合物。
【請求項8】
n=0である請求項1〜6の何れかに記載の化合物。
【請求項9】
m=1である請求項1〜8の何れかに記載の化合物。
【請求項10】
m=0である請求項1〜8の何れかに記載の化合物。
【請求項11】
Rが標識された原子団であって、その原子団がアミノ酸、ヌクレオチド、ヌクレオシド、糖質、ペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、炭水化物またはこれらの任意の誘導体である請求項1〜10の何れかに記載の化合物。
【請求項12】
Rが脱離基を含む原子団である請求項1〜10の何れかに記載の化合物。
【請求項13】
Rが、N−ヒドロキシスクシンイミドを含む原子団である請求項12に記載の化合物。
【請求項14】
Rが、標的とハイブリッド形成可能な配列を持つオリゴヌクレオチドを含む請求項1〜11の何れかに記載の化合物。
【請求項15】
電気化学的に活性か、部分開裂後に電気化学的に活性になる請求項1〜14の何れかに記載の化合物。
【請求項16】
メタロセン基が、他の任意の電気化学的活性マーカーによって置換されている請求項1〜15の何れかに記載の化合物。


【図14a】
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【図14b】
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【図15a】
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【図15b】
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【公開番号】特開2009−148284(P2009−148284A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37335(P2009−37335)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【分割の表示】特願2003−573176(P2003−573176)の分割
【原出願日】平成15年2月11日(2003.2.11)
【出願人】(504339505)モレキュラ センシング ピーエルシー (2)
【Fターム(参考)】