説明

電気化学素子用セパレータ

【課題】本発明の課題は、厚みが薄くても、巻回性に優れる電気化学素子用セパレータを提供することにある。
【解決手段】合成短繊維、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維、水溶性多糖類を必須成分として含有してなる湿式不織布からなる電気化学素子用セパレータである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子用セパレータに関する。本発明における電気化学素子とは、リチウム電池、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池、ポリアセン電池、有機ラジカル電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、ハイブリッドキャパシタ、レドックスキャパシタ、アルミ電解コンデンサ、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサなど、蓄電機能や整流機能などを持つ電気化学素子を指す。
【背景技術】
【0002】
電気化学素子用セパレータとしては、例えば、セルロースやレーヨンからなる紙が用いられている(例えば、特許文献1及び2参照)。電気化学素子の内部抵抗を低くするためには、紙に保持される電解液の量を多くすることが重要であり、そのためには紙の密度をできるだけ低くすることが望ましい。しかし、低密度のまま紙の厚みを薄くすると、引張強度や引裂強度が弱くなり、電極と紙とを一緒に巻回する際に紙が破断する問題があった。引張強度や引裂強度の低下を抑えるため、高密度にして厚みを薄くすると、紙が緻密になりすぎて、電解液保持量が低下するため、電気化学素子の内部抵抗や容量維持率などの特性が悪くなる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3661104号公報
【特許文献2】特許第3805851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、厚みが薄くても、巻回性に優れる電気化学素子用セパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、合成短繊維、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維、水溶性多糖類を必須成分として含有する湿式不織布からなることを特徴とする電気化学素子用セパレータを見出した。
【発明の効果】
【0006】
本発明の電気化学素子用セパレータは、合成短繊維、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維、水溶性多糖類を必須成分として含有する湿式不織布からなるため、厚みが薄くても機械的強度が強く、巻回作業時にセパレータが破断しにくい。本発明の電気化学素子用セパレータは、適度な緻密性を有するため、電解液の保持力に優れ、該セパレータを具備してなる電気化学素子は、容量維持率が高い。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の電気化学素子用セパレータ(以下、「セパレータ」と表記することもある)を構成する合成短繊維は、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、アクリル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルエーテル、ポリビニルケトン、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、ジエン、ポリウレタン、フェノール、メラミン、フラン、尿素、アニリン、不飽和ポリエステル、アルキド、フッ素、シリコーン、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、これらの誘導体などの樹脂からなる短繊維が挙げられる。合成短繊維は、セパレータの引張強度や突刺強度を強くする。
【0008】
アクリルとしては、アクリロニトリル100%の重合体からなるもの、アクリロニトリルに対して、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の(メタ)アクリル酸誘導体、酢酸ビニル等を共重合させたもの等が挙げられる。
【0009】
ポリアミドとしては、ナイロンなどの脂肪族ポリアミド、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド−3,4−ジフェニルエーテルテレフタルアミド、ポリ−m−フェニレンイソフタルアミドなどの全芳香族ポリアミド、主鎖の一部に例えば脂肪鎖などを有する芳香族ポリアミドが挙げられる。
【0010】
合成短繊維は、単一の樹脂からなる繊維(単繊維)であっても良いし、2種以上の樹脂からなる複合繊維であっても良い。また、本発明の電気化学素子用セパレータに含まれる合成短繊維は、1種でも良いし、2種類以上を組み合わせて使用しても良い。複合繊維は、芯鞘型、偏芯型、サイドバイサイド型、海島型、オレンジ型、多重バイメタル型が挙げられる。
【0011】
合成短繊維の繊度は、0.007〜1.7dtexが好ましく、0.02〜0.6dtexがより好ましい。合成短繊維の繊度が1.7dtexを超えた場合、厚みを薄くしにくくなる。合成短繊維の繊度が0.007dtex未満の場合、繊維の安定製造が困難になる場合がある。
【0012】
合成短繊維の繊維長としては、1〜10mmが好ましく、1〜6mmがより好ましい。繊維長が10mmを超えた場合、地合不良となることがある。一方、繊維長が1mm未満の場合には、繊維同士の絡みあいが不十分になり、セパレータの引張強度や引裂強度が弱くなって、巻回作業時にセパレータが破断する場合がある。
【0013】
本発明に用いられる溶剤紡糸セルロース繊維とは、セルロース誘導体を経ずに、直接、有機溶剤に溶解させて紡糸して得られるセルロース繊維を意味する。溶剤紡糸セルロース繊維の叩解は、リファイナー、ビーター、ミル、摩砕装置、高速の回転刃により剪断力を与える回転刃式ホモジナイザー、高速で回転する円筒形の内刃と固定された外刃との間で剪断力を生じる二重円筒式の高速ホモジナイザー、超音波による衝撃で微細化する超音波破砕器、高圧ホモジナイザーなどを用いて行う。叩解の程度は、変法濾水度0〜250mlが好ましい。本発明における変法濾水度とは、ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した濾水度を意味する。
【0014】
本発明における叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維は、長さ加重平均繊維長0.20〜2.00mmが好ましい。0.20mm未満だと、抄紙網を通り抜けてしまいやすく、セパレータの製造が難しくなる場合がある。また、湿式不織布が毛羽立ちやすくなる。2.00mmより長いと、繊維が絡まりやすく、地合むらや厚みむらが生じる場合がある。
【0015】
本発明の電気化学素子用セパレータにおいて、合成短繊維と叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維との合計含有率は、50〜100質量%が好ましく、80〜100質量%がより好ましい。合計含有率が50質量%未満だと、セパレータの引張強度や突刺強度が不十分になる場合がある。
【0016】
本発明の電気化学素子用セパレータは、合成短繊維と溶剤紡糸セルロース繊維以外の繊維を含有しても良い。例えば、天然セルロース繊維、天然セルロース繊維のパルプ化物やフィブリル化物、溶剤紡糸セルロースの短繊維、合成樹脂からなるフィブリッド、パルプ化物、フィブリル化物、無機繊維が挙げられる。天然セルロース繊維のパルプ化物やフィブリル化物の変法濾水度は0〜400mlが好ましい。無機繊維としては、ガラス、アルミナ、シリカ、セラミックス、ロックウールが挙げられる。
【0017】
本発明に用いられる水溶性多糖類としては、澱粉、アミロース、プルラン、デキストラン、カードラン、レンチナン、アミロペクチン、グリコーゲン、キシラン、ガラクタン、マンナン、グルコマンナン、グルコマンノグリカン、ガラクトグルコマンノグリカン、グアラン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが挙げられる。
【0018】
本発明の電気化学素子用セパレータの製造方法としては、まず、合成短繊維と叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有する湿式不織布を作製し、この湿式不織布に水溶性多糖類の水溶液を含浸、塗布、噴霧の何れかの方法により接触させ、加熱乾燥して水溶性多糖類を湿式不織布に固着させる方法、合成短繊維、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維、水溶性多糖類を含有する抄紙用スラリーを調製し、これを湿式抄紙して湿式不織布を作製し、電気化学素子用セパレータとする方法が挙げられる。水溶性多糖類の水溶液や水溶性多糖類を含有する抄紙用スラリーには、必要に応じて有機溶媒を添加しても良い。本発明における湿式不織布は、円網抄紙機、長網抄紙機、傾斜型抄紙機、傾斜短網抄紙機、これらの複合抄紙機を用いて作製される。湿式不織布を製造する工程においては、必要に応じて、水流交絡処理を施しても良い。湿式不織布の加工処理として、熱処理、カレンダー処理、熱カレンダー処理などを施しても良い。
【0019】
本発明の電気化学素子用セパレータにおける水溶性多糖類の含有率は、0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜10質量%がより好ましい。0.1質量%未満だと、セパレータの引張強度や引裂強度が不十分になる場合があり、20質量%より多いと、電解液のしみ込みや含浸性が悪くなる場合がある。
【0020】
本発明の電気化学素子用セパレータの厚みは、4〜60μmが好ましく、6〜40μmがより好ましく、8〜30μmがさらに好ましい。60μmを超えると、セパレータの抵抗値が高くなる場合があり、4μm未満であると、セパレータの強度が弱くなりすぎて、セパレータの取り扱い時や塗工時に破損する恐れがある。
【0021】
本発明の電気化学素子用セパレータの密度は、0.200〜0.700g/cmが好ましく、0.400〜0.700g/cmがより好ましい。密度が0.200g/cm未満だと、セパレータの引張強度や引裂強度が不十分になる場合があり、0.700g/cm超だと、セパレータが緻密になりすぎて、電解液保持量が不十分になる場合がある。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0023】
【表1】

【0024】
表1中のA1〜A4は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を意味し、その変法濾水度は表1に示した通りである。B1は、繊度0.06dtex、繊維長3mmのポリエステル短繊維(帝人ファイバー製、商品名:TP04N)、B2は、繊度1.1dtex、繊維長5mmの熱融着性ポリエステル繊維(帝人ファイバー製、商品名:TJ04CN)、B3は、繊度0.1dtex、繊維長3mmのアクリル短繊維(三菱レイヨン製、商品名:ボンネル(登録商標))、B4は、繊度0.3dtex、繊維長5mmのナイロン6,6短繊維、C1は平均繊維径0.6μmのガラス繊維(LAUSCHA製、商品名:B−06−F)、D1は、繊度1.7dtex、繊維長4mmの溶剤紡糸セルロース繊維(レンチング社製、商品名:テンセル(登録商標))を意味する。
【0025】
実施例1〜5
表1に示した水性スラリー1〜5を調製し、円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、湿式不織布1〜5を作製した。ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業製、商品名:メトローズ(登録商標)65SH−400)を2質量%になるように溶解させた水とメチルアルコールの混合溶液を調製し、湿式不織布1〜5に該水溶液を含浸させて、搾り用ロールで余剰液を搾り、130℃で乾燥させて、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを固着させ、カレンダー処理して実施例1〜5の電気化学素子用セパレータとした。水とメチルアルコールの混合比率は、質量比で1:1とした。ヒドロキシプロピルメチルセルロースの固着率は、表2に示した。
【0026】
実施例6〜10
実施例1〜5で作製した湿式不織布1〜5を用い、澱粉(和光純薬製)の2質量%水溶液を含浸させ、130℃で乾燥させて、澱粉を固着させ、カレンダー処理して実施例6〜10の電気化学素子用セパレータとした。澱粉の固着率は、表2に示した。
【0027】
実施例11
表1に示した水性スラリー1を調製した。1−ヘキサノールを1質量%混合した水にヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業製、商品名:メトローズ(登録商標)65SH−400)を2質量%溶解させた水溶液を調製し、これを水性スラリー1に加えて、よく攪拌した。次いで、円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、130℃で乾燥させてヒドロキシプロピルメチルセルロースを固着させ、カレンダー処理して電気化学素子用セパレータを作製した。ヒドロキシプロピルメチルセルロースの固着率は、表2に示した。
【0028】
(比較例1)
実施例1で作製した湿式不織布1をカレンダー処理し、そのまま電気化学素子用セパレータとして用いた。
【0029】
(比較例2)
表1に示した水性スラリー6を調製し、円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、湿式不織布6を作製した。湿式不織布6に、実施例1で使用したヒドロキシプロピルメチルセルロースの水/メチルアルコール混合溶液を含浸させて、搾りロールで余剰液を搾り、130℃で乾燥させてヒドロキシプロピルメチルセルロースを固着させ、カレンダー処理して比較例2の電気化学素子用セパレータとした。ヒドロキシプロピルメチルセルロースの固着率は表2に示した。
【0030】
(比較例3)
表1に示した水性スラリー7を調製し、円網抄紙機を用いて湿式抄紙し、湿式不織布7を作製した。湿式不織布7に、実施例1で使用したヒドロキシプロピルメチルセルロースの水/メチルアルコール混合溶液を含浸させて、搾りロールで余剰液を搾り、130℃で乾燥させてヒドロキシプロピルメチルセルロースを固着させ、カレンダー処理して比較例3の電気化学素子用セパレータとした。ヒドロキシプロピルメチルセルロースの固着率は、表2に示した。
【0031】
(比較例4)
カレンダー処理の圧力を比較例3よりも弱くした以外は、比較例3と同様にして、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを固着させた電気化学素子用セパレータを作製した。ヒドロキシメチルセルロースの固着率は、表2に示した。
【0032】
[評価]
実施例及び比較例で作製したセパレータについて、下記の評価を行い、結果を表2に示した。
【0033】
<セパレータの厚み>
JIS C2111に準拠して厚みを測定し、その平均値を算出した。
【0034】
<セパレータの密度>
JIS C2111に準拠して密度を測定した。
【0035】
<巻回性>
セパレータ、リチウムイオン電池負極、セパレータ、リチウムイオン電池正極の順に積層し、巻回機を用いて巻回し、巻回素子を作製したときの巻回性について判定した。セパレータが破断せず、巻回できた場合を○、セパレータが破断して巻回性に支障を来たした場合を×とした。負極活物質には黒鉛を用い、正極活物質にはLiMnOを用いた。
【0036】
<容量維持率>
<巻回性>の方法で作製した巻回素子を所定の電池缶に入れ、電解液を注入して密封し、実施例及び比較例のセパレータを具備したリチウムイオン電池を作製した。リチウムイオン電池を25℃、100mAで4.2Vまで定電流充電し、さらに4.2Vで3時間充電定充電した後、100mAで3.0Vまで放電したときの放電容量を測定し、これを初期放電容量とした。引き続き、60℃、100mAで充放電を1000時間繰り返し行い、初期放電容量に対する1000時間後の放電容量の割合を算出し、容量維持率とした。容量維持率が大きいほど良い。電解液には、LiPFを1mol/l溶解させたエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶液を用いた。エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合比率は、体積比で3:7とした。
【0037】
【表2】

【0038】
実施例1〜11のセパレータは、合成短繊維、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維、水溶性多糖類を必須成分として含有する湿式不織布からなるため、厚みが薄くても、引張強度が強く、巻回性に優れていた。実施例1〜11のセパレータを具備したリチウムイオン電池は、容量維持率が高く優れていた。
【0039】
一方、比較例1のセパレータは、水溶性多糖類を含有せず、合成短繊維と叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維からなるため、破断しやすく、巻回性が悪かった。
【0040】
比較例2のセパレータは、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有せず、合成短繊維と水溶性多糖類のみからなるため、伸びやすくて破断しやすく、巻回性が悪かった。該セパレータを具備したリチウムイオン電池は、容量維持率が低かった。
【0041】
比較例3のセパレータは、合成短繊維を含有せず、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維と水溶性多糖類のみからなり、高密度であるため、緻密性が高く、該セパレータを具備したリチウムイオン電池は、容量維持率が低かった。
【0042】
比較例4のセパレータは、合成短繊維を含有せず、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維と水溶性多糖類のみからなり、低密度であるため、破断しやすく、巻回性が悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成短繊維、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維、水溶性多糖類を必須成分として含有してなる湿式不織布からなることを特徴とする電気化学素子用セパレータ。

【公開番号】特開2011−253709(P2011−253709A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126633(P2010−126633)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】