説明

電気化学電池過充電保護

【課題】本発明は、陰極、陽極、および担体または溶媒中に過充電保護塩を含む電解質を含んでなる、通常過充電の損傷を受けやすい、電池の改良に関する。
【解決手段】陰極、陽極および過充電保護塩を有する電解質を含んでなる電気化学電池であって、
代表的な過充電保護塩は、式:
MaQ
(式中、Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、テトラアルキルアンモニウム、またはイミダゾリウム基よりなる群から選択され、Qはホウ酸塩クラスターまたはヘテロホウ酸塩クラスターであり、aは整数1または2である)
に包含される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連する出願)
本出願は、同じ発明の名称を有する仮出願米国特許第60/561,193号(2004年4月9日出願)(参照することにより本明細書に組み込まれる)の優先権を主張する。
(連邦政府の支援を受けた研究または開発に関する宣言)
アメリカ合衆国政府は、ANL協定第85N14号に従って本発明に権利を有する。
【背景技術】
【0002】
1次および2次バッテリーは、1つ以上の電気化学電池を含む。リチウムの大きな還元電位、元素リチウムの低分子量、および高い出力密度のために、多くのバッテリーがリチウム電池(リチウムイオン電池としても知られている)を含む。リチウム電池とは、陰極として金属リチウムを含有するバッテリーであり、陰極としてリチウムイオン母材を含有するバッテリーをいう。2次電池の場合、リチウム陽イオンのサイズが小さいことと流動性が高いことが、急速な再充電を可能にする。これらの利点は、リチウム2次バッテリーをポータブル電子機器(例えば、携帯電話やラップトップコンピューター)にとって理想的なものとしている。最近、ハイブリッド電気乗り物市場での用途を有する、より大きなサイズのリチウムバッテリーが開発されている。
【0003】
リチウム2次電池では、最も重要な関心事項の1つは安全性、特に過充電(すなわち、完全に充電された電池への過電圧の印加)が引き起こす安全性問題である。金属酸化物カソードを使用する過充電リチウム電池の1つの危険性は、酸素が発生して、電池内で爆発性の混合物ができる可能性があることである。もう1つの危険は、電池が過熱して、火傷を引き起こす可能性があることである。
【0004】
リチウムベースの2次電池(これは非水性型である)の場合、過充電に対処するために2つの方法が開発されている;1つの方法は化学反応を利用し、他の1つは電子回路を利用する。化学的方法は、典型的に、酸化還元シャトル添加物(可逆的酸化/還元剤とも呼ぶ)の添加を必要とすることであり、これは、完全に充電された電池電圧の少し上で可逆的に酸化される。次に、添加物は酸化状態で電解質溶液中をアノードまで移動し、ここで還元されて元の状態に戻る。電子回路は、典型的には、時に永久的に、活性化された場合の電池を損傷させる。
【0005】
以下の特許は、リチウム2次バッテリーおよび電気化学電池の代表的なものである:
米国特許第5,763,119号明細書は、過充電保護を有する非水性リチウム2次電池を開示する。特許の背景において、化学反応を使用する電池の過充電を防ぐための方法が示唆され、可逆的酸化還元剤を電解質溶液に加えることが推奨されている。Fe、RuおよびCe錯体が、高い酸化−還元電位と高い電気化学的安定性を有し、従って4ボルトクラスのリチウムイオン2次電池の可逆的酸化/還元剤としての使用が記載されている。米国特許第5,763,119号明細書中の過充電の損傷を防ぐための溶液は、金属リチウムアノード、リチウムコバルト酸化物カソード、LiPF6電解質、および炭酸プロピレンと炭酸ジメチルの混合物を含んでなる電池の酸化還元シャトル添加物として、置換ベンゼン、例えばヂメトキシフルオロまたはブロモベンゼンを添加することを必要とする。
【0006】
米国特許第6,004,698号明細書は、トリアゾール、イミダゾール、ピラジン、シアノベンゼンおよび置換1,2-ジオンのアルカリ金属塩に基づく過充電保護のための有機酸化還元シャトル添加物を有する固体ポリマー電解質電気化学的蓄電池を開示している。これらの酸化還元シャトル添加物の閾値電位は、典型的には2.5〜3.3Vの範囲である。
【0007】
米国特許第4,201,839号明細書は、アルカリ金属含有アノード、固体カソード、および電解質(ここで電解質は、非プロトン溶媒中のクロソボラン化合物である)に基づく電気化学電池を開示する。使用されるクロソボランは、式Z2BnXnとZCBmXm(ここで、Zはアルカリ金属であり、Cは炭素であり、Rは、有機水素およびハロゲン原子よりなる群から選択される基であり、Bはホウ素であり、Xは、水素とハロゲンよりなる群から選択される1つ以上の置換基であり、mは5〜11の整数であり、nは6〜12の整数である)である。電気化学電池で使用されるクロソボラン電解質の具体的に開示された例には、オクタブロモオクタホウ酸リチウム、デカクロロデカホウ酸リチウム、ドデカクロロドデカホウ酸リチウムおよびヨードデカホウ酸リチウムがある。
【0008】
米国特許第6,346,351号明細書は、塩と溶媒混合物に基づく陽極構造への高い適合性を有する充電式電池の電解質系を開示する。テトラフルオロホウ酸リチウムとヘキサフルオロリン酸リチウムは、塩の例である。溶媒の例には、炭酸エチレン、炭酸ジメチル、炭酸プロピレンなどがある。技術背景では、リチウム電池の既知の電解質が開示されており、これらには、溶媒に取り込まれる過塩素酸リチウム、ヘキサフルオロヒ酸リチウム、トリフルオロメチルスルホン酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、臭化リチウム、およびヘキサフルオロアンチモン酸リチウム電解質がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、陰極、陽極、および過充電保護を与える塩を含む電解質を含む電気化学電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、1次電池および2次電池、特に過充電からの損傷を受けやすいものに有用である。過充電保護を与える塩はまた、本明細書において過充電保護塩とも呼ぶ。電解質は、過充電保護を与える1つ以上の塩を含んでもよく、というのはこれらの態様では、過充電保護塩もまた電流を運搬するためのイオンを作り出すからである。別の態様では、電池の電解質は、電流を運搬するためのイオンを作り出す1つ以上の不可逆的に酸化可能な塩をさらに含有してもよいが、電解質中に過充電保護塩が存在しないか、または電池のための他の過充電保護手段(例えば、酸化還元シャトル添加物または電子回路)が備えられていないと過充電の影響を受けやすい。不可逆的に酸化可能な塩とともに使用されると、本発明の過充電保護塩は、電流運搬イオンを作り出すことにより電池の伝導率に寄与することができる。単独で使用されても、または電池の電解質中の不可逆的に酸化可能な塩とともに使用されても、典型的には有効量(試験的に決定される)の過充電保護塩が電池に加えられる。電池が完全に充電されることを可能にするために、過充電保護塩の可逆的酸化電位(過充電保護電位)は、電池の設計電圧の0.1〜2ボルト、または0.1〜1ボルト、好ましくは0.1〜0.5ボルト上である。電池の設計電圧は、電池が充電または再充電するように設計される最大電圧である。
【0011】
過充電保護を与える塩(本明細書において過充電保護塩とも呼ぶ)は、以下の式で示される:
MaQ
ここで、Qはアニオンであり、Mはカチオンであり、これはQを可溶性にするか、または電池中の担体で運搬されることを可能にする。Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、テトラアルキルアンモニウム、またはイミダゾリウムよりなる群から選択され、Qは、ホウ酸塩またはヘテロホウ酸塩クラスターであり、aは、整数1または2となることができる。
【0012】
ある実施態様において本発明の電池の電解質は、担体(溶媒)中に、溶液/電極界面を横切るイオンの移動により電流を与える不可逆的に酸化可能な塩をさらに含有してもよい。不可逆的に酸化可能な塩には、リチウム塩、ナトリウム塩およびマグネシウム塩などがある。例えば、担体(電解質溶液)中の不可逆的に酸化可能なリチウム塩は、リチウムイオンが電極物質に出たり入ったりすることを可能にする。同様に不可逆的に酸化可能なナトリウム塩は、ナトリウムまたはナトリウムイオン電池中で特に有用であり、不可逆的に酸化可能なマグネシウム塩は、マグネシウムまたはマグネシウムイオン電池中で特に有用である。ある実施態様において、不可逆的に酸化可能な塩とともに使用される過充電保護塩は、不可逆的に酸化可能な塩と同じカチオン、および/または電池中の1つ以上の電極と同じカチオンを有することが好ましい。
【0013】
ある実施態様において過充電保護塩は、リチウム塩により提供され、不可逆的に酸化可能な塩はリチウム塩、例えばヘキサフルオロリン酸リチウム(これは一般的に安価である)でもよい。電解質が不可逆的に酸化可能なリチウム塩を含む場合、電池は本明細書においてリチウムまたはリチウムイオン電池と呼ぶ。過充電保護塩は酸化還元シャトルとして作用し、こうして過充電時の不可逆的電極反応を防止し、こうして電池の容量および電力を維持し、電池の寿命を伸ばす。過充電保護を与える塩は、リチウムに対して測定した時3.2〜5.0ボルト、3.8〜4.8ボルト、または4.2〜4.6ボルトの可逆的酸化電位を有するように選択することができる。
【0014】
本発明はさらに、過充電保護電位を選択する工程;および該過充電保護電位に基づいて過充電保護塩と担体とを選択する工程とを含む、電池の設計法を提供する。本発明はさらに、該過充電保護塩の過充電保護電位を調節するために担体を変更する工程をさらに含む方法を提供する。本発明はさらに、該過充電保護塩の化学置換基を変更する工程をさらに含む、電池の設計法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】EC:DEC(3:7)中のLi2B12F9H3とLi2B12F12のサイクリックボルタモグラムである。スキャン速度5mV/秒である。
【図2】EC/DEC、EC/PCおよびEC/DEC/PC中のLi2B12F9H3の1mAcm-2でのクロノポテンショメトリーである。
【図3】EC/DEC、EC/PCおよびEC/DEC/PC中のLi2B12F9H3の4.3Vと80Cでのクロノポテンショメトリーである。
【図4】B12FXH12-X2-中の誘電率とxの関数としての電解質閾値電位である。
【図5】種々の電解質溶液を有する電池の過充電サイクリング特性のプロットである。
【図6】種々の電解質溶液を有する電池の過充電サイクリング特性のプロットである。
【図7】種々の電解質溶液を有する電池の過充電サイクリング特性のプロットである。
【図8】種々の電解質溶液を有する電池の過充電サイクリング特性のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
用語「不可逆的に酸化可能な塩」またはその変種は、過充電保護塩または他の過充電保護手段無しに、電池中で電解質として使用される場合、可逆的に酸化されないかまたは過充電を防ぐのに充分な速度で可逆的に酸化されないため、有害な過充電を受けやすい塩を意味する。
【0017】
用語「バッテリー」、「電気化学電池」および「電池(cell)」は本明細書において同義に使用されるが、バッテリーは1〜数百またはそれ以上の電池(cell)を含む。電池は、化学反応により電流を発生させるのに使用される。さらに本発明の電気化学電池は、バッテリー、燃料電池および超蓄電池(ultracapacitors)に使用することができる。
【0018】
用語「担体」は、電解質が溶媒和イオンを含有するように、電解質中に1つ以上の塩類を溶解し解離させる、単一溶媒、または2つ以上の溶媒の混合物、または他の任意の物質(例えばポリマー主鎖)を意味する。
【0019】
用語「電解質」は、本発明の過充電保護塩を含有するバッテリーの一部分を意味し、1つ以上の不可逆的に酸化可能な塩を随時選択的に含み、担体と他の添加物を随時選択的に含む。他の添加物には、不動態皮膜形成性添加物、難燃性添加物、他の酸化還元シャトル添加物がある。
【0020】
用語「電解質塩」は、電流運搬イオンに解離する塩を意味し、本発明の不可逆的に酸化可能な塩および/または過充電保護塩を含むことができる。
【0021】
用語「電解質溶液」は、担体に溶解された本発明の1つ以上の過充電保護塩を意味し、1つ以上の不可逆性電解質塩を随時選択的に含み、他の添加物を随時選択的に含む。
【0022】
「閾値電位」は、サイクリックボルタンメトリー試験で酸化電流が流れ始める電位を意味する。閾値電位は、可逆的酸化/還元電位を知るための有用な基準である。
【0023】
3〜5ボルトまたは4ボルトクラスの電池は一般に、約3.2〜5ボルトの電圧範囲で作動する。現在普及している1つのリチウムイオン電池は、リチウムコバルト酸化物カソードと黒鉛アノードを含み、典型的には2.9〜4.2ボルトの設計電圧範囲で作動する。放電後これらの電池は、所望であれば再充電することができる。リチウム電池が不可逆的に酸化可能な塩を含む場合、特に電子回路の不具合がある場合に、電池を過充電することがある。電池の過充電、すなわち電池の定格電圧より約0.1〜2ボルトの範囲高い電圧を継続することは、カソードを劣化させ、担体を劣化させ、多量の熱が発生する(これは爆発性反応を引き起こすことがある)場合がある。
【0024】
3〜5ボルト、特に4ボルトクラスの電池で使用される代表的な不可逆的に酸化可能な塩には、リチウム塩、例えば過塩素酸リチウム、ヘキサフルオロリン酸リチウム、ヘキサフルオロヒ酸リチウム、トリフルオロメチルスルホン酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸リチウム、臭化リチウム、ヘキサフルオロアンチモン酸リチウム、LiB(C6H54、LiN(SO2CF32、LiN(SO2CF2CF3)、およびビス(キレート)ホウ酸リチウム、例えばLi[(C2O42B]、ビス(ジカルボン酸)ホウ酸リチウム、LiBF3C2F5、およびLiPF3(CF2CF33、またはこれらの任意の2つ以上の混合物がある。
【0025】
本発明は、「リチウムイオン電池」、または不可逆的に酸化可能なリチウム塩を含有する電池に関して記載するが、本発明の過充電保護塩により提供される過充電保護は、他の電気化学電池、特に非水性電解質で作動し、および/または上記の不可逆的に酸化可能な塩を使用する他の電池で有用である。
【0026】
本発明は、2次電池となることができる電池の改良に関し、そして陰極、陽極、セパレータ、および電解質を含んでなる3〜5ボルトクラス、特に4ボルトクラスとなることができる電池であって、該電解質が、担体中である実施態様において過充電保護塩を含む電池の改良に関する。過充電保護塩は、過充電に対して電池を防御するために、そして電池の伝導率に寄与する電解質塩として、使用することができる。電解質中で、1種以上の過充電保護塩を使用することができる。
【0027】
あるいは電解質は、不可逆的に酸化可能な塩をさらに含有してもよい。不可逆的に酸化可能な塩は、過充電を防ぐために可逆的に酸化する能力はほとんどまたは全く与えない電流運搬イオンに解離する塩であり、そして過充電保護塩は、電池の充電または再充電中に電池が過充電することを防ぐ。あるいは過充電保護塩および不可逆的に酸化可能な塩は両方とも、電流運搬イオンを生成することができ、両方とも電池の充電と放電に参加することができるが、しかし過充電保護は、実質的に過充電保護塩により与えられる。過充電保護塩は、過充電保護を与えるのに充分な量で電解質中で使用される。
【0028】
リチウム電池の場合、過充電保護塩のアニオンは、典型的に3.2〜5.0ボルト、好ましくは3.8〜4.8ボルト、さらに好ましくは4.2〜4.6ボルトの可逆的酸化/還元電位対リチウム金属を示すものである。他のタイプの電池については、これらの値は異なり、陰極物質に対するものである。電池の有害な過充電を防ぐためには、可逆的酸化/還元電位(過充電保護電位)は、電池の設計電圧の約0.1〜2Vまたは0.1〜1V上、好ましくは0.1〜0.5ボルト上となるのがよい。過充電保護塩の可逆的酸化/還元電位は、電池の設計電圧より低い、例えば電池の設計電圧の0.1〜0.3ボルト低くてもよいが、そのような塩を用いると、電池は完全充電されない。
【0029】
過充電保護の無い一般的な過充電条件は、カソードで過剰反応を引き起こし、これはカソードに不可逆的損傷を引き起こすことがある。過充電保護塩は、カソードへの不可逆的損傷が始まる電位より低い電位で、好ましくは完全に充電された電池の電位より高い電位で酸化されることにより、カソードでの過剰の反応に対して防御する。過充電保護塩が酸化された後、酸化されたアニオンはアノードに移動することができ、ここで過充電保護塩は可逆的に還元される。過充電保護塩が充分な量で存在する場合は、過充電条件の間、酸化されたアニオンの有効なシャトルがアノードに移動し、元々の形の還元アニオンがカソードに移動することにより、酸化還元プロセスが連続的に繰り返される。
【0030】
好適な過充電保護塩はホウ酸リチウムクラスター塩であり、好ましくはフルオロホウ酸リチウムクラスター塩であり、これはリチウム金属に対する可逆的酸化電位が3.2ボルト〜5ボルトの範囲内である。可逆的酸化/還元電位が3.8〜4.8ボルトであるフルオロホウ酸リチウムクラスター塩およびその可逆的酸化/還元電位が4.2〜4.6ボルトであるフルオロホウ酸リチウムクラスター塩のいくつかは、4ボルト電池(例えば、リチウム−イオン(電解質塩)電池)内での過充電保護に使用するのに特に適している。すなわち、電池中で過充電保護塩としての使用に適したリチウム塩は、電池の設計電圧より少し上の電位で可逆的に酸化される広範囲の塩から選択される塩である。典型的には、これらの塩の可逆的酸化/還元電位は、電池の設計電圧より0.1〜2ボルト高くであり、好ましくは0.5ボルト以下高い。これは、溶媒とカソードの分解、および電池またはバッテリー内の爆発性混合物の生成の機会を最小にする。
【0031】
用語「可逆的に酸化されるかまたは可逆的に還元される」およびその変種は、可逆的または偽可逆的または準可逆的である反応を規定するのに使用する。
【0032】
可逆的酸化/還元を受ける代表的過充電保護塩には、以下の式で示されるものを含む:
MaQ
ここで、Qはアニオンであり、Mはカチオンであり、これはアニオンQを溶媒中で可溶性にする。Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、テトラアルキルアンモニウム、またはイミダゾリウムよりなる群から選択され、Qは1価または2価の、ホウ酸またはヘテロホウ酸塩クラスターアニオンであり、aは1または2である。過充電保護塩は補助的な電解質塩として作用し、例えばMがリチウムである時、過充電保護塩はリチウムイオン電池中の補助的なリチウムイオン電解質として作用する。さらに、ある種の過充電保護塩については、第2の電解質塩は必ずしも必要ではなく、これは、同じ塩が過充電保護塩および電解質塩として使用できることを意味する。用途に応じて、過充電保護塩を電解質への添加物として、または過充電保護塩および電解質塩の両方としても使用できる。過充電保護塩は単独でも、または本発明の2つ以上の過充電保護塩の混合物としても使用できる。基Qは、以下のホウ酸(i)とヘテロホウ酸(iiおよびiii)アニオンから選択される:
【0033】
i)式(B8~12Z8~122-(ここで、ZはF、H、Cl、Brおよび/または(OR)であり、ここでRはH、アルキル、フルオロアルキルもしくはアリールである)のクロソホウ酸塩アニオン組成物。アルキルおよびフルオロアルキル基は、C1~20、C1~8またはC1~3を含有してもよく、フッ素化されているなら、分岐、環状または直鎖のF1~42基を有してもよい。用語アリールは、好ましくは5〜20個の環原子を含有する芳香環系を意味する。組成物は、8〜12個のホウ素原子を含んでなる多面体クラスターであり、ここで各ホウ素は、定義されたように水素、ハロゲン原子、ヒドロキシル基またはアルコキシル基に結合している。
【0034】
ii)式:((R'R''R''')NB8~12Z7~111-のクロソアンモニオホウ酸塩アニオン組成物(ここで、NはBに結合しており、R'、R''、R'''のそれぞれは、水素、アルキルアリール、および/またはポリマーよりなる群から独立に選択され、ZはF、H、Cl、Br、または(OR)であり、ここでRはH、アルキル、フルオロアルキルもしくはアリールである)。これらのアニオン組成物はまた、8〜12個のホウ素原子の多面体ホウ素クラスターであり、ホウ素原子の1つはアンモニア基(NR'R''R''')に結合しており、F、H、Cl、Br、およびOR基は、残りのホウ素原子に結合している。これらのアニオン組成物の説明は、米国特許第6,335,466号明細書に記載されている。米国特許第6,335,466号明細書は、参照することにより本明細書に組み込まれる。アルキルおよびフルオロアルキル基はC1~20、C1~8、またはC1~3を含有してもよく、フッ素化されているなら、分岐、環状または直鎖のF1~42基を有してもよい。用語アリールは、好ましくは5〜20個の環原子を含有する芳香環系を意味する。ポリマーには、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエチレングリコールなどがあり、これらは、アニオンがポリマー支持体に結合することを可能にする。
【0035】
iii)式:((R''''CB7~11Z7~111-のクロソモノカルボン酸塩アニオン組成物(ここで、R''''はCに結合しており、水素、アルキル、シクロアルキル、アリールおよび/またはポリマーよりなる群から選択され;ZはF、H、Cl、Br、および/または(OR)であり、ここでRはH、アルキル、フルオロアルキルもしくはアリールである)。これらのフッ素化クロソモノカルボン酸塩アニオン組成物はまた、7〜11個のホウ素原子と1つの炭素原子を含む多面体クラスターである。そのようなアニオン組成物は、米国特許第6,130,357号明細書に記載されている。米国特許第6,130,357号明細書は、参照することにより本明細書に組み込まれる。アルキルおよびフルオロアルキル基はC1~20、C1~8、またはC1~3を含有してもよく、フッ素化されているなら、分岐、環状または直鎖のF1~42基を有してもよい。用語アリールは、好ましくは5〜20個の環原子を含有する芳香環系を意味する。ポリマーには、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエチレングリコールなどがあり、これらは、アニオンがポリマー支持体に結合することを可能にする。
【0036】
金属ホウ酸塩およびヘテロホウ酸塩化合物の具体例には、Li2B10H0~7Z10(ここでZはCl、ORである)がある。典型的に代表的化合物は、Li2B10Cl10、Li2B10H1~5Cl5~9、Li2B10Cl5~9(OR)1~5、Li2B10H2Cl8、Li2B10H0~7(OCH33、Li2B10Cl8(OH)2、Li2B10Br10、Li2B8Br8、Li2B12Cl12およびLi2B12I12である。他のカチオンを有する例には、Na2B10Cl8(OH)2、NaLiB10H2Cl2、(Me4N)2B12Cl12およびMgB10Cl10がある。
【0037】
可逆的酸化/還元を示す過充電保護塩のいくつかの実施態様は、以下の式で示されるフルオロホウ酸リチウムである:
Li2B10FxZ10-x
および
Li2B12FxZ12-x
ここで、xは、デカホウ酸塩について少なくとも1または少なくとも3であり、ドデカホウ酸塩について少なくとも5または少なくとも8である。ZはH、Cl、BrまたはORであり、ここでR=H、C1~8、好ましくはC1~3アルキルもしくはフルオロアルキルである。添え字xは、4〜12、7〜12、または7〜11となることができ、x値が4〜12、7〜12、または7〜11を有する塩の混合物でもよい。最も好適な化合物は、Li2B12F12とLi2B12FxZ12-x(ここでxは6、7、8、9、10、11および12であるか、またはxは7、8、9、10、および11である)、およびLi2B12FxZ12-x(ここでxは6、7、8、9、10、11および12であるか、またはxは7、8、9、10、および11である)の混合物である。例えば、Li2B12F8H4塩の混合物はLi2B12FxH12-x(ここでxは、主に8であり、より低頻度でx=6、7、9、10、11および12である)である。
【0038】
添え字「10-x」と「12-x」は、それぞれ「10引くx」と「12引くx」を意味する。「〜」を有する他のすべての添え字は範囲を示し、例えば1〜3は1から3を示す。
【0039】
フルオロホウ酸リチウム化合物の具体例はLi2B12F8~12Z0~4(ここでZはCl、BrまたはORであり、ここでRはC1~8、好ましくはC1~3である)である。典型的にはこれらの塩類には、Li2B10F10、Li2B12F12、Li2B12F10~12(OH)0~2、Li2B12F10~12(Cl)2、Li2B12F8~10(H)0~2、Li2B12F8~12(OCF30~4、およびLi2B10F8~10Br0~2が含まれる。
【0040】
本発明の過充電保護塩は、担体の誘電率に伴って、および/または過充電保護塩上の化学的置換基に伴って変化する電位のところで可逆的に酸化されることが見出された。ある実施態様では、閾値電位の変化は大きく、すなわち誘電率の単位毎の上昇について、閾値電位は1mVまたはそれ以上、または2mVまたはそれ以上、または4mVまたはそれ以上、または6mVまたはそれ以上、または15mVまたはそれ以上上昇する。閾値電位のこれらの上昇は、誘電率15〜100について測定された。過充電保護塩および随時選択の担体は、電池の設計に応じて調節することができる。過充電保護塩の閾値電位と過充電保護電位(酸化/還元電位)は、過充電保護塩(ホウ酸クラスター塩)上の化学的置換基、ならびに電解質中のイオンの溶媒和エネルギー(これは担体の関数である)により決定される。例えば、過充電保護塩上の水素またはOH基の存在は、水素またはOH基の代わりに1つ以上のフッ素原子で置換された同じ過充電保護塩と比較して、閾値電位と過充電保護電位(酸化/還元電位)を低下させる傾向がある。あるいは、水素またはOH基またはフッ素の代わりに塩素原子またはO-フルオロアルキルで置換された本発明の過充電保護塩は、電解質中の過充電保護塩の閾値電位および過充電保護電位(酸化/還元電位)を上昇させることができる。さらにデカホウ酸塩に対してドデカホウ酸塩を用いると、異なる閾値電位と過充電保護電位(酸化/還元電位)を与えることができる。
【0041】
過充電保護塩選択の別の要因は、過充電保護塩および電解質の担体中の随時選択の不可逆的に酸化可能な塩のの粘度の差による電解質設計にある。例えばクロロホウ酸リチウムはフルオロホウ酸リチウムより、高い粘度を電解質溶液に与える傾向がある。
【0042】
本発明の過充電保護塩の特徴は、本発明の過充電保護塩が可逆的に酸化される電位が、担体の誘電率の関数であるということである。種々の誘電率および/または粘度の担体を選択することにより、電池設計に従って、過充電保護が種々の電位で起きるように調節することができる。誘電率と粘度はある程度関連しており、すなわち典型的に(必ずしもそうではないが)、溶媒の誘電率が高いほど粘度は高い。担体(溶媒)の誘電率と粘度は、過充電保護塩(複数可)の溶媒和とその(それらの)溶媒和エネルギーに影響を与える。溶媒和エネルギーが高いと、可逆的酸化反応の速度定数が低くなることができ、これは閾値電位をより高くシフトさせる。担体が単一の溶媒の場合、担体の誘電率は溶媒の誘電率を使用して近似することができる。担体は、2つ以上の溶媒の混合物でもよい。種々の誘電率を有する担体は、種々の誘電率の溶媒を種々の比率で混合することにより得ることができる。
【0043】
電池を完全に充電するために、過充電保護電位は、電池の設計電圧より0.1〜2ボルト、または0.1〜1ボルト、または好ましくは0.1〜0.5ボルト高くするのがよい。さらに、電池容量の低下を最小にするために、過充電保護の閾値電位は電池の設計電圧より高くするのがよく、好ましくは電池の設計電圧と等しいかまたはそれより約0.1V高い。溶媒(担体)は、過充電保護の閾値電位が電池の設計電圧より高くなるように、かつ過充電保護塩が、電池の設計電圧より0.1〜2ボルト、または0.1〜1ボルト、または好ましくは0.1〜0.5ボルト上で過充電保護を提供するように、選択することができる。
【0044】
我々は、塩が可逆的過充電防止(酸化/還元)特性を有するかどうか、およびリチウム電池の設計を助けるかどうかを決定するための簡単な検査は、リチウム参照電極に対してPt作用電極を使用して、標準的電解質溶媒(3:7重量比のEC/DMC)中でリチウム塩上の環状サイクリックボルタンメトリースキャンをすることが必要であると確定した。他の塩および電池については、他の参照電極を使用すべきである。我々は、特に有用な塩が、電池の設計電圧より0.1〜2ボルト、または0.1〜1ボルト、または好ましくは0.1〜0.5ボルト高く、および典型的にはLiに対して5ボルトより下の好適な過充電保護電位のところで、酸化電流を示すことを決定した。酸化スキャンの後に還元スキャンをする時、この塩は元々の酸化電位でほとんど同等の還元電流を示すであろう。前述したように、電池の設計電圧より低い酸化/還元電位を有する過充電保護塩を用いることができるが、そのような塩は電池の性能を制限する。
【0045】
過充電保護塩を、典型的に過充電保護を与えるのに充分な有効量で電池に、具体的には電解質に加える。電池の100%の電解質塩として1種以上の過充電保護塩を使用でき、または電池中の電解質の一部として1種以上の過充電保護塩を1種以上の不可逆的に酸化可能な塩に加えることができる。典型的には電池の電解質で使用される総塩量の1〜100%、または1〜99%、または1〜95%、または3〜70%、または約10〜30重量%が過充電保護塩(可逆的酸化/還元電位を有する)であり、これを電池の電解質に加える。より低レベルで過充電保護塩を使用すると、過充電保護塩からのイオン移動が電池内の酸化還元シャトルを行うのに不充分なことがあり、従って例えばリチウムイオンバッテリーでは、過剰のリチウムもカソードから移動して、不可逆的構造変化を引き起こすことがある。すなわち、電池の放電および再充電の設計速度が高い場合、より高レベルの過充電保護塩が必要なことがある。過充電保護塩のレベルは、電池の設計パラメータである。
【0046】
本発明の過充電保護塩、例えば部分的にハロゲン化されたリチウム塩、例えば具体的に説明するフルオロドデカホウ酸リチウムは、これらの塩自体が電解質塩として有用なため、リチウムまたはリチウムイオン電池(リチウム電池)で使用される他の多くの酸化還元シャトル添加物に対して利点を有する。これは、リチウムイオン電池の総容量と電力に影響を与えることなく、これらの部分的ハロゲン化されたリチウム塩類の濃度を、非電解質酸化還元シャトル添加物とは反対に、劇的に増加させることを可能にする。
【0047】
本発明の電池またはバッテリーは、3〜5ボルトのリチウム2次電池、特に4ボルトクラスの電池となることができる。陰極、即ち本発明の電池で使用されるアノードは、非黒鉛化炭素、天然のまたは人工的黒鉛炭素、酸化スズ、リチウム、ケイ素、またはゲルマニウム化合物を含むことができる。任意の従来の陰極組成物を、本発明の過充電保護塩、例えばリチウム塩、特にフッ素化ドデカ水素化ホウ素リチウム塩と組合せて使用することができる。
【0048】
陽性の電極、即ち電池で使用されるカソードは、電池で使用される任意の公知の組成物を含むことができる。リチウムまたはリチウムイオン電池の場合、典型的にはリチウム遷移金属/主族金属複合酸化物が、陽極として使用される。そのような電池のカソードは、LiCoO2、LiNiO2、LiNi1-xCoyMetzO2、LiMn0.5Ni0.5O2、LiMn0.3Co0.3Ni0.3O2、LiFePO4、LiMn2O4、LiFeO2、LiMet0.5Mn1.5O4、酸化バナジウム、またはこれらの任意の2つ以上の混合物を含んでなることができ、ここでMetはAl、Mg、Ti、B、Ga、Si、Ni、またはCoであり、0<x<0.3、0<z<0.5、0<y<0.5である。他の態様において陽極は、式Li1+xMn2-zMetyO4-mXnのスピネル酸化マンガンを含んでなり、ここでMetはAl、Mg、Ti、B、Ga、Si、Ni、またはCoであり、XはSまたはFであり、0<x<0.3、0<z<0.5、0<y<0.5、0<m<0.5、0<n<0.5である。
【0049】
本発明の担体は、有機または無機担体でもよい。担体は非プロトン性となることができる。非プロトン性無機担体には、SO2、SOCl2、SO2Cl2などがある。
【0050】
本発明の電池およびバッテリー用の非プロトン性有機溶媒または担体は、一般的に無水物である。電池の電解質系を生成するための通常の非プロトン性溶媒または担体の例には、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸エチルメチル(EMC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸メチルプロピル(MPC)、炭酸エチルプロピル(EPC)、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸ジプロピル(DPC)、炭酸ビス(トリフルオロエチル)、炭酸ビス(ペンタフルオロプロピル)、炭酸トリフルオロエチルメチル、炭酸ペンタフルオロエチルメチル、炭酸ヘプタフルオロプロピルメチル、炭酸ペルフルオロブチルメチル、炭酸トリフルオロエチルエチル、炭酸ペンタフルオロエチルエチル、炭酸ヘプタフルオロプロピルエチル、炭酸ペルフルオロブチルエチルなど、フッ素化オリゴマー、プロピオン酸メチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸エチル、スルホラン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソランジメトキシエタン、トリグリム、炭酸ジメチルビニレン、テトラエチレングリコール、ジメチルエーテル、ポリエチレングリコール、スルホン、およびガンマ−ブチロラクトン(GBL)、炭酸ビニレン、炭酸クロロエチレン、酪酸メチル、酪酸エチル、酢酸エチル、ガンマ−バレロラクトン、吉草酸エチル、2-メチル-テトラヒドロフラン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、炭酸ビニルエチレン、および2-メチル-1,3-ジオキソランが含まれる。
【0051】
典型的には電解質中に存在する塩は、電解質溶液1リットル当たり0.3〜1.2モルの量で存在するが、これより少量でもまたはより多量でも可能である。
【0052】
本発明の別の実施態様では、電解質系は非プロトン性ゲルポリマー担体/溶媒を含んで成ることができる。好適なゲルポリマー担体/溶媒には、ポリエーテル、ポリエチレンオキサイド、ポリイミド、ポリホスファジン、ポリアクリロニトリル、ポリシロキサン、ポリエーテルグラフトポリシロキサン、上記の誘導体、上記の共重合体、上記の架橋および網状構造体、上記の混合物などがあり、ここに適切なイオン性電解質塩が添加される。リチウム電池で使用される他のゲル−ポリマー担体/溶媒には、ポリプロピレンオキシド、ポリシロキサン、スルホン化ポリイミド、ペルフルオロ化膜(ナフィオン(Nafion)(商標)樹脂)、ジビニルポリエチレングリコール、ポリエチレングリコ−ビス(メチルアクリレート)、ポリエチレングリセロール−ビス(メチルメタクリレート)、上記の誘導体、上記の共重合体、上記の架橋および網状構造体から得られるポリマーマトリックスから調製されるものが含まれる。
【0053】
本発明の電池はさらに、セパレータを有してもよい。電池用のセパレータはしばしば、微多孔ポリマー膜である。膜を作成するためのポリマーの例には以下がある:ナイロン、セルロース、ニトロセルロース、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、フッ化ポリビニリデン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテンなど。上記の任意のポリマー担体はまた、セパレータとしても作用する。最近、セラミックセパレータが評価されている。
【0054】
本発明の電池は特定の形状に限定されず、任意の適切な形状、例えば円筒形、コイン形、四角形、またはプリズム形をとることができる。複数の電池からなるリチウム電池はまた、特定の容量に限定されず、任意の適切な容量、例えば小さな機器に必要な量からハイブリッド電気自動車および電気自動車に必要な容量を有することができる。本発明の電池はさらに、所望であれば追加の過充電保護手段、例えば当業者に公知の酸化還元シャトル添加物または電子回路を有してもよい。
【実施例】
【0055】
以下の例は本発明の種々の実施態様を例示するために提供され、決して本発明の範囲を限定するものではない。
例1: 種々の誘電率を有する溶媒の調製
4重量部のEC(25℃での誘電率89)、5重量部のDEC(25℃での誘電率2.8)および2重量部のPC(25℃での誘電率65)を混合して、誘電率が約40の溶媒混合物を得る:3重量部のECと7重量部のDECを混合して、誘電率が約28の溶媒混合物を得る。純粋な溶媒の誘電率は文献[Kang Xu, Chemical Reviews, 2004, 104, 4303-4417]から得て、溶媒混合物の誘電率は、溶媒混合物についての混合規則を使用して推定した[「リチウムバッテリー(科学と技術)(Lithium Batteries(Science and Technology))」、Glolam-Abbas NazriとGianfranco Pistoia(編)、第17章、M. Nazri, クルーワーアカデミックパブリッシャーズ(Kluwer Academic Publishers)(2004)]。
【0056】
例2: EC/DEC中のLi2B12F9H3の酸化/還元
EC:DEC(3:7)溶液中の0.4M Li2B12F9H3で5mV/秒のスキャン速度で、サイクリックボルタンメトリー試験を行った。作用電極としてPtディスク(面積=0.02cm2)を使用し、対電極および参照電極としてLi箔を使用した。図1と表1は、得られた結果を示す。Li2B12F9H3電解質は、EC:DEC(3:7)溶液中の閾値電位が約4.32Vである。閾値電位をここでは、サイクリックボルタンメトリー試験で観察された0.1 mAcm-2の酸化電流密度に対応する電位として定義する。本例で使用したLi2B12F9H3過充電保護塩は、Li2B12FxH12-x(ここでxは主に9であり、より低頻度でx=6、7、8、10、11および12である)の混合物である。
【0057】
例3: EC/DEC中のLi2B12F12の酸化/還元
EC:DEC(3:7)溶液中の0.4M Li2B12F12で5mV/秒のスキャン速度で、サイクリックボルタンメトリー試験を行った。作用電極としてPtディスク(面積=0.02cm2)を使用し、対電極および参照電極としてLi箔を使用した。図1は、得られた結果を示す。Li2B12F12電解質は、EC:DEC(3:7)溶液中の閾値電位が約4.5Vである。例2と3のデータに基づき、Li2B12F9H3とLi2B12F12の両方が4ボルトリチウムイオン電池の酸化還元シャトルとしてよく適していると予測される。さらに、本例と例2の閾値電位を比較すると、Li2B12F9H3はLi2B12F12より低い閾値電位を有することを示し、従ってホウ酸塩クラスター上のフッ素がより少ないと、より低い閾値電位を与えるはずである。本例で使用したLi2B12F12過充電保護塩は、Li2B12FxH12-x(ここでxは主に12であり、より低頻度でx=10と11である)の混合物である。
【0058】
例4: PC/GBL中のLi2B12F9H3の酸化/還元
PC/GBL(1:1)溶液中の0.4M Li2B12F9H3を使用したこと以外は例2と同様にしてサイクリックボルタンメトリー試験を行った。表1に示すように、Li2B12F9H3の閾値電位はEC/DECよりPC/GBL中で高かった。本例で使用したLi2B12F9H3過充電保護塩は、Li2B12FxH12-x(ここでxは主に9であり、より低頻度でx=6、7、8、10、11および12である)の混合物である。
【0059】
例5: EC/PC中のLi2B12F9H3の酸化/還元
EC:PC(1:1)溶液中の0.4M Li2B12F9H3を使用したこと以外は例2と同様にしてサイクリックボルタンメトリー試験を行った。表1は得られた結果を要約する。Li2B12F9H3の閾値電位は、例2および例4と比較してEC/PC中で高かった。本例で使用したLi2B12F9H3過充電保護塩は、Li2B12FxH12-x(ここでxは主に9であり、より低頻度でx=6、7、8、10、11および12である)の混合物である。
【0060】
例6: EC/DEC/PC中のLi2B12F9H3の酸化/還元
EC:DEC:PC(4:5:2)溶液中の0.4M Li2B12F9H3を使用したこと以外は例2と同様にしてサイクリックボルタンメトリー試験を行った。表1は得られた結果を要約する。Li2B12F9H3の閾値電位は、例2と比較してEC/DEC/PC中で高かったが、例4と5よりは低かった。本例で使用したLi2B12F9H3過充電保護塩は、Li2B12FxH12-x(ここでxは主に9であり、より低頻度でx=6、7、8、10、11および12である)の混合物である。
【0061】
例7: EC/DEC、EC/PCおよびEC/DEC/PC中のLi2B12F9H3のクロノポテンショメトリー
種々の担体[EC:DEC(3:7)、EC:PC(1:1)およびEC:DEC:PC(4:5:2)]中に溶解した0.4M Li2B12F9H3でクロノポテンショメトリーを行った。例2と同様の電気化学電池に、1 mAcm-2の一定電流密度を与えた。作用電極の電位を時間の関数として記録し、上記3つの電解質溶液についての結果を図2に示す。溶媒混合物に依存して、電位は種々の値に安定する。EC:PC溶媒混合物が最も高い電位4.71V対Li/Li+を有し、EC:DEC溶媒混合物は最も低い電位4.52V対Li/Li+を有した。EC:DEC:PC溶媒混合物は4.58V対Li/Li+の電位を与えた。本例で使用したLi2B12F9H3過充電保護塩は、Li2B12FxH12-x(ここでxは主に9であり、より低頻度でx=6、7、8、10、11および12である)の混合物である。
【0062】
例8: EC/DECおよびEC/DEC/PC中のLi2B12F9H3のクロノポテンショメトリー
種々の溶媒[EC:DEC(3:7)およびEC:DEC:PC(4:5:2)]中に溶解した0.4M Li2B12F9H3でクロノポテンショメトリーを行った。例2と同様の電気化学電池に、4.3V対Li/Li+の一定電位を印加し、温度を80℃に維持した。電流を時間の関数として記録し、図3に示す。EC:DEC:PC溶媒混合物と比較してEC:DEC溶媒混合物中で、より高い酸化電流が観察された。本例はLi2B12F9H3が、誘電率の大きいEC:DEC:PC溶媒混合物より、EC:DEC中で酸化が容易であることを示す。本例で使用したLi2B12F9H3過充電保護塩は、Li2B12FxH12-x(ここでxは主に9であり、より低頻度でx=6、7、8、10、11および12である)の混合物である。
【0063】
例9: 計算から得られた酸化/還元電位
上記試験に示した結果に基づいて、与えられた電解質溶液について酸化/還元電位を予測する方法の作成を試みた。溶液中のフルオロドデカホウ酸塩アニオンを、酸化/還元プロセス中に変化するある電荷を有する球形シェルとしてモデル化した。溶媒和エネルギーについての単純なボーン式(Born Equation)(M. Born, Z. Phys., 1920, 1, 45)を使用して、溶媒中の変化に伴う酸化/還元電位のシフトについての式を得た。
【0064】
【数1】

【0065】
ここで、δE(α,β)は、溶媒αから溶媒βに移動する時の酸化/還元プロセスの電位の変化(これは分子またはイオンを状態1から状態2へ運ぶ)である;eは電荷であり、Navはアボガドロ数であり、ε0は自由空間の誘電率であり、kγは溶媒γの誘電率であり、ziは状態iでの酸化/還元種上の電荷(電子の電荷の倍数)であり、riは、状態iでの有効ボーン半径であり、Bは数値7.20eV-Åまたは等価の695(kJ/mol)Åを有する。ここで行ったように、イオンの初期状態と最終状態について有効半径は同じ(r1=r2)であることを仮定することが、時に有効である。単一の有効ボーン半径(r1=r2=2.5Å)は、例2〜6に記載した種々の担体中でのLi2B12F9H3とLi2B12F12について試験的に得た閾値電位データに式を当てはめることにより決定された。得られた式と有効ボーン半径を使用して、溶媒の誘電率の変化に伴うフルオロドデカホウ酸塩アニオンの閾値電位中の変化を予測した。図4は、溶媒誘電率の関数としてのLi2B12F9H3とLi2B12F12電解質の閾値電位を示す。図4の曲線に基づき、溶媒または溶媒の混合物の誘電率が、電解質溶液中の過充電保護塩の酸化電位に影響を与えることが示される。従って、担体の組成を変化させて担体の誘電率を調節して過充電保護塩の酸化電位を調節することにより、電池の設計を最適化することができる。さらに図4は、閾値電位がLi2B12FxH12-x中のxとともに変化することを示す。
【0066】
比較例1: 過充電保護添加物としての1,2-ジメトキシ-4-ブロモベンゼンに対する溶媒の誘電率の影響
過充電保護酸化還元シャトルとしての1,2-ジメトキシ-4-ブロモベンゼンの使用が、米国特許第5,763,119号明細書に開示されていた。0.1Mの4-ブロモ-1,2-ジメトキシベンゼンをEC:DEC(3:7)(誘電率=28)溶液中の1.0M LiPF6とPC溶液(誘電率〜65)中の1.0M LiPF6に加えた。例2〜6に記載のものと同様の電気化学電池でサイクリックボルタンメトリー試験を行った。スキャン速度は20mV/秒であった。EC/DECとPC含有溶媒中の酸化閾値電位は、4,18Vであった。溶媒の誘電率は、酸化閾値電位に影響が無かった。
【0067】
例10: 3:7 EC:DEC中の0.4M Li2B12F9H3を含有するリチウムイオン電池の過充電
陽極、陰極、セパレータおよび電解質を含んでなるコイン形の電池バッテリー(直径20mm、厚さ3.2mm)を、室温で作成した。陽極は、アルミニウム箔カレントコレクタ上のLiCo0.8Ni0.15Al0.05O2(陽極活性物質)84重量%、カーボンブラック(導電性物質)4重量%、SFG-6黒鉛(導電性物質)4重量%、フッ化ポリビニリデン(結合剤)8重量%からなる。陰極は、銅箔カレントコレクタ上のMAG-10黒鉛(アノード活性物質)92重量%、フッ化ポリビニリデン(結合剤)8重量%からなる。セパレータは、微多孔ポリプロピレン膜であるセルガード(Celgard)(登録商標)3501(セルガードインク(Celgard Inc.)から入手できる)である。
【0068】
電解質は、3:7重量のEC:DEC中のLi2B12F9H3の0.4M溶液である。電池を、2mA(1Cレート)の一定電流で4.1Vまで充電し、次に2mA(1Cレート)で3Vまで放電させた。次に電池を2mA(1Cレート)の一定電流で4.1Vより高い電圧まで過充電させた。約4.5Vで電圧のプラトーが観察された。本例で使用したLi2B12F9H3過充電保護塩は、Li2B12FxH12-x(ここでxは主に9であり、より低頻度でx=6、7、8、10、11および12である)の混合物である。
【0069】
例11:4:5:2のEC:DEC:PC中に0.4M Li2B12F9H3を含有するリチウムイオン電池の過充電
電解質が、4:5:2重量のEC:DEC:PC中に0.4M Li2B12F9H3(誘電率〜40を有する)を含んでなる以外は、例10の方法に従って電池を作成し充電した。約4.6Vで電圧のプラトーが観察された。本例で使用したLi2B12F9H3過充電保護塩は、Li2B12FxH12-x(ここでxは主に9であり、より低頻度でx=6、7、8、10、11および12である)の混合物である。
【0070】
例12: EC:PC中に0.4M Li2B12F9H3を含有するリチウムイオン電池の過充電
電解質が、1:1重量のEC:PC中に0.4M Li2B12F9H3(誘電率〜74を有する)を含んでなる以外は、例10の方法に従って電池を作成し充電した。約4.8Vで電圧のプラトーが観察された。本例で使用したLi2B12F9H3過充電保護塩は、Li2B12FxH12-x(ここでxは主に9であり、より低頻度でx=6、7、8、10、11および12である)の混合物である。
【0071】
表1. 種々の担体中のLi2B12F9H3とLi2B12F12の閾値電位
【0072】
【表1】

【0073】
比較例2
LiPF6を用いるリチウム2次電池の過充電評価
炭酸エチレン(EC)と炭酸エチルメチルの3:7重量混合物中のヘキサフルオロリン酸リチウムの0.4モル溶液を電解質として有する、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2カソード対黒鉛アノードを使用して、4ボルトクラスのリチウム電池のサイクリング特性を調べた。電池を、定電流充電と電流密度0.67mA/cm2での放電を使用して、3ボルト〜5.5ボルトでサイクリングさせた。電池の設計電圧は約4.3ボルトである。これは、過充電条件を通常受けやすいリチウム電池の典型である。
【0074】
図5は、携帯電話のリチウムベースの電池で通常使用されるリチウム電解質塩であるヘキサフルオロリン酸リチウムが、過充電保護を与えないことを示す。電流密度10mAでわずかに6サイクル後に、電池は完全に衰えて、それ以上充電も放電もできなかった。
【0075】
この結果はまた、電池が連続的に過充電されると、約50〜60時間後に完全に作動しなくなることを示す。リチウム塩であるヘキサフルオロリン酸リチウムは、可逆的に酸化可能ではなく、過充電を続けるとカソードの分解により不可逆的に容量の喪失をもたらした。
【0076】
例13: 3重量%のLi2B12F12を含むLiPF6を用いるリチウム2次電池の評価
電池に過充電保護を与えるかどうかを調べるために3重量%のLi2B12F12(平均10〜12個のフッ素原子)を加えた以外は、比較例2の方法を繰り返した。電解質としてLiPF6/EC:EMC(3:7)+総塩重量の3重量%のLi2B12F12添加物を有するLiNi0.8Co0.15Al0.05O2対黒鉛アノードを使用して、リチウム電池のサイクリング特性を調べた。電池は、定電流(10mA)充電と電流密度0.67mA/cm2での放電を使用して、3ボルト〜5.5ボルトでサイクリングさせた。結果を図6に示す。
【0077】
図6は、電池が故障することなく、90時間有効にサイクリングできたことを示す。しかし容量はいくぶん低下し、ある程度の過充電保護を行ったが、その電池設計について完全に可逆的な酸化/還元シャトルを与えるのにリチウムドデカフルオロホウ酸塩が不充分であったことを示唆している。
【0078】
例14: Li2B12F12を含むLiPF6塩を用いるリチウム2次電池の塩評価
1.2M LiPF6/EC:DEC(1:1)溶液を等量の0.4M Li2B12F12/EC:DEC(3:7)溶液と混合した以外は、例13の方法を繰り返した。ここでは、Li2B12F12添加物は総塩混合物の約50重量%に相当する。電池は、定電流(10mA)充電と電流密度0.67mA/cm2での放電を使用して、3ボルト〜5.5ボルトでサイクリングさせた。結果を図7に示す。
【0079】
図7の結果は、LiPF6電解質中の0.2M Li2B12F12を使用すると、電池は5.5ボルトの設定電圧まで過充電されず、過充電保護塩の酸化のために約4.6ボルトで平坦なプラトーが観察されたことを示す。この電池設計により、LiPF6塩を有するリチウム2次電池中のLi2B12F12塩の使用は、過充電保護を与え、過充電条件中の酸化還元シャトルをするのに充分な量で存在した。
【0080】
例15
電解質が3:7 EC:DEC中0.4M Li2B12F12を含有した以外は、例13の方法を繰り返した。電池は、定電流(10mA)充電と電流密度0.67mA/cm2での放電を使用して、3ボルト〜5.5ボルトでサイクリングさせた。結果を図8に示す。
【0081】
図8の結果は、3:7 EC:DEC中の0.4M Li2B12F12を使用すると、電池は5.5ボルトの設定電圧まで過充電されず、添加物の酸化のために約4.6ボルトで平坦なプラトーが観察されたことを示す。この結果はまた、唯一の電解質としてのLi2B12F12がリチウムイオン電池の充電と放電を可能にするのに充分であることを示す。
【0082】
例16: 種々のリチウムベースの塩のボルタンメトリー試験
種々のホウ酸リチウムクラスター塩が、電池、例えばリチウムイオン電池の過充電保護を与えるのに充分な候補であるかどうかを調べる目的で、例3の方法に従って試験した。
【0083】
【表2】

【0084】
表2の結果は、多くのホウ酸リチウムクラスター塩が過充電添加物としての使用に充分適していることを示す。Li2B12F3H9以外のすべての塩は、可逆的酸化/還元特性を示した。この塩の中のハロゲンのレベルは低すぎると考えられる。例えば塩Li2B12F5H7は、同様の酸化電位を示したが、より可逆的であった。
【0085】
要約するとこれらの例は、3〜5ボルトクラスの電池の設計範囲内の電圧で可逆的に酸化可能な過充電保護塩を取り込むことにより、電池やバッテリーに過充電保護が付与されることを示す。
【0086】
これらの例はまた、過充電保護塩が充分量で存在すると、連続的酸化還元シャトルとして作用することができ、こうして容量または電力を大きく低下させることなく過充電保護を与えることを示す。より少量の過充電保護塩もある程度の過充電保護を与えるが、特に電池が高い電流密度で作動している時、充分な濃度で電池中に存在しないと、連続的酸化還元シャトルとしては作動しない。例2〜13はまた、これらの塩が、比較例1に示す他の酸化還元シャトル添加物と異なり、担体の誘電率に基づいて、過充電保護の電位の調節を可能にすることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極、陽極、および過充電保護を与える塩を含有する電解質を含んでなる電気化学電池であって、過充電保護を与える前記塩が式:
MaQ
(式中、Mは電気化学的に安定なカチオンであり、Qはホウ酸塩クラスターアニオンまたはヘテロホウ酸塩クラスターアニオンであり、aは1または2である)
の塩を含む電気化学電池。
【請求項2】
担体をさらに含み、前記過充電保護を与える塩が、前記担体の誘電率とともに変化する電位で酸化される、請求項1記載の電池。
【請求項3】
前記電解質が不可逆的に酸化可能な塩をさらに含む、請求項1記載の電池。
【請求項4】
Mが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、テトラアルキルアンモニウム、およびイミダゾリウムよりなる群から選択される、請求項1記載の電池。
【請求項5】
Mがリチウムである、請求項1記載の電池。
【請求項6】
Qが、式(B8~12Z8~122-のクロソホウ酸塩アニオン(ここで、ZはF、H、Cl、Brまたは(OR)であり、ここでRはH、アルキル、フルオロアルキルまたはアリールである)、式((R'R''R''')NB8~12Z7~111-のクロソアンモニオホウ酸塩アニオン組成物(ここで、NはBに結合しており、R'、R''、R'''のそれぞれは、水素、アルキル、シクロアルキル、アリールおよびポリマーよりなる群から独立に選択され、ZはF、H、Cl、Br、または(OR)であり、ここでRはH、アルキル、フルオロアルキルまたはアリールである)、および式(R''''CB7~11Z7~111-のクロソモノカルボン酸塩アニオン組成物(ここで、R''''はCに結合しており、水素、アルキル、シクロアルキル、アリールおよびポリマーよりなる群から選択され;ZはF、H、Cl、Br、または(OR)であり、ここでRはH、アルキル、フルオロアルキルまたはアリールである)よりなる群から選択される、請求項1記載の電池。
【請求項7】
Qが、式(B8~12Z8~122-(ここで、ZはF、H、Cl、Br、または(OR)であり、ここでRはH、C1~8アルキルまたはC1~8フルオロアルキルである)のクロソホウ酸塩アニオンである、請求項6記載の電池。
【請求項8】
添え字aが2である、請求項7記載の電池。
【請求項9】
過充電保護を与える塩が、Li2B10H0~7Z3~10(ここでZはClまたはORである)、Li2B10Cl10、Li2B10H1~5Cl5~9、Li2B10Cl5~9(OR)1~5、Li2B10H2Cl8、Li2B10H0~7(OCH33~10、Li2B10Cl8(OH)2、Li2B10Br10、Li2B8Br8、Li2B12Cl12およびLi2B12I12よりなる群から選択される、請求項8記載の電池。
【請求項10】
前記不可逆的に酸化可能な塩がリチウムを含む、請求項3記載の電池。
【請求項11】
前記不可逆的に酸化可能な塩が、過塩素酸リチウム、ヘキサフルオロリン酸リチウム、ヘキサフルオロヒ酸リチウム、ヘキサフルオロホウ酸リチウム、トリフルオロメチルスルホン酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸リチウム、臭化リチウム、ヘキサフルオロアンチモン酸リチウム、LiB(C6H54、LiN(SO2CF32、LiN(SO2CF2CF3)、およびビス(キレート)ホウ酸リチウム、またはこれらの任意の2つ以上の混合物よりなる群から選択される、請求項9記載の電池。
【請求項12】
担体をさらに含み、前記担体が、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸エチルメチル(EMC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸メチルプロピル(MPC)、炭酸エチルプロピル(EPC)、炭酸ジプロピル(DPC)、炭酸ビス(トリフルオロエチル)、炭酸ビス(ペンタフルオロプロピル)、炭酸トリフルオロエチルメチル、炭酸ペンタフルオロエチルメチル、炭酸ヘプタフルオロプロピルメチル、炭酸ペルフルオロブチルメチル、炭酸トリフルオロエチルエチル、炭酸ペンタフルオロエチルエチル、炭酸ヘプタフルオロプロピルエチル、炭酸ペルフルオロブチルエチル、フッ素化オリゴマー、プロピオン酸メチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸エチル、スルホラン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソランジメトキシエタン、トリグリム、炭酸ジメチルビニレン、炭酸ビニレン(VC)、炭酸ビニルエチレン(VEC)、炭酸クロロエチレン、テトラエチレングリコール、ジメチルエーテル、ポリエチレングリコール、スルホン、ガンマブチロラクトン(GBL)、酪酸メチル、酪酸エチル、酢酸エチル、ガンマ−バレロラクトン、吉草酸エチル、2-メチル-テトラヒドロフラン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、および2-メチル-1,3-ジオキソランよりなる群から選択される、請求項10記載の電池。
【請求項13】
前記過充電保護を与える塩が、式:
Li2B10FxZ10-x
および
Li2B12FxZ12-x
(式中、xは、デカホウ酸塩について少なくとも3であり、ドデカホウ酸塩について少なくとも5であり、ZはH、Cl、BrまたはORであり、ここでR=H、C1~8アルキル、フルオロアルキル、またはアリールである)
で示される化合物よりなる群から選択されるフルオロホウ酸リチウムである、請求項4記載の電池。
【請求項14】
前記フルオロホウ酸リチウムが、前記電池の電圧より0.1〜2ボルト高い可逆的酸化電位を有する、請求項13記載の電池。
【請求項15】
前記フルオロホウ酸リチウム塩が、前記不可逆的に酸化可能な塩の総重量の3〜70重量%の量で添加され、過充電保護を与える前記塩が前記電池中に存在する、請求項14記載の電池。
【請求項16】
前記不可逆的に酸化可能な塩が、過塩素酸リチウム、ヘキサフルオロリン酸リチウム、ヘキサフルオロヒ酸リチウム、ヘキサフルオロホウ酸リチウム、トリフルオロメチルスルホン酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸リチウム、臭化リチウム、ヘキサフルオロアンチモン酸リチウム、LiB(C6H54、LiN(SO2CF32、LiN(SO2CF2CF3)、ビス(キレート)ホウ酸リチウム、ビス(ジカルボン酸)ホウ酸リチウム、LiBF3C2F5、およびLiPF3(CF2CF33、またはこれらの任意の2つ以上の混合物よりなる群から選択される、請求項15記載の電池。
【請求項17】
過充電保護を与える前記塩が、Li2B12F12、Li2B12FxH12-x(x=10、11、および/または12)、Li2B12FxCl12-x(x=6、7、8、9、10、11、および/または12)、Li2B12Fx(OH)12-x(x=10および/または11)、Li2B12F10(OH)2、Li2B12F5H7、およびLi2B10Cl10よりなる群から選択される、請求項15記載の電池。
【請求項18】
前記非プロトン性有機担体が、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸エチルメチル(EMC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸メチルプロピル(MPC)、炭酸エチルプロピル(EPC)、炭酸ジプロピル(DPC)、炭酸ビス(トリフルオロエチル)、炭酸ビス(ペンタフルオロプロピル)、炭酸トリフルオロエチルメチル、炭酸ペンタフルオロエチルメチル、炭酸ヘプタフルオロプロピルメチル、炭酸ペルフルオロブチルメチル、炭酸トリフルオロエチルエチル、炭酸ペンタフルオロエチルエチル、炭酸ヘプタフルオロプロピルエチル、炭酸ペルフルオロブチルエチルなど、フッ素化オリゴマー、プロピオン酸メチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸エチル、スルホラン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソランジメトキシエタン、トリグリム、炭酸ジメチルビニレン、炭酸ビニレン(VC)、炭酸ビニルエチレン(VEC)、炭酸クロロエチレン、テトラエチレングリコール、ジメチルエーテル、ポリエチレングリコール、スルホン、ガンマブチロラクトン(GBL)、酪酸メチル、酪酸エチル、酢酸エチル、ガンマ−バレロラクトン、吉草酸エチル、2-メチル-テトラヒドロフラン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、および2-メチル-1,3-ジオキソランよりなる群から選択される、請求項17記載の電池。
【請求項19】
設計電圧を有し、陰極、陽極、および過充電保護を与える塩を含有する電解質を含んでなる電気化学電池。
【請求項20】
前記過充電保護を与える塩が、酸化/還元シャトルとして作用するために電池の設計電圧より0.1〜2ボルト高い可逆的酸化電位を有する、請求項19記載の電池。
【請求項21】
前記過充電保護を与える塩が、次式:
Li2B10X10、または
Li2B12X12
(式中、xは、H、F、Cl、Br、またはOHである)
で示される塩を含む、請求項19記載の電池。
【請求項22】
前記過充電保護を与える塩が、次式:
Li2B10F8~10Z0~2、または
Li2B12F10~12Z0~2
(式中、Zは、HまたはClである)
で示される塩を含む、請求項21記載の電池。
【請求項23】
過充電保護電位を選択する工程;および
過充電保護塩と、前記過充電保護電位に基づく担体とを選択する工程、
を含んでなる電池を設計する方法。
【請求項24】
前記過充電保護塩の過充電保護電位を調節するために担体を変更する工程をさらに含んでなる、請求項23の方法。
【請求項25】
前記過充電保護塩上の化学置換基を修飾する工程をさらに含んでなる、請求項23の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−253827(P2011−253827A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−176485(P2011−176485)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【分割の表示】特願2005−114017(P2005−114017)の分割
【原出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】