説明

電気機械変換装置

【課題】加わる圧力による弾性波送受信手段の送受信特性の変動を補正ないし補償することができる電気機械変換装置を提供する。
【解決手段】超音波などの弾性波の送受信を行う電気機械変換装置102は、弾性波を送受信する弾性波送受信手段201と、弾性波送受信手段に加わる圧力を検出する圧力検出手段203と、補正手段202、204と、を有する。補正手段は、圧力検出手段により検出された圧力情報を基に、弾性波送受信手段に係る弾性波送受信信号の補正と弾性波送受信手段の送受信特性の補正との少なくとも一方の補正を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波などの弾性波の送受信(本明細書で送受信と言う場合、送信と受信のうちの少なくとも一方を意味する)を行う超音波プローブなどの電気機械変換装置、それを用いた測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波プローブを用いて、測定対象に超音波を送信し、測定対象で反射した超音波を受信することで、測定対象の情報を得る測定方法がある(引用文献1参照)。この測定方法で超音波診断を行う際には、ジェルなどを介して、測定対象である生体に押し付けた状態で超音波プローブを使用する。こうしたプローブが有する超音波発生・検出用の送受信トランスデューサとして、圧電素子(PZT)や高分子膜(ポリフッ化ビニリデン(PVDF))のトランスデューサなどが用いられている。他に、こうした超音波プローブのためのトランスデューサとして、静電容量型超音波トランスデューサであるCMUT(Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducer)が用いられる。CMUTは、半導体プロセスを応用したMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)プロセスを用いて作製することができ、広い帯域を有する。そのため、CMUTを用いた超音波プローブで測定した場合、帯域の狭いプローブを用いた場合に比べて、測定対象の詳細な情報を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】US−A1−20060004290明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超音波プローブで測定する場合、測定対象と接する超音波プローブの面にかかる外部圧力により、プローブ表面に配置された超音波送受信手段の送信や受信の特性(送受信手段への入力と出力との関係の周波数分布を表す送受信特性)が変化する。この様に、トランスデューサに加わる圧力に想定値からの変動ないしズレがあると、トランスデューサ内で送受信特性の意図しない変動が発生する。そして、送受信特性の変動が生じたトランスデューサで取得した超音波情報を基に、例えば、測定対象の画像化を行うと、画像の解像度低下が発生することとなる。上記特許文献に開示された装置は、超音波検出用素子とは別に圧力検出用素子を有するが、これは、超音波検出用素子が測定対象に適切に接触しているかを検出する素子であって、上記送受信特性の意図しない変動に係る課題を解決しようとするものではない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を鑑みて、音波、超音波、音響波などの弾性波の送信又は受信のうち少なくとも一方を行う本発明の電気機械変換装置は、超音波を送受信する弾性波送受信手段と、弾性波送受信手段に加わる圧力を検出する圧力検出手段と、補正手段と、を有する。そして、前記補正手段は、前記圧力検出手段により検出された圧力情報を基に、前記弾性波送受信手段に係る弾性波送受信信号の補正と前記弾性波送受信手段の送受信特性の補正との少なくとも一方の補正を行う。また、上記課題を鑑みて、本発明の測定装置は、前記電気機械変換装置を備える。そして、電気機械変換装置からの圧力情報を基に作成した画像補正信号で、電気機械変換装置からの弾性波受信信号を基に作成した画像化用情報信号を補正することによって測定対象の画像化を行う画像化手段を有する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、圧力検出手段で検出された圧力情報を基に、電気機械変換装置の弾性波送受信手段に外部から加わる圧力による送受信特性の変動を補正ないし補償することができる。そのため、電気機械変換装置に外部圧力が作用する場合でも、弾性波情報を正確に取得することができる。従って、電気機械変換装置で取得した弾性波情報を基に、例えば、測定対象の画像化を行う様な場合、解像度低下の少ない画像が得られ、より正確な測定対象の情報を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1の実施形態の電気機械変換装置及びその変形例を説明する図。
【図2】第2及び第3の実施形態の電気機械変換装置を説明する図。
【図3】第4及び第5の実施形態の電気機械変換装置を説明する図。
【図4】電気機械変換装置を含む第6の実施形態の超音波測定装置を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明で重要な点は、検出圧力情報を基に、送受信手段に係る弾性波送受信信号(即ち、送受信手段に入力する送信信号と送受信手段から出力する受信信号の少なくとも一方)の補正と送受信手段の送受信特性の補正との少なくとも一方の補正を行うことである。言い換えれば、本発明の電気機械変換装置では、弾性波を検出したり送出したりする送受信手段とは別に圧力検出用の圧力検出手段を設け、圧力検出手段で得た圧力情報を、送受信手段の送受信特性の補正や補償のためにフィードバックする。ここで、弾性波送受信手段の送受信特性の補正とは、送受信手段を制御して送受信特性の変動を補正することを指す。これに対して、弾性波送受信手段の送受信特性の補償とは、送受信手段の送受信特性の変動自体はそのままにして送受信手段への送信信号の補正又はこれからの受信信号の補正を行うことで間接的に送受信特性の変動を補正することを指す。前記補正と補償は、通常は一方を行えばよいが、一方のみでは補正しきるのが困難である場合などには、前記補正と補償の両方を行う様にしてもよい。
【0009】
上記考え方に基づき、本発明の電気機械変換装置及びそれを用いた測定装置の基本的な形態は、課題を解決するための手段のところで述べた様な構成を有する。この基本的な形態を基に、以下に述べる様な実施形態が可能である。例えば、送受信手段を、空隙を挟んで対向した複数の電極を持つ静電容量型トランスデューサを含む構成にし、補正手段を、電極間のバイアス電圧などを変化させて静電引力を変化させることで送受信手段の送受信特性の補正を行う構成にできる(後述の第2の実施形態を参照)。また、補正手段を、送受信手段への弾性波送信信号と送受信手段からの弾性波受信信号との少なくとも一方の補正を行う構成にすることもできる(後述の第1の実施形態等を参照)。
【0010】
また、圧力検出手段が、送受信手段が持つ周波数特性(即ち、送受信特性の周波数分布)における利用可能な周波数範囲より低い周波数の圧力に対して応答する周波数特性を有する様にできる(後述の第3の実施形態等を参照)。また、圧力検出手段を、対向して設けられた複数の電極を含む静電容量型トランスデューサを含む構成にすることができる(後述の第3の実施形態等を参照)。この場合、圧力検出手段を、前記電極間の容量を所定の周波数の信号で変調する変調手段と、所定の周波数の信号が重畳したトランスデューサからの電流信号を、所定の周波数の信号を用いて復調する復調手段を含む構成にできる(後述の第4の実施形態を参照)。ここで、前記所定の周波数は、圧力検出手段の周波数特性における利用可能な周波数範囲より高く、且つ送受信手段が持つ周波数特性における利用可能な周波数範囲の外にある。また、複数の送受信手段と複数の圧力検出手段とを有する構成にし、補正手段を、複数の圧力検出手段で夫々検出された圧力情報を基に複数の送受信手段の夫々について前記補正を行う構成にできる(後述の第5の実施形態を参照)。
【0011】
以下、図面を用いて、本発明による電気機械変換装置の実施形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
第1の実施形態の電気機械変換装置を示す図1(a)に示す様に、本実施形態は、弾性波送受信手段201に加わる圧力305を検出する圧力検出手段203による圧力情報を基に、送受信手段201の送受信特性の補償を行う。図1(a)において、101は生体などの測定対象、102は電気機械変換装置、103は画像化手段、202は、送受信手段201に係る送信信号303と受信信号304の処理を行う駆動・検出信号処理手段である。また、204は、送受信手段201の送受信特性の補償を行うための補正手段、301、302は夫々送信及び受信超音波、306は、圧力検出手段203からの圧力検出信号である。更に、307は、送受信信号を補正するための補正信号、308は、駆動・検出信号処理手段202から画像化手段103へ出力される画像化用情報信号、309は、画像化用情報信号308を基に画像化手段103で作成された画像信号である。
【0012】
本実施形態では、電気機械変換装置102は、送受信手段201、信号処理手段202、圧力検出手段203、補正手段204を含み、測定対象101に接触して配置されている。送受信手段201は、測定対象101に向かって超音波を送信し、反射などの作用を受けて測定対象101内部から来る超音波を受信する。送受信手段201は、信号処理手段202から超音波送信信号303が入力されて駆動されることにより超音波の送信を行う。また、送受信手段201は、超音波を受信して超音波受信信号304を信号処理手段202に出力する。ここでは、送受信に係る超音波の周波数は、通常1MHzから10MHz位の範囲である。弾性波送受信手段201には、PZTなどの圧電素子、PVDFなどの高分子素子、静電容量型トランスデューサなどを用いることができる。
【0013】
圧力検出手段203は、弾性波送受信手段201に外部から加わる圧力305を検出し、圧力検出信号306を補正手段204に出力する。圧力検出手段202としては、送受信手段201に加わる圧力305を検出できるものであれば、どの様なものでも用いられる。補正手段204は、変化する圧力305と弾性波送受信手段201の送受信特性との関係を保持している。この送受信特性とは、弾性波送受信手段201への入力信号に対する出力信号の関係を表すものである。例えば、入力電気信号に対する出力波の関係であったり、入力波に対する出力電気信号の関係であったりする。本実施形態では、補正手段204は、保持している上記関係を基に、圧力検出信号306から、信号処理手段202における信号補正のための補正信号307を作成し、信号処理手段202に出力する。
【0014】
信号処理手段202は、送受信補正信号307を基に調整した超音波送信信号303を送受信手段201へ出力したり、送受信補正信号307を基に送受信手段201からの超音波受信信号304を調整して画像化用情報信号308を作成したりする。信号処理手段202から出力された画像化用情報信号308は、電気機械変換装置102のプローブから画像化手段103に送られて測定対象101の画像化が行われ、画像信号309として出力される。ここでは、予め、送受信手段201に加わる圧力と送受信手段201の送受信特性との関係が分かっているので、検出された圧力信号306を基に、超音波送信信号303や超音波受信信号304を調整ないし補正して送受信特性の補償を行うことができる。例えば、圧力305が小さくなった時に超音波の送受信効率が低下するのであれば、次の様にして補正を実施する。即ち、信号処理手段202において、送信信号303の振幅を大きくして送信超音波を調整したり、受信信号304を画像化用情報信号308に変換するときの倍率を大きくしたりする。こうして、圧力信号306を基に、弾性波送受信手段201の送受信特性の変化を補償すべく送受信手段201への超音波送信信号303の補正と超音波受信信号304の補正のうちの少なくともどちらかを行う。
【0015】
本実施形態では、送受信手段201の送受信特性の変動自体を補正するのではなく、送受信手段201への超音波送信信号303の補正や送受信手段201からの超音波受信信号304の補正を行って、結果的に送受信手段201の送受信特性の変化を補償する。本実施形態において、圧力検出手段203と補正手段204を動作させる時間は種々に設定され得る。例えば、圧力検出手段203による圧力検出作用と受信超音波302との間の相互影響が殆どなければ、送受信手段201の動作中も圧力検出手段203を動作させておいて上記補正をリアルタイムで実行することができる(後述の第3の実施形態などを参照)。或いは、こうした影響が懸念される場合は、送受信手段201の動作休止時に、定期的或いは不定期的に間隔をおいて圧力検出手段203を動作させて、補正手段204が上記補正に係る設定を信号処理手段202に対して行ってもよい。また、送受信手段201の動作開始時に、圧力検出手段203を動作させて補正手段204が上記補正に係る設定を信号処理手段202に対して行ってもよい。
【0016】
図1(a)に示す本実施形態では、電気機械変換装置102は、弾性波送受信手段201、信号処理手段202、圧力検出手段203、補正手段204を備えているが、図1(b)に示す構成にすることもでき。即ち、補正手段204や信号処理手段202の一部が電気機械変換装置102の外部に配置された構成にすることもできる。こうした構成により、電気機械変換装置102での信号処理の負荷を減らし構成を簡略化することができる。そのため、電気機械変換装置102をより小型化できる。
【0017】
本実施形態によれば、圧力検出手段で検出された圧力情報を基に、送受信手段への送信信号の補正や送受信手段からの受信信号の補正を行う。これにより、電気機械変換装置の送受信手段に加わる圧力による送受信特性の変動を補償でき、電気機械変換装置に圧力が作用する場合でも、弾性波情報を正確に取得することができる。
【0018】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態を、図2(a)を用いて説明する。第2の実施形態は、弾性波送受信手段201の構成と、送受信手段の送受信特性の変動に対する対処方式が第1の実施形態と異なる。それ以外は、第1の実施形態と同じである。本実施形態は、弾性波送受信手段201に静電容量型トランスデューサであるCMUTを用いており、CMUTの電極間の静電引力を変化させて送受信手段201の送受信特性を直接的に補正していることを特徴とする。
【0019】
本実施形態を示す図2(a)において、401は送受信手段201の振動膜、402はその上部電極、403はその支持部、404はその空隙、405はその下部電極、406はその基板である。また、501は送受信手段201の直流電位印加手段、502は送受信手段201の信号処理手段である。この弾性波送受信手段201では、振動膜401上に上部電極402が形成され、その振動膜401は、基板406上に形成された支持部403により支持されている。基板406上には、振動膜401上に形成した上部電極402に対して空隙404(通常数十nm〜数百nm)を挟んで対向した下部電極405が配置されている。振動膜401は、送受信する超音波の周波数(通常1MHzから10MHz程度)で振動を起こし易い様に、形態の数値が設定されている。CMUTは、PZTなどのトランスデューサに比べて、帯域が広い。従って、トランスデューサにCMUTを用いることで、より広い帯域の超音波送受信を行うことができ、測定対象に関して、例えば、より詳細な情報を有した画像化が実現できる。
【0020】
上部電極402には、下部電極405との間で所望の電位差が発生する様に、直流電位印加手段501により所定の直流電位が印加されている。下部電極405に信号処理手段502から交流の駆動信号303を印加することで、電極間に交流の静電引力が発生し、振動膜401を或る周波数で振動させて超音波301を送信することができる。また、振動膜401が超音波302を受けて振動することで下部電極405に静電誘導により微小電流が発生し、その電流を信号処理手段502により処理することで、超音波の受信信号304を取り出せる(超音波301、302については図1参照)。
【0021】
本実施形態のCMUTの送受信特性と、加わる圧力との関係を説明する。通常、セルの空隙404内部の圧力は外部の圧力より減圧されており、外部圧力と空隙404の内部圧力との差により発生する力により、振動膜401は基板406側に撓んでいる。この振動膜401の撓み量は、印加される圧力が同じであるとすると、振動膜の大きさ、形、厚さ、膜質などのパラメータによるメカニカルな特性によって決定される。また、CMUTの動作時には、上述した様に、上下電極間には所定の電位差が印加され、電極間に発生する静電引力により、振動膜401は、外部からの圧力による撓みに加えて、更に基板406側に撓んだ状態になる。これは、超音波の送受信効率を高めるためである。超音波301を送信する場合には、電極間の静電引力は距離の二乗に反比例するため、電極間の距離を近づけた方が高効率となる。一方、超音波302を受信する場合にも、検出される微小電流の大きさは、電極間の距離に反比例し、電極間の電位差に比例するので、やはり電極間の距離を近づけた方が高効率となる。この様に、振動膜401の動作時の撓み量は、超音波の送受信特性を決定する大きなファクターである。ここで、CMUTに加わる圧力が変化した場合を考える。外部からの圧力が変化すると、上下電極間に静電引力がない場合における振動膜401の基板406側への撓み量が変わってしまう。そのため、上下電極間に所定の電位差を印加し所定の静電引力を発生させた場合でも、振動膜401の撓み量が変わってくる。この撓み量に対応して、超音波の送受信特性も変わってしまう。以上のことから、CMUTの超音波の送受信特性は、外部圧力の変化の影響を受け易いことが分かる。
【0022】
本実施形態では、圧力検出手段203からの圧力検出信号306を基に生成された送受信補正信号307を基にして、直流電位印加手段501が印加する電位を変化させて、CMUTの上下電極間の電位差を変化させる。上下電極間の電位差により、電極間に発生する静電引力が変化し、振動膜401の撓み量が変化する。本実施形態は、この撓み量の変化で、CMUTの送受信特性を補正ないし調整することが特徴である。この構成では、外部圧力の変化があった場合でも、静電引力を細かい刻みで変化させて、送受信特性の補正を精度良く行うことができる。そのため、外部圧力の変化があっても、送受信手段201の送受信特性の変化の発生が少ないトランスデューサを提供できる。
【0023】
以上説明した様に、本実施形態によれば、圧力の影響を受け易いCMUTを送受信手段に用いた場合でも、電気機械変換装置に加わる圧力による送受信手段の送受信特性の変動を精度良く補正することができる。従って、電気機械変換装置に外部圧力が作用する場合でも、弾性波情報を正確に取得でき、所望の弾性波を送信できる。また、本実施形態では、送受信手段の送受信特性の変動の補正を行うので、第1の実施形態の様に圧力検出手段で検出された圧力情報を基に送受信手段への送信信号の補正や送受信手段からの受信信号の補正を行う必要がない。
【0024】
(第3の実施形態)
第3の実施形態を、図2(b)を用いて説明する。第3の実施形態は、圧力検出手段203が上記実施形態と異なる。それ以外は、第1又は第2の実施形態と同じである。本実施形態は、圧力検出手段203が、弾性波送受信手段201の持つ周波数特性と異なる周波数特性を持っていることを特徴とする。
【0025】
本実施形態では圧力検出手段203にCMUTを用いるものとして説明する。本実施形態の圧力検出手段203を説明する図3において、601は振動膜、602は上部電極、603は支持部、604は空隙、605は下部電極、606は基板、701は直流電位印加手段、702は電流検出手段である。圧力検出手段203のCMUTでは、振動膜601上に上部電極602が形成され、その振動膜601は、基板606上に形成された支持部603により支持されている。基板606上には、振動膜601上に形成した上部電極602に対して空隙604を挟んで対向した下部電極605が配置されている。
【0026】
振動膜601は、圧力が変化する周波数(通常1kHz以下)でのみ振動を起こし易い様に、形態の数値が設定されている。また、弾性波送受信手段201が送受信を行う周波数範囲の周波数では、振動膜601は振動を起こし難い設定になっている。特定の周波数の入力に対して振動膜601が持つ振動の起こし易さや起こし難さは、CMUTの振動膜601の機械特性を適値に調整することで、任意に設定できる。具体的には、振動膜601の機械特性は、振動膜601の持つ物性値や、振動膜601の構成、厚さ、サイズや、上下電極間の距離などを調整することにより、簡単に設定することができる。ここでも、上部電極602には、下部電極605との間で所望の電位差が発生する様に、直流電位印加手段701により所定の直流電位が印加されている。振動膜601が圧力305を受けて撓み量が変化すると、電極間の距離(即ち容量)が変化するので、静電誘導により微小電流が下部電極605に発生する。その電流値は電極間距離の変化に対応しているので、電流値を電流検出手段702で測定することで、電極間距離の変化を検出することができる。ここで、電極間距離の変化は、振動膜601に加わる圧力305の変化により振動膜601の撓み量が変化して発生している。そのため、これらの関係に基づいて、振動膜601に加わっている圧力305の大きさを示す圧力検出信号306を取り出すことができる。
【0027】
本実施形態の構成では、圧力検出手段203が応答する周波数特性の周波数範囲が、外部圧力を検出するために低い周波数範囲に設定されており、弾性波送受信手段201が応答する高い周波数特性の周波数範囲と異なっている。そのため、送受信手段201における超音波の送受信の影響を受けることなく、圧力情報を正確に取り出すことができる。これにより、超音波の送受信中に同時に外部圧力を検出することができ、リアルタイムに電気機械変換装置の補正を行うことができる。よって、高速に測定対象の情報を取得できるため、高速な画像化や更新間隔の短い画像化(動画取得)を行うことができる。また、圧力検出手段203にCMUTを用いているので、周波数特性の設定の自由度が高く、圧力検出手段203の周波数特性を最適なものに容易に設定することができる。この様に、本実施形態によれば、電気機械変換装置に加わった圧力による送受信手段の送受信特性の変動を高速に補正することができる。尚、圧力検出手段203にCMUTを用いるとして説明したが、これに限らず、圧電素子、ピエゾ抵抗素子、振動子の振動情報の変化を用いるものなど、圧力検出可能なものであれば圧力検出手段として用いることができる。
【0028】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態を、図3(a)を用いて説明する。第4の実施形態は、圧力検出手段203が他の実施形態と異なる。それ以外は、第1から第3の何れかの実施形態と同じである。本実施形態は、圧力検出手段203にCMUTを用いており、圧力検出手段203が、特定の周波数の交流信号を用いて外部からの圧力を検出することを特徴とする。
【0029】
本実施形態の電気機械変換装置を説明する図3(a)において、703は交流電位重畳手段、704は圧力信号復調手段である。圧力検出手段203の上部電極602には、直流電位印加手段701と交流電位重畳手段703が接続されている。交流電位重畳手段703は、上部電極602への印加電位に或る周波数の正弦波電位を重畳することができる。よって、圧力検出手段203の上下電極602、605間には、直流電位に加えて或る周波数の正弦波の交流電位が重畳された電位差がかかっている。また、交流電位重畳手段703は、重畳している周波数の情報を圧力信号復調手段704に出力している。
【0030】
圧力検出手段203の下部電極605には、上部電極602と下部電極605間の距離に応じた信号振幅で、交流電位重畳手段703が重畳した周波数により変調された電流が発生する。つまり、上下電極間の距離が狭くなると、電流の大きさが大きくなり、上下電極間の距離が広くなると、電流の大きさが小さくなる。下部電極605には電流検出手段702が接続されており、この検出手段702が、入力された交流の電流を検出し、交流の出力信号とする。電流検出手段702から出力された交流の出力信号は、圧力信号復調手段704により、重畳した周波数成分で復調されて圧力検出信号306として出力される。つまり、圧力検出信号306が従来の検波方式で検出される。
【0031】
前記交流電位重畳手段703が重畳する成分の周波数は、外部圧力の変化の周波数より高く、且つ弾性波送受信手段201が送受信を行う周波数帯域と異なっていることが特徴である。これについて説明する。まず、交流電位重畳手段703が発生する周波数は、外部圧力の変化の周波数より高くなっている。本実施形態では、外部圧力の変化による上下電極の間隔変化(言い換えると、容量変化)をより精度良く測定するために、電極間電位に重畳する交流信号を用いている。外部からの圧力の変化は、低い周波数(通常1kHz以下)で発生するため、電極間距離の変化による電流検出方法では、測定精度が十分でない場合がある。上述した様に、外部圧力変化より高い周波数の交流信号を用いることで、下部電極605に発生する電流の大きさを該交流周波数に比例して大きくすることができる。この電流信号を圧力信号復調手段704で復調することで、本来取得したい外部圧力の情報と相関のある電極間距離をより高精度に測定することができる。そのため、弾性波送受信手段201に加わっている圧力305を、より精度良く検出でき、送受信手段201の送受信特性をより細かく補正ないし補償することができる。また、外部圧力の変化の周波数より高い交流周波数を使うことにより、重畳した交流電位が圧力検出手段203の振動膜601に影響を与えにくくなるため、正確な圧力測定が行える。次に、交流電位重畳手段701が発生する周波数は、弾性波送受信手段201が送受信を行う周波数帯域と異なっている。これにより、重畳した交流電位により、送受信手段201の送受信が影響を受けることが避けられる。そのため、超音波の送受信中に同時に精度良く外部圧力を検出することができ、リアルタイム且つ正確に電気機械変換装置の補正ないし補償を行うことができる。
【0032】
以上の様に本実施形態によると、電気機械変換装置に加わる外部圧力による弾性波送受信手段の送受信特性の変動を精度良く且つ正確に検出し、より精度の良い補正ないし補償を高速に行うことができる。
【0033】
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態を、図3(b)を用いて説明する。第5の実施形態は、圧力検出手段203の機構が他の実施形態と異なる。それ以外は、第1から第4の何れかの実施形態と同じである。本実施形態の電気機械変換装置は、複数の圧力検出手段203を有しており、アレイ状に配置された弾性波送受信手段201での各圧力を推測し、各送受信手段201の送受信特性の補正ないし補償を行うことを特徴とする。
【0034】
本実施形態の電気機械変換装置の構成を示す図3(b)は、電気機械変換装置102が測定対象101と接する面を概念的に示した平面図である。ここでは、弾性波送受信手段201が、2次元アレイ状に配置されている(図3(b)では、2×2個の2次元アレイ)。送受信手段201の2次元アレイ周辺には、圧力検出手段203が複数個(図3(b)では、4個)配置されている。複数の圧力検出手段203で検出された複数の圧力検出信号306は、送受信特性補正手段204に入力される。補正手段204では、この複数の圧力検出信号306と、複数の送受信手段201と圧力検出手段203の配置情報から、各送受信手段201に加わっている圧力を推測する。こうして、複数の圧力検出手段203の情報から、2次元アレイの夫々の送受信手段201の超音波送受信特性の変化を推測することができる。
【0035】
夫々の送受信手段201の送受信特性を推測した情報を基に、送受信補正信号307が、夫々の駆動・検出信号処理手段202に出力される。各信号処理手段202では、この信号を基にして、超音波送信信号303又は超音波受信信号304に圧力変動の情報を反映させる。このプロセスは第1の実施形態で説明した通りである。この補正方法は、送受信信号の補正に係る前述した補償である。しかし、第2の実施形態で説明した送受信手段の送受信特性の直接的な補正による補正方式を用いることもできる。
【0036】
本実施形態により、各送受信手段201に加わる外部圧力による送受信特性の変動の補正ないし補償に加えて、送受信手段201のアレイにおいて分布する外部圧力による送受信特性の変動のばらつきをも補正することができる。
【0037】
(第6の実施形態)
次に、第6の実施形態を、図4を用いて説明する。第6の実施形態は、第1から第5の実施形態の何れかの電気機械変換装置を用いた超音波測定装置である。本実施形態は、弾性波送受信手段201の送受信特性の補正ないし補償を行うだけでなく、画像化を行う際にも、圧力検出情報306を基にして信号の補正を行うことを特徴とする。
【0038】
本発明の電気機械変換装置を用いた本実施形態の超音波測定装置を示す図4に示す様に、本実施形態では、送受信特性補正手段204から画像補正信号310を画像化手段103に出力し、画像化を行う際に画像化用情報信号308の補正を行う。この構成により、画像化する元の情報である画像化用情報信号308を駆動・検出信号処理手段202で別個に補正するだけに留まらず、画像化する画像全体に対して補正を実施することができる。つまり、弾性波送受信手段201の送受信特性の段階又は受信信号の処理の段階で補正しきれない成分がある場合に、全体の画像を形成する段階で信号補正処理を行うことによって、その補正しきれない成分の補正を行うことができる。これにより、更に高精度な画像を得ることができる。
【0039】
本実施形態によると、複雑な補正を行うことができる様になり、外部圧力による送受信特性の変動や変動のばらつきを更に高度に補正できる測定装置を提供することができる。尚、図4の図示例では、第1の実施形態の電気機械変換装置102を用いているが、他の実施形態の電気機械変換装置を用いることもできる。
【符号の説明】
【0040】
101…測定対象、102…電気機械変換装置、103…画像化手段、201…弾性波送受信手段、202…駆動・検出信号処理手段(補正手段)、203…圧力検出手段、204…送受信特性補正手段(補正手段)、303…送信信号、304…受信信号、308…画像化用情報信号、310…画像補正信号、501…弾性波送受信手段の直流電位印加手段(補正手段)、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性波の送信又は受信のうち少なくとも一方を行う電気機械変換装置であって、
弾性波を送受信する弾性波送受信手段と、
前記弾性波送受信手段に加わる圧力を検出する圧力検出手段と、
前記圧力検出手段により検出された圧力情報を基に、前記弾性波送受信手段に係る弾性波送受信信号の補正と前記弾性波送受信手段の送受信特性の補正との少なくとも一方の補正を行う補正手段と、
を有することを特徴とする電気機械変換装置。
【請求項2】
前記弾性波送受信手段が、空隙を挟んで対向して設けられた複数の電極を含む静電容量型トランスデューサを含み、
前記補正手段が、前記電極間の静電引力を変化させることにより、前記弾性波送受信手段の送受信特性の補正を行うことを特徴とする請求項1に記載の電気機械変換装置。
【請求項3】
前記補正手段が、前記弾性波送受信手段への弾性波送信信号と前記弾性波送受信手段からの弾性波受信信号との少なくとも一方の補正を行うことを特徴とする請求項1に記載の電気機械変換装置。
【請求項4】
前記圧力検出手段が、前記弾性波送受信手段が持つ周波数特性における周波数範囲より低い周波数の圧力に対して応答する周波数特性を有することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の電気機械変換装置。
【請求項5】
前記圧力検出手段が、空隙を挟んで対向して設けられた複数の電極を含む静電容量型トランスデューサを含むことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の電気機械変換装置。
【請求項6】
前記圧力検出手段が、空隙を挟んで対向して設けられた複数の電極を含む静電容量型トランスデューサと、前記静電容量型トランスデューサが有する前記電極間の容量を所定の周波数の信号で変調する変調手段と、前記所定の周波数の信号が重畳した前記静電容量型トランスデューサからの電流信号を、前記所定の周波数の信号を用いて復調する復調手段と、を含み、
前記所定の周波数は、前記圧力検出手段の周波数特性における周波数範囲より高く、且つ前記弾性波送受信手段が持つ周波数特性における周波数範囲の外にあることを特徴とする請求項4に記載の電気機械変換装置。
【請求項7】
複数の前記弾性波送受信手段と、複数の前記圧力検出手段と、を有し、
前記補正手段は、前記複数の圧力検出手段により夫々検出された圧力情報を基に、前記複数の弾性波送受信手段の夫々について前記補正を行うことを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の電気機械変換装置。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1項に記載の電気機械変換装置を用いた測定装置であって、
前記電気機械変換装置からの圧力情報を基に作成した画像補正信号で、前記電気機械変換装置からの弾性波受信信号を基に作成した画像化用情報信号を補正することによって測定対象の画像化を行う画像化手段を有することを特徴とする測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−120794(P2011−120794A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282279(P2009−282279)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】