説明

電気泳動表示素子用分散液

【課題】安価で且つ分散安定性及び応答速度に優れ、高品質な画像形成が可能な電気泳動表示素子用分散液、並びにこれを用いてなる画像表示装置の提供。
【解決手段】窒素原子含有重合体(A)と炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレートを構成単量体単位に含むアクリル系重合体(B)のうち、一方を主鎖とし他方を側鎖とするグラフト共重合体が表面に物理吸着した顔料粒子が、非極性溶媒中に分散した電気泳動表示素子用分散液。前記窒素原子含有重合体(A)は3級アミノ基及び/又は4級アンモニウム基を有することが好ましく、またアクリル系重合体(B)はカルボキシル基を有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ペーパー等に用いられる非水分散系顔料スラリーを含む電気泳動表示素子用分散液、並びにこれを用いてなる電気泳動表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子ペーパーや電子ブック等の名称で呼ばれるディスプレー及びハードコピーの両方の機能を併せ持った表示媒体が、従来の紙媒体と同様の携帯性を保持し、かつ省スペース及び省電力の利点を有するため盛んに研究されている。
電子ペーパーに用いられる表示媒体としては、電子粉流体型、ツイストボール型、液晶型及び電気泳動型等、様々な方式の電子ペーパーが開発されてきている。これらの中でも電気泳動方式を用いた表示媒体は、表示品質及び表示操作時の消費電力の点で優れており、実際に実用化が進んできている。
【0003】
電気泳動方式の表示媒体には一組の透明電極の間に多数のカプセル又はセルが存在し、それらの中に互いに色及び電荷の異なる複数の電気泳動粒子が分散した分散液(電気泳動性スラリーともいう)が封入してある。この泳動粒子は表面に電荷を有しており、一方又は両方の電極に電圧を印加した場合に、その電荷と異なる電荷を有する泳動粒子が集積するために粒子の色が観察される。電圧印加後、逆の電圧に切り替えた場合には泳動粒子は集積していた電極側から離れて逆の電極側へ集積する。電気泳動方式ではこの変化を利用することにより画像の表示を行うことができる。
【0004】
通常、画像表示媒体に用いられる電気泳動粒子には、電気泳動性に加えて分散媒中での分散安定性が求められる。このような要求を満たす手法として、例えば特許文献1及び2には泳動粒子に分散媒への親和性を付与するために顔料粒子表面にポリマーをグラフト化させた電気泳動粒子が提案されている。また、特許文献3及び4にはあらかじめ作成したポリマーを分散安定剤として顔料粒子表面に吸着させる方法が開示されている。
一方、特許文献5では、シリコーンオイル中において顔料粒子に対して側鎖にポリジメチルシロキサンセグメントを有するグラフトポリマーを吸着させることで分散安定化させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2004−526210号公報
【特許文献2】特開2005−352053号公報
【特許文献3】特開2006−259170号公報
【特許文献4】特開2004−67999号公報
【特許文献5】特開2002−338642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2に開示される手法は顔料粒子表面への特定の表面処理が必要であり、顔料表面へのポリマーのグラフト化後にも残存モノマー及びグラフト化されなかったポリマーの除去が必要等、操作が煩雑であるという問題があった。また、特許文献3及び4に記載の方法によれば残存モノマーの除去及びポリマーの精製が容易であり、且つ顔料を該ポリマー存在下で単純に粉砕するだけで容易に顔料分散液を得ることができる。ただし、特許文献3に記載のランダムリニアポリマーによる分散剤では分散安定性において不十分な点があり、特許文献4では分散安定剤として用いるブロックポリマーが高価なために工業上の利用が制限されるという問題がある。
【0007】
一方、特許文献5に開示される方法によれば顔料をシリコーンオイル中に安定に分散させることが可能であるが、脂肪族又は芳香族炭化水素溶媒等の安価な分散媒中においては使用できる分散媒が制限されるという問題がある。また、原料に用いられる反応性シリコーンオイルが高価であるため分散剤を安価に得ることが難しい。
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、安価で且つ高品質な画像を有し、応答速度の優れた画像表示媒体を提供することを課題とする。すなわち、汎用的な試薬等により簡便に合成可能であり、分散安定性及び応答速度に優れた電気泳動表示素子用分散液、並びにこれを用いてなる画像表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題に対して鋭意検討した結果、特定のグラフト共重合体が表面に吸着した顔料粒子が非極性溶媒中に分散した分散液を用いることが有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明は以下の通りである。
1.表面にグラフト共重合体が吸着した顔料粒子が非極性溶媒中に分散した分散液を含む電気泳動表示素子用分散液であって、該グラフト共重合体が窒素原子含有重合体(A)と、炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成単量体に含むアクリル系重合体(B)のうちのいずれか一方を主鎖とし、他方を側鎖とするグラフト共重合体であることを特徴とする電気泳動表示素子用分散液。
2.上記窒素原子含有重合体(A)が3級アミノ基及び/又は4級アンモニウム基を有することを特徴とする、上記1に記載の電気泳動表示素子用分散液。
3.上記窒素原子含有重合体(A)のアミン価が40〜300mgKOH/gであることを特徴とする上記2に記載の電気泳動表示素子用分散液。
4.上記アクリル系重合体(B)がカルボキシル基を有することを特徴とする、上記1〜3のいずれかに記載の電気泳動表示素子用分散液。
5.上記アクリル系重合体(B)の酸価が1〜80mgKOH/gであることを特徴とする上記4に記載の電気泳動表示素子用分散液。
6.上記アクリル系重合体(B)の重量平均分子量が1000〜40000であることを特徴とする上記1〜5のいずれかに記載の電気泳動表示素子用分散液。
7.上記グラフト共重合体の重量平均分子量が2000〜80000であることを特徴とする、上記1〜6に記載の電気泳動表示素子用分散液。
8.上記グラフト共重合体における上記窒素含有重合体(A)の割合が、10〜50質量%であることを特徴とする上記1〜7のいずれかに記載の電気泳動表示素子用分散液。
9.上記グラフト共重合体が、上記窒素原子含有重合体(A)を主鎖とし、上記炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成単量体に含むアクリル系重合体(B)を側鎖とすることを特徴とする、上記1〜8のいずれかに記載の電気泳動表示素子用分散液。
10.上記側鎖が末端に重合性不飽和二重結合を有するマクロモノマーに由来するものであることを特徴とする上記9に記載の電気泳動表示素子用分散液。
11.上記グラフト共重合体が、顔料100質量部に対して1〜100質量部の割合で存在していることを特徴とする上記1〜10のいずれかに記載の電気泳動表示素子用分散液。
12.上記非極性溶媒中に分散した顔料粒子の体積平均粒子径が、0.1〜1.0μmの範囲であることを特徴とする、上記1〜11のいずれかに記載の電気泳動表示素子用分散液。
13.上記顔料粒子がカーボンブラックであることを特徴とする上記1〜12のいずれかに記載の電気泳動表示素子用分散液。
14.上記非極性溶媒が、脂肪族炭化水素及び/又は脂肪酸アルキルエステルを含むことを特徴とする上記1〜13のいずれかに記載の電気泳動表示素子用分散液。
15.上記非極性溶媒が、炭素数10以上かつ25℃における粘度が15mPa・s以下の脂肪酸アルキルエステルであることを特徴とする上記14に記載の電気泳動表示素子用分散液。
16.上記1〜15のいずれかに記載の電気泳動表示素子用分散液を含有してなることを特徴とする画像表示素子。
17.上記16に記載の画像表示素子を用いてなる画像表示装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明で使用されるグラフト共重合体は、窒素原子を含有するセグメントと炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成単量体に含むセグメントが各々明確に区分けされているため、前者による顔料への吸着性と後者による媒体への親和性とを高度にバランス化することができる。
したがって、このグラフト共重合体が吸着した顔料粒子を含む本発明の電気泳動表示素子用分散液によれば、高品質な画像を示すことが可能な表示媒体および表示装置を得ることができる。詳しくは、電極に印加した電圧を切替えた際の再泳動性および応答速度の優れた画像表示装置の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による画像表示素子の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】本願の実施例において用いた評価用装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、電気泳動表示素子用分散液、並びにこれを用いてなる画像表示装置に関して、表面に特定のグラフト共重合体が物理吸着した顔料粒子が非極性溶媒中に分散した分散液を用いることを特徴とするものである。
以下、本発明について詳しく説明する。尚、本願明細書においては、アクリル酸又はメタクリル酸を(メタ)アクリル酸と表す。
【0013】
本発明におけるグラフト共重合体は、窒素原子含有重合体(A)と、炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成単量体に含むアクリル系重合体(B)のうちいずれか一方を主鎖とし、他方を側鎖とするグラフト共重合体である。
ここで、窒素原子含有重合体(A)は窒素原子含有ビニル単量体を構成単量体とすることにより得られる。
【0014】
上記窒素原子含有ビニル単量体としては、アミド基、アミノ基、4級アンモニウム基等の窒素原子含有官能基を有する単量体を好適に用いることができ、吸着性が良好な点で、3級アミノ基及び4級アンモニウム基を有する単量体が特に好ましい。
【0015】
3級アミノ基を有する具体的な単量体としては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、等のジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ビニルベンジルジメチルアミンなどが挙げられる。これらのうちでも、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノプロピル(メタ)アクリレート及びジメチルアミノプロピルアクリルアミドが顔料への吸着性が良好であるために好ましい。
【0016】
4級アンモニウム基を有する単量体としては、例えばジメチルアミノエチルメタクリレート4級アンモニウム塩等、上記3級アミノ基を有する単量体の4級化物が挙げられる。
また、上記3級アミノ基を有する単量体を共重合した後、公知の方法に従って4級化することによって4級アンモニウム塩を有する重合体としても良い。
【0017】
上記窒素原子含有重合体(A)はアミン価として40〜300mgKOH/gの範囲にあることが好ましく、50〜200mgKOH/gがより好ましい。アミン価が40mgKOH/g未満の場合はグラフト共重合体の顔料への吸着力が不十分な場合があり、凝集等を引き起こす場合がある。一方、アミン価が300mgKOH/gを超えた場合にも凝集等が生じ、再泳動性が悪化する傾向がある。
尚、本発明においてアミン価は仕込んだ原料の使用量から計算される値を用いる。
【0018】
窒素原子含有重合体(A)は上記窒素原子含有ビニル単量体以外にも他のビニル単量体を共重合することができる。当該他のビニル単量体は、吸着性等の特性を損なわない範囲であれば種類および使用量に制限はないが、得られる重合体が媒体に不溶であり、且つカーボンブラック等の顔料への親和性が高いものが好ましい。この観点からSolubility Parameter(SP)値として17〜20[MPa1/2]の範囲にある単量体が好ましく、具体的にはスチレン、α−メチルスチレン、メタクリル酸ベンジル等の芳香族系ビニル単量体;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;およびω―カルボキシ―ポリカプロラクトンモノアクリレート(例えば、東亞合成社製、商品名「アロニックスM−5300」)等が挙げられる。これらの中でもメタクリル酸ベンジルおよびアロニックスM−5300が顔料への吸着性に優れる点から好ましい。
【0019】
SP値は「POLYMER HANDBOOK 第4版」(John Wiley & Sons,Inc.発行)に記載された値を採用することができる他、これに記載のないものについてはMichael M.Collman, John F.Graf, Paul C.Painter(Pensylvania State Univ.)著による「Specific Interactions and the Miscibility of Polymer Blends」(Technomic Publishing Co. Inc.発行)に記載の方法により計算することができる。ただし、−COOH基と−OH基についてはR.F.Fedorsが書いた「Polymer Engineering and Science」14(2),147(1974)に記載の値を用いる。
【0020】
本発明における、アクリル系共重合体(B)は炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成単量体として含むものである。炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体的な例としては、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n−ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ステアリル及び(メタ)アクリル酸ベヘニル等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を用いることができる。
これらのうちで炭素数10〜16のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、さらに好ましくは炭素数12〜13のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルであり、商品名でブレンマーSLA、ブレンマーSLMA、(いずれも日油社製、合成ラウリル(メタ)アクリレート)、及び(メタ)アクリル酸ラウリル等が挙げられる。
アルキル基の炭素数が8未満の場合は非極性溶媒との相溶性が低く、十分な分散安定効果を付与できない。一方、アルキル基の炭素数が16を超える場合においても、理由は不明確であるが分散安定性が低下する場合がある。
【0021】
炭素数8以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルはアクリル系共重合体(B)を構成する全単量体を基準として50〜100mol%使用されることが好ましく、80〜100mol%がさらに好ましい。50mol%未満の場合は非極性溶媒への親和性が不足するために分散安定性が不十分となる場合がある。
【0022】
上記アクリル系共重合体(B)はカルボキシル基を有するものであっても良い。カルボキシル基は(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸及びイタコン酸等のカルボキシル基含有単量体を共重合することにより容易に導入される。また、これとは別に水酸基含有不飽和単量体を共重合した後に、二塩基酸無水物、例えば無水コハク酸、無水マレイン酸又は無水フタル酸等を付加反応することによってもカルボキシル基を導入することができる。
【0023】
上記アクリル系共重合体(B)における上記カルボキシル基の導入量は酸価として1〜80mgKOH/gの範囲であることが好ましい。酸価が1mgKOH/g未満の場合は分散安定性が十分でなく、分散粒子の凝集等が生じやすくなるため好ましくない。また、酸価が80mgKOH/gを超える場合にも分散粒子の凝集が生じ、再泳動性が低下する。
尚、本発明において酸価は仕込み原料から計算される値を用いる。
【0024】
また、アクリル共重合体(B)の重量平均分子量(以下、「Mw」という)は1000〜40000であることが好ましく、2000〜20000であることがさらに好ましい。Mwが1000未満の場合、立体反発効果が不十分なために電気泳動粒子の安定性が確保されず、凝集等が生じるため好ましくない。一方、Mwが40000を超える場合は電極に印加した電圧を切り替えた際の再泳動性が不良となる場合がある。これは媒体親和部同士の絡み合いが生じるためと推察される。
【0025】
アクリル系共重合体(B)を構成する他の単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル及び(メタ)アクリル酸ヘキシル等の炭素数8未満のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;
(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の炭素数8未満のシクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;スチレン、α−メチルスチレンおよびp−メチルスチレン等のスチレン誘導体;(メタ)アクリロニトリル;(メタ)アクリルアミド等が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上を使用することができる。
【0026】
本発明におけるグラフト共重合体は、上記の通り窒素原子含有重合体(A)と、炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成単量体に含むアクリル系重合体(B)のうちのいずれか一方を主鎖とし、他方を側鎖とするグラフトポリマーである。中でも窒素原子含有重合体(A)を主鎖とし、アクリル系重合体(B)を側鎖とするグラフト共重合体が得られた分散液の分散安定性が高い傾向があるために好ましい。
ここで、(A)成分は顔料粒子表面への吸着性を担うセグメント、また(B)成分は媒体親和性を付与するためのセグメントとしての役割を担う。
【0027】
窒素原子含有重合体(A)及びアクリル系重合体(B)の比率は、(A)成分が10〜50質量%に対して(B)成分が50〜90質量%であることが好ましく、より好ましくは(A)成分が20〜40質量%に対して(B)成分が60〜80質量%である。
(A)成分が10質量%未満の場合((B)成分が90質量%を超える場合)は顔料への吸着性が不十分となり、凝集等を生じやすくなるため好ましくない。また、(A)成分が50質量%を超える場合((B)成分が50質量%未満となる場合)は分散安定性が低下するために電極での電圧を切替えた際の再泳動性が悪化する。
【0028】
グラフト共重合体のMwは2,000〜80,000が好ましく、4,000〜40,000がより好ましい。Mwが2,000未満の場合はグラフト共重合体の顔料粒子への吸着力が低下するために凝集等が生じやすくなり、Mwが80,000を超える場合は分散液の粘度が高くなり泳動速度を低下させるために好ましくない。
【0029】
グラフト共重合体の製法について特に制限はなく、窒素原子含有重合体(A)と、炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成単量体に含むアクリル系重合体(B)のうちのいずれか一方を主鎖とし、他方を側鎖とするグラフト共重合体を製造し得る方法であればいずれの方法で製造しても良い。
【0030】
上記したグラフト共重合体の製造方法としては、例えば、
(i)末端に重合性不飽和二重結合を有しかつ炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成単量体に含んでなるマクロモノマーの存在下に、窒素原子含有単量体及び他の単量体を共重合してグラフト共重合体を得るか、或いは末端に重合性不飽和二重結合を有しかつ窒素原子を有するマクロモノマーの存在下に、炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び他の単量体を共重合してグラフト共重合体を得る方法(マクロモノマー法);
(ii)重合体セグメント中にアゾ基やパーオキサイド基等の重合開始基を有しかつ窒素原子を有する重合体の存在下に炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び他の単量体を共重合してグラフト共重合体を得るか、或いは重合体セグメント中にアゾ基やパーオキサイド基等の重合開始基を有しかつ炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成単量体に含んでなる重合体の存在下に窒素原子含有単量体及び他の単量体を共重合してグラフト共重合体を得る方法;
(iii)連鎖移動能の大きい基を側鎖に持ちかつ窒素原子を有する重合体に炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び他の単量体をグラフト重合してグラフト共重合体を得るか、或いは連鎖移動能の大きい基を側鎖に持ちかつ炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成単量体に含んでなる重合体に窒素原子含有単量体及び他の単量体をグラフト重合してグラフト共重合体を得る方法;などを挙げることができる。
【0031】
上記した製法のうちでも、上記(i)のマクロモノマー法が、グラフト共重合体を効率よく製造できる点から好ましい。
また、該マクロモノマーにおける末端重合性不飽和二重結合は、共重合性の観点から(メタ)アクリロイル基又はスチリル基が好ましく、中でも(メタ)アクリロイル基が特に好ましい。
【0032】
本発明におけるグラフト共重合体は顔料粒子100質量部に対して1〜100質量部用いられることが好ましく、10〜60質量部がより好ましく、20〜40質量部がさらに好ましい。
グラフト共重合体の使用量が1質量部未満の場合は顔料を安定に分散させることができず、大粒径化または凝集等を引き起こすため好ましくない。また、再泳動性も悪化する傾向がある。一方、グラフト共重合体量が100質量部を超える場合にも凝集が発生し易くなる。連続相に存在するグラフト共重合体量が増加し、顔料粒子に吸着した分散剤(グラフト共重合体)の分散安定化効果が減少することによるものと推察される。
【0033】
本発明の電気泳動表示素子用分散液における分散媒である非極性溶剤は、水と混和しない溶媒であれば特に制限なく使用でき、直鎖、分岐鎖又は環状構造を有する各種脂肪族炭化水素化合物若しくは脂肪酸アルキルエステル、芳香族炭化水素化合物、複素芳香族炭化水素化合物、ハロゲン含有溶媒及びシリコーンオイル等の溶媒が含まれる。ここで、「水と混和しない溶媒」とは25℃における水の溶解度が1質量%以下である溶媒を意味する。
上記非極性溶媒としては取扱いの容易さ及び安全性の点から揮発性の低いものが好適であり、炭素数10以上の直鎖、分岐鎖又は環状構造を有する各種脂肪族炭化水素化合物若しくは脂肪酸アルキルエステル等が好ましい。
【0034】
また、溶媒の粘度に反比例して電気泳動速度が低下するため、溶媒の粘度は25℃において20mPa・s以下が好ましい。特に炭素数10以上、25℃における粘度が15mPa・s以下の脂肪酸アルキルエステルが好ましい。具体例としては、商品名で「アイソゾール」シリーズ(JX日鉱日石エネルギー社製)、「アイソパー」シリーズ(エクソンモービル社製)、「IPソルベント」シリーズ(出光石油化学社製)、「エキセパール」シリーズ(花王社製)、カプリル酸2−エチルヘキシル及びパルミチン酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。これらのうちでも分散安定性及び泳動速度の点で「アイソパー」シリーズ、カプリル酸2−エチルヘキシルおよびパルミチン酸2−エチルヘキシルが好ましく、カプリル酸2−エチルヘキシルが特に好ましい。
【0035】
本発明の電気泳動表示素子用分散液における顔料粒子の分散粒子径は、体積平均粒子径として0.1〜1.0μmの範囲であることが好ましく、0.2〜0.6μmの範囲であることがより好ましい。
粒子径が1.0μmを超える場合には分散液に沈降が生じ易くなる。また、電圧を切った際に顔料粒子が重力により電極部から脱落し画像が維持されなくなる(いわゆるメモリー性が悪化する)ため好ましくない。一方、粒子径が0.1μmよりも小さい場合には泳動速度が遅くなるため好ましくない。
【0036】
本発明の電気泳動表示素子用分散液においては顔料粒子として公知の有機顔料粒子及び無機顔料粒子を用いることができる。有機顔料粒子としては、例えばアゾ顔料、フタロシアニン顔料、アントラキノン顔料、ジオキサジン顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、インジゴイド顔料、ジケトピロロピロール顔料、ペリノン顔料、イソインドリノン顔料、イソシンドリン顔料及びキノフタロン顔料等を使用することができる。
【0037】
無機顔料粒子としては、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム等の白色顔料;酸化鉄等の赤色顔料;黄鉛、カドミウムイエロー、ストロンチウムイエロー等の黄色顔料;ウルトラマリンブルー、プルシアンブルー等の青色顔料;カーボンブラック、チタンブラック等の黒色顔料等を用いることができる。これらのうちでも画像の見易さや汎用性の点からカーボンブラックが広く用いられている。
【0038】
本発明において顔料粒子としてカーボンブラックを用いる場合、顔料粒子の分散粒子径が本発明で好ましいとする範囲の粒子径である限りにおいては、カーボンブラックの種類は規定されないが、1次粒子径として20〜200nmのカーボンブラックを用いた場合にその分散粒子径が好ましい範囲となりやすい。具体例としては商品名でLamp Black 101、Printex A、Special Black 100(以上、エボニックデグサ社製)等が挙げられる。
【0039】
本発明の電気泳動表示素子用分散液は、上記したグラフト共重合体、顔料および分散媒等を混合攪拌することにより容易に得ることができる。攪拌には顔料分散において一般的に用いられる公知の攪拌装置を使用することが可能であり、具体的にはボールミル、ビーズミル、サンドミル、ペイントシェーカー及びディスパー等が挙げられる。
【0040】
本発明の電気泳動表示素子用分散液においては、顔料粒子を帯電させるために金属石鹸等の電荷調整剤や、泳動粒子の分散性を向上させるための分散剤及び分散助剤等を添加しても良い。
【0041】
図1に本発明の電気泳動素子用分散液を用いた画像表示装置の一例を模式的に示す。画像表示装置は公知のものであれば特に限定なく使用可能であるが、少なくとも一方が光透過性を有する一対の電極基板を有し、該基盤間に白色媒体中に電気泳動性顔料粒子が分散した電気泳動性分散液が封入された電気泳動表示用素子からなる。これらの電極に電圧を印加して電気泳動性顔料粒子を移動させることにより画像を表示するものである。
【実施例】
【0042】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。以下の記載において「部」は質量部を意味し、「%」は質量%を意味する。
また、各例において得られたマクロモノマー、グラフト共重合体及び顔料分散液については、以下の物性及び性質を測定することにより評価した。
(1)マクロモノマー及びグラフト共重合体の特性
a)固形分
測定サンプル約1gを秤量(a)し、次いで、通風乾燥機200℃、60分間乾燥後の残分を測定(b)し、以下の式より算出した。測定には秤量ビンを使用した。その他の操作については、JIS K 0067−1992(化学製品の減量及び残分試験方法)に準拠した。
固形分(%)=(b/a)×100
【0043】
b)分子量
共重合体及びマクロモノマーを構成する単量体として窒素原子を有する単量体が含まれない場合は、以下の操作により分子量及び分子量分布の測定を行った。
試料をテトラヒドロフラン(以下、「THF」という)に溶解して濃度0.2%の溶液を調整した後、該溶液100μLをカラム(東ソー社製、「TSK−GEL MULTIPORE HXL−M」(4本))に注入し、カラム温度40℃でTHFを流速1.0mL/分でカラムに通してカラムに吸着した成分を溶離させるゲル浸透クロマトグラフ(GPC法)により測定した。数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は分子量が既知のポリスチレンを標準物質と用いてあらかじめ作成しておいた検量線から算出した。
共重合体及び/又はマクロモノマーを構成する単量体に窒素原子を有する単量体が含まれる場合は、0.5%のトリエチルアミンが溶解したTHFを溶離液及び試料調整に用いて、同様の操作によりGPC測定を行った。
【0044】
(2)電気泳動表示素子用分散液の特性
a)体積平均粒子径
電気泳動粒子が絶縁性液体に分散したスラリーを、当該非極性溶媒で0.3%に希釈した分散液を調整して試料とした。当該試料30mLを動的光散乱法(日機装社製、UPA−250)により測定し、体積平均粒子径を得た。
【0045】
b)粘度
E型粘度計を用い、25℃における粘度を測定した。
【0046】
<マクロモノマーの製造>
合成例1:マクロモノマー1の製造
攪拌機、滴下ロート、還流冷却器、窒素ガス導入管および温度計を備えたガラス製フラスコに、単量体として2−ヒドロキシエチルメタクリレート(以下、「HEMA」という)1.2部及びブレンマーSLMA(日油社製合成ラウリルメタクリレート、以下「SLMA」という)98.8部、連鎖移動剤として3−メルカプトプロピオン酸(以下、「MPA」という)1.5部、及び重合溶剤としてパルミチン酸2−エチルヘキシル50部を仕込み、窒素気流下で90℃に加熱攪拌した。別容器にてメチルエチルケトン(以下、「MEK」という)2.4部及びパルミチン酸2−エチルヘキシル45部に2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(日本ファインケム社製、商品名「ABN−E」)0.9部を添加、溶解して重合開始剤溶液を調整し、フラスコ内溶液を90℃に保ったままこの重合開始剤溶液を5時間かけてフラスコへ滴下した。さらに2時間加熱攪拌を継続することにより重合を完結させ、片末端にカルボキシル基を有する重合体溶液を得た。
窒素気流を空気バブリングに切り替えて、引き続き同じフラスコ内にハイドロキノンモノメチルエーテル(以下、「MQ」という)0.02部テトラブチルアンモニウムブロミド0.6部、グリシジルメタクリレート(以下、「GMA」という)2.1部を加えて110℃で4時間加熱攪拌した。
次いで同じフラスコ内に無水コハク酸0.9部を添加、110℃で4時間反応させた後に室温まで冷却し、パルミチン酸2−エチルヘキシルにて固形分を52%に調整することにより、片末端に重合性不飽和二重結合を有しカルボキシル基を持つマクロモノマー1のパルミチン酸2−エチルヘキシル溶液を得た。
得られたマクロモノマー1の数平均分子量(Mn)は7,900、重量平均分子量(Mw)は12,100であった。また酸価として4.9mgKOH/g相当のカルボキシル基を有している。
【0047】
合成例2、3、5、6、8:マクロモノマー2、3、5、6、8の製造
単量体、連鎖移動剤及びGMAを表1に示す通り用いた以外は合成例1と同様の操作を行い、マクロモノマー2、3、5、6、8のパルミチン酸2−エチルヘキシル溶液を得た。
得られた各マクロモノマーの物性値について表1に示す。
【0048】
合成例4:マクロモノマー4の製造
単量体、連鎖移動剤及びGMAを表1に示す通り用い、無水コハク酸によるカルボン酸変性を行わなかった以外は合成例1と同様の操作により、マクロモノマー4のパルミチン酸2−エチルヘキシル溶液を得た。
得られたマクロモノマー4の物性値について表1に示す。
【0049】
合成例7:マクロモノマー7の製造
攪拌機、滴下ロート、還流冷却器、窒素ガス導入管及び温度計を備えたガラス製フラスコに、単量体としてメタクリル酸ベンジル(以下、「BzMA」という)66.7部及びN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(以下、「DMA」という)33.3部、連鎖移動剤として2−メルカプトエタノール(以下、「MTG」という)2.5部、及び重合溶剤としてパルミチン酸2−エチルヘキシル50部を仕込み、窒素気流下で90℃に加熱攪拌した。別容器にてMEK2.7部及びパルミチン酸2−エチルヘキシル45部にABN−E0.9部を添加、溶解して重合開始剤溶液を調整し、フラスコ内溶液を90℃に保ったままこの重合開始剤溶液を5時間かけてフラスコへ滴下した。さらに2時間加熱攪拌を継続することにより重合を完結させ、片末端に水酸基を有する重合体溶液を得た。
窒素気流を空気バブリングに切り替えて、引き続き同じフラスコ内に4−メトキシフェノール0.02部、ジオクチルスズジラウレート(日東化成社製、商品名「ネオスタンU−810」)0.01部、2−イソシアナートエチルメタクリレート(昭和電工社製、商品名「カレンズMOI」)5.0部を加えて80℃で3時間加熱した後に室温まで冷却し、片末端にメタクリロイル基を有するマクロモノマー7のパルミチン酸2−エチルヘキシル溶液を得た。
得られたマクロモノマー7の物性値について表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1で用いた化合物の詳細を以下に示す。
SLMA:合成ラウリルメタクリレート(日油社製、商品名「ブレンマーSLMA」)
LA:ラウリルアクリレート
BMA:ブチルメタクリレート
BzMA:ベンジルメタクリレート
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
HEA:2−ヒドロキシエチルアクリレート
DMA:ジメチルアミノエチルメタクリレート
MPA:3−メルカプトプロピオン酸
MTG:2−メルカプトエタノール
GMA:グリシジルメタクリレート
カレンズMOI:2−イソシアナートエチルメタクリレート(昭和電工社製)
【0052】
<グラフト共重合体の製造>
製造例1:グラフト共重合体1の製造
攪拌機、滴下ロート、還流冷却器、窒素ガス導入管および温度計を備えたガラス製フラスコにMEK75部を仕込み、窒素気流下で78℃に昇温した。また、別容器に上記で得られたマクロモノマー1のパルミチン酸2−エチルヘキシル溶液134.6部(マクロモノマーの固形分として70部)、BzMA20部、DMA10部、MEK18部、MTG0.3部からなる単量体混合溶液、並びにMEK30部に2,2’−アゾビス(2,4’−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬社製、商品名「V−65」)1部を溶解した開始剤溶液を調整した。次いで、上記フラスコへ単量体混合溶液および開始剤溶液を滴下して重合を開始した。単量体混合溶液は3時間、また開始剤溶液は5時間かけて滴下し、開始剤溶液の滴下終了後さらに78℃で1.5時間加熱攪拌することにより重合を完結させ、グラフト共重合体1のMEK溶液(固形分35%)を得た。
得られたグラフト共重合体1の数平均分子量(Mn)は13,500、重量平均分子量(Mw)は31,700であった。またこのグラフト共重合体1は、主鎖中にアミン価として119.0mgKOH/g相当のアミン基を含み、側鎖重合体中に4.9mgKOH/g相当の酸価を有している。
【0053】
製造例2〜9、11〜18:グラフト共重合体2〜9、11〜18の製造
主鎖を構成する単量体及び側鎖となるマクロモノマーを表2−1〜2−3に示す通り用いた以外は製造例1と同様の操作を行い、グラフト共重合体2〜9並びに11〜18を得た。
得られたグラフト共重合体2〜9並びに11〜18の物性値について表2−1〜表2−3に示す。
【0054】
製造例10:グラフト共重合体10の製造
攪拌機、滴下ロート、還流冷却器、窒素ガス導入管および温度計を備えたガラス製フラスコにDMA10部、MQ0.5部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート250部を仕込み、窒素気流下で60℃に加熱攪拌した。ここへメチルクロライド33部を6時間かけて吹き込み、そのまま60℃でさらに2時間攪拌を継続して反応を終了した。反応物を室温まで冷却した後析出結晶を濾別回収した。回収した結晶は50℃で減圧乾燥し、残存溶媒を含む揮発分を除去することによりDMAの4級アンモニウム塩(以下、「DMA−Q」という)を得た。
上記DMA−Qを含めて表2−2に示す単量体およびマクロモノマーを用い、重合溶剤をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートとした以外は製造例1と同様の操作を行いグラフト共重合体10を得た。
得られたグラフト共重合体10の物性値について表2−2に示す。
【0055】
【表2−1】

【0056】
【表2−2】

【0057】
【表2−3】

【0058】
表2−1〜2−3で用いた化合物の詳細を以下に示す。
DMA:N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート
DMAAm:N,N−ジメチルアクリルアミド
DMA−Q:N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート4級アンモニウム塩
BzMA:ベンジルメタクリレート
M5300:ω−カルボキシ−カプロラクトンモノアクリレート
(東亞合成社製、商品名「アロニックスM−5300」)
IBMA:イソブチルメタクリレート
SLMA:合成ラウリルメタクリレート(日油社製、商品名「ブレンマーSLMA」)
NKエステルSA:2−メタクリロイルオキシエチルサクシネート
(新中村化学工業社製)
【0059】
比較製造例1〜5:リニア共重合体1〜2並びにグラフト共重合体19〜21の製造
単量体及びマクロモノマーを表3に示す通り用いた以外は製造例1と同様の操作を行い、リニア共重合体1〜2並びにグラフト共重合体19〜21を得た。
得られたリニア共重合体1〜2並びにグラフト共重合体19〜21の物性値について表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
実施例1
製造例1で得られたグラフト共重合体1のMEK溶液60部にアイソパーL(エクソンモービル社製、イソパラフィン系炭化水素系溶剤)40部を加えた後、80℃、15mmHgの減圧下でMEK、未反応モノマーおよび低分子量オリゴマーを留去し、グラフト共重合体1のアイソパーL溶液(固形分28%)を得た。
上記グラフト共重合体1のアイソパーL溶液2.14g、アイソパーL11.5g及びカーボンブラック(エボニックデグサ社製、商品名「Lamp Black101」)1.5gを耐圧ガラス容器に入れ、さらにジルコニアビーズ(ビーズ直径:0.3mm)30gを混合した後にペイントシェーカーにて2時間攪拌を行った。この場合、カーボンブラックに対するグラフト共重合体1の使用量は40%となる。その後ビーズを取り除くことにより、電気泳動表示素子用分散液を得た。
得られた分散液の体積平均粒径270nm、また粘度は2.2mPa・sであった。
【0062】
次いで、作製した分散液を図2に示すようなガラス基板間に幅100μmの銅電極が配置された空間にマイクロシリンジを用いて毛細管現象を利用して封入した。15V及び−15Vの電圧を30秒間隔(30秒を超えても泳動が見られる場合はスラリーの移動が観察されなくなるまでの期間)で交互に10分間印加し、電気泳動粒子の移動をガラス基板上部から光学顕微鏡で観察し、分散安定性、泳動速度及び再泳動性を以下の指標により評価した。評価結果を表5に示す。
【0063】
<分散安定性>
○:凝集体が観察されない
△:1〜10μm程度の凝集体が観察される
×:10μmを超える凝集体が観察される
<泳動速度>
銅電極間に電圧を印加した後、スラリーの移動が見られなくなるまでの時間を測定した。各試料について測定を5回行い、その平均値(秒)を泳動速度とした。
<再泳動性>
◎:電圧切り替え後、電極からほぼ全ての粒子が泳動する
○:電圧切り替え後、電極から粒子が泳動するが、少量の粒子が電極に付着したまま
残留する(電極に付着している粒子は全粒子の30%未満)
△:電圧切り替え後、電極から粒子が泳動するが、多量の粒子が電極に付着したまま
残留する(電極に付着している粒子は全粒子の30%以上)
×:電圧を切り替えても、殆ど粒子の泳動が観察されない。
【0064】
実施例2〜23、比較例1〜5
共重合体(分散剤)、顔料、分散剤濃度及び溶媒を表4に示す通り用いた以外は実施例1と同様の操作により電気泳動表示素子用分散液を得た。
各分散液の評価結果を表5に示す。
【0065】
【表4】

【0066】
表4で用いた化合物の詳細を以下に示す。
Lamp Black101:カーボンブラック(エボニックデグサ社製)
PrintexA:カーボンブラック(エボニックデグサ社製)
MA11:カーボンブラック(三菱化学社製)
アイソパーL:イソパラフィン系炭化水素溶剤(エクソンモービル社製)
アイソパーV:イソパラフィン系炭化水素溶剤(エクソンモービル社製)
カプリル酸2EH:カプリル酸2−エチルヘキシル
パルミチン酸2EH:パルミチン酸2−エチルヘキシル
【0067】
【表5】

【0068】
本発明による電気泳動素子用分散液を用いた実施例1〜23においては良好な泳動速度と再泳動性を有し、その分散安定性も優れていることが確認された。中でも非極性溶媒としてカプリル酸2−エチルヘキシルを用いた実施例2では分散安定性及び再泳動性に加えて優れた泳動速度をも示す結果が得られた。
【0069】
実施例1、14及び15の比較において、窒素原子含有重合体(A)が3級アミノ基を有する実施例1及び4級アンモニウム塩を有する実施例15の方がアミド基を有する実施例14よりもより良好な分散安定性及び再泳動性が得られることが
確認された。
また、分散液の粒子径に関してみれば、若干粒子径が小さい実施例7は同じ分散剤を用いた実施例6に比較して泳動速度がやや遅くなる結果が得られた。
さらに、実施例6、18及び19の比較では、グラフト共重合体における窒素原子含有(A)の割合が70質量%と高い実施例19に対して、本発明にて好ましい範囲である実施例6及び18では分散安定性及び再泳動性が良好である結果が得られた。
【0070】
これに対して、リニア共重合体を分散剤とした比較例1及び2では分散安定性が不十分であることが確認された。また、グラフト共重合体であっても主鎖または側鎖に窒素原子を含有しない比較例3及び4、並び炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルを構成単量体に含まない比較例5では分散安定性および電気泳動性に関して劣悪な結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のグラフト共重合体を分散剤によれば、安価で且つ高品質な画像を有し、応答速度の優れた電気泳動表示素子用分散液を得られるため、電子ペーパーや電子ブック等の画像表示媒体に有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にグラフト共重合体が吸着した顔料粒子が非極性溶媒中に分散した分散液を含む電気泳動表示素子用分散液であって、該グラフト共重合体が窒素原子含有重合体(A)と、炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成単量体に含むアクリル系重合体(B)のうちのいずれか一方を主鎖とし、他方を側鎖とするグラフト共重合体であることを特徴とする電気泳動表示素子用分散液。
【請求項2】
上記窒素原子含有重合体(A)が3級アミノ基及び/又は4級アンモニウム基を有することを特徴とする、請求項1に記載の電気泳動表示素子用分散液。
【請求項3】
上記窒素原子含有重合体(A)のアミン価が40〜300mgKOH/gであることを特徴とする請求項2に記載の電気泳動表示素子用分散液。
【請求項4】
上記アクリル系重合体(B)がカルボキシル基を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の電気泳動表示素子用分散液。
【請求項5】
上記アクリル系重合体(B)の酸価が1〜80mgKOH/gであることを特徴とする請求項4に記載の電気泳動表示素子用分散液。
【請求項6】
上記アクリル系重合体(B)の重量平均分子量が1000〜40000であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電気泳動表示素子用分散液。
【請求項7】
上記グラフト共重合体の重量平均分子量が2000〜80000であることを特徴とする、請求項1〜6に記載の電気泳動表示素子用分散液。
【請求項8】
上記グラフト共重合体における上記窒素含有重合体(A)の割合が、10〜50質量%であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の電気泳動表示素子用分散液。
【請求項9】
上記グラフト共重合体が、上記窒素原子含有重合体(A)を主鎖とし、上記炭素数8以上のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成単量体に含むアクリル系重合体(B)を側鎖とすることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の電気泳動表示素子用分散液。
【請求項10】
上記側鎖が末端に重合性不飽和二重結合を有するマクロモノマーに由来するものであることを特徴とする請求項9に記載の電気泳動表示素子用分散液。
【請求項11】
上記グラフト共重合体が、顔料100質量部に対して1〜100質量部の割合で存在していることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の電気泳動表示素子用分散液。
【請求項12】
上記非極性溶媒中に分散した顔料粒子の体積平均粒子径が、0.1〜1.0μmの範囲であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の電気泳動表示素子用分散液。
【請求項13】
上記顔料粒子がカーボンブラックであることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の電気泳動表示素子用分散液。
【請求項14】
上記非極性溶媒が、脂肪族炭化水素及び/又は脂肪酸アルキルエステルを含むことを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の電気泳動表示素子用分散液。
【請求項15】
上記非極性溶媒が、炭素数10以上かつ25℃における粘度が15mPa・s以下の脂肪酸アルキルエステルであることを特徴とする請求項14に記載の電気泳動表示素子用分散液。
【請求項16】
上記請求項1〜15のいずれかに記載の電気泳動表示素子用分散液を含有してなることを特徴とする画像表示素子。
【請求項17】
上記請求項16に記載の画像表示素子を用いてなる画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−173539(P2012−173539A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35967(P2011−35967)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】