説明

電気浸透脱水装置のスケール付着量測定方法

【課題】電気浸透脱水装置の電極へのスケール付着を迅速に検知し、電極を適切に洗浄することができる電気浸透脱水装置のスケール付着量測定方法を提供する。
【解決手段】濾布よりなるコンベヤベルト1がローラ2,3間にエンドレスに架け渡されており、陰極4の上面に沿って無端回動可能とされている。コンベヤベルト1の搬送方向に陽極ユニット21〜25が配列されており、下面に陽極板33が設けられている。陽極板33に付着したスケール厚を膜厚計により測定し、予め求めておいた検量関係からスケール付着量を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水の生物処理汚泥、上水汚泥などの含水物を脱水するための電気浸透脱水装置の電極に付着したスケール量を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排水の生物処理過程で発生する汚泥などの含水物を脱水処理する方法として、電気浸透脱水が周知である(特許文献1〜6、非特許文献1)。この電気浸透脱水処理では、被処理含水物に通電して、マイナスに荷電した汚泥を陽極側に引き寄せ、一方、汚泥の間隙水を陰極側に移動させて分離させながら加圧力をかけて脱水するため、機械的脱水処理の場合に比べて、脱水効率が高く、汚泥の含水率を更に低減することが可能である。
【0003】
特許文献1の電気浸透脱水装置は、無端回動する下側フィルタベルト(陰極)と無端回動する上側プレスベルト(陽極)との間で汚泥を電気浸透脱水処理するように構成したものである。
【0004】
特許文献2,6の電気浸透脱水装置は、上側プレスベルトとは別個に陽極としての電極ドラムを配置し、この電極ドラムによって上下のベルトを挟圧するように構成している。
【0005】
特許文献3の電気浸透脱水装置は、無端回動するコンベヤベルトの上に汚泥を供給し、コンベヤベルトの下側の陰極板とコンベヤベルトの上方の陽極ユニットとの間で含水物を挟圧すると共に電流を通電して電気浸透脱水するように構成したものである。陽極ユニットはコンベヤ移動方向に複数個配設されている。各陽極ユニットの底面部には水平な陽極板が設置されている。この陽極板はエアシリンダによって押し下げ可能とされると共に、スプリングによって引き上げ可能とされている。コンベヤは、陽極板を上昇させた状態で、1スパン(陽極ユニットの設置間隔)分だけ含水物を移動させる。
【0006】
特許文献4,5の電気浸透脱水装置は、両極を有した左右1対の濾板の間に2葉の濾布を配置している。濾布同士の間に汚泥を供給し、濾布を介して汚泥を挟圧すると共に、電極間に通電することにより、汚泥が電気浸透脱水処理される。処理後は、濾板を離反させ、次いで濾布同士を離反させて脱水物を取り出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−189311
【特許文献2】特開平6−154797
【特許文献3】WO2007/143840
【特許文献4】特公平7−73646
【特許文献5】特許第3576269
【特許文献6】特開昭63−256112
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】水処理管理便覧(平成10年9月30日丸善)P.339〜341
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
電気浸透脱水装置では、陽極と陰極の間に汚泥を挟み込み直流電流を印加するが、この時、電極にスケール等の汚れが付着することがある。このように電極にスケールが付着すると、通電抵抗が増大し、脱水効率が低下する。そのため、電極への付着スケール量を正確かつ迅速に測定し、必要な時期に電極を洗浄することが必要となる。
【0010】
従来、電気浸透脱水装置の陽極に付着したスケール量は、陽極を電気浸透脱水装置から取り外し、陽極からスケールを溶離させて溶離スケール量を測定するようにしているが、著しく手間がかかっていた。
【0011】
本発明は、電気浸透脱水装置の電極へのスケール付着を迅速に検知し、電極を適切に洗浄することができる電気浸透脱水装置のスケール付着量測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明(請求項1)の電気浸透脱水装置のスケール付着量測定方法は、対向配置された電極と、対向する電極間に通電する通電手段と、対向する電極同士の間に配置された濾材と、該濾材同士の間又は濾材と一方の電極との間の電気浸透脱水処理部で被処理含水物を挟圧するための挟圧手段とを有する電気浸透脱水装置の電極へのスケール付着量を測定する方法において、該電極に付着したスケール膜厚を膜厚計で測定し、予め求めておいたスケール付着量と膜厚との検量関係からスケール付着量を求めることを特徴とするものである。
【0013】
請求項2の電気浸透脱水装置のスケール付着量測定方法は、請求項1において、前記膜厚計は電磁誘導式膜厚計又は渦電流式膜厚計であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、電気浸透脱水装置の電極に付着したスケール厚を膜厚計により測定し、予め求めておいた検量関係からスケール付着量を求める。これにより、スケール付着量を迅速に検知し、適切な時期に電極を洗浄することができる。
【0015】
電極に付着したスケールはアルカリ洗浄により容易に除去できる。なお、アルカリ洗浄後、電極を酸溶液と接触させることにより、電極特に陽極の劣化を防止することができる。即ち、前述の通り、電極母体金属と貴金属コーティング層の界面はアルカリ存在下では劣化して貴金属コーティングが剥離し易くなるが、このようにアルカリ洗浄後に酸溶液と接触させることにより、陽極のアルカリによる劣化が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)図は実施の形態に係る洗浄方法が適用される電気浸透脱水装置の概略的な縦断面図、(b)図は(a)図のB−B線に沿う断面図である。
【図2】図1の電気浸透脱水装置のコンベヤベルト搬送時の概略的な縦断面図である。
【図3】別の実施の形態に用いられる電気浸透脱水装置の概略的な縦断面図である。
【図4】検量線を示すグラフである。
【図5】スケール付着量の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。第1図(a)及び第2図は、第1の実施の形態に係る洗浄方法が適用される電気浸透脱水装置の長手方向(ベルト回動方向)に沿う縦断面図であり、第1図(b)は第1図(a)のB−B線に沿う断面図である。なお、第1図は脱水工程の様子を示しており、第2図は、この電気浸透脱水装置のベルト送り工程の様子を示している。なお、第2図ではトレー6及び配管7の図示が省略されている。
【0018】
[電気浸透脱水装置の説明]
第1,2図の通り、濾布よりなるコンベヤベルト1がローラ2,3間にエンドレスに架け渡されており、無端回動可能とされている。
【0019】
このコンベヤベルト1の上面側が搬送側となっており、下面側が戻り側となっている。コンベヤベルト1の搬送側の下面に板状の陰極4が配置されている。この陰極4は金属などの導電材よりなる板状部材であり、上下方向に貫通する多数の孔を有している。陰極4はローラ2の直近からローラ3の直近まで延在している。
【0020】
このコンベヤベルト1の上面(搬送部)の搬送方向上流部に被処理含水物(この実施の形態では汚泥S)を供給するようにホッパー5が設けられている。
【0021】
陰極4の下側に、陰極4の前記孔を通って落下してくる濾液を受けとめるトレー6が設けられている。
【0022】
トレー6で集められた濾液は、配管7を介して水処理設備へ送られる。なお、一部の濾液をホッパー5に返送して汚泥に添加してもよい。
【0023】
コンベヤベルト1の搬送部の上方に陽極ユニット21,22,23,24,25が設置されている。なお、第1図(b)の通り、コンベヤベルト1の搬送部の両サイドに非導電性の側壁板20が立設されており、コンベヤベルト1上の汚泥が側方へはみ出ないように構成されている。陽極ユニット21〜25は側壁板20,20間に配置されている。
【0024】
この実施の形態では陽極ユニットがコンベヤベルト搬送方向に5個配置されているが、これに限定されない。陽極ユニットは、コンベヤベルト搬送方向に通常は2〜5個程度配置されていればよい。
【0025】
各陽極ユニット21〜25は、下面に固着された陽極板33と、エアシリンダ(図示略)を有している。エアシリンダにより陽極ユニットが上下動する。なお、陽極板33のみをエアシリンダで上下動させるようにしてもよい。
【0026】
各陽極ユニット21〜25の陽極板33に対しては、直流電源装置(図示略)から直流電流が通電される。
【0027】
このように構成された電気浸透脱水装置によって汚泥の脱水処理を行うには、ホッパー5内に供給された汚泥Sをコンベヤベルト1上に送り出し、各陽極ユニット21〜25に直流電流を通電すると共に、各陽極ユニット21〜25のエアシリンダにエアを供給し、この汚泥を陽極ユニット21〜25の陽極板33で上方から押圧する。
【0028】
電圧は、陽極ユニット21〜25が正、陰極板4が負となるように印加される。各陽極ユニット21〜25に対し同一の電圧を印加するのが装置の運転管理を容易とする点からして好適であるが、搬送方向下流側ほど電圧を高くしたり、逆に低くしたりしてもよい。また、各陽極ユニットの電流値が同一となるように通電制御してもよい。
【0029】
各陽極ユニット21〜25のエアシリンダに対し同一の圧力のエアを供給してもよく、下流側の陽極ユニットほど供給エア圧を大きく又は小さくするようにしてもよい。
【0030】
このように陽極ユニット21〜25と陰極板4との間に通電すると共に陽極ユニット21〜25の陽極板33で汚泥をプレスすることにより、汚泥が電気浸透脱水される。そして、脱水濾液がコンベヤベルト1を透過し、陰極板4の孔を通過してトレー6上に落下する。トレー6上に落下した濾液は、水処理設備に送られて処理する。なお、このトレー6からの電気伝導率の高い濾液をホッパー5内に供給するようにした場合には、被処理汚泥の電気伝導率が高くなり、陽極ユニット21〜25と陰極板4との間の汚泥の電気伝導率が高くなり、脱水性が向上する。これにより、得られる脱水汚泥の含水率が低いものとなる。
【0031】
第1図のように各陽極ユニット21〜25に通電すると共に、陽極ユニット21〜25によって汚泥をプレスするときには、コンベヤベルト1は停止している。陽極ユニット21〜25によって所定時間プレス及び通電を行った後、各陽極ユニット21〜25のエアシリンダからエアを排出し、第2図の通り、陽極板33を上昇させる。そして、コンベヤベルト1を陽極ユニット21〜25の配列ピッチの1ピッチ分だけ移動させる。これにより、陽極ユニット25の下側に位置していた汚泥は、脱水汚泥として送り出され、各陽極ユニット21〜24の下側に位置していた汚泥はそれぞれ1段だけ下流側の陽極ユニット22〜25の下側に移動する。コンベヤベルト1の搬送面の末端側の脱水汚泥は、ローラ3を通り過ぎた位置でコンベヤベルト1から送り出される。また、ホッパー5から未脱水処理汚泥が陽極ユニット21の下側に導入される。次いで、各陽極ユニット21〜25の陽極板33を押し下げると共に各陽極ユニット21〜25と陰極4との間に通電し、汚泥の電気浸透脱水処理を行う。以下、この工程を繰り返すことにより、汚泥を電気浸透脱水処理する。
【0032】
[電極へのスケール付着の検知]
電気浸透脱水装置の運転を継続していると、陽極板33に次第にスケールが付着してくる。本発明では、膜厚計によりスケール厚を測定し、予め求めておいた検量線などの検量関係に基づいてスケール厚からスケール付着量を求める。そして、例えばこのスケール付着量が所定量以上になったときには、電極を洗浄する。
【0033】
膜厚計としては、電磁誘導式膜厚計や渦電流式膜厚計などを用いることができるが、これに限定されない。なお、検量線などの検量関係を求めるには、スケールが付着した電極例えば陽極についてスケール膜厚を測定し、この陽極を電気浸透脱水装置から取り外し、この陽極からスケールを溶離させ、溶離液を分析することによりスケール量を定量し、スケール膜厚とスケール量との関係を求めればよい。
【0034】
[電気浸透脱水装置の洗浄方法]
電極(陽極板33、陰極4)の洗浄を行うには、電極を取り外して洗浄したり、洗浄液を注ぎかけたりしてもよいが、洗浄液を含浸させたスポンジを接触させてもよい。
【0035】
洗浄液としては濃度0.5〜20wt%程度のNaOH水溶液などが好適である。なお、アルカリ洗浄後、酸溶液を電極に接触させてもよい。このようにすれば、アルカリによる陽極の劣化が防止される。酸としては4〜10N程度の希薄なリンゴ酸、クエン酸、硫酸などが好適であるが、これに限定されない。
【0036】
上記実施の形態では、陽極ユニット21〜25とコンベヤベルト1及び陰極4によって汚泥を電気浸透脱水する電気浸透脱水装置に本発明方法を適用しているが、本発明は別型式の電気浸透脱水装置にも適用可能である。例えば、第3図のように陽極ドラム61と、陰極を兼ねるコンベヤベルト62との間で汚泥Sを挟圧する電気浸透脱水装置60にも本発明を適用できる。また、図示はしないが、本発明は濾材同士の間で被処理物を挟圧する形式の電気浸透脱水装置にも適用することができる。例えば、前記特許文献4(特公平7−73646)、特許文献5(特許第3576269)、非特許文献1(水処理管理便覧P.340表8・6)のように1対の濾板間で圧搾膜及び電極を介して汚泥を挟圧する加圧圧搾型電気浸透脱水装置にも適用することができる。
【0037】
本発明では、洗浄液による洗浄の後や、酸溶液との接触後に、電極や濾材に残留した洗浄液や酸を除去するために、水洗いしてもよい。
【0038】
なお、スケールを酸洗浄により除去するようにしてもよい。酸洗浄液は陽極や陰極に付着した成分に応じて変更することができるが、通常は塩酸、シュウ酸、硫酸、硝酸、クエン酸等の有機酸などの水溶液が好適である。洗浄液は2種以上の酸を含んでもよい。例えば陽極にMn酸化物やPb酸化物が付着し、陰極にCa水酸化物が付着している場合、洗浄液をシュウ酸と塩酸の混酸にすることで、陽極と陰極の付着物を同時に除去することができる。
【実施例】
【0039】
本発明の効果を確認するために次の実験を行った。
<実験1>
直径100mmの電極間に汚泥150gを挟み、直流60Vを印加すると共に、0.02MPaにて加圧した。なお、陰極を下側とし、陰極には直径0.5mmの小孔を100個貫通させてある。付着したスケールの膜厚を膜厚計で計測すると共に、付着スケール量を測定した。求められた検量線を第4図に示す。なお、第4図より、この電極及び汚泥の場合の膜厚とスケール付着量との関係は[スケール付着量(mg/cm)]=[膜厚(μm)]・0.145−12.5であることが認められた。
【0040】
<実施例1>
第1,2図に示す電気浸透脱水装置を1000時間運転し、陽極への付着スケール膜厚を経時的に測定し、上記式よりスケール付着量の経時変化を求めた。結果を第5図に示す。第5図の通り、スケール付着量は経時的に増加する。この電気浸透脱水装置の場合、スケール付着量が20mg/cmを超えると通電障害が生じ、脱水性能が低下し易くなることが経験的に分っていたので、スケール付着量が20mg/cmを超える前に陽極を洗浄した。これにより、長期にわたって効率よく汚泥を脱水処理することが可能であった。
【符号の説明】
【0041】
1 コンベヤベルト
2,3 ローラ
4 陰極
5 ホッパー
6 トレー
21〜25 陽極ユニット
33 陽極板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置された電極と、
対向する電極間に通電する通電手段と、
対向する電極同士の間に配置された濾材と、
該濾材同士の間又は濾材と一方の電極との間の電気浸透脱水処理部で被処理含水物を挟圧するための挟圧手段と
を有する電気浸透脱水装置の電極へのスケール付着量を測定する方法において、
該電極に付着したスケール膜厚を膜厚計で測定し、予め求めておいたスケール付着量と膜厚との検量関係からスケール付着量を求めることを特徴とする電気浸透脱水装置のスケール付着量測定方法。
【請求項2】
請求項1において、前記膜厚計は電磁誘導式膜厚計又は渦電流式膜厚計であることを特徴とする電気浸透脱水装置のスケール付着量測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−183523(P2012−183523A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50318(P2011−50318)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】